真・東方夜伽話

雪舞いノ恋物語

2009/01/22 23:19:08
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雪舞いノ恋物語

凪羅
「ふっ、ん、ぁん……」

 真っ暗な部屋。
 マイと姉であるユキとの相部屋である部屋で、マイは布団を噛んでユキに気づかれないよう、自身を慰めている。
 別にユキにバレるかバレないかのスリルを楽しんでいる訳じゃない――いや、半分はあるのかもしれない
 ユキとは広い部屋の右端と左端で離れているから、こうやっていれば決して気づかれはしない。だから安全と分かりきった上で、もし万が一ユキが起き出してきて、マイに気づいてしまったら、という夢想をする事で興奮を煽る材料にしているのは否めない。
 ……それに、ユキが無防備に同じ部屋で寝息を立てていると思うだけで、我慢が出来なくなってしまうのだ。
 率直に言うと、マイは姉であるユキに恋してしまっている。
 だからユキが恋しくて、ユキの可愛らしい寝息が少しでも静かな部屋の中に響いてくると、つい手が服の中に伸びてしまうのだ。
 そしてその時、決まって、マイの頭にはユキと行為に陥る妄想が浮かび、駆け巡る。
 妄想の中では、ユキの指は秘部を優しく愛撫してくれる。
 エッチで可愛いよ、と囁いてくれる。
 自身の大きな胸を弄りながら、妄想の中では大きな胸を揉んで形が変わる様がいやらしくて大好きだよ、と耳元で言ってくれる。
 大人しくユキに身を委ねて、良い様に乱れる自分。感度が良い、いやらしい躰と反応に、ユキが溺れてくれる。
 ――そんな、酷く自分に都合の良い妄想。
 だけど。だからこそ、マイはその妄想に没頭して、自身を慰めてしまうのだ。
「ぁ、ふぐ、んんん……」
 ベッドの上、掛け布団の内側、更にパジャマの中、ショーツの中でマイの指が蠢く度に微かに粘着質でいやらしい水音が立つ。
 指が膣内を掻き回すたびに躰を甘い快楽が駆け抜ける。
「んっ、んっ、んぅ、ふ、ん、くっ、うん、んっ……」
 ユキ、ユキ、と勝手に頭の中で何度も呼びかけてしまう。
 そして、妄想の中はそんな声に同じように名を呼ぶ事で答えてくれる。とても、優しい声で。
 呆れてしまうぐらいのバカさが逆に可愛くて、土壇場やマイが弱っている時は急に頼りになる姉に対する慕情がどうしようも無く溢れてきて、自身を慰める指がユキの指であると少しでも思い込むと躰が強く反応を示し、感度が増す。
 上り詰めるにつれて、どうしても膣を掻き回すだけでは快感が足りなくなってしまう。
 もっと強い快感があれば達せられる――その時の意識を失いそうな程の気持ち良さを求めて、相変わらず胸を愛撫していた片手をショーツの中に入れて、膣口の上部にある陰核を衝動のままに摘み上げる。
「んんん~~~~~~~~ッ!!」
 途端、全身を強烈な快感が駆け抜ける。
 布団を噛んでいなければ、あられもない嬌声を上げてユキを起こしてしまっているところだ。
 そして、そんな妄想が快感に拍車をかける。
 片手は膣内を湧き上がる快感のままに掻き回し、もう片手は陰核を包皮の上から擦り上げ、潰すように摘んで絶頂への階段を全速力で駆け昇る。
「くっ、ぁん、んん、ん、うん、んゥ~~~~~~~~ッッッ!!」
 最後に膣内で指を曲げて膣壁を掻き、陰核を強く摘んで捻り、マイは布団を強く強く噛んで絶頂を迎えた。
「はぁっ、はぁっ、はっ、ぁ――――」
 程無くして眠気が襲ってくる。
 下着を履き替えたりパジャマを調えたりしようと思ったものの、生憎と強烈な睡魔には抗えない。
 そんな後始末なんかどうでも良くなり、マイは睡魔に従って目を閉じた。

 マイが何故ユキに恋をして、ユキを想って毎夜のように自慰に耽るようになったのかは、とある事件からだった。

「危ない!」
 それはマイの一瞬の不注意だった。
 ユキの動きを逐一掴む為に相手から目を離したのが運の尽きだった。
 いや、あの人間はそれを狙っていたのかもしれない。
 ともあれ、マイが被弾する筈だったのに、ユキは事もあろうに飛び出してきたのだ。
「ユキ!?」
 被弾して意識を失ったのか、ユキは落下し始める。
 しかし眼前には悠然と亀に乗って滞空している巫女がいる。
 隙など見せられない。
 そして勝たないといけない。
 マイを庇ったのはユキの直感的な行動だろう。
 しかし、それで残されたのだ。
 ――――絶対勝つ。
 勝たないといけないのだ。
 マイは、それを心に強く刻み込む。
 あのバカ姉に庇われて、無様に負けて生かされた事を台無しにする訳にはいかない、と。
「さて、やっとあんた一人ね。悪い事は言わないわ。通して。ちょっとこの先に用事があるだけだから」
 頭に血を昇らせてはいけないと、冷静さを保つ為に心を今一度凍らせる。
「…………やるじゃん、あんた」
 あくまで冷静に。
 でももう仮面を被る必要は無い。
 仮面を被る余裕を持ってたら絶対に勝てはしない。
「!?」
「足手まといがいなくなってやっと本気が出せるよ。今度こそ貴様を倒す!!」
 ――――手加減一切無しの全力。
 ――――持てる魔力を総動員して弾幕開始。

 ・
 ・
 ・

「そん、な……なんなのよ、その強さは……」
 それでも、ダメだった。勝てなかった。
 魔力はスッカラカン。
 被弾した全身を強烈な痛みが苛む。
 飛ぶのが精一杯で、出来る事と言えば、精々睨み付ける事ぐらいだ。
「次は魔界の中で偉い奴のいる所に行きたいな~」
 勝者である巫女にとって、マイの眼光など怖くも何ともないだろう。
 しかしだからと言って、分かっててもそれだけはやめられないし、それでもマイは構わなかった。
「誰が案内するもんですか……!」
「ん~……じゃあいいや。そこらの奴捕まえるから。じゃ――眠っててね」
「え――?」
 と思った瞬間にはもう眼前に四角い御札の嵐。
 反応速度が鈍っているし、体は重い。
 痛みを感じた瞬間、マイの視界は憎らしい程の空の蒼と、立ち去る巫女の姿だけが映っていた。

「――イ、マイ」
「ん……ぅ……?」
「あ、気が付いた」
 マイが目を開けると、まず最初にユキの顔が視界を覆っていた。
 マイは自身が何故寝ていて、姉が覗き込んでいるのか、寝起きの胡乱な頭ではよく分からなかった。
「大丈夫?」
「だいじょうぶって、どういう――痛ぅっ!?」
 だけど、全身を襲う激痛で急激に覚醒した頭でやっと思い出した。
「ユキ……私……」
 そう、マイは負けたのだ。
 ユキに庇われて、全力を出して、傷ついても無理矢理に体を動かして、それでも――
 思い出した事実に、マイの心が痛む。頬を伝う熱い水を、マイは止められなかった。
「マイ……泣いてる?」
「ぐすっ……そんな訳、ひ、っぐ、ない、でしょ……」
 負けてしまった。
 悔しくて、自然と涙が溢れてきて、嗚咽が勝手に漏れていた。
 マイは泣くつもりなんて無かったし、ユキに――姉に弱い姿を見せたくは無かった。
 強がったところで泣いてるのなんて隠しようも無いのに、それでも、せめて強がっていないとマイの中で何かが終わってしまいそうだった。
 マイは放っておいて欲しかった。
 だのに、この姉は。ユキは
「……ごめんね、マイ」
 いつもは信用性の低い、適当な印象で軽く舌を出したりウインクしたりだったのに、今回に限って――いや、今回だからこそだろうか?
 マイを抱き締めて背中に回される手と声はひどく優しくて、温かかった。
「守ってあげたかったんだけど、私にはあれが精一杯だったんだ……私達はコンビなんだから、危なかったら守ってあげて、その上でまた戦わないといけなかったのにね。……ごめんね。一人にしちゃって」
 そして、優しくて温かい手も声も、震えていた。
 泣きながらも、それでも、マイは気づいてしまった。
 ユキも同じように悔しいんだという事を。
 ユキとマイの二人はコンビだ。
 だから、それは至極当然の事だったのかもしれない。
「ごめんね、お姉ちゃんなのに、ちゃんと守ってあげられなくて、ごめんね……」
 でも、ただ悔しくて泣くだけのマイとユキは違った。
 負けた事だけじゃない。
 姉として妹を守れなかった事の後悔。
 マイが泣いている事に、姉として何か責任を感じているのかもしれなくて、まるでその罪滅ぼしかのように、マイを精一杯抱き締めて、そして、泣いていた。
 ――それがユキの、妹を想う気持ちだと、マイは知った。
「ごめん、ユキ、ごめ、ん、ユキ……」
 強がる気持ちなんて失せて、包み込んでくれる躰を強く抱き締めて、何に対してか分からない謝罪を口にしながら、マイは声を上げて泣いた。
 泣きながら抱き締められて、泣きながら包み込まれて、そうやってマイはこの日

 ユキという女の子の、姉という存在を嫌という程知ったのだった。


 それからだろうか。
「あ、マイ。やっと見つけた。遊び行こっ」
「う、うん、別に、いいけど」
「……と思ったけど、顔赤いよ? 大丈夫?」
「べ、別に、こんなもんよ、いつも」
 マイのユキを見る目が明らかに変わってしまったのは。
 無邪気な笑顔の裏でマイを心から気遣っている。周囲からはマイより子供に見られるが、本当はちゃんとした姉らしさを持っている。その事を知ったマイには、いつものように接するのは不可能だった。
 譬え、それが妹を想う姉の気持ちだとしても。
 愛してくれていると気付いたマイには、姉としての感情だから、と処理する事は出来なかった。
 大好きな相手から向けられる愛情なのだ。姉だとか妹だとか、そういった括りでは感情を縛れはしない。
「ん~……マイがそう言うならいいけど、調子悪くなったら言わないとダメだよ?」
「分かってるわよ、バカ……」
「あはは。バカって言えるなら平気だね。じゃ、行こっか」
 顔が紅潮して戸惑うのを必死に押し隠しているのを察せ無い鈍感な姉は、遠慮無しに妹の手を掴み、小走りに駆け出した。
 繋がれた手があの時と同じように暖かくて、マイの心を強く掻き乱した。
 あの温かさを全身で感じたいという衝動に駆られる。
 抱き締めて、服なんていう邪魔な境界を引き裂いて、肌で直接あの温かさを感じられたらどんなにいいだろう――そんな風に思うのは、恋する相手に感じる気持ちのソレだ。

 つまり、マイは事もあろうに、姉に対して恋愛感情を抱いてしまったのだ。

 一度抱いた感情は何もかもを変えてしまった。
 例えば、ボールで遊んでいる時。
 汗を弾いて太陽に負けない溌剌とした笑顔で力いっぱいボールを追いかけるユキの姿。
 それをいつもは子供っぽいな、としか思わなかったのに、今はそれを微笑ましいと感じていた。
 ユキをそんな目でみつめていたら顔面でボール受ける羽目になり、みっともない姿を晒す羽目になって、ユキに心配されるのが嬉しい癖にその気持ちを隠して突っぱねるのがマイには悲しかった。
 それでも、心配してくれるユキへの気持ちは膨らむばかり。

 例えば、弾幕の練習の時。
 普段ならユキが弾幕を後ろから放ってマイはそれをタイミング良く避けながら同時に弾幕を展開するというパターンなのだが、動くのが遅かった。
 移動する途中でユキを気にしてしまって、速度が若干鈍ったらしく、弾幕がマイのわき腹を掠めたのだ。
 練習とはいえ、実際放ってるのは正真正銘の弾幕。
 当たれば怪我をする場合だってある。
 ――今のように。
 わき腹は服が裂け、血が滲んでいる。
 動くと、ズキンと痛みが走った。。
「平気よ、これぐらい……かすり傷だから、心配はいらないわ」
 それに、これは間違いなくマイのミスである。
 好きな相手を気にしすぎて集中してなかったなんて、笑い話にもならない。
「今の、もう一回やるわよ」
「何言ってんのさっ! ダメに決まってるじゃない、こんな傷で続けられないよっ!」
「だから平気っつってるでしょっ」
 傷を隠して、睨――もうとしたが、視線を合わせるのが酷く恥ずかしく、ふいと視線を逸らしてただ突っぱねるだけになってしまった。
 これだけでも、マイは少々情けない気分になってくる。
「傷を先に治療しないとダメだよ、マイ。ほらこっち来る来るっ!」
「え? きゃっ!?」
 結局、マイはユキに引っ張られて下へ移動させられるのだった。
 こういった強引なところを、マイは以前は面倒なだけだと思っていた、しかし今は、何故か頼もしさを感じてしまっている。
 手を繋がれれば、もう抗えない。
 手の温もりが心地よくて、愛しくて、仕方ないのだ。
「はい傷良くみせて」
「こうでいい……?」
 服を少したくし上げて、傷口が見えるようにする。
 反発するのも馬鹿らしくなったのだろう。素直に従うマイ。
 らしくないなぁ、とマイは内心で苦笑する。
「うん、いいよ。えーっと……」
 ユキが傷をじっと見つめる。
 肌どころか、傷を見せるというのはどこか自分自身の内側というか、弱いところを見せている気分になってくる為だろう。マイには気恥ずかしい事だった。
 しかしユキはそんな事お構いなしに、マイの傷と真剣ににらめっこしている。
「そう深くは無いし出血は止まってるけど、やっぱり火傷みたいになってる。ちょっと待っててね……」
 ユキが手帳を取り出した。
 あの手帳には、ユキが今まで使った魔法の詠唱・魔法構築の式が全て書かれている。
 ユキの手が適切な魔法を探す為に手帳のページをぱらぱらと捲り続ける。
「あった」
 そうして数十秒。どうやら適切な治療魔法を見つけたらしい。
 ユキが傷口に手を翳して、聞き取れないぐらいの小さな声で詠唱を紡ぎ始めた。
 手から淡くて暖かい光が発生して、傷口がみるみる内に塞がっていく。
 そして数秒も経たない内に完全に塞がってしまった。
 決して難しい魔法ではない。しかし、マイには凄いとしか言えなかった。少なくとも、マイには一分も掛からずに同じ魔法を行使出来る程の技量は備わっていないのだから。
 詠唱と魔法式さえあれば余程難しくなければどんな魔法でも失敗せずに行使出来てしまう。
 そして一度失敗すれば二度と失敗しない。
 天才的な魔法の才能――それがユキに与えられた能力である。
 魔力そのものはマイの方があるものの、マイにはたったそれだけ。
 詠唱は歌のようなもので、韻を踏んで響きに意味を持たせないといけない。
 魔法式はしっかり組んでそこに”間違い”が無いようにしないといけない。
 それを、マイは努力だけで補ってきた。
 必死にユキのパートナーとして在ろうと頑張ってきた。
 しかし正直なところ、マイはユキにはどう足掻いても敵わないのだろうな、と諦めてもいる。
 それでも、パートナーとして在る為には追いついていなければいけない。
 以前はそれが悔しくて、追い抜けないという現実を”そんな事は無い”という感情だけで抑え込んできた。
 今は――ユキの傍に居続ける為の努力をしていられる事がマイはとても嬉しかった。
「よし、これで大丈夫かな。多分動いても大丈夫と思うけど、どうしよっか? まだ練習続ける?」
「当然。ミスしたまま終われる訳無いでしょ」
 マイがユキのパートナーであり続ける為に、認められていく為には、この程度の傷で臆してなどいられない。
 それにここで引き下がるのは、マイらしくはない。少なくとも、マイ自身はそう自己分析している
「そっか。傷口は完全に塞がったしそうそう開かないとは思うけど、一応注意だけはしておいてね」
 それにマイが頷きを返し、姉妹は再び空へと上がった。
 マイのわき腹にはまだユキの暖かい魔法の光の感触が残っている。
 それがひどく愛おしくて、マイは知らず、傷のあった場所を撫でていた。


 恋をしてから、ユキの言動や行動、表情全てに対するマイの感情は百八十度とはいかずとも、百六十度ぐらいは変わっていた。
 それを自覚してからは想いは膨らみ、萎む気配なんか微塵も無い。
 伝えられないと分かっていても胸の内で燃え盛る情欲の炎はまったく鎮火しない。
 どうしようも無くて、誰かに相談しようと思い至ったものの――実の姉に恋をして毎日が狂いそうな程に苦しいので助けて下さい、だなんて誰に相談出来るものだろうか。
 まず神綺に伝えた場合。本来想定していた関係以外を望んでいるから、と修正されてしまう可能性があって危険が伴う。こういっては何だが、神綺はやや短絡的な手段を取りがちなのだ
 夢子はそもそも色恋に興味が無さそうだし、こんな”間違った”恋になんか理解は示さないだろう。
 アリスは人生経験的に論外。
 サラはそれはクリアしているが、サラは決定的に交流経験が少ない。恋もしていない可能性が非情に高い。
 そうやって消去法で消していくと、残ったのは
「ん~、悪いわね~マイちゃん。ご飯どころかデザートまで奢ってもらっちゃって」
「そう思うなら少しは自重しなさいよ……そのパフェ、もう三杯目でしょ?」
「だって仕方ないじゃない。この間の旅行でお金使いすぎちゃって今月苦しいんだから」
「はぁ……まぁいいわ。ちゃんと相談に乗ってくれるんならね」
 目の前で幸せそうに元々細い眼を更に細めてパフェをぱくついている年上の女性、ルイズしかいないのだ。
 勿論、消去法で残ったから安易に相談する訳でも無い。
 ルイズは経験がモノを言う恋愛を誰よりも多くしてきている。そして、ルイズはマイを友人としてよく好いているし、軽いノリでありながら案外と真面目な所があり、世話焼きなお姉さんといった部分を持つルイズはマイにとって、とても安心して相談出来る相手でもあった。
 そういった背景から相談するに至ったは良いのだが――マイには夢子から貰うお小遣いしかないというのに、ルイズはよくもまぁ遠慮をしないものである。
 確かにマイの方から相談に乗ってもらう代わりに昼ぐらいは奢ると持ちかけたのだが、何と言うか、タイミングが悪かったらしい。
 金欠はさすがにマイには予想外だった。
「安心しなさいな。お姉さんに任せておけばバッチリ、万事解決よ~」
「はぁ……」
 いつも通りの軽い調子に、つい溜息を零してしまう。
 そうして更に二杯のパフェを経て食後のコーヒーを頼んだところで、漸くルイズは満足いったのか少々膨らんだお腹を撫でている。
「……太るわよ、絶対」
「太るのはおっぱいだけよ~」
「そのままでかくなって動けなくなってしまえ」
「あら、それは困るわねぇ~。かっこいい男の子とか可愛い女の子つまみ食い出来ないわ」
「……ビッチって呼んでいい?」
「それは酷いわよ~マイちゃん。そんな毎日とっかえひっかえエッチしてるみたいに言わないで欲しいわ」
 そうは言っても、マイには先程の発言は”ビッチ”に相当していたのだから、仕方ない。
「あ~はいはい。じゃあそろそろ、経験豊富なルイズへの相談始めていい?」
「あら、じゃあ相談ってそういう方向なのね?」
「そうよ。……あと、他言無用よ」
 ここで釘刺しておかないと、マイには、この尻と頭の軽い女は喋りかねないと不安があるのだった。
「了解了解~」
 相変わらずの軽い調子が何とも不安だが、ここはもう信じるしかない。
 程無くしてルイズの頼んだコーヒーが届いて、やっと話せる雰囲気に落ち着いた。
「それで、マイちゃんの好きな子ってどんな子なの?」
「そうねぇ……基本的にバカ」
「あら、いきなりマイナス要素?」
「今までは、ね」
 本当に、今までマイはユキのバカと思える部分には溜息を吐いてしまう程だった。
 だが、今ではそういう所が可愛いだなんて思ってしまっている。
 マイナス要素がプラス要素になる事を、マイは恋をして初めて知った。
「じゃあ今は違うのね?」
「まぁバカだとは思ってるけど、少なくともそれが嫌じゃないわ」
「どんな子なの? かっこいい? それとも可愛い?」
「可愛いくてかっこいいところがあるわ」
「あらあら……重症なのね~」
「まぁ、ね。感情に戸惑ってる内にね。でもまぁ、ちょっと……ちょっとじゃないか。大きな問題が立ち塞がってるのよ。それをどうすれば良いか分からないから、相談したいのよ」
「それはそれは、責任重大だったのね~私。で、ズバリ、好きな子って誰なの?」
「……」
 少しだけ躊躇う。
 相談すると決めた以上、相手ぐらい言わないとどうしようも無い。
 それでも、相手が相手だからやはり戸惑ってしまう。
 数秒程躊躇った後、マイははやっと口を開くのだった。
「……ユキよ」
「……え? ユキって、あのユキちゃんよね?」
 いくらルイズと言えど、やはり驚いたらしい。
 マイとて、いや、誰だって身内に恋をしたなんて相談されたら驚くのが当然である。
「そう、あのユキよ。バカ姉の」
「成る程。だから私に相談したのね」
 ルイズの声色が今までの能天気でのんびりした軽いものから、マイは今までの付き合いではまるで聞いた事の無い真剣なものに変わった。
 思わず、ルイズの顔を窺ってしまう。
「えと、ルイズ……?」
「伝えるの、難しいのよね?」
「あ、う、うん」
 しかしルイズはマイの訝る様子に構わない。
 正直マイは驚いてるものの、こんなに真剣になってくれたというのは心強い。
「マイちゃんはこれからどうしたいって思ってるの?」
「どうしたいって、分からないわよ。忘れようにも毎日顔会わせるんだし」
「違うわよ、マイちゃん。それは”どうすればいいか”分からないんでしょ? 誤魔化しちゃ駄目よ」
 言葉に詰まる。
 だって、どうしたいかなんてのは分かりきってるのだから。
 ユキに告白して、受け入れてもらいたい。
 しかし、それは、願っては駄目な事。
 姉を一人の女の子として愛するのは、いくら言葉を並べてもタブーなのだから。
「……意地悪よ、ルイズ」
「ごめんなさいね。でも、恋って結局はエゴなんだもの。本当に好きなら躊躇っちゃ駄目。それが例えユキちゃんでも、ね。今は好きで好きで仕方ないと思うけど、恋愛感情っていつしか薄れてしまうものなの。半年か、一年後か、そのぐらいにはその気持ちも萎んでるかもしれないし、その時に伝えられなかった想いに後悔したって遅いんだから」
 ルイズの言ってる事はマイは一応解っている。
 しかしそれでも、ユキはマイの姉であり、その姉と恋に落ちるのはタブーを犯してしまう事である。
 その事実があるから、ユキが受け入れるかどうかなんて分からない。
 実の姉に恋愛感情を抱くような妹――ユキは一体どう思うのだろうか。長年一緒にいるマイだが、それだけは未経験。故に予測などつかない。
「後悔だけで済めばいいけど、それじゃ済まないでしょ。伝えるだけでユキの私を見る目が変わるかもしれないわ。姉に恋心を抱く妹をおかしいって思う可能性だってあるし――何より」
 この先を口にするのは、ひどく悔しい。
 弱いところを曝け出すという事なのだから。
「……何より、嫌われるのが怖いのね」
「……」
 だからこの先がルイズの口から出ても何も言えなかった。
 結局は、マイが臆病でしかないのだから。
「マイちゃん。誰だってね、誰かを好きになって想いを伝えるのは怖いものなのよ。関係を全て壊してしまうぐらいなら、いっそこのままで居たいって考えるのは誰だってそう。だけど、そうしていつかその人に好きな人が――恋人が出来たら、必ず後悔して傷ついて、そして泣きながら諦めるしか無くなっちゃうの。マイちゃんは、それでも告白したくないのかしら?」
 ……本当に、ルイズは意地悪だ。
 圧倒的に経験豊富なルイズの言葉は全て、真実なのだろう。
 ともすれば、ルイズの経験そのものなのかもしれない。
 そんな事実を突きつけられたら、マイはただただ追い込まれるだけである。
「なら、私は告白するしかないじゃないのよ……意地悪よ、そんなの」
「そうね……私はマイちゃんに後悔して欲しくないだけだもの。傷つく事なんて考えてないわ。私はあまり躊躇わないし、すごく身近な人を好きにはなった事無いから、勝手な事しか言えないわ。でも、そうね……」
 ルイズがコーヒーに砂糖とガムシロップを入れる。
 続きは、それらを描き回して混ぜて、一口含んでからだった。
「マイちゃんが告白するのなら、出来るだけの協力はするわ」
「……あんた、本当に意地悪よね」
 これを言うのは今日で通産三度目。
 マイの選択肢を狭めて、どうあっても逃げられないという真実を突きつけて、その上で追い討ちをかけてくるのだから。
 それに、マイはルイズが語る間にひとつ、気付いた事があった。
 自分はそもそもからして、告白する前提で打ち明けたのだ、という事に。
 欲しかったのは後押し。一人では不安で、誰かに助けて欲しかったのだ。
 だから、今からする宣言はマイの決意の証である。
「分かったわ。ユキに告白する」
 失恋した時の覚悟はまだ無いし流石に不安だらけだし、正直後悔よりも傷つく方が怖い。
 でも、やっぱり期待がある。
 ユキが受け入れてくれて、想いを遂げられる――夢想してやまない未来は、やっぱり度し難い程に魅力的なのだ。
 だが、告白するにしても、臆病なマイには確約かそれに近いものが欲しくもあった。
「でさ、ひとつ、どうしても知っておきたい事があるんだけど、それも相談いい?」
「……えぇ。あまりフェアじゃないけれど、場合が場合だものね。ユキちゃんの気持ち次第では、マイちゃんだけじゃなくてユキちゃんだって不幸になるでしょうね」
 そう。ユキの気持ちを知っておきたいのだ。
 告白をすれば、確実にその後は何かが変わる。
 マイとユキは一緒に住んでいるし、姉妹という関係はどうあっても変えられはしない。
 だから、返事如何によってはユキまで不幸になってしまう。
「そうねぇ……私が間に入りましょう。私が、ユキちゃんから遠まわしにマイちゃんへの想いを聞き出してあげる。それでどうかしら?」
「……いいの? そこまでしてもらって」
「構わないわよ~。後押しだけじゃパフェ五杯は多すぎるもの。等価交換が成り立たなくなっちゃうわ」
「いや、そう想うなら最初から五杯も食べないでよ」
 思わず頭を抱えてしまうマイだった。
「だって仕方ないじゃな~い。今お金無いんだもの~」
 などと言って身体をくねらせるルイズに、マイは思わず手が出そうになっていた。
 こめかみに浮かんだ青筋が怒りをよく表していた。
「ま、まぁいいわ。で、段取りはどうするのよ?」
「そうねぇ……明日でいいから、ユキちゃんをここに呼び出して貰って良いかしら?」
「いいわよ。それで聞き出すって事でいいのよね?」
「そうね。でも、ひとつだけマイちゃんにはちょっと酷な事をしてもらう事になるけど、いいかしら?」
 マイはてっきり、ルイズの同意の返事で相談は纏まると想っていた。
 それだけに、このタイミングでのルイズの提案に、マイは嫌な予感を覚えた。
「……なんか、すっごい嫌な予感がするんだけど」
「別に難しい事じゃないわ。ただね、その時にその場にいてくれるだけでいいわ」
「何でよ?」
「だってマイちゃんはユキちゃんの事をよく知ってるでしょ? 例えユキちゃんがマイちゃんの事を好きって言ったり仄めかしたりした場合、私じゃ気づかない事もあるものね。マイちゃんはただユキちゃんの真意を探るだけでいいわ~」
 そう簡単に言われても、マイにとってはその時点で恋愛的な意味での死活問題だ。
 確かにマイならユキの心の機微は殆ど読める。
 おそらく、ユキはマイを好きかと訊かれたら”好き”と答える。
 マイが読むのはその”好き”のニュアンス。
 その結果如何によっては告白するまでもなく、マイの恋は終わる。
 まぁ、その場合は告白しても一番傷が浅くて済むやり方を模索するのだが。
「……あんた、それ、とんでもない拷問って分かってる?」
「あらあら」
 マイの心境を分かっているのかいないのか、ルイズはいつもの柔和な微笑みでその四文字を口にするだけで、後は何も言う事は無かった。
 この微笑の裏で何か考えているのか、マイには読み取れなかった。
 ただ分かるのは、ルイズはマイの状況なんか鑑みずにユキに質問する、という事だけだった。
「はぁ……」
 マイとしては不安だらけ。溜息だって吐いてしまうというものである。
「不安そうね~」
「そりゃそうよ。今までのどこで安心出来るとこがあるってのよ」
「でもね、マイちゃん。それは仕方ない事なの」
「? どういう事よ?」
 ルイズの声が再び真剣味を帯びる。
「私はこうして相談されても、不安は全部は取り除いてあげられないのよ。いくら考えても、ユキちゃんの気持ちが決まる訳じゃないし、結局は成就する確率は上げられても確実は得られないわ」
 ルイズの言葉は優しさの無い現実そのもの。
 甘ったるい恋の夢想なんて、全ては想いが叶ってから。
 そこに辿り着くまでは受け入れて貰えるだろうか、という不安と、受け入れて貰えず、相手との関係が終わってしまう事への恐怖と戦う現実がある、という事なのだろう。
 それでも、恋をしていて楽しいと思える事だってある。
 ユキと一緒にいる事が以前より楽しい。ユキの嫌いだったところが許せたり、逆に好きになっていたり。ユキがもし気持ちを受け止めてくれたら、どうなるか――そんな未来に思いを馳せて楽しい気分になる時だってある。
 ――まぁ、そういう時は大抵想像がその先に及んで自身を慰めてしまうのだが。いい加減これについては自制を覚えるべきかもしれないとマイは内心で少しだけ苦笑い。
 これがたまにそうならなかったら、というネガティブな方面にいって余計苦しい思いをする事もあるが、それでも楽しい時があるのは否定し得ないものだ。
「……それでも、どうしようも無いのも分かってるでしょ、あんた」
「うふふ、そうね~。不安で怖くても、それで好きっていう気持ちが止まらないのも”仕方ない事”ね~」
 一転、ルイズの声が気楽で暢気な、いつものそれに戻る。
 マイは何となくからかわれてるような気分になっていた。だが、ここで突っ込んで食って掛かる気分にはなれなかった。
「……まぁいいや。それで、明日でいいのよね? それは。私は一緒にいるって言っても、ユキには気づかれちゃ駄目なんでしょ? 私の存在を意識させたら、いくらアイツでもある程度の遠慮はするし」
「あらあら。そこまで分かってるのなら話は早いわね~」
 マイはユキと違い、考えてから動くタイプである。だからこそコンビが成り立ってるようなものだ。
「時間はいつでもいいけど、明日がいいならそうしましょう。場所は今日使ったお店でいいかしらね。時間は……今ぐらい、お昼過ぎにしましょうか。マイちゃんはお店で私が呼んでるってユキちゃんを誘い出して、マイちゃんは簡単でいいから変装して時間を少しずらして入って、近くの席に着いてくれればいいわ。その時は魔法で私に合図をくれれば、ユキちゃんに質問をするっていう感じ。それでどうかしら?」
「ふむ……」
 確かに変装して魔力と気配を抑えておけば、ユキはまず気付かないだろう。ルイズの方に集中してれば、目の前に一直線なユキはマイの窺う気配すら微塵も感じない筈。
「いいわ、それでいきましょ。提案はルイズなんだし、従うわ」
「じゃ、決まりね~」
「さて、と。決まった事だし、一応ユキには行き先を告げずに出てきたからそろそろ戻るわ。私一人で遊んでるとか思われて文句言われるのも嫌だしね」
「うふふ……それじゃあ引き止められないわね~」
 まぁ引き止められても困るし、引き止められてもマイは逃げるようにして帰るつもりなのだが。
「じゃ、また明日。よろしく」
「えぇ。また明日ね」
 こうしてマイは店を出て、ユキの顔を早く見たくて急ぎ足で空を翔けるのだった。
 ちなみに家に帰ったらユキはマイの分のおやつまで食べててご満悦になっていたりする。
 おやつぐらいマイは別にどうでもいいし、ユキの満足そうな笑顔はおやつを差し引いても余りあるぐらいに魅力的である。だがだからと言って、あっさり許す訳にはいかない。ユキの知ってるマイは、絶対に文句を言うから。
 だからいつものように文句を言わなければならなくて、少しだけマイの胸が痛んだ。


「そういえばさ。ルイズが今日の昼過ぎに会いたいって言ってたわよ」
「ルイズが? 私だけ?」
「そうよ。場所はよく使ってる店。分かるでしょ?」
「へぇ、私一人かぁ。珍しいね~。場所は分かるけど、ほんとにマイは来なくていいの?」
「いいわよ。私は来なくていいからあんた一人を呼んだんだろうし」
 なるべく、いつも通り、素っ気無い態度を心がける。
 気づかれないように、気づかれないように。
 毎日毎日、ユキの前では本来用意していなかった”いつも通りのマイ”という仮面を被るのは中々辛いものがある。
 対外用の”愛想の良い礼儀正しい、大人しいマイ”の仮面ならどれ程楽だっただろう。
「ん~……そっか。じゃあお昼ご飯終わったら行くね」
 そう言って、呼ばれていないマイを気遣っていつもより若干控えめに笑うユキ。
 以前ならいつもの能天気な笑顔にしか映らなかった――恋をして、注意深く観察するようになってやっと気づけた。
 ユキにもちゃんと配慮する心があるという事に。
 マイをちゃんと見て、そういう風に気遣ってくれるというのは、とても嬉しい事である。
 ――出来る事なら、笑顔でいってらっしゃいを言えたらどんなにいいだろう、とマイは思う。
「ん、あんまり待たせないようにしなさいよ。じゃ、食堂でね」
 しかしそれが出来る性格じゃないし、小さな隙から気づかれないよう、やはり素っ気無い言葉でしか返せないのが悲しくて、悔しかった。
 顔にでも出てたらまずい。マイは仕方なく、逃げるようにその場を去った――ものの、変に思われていないか、少しだけ心配になるのだった。
 たとえ、ユキがそんな事をいちいち気にしないと分かっていたとしても。


 それからユキは昼食の後、早速出かけて行った。
 出来るだけ魔力を隠して後を尾けると、予定通りに例の店へと入って行って、ルイズは丁度入り口近くのカウンター席に座っていた。
「ルイズー久しぶりー」
「あら、ユキちゃん、今日は呼び出しちゃってごめんなさいね~」
「いいよいいよー。でも、マイは呼んでないみたいだけど……いいの?」
「ふふ……妹想いなのね、ユキちゃんは。でも、今日はユキちゃんに訊きたい事があるからなのよ。マイちゃんには内緒――でね」
 ルイズが一瞬だけ視線を彷徨わせる。
 マイを探しているのだろう。
 早速、魔界人同士という存在の類似を利用したコンタクト――所謂、テレパシーみたいなもの。
 意識を繋いで、直接ルイズと語り合えるようにする。

『――入り口入ってすぐ、ベレー帽を被ってマスクを付けてるのが私よ』
『――確認したわ。ユキちゃんは私の隣だから、そうね――丁度ユキちゃんの真後ろに当たる席が空いてるから、そこに座って頂戴。近いから、魔力の遮断結界だけは張っておいてね~』
『了解』

 ルイズの指示に従って、足音と魔力を抑えて近づく。
 バレないかどうか――ドキドキする。
 あの時の――自慰をしている時の、バレるかバレないかのスリル――あれを思い出して、顔が熱くなる。
 幸い帽子とマスクのお陰で気づく人はいないのだが、今思い出してしまった事がマイには不覚だった。
 慌てないよう、心を落ち着けてそそくさとユキの真後ろの席に着く。
 同時に魔力を遮断するだけの簡易な結界を作った。
 これで取り敢えず振り向かれて顔を合わせない限り気づかれる心配は無い。

「何も頼まないの?」
「それがね~、この間の旅行でうっかりお金使いすぎちゃったのよ~」
「あはは……お金無いんだ?」
「そうなのよ~。だからお給料出るまでは我慢してるのよ~」
 いきなりは訊かないらしい。
 雑談からが自然なんだろうけど、マイは何となく気が逸る。
 その反面、もう少し雑談していて欲しいな、とも思う。
 ユキの気持ちが知りたい。でも知るのは怖い。
 相反する感情で心がざわめく。
「じゃあ私も頼まないでいいかな。なんか悪いしね~」
「あらあら。ユキちゃんたら良い子ね~」
 そう言ってルイズがユキの頭を撫でた。

 こら、ユキにそんな不用意に触れるな。ユキもそんな緩んだ顔で嬉しそうにするな。

 思わず、マイは心の中でそんな文句を垂れてしまう。

『ちょっとこら、何してんのよ』
『何って、いいこいいこしてあげてるだけよ~?』
『あのね……それはいいから、さっさと本題入りなさいよ』
『あらあら、残念。でも嫉妬するマイちゃんは可愛かったし、ここら辺にしておきましょう』

 うっさい。何とでも言え。こっちはイライラしてんのよ。

 ルイズの余計な一言に、やはり文句を言わずにはいられないマイだった。
「それでね、訊きたい事があるのだけど、いいかしら?」
「うん。そういう約束だったしね」
 やっと本題に入ってくれた。ユキと背中合わせという状況も手伝ってか。心拍数が一気に早まる。鼓動が五月蝿い。その音でユキの気持ちを聞き逃したら目もあてられないと、ありもしない想像は、マイに無理矢理心臓を落ち着けさせようと逸らせる。
 ……まぁ、それで静まったら苦労はしないのだが。
「ユキちゃんはマイちゃんの事、どんな風に思ってるのかしら?」
「マイ? ん~……ちょっと口が悪くて態度は素っ気無いけど、良い子だと思うよ。それがどう
したの?」
 待てユキ。前者はどう考えても長所じゃないでしょ。後者と繋がってないわよバカ。というかその間を知りたい。
 落ち着かない心臓はそのまま、マイ自身も焦らせる。
 心の中でツッコミを入れでもしないと、実際にツッコミを入れてしまいそうな自分が少し怖いマイだった。

『ルイズ、突っ込んで。前後が繋がってないわ』
『了解了解~』

 ルイズの声色は普段ののんびりとしたものよりも、どちらかと言うと楽しそうである。
 色恋というものは周囲の人間には楽しいもので、今がルイズにとってはそうなのかもしれない。
 緊張感から喉が渇いてきたマイは、訊く前に潤そうと水を口に含んだ。
「ふふ……ユキちゃん、良いところひとつも言って無いわよ?
「そう? 私はマイのそういうところ、慣れたから可愛いと思ってるけど」

「ぶふっ!?」

 そして吹いた。
 唐突すぎたのだ。
 ユキに可愛いと言われた途端、マイの心臓が跳ね上がった。
「ごほっ、ごほっ……」

『……あらあら。大丈夫?』
『私はいいから、ユキは気づいて無いでしょうね?』
『えぇ。驚いてはいるみたいだけど、気にはしてないみたいよ~』
『そ、そう。ならいいけど』

 振り向かれたら終わりだから、今後は気をつけないといけない。
 二度目はさすがにユキも不審がる可能性がある。
「他には何か無い?」
「そうだなぁ……素直じゃないけど実際は分かりやすいところとか、文句を言いながらもちゃんと付き合ってくれるところとか。後、負けず嫌いで私と競ってくれるところかな。……でも、こんな事訊いてどうするの?」
「ふふふ……さて、どうするのかしらね~?」
 出た。ルイズの意味深な笑みをしながら隠し通す反則技。
 これをされるとルイズは絶対に応えてくれない。
 ただただ微笑むだけで、結局有耶無耶にされてしまうのだ。
「何~? また秘密?」
「えぇそうよ~。いい女は秘密が多いものなのよ~」
 とは言うが、ルイズの場合は都合の悪い事を隠しているだけなのだが。
「うむむ…………」
「それで、ユキちゃんはマイちゃんの事は好きなのかしら?」
「そりゃ、好きじゃないとこんなに言わないよ~」
 この”好き”は、マイには普通に姉妹での”好き”にしか聴こえていなかった。
 ――やっぱ駄目なのかな。
 そう想い、マイは小さく溜息を吐いてしまう。

『ルイズ、今のはどう考えても……』
『私にも分かるくらい、恋の好きじゃないわねぇ~』

「……あ、そうだ。あのさ、ルイズ。今の訊かない代わりにちょっと相談してもいいかな?」
「あら、何かしら?」
 と思えば急展開。
 今まで悩む素振りなんかまったく見せてなかったのに、どうしたのだろう、とマイは訝る。
「前にさ、巫女が攻め込んできた時あったでしょ」
「えぇ。あの時は折角の人間界への旅行がお流れになっちゃって残念だったわ~」
「知ってるだろうけど、私達負けたんだ。それで、マイを守れなくて、泣かせちゃってさ。情け無い話なんだけど、私も泣いてる癖に抱きしめたんだ」

『これ、もしかして……』
『そうよ。私がユキを好きになったきっかけ』
『……雲行きが変わってきたみたいよ、マイちゃん』
『ごめん、ルイズ。ユキがどういう感情で何を言おうとしてるのかさっぱり分からないわ』
『大人しく様子を窺った方が良さそうね~』
『そうするしかなさそうね……』

「でさ。その抱き締めるって、実は初めてだったんだ」
 これはユキとマイという姉妹にとっては極当たり前の事。
 故に、姉妹で抱き合うという事は無かった。
「それってさ、姉妹の距離じゃないんだ。マイの事は勿論好きなんだけど、そんなに近づきたいとかじゃなかったんだけど……」
「近づいちゃったのが自分で不思議なの?」
「うん。それからかな。マイに触れたくなったんだ。今までそんな事無かったから、いつも通りに振舞うのが結構大変でさ」
 あはは、とユキがばつが悪そうに笑う。

『マイちゃん』
『わ、分かってるわ……』

 ルイズの言いたい事はよく分かってる。
 私も同じなんだから、確実。

 ――ユキも、私に恋してしまっていた。

「あの時、マイを最後まで守ってあげられなかった。庇って、意識を失っちゃって……守りたいなら、間違っても意識を手放しちゃいけなかったのにね。……うん。今思うと、きっと、今までの距離じゃ守れない気がしたんだと思うんだ。もっと近くに居たら、きっと私もマイも無事にいられて、私達はもっともっと強くなれる。近くに居れば、もっとマイの気持ちを考えられると想うし……」
 ユキが顔をほんのりと紅く染めながら、気持ちを語る。いつもの賑やかな調子ではなく、穏やかに。おそらくは、語りながら自分の気持ちを確かめているのだろう。
 ルイズはただ、黙ってそれを聞いていた。
「……ユキちゃん。もし、マイちゃんが近づいても何も言わず、むしろ受け入れたとしたら、どうするのかしら?」
「あはは……その時は、多分、え~……そういう関係になっちゃう、んじゃないかな?」
 そう言ってユキはマイの後ろで照れくさそうに、誤魔化すように”あはは”と笑っている。
 嬉しい。嬉しくて、泣き出したり騒いだりしたくなると思ったマイだが――即座に沸いた感情は、そうではなかった。
 沸いた感情はその逆、怒りだった。
 感情に身を任せ、椅子がガタンと大きな音を立てる程の勢いで立ち上がる。そして毟り取るようにマイは帽子とマスクを取り払った。
 そうなると、後はもう口が勝手に開くに任せるのだった。
「ちょっとバカユキ!」
「!?」
「!? ちょ、ちょっとマイちゃん!」
 怒りの原因は、ユキのあまりの単純さ。
 瞬間的にマイは理解した。ユキが単純に考えているからこそ、喜んではいけないという事に。
 ユキは守る守ると言いながらも、自ら傷つく道に飛び込もうとしている事に、気付いていないのだ。
「出るわよ!」
「ちょ、ちょっとマイ! どこに――」
「ええい喋るな黙ってついて来い!」
「あの、ちょっと、二人とも……」
 ルイズの静止なんかじゃ止まれないし止まりたくない。
 とにかくマイはユキに何かを言いたかった。
 何を言いたいのか、何を言うのかなんて口を開いてからだ。
 理性を善しとするマイには、感情に任せて自分が何を言うのかなど、分からないのだから。

 店を出たマイはユキを引っ張ったまま、全速力で神殿まで飛んだ。
 着地しても手は緩めず、「落ち着いて」だの「止まって」だののユキの声を無視し続けて、一気に部屋まで駆け抜けた。
 そして部屋に入るなり鍵を閉めて、逃げられなくした。
 マイ自身も、ユキも。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
 勿論、そんな全力行動を取り続ければ息も乱れる。
 顔はきっと紅潮してる。まるで発情しているみたいだな、なんて思うけどこれは疲労と怒りだ。
「マイ、いきなり、どうしたのさ……」
「どうしたもこうしたもあるかバカユキ!」
「わっ!? な、何怒ってるの? 私、何かした……?」
 仁王立ちしているマイを、座り込んでいるユキが見上げてくる。
 不安そうに、怯えるように。
「あんた何言ったか分かってる? さっき!」
「さっきって、お店で、だよね……?」
「そうよ。私に触れたいって。姉妹より近い距離に近づきたいって。あんた、そう言ったでしょ」
「う、うん……」
 まるで苛めているみたいで、心が痛む。
 だけど、怒りは収まらない。許せないのだ。お互いに恋をしてしまった、私達姉妹そのものが持つ意味を理解出来ないユキが。
「その意味、ちゃんと分かってるんでしょうね」
「えと、多分……」
「言ってみなさいよ」
 ユキの瞳に涙が浮かぶ。
 ユキにとっては残酷な事を強要されているのだ。
 マイとて、こんな風に告白しないといけなかったら泣きたくもなるであろう。
「私、マイを妹じゃなくて、多分、女の子として好きになったんだと思う……その、ごめん……」
 ユキの瞳から涙がポロポロと零れ落ちる。
 マイも許されるならば泣きたかった。
 しかし。泣きたいけど泣いてはいけない。
 やはり受け入れてはいけないし、”このままでは受け入れたくない”から。
 弱いところは今は絶対に見せられない。
「何謝ってんのよ……それじゃ私だって謝らないといけないじゃない」
「マイも……?」
「そうよ。私もあんたが好き。でも、だからこそ許せないのよ」
 泣き濡れた瞳で見つめられる。
 悲しみと疑問と後悔の入り混じった、複雑な感情が表情と瞳に溢れている。
 ――心が痛みに悲鳴を上げたがっている。
「姉妹という関係を変えて、どうすんのよ。今まで姉妹だからコンビ続けられてんだし、何より、血の繋がった姉妹が結ばれていい筈が無いわ……だから、許しちゃいけないのよ!」
「何さ……何勝手な事……」
 ユキが視線を逸らし、そのまま俯いた。
 肩が震えている。
 本当は謝ってしまいたい。それで抱き締めたい。でも、そんな傲慢は出来ない。今のマイにそれは絶対に許されない。

「勝手な事!」

「!?」
 ユキは突然立ち上がると、勢いのままにマイの胸倉を掴み上げた。
「そんな事、バカな私にだって分かってるよ! だから今まで何もしなかったし、隠し続けてきたんじゃないか!! なのに、勝手に告白させて、踏みにじって、何なんだよ!!」
 ――そう。
 今の怒りはマイのエゴだ。
 姉妹は結ばれてはいけない。姉妹という関係を壊してはならない。常識であり、マイのルールだ。
 だからユキが怒るのも当然の事である。
 でも、だからと言って引き下がれないし、マイももう完全に頭にキている。
「好きな人に好きって言われて、それでも受け入れちゃいけない私の気持ちだって分かってないじゃない! あんたはそういうの気にして無いかもしれないけど、私はそうじゃないし、私達姉妹が結ばれて困るのは結局私でありあんたなの分かってんのバカユキ!?」
「知らないし分からないよバカマイ! 好きなら好きでいいじゃん。姉妹でいけないのは分かってるけど、それでも気持ちは隠せない事ぐらい、マイだって分かってんじゃないのっ!? あんな風にこそこそ私の気持ち盗み聞きしたぐらいなんだしさっ!!」

 瞬間、マイは自分頭から血管の切れる音が確かに聴こえた。 

 全身が怒りに震え、心が暗い炎を宿して沸き立つ。
 感情のままに、胸倉を同じように掴み上げる。
 そしてそのまま力任せに押して、後ろにあるベッドに無理矢理押し倒すのだった。
「だから何だってのよ! それでもいつかあんたは私に告白したんじゃないのっ!? タブーを気にしない愚か者がっ!!」
「愚かだからどうしたって!? 結局、マイは何もかもが変わって、周りから関係隠して、怯えて――――そういうのが怖いだけじゃないか! 私が愚か者だったらマイは臆病者だっ!!」
 姉妹は止まらない。
 お互い好き合っておきながら、出てくるのは汚い罵りばかり。
 悲しくて、痛くて、気持ちが通じてるのにそれを拒まないといけないのがマイもユキも悔しかった。
 どうして、私達は姉妹なんだろう。存在にすら怒りの矛先が向かう。
 姉妹という関係が、今は双方にとってとてつもなく重かった。
 そうして姉妹のお互いを酷く傷つけるだけの悲しい喧嘩は続いて

「この――!?」
「なっ―-!?」

 それは、唐突だった。
 有り体に言えば、後ろから何かの破壊音が響き渡ったのだ。
 その音はマイとユキを止めるには十分すぎる効果で、二人は格好を崩さないまま、後ろだけを見遣った。
「二人とも、何してるのかしら?」
「ゆ、夢子姉さん……」
 さぁっと血の気が引いた。興奮が冷める。
 入り口を閉ざしていたドアを吹き飛ばして現れたのは、夢子だった。
 その後ろにはルイズが立っている。
「マイちゃん、ユキちゃん……」
 ルイズの表情は悲痛だった。
 今までユキはおろか、マイすら一度も見た事の無い顔。
「事情はある程度はルイズから聞いたわ。貴女達が何故喧嘩しているのかは知らないけど、それぐらいにしておきなさい。――ルイズの顔見てもまだ続ける程”愚者”ではないでしょう?」
 それぐらいはマイには分かっている。
 分かっているから、”ルイズの為”にユキを開放した。
 ユキから少し離れると、ユキも喉を押さえて立ち上がった。
「取り敢えず……そうね。まずはお説教。それからどうするかは貴女達で決めなさい。ルイズまで巻き込んでるのだから、ヘタに私が介入しない方がいいでしょう」

 それから二人は夢子に一時間程のお説教を食らった。
 内容と言えば、まぁ喧嘩するのはいいけどお互いを傷つける程本気になってどうするのか、とか、第三者を巻き込むのはどういう了見なのか、とか、そんなところである。
 そして勿論、喧嘩真っ最中の二人は一緒になんか居ないし居られない。
 とにかく、マイは神殿には居たくなかった。だから、夢子のお説教が終わって部屋を出たマイは、ユキを見る事も無く一目散に駆け出して神殿を飛び出した。
 何処に行こうかなど考えていない。
 折角協力してくれたルイズに合わせる顔も無いし、神殿に戻れる筈も無い。あの店に居たら絶対数時間程度でルイズに捕まってしまう。あの店はそれなりに客がいる為、マイを知ってる人がいる可能性は否めない。
 誰にも見つからなくて、誰も追いかけてこない場所――マイはただただ、そんな場所に行きたかった。

「……ここ、か」
 そんな思いで辿りついた場所は、いつかあの巫女と戦った、雪と氷に覆われた場所だった。
 ここはよく弾幕の練習でユキと訪れている場所で、肌を刺す程の寒さが緊張感を与えてくれるし、風以外の音はまったく無いからいい緊張感を与えてくれるのだ。
「まぁ、確かに条件は満たしてるけど……」
 無意識に来てしまう程、マイは自身がこの場所に愛着を持っているとは思わなかった。
 確かにここはユキを好きになる切欠になった場所であるし、弾幕の練習でしょっちゅう訪れてるから愛着ぐらい持ってもおかしくはないのだが。
「取り敢えず……寒いわね、流石に」
 どこか、雪と寒さを凌げる場所をマイは欲する。本日二度目の全速力に、マイは確かな疲労感を覚えている。少なくとも、身体を休める場所は必要だった。
 ……そして冷えた頭で、もう一度考えてみよう。
 ユキの事と、これからの事を。


 身を隠すには丁度いい広さと奥行きの洞窟。
 普段は上空にばかりいるから、地上となるとマイはてんで分からない。
 取り敢えず、眼下の雪原に広がる地形を把握出来る程度の高度に降りる。
 後は低空飛行を続けながら、周囲に視線を巡らせて洞窟とかち合うのを待つだけ。
 寒さと風は魔法で遮断出来るから、取り敢えず魔力が尽きるまでは捜索可能。幸いにも、マイは魔力が高い方だから普通の魔界人よりは長く行動可能である。
 そうしている内に気分が落ち着いたからか、思考もそんな風に適当で、明らかに現状を楽観視している。
 だからまぁ――

「こうなっても文句言えないわよね、誰にも」
 洞窟は見つかった。望んでいた大きさで申し分無い。
 しかし、迂闊だった。
「外、めっちゃくちゃ吹雪いてるわね……」
 普段の練習でも視界が悪くなる前に練習を切り上げているのだから、マイは気付くべきだった。
 雪と氷に覆われた場所なのだから、吹雪くぐらいは至極当然の事である。
 入り口は冷気が入り込まないように結界で遮断、万が一にも凶暴な動物なんかが入ってこれないように、物理的な壁としての結界も同時に施してある。
 音は少々五月蝿いものの、その内慣れるだろう。
 魔力はまだまだ十分にあるから、結界はそれなりに長い時間の維持は出来る。
 しかし、魔力が尽きればそこでもう終わり。
 防寒具を持ってないマイならば、すぐに凍えてしまうだろう。
 吹雪がすぐ止めば良いのだが、こればっかりは自然の所作。運を天に任せるしかない。
 少々寒いものの、魔法で火を起こしたところで火種が無ければずっと起こし続けていなければならない。それは魔力の無駄遣いである。
 だから、マイは少々の寒さは我慢する方が賢明であると判断した。
「数時間は最低持つだろうし、現状を憂えていても仕方ないか」
 一応、その気になれば決死覚悟で完全に先が見えない中飛んで帰る事も出来なくは無い。
 この場所自体は別に果てが無い程広い訳じゃない。
 防寒と防風の結界を全開で纏って全速力で飛べば、運が良ければ魔力が尽きる前に脱出出来る。
「……まぁ、どっちにしろ運任せだし」
 故に、吹雪の具合を見て、後で判断する方が賢明である。
「それよりも、この吹雪なら万が一にもあのバカが来る事も無いわね。邪魔が絶対に入らない環境なら、むしろ好都合」
 そう、考えるには丁度いい状況。
「さて、まずは――――仲直り、かな」
 ユキとこのまま喧嘩しているのはマイの望むところではない。。
 仲直りさえすれば、あの単純で、だからこそ好ましい姉はすぐに笑顔を見せてくれる。
 だから、ユキと姉妹のままでいるか、それとも恋人として一緒にいるか話し合う為にはそれが必要不可欠。
 その為の差し当たっての問題と言えば、まずユキがまだ絶賛激怒中であるかどうか。
 何にしろ謝らなければならないのだが、激怒してる真っ最中に謝ったりなんかしたら、理不尽に怒りをぶつけられたと思えば謝るなんて訳分からない、と逆に怒らせかねない。
 ユキでなくとも、理不尽な怒りをぶつけられた後いきなり謝られても困惑するのは必至。
 それでも、もしかしたら怒りを一時的にでも止められるかもしれないし、その上で説明すれば分かってもらえるかもしれない。
「……でも」
 それでは、マイが一方的に悪いだけのような状況になってしまう。
 マイはユキに抱いた感情は姉妹としては間違ってはいるけど、決して嘘だとは思っていない。
 ユキだって謝るべきである。だから、対等で居ないといけない。
「だとするなら、穏便に済ませるなら間に誰かいた方がいいわね」
 差し当たっては、やはりルイズ。
 ルイズが間に入るならば、ユキも無茶はしない筈である。
「……うん、悪くないわね。仲直りについては、これでいこう」
 次はその後……仲直りした後、どうするか。
 ユキと結ばれた後に起きる問題は絶対に避けられない。周囲にばれてしまえば、きっとマイもユキも傷つく。
 自分だけが傷つく分には構わない。マイはそう思っている。ユキが傷つかないのなら、自身はいくら傷ついてもいい。
 あの時、ユキは自分が傷つくのも厭わずにマイを庇った。だから、マイもユキを守るのなら傷ついたって構わないのだ。
 しかし、そんな風には出来ない。
 ”姉妹で愛し合うなんて、どうかしてる””身内とだなんて……気持ち悪い””間違っている””穢らわしい”――――マイとユキに向けられる言葉は概ね、こんな感じだろう。
 マイがどれ程努力したって、四方八方から寄せられるこれらの言葉からユキを守るなんて、現実問題として無理だ。発せられた言葉は必ず誰かの耳に届く。魔法を使えば、それこそ本人に直接言葉を届ける事だって出来る。
 だから、マイは勿論、ユキだって絶対に傷つく。
 それが何より怖い事。恐れて隠し通すのだって辛い。
 アリスや夢子に穢らわしいモノを見る目で見られるのだけは、マイは絶対に嫌だった。
 ――神綺に間違った関係と言われて、無理やり元の姉妹に戻されたりするのは考えただけで泣いてしまいそうな程に恐ろしい。
 そんな想いをするぐらいなら、いっそ結ばれない方がマシかもしれない。
 いつしか、気持ちが薄れるとルイズは言っていた。ならば、そうなるべきかもしれない。
「……でも」
 理屈では分かっていても、マイ自身の感情はそれを拒否する。
 もっと近くに居たい。素直な言葉で愛情を伝えたい。唇を、躰を重ねたい。毎夜得ている快感を、ユキにも与えてあげたい。無邪気で可愛い笑顔をもっと見たい。意地悪を言って可愛く拗ねる顔を見たい。ユキから愛情を伝えて欲しい。言葉でも、行動でも。発育の良い躰にユキを溺れさせたい。マイもユキの躰に溺れられたらどんなに良いだろうか。
 これだけ全部、マイの本当の気持ち。そして、希望。
 本当はもうユキと気持ちは通じ合っているのだから、後はもう手を伸ばせば届く。しかし、その距離がどうしても埋められない。マイには、そんな勇気はまだ無いのだから。
「臆病者、か……」
 結局、自分は理屈を優先すればいいのだろうか。それとも、感情に従えばいいのだろうか。
 どちらも自分の望みではある。
 最初は理屈を優先させようとした。ユキが問題を全て理解した上で恋人になってくれるのなら構わないと思ってしまった瞬間もある。しかし、今はもうどっちを選べばいいのか分からない。
「はぁ……どうしろってのよ、ほんと」
 溜め息が漏れる。
 何気なく入り口を見遣ると、外は相変わらず吹雪いていた。


「どうしよう……マイ、まだ怒ってるよね……」
 夢子に二人してこってり絞られて部屋を出た後、マイはユキを一瞥もせずに駆け出した。
 自分と一緒に居辛いのは当然の反応だと、ユキは考える。
 そして今はマイは神殿にはいない。
 ユキ自身も今はマイには会い辛い。
 する事も無いユキは取り敢えず部屋に戻るのだった。
「はぁ……傷つけちゃっただろうなぁ……」
 ユキは大好きなマイと一緒に居られるなら別に誰に何を言われたって構わなかった。
 むしろ、ユキは自分とマイをそんな風に嘲笑うやつは叩きのめしてやってマイを守るつもりでいた。
 しかし、それが間違いだったのかもしれない。
 一度口から出て届いた言葉で傷ついたら、どんなに相手を叩きのめして慰めたって、傷は消えないのだから。
 守るというのは、そんな単純な事では無いのだろう。
 傷つかない為には、皆の前では今まで通り、姉妹でいないといけない。少しのミスだって許されない。それは絶対に辛い事。
 もしばれてしまったら、いろんな目で見られてしまうだろう。姉妹が女同士として愛し合うというのは、世間一般で見ればおかしい事である。
 しかし、おかしくとも、好きになってしまったものは仕方ないのだ。
 仕方ないとはいえ、周囲はそのようには想わない。おかしい、と笑われるのはマイはおろか、ユキにだって分かる事である。
 幸いにも夢子は先程の説教だと知らない様子だったからいいものの、もし知られたら何を言われるかは分からない。
 アリスもおそらくはおかしいと思うだろう。
 神綺も、本当は姉妹としてユキとマイを作ったのに、恋人になっていたらいい気分ではいられない可能性がある。
 ルイズはマイに協力してた為、ルイズだけは味方でいてくれる筈……なのだが、ルイズはふらふらとどこかに旅行に行く事が多いのだから、常時頼る訳にはいかない筈である。
 しかし、今更気持ちを押し隠して元の姉妹に戻るのはユキには無理な相談。ユキはそんな風に器用には出来ないのだから。

 ――マイが大好きだから、もっと一緒に居て色々な事をしたい。前みたいに抱き締めたりしたいし、その先も、マイとならしてみたいなって思う。

 だから、ユキは絶対にマイと恋人になりたがっている。
 しかし、傷つけたりしたくは無い。マイを辛い目に遭わせたくも無い。
 どうすればいいのか、本当に分からない。
「はぁ……」
 頭を抱えて溜め息を吐いてしまう。
 そんな普段ならしない事をした直後だった。
「ユキちゃん、いるかしら?」
 部屋の外から、ルイズの呼ぶ声がした。ユキは声の方向、先程夢子が吹き飛ばしたドアの方へと顔を向けるが、姿は見えない。壁に背を預けているのだろう。
 ルイズは姉妹の事情を全部知ってるのだから、きっと助けになりに来てくれたのだろう。
 今は誰にも相談出来ないから、渡りに船だ。
「うん、入っていいよー」
 期待を胸に、ユキはルイズを招き入れるのだった。

「随分悩んでるみたいね~」
「あはは……流石に、ね」
「今、何をどんな風に悩んでるか、お姉さんに教えてくれるかしら?」
「あー、うん。えっとね、今は……」
 ルイズの優しい声と口調はいつも安心してしまう。
 ほっとしてしまって、何だって話したくなる。ルイズはユキよりずっと年上で、いろんな所に行ってるから知識も豊富。湯rに答えも期待出来る。
 マイはルイズを『いつもどっかふらふらしてる放蕩魔界人で、しかもセクハラしまくる困ったやつ』と評しているけど、ユキにとっては夢子とは違う方向で頼りになるお姉さん。まぁ、マイもそんな風に言ってはいるものの、別に嫌っている訳じゃなさそうなのだが。
 そんなルイズだから、ユキはさっきまで考えていた事をそのまま、全て話す事にした。
「――――で、まぁどうすればいいかなって悩んでたとこなんだ」
「ふふ、本当に頑張って考えたのね、ユキちゃん」
「ん、ありがと。ね、ルイズだったらこんな時どうするの?」
「私は、そうねぇ……姉妹も兄弟もいないから経験に基づく事は言えないけど、それでもいいかしら?」
「うん。結局どうするかは私だからさ。思う事言ってくれると嬉しいよ」
「あら……」
 と、突然ルイズがいつも細い目を見開いて珍しく驚いた顔をした。
 自分が今何か変な事を言ったのだろうか、と少し不安になるユキ。
「どしたの?」
「え? うぅん、いいのよ。ただ、ユキちゃんはしっかり自分で考えて行動出来る子って思っただけだから。私の意見そのままに行動する訳じゃないみたいだから、ちょっと感心しちゃったのよ」
 そう言って、ルイズはユキの頭を店での時のように優しく撫でた。
 ルイズの撫で方は神綺のように優しく、ユキはこうして撫でられるのが大好きだった。
「……私は、そうねぇ……。自分達だけじゃどうしようも無いなら、周りを頼るわね」
「周り? ルイズの事?」
「私もだけど、もっといるでしょう? ユキちゃんとマイちゃんには」
「えぇと……」
 ルイズの謎掛けのような質問に、ユキは頭の中身をひっくり返すようにして他に頼れそうな人を探す。
 神殿の外――ルイズ以外には頼れる人は居なさそうに思える。
 とすると、神殿の中になるのだが、アリスは論外。後は夢子と神綺だけなのだが……相談するには少々恐ろしい相手だ。だが、頼れるとなればこの二人しかユキには思い浮かばなかった。
「もしかして、夢子姉さんと神綺様の事?」
「正解。お二方は魔界のナンバー1と2なんだから、心強いんじゃないかしら?」
「確かにそうだけど……でも、大丈夫かな? 夢子姉さんってほら、すっごい真面目だから。妹が好きだけど、困ってるから助けて欲しいなんて言われても困るか怒るか、どっちかになると思うよ? 神綺様は姉妹じゃなくて恋人がいいなんて言ったらやっぱり困るか怒るかしそう……」
「あはは、確かにあながち間違いとは言い切れないわね~」
 正解と言っておいてのユキの言の肯定。
 本当に大丈夫なのか、少し不安になるユキ。
「でもね、ユキちゃん。貴女とマイちゃんは一緒に暮らしてるのよ、お二方と。家族なんだから、きっと相談に乗ってくれるわ」
「う~ん……そう、なのかな……」
 ルイズの言葉を疑う訳ではないし、そう言われると否定は出来ない。二人は、確かに優しいのだから。最低限、話をちゃんと聞きはするだろう。
「大丈夫。私も一緒に話してあげ――――」
 ルイズの言葉が止まると同時。
 背中――窓が突然光を発して、すぐに収まった。
 それが何の光か気付いた瞬間、ユキは次は音が来ると予想した。
 予想は見事に当たって、ゴロゴロと反射的に竦んでしまう大きな音――雷鳴が響き渡った。
「雷――――!?」
 同時に、ルイズの顔が今まで見た事の無い、真剣な顔になった。
 酷く焦っている様子。ルイズは雷が嫌いだっただろうか。
「慌ててるみたいだけど、どうしたの?」
「ユキちゃん! マイちゃんまだ帰ってないわよね!?」
「え? あ、うん、多分……。帰ってきたら、多分夢子姉さんが教えてくれる筈だから」
 でも、それが――と思った瞬間、ユキは気付いた。
 マイがまだ外にいるのは、まずいと。
「マイ!」
 反射的に立ち上がる。
 気付いた途端、不安が胸に押し寄せてきた。
 マイはまだ外、しかも屋根のある場所にはいない可能性がある。
 であれば、すぐに降り始める雨に濡れるだろうし、もし飛んでいて……そんな確率はかなり低いとは分かってはいるとしても、それでも、万が一の可能性はある
 とにかく、喧嘩中だなどと言ってはいられない。すぐに連れ戻す必要がある。
「私行って来るから! 夢子姉さんと神綺様に言っといてね! じゃ!!」
「ちょ、ちょっとユキちゃん!」
 ルイズの静止の声を聴いていられない。
 ユキには今はマイが心配で、動いて絶対に助けないといけないのだから。

 部屋を飛び出すのももどかしく、ユキは窓を開け放ってそのまま飛び出した。
 すぐにポケットから手帳を取り出して、雨除けの魔法を探して実行。後はなるべく低い位置を飛んで万が一の落雷の確率を減らす。
 後はマイの居場所だが……とにかく、行きそうな場所を飛び回ってマイの近くまで行けるよう祈るしか無い。近くならば、マイの魔力を察知出来る。
 本当はもっといいやり方があるのかもしれない。だが。ユキはお世辞にも頭が良いとは言えない。そして、考える時間すら惜しい。
「マイの行きそうなとこ……多分、あそこと、あそこと……!」
 まず第一候補。マイとたまに利用している、あの店。
 よし、と気合を入れて、出せる速度で全速前進。
 持てる全速力で飛んで発生する風圧を、無理矢理に押し広げながら進む。風を切って、草を薙いで、水面を叩いて水飛沫を上げながら、目指すべき場所へと一直線、速度は決して緩められない。
 店に居てくれれば安心。しかしもし外に居たら、マイはきっと魔力を削りながら耐えている筈だ。
 マイはおそらく、一度決めた場所からは動かない。マイはユキよりも賢く、冷静である。だから、体力と魔力を無駄に使わないよう、一箇所でじっと耐えている方を選ぶ筈である。
 少なくとも、これはユキにとっては確信で、確定的な結論。
 マイはユキとの事を迷っている。神殿にも帰れず、しかし何処に行けばいいのかも分からなくて迷っている。だから感情的にも、目の前が真っ暗で、じっとしているしかないのだ。
 ならば、もう迷ってはいられない。
 迎えに行って、引っ張って連れて帰って、怒って文句を言う所を抱きしめてやるのだ。それで安心させて、仲直りして……夢子と神綺に相談して、問題は全て解決して――絶対に、ユキはマイと幸せになる。今この瞬間、ユキはそう誓うのだった。

 全速力で飛んでユキの感覚でおよそ十分程――焦っているから本当のところはどの程度の時間が経ったかは分からないが、そんな些事は気にしていられない。
 店に到着して中に入って、すぐに店内を見渡す。しかしながら、マイの姿は無い。マイの魔力も全く感じられなかった。
「はずれ、かぁ……」
 ならばもうここに用は無い。
 次は……ルイズの家。
 ルイズはマイに協力しているのだから、居る可能性がある。
 目的地が決まると、ユキは早速店を飛び出して、また空に飛び立った。

 ルイズの家は店からそんなに遠い場所にある訳ではなく、程なくして到着した。
 ユキは早速ドアノブを捻ってみたのだが……
「あ、そっか。ルイズは今神殿にいるんだった……」
 しまった、とユキは悔しげに眉を顰めた。。
 マイが行きそうな場所ばかりを考えていた所為で気付かなかったのだ。
 ルイズがいないのでは、鍵だって開いている訳が無い。マイも友人の家の締まってる鍵を無理矢理開けたり壊したりしないのだから、ユキは自身の考えの無さに、多大な後悔を覚えるのだった。
 自分自身の馬鹿さ加減に腹が立つが、ここで悔やんでもいられない。苛立ちのまま、またすぐに空へ。
 黒雲に覆われた空は光を完全に閉ざしていて、周りは真っ暗。
 時折鳴る雷のお陰で雨は降っていても視界は悪くないものの、こんなに暗いと時間が経ち過ぎたように思えて不安になる。タイムリミットはマイの魔力が尽きるまでだから、こんな時間感覚の狂う天気ではどのぐらい経ったかすら分からない。焦りはユキをとにかく急がせる。
 次は、あそこ――――姉妹の弾幕練習の場所だ。


「外、もう暗いわねぇ……というか、遠くで雷鳴ってるわね……」
 雷そのものは怖くは無いのだが、高所を飛んでいると落ちてきそうな気がして、その事が少しだけ怖かった。
 それにしても変な天気だ、とマイはぼんやりと思った。
 さっきまで吹雪いていたというのに、今は風が止んで雪がちらちらと降っている。雷が頻繁に鳴るような天気ではむしろ、先程までの吹雪の方が自然に思える。
 外の様子では帰れそうな気はするのだが、考えていた問題の答え自体が出た訳ではない。
 仲直りそのものは確実に成功するという結論は出た。しかし、やはりユキとの関係については一歩が踏み出せない。
 ユキはマイと恋人になりたがっているから、きっと恋人にはなれないとしたら落ち込むだろう。
 それは仕方ない事なのだが、ユキのそんな顔をマイは見たく無い。マイとていくら覚悟したって気持ちが冷めるまではずっと後悔し続けるだろう。
「それに、関係、ギクシャクするわよねぇ……」
 アリスに夢子に神綺――皆、すぐ気付く筈。
 一応関係としては姉妹のままだから何事も無い筈だが、色々と心配されるのは目に見えている。であれば、もうなるようにしかならないのかもしれない。
 気付けば、魔力もそろそろまずい領域に迫ってきている。
 この日はもうこれで限界として、ルイズの家に泊めて貰うべきだ、とマイは即座に決断。
 ――神殿には、まだ帰りづらいのだから。
 そう思って洞窟入り口に視線を向けた、その時だった。

 微笑ましいバカ姉が必死の形相で口をアホみたいにパクパクさせながら結界をドンドンと叩いていた。

 まさかこの天気に追いかけてはこないとは思ってたのだが……本当に何を考えているんだこのバカは、とマイは眉を吊り上げそうになる。
 ともあれ、やけに必死だから中に入れた方が良さそうである。
 今まで結界の維持に回してた魔力をカット。同時に結界を構築していた魔法式を崩壊させる。これで結界は消滅である。
「う、あ、わ、わわっ……へぶっ!」
 そして突然の壁の消滅で同時に前のめりに倒れこむユキ。
「……あのさ、起き上がってくれないと風吹き込んだりして寒いんだけど」
 取り敢えずどう声を掛けるべきか分からないマイはいつものように、追い討ちをかけるかの如く冷たい言葉を放ってしまう。
「あいたた……」
 鼻を押さえて身を起こしたユキの額は見事に赤くなっている。
 割と勢いがあったのだろう。
「ね、もう結界張り直していい? いい加減寒いんだけど」
「うぅ……せめて大丈夫の一言ぐらい言ってくれたっていいと思うよ、マイ……」
 あぁそれもそうかと思わず納得してしまう
 確かに、それは言うべきだったかもしれない。
 そんな風に冷静に考えられる事が、マイ自身、自覚するに意外な事だった。
 時間が空いたからだろうか。それとも、マイが自覚しないままにユキの顔を見たがっていたとか、そういった事なのか。それとも、別の要因があるのか。
 だが、心境としてはもう別にどれでも構わなかった。何せ、もうマイはユキと一緒にいるのだから。あれこれ考えてたのが、まるでバカみたいに思えそうな展開。考えるより先に動く方が早かったんだと、マイは思い知らされた。――いや、考える事でマイはただ目の前の恐怖から目を逸らしていただけだったのかもしれない。
 やはり、マイはユキと一緒に居たかった。
 ユキを怒る気持ちは爪の先程も沸かなかった。
 漸く痛みが引いたのか、ユキは鼻をごしごしと擦っている。
「あんまりしてると鼻血出るわよ」
「う~……なんか鼻がぐしゅぐしゅしてるんだよ……」
 眉間に皺を寄せて、鼻の不調が不満そうなユキの顔を見ていると、マイは自覚してしまう程に頬が緩んでいた。
 ユキにも別段怒っている様子は見受けられない。
 これならば仲直り出来るかもしれない。いや、何にしろこれは降って沸いたチャンス。だから、絶対に仲直りは成功する。――全ては、それからである。
 あまり高さの無い洞窟の中を四つん這いでユキに近づく。
 手を伸ばせば触れられる距離。
 ユキが顔を上げた。
 近いからだろうか。自然と、目が合った。
 言うべき言葉は喉まで来ている。
 ――後は、吐き出すだけだ。
 それは、お互いに。


「ユキ」
「マイ」

『ごめん』

 別れてから数時間。
 その数時間の間、二人はこの三文字をずっと伝えたかった。
 大好きな相手を傷つけたから。
 好きなのに。お互い、好きなのに。
 どうしてか傷つけてしまった。その事に、二人は一番心を痛めていた。
 だから、やっと伝える事が出来た姉妹は、やっと表情に笑顔を宿せた。
 外でちらちらと舞う、無垢な白。
 姉妹の浮かべている笑顔は、純粋で、同じ白さを湛えている。
 姉が、そっと妹の喉に右手で触れる。
「あの時、ここ痛かったよね。ごめんね。お姉ちゃんの私が落ち着かないといけなかったのに」
 妹は、手を握り返すように同じく右手で姉の首に触れる。
「私も。あんな怒り、あんたにぶつけるべきじゃなかったわ。あんたに正直に話して、解決策を見出すべきだった。だから、私も。ごめんね、ユキ」
 握手を解くように、二人の手は首からそっと離れる。
 離れた手は、肩へと流れる。同時に、二人は地面で膝を摩りながら近づいて、左手で同じように肩に触れ合う。視線は絡み合ったまま、申し合わせたように、双子の姉妹は静かに身を寄せ合った。
 姉はやっと触れられた妹を大切に、愛しむように抱き寄せる。
 妹は今まで素直になれなかった分を埋め合わせるかのように、引き寄せられるままに姉に躰を預けた。
「……改めて言うよ、マイ。大好き。恋人になりたい。妹にこんな感情を持つなんてお姉ちゃん失格かもしれないけど、それでも、私はお姉ちゃんとしてもユキとしても、マイが大好き。もう絶対離さないから。……守るから」
「うん……私も。あんたが好き。ずっと嫌いじゃなかったけど、何処かバカにしてきた。でも、あの時……二人で戦って負けたあの日。あんたの手が優しくて、そんな手で守られてきたって知った。それで、気付いたら、ユキを――――お姉ちゃんを、好きになってた。最初はやっぱり間違ってるって思って、隠してたけど……でも、苦しくて切なくて、耐えられなくなって、ルイズに、頼んで、それで……それ、で……」
 マイの声に、少しずつ、嗚咽が混じり始める。
 流れ出した感情の奔流は、マイの心に堆積していたユキへの懺悔を容易く外へと押し流していく。
 ユキはただ、その懺悔を黙って聞き入れる。嗚咽が止まるように、背中をあやすように撫でながら。
「あんたの気持ち、勝手に、知っ、て……なのに、ユキ、がっ、私の怖っ、い。こと、何も、知らなくて、それ、嫌、でっ、うぇっ、ぐ、す……怖いの、一緒が、よかっ、たの、に……ふぇ、あ、う、あ、あぁぅうう……ごめ、ごめ、んね、ユキィ……」
 ユキはただ、マイが泣くに任せて、包み込み続ける。
 マイはユキを力いっぱいに抱き締め、もはや言葉にならない泣き声を上げて涙を流し続けた。
 そうして数分。
 全てを吐き出し終えたのか、マイは時折小さく嗚咽を漏らす程に落ち着いていた。
 それをユキは合図として、ゆっくりと口を開いた。
 ――次は自分の番だ、と。
「ごめんね……私、私も、同じだったんだ。私も、マイと一緒が良かった。マイと一緒に居て、守りたかったんだ。でも、怒ってるマイを見てたら、なんだか拒絶されてるように思えて……ごめんね」
 ユキの懺悔が静かに幕を閉じる。
 その閉じ方は、相も変わらずしんしんと降り続ける雪の穏やかさにも似ていた。


 そうして抱き締めあったまま幾分かの時間が経つと、ユキもマイもすっかりと落ち着いていた。
 ただそれでも、二人はいつもの姉妹の距離には戻ろうとしない。
 ユキが洞窟の壁に背を預け、マイは今まで姉に一定以上近づかなかった距離を埋めるかのように、胸に顔をくっつけ、腰に右手を回してしがみつくようにしている。
 素直に心を開いて身を寄せる妹の肩を抱いて、ユキは外の銀世界を見つめる。
「寒くないかな? 寒かったら火でも起こすけど」
「……いい。こうしてたら寒くないし」
「あはは。うん、私も寒くないよ」
 それを示すかのように、ユキは空いている左手を右手と交差するように動かし、殊更に強くマイの温かい躰を抱き寄せる。
 強く抱き寄せられたマイの躰は自然と上へと上がり、胸に触れていた頬は肩の辺りへと移る。
 躰は強くくっついたものの、顔は胸よりも触れている面積が少ない。その事にマイは僅かに不満を覚えるが、その分、顔を自由に動かせると気付いて、顎を僅かに上げて下からユキの顔を覗き込む。
「ね、ユキ」
「ん?」
「その、顔、紅くなってるわよ」
「あ~……うん。まぁ、マイも分かるでしょ?」
「……うん」
 マイの短い返事。それで、姉妹は――まだあどけなさを強く残す少女二人は、口を噤んだ。
 心地よい沈黙のさ中、ユキは視線を下げて至近距離でマイの視線とぶつかる。
 視界一杯に広がる、可愛くて愛しい恋人の顔は、酷く火照っているようにユキには見受けられた。
「なんだ、マイも顔真っ赤じゃん」
「あ、う、うん……」
 ふい、とマイは瞬間的に感じた羞恥から逃れるように、視線を逸らした。
 その仕草すら、ユキは愛しいと感じる。
 恥ずかしいけれど暖かくて穏やかに感じられるユキの時間は、それで終わりを告げた。
 ユキの心臓が高鳴る。
 視線が紅く色付く可憐な唇に注がれる。
 子供っぽさを強く持つユキだが、こういった行為を知らぬ訳ではない。いや、むしろマイに恋をしてから興味を持つようになった節が、ユキにはあった。
 マイのように自慰に耽る事は無かったが、ユキは時折マイと手を重ね、唇を重ねる夢想に陥る事もあった。
 重ね合う感覚が知りたい。どんなに柔らかいのか知りたい。
 ――マイの唇の味を知りたい。
 欲求は膨れ上がり、それを満たす為の恋人の唇はすぐ目の前。
 ――自制など、働きすらしなかった。
 高鳴る心臓は余裕を奪い去り、ただひとつの事だけを思考に残す。
「マイ……」
 ユキの瞼が僅かに落ちる。
「ユ、キ……」
 マイの瞳がユキの瞳を覗き込む。
 瞬間的に、瞳に宿る感情を――自身を欲する情欲を、マイは感じ取る。
 抱いている形のユキが、顔を寄せる。対し、殆ど固定されてると言ってもいいマイはそっと瞳を閉じ、愛しい恋人の唇をゆっくりと待ち受ける。
 長いのか短いのか分からない時間。早鐘を打って高鳴る心臓の音を聴きながら待つ時間というのは、ただただ期待に満ち溢れている。
 そうして胸で弾けそうな程の期待感は、焦れったさを覚える事も無く、叶えられた。
 いつの間にか遠くで鳴る雷は聴こえず、外でしんしんと降り続ける雪は音すらも遮断しているかのようで、少女と少女の唇が重なった瞬間、衣の摩れる音すらも無い完全な静寂の世界となっていた。
 この洞窟の中はまるで二人だけに用意された、愛し合う為の世界であるような錯覚を覚えさせる。
 そんな特別な世界の中、二人はただ静かに瞳を閉じて重ね合わせたまま身じろぎすらしない。
 姉妹としての一定の距離。瞬間的に近づいた距離。そのままの距離に気付かない二人。そして気付いて、離れてしまった距離。
 重なり続ける唇は、そんな移り変わる距離をゼロで固定させているかのよう。
 音無しの空間の中、動かない二人はまるで精巧な彫刻か何かのよう。
 だが、そんな魔法のような時間はいつまでも続きはしなかった。
 どちらからともなく、そっと唇が離されたのだ。
「……もう一回しよっか」
「したいなら……しなさいよ……」
 いつもの憎まれ口ながらも、視線は絡み合わせたままのマイが可愛くて、ユキは小さく嬉しそうに微笑む。
 そしてそのまま、二人の唇は再び重なり合う。
 マイの唇の柔らかな感触と湿り気、少しだけ流れ込む熱い吐息はユキを自覚をさせないままに高める。
 唇を重ね合わせたかった。それは叶ってる。
 ――でも、違う。ユキがしたいキスは、欲しいキスはこんな幼稚なものじゃないのだ。
「ん、ん……ん、うぅっ!?」
 そしてやはりそれはマイも同じだった。
 欲求は自覚していても、どうすればいいか思い至らなかったユキに対して、マイは違った。
 マイの知識はユキよりも深い。そして根本的にはマイの方が冷静な思考が可能である。故に、欲求を満たす為のやり方には、マイが辿り着く方が圧倒的に早かった。
 ユキが自身を抱くに任せて自由な両手で可愛い恋人の頬を優しく包み、拒めないようにすると、マイは慎重に舌を伸ばし、閉じたままのユキの歯を軽く舐め上げた。
 それに驚いたユキは身を硬くして、思わず閉じていた歯列を開いてしまう。
 だが、マイは侵入しようとはしない。
 驚いて身を硬くしたユキと同様、マイも開門を強請っておきながら、ユキの反応に身を竦ませてしまったのだ。
 初々しい反応同士はひとつひとつの行為に対して過敏に反応を示し、止まってしまう。
 だが、それでも愛し合いたいのだから、止まったままではいられない。
 ユキはマイが開かせた口中がどういう意図によるものか、すぐに思い至る。
 だから、後は動くのみ。
 おそるおそる、舌を前に進めてマイの口中へと至る。
 咥内に侵入したユキの舌は、中の様子を敏感に感じ取る。
 外が寒いからか、咥内は酷く熱く感じられる。それは外との寒暖差から感じる熱さなのか、それともマイの咥内が熱いのか――ユキには判別出来ない。だが、そんな事は浮かんだ瞬間に霧散した。だって、咥内の天井からねっとりと垂れた唾液が舌に落ちる度に、味覚が蜜の味を伝えてくるのだから。
 垂れた唾液は粘性があって、まるで蜜のように甘い。そして口中の熱よりも、更に熱い気がする。蜜の味が浸透すると、まるでマイの体液に溶かされてしまいそうな錯覚に陥った。その不思議な感覚が、ユキを少しずつ、浸透する速度に合わせているように狂わせていく。
 侵入させた舌でどうするかは、ユキの頭にはしっかりと知識として存在する。
 その知識が求めさせる器官は――舌は、もう目の前にある筈だ。
 ほんの少し、ミり単位で進めればきっと届く。
 本能が、妹を――今や恋人となったマイを求める愛欲が、躊躇いを無くさせる。
 進んで、そして、唾液を纏った触手じみた軟体器官が、同じ軟体器官へと寄り添った。
 反射的に、マイの肩がビクリと跳ね上がる。
 だが、ユキが抱き締めた腕に少し力を入れる事ですぐに落ち着いた。愛し愛される相手がする行為が、怖い筈が無いのだから。
 そのまま、寄り添い合った舌が、今度は愛撫をするように蠢き始めた。
 にゅるにゅると。ぴちゃぴちゃと。舌先同士で、お互いがお互いの淫靡なダンスを感じ取る。
 お互いの吐き出す熱息が混ざり合い、喉奥へと吹き込む。吹き込んだ熱は、そのまま毒と転じて二人の思考を、理性を、未だタブーを感じる心を熔かしていく。そうして残るのは、性欲と愛欲と情欲とお互いを求め合う想いだけ。
 残るのは、それだけで構わない。たったそれだけがあれば十分なのだから。
 躰に侵入した熱が、全身へと広がって肉体を少しずつ燃え上がらせる。
 頬が火照る。背中と首筋にじっとりと汗が浮かぶ。服の中に篭った熱気がじわじわと汗腺を開かせていく。開いた汗腺から滲み出る体液が服を、下着を湿らせる。
 廻り始めた熱毒が性感を刺激して、下腹部の奥にじくじくとした疼きを産む。
 無意識に、二人は太股をもじもじと摩り合わせる。花園を覆う布はほんの少しの間に、汗以外の液体を吸い込んで重さを増し、湧き出る愛液は下着の吸収率を超えて太股へと流れて重力に従い、痕を残しながら垂れていく。
「ん、んう、ふぁ、ん、んうぅうっ……!」
「んちゅ、ふ、うん、んうぅ……!」
 荒くなった呼吸は通常の呼吸リズムを刻んでくれず、息苦しさは少しも我慢出来ない。
 息苦しいから離れないといけない。でも、呼吸なんて出来なくてもいいからキスを続けたい。
 そんな釣り合う筈の無い天秤は、容易に傾く。
「ぷぁっ……! ん、は、はぁ、はぁ、ぁ……」」
「はああぁ、はぁ、は、あ……ぁ……」
 故に、生命活動が当然の如く優先されるのだった。
 上気した顔。荒い息遣い。上下する胸。絡み合う視線。疼きに支配された肉体。愛する心と愛されたい心。脳内を駆け巡る快感を欲する本能。本能は繋がりの証を求めよと命令を下す。
「ね、マイ……マイの、初めてが、欲しい」
「ん……いいわ、よ。その代わり、私も、あんたの処女が、欲しい」
 素直な欲求。言葉にするには、唇を離した瞬間に戻った理性が羞恥を覚えさせて邪魔をする。だが、羞恥を覚えたところで大切なものを欲しいと思う心は止められない。たとえ途切れ途切れになろうとも。
 マイが身じろぐ。それに気付き、ユキがマイを解放する。
 そのまま、マイはユキの体と密着したまま上へと上がり、目線を同じにする。
 そして再び唇が重なり合う。
 だが、今度は貪るようなキスではなく、すぐに離れた。
 キスの意味はただこれからの行為の始まりの合図というものでしかないが、少しだけ落ち着いた心を再び燃え上がらせる為にも必要な事でもあった。
「下、脱がないと……」
「ん……」
 マイの短い返事は了承の意。それを受けて、ユキは右手をそっとマイのスカートの中に潜り込ませる。
 それとほぼ同時に、マイの右手もユキのスカートの中へ。
「下着、ぐっしょりね、ユキ……キスで濡れたの?」
「はは……マイだってそうじゃん。太股までぐっしょり……多分、私よりマイの方が凄いと思うよ?」
 事実、濡れ方はユキよりもマイの方が激しかった。
 マイ自体、元々感じやすい方であり、自慰を繰り返す事で自然と自身の性感を開発してしまっていた為に快感にやや不慣れなユキよりも敏感なのである。
 それらを示唆しているようなユキの台詞に、マイはそれまで離そうとしなかった視線を少しだけ逸らしてしまう。
「どうかした? マイ」
「ん、いや……何でも、ないわ。それより、続き……」
 本当は自分がそういう躰である事をどう思うか聴きたかった。
 だが、今このタイミングで聴くのはどうにも間が悪い気がしたのだ。
 折角素直な自分で居られて、キスをして、今正にお互いの秘所を愛撫し合って処女を捧げ捧げらる瞬間なのだから、余計な質問を挟むべきじゃない、という判断。
 ――いや、そんなのはきっと言い訳。
 感じやすいからと加減されるよりも、ユキに全力で愛されたい。気持ち良くして欲しい。それで、処女を奪って欲しい。だから、言わない。
 ずるいのかもしれないが、それがマイという少女の一面なのだ。疑わず、計算をしないユキの代わりに自分がそれを受け持つ。それがユキの片割れとしての役割で、きっとこれはコンビである限りは永劫変わらないのだろう。
 二人の下着は半ば、太股に引っかかる程度まで下げられている。
 晒された秘部からは熱気と濃密な少女の匂いが立つものの、スカートがそれを外へと逃がす事を許さない。
 だがこの熱気が外に出ないのであれば、外気の冷たさが無粋な邪魔とならないで済む。
「触るね、マイ……」
 宣言と同時、まずはユキの指が秘部に、陰唇に宛がわれた。
「ん、ふぁ……」
 マイの躰をぞくりとした快感が駆け巡る。
 だが、ユキは指を触れさせるだけで動かしはしない。
「……触るわよ」
 次はマイが秘部に触れる番。
 動かすのは、それが済んでからである。
 マイの指が、同じようにそっとユキの陰唇に宛がわれる。
「ん、く…………」
 ユキは自慰に至りはしなかった為、秘部への刺激そのものはこれが初めて。
 慣れない感覚を、ユキは快感として認識しづらいらしく、眉を顰める。
「……大丈夫なの、あんた」
「うん、多分……あはは、今はちょっと慣れてないだけだからさ。マイは気にしなくていいよ……」
 そうは言っても、マイはユキにもしっかりとした快感を得て欲しいと思う。
 自分ばかり感じるのは不公平であるし、ユキを置いて一人で昂ぶるようでは感覚的に自慰との差異が薄くなってしまう。
 だから、今はまだ一緒に処女を喪失するタイミングではない。
「んっ」
「っ!?」
 マイからの、不意打ちのキス。
 ユキは驚き、目を白黒させる。
 再び離れた時、マイの目の色が、少しだけ変わっていた。
 それまではユキに対する愛情と熱情の篭った、恋人に向ける視線だった。
 だが、今はどこか拗ねているような、不満げな色を宿している。まるで欲しかったものをお預けされた子供のよう。
「駄目……。さっき、言ったじゃない。私は、その、あんたと……一緒なのが、いいんだから……だから、このまましても、私ばっか気持ち良くなるに決まってるじゃないのよ……」
 いや、事実。マイは素直になれた現状は、少なくとも普段よりは子供っぽさが目立っている。
 それは普段から子供っぽさの目立つユキに対抗して大人であろうとして振舞っていた分、抑え込んでいた部分なのかもしれない。
 マイがそれを自覚しているのかしていないのか――こんな状況ではユキにも分かりはしない。
 だが、自身をマイの昂ぶりと同じにしてくれるのならば、ユキの興味と興奮は抗えない。
 マイが求めるのならば、断れる筈も無いのだから。
「うん、分かったよ、マイ。じゃあ、その、マイがしてくれるって事でいいんだよね?」
 マイは直接的な自身の求めを口に出されたのが恥ずかしかったのだろう。
 少しだけ視線を逸らしながら、頷く事で質問を肯定とした。
 ユキはマイの邪魔をしては悪いと、スカートに潜り込ませていた手を引き、代わりに残った手と共にマイの腰に回して抱きつくような格好になる。
 これがユキが身を任せるという合図。
 マイが添えたままだった人差し指を、スリットに沿って軽く撫ぜる。
「んっ……」
 瞬間、ユキの腰が軽く跳ねる。
 だが、腰に巻きついている手は離れない。
 だから構わず、マイは変わらない強さとゆっくりとした速度で優しく撫でていく。
「ん、んぅ、ぅぅん……」
 ユキの耐えるような可愛らしい声。
 それを聴きながら、マイはただ無言でユキの秘部を撫で続ける。
 やがて湧き出した蜜が指に絡み、スカートの中で粘性の高い水音が小さく立ち始めた。
「くっ、ふぁ、あ、んん……マイ、ま、イぃ……」
 ユキの躰が慣れない快感に震える。
 乱れそうな声と漏れそうな喘ぎを押し殺しながら指愛撫に耐える様に、マイは胸の奥が熱く高鳴って堪らなくなる。
 もっとユキの可愛い声を聴きたい。引き出したい。愛撫を激しくして想いっきり喘がせてみたい。そうして愛して、耳元で囁きたい。
 ユキを愛しく想う気持ちが、マイに積極性を与える。
「うあっ、あ、あぁっ!!」
 それまで陰唇の外側に触れて摩り上げるだけの優しい愛撫が、少しずつ激しくなっていく。
 綻んで多少開いた秘部に、マイの指がほんの少し、指先だけが埋没する。
 ユキは驚き、腰どころか全身を硬直させてしまう。
 だがマイは構わず、埋没させた指先で入り口の手前、陰唇を広げるようにして小さな動きで掻き回す。
 すると小さかった粘着音は大きくなり、それと共に愛液も掻き回され掻き出され、ユキの腰が快感から逃げるようにくねる。
「はぁ、はぁ、ユキ、気持ちいい? あそこ、すっごく熱くなってるわよ……」
「や、あぁっ、ダメ、マイ、も、もう、いいようっ……!」
 だが、マイの指は搾り出されたような声の懇願では止まらなかった。
「ユキ、ね、ユキ……可愛い声、もっと、もっと聴かせてよ……」
 マイの指がまたほんの少し埋没して、膣口に僅かに潜り込む。
「マ、イ、止まって、とまってってばぁ……」
 侵入してきた指先を、膣口付近が敏感に反応して締め付ける。
 同時に湧き出す愛液の量も増え、ユキに与えられる快感も割増になる。
 ユキの腰がついに引き始めるが、マイはそれを許さないとばかりに余っていた片手を腰に回して抑え付けようとする。
 既にユキを可愛がる事に夢中で当初の目的を忘れそうになっているマイに、ユキは理不尽さを覚え、それなら、とばかりに自身も腰に回しっぱなしにしていた両手を解き、右手を先程と同じくマイのスカートの中へと素早く潜り込ませるのだった。
 そしてそうする余裕がある内に反撃をしなければいけないユキは、躊躇い無くマイの秘部に人差し指・中指・薬指をくっつけてべったりと触れさせる。
「ふにゃぁっ!?」
 それまですっかりユキの反応に夢中になっていたマイだが、突然の秘部への刺激に思わず可愛らしい悲鳴を上げてしまう。
「こ、こら、ユキ……」
「く、ふふ……マイがいけないんだから、ね……やめてって言ってもやめないから……」
 額に汗を浮かべて荒い息を吐きながらも、ユキは意地悪な笑みを浮かべる。
 やられた分やり返すぞ、という意思はそのまま指先に伝わり、感じやすい体のマイが喘ぐ番となる。
「くうぅんっ!?」
 ユキが押し付けていた三本の指をそのままの力で上下に擦ると、マイは鼻にかかった甘い声を漏らした。
 素直な反応に気を良くしたのか、ユキは指先――特に中指に力を込めて少々乱暴に擦り始める。
 すると感じやすいマイの秘部はあっさりと蜜を零し始め、卑猥な音が立ち始めた。
「ひッ、あ、ふぁ、ああ、あぁああんっ!!」
 柔らかい恥丘にめり込んだ三本の指は、左右の陰唇を人差し指と薬指が刺激して膣口を中指が刺激する、という偶然ながらの三点攻めとなっている。
 感じやすいマイがそんな強烈な愛撫に耐えられる筈もなく、すぐに腰をビクつかせ、足ががくがくと震え始める。
 指の動きも疎かになり、主導権は完全にユキへと移っていた。
「ふふ……マイ、気持ちよさそうだね……可愛い……」
 攻守交替にすっかり気を良くしたユキは指愛撫を続けながら、マイの頬に軽く口付ける。
 そうしてユキはマイを攻め立てるが、元々ユキは性知識は少ない故に一度有効と想ったやり方以外には出来ない。
 それではいくら敏感なマイとて、快感に慣れてしまうのは時間の問題だった。
「ふ、うぅ、ん、んん……」
 落ち着いてきた喘ぎ声。しかし、マイへの愛撫に夢中なユキはそれに気がつかない。
 そうして余裕を取り戻したマイがる事と言えば、たったひとつ。完全に止まっていた愛撫の再開である。
「ひうっ!?」
 マイの中指が、また少し埋没する。
 突然の刺激に、ユキが裏返ったような声で驚く。
「ふ、ふ……あんた、ばっかに、やら、ん、んん……やられて、ばっかじゃ、ないんだからね……!」
 マイは埋没させていた指を、今度は上下に出し入れし始める。
 膣壁と膣口と陰唇を連続で摩り上げる指に、ユキの性感が再び高まる。
「くう、うぅ、マイ、マイぃ……」
「ふあぁ、あ、ユキ、そこ、ユキ、ユキィ……」
 だがそれでも愛撫の手は緩まない。
 むしろ、ユキはマイがしているように、中指を膣中へと埋没させていく。それと共に摩り上げる動きは出し入れする動きへと変化。
 二人は淫らな喘ぎ声をはしたなく吐き出しながら、口の端から垂れる唾液も拭わずに快感に身悶える。
 際限なく分泌される愛液は、スカートで隠された二人の足元に垂れて染みを作っている。
 そのまま二人は求め合うままに指で愛し合いながら、どんどんと高みへと上っていく。
「は、あ、あぁ、ひぁ、あぁああっ! ユキ、わ、たし、もう、もうぅ……」
「マイ、ふぁっ、は、なんか、せり、上がって、くるよぅ……!」
「そのまま、身、任せて、一緒に、指、奥、までぇ……」
「うん、うん……!」
 既に二人には余裕など殆ど無い。ただ快感にある程度の耐性を持つマイに絶頂へと先導するだけの僅かな余裕があるのみ。ユキは近づく絶頂への恐怖感を抑えつけ、マイの言葉に必死に従おうとするだけで精一杯。
 お互いの指の抽送の速度が絶頂へと押し上げる為に速く、激しくなる。
 埋没する指の深度が少しずつ増す。
「あ、うぁ、あ、く、くる、きちゃ、あ、ああぁああぁぁあッッッ!!」
「ひあ、だ、だめ、も、だめぇえぇえぇぇぇええ――――――――!!」
 そうして二人は絶頂に達し、同時に指は絶頂の衝撃に加減など出来ずに力いっぱい奥へと埋没する。同時に生まれる筈の破瓜の痛みは絶頂の波に押し流され、血も噴き出した愛液に根こそぎ追い出されてしまうのだった。
「うぁ、あ、あぁ……」
「くうぅ……ん、んん……」
 二人は全身を震わせながら、膣は完全に埋没した指をきゅうきゅうと締め付けている。波に耐える顔に破瓜の痛みなど微塵も無く、無意識の内に片手でお互いをしっかりと抱き締めあっていた。
 そして絶頂の波が完全に収まると、二人は秘部から指を抜く事すら忘れてその場にへたり込むのだった。


 行為を終えて余韻も過ぎ去った後。
 二人はお互いどう言えばいいのか分からず、照れながらも、取り敢えずの後始末。
 そうしてそれも終わる頃には少しだけ心の整理がついたのだろう。
 二人は自然と寄り添い合っていた。
「……どうしよっか。外、もう雪降ってないし、雷の音も聴こえないけど」
「そうね……魔力もだいぶ戻ったし、帰るのは問題無いわよ」
「そっか。じゃ、さ……帰ろっか?」
「ん……」
 マイの、肯定とも否定ともつかない返事。
 曖昧な返事は迷いの表れ。ユキはマイの俯いた顔からそれお読み取ると、マイの躰を密着させるように抱き締めた。
 抱き寄せる手から、マイは頼もしさを感じる。
 マイの迷っている事を分かっていて、安心していいのだ、と。その手はそう言っているように、マイには思えた。
「大丈夫。ルイズがさ、言ってたんだ。私とマイには夢子姉さんが、神綺様がいるって」
「でも……」
「あはは。私も不安だったんだけど、ルイズが一緒に住んでいる家族なんだから信じなさいって言ってくれたんだ」
「……あんたは、それで大丈夫と思うの?」
「うん。二人とも優しいから、きっと大丈夫。それに――」
 ユキは抱擁を緩め、マイの額に軽く口付ける。
 突然の優しいキスに驚き、マイは思わず顔を上げる。
 そしてユキはそれを待っていたかのようにマイに視線を合わせ、再び口を開いた。
「もしダメでも、私がマイを守るから。逃げて、魔界を飛び出してでも、マイと安全に暮らせる場所を見つけてみせるから。……だから、ね? マイは安心していいよ」
 ユキの決意。
 マイを絶対に守るという誓い。
 口に出すは容易く、実行は困難であろうその誓い。マイは不思議と、その決意は無謀でも何でもないのだ、と思うのだった。
 ――嬉しくて頼もしくて、胸が熱くなる。どうせならさっきのように泣いてしまいたい。甘えていたい。
 しかし、マイはその誘惑を振り払う。関係が変わったとしても、自分はユキの相棒であり、ユキとマイはコンビなのだ。助けられてばかりではきっと行き詰る。だから、自分も誓わなくてはならない。
「くくく……なぁに言ってんのよ、バカユキの癖に」
「む。ひどいなぁ、マイは。信じられないの?」
「ふふ……逆よ、バカ。――んっ」
「んぅっ!?」
 先程の額へのキスのお返しとばかりの、唇へのキス。
 すぐにマイは離れるが、ユキはキスをされていた時の驚いた表情のまま、固まっていた。
「信じてるに決まってるでしょ。私とあんたはコンビなんだから。だから、あんたにばっか守らせてやんないわよ。あんたがそうするのなら、私は全力でサポートする。――あんたと私は一心同体のコンビって事、関係が変わったぐらいで忘れるな、バカユキ」
 そうしてにっこりと微笑むマイ。
 滅多に見せない素直な笑顔は背中で時折揺れる雪のように白い羽の如く純粋で、その笑顔はユキの意識を引き戻すには十分だった。
「あははははっ、そうだね、マイっ。私達、コンビだったね!」
 今度はユキが笑う番。
 いつもの無邪気で穢れを知らない――雪のように白く純粋な癖に、決して他の色には染まりそうも無い絶対の黒のような笑顔。
「あは、あはははははははっ! なぁにそんな大事な事忘れてんのよっ、ほんっとバカなんだからっ!」
 その笑顔に一瞬見惚れるマイだが、自分はこんなにも変わったのにまったく変わらないユキがおかしくて、マイは笑わずにはいられなかった。
 ユキも嬉しくて、素直に口を開けて可愛い顔で笑うマイがおかしくて、負けない声量で笑う。
 あまり広くは無い洞窟の中、幸せそうな声はいつまでも響き渡るのだった。

-HAPPY END-















「ほんとにあんなので良かったの? ルイズちゃん。天候操作程度じゃ色々と不確定要素があったと思うんだけど」
「はい。あの程度で十分です。無理にでも、さりとて出来るだけ自然に引き合わせる方が重要と思いましたから」
「ん~……まぁ、直接相談受けてたルイズちゃんの言う事だし、心配は無いのかな」
「まぁあの二人はなんだかんだで仲は良いですからね、神綺様。むしろあんなに激しい喧嘩を今までしなかったのが不思議なくらいかと」
「ふふ……夢子さんも珍しく驚いてましたものね」
「あはは。私も夢子ちゃんの驚く顔、ちょっとだけ見たかったかも」
「お戯れを……」
「あはは。……それにしても、まさかあの二人がそういう関係を望むなんて思わなかったわ。姉妹っていう結びつき以上はあり得ない筈だったのになぁ」
「でも、ユキちゃんもマイちゃんもまだまだ成長期ですから」
「まぁ私はコンビで居てくれれば問題無いし、二人が幸せなら是非も無いよ、ルイズちゃん。それに周囲の目も、私がどうにか出来そうだし」
「では、万事解決、という事ですね、神綺様」
「うん。世は事もなし、これからも魔界はずっと平和。私の欲しい世界は皆が幸せに、平和に暮らせる世界だもの。たとえ姉妹で愛し合う事がタブーだとしても、ね――」
「――はい」
やけに長いこの作品、実はネチョこんぺに間に合わなかったのでゆっくりと書き上げていました。
こんぺに出す作品なだけに気合を入れて、今まで殆どやらなかったストーリーを盛り込んだネチョ作品にしてみましたが……楽しんで頂けたなら御の字でございますw
凪羅
ukyou55@hotmail.com
コメント




1.ゆっくら削除
ええと、なんと言うか、途中ドキドキしてしまいましたが、最後にはユキマイが幸せそうで嬉しかったです。
最後の神綺の行動も、微笑ましくていい感じ。
あと、ネチョがネチョくて官能的でエロスで、鼻血が出そうじゃないか
この調子で魔界物を書いていただきたくお願いいたしたい
2.col削除
旧作キタ
3.7c削除
ユキマイ知らないのに一気に読めた。
一瞬にしてファンになりましたぜ。
いいぞ、もっとやれww いえ、やって頂きたい。
書いてくれてありがとうございます、感謝しております orz
4.名無し魂削除
コンペ仕様で感想書きます。

ユキマイはすばらしい。今回は姉妹愛から恋愛への発展の過程。
ユキとマイの、お互い本心を伝えられない不器用さ、ルイズの「いい」お姉さんキャラが良かったです。
あと、ネチョのときの台詞と地の文のコンビネーションも素晴らしい。ライトなはずなのに官能的。

「足手まといが~」のセリフの裏にはそんな設定があったのか。なんか納得。
8点

…ユキマイ=凪羅氏という印象はかなりある。おっぱい揉んだあたりから。
5.s削除
実に一年半振りに凪羅氏のユキマイが!…この日を信じて待った甲斐がありました
マヨイガネット(現イザヨイネット)でユキマイの容姿会話二つ名知ったクチですがやっぱりこの二人好きですw
姉妹ゆえの葛藤とかそこはかとなく漂う背徳感も良い感じでした。
ただまあ神様の系譜って近親婚も多いんで実はタブーでもないのかもですが。
贅沢を言えば私的にはネチョにもうちょっと尺が欲しかったかもです。もっと見たかった~

是非ともこれからもちょいちょいユキマイを書いてくださると嬉しいです
ちなみに当方、足手まとい云々はマイの精一杯の強がり説を唱えておりますw
6.名前が無い程度の能力削除
旧作キタアアァァァア!!
成る程、こんなラブラブな姉妹の下にいたからアリスもry
7.名前が無い程度の能力削除
ボリュームたっぷりの姉妹愛というか姉妹の恋愛、ごちそうさまでした
デレたマイが可愛すぎる

神綺さまとロリスの話も続きを待ってます
8.名前が無い程度の能力削除
一年以上ぶりの投下お疲れ様です!
旧作やったことなかったけど、気になって貴女の過去作品を全部見直させてもらいました。
ま、マエバリー・ハーンwww
ちゃんと結ばれて良かったです、神綺さま…ありがとう。
これからもラブラブな二人もバンバン書いてください。
9.名前はまだない削除
なっ なんと素晴らしいEast of Eden……!作者さんのユキマイ最高!! 旧作持ってないので五月雨やっときます。
10.名前が無い程度の能力削除
旧作好きとして心を打ち抜かれましたw
ボリュームたっぷりな姉妹愛、ごちそうさまでした。