真・東方夜伽話

百合犯しレミリア

2019/11/10 01:02:02
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百合犯しレミリア

文文文士

情事に隠されたレミリアの哀しい秘密。そうすることでしか、力ある吸血鬼は彼女たちを愛することができなかったのです。

◆◆◆



 雲間からそっと、熱病のように火照った月が顔を覗かせました。
 きっと、いまのいままで行われていた秘するべき罪業を見ないように、また見えないようにしていたに違いありません。
 なぜなら。
 それはあまりにも、哀しいことなのですから。
 あらゆるものを受け入れる幻想郷において、そのやさしさは、もちろん彼女にとっても同じでありました。
 たとえそれが。
 季節を運ぶ歯車のように、残酷なものでも。

 霧の湖を臨む豪奢な西洋風の建築、紅魔館。
 その最上階にある一室にも、ようやく紅い月の明かりが入りました。
 王女の為にあつらえられた、天蓋つきのベッド。いつもまっさらに取り換えられている純白のシーツに、隠しきれない情事の跡が浮かび上がっています。
 神経質なほどに完璧な仕事をする召使いが整えたシーツも、やわらかな掛布団も、いまは凌辱されきって乱れておりました。
 部屋の花瓶に飾られた深紅の薔薇と、部屋の主がまとう花のような香りと、どこからともなくただよう桃の香り、うっすらとした汗、そして、肉欲にまみれた蜜の匂い。
 荒い、息遣い。
「~~~ッ!」
重なり合った、ひときわ甲高い嬌声。
 しばしの沈黙の中、喘ぐような、熱い呼吸。
 肉感的な、接吻の音。
「―――んっ、まだ、おさまりませんか…?」
比較的落ち着いた娘の声が丁寧に訊ねました。大地に燃え上がるリコリスの赤色をした長い髪の娘です。その表情にはわずかに快楽の侵蝕が見受けられましたが、自己を失い、溺れるほどのものではありませんでした。
 対して、彼女におおいかぶさった青白い肌の少女はひとつ息を吐くと身を起こします。
 ほとんどが紅い部屋にあっても、針のように細い瞳孔を内包した目はなお紅く、小さな背には体格に不釣り合いなほど大きく広げられた夜色の翼。
 くせのある、やわらかな水色の髪。
 少女は娘に跨ったまま、首を横に振りました。
「いいえ、もう十分」
両者、一糸も身にまとっておりません。
 何に興じていたのかは、想像に難くないでしょう。
 しかしながら、少女のほうは「満たされた」と意思表示をしておきながら、どうにもやりきれない顔をしております。
 そのことは赤い髪の娘にもよく分かるほど表れておりました。
「お嬢様、顔色が冴えないみたいですけど、どうかされたのですか?」
「美鈴………それは無粋な詮索というものよ」
黒い闇に広がる、こうもりの羽を持った少女は目を伏せながら顔をそむけました。
「美鈴……わたしの運命に付き合ってもらって、すまないわね……」
湿っぽい声。見せまいと飲み込んだ少女の涙が、息になってしまったのでしょう。
 少女は誰にも、月にさえ涙など見せまいとしておりました。
 なぜなら。
 彼女はレミリア・スカーレット。
 この紅魔館の主にして、夜の絶対的な支配者たる純粋な吸血鬼だったのですから。
「ふふ」
美鈴が慈愛に満ちた表情で、かすかに微笑みました。
「もう、ずいぶん長いですね、お嬢様に拾われてから……。
 大丈夫です、わたしはちゃんと、しあわせですから…」
レミリアは、どこか赦されたような気がしました。
 ひどい罪業を重ねている自覚はありましたし、そのことがいまも胸を容赦なく、まるで炎で焼かれた烙印を捺すかのように激しく苛みますが、しかし、美鈴に受け入れられているということが、いまはただ唯一の救いであったのです。
 しかし、まだ足りませんでした。
 傷だらけになるまでは。
 その傷の痛みによって、完全に他者を愛さないようになるまでは。愛など、ただの肉欲であると、自分を洗脳してしまうまでは。
 ただ獣のような本能に心を開け渡し、この罪を重ね続けるより他にないのです。
 それが、吸血鬼に生まれたレミリアの運命でありました。
「まだ、まだ、足りないのよ…。
 気を抜くと、ふと花の香りに振り向くように、わたしは死の方を向いてしまう。
 だからもっと、溺れなければならない。だから、だから…」
吐き出されようとした罪深い言葉を、溢れ出さんとする感情と共に飲み込んで、レミリアは薄桃色の儚いくちびるをつぐみました。
 されど、涙は隠したままです。
「咲夜さんの、ことですね…」
言って、美鈴も哀しい顔をしました。
 いまにも泣き出しそうな色を浮かべて、レミリアが振り向きました。彼女たちの同じように泣き濡れたような美しい顔を、紅い月の光が照らしだしました。
 きゅっと、下くちびるを噛んで、美鈴はもう一言。
「そんな顔しないでくださいよ、わたしまでそんな気分になっちゃいます」
すこしおどけたような調子。いたずらな笑み。
 レミリアはかすかに笑んで、美鈴の頬にそっと手を当てました。
「ふ、その顔で言う台詞ではないわね…」
たしかな、温度、ぬくもり。
 レミリアの目が、妖しい赤光を灯しました。
 ふたたび美鈴におおいかぶさり、慰めのくちづけを。
「んん、だめだわ、美鈴、おねがい、もうすこしだけ…」
「はい、わたしも、そんな気分です…」
その合意を境に、二人は無粋な言葉をやめにしました。
 ただ、内に灯った情欲の炎に火照った身体を重ね合い、激しく乱暴な接吻を交わしながら互いの口腔で濡れた舌を絡め合い、蜜のあふれる秘部を慰め合いました。
 まるで、肉欲で情を打ち消すように、ただ、獣のように。


 ああ、月よ。
 狂おしいほどの月よ。
 操れぬ運命よ、なぜ斯くもむごく美しいのでしょうか。
 真実の夜を睥睨する月さえ知らない哀しい情事。
 秘した想い。
 涙。



◆◆◆



 ある日の早朝。
 太陽はまだ、山の峰から顔を覗かせはおりませんでした。
 すずやかな朝霧をまとう空気を肌で楽しみながら、レミリアは紅魔館の庭園に設けられたテーブルへと向かって歩いておりました。見た目にはまだ娘にすら至っていない、あどけない少女でありますが、その立ち振る舞いや表情には淑女の品と余裕が満ちております。
 薄桃色のドレス。ナイトキャップによく似た帽子。
 腰には大きな深紅のリボンが、彼女の歩調に合わせて揺れています。
 そんな紅魔館の主としても一人の淑女としても完成された彼女のうしろに、一人の背の高い瀟洒な名使いが付き従っておりました。
 おそろいの、紅い靴。
 青を基調とした給仕服に、銀色の髪。その両サイドは三つ編みにされています。
 きりっとした顔立ちとやや鋭い目つきは凛々しくも、神経質そうでありました。しかしながら柔和な微笑みは絶やすことなく、率いる主の品を立てております。そんな自分の、自分だけの召使をちらと振り返り、レミリアは自慢げに薄く笑むのでした。
 今朝の笑みは、少々悲哀混じりではありましたが。
 召使はその微差に気づいたようでした。

 石畳から芝生へと地面の状態が変化する、その境目。
 レミリアは、まるで重力など無いかのようにふわりと地面から足を浮かせました。吸血鬼である彼女にとって、芝生の緑をいろどる珠のような水滴は硫酸と同じなのでした。
 吸血鬼の弱点は太陽だけではないのです。
 レミリアはただの生活においても多分に注意を払わねばなりませんでした。対して、召使の娘はそのまま芝生へと足を踏み入れていきます。
「それじゃあ咲夜、おねがいね」
やわらかな感触の声を付き従う召使に投げかけながら、レミリアは大きな日よけ傘が備え付けられたテーブルに着きました。
「かしこまりました」
咲夜、そう呼ばれた召使は冷厳に応えると、おもむろに片手を上げて。



―――パチンッ



 指を鳴らしました。
 さながら手品師です。指を鳴らし終えた咲夜の手には、ティーセットが整然と並べられた銀色の盆が輝いていたのです。それらは一様に白く、縁と持ち手は金で彩られ、象徴的な紅い花が美しく咲いておりました。ポットの注ぎ口からはもうすでに華やかで軽快な香りが、白い湯気と共に立ち上っております。
 時間にして、一秒の百分の一にも満たないほど。
 一瞬で虚空からティーセットが現れたと言っても違和感はないでしょう。
 これは咲夜の有する能力でした。神の定めた時間の歯車を制止させ、その法則が消え失せた世界を自分だけが自由に動き回れる、という冒涜的能力です。
 しかしながら咲夜は、わざわざ時間の停止を解除してからレミリアの前にカップを配しました。咲夜はこの能力の行使に際して、あるこだわりを持っていたのです。
「相変わらず律儀なのね」
「当然のことでございます」
苦笑しながらも、レミリアはそれ以上には何も言いませんでした。
 咲夜は凛としながらカップを配し終えると、今度は盆を小脇に抱え、ポットからカップへと琥珀色の液体を丁寧に注ぎました。
 いっそう華やかな香りが立ちます。
 レミリアは白いカップの中に揺れる紅茶をしばし見つめ、立ちのぼる香りを楽しんでおりました。金のハンドルをそっと指でつまんで持ち上げると、うすく紅をさしたくちびるにそっと押し当てて、まずは一口、きれいに飲みました。
「……セイロンのカーカスフォード」
「ご名答でございます、お嬢様」
レミリアは満足げに笑うと、また一口、紅茶を喫しました。
 そばに控える咲夜も、先ほどまでとは違った笑みを見せております。
「上手に淹れられているわ、よい紅茶ね」
「光栄でございます」
仰々しく、咲夜は答えます。

 いつも、こうです。
 咲夜はどこかレミリアに対して一線を引き、主にとって良き召使であろうとする自分でいるのです。事実、歴代を思えども咲夜は非の打ちどころのない召使でした。しかしながらレミリアにとっては、それこそが非であったという他ありません。
 特に、いまのレミリアにとっては。
「―――咲夜」
「はい、お嬢様」
変わらぬ余裕の仕草でレミリアは紅茶を喫しながら、ゆっくり話し始めました。
 主の変化に、咲夜はやや緊張したようでした。
「貴女は、いくつになったのかしら?」
「………」
咲夜はすぐには答えられませんでした。
 それはひとえに、咲夜が自分の年齢を知らなかったということだけにとどまりません。咲夜が自分の年齢を知らないということは、主であるレミリアもよくよく心得ていたことなのであります。それをわざわざ、問答にもならないような質問をするからには、主になんらかの意図があるのであろうと思い、咲夜は言葉を詰まらせたのでした。
 そんな咲夜ですが、表情は崩れません。
 そのことがまた、レミリアにはどうも面白くないのでした。
「なぜ、そのような質問をなさるのですか?」
「質問を質問で返すのは感心しないわね。まぁ、いいわ」
レミリアはカップをソーサーに置きました。
 陶器の当たる、高い音が鳴りました。
 レミリアはすこし身体をひねって咲夜に顔を向けます。
「咲夜、貴女はもう良い歳なはずよ。人間のことはよく分からないけれど…。
 それでも、花開く乙女は誰かの元へ嫁ぐもの、そうなのでしょう?
 わたしの眷属とならないのであれば、貴女の主として、
 貴女の一生を握ったままだなんて、あんまりひどいじゃない。
 たしかに私は貴女を拾ったけれど、飛べるようになった鳥は再び空へ帰るもの。
 ねぇ、咲夜、そうでしょう?」
じっと咲夜を見つめるレミリア。
 力ある者ですら怯み、こころ惑う美しき紅い眼差し。
 しかしながらレミリアの意を汲んだ咲夜は欠片も怖じることはありませんでした。
「徒花、という言葉をご存知でしょうか、お嬢様」
やや慎重に、咲夜は問いました。じっと、主の紅い目を見つめたままです。
 レミリアはやや不機嫌になりながらも口を開きました。
「うつくしく咲こうとも、実を結ぶことのない花のことよ…」
さすがは教養深いレミリアでした。
 すぐに答えて見せます。
 咲夜はレミリアから視線を外し、はるか遠く、朝日が顔を出す方角へと顔を向けました。その表情には迷いも、悲しみもありません。ただ満足そうで、やさしいものでした。
「ああ、もう日が出てしまいますね」
背筋に冷たいものを感じてレミリアはぞくっとしました。ちいさく身体を震わせると、咲夜の向いている方と同じ方へ視線を飛ばします。
 山の頂きから、かすかに光の筋が漏れています。
 ああ、なんと美しくも残酷な景色でしょうか。
 レミリアには命の意味も、生きる意義も、繁殖の必要性も、また、なぜ愛や思慕の情などという厄介なものがあるのか到底理解できませんでした。
 力あるがゆえに、それらが彼女を苦しめるのです。
 でも、こうやって同じ時を過ごし、ともがらを愛し、また亡くすことに深く傷つくということが、どうにもおそろしく、そして、愛しく思われたのです。
 これは吸血鬼でありながら、自分が望んだ道。
 だからこそ、咲夜を愛した証を刻み、それを傷とするべきだと思いました。ただ本能的な肉欲にのみ情を明け渡し、レミリアを殺す、愛に至らぬために。
 恋と愛から来るすべてを、ただの肉欲で上塗りするために。
「もう眠るわ。咲夜、また夜に」
「はい、おやすみなさいませ」
最後の一口まできれいに飲み終えるとレミリアはまたふわりと宙に浮いて、いまより射し染める太陽の光から逃げるようにして館の中へと入っていきました。
 去り際に、ぽつりと一言。
「よく考えなさい、咲夜。ゆくのなら、いまのうちよ」
咲夜には、はっきりと聞こえておりました。
 真意の見えない主の言葉。
 そのうしろ姿を見送って、咲夜は釈然としない表情で盆にティーセットを乗せていきます。片付けながら、彼女の頭の中では主のいまいち冴えない顔色と、意味ありげな問答がぐるぐると旋回しておりました。
 そんなさなか。
「おはようございま~す」
一種ひょうきんな朝のあいさつが飛んできました。
 その方を見れば、いかにも起き抜けといったふうな美鈴がこちらへ歩いてきます。
 赤い髪を咲夜と同じように三つ編みにし、深緑の中国服をまとった彼女は、咲夜があいさつを返さないうちに、相手の様子がおかしいことに気がつきました。
 いぶかしんで、言葉を重ねます。
「なんかあったんですか、しんきくさい顔をして」
「そんな顔をしているかしら、あなたが寝ぼけているだけでしょう」
さっさと立ち去ろうと手早くティーセットを片付けて、指を鳴らします。
 音がまだ虚空に呑まれ切る前に、咲夜の姿は忽然と消えました。
 誰もいなくなった空間を見つめて。
「あちゃ~、逃げられちゃいましたね」
応えるものはいません。
 間もなく太陽が顔を出します。
 芝生の先を撫でながら、涼やかな風が通り過ぎていきました。美鈴の赤い髪がふわりとふくらんで、宙で遊びました。
 腕を組み、山際へと遠く視線を飛ばしながら。
「ああ、そうか……また、紅い月が夜に来るんですねぇ…」
深い思考に耽りながら、美鈴はつぶやきました。
 自身のあご先を指でちょいとつまんで、彼女は正門へと歩いていきました。



◆◆◆



 太陽は中天にまで昇っておりました。
 ちょうど、お昼時です。
 いま、光の中、生きとし生けるものがもっとも活発に、それぞれの生を営んでいることでしょう。さざめく緑も目いっぱいに手を広げていました。
 ところが、こんな陽射しの真下で寝息を立てる者がありました。
 紅魔館正門付近。
 この館の門番である美鈴があろうことか、壁にもたれかかり、立ったまま意識を絶っていたのです。といってもこれは、もはや名物でありましたが。
 しかし、その理由を知る者は館の主をおいて他にはおりません。
 たとえ親しい者であったとしても。
「もう、また仕事中に寝てる……寝てるならお昼ご飯は要らないわね?!」
端正な眉を寄せながら、咲夜は立ったまま眠る門番へ怒号を飛ばしました。
 美鈴が拳法の達人で、いかに気で相手を察知できるとはいっても、たとえ眠りながらでも外敵の接近に気づけるとしても、それはまた別のお話しなのです。
 もちろん美鈴はこのときも、咲夜がやってきたことに気づいていました。
 一声そうして叱られると、目を閉じたままで。
「起きてますよ~」
などと、手をひらひらと振りながらひょうきんに答えるのでした。
 幾度となくこのやり取りを繰り返し、咲夜はもう呆れ果ててしまっているのでしょう、小さく嘆息する程度で声を治めます。
「せめて目くらい開けなさいよ…」
「開眼ッ!」
声を張って、勢いよく美鈴は目を開きました。
「起きたならいいわ、ちゃんと門番してよね、それじゃあ」
淡々と言って、咲夜は門の内側へ入りかけます。
「ごめんなさい、お昼ご飯ください」



―――パチンッ!



 咲夜が指を鳴らすと、正門横に小さなテーブルとイスが現れました。上には多品目の中華料理が並んでいます。食欲をそそる良い香り。
 美鈴は目を輝かせながらすぐさまイスに着席すると、両手を合わせます。
「いただきますっ!」
さっそく美鈴は回鍋肉を一口。
 咲夜の作る料理は和洋折衷、どれも絶品でありました。
 完全で瀟洒な従者。それはこの分野においても例外ではないのです。そんな彼女の絶品中華に舌鼓を打ちながら、美鈴はやや遠い目をしました。
「わたしの教えた料理を、教えた以上の物にして振る舞ってもらえるなんて、ねぇ。
 師範冥利に尽きるというか、おかしな気分ですねぇ」
ちらっと、美鈴はそっけない弟子のほうを気にかけながら言いました。
「口を閉じて食べなさいな、品が悪いわよ」
「ふふっ」
二人の会話は、これでいいのです。
 これで、もう十分に通じ合っているのです。
 美鈴はにっこりと笑って見せると、食事に集中することにしました。食事を用意してくれた人に対して、それがなによりのお礼なのですから。
「あら、もしかしてお邪魔だったかしらね」
唐突に、予期せぬ声がふたりに聞こえてきました。
 知っている声です。
 だからこそ、ふたりは驚きました。
 優雅で威厳に満ちた声色。他でもない紅魔館の主、レミリアのものでした。真っ白な日傘をさして、レミリアが正門にまで出てきたのです。
 更にふたりを驚かせたのは、レミリアがティーセットの乗せられた銀色の盆を片手に持っていたということです。彼女が自ら給仕のような真似をすることはまずありません。どういった風の吹き回しでしょうか、ふたりは顔を見合わせました。
 そんな様子がおかしいのか、レミリアはいたずらっぽく笑いました。
「なぁに? わたしが紅茶を振る舞うのはそんなにおかしいことかしら?」
「いえ、その、どうなされたのですか?
 いつもなら、おやすみになられている時間帯でもありますし…」
おずおずと咲夜が訊ねました。
「気が向いただけよ、昔の夢を見て、眠れなくってね。さぁ、咲夜も掛けなさい
 わたしの紅茶を受けない、なんて言わせないわよ」
表情に感情的なものをあまり浮かべようとしない咲夜が、珍しく目を見開きました。もちろん遠慮するつもりであったのですが、先手を打たれてしまった以上は従うより他にありませんし、それに、咲夜はレミリアの淹れる紅茶が好きでした。
 小走りでイスを二人分持ってくると、咲夜はレミリアに着席を勧めました。
 主より先にイスへ座る。
 やはりどうにもそれは憚られたのです。
 しかし、いまはレミリアが紅茶を淹れる係。咲夜は強制的に座らされたのでした。
 レミリアはきれいに手先をしならせて、お手本のように完璧な所作でふたりの前にカップを配しました。ポットを傾け、その白の中へと深い色合いの紅茶を注いでいきます。
 あたたかみのある、最上級の香り。
「おお~、これは素晴らしい紅茶ですねぇ」
美鈴が箸を口もとへ運びながら感嘆しました。
 咲夜もこの紅茶がどういったものか、すぐに分かりました。
 この紅茶だけは、おいそれと手に取れるような代物ではなかったのです。
「お。お嬢様、これは…!」
「かまわないわ、わたしが今日を特別と言えば、今日がその運命に従うのよ」
中国紅茶キーマン、その最上位に君臨する、超特級と呼ばれるものでした。
 注ぎ終えたレミリアはポットをやさしくテーブルの真ん中へ置いて。
「さ、おあがりなさい」
微笑んでそう言いました。
 咲夜はためらいながらも、カップのハンドルへ指を伸ばします。
 その震えは畏怖か、それとも喜びでしょうか。
「お受けさせていただきます…」
いつか幼いころに教わった通り、そっと淑やかに指先でハンドルをつまんで姿勢を正したまま、柔らかなくちびるにカップを押し当てて、きれいに一口。
 繊細で、あたたかで、やわらかで、上品でまろやかな味わい。
 なつかしい味。
「昔を思い出すわね、あなたに紅茶を教えていたころは、
 こうしてお手本を淹れてあげていたわ、覚えてる? 咲夜」
抱きしめるように、丁寧にカップへもう片方の手も添えて。
 眼下に揺れる、うつくしい水面。
「わすれません」
愛しむ、咲夜のうるわしい花のかんばせ。
「……うれしいわ」
レミリアの胸の中で、なにかあたたかなものがじんわりと滲みました。
 それは。
 温度か、涙か、はたまた紅か。
「ふたりとも、すこし休んでいきなさい。わたしは書類を片付けてくるから」
くるりと背を向けるレミリア。
 美鈴は紅茶のカップで顔を隠しながら、ふたりの様子をうかがいます。
 立ち去ろうとするレミリアへ、咲夜が向きました。
「ありがとうございます、お嬢様」
ピタリと、歩を止めて。
「……いいえ」
振り向くこともなく、レミリアは小さく簡潔に答えました。
 それを最後に彼女は正門をくぐり、紅魔館の中へ姿を消したのです。
 一連の不可解な主の行動、態度、声色に、やはり咲夜はなにかしらの理由を探さずにはいられませんでした。
「こうして、美鈴、あなたやお嬢様が昔の話をするのは、やっぱり何か…」
「な~に、思い出話は生きてきた者の特権で、宝物ってだけですよ。
 ふと何かが変わったと感じた時に、思い出すもんなんですよ、きっと」
咲夜は胸の内側に、なにかが引っかかるのを感じました。それはチクリと痛くて、まるで返しのついた釣り針のよう。無理やり引き抜こうとすれば柔らかな心に食い込みます。
 それでも、紅茶は変わりなくやさしいまま。
「お嬢様は、わたしを振り払うおつもりなのかな……」
固めてきた言葉使いが崩れ始めます。
 美鈴は良かれと思って口にしたことが、かえって咲夜の不安をあおってしまったと気づきました。もっと慎重になんと言おうか思索し、カップを傾けます。
「今朝も、飛べるようになった鳥は空へ帰るものだと……」
それを聞いて、美鈴は驚きを隠せませんでした。しかしもうどうにも、堰を切ってしまった言葉は止められないようで、咲夜は彼女の変化に気づきません。
 咲夜はスカートのすそを握りしめ、なおも続けます。
「もしかしたらこの紅茶は、はなむけだったのでは……」
美鈴は、カップを大きく傾けて紅茶を喉の奥へ流し込みました。
 カップがソーサーに当たる、高い音。
 咲夜が視線を上げます。
「ねぇ、美鈴、わたしの思い過ごしなのかしら……」
「咲夜さん」
美鈴が速い技で咲夜の耳元までくちびる近づけると、そっと耳打ちしました。
「お嬢様の秘密、いまのうちに知っておきますか?」
思わず咲夜は身を引いて、表情をこわばらせました。
 いつになく、美鈴の表情は真剣で、かなしいものでした。
 咲夜の知らない、彼女の表情でした。
 平静など、保てるわけもありません。
「ひ…みつ…?」
窒息しそうな魚のように、やっとのことでそう返します。
 ひとつ、美鈴が深くうなずきました。
「ええ、お嬢様の、命に関わる秘密です。」
そのフレーズを聞いて、咲夜はついに取り乱しました。
 無理もありません。
 自分の全てよりも優先し、慈しみ、懐中時計の歯車を捧げているレミリアの、命に関わることなのですから。
 美鈴の声色、その眼差しを疑う余地など微塵にもありませんでした。
「なに、なんなの…?」
いささか、その声は震えておりました。
「知ったら、もう戻れませんよ」
厳しい目、警告色を強める声。
 知らない方が身のためだと、咲夜は直感的に分かりました。知ってしまえば、いままでの日常は遠ざかり、ほんとうの思い出になってしまうと。
 しかし、それでも。
「……かまわない」
 咲夜は半分の覚悟と、半分の好奇で、そう答えました。秘密とはいえ主の命に関わることを知っておくのは従者として当然だと、そう言い聞かせながら。
 美鈴は咲夜に詰め寄ると、そっとその秘密を耳に打ち明けました。

 その様子を。
 館の最上階から見下ろす、紅い眼差しが。


◆◆◆



 紅い、満月の夜。
 その狂おしいほどの光は当然、レミリアの寝室にも入りこんでおりました。このあまりにも美しい月は、どうにもレミリアの本能的な衝動を煽り立ててしまうのです。
 食事を済ませ幾分か治まってはおりますが、所詮は炎のひとつが消えただけにすぎません。変わらず、そういったものは彼女の心を焼いていたのです。
 レミリアはそれを一人、喜んでおりました。
 淫猥な情動に満たされる、ある凶暴とも言える心の内。
 それが彼女を救う唯一の方法であり、完全に近づいていくのです。吸血鬼として愛しい者を愛する為には、それより他に方法が無かったのです。
 レミリアは天蓋のついたベッドに腰かけ、窓から月に微笑みかけておりました。
 微笑みとはいっても、ふたつの宝石のような赤い眼差しは妖しく光り輝き、とてもではありませんが、心穏やか、慈しみなどとはかけ離れています。
 灯りは、すでに消えておりました。

―――コンコン

 誰かが、ドアを二度叩きました。
「お嬢様、咲夜です」
「入っていいわよ」
月を眺めながら、レミリアは答えました。
 業務的なあいさつをしながら、咲夜が部屋に入ってきます。手にはティーセットの乗せられた銀色の盆。いつもの、アーリーモーニングティです。
 しかしレミリアは、月を眺めたまま。
 主の様子が、やはりいつもと違うことに、咲夜の胸の中で鼓動がひとつ大きく跳ねました。それは美鈴から聞いた、あの秘密のことも影響したのでしょう。
「今宵は、月がきれいですね」
咲夜は平静に努めながら、まずは手紙の書き出しのような話を投げかけました。
「ええ、とっても、気が振れてしまいそうなくらいだわ」
レミリアの明らかな心情の昂りを、咲夜はその一言だけで察しました。
 狂おしいほどの、紅。
 そんな光の中、とりあえずは盆をベッド近くの小さなテーブルへ。
「お嬢様、本日はどうにも何か思い詰めていらっしゃるご様子ですね」
おそるおそる、しかしいつも通りに冷厳に、咲夜は主に向かって声をかけました。
「好奇は、時として身を滅ぼすものよ…」
 紅い月光の中、ゆっくりとレミリアが咲夜を振り向きます。
 背筋も凍りつくほどでした。
 狂気的な光を放つレミリアの目に射すくめられて、咲夜は身じろぎどころか、呼吸すらままならないほどでありました。
 レミリアの表情は微笑んでおりますが、その微笑みは何かしらの誘惑であることを、咲夜は直感的に察してしまいました。
 さすがの咲夜も、初めて見る主の表情に戸惑いを隠すことができません。
「ふふ、どうしたのかしら、怯えているの?」
蠱惑的な声色での問いかけ。
 レミリアはゆっくりと立ち上がり、咲夜のほうへと歩み寄ります。
 咲夜は、動けませんでした。
「い、いえ、そんなことは…」
主の眼差しを直視できず、咲夜は視線を床に落とします。
 月明かりに、主の影がうごめいて。
「こっちを向きなさい」
レミリアは咲夜のしなやかなあごを持つと、なかば強引に自分の方へ向かせました。
 身長は咲夜の方が高いというのに。
 思わぬ仕打ちに、咲夜の表情が引きつりました。それはまるで、いまから親に叱られようとしている子供のようです。
 レミリアは、妖しく嗤いました。
「あら、いい顔をするじゃないの。
 驚いたわ、瀟洒で完全無欠みたいな貴女が、そんな顔をするなんてね」
「そんな、お戯れを…」
「その言葉遣いはきらいだわ」
レミリアは咲夜の言葉をさえぎって、彼女の薄く開いた口に中指を挿し入れました。
「―――んぅッ?!」
思わず咲夜が悲鳴を上げます。
「ねぇ、答えてごらんなさい、咲夜。
 あなた、わたしの秘密を美鈴から聞いたのでしょう? どうなの?」
また、レミリアが誘惑的な笑みを浮かべました。
 問いかけながらも、咲夜の口腔をいじめる指は止めません。
「んッ……ふ、うッ…」
「そんな声も出すのね、ふふ、ねぇ、咲夜、貴女はいくつになったのかしら?」
咲夜の口に押し入れた指で熱い唾液の絡む舌を執拗に撫でまわしながら、レミリアは朝方と同じ内容の質問を重ねます。
 しかし咲夜は口と舌を犯されて、ただ、甘い苦痛の鳴き声を漏らすだけでした。
 肉と水の乱れる卑猥な音が、暗く紅い部屋に鳴り続けます。

 ほろり。

 咲夜の目から、珠のしずくがこぼれ落ちました。
 それがまたどうにもレミリアの抑えきれない情欲と嗜虐心を煽り立てるのですが、同時に、彼女の中にいまだ残る良心を呼び起こしたようでした。
 レミリアは指を止めると、やがてやさしく引き抜いてやりました。
 よだれがツゥっと糸を引き、月光にさらせてます。
 同時に、咲夜のひざがカックリと折れて、彼女は糸の切れた操り人形のようにして床へと崩れ落ちてしまったのです。
 喘ぐように息をする咲夜と、咲夜の唾液に濡れた自分の指を交互に見やりながら、レミリアは、とんでもないことをしてしまったと感じました。
 官能に訴えかける、咲夜のものが絡みつく自らの細い指。
 激しい葛藤が、レミリアを襲いました。
 そんなレミリアの顔色をちらっと盗み見て。
「どう、されたのですか…? おやめになるのですか…?」
主を見上げて、咲夜が細い声で言いました。



「咲夜さん、お嬢様の命に関わる秘密ですけどね…。
 吸血鬼は他者を愛すると、愛した者の血しか飲めなくなるんですよ…。
 やがて吸血の衝動に支配されてその人を喰い殺し、やがて自分も餓死してしまう…。
 だから、情緒的でおやさしいお嬢様はそういった想いや情を抱かぬように、
 動物的な肉欲で塗りつぶして、いままで事無きを得られてきたんですよ…。
 あはは、お嬢様は吸血鬼に向いてないですよね!
 人を始め、あの方にとってほとんどの生き物は食物だっていうのに!
 わたしたちのことを、本気で愛そうとしているだなんて、ね…。
 ―――だから、咲夜さん、これはわたしからのお願いで、わがままです。
 もし、もしお嬢様に、夜の情事を望まれたのなら、受け入れてあげてください。
 お嬢様はそうすることでしか、わたしたちに愛を伝えられないんです…。
 これが、お嬢様の持って生まれた、運命なんですから…」



 いまだ、ためらうレミリア。
 その震える指先、白く、しなやかな指先を、咲夜は愛しく手に取って。
「お嬢様、私は……咲夜は……」
今度は自分から奉仕するように、主の指先を口に含みました。
 なんと甘美な媚態でしょうか、レミリアの消えかかった眼差しの妖光が、まるで油を注がれた炎のように、一気に勢いを増します。
 レミリアは凶暴な笑みに顔をゆがめました。
「なぁに? 主に向かって、自分からしようというの?」
隠しきれない嗜虐願望。

 まるで、紅い月。

 もう、後戻りができないほどに満ち満ちてしまったのです。
 咲夜は主のそんな愉悦を浮かべた表情を目の当たりにして、とうとう心を決めました。指先に、いやらしくキスをひとつして頬ずりし。
「申し訳ございません、お嬢様……咲夜は、さくやは…」
媚びた声と、うるんだ瞳。
 紅い月光を背に受けた、レミリアの優美なシルエット。
「いいわ、こんなに月も紅いから、本気で犯すわよ」
言い終わるが早いか、レミリアは乱暴に咲夜の腕を引いて彼女を立たせると、やさしさの欠片も感じさせないほどの力で、その華奢な身体をベッドへ押し倒しました。
「あンッ! ァァ、お嬢…さま……んっ」
相手の気持ちなどお構いなしの、強引なキス。求めるままにくちびるを貪り、舌を絡ませて、相手の喉奥へと自らの唾液を流し込み、身体の奥から支配する。
 レミリアは咲夜のくちびるを、口腔を、舌を、喉を征服しながら、頬に両手を這わせます。そのおり、指先が耳に当たり、咲夜は口を封じられながらも淫らに鳴きました。
 言葉で咲夜の心を征服するため、レミリアはくちびるを離します。
「ふふ、耳がイイの? あなたが、こんなになるとはね…」
「お、お嬢様、耳は……耳はゆるしてくださ…ァアッ!」
舌を這わされ、挿れられ、その濡れた感触と、淫靡に響く肉感的な湿った音は耳を突き抜けて、あたまを直接的に犯されているようでした。
 耐えがたい快楽が、咲夜の身体を貫きます。
 でも、彼女は抵抗らしい抵抗をしようとはしません。
 いいえ、できないのです。
 身体の奥底のほうがジンジンと熱を帯びてきて、咲夜は犯されることを望み始めてしまっていたのです。その証拠に、両の腕はレミリアを求め、自分におおいかぶさる主を物欲しげに抱きしめていました。
「アッ……ううう…」
執拗に耳ばかりを責められて、気がどうにかなってしまいそうでした。
 腰をなまめかしくくねらせて、寂しい身体の各所を誤魔化すので必死になっています。
 その様子に気づいて、レミリアは耳から順に下へと舌を這わせておりていきます。耳から首筋へおりて、いつもは牙を突き立てる箇所へ、キスをひとつ。
 咲夜がその感触に身を震わせました。
「大丈夫よ、噛み殺したりしないわ。
 だってあなたは……ふふ、わたしの、お気に入りなんだもの……」
レミリアは言葉で犯すように、耳元で甘くやさしく囁きました。
 咲夜の首元を留めているリボンはそのままにして、ひとつひとつ、焦らすようにゆっくりとボタンを外していくと、胸のふくらみで押し上げられていた青の給仕服と白いブラウスが花弁のように、ひとりでにふわっと開きました。
 黒い下着に守られた上品な胸が、煽情的な深みの影を作っております。
 それが窓からの月光によって強調され、さらに征服欲を掻き立てるのです。
「ああ、さくや、こんなに美しいあなただもの、だれにもやらないわ…
 そう、だれにも、だれにもよ! くれてやるものか…!」
そう誰にともなく叫ぶと、レミリアは咲夜に何ごとか言う時間も与えずに、彼女の口を自身のくちびるで塞ぎました。
 咲夜はただ、されるがままに恍惚としております。
 そのままレミリアは咲夜の胸元に手をやると、ちょうど谷間の上にある下着の留め具を外しました。無造作に下着が取り払われると、それまで押さえつけられていた乳房がありのままの姿を取り戻し、やわらかく揺れます。
 その頂点にある桃色の突起は、すでに張りつめてしまっていました。
 しっとりと、肌に浮いた薄い汗。
 指先でかすかに、撫でるように頬から首筋へ、鎖骨、やがては乳房。淫らにも勃起したその先を指先でこするように摘まめば、咲夜は良い声で鳴くのでした。
 摘まんでじわじわと圧を加えていったり、突起の先を手の平で転がすように撫で回したり、はたまた濡れた舌先で跳ね上げるように舐めたり、あまりにも淫乱な反応がレミリアの嗜虐心を満たし、彼女は執拗なほど咲夜の胸をいじめ抜きました。
「お、お嬢様、そんな、そこ、ばっかり……あンッ!」
「ここだけでは足りないというの?
 主を差しおいて、自分ばっかり気持ちよくなっているくせに、おまえは……」
「う、うう、申し訳ございません……」
快楽の強い色を表情に浮かべた咲夜を見下ろし、しかしレミリアは満足そうな笑みを浮かべています。普段からいつなんどき、どのような状況にあっても、表情をほとんど変えることがない咲夜が、こんなにあられもなく乱れるだなんて。
 淫に堕ちた表情。
 うわずった嬌声。
 レミリアは乳房から手を離し、咲夜のなめらかな腿に指を這わせました。初めは外側を撫で、やがては丸みに沿って内側のやわらかな肉へ。
 内側は、いやらしく湿っておりました。
 次に自分がどこを責められるのかを、咲夜は察しました。分かっています。こちらの黒い下着は、隠している秘部からあふれ出た肉蜜ですでにシミになるほど濡れています。
 そんな淫乱な自分の秘部を、主にいじめ抜かれる。
 果たしてその快楽と恥辱に耐えきれるのでしょうか、咲夜はそんなことを混濁した意識の中で思い、身体の芯を火照らせていました。
 そして。
「ッあンッ!」
レミリアの指が濡れた下着の上から、秘部にある膨れ上がった突起を撫でました。
 稲妻のように全身を駆け抜けた強い快感に、咲夜は思わず甲高い嬌声を上げ、背を反らせました。そしてすぐ、部屋の外にその声が漏れてしまう危険性を無意識に感じ、咲夜は急いで口を手で押さえます。
 しかし。
「だめよ、もっとあなたの淫乱な鳴き声を聞かせてちょうだい」
そう言って、レミリアは器用に咲夜の両手を束ねると、片手で彼女の手首を頭の上で押さえつけ、もうどうにも咲夜が声を抑えられないように拘束しました。そして彼女の下着の下へ指を入れ、肉花のふくらみへさらに強い刺激を与え始めたのです。
 秘部のふくらみは、そのすぐ真下にある裂け目からあふれ出した肉蜜でぬるぬると滑って、咲夜がいままで感じたことのない淫猥な感触をもたらします。
「ウああッ! アッ! アアッ! ああああ!」
あまりにも強い快感に耐えかねて逃れようと足掻くも、レミリアによって押さえつけられている身体は自由が利かず、ただ、押し寄せる性的快感に悶えることしかできません。
 くちゅくちゅと、自分の秘部が鳴く卑猥な音がずっと聞こえてきます。
「ア……アアア…ッ!」
身体の奥底から、なにか、ものすごいものがこみ上げてきます。
 身体中が痙攣し始めて、嬌声はもうどうにも止めることができません。咲夜は、もう絶頂の、その間際にまで至っていたのです。
 もうすこしで。
 あとすこしで、そのものすごいものが自分を完全におおいつくして。
「お、お嬢様ァ! も、もうだめです、もう、もうッ!」
「あら、イッてしまうの? さくや、ねぇ、イクの?
 主を差し置いて? 自分だけ達してしまうの、ねぇ、さくや?」
さらに強く、圧迫するようにレミリアは蜜にまみれた肉の豆をこすります。
「アアアッ! ごめんなさいお嬢様、ごめんなさいッ!
 わたし、もう、もうむりです、ごめんなさい、お嬢様、アッアア……!」
咲夜がもう絶頂しようというその瞬間になって、レミリアは手を止めました。そしてあろうことか、そのまま彼女の秘部から完全に指先を離してしまったのです。
 咲夜は絶頂を寸止めにされてしまい、苦しそうな表情で主を見やりました。
 物欲しそうな目には、涙が浮かんでおります。
「お、おじょう、さま……なんで…」
 咲夜は激しくうずく肢体をくねらせます。
 レミリアに両手を封じられておりますから、咲夜は絶頂寸前の秘部を自分で愛撫して達することなどできません。本能的に咲夜は分かっていました。いつもならば憚られるようなおねがいを、絶対的な主にしなければならないのです。
 この苦しみから逃れる、ただひとつの道でした。
 でも、でも、そんなことは。
「ふふ、苦しそうね、とってもかわいい顔をしているわよ、さくや」
いじわるな、主の言葉。
 しかしながら、レミリアも呼気を乱し、その頬は紅潮しております。
 いつのまにか彼女のまとう花の香りに、汗と、そして蜜の匂いが混じっておりました。
「でも、まだ果てさせてあげない。いいこと、勝手に自分で触って達したら許さないわよ」
レミリアは咲夜の手を放してやりました。
 すぐにでも秘部を触りたいのでしょう。咲夜の手は震えていますが、主の言いつけを忠実に守るため、いまは露わになった胸を隠し、恥じらうだけにとどまっています。
「そう、いい子よ、ごほうびをあげるわ」
レミリアは下着を脱ぎ捨てると、秘部を隠すナイトドレスをたくし上げました。
 幼い、薄桃色の秘部はしかし蜜で濡れておりました。
 したたるほどの淫らな液が、腿をぬるりと伝い落ちています。
「さくや、舌を出しなさい」
もう何も考えられず、咲夜は命令の通りに口を開けると濡れた舌を差し出しました。
 レミリアはそのまま咲夜の顔に跨ると、彼女の舌に自らの肉花を押しつけたのです。
 濡れた肉同士がこすれて、催淫的な音を鳴らします。
「ふッ……う…おじょうさま…」
あまく、熱く、とろりとしたレミリアの愛液を舌に絡ませるように。咲夜はまるで犬が乾いた喉を潤そうとするように、夢中で主の花を舐めました。
「ンッ……ふふ、まるでイヌね。もっと強く舐めなさい、わたしが満足できるように」
威厳はあくまで保ったまま、しかしレミリアの息にも嬌声が混じっています。
 無理もありません。
 なぜならレミリアはもうずっと長いこと、こうやって肉欲に溺れるということをやってきているのですから。その身体はすでに快楽の味を覚えてしまっており、性感帯をいじめ抜いたことによって、達することがクセづいているのです。
 こうして秘部を強制的に舐めさせるというのは彼女が持つサディズムを十分に満足させてくれる淫行でありますし、この舌の感触がたまらなくさせるのです。
 しかも、あの完全で瀟洒な咲夜を犯して乱れさせ、彼女の舌、口、喉、加えてはその奥の深いところにまで自分の蜜を流し込んでいるという、どうしようもない背徳の味が、レミリアの淫に堕ちた身体をさらに感じさせていました。
 一定の強さと間隔で、陰部のふくれた突起を跳ね上げる咲夜の舌。
「ッハぁ!」
ひときわ強い快感の波。
 レミリアは思わず咲夜の頭を両手で抱えると、自分の秘部へと押しつけました。
 その扱いはまるで性欲処理の道具のようでした。
「ハ……アアアッ…!」
邪淫の王が自らの男を可憐な娘の喉奥へ押し込むような姿。
 レミリアは紅い月の光を受けながら、全身を反って天を見上げました。
「アッ! ァ、ハハ! い、イイわ、さくや、このままイかせなさい…ッ!」
咲夜は苦しそうに悶えながらも、主の細い腰に腕を回して服従しました。
 やがて。
 レミリアは腰をガクガクと痙攣させて。
「~~~~ッ! ………ハァッ! ハァッハァッ…」
息を完全に止めたまま、一声も上げずに絶頂したのでした。
 満足したレミリアは咲夜の頭をそっと放してやりました。同時に、レミリアの腰に回された咲夜の腕もするりと解けて力なくシーツへと滑り落ちます。

―――どんな顔をしているの、さくや

 レミリアは咲夜の表情がどうなっているのかを見たくて、うしろへ下がりました。
「はぁ、はぁ、満足、していただけましたか…?」
彼女の花のかんばせは愛液に濡れ、淫らなほどに虚ろでありました。
 従順な咲夜の、脱力し、虚無感に満ちた表情。
 レミリアの心に、最後の炎が灯りました。
 薄桃色に火照った頬に手を当てて。
「まだもうすこし、おまえの一番の表情を、わたしだけのものにしなければね…」
言って、レミリアは黒い下着を乱暴に引き剥がします。
 あらわになる、咲夜の花の裂け目。
 レミリアが中指と薬指を揃えて挿し込めば、秘肉は口淫するようにぬるりと愛液を絡ませて、なんの抵抗もなく咥え込んでしまいました。
 くちゅりと肉の開く音が鳴りました。
「あン……アア…」
なにも映し出していなかった咲夜の表情に、快楽の色が滲みます。
 レミリアは徐々に淫らなそれに変わっていく咲夜の顔をじっと見下ろしながら、満たされた表情で見つめていました。咲夜の呼吸が乱れ、荒くなるのに合わせて、肉壷を犯し搔き乱す指も強く、激しく。上方のざらついた肉壁をひっかくように。
「ふああッ! ウアッ!」
止めどなく秘部から蜜が溢れて鳴きます。
 咲夜はシーツをぎゅっと握りしめ、ただ、押し寄せる快楽に蹂躙されました。
 さらに激しさを増すレミリアの手淫。
 抑えられない喘ぎ声。
「ああ、いい顔、ぞくぞくするわ…」
「ンンッ! おじょう、さま、言わないで……ああッ!」
咲夜は、いま自分がどんな顔をしているのか、よく分かっていました。でも、そんな顔を晒している自分にどうしようもなく興奮してしまうのです。
 レミリアは、もう加減が利かなくなってしまいました。
 咲夜の中を情動が導くままに犯し、もっと、もっと彼女の喘ぐ声が聴きたくて、もっと彼女の支配された従順な表情が見たくてたまらないのです。

―――おまえは、わたしのもの

 それこそ、王の矜持なのでした。
「アアアアッ! おじょうさま、ゆるしてくださいッ! ゆるして…ッ!」
咲夜が大きく背を反り、全身を痙攣させました。
 苦痛にも似た激しい快楽に歪んだ、うつくしい花のかんばせ。
 レミリアはそっと咲夜の耳元で、囁きました。
「いいわよ、これで、おまえはわたしのものになるの…」
「はいっ、アッ、もう、もうッ! おじょうさま、おじょうさまぁぁぁッ!」
限界まで背を反ると、咲夜は白鳥のように鳴いて絶頂を迎えました。

 乱れた呼吸と共に、開け放たれたブラウスからのぞく白い肌が、なまめかしくゆっくりと上下に動いております。
 レミリアが指を肉壷から引き抜けば、あふれた蜜がシーツに垂れてシミを作りました。
 肉感的な、接吻の音。
 せめて、やさしく。
「咲夜……わたしは………………ああ……すまないわね……」
湿っぽい色。泣き濡れたような。
 いまだ息の整わない咲夜は言葉を返す代わりに、主のあどけない頬に手を当てました。
 そして、ゆっくりと首を横に振って見せます。
 十分でした。
 レミリアは倒れ込むようにして、咲夜に身体を重ねました。指と指が絡まり合って、孤独がまたすこし埋まったことが感じられたのです。
「お嬢様、咲夜はずっと、おそばにおりますから…」
「………ええ」
レミリアは目を閉じました。
 咲夜の愛用するさわやかな香水の香りが、首筋からほのかに感じられました。
 あたたかな温度。
 こころまで。
「―――ありがとう」
聞こえるか否かの微かな声で、レミリアは言いました。
 咲夜は、ただ、頬に温かなしずくを伝わせて。
 レミリアと、運命を受け入れたのでした。



 狂ったように紅い月は未だ夜にあり。
 色は、月に寄り添う月下美人に染み入り滲むのでしょうか。
 咲く花がそれを望むなら、たとえいつか花弁を散らしても、どうか月の中で。



◆◆◆



 おやさしい読者さま。
 どうか彼女たちを、笑わないであげてください。
 どうか彼女たちを、哀れまないであげてください。
 ただ、この歪ながらも哀しいまでに純粋な愛を見届けて、しっとりと心を濡らしていただければそれで良いのでございます。
 なぜなら。
 月は夜と共にあり、花はまた月夜と共にあることを望んだのです。
 手折られぬ花。
 ああ、読者さま。
 いとしい人はおられますか。
 おわすならばどうか、声が、手が、心が届かずとも、想いだけは大切に胸の奥どこか深くに仕舞っておいてくださればと、わたくしは願います。
 人は誰しも、癒えぬ痛みと共に愛を抱くもの。
 わたくしは、そう願います。
 そしてそれを、どうか他者のそれだけは、あなたも大切に想えますように。



         令和元年 十一月八日   文文文士
お読みいただき感謝の極み、文文文士です。Twitter、pixivでもこの名前で活動しております。始めたてで投稿数は少ないですが、ちょっぴり哀しい文学をテーマに精進していきます。おなじ性癖を持つ方との出逢いを楽しみにしておりますので、かまってやってください。おれの性癖を食らえ
文文文士
コメント




1.性欲を持て余す程度の能力削除
素敵なレミ咲でした。ご馳走様です!