真・東方夜伽話

distAnce②

2020/11/11 03:11:50
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distAnce②

みこう悠長




 マルクローネ・ギュールズの記憶形式についてあたいが言及できることは少ない:それはみんなが彼女を〝狂〟という安易な言葉で、ブラックホールを無尽蔵ゴミ廃棄場と見做すのとちょうど同じような具合に片付けるのを目の当たりにしながら、あたいもまたその重力に飲まれてしまっていたからかもしれない;認めたくはないけれど。
 〝狂〟という言葉の持つ引力と超密度への圧縮性は、観測不能であることも含めて、まさしくその通りだと思う。
 あたいを馬鹿だというほとんどの人は、あたいと同じように〝狂〟の引力に対して無抵抗で、観測の努力さえしないらしい;もしかしたらあたいは、バカだからその努力を足掻いていてしまったのかもしれないが。
 こんな風にして、あたいは重力に押し潰されそうになりながらも彼女の観測を諦めなかった、そのことを褒めて欲しいだなんて言わないが、あたいにはこれを諦めた奴らを罵倒する権利があるだろうと思っている。
 彼女と会話をしようとすると文脈は頻繁に破綻するし、その度に死の危機に瀕する(彼女がそう願えば多くの物体は潰滅する、そういう子なのだ)のだから、それ以上の深入りがないことについては仕方がないと思う部分もある。あたいが深入りをしてしまったのが何故かと問われれば、やはり「バカだったから」以外に答えようがないかもしれなかった。

 学制での勉強の中で「言語獲得装置」という言葉を聞いたとき、あたいは:そういう「わざマシン」が存在するんだ:と想像したが、その後それは機能をブラックボックス化したモデルへの命名でしかないと知らされてがっかりなどした経験がある。なんでそんな名前をつけるのかと気になって聞いてみたが特に納得できる回答は誰からもなく、それ以降その分野の勉強は手付かずだ。だが彼女を観察してなんとか一つ一つの出来事をあたいなりに精査した限り、そうした装置は実在するのではないかと、思えてしまうのだ。
 これが非定型的な能力との有機的な連係機能によって流動的な言語が獲得されるものだとしても、脳の情報伝達がその形成を促し後発的に形作られていくものであっても、あたいの言いたいことは大して変わらない;即ち、あたいら言語でものを考えうる存在は、その装置(あるいはモデル)によって与えられた定型的な獲得言語の幾つかのヴァリアント(つまり○○語とか××文法とかそういう微差的な生成をする種別)以外の、まったくその装置に定義を記されていない文法に出くわしたとき、これっぽっちも文法を解決できないのではないか。件の獲得機能にはそういった柔軟性には限界があり、一定範囲外には杓子定規で堅物で、解析できないものへの予想や想像といった曖昧性は比較的早い段階で限界を迎え、そこからはただエラーを吐き続ける、さほど信頼性のおけるものではないのではないか。だからこそ、あたいはその融通の利かなさに、そういう意味で、「装置」を感じていた。

 彼女の「文法」が、どうやらあたいらとは大きく異なっているらしいことはよく知れている;だがそれが彼女の中で一体「何が」異なっているからなのかは、どうにもその問題について放り出してしまっているのではないか。
 彼女との会話破綻の際に一応の規則性のようなものがあれば、それはその点に集約してもいいと思う;例えば、一と言えば必ず五と返し、五と言えば二七〇と必ず返すようであれば。だがそうではなく、一と言えばチーズケーキを返し、三と言えば昨日は雨だった、を返し、また後日一と言えば五を返しててくるから、何を契機に突如会話が成り立たなくなるのか、大凡検討もつかない。
 しかし更に特異な点は〝普段は会話が成立する〟ということだ。その半ばどこを見ているのか焦点が合わない感じの視線がぼうっとこちらへ向けられ、焦点はあっていなさそうなのにその視線の方へは熱心に意識を向けて言葉を投げてくる様子は、まるで彼女が話している相手が自分ではないのではないかという不安を植えつけてくる;だがよく考えてみればそうした視線の不一致感については、斜視の人と話す時の感覚に似ているという程度のことで(彼女がまっすぐあたいを見ているだろうとき彼女の目は明らかに寄り目になる)、それだけのことなのだ。それにほとんどの時間に限っていえば会話は成立しているからその疑いはいったん取り下げられる。それでも、植えつけられた不安はじわじわと根を這わせるのだろう。
 それ以外の点について、その「ほとんどの時間」において、〝狂〟を感じることはなかった。少なくとも、あたいは。会話は成立しているし、常識を大きく違えるような齟齬は見受けられない。人懐っこさは人一倍で、こちらの話すことにもよく興味を向けてくれる。少々子供らしい忍耐のなさや短絡的な考え、経験不足による勘違いなどは見受けられるが、可愛らしいと形容して差し支えないレベルだ。あたいもちょっと前まではあんな感じだったように思う;今でも悪い意味では、そうだろう。それが特筆して〝狂〟であるということはなかろうし、おしなべて言えば、彼女には本来付き合いやすい要素が多いと思う。
 彼女を狂人たらしめているのが、不意に現れる脈絡のない返答だった。返答にさえ見えないことがあるのは前述の通りだが、言葉を交わすタイミングその点だけで言えば合致している。自分と会話しているように見えて実は別の目に見えない誰かと会話している、などということであれば、タイミングとて合いはしない筈だ。元来彼女は話好きのところがあるらしく、放っておけば色々なものに興味を示してはこちらから問いかけをしなくとも常に何かと口にしている。それが自分ではなく自分の隣にいるが見ることのできない自分以外の何者かに向けた言葉なのだとしたら、それは背筋がひやりとするものだが、なんだかそういう感じもしないのだ。それこそタイミングというのはあたいの返答を待っている、会話の成立を期待したものと考えるのが自然だ。
 だが斜視じみた彼女の視線の不一致感と独り言の多さを恣意的に切り取れば、確かに幾何か近寄り難さは禁じ得ない。そこにぽんと差し出されるのが、〝文脈解析不能な〟言葉である。
 あたいが初めてクロネに逢った時、それはすぐに現れた。あたいと会話をしていた筈なのに、よくわからない返答が現れ、そこから転がるように別の話題を次々に切り出す、やがて彼女の中にだけあるような独特の物言いで何かを表現して言葉を紡ぎ始め、その頃にはあたいとの会話はすっかり難しくなっていた。
 でも、でもだ。
 なんとかその解析不能な言葉を切り取ってこちらから何かを返すと、その言葉を一切無視した言葉ではなく、何か微妙な水準で掬い取ったような言葉がつながる。それはこちらの話を一切聞いていないわけではないことの証明であって、その理解不能を〝狂〟と置換してしまうのは安易だと、思ったのだ。
 円周率を十進数で表現したときの無限桁をπと置換するのは、それが割り切れないと知れているからで(ついこないだまで、あたいはその試算を何度やっても割り切っていたわけだケド……)、連立方程式において未知数一つをxと置くことは「今は」未知であるというだけの話だ。
 なら〝狂〟と安易に置換し不明なものとして扱うなら、あたいらはクロネを「完全に言語では表現不能なもの」と証明するか、あるいは、その解を得るための努力を続けなければならない。これが石ころや何やらどうでもいいものについては永遠に少しの間放っておいてもいいかもしれないが、相手に人格があり有情の者であり言葉まで発するのであれば、それは相手への愚弄であるし、同時に自分への怠惰か、能力欠如の自己申告にほかならない。

 彼女と交流を持つにあたり、クロネの記憶には独特のものがあると感じた。というのは、あたいが初めて彼女とあった時の出来事を、それから随分と経ったある日に「さっき」と表現したのだ。あたいの文法解釈装置は一瞬それを文法の誤りと判断していたが、あとからよくよく考えてみればそれはあの日の出来事のことを言っていたのだと分かった。それが彼女にとっては「さっき」という「時点」であったのは、吸血鬼の寿命が凡そ長いからだといえるのかもしれない。だが同じく吸血鬼であるレミリア・スカーレットやアリス・マーガトロイド(こちらは吸血鬼であることに明確な回答をしない、ことを明言しているが)には、そうした内省的に相対的な時間感覚を、そのように表現することはない。1日は1日でさっきは精々1日以内程度を指すし、そうして会話は概ね成立を続ける。ならばクロネのそれは、なぜなのだろうか。
 彼女の姉が言うには「妹は時系列の概念が記憶から抜けがちなのだ」と謂う。都合よく、というのが何にとって都合のよいものかは不明だが、彼女の記憶の中のあらゆる事物は、彼女にとって都合のいい、現在を中心にした小さな時間枠の中に圧縮されているらしい;しかもその中で順列は入れ替わったり、特に多いのは同時に扱われることだ。吸血鬼の持つ比較的長い時間が、恐らくは数日の間に詰め込まれているとなると、昨日も去年も変わらないのだろう。数週間前の出来事を「さっき」と言ったのは、そういうことらしい。
 脈絡の読めない文法の選択と、圧縮と入れ替えを含む時系列の欠如。それ故に、時に予言者然としていたり逆に痴呆老人に見えたりすることで、卑俗に言い捨てるなら「狂っている」ように見えるのだ。
 あたいは特に算数がだいきらいで、とかく計算間違いを多くする。その「正解」と「不正解」のそれぞれ示す線分のどちらか片方、ここでは「正解」を「まっすぐの」直線分と置き、「不正解」の線分を「まがりくねった」曲線分と置く。線分の長さは同じでも異なっていてもよいが、それぞれを任意に与えられる変数で等分し、その地点ごとに正解の線と不正解の線を糸で接続する。この糸の長さは接続時の状態から長さを変えないものとすると、この糸の長さが「正解」と「不正解」の関係性を指すことになる。与えられた等分用の変数が大きくなればなるほど関係性は密に描画される。その上で、曲がりくねっている方つまり「不正解」の線を、まっすぐに変形させると、二者の関係性を保つ糸の長さは不変であるのだから、不正解の線の変形につられて「正解」の線の形も変形する。そうしようと思った通り不正解の曲線分を直線分に変形できた暁には、関係性を保っている正解の直線分は曲線分へ変形するはずだ。正解と不正解が逆転したように。まあ平たく言えば「無理が通れば道理が引っ込む」という奴だが、どちらが無理でどちらが道理なのかは容易に変形するということを示している。
 この接続される糸の長さが変わらないこと、つまり二者の関係性の固定化が、先に言った「融通の利かない装置」である。お互いの線分が同時に曲線ではあり得るが、お互いに直線とはなり得ない。平行ではない二者において、その両方正解にはなり得ないが、両方不正解にはなり得る。この均衡の破綻は、あたいが周囲との距離感を発見するのに重要な助けを与えてくれた。「双方とも誤りのケースが大多数」という見解はあたいの中では「定理」になっている。そうすることであたいは……この言葉は誤解を生みがちかもしれないが、〝正気を得た〟のだ。彼女にも、それがわかる日が来るだろうか。それとも。
 さてそしてこの融通の聞かない言語獲得装置のおかげで、彼女とあたい(あたいとはすなわち彼女以外のすべての文法)の間に解読不能の情報海溝が口を開けているのだ。
 特学に通うクロネに対して、特に学制における指導側の人間がそういった特性を知らないとは思っていない。ただ、彼女を取り巻く学制生活がそれを肯定的に捉えられているとは、思えなかった。
 せめて、あたいくらいは、彼女の世界の供養であってもいいだろう;それは|英雄症候群的《ヒロイズムの腐ったやつ》などではなく、むしろもっと下層に存在する、どぶさらいのようなものだ。彼女が今立っている(きっと昔からそこに立っている)瀬は、ついこの間まであたいが立っていた岸だから。

 でも、それは彼女の一体何を救うというのだろう。
 世界には英雄なんていないし、誰かが誰かを救うなんてことはない;ただ、自分で気付くしかないんだ。
 彼女から見れば、あたいの方こそが誤謬まみれの|文法《存在》かもしれないのに。







「風見にあってきた」
「えっ?」

 あたいが言うとリグルは目を丸めたまるで―浮気がバレた男のように。リグルが風見を慕い続けていたとしてもそれは浮気じゃ、ないんだけれど。それを言うなら風見の方こそ不倫を重ねる女だっただって、彼は本来、ミスティアの男だから。あたいの言葉の意味をリグルはしばらく察しあぐねているようだったので、リグルに向かってひとつ、アカツメクサの花を放りつけてやった:やっと理解したみたいだ。生前、風見幽香の象徴はヒマワリだった:他の誰でもそう考えるだろう;でもそれじゃなくてアカツメクサを見せるときそれは、あたいら狭い関係性の中でだけ、もう少しだけ特別な意味を持つ。

「お前さ、風見のとこ、顔だしてる?」

 あたいが頷くと、またバツが悪そうに顔を伏せた。なんでだよ。お前が一番顔を出すべきだろう、なんであたいが。

「あんまり」
「だろーな。あの辺りの虫、縛りが緩くて楽そうだった。いいのかよ、そんなんでさ?」
「別に、ボクはまだ王様じゃないから」
「そっちじゃない。墓参りくらい行けばいいだろ。それともその程度の相手だったってことか?」

 ちがう、と絞り出すような声が聞こえたけれどもそれは、あたいに向かってはっきりと投げられた言葉ではなかった?:自信が、ないのか。

「ま、風見とばっかり仲良ししてたわけじゃないもんな、おまえ案外モテるし。いみわかんないけど。ミスティアともルーミアとも、もうヤってんだろ。風見幽香が、いなくなったあともさ」
「あれは、だって……」
「だめだなんて言ってないって。オスの遺伝子は貴重なんだって、残すべきものなんだって、学制でならったしサ」

 あたいより頭のいい人が言ったことをなんびゃくも重ねたようなやつが学制のおべんきょうだもん、別に疑っちゃいない。だからって、誰も彼もがリグルのことを好きになるなんて道理が生まれるわけじゃない。女は、別に男じゃないとパートナにしちゃいけないなんてこともない、この世界には男は少なくて、ほとんどの女は自然と女をパートナに選んでる;むしろ男を好きだなんて女はほとんどいない、わざわざ男を好きになるなんて難儀なばかりなんだって。だってのにあたいの周りには〝ライバル〟が多すぎる、きっとこれはあたいの周りの確率計算がバグってるんだ。ライバル? そんなんじゃない。

「でも、チーは」
「呼び方」
「ぁう」

 異形配偶子による種の存続を支えていた雌雄対称性の崩壊は、もしかしたら神様がこの世を〝やり直そうと〟する原因の一つかもしれなかった。一夫多妻をする動物も、その逆の生物も、そもそも性の概念が無い生き物だってこの世にはあるっていうのに、どうして人間(≠ニンゲン)はそうじゃいけないっていうのだろうか。あたいは、女同士で子供を作れるのならそれでいいと思っているけれど、どうもそれではいけないのらしい。女同士で子供をつくると、親のどちらかのクローンになるのだという。それをどちらかに作り分ける技術も確立されていて、自分の遺伝子を残したいなんて思わないあたいとっては好都合だ。男女で子供を作ると、必ず半分はあたいの血が混じる;あたいのバカの血を残すなんて、寒気がする、そんなことしたくない。でも、そういう〝はんぶんずつ〟をしないと、この世界は多様性を失うのだという。多様性ってなんだろうか。あたいや、リグルや、ルーミアやミスティアみたいにぜんぜん違う奴らが、ハクレイとか綾椿みたいな人間とか風見幽香みたいな余りにも違いすぎる存在が、一緒の空間で同じように一緒に生活していることだろうか。それってどうしたって不公平感と隣り合わせになって逃げられないような、辛い世界のことなんじゃないのか。あたいはいつまで経ってもバカで、頭の良い賢い奴らと永遠に比較されていく。共存が許されるせいで共存が強制されるなんて、行き止まりすぎる。多様性ってなんだ、差別の別名か。主観を多分に含めても構わないのならば、学制ではそんな感じで習った;多様性とか言うのを認めるなら、何も男の……リグルの遺伝子を、あたいが求める必要なんて、ない。必要なんて。

「……いい加減、忘れなくちゃって。思い出に浸ってばっかりでも仕方ないし。こんなことを言ったらローリーにまた頬を張られちゃうのかもしれないけどもう、好き、の形が違うんだ。」
「きいてない」
「え、ひっど。今の流れでそういう反応する?」

 リグルの背が、いつもより高く見えた。せいくらべをしてるわけじゃないけど、リグルは毎日あたいより少しだけ背が高い。でも最近は、〝すこしだけ〟じゃなくなっている気がした。気がして、改めてしっかり確認してみたけれど、やっぱり大した差なんてなかった。
 思い出に浸ってばかりじゃだめ、って、なにさ。おまえのそれは、その程度のものなのかよ。あたいは、生きてる奴相手にまだ、こんなにも、ひきずってるのに。そんな、かんたんなのかよ|

「そういうことを聞いてんじゃない」

 あたいが言うと、リグルは一瞬だけ視線をあたいの方へ向けて、再び逸らした;わかる、言いたいことは。

「聞きたいのは、あたいのこと」
「チルノ、それは、《《違う》》んじゃない?」
「違う、うん、確かに違うかも。でも、お前だって、風見への気持ちを〝ちがう〟って区別して、ミスティアと一緒になってんだろ。ルーミアも食ってさ」
「でも」
「あたいのことは、そんな目では見れないかよ」
「そんなんじゃ、ないけど」
「じゃあ、抱ける?」
「そういう聞き方、なんか、ずるい」
「……男のお前が言うなよ、男の方が、おまえの方が、よっぽどずるい」

 抱けないって、すっぱりと言ってくれればよかったのに。あたいは、抱ける、リグルのこと。好きかどうかなんて脇に置いといても、《《することは、できる》》。

「男と女って、なんで違うんだろ」
「違うから、男と女なんじゃないのかな」
「頓智かよ。なめんなよ、あたいは弱いぞ」
「なんだよそれ……」

 〝ちがう〟って言葉、卑怯だよ。そのたった3文字でもっともっと大きなものを言いくるめて諦めて強制して無視してしまう;そしてその間に、根っこの部分が、腐ってる感じ。わからない、何がわかれば、この感じを〝わかった〟と言ってもいいんだろうか。

「弱虫は、お互い様だったんだろ」

 わかんないけど、わかる;本当に弱虫だったのはリグルではなくって、風見だった;でも、周囲の誰もがそうは見ない:リグル自身を含めて。リグルは、自分が臆病だったせいだったと思ってる;そしてその誤解を真に解く当人は、もういない:なんて馬鹿げた状況だろう。

「そんなだから、風見幽香とよろしくやれなかったんじゃないの?」
「よろしくって」
「いや、ヤることはヤってたか。でも、《《届かなかった》》だろ。なんでそんな〝ばらばら〟で、平気なの? あたいにはわかんない」
「チー」
「風見でうまくいかなかったら、ミスティアで、ルーミアで、やり直しがしたいのか? 代用品なのか? いいよ、あたいも〝贖罪〟に付き合ってあげる。ほら女だぞ。リグルが、欲望して、恐怖する、女だぞ、あたいだって。」
「チー、もう、やめて」
「ふんっ、ママの許しがないと、女ひとり抱けねーのかよ:弱虫、だから風見は――」

 その言葉を口にした瞬間、あたいの背中は床に着いていて、視界には天井ではなくてリグルの顔があった。
 もしかしたら、怒りの色だったかもしれない。
 もしかしたら、こいつがそんなに怒ったの、初めて見たかもしれない。

「やめてって、いってるよね?」

 ばかなあたいには風見の感情もリグルの感情も、それが強いのにどうしてか到達しあわなかった理由も、わからないただ、静かにこう思った:ああ、あたい、いまから、こいつに、だかれるんだ。
 怖い、とは思わないその逆;嬉しいなんて気持ちの悪い感情はない;ただ、ただほっとしていた。

「ヤってみろよ、弱虫」

 そんなに悪態を吐く必要なんてない、照れ隠しだってのが見え見えだっただろう。その証拠にリグルと来たら、押し倒したあたいのひたいにキスを弾いて、覆い被さってきたと思ったら器用にあたいの背中に手を潜り込ませる ;まっしぐらに背中のファスナを探り当てて、驚くくらいの手際でそれを下げ開いてくる。なれてんのかよ。
 チーが、悪いんだからね
 そのよびかた んっ
 今更、変えらんないよ……ずっと、こうだったじゃん
 ずっと
 ずっと? ずっとってなんだよ。あたいだって《《ずっと》》だったよ! 何もわかんない、今よりももっと何も知らないクソガキだったけどさ、いつからそうだったかなんてわからないくらい、《《ずっと》》だった。口に出したことだってあるでも、茶化されて終わった、子供過ぎてちゃんと扱えなかった。それからはそのまんま、魔法瓶みたいに口を閉じてずうっと温存しちゃって、いつの間にか、こんなふうになってて。リグルも、ミスティアも、ルーミアも、風見も、レティも、世界も、それにあたいも。ずっとだった。それがやっと冷めてきたっていうのに。なにが、《《ずっと》》だ!
 ブン殴ってやる代わりに、もう一回、唇を押しつける。舌を入れて、リグルがびっくりする位に激しく舌と唾液を押し込んで、吸い上げた。ん、ん、んっ、ふ、興奮してる。リグル。あたいに。息、あっつい。肌も、あっつい。あたいの肩を掴む手の力が、強く。
 あっ
 痛かった?
 いたくは、ない。
 よかった。
 囁くと言うよりも、吐息成分多めの湿った声を耳の中に注ぎ込んでくる;こいつ、こんな低い声……でるのかよ……。耳から首の後ろを走って背筋を降りていく、正体のわからない振動。電気みたいで熱みたいで、同時に背筋を舌でなぞり舐められているみたい。絡め取られて、全身から力が抜ける。そうして脱力してしまうとすかさずに逃がさないって言うみたいに強く体を床に押しつけられた。床に押し倒して下に向くリグルの圧力に反発するみたいに、その口を追いかけて登るあたい:誘いに乗せられたみたいだ。でも、リグルがあたいを逃がさないって言うのと同じように、あたいだってもうリグルを逃がしてやらない。もうリグルのこと好きなわけじゃないけど、逃がさない抱かれてやる、逃げてやらないセックスされてやる。これは、意趣返し。愛想を尽かされてる相手にセックス許可されてる無様な男に、おまえを仕上げてやる……そういうつもりだったけれど。
 ちゅっ、リグ、ル……もっと、ちゅー、しろ
 ふふ、チー、かわい、いっつもそうなら、いいのに
 かってなこと、いう、なっ……っん
 そんなにあたいも手練た女じゃない。ワンピの背中を開けたってのにリグルの奴、あたいを剥き切らないまま飽きもせずにずっとあたいとキスしてる。夢中になってあたいの口を貪ってる;目をとろんとさせて、あたいとキスに夢中。でもその実、あたいの方から腕を伸ばしてリグルの首根っこに絡みついていたみたいなものだった。ぞく〳〵する、触れられてもいないあそこが、文にされてるときの刺激を自動再生してる。触られてもいないのにまるで触られているみたいに勝手にヒクついて、相手を勘違いしてヨダレを垂らしてる;相手は、文じゃない……リグルだ、そう思うと、理不尽に大きな快感が、腹の底から湧き上がってくる。
 チー、かわいい。
 ……。
 今はもう、その呼び方でもいい、なんて思わされて。
 今更、止められないからね
 誰がやめろっていったんだよ、よわむ……クふゅっっ
 うん
 うん、じゃねーよ。おまえみたいなのがチョーシにのってんの、おまえでなきゃぶん殴りたくなるやつだってのに。あたい胸中なんざお構いなしに肩を掴み、優しく強引に、あたいを床に倒して組み伏せる;文よりも軽い、こどもみたいな(人のこと言えねーけど)体重、圧迫感はないけど心地よい重量感でからだとからだがくっついた。あたいより高い体温、くっつかれるとあっついけど、表面からじゃなくてからだの奥から溶けるみたい。それに顔が近い、キスしてるんだから、当たり前か。
 キスしてんだ、リグルと。
 こいつのことを好きだった頃には出来なくて、夢から醒めかけのこんな時に、してる。あたい、リグルと、キス、セックス。
 濡れる、すごく。好きなわけじゃない、筈、なのに。体が勝手に、昔のキヲクを引っ張り出して、意識と理性とに関わらず、勝手にあの頃の体に戻ろうとする。ばか。やめろ。あそこが熱い、溶ける。ひり〳〵するくらいに敏感になってて、訳わかんない。好きな相手とじゃなくってもセックスで感じられる自分が、ひどく汚らわしい存在に思えた。文としてるときだってこんな気分になったことはない;文に対して、そんな風に深刻に捉えてことがないと、改めて思ってしまった。
 チー?
 ごめん、他の相手のこと考えてた。
 そういうこと、普通言う?
 いいだろ、あたいが、本気でリグルのこと好きだと思ってんの?
 リグルは沈黙した。あたいのあんまりな言葉に何事か言いたげにしているが、リグルはその代わりにあたいの《《あそこ》》を追い詰めることにしたらしい;一本や二本じゃない指が、あたいの股の間のヌメリの淵へ踊り込んできた。
 チーのここ、すごくえっちだ
 は? キモいこといってんじゃ……んんっっっ! や、やめっ
 おちんちんみたい
 ばか、だろ、おまえっ……そんな、とこ
 へんだろ、それ:その言葉はいよいよ口から出ることはなかった;肯定されるかもしれないと思うと怖くなってしまったから。自覚はある、でも、文には言われたことがない;気を使って口にしていないのは明らかで、そんなことはわかってる。胸はちっちゃいし背は伸びないし、世の女みたいにカーブの付いた腰回りにはなれなくて未だにすとんって幼児体型。妖精っていう種族の特徴なのかもしれないけど女らしさなんてない体。なのにリグルに触られてる、ここは、まるでからだじゅうの性欲が集結してるみたいに……おおきい。

「こんな、ちっちゃくてかわいい女の子なのに、ここは男みたい……ボクより立派かも♥」
「うるっ、さい! んなわけないだろっ、っ、っっっふぁ、ぁ……っ♥ そういうキモいこと言われると冷めん゛っ゛♥ あ゛っ♥ あぅっん゛♥ ばか、やめ、やめろっ♥」
「すっごい反応……触り慣れてるんだ? それとも、射命丸さんと?」
「うっさい、〝そういうこと、普通言……〟くひっっっっ♥」

 リグルの言葉をそのまま返してやろうとして、失敗した;ワンピースのスカートの中に潜り込まれて、クリを指コキされて、目の裏に火花が散る。それだけじゃない、リグルは指でシコり立てたあたいの肉勃起に向かって、キスの雨を降らせてくる。ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、とわざと音を立てて、唇で吸い付き啄むようにされると、クリトリスから全身の快感神経にキスされて吸い付かれているみたい、とても逆らえない快感。

「ちょっ……そんな、強く、吸っ……〜〜〜〜〜〜〜〜っっっっ!!♥ ば、か、おいっ……! そんなに、そこ、ばっかり、お前、女をなんだとっ……っ゛っ゛ぉ゛っ゛♥ や゛っ゛、ん゛、リグ、る、イく、いくからぁっ♥」

 リグルの唇は、完全に狙いを定めてあたいのクリを攻め立て続けた。慣れてる、女の、扱いに。悔しいけど思い知らされた。

「お゛っ♥ ん゛♥ んお゛ぉ゛ぉ゛っ゛♥ や゛め゛っろ゛ぉぉ゛っ゛♥ い゛っ……イ゛ってる、から゛ぁっ♥ お゛っ♥ お゛っん゛♥ 反り返った剥きデカクリ、ツブされたらっ……ン゛っ♥ に゛ゃひぃ゛ぃっ♥」

 あ……だめだ、これ……あたい……負け……っ

「ふーっ♥ ふぐぅうっっっ♥♥♥ くりっ、んごぉ゛っ♥ グリ゛扱きっ、リグル、おまっ……ん゛ほぉっっ♥ おまえ、人のクリでふっ、ふぉぉっ♥ 人のクリ使ってチンポオナニー、やめ゛ろぉっ゛♥ ちんこきくらい、自分のぢん゛ぼでじろ゛おぉっ゛♥♥♥ あたいのクリっ、しゃせぇ、しないっ゛♥ そんなに、シコシコっ♥ シコシコ♥ されてもっ、射精しない♥ からぁっ♥」
「チーの女の子おちんちん、きもちいきもちいって震えてるよぉ? もっとしたげる」
「ちんぽじゃ、ねえっっ♥ 男と一緒にんん゛っっ♥ すんなぁっ♥ んおぉっ、おおほぁ゛ぉぉっ゛っっ♥♥♥ ん、ん゛っン゛っヲ゛っっン゛っんあっ、あっ、あっ、あっあっあっあ゛っ……あぁ゛ああああ゛あっっっっっ゛っっ゛っ♥♥♥」
「わわっ……ふふ、射精はできないけど、お潮がいっぱいとんできたよ♪」
「う、うるへっ…………♥ え゛?っ、お、おい゛っ、リグ、おまえ、まだ、す……」
「チーのおちんちん、まだまだ元気じゃん♪」
「ふっふーーーっ、ふうっっ♥ ば、ばか、射精ザルの男のちんぽと一緒にっ♥いっしょに、すんにゃ゛ぁあ゛ぁっっ♥♥♥ クリ、イってるときに、クリ追い討ちぃ゛っ、や゛め゛ろ゛ぉ゛っ゛♥ あたま、あたまトぶぅっ♥♥♥ 射精できないっ♥ クリチンポじゃ射精できないっ♥ 射精できないから何回れ゛も゛、なんかいれも、イきおわんにゃい゛っ♥ やめ゛っ♥ もう、クリ、イきまくってるからっ♥ イッてるクリチン、ツブすのナシっっっ♥ んっぎ、ぎ、ぎぃぁ゛あ゛♥ イき終わんない、そんなにされたら、イきおわん゛に゛ゃ゛い゛っ゛♥♥♥ んぐっ、お゛っ…………♥ お゛っ゛……ぁ゛………………♥」

 触れられていない割れ目がもう一度潮を噴いて、滴ったヌル汁でぐじゅ〳〵になってるのが、自分でもわかる。リグルの指がクリトリスの粘膜に触れる度にその感触にヌメリが尾を引く、これは……あたい自身のえっちな汁だ;この感触は、文としてて、よく知ってる。でも、その相手が文じゃないって考えるだけで、どうしようもなく恥ずかしかった。いや、もしかすると相手が、リグルだからかもしれない。あいつは文とは違う:決定的に違う。だってリグルには。
 ちんぽがある。
 その言葉が頭の中で像を結んだだけで、顎の付け根のところがきゅってなって唾液が溢れてきた。それを飲み込むとぎゅくっ、と生唾を飲み込む恰好。欲情、してる。ちんぽに。
 チー、すごく、えっちだ
 ば……ば、かぁ……♥ あんなに、されたら……ったりめー、だろ♥♥♥
 耳の横から首に滑り込んできてなだらかに肩に流れるような上品な唇愛撫じゃない、真正面から喉笛を食いちぎるみたいな、リグルには全然似合わない荒々しい口づけで顎の下から喉ラインを唇で挟んだりその中の舌で舐め回したり、下品に唾液を垂らしたりしながら、降りていく。なにそれ、すごいエロい;エロいっていうか……屈服してる感じ。顎を引こうとすると、のけぞってろ、と言い放たれるみたいにリグルの唇が喉笛を登ってきて、顎の舌まで舌で舐めあげてあたいの顎を突き上げてくる。あたいは無様に喉と、それに背筋を反り返らせたままのポーズでリグルに肌を委ねさせられている。リグルの、ものに、なってしまったような感じ。ぞく〳〵背筋が疼いて両手はこいつの頭を抱いてしまう。イきまくったクリがまだ外気に震えていて、それを見せつけるみたいに股を開いて腰を揺らしてしまう。リグルの白くてすべ〳〵した肌にクリの先端が触れてまた淫裂がよだれを噴いた。
 り、リグル……
 うん?
 い、い、
 だめだ、それを言っちゃったら、何もかもが嘘になる。それを言ったら、あたいは、耐えられなくなっちゃう。でも……もう、お腹の奥にずんって、欲しくて、我慢が……。
 いれ、て……。
 リグルの胸の中に頭から潜り込むみたいにして、絞り出した。リグルは頭の天辺に口を押し付けてきて、髪の毛ごと頭のあちこちにキスしてくる。そして、あたいの頭を引っこ抜くみたいに顔をあげさせて、真正面から、でも目を合わせないようにほっぺたにほっぺたをくっつけて、耳をに低く囁きこんでくる;もし見つめられたらあたいは、後ろめたさとか罪悪感みたいな、でもそれじゃない説明のできない名前のない感情に潰されて、ここから逃げ出してしまったかもしれない。目を合わせないでくれたリグルに、少しだけ感謝する。ばか。
 いいの?
 それ、聞くなよ、このドンカンすっとこどっこい

「あたいだけあんなにイかせて、本番なしなんて、ゆるさねー……から……」

 あたいはワンピを脱ぎすててリグルの頭の上に放り投げる。むぐ。彼があたいのワンピースをたくしてよけるまでに、あたいはキャミソールも脱いで放る;リグルが視界を取り戻す頃には、あたいは薄っぺらい胸に寸胴のカラダを晒して見せていた。風見幽香に対抗心を持つには、あまりにも貧相なカラダ、でもあたいのせいいっぱい。
 リグルが恥ずかしそうに目を伏した、今までさんざん人のクリをいじめまくってたやつの仕草か、それ? でも都合がいい:あたいはそのままリグルに馬乗る形を強奪して、彼の腰の上に座り込んでやる。

「い、いれるかんな」

 リグルは何も言わずに、あたいの太腿を撫でている。リグル以外の男にやられたら、気持ち悪くて吐きそうになるかもしれないけど、リグルになら……ぞわぞわ焦らすみたいな快感予熱がせり上がってくる。ずるい。その熱に急かされるみたいに、あたいは腰を浮かせてワレメをリグルのペニスの先端にあてがった。男子どもがおかずにしてるエロ本のそれに比べれば、リグルのそれは全然小さい。文の持ってる二人遊び用の張り型の方が全然おっきいでも、それがあたいの意思に関わらずぴく〳〵はねていたり、ローションでもないのにぬらりと光る液体にまみれていたりしてる;本物の存在感を、まじまじ見せつけられてる感じ。
 文とはさんざん二人オナニーをしてるけど、男とちゃんとセックスするの、初めて。それが、今は冷めた初恋の相手だなんて。
 先端をあてがって、ヌル〳〵したワレメ肉をなぞらせるみたいに竿全体を擦る。そんなに大きくないリグルのそれを、さっき何回もイッて柔らかくほぐれたココの肉は、横から包み込むようにひだを這わせる。

「う、わ……すご」
「んっ、これ、も、なんか……えちぃ、な、へへ」

 文とレズることが増えてから、ここは随分柔らかくなった。サイズこそカラダ相応のサイズしかないし毛も薄いままだけれど、ほぐれたそこがリグルのちんちんを横から咥えこんでる絵は、オトナのオンナのそこに負けないって、おもう。その証拠に、リグルの顔。ち、チー……:眉を顰めて切なそうな顔であたいの方を見つめている。なにそのオネダリ顔、男がする顔じゃない、スケベかわいい。でも、きっとあたいも蕩けた顔してるんだろうな、と、思う。鏡がここになくてよかった。
 わかったって、いれてやるから:そういったあたいの声も、震えてたかも。
 
 
「う、あ、あああっ…………♥♥♥」

 びゅっ、びゅっ、と噴き出す振動がお腹の中に響いた。中に注ぎ込まれた液体の感触。それを自覚した瞬間に、へその奥がぎゅるぎゅると蠢く感じがした;吸い付こうとしてる、リグルのそれに……♥ コスる間もなく、挿入の感触だけでリグルは射精していた。あたいの中にしっかりと入ってから漏らしたのはちゃっかりしてる。そのおかげでリグルのザーメンはしっかりあたいの中に注ぎ込まれていた。

「なんだよ、他の女とヤリまくってるくせに、ザコちん、じゃんっ……ん、ふっぅっん゛♥」
(こ、これが……なかにだされる、かんしょ、く……♥)

 膣内射精されて、性感を得ているというよりも、優越感に近いような幸福感に包まれていた。これって、性欲の結実なんだろうか、なんだか、違う気がする。クリをこすったり中を抉ったり、乳首をつまんだりするような、そういう快感からは、薄い膜一枚で隔てられているみたい。イッた後の、息を切らしたまま呆けたようなリグルの赤ら顔を眺めていると、その感情が一層強くなった。もっと、もっと腰を動かす、リグルのペニスを咥えこんだまま。ヌメリがワレメの隙間から押し出される、それはリグルの精液だけじゃない、本気モードに入ったあたいのマン汁も多分に混じっている。
 ぐちゅ、ぐちょ、にちゅ
 柔らかい肉が粘度の高い液体に空気を孕む、汚らしいエロ音をまんこの穴から響かせて、あたいはリグルの〝オス〟を貪る。リグルの硬いままのペニスが、あたいの中を引っ掻き回す。あたいの中でズル剥けた生の裸ちんぽが、あたいの襞肉にこすられてビク〳〵震えている、先端から新しいカウパーを垂らして我慢している。またイきそうなのか、この――

「ビンカンちんちん、また震えてんぞ……♥」
「き、きっつ、いっっ♥ すご……ぃっ♥ おちんちん、搾られっ……んぁ゛っ゛♥ う、うごけ、な……ぁ゛♥」
「あーあーあー、情けない声出してさぁ♥」

 さっき散々イかされたけど今は形勢逆転。かわいいな、おまえ。
 半分演技、でも半分本心のセリフをあたいの中に入り込んできたリグルの耳元に置いてやると、リグルの口とも鼻ともわからないどちらかから漏れ出る桃色に染まった吐息がより一層熱を帯びて、声を混ぜた;まるで色情染まりの女の声。
 射精をようやく我慢しているリグルのペニスが、あたいのお腹の中でびく〳〵とはねている、根本に硬く緊張した塊がはねているのは、その我慢が限界だからだろうとわかった。その根本のこわばりを迎えに行くみたいに腰を動かして、お腹の奥のところでリグルの敏感チンポ粘膜を撫で回して責め立てる。

「|射精《で》そう? ねえ、|射精《で》そう?」
「ま、だ……っ♥ くぅっ、チーの中、きっつくてあっつくてぇ……♥ うごかさ、ないでぇぇっ♥」
「やだ……リグルったら、ほんとに女の子みたい♥ ほら、ほらほらほらっ♥ どうよ、あたいのオスちん処女マンコどーよぉ♥ 男相手は、んっ♥ オスちんちんが入ってくるの、これが初めてっ……リグルが、初めてなんだからなっ……♥」

 リグルのちんぽメス顔が可愛すぎて、いじわるく責めてやりたくなる;あたいは腰を思い切り動かしてリグルのペニスをマンコ扱きしてやる。ぐぼ、ぐちゅ、にちゅ、きちゅっ♥ 大きいわけじゃないリグルのペニス、成熟オンナみたいに柔らか穴になりきってないあたいのマンコが、お互い必死に大人ぶって性をぶつけ合っている。空気を巻き込んだ注挿が音を響かせる、音が快感を呼び起こす。快感が……相手への愛情を錯覚させる。

「ふっ、ん、ふうっぅぅっっン♥ あ、あ゛っン♥ リグル、リグルっ♥ まんこいい? あたいのこどもマンコ♥ レズプレイしかしたことない、未成熟マンコ♥ 実質処女の幼女マンコ、どおだよぉっ?♥」
「ち、ちーっ♥ しゅご、い♥ ぬる〳〵きゅっきゅしてて、奥がザラ〳〵してる♥ さきっちょにザラザラのオマンコ肉壁で吸い付かれたら、だめ♥ だめぇっ♥ ちんちんとけちゃう、強制射精でイきアヘしちゃうっ♥」
「いいぞっ♥ アヘっちゃえよ、リグル♥ あたいのまんこで無様にザーメンお漏らしして、ベロ出しハートヨリ目でチンポアクメ、しちゃえよっ♥」
「チーだって、すっごいだらしない顔、してるくせに♥ ボクのちんちん突っ込まれて、本気汁だだもらしオマンコになって、完全なまんこ顔してるくせにっ♥ はっ、はあっ♥ んっ♥ きもひ、い♥」
「なんらよ、まんこ顔ってぇぇ♥ ぱかじゃないのぉっっ♥ っほっン゛ん♥ んっひぅっっっ♥ チンポづらとまんこ顔で、セックス、せっくすぅっ♥ イけよっhほら、あたいのヌルキツマンコで、ザコチンポ、ぴゅーしちゃえよ♥ ほらぁ、ほらぁっ♥ セックスはぁ、オマンコの一番奥で、ちんちんどっっっぷり|膣内射精《なかだし》するまでが、セックスなんだぞっ♥♥♥」
「射精ちゃう、チーの膣内、キツ〳〵できゅっきゅって搾り取ってくるすぐイッちゃう射精ちゃうっ♥ ん゛んぁっっ♥ そう、そうだよおっ♥ セックスはぁ、おちんちんでしっかりナカイキアクメキメるまでが、おぉん゛っ♥ せ、セックスなんだよぉっ♥♥♥ チーもちゃんと、イッて、ボクで、ボクでオマンコいってっ♥♥♥」

 びゅーっ、びゅるるっっ♥ どっぷ、どっぷんっ♥

「い、イく♥ 射精しながらのヤケクソピストンすっっご♥ あたいの似非処女マンコ、リグルの注精ピストンでふやけるっ♥ 奥のおクチがザーメン窒息で開いちゃうっ♥ イく、絶頂暴れピストンでまんこのナカぐっちゃぐちゃに突き回されて、い、イ……いくぅぅぅぅっっっっっっ♥♥♥♥♥」

 リグルの上に跨ってたはずのあたいはいつの間にか床に倒れ込んでいて、リグルとあたいはふたりとも床に並んで寝転んでお互いの股を押し付けて接合部をめちゃくちゃに震わせてセックス快感を貪るだけのハメ猿になっていた。股の間から響くエロい音、お互いの蕩け顔を見ながら発情ボイスでアクメ欲求を叫びまくりながら、好きでもない……そう、好きでもないはずのリグルに、あたいは抱きついていた。

「しゅき……♥ しゅきぃ、リグル、まだ、好き、好きぃ♥」
「えっ……?」

 突然漏れたあたいの言葉、を、冗談だとか、セックス中の戯言なんて聞き流してくれればよかったのに耳ざとく拾い上げて、驚いたような顔で見る。

「なあ、なあっ、そろそろ、あたいンとこ、こいよぉ 《《風見姉ェ》》はもう、帰ってこないんだぞ……んっ、んっ、ぷぁ……♥」
「幽香さんは、関係、ないよ」
「だったら、いいじゃんか。好き、リグル、すきぃぃ……♥ やっぱりまだ、好きなんらぁ♥」

 びゅっ、びゅびゅっ。
 あたいの奥で、もう一発、リグルが射精した。あたいが〝すき〟なんて嘯いたその瞬間に。でもその注水感触は、さっき膣内に射精されたときみたいな快感はくれなかった。口走ってしまった言葉への後悔が、快感を一気に冷ましている。
 なに……何、言ってんだ、何言ってんだ、あたい;好きなんかじゃないのに、もうそんな時期は終わったのに。風見幽香のものじゃ、リグルがなくったって、今はミスティアが《《そこ》》に座している;ルーミアだってリグルとは相当古い付き合いらしい;あたいなんて、本当は入り込む余地はない。こんなのとっくに氷漬けにして捨てた感情だ。今だって別にそれを惜しむつもりも懐かしむつもりも悔いるつもりもない、もしあるとしたら、そう思い込むことでこの交尾がもっと気持ちよくなるなんて、汚らわしい考えの方。そうに、違いない。
 リグルは、何も言わない。聞かないフリをしているのかもしれない。今更。風見の死を背に置いて、ルーミアやミスティアとやりまくってるくせに。そんなリグルの、優柔不断な優しさが、恨めしい。その恨み言が、口をついて溢れ出した。

「……あたいだけ、おいてけぼりなのかよ」







 好きな訳じゃない、でも、そう言ってしまった。今でも好きなんじゃないかと誰かに責められたなら、否定も言い逃れも出来ないでも、違う;これは好きの残り火だけ。そんな不確かなものに縋ってさえ、セックスできてしまうんだな。
 あたいの脳裏に何故か文の姿がちらついた。あと、あのやかましい声。
 忘れちゃったのかって、いったよね。
 リグルが、トーンを落とした声で、視線をくれずに言う。あたいは答えない;そのだんまりが肯定だって伝わったらしい。
 わすれるわけ、ない。
 そう、だろう。

「……怒った?」
「すこし。ごめん」
「なんでリグルがあやまるのさ」
「え、だって……」
「だからお前ってずるいんだよ。しんじゃえ」

 声が、すこしかすれた;目が泳いで視線はあたいを見ていない。あいつのこと、もういいのかよ:口に出してしまったのはその一言だった。あたいは無意識の内に、股の間にまだリグルがいるような感覚を全身の感覚を総動員してかき集めていた。言わないようにと厳命していた筈なのに、あたいの理性が目を離した隙にあたいの口が、その必死さと裏腹な言葉を言いやがったのだ。言うつもりなんかなかった。それを言ったところで何にもあたいの望んだような結果は導かない:むしろその逆;攻めるつもりなんて本当はもうないのに、責めるような意味にしかならない。
 あたいを抱いていたときのリグルの、全く男の|貌《カオ》;追い詰められた獣みたいだった。獰猛な感情をあたいにぶつけるのを怖がりながら、でもその獣を抑えきれていない。その感情の向いた先があたいなんだと思うと、奪われたようで奪ったみたいな、整合性のない感情があたいを気色のいい恐怖で縛り付けてくる。その感情を飲み下すときにチクリと痛みをくれたのは、一体何だっただろう。風見幽香の存在、そればかりではないような気がする:だとしたら。リグルはあたいを、ほんの少し、そうだ、ちらりと一瞬だけ視線で触れてすぐにそれを弾き飛ばすように逸らすその一瞬だけ、明確にあたいを責めたかもしれなかった。小さくだけど息を整えるのが、わかった;でも「平気」そういった彼はすぐにもう、言葉通りもう平常。いつも優柔不断でふらふらしてるのに、変なところで自制心が強い:こいつのすごいところ。でも、きらいなところ。

「もう、平気だから。」
「平気、って、どっちの意味?」
「え、どっちって」

 あたいが黙っているとリグルは意味を汲み取ったらしい;ああ、とため息のようにつぶやいてからど付け足した:どっちもだよ。そういうと思っていた、そういうやつだと思っている;「あっそ」とだけ付け足したら、リグルはあたいから視線は外して、言葉の照準だけをあたいに定めまま、こぼすみたいに言う。

「でも、記憶は時間とともに遠くに行っちゃうから。悲しいこと、ちがうな、冷たいことだけど、必要なことだと今は思ってるよ。チー、随分心配してくれたもんね。ごめん。」

 リグルは《《整理》》した。感情を、事実を、過去を、未来を、世界を、自分自身を。それを、誰が責められる。あたいなんかただの他人だ、あたいが責められるものじゃない。でも、責めないと、逆に責められてる気分になる。そんな中途半端なくらいならもういっそ、思い切りにあたいを非難し倒してくれた方が、まだ楽だってのに。

「謝ってほしいんじゃねーし」
「そうだね……ありがと」
「感謝してほしくてしたんでもねえよ。おまえのそういう、うまく先回りして相手の気持ちを収めようとするとこ、マジで嫌い」
「そういうつもりはないんだけど」
「癖になってんだよ。そうやれば責められないから」

 そう、そんなんじゃなかった。ありがとうもごめんも、あたいには重い。感謝されたくて、凹んだリグルを気にかけた訳じゃないし、そのことを謝ってほしいなんて、ぜんぜん思ってない。じゃあ、なんで。〝良心〟、〝社会性〟、〝道徳心〟、〝共感〟、〝死者を弔い花を捧げる心の発生〟どれもぴんとこない。

「あたいはさ」

 あたいには、下心があった。唇を噛んで、押し留める。でも、もし万が一、弱ったリグルがあたいのもんになって、風見幽香にそうだったみたいにあたいのことを好きになって、そのあとであたいが死んだら、やっぱりリグルはしこたま泣いて飯を食わずに手首切っても、結局同じように立ち直るんだろうか。〝必要なこと〟なんて言って、忘れるんだろうか。そして、別の女とくっつくんだろうか。しりたくない。そんなことで彼を責め立てたくなる自分が、一番腹が立った。きっと、あたいも、自分が痛くなくなるためにその悲しみを箱に封じるだろう。それがたといガラス製で中をいつでも見られる箱だって、からだから切り離された場所に変わりはない。綺麗事をいくら言っても、忘れて、立ち直る。あたいもきっとそうするんだ、してしまうんだ。そんな事実、しりたくない。風見幽香が気持ちを吐露せず消えたのは、そういう不条理に触りたくなかったからかもしれない。そうだ、風見幽香は、勝ったんだ。自分はそんな心の不条理に触れることなく、ただ、リグルの中には傷跡を残して一人で消えた。大切な人を自分の都合で忘れるなんて、ひどく傲慢な理不尽を放棄して、自分の気持ちを永続化して、不条理だけを相手におっかぶせたのだ。
 勝ちだ、それって。

「やっぱ感謝してほしいしここで土下座してほしい。無限にあたいをありがたがれ」
「ぇえ……」

 ほんとにされたら堪んなかったけど、その後こいつのくちからでてきた言葉が、一層キツかった。

「なんかさぁ、チー、なんか最近、幽香さんに似てきたかも」
「はぁ?」

 この、鈍感ヤロウ……なんで、そういうこと言うかな。心臓が、肋骨を割って出て来そうだった。

「その呼び方やめろって言ってるだろ、雪だるまにするぞ」

 ふふ、ごめんなんてリグルの穏やかな笑い方、でもまるで、あたいを責めてるみたいで。そんなことないのはわかってるのに、誰かが何かがあたいを、不当に責める:誰が? 不当? ああ、いらいらする。ごめんとかありがとうとか、安っぽいんだよ。口先じゃなくて、行動で、見せろ。そんなふうに胸の中で反撃してみったところで、でもこいつが風見幽香のために行動していた事実を、あたいはよく、知っていた;近くで見ていたから。悔しくて、ああ、妬ましいっていうのかなこれ、憎たらしい:やっぱり―。
 あたいは、リグルの背中を蹴っ飛ばして後ろから、さっきみたいにもう一回、体をくっつけた。襟足の柔らかい髪の毛の根本に唇を押し付けて、舌を潜り込ませる。手を、彼の、薄い胸に差し入れた。

「ちょ、チーっ」
「……もういっかい、しろ」

 行動、してみせろ。言葉ごと、気持ちごと、脳みそごと、不安ごと、未来ごと、世界ごと、あたいを、ぜんぶおしつぶしてほしい。でないと、あたいは……。







 リグルと、してしまった。昔好きだった、今はもう好きでもない相手に、現在形で好きと言ってしまった。昔を思い出して今と勘違いした。理性はどこいった。ばかなのか。リグルに誤解される:いや、誤解なのかこれは? はっきりと好きと言ってしまったんだから、誤解もくそもない。あるのはただの嘘だ。嘘。でも、昔はほんとだった。ちがう、今は、今だ。何が〝せーしほしい〟だよ。欲しかったけど。あのときは欲しかったの! 好きだった頃だって、こんな感じの欲しいじゃなかった。だから今のは嘘だ。今はだって欲しくない。でもリグルは誤解するだろうな。いや、誤解なのかこれは? はっきりと好きと言ってしまったんだから、誤解もくそもない。あるのはただの嘘だ。
 今日一日、登校から下校まで、あいつと顔をはち合わせたりせずに済んでよかった:どんな顔をすればいいかわからない。
 あたい、なにやってんの? ばかなの? ばかだったわ。

「おつかれさま」

 上履きを下駄箱に放り込み、代わりに靴を指に引っ掛けて玄関口に放り出したところで、不意に声がかかった。この、透き通ってるのに甘ったるい声。ただ、今のあたいには、氷点下の冷や水だ。

「レティ」

 が、立っていた。支給された紺色ベースのジャンパースカート制服を着ている。すらっと長い手足が、ゆったりとした袖と裾から伸び出して、絵本の中か、あるいは風俗店の中にいるか、そのどちらかの様な倒錯ささえ感じる。ありていに言えば、綺麗だ。
 彼女は「自分の服なんて持ってないから」とほぼ毎日その格好だった。色こそ違えど、昔あたいが着ていた服のデザインとなんだか似ている。見た目が大人びているレティがこんな風に子供っぽい恰好をしていると、あたいと全然違ってテレビに出たり読モをやったりしていても不思議が無いようにさえ見えた。一応同級生なのだが、それはあくまでもこの学制が作る枠組みの中での話、あたいとレティの間には、随分と大きな差がある。それは昔も今も変わっていない様だった。

「今日は放課後の部活、ないの?」

 レティはもう外靴を履いていて玄関の段差にいて、あたいは未だそれを下りてない。あたいには大きな底上げがあるにも拘らず、レティはそれでも膝を曲げていた。あたいより二回りも背の高いレティは、あたいに話しかけるときにはわざとらしく屈んで顔の高さを合わせてくる。ついでに言えば鬱陶しいくらい、あたいの目の中に視線を突っ込んでくる。あたいにはそれが、もうこそばゆいを通り越して居心地が悪いぐらいで、すぐに顔を背けるのだが。
 レティは「あの頃」から遠い時間を経て、精霊の中でも妖精よりも自然の権化に近い権精霊になり、現代ササメユキという|神妖《かみさま》に神化して現れ、そしてグレートシングという化け物の姿で暴れまわったレティは、今は一介の小精霊として学制に収まっている。

「あやは本店に用事があるみたいだから」
「仲、いいのね。お友達、できたんじゃない」
「……どうだか」

 いつも仲がいい、という言葉のイメージに、いつもキーチェーンみたいにぶら下がってくっついてくる、文への後ろめたさ。今日はそれにわをかけてリグルのこともある。ああ、あたいってば一人でいることにこんなにも最適化してしまっていたんだ:人との関係性を重たいと思ってしまうなんて。だのに、本当に一人でいるのは寂しくて、なんてわがままだろう。

「リグルくんは?」
「……相変わらず」
「〝相変わらず〟ね、どういう意味だか?」

 |神妖《かみさま》との戦いを経て、あいつはあいつで、痛い経験をしたのは確かだ。その割には、今はぴんぴんしている――ように見えたいや、見えただけだ。あたいとしてるときだって、あいつは今でも風見の影を探している。

「……どういう意味も何も、ないよ」
「そう」

 そう、と、何事もなさげに返すレティ。稀少種族〝精霊〟、本当は何もかも知ってるんじゃないだろうか、いっそ知っていてその上で何も言わずに許して欲しい:ずっと昔の、あのころみたいに。
 あたいらで|殺した《送った》|神妖《かみさま》ササメユキ。その小さな破片のひとつである今は、その力のどの程度が残っているのか不明だし、また|神妖《かみさま》へ回帰して異変を引き起こさないかも含めて、CIPHERが監視下に置いている。本人は全く気にしてない(マイペースで多少天然なところは、あたいが知っているレティと似ているけれど)みたいだけれど。小精霊らしいふらふらした動きを見せるたびに、監視員が大慌てになっているが、彼女は気付いていないのかもしれないし、気付いてはいても気に留めていないのかもしれない。そのほうがレティらしいといえばレティらしいけれど。
 今は|雪とか冬とか氷とか冷気とか寒さとか《自然と呼ばれるもの》の小さな破片となったレティは、そのその小片さに拘らず、恐らく本当は今でもCIPHERを緊迫させる程の力を持っているのだろう。

「チルノは、なんだか変わったね。この間私の前に現れたときは、ああ、あの頃のままのチルノだ、って思ったのになあ」
「変わってないよ。なにも、変わってない」
「そっか」

 この間、とはきっとグレートシングとしてのことを言っているのだろう。
 レティはあたいのことを「変わった」と言うけれど、それはあたいの方だって同じだ。同じクラスにいれば分るが、頭の出来もまるで違う、氷属性特有の白い肌に容姿も端麗でイイトコのお嬢さんみたいなレティは、あたいが知っているレティと何だかぜんぜん別人みたいだった。
 昔はべったりだったけど、彼女が権精霊になった頃にはもう殆ど顔を合わせることなんかなかった。記憶は「あの頃」から止まっている。流れた月日はあたいとレティの間を埋めていたものを洗いざらい押し流してしまって、氷河が削り取った巨大な溝だけが残っている。どれくらい昔のことだったのかさえをもい出せないけれど、久しぶりに顔を合わせた今では、まるで他人のように感じられる……。
 と思っていたのは、あたいだけだったのかもしれない。
 記憶の中のレティとは似つかない姿の彼女は、「かわったね」なんて言いながらも記憶の中の彼女と変わらない距離感で、あたいの中に土足で押し入ってくる。その無神経なマイペースさも、似ているかもしれない。
 「ママの許しがないと」リグルに言った言葉が跳弾して突き刺さる。あたいの方こそ、〝あのころの〟レティに、ゆるしを請おうとしているじゃないか。
 でも、このレティはおそらく〝あのころの〟レティでは、ない。あたいはゆるしを請えないし、レティだってそんな気はさらさらないだろう。もう別人だ。記憶だけが共有されている、まるで親友に秘密を一から十までばらされた先の、親戚のお姉さん、みたい。

「一緒に帰ろう?」
「え、うん」

 そう思うと、どうしても、よそよそしくなる。
 普通、そうでしょう? あんなに親しかったからと言っても、時間が経てば他人くらいの距離感まで戻ってしまう。だってその間に相手に何があったのか全然わからないし、自分にあった色んな事だって相手には伝わっていないのだから。言外の理解なんてものが失われてしまえば、「過去にそうだった」という実感が逆に距離感を惑わせる。
 自分はこう思っている、それは昔あなたがそうだったから。でも今のあなたがそう思っているのかわからないし、こうやって考えている自分のことだってあなたはもうわからないでしょう?
 普通は、そうでしょう?普通は。
 だからレティ本人なのだ、とは、彼女があたいの中にずかずかと昔の距離感で踏み込んできているのを感じた上でもなお、思えないでいた。

「かえるって、」
「私のおうちは施設だけどね」

 帰る、といってもレティには家があるわけではない。CIPHERの関東分店に戻るのだ。監視下に置かれることと、毎日CIPHERで検査を受け生活の報告を行うこと、これがレティが学制に通うための条件だった。窮屈だし忙しい。あたいなら絶対に御免だが、それでも学制に参加することに、レティは一体何を見出したのだろうか。
 外靴に履き替えて段を下りると、やっぱり背丈が全然違う。レティの背丈は文よりおっきい。本当にモデルさんみたい。ちょっと見上げるくらいだ。ジャンスカ制服の裾の長いスカート部分が、レティほど背が高いと少し揺れるだけでも優雅に見える。あたいが小さい頃は全然こんな感じにはならなかった。
 二人で一緒に校門を出た。そう言えば、こんなことは初めてだったかもしれない。それを除いても、文以外と並んで校門を出ることは、最近になって初めてだったかもしれない。リグルやミスティア、ルーミアとさえ、最近は疎遠だ。友達が出来たか、と聞いて来たレティだったが、それはどうなのかわからない。放課後に遊びに誘ってもらえるということが友達の定義なのなら、そうかも知れない。でも、なんだかその間にある氷河の壁の様なものは、今もどうしても感じてしまう。それは、あたいが自分で作っているものなのか?文はそう言うのを自分の羽で無理やり飛び越えて入ってくる。あたいは、それに甘えているだけだ。あたいの方から文を指して誰かに「友達だよ」というのは、どうしてもおこがましく思えていた。

「レティは」
「うん?」

 こうして二人きりの空間を持つことは、久しぶりだった。口を開いて真っ先に聞きたいことが出来たというのは、あたい自身驚きで、だって他人に興味を持つなんて、それこそレティと久しく会わなかったあの空白期間を経てからはほとんど無かったのだから。興味がないわけじゃない、ただ、口に出せなかった。
 そんなことを気にするなんてばかだと言われるのが怖かった。そんなことも分らないなんてばかだといわれるのが怖かった。小さな違いがあたいにはどうしても大きく見えていることが多くて、それを指さして退かれることも多くて、いつの間にかそういう疑問は自分の中で転がして遊ぶだけの言葉上の玩具になっていたから。

 変えてくれたのは、文かも知れない。

 でも、こればっかりはどうやって聞けばいいのか、どうしてもいい言葉が見つからない。何でいるの、何しに来たの、どうして生きているの、何が目的なの、どう聞いても、いい印象のない聞き方だ。こうして疑問を口の中に遊ばせて結局胃の中に飲み込んで再吸収を待つのは、今まで通りだったかもしれない。

「なあに? なんでもいいから、言ってみて?」

 何でもいいから、言ってみて。
 ひっくり返って雲を指さしていたバカな子供のあたいを膝の上に乗っけたレティが、思ったことをなかなか言葉に直せないでもごもごしていたあたいに、よく言っていた言葉だった。心臓が、窮屈になる。そんなふうに、いきなり、ずるい。

「怒んないで」
「怒んないよ」

 それも昔あったやりとりだ。いつもきまって頭を撫でてくれたが、いい年してそんなのを受ける訳には行かないと、あたいは両足を肩幅に開いて両手でわけのわからん構えを取っていた。

「なに?」
「え、その、……迎撃態勢?」
「?」

 レティが|やっさしい笑顔《この子何言ってんのって顔》を向けてきたので、普通に戻す。でも、頭の上はちょっと、撫でてもらうのを待っていたように、じんと熱を感じていた。

「レティは、どうして、ガッコ来てんの?」

 大分、軸をずらした言葉になった。本当は、さっき頭の中に出て来ては何とか飲み込んだ、どうやったってとげとげしくなる問いを、投げたかったのだ。

「そんなこと?」
「……だよね」

 ああ、斜陽の光が、ひりひりする。まぶしい。
 コミュニケーションというか、会話というか、相手とのやり取りに失敗したなと思った時、あたいはいつも異常なほどに微視的な世界に閉じこもろうとしてしまうみたいだった。本能的に、自分の失敗を考えないようにしているのかもしれない。叱られているときに、やたらとクリアに自分の心臓の音が聞こえたり、みんなから浮いていると感じた時に限ってそれまで全然見えていなかったその子の服装の細かいところが目に入って来たり、走ってすッ転んで惨めな気持ちの時に限って風の音が必要以上に大きく響いて聞こえたり。今も、それだった。
 山際に沈んで断末魔を漏らしている太陽がでろでろ溢している日の光、何時もはただ眩しくて真っ白にハレーションした映像しか感じないそれを、今は波打つように熱を溢しながら赤橙の洪水をばら撒いているように見えた。レティから力をもらって赤外線ピットが復旧したからかもしれない、あたいはそう考えることにした。

「どうしてって言ってもねえ。一応、この辺ではそういう決まりになってるんでしょ? 昔もそうだったじゃない。博麗神社に名前を納めてさ」
「そ、そうだけど」

 なんでレティが学制に参加しているのか? あたいよりお姉さんだから? 元が|神妖《かみさま》だから? あたまがいいから? なんだっていいじゃないか。
 口に出した言葉を全部回収して口の中に押し込んで飲み込み、おなかの中に抱えてしまいたい。
 ああ、夕日、やかましい、さっさと沈んでよ。あたいを、照らさないで。とけるから。

 たびたび|神妖《かみさま》の破壊活動に晒される街並みは、所々が妙に真新しい。この辺はアスファルトが塗り込められたばかりで気持ちがいい平面を見せているが、さっき歩いてきた辺りはコンクリの様にざらついた表面をしていた。その間に存在する埋まらない差を、あたいはなんだかひどく忌々しいものに感じてしまって、決まってその境界を踏まずに跨ぐ様にしていた。その両方に足をかけてしまうことが、すごく……意味が分からないのだけど、すごく、気味の悪いことに感じられてしまって。
 今、レティとあたいの間にあるものは、きっとそういうものだ。いつまでも埋まらない。それを踏み越えようと思った事は無いけれど、ここから眺めるレティの姿は、夕日に溶ける様がとても絵になっている。

 違うんだなって、思う。
 文だって、そっち側だ。

「ああ、落ちかけの西日って、眩し……」

 感情の海溝に沈みかける自分を引き留めるように呟いて、レティに苦笑いでもして見せる。
 レティは、あたいの「どうして学校に来てるのか」の問いに対して、立てた人差し指を顎の下に当てて斜め上を見るような仕草でとぼけてから少しだけ口角を上げ、ちょっと企み色のある顔になって答える。

「監視のためね」
「CIPHERの? 行けって言われたんだっけ?」

 レティにCIPHERの監視が付いているのは、レティが学制に参加したいというからだったはずだ。行けと言われて来ているという話は、聞いた事が無い。

「違うよ」
「え?」
「チルノの、監視。取り戻した力を、変なことに使わないようにね」
「……使わないよ。デバイスなしで下手にデカいのつかったら、ますますみんなからハブられるし」
「うそ。いつも彼女ちゃんを氷漬けにしてるじゃない」
「えっ」

 部室やどこやらでふたりきりになっているときは割と頻繁に大型の力を使用しているのは確かだった。大体、文の足止めとか、ぶん殴るの代わりとか、だけど。
 取り戻したと思った力だけれど、取り戻したのではないのか。レティが源泉になって、ただ「借りているだけ」なのかもしれない。あたいが氷の力を使うと、レティにはそれがわかってしまうのかもしれない。

「それは、そうだけど」

 元々下手に使うつもりなんてそんなにない。そうしてきっとハブが進むだろうから人前で使うのを避けているのも本当だ。でも、文は同じ、まほうつかいだし、平気かと、考えていた。でもそれって、こうして改めて考えれば、文に甘えていることになる。
 レティの言う「変な使い方」とはこういう事?

「文に、甘えちゃってるのか。ハブられんのやだって言いながら、文には平気で見せてるの、確かに変だね。」

 そもそも、レティがあたいに力を取り戻させた(あるいは貸した)その意図は全くわからない。彼女が望まない方法で使うなら、そのツケを求められるのかもしれなかった。氷の力で奪った熱は、必ずどこかに放熱しないといけないのと同じように。

「もう、しないよ。でも、これは何に使えばいいの? 文を氷だるまにするためのものではないとはわかってるけど、なんでレティはあたいに……」

 そう言ってレティの方を見ると、いつもは細ったまま貼り付いてるみたいにに笑顔の目が、真ん丸に開いている。しかもあたいの方を見たまま。え、何その顔。

「おどろいた、図星なの」
「ず、は? え?」
「もう。ほんとに、だめよ、変なことに使っちゃ。本当に彼女ちゃんを氷漬けにしてるなんて思わなかった。文って、あの鴉天狗の子?」

 やられた。
 やられた!

「あーーーーーーーー!?」
「きゃははははは、チルノってば、ニヒルきめて無口に振る舞ってると思ったら、やっぱり何にも変わってないじゃない!」
「彼女じゃない、彼女じゃない! 友達ですらない!」
「いーじゃない、いまさらあ。たった今自分で認め」
「違う、あれは言葉の流れで、~~~~~っ! あああ、もうっっっっ! レティのばか! Dh>J8A、Dh>J8A!」
「いたっ、いたっ^^」

 レティの巧みな誘導尋問()に言わされてしまったけれど、文に対してそういう感情を持っているわけではない、と思う。たまにセックスすることはあっても、お互いに都合のいい相手かくらいにしか思っていないはずだ。文があたいを特別にそばに置くのは、あたいに文くらいしかいないから、その返報性だと思う。
 恋人じゃないのにセックスすれば、セフレなのか、というとその極端な物言いにはどうにも疑問がある。あたいと文はお互いに、お金の代わりに隣の空間を提供しているだけだと思う。隣の空間にいるからたまにはセックスだってするけど、セックスのために隣りにいるわけじゃないし、それは何か特別の関係性を求めてのことでもない。

「彼女じゃ、ないよ。友達でもない」
「……そうなんだ?」
「性欲とか人恋しさとかなんて、人との関係性で生まれるのに、それってどんなになにをしたって自分一人でしか処理できない。喉に指突っ込んだって出てこないし、手首切ったって出てこないし、お腹かっさばいても頭蓋骨に穴開けても、一滴だって出てこないのに、なんでこんなに重いんだろう。」
「そんなこと、したの?」
「してないよ。本に書いてあった」
「そう、よかった」

 リグルは……してたな。《《あんな》》風になっちゃうなんて、怖いと思ってた。今でも怖い。あんな風になってたのに、今はすっかり平気だなんてのも薄情に思えて、だったらずっと《《あんな》》でいるべきだなんて言い出しそうな、自分も怖い。
 あたいの胸中を知ってか知らずか、レティは苦笑い、でも嘲るような様子のない顔で、あたいの顔を見ないまま言う。見ないで欲しかった、ありがたいと、思う。
 文が死んで、あたいはリグルみたいに泣けるだろうか。そんな気が全然しない、薄情なのか。だのに、カラダが欲しいと思うときは……そうではなかった。

「それが『情』ってもんでしょ」
「相手に求めて、何かを強いるのが、情? そんなの変だよ」
「欲情だって情の内よぉ」
「乱暴な言い方だなあ……」

 本に書いてあるやつと違う。学制に参画して機会が増えたのと、文が書いてる新聞がちんぷんかんぷんだったこともあって勧められたというのもあって、最近は本を読むようになっている。昔は催眠術みたいに寝ていたのに、今は何となく読めるものも出てきた。でも、そういう本の中に出てくるやつと、あたいのなかでモヤモヤと粘って、文にまでへばりつこうとするよくわからない塊のことについては、本の中の語り口がどうしてもしっくり来ていなかった。似たようなものは沢山出てくるのに、本の言っていることは全然ピンとこない。

「もっとこう、あったかいものとか、すこしかなしいものとか、はかなくてきれいなものとか、そういうのばっかり。本が間違ってるのかな」
「まあ、そうかも」

 純粋に行為が気持ちがいいから文とそうしているわけでもない。えっちな本みたいにいっそなんにも考えずに気持ちがいいというだけで繋がってと思えたほうが、だいぶ楽だった気がする。
 日にもよるけれど、相手の肉が自分の体の中に入ってくることに、生理的な嫌悪感が湧いて仕方がないときもある。そういうときは我慢するけれど、でも、殆どの場合はその肉の侵入の嫌悪感よりも、肌の接触の安心感や幸福感が上回る。だから、する。隣りにいるときにはどっちかが何も言わずに始めて、相手はそれを無言で受け入れる。お互いにその微妙な損得の成立を察しているから、というだけだ。
 時には肉が入ってきたり、粘膜同士の接触が堪らなく幸せなときもあるけれど、それは相手が文である必要がどの程度あったのかは今となってはよくわからないし、そういうことはお互いに聞かないようにしている、空気みたいなものがある。

「言葉にしかできなくて、言葉にしたって薄っぺらで、いざ行動にしたら臭くて汚くて、なんなのこれって感じ。もし恋人ってのだとしたら、こんな感じじゃないでしょ」

 でも、スイッチが入っちゃうと、その臭さも汚さも情けない姿も頭悪くなってる感じも、全部幸福感にリダイレクトされる。わけわかんない。気持ち悪い。怖い。でもやめられない。他人が自分の皮膚を触ってる感触も、熱くて頭の中がぐるぐるしてしまうのも、最後の浮遊と落下が一緒に来るみたいな感じも、終わったあとは半分くらいの満足感と半分くらいの後ろめたさと。でも、後ろめたさだけ都合よく綺麗に忘れてまた。麻薬みたい。

「どうかな。本とかに出てくるやつは、美辞麗句みたいなところもあるし」
「Buzzy Lake?」
「そういう感情を言葉だけできれいに飾ってるってこと。そうじゃない本もきっとたくさんあると思うけど、たくさん読まないと出会えないかもね」
「たくさん……」

 本を幾らか読むようになった、と言っても、1冊読み終わるのにひどく時間がかかる。文が新聞の原稿を1部し終えるのに、あたいは1/4しか読み終わっていないくらいだ。レティの言う「たくさん」というのがどれくらいなのか、あたいには想像もつかない。でも、読んだなら読んだなりに、少しでも頭はマシになるのかと思っていたのに、どうもそうではないのらしい。ちょっと読むと、もっと読まなきゃいけなくなるとか、麻薬と同じじゃんか。

「……本って、ちょっとだけ読むと、逆にバカになるのか……」
「うーん、そう言われるとそうかも、そうじゃあないんだけど」

 割とショックだ。その途方もない「たくさん」を思い描いて、あたいは脱力する。それはいつなんだ。バカと言われて蔑まれなくなるのは、もしかして永遠に来ないんじゃないか。もしかして一部の妖精では最初から無理なのか。こんななら読まなくったっていいじゃないか。

「ち、ちるの?」
「んや、なんでもない。ちょっと人生に絶望してた」
「あはは、深刻すぎるよ。100円拾ったらラッキー100円拾った、って、受け取った好意なんて、それくらいでいいんじゃない。そのままネコババするのは法に照らせば悪いことだけど、いちいち口うるさく言うことじゃないし、別に自分で警察に届けたっていいわけじゃない。100円無くて困ってる人にあげたっていいし、何か買い物すればお店は潤う。落とし主が現れないまま、拾得物集積場に溜め込まれたまま忘れ去られてしまう傘に比べれば、拾った誰かに使われた方がまだマシって考え方も出来るし」

 レティは笑う。そう言われてしまうとそうなんだけど、拾ってしまったものは100円玉とか石ころとかそういうレベルのものではないと、思う。

「相手の気持は、その辺に落ちてる100円玉とは違うもん。そのくせ、その例えだと一番ダメなのは、拾っちゃったけど使うのが怖くてずっとしまっておくことじゃないか。さっきレティが言った傘みたいにさ。使い方がわかんなくて困ってんの」
「でも拾っちゃうのは、それが100円の価値があるって、わかってるからでしょ? それでいいじゃない。貰っちゃえ貰っちゃえ」
「そんな軽くていいのかなあ」
「バカ正直、っていうのよ、そういうの」
「やっぱバカかぁぁ」

 頭を抱えてしまう。

「それに」
「なに。オーバーキルはやめてよ」
「落ちてる100円玉と違って、持ち主、わかってるんでしょ? 別に、これ拾いました、って包装紙だのリボンだの洗って綺麗にして返すだの新品を返すだのなんて、しなくていいような仲なんでしょ。そのままぽいって返せば」
「だから、そうしてるつもり」
「そのまま返せてる?」
「……知らないよそんなこと」

 レティはざくざく痛いことを言う。でも、言ってほしかったことかもしれない。
 昔から、こんなことをやり取りしていた気がする。あの日雲の上にいた鯨に、実際になったレティは、あたいに何を思っているだろうか。何も変わってないなんて、言われてしまったけど、そのとおり何も変わってないような気もしているし、変わってしまったような自覚もある。それも、変わるべきじゃないところばっかりが変わって、変わるべき部分がそのまま残っているような。

「そもそも、文から、何貰ってんだかが、わかんないんだもん。それに、リグルも、なに考えてんのかわかんない」







 変わったバス停だな、と思う。
 ただバスを待つためだけの設備なのに、結構太いWi-Fiスポットになっている。雨よけのルーフは上等で光触媒のなんたらってやつになっているみたい。椅子は、どうやら廃プラからの再利用で作られたものらしい、誰も聞いていないのに、背もたれの裏側の印字がそんなエコアピールをしてきている。自動打ち水溝が地面に、送風機がルーフに組み込まれていて、バス待ちの間の熱中症対策だとか。いたせりつくせりだが、こんな似非ハイテクにしたって所詮はただのバス停だ。空調の利いた個室ではないし、スマホ用の電源が取れるわけでもない。一体どこに向かう技術の粋なのか、学制の自由研究みたいな感じがする。堅牢で100年持つ、というのがウリらしいけど、バス停が100年持っても仕方がないと思う。

「次のバスは……げ、行ったばかりだね」

 レティが時刻表を覗き込んでは苦い顔をする。

「レティなんでこのバスなの。方向ちがくない?」
「別にこっちでも帰れるよ」

 あたいの家は辺鄙なところにある。リグルと、ルーミアと、ミスティアで肩寄せあってた頃の名残みたいな場所。学区からは正直言って遠いのだけど、あんまり苦には思っていなかった。このバスに乗る学生がほとんどいないからだ。行きも帰りもほとんど一人。たまにいるんだけど、確認できているのは5人かな。いずれも3駅以内で降りる。あたいは随分先まで行くのだけど、だからこそ都合がいい。
 バスは無人運行で、みんなが降りたあとはすっかり一人になる。それが心地よくって、遠くても別に引っ越しなんか考えてなかった。
 今は、バス停には誰もいない。きっと乗っても誰もいないだろう。

「こっちでも帰れるって、古市じゃ土師で乗り換えてUターンじゃん」
「うん。だから、土師まで相手してね」
「相手って何」

 日が沈んで、バス停に備わった冷光灯がぼんやりと辺りを照らしている。世界が紺色に沈んでいくこの感じが、あたいは好きだった。いつもは一人でゆっくりと降りて行く帳の様子を楽しむのだけど、レティがいるからなんとなくそれどころじゃない。邪魔ってわけじゃないけど、だからって別にその間何かをするわけじゃない。持て余してしまう。

「もう文ちゃんは友達判定でいいじゃない。リグルくんは?」
「じゃあ、あや。一人」

 じゃあ、って。椅子に腰を下ろしてつっけんどんに答えるあたいに、レティは苦笑いする。
 あんまりその話、したくない。よくわからないから。よくわからないなんてどうかしてるって、突きつけられている気になるから。
 今更バカにされることそれ自体離れきったことだけど、いちいち相手の蔑み感情に相槌を打たなきゃいけないのが面倒くさい。嫌がるか、否定するか、反抗するか、そのどれかを期待してるんだろう。それ以外を返すと大体の場合余計に面倒くさくなるので、適当に嫌がっているフリをしなければいけない。本当はもういちいち嫌がるほどの感情なんてわかないから、それを無理やり奮起する方がエネルギーを使う。本末転倒というやつだろうか。

「私が甘やかしすぎたのかなあ」
「今のレティはあたいの知ってるレティなのか、判断がつかない。顔全然違うし。何そのさらふわピンク髪。あたいの知ってるレティはボサボサ白髪だよ、もっと太ってたし。学生服着てるなんてなおさら変。それに」

 別に顔でなんか判断はしていないのだけど、そういうのが面倒くさい。

「どういう断絶があったのか、私にもよくわかってないんだ。気がついたら街を雲になって見下ろしててさ。自然を壊すばっかりの人間の生活を見ていたら怒りが湧いてきて、気がついたら雲鯨になって街を凍らせてた。記憶がないときが、精霊だったときなのかな。自然の存在に近づくっていうのは、人間らしい意識とはかけ離れたものだから。」

 補足しておくと、学制にはいろんな種族のやつがいる。学制の外でもそうなんだけど、一番わかりやすい例としてね。で、そこにいるのはみんな「人間」。妖精でも、妖怪でも、トカゲでも虫でも神獣でも顕現でも現象でも。ヒトの形をして一つの社会を築いていてその中にいたら人間。ハクレイを盟主とする集まりがそうした。そうする前の人間を区別するときは「ヒト」とか「ニンゲン」っていう。音で区別がつかないときは「ヒューマン」っていうときもあるけど、今はあんまり区別しないようになってる。レティが言った「人間の生活」の中には、だからもちろん、妖精や現人神やらも入っている。つまり、こうやってあたいが腰を下ろしている椅子を作ったり、こうして照らしている光を作ったり、街を作ったり、学制なんか作ったりしてるすべての文明のことを指している。

「チルノにぶち殺されて、こうして戻ってきたってわけ」
「ひどいい草」

 けらけらと笑うレティ。でも、一瞬だけそんな風に笑った後で直ぐに真面目そうな顔になる、さっきまでのふわふわした暖かい表情でもない。いつも笑っている柔らかな目が、本当はその形が凄く鋭利な形をしてるのだと、そうして貰わないとわからないくらい。あたいは知ってた、まだこんなにちっちゃかったあたいを膝の上にのっけて貰っていた頃のレティも、にこにこと笑って細まってばかりだった糸目が、開かれると氷の刃のように尖っているのを。彼女の中にはそもそも鋭さが宿っているのだろう、その鋭さは慈しみの裏側にある厳しさの表出だ、それこそが精霊の素質だったのかも知れないし、|神妖《かみさま》の素養だったのかも知れない。

「でも、そう、決めてたからね。死んで堪るもんですか」
「……なにが?」

 あたいは、なんだかその理由を解き明かさずにいることが怖くなってしまった、それと同時に、聞くのもまた怖い気がする、レティの冷鋭な眼差しには、あまり長閑な意味がこもっているようには思えなかった。
 何を、決めていたというのだろう。
 トドメを撃ったあたいに、復讐すること?

 生唾を、飲み込んでしまう。その口から紡がれる言葉が、蛇と出るか鬼と出るか、また鯨を呼ぶか。|神妖《かみさま》一柱に対して、人間世界は毎回総力戦を強いられる、そうしなければ今まで生き延びてこられなかった。どこで「こっち」と「あっち」が分かれたのかなんてわかりはしない。でも、あたいは「こっち」側に来てしまった。滅ぼされる側、だろうか。
 でも、レティは、違う。
 まるで学制の中のカーストの様だ。どうしてそうなったのか、分かれた後に何の括りでそうなっているのかは、眺めればわかる。でも、そのときにそれが理由で分かれたその理由は、その瞬間にはわからない。
 レティが「あっち」側であるのと、文がやっぱり「あっち」側であることは、なんだか似ているような気がした。歩み寄ってもらえるなら、口も利けるし手だって繋げる、けどそれは、相手の多大な譲渡の下に出来上がっている仮初めの等位なんじゃないか。
 レティは何故、|神妖《かみさま》の立場を振って、こんなことをしているのだろうか。まほうつかいに討ち果たされたから、というのはどうにも牧歌的な考え方に思える。

 鋭い目で黙したレティに、あたいは居心地の悪さを感じながら次の言葉を待った。待つしか出来なかった、なんで?と積極的に問いただすような強さは、あたいには備わっていない。

「チルノがお嫁に行くまで死なないって」
「はっ?」

 そのクールビューティな面、刺して貫きそうな鋭い眼光、何か逸物を秘めたような雰囲気の後にそういう冗談を言われても、笑うところなのかどうか判断しづらい、とても笑えそうにない。

 と、思っていたのに。

 急にふわりと揺れるような動き、なのに驚くほど素早くあたいに近付いたレティ。もう〝迎撃態勢〟を解いていたあたいは、まるで抵抗できないまま頭から抱き寄せられてしまう。おっきなレティにすっぽり包まれて、

「むぎゅ」

 変な声が出た。
 やわらかい。レティってそういえば文とは、こう、胸回りが、違う。文も小さいというわけじゃないけど、それ以上にあたいがぺったんこだから、こうして「実感」を伴うとその格差を思い知らされる。

「何考えてるの、レティ」
「なんにも」
「さっきの顔はそんなんじゃなかった」

 さっきまでの冷淡そうな表情を、まるで慌ててかき消そうとしているようにも見えたし、二重人格?にも思えた。どっちが本物のレティなのかわからない、きっと両方なんだろうけれど。
 あたいがそう言うと、レティは小さく息をついてから、あたいを通り過ぎて硝子の向こうに見える車窓の風景へと視線を投げた。映っているのは都心をバスでわずか10分でも流せばそうなる、急に戸快感が消えて廃墟や途中で継続を断念したような工事現場、そして物乞いの集落が見える。道ばたで粗末な布地をまとった彼らは、冬の季節にはドラム缶に燃えるモノを何でも放り込んでストーブとして治安の悪そうな雰囲気を作り出すため中央政府からは「駆除」とまで言われて対応されている。満足な生活が出来ていないので冬の寒さでも夏の暑さでも死んでいく。|ササメユキ《レティ》が来たときに真っ先に投資したのも、彼ら浮浪者だ。段ボールの家に住み、排泄物の匂いを漂わせ、しかしそこから動く動力が無いため地べたで暮らす。彼らが破壊活動や汚染をするわけではないが、路地で生活する以上何らかの形跡が残ってしまう。壁の跡、床の跡、匂い、縄張り、いろんなモノだ。そうして作り出される独特の陰鬱としてしかしどこかぴりぴりとした空気は、まるで文明に取り残されたような光景だ。各地に点在する地域の実力者の支配地域や都市中心部以外は、基本的にドコでもこんなモノだ。
 それをもたらしたのは人間の活動に他ならないが、それを加速させたのは、不明破壊活動主体、つまり|神妖《かみさま》の破壊活動だ。いや、|神妖《かみさま》にすればそれもまた人間の行いの鏡像でしか無いと、言うのかも知れない。レティも。
 車窓を流れていく貧民街じみた風景を、レティはどう見ているだろうか。
 自分の本体を殺したあたいを殺す? こんな愚かな尊厳を疑うような光景をみて滅びを新たに決心する? それとも哀れだと思う?
 彼女の氷の微笑の理由はあたいにはわからない。だから、聞いた。あたいを殺すためだとかクラスメイトに意趣返しするとか

「考えないことにしたんだ。この星はこうあるべきとか、人間はこうなはずだとか、そういう大きなモノのこと。考えていたら、こないだみたいなことになっちゃったしね。そんなことが、何の救いにもならないし修正なんかもう、効かないんじゃないかって。だったら、理屈じゃなくて、《《ここ》》んところに正直になろうって。でも、性分なのかな、油断すると直ぐなんか考えちゃう、よくないね」

 そういって、柔らかかったその中央辺りを押さえている。
 油断すると口半開きで何も考えないままになりがちなあたいには全く理解の出来ない感覚だ。あたいにそのはたらく脳細胞を分けておくれよ。

「修正が効かないって、もう、手遅れってこと?」
「状況が、じゃなくって、人心が、かな。それが叶えば間に合うと思うけど、そうしてまで間に合わせても幸せなんて無いと思った。ただ長らえるだけが幸福じゃないのは、ちいさないのちとおなじ」

 レティが言っている意味があたいにはよくわからない。

「だから、チルノには幸せになって貰わないとね~♥」
「せんせー! ほわいとろっくさんのいっているいみがわかりません!!」







 距離、6000:目標に変化なし。水温、水圧、ともに安定しています。戦場には場違いに見えるドレッシーな|水夫《shanghai》が、光の板から目を離さないまま報告の声を散発している。その中央には、殊更装飾的な――そして殊更場違いな――装いのバイザー女;ボリューミィに波打つスカートから覗く細白い脚にアンバランスに分厚い上げ底ローファを乱暴に振り上げて、脚を組み直した。冷光をまとうインターフェイスが重畳されたアームレストに《《でん》》と肘を立て頬杖を突いて斜め見る女、その視線の先には光だけが浮き上がったような広大なディスプレイが展開されている;映し出されているのは海底のワイヤーフレーム画像だ。国土地理院の地図によれば浅いはずの水深が、実観測上は大型の潜水艦が進入できるほどの深さに《《更新されていた》》。出来立てのアイススケートリンクはさもありなん、ある一点だけが不自然に平たい;そしてその平面の上に静止するように浮かんでいる「目標」の輪郭。

「さあ、いい子ね;おとなしくしていて頂戴。」

 バイザの覆わない顔の下半分にはシリコンさえ彷彿とする白く透ける完璧な肌、女性と言うよりは少女と言うのが相応しい柔らかそうな鼻のラインとシロップ漬けのサクランボみたいに甘そうな唇。それが、そのパーツ〳〵からは想像のつかない低い声を発している。男性のそれと言うよりも電子音のよう;幾重にも重なる複数源の声に聞こえるが、その声をよく聞き分解すれば奥底には細く澄んだ少女のそれが折り畳まれているのがわかった。これは《《一人ではないのだ》》。

「痛くしないから」

 都会派のそれでも先端は十分に鋭い;舐め摺る舌の柔らかそうな表面が危なげなくその切っ先を撫でている。上向いた口角:隙間に覗く白と赤:バイザの内側の表情こそ窺い知れぬが、きっとこの口元に違わぬ目をしている。足を組み替え、ディスプレイは頭上高くにあるというのに、下から上へ見下ろすようなあべこべな高慢が、女にまとわりついていた。いや、内奥においてこれは女なのかさえわからない。これは《《一人ではないのだ》》。

―― 蓬莱04艦、あまり接近しては危険です

 人の形の姿が犇めき人の言葉が飛び交っているのに|艦内《ここ》は不自然なほどに|人気《ひとけ》を感じない;その艦内に不意に柔らかく体温のある声が響いた;これは艦内放送ではない、外部からの通信だろう。|水夫《shanghai》のひとりがまるで時代錯誤な発音専用の片耳受話器を掴み、この艦の主の方を見る。間接的に室内に響く音声だが実際にはこの円錐型のオブジェクトから発せられるべき音だ、受話した|水夫《shanghai》はその音源を手にして中央に腰掛けるセーラーバイザ女に視線を向けた;どうするか、の問いである。艦の責任者だろう女は手を伸ばす、それをよこせという意味だ;しかし実際この艦において、そうしたデバイス自体の運搬に、酔狂以外の意味はない。何せ女は望めば手間なくその発生地点を耳元に移行できるのだ、発生源を物理的に移動するのは非効率この上ない;だがこの女は折にそうした非効率を楽しむのだそれは、余裕と言ってもいいかもしれない。女は恐らく何らかの指示を制御系に伝えたに違いない:思考したか、指を振ったか、小さな声で指定したか、瞼の動きで伝えたか。いずれであるのかはわからないが傍目に見れば全くひとりでに、ディスプレイが切り替わった。そして現れた光の板に向かって声を発した;光の板に映し出されたおそらく声の主の表情は、不満と不安を混ぜたちょうど半分の色をしている。

「ごきげんよう。そちらの方から発信とは、随分と呑気なことね?」
―― あなたの艦が剣呑な距離まで近付くからです。目標の危険性はあなたの方が強く警告なさっていたでしょう。
「いかにも。」
―― 目標が反応を示したらどうするんですか。あなたの船団が強固なのは承知していますけれども、それでもそれは人の世のそれにおいて比較したに限った話;|神妖《かみさま》の指先に触れて正気でいられるほど私達はもう強くありません。あなただって下手《《個体数》》を減らしたくはないでしょう。私を先行して死なれたんじゃ、私も寝覚めがよくありません。
「〝《《個体数》》〟。よくご理解頂けている。|私達《私》は今ここにもいるし、京都にもいる。関東にもいるし、諏訪にもいる。私が死んでもすぐに代わりが補充されるだけ、何も変わらない、|人形叢《アリス》とはそういうものよ。」
―― DOSV、それでも私には、割り切れません。
「あなたが割り切ろうが割り切るまいが|私達《私》は既に忄実体なのよ;関係ない、痛くないわ。」

 〝|Distributed Objective Subject Virtualization《分散型客体的主体仮想格》〟は、艦のまんなかでふんぞり返るセーラドレス目隠し女が作り上げた独自の哲学であり、個人用ネットワークであり、実在する形而であり、古くて新しい生物学であり、全員が王で全員が奴隷の王国の名前である。

「あなたのお友達にもいるでしょう、《《これ》》を地でやる奴が。|私達《私》の人形操術の最後の1ピースは彼から学んだものよ、それで|人形叢《アリス》の基本理論は完成した。あとはコストの問題だわ。私の命は課金で買い増しできる、課金で加速できる、課金で強くなれる、課金で〝あなた好みの誰か〟になれる;私の命は、カネになったわ。尤も、カネがなくても死にはしないけどね。」

 彼、とは二人に共通の知り合いらしい。だが、通信の向こう側に聞こえる声にとっての方が、より重きを持つ様だった。

「だから、例えこの体が吹き飛んでも、痛いのは財政支援の名の下にこの国を投機商品にしてる腐った財布だけ。|神妖《あれ》が恐ろしいとわかればわかるほど、今カネを引き上げるわけにはいかない;戦場が日本でなくなれば自分の足元に火がつくかも知れないし飛び火の原因が資金の引き上げと知れればノブリス・オブリージュを問われる八方塞がりだもの。目の眩んだ馬鹿な財布共、最後の一滴まで搾り取ってあげる」
―― 彼はお金じゃありませんそれに、彼はそれでも言います、〝痛い〟って。
「結構。それでも私は痛くない、だから私は彼に比べれば下等で下劣、卑劣で卑小な存在よ、それでいいでしょう。これで仮にあなたの犠牲に私が吹き飛んだとしても、少しは良心の咎めが薄らぐかしら?」
―― そういう問題では――
「安心なさい、私は《《いっこ》》でも、あなた達のエースとやりあえるわよ;見縊らないで貰えるかしら?」
―― 多くの人達はそう言って自惚れ、|神妖《かみさま》に食われていきました。|レミリア・スカーレット《あのひと》が生き延びているのは、強力であると同時に裏腹臆病だからです。
「ハハっ! 吸血鬼に向かって〝臆病〟、言うじゃない!! 臆病と慎重は適切に使い分けるべきね」
―― 慎重とは結局その行動をするのです、臆病はそれをしないかもしれない。そこには、ええ、適切に使い分けるべき違いがありますね。
「成程、面白い哲学ね:メモリーしておくわ。しかし|闇靇《サンダーインザダーク》は折角本土地上でくたばったってのに、ニンゲンどもはサンプルの採取をしなかった。全く無能だわ」
―― |闇龗《サンダーインザダーク》の残体はガンマ線量夥多で手が出せなかったんです。残体組織は約2400秒で不明崩壊し安定的な未知の重金属元素に転移してしまいました、それが半減期だったのだと思われます。今でも残留放射線と未知の重金属汚染で周辺は立入禁止です。
「しらいでか。現代の船ってネットつながるのよ、知ってた?」
―― ……死んでいてもそうなのです、生きている|神妖《かみさま》相手にそんな高いリスクを犯してまで性急に採取する必要があるとは思えません。もし過大な反応を誘発すれば、あなたの艦だけではない被害を招くかもしれないんですよ?
「急がない理由の方がわからないわ。対不明破壊活動主体相手にはいつも瀬戸際の辛勝、その度に少なくないリソースを費やして再生産は全く間に合っていない、不可逆な損耗を幾つも積み重ねてこの国は荒廃の一途よ。英雄の残機はまだあるはずなんて、どんな楽観かしら」
―― 自衛隊も手を拱いてばかりというわけではありません、〝囁〟も、CIPHERの〝まほうつかい〟もいます。忘れないでください、あなたも、その一翼です。
「忘れていないからよ。〝こちらの手を出し尽くせば相手は負けてくれるはず〟なんて甘い考えは身を滅ぼすわ;それこそ臆病ではなく慎重の産物ではなくて? 相手の強さを窃取しないのは、不誠実といっていい。でもそうね、その|未知の重金属《夢のかけら》をかき集めて、人間はまた神様が怒りそうなものを作ってる。」
―― あなたの突出が何かを得るとして、それは神様を怒らせないと?
「さあ」
―― さあ、ってそんな無責任な……
「でも人間って、前に進む以外にできない生き物なのよね;行く先が滅びだとわかっていても進み続ける、なんて不器用。でも、だから愛おしいんじゃない?」
―― 退廃的な思想ですね
「この世界はとうに退廃しているわ。魔法使いや妖怪や妖精や人形が、人間と一緒に戦っているなんて」
―― そう切り出せば、夢のある世界
「殺そうとしているのは、神様よ? これを退廃と言わずして何と言うのよ」
―― 違います。この世界では……神様が人間達を殺そうとしているのです。救いのあるおとぎ話には頬度遠い。
「ええ、そうね。神様もさぞ狼狽してらっしゃることでしょう:人間は救われたくないのか:ってね。」
―― 死にたくなければ生きるしかないのです;それは銃口を向けられた神様だって同じでしょう。
「至言ね」

 目標までの水平距離1000まで接近、目標に変化なし。旋回予定地点に到達。|水夫《shanghai》が|人形叢《アリス》へ伝令する声が差し込まれた。艦長たるドレス女が鋭い犬歯を覗かせながら不似合いな声を発した。|水夫《shanghai》は予定通りのその命令を想定していたらしい、言葉の終わるや否やで進行方向の変更操作を入力し始めていた。

「定常円旋回、オモーカジ」
―― 随分古めかしい言葉を使うんですね
「この言葉は混乱がなくていいわ、祖国の命令語では隣国と解釈が真逆で衝突したことがあるのだもの;私には意味はわからないけれど、きっと〝Je suis un |homme, oh《おも》! |Comme ils《か》 |disent《じ》.〟から来ているのでしょう?」
―― たぶん……ちがうとおもいますよ

 間接照明で照らされた船室は十分に明るいとは言い難い、それはこの船の計器類がすべて光学ディスプレイによって実装されているからだ。とはいえ、この艦の|乗組員《shanghai》は中央演算装置と|物理結線《ハードワイヤード》されており、ディスプレイに表示される一切の情報は接続先から取得できる;それもRAWデータとしてだけでなく、ディスプレイされる画像情報として表現された情報も含めた二系で。それでもディスプレイの可視性を向上させるために環境光を絞ってあるのは雰囲気、のためでしかない;そうであれば、通信の内容がいちいち通信手の耳元あるいは必要な広域空間へ空気の波として放出されるのも本質的に意味のあることではない、それも雰囲気ということなのだろうか。ニンゲンのなし得る技術に、ニンゲンのなし得ない技術をサイバネティクに結合させた「|繰糸から船団へ《Reed2Fleet》」思想は、|人形《Shanghai》と呼ばれる半自律水夫と、蓬莱と呼ばれる情報化艦船の密結合によって、かの王国は実装されている。その王国の真ん中で、女は険しい表情で呟く。

―― こちらでもセンシングを行っています
「了解。それにしても海が《《静かすぎる》》、嫌な雰囲気だわ。」

 人の形を模倣する|不明破壊活動主体《かみさま》は珍しいものではないが、その理由はわかっていない;逆に人型ではない|不明破壊活動主体《かみさま》についても、何故その姿形を取るのかも洋として知れない。|光の板《ホログラフィックディスプレイ》に黒背景と橙色のワイヤーフレームで描かれている|神妖《かみさま》の形は、人がふたり、体を寄せ合う姿のようだった;解像度の至らないワイヤーフレーム描写では定かではないが、浮かび上がる立体輪郭から体型を見る限り、若い……いや幼い女児のそれを彷彿とさせる。だが、手足のバランスが不自然だこれは……まるでふたつのトルソーが、残る二の腕と太腿で絡むような、奇妙な姿勢。リフィギュレートされた|海の毒厄《シンカーロングハイダー》の姿には、|不明破壊活動主体《かみさま》にまつわる印象:死、破壊、終末と非再生、敵、不可抗力の断絶といったものからは少しかけ離れた感情を励起した、それは:哀れみ、同一、親しみと理解、可愛らしさ、接近。同時に、一層に強く刺さり込んでくるものもある:不安、無明、無理解。|人形叢《アリス》はそれを見、惟し、顰めて何かを|脳《メモリ》の隅に追い遣った。
 旋回予定通り、方角よし。観測垂直軸上にスターンを接定、固定求む。電磁DYC起動、通常の30%出力。モメント相殺想定99.8%、よし。|水夫《shanghai》からの報告が飛び交う。|観測子《ドローン》を投入しろ。ドローン、投入します。投入。アルファからエコー、予定数全て投入。稼働よし。既定のコースで目標へ接近中;|観測可能距離まで300《さんまるまる》。
 解像、完了しました。|結像《リフィギュレート》します。

「ふむ」

 ソノブイと|観測子《ドローン》から収集したデータから得られた映像は、より鮮明な|海の毒厄《シンカーロングハイダー》の姿。先のワイヤフレーム映像とは異なりしっかりと面まで描かれており、人工知能による自動菜食が行われている。見た限り、たしかに少女二人が寄り添っている形に見えた。本当に人間の女みたいなツラをしているのね、左に頬杖を突きながら右手の人差指で自らの頬をなぞるセーラー女;映し出されている|海の毒厄《シンカーロングハイダー》の休眠状態の姿に目を細めている。見ているだけで手も出せないなんてもどかしいわ、としかしどこか不敵な表情でそれ見ていた。その一方で、通信の向こうにいる囁とその声の主には、この艦の主の漂わせる余裕とはかけ離れた焦り色が《《耳に》》見えていた。

―― お、大きい……
「え?」

 大きい、と言った通信相手の声。しかし|人形叢《アリス》の目の前のディスプレイに映し出される人型に、縮尺の狂いはないようだった;つまり、見えている限りは人が二人沈んでいる程度のサイズでしかない。|人形叢《アリス》ノードは囁の声色を訝しんで問うた:何が大きいの?

―― 潜水艦? いや、沈没船? 瀬戸内海にこんなものあるわけが……
「囁。そちらには一体何が、見えている」
―― 船影です、そちらでは結像できていないんですか?
「船影だと? こちらではそんなものは」
―― もっと、《《引いて》》みてください
「なんだと?」

 倍率、下げろ:バイザー女が焦りを滲ませた声色で言う。指示に即応する|水夫《shanghai》、映し出される映像がより遠く上空からのそれを再現したものに切り替わった。5つの観測子の検知範囲からあちこち見切れる形で|解像《リフィギュレート》されたのは、アーモンド型をしたたった一つの影;囁からの声はそれを確かに〝沈没船〟と呼んだ。仮にそれを本当に船影だとするのならば、その大きさは尋常ではない;描き出された船影は|人形叢《アリス》の端末たる艦船「蓬莱」の数隻にオーバーラップしていた。〝女の子二人〟と形容されたワイヤフレームの立体は、その極端に小さな領域にフォーカスインした映像に過ぎなかったということだ。

「これが、艦だと、馬鹿げている……! 潜水艦の可能性は」
―― 形状的には、その、播磨に似ていますが、大きさが……
「ハリマ? 《《あの》》播磨のことを言っているの? 実在もせん艦がいきなり現れたらその実が潜水艦だと?」
――あくまでも船影の形の上では、です。それに、ここから探知する限りでは潜水艦の体をなしてもいません。あくまでも海上艦の……
「あゝ、つく〳〵゛馬鹿げている。それが、沈んでいるっていうの? 全艦退避だ、重なるな;界域重複しない距離を取れ。本作戦は目標の掃滅が目的ではない、あくまでも調査が第一よ;攻撃はやむを得ない場合を除いて行わないこと。」

 バイザー女の指示が届いているのかいないのか、艦内では解像フォーカスの変更によって生じた状況の報告と修正の声が飛び交っていた。
 目標の再設定完了。|海の毒厄《シンカーロングハイダー》下部の海底の平坦領域は、当該不明艦船の甲板部と判明。再設定により当初目的に対しStatusError237件、内Fatalが12件;実績を達成できません、|作戦実行手続《プロセス》の変更が必要です。目標が敵対的反応を示した場合、深刻な損害を被る可能性があります;至急距離を確保してください。目標の敵対的行動に備えて結界展開要否採決を要求します。不在艦につき艦体情報の更新不能;情報の通り書籍流通の記述とサイズ倍率、現実艦との比較から想定して設定します……不整合;正確/妥当/整合な艦体情報を入力できません。ソノブイ、|観測子《ドローン》及び囁による緊急センシングの報告を統合した結果、海底形状が2時間前の海底地図と不一致。最速想定004艦、直接接触範囲の離脱まで|240《ふたよんまる》。最遅想定の034艦、|600《ろくまるまる》で離脱予定です。

「なんで今までこのバカでかい図体を見落としていたのよ全く。退避急げ;海上艦が海界に沈んでるなんて手の内はわからないけど、相手がその気になったら蓬莱の一人や二人はやられかねないわ」

 女は非難がましく声を漏らしながらディスプレイの方に顔を向けている。一方の|海の毒厄《シンカーロングハイダー》躯体と思われていた二体一対の人型部位は、その様子を知ってか知らずか、意に介しているのかいないのか、微動だにすることなく4つの目を閉じたまま二人寄り添っている。まるで二人で楽園に沈んでいるようだ;それを見る|人形叢《アリス》ノードの|繰糸指輪《マニュピレイター》の並んだ手指が、アームレストの上で苛立たしげに波打っていた。







「ご苦労だったな。見事な前衛芸術だ」
「見え見えに笑いを堪えるのはやめて。雑な依頼だったから雑に作っただけだよ」

 見え見えな言い訳をすると、堪えるのをやめたレミリア・スカーレットはくくくとかはははと笑い声を上げている。何に笑っているかといえば明らかで、勿論あたいの作った氷像の「前衛」具合だ。一応レミリア・スカーレットの指示通りに馬と獅子と太陽王の立像を作ったつもりだけれど、大きさこそ大体指示通りに収まったが、とかく造形がひどい。ぼろぼろというか、へなへなというか。我ながら才能のなさにものが言えない。
 もう少しマシな言い訳が許されるなら、水から直接この形の氷を形成しようとした製法そのものに問題があったのだ。よく見る様に、でかい氷の塊から形を削り出す方法でやるべきだった。そうすればもう少しは巧くできたはずだ。そうに違いない。そういうことにしておいてよ。

「そうか、では来年はバカな妖精にもわかるようなもう少し易しい説明書をつけるよう司書に言っておく」
「は? 懲りてよ。来年もやる気なの? あたいがいまどれくらい顔から灼熱火炎なのかわかってて言ってる?」
「民衆からの評判は良好だぞ、主に子供からな」
「だれかが涼んだ分の熱回収があたいに回ってきてるんだよ! 恥ずかしくて溶ける!」
「しかも天狗のブン屋が撮りまくっているな、全校ニュースかこれは」
「gyaaaah」

 牙を出して笑うレミリア・スカーレット。立場こそ大きく違えたが既知という点だけに焦点を当てるなら、文よりもずっと長い。リグルやルーミア、ミスティアと、同じくらいの時間かもしれない。接点はほとんどなかったが。でもいつの間にか、背格好はあたいの方が、ほんの僅かばかりだが彼女を追い抜いていた。
 あたいは妖精だが、ヒトよりも歩く速度が遅い。だいぶ遅い方らしく、あたいを追い抜いて消えていった妖精や、人間も、もう何人も知っている。妖精の多くは子供みたいな姿のまま、人間と比べてもさほどは長くない生涯を閉じる。あたいのように、長命で身体的に伸長する妖精は、珍しいのらしい。たぶん、ごはんがちがうからだ。
 レミリア・スカーレットは思う存分笑い終えてから、もはや遅すぎるフォローを入れる。

「いや正直、来賓の半数以上から、こちら側がアピールしたい美術品などはよくわからんという感じも伝わってきていてな。これはそこにぴったりはまっている。結果はオーライだ、結果はな。くく」
「どうせあたいには大広間のご立派な絵の価値はわかりませんよぉだ」
「おや、そうだったか。〝六代目〟の絵もあったのだがな」
「それは、わかったよ。でも絵の価値はわかんない」

 意外だった、というのはある。
 レミリア・スカーレットという人物は、さほど過去を懷しむ人間には思っていなかったからだ。いつも半ば無謀にでも、今と明日を暴れている感じ。この見学会もそうだし、まほうつかいとしての立ち回りも、そうだった。

「価値などないさ、ゲンブツを知ってしまっている以上はな。私にとっても、貴様にとってもそうかもしれんが、あんなものは偶像に過ぎない。」
「じゃあなんで描かせたの?」

 困るような質問だったのかもしれない、いつもはすぱすぱと、必要以上に切り刻んだような返答をするレミリアが、しばらく思巡するように黙ってから返してきた。まずい質問、だったかな。少し、後悔する。

「感傷、だろうな。奴は特別だった。あの絵に関して言えば、私は絵の価値など求めていない、そんなものは誰かが勝手に決めればいいことで、私にとってはアルバムのページを飾る、捨てられずに残すべき写真のようなものだ。契約書がないから、その代わりというところもあるな」
「契約?」
「いや、これは内内の話だ。今頃どこで何をしてるんだかな。自由に空を飛ぶ巫女が、いかに特別だったか」
「特別?」
「翼もないのに自由で変な奴だった。ハクレイの慣例さえ飛び立って、どこまでも自由な、変な奴だ。」

 空を飛ぶことが、そんなにも特別なことなんだろうか。たしかに飛べない人もいるし、飛翔能力を持つ多くの存在も、飛ぶには飛ぼうとする必要があるみたい。霊夢みたいに「飛べるから飛べる」を地で行く奴はそう多くない。これは最近になって、翼ある烏天狗の文と行動することが増えて再認識したことだが。レミリア・スカーレットも何か思うところがあるんだろう。でもそれを知りたいとは思ったが、聞きたいとは思わなかった。どこかに、羨ましさと恐ろしさの渾然した感情があったのだ。まずい質問だったのは、あたい自身にとって、だったみたい。

「ともかく」

 と、レミリア・スカーレットは話題を切り替えることを明示するように声色を変える。察されたのだろうか。

「想像とはだいぶ違うが、こちらとしては上々な結果だ。バイト代は弾むぞ、友達と上等なスイーツでも楽しむがいい」
「その友達ってのがいなくてね、独り占めさせてもらうよ」
「あれは、違うのか」

 視線で文を指して言う。

「友達、ではないかな。多分」

 嘘を言ったつもりはない。でも、それと同じくらいの後ろめたさが、うなじを冷やした。あたいの体には、今はもう数え切れないくらい文が残っている。あたいも、そうしている。毎週ペースで体温と吐息と言葉と視線を重ねて、でも気持ちだけ、行違い続けたままだった。抱き合ってくっつけばあたいの方が体温が低くて、キスして舌を絡めてもあたいの方が息継ぎ早くて、あたいはいつも言葉足らずのバカで、見つめあって先に視線をそらすのはいつもあたい。

「距離が、ね。よくわかんない奴。……あやは友達って言ってはくれているけど、まあ、ご飯食べ行くくらいは、いいかな」

 貴様の稼ぎだ、好きにしろ。と、興味なさげに言い捨てるレミリア・スカーレット。小さくついた溜息に苦笑いの温度が潜んでいる。

――チルノさん、ちょっとこっち来てくださいー、見事な氷像を作者と一緒に撮影しますから!

 呼ぶ声が聞こえる。向こうで飛び跳ねて、あたいを手招きしている文が見えた。あたいが舌を出してそっぽ向いて答えると、やれやれ付き合ってられんな、とレミリア・スカーレットはあからさまな悪態をついて向こうに行ってしまった。
 ん、え、ちょっとまってよ。ここであたい一人残されたら。
 案の定、文は持ち前のすばしっこさで、早くもあたいの横に現れていた。手を、引かれる。あたいのと違ってあったかい手。

「ほら、ちーるーのーさーんー、“ほぼ首なしサモトラケのニック”像とツーショットおねがいしますよー」
「キズを抉るなあああ」







 紅魔館の中を見て回ることなんて、確かにこんな機会でもないと、ないのかもしれない。リグルはよく仕事で回っているみたいだし、ルーミアも出入りしているみたいだけど、あたいはそう言う立場にないから、卑俗に言えば、物珍しさと折角だからという貧乏根性を動機に見学列に混じっていた。もしかしたらレミリアに言えば優先枠で見せてもらえるのかもしれないけど、そんなことまでするほどの強い興味がある訳でもない。
 文は新聞の取材をするということらしく、一緒に行動するのをやめた。彼女は引き留めたが(いつも彼女を、意地悪です、と嘘泣きさせるような口調で)振り切って来た。文はあれで気ぃ遣いで、あたいが一緒に行動していれば、それだけでも仕事を邪魔することになってしまう。それくらいはわかっていた。
 黒歴史の証拠写真を撮られてすっかり弱みを握られてしまった気がするけれど、彼女はまだ取材の全てが終わったいうわけではないのらしい。その素振りが見えた瞬間に、そこを拾ってまた別れた。
 一緒に行動したくない、訳では、ないのだけれど。それ以上に、誰かの重荷にはなりたくない。それは文に限って向けられた特別な感情ではない。

「二班の皆さんはこちらですよぉ?」

 門番が門番をしていないのは珍しいかもしれないけど、もしかしたらそうでもないのかもしれない。門の前以外であの深朱な髪の毛を見るのはそれだけでも随分非日常な感じがするけれど、別にあの人が一生門柱の前から動けない存在、というわけではないだろう。まるで修学旅行の様だ、ぞろぞろと引率の後ろをついて歩く。あっちでは家政婦長までが、引率と説明の係員なんて下僕働きみたいなことをしている。流石に来客対応そのものは手慣れているし、調度や骨董の説明も淀みなく流暢で申し分ない。あたいの混じった一団を引率している門番も、説明そのものはたどたどしく変にフラットだったりするが、意外にも知識は十分にあるようで、例えば広間や階段の踊り場ごとに掛けられている大きな絵の名前や歴史、描かれている人物一人一人のことまできちんと把握しているようだった。
 大体、館の主がの民衆の前に現れて客対応までしているのだ、この見学会が、館にとっては大きなイベントなのだろうことは推して知るべしというところだろう。ただ、その理由は、あたいにはどうでもいいことだった。本当にどうでもいいのか、というとそうではない、好奇心ベースの興味は否定しない。ただそれを知っても面倒なだけなのだろうと、思う。
 なんてことを考えながら、折角骨董調度の歴史と故事、金銭的価値と、呪物としての価値、門番が話してくれている内容も右から左。何かを考えるわけでもなくぼんやりと、でも無我というではない、館内を見学している人達の光景が目に映るのとと同じように頭の中に浮かんでは消える仕方のない文字列を、不真面目に受け流しながらそぞろ歩きをしてしまう。集団の中で雑然とした孤立に包まれながら、視界に入る館内の光景。引率の門番がさすのとは別の絵を見乍らこの絵すごいなとか、皆がぞろぞろと廊下を歩いていく中で一人で天井を見上げながらあのシャンデリアきれいだなとか、骨董品の説明を聞きもせずその骨董品が乗っかってるテーブルの足が猫みたいでかわいいとか、みんな気にせずどかどか踏みつけているこのカーペットはどれくらいおきに洗っているんだろうとか、天井の隅っこのあんなところどうやって掃除するんだろうとか、力持ちの門番が苦労して開けてるこの扉は防犯用でもないのに重すぎだろとか、どんどん仕方のないことに囚われていく。仕方が無い、とは、本当は思っていない、説明されているものや見学者が気にしているものなんかよりも余程、そちらの方が興味を引かれるというだけだ、でもあたい以外の誰もそれを見ていないということは、あたいの興味は仕方のないものなのだろう。それを否定はしない。
 見学会を楽しんでいないわけじゃない、むしろ興奮気味に見ているつもりだが、関心のスイッチが他の人達とズレているか、あるいは館の関係者が見せたいものの重点とあたいが見たいもののポイントがあっていないだけだ。見えるものに詮無き言葉を添えて、自分の中で勝手に誰にも伝わらないような題名をつけて、その映像を時間と一緒に懐にしまうように、ただ一人で観覧している。結構、これでも、楽しんでいるのだ。
 文は余りそうは言わないけれど、言わないだけだろう。人はこういうあたいのズレたところを「バカだ」と、きっと言っているのだ。そんなところを気にしてどうする、もっと見るべきところがあるだろう。と。あたいには「この文脈ではここを見てこう感じるべきだ」という普遍的で妥当性を持ったその結果に辿り付くことが、うまく出来ない。人とは違うんだ、とやんわりと溝を穿ってくる奴もいるしそれは否定しない。だけどそういう奴に限って「こいつ意味不明」と片付け、理解の一方通行を掲げるのだ。でも本当はそうじゃない。あたいから見たってお前たちの事は意味不明なんだ、一方通行だなんてとんてもない、そこは通行止めだ。勘違いも甚だしい。

「あれ、引率の先生が、いないぞ」

 実は今まで何度もそうなっていたのだが、何度かの危機をすれすれで回避していた。だが遂に、それは起こるべくして起こった。曲がり角に意識をやっても、後ろに持前にも、いつの間にか門番の姿も他の見学者の姿も、見えなくなっていた。話声の残響や体温の残留も、すっかり失われている。来た道を覗いても、目の前に続く道には分岐がいくつも見えていた。すっかり取り残されている。

「うえ……」

 まさか本当に修学旅行、しかも集団行動を乱して迷子になって取り残される奴になろうとは。なんだか情けない。
 これが博麗神社の(部外者でも立ち入りが可能な)境内であるとか、リグル達と一緒の縄張りの中とかであれば大したことではない、勝手知ったる領域である。だがここは、モンスターが出現しないことと、宝物を勝手に持って帰るわけにはいかないこと以外は、ダンジョンの中と何ら変わらないじゃないか。

(うーん。来た道を戻るか、先に進むか)

 どっちにしても道はわかんない。そぞろ歩きも過ぎれば、来た道など覚えている筈もない。最悪、動かずここで待っていたら誰か来るかもしれないが、まあそこまでの危機感はない。先に進んで行けばそれなりに関係者に鉢合わすだろう。山で遭難したら下るよりも登れというし、正しいことなのかは知らないけど。幾ら大きな館であっても、先に進めば異次元に続いているとかラスボスがいて逃げられない戦闘を強いられるとか、そう言うことは、ないだろう。多分。精々不意に厨房とかに入ってしまって「ここでなにしてるんですか」とか言われるのが関の山だ。見たら生きて帰れないような施設は……紅魔館ならあるかもしれないけど。

「なんとかなるだろ」

 ここは楽観すべきところだと自分に無理に言い聞かせて、あたいは今まで通り興味の赴くままに中を見て歩きながら、適当に奥へ進んで行くことにした。







「こんにちは!」
「こ、こんちわ」

 マナ燭台に灯った光は、今はただの化石燃料の燃焼光。点々と螺旋に巻く階段を、そのおぼつかなげな光が辛うじて輪郭を彫り出している。薄ぼんやりと揺らぐ灯以外に明かりのないひんやりと尖った空気を湛える地下室、その絵にはおよそ似つかわしくない黄色い声が、響いた。
 ここは、螺旋階段の道の行き止まりか。いや、奥には部屋が一つだけあって、ここはその部屋の前に広がった小さな踊り場。言いたくはないが、ここは、牢屋のようにも見えた。奥に見える部屋が独房ならば、さしずめここは牢番の間。不似合に明るいその声は、この牢番の間で響いていた。

「あなた、だあれ? おねえさまのお友達? それとも咲夜のお友達?」
「チルノだよ」
「ちるちゃんの、お友達?」
(そうくるか)

 なりを見るに、レミリア・スカーレットと似ている気がする。顔立ちの彫りの深さとか肌の色とか、特に目元。だがそれ以上にどうにも見覚えがある。これは、学制内で見た記憶が……。

「チルノはあたいの名前。」

 文との関係が、友達、なのかどうかはよくわからない。リグルやルーミア、ミスティアとの関係は兄弟みたいなもので、友達なんて言うには性質が違いすぎる。
 ここは紅魔館の見学コースから外れている。こんな地下牢の様な場所があるなんて、確かにわざわざ公開することでもないかもしれない。見たところ、使用人や下僕という感じではない。他にこの館に上流の人物がいるなんて聞いた事はないし。
 彼女の顔をまじまじと見る。見れば見る程見たことがある気がする。学制内かな。

「うーんと、どっかで、会ったことある?」

 私がそう言うと、彼女ははっとした顔をしてから、少しばつが悪そうにして、小さく答えた。

「が、ガッコ、かな」
「あー、やっぱ学制かあ」
「私、マルクローネ・ギュールズっていうの」

 マルクローネ・ギュールズ? やっぱり名前では認識していないなあ。

「どこのクラス? 種族、は、ここのメイドさんなら妖精か。じゃあ会ってても不思議じゃないのにな」
「特学だよ。私、『こわれてる』んだって。せんせいがゆってた」
「あ、そ、そうなんだ。いや、レミリアに似てるなーって思ったから、もしかしてフランドール・スカーレットかなって思ったんだけど」

 フランドール・スカーレット、という言葉を聞いて、マルクローネと名乗った彼女は肩をすくませて小さくなる。

「うん?」

 見た目はあたいと大して変わらない感じだけど、あたいよりも随分子供のような仕草をする。特学ってことはそう言う感じの子もいるかもしれないが、とかく、明らかに何かに狼狽えている。

「え、実は、フランドール・スカーレット?」
「ち、ちがうよ! マルクローネ・ギュールズなの! クロネってよばれてるんだよ!」

 思い切って聞いてみると、すごい剣幕で否定された。肯定しているようなものだ。多分そうなんだろう。なんで偽名を使っているのだろうか。
 確かにフランドール・スカーレットは有名人だ、まほうつかいのエースアタッカーの片割れ。学徒では知らない人間の方が少ないだろう。ただ、姿を見たことがある人間は、少ないかもしれなかった。神送りの場以外では、姿を現さないのだ。彼女のことは本当に紅魔館の中にいるのかさえ、今は知られていない。そう言うことをちゃんと知っているのは、博麗とか守矢とかくらいだろう。神送りには何度か参加しているあたいも、こうして顔が分かるくらいの距離で見るのは、初めてだ。それに紅魔姉妹が出るシーンでは、大勢死ぬ。だからなおのこと、彼女たちの姿を知っている者は少ないのだ。あたいは姉の方を昔の好で知っているに過ぎない。
 この距離で見ると、顔の作り自体は姉とそっくり、西洋の人形みたいな顔をしている。姉に比べれば随分と落ち着くのなさそうな表情が勝っているが。
 それにしても何で偽名なんか。
 あたいがちょっと困ったように黙ってしまったものだから、もうバレたと、隠せないと思ったのだろう。

「……内緒にして」
「え、名前?」

 こくこくと壊れた玩具みたいに頷くフラン。いや、えっと、クロネ?
 名前を変えて投稿している理由が、気にならなくもない。有名人だから面倒くさいと思ったのか、それとも特学という立場を紅魔館に持ち込むのが嫌だというレミリアの意向だろうか。もしレミリアがそうしろと言っているのなら、正直幻滅だ。
 でも、その理由を聞こうとは思わなかった。バラしたくないから偽名でいるんだろうし、バラしたくないなりの理由があるんだろう。

「わかったよ。安心して、あたい、友達いないから。ばらす相手とかいないし」
「……友達いないの?」
「ああいないよ。悪かったね、大きなお世話。でも安心でしょ?」
「じゃあ私とチルノちゃんは、友達いないフレンズだね!」
「ふれ……?」

 なんだこれ。

「ええと、あたいは、レミリア・スカーレットの……知り合いってところかな。友達って程じゃない。フランドール・スカーレットの「しりあい」なのなら、まほうつかいの事はしってるだろ? あたいはそれだよ」
「そっか、まほうつかいかあ」

 マルクローネ・ギュールズと名乗るエースアタッカーは、流石にいきなり身バレしたことに戸惑いつつも、それでも元々引っ込み思案という感じではないのだろう、むしろ人懐っこい様子だ、同じくらいの年のあたいがこんなところに紛れてきたことを幾らか喜んでいるみたいだ。

「今日は上で何かあるの? とっても賑やかだけれど」

 上? 紅魔館の見学会は仮にも紅魔館を上げてのイベントだったはずだけど、知らされていないのだろうか。

「まあ、今日は客がいっぱい来てるよ。あたいもそれで来……」

 と、会話をしているつもりだったのに、それをぶった切るようにフランドール・スカーレットもとい、マルクローネ・ギュールズは、スタスタと歩いて行ってしまう。あたいが入ってきた階段の方、まるであたいなんかここにいないみたいにまっしぐらに。上で行われている行事がそんなに気になるのだろうか。気になっても確かに仕方のないことではあるが。

「……たんだけ、ど」
「咲夜、めーりんー、ケーキ紅茶、ソーサー、魔法!」

 その二人の名前は知っている、上で今日は案内係になっていた家政婦長と門番だ。その名前を呼びながら階段を登ろうとする。名前を口にしてはいるのだが、なにか違和感がある。

「今日は赤いお洋服、パチェがそうしなさいって。おねえさまはお出かけ、あした。紅魔館の屋根がね、竹とんぼくるくるとんでって、落ちるの。ひゅーん、ひゅーん、花火! 赤白黄色緑青ひらひらちょうちょ! めーりんー?」
「え、っと?」

 名前を「呼んで」いるのではない、その口調はただ「言って」いるのだ。突然全く脈絡のない単語が溢れ出てきて、あたいにはどうにも対処がわからず、困ってしまう。

「チルノちゃんがきたの!」
「お、おう。あたい、迷子なんだけどさ」

 すると、登るつもりだったように見えた階段を、今度は降りてきた。

「雨の日は外に出るのが嫌なの。お月様より、もっともっと針だからね。お日様とお月様はお友達だけど、喧嘩したのは私の計画なの! おててつないで地球をジャイアントスイングだよ! それで雨がね」
「えー、と雨は、嫌だよな。ところであたいは戻りたいんだけど、この階段を登ったほうが早いのかな、それともこのまま通り抜けられる?」
「ちがうよ! 雨粒はエーテルなの。食べたらきっと美味しいの飴玉ドロップス。私は拒絶反応しちゃうから出来損ないの吸血鬼で、でも頑張って生きてるんだよ?」
「お、おぅ、でも、出来損ないってことはない。」

 脈絡を拾うことが出来ない、登場する単語に反応するしか出来なくて、何のことだかわからない言葉に無理に自分の足りない理解で意味を与えてちぐはぐな地図にするしかなかった。出来損ない、という言葉に何か彼女の声の抑揚を感じたので、ついそれをピックアップしてしまったけれど、まほうつかいのエースで皆の期待の星だ、出来損ないってことはないだろう。それに、あたいは、誰かに対して出来損ないだとか、劣等だとか、言うのが死ぬほど嫌だった。だってそれは、昔自分が(いや、今でも)言われていることだから。
 フランドール……いや、マルクローネは特学にいるといっていた。つまり、そういう子なのだ。別にそれをどう思うわけではないけど、そういう性質の子なのだと整理はしなければならないだろうか。
 あたいは、と言えば、自覚的に言えば、もう一歩立ち位置が違えば、同じように特学行きだったかもしれないオツムだった。何の影響か、もしかしたらレティのせい? 今は、幸か不幸普通コースにいる。でも「ぎりぎり普通学級」みたいな酷く自尊心を傷つけられる呼び方は、しばしばだった。

「ケーキたべる?」
「え?」
「今日はおやつ、ケーキなんだよ。チルノちゃんも一緒に食べよ?」

 そう言ってあたいの手を引いた。会話の飛び方が半端ない。たった今無理に回してあたいの頭の中で消費された糖分を、どこで補填すればいいんだよう。脈絡のなさは文の比じゃない。頭の回転が全然おっつかないまま、マルクローネ・ギュールズに手を引かれる。

「そっか、じゃあおねえさま忙しいんだ。でも、チルノちゃんはなんでこんなところ来たの? 他の人は誰もここに来てないよ? ケーキ食べに来たの?」
「え、あ、ああ、なんでって言われてもなあ。迷子、かな。」
「迷子お? そこの階段上に上がってけば……ああ、でも階段までああいってこおいって……チルノちゃん、よくここに来れたね! いらっしゃい!」
「何か知らんが歓迎された」
「訂正。普通こんなところ来ないと思うけどなあ」

 やっと、会話が戻ってきた。さっき突然話のやり取りが困難になったが、またなんとか成立するようになった。
 あたいは、たびたび人の会話についていけなくなることがある。特に文みたいな、思考も身体もあっちこっち飛び回っているような奴相手には尚更そうだけど、さっきのはまるで、あたいとは別に誰かもう一人と会話でもしているのかと思うほどだった。勿論、誰かがいるとしたって会話は成立しているようには見えなかったが、彼女の目には、不思議なものが映っているのかもしれない。
 グレートシング(今はその破片としてレティがいるけれど)から氷結の力を再授受されて、そうした「ふしぎなもの」については昔みたいにすんなり受け入れられるようになっていた。彼女も、きっとそういう子なのだ。
 あたいは「ばか」っていうもっと酷い、死んでも治らない障害なのらしいし、実際に氷を作るなんて変なことも、今は出来てしまうのだから。

「普通こんなところ来ないと思うけどなあ。チルノちゃん、もしかして迷子?」
「多分そうだね、もう何回かそう言ってるけど。そんな迷子がこんなところに来るのも、今日は特別。今日は色んな人が来てるし、たまにはこんなところに来る変な奴もいるってことで」

 彼女に手を引かれて入ったその部屋は、外の空間を見る感じは牢獄だというのに、その扉が開かれたままの部屋の中は全く様子を違えていた。階段を下ってこの部屋に至るまでの冷え冷えとした石造りから打って変わり、その奥の部屋の中には上の階のように煌びやかに整った調度と美術品が並べられている。

「ここは、あなたの部屋?」
「やだよ、チルノちゃん。私達、友達いないフレンズでしょお? あなたなんて素っ気ない呼び方やめて。もっとぷりってぃーに、クロネ、って呼んでよ!」
「ぷり……ってぃー」

 その言葉は確かに目の前の人物には相応しい言葉かもしれない。レミリア・スカーレットは、神送りの場やさっき上の階で見たように、あたいが目にするときはいつも正装している。そのせいで隠れているが、見た目そのものはあたいと大して変わらない程度の子供のような外見なのだ。正装であることと立場相応の振る舞いを除けばレミリア・スカーレットとてきっとこのような容姿なのだろう、目の前のマルクローネ・ギュールズ、もといフランドール・スカーレットは、つまりそうした姉のいかめしい印象をすべて取っ払った上で更に幼さを強調するような出で立ちで、今目の前にいるのだ。

「さん、はい」
「は?」
「呼び直しだよ。さんはい」
「フラ、ま、マルクローネ……さん」
「ええ!? さんとかいらないから! 言ったとおりに呼んで、私はクロネ、だよ! 〝よろしくね、チルノちゃん〟」
「よ、よろしくね、クロネ」

 あたいがそう言うと、数拍もう一言を待つような間があったが、それは諦めたみたいな顔をして腰に手を当てる。

「やったあ! 今日からお友達だね、友達いないフレンズ!」
「こ、こうえいだなあ」
「あ、ケーキなかったね! ビスケットあげる!」

 差し出されたのはドロップスだった。ありがとう、とだけ言って受け取っておいた。突っ込んだら負けな気がして。
 文も変な奴だが、もっと変な奴に出会ってしまった。紅魔姉妹の妹御がこんな人となりとは思わなかった、別に幻滅したとかいうつもりはない。ただただ意外、もっとこう、レミリアと似たような人となりを想像してたから。
 それに、彼女が言うにあたいとは、フレンズ、つまり、友達、なのらしい。

(会ったばかりなのに。なんか、くすぐったい)
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閉鎖までにこの話を完結することはできないと思います。
みこう悠長
コメント




1.性欲を持て余す程度の能力削除
色々と不明な点が多い……まだ連載も序盤だから仕方ないのかしら。チルノがエロさ極まっていることはとてもよくわかります。何人と関係を持つことになるでしょうか。
相変わらずこの世界でも神妖はとてつもない脅威のようですが、それ以外にもレティが一体どうなっているのか、この紅魔館は色々大丈夫なのかどうかなど、きな臭い要素がいくつもありそうです。
無邪気可愛いフランちゃんは癒し……今のところは。クロネとチルノ、二人の出会いから何がどうなっていくのか、今後も楽しみです。
2.性欲を持て余す程度の能力削除
みこうさんの作品はいかにも小説らしい小説という感じで内容も濃くハズレなしで夜伽の中でも常に存在感を放っていました。個性的でありながらも恋愛小説としてのリアリティ・普遍性というか王道性も包含しているように感じます。隠れファンも多いと思います(笑)夜伽で拝読できなくなるのは非常に残念ですが気が向かれましたらpixivや、あるかわかりませんが後継サイトなど他のWEBサイトで作品の発表を継続していただけましたらいち読者としてとても嬉しいです。閉鎖と聞き邪道ですが先に取り急ぎコメントを…ゆえに抽象的なコメントになってしまい申し訳ありません。みこうさんの作品はボリュームがあるだけでなくとても論理的でありながら情熱的で批評にとても苦労します。後ほどまたじっくり読ませていただきます。