真・東方夜伽話

蓮子とメリー、ラブホに行く

2008/11/30 06:44:35
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蓮子とメリー、ラブホに行く

野田文七
 小雨がぱらついていて、肌寒い。
 蓮子は外に出た瞬間、中に引き返して、コートの下にセーターを二枚着た。昨夜から冷えそうな気がしていた。追試のレポートを深夜四時までやって疲れたせいか、ろくでもない夢ばかり見ていた。
 今日はメリーと四日ぶりに会うというのに、メリーの夢でなく、どうでもいい夢だったというのが、癪だった。
 本当にどうでもいい夢だ。高校時代、それに今の大学の知り合いがばらばらに出てきて、見知らぬ人間に脅され、殴られ、へこへこしたり、ほとんど会話をしたこともない教師に、わけのわからない理由で罵倒されたりして、やはり何も言い返せずに黙って頭を下げる。慰めてくれる人もいたが、それはメリーではなくて、本人には悪いがどうでもいいと思っている人だったりした。
 空は薄墨色にのっぺりと広がっている。
 風は冷たく、不快な夢の残滓を吹き払ってくれそうな気がする。アパートから出て、右手をパスタ屋、左手を畑に挟まれた緩やかな下り坂を歩き、つきあたりのコンビニの窓から、時計をちらりと見る。部屋に時計がないからこうして確認している。
 十時十分過ぎ。
 最寄りの駅まで、自転車でも十五分はかかる。のんびり歩いていきたかったがそうもいかない。取って返し、自転車置き場から自分のをひっぱりだして、跨る。入学当初、歩きだけで学生生活を乗り切るつもりだったが、それがあまりに見込み違いであったことを、この八ヶ月ほどの間で思い知らされた。
 駅には朽ちかけた屋根の下にベンチが三つ並べてある。落書きがひどく、頻繁にペンキで塗りなおされてはいるが、その上からまた落書きが重ねられている。まだ塗って日にちがそれほど経っていないのか、ベンチはすべすべとしていて、触り心地が良かった。
 電車に二十分揺られれば、この辺りでは一番賑わっている街につく。評判のレストランや、大きな書店、ブティック、凝った小物屋などに行く時は、いつもこの電車からだ。窓から見える風景が、土や草花、一軒家や寂れた公園、公民館から、ボーリング場や大型駐車場、アスファルトや看板、デパートへと移り変わっていく。
 普段降りる駅に止まった時も、蓮子は座席に座ったままだった。
 ドアが開き、メリーが現れた。濃いめの青のブラウスとスカートに、マフラーを巻いている。少し全体のシルエットがごわごわしているのは、蓮子同様中に色々着込んでいるのだろう。
「蓮子」
「おはようメリー」
 メリーは蓮子の元に歩み寄り、膝を追って、蓮子と唇を重ねた。
 平日の昼前とあって、四両編成の電車に、乗っている乗客はほとんどいない。蓮子とメリーの車両にも、隅の方でイヤホンを耳に当て、うつむいている会社員風の若い音がいるだけだ。ほとんど車両の対角線上にいるし、眠っているのか音楽に聞き入っているのか、ほとんど外界に注意を向けている様子はない。
 蓮子はそれを横目で確認すると、メリーの舌に気を向けた。
 メリーの舌は、ぬめっていた。外が乾燥しているせいか、ほんのわずかメリーの舌にまとわりついた唾液に触れただけで、蓮子の舌は油にまみれたように、滑らかにメリーの口腔内を這いまわった。まず舌を一通り味わうと、上顎を舌の先端でなぞり、そのまま歯の裏をなぞっていく。
(歯を磨いたんだな、メリー)
 人間の体液の匂いが、普段よりも弱い。だが、ハミガキのあの薬っぽい香りもそれほどしないところからして、向こうを出る前に歯を磨いたのだと思われる。それからは何も口にしていないのだろう。電車の中で、ウーロン茶やサイダーを飲む気分ではなかったようだ。メリーの口の中の匂いを味わうことで、数時間前までのメリーの様子を想像するのが、蓮子は好きだった。だが、今回のような無臭に近く、ただ唾液の異様なまでの滑らかさを楽しむというのも、良かった。
 舌をゆっくりとメリーの口腔から引きずり出す。メリーはそれを惜しむように、唇で蓮子の舌を圧迫する。蓮子の舌が、わずかにひっかかれる感触を得る。
「唇、少し荒れてるね」
 蓮子は舌の先端で、メリーの唇をつついた。メリーは自分の舌で、メリーと蓮子の唾液の混ざり合った自分の唇を舐める。
「そう。この四日間、ちょっとハードだったってのもあるし。体調もね、ベストじゃなかったし、この季節だったから」
「今は元気そう」
「カサカサの唇だとキスはしづらい?」
「くだらないこと言ってないで、おいで」
 メリーはうなずき、蓮子の左隣に座った。メリーは腕、腰骨、足の外側を密着させる。それから蓮子の左手を、右手で取り、指を絡ませる。それは蓮子が少しせわしなく感じるぐらい、一瞬で行われた動作だった。蓮子は一拍遅れて、メリーの指の愛撫に、同じく指の動きで応える。メリーは、満足げにため息をついた。
(この子は、ずっと私に触りたかったんだ)
 口にされずとも、メリーの思いがびりびりと伝わってくる。ため息から漏れ出るメリーの感情が、蓮子の肌を這いまわる。蓮子はそれが本物の手のひらのように感じてしまう。鳥肌が立つ。メリーのため息が蓮子を外側から攻めるのに対して、触れ合った指同士の愛撫は、蓮子を内側から侵していく。メリーの言葉が骨からじかに伝わってくる。
 ぎゅっと強く手を握ったかと思うとすぐに力を緩め、人差指と中指で蓮子の手のひらをなぞる。蓮子も指でメリーの手のひらをなぞる。それからまた、交互に互いの指を互いの指の間にねじ込む。指の間に相手の指が強くねじ込まれると、ふたりは重い息を吐く。ふたりの手のひらはたちまち汗ばむ。今度は手をずらして、蓮子の中指をメリーの小指と薬指で、蓮子の人差し指をメリーの薬指と中指で挟み込み、余った人差指と親指で蓮子の手の甲をなぞる。
「ンッ……」
 蓮子は、思わず声を漏らした。それで、我に返った。メリーはまだ執拗に指の愛撫を続けている。自分の左手が完全にメリーに侵されているのを自覚しつつ、蓮子は真向かいの窓から外の景色を確認する。
 街の一番栄えている所はすでに通り過ぎており、車窓を流れるビルや看板も、どことなく古びた感じがする。さっきまではびっしりと詰まっていた建物も、今は歯抜けが多く、ところどころから曇った灰色の空が見える。
「メリー、そろそろ」
「ん」
 メリーの指が、おとなしくなった。執拗に蓮子の指を求める動きから、ひっそりと寄り添うような動きになる。幼子を眠りにつかせるような、穏やかな波のような動きに、変わった。
 電車がとまる。ふたりは指を離し、それぞれ財布から小銭を取り出した。

 駅から出るとすぐに片側三車線の広い道路がふたりを出迎える。元々この辺りが最近寂れてきていることと、時間帯のせいもあり、余計に広く見えた。空調の利いた電車から、気温の低い外に出たため、寒々しくも感じる。
「……で、どこにあるの」
 蓮子が聞くと、メリーはポケットから四つに折りたたんだ紙片を取り出す。
「えーっと駅名はメモしていたのよね。電車の時間も」
「一応聞くけど、駅を間違えたなんてことはないわよね」
「それは多分……大丈夫だと思うけど。細かい場所が、ちょっと不安かな」
 蓮子はメリーの持った紙片を覗き込んで、ため息をつく。
「これ大きすぎ。もっと細かいところの地図なかったの? どうせネットのマップサービスから印刷したんでしょ。あと一、二枚縮小したところも印刷すればよかったのに」
「これでわかると思ったのよ。道路は書いてあるから」
「でも細かい道までは無理でしょ。ほら、あの道だって載っていない」
 蓮子は道向かいの、シャッターの下りた店と、アパートの間にある道を指差す。
「まあ、とりあえずこの辺ってところはわかっているんだから、そっちに行きましょうよ」
 すぐ傍にある歩道橋の階段をのぼっていく。端に上がって、目的地と思しき方角を見る。
「あ、納得」
 蓮子は呟く。
「これなら一発でわかるわね」
 その方向には、けばけばしいピンク色の看板が、これ見よがしに乱立していた。こうして日が高いうちに見ると、そのけばけばしさが、かえってみすぼらしく感じられる。竜宮城みたいな屋根があったり洋風の城を模していたり、外見がオフィスビルそっくりであったり、様々な建物がある。だがそのどれを見ても、不思議と、全体的な受けるイメージは同じだった。
「ほら、だから地図は一枚で良かったのよ。最寄りの駅から徒歩十五分というのも、間違っていなさそうね」
 メリーは胸を張って、誇らしげに言う。
「その情報は? 地図に載っていたの」
「ううん、こっちのガイドブック」
 メリーが取り出したのは、縦長の冊子だった。黄色い表紙に「遊びたい❤ 泊まりたい❤ ファッションホテルスペシャルガイド」と書かれている。右下には、ハートを捧げ持った兎が「クーポン使って得しちゃお」と宣伝している。
「そっちにも地図載ってたんじゃないの」
 思い浮かんだ疑問を蓮子は口にする。メリーは眉をひそめた。
「ネットで印刷したこっちのよりも、もっと大雑把にしか書いてなかったの」
 メリーから冊子を受け取る。
「うわ、確かにこれじゃ全然わかんないわ。これ、買う人わかるの?」
「だいたいわかるんじゃないかしら。普段から行っていたり、どっちかが知っていたり。慣れてると」
「そういうものかもね」
 そう言って、メリーに冊子を返す。メリーは冊子をめくりながら、言った。
「こういうところ、今まで全然行ったことなかったから、土地勘もわからないし」
 そのメリーの言い方に、蓮子は自分の置かれた現状を再認識した。
「そ、そりゃ、私だってこんなところ来たことないわよ」
「それも女の子とふたりで、なんてね」
 メリーは悪戯っぽく笑ってみせたが、口元がこわばっており、緊張しているのが蓮子に丸わかりだった。
 辺りは、確かに寂れた印象があるが、廃れている、というのとはまた違う。活気はある。この一帯には常に人が出入りしているような、そんな活気だ。夜となく昼となく、利用され続けている。表に出ないだけで。歩道橋から降りると、けばけばしい看板はふたりの視界から消えた。目指す場所ははっきりしたので、なるべく広そうな道を選びながら、その方向へ歩いていく。


 やがて、左右にラブホテルが林立する道路に、ふたりはついた。視界には、人はほとんどいない。それなのに、この一帯は、人の気配が充満している。時々車が通り過ぎると、蓮子もメリーも思わず運転席と助手席に目をやらずにはいられなかった。べったりと腕をからめたカップルとすれ違うと、ふたりは彼らがどんな風体なのか、観察せずにはいられなかった。地図を見たり、見知らぬ土地で道を探したりと、体を活発に動かすことが多かったので、今はふたりの間に四十センチから五十センチの距離があった。それがまた、知らず知らずのうちに近づいていく。
「何か、それっぽい雰囲気のところになってきたね」
 蓮子はそう言って、中指の第二関節で、メリーの手の甲を、ちょんと叩く。それだけで、中指から痺れのようなものが、手全体に広がる。だんだん、自分のスイッチが切り替わりつつあるのが、蓮子にはわかった。メリーは、今の接触で身体を小刻みに震わせている。メリーの方がスイッチの切り替わりは早いようだ。
「うん、してきた」
 メリーはか細い声で応える。
「昼間っから行く人って、あんまりいないよね。多分」
 周囲を見渡しながら、蓮子が言う。一ヶ所、窓が開いているところがあった。そこから湯気が出ている。バスルームだろう。
 肌色が、その四角く区切られた空間を横切った。おそらくは人の腕だ。窓は閉められた。笑い声が聞こえてきた気が、した。
 蓮子は胸が高鳴る。何分かあとには、自分もあそこにいるのかと思うと、緊張と期待と、未知への不安で、他は何も考えられなかった。
「まあ、普通昼は仕事か学校よね。でも、さっきから何組か見たし。あんまり関係かもしれないわ」
 メリーの口調も、どこかたどたどしい。蓮子は胃の辺りを押さえる。ぞわぞわと落ち着かない。
「なんていう店だっけ」
 蓮子も喉がこわばり、うまく話せない。
「店じゃないわよ、蓮子。ホテル」
「そう……ホテル、ね」
 口に出すと、ますます昂ってくる。一陣の風が、冷気を運んでくる。蓮子は身をすくめる代わりに、メリーの手を強く握る。
「アッ……」
 明らかに艶を含んだ声を上げ、メリーはその場にうずくまる。空いた指で、目尻に浮かんだ涙をぬぐう。
「えと……メリー?」
「ごめん、そんなに強く手を握られたら、あんまり気持ちよくて……」
 立っていられないのか、メリーは膝をついたまま、蓮子を見上げる。
「スイートピー、ってところ。もうすぐよ。蓮子、もうすぐつく」
 もはやメリーは、声が震えるのを隠そうとしない。瞳は潤んでいる。蓮子は、舌で自分の口腔内をなぞる。カラカラに乾いている。
「スイートピー、スイートピー……」
 うわごとのように蓮子は呟き、看板を探す。二軒先に、ピンク地に白字で文字の書かれた看板を見つける。横文字の筆記体で書かれている。夜は電光掲示板で煌びやかに光るのだろうが、昼間はみすぼらしく見える。外壁は青色の、スレート葺きの、あまり奇を衒っていないデザインだった。だが、蓮子もメリーも、デザインに注意を払う余裕はほとんどなかった。


 フロントは無人だった。絨毯は薄く固く、色もくすんでいた。壁は病院のように、白く人工的だった。部屋番を振られたパネルが一面に広がっている。パネルには室内の写真があり、「空」とランプがついているところと、そうでないところがある。ざっと見て、全体の四分の一ほどが塞がっていた。縦が四段、横が八列ある。一番上は5から始まる部屋番なので、一階は従業員用と思われる。
「メリー、どこにしよう」
「うん。高いところがいい」
 メリーは蓮子に体を預け、スカートの上から尻を撫でていた。蓮子はメリーの腰に腕を回している。腕に、メリーの柔らかな身体の感触が伝わる。蓮子は一番上の段を見る。その階が他に比べると一番塞がっていた。508が空いていたので、そこのボタンを押す。すると、パネルの下から鍵が出てきた。自動で出てくる仕組みになっているのか、パネルの向こうに人がいて、そこから鍵を出しているのか、蓮子にはわからない。鍵を取って、エレベーターに乗る。
 メリーの、蓮子を撫でまわす手つきが、次第に篤く、深いものになっていく。尻から太ももにメリーの手のひらが移る。蓮子のスカートは足下まである。メリーの人差し指と中指が別の意志を持った生き物のようにせわしなく屈伸運動を続け、舞台の幕をあげるように、蓮子のスカートをたくしあげていく。エレベーターは一定のリズムで低いうなり声をあげ、上昇していく。階数を示す数値のランプが移り変わっていく。スカートの中、太ももの内側をメリーの指が這う。右を這ったと思えば、左に移る。蓮子は下半身が甘さで崩れてしまいそうな気がした。
「メリー……待って、まだ、ついてない」
 声が、もうどうしようもなく艶を含んでいる。それを止められない。五階のところにランプが灯り、エレベーターが止まる。
「メリー、もう五階……」
 メリーは蓮子の唇を塞ぐ。蓮子の口に生暖かい液体が広がる。メリーの唾液だとは頭ではわかるが、量が意外と多いのに戸惑う。メリーの口の中に溜まりに溜まった唾液が、一気に蓮子の中に流れ込んでいく。
(そんなに私を食べたかったんだ……)
 蓮子は目眩を覚えながら、それをこくこくと飲んでいく。扉が開く。メリーはくちづけを続ける。蓮子の後頭部がエレベーターの壁にぶつかる。扉はしばらく開いたままで、やがて閉じ始める。蓮子は口を塞がれたまま、指を伸ばしボタンを押し、扉が閉まるのを防ぐ。メリーの足の間に膝を入れて、腰に手を回し、強く引き寄せる。これをされるとメリーは弱い。
「……っは」
 息を吐き、メリーの力が抜ける。蓮子はメリーを抱きかかえるようにして、エレベーターを出た。
 灰色のカーペットに、左右は人工的な白色の壁だ。上には等間隔で蛍光灯が並び、微量の光を投げかけている。扉は左右に四つずつ並んでいる。突き当りの窓から、墨色の曇り空が見える。蓮子はメリーを半ば引きずるように連れていき、奥の右手のドアノブに、鍵を差しこんだ。
 室内は、けばけばしさを排した、青や白を基調とした装飾になっていた。あまり仰々しい飾り付けや、奇妙なベッドや、大画面のディスプレイがあったら興が醒めてしまうかもしれない、と不安だった蓮子は、想像の範囲内の部屋にひとまずは安心した。
 今まで蓮子に体重を預けっぱなしだったメリーは、蓮子から離れ、靴を脱ぐのももどかしげに、部屋に上がろうとする。
「メリー、そんなに慌てないで……」
 言っている傍から、メリーは靴を脱ぎかけのまま、前のめりに突っ伏した。
「まったくもう」
 蓮子は屈んで、倒れたメリーの足から靴を取ってやる。メリーは体を起こし、蓮子を見る。その青い目は、今にも泣き出しそうに見えた。ブラウスのボタンをはずし、脱ぎ捨てる。中はピンク色の暖かそうなセーターだった。それも襟をつかんで、一気に脱ぐ。さらに下には薄手の長袖が二枚とブラがあったが、それもすぐに消える。蓮子は屈んだ姿勢のまま、手と膝をカーペットについて、メリーにいざり寄る。メリーは手と足の裏を使って、少しずつ、誘うように下がる。メリーの背中がベッドに当たると、腰を起してベッドに座り、さらに下がる。蓮子がベッドに身を乗り出した時には、メリーは窓際にいた。スカートと下着は抜け殻のようにベッドに放られている。ベッドの枕もとの、青白いカーテンのかかった窓は、部屋を四角くくりぬいた空きスペースに備えられてあり、その空きスペースは花の鉢を縦に二つ並べてもまだ余裕がある程度には、広かった。メリーはそこに腰かけている。メリーが身に付けているのは、帽子と靴下だけだった。蓮子が脱いでいるのは靴だけだった。さらにいざり寄り、蓮子はメリーの帽子を取る。メリーは足をまっすぐ揃えて、蓮子に突き出す。メリーは恐ろしいほど真顔だった。おそらく自分も同じぐらい真顔なのだろうと、蓮子は思う。ふたりとも、相手の肉体をどうやって楽しむか、もうそれしか考えられなかった。蓮子は差し出された足を手にとり、丁寧に靴下を取っていく。
 メリーは身にまとうものが何もなくなると、空きスペースにより深く腰をかけ、足を開く。蓮子は口腔内に唾液が溜まっていくのを自覚する。
「メリー、すごいかっこ……」
 蓮子の前に露になった秘裂に指を伸ばす。上方の茂みが蓮子の指にふわふわとかかる。襞に中指を這わせると、他のメリーの肌と違って滑らかに指が滑らずに、引っかかった。メリーは目を閉じ、深く息を吐いた。メリーの体全体が慄いていた。蓮子はそっと襞から指を離し、また触れる。それを何度か繰り返す。繰り返すたびに、メリーの慄きは規模が大きくなる。今度は中指と人差し指で、それぞれ秘裂の左右の襞を押す。襞は幾重にも重なり、その重なりのひとつひとつにメリーの快楽が潜んでいるようだった。いつもの肌とは違う奇妙な感覚に、蓮子はすっかり惑乱されていた。片手の指だけで襞をつついたりめくったりしていると、自分の指が粘り気を帯びてきたのがわかった。
「メリー、濡れてきている」
 蓮子が呟く。メリーは応えない。目を閉じ、頬も、耳も、肩も、胸も、紅潮させて、肩で息をしている。
「メリー」
「もっと……触って」
 切れ切れの声で、辛うじてそれだけをメリーは言う。薄く眼を開け、懇願するように、淫らに潤んだ目で蓮子を見る。蓮子は口中に溢れる唾液を止めることができなかった。唇をメリーの秘裂に近づけ、垂れてくる涎をまぶし、それからまた指で襞を弄ぶ。今までより格段に滑らかになった。襞は蓮子の指の動きに応え、指をくわえこむような動きすらした。蓮子は口中に唾液が溜まるとまたそれを秘裂に垂らし、さらに指で弄ることを繰り返した。
「はぁ……ああ」
 メリーの声が、抑制から解き放たれ始めた。蓮子は中に指を一本入れ、かき回し、唾液をかけ、さらに二本入れて、激しく指を屈伸させる。粘液の立てるねちゃ、ねちゃ、という音はもはや一切隠しようなく、室内に響き渡っている。
「メリー、すごい、よ。メリーのここ」
「あぁ……蓮子。いいの。蓮子」
 蓮子は身を乗り出して、舌先をメリーのそこにねじ込んだ。メリーはあられもない声をあげた。色んな体液の混じった液体を啜り、舌でかき回す。鼻をメリーの茂みに押し付け、がむしゃらに匂いを嗅ぐ。両手でメリーの太ももをつかみ、さらに強く押し広げようとする。蓮子の舌に、苦いような酸っぱいような、決して美味とは言えない、しかし独特な味と芳香が広がっていく。鼻息を荒くして、それを呑みこんでいく。メリーの声が頭にがんがんと響く。夢と現の境界が曖昧になり、蓮子は自分が舌だけの存在になっていくような気がした。他にはメリーに触れている部分だけが生きているようだった。メリーの匂い、メリーの肌、メリーの声、メリーの体液、それだけがあれば、あとはもうどうでもよかった。そんな気がした。
「蓮子……蓮子」
 激しい呼吸の合間合間に、ようやく名前を口にしているようなメリーの声に、蓮子は我に返った。
「ちょっと、待って、蓮子。お願い、待って。頭おかしくなりそう……体が、言うこと聞かないの」
 メリーは前のめりに倒れようとしている。蓮子がメリーの股に頭をつっこんでいるので、メリーが蓮子の背中に落ちかかる形だ。蓮子の前からメリーのそれが消え、背中に一気に重しがのしかかる。
「わわっ」
「きゃっ」
 メリーは蓮子の背中を伝って、そのまま頭からベッドに落ちてひっくり返る。そのあとも、ぴくぴくと痙攣するように体を震わせている。
「う……あ……」
「だ、大丈夫? メリー」
 蓮子は、まだ舌先でメリーの秘裂を嬲っている錯覚がする。
「う、うん……体に、全然力が入らないの。血が通っていない感じ……ぴりぴりする」
 それでも、何とか上半身を起して、サイドテーブルの下にある冷蔵庫を指す。
「そこ開けて、中から何か出して。精のつきそうなものがいいわ」
 蓮子は言われた通り冷蔵庫を開けた。コーラやコーヒー、それに缶ビールと並んで、栄養ドリンクが置かれてある。
「じゃ、じゃあこれを」
 赤蝮ドリンクとプリントされた小瓶を渡す。メリーは蓋を開けようとするが、力が入らないのか、開かない。蓮子が代わりに開けてやる。そして、口の中にすべて入れる。苦い。そのまま、震えるメリーにキスをする。ドリンクが、蓮子の口からメリーの口へ、メリーの喉へ注ぎこまれる。
「っぷは…… どう、効いた?」
「効いた、ような気がするわ」
 メリーは気だるそうに体を起こし、蓮子の首に手を回す。
「少なくとも、こういうことぐらいなら、もうできるくらいに」
今度はメリーが上になる。蓮子の鼻の頭、唇、喉、と舐める。そして右手で左耳を、左手で蓮子の唇を弄りつつ、メリー自身の唇は蓮子のネクタイ、ベルト、と服の上を伝っていく。スカートの上から、唇を押しつける。蓮子は身をよじった。両手を、今度は蓮子の胸に当てる。
「蓮子のおっぱい、小振りで、触り心地がよくて、とってもかわいくて、大好き」
 スカートの上からくちづけを繰り返しながら、メリーは言う。
「やめてよぉ……そういう言い方」
 蓮子は、体内からもどかしさが湧き上がるのを感じる。快楽とまでは断定できないが、何か逃げられない、まとわりつかれるような感覚だ。それでも、もっと耳を触っていて欲しかった、もっと唇を弄ってほしかったと思う。同時に、もっと胸を触ってほしい、もっと腰にキスしてほしいと思う。
「ね、ねえメリー、直接……触ってくれないかな。それに、メリーは何も着てないのに、私だけこんなほぼフル装備っていうのも」
 服の上から胸を撫でさすられ、もどかしさは募る。メリーはスカートに押し付けていた顔を上げ、蓮子と顔を合わせる。淫蕩に微笑む。スカートの中の下着を取る。そのまま指を這わせる。さっき蓮子がメリーにしたときよりも、性急で力強い。
「わ、ちょ、そんなとこじゃなくて」
「ふにふにしてて気持ちいい」
 メリーは指で蓮子の秘裂をさする。
「あ、あのね、そこはまだ、なんていうか、よくわかんないの。はっきり言って、痛いような気もするし、なんか長い間触ってほしくない気もするし。もっと、他のところ、なんていうの? ソフト? なんかそういうところ、触ってほしいの」
 蓮子の支離滅裂な懇願に、メリーはあまり耳を貸している風でもなかった。
「そぉ?」
 メリーは体を起こし、蓮子の体の真横に膝を置く。右手で引き続き秘裂の愛撫を続け、左手は、人差指と中指の二本の指を揃え、一気に蓮子の口に突っ込んだ。
「んもっ!?」
 そして舌を引きずり出し、五本の指でぐちゅぐちゅにして、さらにまた二本指で舌の裏や、頬の内側を突き、そこでかき回す。
「んむっ、むっ、んぐ」
 指を取り出すと、蓮子の唾液で、ぬらぬらと猥らな光を帯びている。メリーはそれを蓮子の目の前で口に含んだ。心の底からおいしそうに、それを啜る。啜り終わると、また蓮子の口に突っ込む。そして耳たぶを歯で優しく噛みながら、耳元で囁く。
「ほらあ、蓮子、濡れてきたわよ」
「いやぁ……メリー、そんな言わないで」
 蓮子の秘裂は、メリーの指の愛撫を受け入れはじめていた。中指が中に入る。蓮子は身を固くした。
「大丈夫、大丈夫」
 耳たぶを噛まれ、やさしく囁かれ、蓮子は少しずつ力を抜く。メリーは非常にゆっくりしたリズムで、中指を出し入れする。蓮子の呼吸が、やや荒いながらにいつものペースに戻ったのをメリーは確認すると、中指を抜き、代わりに親指で秘裂を撫でさすりつつ、後ろの穴を中指でつついた。蓮子の体がびくん跳ね上がる。喉を突いてしまうことを警戒して、メリーは指を蓮子の口から抜く。
「ちょ、わっ、メリー!」
「いい?」
「いいとか、よくないとかじゃなくて。わ、あ、わっ」
「もう」
「んむっ」
 メリーが二本指を蓮子の口に突っ込み、口内をくまなく指先で撫で、盛んに粘膜を刺激すると、さざ波のように蓮子の体に震えが広がる。指を蓮子の口から抜くと、水飴のように粘り気のある唾液が糸を引く。メリーは閉じていた膝を広げ、自分の秘裂にその二本指をねじ込む。
「蓮子、こっち見て」
 蓮子は首を傾け、その光景に見入る。メリーはそこから指を抜き、それをまた蓮子の口に入れる。蓮子は、熱心にその指をしゃぶった。蓮子がますます滑らかになるのをメリーは感じた。秘裂からにじみ出る体液をたっぷりと後ろの穴にまぶす。そして自分の中指をしゃぶり、唾液をつけて、自分のにも入れて、さらに体液でどろどろにし、それから蓮子の後ろの穴を強く押す。
「ンッ……」
 蓮子は目を閉じ、体を固くしたが、逆らおうとはしなかった。後ろの穴を責められたのは初めてではない。今までにも、違和感以外の何かを感じていたことは、蓮子の体が覚えていた。
 中指の第一関節が、蓮子の後ろの穴を侵す。
「わわわわわわっ」
 すぐにメリーは抜いた。
「ごめんね、びっくりした?」
 左手で蓮子の髪を撫で、額にくちづける。
「でも、もうちょっといいよね」
「……うん。その代わり、ゆっくりね。あんまり無理しないでね」
「わかってる」
 メリーはうなずき、また自分の中指をたっぷりと滑らかにして、第一関節まで入れる。すぐに抜き、なだめるように蓮子の秘裂を撫でさすり、さりげなく、アクセントのようにして後ろの方に指先だけ入れる。だんだん、蓮子が、体をこわばらせる以外の反応も示すようになってきた。
「いいでしょ? 蓮子。蓮子だって、いつだって私にしていいんだから」
「う、うん、でも、あ、まだちょっと、抵抗って言うか、自分がするには……」
「うふふ」
「ひうっ」
 また指を少しだけ入れる。蓮子はすっかり息が上がっていた。メリーは体勢を変え、蓮子の頭の両側に、膝をつく。
「蓮子」
「うん、ちょうだい」
 蓮子が口を開ける。そこに腰を落とす。蓮子の舌が、メリーの中に入ってくる。メリーの背筋を強烈な欲望が駆け抜ける。
 蓮子を犯したい。
 蓮子のスカートを勢いよくめくり、茂みに舌を這わせ、左の中指で蓮子の中に入れ、強めにかき回す。さらに、右の中指を後ろの穴に第一関節まで入れ、そこまでを境界にして激しく出し入れする。
「ウウーッ」
 蓮子のくぐもった呻きが聞こえる。メリーは止まらない。蓮子の体が痙攣し出す。メリーは、舌と指がひきつりそうになるほど、反復運動を続ける。無我夢中で、蓮子を味わい、蓮子をかきまわす。
「んっ、むっ、あ、くっ」
 蓮子の声はどんどん切羽詰まっていく。
「はぁ、アッ、ンむっ、ひっ、ん、ん」
 切なげな蓮子の声に、メリーの興奮は燃え盛る。欲望の赴くまま、秘裂に二本目の指を入れ、さらに後ろの穴に第二関節まで指を入れた。
「ンンンンーーーーッッッ!」
 ひときわ蓮子が激しく体を波打たせた。それから、急に力が抜けた。メリーの顔に生暖かい液体が広がった。メリーはそっと指を抜く。蓮子は、死んだようにぐったりと横になって、体にたまったものを流していた。メリーはシーツに頬をつけながら、じっとその温もりを顔に浴びた。


 湯船につかり、蓮子は深く息をついた。体にはまだ甘い残響が残っている。スカートは流し場に置いている。盥に湯船からお湯を汲み、スカートを浸す。石鹸をつけてこする。乾燥機はあったので、帰るまでには乾いてくれるだろう。
「蓮子ー、メニューあるけど見とくー?」
 ドアの向こうからメリーの声がする。ドアで隔たりがあるし、まだ蛇口から湯船にお湯を入れているので、少し声が聞き取りにくい。蓮子も声を張り上げて応えた。
「そうねー、なんか適当にいいやつ頼んどいてー」
「そんなこと言ってどうせあとで文句言うんでしょうが。米か麺ぐらい指定しなさいよー」
「そんじゃチャーハン。あとチョコドーナツみたいなのある? あるならそれも。あと牛乳。冷たい奴。それからコーヒー牛乳。これは熱い奴。麺もいいわね。ざる蕎麦あるの? あとサラダ。できればサーモンとかついてる、ちょっと油っこいの」
「蕎麦はないしサラダも普通のしかないけど、あとはいけるわ。じゃあ、頼んどくわねー」
「頼んだわよー」
 体に力が入らない。快楽からまだ抜け切れていないというのもあるが、単純に、腹が減った。朝は何も腹に入れていないし、気づけばもう午後一時を回っている。体もわりと動かした。湯気が狭いバスルームに充満している。温度を熱めにしていたので、頭がぼんやりしてくる。蓮子は窓を開けた。湯気が外へ流れる。冷たい風が吹き込み、火照った蓮子の肌を冷やす。心地よくて、身を乗り出す。窓は小さかったが、肩までは外に出た。五階から見渡す景色は、それなりに見晴らしが良かった。下の道路を、車や、カップルや、仕事中と思しきサラリーマンや、自転車に乗っている作業着の男が通る。誰かがふとこちらを見上げるかもしれない。そう思うと、胸がどきどきする。
 自分が、メリーというかわいい子と裸で乳繰り合っていることを、叫んで知らせたくなる。
 自分の茂みをそっと指でなぞる。さっき、メリーに強く摩擦されたので、少しひりひりする。正直、痛かったが、それを上回るぐらい気持ち良かった。気持ち良かった、というと、蓮子はあの時の感覚をうまく言い表せていないように感じる。疲れた体を休めたり、風呂に入ったり、マッサージをしてもらった時に感じる気持ちよさとは、まったく違う。もっと切羽詰まったものだ。今触っても、特にどうということもないが、あの時は体が自分のものでなくなってしまったように感じた。別の誰かが自分の体を振り回しているようだった。怖くなる。自分の体にも、それを操るメリーにも。
 バスタオルを体に巻いて、胸から下を隠した状態で、ベッドルームに戻る。メリーはベッドの横に据えられた簡易テーブルにいる。蓮子と同じように、バスタオルで身を包んでいた。見た目にも柔らかそうな乳房に目が行く。蓮子は触りたくなった。だがそれよりも腹が減った。現時点の自分の性欲はそれぐらいのものだな、と蓮子は思う。
「スカートは乾燥機に入れた?」
 机を挟んで蓮子が椅子に座ると、メリーが尋ねる。
「ええ」
「もうすぐ、ルームサービスがご飯持ってきてくれるわ」
「ありがとう」
「新しいシーツも持ってきてくれるみたい」
 メリーは何でもない風に言ったが、蓮子は恥ずかしくなって、ベッドの方を見た。シーツは濡れている。汗やら何やらのせいだ。だが、あそこまで濡れたのは、蓮子が出したもののせいだ。出させたのはメリーだが。
「さすがに、冷たく湿ったシーツじゃあ、ね。ま、シーツの下にも染み込んでいるかもしれないけど」
 蓮子が返す言葉に詰まっていると、ノックの音がした。ドアの横の郵便受けのようなところが開き、トレイに乗った料理が現れた。その時、トレイを持っている指が、わずかに見えた。指はすぐに引っ込んだ。メリーはトレイを蓮子に渡す。蓮子はそれをテーブルに持っていく。次のトレイが現れる。またメリーが取って蓮子に任せる。今度はビニールに包まれたシーツが現れる。ルームサービスが指を見せることはもうなかった。
「ありがとう」
 メリーはドアの向こうに呼びかける。足音は遠ざかっていく。
 蓮子はテーブルの上のメニューを眺めた。チャーハン、チョコレートドーナツ、冷たい牛乳、温かいコーヒー牛乳、サラダ、これは蓮子が頼んだものだ。さらに、白飯、ハンバーグ、鳥の空揚げ、お好み焼き、ペットボトル入りのサイダー、これはおそらくメリーの分だろう。
「あんたも結構食うわね……」
 蓮子は呆れたように言う。
「お腹が空いているのはお互いさまよ。いただきます」
「いただきます」
 ふたりは料理にとりかかる。
 蓮子は味はそれほど期待していなかった。そのせいかどうかはわからないが、思ったよりもずっとおいしかった。空の胃袋が充填されていくのを感じながらも、蓮子は今見た指のことが気になって仕方なかった。
「ねえ、メリー」
「ん?」
 ペットボトルをラッパ飲みしているメリーは、蓮子に視線をやる。
「やっぱりここって、働いている人、いるんだよね」
「そりゃそうでしょ。ホテルなんだから」
「誰も目につかないから、無人で、全部機械でやっているような気がしてて」
「まあ、そういう演出かしらねえ」
 メリーはお好み焼きを頬張る。一口で三分の一ほど口中に収め、咀嚼する。
「やっぱり、他人がいたら気になるものね」
メリーの口の端にタレがついている。蓮子は身を乗り出して、そのタレを舐めとる。タレは完全にはとれず、むしろ引き延ばしたようになってしまい、まだメリーの口についている。
「さっき、ルームサービスの人の指が見えてさ」
「私も見たわ。ちょっとしたミスよね」
「ねえ、この部屋も、やっぱりカメラとかついているのかな」
「ついてるんじゃない? おおっぴらになったらさすがに客足が遠ざかるだろうから、ついてない、ってことにはなってると思うけど」
 メリーは人差指で口についたタレをすくい、舐める。
「気になるの? 蓮子。別に邪魔されたりするわけじゃないんだから。向こうも仕事よ」
「それは、わかってるけど。こうして、女ふたりで来たって、普通に通してくれたわけだし」
 普段からばっさりと切るような話し方をする蓮子らしくなく、口ごもる。ホテルにつくまで、そしてついた直後は興奮のために我を忘れていたが、こうして風呂に入って胃袋を満たしていざ落ち着いてみると、初めて訪れたところであんな風に振る舞ったことが、急に恥ずかしくなってきた。恥ずかしいというよりも、禁じられていることを堂々と犯してしまった後ろめたさと言った方が近いかもしれない。
 考えだすと、自分やメリーの身を包んでいるのがバスタオル一枚というのも、気になりだした。
「ちょっと寒いかな」
 蓮子は自分の剥き出しの肩をさすりながら、訊く。
「そんなことないわ」
 メリーは一蹴する。蓮子を見ながら、食事を進める。蓮子は目を伏せ、無意識のうちに体を縮める。部屋は、食器を動かす音と、咀嚼する音と、空調の音だけしかしなくなった。
 メリーはお椀をテーブルに置いて、サイダーを飲む。メリー側の料理はすべて片付いた。蓮子の方はまだ少し残っている。
「ごちそうさま」
 メリーはそう言って、電気ポットから急須にお湯を入れ、湯呑にお茶をそそぐ。
「蓮子も」
「あ、ども」
 メリーの差し出した湯呑を受け取り、お茶を啜る。そうしてふたりでお茶を飲んでいると、蓮子は体がとろりと重たくなってくるのを感じた。
「いっぺん、寝ようか」
 それを察したかのように、メリーは言い、椅子から立ち上がる。シーツを新しいものに取り換えると、中にもぐりこむ。
「蓮子も」
 メリーがベッドから手招きする。蓮子はうなずき、一緒に入った。バスタオルとメリーの肌に接する。触れるとざわつくかとも思ったが、まだ心は落ち着いたままだ。
「寝ましょう」
 メリーは蓮子の手をそっと握り、目を閉じる。こんなに優しくメリーに手を握られるのは、今日は初めてだった。蓮子も素直に睡魔に身を任せた。


 口元に、湿り気がある。涎を垂らしたのかな、と思って慌てて啜ろうとするが、口が思うように動かない。異物感がする。何かぬめぬめしたものが、自分の口にすでにもぐりこんでいる。
「んむっ……ちゅっ……ン」
 鼻にかかった甘い声が、蓮子の鼓膜を刺激する。それがメリーの声だと認識する間に、体の皮膚という皮膚が、快楽にざわめき、蓮子は一気に目が醒めた。
「メリー……ッ」
 両手をメリーの首の後ろに回し、きつくしめつける。メリーもそれに応えるように、蓮子の背中にまわした両腕に力を込め、唇と舌をますます強く押しつける。口が完全に塞がってしまった。体が密着する。自然、鼻息が荒くなる。息が苦しくなる。メリーの口腔内の唾液をすべて啜ろうと、頬をすぼめて激しく吸引する。メリーの舌が、蓮子の口腔内に引きずり込まれる。
「ん……」
 メリーの腕の力が緩む。蓮子はメリーの頭を引き離す。
「ぷはっ、ご、ごめん、痛かった?」
 蓮子は訊くが、メリーは何も答えない。潤んだ瞳でじっと蓮子を見ている。メリーはシーツをのけて、上体を起こす。蓮子も上体を起こす。ふたりはシーツも何も身にまとわず、横座りの姿勢で、向き合う。
 蓮子はメリーの体をまじまじと見つめた。絹糸のような金髪は乱れて、何本かが汗で額に張り付いている。少し荒れている唇は、半開きで、その間から白い歯が覗いている。喉は、いつもはどきりとするほど白いのに、今は桃色に火照っている。丸みのある肩、鎖骨、と視線を下ろしていくと、たわわに膨らんだ双丘に釘付けになる。そこも、彼女の興奮のためかうっすらと赤みがかっている。蓮子は手を伸ばし、下から持ち上げる。柔らかな感触が蓮子の指を楽しませる。親指で乳首をつつき、そのまま乳輪をぐるりと触れる。メリーは眉を顰め、艶のあるため息をついた。
「メリーのおっぱい……柔らかくて、とっても気持ちいい」
 もう片方の手で、もう一方の乳房を上から被せるようにして触れる。そのまま押しつけると、蓮子の手にそれは実によくなじんで、押されるがままに潰れた。力を弱めると、弾力で押し戻される。メリーが唇を近付けてくる。蓮子はそれに応えて、唇を甘く噛む。いったん腰に両腕をまわして、優しく引き寄せる。メリーの腰は細いが、うっすらと柔らかな脂肪がその腰を取りまいており、抱く腕に極上の感触を与えた。
「メリーのおっぱいが、私のおっぱいと、くっついてる」
 唇を離して、蓮子は言った。メリーの白い肌は、ますます紅潮していく。
「キスすると、乳首が当たるの」
 蓮子はそう言って、また唇をよせる。メリーは目を閉じ、心をこめてそのくちづけに応える。お互いの乳房が押し合い、潰れる。すっかり固くなったふたりの乳首が、乳房と乳房の間で転がる。
「ちゅっ……んむっ。ちゅ、ちゅる」
 いったん唇を唇から離し、頬や顎、喉に触れる。
「すごく、いい」
「蓮子、そんな、そんな言われたら、私」
「メリーのおっぱい、大好き」
「アッ……」
 喉に舌を這わせる。メリーは体を反らせて喘いだ。蓮子はそのまま舌を双丘の間に這わせる。唾液を両の乳房にまぶし、手のひらで揉む。粘液が立てる音が、淫靡に部屋に響く。
「ぬちょ、ぬちょ、っておっぱいが言ってるよ」
 片方の乳房を吸う。唇を離し、ねぶる。それから顔を押しつける。その度に、メリーの乳房は蓮子にされるがままに形を変えた。
「蓮子……蓮子ぉ……」
 メリーはうわごとのように、名前を呼び続ける。半開きの唇からは涎が垂れている。蓮子はベッドから離れ、テーブルのコップを取った。メリーの上でそれを傾ける。
「ひゃっ」
 メリーの腹に、白い液体が飛び散る。
「蓮子、これ……」
「メリーのミルク、飲ませて」
 蓮子はそう言って、メリーに四つん這いの体勢でのしかかり、腹を舐めた。
「わっ、これ、くすぐったい」
 メリーは欲情に蕩けた顔で、身をよじり、くすくすと笑う。
「じっとしててよ」
 さらにメリーの乳房にミルクをかける。それを吸う。
「ふぅっ……くんっ!」
 メリーは苦しそうに身をくねらせたかと思うと、激しく体を波打たせる。蓮子はメリーの腕を手で押さえつける。乳房を吸い続ける。
「おいしい。メリーのおっぱい、すごくおいしい」
「ハア、はぅっ……」
「ミルクまみれにしてあげる。それから、全部飲んであげるからね」
 そう言ってコップを手に取るが、中は空だった。蓮子はドアの横の受話器を取る。
「もしもし? ルームサービスですか?」

 スーパーやコンビニで普通に売ってある紙パックの牛乳が、郵便受けのようなところに現れた。メリーは、蓮子がミルクを待っている間に何度か起き上がろうとしたが、そのたびに蓮子に舐められ、弄られ、体の自由を奪われていた。蓮子はパックの口を開ける。メリーに馬乗りになって、ミルクをかける。メリーの顔に白い液体が飛散する。髪や、シーツにも。蓮子はパックの牛乳を口に含み、メリーの口に注ぎ込む。さらに肩、乳房、腹、とかけていく。そして丁寧に舐め取っていく。もちろんすべて舐め取れるわけではない。メリーは、ベッドの上で、自分の汗と蓮子の汗、それにふたりの欲望の液、それにミルクとそれを舐め取る蓮子の唾液で、斑模様に染め上げられた。メリーは小刻みに痙攣している。浅く、速く、呼吸をしている。パックに残ったミルクを、茂みにかけながら、指で念入りにメリーの秘裂の中をかきまわしていく。メリーは誰にも遠慮ないほど大きな声で、艶めかしい声を上げた。
「ああ、蓮子、もっと……ひんっ、も、もっとしてぇっ!」
 蓮子は品のない音を立てて、メリーの秘裂からミルクを啜り出す。メリーは激しく体を痙攣させる。
「ヒクッッ……いい、いいよぉ、蓮子」
 蓮子はメリーの茂みから顔を上げた。メリーと目が合う。唇に飛びつく。ふたりは互いの唇を貪る。指で、胸や秘裂をがむしゃらに愛撫する。
 汗とミルクが混じり合い、ふたりの間にはむせるような濃厚な香りが立ち上っている。ふたりは相手の名前をひたすら呼び続けた。それが耳に入るたびに、快楽にさらに身が震える。体が自らの意のままにならないほど、立て続けに震えが来る。
「メリー、メリー、メリ……」
 壊したくなった。メリーが大事だという思いは変わらないのに、乱暴にしたくなった。
「蓮子っっっ」
 メリーは涙と涎を垂らし、蓮子の乱暴な愛撫を受け止める。メリーの指もまた、蓮子の秘裂や後ろの穴をがむしゃらに犯した。歯が、唇が、舌が、ぶつかり合う。
 視界がチカチカと点滅する。もう肌しか見えない。その他の何もかもが砕けてしまう。ぬめる指、粘液の立てる音、柔らかな肉、あとは天井も床もない。深い穴に引きずり込まれていく。寄せては返す波のように襲いくる快楽は、もはや引くことがない。頭が朦朧となり、体が痺れ、人間としての正常な感覚がひとつひとつ削られていくようだ。光が消え、匂いがなくなり、耳が閉じる。そしてそれが少しも不快でない。
「いく、いくっ、メリー、好き、好き、好き好き好き」
「蓮子、もう、駄目、私、私、蓮子、ああぁぁぁっ」
 全身全霊を込めて、相手を抱く。
視界は闇に落ちる。
体がばらばらになる。
感覚が崩壊する。
 それから、ゆっくり、本当にゆっくりと、体が元に戻り、感覚が世界に戻ってくる。始めに戻ってきたのは、荒い息使いだ。それがどちらのものかはわからない。そして、ぬめる肌と肌が接する温かみ。胸を打つ心臓のリズム、これもどちらがどちらの肌を打っているかわからない。肌にべっとりと張り付いた髪の毛、潤んだ瞳などが、少しずつ認識されていく。
「う……ぁ、メリー、生きて……る?」
 蓮子は、下敷きにしているメリーに問いかける。
「うん、蓮子。なんとか」
「し、死ぬかと……思った」
「すごかった。うん。すごかったぁ……」
 メリーは幸せそうに息を吐き、そっと蓮子の背中をさする。
「なんか、すっごい色々、しちゃったね」
「体……洗おっか。メリー、牛乳でびしょびしょ」
「蓮子も似たようなものよ」
「じゃ、一緒に洗おう」
 蓮子はベッドに手をついて、体を起こそうとする。だが、体に力が入らず、途中まで起こしたところで力尽き、メリーの上に倒れこむ。
「あ、駄目だ」
「ふふ、じゃあ、ゆっくりね」
「そうね。ゆっくりでいいよね」
 蓮子はそう言って、目を閉じる。体液とミルクの混合した、甘く切ない匂いに、再び感覚がどこかへ行ってしまいそうだった。
「さっき、どれくらい私眠っていたの」
「今、三時だから……えーと、一時間ぐらい。また寝る?」
「寝たいぐらい疲れているけど、もう眠くない」
 ふたりは体をくっつけ合ったまま、ぼんやりと時計を眺めていた。時計の針が三時十五分を回った頃、蓮子は身を起こす。
「どうにか動けそう。メリー、一緒に体洗おう」
 メリーは微笑んでうなずいた。蓮子はメリーの手を引いて、何もまとわないままバスルームに向かった。

 ふたりは狭い湯船に体を寄せ合って、お互いに体を洗った。淡い快楽を感じもしたが、それ以上には昂らなかった。ふたりは他愛もない話をして笑い合った。メリーは湯船から立ち上がって、窓を開ける。
「まだ太陽があんなに高いわ。といっても、もうすぐ日が暮れ出すでしょうけど」
「最近、日が落ちるの、早いものね」
 蓮子も立って、メリーと一緒に外の景色を眺めた。下の道路を行きかう人々の数が、昼頃見た時よりも、増えている。これから暗くなれば、もっと増えていくだろう。
「日が暮れれば、私たちみたいな人が増えてくるね」
 蓮子はそう言って、メリーの横顔を見て、笑う。メリーも微笑む。蓮子に顔を寄せ、唇のほんのわずか、触れさせる。そして腰にやさしく手を回し、体をくっつける。
「こんなことをするのね」
 さっきまでの燃えるような感覚とはまた違った、安らかな快楽が、ふたりを包み込む。
「そう、こんなことするの」
 蓮子もメリーの腰に手を回す。メリーの耳に囁きかける。
「好きよ、メリー」
 メリーは蓮子の耳たぶをそっと噛む。
「私も、蓮子。これから、もっともっといっぱい、しようね」
はぁ、メリーのおっぱいさわりてえ……(しみじみ)

蓮メリ第二段です。
どうぞごゆっくりお楽しみください。
次回作は
「はじめての緊縛 ~蓮子とメリーの場合」
「夜の散歩 ~メリーの目隠し」
のいずれかでいきます。
野田文七
コメント




1.Toshi削除
おー、続編来た!
ラブホ編ですかー、じゃあ次こそ「はじめての緊縛 ~蓮子とメリーの場合」でお願いします。w

牛乳プレイが俺の中で斬新でした。俺もミルク飲みたいお(殴
2.名前が無い程度の能力削除
個人的にホテルに行くことを決めたり、入るまでにもうちょっと逡巡してgdgdしたりするほうが萌えますが、
電車でおっぱじめてしまったり、手でイチャイチャしたり、エレベータで我慢できなくなるメリーさんで色々吹っ飛びました。
あと蓮子覚醒からの即、臨戦態勢はちょっと違和感がありましたが、それはそれとして
メリーはまっぱで寝てる蓮子を見て我慢できなかったんだなあ、と思うと心があったかくなりますね。
お互いに対する性欲を持て余す二人は見ていてとてもステキです。
道具なしで舌と指でひたすらイチャイチャしたり体液を交換したりするシチュが好きな私としては大変満足でした。

そんな私としてはちょっとピンとこない次回作ですが、「はじめての緊縛」あたりで皮手錠で手足を拘束され、
うつ伏せにされた蓮子がひたすらメリーにアナルを舐められて、羞恥で身もだえし必死にメリーを制止するも、
動くこともままならず、しつこく舌で舐めたり抉ったりされてついにはアナルで始めての絶頂を迎えてしまったりすると私が喜びます。
3.釣り針削除
 舐めるような視線だとか、身体を這いずり回る手や体液ねっちょりの描写がえろいです。
一作目から読ませて頂いてますが、次回作のテーマがどちらでも
美味しく頂ける気がするので楽しみにしております。

で、個人的には牛乳は水分が多すぎるのでヨーグルトなんかどうかと(以下省略
4.名前が無い程度の能力削除
寧ろメリーを緊縛しよう
蓮子覚醒だ

本当、秘封はエロい
ごちそうさまでした
5.名前が無い程度の能力削除
やっぱり秘封はいいですね~
次回にとっても期待です
6.名前が無い程度の能力削除
たまにはメリーが蓮子に攻められるのが見たいですね
乙女メリーはもっと増えるべき
7.名前が無い程度の能力削除
これは素晴らしい。
8.名前が無い程度の能力削除
色んなネチョSSを読んできましたが、ラブホなシチュエーションは秘封ならではでとても新鮮でした。
というか序盤の指を絡め云々がエロすぎです、本番より興奮した俺は変態なのかもしれない…
9.名前が無い程度の能力削除
牛乳見る度に思い出しそうだなぁw
gjとしか言いようがない
10.名前が無い程度の能力削除
緊縛に期待しつつ、こっそり米。
11.名前が無い程度の能力削除
求める強い気持ちがこれでもかと出ていて素敵でした
面白かったです