真・東方夜伽話

Off the chain.

2020/04/05 21:48:03
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Off the chain.

SYSTEMA


 もうそろそろ世界が終わるらしい。腹立たしいことにきっと、本当のことだろう。
だってレミィが春の始まりでも告げるみたいに楽しそうにそう話したから。



 この世に気が利いた地下室があるかどうか分からないけれど、少なくともここはそうじゃない。
香りだけで心が静まるような紅茶も、いつまでも聴いていられる音楽も、吸い込まれそうになる雄大な景観も私の心の中にしか存在しない。ここは煉瓦の隙間の砂を隙間風が削っていくというミクロな変化を心ゆくまで存分に楽しめ、そういわんばかりの退屈な場所だ。
そんな墓石の下のような薄暗い地下室でできる暇つぶしはおおかたの人が思うように多くはない。
天井に並ぶむき出しの煉瓦を数えたり、室内の空気の淀みを感じたり、地下牢に閉じ込められた物語の主人公の気分を味わうことなどなど。それから泣き叫ぶことも一つの選択肢だろうけれど持病の喘息が悪化しそうだからそれはしない。
そもそも泣き叫んだって誰も来ないだろうから。
 何も考えないでいると暗闇と自分の体の輪郭が溶けてしまいそうになるから、極めて退屈だとは分かりながらも言葉遊びを続けることにしている。日々の寝起きのまどろむ意識の中で最初に感じるのが右手につながれた鎖のずっしりとした重さだから、鎖について考えている。
Chain smoker
煙管を喫んでいた知人は空腹を煙でごまかしていた。彼の顔の輪郭さえ曖昧だけど、そそのかされて喫んだ煙管で思い切り咳き込んだとき、彼が申し訳なさそうに謝罪したことを思い出す。どうしてだか、声だけ覚えている人というのもこの世には存在する。
Food chain
 私がこの地下室で存在を忘れられたままならばネズミの食物連鎖に入ることになるだろう。
Chain gang
 鎖で繋がれた囚人の列は、第二次大戦の時によく見たものだった。彼らを空から見下ろした時、彼らの顔がこちらを向いていた。天使か何かかと勘違いした捕虜達は私に助けを求めていたように思う。
戦争後の彼らの行方は分からない。
Off the chain
チェーンを外す? Off the chainという言葉の意味が思い出せなくなってしまったことに僅かに苛立ちを覚える。このまま苛立ち続けて発狂するなんていう薄暗い未来が見えてくる。
 そしてそのまま世界の終わりが訪れる。

「世界の終わりがやってくる」というレミィの言葉に従うなら鎖に繋がれて心の準備も懺悔も何も出来ないまますべてに乗り遅れた状態で終末を迎えるなんてとんでもないと思う。
 本当なら今頃はこんな窒息しそうな地下室じゃなく、空気も景色もサービスも良い外の世界にいるはずだったのに。

「魔理沙との旅行だったのに」

もう付き合って一年になる魔理沙と記念と外の世界へ旅立っているはずだった。バッグに詰めた着替えも歯ブラシも何もかもが玄関あたりでそのままになっているだろう

「パチュリーが一緒にいてくれなきゃだめだ」

 そんな魔理沙が声をかけてくれたとき、本当に嬉しかった。世界なんて広くないと興味を失いかけていた私に世界の広さを教えてくれた。凍りかかっていた心に炎を灯してくれた。まだ私に血が通っていて饗宴のように世界の片割れを求めるべきなのだと教えてくれた。そんな魔理沙との旅行の出発時間はとうに過ぎているだろう。そのうちあきれて探しにでも来るかなと期待していたのに。それは閉じ込めて世界の終わりを喧伝するレミィがきっと邪魔をしているに違いない。人の恋路を邪魔するものは馬にでも蹴られて死んでしまえ。世界の終わりを馬の蹄で食らえばいいのに。湧き上がる怒りにまかせて手の鎖を引っ張ろうとして姿勢を崩してベッドに倒れ込んだ。

「なんであの子ったら鎖に本気を出すのよ……」

 ありったけの魔法を打ち込んだ特別の鎖らしく何をしても切れる気配はない。魔力に関しては実際にあの子は私よりも秀でているところがあるし、磨けばそれなりに良くなるのだろうけれど。

「これは……ねぇ」

 鎖の一つ一つにコウモリのマークをあしらってあるのを見るとセンスが悪すぎて体の具合が悪くなってくる。何もかもがちぐはぐで、準備が出来ていなくて、何の説明もない。それがレミィらしかった。



 普段通りのお茶の席。風が強くて、レミィは窓の外で揺れる景色を見ていた。成長した木々を、それから石畳を絨毯のように覆い尽くす落ち葉を見ていた。私は紅茶でレミィは珍しくエスプレッソを飲んでいた。焦げたコーヒー豆の香りが漂っていた。私はレミィの横顔を見つめていた。
出会った頃から感じていたけれど、レミィは小さな子供から大人になるある瞬間の美しさをずっとその身に纏っていて、その美貌が近くの人をどんな気分にさせるなんてきっと考えたことなんてないだろう。

「なぁに? パチェ? 私の顔に何かついてるかしら?」
「いえ、何でもないわ」

 時々見せてくる色気で何度か自分の胸の奥底が熱くなる。馬鹿みたいに。

「ねぇ。パチェ知ってるかしら? もう世界が終わりそうなの」
「……そうなの」

 私は外を飛ぶコマドリを見ていて生返事をしたのだろう。レミィはもう少しはっきりとした口調で繰り返した。

「世界が滅びそうなの。だからパチェは地下にいて貰うわ」

 「世界」「滅びる」主語と述語の関係がひとまとまりの中にあることに気がついて、私は言葉を返す。

「百歩譲って世界の終わりは分かったとして、その後になんて言ったの? あなた知ってるでしょ? 私が魔理沙と明後日に外の世界に遊びに行くってこと。それに世界ってどこよ? 幻想郷? それとも外の世界? 私には分からないわ」
「どこでも世界は終わるのよ。今のパチェには分からないでしょうけれど。パチェを地下に監禁します。ほんの少しの間だから」

 言い返すまでの一秒の間に私はレミィに抱きかかえられて音速よりも早く廊下に引っ張り出された。手に持っていた紅茶のカップが遠くの方で割れた音が響く。すれ違った妖精メイドが小さな悲鳴をあげる。
窓から見える景色はいつもの午後で、世界の終わりのように巨人が現れたり世界が燃えている様子もない。コマドリが鳴き、風が東から緩やかに芝生の香りを運んでくる。そんなありきたりの午後に私は監禁されそうになっていた。

「ちょっと!! ちょっと待ってよ!!」

 レミィは途中で立ち止まって私を廊下の角で下ろした。窓の外を眺めながら両腕を組み、僅かに体が震えていた。
「許せない」

 そう一言呟いたあと、手を引っ張って地下室まで連れてこられたのだ。その間ずっとレミィの手は震えていた。
 妄執か何かが彼女の心を蝕んでいるように見えて、私も訳もなく不安になってくる。彼女の誇大妄想の中の世界が滅びようが滅びまいが、五分前に始まろうが五分後に終わろうが構わない。できればこんなところじゃなくて魔理沙の腕の中でこの世のハルマゲドンを迎えたかった。
再びベッドの上でゆっくりと上体を起こし部屋の中を見回す。歩いて進める距離は知れている。埃を被った瓶にも、書類棚にも、白くてふわふわしたバスマットにも手が届かない。薄暗がりの中で手を動かし世界が少しでも広がるか恐る恐る試してみる。ガチャン。やっぱりこの場所は気が利かない。


 
「あーもう!! 魔理沙……」
 
 こんな時にこそ勝ち気な笑みで魔理沙が助けに来てくれたら、きっとロマンス小説のように素敵だろうに。だけど私の祈りは届かずにここ数日はこの地下室に縛り付けられている。幻想郷の外の世界での旅行では海でも山でもどこでも行こうと話していてくれたのに。焦っても怒っても泣いてもどうしようもないと分かっていてもどういう風に謝ったら許してくれるだろうかを真剣に考える。

「遅れてごめんなさい。ちょっといろいろあって」
「大丈夫。さぁパチュリー、行こう」

 それから魔理沙らしくなんとかして考え出した私の楽しめそうな世界に案内してくれるのかもしれない。目を瞑れば様々な希望がとりとめもなく浮かんでは消えていく。
お腹が減ってきた。思い出せば寝る前から何も口にしていない。さっさと世界が滅びるなら滅びればいいのだけれどせめて満腹でありたい。低血糖で気絶しそうになりながら世界が終わったらみっともない。

「ちょっと、誰かー居ないの?」

 少しばかり空腹と寒さを覚えて声を張り上げる。分かりきった話だけれど、地下室はホテルのスイートルームのようにサービスは良くない。ごそごそと扉の向こうで何かが動く音がして、それから扉が開いた。わかりきっていた事だけれどレミィが現れた。
暖かい部屋からこのひんやりとした地下室に降りてきたことでちいさくくしゃみをするレミィ。かわいらしさは健在で、ちょっと許してしまいそうになる自分がいる。

「ごめんごめん、パチェ。世界の終わりでいろいろと物が不足してて」

 そんな事を悪びれもせず語る。どこから借りてきたのかメイド妖精の給仕の格好でトレイを持っていて、サイドチェストの上に不慣れな手つきでそれを並べていく。

「世界の終わりなのに充実した食事なのね」
「まぁ……そうね。はい、どうぞ」
「どうも」

 レミィが持ってきたご飯に手をつける。形の整ったサンドイッチと、紅茶と、クラッカーが何枚か。
食べようとしてきた時にもう一度鎖が手元に食い込む。手首は熟れたリンゴのように紅くなっていて顔をしかめた。

「鎖、痛いんだけど?」
「そう、ごめんね。でもこれはパチェの為だから」
「ねぇ。レミィ」
「ん、なに?」
「世界の具合はどうなの? 順調に滅びてる?」
 
 うーん、と顎に手を当ててレミィは考える。そういえば思い出したけれど、という具合のそんな返事。

「それなりに、世界は滅びてる……かしら? あんまり事情を知らない方が良いかもしれないわ」
「そう」

 それなりに世界は滅びている。それなりに私は日常から切り離されている。外は「それなりに」外の世界であった二度の戦争の時のようになっているんだろうか。それなりに子供の亡骸が転がり、それなりに誰もあやしてくれない赤ん坊がいて、それなりに妖怪たちが世界を荒らしているのだろうか。

「ねぇ。私はまだ世界が滅びるって信じられないんだけど。世界が滅びてなかったらどうするの?」
「ん……んーそのときは私が鎖につながってあげるよ」
「楽しみね」
「きっとそんな事は起きないでしょうけどね」

 レミィはそう言って自信に満ちた表情ではにかむ。楽しそうなのに何処か空虚で満たされていなさそうで、複雑な事情を暗に匂わせる。
今のレミィは底抜けの馬鹿騒ぎをして、怒られて自分の足を地面につける事でかろうじて世界に関わっている。そんな気がする。この子は少々心が弱い。

「レミィ、魔理沙はどうしてるの?」

 私が魔理沙の話をすると、レミィは爪が手のひらに食い込むほど拳を握りしめた。そして短い呼吸を繰り返す。

「……多分、元気だと思う、うん。元気だった。この間も図書館に来てたから」
「早く、会いたいわ。世界が滅びるならこんなところで終わりになりたくないんだけど。ねぇあなた分かってるわよ。ちょっと妬いてるんでしょう? 私が楽しそうにしてるからって人の邪魔をして。そんなに私が誰かと仲良くなることが面白くないの?」
「そういうわけじゃないのよ。あのくそったれの魔法使いが気に入らないのは確かだけど」
「じゃあ、ここから出して!」
「嫌よ。あなたはここに居なきゃだめなの。私が世界をなんとかしてみるから」

 呆れてものも言えない私につかつかと歩み寄り、射るような鋭い目線でこちらを絡め取ってくる。

「つれないわね、世界の終わりから助けてあげた恩人なのに」
「別に……頼んだわけじゃないもの。それに本当に世界が滅びるか信じられない。パンとバターと紅茶があるなんて」
「パンとバターと紅茶と両面を焼いた目玉焼きがある世界の終わりだってあるのよ」

 空が落ちてきて、地面が崩れ、人々は地獄の業火に飲まれ、隕石に頭を潰されたり、あるいはどこかの頭がおかしくなった誰かが手当たり次第人々を吊るし首にしてその腐臭があちこちで漂っていたりするのだろうか。そんな世界にパンと、バターと紅茶とそして両面を焼いた目玉焼きがあるのだろうか。あるんだろう。レミィの言葉を信じるとするならば。なんとも奇妙で牧歌的な終わりがあるんだろう。

「私も朝食を戴くわ」
「そう……ッ」

 私の向かいの椅子からゆっくりと身を乗り出してくる。手のひらがゆっくりと私を撫でてくる。初めての香りを嗅ぐ子犬のように顔が近づく。レミィの青い前髪が近くに寄ってくる。
釉薬がまぶされたような瞳が綺麗で、どうしてこんなに綺麗なのかと息をのんだ。そして首筋に僅かな痛みが走る。手で止めようにも何もできない。僅かな時間だったけれど、レミィに血を吸われている間はほんの少しだけ懐かしかった。最初彼女に血を与えていたときは、彼女は見捨てられた子猫のようだった。
月明かりの下で申し訳なさそうに傷口を舐めていた彼女を慰めたり、あやしたりしていた。
今日もレミィの喉元を撫でると「ん」と小さく反応する。やっぱりこの子、猫かもしれない。
幾度となくそんなことを考えて、幾度となくその言葉を飲み込んで、小さな痛みをレミィの印だと大切になぞる。それは何度も繰り返された私たちの営みで、ただただ懐かしい。次第にぼんやりとした多幸感が体中を駆け巡る。心なしか体が熱くなってきたような気がする。
 下半身の奥で、何かが蠢いているような感覚に戸惑っていると気がつくとレミィにキスをされていた。
びっくりして、慌てて唇を食いちぎってやろうかと思って舌に歯を当てても、顎を手のひらで押さえられて阻まれた上に、舌先で更に奥深くを蹂躙されて、力が抜けてしまう。ぐちゅり、ぐちゅりと水音が頭の中にぱぁっと広がって、抵抗する気持ちは次第に溶けてしまい、やがて腰から背中にぴりりと痺れが響くようになった。腕ずくでいいように扱われているのに、所作のそこここには慈しみが感じられて一秒ごとに私の抵抗する気持ちの輪郭がぼやけてくる。要するに優しくて私を虜にしてしまう。

「ん、んぁん」

 私の吐息を聞いてレミィはほんの少し安心したように笑った。そして腰を強く抱きしめて私をその場で動けないほど強く捕まえる。

「ん、ぐぐ」

 体が鋼のようで微動だにしない。その間にレミィの舌は首筋を舐めとり、耳を食み、そして唇を蹂躙してくる今までのどんな交わりよりも鮮烈で、小さく爆ぜた快感が背中に電気のように伝わる。下腹部から全身に快感が発せられ柔らかな波が伝わってきて、頭がぼうっとして、溶けて力が抜けてくる。こんなこと初めてでどうしていいか分からなくて顔を背けることくらいしかできない。手が離されても、私は動けなかった。

「あん、や、ん」

 言葉にもならない言葉が止めどなく溢れた。体がもっと強い快感を求めて腰を前後に動かす。片手で恥骨をさわり

「魔理沙の前でもそんな声だすの?」 
「そんなこと……ないっっん、やぁん」

 むき出しの本能に僅かに怯える自分がいる。でも唇だけでここまでされたなら、もっと先に……と期待をしそうになる。こんなちんちくりんの吸血鬼なんか嫌だと拒否をしたくなるけれどそれでも彼女がしてくる行為は私が求めていることを的確に押さえてくるわけで。世界の終わりに、もう彼女は今まで押さえ込んでいた一方的な思いをぶつけることにしたのだろうか。切羽詰まった生物が子孫を残そうと試みるように、私と何かをしたかったのかもしれない。いや、そういう話をしたかったんじゃない。ただただいろんな感情が頭の中をいっぱいにしていてそれが苦しくて、泣きそうだった。

「やあっん……恥ずかしいの」
「そう、それなら明かりを消すわ」
「そう言うのじゃないって……」

 細いレミィの指は喉元の薄い皮膚の下の血管をたどるように、ゆっくりと耳へと這い上がってくる。空いた手で体をまさぐり、手のひらで胸元を包むようにさすり上げて、指先に引っかかる突起を探りあてる。

「ん…………っ」
 感じなくてもレミィにさわられて居心地が悪くなるのは、そこに性的な匂いを喫ぎとっているからだ。魔理沙にもこんなことされたことないのに。上から乳首をつまみ、輪郭を確かめるようにまといつく指の動きは愛撫そのもので。張りつめて固くなり、指先を押し返すように浮き上がるのをこらえている私をレミィはただただおかしそうに見ていた。
嫌なやつ。
 何か一言を言ってやりたくても、耳元で響くレミィの上気したような吐息と慣れた手つき。そんな情欲を感じさせられて、冷静でいられるわけがない。レミィの指がムギュムギュと自分の膨らみをなで続けた。

「い…ツ…っあっやめてよ」
「わかった」

 体の奥底でまだ火照っている情欲の熱で頭がクラクラする。安心感とどこか物足りないという感覚が頭の中で反響している。いっそのこと乱暴に犯して欲しい。いつ来るのかという恐怖はもう味わいたくない。だから止めないでいて欲しかったのにレミィはすっと手を引く。荒い吐息の私と対照的にやけに余裕な姿の吸血鬼が妙にいらつく。

「後で咲夜が着替えを持ってくるから……ごめんね」
「……謝らないでよ。世界の終わりなんでしょう? 好きにしたらいいじゃない? それに何よ。そんな事できるの? 世界が終わるって言うのに」 
「着替えがある世界の終わりだってあるわよ」

 笑ってからレミィは私をおいて地下室から出ていった。身軽になったような気がして右手を見ると鎖は外されていた。だけどしっかりと扉は閉ざされていた。
これからどうしようかと考える。扉に耳をつけて外での音を聴こうとするけれど遠くで水がぴちゃりぴちゃりと床に落ちる音が広がるだけだ。静かな世界の終わりだ。



 咲夜は着替えを持ってきて、何をいうでもなくただこの室内のゴミをどう片付けるか思案しているようだった。間違いないことなのだけれど、彼女はあまり世界の終わりに頓着していないようだ。

「これからあんた、どうするつもりなの」
「どうするって仰いましても、私はこの生活を続けますわ」
「そうじゃないわ、世界が終わるとか言っているのよあんたの主は、それを止めようとかおもわないの?」
「世界の終わりはいろんな人に訪れるんです。ただ、私にとってそれはまだ早い話ですわ」
「はぁ……あんたもずいぶんレミィみたいな物言いをするようになったのね」
「犬は主人に似るとか言いませんか?」
「そのうちあんたも美鈴を鎖で繋ぎそうね」
「私たちは大丈夫ですよ、そうそう何冊か本を持ってきましたわ。また他に欲しい本がありましたら小悪魔にお願いしますから」
「ありがとう」
「あの……パチュリー様?」
「なにかしら?」
「パンチの練習をした方がいいですわ」
「終末だから?」
「ええ」
「世界の終わりにはパンチがつきものです」

 この子はよく分からない。そう、レミィが怒ったときだって、こんな風変わりなことを言っていた。



 どういう理由かは分からないけれど蝉の音が滝のように流れ込むようなそんな暑い日であってもレミィは汗が流れることはない。いつでも紅茶を片手に話していた気がする。話題は、まぁ魔理沙のことだった。

「あの魔法使いねぇ」

 レミィは面白くなさそうだった。些細なことで気を悪くするレミィなんて初めて見た。

「まぁ子供っぽいところがあるけれど悪い子じゃ「いや、悪いね」」

 レミィは椅子に深く腰掛けて、こちらをじぃっと見つめてくる。敵意、不満、怒り。木立が風にざわめき、そしてから、しばらくはその音が木霊するような沈黙に部屋は包まれた。赤い絨毯も、何もかもが私を責めているようだった。

「あの魔法使いは、パチェにはだめだ」

 怒り気味にはなすレミィを見ているとなんだかこの子がとても愚かなように思えて席を立った。

「だめなんだよ」

部屋を去るときにレミィの顔を見る。彼女もまた私を心配するように見つめていた。

「大きなお世話よ! このあんぽんたん」



 食後になればレミィが来る。最初は優しく語りかけてきて、次第に私に近づき、それから申し訳なさそうに私に触れる。レミィは服をめくって引き上げて、それから私の胸元を露わにした。もう恥ずかしいなんて気持ちはとうの昔になくなっていた。ただ、これからされることが早く終わるように祈るだけだ。
「紅いわ」
 勢い余ったふうに吸いついて、唾液をからめて好き放題に祇め回す。服は言うに及ばず千切られて空いた手で片方の先端を掌で包み込んで、唇で乳首をいじりながらさすり上げる。
「う…ああっ、いや…っだ、ああ…つこ、こんな…っ」
「なんでよ」
 脳を焼くような快感に追い立てられ、あられもなく腰を揺らめかせているというのに、レミィはもっと私を壊したそうに乳首を吸い上げる。秘所を丹念になぞり回し、潤いを促すように中心に指を立てる
「い、あああっ」
「感じてるじゃない? ねぇパチェ、私のものになりなさいよ」
「んん、ふぁ、んん」
首を横に振ったものの、恥ずかしい愛液は秘所の縁からこぼれた雫がレミィの手を濡らし、それを指先でもてあそばれる。
耐えがたいほどの歓喜に打たれ、シーツから腰が浮き、自分から突き出しているみたいだ
「ああ……っ見ないで.······」
浅ましい姿をレミィの眼にさらしていると思うと、差恥で芯まで灼けつく心地がするのに、なぜか幸せだった
 もう頭がぼうっとしてきた、息絶え絶えになりながらも拒否する言葉を吐いても、私の下半身はレミィに抱きついて腰をすりつけていては、まったく説得力がない。体が勝手に彼女に向かって開いて、受け入れ始めてしまう。徐々に分け入ってくるその先端を、押し出すのではなく包み込むように、髪がまといついていく
「す…っき」
粘膜のほてりは我慢できないところまで来ていてじっとしていられず、
無我夢中でレミィの背に腕を回した。ついに口を割ったときも、苦しいほどの快楽に溺れるようで、意識が臆識としていた。指が秘所をかき回すたびに、おかしな声が溢れ出てくる。レミィの細い指はくぼみを内側から広げ、縁の隙間から新たに指を差し入れて、二本で優しく私の中をなぞり上げた。
「あつ、あぁ……っ」
その瞬間、ぴぃんと全身の筋肉がこわばる。
弓なりにしならせ、甲高い声を上げた。湧き上がる喜悦はおそろしいほど強くて
秘所の先端はとがりきり、痛々しいほど充血して、ささいな刺激で今にも達してしまいそうになる。快楽の高みに連れて行かされている。

「あっ、だめ、んん、すき」

 小さなレミィの腕の中で達したとき、ほんの少しだけこの子のことを許せたような気がする。



荒い吐息で私は天井を見つめていた。
煉瓦の向こうには真っ黒な穴がこちらを覗き込んでいた。穴からはぱらぱらと土が落ちてくる。
世界が終わろうとしているのか、局所的に地面が揺れてそこからそこここに水が流れ出してくるのかもしれない。

「どうして世界が終わるの?」

 レミィが持ってきたレモネードは新鮮で、世界が終わろうとしている中で切られた黄色の果実は酸っぱくて、ほんの少し眉をしかめる。レミィが与えてくれた僅かな幸せで大きな不幸を紛らわせることが出来たというのに。

「別に、いろんな要因があるわよ」
「そう」
「……あんまり聞きたくなさそうね」
「聞いても多分何も変わらないでしょうから」
「賢明ね」

 ねぇ。とレミィは小さくつぶやいた。

「パチェが悲しそうなら、私は何でもするわ」
「今は鎖が悲しいけれど」
「ううん、いまはパチェはちょっとだけいらだってる」
「そうかも。まぁいろいろとあるから」
「ねぇ。今永遠亭からの薬を飲ませたのよ。そろそろ効果が出るかしら?」

 下腹部の違和感、ショーツが苦しくなってきて。それから私の下腹部に熱くて硬い、劣情を催す肉棒が生まれてきた赤黒く、グロテスク。それなのに触れれば背筋に言いようのない快感を送り込んでくれる。



し ばらくの間、私たちに会話はなかった。
レミィは細い肩を剥き出しにした官能的な黒のベビードールに着替えていた。黒のレースで真っ白な美肌が、ことさら引き立って見えた。少女から大人に変わりつつある体から漂う柔らかい匂い。
ふっくらとした扇情的な唇に、ほんの少しだけ塗られたルージュの口紅。艶めかしい太ももは触れられることを期待するかのように僅かに汗を掻いていた。どうしようもなく淫靡で、そして美しくて壊したくなる。

「パチェに愛してほしい」
「いや、そんな行儀の悪い子は犯すわ」
「そう、それでもいいわ」
「でも、前はあなたにはあげないわ、できれば、その……お尻で」
「へぇ、変態なのね」

広がる感覚を味わうかのようにレミィの喉がこくりと鳴り、背中に大粒の汗を流して快感を体の中で味わっていて、かわいらしかった。お尻を抱え込むようにつかんで、ぬるぬると埋まっていく肉の棒は、もうすでに脳を焼き切りそうな快感を送ってくる。
ねだるような声。そして腰を前後に動かすのも苦しいくらいの締め付けで、熱い肉襞と、私に生やした男根が擦れ合うたびに、ヌッ、ぐちゅ、ぷちゅ、――と淫靡な音が部屋の中に響き渡る。

「ああ、ん、パチェのおちんちんお尻の穴のなかで凄い、気持ちいいところ、ああ、んん、ん」

ゆっくりとした腰の動きがもどかしくなったのか、レミィは自ら腰を前後に振り始めた。
ぱっ、パツッ、じゅぶ、じゅぽ、パツッ、そんな肌のぶつかり合う音と、扱かれていく肉棒のじゅぶじゅぶという水音がひときわ大きくなる。

「変態」

 腰を深くつかんで、深くまで思い切り肉棒をたたきこむ。

「ん、ん」

 突き込まれた勃起に、一瞬気をやった吸血鬼が顔から枕に突っ伏す。

「ほら! レミィ! こんなことでへこたれてたらだめでしょ?」
「だってぇ、パチェが、っっあっあぁ……、こんなのにした、アッ、そこいい。
アッ、ぃやだ、ん、……ンン、見ないで、……みないっでっ、ううぅっ
あっ、あっ…! やだ、んん、あ、ふぁ、イッちゃう、だめ……お尻で、イッちゃう」

 私も限界が近いから、ひときわ腰の動きを激しくして、じゅぶじゅぶという水音に負けまいと声を出す。
どうしてかそんな短い交わりのあと、レミィはしきりにキスをねだった。
思い出す限りレミィは私のことをはなしたくないんだろう。




「気が済んだ? 吸血鬼さん」
「うん……ちょっと嬉しかった」
「変態」
「お互い様でしょう」
 
 魔法使いという肩書きは誇るべき何かではない。私は薄々知っている。サバトで交わり、愛がないお互いの体を利用した自慰行為を続けてきたのだ。

「そんなこと慣れっこなんだから」
「うぶなくせに、言うじゃないの」

 レミィの唇を奪う。深く深く求めて来る。

「ずっと一緒よ。パチェ」

私は永劫とも思える循環の如く生きていくのだ。 終わりのない終わりまで歩かなければならない。魔術のため、心配性のレミィのため。そして自分のため。そこには愛とかそんなものはどうでもいい。
世界がどうだろうと私の知ったことじゃない。世界の終わりなんて言う虚構はもういい。それでも私は夢を見るだろう。幸せな日々がどこかから訪れてくると言う予感をどこかに抱きながら、いや、空想をしながら生き続けるだろう。レミィは私にそれを望んでいるようだけど、今じゃないのだ。

「もう、もういいわありがとうパチェ」
「ええ」

 レミィが自信なさげに俯いた。勝ち気だった吸血鬼も自称ヴラド・ツェペシュの末裔もここにはいない。世界の終焉を大人に信じさせる事に失敗して、僅かに苛立って、終わりがやってくる事を悲しそうに我慢する、少女が一人居るだけだった。

「レミィ。あなたの気持ちは分かるけれど、やっぱり気になるのよ、世界のことが」
「見せたくないけれどパチェが怒るのは嫌だわ」

 でも上目遣いでこちらを見つめるその表情のどこかには私の中の加虐心を擽るなにかがあって手を挙げそうになる。彼女と出会ってからの何万分の一に満たないたった数日でこれほどまでにレミィに心を乱されたのはどういうわけだろう。
 レミィは唇をぎゅっと結んで、それから不安げに辺りを見回した。小さく体をもぞもぞと動かして、それからため息をつく。

「そう……まぁその目で確かめてきて」

 レミィが私の手首を締め付ける鎖に手を当てて何事か呟く。かちりと軽い音を立てて私を数日間閉じ込めていた鎖は外れた。そして私は、レミィを叩いていた。頬をぴしりと捉えた手のひらがじんじんと痛む。

「最低」

 


 地下室の扉を開けて、階段を昇っていけばそこは私のいつも居る図書館だ。人の声が遠くから聞こえる。うなり声でもなく、世界の終焉を望む怨嗟の声でもなくそれは聞き慣れたくだけたおしゃべりだった。その中に魔理沙の声が聞こえたとき、私は強く地面を蹴っていた。
待っていてくれていたんだ。という嬉しさを感じ取られないように、そっと扉から顔を出す。薄暗がりの中で魔理沙が誰かと親しげに話している声がする。
魔理沙と、小悪魔、そしてアリス・マーガトロイドがそこに居た。いつもの楽しい私たちに戻ろうとして歩き始めたとき、ふとアリス・マーガトロイドが魔理沙にもたれ掛かるようにして近づく。
そして唇同士が触れあっていた。肩に手を回し、抱き寄せて体温を感じようと二人はくっつき合う。

「ねぇ、何してるの?」

 何も分からない私は、二人に向かってそう言いたかった。
だけど、私は近くの本棚にもたれ掛かってしばらく二人が口づけを交わす様を口を開けてぼんやりと見つめるほかなかった。ああ、多分、私だけが魔理沙のことを好きだったんだ。私、付き合ってたのに魔理沙ったらアリスと隠れてこんなことをしていたんだ。アリス・マーガトロイドっていういい人がいたんだ。ごめんね魔理沙。私じゃダメだったんだ。
頭もぐるぐると回り、それから卒倒しそうになる、ああこのまま世界が終わったってかまわない。死んだって、いいだろう。地下にいた方がましだったかもしれない。積んだ本に躓いて力なく後ろに倒れそうになったとき、誰かに抱きかかえられた。

「だから、もう……」
レミィだった。さっきからずっと申し訳なさそうな表情を続けていた。
「ごめんねパチェ」
「……知ってたの?」
「うん……、だけど言えなくて。ここまで来て見せつけてくるなんて下品ね」
「いいの」
「パチェ、わかった。仕返ししてくるから」

 本当に私の考えていた魔理沙と歩む世界は滅びていたらしい。
レミィが本棚の向こうに向かって歩いて行くとまもなく轟音が図書館の中に響き渡った。何かが燃えるような音がする。はじけ飛んだ破片がひゅんと音を立てて近くの壁にぶつかる。小さな悲鳴と怒号が聞こえてアリス・マーガトロイドと逃げ出す魔理沙の情けない声がする。そして最後に壁をぶち破る音が聞こえてから静寂が辺りを包み始めた。
本棚から顔を出すと、吹き飛んだ図書館の一角があり、散らばった本があり、封印が解けて思い思いの動作を始める本があり、火がついた本は煙となって図書館の壁に空いたまん丸な穴から流れ出していた。外からは小鳥が鳴く声が聞こえた。

「パチェ、ごめん。ちょっとだけめちゃくちゃになったかも」
「世界が滅びたみたいね」
「ほんとだ」

 私は笑って、それからすすだらけのレミィと握手をした。
図書館の入り口で腰に手を当ててこちらを睨めつける咲夜を見たときに、世界が終わるくらい怒られるのだろうとぼんやりと思った。その点に関しては期待通りに世界が終わるくらい怒られて、私たちは怒られた後くすくす子供みたいに笑ったんだ


「地下室にいた方がましだったわね」
「そう、でももう鎖は嫌でしょう?」
「まぁねぇ、不便だったから」
「ねぇ。私ならあんな尻軽魔法使いのことなんて忘れさせる位にはパチェの事を愛する準備が出来てるわ。
もう、鎖がないかもしれないけれど」
「なくたっていいわ、あなたから離れるつもりなんてないもの」

 馬鹿みたいに笑って、それから小さく口づけを交わす。この子からは離れられそうにない。
そうそう、思い出した。Off the chainの意味を。

「馬鹿騒ぎだったわ」
「ん、なにが?」
「ここ数日よ、正気をなくすような馬鹿騒ぎだったわ」
「そうかもね」
「これからも、一緒に騒ぎましょうよ、レミィ」
「言われなくってもそうするわ」

 私たちの間にはもう形ある鎖はない。だけど二人の心は鎖でずっとつながっている。
それはしばらくの間外すつもりはない。




ありがとうございま下!
SYSTEMA
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