真・東方夜伽話

粋で誠な愛に包まれて

2019/02/22 23:44:19
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粋で誠な愛に包まれて

注意点
・二次設定、独自設定、独自解釈等があります。
・オリキャラ(名無し男)との絡みになります。また、男はそれなりに喋ります。
・また、今回はストーリーパートが非常に長い為、夜伽パートのみ読みたい方は2番のみお読みください。但し、夜伽パートはストーリーパートを前提とした内容になっていますのでお気を付け下さい。

1.
 夕暮れが輝く時間の人里は、朝や昼間とは違う喧騒に溢れていた。飲み屋からは仕事を終えた男衆の、早くも酒を楽しむ騒がしい声。明日の再会を約束し、家へと駆けて行く子供達の声。今日はこれが安い、今が旬なのはこれだと売り込む商店の親父の大きな声と、それらから献立を考える数人の母親の姿。時にはその傍らには荷物を持つ父親と、今日はあれが食べたいとねだる子供の姿もある。
「…………」
「○○、○○……」
「あっ、純狐さん、何ですか?」
「ずっとあの魚屋さんを見ていましたが、見知った顔でも?」
「えっ、あぁ、そうですそうです。もしかしてあいつかなって思ってたんですが、人違いでした」
 本当は買い物をする親子を見ていたと言えなかった。その些細な嘘がとても後ろめたくて、慌てて買い物のメモに目を走らせる。
「えーっと、後は……。あ、さっきの豆腐屋で油揚げを買い忘れてましたね。ちょっと買って来るので、純狐さんはここで待っていて下さい。すぐ戻ります」
 誤魔化しの行為で買い忘れに気付いたのは不幸中の幸いか。買い物籠に入れた財布から小銭を数枚取り出し、先程買い物を終えた豆腐屋に向けて走った。

「急がなくてもいいから、気を付けて」
 私は駆けて行く彼の後ろ姿に声を掛ける。既に少し距離が開いてしまっていたから聞こえていないかも、と思ったが、彼は後ろ手を振って応えてくれた。
 ○○を待つ間、通りの往来の邪魔にならないよう端に寄ってから、不意に出来た一人の時間を静かに過ごす。
 行き交う人々に目を向ける。まだまだ遊び足りない子供達がじゃれ合いながら帰路に就く声、自分と同じように端に寄って集まり井戸端会議をする奥さん達、眉雪ながら工具箱片手にのしのしと歩く体格のいい男性。様々な音と声と人がここにはあった。
 中には自分のような人ならざる者もいるが、そのことに気を留める者は殆どいない。きちんと変装している者もいるが、私のようなそちら側の者からすればすぐに見分けがつく。最も、だからと言って声を掛けたりはしないし、あちらからも何もしない。人間も、妖怪も、それ以外もこの幻想郷の住人として放っておかれるこの空気が、どことなく好きだった。
 ふと、大きなお腹を抱えた若い女性とその旦那であろう男性が歩いているのが目に入った。あのお腹では恐らく、それほど遠くないうちに新たな命が産声を上げるだろう。
 仲睦まじい二人の、幸せそうな表情。その笑顔が何故か私にはとても心苦しくて、顔を伏せて自分のお腹をそっと撫でた。

 何故、いつも通りの日常を送る親子を見ていたのか、それは。
 何故、これから母親になる女性を見て心苦しいのか、それは。



「お邪魔するわよん」
「はいはい……って、あれ? ヘカーティアさん?」
 ある日の昼過ぎのこと。自宅の居間で一人お茶を啜りつつ読書していると、ある方が訪ねて来た。その人物の名前はヘカーティア・ラピスラズリ、地獄の女神であり、自分のような普通の人間とは接点どころか生涯関わることもないような方だ。
「純狐と会う約束があったから来たのだけれど……。居ないみたいねえ」
「あー……、純狐さんならヘカーティアさんのところに行ってくるって少し前に出かけたんですが、入れ違いになってしまったみたいですね……。今は俺一人ですよ」
 しかし、そんな畏敬の念を抱くべき一角の人物とこうして話し、かつ気さくな間柄なのには理由があった。
 それは、彼女の友人である純狐という女性は、現在自分と同棲している恋人でもあるからだ。勿論、恋人の友人だからと言って恐れ多い存在なのには変わりないのだが、女神自身の堅苦しいのは無しという希望により、一般人ながらそれほど畏まらない口調で離している。
「あらら、今日は私が行く予定だったと思ったけど、記憶違いだったかしら。そうね……、それならここで待たせてもらってもいいかしら?」
「俺は構いませんが……」
「純狐のことなら大丈夫よ。ちゃーんと出る前にピース用の書置きもしてきたし、今私が動くとまた入れ違いになるかもしれないからね」
 純狐を呼びに戻る、ないし何らかの方法で連絡を取った方がいいのではないか、と思い言い淀んだが、その考えを見透かしたかのように彼女は言う。
 簡易の使者を創造する、はたまた念を送るなども出来そうな方ではあるのに、書置きというのが何とも庶民的だが、この人が大丈夫と言うなら大丈夫なのだろう。何より、彼女の家まではそれほど時間は掛からないらしいので、戻りが遅くなることも恐らくない。一応自分も数回行ったことがあるが、いつも彼女の魔法とやらで目隠しされた上に聴覚まで奪われ、いつの間にか着いているので道中はよく分からないが。いつだったか、本当は目隠しじゃなくて意識を飛ばしているだけなのではと尋ねたこともあるが、『秘密よん』の一言ではぐらかされた。
「そうですね……。では、お茶でも用意しますので、どうぞ上がって下さい」
「お構いなくー」

 台所から客人用の湯呑と手頃な茶菓子をお盆に乗せて居間に戻り、待ってもらっていたヘカーティアさんの前に湯呑を、卓袱台の中央に茶菓子を置いたところで、今更ながらあることに気付く。一個で足りる湯呑と、ピース用の書置きということは。
「今日はピースは一緒じゃないんですね」
「ええ、今日は出かけてるわ。いや、今日も、かしら」
 茶を注ぎつつ彼女の部下である妖精、クラウンピースについて尋ねると、そのような返事が返ってきた。
 曰く、近頃クラウンピースには妖精の遊び仲間が出来たらしく、最近は一日中別行動の日も珍しくないとのことだ。
「そうなんですか……。実は隠れてたりとか」
 茶を注ぎ終わったところで急須を置き、空いた窓、箪笥の影、天井と辺りを見回す。クラウンピースは妖精らしく悪戯好きで、自分もよく標的にされるものの決して嫌ってはいないし、仲良くやっているつもりではある。だが、今この瞬間の、純狐もクラウンピースもいない、ヘカーティアさんと二人きりの状況は正直待ち望んでいたものだった。
「ピースはいないわよん。もしかして、聞かれたくないような大事な話でもあるの?」
 クラウンピースの所在を念入りに確かめているとさらりとそう言われ、思わず心臓が跳ねる。何故クラウンピースの所在が気になるのか、ではなく、話があるのか、という問いは既に答えが分かったうえでの一足飛びの問い掛けの台詞だからだ。
 卓袱台の上で指を組みつつ、全てを見透かすような赤い瞳を細めて優しい笑顔を浮かべる彼女はまさに女神のよう。しかし、それ以上にやはりこの人は規格外だと思い知らされる。
「……ヘカーティアさんに相談したいことがありまして」
 自分は飲み掛けだった湯呑の茶を一気に飲み干し、喉を潤してから意を決して口を開いた。

「いいんじゃない? 子供」
「そ、そうですかね」
「貴方達はもう殆ど夫婦みたいなもんだし、いつかそうなるだろうと思ってたしね。そもそも子供ができるかどうかは私にも分からないけど、ここは何が起こっても可笑しくない幻想郷、何とかなるでしょ」
 今はまだ当人には何も言っていないが、実は前々から純狐との子供を考えていることを告白すると、あまりにもあっさりと肯定を返された。
 本当はやはり正式に夫婦になってからの方がいいのだろうが、見た目こそ人間そのものだが仙霊である純狐とは子が非常に成し難いかもしれないので、婚姻に先んじて行った方がいいのでは等も説明したうえでの相談だったとはいえ、最初から否定する気なんて無かったかのようだ。
「……私の返事がそんなに意外?」
 その返答に思わず黙りこくってしまったからか、ヘカーティアさんは不思議そうに首を傾げる。
「あ、いえ、そうではなくて、もっと意見を出し合うことになるのかと思っていたので……」
「んー、だって、貴方自身が説明してくれたように、貴方なりに凄く考えての結論なのは分かってるもの。第一、純狐の過去も今も知ったうえでお互い愛し合ってるくせに、今更私がどうこう言うことなんて、ねえ」
 純狐の事情をよく知る親友はくっくと笑う。しかし、すぐに表情を真面目なものに戻すと、こちらを見据えた。
「むしろ、何を悩んでるの? 純狐が子供を好きか嫌いかなんて分かり切ってることだし、わざわざ私に相談するってことは自分だけじゃ結論を出せない何かがあるんでしょ?」
 純狐の話題をまず挙げたことから、本当は自分が何に悩んでいるなんて分かっているのだろう。なのに、あえて聞いてきてこちらから言い出すのを待つ。一見意地悪くも思えるが、急かさずに聞いてくれていることが有り難かった。
「……ないがしろにしているんじゃないかって。純狐さんも、純狐さんの過去も」
 それだけ言ってから、静かに深呼吸し、再び口を開く。
「今まで、出来るだけ触れないでいたんです。自分と二人でいる時くらいは、触れないまま、辛い過去は思い出さなくていいんじゃないかって。そう自分で決めたのに、そう思ってこれまで一緒に過ごして来たのに、今更純狐さんとの子供が欲しいですなんて、あまりに自分勝手じゃありませんか? 勝手に純狐さんの過去を腫物扱いしたのに、今更、そんな都合がいいことを言うなんて」
 ヘカーティアさんは口を挟まず、黙って聞いてくれていた。そして、全て言い終わると、真剣だった表情を崩す。
「そこまで気に病む必要は無いと思うわよん。確かに、都合がいいことを言っているかも知れない。だけど、それは貴方の優しさ故の結果でしょう? きっと、純狐もそれは分かってると思うわ。だから、地獄の女神として、それと純狐の友人として、絶対に成功すると保障するから自分勝手とか気にせずに直球で言っちゃいなさいな」
「……純狐さんに、貴方との子供が欲しい、ってですか?」
 ヘカーティアさんの言葉にそう返すと、彼女はにっと笑う。地獄の女神兼恋人の友人の言葉と笑顔に、幾らか不安が取り除かれる。
 やはりこの方は女神なんだな、と思っていると、彼女は不意に後ろを向いて、窓の方へ顔を向けた。
「○○はこう言ってるわよー。純狐ー」
 そして、ここにいないはずの人物の名前を呼ぶ。
「え? え……、え?」
 その言葉の意味が理解できず泡を食っていると、ヘカーティアさんはこちらに向き直ってにやーと大きく口角を上げて笑う。程無くして居間の襖が静かに開かれて姿を現したのは、渦中の人物、純狐だった。
 彼女の顔は真っ赤に染まっていて、金の細い髪の隙間から覗く耳まで赤い。人が顔を赤くする状況というのは色々あると思うが、彼女の目が明らかに泳いでいることから、恐らく恥ずかしがっているのだろうか。彼女が恥ずかしがる姿を見たことは何度かあるものの、ここまでのことは初めてだった。
 この状況に戸惑いながらも少しでも状況を呑み込もうと必死で情報を得る自分を余所にヘカーティアさんは立ち上がると、純狐の隣まで悠々と歩いて行く。
「実は、純狐はさっきの話ずーっと聞いてたのよん。窓の外で、ね」
「じゃあ、誰もいないって言うのは……」
「ピースのことは聞いたけど、純狐のことは聞かなかったじゃない。それに、ちゃんと言ったわよん。ピース、は、いないって」
 飄々と答えられるそれらの言葉にぐうの音も出ない。やはりこの方は普通の女神じゃなく、地獄の女神だ。
「それより、何で純狐がここに居るのか教えましょうか。本人からは……今はちょっと無理そうだから、私から説明するわね」
 ヘカーティアさんが純狐に方を向くと彼女は口元を袖で隠してふるふると首を振ったので、代わりにヘカーティアさんがこうなった経緯を語ってくれた。
 どうやら、この方がここを訪れる前から二人は会っていたらしく、そもそも入れ違いなんて起こっていなかった。では、何故盗み聞きなんてことをしたのかと言えば、ヘカーティアさんも純狐から相談を受けていたのだ。自分との関係に関する相談を。
「だけど、正直言って私からはなんとも言えない内容だったのよねー。だから、貴方からあることを直接聞いて、それを参考にしてもらおうかなって思って来たのよ」
 そして、どうせ聞くなら相談した本人がその回答を聞けば話が早いと、純狐には予め窓の外に隠れて貰ったらしい。
「でも、こっちから話を振る前に貴方から言うんだから、私の役目無くなっちゃったのよねー」
 そこまで説明して最後にからからと笑うと、彼女は純狐の背中に回る。
「ま、一個は解決したし、もう一個は私が何か言うよりも貴方が言わないと駄目だから。……ということで私は帰るから、後は二人でごゆっくり。じゃーねー」
「きゃっ」
 ヘカーティアさんは手をひらひらと振ると、純狐をぽんと押す。押された純狐は可愛らしい悲鳴と共に、こちらにふらりと踏み込んできた。
「わっ、とっ、と……。純狐さん、大丈夫ですか?」
「え、ええ。有難う」
 そんな彼女を慌てて抱き抱え、何とか無事に受け止めたられたことに安堵していると既に地獄の女神の姿はなく、玄関の方から戸が開く音、続けて閉まる音が聞こえてきた。帰るという言葉に嘘は無かったようだ。
「……本当に帰ってしまったみたいですね……」
「そうみたいね……」
 嵐が過ぎ去った後のような心持で小さく嘆息する。しかし、それに浸る間もなく、純狐は口を開く。
「……○○、まずは先の事を謝罪しないといけないわね……。ごめんなさい、騙すような真似をしてしまって」
 言いながら純狐は体を少し離すと、俯きがちに頭を下げる。彼女が最初に行ったのは先の会話について問い質すことでも、自分の行ったことの弁明でも無かった。
「い、いえっ、純狐さんが悪いわけじゃなくて、いや、ヘカーティアさんが悪いと言いたい訳でも無くて、その……」
 慌てて両手をぶんぶんと振って否定するものの、やはり純狐は申し訳なさそうな顔のままだった。もしここで自分も黙ってしまうとお互いに黙りこくってしまいかねないと思い、頭をフル回転させてすぐにこちらから質問をする。
「あ、あの、俺とヘカ―ティアさんとの話、ずっと聞いてたんですよね」
「……ええ」
「ヘカーティアさんはこう言ってましたよね。『話を振る前に貴方から言った』『役目が無くなった』って。ということは、子供についてどう思っているかを俺から聞き出そうとしてたってことですか?」
 多分そういうことなのだろうと思いながらも、確証を得るために質問する。すると、純狐は言葉での返事こそしなかったが、小さく頷く。
「それなら、その、純狐さんがヘカーティアさんにした相談も、子供を考えてるって相談で、合って、ます、か……?」
 そうであってくれと思いながら、恐る恐る尋ねる。何故自分のそれを知ろうとしたか、それは、彼女が親友にしたであろう相談の内容は『私は子供を考えているがあの人はどうか』か『私は子供を全く考えていないが、あの人はどうか』の二者択一。勿論自分は、前者であって欲しい。
 緊張に高鳴る心臓をやかましく思いながら純狐の一挙手一投足を注視していると、彼女は赤さの残る顔を上げてこちらの瞳を見つめて、口元を袖で隠しながらこくりと頷いた。
 その無言の返答に一気に嬉しさが込み上げ、このまま目の前の彼女を思い切り抱き締めてしまいたい衝動に駆られる。だが、まだそうするには早いと理性と記憶が抑え込む。
「……あの、ヘカーティアさんはこうも言っていましたよね。『もう一個は貴方が言わないと駄目』って」
 そう、貴方が解決してあげて、と言われたもう一つの苦悩が残っている。それは、自分もまだ聞いていない悩みだ。
「そのことを、聞かせてくれませんか」
「……それは……」
 純狐は逡巡した後、再び顔を伏せる。言いにくいのだろう。しかし、その理由は分かっていた。彼女が子供に関して言いよどむことと言えば、それは自分が今まで触れずにしてきた過去のことに間違いない。結局彼女に辛い思いをさせる羽目になってしまったじゃないかと自分に毒づきながらも、純狐の言葉を静かに待つ。このことばかりは、彼女の言葉をそのまま聞かなければならないからだ。
「……いえ、そうね。○○、聞いてくれる?」
 彼女自身もこのことは自分から言わねばと分かっていた。やがて決心した純狐に黙って頷くと、彼女はゆっくりと、内に秘めたものを吐露し始めた。
「……私が今日ヘカーティアに相談したことは、さっき○○が言った通り、私は子供が欲しいけれど、○○はどう思っているか。……それと、私は○○との、貴方との子をきちんと愛せるかどうか。最も、二つ目に関してはこう言った途端、ここに連れてこられたから何も答えはくれなかったけれど」
 純狐さんは小さな溜め息と共に自嘲すると、また顔を俯かせてしまう。
「私は、分からない。○○との子を、貴方との子として、愛せるかどうか。私の中に、そんな感情が残っているのかどうか。私は、“あの子”に向けられなかった愛情の矛先を、過去の代わりを求めているだけなのではと、考えてしまうの」
 こちらの胸に右手を添えると、そのまま服をぎゅうと引き絞る。押さえ切れないものを堪えるような、縋る手つき。
「貴方との子が欲しいなんて言うのも、私の悲しみを慰めるという本心を誤魔化す自分自身への虚言で、本当は○○かどうか、貴方との子かどうかなんてどうでもいいのかも知れない。貴方も生まれてくる新しい命も代わりだなんて、そんな、そんなことは許されないのに」
 服を掴む指が小さく震えていた。自分なんかよりもずっと強大な力を持つ彼女だが、嘆き、深い悲哀に沈む今の姿はあまりにも弱々しい。
「こんな私でも、好きだと言ってくれた貴方なのに、そんな○○との子なのに……」
「純狐さん」
 少しでもいいからその悲しみから彼女を掬い上げたくて、名前を呼び掛けてからその体に手を回して抱き寄せる。抵抗は無かった。
「まずは、話してくれてありがとうございます。それと、今までその悩みに気付けなかったことと、自分から話させるなんて辛いことをさせてしまってごめんなさい」
 触れないでいた辛い過去から、今現在まで繋がる苦しみを自ら語ってくれた純狐に、何を言えばいいのか。何を伝えればいいのか。
「純狐さん。大丈夫ですよ」
 口をついて出たのは、至極単純な一言だった。胸の中の純狐の背をよしよしと撫でながら、言葉を続ける。
「純狐さんと出会って、好きになって、一緒に暮らすようになって、長くはないけれど短くもないくらい同じ時間を純狐さんと過ごしましたけど、純狐さんなら大丈夫だと思います。こんなにも悩んで駄目なことだと自分を戒めるくらい、俺も子も、想ってくれているじゃないですか。どうでもいいなんて、それこそ嘘ですよ」
 もっと気の利いた台詞も言い回しも数えきれないくらいあるだろう。だけど、不格好でもいいから、飾らずに伝えたかった。
「もしもその悩みが悪い方向へ行ったら教えてください。何回でも、大丈夫だと言います。いい方向に動いたら、解決したら、そして、その時も俺と同じ気持ちで居てくれた時も教えて下さい。その時は、改めてもう一度言いますから。今度は窓越しじゃ無い、俺の気持ちを。いつまでも待ちますから」
 そこまで言って、ふう、と小さく息を吐く。自分本位ではあるが、言いたいことは全部言った。胸の中の純狐は何も言わないが、きっと全て聞いてくれたと思う。
「俺からは、これで全部です。……さて! まだ日は高いですし、せっかくだからどこか出掛けますか。行きたいところとかありますか?」
 重い空気はこれで終わりと極めて明るく言い放ち、右手で彼女の手を取る。すると、純狐はその手に自らの手をそっと重ねた。
「……ありがとう、○○。それと、ごめんなさい。弱いところを見せてしまったし、甘えてしまったわね」
「……気にしないで下さい。むしろ、俺はもっと純狐さんの弱いところも見せて欲しいです。気丈な純狐さんはとても素敵ですけれど、時々でもいいから甘えたり、我が儘を言って欲しいです」
 最後に、俺なんかじゃ頼りないでしょうけど、と付け加えて苦笑すると、彼女はふるふると首を横に振る。
「そんなことは無いわ。……それなら早速、一つ甘えてもいいかしら?」
「勿論」
「……もう一度言うと言った貴方の言葉を、今、聞かせてくれる?」
 少しの間を空けての彼女からのお願いは、先の言葉の催促だった。つまり、それは。
「……純狐さん、本当に、いいんですか?」
「……ええ。○○が私を信じてくれたように、私も○○の言葉を信じたい。だけど、私だけではまだあと一歩が踏み出せないの。でも、貴方が手を引いてくれるなら、私は……」
 まだ迷いがあると言う純狐だが、その瞳には確かな決意があった。自分が逃げなければ、彼女は自分と共に同じ道を選んでくれるだろう。
 その期待に応えるために、一旦大きく深呼吸する。焦ってつっかえようが噛んでしまおうが返答は変わらないだろうが、それではあまりに格好がつかない。
 男を見せろよ、と己を奮起しつつ、混じり気のない純粋な言葉を口にする。
「純狐さん、一緒に子供、作りましょう?」
 純狐は落ち着いた顔を僅かに綻ばせて可憐な笑顔を浮かべ、はい、と小さく返事をした。



2.
 想いが通じ合い、子を成そうと決心した男女が夜も待ちきれずに交わるのはいた仕方ないことだろうと我ながら思う。
「んっ、ちゅっ、ふあっ、ちゅ……」
 まだまだ日が明るい時間にも関わらず、寝室では唇同士を絡ませ合う湿った水音が響く。逸る気持ちが抑えられず、敷かれた布団の上に腰掛けた形のまま抱き締め合い、互いに服すら脱がずに口づけを繰り返していた。
 これから、子を成すための交接が始まる。寝室の片隅に置かれた、少量の生活雑貨が入った箱に避妊具も一緒にひっそりと入っているが、今日ばかりは出番は無いだろう。
「ふっ、あっ……、いつもよりも、激しいのね」
 もはや何度目か分からないキスを終えた合間、舌同士を繋ぐ銀糸が切れると純狐は頬を朱に染める。
「そ、そうですかね。……実は今、滅茶苦茶緊張してるんです。とうとう、この日が来たんだなって」
 そう言葉を返して、純狐の手を取って自らの左胸に当てさせる。自分でも分かるくらい激しく脈打つ心音は、先の返答をこれ以上ないくらいに証明してくれるだろう。
 すると、彼女は無言のままこちらの右手を取ると、同じように自身の左胸に当てさせた。不意に触れてしまった胸の柔らかさに一瞬たじろいてしまうが、それよりも気を引いたのは純狐の心音だった。
 高鳴っている。自分と、同じように。
「私も、○○と同じ。こんなに鼓動が高鳴るのは、いつ以来かしら」
「純狐さん……」
 互いの手を取り合い心音を聴かせ合っている光景は不可思議なもので、他人には理解しがたいものだろう。しかし、それでもよかった。この行為と時間に浸れること自体が彼女と繋がり合っているんだと、そう思えた。
「それにしても、○○と初めて交わった時も貴方は相当に緊張していたと記憶しているけれど、あの時以上ね」
 しかし、純狐が柔らかく笑いながら言った思い出に、顔がかあっと熱くなって別の意味で鼓動が高鳴る。
「あ、あの時のことは忘れて下さい……。あれでも、純狐さんにも気持ちよくなって欲しくて、必死だったんです……」
 純狐の言う、初めての時。終始彼女に優しくリードされ手解きされた初体験と言えば聞こえはいいし実際にとてもいい思い出なのだが、同時にあまりにもたどたどし過ぎて、あの時よりはどんどん良くなっていると思えば勇気が出るほどに苦い思い出でもあった。
「分かっているわ。今だから白状するけれど、あの時は私も不安だったのよ? ○○が私なんかで満足出来るのかと」
「そ、そうだったんですか……? でも、純狐さんはいつも、とても魅力的ですよ」
「ふふっ、ありがとう。○○が私を想ってくれている気持ちは、あの時と何も変わっていないのね」
「それなら、純狐さんだって、俺のことを想ってくれていますよ」
 互いに心の繋がりを確認し合い、静かに笑い合う。そして、純狐の大拉翅に手を掛け、そっと外して枕元に置く――元々付けていなかった場合を除き、行為の前にこれを外すのは自分の役目だ――と、彼女は大拉翅を留めていた簪を慣れた手つきで抜き、髪を解く。僅かに癖のついた細い金色の髪ははらりと舞って下ろしていた長髪に混ざり、ふわりと溶けていく。
 艶やかな金糸に見惚れていると、純狐はするりと帯を解いて漆黒の衣装と赤い前掛けを緩ませ、首の後ろに手を回して前掛け後部の結び目も解き、まず前掛けを外す。残るは和服によく似た黒い衣装のみとなるが、それも躊躇なく脱ぎ去っていく。
 衣擦れの音に合わせまず姿を見せるのは、透き通るような白い肩。そして、大きく実った女性の象徴の谷間と、ヘカーティアさんの勧めで数か月前から付け始めた黒いブラ。ブラの装飾は僅かな刺繍のみで殆ど無地に近いが、非常にシンプルであるがゆえに乳房の魅力を邪魔することなく十二分に引き出していた。
 その下では、――本人は時折気にする様子を見せるが――しっかりとくびれのある腰回りに加えてしなやかな脚がすらりと伸び、ただ座っているだけなのに思わず息が漏れるほどに美しい。
 脚の付け根、秘部を覆うショーツはブラと同じく黒色で、こちらも装飾が殆どないシンプルなもの。だが、装飾で飾らない大人の余裕を感じるような、そこに頓着しないのが少し抜けていて可愛らしいような、不思議な魅力があった。
 そして何より、普段から滅多に肩や足すら見せない服装なので、それらがこうして露わにされてしまっている状況が殊更に興奮を煽る。
「もう、私だけじゃなくて、○○も脱いでくれないと出来ないわよ?」
「え? そっ、そうですよね、すみません」
 恋人の脱衣する姿に心奪われていたことを呆れ混じりに窘められ、慌てて自分も服を脱ぐ。さっさと下着一枚になると、純狐は「そんなに慌てずともいいのよ」とまた小さく笑い、流れるような手つきでブラをあっさりと外してしまう。
 支えを失った豊乳がぷるりと弾んで零れ落ち、その大きさと柔らかさを同時に見せつける。覆い隠す役割も果たしていた物が無くなったことで、乳房の中央でぷくりと膨らむ蕾の、美しい桃色までもが曝け出されていた。
「……私の体なんて幾度となく、それこそ見飽きるほど見ているのに、○○はいつも熱心に見ているわね」
 よっぽど視線が熱かったのか、穏やかながらも再び呆れたように純狐は苦笑する。
「こんなに綺麗なのに、見飽きることなんてあり得ませんよ」
「……そんなに煽てても、何も無いわよ?」
「煽てるだなんて……、本心ですよ」
 毎回のように褒めてはいるものの、彼女は自己評価がとにかく低い。こうした言葉でも否定的に取られてしまうのは悲しいが、逆に言えばどれだけ魅力的かを伝えるチャンスでもある。
「だって、もうこんな風になってしまってるんですから」
 だから、先の弁が心の底からだと証明するべく、立ち上がって残った下着を一息に脱ぎ去り、純狐の一連の脱衣だけで既に固く勃起した陰茎が勢いよく飛び出させる。そそり立った分身を自ら曝け出すという、なんとも馬鹿らしい方法での証明だとは分かっているが、これが一番手っ取り早い……と思う。
 すると、それを目の当たりにした純狐はふふっと小さく笑う。
「どうですか? どれだけ俺が純狐さんに夢中か、子作りのためのセックスにどれだけ興奮しているか、分かって貰えましたか?」
「ええ、よく分かったわ。本当ね、もう、こんなに大きく……」
 見かけだけでなく言葉でも直接的にはっきりと思いの猛りを伝えると、彼女は感心した声色で言いながら、右手で愛おしそうに肉棒をすりすりと優しく撫でる。細い指先での甘い刺激に陰茎はびくびくと跳ね、鈴口から我慢汁をぷくりと溢れさせて小さな珠を作った。
 こうして軽く触れられているだけでも気持ちいいのだが、だからこそ慌てて待ったの声を掛ける。
「っ、純狐さん、その、自分から出しておいてなんですが、それ以上撫でるのは控えて貰えると……」
「あら、ごめんなさい。嫌だった?」
「いえっ、そんなわけはありません!」
 嫌なわけはないとすぐに否定する。そして、再び腰を下ろして彼女と目線の高さを合わせてから、また口を開く。
「純狐さんさえいいのであれば、今日は全部、純狐さんの中に出したいんです。もしこれ以上続けられると絶対にもっとして欲しくなってしまって、中に出せる量が減ってしまうので……」
 今の自分に内にある精全てを貴方に注ぎたい旨を伝えると、彼女はきょとんとした顔でこちらを見た後、口元を左手で隠してくすくすと笑みを零す。
「し、仕方ないんです。気持ちでは純狐さんにならいくらでも興奮出来るんですが、だからこそさっきのを続けられたら我慢出来ませんし、出せる量にはどうしても限界が……」
「いえ、違うの。○○が可笑しかったわけではなくて、考えてることまで同じなんて思っていなくて」
 半ばやけくそ気味の弁明に純狐は穏やかにそう言うと、自らの下腹部を指先でそっと撫でる。
「私も、今日は○○の全てをここに欲しかったから。私さえ良ければと言ったけれど、勿論よ。だから、今すぐ愛し合いましょう?」
 恥ずかしげだが期待するような上目使いでこちらを見ると、彼女はそっとしな垂れかかってくる。その誘惑はあまりにも甘美でこのまま流されてしまいたかったが、その前にしなければいけないことがあった。
「ま、待って下さい。俺はよくても、純狐さんの方はちゃんと濡らさないと……」
「ふふっ、大丈夫よ」
 純狐はするりとショーツを脱ぎ去って傍らに落とすと、こちらの右手を取って自らの下半身に導く。瞬間、指先に伝わって来たのは熱を帯びた秘所の感触、そして垂れ落ちる雫だった。
「○○が私との子作りにそれだけ熱情を持ってくれているように、私もこれから○○の精を受け入れると、これから子を成す交わりをするんだと考えただけで、もうこんなになってしまっているの」
 そう言うや否やもう片方の手を胸に手をつかれ、押し倒されてしまう。
「では、しましょうか。子供を作ろうって言い出してくれたのは○○だから、するのは、私から。ね?」
 そのまま純狐はこちらの腰の上に自らの性器が来るように構えて膝立ちになると、肉棒を左手で持って固定して右手では陰唇を大きく開かせる。目一杯に開かれた秘裂からは淫らな蜜が重力に従って長く糸を引きながら垂れ落ち、真下の自分の体に小さな水滴を作ると同時に彼女の熱を伝えてくる。確かにこれなら、前戯がなくとも全く問題はなさそうだった。
 そして、純狐はゆっくりと腰を下ろすと、ひくひくと震える陰唇を男根の先端に宛がう。普段は付けている避妊具の無い亀頭に花弁が直に吸い付いてきて、その熱さと柔らかい感触に思わず身震いしてしまう。
「……入れるわよ?」
 そんな様子に彼女は僅かに微笑んでそう宣言すると一度静かに深呼吸をして、陰唇を開かせていた手でこちらの胸のやや下に手をついて、とうとう体を落とす。
「はっ、あ、あぁっ、ん……」
 陰茎を自ら己の膣に沈ませた瞬間、純狐はぴくんと体を跳ねさせて小さく喘ぎ、それからも少し進ませる度に甘い吐息を零す。前戯がなくとも濡れそぼっていた膣穴は予想どおりずぶずぶと肉棒を飲み込んでいき、やがて互いの腰が密着するのに合わせ鈴口が膣の一番奥に届く。
「んっ、ふっ、あぁんっ……。○○のが、奥までいっぱい……」
 怒張全てを自らの中に収めきった純狐は、端にほんの少しの涙を浮かせた目を細め、うっとりとした喜悦の声を上げる。温かい膣内は肉棒の根本から亀頭の先端まで、余すところなく全てを柔らかいとろとろの肉襞で包み、まるでそれぞれが意志を持っているように蠢いては全体を優しく撫でる。彼女の包容力や母性をそのまま投影したような膣内は薄膜越しでも相当に心地良いものだったのに、今はそれをより上回る快感と充足感が押し寄せてきていた。
「っ……、ゴムが無いだけなのに、いつもよりずっと純狐さんが近く感じます」
「ふふっ、そうね。○○のも、いつもよりも固くて、逞しくて、とても素敵よ」
 全身を駆け巡る快感の奔流を受けながら掛けられる、男なら誰しもが骨抜きにされてしまうような賛詞。それを赤みがかった頬を綻ばせた、蕩けた笑顔で言うのだから尚たまらない。
 純狐は空いた左手も右手と同じようにこちらの胸について、自身の体を両手と両足でしっかりと支えると、緩んでいた表情を僅かに不安げなものに変えてこちらを見た。
「んっ……、重いと思うけど、少し我慢してくれると……」
「えっ? 重いだなんて、考えもしませんでした。むしろ、軽いくらいですよ」
 申し訳なさそうに言う彼女にすぐににそう返すと、純狐は「もう……」と照れつつも苦笑する。こうして純狐が上になって交わる時にこう言われるのはよくあることだが、仙霊だろうともやはり体重は気になるものらしい。純狐のプロポーションを考えれば、本当に軽いと思うのだが。
「本当ですよ。だから気にしないで下さい」
 更にそう付け足すと彼女は僅かに頬を緩めて「ありがとう」と礼を言い、続けて「動くわね?」と一言囁いた。
「あっ、はっ、あぁん……」
 純狐は自ら腰を持ち上げると、遅々とした速度で体を上下させて、しっとりと濡れた喘ぎを漏らす。
 いきなり早く動かしたりはせずにまずは膣と陰茎の感覚がお互いに馴染んでから、というこの動きは普段と何一つ変わらない、いわば本番のための準備運動のようなもの。しかし、準備運動と言えど膣のひだ一つ一つで丁寧に肉棒を擦られる快感は大きく、より膣肉の感触に鋭敏になってしまう。
 そうして徐々に性感を高められるうちに、純狐の腰つきはこなれたものへと変わっていく。
「あぁっ、はあっ! んっ、ああっ!」
 純狐は体を跳ねさせるように抜き差しを繰り返し、膣肉で怒張を一定のリズムで休みなく扱く。
 腰を持ち上げる度、そして下ろす度に高い嬌声を漏らし、互いの腰がぶつかり合う弾けるような音が響く。
 彼女が上下に揺れるのに合わせて、艶やかな金の長髪はふわりと舞い踊り、幻想的な美しさを見せる。その下では大きく実った乳房がゆさゆさと揺れ弾み、思わず揉みしだきたくなる衝動を湧き上がらせる。もっと視線を下げれば、結合部では避妊具の付いていない分身が愛液に塗れててらてらと輝き、それを陰唇が大きく口を開けて咥え込む淫靡な光景が広がっていた。
 愛しい人が、自分に跨って自分にしか見せない姿を露わにし、自分にしか聞かせない声で喘いでいるなんて、なんと男冥利に尽きることか。
「んっ、はあっ、○○のが、中で凄くびくびくしてるわ。じゃあ、これはどう?」
 そんな心持ちを知ってか知らずか、純狐はより深く自分の体と精神に快楽を刻もうと、膣内に怒張を収めたまま一旦動きを止め、くっ、くっと左右に腰を捻る。
「ぐあっ、じゅ、純狐さんっ……!」
「ふふっ、気持ちいい? もっとしてあげるわね」
 興奮により限界まで広がった肉傘を、愛液でぐじゅぐじゅになったざらつく肉ひだで捏ねるように擦り合わせ、それにより刺激された膣肉が一層吸い付き、陰嚢に蓄えられた子種を求めて男根をしゃぶり、舐め回す。
 強烈な快感に思わず唸り声を上げてしまうと純狐は妖艶に笑い、言葉どおり繰り返し何度も腰を捻る。
「んっ、これ、私も好きよ。○○のに私の中を掻き回されるのが、はあっ、とても、気持ちいいのっ!」
 主導権を自ら握った愛する人が自分に気持ちよくなって貰おうと奉仕し、同時に自分の一物で快感を貪る姿は健気でもあり淫猥でもあり、いつまでもこの瞬間を味わっていたい程の充足感をもたらしていた。
 そして、純狐はこちらの胸に手をつくと密着させている腰に更に体重を掛け、一段と深く体を沈ませる。
「ん、あっ、はあっ……、分かるかしら? ここが、子宮の入り口。この奥が、私の子宮。今日は、ここ以外に射精しては駄目よ?」
 純狐は自らの下腹部を指先で円を描くようになぞりながら、前後に小さく腰を揺すって鈴口に子宮口をぐりぐりと押し付ける。そうして、外からも中からも射精するべき場所をしっかりと教示し、膣内射精をねだる言葉を続けると、彼女は両の手をこちらに伸ばしてきた。
「……○○、また動くから、次は手を繋いでくれる?」
 求められるままこちらからも手を伸ばし、指を絡ませて応える。純狐は繋いだ手をしっかりと握り返して嬉々とした可憐な笑顔を見せると、再び上下に腰を振って肉棒を扱き始める。そのストロークは最初よりも深く、下に降りる度に分身の先端がついさっき教え込まれた彼女の子宮をコツコツと叩く。
 その度に彼女の先の行為と台詞が脳内で反芻され、雄の本能が愛する人を孕ませろと喚声を上げ、抑えていた射精欲を急速に湧き上がらせる。しかし、男として、自分だけが満足して終わるな、とも叫ぶ。
 今まで絶え間なく与えられる最上の快感に囚われ、碌に動けないままだった体に活を入れ、純狐が腰を下げた瞬間を見計らって自分からも突き上げた。
「あああぁっ!? 急に、突いちゃっ! あぁんっ!」
「すみませんっ、俺、もう、出そうでっ! だけど、俺だけじゃなくて純狐さんも、一緒にっ……!」
 不意の突き上げに純狐は甘さの濃い絶叫を上げて一瞬目を白黒とさせたが、射精寸前だと知った瞬間すぐに頬を優しく緩ませて、絡ませた指の力を僅かに強めた。
「ええっ! 私ももう少しでイクからっ! ○○の子種を、私の、私の子宮にっ……!」
 彼女一人の時よりも更に深い箇所、深い快感を目指して二人共が腰を揺らす。最奥を強く突かれる度、膣内は限界まで膨らんだ怒張から一秒でも早く精を絞ろうと収縮する。
「っ! 純狐さんっ、出ますっ!」
「私もっ、もうっ……! あっ、ああああぁっ!」
 そして、自分が限界に達するのに合わせて彼女も大きな嬌声を上げると共に全身をびくん、びくんと痙攣させ、揃って絶頂を迎えた。
 至上の快感が全身を急速に駆け巡り、陰嚢で作られた精液を思い切り放出する。避妊具のない今、当然それらは純狐の膣内、ひいては亀頭が密着している子宮へ注がれ、膣内もそれを望むように男根を締め続け、自身への種付けを手伝っていた。
「はっ、はっ……。凄いわ、まだ出てる……」
 純狐は荒い息を吐きながら、自らの膣内で脈打ち、胎内に子種を送る陰茎を褒めるように下腹部をよしよしと撫でる。その所作がまた興奮の火に油を注ぎ、ほんの少しでも多く送り込もうと小さく精液を追加し続ける。
 そして、長かった射精もやがて落ち着きを見せると、彼女は絡ませていた指をするりと解いて、こちらにゆっくり倒れ込んだ。
「純狐さん、滅茶苦茶、出ました……」
「そうね、今までで一番じゃないかしら? たくさん私の中に注いでくれて、嬉しいわ……」
「子供、出来るといいですね」
 余韻に浸るようにゆっくりと目蓋を閉じた純狐の背中と肩に手を回して、抱き締める。彼女の心音は呼吸が落ち着こうとも相変わらず高鳴っていたが、自分も全く同じように彼女に聞こえているだろう。
「そうね。でも、これで出来ているかは分からないから、これからも愛し合いましょうね? ○○が望むなら、毎日でも私は構わないわよ?」
 純狐は淑やかながら甘えた声で、そんなことを言ってのける。本当にこの人は、自分がどれほど魅力的なのか、理解していない節がある。
 大量の射精を終え、硬度こそ保っていたがこれ以上はすぐには無理だと思っていた肉棒が、どくんと大きく脈打つ。そのことを彼女も感じたのか、「あら?」ときょとんとした可愛らしい声を漏らす。
「純狐さん、今からもう一度、してもいいですか?」
「大丈夫? こんなに出したのだから、もう少し休憩しても……」
「大丈夫です。むしろ、もう一度早く純狐さんとしたくてうずうずしてるくらいで」
 慮る言葉に湧き上がった情欲を抑えることも隠すこともせずに即答する。すると、彼女は困ったような、しかし喜びの色の方が大きな笑顔を見せた。
「○○が満足するまで、何度でもどうぞ」
「それじゃあ次は、俺が動きますね」
「ええ、お願いするわ」
 了承も得たところで早速、純狐を抱き止めたまま分身が抜けてしまわないように注力しつつ体を起こして、緩く胡坐をかくように体勢を変える。
「純狐さん、しっかり俺に捕まって下さいね」
 そう声を掛けると、彼女はこちらに体を預け、手を肩に、足を背中に回して抱き着いてきてくれた。
「ふふ、顔が近いわね」
「さっきは少し離れてましたから。では、動きますよ」
 そうして座った姿勢で向かい合わせになってから改めてそう告げて、背中に回した両手を彼女の臀部と足の付け根辺りへ滑らせて体を持ち上げる。そして、腰を揺すって前後運動を開始する。 
 膣に差し込まれたままだった男根が再び動き出すと、膣肉はすぐさま反応し、追加の精液を求めて再びひだを絡ませる。
 純狐が主導権を握っていた時よりも抽送の激しさはかなり控えめだが、膣内射精でどろどろになった性器同士かつ、まだ先の行為で昂ったままの性感にはこのぐらいの摩擦が程よく、いつまでも浸っていたくなるような甘い快感が体中を満たしていく。
「はぁんっ、あっ、あんっ……」
 そしてそれは彼女も同じだと、しがみ付く手の強さと時折びくんと跳ねる体の様子、絶え間なく溢れる蕩けた喘ぎが教えてくれていた。
 純狐と繋がっていること、愛する彼女と共に法悦に浸れることに無限の喜びを感じながら、ひたすらに蜜壷を捏ね回す。腰を前後させる度、寝室には結合部の隙間から濁った性液が漏れる間の抜けた水音、粘液に塗れた腰同士がぶつかり合う弾けるような音が響き、更に彼女の高い嬌声が彩りを添えていた。
 この体位での抽送が安定してきたところで、彼女の臀部辺りに添えていた左手を離す。そして、純狐に跨られていた時は全く余裕がなくて触れたくても触れられなかった、突き上げる度に今もたぷたぷと弾む大きな膨らみに手を伸ばして、下から覆うように掴んで軽く持ち上げる。
「んっ、そういえば、今日はまだこっちは何もしてなかったわね」
「その分を今から取り返しますよ」
 手のひらを目一杯広げても溢れてしまうほどの乳房のたっぷりとした重量感を味わいつつ、五指に緩く力を込める。乳肉は指先をむにゅりと沈ませてその抜群の柔らかさを見せ付け、手にはいつまでも触れていたくなる幸せな感触を伝えてくる。
 脳内を覆い尽くす多幸感と欲望に任せ、そのまま二回、三回と柔肉を揉み解す。しかし、手だけで楽しむのがすぐに物足りなくなって、ぷくりと膨れた乳輪ごと乳首をぱくりと咥え込む。
「あっ、はぁんっ……、いつもいつも、本当に胸が好きね」
「大好きに決まってますよ。純狐さんのおっぱいは最高ですから」
 呆れ半分感心半分の純狐に一切の誇張なくそう伝え、また乳房に口を寄せる。既に何回も伝えたことのある返答だが、その度に彼女が嬉しそうに頬を緩めるのがたまらなく愛おしい。
「私も、こうされるの好きよ。○○の好きなだけ、味わっていいのよ」
 純狐は肩に回していた右手を少し上にずらすと、頭をよしよしと撫で始める。上半身は柔らかな豊乳に半ば顔をうずめるようにしながら掻き抱かれ、下半身は背中に回されたしなやかな脚にしがみ付かれ、怒張はとろとろの膣内に包み込まれ、彼女の全てに抱擁されていることを実感しながら、こちらからも少しでも快感を返そうと改めて意気込む。
 舌先で乳首をちろちろと捏ね、乳輪に沿って舌を這わせる。唇で乳頭に吸い付いて引っ張り、ちゅぽんと抜けてしまえばふるふると揺れる蕾をまた咥える。
 空いた左手は再び彼女の背に回して右手と交代し、自由になった右手でもう片方の豊乳を揉みしだく。乳首を指先でつつき、きゅっと摘まんだり、両方の乳房を寄せて両乳首を同時に味わう。
 更にそのまま右手を下へ滑らせ、陰核を指先でくにくにと弄る。
「あぁ、あんっ! そこもっ、なんてぇっ! ひぁんっ!」
 特に敏感な性感帯を刺激され、純狐は体をびくんと大きく跳ねさせて抱き付く力を強くする。
 乳肉に加えクリトリスも責めながら、その間も腰を前後させるのは止めずに一定のリズムで規則的に突き続ける。乳首を責める口は両方の乳房を交互に吸ったり甘噛みしたりと好き勝手に楽しみ、右手は欲の赴くままに柔肉を揉み陰核をつつき、変則的に弄ぶ。
 膣内と陰核と乳房、三か所の性感帯から生まれる快楽がどれほどなのか、自分には分からない。しかし、強くしがみ付いて体の震えに耐える純狐の体が、漏れる水音と締め付けの増した膣が、甘く大きな嬌声が、彼女に刻まれている快感を如実に教えてくれていた。
「くぅっ、純狐さんの中、滅茶苦茶絡んできて凄く気持ちいいですっ。純狐さんはどうですか? 気持ちよくなってくれていますか?」
「はあんっ、あっ、ええっ、○○のしてくれること全てが、とても気持ちいいのっ! だから、もっと○○を感じさせてっ! 私を感じてっ!」
 答えは分かっていても純狐の口から聞きたくて問い掛けると、彼女は喘ぎ混じりに声を張り上げる。更に、少しでも快感を増やそうと突かれながらも自ら腰を揺らして膣で陰茎を扱く。
 また一段と強くなる快感に、あまり長くもちそうにないことを直感する。
「純狐さんっ、俺、もうすぐ出そうですっ……!」
「頂戴っ、○○の子種をっ! 私を孕ませてっ……! 私を、愛してっ……!」
「……純狐さんっ、好きです、大好きです! 俺と、ずっと一緒に居て下さい!」
 精を求める彼女が最後に漏らした言葉がどこか懇願じみているように思えて、どこか悲愴に聞こえてしまって、自らの思いの丈をひたすらにぶつけた後、純狐の赤い唇に自身の唇を重ねた。
 一瞬純狐は目を丸くするがすぐに受け入れ、口の端からくぐもった声を漏らしながらもキスを続ける。舌で唇を割り開き口内に差し込むと、彼女からも舌を伸ばして絡ませてくる。
 ひたすらに互いを求め合う繋がりに最初の頃のような永遠に浸っていられる甘い快感の影はなく、眼前の純狐の姿と、純狐に与え、与えられる快感以外の全てを塗りつぶしてしまうほどの強烈なものへと形を変えていた。
 息が切れて唇同士を離してもすぐにまたキスを繰り返す二人に言葉はない。しかし、何も言わなくてもお互いに心も体も繋がり合っていた。
 せり上がる精を解放する場所を求め、男根を揺すって子宮口を繰り返し叩く。もはや一体の存在のようになった純狐の体はすぐさま膣内を痙攣させて反応し、早くそこに注いで欲しいと二度目の膣内射精をせがむ。
 射精衝動を堪えて最後にもう一度突き上げ、鈴口が最奥に達した瞬間、篭った声を上げながら欲望を解放する。
「っ、ぐっ、あぁあっ……!」
「んっ、ふうっ、あっ、ん……!」
 純狐も全く同じタイミングで絶頂を迎え、自分と同じように声にならない声を漏らして絶頂に身を震わせ、背に回されていた手でぎゅうと強く抱き締められる。
 射精の勢いはさっきよりもは劣るものの、陰嚢に溜め込んだ全てを出し切るほどに長く射精し続ける。一回目の分も幾らか漏れてしまったとはいえ、子宮内全てを白濁で染めるほどに精液を吐き出し、とうとう収まり切らなかった分が結合部の隙間から粘っこい白濁の混合液となってとろりと溢れ出した頃、ようやく射精は終わった。
 どちらからともなく、唇を離す。今回は再三のキスはしない。粘ついた銀糸が互いの唇を繋ぐが切れ落ち、二人の間にあるのはただ荒い息を繰り返す呼吸音のみだった。汗の浮いた紅に蒸気した頬、瞳の端に小さく涙の浮いた瞳、唾液に濡れ光る唇、全てが美しい。
 暫くそのまま見つめ合った後、手を背中に回して抱き寄せると、彼女もまた同じように抱き締める。
「純狐さん、愛してます。ずっと、ずっと」
「ええ、私も、ずっと愛してる」
 純狐の温かい体温が、とても心地良かった。



3.
――いつかの未来の話。
「……あっ! 動いたっ! また動きました!」
「ええ。……とても元気ね」
「友人様、こんなに動いてるのにまだ出てこないんですか?」
「そうね、まだもうちょっとかかるかしら。でも、もう折り返しは過ぎてるわよ?」
「そうなんですかっ! 楽しみですね~」
「ええ、本当に楽しみ……」
「ピース、そろそろ帰るわよん」
「あ、ご主人様。もう帰るんですか?」
「あら、ヘカーティア。貴方もいるなら、晩御飯でも一緒に……」
「いや、この間もご馳走になったし、今日はお暇するわ。ほら、ピースも。そろそろ○○も帰って来るだろうし、あんまり二人、いや、三人の時間を邪魔しちゃ悪いわよ」
「はーい。じゃあねー、友人様ー」
「またいらっしゃい、いつでも待ってるわ。……貴方のことも、みんな待っているのよ。さて、晩御飯の準備をしましょうか」
ここまでお読みいただきありがとうございました。
コメント




1.性欲を持て余す程度の能力削除
柳さんの新作来たああああ。
控えめに言って最高でした。
純狐さん好きだから救いのある話で嬉しかったです。