真・東方夜伽話

ゆゆゆかは解釈違いなんですけど!!

2019/05/19 17:27:59
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ゆゆゆかは解釈違いなんですけど!!

野咲

ゆかゆゆ派の紫がゆゆゆかされる話です。

*ゆゆゆかです。ご自身で地雷を避けてください。















 八雲紫と言えど怖いものはあるものだ。
 主には人間関係とか。いや相手は最早人間ではないのだけれど。

「ん……」

 甘い吐息を漏らした幽々子に紫は胸の中で固く拳を握った。所謂ガッツポーズ、あるいは勇気を奮い立たせる心象風景としてである。
 今日はいける。いっても拒絶されない。
 うきうきとした気持ちと本当に大丈夫だろうかという気持ちを戦わせながら口付けを深くしようと舌を伸ばす。肩に触れる指に少しだけ力を籠めるとぴくりと震えて、それだけで一瞬躊躇する。
 ――八雲紫と言えど、こと好きな相手に対しては臆病だ。

「……っ、」

 幸い唇は薄く開かれる。やわらかく誘い込まれて今度こそ華奢な身体を強く抱いた。この瞬間を何度経験しても浮かれてしまうくらいには溺れていることを自覚する。
 控えめに漏れる吐息。強く閉じられ、一瞬開いては絡む視線から逃げていく瞳。染まった目じりの色。震える身体。
 何度抱いても実感が湧かない、ふらりと消えてしまいそうな存在のすべて。
 上向いた頬を唾液が零れていく。微かに動く喉の音を感じながら逃げていく舌を何度も捕まえた。
 止めるタイミングを逃して味わっていると幽々子が苦しそうに瞼を震わせて指の先で紫を掻く。

「、ぁ、ぅ……」

 その癖名残惜しそうな声を出す彼女に、ひどくひどく溺れてしまう。

「幽々子」

 呼びかけると呼吸を整えながら見上げて来る。涙を溜めて上目に見るのは心臓に悪いからやめて欲しい。いややっぱりやめて欲しくない。
 ゆかり、と苦しそうに呼ぶのも。何度だって聞きたい。まって、という言葉でさえ心に甘い。

「待てないわ」
「……ゃ……」

 落ち着こうとするかのように心臓の前に手が置かれている。幽々子はそれをそのまま今度は紫の胸へと当てた。まって、ともう一度繰り返す。
 拒絶ではないようだが本気で紫をなだめたいようだった。首を傾げて仕方なくすとりと正座の状態に戻る。まるでお預けされる犬のようだが相手が彼女なら仕方がない。
 幽々子は何度か深呼吸をして、「あのね」と小さな声を出した。

「わたしも、紫に触れてみたい」
「イヤ」

 即答と言うに相応しいスピードだった。幽々子は少しだけ目を見開いて聞き間違いだとでも思ったのか軽く首を傾げて繰り返そうとした。

「わたしも」
「ダメ」

 腕で大きく×を作る。幽々子は困惑したように眉根を寄せた。

「どうして」
「どうしても」
「紫はするじゃない」
「私はいいのよ。でも幽々子はダメ」

 きっぱりと拒絶する。幽々子はなおも問う。

「わたしに触れられるのは嫌?」
「違うわ。そんなわけない」

 でも、と続けようとした。だが幽々子はその言葉で安心したのか構わず手を伸ばしてきた。優しく優しく、触れるか触れないかに布越しに指先が近づく。
 どくりと心臓が跳ねて、そこを甘やかな声がさらに叩いた。

「おねがい、ゆかり」

 ――幽々子はなんてずるい存在なのだろう。
 彼女によって死に誘われる生き物の気持ちが分かり過ぎる。彼女の願いならなんでも聞いてあげたいと感じる。望むままにならなければと強制される。ぐらぐら、熱っぽく脳が揺れて思考が停止する。
 だが、
 だが。
 例え相手があの西行寺幽々子であっても、八雲紫もまた名声轟く八雲紫だ。

「ッ、待って待って待って!」

 亡霊の手はいつの間にかしっかりと頬を捉えている。うっとりと見つめる目にまたぐらりとさせられながらも紫は必死にそれを止めた。幽々子は小首を傾げてどんな少女よりも少女らしく「なあに」と問う。

「あ、待てないわって言う?」
「言わない! 私の幽々子はそんなこと言わない!」

 幽々子は拒絶の強さに驚いたのかぱちくりと瞬いた。押しが弱まった隙に慌てて距離を取ろうともがきながら、紫は半ばパニックの頭でこう叫んだ。

「幽々子がそういうことするなんて解釈違いもいいところなの!!!」

 叫んでしまった。
 ぎゅっと目を閉じ、本気で言葉を音にしてしまった。それは幽々子の耳に届き、そしてかなり遅れて紫の脳に入って来た。
 まずい、と気づいたのはそこからすぐのことだったけれど時既に遅いことに変わりはない。

「……ゆかりのばか」

 ぁ、と紫の口から情けない声が漏れた。幽々子は一瞬だけむくれて、悪いことにすぐに冷めた頬になり視線を逸らした。そのまま音もなく立ち上がる。

「貴女の思い通りにならないわたしはもう行くわ。帰って好きなお人形の夢でも見たらどうかしら」

 去っていく背に掛けられる声が今更にあるはずもない。幽々子は一瞥もせずにただ静かに部屋を出て行く。
 開いた障子から一度入った光は閉じた途端に部屋の景色を暗くして、紫はため息もつけずに深く深く項垂れた。


  ◇


 紫と幽々子が喧嘩することはあまりない。
 どちらかが拗ねて見せることはある。けれど見せるだけだ。紫は幽々子に甘え放しだから不満の抱きようもなかったし、幽々子は幽々子で自分が大事にされていることを知っている。
 それにお互い、重大なことほど胸の内に飲み込んでしまうタイプである。特にことこの関係性に置いて。

「やっちゃった……」
「何をしたのか知りませんけど、早く仲直りしてくださいね」

 お酒、と言ったのに藍が置いたのは熱々の緑茶だった。言うことを聞かない式だとスキマを開いたが瓶もグラスも即刻取り上げられてしまう。

「いけません。素面で考えてください」
「やだぁ。幽々子に嫌われたとか考えただけで死ぬ」
「じゃあ考えずに謝っておいでなさい。言っておきますけど紫様は丸三日以上ふて寝してらっしゃいましたからね。これ以上先延ばしにすると知りませんよ」

 式の癖に溜息まで吐く。行儀悪くちゃぶ台に身体を乗せて紫はぐったりと呻いた。うう、というやる気のない声に藍は膝を揃える。

「妖夢も今朝文句を言いに来ましたよ。幽々子様が必要最低限しか言葉を発されないので胃が痛いとか、お食事もされないので自分も食べにくいとか」
「幽々子の怒りが半刻以上持続するなんて相当だわ」
「紫様の所為なんでしょうに」

 謝れば赦してくれますよ。式は無責任にもそう言った。だが紫は本当だろうかと心の中で考える。
 幽々子が怒る理由は分かる。
 紫が拒絶したから、もちろんこれはあるだろう。まず第一にそこで自分は彼女を傷つけてしまった。その上でとどめを刺したのだ。
 自分の思うままの幽々子であれと。
 幽々子は普段からできる限り紫の望むように動いてくれている節がある。言葉にするにしてもしないにしても、大きいことも小さなことも、表も裏もよく踏まえて。
 天真爛漫さの裏にある慎ましさを持って。
 彼女が一歩下がって立ててくれるから、紫はいつだって甘えていられる。
 それは確かに彼女の性格柄もあるだろう。だがそこには間違いなく努力もまた存在している。
 彼女の行動は幽々子の善意と紫への敬愛の為せるもの、紫を大事にしたいという気持ちから彼女はそれをしている。多少彼女自身のが喜びを抱くためというところもあるだろうけれど、間違いなく我慢もしているのだ。
 だからこそ、紫がそれを強要したら関係性は壊れてしまう。
 幽々子はそれで怒っている、のだと思う。
 紫が関係の均衡に不用意に指を掛けたから。

「謝って済む話なのかしら」
「済まないのならなんでもしてあげるべきでしょう。だいたいいつもは大抵の我儘なら喜んで聞いてあげているじゃないですか。どうしてまた喧嘩なんて」

 藍の言う通りだった。幽々子は滅多に我を出さないから、お願いならなんだって可愛らしい。春を集めようとした時だって本当は助けてあげたかった。
 今回の望みだって、本来ならむしろ喜ぶべきだったのに違いない。
 ずるりと身体を起こすと藍はもう着替えを持っていた。出掛けなければと考えれば素早く用意を進めてくれる彼女はなんだかんだ言っても有能な式なのだろう。助言だって的外れなわけでもない。小言が嫌なだけで。
 苦々しい顔をしていても彼女は用意に手を抜かなかった。髪の一本まで整えて貰って、紫は「行ってくるわ」と気が進まなさそうに告げる。

「遅いお帰りを祈っております」

 藍の言葉に覚悟を決めて、うん、と深く頷いた。


  ◇


 振り返るのを我慢するような微かな筋肉の強張りが可愛らしい。
 紫は幽々子が好きだ。嫌われても諦められないくらいに好き。傷つけられるかもしれなくとも距離が取れないくらいに、好き。
 スキマを開いた場所は幽々子の部屋の隅だった。顔は出さずに呼びかけて、入ってもいい、とできる限りの穏やかな声で問う。

「だめって言ったら?」
「幽々子の意志を尊重しますわ。十分後にまた来るけれど」

 躊躇うような間があって、けれど結局幽々子は「いいわ」と答えた。スキマが広がり紫の足が畳に触れる。桜色の髪は揺れず文机に向かったまま振り返らない。

「この間はごめんなさい、って言わせてもらってもいい?」
「紫の本心だったのなら謝る必要はないでしょう。貴女は自分の考えを曲げなくてもいい」
「幽々子を傷つけるなら改めたいの」

 好きな相手というのは恐ろしいものだ。だってそこには常に嫌われるかもしれないという疑念が付きまとうのだから。こんな風にぴりぴりとした状況なら尚更、紫は怯えて萎縮しながら懸命に言葉を紡いだ。

「ごめんなさい。私が悪かったわ」

 幽々子が振り向いた。困ったように眉を下げる彼女もまた紫を怖いと思ってくれているだろうか。そんなことを思考する。

「……まだ怒っているつもりだったし、たくさん言いたいことがあったはずなのだけれど」
「うん」
「紫がそうやって仲直りをしようとしてくれるだけで全部消えてしまうの」

 ぱあ、紫の表情が一瞬で明るくなる。だが反対に幽々子の表情には影が落ちた。

「でもそういう自分が嫌いだわ。紫はずるい」
「ご、ごめんなさい」

 一度緩んだ表情に悲壮感は戻らなかったが、紫は慌てて笑みを隠して謝罪した。
 幽々子は迷ったように視線を下げて畳に向けて言葉を投げる。

「紫が他人に理想を見てしまうところがあるのは分かっているつもりよ。性格なら仕方がないし、将来像に合わせて人間を教育するのに便利なのも分かってる。でもそれってはっきりと言葉にされると窮屈だわ。それに、貴女が好きなのが本当に私なのかって怖くなる。紫はわたし自身じゃなくてもっと別の、貴女の頭の中にいる誰かを愛しているんじゃないかって」

 恐れを、幽々子ははっきりと口にした。紫がそうあれと望んだからかもしれないし単にぶつけたかった言葉の欠片なのかもしれなかった。どちらにしても紫は頷くしかなかった。

「紫の望むままでいないわたしは、要らないかもしれないって。どれだけ一緒にいてもそれは変わらない」

 そんなことはない。紫はそう言おうとした。だが今その言葉にはあまりに信憑性がなかった。
 紫はつい数日前に幽々子の意志を完全に否定したのだ。それも理由も言わないまま、ひどく一方的に。
 幽々子、と紫は呼んだ。冥界の主はあまりにも不安そうにその音の意味を探って、それから腕を伸ばしてきた。
 服には触れずに止まったその手に自分の手を重ねて、紫は視線を逸らしながら白魚と表現するに相応しい透けそうな指先を胸元へと導く。
 幽々子は困ったような顔で見上げてから、紫の複雑そうな表情に眉を下げたままくすりと笑った。

「無理しなくてもいいのに」
「幽々子こそ。誰かに言われてしなきゃと思ったとかじゃないのよね」
「まさか」

 気付けば耳元に吐息が触れている。寄せられる身体は触れているのに重さがなくただ柔らかい。そんなことに今更心臓が跳ねた。

「ほんとうに触れたいわ。わがままだから嫌いになる?」
「ならないわ、お姫様」

 窺うように幽々子が覗き込む。その瞳は瞼に隠れて、ゆっくりと口付けに移行した。
 唇だけで食み合うような浅くも深くもないキスを続けながら幽々子の手が紫の肩を押す。畳の上に倒されて、あら、とどこか不思議そうでさえある声を聞いた。

「まずはお布団を敷かなきゃだったわね」

 ごめんなさい、と続ける声は紫が思うよりもずっと楽しそうだ。
 幽々子が楽しいなら仕方がないと、紫は『解釈違い』の状況に怯えながらも小さく笑みを返した。


  ◇


 触れられたくない訳ではないのだ。触られるのが嫌な身体では決してない。
 幽々子に触れながら自分で慰めていることもあるし、幽々子がいないところで満たすこともあるし。肉体的な快感なしで性的欲求を完全に解消できる方ではない。
 むしろ欲しがりだとは思う。ただ幽々子に与えて欲しくはなかっただけ。
 幽々子もまた紫が触れられるのが嫌ではないと思っていたから強い拒絶に驚いたのだろう。

「紫はやっぱり綺麗ねえ」

 うっとりと幽々子が言った。
 素肌で寝転ぶシーツは冷たかった。廊下から灯りの差し込む部屋は薄明るく、せめて何か掛けてくれないものかと考える。
 とは言えいつもそう言う幽々子を無視している身だ。ただただ呻いて顔を隠すと、幽々子がくすくすと笑う声が聞こえた。彼女は楽しいこととなれば子どものように積極的なのだ。それを思い出す。
 やわらかな材質の袖が肌を掠めた。上に被さるように陣取って、彼女は動物が挨拶でもするように鼻で紫の頬を擦った。くすぐったい感覚に身を震わせると何故か優しく頭を撫でられる。
 顔を隠していた手を幽々子の手が避ける。いや避けるように導かれたと言った方がいいかもしれない。彼女はひとつの力も入れていなかった。だから自分で露わにしたようで恥ずかしかった。
 目を開ければ幽々子が優しく微笑んでいる。

「かわいいわ、紫。触れるわね」

 その言葉だけでかあっと身体の奥に熱が溜まった。自分は幽々子に触れられたかったのかもしれない、そう考えて吐き気を催した。心の中で必死に首を振って目を閉じながらも身体は正直に疼いていた。
 紫の表情を慮ったのか幽々子の手が躊躇いを見せる。だが、結局静かに肌を撫で始めた。首筋を滑り、肩を撫で、鎖骨に触れるや震えたのを知ってそこを何度か刺激する。要領よく紫の反応した場所を捉えていく指先が幽々子のものであることに身体ばかりが喜んでいる。
 心は、……心はどうしても拒絶している。息がつまりそうだと紫は思った。幽々子は唇でも肌を辿り始めて、肉体と精神の乖離はますます激しくなっていった。
 は、と吐き出す吐息は熱いのに。それでも触れているのが幽々子であることで集中しきれない。
 幽々子の掌が胸の先端を捉えた。転がし、指先で撫で摘む。思わず歯を食いしばってしまってらしくないと考える。
 快楽は享受するもの。耐えたって自分にも相手にもいいことがない。
 溺れてしまえ、と囁かれている。好きな相手の手から与えられるものを悦ばない理由は本来はないはずだ。骨の色まで分かりそうな幽々子の指が触れている。綺麗な声を紡ぐあの唇が舌が固くなった場所を苛んでいる。やわらかな髪が揺れて擽っている。

「っ、ぅ」

 気持ちがいい。残酷なくらいにそれは確かだ。
 紫は、けれどそのことを嫌悪していた。幽々子をではなく浅ましくも快感を得ている自分自身を。悦楽が欲しくて震えている身体を。
 いや、恐らく根源的には――こんな自分にあの綺麗なものを触れさせているという事実を。

「ゆかり」

 声が直接肌を震わせる。確かめるように手が滑って、腰骨の形を定かにして下腹部に触れた。ぅん、と喘ぐような声が幽々子から漏れて思わず背中が跳ねる。
 濡れた場所を幽々子がなぞっている。

「すごいわ、ふしぎな感じ」
「っ……」
「力を抜いて。触りにくいわ」

 命令されて従順に従う。思考を放棄し始めているなと自分で感じた。こうなってみて紫はようやく自分の気持ちを言語として把握した。
 とどのつまり、自分は幽々子を崇め過ぎてきたのだろう。
 幽々子の言う通り理想化したイメージの中に彼女を閉じ込めておきたかった。

 可憐で愛らしく、控えめな幽々子。純粋で穢れがなくて浄土の主に相応しい。どれだけ鳴かせても泣かせても自分では汚すことなどできはしない、真白の少女。

 自分の元になど降りてきて欲しくはなかった。手を伸ばして欲しくなかった。ただ紫が欲しがっているだけでよかった。
 被害者であって欲しかった。加害者でありたかった。
 籠の鳥であって欲しかった。懐いた振りをしているのだと心のどこかで思いたかった。
 性行為を求めているのは紫だけでよかった。セックスではなく自慰がよかった。
 幽々子を高みに置いて、その下に甘えていたかった。
 ――なんて。妖怪の賢者とさえ呼ばれている自分は口に出すことは愚かそれを考えることさえ本当は許されない。
 幽々子の指が尖りをはっきりと認識したのが分かった。くりくりと何度か周囲を撫でて、それから抑えるように擦り上げて来る。気づいてしまった自分の愚かな被虐趣味への恥ずかしさも相まって紫は思わず声を上げた。幽々子の指から遠慮が抜けるのが分かる。

「っひ……ッンん、ぅ……ぁっ、は……ぅぅん、っ」

 滑らかな指先を紫はよく知っている。丁寧に動くあの細い指が今この快感を与えているのだと思うと耐え難かった。
 下腹部が疼いている。撫でられている部分も熱く膨らんで破裂しそうだ。最早爆発してしまえばいいという気にさえなる。腫れあがってひどく辛い。
 熱が籠って籠って、肺が焼けてしまいそう。
 苦しい呼吸を懸命に整える。そこばかり触られては奥が疼いて仕方がなかった。もどかしいけれど文句を言うのもはばかられて必死に腕の下に顔を隠して耐えていると、ようやく固い場所に飽きたのか幽々子の指がぬかるみを捉えた。
 あ、と思わず喜んで喉がなる。幽々子の呼吸も微かに揺れた。

「入れても、だいじょうぶ?」

 こくこくと身体が勝手に頷いている。理由の分かってしまった嫌悪感など最早忘れてしまいかけていた。
 幽々子が汚いものに触れるのは避けたいのは確かだけれど、表面上では自分は完璧に美しいわけだし。本来その考え方が間違っているのだ。間違っていると捉え直さなければならない。
 一本だけ、あまりにも細いものが入り込んでくる。
 期待と違ってしまったのだろう。飢え切っている内部はいっそ困惑さえしていた。もっと、と強請る壁を幽々子の指が押してびくんと大きく震える。ゆゆこのゆび。それを理解している脳が勝手に快楽物質をいきわたらせて来る。
 なにもかもがちぐはぐで気が狂いそうだ。紫は懸命に首を振って、もっと、と訴えた。幽々子がどう思うかだとか、そういう理性が尽きかけている。

「ぁっ、――~~ッ」

 抜かれた指が質量を増して戻ってくる。喜びに震えて喉が詰まった。このために人間の女に近い身体の仕組みを取っているのだから仕方がなかった。妖怪は、特に人型を取る妖怪は三大欲求に忠実だ。
 幽々子の指はしなやかで体内にあってもひとつも乱暴なところがない。それなのに何故か興奮する。彼女自身に起因するのか、紫が彼女を想っている事実に起因するのか咄嗟に答えは出なかった。

「、ぁ、ん」

 声を漏らしたのは幽々子の方だった。彼女の呼吸もまた荒くなり始めていた。興奮しているのであればやはり嬉しいとキスを強請る。手の動きも緩慢になってきていて紫には少し物足りないけれど幽々子が喘いでくれれば達せそうな気もした。
 もう少し、もう少しだけ煽って欲しい。

「、ぅ、ゆかりぃ……」

 は、は、と息を継ぐ幽々子は童貞染みていて可愛らしい。熱の回り切った頭で幽々子を呼んで抱きしめる。その可愛らしい声と共にもう少し動かしてくれたら、幽々子を抱いている時の要領である程度身体を満たせそうだ。
 そうしたら頭もきっと落ち着く。
 落ち着いたなら上手に言い訳をしよう。幽々子には自分の弱いところなど知って欲しくはないから、抱かれるのだってこれきりだ。
 だが、手は不意に止まってしまった。泣きそうな顔を誤魔化して気遣わし気に幽々子を見る。幽々子は彼女こそ涙を流しそうな顔になっていて、もう一度弱々しく紫を呼んだ。

「指と腕がいたいわ……つっちゃう……」

 もぞりと右腕が弱い部分で蠢く。声を漏らしてから紫は思わず瞬いた。え、と疑問の声が出る。
 ――ああ、そうか。幽々子はほとんど人間の体力しかないのだ。筋力だって基本的に生前と変わりない。
 指は抜けて、ぬるりともう少しで達せそうだった場所を撫でていく。
 うー、と不満そうな声がして何度か指を動かしてほぐしているのが分かった。もう一度試そうとしていたが、どうにも力が入らないのかまた情けない声がする。

「ね、ゆかり」

 そうして彼女は言った。困ったことに紫がひどく弱い甘い声で。

「まだ足りないでしょう。自分で、して?」

 へっ、と間抜けな声が漏れた。手伝うから、と何故か真面目な音で幽々子が付け加えた。紫が達せていないことを真剣に思い遣ってくれているのかもしれないが言葉は鬼畜そのものだった。幽々子の前で? 自分で?
 いや、いつも割としていることではあるのだけれど。幽々子もそれを知っているから言っているのだろうけれど。でもそれは幽々子が先に溺れているからできるわけで。
 今の幽々子の頭はほとんど正常である。だって紫は触れてやっていないし、自分でしてもいないのだから。

「紫」

 幽々子の手が促してくる。それにぞくりとする自分がいる。ああ、本当に今日は何と言うことに気づいてしまったのだろう。こんな自分など知りたくなかった。
 本当に。心の底から。

「ゆ、幽々子……あの、」
「紫の声をもっと聴きたいの。自分でしているところ、見たいわ」
「ぅぅ……そういうことを言わないで……」

 達しかけの頭はただでさえとことん快楽に素直なのに、畳みかけるように幽々子の声と手とが優しく導く。幽々子の目は本当に期待に満ちていて馬鹿なことを言わないで欲しいと拒絶できない。

「あ、あの、」
「なあに。辛いでしょう?」
「お願いを、聞いてくれるかしら」

 幽々子の首が傾げられた。紫は手を伸ばして服を着たままの幽々子の裾を割った。抱き合って向かい合いその場所に触れる。
 紫に触れたことで濡れたのだろう場所はどこまでも温かい。

「幽々子も自分でして。可愛い声を聞かないとイケないわ」

 精一杯の提案。紫は真っ直ぐに触れられたこの一瞬で熱に浮かされた瞳を見る。春を溶かしたような瞳は困ったように細められて、「そんな風には見えなかったけれど」と無邪気に核心を付いた。
 
「え」
「ふふ、冗談よ。紫が望むなら今回はそうしましょう」
「幽々子って時々怖い」
「そんなことはないと思うのだけれど」

 流し目で肩を竦める幽々子の尖りを撫であげる。控えめな声と裏腹に細い肢体が大きく揺れて紫もぞくりと脊髄を痺れさせる。何度かするうちに幽々子が手を重ねて拒絶を示して、紫は濡れた手をそのまま自分の場所へ持っていく。
 視線で促すと、幽々子がそろそろと声を上げ始める。それを見て唇を歪めて、彼女よりは大胆に手を進める。
 幽々子にしてもらうよりは、よほど落ち着く。
 知ったばかりの彼女の指の感触を思い返している癖に、幽々子の声に埋もれながら紫はそんなことを考えた。


  ◇
 

 八雲紫と言えど怖いものはあるものだ。
 例えば幽々子。もしくは幽々子に対するときの自分。

「紫? 声も掛けずにどうしたの」

 振り返る幽々子がそう問うた。その声だけで紫は思わず顔を赤らめる。スキマから上半身だけを出した状態でこのまま帰ってしまおうかとさえ思う。
 だが、手招かれては従うより他にない。
 ぽんぽん、と幽々子が自分の膝を叩いた。紫は部屋へと全身を出し素直にそこに寝転んだ。頭を撫でられながら幽々子を見上げる。

「今日は随分しおらしい顔ね」

 にこにこと言われて視線を逸らしたが覗き込む顔が追ってくる。くすくすと笑う声が耳に響いて耳まで赤くなりながらため息を吐いた。

「また、この間みたいにする?」

 からかう声が聞こえている。しない、と返すとまた笑われてしまった。

「楽しかったから、したくなったら言ってね」
「私からは絶対言わないわよ」
「あらそう。残念ね」

 彼女は本当に怖い生き物、もとい死に物だ。
 小さく呻いて身体を起こし、誘われるように畳の上に押し倒した。






読んでいただきありがとうございました。
熱があった時に書いてたので熱があるなという感じがするゆゆゆかです。ゆゆ様にはタチぶってるけどドネコの紫が好きです。自分でも何言ってるのか分かりません。


追記)以前の投稿分にもコメントありがとうございます。
ゆゆゆかも! ありがとうございます!
野咲
コメント




1.性欲を持て余す程度の能力削除
大変おいしゅうございました……!
2.性欲を持て余す程度の能力削除
すばらです
ゆかゆゆもゆゆゆかも最高!