真・東方夜伽話

ルミナス世界と日出ずる国の革命布告(ニューワールドオーダー)⓪

2019/03/23 22:06:56
最終更新
サイズ
62.66KB
閲覧数
1209

分類タグ

ルミナス世界と日出ずる国の革命布告(ニューワールドオーダー)⓪

みこう悠長

当話は「ルミナス世界と日出ずる国の革命布告(ニューワールドオーダー)①」の手前に挿入されます

※当話は「ルミナス世界と日出ずる国の革命布告(ニューワールドオーダー)①」の手前に挿入されます。
 また、当話を挿入するにあたり、④に内容的な修正を行いました。
 ④投稿時点では、「不明破壊活動主体は呉上空を通過し破壊活動を行っていない」
  →当話投稿時に修正下結果、「不明破壊活動主体は瀬戸内海上を通過し途中で自衛隊の部隊を打撃している」
 順序を乱す投稿と、遡及する修正によって混乱を招き申し訳ありません。



§ § §



(神様って、こんな風に、出来上がるんだ)

 精神寄生体の親玉のようなものが、神様だと思う。ニンゲンの恐怖や不安、猜疑心や恨みつらみが凝り固まって形成される妖怪だって勿論そういうもんだけど、神様というふわふわした存在に比べればまだ確固たる存在だと思う。それはそうしたネガティブな感情というのは同時にプリミティブで変化が少なくそれに頑丈だからだろう、対して神様への感情というのは容易に変化し、新たに生まれて、ともすれば容易に消えるものだ。理想とか希望とか信仰といった、生命の危機をその根幹に持たない新たな感情はニンゲンにとってまさしく進化の秘法だったのだろうけど、その拠り所となるイコンのなんと脆弱で希薄なことだろう。
 ニンゲンにとって不幸があるとすれば、ボクらのような邪悪な妖怪が蔓延る宵闇よりも、神様というアイドルが意志を持つ光だったことだ。ニンゲンにはその不幸をも希望に変えてしまう強さがあるのだけれど、それは種としての自殺を今すぐにするか緩慢に遅らせるかの違いでしかないとボクは考えている。

(きもちわるいな)

 今目の前には神様の種塊がある、蠢いて形と不定形を行き来しながら、その塊の中に時折見える意識の表層には産まれ|出《いで》る快感と体を引きちぎられる苦悶が交互に、溺れる者が浮き沈みを続けるみたいに現している。
 これが聖なるものだろうか。
 モザイクとレイヤーで型を取り乗算合成されたような世界に法則をもたらす希望の存在は、ありとあらゆるニンゲンの欲望と逃避を煮詰めて固めた生き物ということになる。彼等が世界を作るのだ、空と大地と風と海と水と星と花と木と草と、それに鳥と獣と虫とは、ニンゲンの意識と世界が産まれるもっともっと昔から存在していたというのに、ニンゲンの意識の開始が世界と宇宙の起点だと何回でも何万回でもやり直して世界の平仄を求め続ける、その道具として生み出されるのが、「神様か」。ボクはつい漏らした。その言葉を誰かが聞いている訳でもないし、その言葉を理解できる者もどこにもいないのだけれど。
 統合的精神寄生体である「神」という一つのエンティティカテゴリは、人の世と共にある。彼らは自然に存在することができない。ニンゲンと共に産まれ、育ち、そして死ぬ、あるいはこうして歪な変化を遂げるのだ。ニンゲンの望むところにあわせて生まれ《《変えられる》》。

「もう一度産まれたとき、きっと君はボクのことを覚えていないだろうね」

 覚えていて欲しいわけではないけれど、忘れられてしまうのもなんだか淋しい気もする。彼を殺したのはボクだった、ボクの知らない感情をボクに植え付けたのは、彼女だった。
 はて。と思った。
 ボクは偉そうにこんなことを考えているけれど、そんな大層邪悪な感情を教えられて自分自身の邪悪さに気付くまで、ボクは自分というエンティティを自覚したことがあっただろうか。
 彼と彼女なしにボクはボクではないのかも知れない。それが、神か。これが信仰で、これが、希望なのか。
 この目の前に蠢く不定形の不気味な塊が。

 ここで混ざり合わさっているのはたった二つの存在だ。片方は元から神であったが、片方はただのニンゲンだった。その二つが一つの存在となって生まれ変わろうとしている。仮にも双方に同じパーツが備わっていた。二人とも手が二本だったし二人とも目は二つあった。もしかしたら次に産まれてくる神は腕が4本あるかも知れないが、それにしたってそれを混ぜ合わせてまともな形の存在に生まれ変わろうとするには相当に歪なことになって当然だ。でもニンゲンはそうあろうと願う。そうあれと命じる。男と女が混ざり合い、産まれてくるのはどっちだろうか。女になったのなら男はどこに消えてしまうだろうか。
 目の前で概念に回帰させられ蠢いているのはそういうものだ。まるでボクらの世界で言う蛹のようなもの。ニンゲンに、あるいは神様に蛹の時期があるだなんて言うとニンゲンは、あるいは神様は怒ってしまうだろうか。
 彼を食べ、彼女を殺し、二人に傷痕を残したボクが、新たに産まれるこの神に、一体どの面下げて会えるだろう。

「2人合わさったキミは、次の〝生〟ではどんな存在になるのだろう」

 それはボクの、ボクがボク以外のボクになってしまうボクという生態と、似ているだろうか。それとも全く別?
 神様とは「気持ち悪い存在だね」。そう呟いたけれど、なんだか愛おしさもあるみたいに思えてしまって、不定形を転げ回って新生しようとするその塊を、ボクはしばらくそうして眺めていた。



§ § §



「天を照らす月だ、キクリ、こんなにも明るい月夜は妙にそわそわしてしまう」
「はい、私もです」

 女は神に嫁いだ娘だった。鏡を手にし、空に浮かぶ月を分け身に抱いて、月神アマテラスに嫁いだ。

「あっ……」
「美しい、お前は、天に輝く月と同じくらいいや、それ以上に」
「こんな蛮族の女に有り難い言葉……嬉しいです」

 この地の人間の髪は夜の闇の色をしているというのに、キクリと呼ばれた女の髪は、空に輝く月の色をしていた、この土地に他にそんな人間はいない。彼女は遠く西方から売られ、流れ歩き、逃げるように海を越えて東へやってきた。それがこの女の救いになったかどうかは分からない、この土地の人間もまた髪と肌と瞳の色、それに話す言葉によって女を排斥しようとしたからだ。だがそうならなかったのはひとえに、この男の目に留まったから、それだけのことだった。
 女を抱き寄せた男は、まだ若かった。いや、幼いと言った方が近いかも知れない。女が十分に成熟して《《旬》》を少し越えた頃だったのに対して、男は青い未熟な果実を疑わない、単に言葉遣いだけが不相応に大人びている。

「お前こそ月の女神だ。俺は月神と頌えられているがそんなことはない、お前に会って確信した」
「おやめください。私はただの」
「ただの月の女神だ、そうだろう、キクリ」

 そうで無くとも、俺がそうする。そう言って、少年は自分より二回りも大きい女を引き寄せた。女は抵抗しない、それは女には最早この男しか縋る者が無かったからかも知れないし、もっと別の理由があるのかも知れない。齢弱冠の子供にも拘わらず、少年はこの土地の民から崇められ、尊敬され、皆が彼に傅いて従った。女も、そうだった。

「相手を、してくれ、キクリ」
「はい、よろこんで」

 言葉尻は女に命ずる体だが、少年体は女によって包むように抱き寄せられている。月の光を梳かしたような金髪に、雪を鞣したような白い肌、翡翠のような青い瞳の女は、黄色い肌に黒い髪黒い瞳で背格好の幼い少年に、膝を突いて高さを同じにしながら愛おしげな眼差しを送り、その幼い体を豊満な体で包み込んだ。

「アマテラスの名はお前にやる。お前がこの国を治めろ。お前の国がどうだったのかは知らないが、この国は女が王の方が治まりがいいのだ。オレは、向いていない。男だし、器も……足りない」
「そんなこと、仰らないで」

 キクリと呼ばれた女は少年を抱き包むようにしながら頭を撫でる、彼もその中に自ら埋まろうとするように、体を強く押しつけて幼い腕で熟れた女の体に抱き縋っていた。

(まだ、こんな子供なのに)

 キクリと呼ばれた女は少年を抱きながら、口に出さないまま、思った。自分も幼い頃、きっとこの子よりも幼い頃に売りに出された、そのことを思い出しながら女は、神と崇められる少年を抱き締める。そして、その腕を少し弛めて、男の衣を一枚ずつ丁寧に剥いでいく。

「楽になさって」

 少年を立たせたまま、女は器用に男を裸にした。見上げると、恥ずかしそうに顔を背ける少年の赤い顔が見える、女はその表情を見て穏やかに笑い、もう一度抱きしめた。

「あなたこそ神なのです、自信を持って下さい。満ちては欠け欠けても再び蘇る、空から世界を照らし出す。月は命の流転を司り、ひにちを運び、木々草花の実りをもたらす。全ての源です。あなたは、その権現神。アマテラス。この国の誰もそれを疑いません、皆があなたを崇めています、私も」
「お前はオレのことを神だなんて思っていないだろう。ただオレが助けたから」
「そんなことは」

 ないと言おうとしたところで、少年の小さく可愛らしい〝男〟が女の口に押し込まれた。キクリはそれを素直に口に含んで、舌と唇を動かして奉仕する。

「こんな風にすれば昔〝ドレイ〟とかいう職業だったことを思い出すか?」
「んっんぅぅ」

 女は少年のペニスを口に含みながら小さく首を振った。そういうことを強いられたこともあるが、女の言う「奴隷」とは性的虐待の捌け口を指す言葉ではないし当然そうした職業のことでもない。女が少年に強いられていることは、女の辛苦の時代よりももっと侮辱的な行為だ、但し、それは女がそれを嫌だと思っていればの話である。
 だが女の少年への奉仕は、まるで恋人がそうする時のように丹念で、丁寧で、そして優しくて、献身的な動きだった。口の中で肉棒を舌で舐め、唇で擦る、その動きも、ただ刺激を与えて相手を絶頂に導く為の効率的な動きではなかった。

「こんな浅ましい行為をお前に強いるオレが、神なものか。お前は」
「《《ヤハタさま》》。これは、私がすすんでしていることです。あなたを、崇め、それに愛しているから。浅ましくなんて、ありません」

 そう言って、再び肉棒を咥え込むキクリ。
 唾液をいっぱいに溜め込んだ頬の中で忙しなく動く粘膜舌が、アマテラス、そしてヤハタと呼び直された少年のペニスへ奉仕していた。ぬめぬめと敏感さ増すヤハタ少年の小さく可愛らしいペニスを、熟れた美女の口愛撫が責め立てていく。

 ちゅっ、ちゅるっ、くちゅっ

 キクリの白く細い手が少年の太股そして尻を優しく撫でる。女から立ち上る強烈な色香と、ペニスに与えられる巧みな快感とで、立っているのが辛くなった少年月神は逃げるように腰を落としてしまう。女はそれを追いかけるように四つん這いになり肘を突いて、少年のこどもちんぽを口にくわえながら根元と玉袋に両手を添えて愛撫を継続する。

「っ、あああっっ! き、キクリ、キクリぃっ!」
「はむっ、ん、れろっ♥ ヤハタ様っ、おちんぽかわいいかわいい、しますね♥」

 口からペニスを出したまま、舌を伸ばした先端で雁首の周りをなぞるように舐めながら、左手で竿を優しく握ったまま、右手の掌を広げて、文字通り〝いい子いい子〟と頭を撫でるように動かす。

「ンアぁぁっ!♥ き、キクリっ、それっ……すごっ♥」
「ヤハタ様はこれが大好きですよね♥ いつもなんか難しいことを考えてらっしゃるみたいですけど、《《この子》》の方が素直で可愛いですよ♥」

 きゅっ、きゅきゅっ、さわさわさわ……れろっ、れろっ

 刺激に慣れた亀頭先端へは掌で擦るの強めの愛撫、同時に敏感さを保ったままのエラには、縫い目を穿ってなぞるような舌先愛撫。ダブルで可愛がるキクリの愛撫では、口先こそ大人ぶっているがまだ幼いヤハタのペニスは一溜まりも無い。

(ヤハタ様、可愛い……♥)

 目の中にハートマークを浮かべた月神代理が、まるで「逃がさない」とでも言いたげな表情で少年のペニス粘膜を責め続ける。

「あ゛ーーーーっ♥ んあっ、くあーーーっっん♥ キクリ、キクリキクリキクリぃいっ!!」

 思わず背を反らせ、その代わりに腰を浮かべて、女の子のように裏返った声で、快感を叫ぶヤハタと呼ばれる少年。

「気を遣ってくださいまし、ヤハタ様♥ 可愛いおちんちん、私に向かってびゅーして下さい♥ ほら、びゅーっ、びゅーっ♥」
「あ゛っ♥ あ゛っ♥ あ゛っ♥ あ゛っ♥ ……んんっ~~~~っ!!♥♥」

 ぴくっ、ぴくっ、と小さく震えた少年のペニスから、小さく吹き出した白い液体。さほど大量じゃない精液が、口愛撫を続けてきたキクリの鼻先に降りかかった。

「わぁ♥ ヤハタ様の、おちんぽ汁っ……♥」
「はっ、はっ……き、きくりっ♥」

 キクリは顔にかかった精液飛沫を指で拭って口に運ぶ。

「あ……」
「ヤハタ様の味です♥」

 厚くて赤い唇に、時分の精液が塗りたくられているのを見たヤハタは、それだけで再び興奮を取り戻してしまう。キクリにとって、子供サイズの愛らしいチンポが再び時分に向かって勃起していることが、また堪らなく愛おしく感じられてしまった。

(私を助けてくれた愛おしい方が、こんなこんな可愛らしい少年が、私をセックス対象にして勃起してる……♥ 恐れ多いのに、興奮、しますっ♥)「復活早い♥ 流石は月神さまです……あっという間に、再生なされて♥」
「き、キクリを見てたら、また」
「まあ! そんな……嬉しいですっ♥」

 キクリは嬉々として膝立ちになり、横たわったヤハタの腰に跨がる。彼女の股間の割れ目はすっかりと潤っており、オスとメスの最愛行為を待ち侘びてヒクついていた。

「恐れ多くも私、アマテラス神のおちんぽ様に、発情、止められません♥」
「キクリ……オレもっ、キクリの中に、入りたいっ」

 少年神がそう告白したのを聞き切るや否や、キクリの濡れそぼり穴が、彼の小さな肉棒に吸い付くように覆い被さった。その穴は肉棒に対して見るからにオーバースペックで、ぱっくりと割れた奥に見える空洞のサイズだけでも、彼のペニスの大きさを優に超えている。彼のペニスは、彼女の膣穴よりもキクリのワレメの上に痼るクリトリスとの方が拮抗しそうにさえ見えた。これでは、擦れるものも擦り合わないというものだ。

「ふぁ、ぁぁっ♥」
「ぅつっッ、き、キクリっ♥」

 だと言うのに、2人の粘膜がぴったりと接合したとき、2人は申し合わせても居ないというのに、同時に幸せそうな声を上げる。腰どうしがくっついた途端、キクリは上半身を崩して幼く小さな少年の上に覆い被さるように倒れ込み、馬乗りに銜え込まれたヤハタと呼ばれた少年は飲み込まれた瞬間に、脚を内股気味に張り足先をピンと伸ばして腰を持ち上げた。

「入って、ますっ、ヤハタ様の、おちんちんっ♥」(小指みたいな短小チンポなのに、愛おしすぎますっ♥ 全然コスれないのに、おまんこ気持ちよすぎますっ♥)
「キクリ、キクリっ♥ ずっと、ずっとオレのものでいてっ、ずっとそばにいて、どこにもいかないでくれっ♥」
「勿論ですっ♥ あなたは私の神様です。例えこの世界の誰もあなたを崇めなくなったとしても、私だけはあなたのものですっ♥」

 くに、くに、っと、それはピストンではないただ腰をくねらせて、中で必死に存在感を主張しながらも全く大きさを伴わない可愛らしいペニスを、貪欲な底深い膣穴が刺激するために、確度を変えて膣壁を当てて擦る為の動き。

(全然奥に届かない、無理矢理角度変えないと全然擦れないのに、でも、好きっ……♥ この子のちんちん、大好きっ♥)
「キクリの中、すごいよぉっ♥ ヌルヌルで、あったかくて……大好きだっ♥」
「私も、私もヤハタ様のこと、愛していますっ♥ 巫女として、それに、妻としてっ♥」

 にち、にちゅ、にち、にちっ、細かくて小さいぬめった水音が、2人の接合部から響き続けている。小刻みに何度も角度を変えながら腰を揺らして動かしていた。遙か西の土地で辱めの末何度も若年妊娠し子供を産んだこともある女にとって、こんなセックスはオナニー以下の刺激でしかない。もうGスポットを甘く擦ったり、奥の方子宮の入り口を適度な力でノックするような深い接合でなければ感じることなんて出来ないと思っていたのに、女の興奮はこの少年との極めて浅く摩擦の少ない交合に、信じられないくらいに高まるのを感じていた。この子供とは何度交合しても、その度に今までのどの性交よりも一番感じるのだ。それは女にとって、驚きであり同時に今までで一番幸せを感じている事でもあった。

(こんな短小チンポなのに……こんなに響かないのに、子宮の奥から気持ちよすぎるっ♥ 胸がきゅんきゅんして、幸せホルモンがどばどば出てるっ♥ 恋人セックス、幸せ気持ちいいっ♥)

 いっぱいキスしたい、可愛いチンポを中に入れたままで、口づけしたいと願うが、体格差が大きく届かない。女は代わりに乳房を少年神の顔の前にぶら下げた、舐めて、の合図。少年アマテラスは目の前に現れた豊満な乳房に、むしゃぶりつく。出産したものの流浪の途中で亡くなった子供のために一度は乳腺を開いた乳首は、この土地で、少年のためにもう一度母乳を作っていた。自分の子供でもない、そもそもこの少年神はもう母乳を飲むような年齢ではないことも知っていて尚、女の母性は彼に対して育児本能を発揮していた。恋人、妻、巫女、それに母として、綯い交ぜになった愛情は既に狂気に近いのかも知れない。セックスしながら授乳する、一般的に考えて異様な愛情関係。それでも2人の間にあるのは、確かに、お互いへの愛情とその要求だった。

「あむっ、ちゅっ、ちゅうぅっっ、ちゅぱっちゅぱっ」(キクリのおっぱい、スゴいっ……えっちなのに、安心する……♥)
「ヤハタ様……かわいいっ♥ もっと、もっとおっぱい吸って♥ 私のミルク飲みながら、私の中にミルクいっぱい注いで下さいっ♥」

 顔面を乳房で圧迫されながら、股間の接合快感に酔い痴れる少年神。体全体を愛欲の塊に包まれながら、再び絶頂に向かって加速し始める。

「んっぶっ、んちゅっ、ンッ♥」
「あっ、い、イきそうなんですね、射精そうなんですねッ♥ またおちんちん、ぴゅっぴゅしそうなんですね♥ いいですよ、いつもで、キクリの子宮は、ヤハタ様のお情け汁待ち侘びてますっ♥ ラブラブ精子、いつでもとぷとぷーって、して下さいっ♥」

 熱病で高熱を発して居るみたいな体温と汗、荒い吐息。母乳と精液を求め合う変態な性行為、激しそうな言葉遣いに反した可愛らしい交合。
 2人の興奮はその狭間で高まり合いながら、お互いを求め、お互いに与えながら、共に幸せで小さな死を迎える為の儀式のようでもあった。

「んくっ♥ んんっぐうぅうぅぅぅっっっっっっっっ♥♥♥」
「ふあぁあっ♥ 膣内でっ♥ 膣内でぴくぴくって♥ ぴゅっぴゅって、してます♥ ヤハタ様のがんばり孕ませ汁、私の膣内に染み込んできてますっ♥ ふーっ、はっ、はあっ♥ かんじっ……♥ ラブラブ|膣内射精《なかだ》しで、キクリもっ♥ キクリも一緒に、気を遣ってしまいますっ♥♥♥ あっ、イく、イく、イくイくイくイくイくぅぅぅぅ~~~~~~~~~っ♥」

 キクリの膣内に放たれた精液の量は、お世辞にも多いとは言えなかった。元からからの小さな少年が、既に顔に一発出した後だったのだから、無理もない。そでれも、膣内に出された液体の感触に、キクリはどうしようもなく迫り上がってくる興奮と快感と幸福感を覚えて、感情アクメしていた。

「ふーーーっ♥ はぁぁっ♥ ハーーーっ♥ ハーーーっ♥ 愛してます、ヤハタ様♥」

 こんなに膣に負担のないセックスなのに、こんなに深いアクメを覚えてしまうなんて、と信じられないと同時に、運命のような者を感じて、キクリは自分の体の下で、乳房の間から頭のてっぺんを覗かせながら射精後の弛緩と緊張が入り交じった倦怠感に揺蕩う少年アマテラス神の頭を、愛おしく撫でた。
 だが、こうして蛮族の女にうつつを抜かし威厳を失い行く神とその信徒がどうなるのか、このときはまだ2人とも分かっていなかった。



§ § §



 本営は騒然としていた。
 今回伊那に設置された中央作戦営業本部の内部では、日本海洋上に発生した不明破壊活動主体は南下し上陸後琵琶湖を掠める形で京都に入るだろうというのが大方の予想だったが、それを裏切って、新大和湖岸低地と京都を通過してそのまま瀬戸内海へ抜けていたからだ。これまで、明確な目的地の意志を見せた不明活動破壊主体は全て京都を目標として移動していたが、今回はその例外という形になる。
 それに加えて不明破壊活動主体が京都を通過する際、京都を防衛するために配置した自衛隊部隊は、その〝活動〟によって潰滅していた、本営が落ち着かない様子なのは移動ルートそのものもそうだが、部隊が壊滅したことに対してだ。

「|闇龗《サンダーインザダーク》、平均18ノットの速度で井島水道を西へ移動中。」
「〝ギンヌンガの衣〟、現在は確認できません。前回の展開から1時間が経過。再度展開可能なものと推測されます。」
「あれは1時間でリチャージされるモノなのか?」
「わかりません、時間的には想像の域です。」
「これ以上琵琶湖を増やされては敵わん!」

 海上に音もなく浮遊しているのは、地球上の生き物を記したどの図鑑に載っているものともおよそ姿の似つかわしくない物体だった。何故それが〝生き物〟だと思えるのか、恐らくその姿を目にした誰に効いても明確な答えは得られないだろう。確かに羽毛を全て剥き取られた鶏の首のようにひょろりと上から伸びて前に長く垂れているものは、頭と顔のように見えなくもない。だがそれが仮に頭部で顔のように見えるものが顔なのだとしたら、瞼を切り取ってまばたきを失い剥き出しになった目玉が辛うじて眼孔に収まって血を滲ませたようなそれを、本当に目だと認めなければならない。肉を纏った嘴のように長く伸びただれた肉のような組織をぼろぼろと垂らすその構造物を口だと言わなければならない。中央部分に二つ並んだクルミの断面の様な形をした穴の奥には脈打ち潤った表面に光を返す物体を抱いたその凹面を鼻孔だと言わなければならない、だとしても耳はなく、睫や眉毛はない、およそ人の顔面ではないが、だと言うのにそれを見た人間にとって例外なく何らかの既知の存在の顔としてパレイドリアを引き起こす。しかも、お世辞にも気味のいい形ではない。

「〝ギンヌンガの衣〟展開による空間低質量で|重力風《グラビティブラスト》が生じ、光学観測と時間に誤差が生じています。本営と|闇龗《サンダーインザダーク》周辺の間に、最大3㌨秒の時差が加算されています。コリオリ誤差の増幅により非誘導弾道弾の着弾地にも僅かに修正が必要です。」

 琵琶湖沿岸に配置された京都守護の為の部隊「禁裏御守衛」は、|神妖《かみさま》の攻撃で潰滅しほとんど残っていない。急拵えの部隊とは言え、時間の許す限りで近代兵器を惜しまず集めて不明破壊活動主体、つまり|神妖《かみさま》の移動ルート上に配置して邀撃作戦を実行したのだが、その作戦はほとんど効果を得なかった。
 鶏の首のように長く伸びてしなる部位には魚のエラのような襞構造がびっしりと並んでいてそれぞれが規則性無く歪にバラバラに開閉を繰り返していた。開いた襞部分の、全部ではないが幾つかからは湯気が上がっている。呼吸だろうか、吸い込んだり吐き出されたりしている、と言うことはあの二つの穴にも関わらず頭部らしき先端構造物は呼吸器を備えていないのだろうか。そもそもあれは呼吸を必要とするような存在なのだろうか。頭部らしき先端構造物と首に見られその先の胴体とおぼしき部分や更にその下部の尾部に至るまで、表面は赤茶けて水気を帯び光沢を持った鱗のような組織で覆われていた、時折凹凸や突起も現れる。

「何から何まで魔法のようだな、我々の科学を容易に飛び越えてくる」
「〝魔法に抵抗できるのは魔法だけ〟だなどと、言わせて堪るものか。|CIPHER《まほうつかい》とか言う得体の知れない奴らに好き勝手させてはおけぬと言うのに」

 バケモノの首に複数切れ込みの入った鰓のような溝から噴き出す黒い靄のような物は「ギンヌンガの衣」と呼ばれていた。どうした原理なのかは全く解明できないが、その黒い靄に触れたあらゆる物体は、文字通り消滅してしまった。まるで暖めたスプーンでアイスクリームを撫でるように、ごっそりと、しかも綺麗に、破片も出さずに、姿を削り取られてしまう。アイスクリーム、いやそれは、月が欠けて行くみたいに。
 本営に備わった全天型巨大ディスプレイに映し出される映像にはそのバケモノの姿が描き出されているが、その姿はまるで古い映像媒体のノイズのようにちらついたり左右に擦り引き延ばしたようにな変形を小刻みに見せたりしている。だがそれが撮影機材やデータ伝送上のノイズではないことは、映像の背景部分にそうした乱れが生じていない事が示している、つまり映像から確認する限りそうした映像の歪みはバケモノの姿(光学的な観測による)にしか生じていないということだった。

「護京作戦は失敗だ。禁裏御守衛の『木部』『火部』『水部』の残存戦力を神戸打撃作戦の甲隊に迂回合流させて欲しい」
「何故京都を素通りするんだ!」
「京都全系派の方は大人しく誤りを認められよ。|不明破壊活動主体《かみさま》は今明らかに、九州を目指している」
「おなじ九州でも北か南かで結果は全く異なるぞ。第一、まだ京都に引き返してくる可能性だってある、瀬戸内に出て間もないというのに禁裏御守衛を移動させるのは気が早い」
「禁裏御守衛の稼働率は」
「およそ11%、陸戦部隊に限れば5%を切っています。」
「そんな量を回して何になる。京都護衛に残しておくべきだ」
「それこそ何の意味があるってのよ、京都全系派は黙ってて頂戴!」

 大きな割合を占めるのは、仮にこの物体が生き物で在りかつ、我々人間の常識を当てはめて考えることが許されるのならば、胴体と示すべき形をした部分だ。幾つか不規則に瘤のようなものが盛り上がる中央的な肉塊には前述の通り鱗状の皮膚が貼り付いているが、それは頑丈にはとても見えない、多くは不安定に剥げて端だけでぶら下がっていて、鱗の板状構成物もひび割れ形を失っていることがほとんどだった。その下から覗いているのは、火傷でケロイド化した人間の皮膚と特徴を同じくする赤と白の斑に壊死した紙縒り状の何かが捲れ上がったような表面。鱗の下に脈打ち紙縒りに剥ける表面組織からは、糸を引くような粘液がじくじくとに滲み出しては滴り落ちている。だがこれは、残念ながら自衛隊の攻撃によって与えられた損傷ではなかった。

「米国大使館より、特務駐在大使経由で米国大統領よりメッセージが届いております。〝アメリカ合衆こ―」
「〝アメリカ合衆国は|貴国《日本》の安全保障に重大な憂慮を抱く〟とかなんとかだろう、|米国大統領《ロッキー》など、《《トモダチ》》を核攻撃するとか言い出すまでは放っておけ」
「承知しました。」

 胴体らしき部分からは件の首の様なものの他に、人間の腕のような構造が1本(1対ではなく、だ)とそれとは線対称の位置には葡萄の房のような腫瘤を連ねたみたいな塊がへばり付いている、葡萄の房はよく見れば一つ一つの粒から細かい腕を生やしていて、その腕には確かに掌も指も備わっている。片腕は図体に見合ったサイズだが、もう片方の葡萄連粒な腕はまるで毛の様に無数の小さい、それこそ通常の人間のそれと同じくらいの腕を、無数に生やしていると言うことだった。
 下部には痩せこけた猫脚のように逆関節然と曲がった脚と思しき細長いモノがぶら下がっているが先端に足の様なものはなく、細って垂れているのは束ねた電源コードが無理矢理に引き千切られたモノのよう、それはよく見れば血管や石灰化した神経鞘、筋繊維束が投げ首にぶら下がった姿だった。何か液体のような黒いものを滴らせている。

「援軍は出せないのか」
「東日本から補充が間に合う未参加の兵力は型落ちの休眠航空機と飛翔破壊兵器削減協定で解体待ちの旧式ミサイル群、地上部隊では一部の特車部隊と装甲銀輪部隊だけです。海上部隊は瀬戸内には地形の問題で間に合いません。」
「千歳のF-8は手空きじゃないのか」
「ロシア三韓連邦連合軍がチェグエフカとウラジオストクに待機中との報告がある。穴を作ると《《無許可で》》〝対不明破壊活動主体攻撃支援〟に参加してきかねない。北方の部隊は動かせん。」
「厚木と入間はの残存はないのか」
「関西近畿伊東の稼働戦力は既に空母なかつ型各種艦載にて神戸打撃群に参加しています、今残っているのは東日本同様整備中の機体と訓練兵だけです」
「それでも出すべきだろう!」
「彼等は未成兵です。まだ組織的行動に組み込むことが出来ません、足手まといです」
「物量が足りてないんだ、〝ギンヌンガの衣〟の第一波で部隊のほとんどが《《消滅した》》んだろう!?」
「陸上発射、海上発射の中距離ミサイル兵器を含めて、最低安全保障分を除いた稼働中防衛力は全て神戸打撃作戦に連携済みです、神戸打撃作戦には現時点で出来ることの全てをつぎ込んでいます。」

 巨体と言うほどではないが、小さな物体ではない。中規模のビルまるまる一つが宙に浮いているようなサイズ感だ。不気味で見ているだけでも嫌悪感が増すその姿の背には更に、3枚2対の蜻蛉の羽のようなモノが備わっている。それはその見た目通り羽ばたけば目視も難しい速度で細かく動くが、左右均等に動いているわけではない。首に切れ込んだの鰓構造の溝が開閉するのと同じく、不規則バラバラに羽ばたいているが、その羽ばたきの浮力によって浮いているようには到底見えなかった。

「オモイカネシミュレーションによる護京作戦完遂確率、0.03%に低下。以降、目標の西方移動に従い0へ漸近します。」
「……護京作戦を終了する。」
「それが政治屋の限界だ。護京作戦を終了する。繰り返す、護京作戦を終了する。木部、火部、水部は神戸打撃作戦に切り替え、データリンクを神戸打撃作戦にスイッチ。」

 この場にはどうやら自衛隊として二つの派閥、それに自衛隊ではない別の組織としてCIPHERと呼ばれる人間が集まっているらしい。それぞれが、敵対こそしないものの、余り友好的とも思えない態度で接している。一つは「京都全系派」、不明活動破壊主体は全て京都を目標としているとし、その哲学でその京都を防衛するように強固で城塞的な防衛作戦を展開すべきとする派閥で、今まで惑軌道を見せずに移動してきた不明破壊活動主体が全て京都を目指していた事に根拠を置く。もう一つは「分散神系派」、これは一部の目的地をはっきりさせずに惑軌道を見せた不明破壊活動主体に着目し、京都以外にも目的地が散在していることを哲学として機動性の高い防衛部隊を組織すべきと言う派閥だ。そしてもう一つが「CIPHER」と呼ばれる自衛隊外の武装組織だが、正式に武装が認められたのが最近のことで、自前では機械化した兵器をほとんど持たず、〝まほうつかい〟と呼ばれる歩兵部隊を少々抱えるだけの組織だった。噂では宮内省にぶら下がる組織だと言われているが、素性が知れていない。ここ最近、こと対不明破壊活動主体作戦においては、このCIPHERの発言力が急に増していた。というのは、小型の不明破壊活動主体に対して偶発的臨機的ではなく計画的な作戦と有効打を出せているのはCIPHERだけだからだった。
 だがそのCIPHERも、中小型以上の不明破壊活動主体(今モニタリングされている|闇龗《サンダーインザダーク》は中小型に分類される)に対しては、まだ有効な打撃を明確な作戦を以て加えた事は無い。

「|囁《ささやき》も行動に含まれているようだが、東シナ海はかまわんのか」
「日本国は囁の存在を公的に認めていませんし、そこに居るのが分からないものはそこに《《居なくても分からない》》ものです。」
「そればかりは頼もしい限りだがね、日本がなくなっては意味が無い。それにあれの管轄が自衛隊じゃないことも癪に障る。そんな強力な潜水艦を、得体の知れない組織が運用しているなど。」
「強力と言っても、あれはあくまでも哨戒用です。それに、所有こそはCIPHERですが通常指揮は海上自衛隊に組み込まれています。」
「その偵察用でしかない潜水艦にどうして〝ハバキリ〟が搭載されているのかね? 噂ではCIPHERは宮内省の組織だと言うが、宮内省が何故戦略兵器を持つのか」
「今はそんなことを論じている場合ではありませんが、それは勿論……有事の為です。日本の国土は狭い、ミサイル戦略的に飽和攻撃を加えることなど容易いですから。日本は遠くない将来の内に、独自に抑止力を持たなければなりません。そのためのステルス特化艦です。それがこんな形で役に立つとは、ある意味で幸いですね」
「白々しい……。トモダチに撃たせるのは許さなくても、自分で自分に撃つのは厭わないか、神風とは日本らしい、実に愚かだ。出し惜しみをせずとっとと|闇龗《あれ》にハバキリを投げつけるべきじゃないのかね」
「そればかりはギリギリまで引っ張らせて貰いますよ、囁とハバキリの存在がバレれば日本の安全保障に重大な穴が開きます。囁は存在するかどうか分からないから意味があるんです。存在する前提では対策を講じられますし、存在しない前提では抑止になりません。それにハバキリも今の取り決めでは幕僚会議全会一致がなければ撃てませんから。ご心配には及びませんよ」
「心配なのはハバキリがトチ狂って官邸に突っ込んでくることじゃない、日本の存亡の方だ」
「おやそうでしたか、てっきりご自分の出世のことかと」
「お前達が日本国の安全保障を語るな、オカルト屋」
「オカルトとは心外ですね、CIPHERとは正式にその定めるところに従って戦力の保持を許されています。それが囁であり〝まほうつかい〟です。」
「それをオカルトと言っているんだ、何が魔法使いだ、ふざけおって」
「しかし、魔法に抵抗しうるのは魔法、とはその通りなのでは? 護京作戦の失態は最早覆せません。京都全系派ってまだ息していますかぁ~?」
「このアマ……」

 自衛隊高官らしい男から斜め上を見るように視線を逸らし、口角を上げて嘲るのはCIPHERの人間と思われる女性、脇に抱えたA4用紙にぴったり合致するサイズのフリップボード型端末を開いて折り返した。ディスプレイには、女の横顔が映っていた。

「囁はどうしてる?」
「どうしてるって、あんたが出せって言うから古今としてレンタルしたんじゃないか、ちゃんとご指示通り土佐湾に居るんじゃないの。高知は勝手知ったる田舎だ、文字通り《《羽を伸ばして》》るだろうさ」
「羽伸ばしてどうするのよ、これは任務なのよ。」
「なんだ、自衛隊は失敗したのか。失敗しないと言うからリラックスするように言っといたんだがね。所詮はそんなもんか」

 目の前の女性と端末の向こうの女との会話を聞いた自衛隊員は色めき立つ。

「状況なら直接聞けばいいじゃないか、私はただの親戚のおばさんくらいのもんで、彼女の指揮は私のものじゃない」
「なんか……嫌われてるような気がするのよね」
「それこそ任務に好き嫌いを持ち込むんじゃないよ」

 大分緊張感のない雰囲気で、だが確かに囁という単語が飛び出している、作戦の話をしているのらしかった。男女の活躍の場が平等になったとは言っても、軍事的な色合いの強い場面では男女比は3対1程度の物だ、女性同士が気の抜けた様子で会話をしている様子は、本営の中では異彩を放つ。さらには自衛隊を扱き下ろすような内容まで飛び出すのだから周囲の注目を引いても仕方が無いというものだった。

「まああれは勘のいい子だからな、あんたが嫌ったら嫌うだろう。まだ子供なんだからその辺は良くも悪くも素直なもんだ」
「ぐう、私嫌ってないんだけど」
「そんなこと私は知らないよ、そっちで好きにしてくれ。ああ、言っとくがあれのAdminは中々頑固だからな、変に傷つけて返したりしたら禍根を残すぞ。相当無理を言ってレンタルさせたんだ、そこんところは忘れないでね」
「今回の任務はただの敵情モニタリングだわ、損傷の要素がないわ。」
「じゃあ心配ないだろう。案外土佐湾からもうセンシングしてるかも知れない、とっとと本人に確認しろ。それともあの子のAdminを呼んでこようか?」
「やっぱいいわ」
「ここから見る限りは本人のバイタルは安定してる、囁の艦体も万全だろう。」
「それを聞いて安心したわ。囁というか彼女の、本格的な作戦行動はこれが初めてでしょう。」

 囁という艦が何なのか、自衛隊隊員もよく分かっていない。普段海上自衛隊の指揮下にあるといえど、それは作戦行動上指示通りの作業を行うブラックボックスなユニットとしてのものであって、どのような艦船で何名が乗っているのかなどは知らされていなかった。

「|軌道発電衛星《あまてらす》の陽電子観測器から報告、現在目標付近の重力レンズ復元率88%。前回〝ギンヌンガの衣〟展開時に観測された陽電子放出の際の重力レンズ減衰値から割り出したニュートラリーノの単位消滅量から算出して、88%が閾値と予想されます。」

 本営内部に警告性の強い放送が流れた。

「次に《《あれ》》をやられて、禁裏御守衛と同じように神戸打撃群が一撃でやられたら、どうなる?」
「……想像したくないですね」
「想像しなくとも、想定はしなくてはいけないだろう!? 我々は国防を担う〝力〟を持つ唯一最後の組織なんだぞ!? それが我々の仕事だ!」
「唯一、は言い過ぎですね。|CIPHER《我々》も、仕事はします。」



§ § §



 海は長閑であった。この辺の海は海流が複雑でそこで育つ海産物は皆豊かで美味だという。だが今、海流は酷く長閑であった。この水道でこれほど静寂な凪は観測されたことがない、と言いたくなるくらいに静かだ。波はなく、流れも止まったよう、澱んでしまいそうなほど静かで普段のこの海を知っている者ならば気味が悪いと思うに違いない。海鳥が群がっているのは、海流が緩んだせいで動きに狂いが生じた魚が、鳥達のハンティングに都合が良いのだろう。
 空を行き交う海鳥が少々多い以外、海そのものは酷く酷く、静かだ。嵐の前の静けさ、その言葉が一番適切かも知れない。

―目標捕捉。ベクトル角、マイナス3修正。ベクトル大、プラス0.6修正。
「目標捕捉! ベクトル角マイナス3修正! ベクトル大プラス0.6修正!」

 |広帯域多目的通信機《こたつ》が拾い上げた言葉を小隊内に伝達する肉声が、たまに海鳥の声が響く長閑な海岸線に響く。41式火力支援装甲車と93式自走高射機関砲からなる神戸打撃作戦乙隊は、海岸線に整列して砲身を海へ向けている。異様な静かさを保つ特別車輌の威容と、不自然な凪によって作り出された海の静けさの間にあるギャップは、海鳥の行き交いや穏やかな風の音の長閑さを緊迫感の表現に置換してしまっていた。
 本来そうした特別車輌を引き入れる想定などしていない海岸線の細い道路に、榴弾砲だの高射砲だのは入り込めない、片輪が路肩を越えて向こう側にはみ出し、山の斜面に押し出されるように車体を傾け余計な仰角を設定している車輌もあった。だがそうした歪な配置をしてなお、砲身の整然と並ぶこと一糸乱れぬ姿と、先の伝達復唱以外に物音一つ立たない静かな待機の様は、よく訓練された兵の士気と精度の高さを物語っていた。

「キセキの影響でコリオリ誤差が報告されている。砲照準をデータリンク自動へ。念のため手動照準器にも誤差を含めておくように」
「コリオリ誤差の拡幅? 一体何が起こっているって言うんです?」
「知らんよ、だが前站が言うには本営からの伝達らしい。相手はとっておきの|神妖《バケモノ》だ、何が起こるかなんて分かりっこない」

 アー、アー、と海猫の長閑な声が聞こえる。しきりに魚を仕留めては内陸のどこかと海の上を行き来している者もいる。目の覚めるような青に塗り潰されたカンバスにチューブから直接白の絵の具を擦りつけたような掠れた雲が引かれている。地球上の時間はそのままに人間世界のそれが刳り抜いたように止まったみたいな牧歌的な光景に、整列する重鉄の砲塔が音も立てずに威容だけを誇る様子は、まるでもう死んで機能しない兵器の残骸にさえ見えた。何一つ音が立たないと言う絵面そのものに雰囲気という音が満たされている。それを象徴するように、海猫の何羽かは海に向いた高射砲塔の先端に止まってきょろきょろと周囲を見渡して何なら一つ小さく鳴いた声は静寂の中喧しいくらいに響いた。アー。

「一之瀬さんー、泳ぎませんか。海気持ちよさそうっスよ。水着のねーちゃんが居ないのだけ残念っスけど」
「水着ギャルの代わりにそろそろバケモノが来るんだがね。|神妖《かみさま》と一緒に海水浴としゃれ込むか? ていうかお前女だろう、 水着ギャルとかなあ」
「あーっ、一之瀬さん、それセクハラっスよ。女の子が水着ギャル好きじゃいけないなんてアナクロっス。セクハラおっさんっス」
「そりゃどーも。大体お前が〝女の子〟なんてタマかよ」
「それはマジでセクハラっス、ショックっス。私だって一之瀬さんにお姫様抱っこされて物陰でしっぽりしたいっス」
「M60をマジカルステッキみたいにブン回せなくなってから出直してこいメスゴリラ」
「めっ、メスゴ……」
「仲原ァ、測距ォ!」
「はっ、ハイィィ!!」

 後ろから飛んできた罵声にでかいケツを蹴り飛ばされるように、仲原は飛び上がってデータリンクモバイルステーションを覗き込んだ。仲原は小備で通信・測距・索敵を担う、のだが、でかい図体に馬鹿力のせいで、支援火器を背負わされている。機械化する場合はこうして本来の業務に駆られる訳だが。それを後ろから怒鳴りつけたのは施設・武器を担い本来は後方で支援火力を担う阪下、ザスタバM91EBRでスナイパーの真似事をするのが大好きな、こっちも《《それ系》》の人物だった。砲術担当の椙山は何も言わずに黙っている。

「データリンクからの提供情報と個別把握の情報に差異無し。目標はまだ12.4|新浬《カイリ》東……えっ、キモ♥」
「ハートをやめろ、ハートを。お前がキモいわ」
「がーん! ちょっと山神、後で体育館の裏に来いよな。ゴム忘れんなよ」
「何言ってんだお前……」
「だって、奴さんヤバいっス。可視光学映像見ました? 完全に特撮映画のバケモノっスよあれ。私等どう考えても《《引き》》のまま死ぬ名も無き有象無象一直線コースっスよ♥」
「だからハートをやめろ」
「縁起でも無いことを言うなよ仲原。」
「いーえ、死ぬときはこの隊全員一緒っス!」
「一緒に死ぬ相手くらいまともなのを選ばせてくれ」
「ひっど」
「俺等は死なんように相手だけぶち殺すのが俺等の仕事なんだよ、死ぬことを考えて出兵する時代じゃない」

 この神戸打撃作戦の甲隊には一之瀬達の分隊以外にもかなりの兵力が割かれている。その前に福井で展開されていた筈の護京作戦の構成員もこの神戸打撃作戦に編入されているらしい。だが、その護京作戦が何故あっという間に終了して構成員が後備の作戦に編入されたのか、何の情報ももたらされていない。

「護京作戦はどうなったんだ。京都全系派肝煎りの迎撃作戦だったんじゃないのか」
「京都全系派は政治力はあるがまだ動かせる《《数》》が少なくて大した成果が出せなかったんじゃないのか」
「てか、てっきり私も|神妖《かみさま》って京都に行くもんだと思ってたっス」
「一応そう伝わっていたからな。この神戸打撃作戦自体が、本陣より後ろに防衛部隊がいる様なおかしな布陣だと思ったんだが、京都が目標じゃなかったのか」
「そう言う奴は別に今までも幾らかはいましたよね、|瞬火秋瞳《フォール》なんか、動きもしなかったですし」

 この分隊は他の分隊とは随分違って空気感が軽い……のは、概ね紅一点仲原のムードメイキングのせいだが、即ちそれは仲原を抑制しない分隊長の一之瀬が原因でもある。演習での成績がいいものだからと、上からはやんわり黙認されていた。隣接する分隊からは賛否あるが、ほっといても固くなりがちな実作戦時の雰囲気に於いては、概ね好意的に取られている。仲原のノリは海外現地の人間からは受けが良いらしい、言葉遣いの細やかな点は翻訳されると分からないことでもあるし。「外を飛び回ってる内は得な奴だな」は一之瀬の言葉だった。基本的には海外赴任が多いが、今回はローテーション上帰国時に駆り出されたというわけだ、運が悪いと言えば悪い。

―こちら第一前站指令、正田陸佐である。前站より甲隊へ。目標は現在、姫島より12|新浬《カイリ》にある。神戸打撃作戦の予定に変更なし、間もなく作戦開始となる。我々甲隊の目的は目標の防衛力減耗であり、目標の殲滅ではない。甲隊には元より目標を殲滅し得る火力を与えられていない、打撃だ殲滅だと出過ぎた行動で危険を冒すことは規律違反として罰することになる、心するように。貴官らの人的損耗無き帰還を、強く希望する。今のはギャグだ。以上。

 甲隊全体にブロードキャストされた通信は、どうやら甲隊員を鼓舞するものだったらしい、が、この分隊での受けはすこぶる悪かった。

「おもしろくねえ」
「第一前站って姫島の中に設置されてんだろ、こんな小さな島の。帰還ったって、死ぬときゃ全員一緒に死ぬし生きるときは全員一緒に帰還だ。何言ってんだって感じだな」
「第一前站含めて、俺達ゃ|島《不沈艦》に乗ってるってだけのただの使い捨て兵だ。こっちこそ上に期待なんか持ってないね」
「この分隊は不良グループっス。非国民集団っス。」

 お前が言うな。仲原の言葉に対して全員から総スカンだったが、当の本人は全く気にした様子はないようだった。
 と。その仲原の声が急にぴりりと引き締まって響いた。

「目標までの距離、約10|新浬《カイリ》を切りました。作戦開始予定距離っス」
―|前站《ENQ》、目標の〝ギンヌンガの衣〟とやらのサイズは?
―|確認応答《ACK》、こちら前站、甲隊3部担当です。〝ギンヌンガの衣〟の正確な範囲は、その性質上観測が困難です。前回展開時に不自然な海面低下現象が生じた範囲がそれと一致していると見做すと正円形ではありませんが大凡直径2000フィートとみられています。本体は現在10|新浬《カイリ》地点を48ノットで国東半島方向へ移動中。放出中の陽電子の量は増加していません。拡大の速度も、上昇しています。

「……単位を統一してくれクソッタレ。目標の移動に合わせて2000フィートの範囲をマップに重ねられるか? ……ていうかフィートって水平距離に使うか?」
「おやすい御用っス」

 仲原はタブレット端末を何事か操作して「設定完了っス」と帰してきた。まだ目標との距離の問題で広域マップに表示された点でしか無いが、その周囲に〝射程丁〟として円形が付随しているのが見えた。
 しかし、そもそもその〝ギンヌンガの衣〟というのが一体どうした攻撃なのか、この2000フィートがどんな影響を受ける範囲なのか、甲隊どころか神戸打撃作戦の構成隊員だれにも知らされていない。だが少なくとも護京作戦の際に禁裏御守衛が潰滅したことは事実で、それは誰もが認識していることだった。

「椙山、火術準備は」
「照準、データリンク提供値に調整済み、いつでも。しかし高射砲と榴弾砲を両方同じ目標にセッティングってのは妙な気分ですね。」
「でかすぎて両方当たるってこったな。こんなハッピートリガーな作戦は滅多にないぞ、楽しんでいこう。ついでに言えばLongMATの最長射程射撃なんて訓練でも滅多に出来ないだろう。」

 いつも表情の変化に乏しい椙山が、少し笑ったように見えた。「そのとおりですね」
 世界ではどうだか分からないが少なくとも日本の防衛施設では、ビル程度に大きな浮遊物体を対象に想定した対空火力は存在していない。SHIMARSが精々それに適した設備なのだろうが、SHIMARSは乙隊に全て持って行かれている。攻撃力が見込まれるため、02式主力特車含めて、本格打撃の方に回されたのだろう。世界で空中要塞とか浮き空母とかいうSFじみた装備が普及すれば対空ミサイルは大型化するだろうが、|今日《こんにち》の対空兵器はミサイルや航空機といった小さな軟目標を対象とするものしかない。対空兵器はミサイルが主力となっている現在、その威力の面では今回の作戦に際して乙隊へ回されていた。甲隊は、威嚇的側面の強い高射自走砲とそれに付属したLongMAT、その目標の大きさ故に無理矢理運用されることになった自走榴弾砲だけだ。それでも〝ギンヌンガの衣〟が展開さえされれば、作戦は成功と言うことになる。今度はその持続性の方が問題となるのだが。

「さっきお偉方の有り難い檄にもあった通り、俺達の仕事は殲滅じゃない。〝ギンヌンガの衣〟を早期に使用させて、本隊である乙隊の攻撃が〝ギンヌンガの衣〟終息後に届くようにするための、前哨戦だ。適当に撃って〝ギンヌンガの衣〟が確認されたら俺達の仕事は終わり。スリリングな割に楽な仕事だ、気だけ引き締めて楽しんで行こう」
「強制脱衣って萌えるっスね」
「それはお前だけだ。」

 冗談を冗談ではないような声色で言うのは、実戦作戦開始直前の緊張感からだ。もうすぐ本営或いは本営の指示を受けた前站から作戦開始の伝令がある。海外で実戦を何度も経験しているこの現場の部隊員でも、作戦開始前の緊張感は薄れるものでは無い、否、その緊張感を保てるからこそ生きて兵隊を継続できているのだろう。
 |広帯域多目的通信機《こたつ》から、ざっ、と入電直前の音が聞こえた。いよいよだ。

―こちら第一前站、全甲隊へ通達。目標が予定の距離に入った。神戸打撃作戦第一波攻撃開始、神戸打撃作戦第一波攻撃開始。
「作戦開始っス!」

 通信内容は全体に行き渡っているが、訓練通り仲原が復唱する。それを受けた一之瀬が、分隊に再度指示した。

「作戦開始だ。椙山、全砲攻撃開始」

 椙山が「発射」の声を発した、それと同時に海岸線に向いた全ての車輌が、轟音を上げる。まるで椙山がそれを指示したように見えるが、それは各分隊で個別に展開された作戦支持がほぼ同時にその姿を現したためだ。全ての部隊で統制の取れた作戦開始展開が成されている証拠だった。
 驚いた海猫は声を上げ一目散に一帯海上から飛び去り姿を消した。雲が掠れた線を引く青いカンバスに引かれていく新たな線は、各種防衛兵器の弾道だ。雲や海猫の姿と違い、そこに風情は微塵もない。動きは速く、粗暴で味気なく、何より文字通りに暴力的だ。けたたましい音もその風情のなさを物語っているが、新たにその場を塗り潰したのは牧歌的な長閑さではなく戦場に漂う戦場に相応しい新たな別の風情でもあった。
 斜め上に向いた自走砲の砲身は大差なく平行に並んで空に向いている、連続した爆発音と共にその先端から白煙が上がった。それと同時に無数のMATが軌跡を残し、布の繊維を裂くような細かく連続した破裂音が鳴り響く。対空化された機関砲弾は低程度に誘導して機動歪曲して橙に曳光しながら蛍の群れのように翔び、MATの有線誘導用の極細い光ファイバーがまるで蜘蛛の糸のように伸びる。

「弾着……今!」

 榴弾運用のセオリー通りに着弾時点のかけ声が、椙山の他、ほぼ同時に発射した他の分隊の砲手からも上がる。
 そして、しばらく経ってから、どんっ、どんっ、どんっ、と遠雷のような音が連続して響いた。一足先に到達したMAT、それに次いで榴弾砲が爆轟した音だ、命中したのかどうかはこの時点では分からない。

「命中確認を」
「目標に、榴弾、MAT、それに高射砲の有効判定数、いずれも命中を確認。」
「効いてるのか?」
「ここからではよく見えません。」
―こちら前站。攻撃、命中しています。依然〝ギンヌンガの衣〟の展開は確認されません。攻撃を継続して下さい。
「〝ギンヌンガの衣〟展開ナシ。攻撃継続セヨ」
「攻撃を続行、撃ちまくれ。」

 仲原から伝わった前站の通信を一之瀬が再度展開すると、椙山を中心に阪下と山神が分担しながら砲撃を継続する。
 海岸線から引っ切りなしに飛び続ける砲火。ただの威嚇射撃であることに間違いは無いが、それでもれっきとした攻撃力を持つ。単に目標が、バケモノと言うだけだ。これらの射撃が全て有効に命中しているというのが本当であれば、これが通常戦力であれば潰滅しているだろう弾数だ。

―目標、移動速度が上昇しています。ベクトル大、20修正。ベクトル角に変化無し、依然九州北部に向けて進行中。〝ギンヌンガの衣〟展開確認されません。

「ってことは効いてねえんじゃねえっスか?」
「知らんよ、俺達は俺達の仕事をするだけだ。観測止めるなよ」
「へーい。つっても煙もうもうで視認できないんスけど……。目標観測、変化ありません。」
「撃て、撃て。俺達の仕事は撃って当てることだ、相手を撃滅することじゃない、当たるように、ちゃんと撃て。」

 一之瀬のモノクル型HMDに映し出される衛星映像には、断続的なホワイトアウトが繰り返され、光の粒が無数に通過している様子が映し出されていた。その中心には|闇龗《サンダーインザダーク》が居るのだろうが、着弾と爆轟エフェクトのせいで姿を認識できるほどの映像にはなっていない。ただ前站の言う通り、見えるディスプレイに見えるフラッシュと僅かにタイミングをずらして爆轟音が聞こえていることからも、命中はしているらしいことは分かった。

「日本がまだ侵略的戦闘行為を憲法で禁じられていた頃の国際協力派兵ってこんな感じだったんっスかね、前線は他の国がやって日本は後方支援火力をゲーム感覚でぶっ放してるだけの」
「お前は今ゲーム感覚なのか」
「そうじゃ無いっスけど……少なくとも前線部隊が陣地確保してくれないとこんな暢気な砲火出来ないっスよ」
「仲原ァ! 俺達が、前線部隊だってコト忘れてんのかァ!? 俺達がアレを減耗して乙隊の火力を活かすのが仕事だろうがヴォケ!!」
「あ……そうなるんっスねえ」
「そういうことだ。一つ決定的な問題がある」

 一之瀬の、問いの色濃い発言に、仲原は険しい表情で答えた。

「私達には、陣地防衛の力が無い」
「そういうこった。少なくとも|神妖《かみさま》相手に陣地防衛に成功した実績は、自衛隊にはない。」
「……そっスね」

 幾度もの|神妖《かみさま》出現に対して、京都侵入或いは惑軌道行動を停止させ、長期間滞留を辛うじて防いでるのは、CIPHERと呼ばれる姿の見えない気味の悪い組織の功績だった。自衛隊は国防を担う組織でありながらその立場を全く得体の知れない組織に対して後塵を拝している。

「軍事国家でなくとも、軍事が力を持たない或いは有効な軍事が民の手を離れたとなりゃ、この国は終わりだ。そう言う意味でも、自衛隊は〝この国〟を護る最後の組織だ。それを忘れるな」
「うっス。すみませんっした……。」

―全甲隊、撃ち方止め。軌道発電衛星「あまてらす」からの観測にて、当該地域から大量の陽電子放出を観測中。
「うっ、撃ち方止め! 目標ニ動キ在リ!!」
「椙山、撃ち方止めだ。」
「了解」

 仲原が前站からの通信を復唱した次の瞬間、それまで響いていた爆轟音が、まるでいきなり耳栓を嵌めたみたいに聞こえなくなった。以降報告された弾着予告にも、その音が返ってこない。
 モバイルステーションを覗き込んだ仲原が、口を開け何かをイいたそうに口をパクパクとさせたまま、しかし何も言葉を発しないでいるのを一之瀬は見た。

「仲原、どうした。前站からの指示を伝えてくれ」
「い、一之瀬さん、来ました」
「なんだ」

 モバイルステーションから顔を上げた仲原は珍しく逼迫の表情を浮かべている。その理由は一之瀬にも分かっていた。一之瀬のHMDには、彼女が設定した範囲よりもより広い範囲で、〝観察不能〟の黒い領域が描き出されていたからだ。

「〝ギンヌンガの衣〟が展開されました。砲弾も、ミサイルも、《《消えています》》」

―第一前站より全甲隊へ伝達。本営が〝ギンヌンガの衣〟展開を確認した。神戸打撃作戦第一波攻撃を完了する。

「消えている? ってどういうことだ?」
「それと」

 〝ギンヌンガの衣〟というのが何なのか知らされては居なかったが、その展開を強いることが甲隊の任務だった。それが完了したと言うことは、甲隊としてはミッションに成功したことになる。椙山も、阪下も山神も一旦一之瀬の傍に集まってきた、それが本当であるのなら、一旦は任務完了と言うことだからだ。次の指示があるまでは待機と言うことになっていて、本営或いは前站の指示を仰ぐことになる。完全に安心とは言えないまでも、仮に胸を撫で下ろしてもいいだろう局面だと言うのに、仲原の様子は危機感を滲ませている。

「それと、目標の速度が、大幅に上昇しています。真っ直ぐこちらへ接近中!」

 声を大きくする仲原。他の分隊の観測員も同じような様子で慌てていた。

「あ、あれは」

 仲原の様子を訝しみながらふと海の向こうを見た椙山が指をさした方には、雷雲のように黒い、だが雲よりももっと実体感がない、まるで靄のようなものが見える、いや、《《見えない》》。雲ならば例え雷雲であっても幾らかふわふわとした質感を見ることが出来るが、そうでは無い。空のある一点から周囲に向かって暗闇が放射されていた。まだ昼だというのに、中心に向かって、じょじょに宵闇になっていく。衛星写真で見た、地球上に生じる昼と夜の境界が描き出されている、アレをもっとコントラストをくっきりと調整した感じだ。暗い部分の中央は、全く何も見えない。現代この地球上に存在するどの夜よりもなお暗い。

―こちら前站。目標、姫島へ向かって移動を加速。ベクトル大プラス修正59。
「はっ、速すぎっス……」
「目標は宇佐の筈だろう、予定ルートは国東半島南側を通過の筈じゃないのか。このコースは少々寄り道が過ぎるんじゃないか?」
―こちら甲一三分隊。前站、目標の進路が想定と違うんじゃないのか、どうなっている。|送れ《ENQ》
―|確認応答《ACK》。こちら前站、甲隊3部担当です。目標の進路はベクトル角12で修正されています。この進路の|180《ヒトハチマル》秒以上の継続が確認された場合、全甲隊は即退避となります。|どうぞ《ENQ》。
―こちら甲一三分隊、|了解した《ACK》。

「だそうだ。あの〝ギンヌンガの衣〟とかいう靄には何をぶち込んでも効果が無い、それは禁裏御守衛の潰滅が既に示してる。」
「そんなことは分かってます。でも、コースがこっち向きって話は聞いてない、あれは双子山の方を目指して曲がる予定じゃないのかよ。これじゃ俺達、捨て駒って事じゃないですか」
「退避ったって、それでもこっちに向かってきたら、この島、逃げ場無いっスよねえ」

 阪下がいう。当然その通りだ、山神も仲原も椙山も同意のようだ。当然一之瀬もそう思っている。

「悪く言えばそうなる」
「……良く言うと何になるんですかね?」
「犬死にとか」
「全然良く聞こえ無いっス!?」

 前站からの報告と仲原の直接観測、それに一之瀬の危惧通り、|闇龗《サンダーインザダーク》は急激に加速しつつコースを宇佐直行のそれから、北寄りのルート変更していた。仮に宇佐が目的地なら、姫島の上空を通る用にしか見えない。

「そもそも、〝ギンヌンガの衣〟って何なんです? こんな作戦を立ててまで先に使わせようって、上は随分怖がってるみたいですが。」
「わからん。何も知らされていない。陽電子が放出されてる、とか言っていたが」
「コリオリ誤差の拡幅と、時差拡大もあったっスね。これって、明らかに空間が歪んでる系なんっスけど」
「重力?」
「あれ、ブラックホールだって言うんですか? あり得ない。もしそうなら、地球の終わりですよ。いや、ゴミ処理問題が解決されて明るい未来が開けるってか? バカ言うなってんだ」

 分隊員は全員、〝ギンヌンガの衣〟が展開された直後から、弾着の爆轟音が聞こえなくなっていたのを思い出していた。仮に命中を逃したとしても、後ろの海面に当たったり一定時間を過ぎた場合には自爆するように設定されているにも拘わらず、爆発音は一切聞こえなかった。一之瀬のHMD上から戦略地図にぽっかりと黒い空洞が描かれている。

―こちら第一前站。|180《ヒトハチマル》秒経過していませんが、全甲隊戦線を離脱してください。繰り返します。全甲隊戦線を離脱してください。現地の道幅では車輌の使用は混乱の原因になります、車輌を使わず荷物を全て捨てて徒歩でフェリー乗り場へ。揚陸船がスタンバイしています、乗り込んで脱出してください。

「目標、真っ黒で観測できないっス」
「バカ、今はそんなことどうでもいい。脳天気司令部のお陰で俺等は捨て駒だぞ」

―前站、おい、前站、|応答しろ《ENQ》!
―|こちら前站《ACK》。甲一三隊、どうしましたか。
―……いや、さっさと逃げたかと思って怒鳴り散らしただけだ。

 一之瀬の予想を裏切って、一之瀬の一三隊を含んだ3部の担当となる前站通信手は、軽快な声で受け答えてきた。本当に軽快な気分であるはずなど無く、その声色は前線部隊の焦燥を軽減しようというストレスコントロールの一環として通信手が教育されている者なのだろう。だがそれを実践できていることには、一之瀬は感心していた。

―ご存じの通り、前站施設は市街地にあります。フェリー港は目の前ですから。余裕の対応という奴です。
―思ったより骨があるみたいで感心している。一つ聞きたい。〝ギンヌンガの衣〟ってのは、何なんだ?
―秘匿されています、我々も知らされていません。
―護京作戦で禁裏御守衛はあれにやられたんだろう? それも反撃さえほとんど出来ずに。
―そう伝え聞いております。というか、早くそこを退避してください。貴方方が全員が退避しないと我々もここを動けないんです。|送れ《ENQ》
―……|了解した《ACK》

「はぐらかされたな」
「そうかも知れませんけど、私達も早く逃げた方がいいっスよお!」

 仲原はぴょんぴょん跳びはねながら逃げる様にその場で駆け足モーションを見せている。その背中には|広帯域多目的通信機《こたつ》が背負われていた、荷物は全て捨てて退避するようにとの指示にも拘わらずだ。だが、それがあった方がいいと言う気分だけは理解できる。他の部隊では、それでも車輌を使って逃げようとしている者や、規律を乱して他の分隊員を無視して猛ダッシュで逃げている者もいる。|広帯域多目的通信機《こたつ》を背負って行動しようとする仲原はまだ、可愛いものだった。

「|広帯域多目的通信機《こたつ》は置いてけよ、っていうか荷物捨てろって指示だろう」
「これくらい持ってても持ってなくても走る速さ変わんないっス」
「頼もしいな、さっすがメスゴリ……」

 ぼこっ!

「一之瀬さん!? それ以上言ったらいくら上官でも殴るっスよ!?」

 既に殴られている一之瀬。

「そーゆーとこだろ仲原……」
「あ、あれが何なのかはよく分からんが、アレにどうにかされると死亡判定ってコトなんだろう」

 一三隊、退避する。一之瀬の命令で、分隊員全員が市街地南にあるフェリー港へ向けて移動を始めた。|闇龗《サンダーインザダーク》の移動が加速しているのは間違いないが、まだ強歩程度の速度で向かえば、十分に間に合う猶予はあった。全員ダッシュで港に到達し、輸送揚陸船に押しかけて混乱するよりは、落ち着いて順次到着する方が最終的には早く搭載が終わるはずだ。軍規とはそう言うものだ、他の部隊にはそれを守っていない奴もいるようだが。
 歩みの速さを落とさないようにしながら、仲原は器用に歩きながらモバイルステーションを覗き込んでいる。モバイル、といってもそこそこの重さはある、正直持ち歩きながら使えるような意味での〝モバイル〟ではないはずだが。

「砲弾他、全ての飛翔体が、届く前に所在を途絶えさせていました。観測上ではまさに〝消え〟ています。本体が観測できないので……速度がよく分かんないっス」
「真っ黒で、あの靄の中に何があるんだかさっぱり分からんな。本当に消えてるんじゃないだろうな。」
「ブラックホールに吸い込まれるとホワイトホールに出てくるなんて聞いたことありますけど」
「アレがブラックホールなら、向こう側に楽園があるかも知れないな。もっとも、死んでも天国に行くのだろうが」
「俺達兵隊で人殺しまくってるから、地獄じゃないですかねー。ってかブラックホールでは無いでしょう、だとしたら海面が低下するのはおかしい」
「なんだって関係ない、|神妖《かみさま》のキセキで死ぬなんて御免ですよ! こんな所に居られるか! って、この島どこにも行き場がない! ああああ!」
「ほらやっぱ私達は《《引き》》のままくたばる名無し有象無象なんっスよぉ!」

 パニくるのはいいが、俺達を巻き添えにするなよ。一之瀬が言うと2人は旬と小さくななる。

 南側海岸線の道は多くが護岸された岸壁の内側に舗装された細い道だ。それとは別に、島の中程を東西に横断する県道があり、更に北側にも道がある。姫島灯台のある東端稲積に部隊配置された一之瀬達はそのまま海岸線を徒歩で移動し、中程南側に位置する港へ向かう予定だった、しかし。

「えっ」

 モバイルステーションを覗き込んだまま器用に歩いている仲原が声を上げた。しかしその声の意味を、彼女以外の、水平線を望む全員が察した。

「はっ、速す、ぎ、じゃないっスか……?」

 一之瀬が|広帯域多目的通信機《こたつ》から送話器を引き千切らんばかりに引っ張って叫んだ。

―ぜ、前站! まだいたら

 明らかにその応答ではないタイミングで、各員の小型通信機にブロードキャストで通信が入る。

―こちら第一前站司令。揚陸船乗り合わせ場所を、北側ポイント〝ゴルフ〟へ変更する。繰り返す。揚陸船乗り合わせ場所を、北側ポイント〝ゴルフ〟へ変更する。南岸を移動中の部隊があれば即座に北上するように。目標の移動ルートが変更され速度を急激に増している。南岸フェリー乗り場はリスクが高い。総員〝ゴルフ〟へむけて各個後退。|以上《LF》。

「ゴルフなんて場所、定義されてたか?」
「一応。作戦上全く関わりが無い想定だったので、ブリーフィングでも全然名前が出てこなかったですけど……エビとひじきの養殖場ですね。ここです」

 椙山がマッピングする。基本的に海岸線を維持した造りになっている島の中程北側だけが、不自然に人工的な直線になっている。養殖漁業用の人工港湾らしい。

「えびだかかにだかひじきだかしらんが、急ぐぞ」
「歩くとそこそこかかりますけど、フェリー乗り場もここも、養殖場も大して変わらないのでは」
「……言うな」

 つまり、稲積やフェリー乗り場が危険なら、南岸だって諸共ヤバいと言うことを、山神は言っていた。それは誰もが感じていることだ、この島はそんなに大きな島じゃない。島の中をあっちやこっちに移動したところで、リスクはさほど変わらないんじゃないのだろうか。

「《《引き》》図のままくたばる名無し有象無象っスねぇ……」

 仲原の口調には、もうさっきまでの明るさはなかった。

「まあ、とにかく移動だな。北岸には温泉もあるぞ」一之瀬が全員の不安を察しながら、平静を装い分隊員を促す。
 そのとき。

「地震?」

 地面が大きく揺れた。しかもかなり大きい。全員咄嗟に伏せて耐衝撃体勢を取る。伏せていても体が上下に跳ねそうなくらいに大きな地震だった。

「で、でかいぞ!」
「落ち着け、ここは上から降ってくるものはない、安全だ!」
「地割れでも起こらない限り、ですがねえ!」

 その言葉に不安を覚えるほど、その地震の揺れは大きく、普通にしていても聞こえるほどの地鳴りを響かせている。時間の経過で、縦揺れに加えて横揺れも混じってきた。ここが島であることを考えると、まるで島が揺さぶられているかのような錯覚を覚える。誰に? |神妖《かみさま》に?
 幸い地割れはまだ生じていない。だが揺れは依然大きく、意図的に伏せた配意ものの立ち上がるのにはそれなりの労力が必要そうだった。
 通信機がノイズを走らせている。|広帯域多目的通信機《こたつ》もだ。自身により不測な電磁波が生じているのだろうか。ざりざりという耳障りな音に混じって、人の声が聞こえてきた。

―こ、こちら前站甲3隊担当。地下で火山活動が活発化しています! 〝ギンヌンガの衣〟で重力レンズが減衰したことが原因とおもわれますが、余りにも急激です。合流ポイントへの移動を急いで下さい!|以上《LF》。
「ジュウリョクレンズガゲンスイって、何だ?」
「さあ……もっとガッコで勉強しときゃ良かったっス」
―おい前站、お前なんでまだそこに居るんだよ!? |送れ《ENQ》!
―ほとんどの部隊がまだゴルフに到達していませんので。|さっさとして下さい《LF》!
―思ったより頼もしい前站で心強い、悪かったよ。でもこっちはあっちににげろこっちににげろで右往左往だ。こっちはもうゴルフに向かってる。そっちこそ無駄に逃げ遅れるのだけは止めてくれよ、唯でさえ無呼吸気味なのに余計に寝付きが悪くなる!

「一之瀬さん、無呼吸なんスか」
「歳だ、ほっとけ」
「なんかショックっス」

 相変わらず緊張感のない奴だな、阪下が言うが、その緊張感のなさは分隊員にとっては幸いだった。危機感と不安感で溢れそうな胸中から僅かにだがガス抜きしてくれていた。

「ただの地震ならいいが……」

 一之瀬が「それとも何かが起こるのか」と言い切る前に、それは起こった。地震が再び急激に激しくなって、今度はまるで地盤毎転がされその場に留まることさえ困難な程激しい、さっきまでの揺れが地盤の深い部分で生じていたような者と表現するなら、今激化したのは、表層が引っぺがされてひっくり返るような荒々しさだ。

「あああああ、だだだだだだ、だめじゃないですかねえこれええええ」
「しましずむんじゃああああああ?」

 伏せの姿勢を維持する意識など無くとも立ち上がることが出来ない。精々転がされてどこかに放り投げられないようにと、地面の何かを掴むような意識で這いつくばる。

「ぅうっ!?」

 そして、ずん、と低い音が響いた。大地そのものを震わせるような、音量が大きいと言うよりは広い音。周辺の空気全体が揺さぶられるような音が世界全体に響いているような錯覚。耳ではなく体で感じる音。
 そして揺れが小さくなって、今度は嘘のように収まった。

「……なんだ?」
「う、わっ!?」
「なんだ、爆発!?」

 次の瞬間、もう一度、一際大きな爆音が響いた。近くに迫撃砲弾でも堕ちたかという爆音だ。揺れが収まって油断しかけていた全員が、再び頭を抱えるように伏せる。大地が揺れているのか、空気が激しく揺れているのか、区別が付かない。耳に入り込んでくる音なのか、体全体が揺れているせいで鼓膜諸共揺さぶられているのかも分からない。しばらく続いた地鳴りなのか爆音なのかも分からないその音が、ようやく小さくなる。残響を残し、そしてそれも消えた辺りで、顔を上げた。
 とにかく合流ポイントに行かなければ。そう思ってのことだったが、今度は珍しく椙山が大きな声を上げた。

「い、一之瀬さん、さっきまであんな山、ありましたっけ?」

 そう言って指さす方を見ると山があった。山と言うには少々低いが、丘と言うには急峻だ。そしてその山頂、山腹の何箇所かからは、赤く鈍光る溶岩が漏れ出て幾筋もの赤い流れを見せていた。確かに、山なんて無かった、今の地震で突然隆起したのらしい。それは浮田と呼ばれる場所だった。

「ヤバく無いっスか」
「ヤバいだろうなあ……」

―こちら前站。無事な部隊は早急に合流ポイントへ向かって下さい。本営からの連絡では、中津上宮永、西方寺、鶴川、八幡浜市広瀬、沖宇部、瀬戸、各地震観測所からの報告で、国東半島沖姫島付近の地盤が大幅に隆起しており、地下で火山活動の活発化が予測されるとのことです。休眠中の姫島七火山に、重力変動が影響を及ぼしている可能性があります。

「七火山? この小さい島の周り火山が7つもあるってえのか?」
―前站、七つの火山の位置を|おしえてくれ《ENQ》
―|こちら前站《ACK》。大海、矢筈岳、金、稲積、城山、達磨、浮洲の7つです
―はぁ? 待て待て、それ、《《島の周り》》どころかほとんど《《島の中に》》7つじゃないか。それじゃあこの島のどこにも《《火山じゃない場所がない》》だろう。|送れ《ENQ》。
―|その通りです《ACK》
―その通りとか簡単に言うなよ
―今のところ爆発的噴火を見せているのは、稲積だけです。落ち着いて行動してください。|以上《LF》

 冷淡とも言える結で、通信が終了する。冷淡に聞こえはするが、この期に及んで持ち場を離れず通信手を続けている前站は中々肝が据わっているとも言えた。

「ていうか、|前站《あいつら》結構根性あるな」
「そっスね……」
「ここ、さっき言ってた稲積に直近なのか、派手に揺れたわけですね」
「浮田の〝地下に大蛇が埋まってて田んぼが揺れる〟って伝説は、火山活動の地震のことか。それに、あの溶岩流」
「まあ、蛇と言えば蛇ですね」
「ここはまずいな、走るぞ」

 あんな近くに溶岩流が見えるのは、流石に危機感がある。全員すぐに立ち上がって、ゴルフに向かって駆け足で移動することにしたそのとき。

―甲全隊、こちら前站司令。悪い報せがある。

「ぇぇ……やめてくれよ、なんだか知らんが悪い報せは今は全部キャンセルだ」

 しかも全隊ブロードキャストと言うことに、尚更不安感が増す。

―今の地震の影響で、島外脱出に使用するはずだった揚陸船が、座礁し洋上にて行動不能になった。

「「「「はぁ!?」」」」

 絶望の前に驚愕がやってくる。周囲に居る幾つかの他の分隊でも全く同じような反応が見えた。どうするんだよ、すぐになんとかしろ、と怒号にも近い声が聞こえていた。前站には各部隊を束ねて担当する通信手が何名か並列で存在しているが、通信用の席周辺は今、リコール商品のコールセンターさながらに大変なことになっているだろう。

「……ドラマティックRPGも裸足で逃げ出す不運だな」

―ゴルフへの集合に変更は無い。一旦ゴルフで待機して貰うことになる。|以上《LF》。
―おい前站、以上、じゃねえ、代わりの救助船は来るのか? |送れ《ENQ》
―|こちら前站甲3隊担当《ACK》。現在、特別警戒警報発令中につき船舶は遠部へ退避か、強く繫留されており、救出に向かえる稼働可能な艦船船舶はありません。民間に依頼中ですが、姫島に向かうまでかなりの時間を要すると思われます。
―時間がかかるかどうかではなくて、噴火でこの島が沈むとか、|闇龗《あれ》の気が変わってこっちに来るとか、そういうのに対して間に合うのかが知りたい。|送れ《ENQ》
―|残念ながら《NAK》、いずれも予測不能の出来事につき、お答えが出来ません。|以上《LF》。
―……まあそうだろうな、|了解《ACK》。

「期待はしていなかったが残念な結果だね」
「あいつらがフェリー乗り場からさっさと脱出してた方がまだマシなんて結果かよ、堪んねえぜ」
「とにかく、北上だ。こんな小さな島で北も南も大してかわらんかも知れんが」
「靄ももうすぐそこまで来てます」
「溶岩流にブラックホールとは、こんな狭い島に荷が重いんじゃ無いのかよ!?」
「急ぎましょう。|神妖《かみさま》に食い殺されるか、溶岩で焼け死ぬか、どっちも御免です。」
「流石にこれは捨ててくっス」

 仲原がいよいよ|広帯域多目的通信機《こたつ》とモバイルステーションを放り捨てた。どすどす、と地面に落ちた音を聞いて、メンバーは一様に「マジでコレ持って走ってたのかよ」という表情を隠さない。

「そうしろ、ってか使ってないだろ。」
「|ステーション《こっち》は使ってたっスよ!」
「どうせ前站との通信は小型無線機で出来るんだし、今更|闇龗《あれ》を見たって仕方ないだろう。そいつが命より大切なら止めないが」
「捨ててくって言ってるじゃないっスかぁ!」

 走れ、一之瀬の言葉で走り始める分隊員。周囲の他の分隊も同じように走り出している。溶岩流が暴れている光景を背後に背負いながら、皆が走り続けていた。

「地点ゴルフまでそんなに遠い距離じゃ無い。ただ、集まった後でどうするかだが……」

 と、走っている最中に、再び通信が入る。

―達磨山二号高地がヘリポートになっています。車輌を運搬してきたオスプレイが1機、駐留しています。|使用して下さい《CSI》。
「達磨山って、丁度たった今、危険地帯になった所なんですけどねえ」
「そう言う点ではこの島のどこにも安全な場所はない、逆に、どこに居たって変わりゃしない」
―オスプレイはデータリンク自動操縦に対応しているのか? |送れ《ENQ》
―|しています《ACK》。シビアな気象条件と離着陸地形でなければ、パイロットなしで輸送が可能です。
―|了解した《ACK》。達磨山二号高地に向かう。
「地獄に仏だな、仏さんが怒りの形相になって居なきゃいいけれど。達磨山二号高地に向かうぞ。ルートは北側ルートを通ると遠回り過ぎるし、南岸も大回りだし危険が伴う。686号を行こう。トンネルもあるし、もしかしたらあの黒い靄が覆い被さってもやり過ごせるかも知れない。」
「686号も、大海、金を突っ切る形になりますが」
「もうどこにいても変わらん、さっさとヘリポートに向かうべきだろう、リスク算出なんかしている暇は無い」

 その案には全員賛同だったし、周囲の部隊もそれを選択したらしい。北側ルートに入ったところの道をほんの少し戻って、686号に入ろうとしていた。
 浮田の方では、溶岩流がまだ勢いよく流れ出していた。まるで蛇、山神がそう表現していたが、本当にまるで這い回るように時々刻々と流れのルートを変え続けていた。
 溶岩とはああも流れのルートを変えるものだろうか。山神は背後で暴れ続けるその姿を、訝しく見ていた。
冒頭に書いたとおりですが、
当話は「ルミナス世界と日出ずる国の革命布告(ニューワールドオーダー)①」の手前に挿入されます。
また、当話を挿入するにあたり、④に内容的な修正を行いました。
順序を乱す投稿と、遡及する修正によって混乱を招き申し訳ありません。

『間に合えば』2019年6月30日(日)の第三回東方蛍光祭にて、
「ルミナス世界と日出ずる国の革命布告(ニューワールドオーダー)」を本として頒布する際
当⓪話の内容は、各箇所に分散して再配置される可能性があります。併せてご了承下さい。

そんなこと誰も見ちゃい無いと思いますが。
みこう悠長
コメント




0. コメントなし