真・東方夜伽話

夢で逢えても

2018/11/24 21:28:38
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夢で逢えても

空賀青

※誰てめえ
※ネチョが極薄
※原作との矛盾・オリ設定・自己解釈あり
※拙作「はしひめさま、はしひめさま」(作品集50)を読んでいないと意味不明かと思われます
以上、ご注意ください

 目を開ける。上体を起こす。掛け布団を手でのけたところで違和感をおぼえる。パルスィは薄い畳を重ねた八重畳の上に寝転んでいて、薄手の掛け布団をいくつも被せられていた。おかしい、と思って周囲に視線を巡らせても御簾に遮られる。室内には白檀の香が焚かれていて控えめで奥深い芳香が鼻腔をくすぐった。身を切られるほど懐かしい景色や匂いもパルスィには混乱の元だった。自分はどこにいるのか。
 油断なく周囲を見回しつつ音をたてずに立ち上がる。気配を探り御簾にかけた手をさっと閃かせた。瞬間、目に飛びこんできた光景にパルスィは言葉を失する。同時に深く理解した。
 これは夢だ。
 そう認識するや否や、世界がくにゃりと歪んで見えた。正常な者などこの場には不要と言わんばかりだ。後頭部のあたりから意識が徐々に引っ張られていくのを感じながら、せめて目の前の光景を見ていたいと目を凝らす。
 月明かりが薄く射しこむ部屋で、ひと組の男女が肩を寄せている。やわく癖がついた豊かな黒髪を華奢な背に流した女性は、着物の袖口から白魚のように白い腕までむき出しにして、空を指さし何事かを盛んに話している。そんな女性の腰を抱きながら、男性は端正な面差しを綻ばせ、うん、うん、と相槌を打つように頷いている。
 その結末を知っている身からするとあまりにも儚い、けれども、慈愛に満ちたふたりの姿を緑目に映し記憶に刻む。夢だとしても構わない。かつて愛した人の、今でも愛しているふたりの姿を見留める。
 初めて見られた──そう思ったのを最後に、パルスィの意識は暗闇に落ちこんでいく。


 ハッと目を見開く。上体を起こす。自宅では火鉢をつけてもあり得ない温暖な空気が身を包む。身を横たえていたアルコーブベッドは全身を包みこむほどに柔らかく、中途半端にのけた薄手の掛け布団は贅沢にも絹製で、とろりとした手触りを返してくる。
 見知った部屋に緊張がほどける。同時に、ぼんやり感じていた切なさが鋭い痛みを伴ってパルスィの心を切り裂いた。なんの不安もなく安穏としていられる場所だからこそ、無防備な心を抉った傷の大きさが身に染みる。
「さとり」
 堪えきれず、傍らで眠りこんでいる少女の肩を揺らす。「んん」と声とも言えない声を落として顔を枕に埋めるようにパルスィの手から逃れていった。その反応は尤もだ。地上と地底の交流が再開された影響でここのところの彼女は仕事に追われている。今日だって、かなり強引に切り上げてパルスィの傍らに潜りこんできたのだ。疲れているのは分かりきっているのだから、ゆっくり休ませてやらないと。
「……ねえ、さとり」
 頭では承知していても、全身が寂寥に満たされ虚ろになる感覚が耐えられなかった。寝間着の裾をつまんで引っ張る。反応はない。ちょいちょいと引っ張り続ける。
 さとりと同じく目をつぶっていた赤い眼がのろのろ持ち上げられた。眠そうな眼に見つめられようやく理性が戻ってくる。幼子でもあるまいし、夢を見た程度で何を不安定になっているのか。妖怪とはいえ休憩は必要だ。こんなことをしては迷惑だ。
 ごめん、と心の中だけで呟いてさとりに背を向け布団に潜りこもうとする。掛け布団を持ち上げた腕に華奢な手が添えられた。思わず瞑目する。一方で、じくじくと胸を食んでいた寂寥がわずかばかり払われて、ホッと息つく自分もいる。
「パルスィ」眠たげな声にもの柔らかに問われた。「どうしましたか」
 読んでいるくせに、と思ったが、視線を向けると片目をつむったままのさとりは小さく微笑した。まなじりを和らげ口元を緩ませるだけの、笑顔というにはあまりに仄かなその顔に弱い。「夢を見たの」ぽつりと落とす。第三の眼が覗きこんできて、腕に触れる手に優しくなでられる。睦まじく並んでいた背中を思い出す。
「懐かしい人たちの夢。だから、夢だってわかったわ」
「わかりたくなかった?」
「…………。わからない」
 さとりが笑みを深くした。腕を強く引き、反対の手を腰に回して、パルスィを抱き寄せる。鎖骨あたりに額を押しつけるような体勢になった。彼女自身の甘い香りが鼻腔をくすぐる。さとりのペットの、耳が大きい子狐がしていたように鼻先を埋めた。香気がいっそう強くなり空虚な心を満たしていく。
 温柔な手つきで髪をくしけずられた。幼い子どもにするみたいな触れ方は、いつもならば気恥ずかしさが勝って鬱陶しいと手で払うだろうが、今は、どうしようもないほど落ちついた心地になる。
 両腕を細い腰に回したらわずかに身を離されちょいと見下ろされる。見つめ返したら、かろうじて開かれている片目も緩められた。視線を感じて目を動かしてみたら、第三の眼にじーっと見つめられている。赤い眼はまん丸に開いていて、パルスィの奥深くまでを読もうとしているのが窺えた。
 さとりなら、と思う。
 さとりなら、言葉に表せないこの虚ろな不安をも理解してくれるのだろうか。
 妖怪の名は文字通り体を表す。己を「水橋パルスィ」と名付けたその時から"ぱあるすぃい"には戻れなくなった。妖力を使い、体の一部に嫉妬の怪物を模したものを表したり、なんなら緑目の怪物を顕在化させた上でパルスィの姿を取らせたりすることもできるようになったけれど、そういう時に見る己の怪物は、今までの姿と異なっているのだ。
 不定形で目ばかり持っている声を持たない生物ではなく、魚のヒレに似た手足を持つ細長い蛇が「水橋パルスィ」の緑目の怪物だった。故郷を追われた人々と共に逃げ、姫君と心を通わせた醜いだけだった己は、いつの間にか、水によく馴染む海獣の姿になっていた。
「……さとり」
 この姿になって幾星霜。緑目の怪物が姿を変えた程度で己を見失うほど初心ではなかったが、こういう夢を見た時だけは、心許なさがこみ上げてくる。
 私は何。
 私は誰。
 そんな自問を振り切れなくなる。
「パルスィ」
 さとりは眠たげな目をいっそう細めた。髪をなでる手とじっと見つめる眼とはそのままに、背中もよしよしとなでられる。
 さとりのぬくもりを感じる箇所から空っぽな虚ろさが奪われ、体が実体を取り戻していく気がした。目に映せず、触れることもできない心さえも、赤い眼に見られると浮き彫りになる。
「水橋のパルスィ」今一度名を呼んで、さとりはこぼれるような微笑を見せた。
「水橋パルスィ。緑目の嫉妬狂い。地底と地上をつなぐ橋の橋守にして、旧都の世話役」
 さとりにしては珍しく、謡うように抑揚がつけられた声を聞いているのは気持ちが良かった。か細い声が耳から全身に浸透していくようだ。
 けれど、最後の一言は納得できない。世話役なんて面倒で人の好い立場に就任したおぼえはない。不満をこめてさとりを見やる。穏やかに破顔した彼女はまぶたに唇を落としてきた。
「私のはしひめさま」
 短い睦言に心が浮かぶ。
 かつて贈られた流麗たる文にも豪奢な貢ぎ物にも及ばない、朴訥で、簡潔で、直截な言葉は、他の何にも勝ってパルスィを縛った。縛られると安心する。身の置きどころが見つけられる。
 さとりが微苦笑した。
「いちいち生真面目に許しなど得ずとも。いたいと思ったところにいて、したいと思ったことをすればいいでしょうに」
「あなたがそれを言うの」
 なんだかんだと厄介ごとを押しつけられる地霊殿の主殿は、こちらの指摘にもすまし顔である。
「やりたいことをするため、いたいところにいるための、必要な役割ですので」
「……いまは、ここにいて」
「もちろんです。あなたよりも大切で重要な仕事などありません」
 その発言はちょっとどうだろう。嬉しいか否かを問われたら、言うまでもないけれども。
 困惑顔になったであろうパルスィをそっとなでて、腕を支えに身を起こしたさとりは、そのままゆるゆると覆い被さってくる。
「事実ですよ」
 静かな口づけに反論が封じられた。はぐはぐと上唇が食まれ怯む舌を絡め取られるたび、密やかな快楽が背筋を走った。角度を変え口づけを交わしながら、浴衣の帯が解かれる。温かい外気に晒された肌がぴくりと震えた。
「んっ……疲れてるんじゃ」
 小首を傾げたまま微笑された。赤い眼がそっとすり寄ってくる。それが答えか。
 むき出しにされた素肌や胸元の形を慎重に確かめるかのようになでられる。手のひらや唇、指先で触れられるたび、ぼやけていた自分の輪郭が明確になっていく気がした。さとりの愛撫を受け、緩やかな快感が伝わるたびに、体中が明瞭になっていく。
 甘え乞う喘ぎの合間に名を呼んだら赤い眼で見つめられた。爛々と光る眼が、熱を湛えたまなざしが嬉しそうに細められる仕草が、さとりに触れられて随喜に震える己の心を伝えてくる。
「っは、あぁ」
 声とも息ともつかないものが漏れる。全身が弛緩していく。無防備に全身を委ねきっているパルスィに、さとりはまなじりを綻ばせた。
「あなたは、ほんとうに」
 尻から太ももとなでられる。刺激を求め、期待を孕んで秘裂が震えた。内ももから膝、すねからふくらはぎ、くるぶしからかかとへと細い指が触れていく。中心からは遠ざかっていくその動きが却って腹の奥の熱を煽るようだ。少しも触れられていない秘部はしとどに濡れそぼり、さとりに触れられるのを待ち望んでいる。
 第三の眼が頬にぴとりとくっついてきた。
「……きれいですね」
 ため息交じりに言われてどんな顔をすれば良いのか分からなくなる。秘めやかな愛撫にもだらしなく発情して、淫猥な表情を浮かべているであろう自分に「きれい」などという評は似合いそうもない。けれども、愉しげに細められるさとりの瞳の奥には引き込まれそうなほど真摯な光が宿っていて、戯れ言をと切り捨てることはできなかった。
「そう思ってくださいますか。いい傾向です」
「勝手に、ぁっ、読まないでよ。んんっ」
「本心からのお言葉ではないようですけども」
「ひぅ」
 耳元で囁かれ背筋が震えた。気恥ずかしさに目をぎゅっとつぶる。すぐに後悔した。くすくすと落とされる吐息のような笑い声が耳朶をなでる。もどかしくてたまらない。
「パルスィ。ちゃんと目を見せてくださいな」
 ねだられるのと同時に中に指が入れられた。大きな水音を立て、根元までを簡単に呑みこんでしまう。腹の奥から痺れるような悦楽が湧いてきて、パルスィはふるふると首をふった。
 嫌なのではない。言うことを聞けないのでもない。ただ、身体が思うように動かない。
「ねえ、パルスィ」
「ひあぁっ!?」
 ずくりと奥を押しこまれて目を見開いた。生理的な涙で滲んだ視界に満足げなさとりが映る。ぎゅう、と胸の奥が掴まれた気がした。
「ふゃ、ぅ、さとりぃ」
 やんちゃに跳ね回る紅藤色の髪に両手を差し入れ、自由にならない首を持ち上げる。「っんぅ」すぐにうなじが支えられて口付けられた。ちゅ、ちゅう、と舌を吸い、上あごをくすぐられ、互いの熱を交換する。
「ふあっ、ぁ……さとり、もっと、」
 言い終わるよりも早く唇を奪われた。柔らかいベッドに押しつけられ、身じろぎできないよう押さえつけられて、中を揺さぶられる。指を増やされ、上げた歓喜の悲鳴も口を塞がれ呑みこまれる。弱いところを散々に弄られ、こすられ、身も心もとろとろに蕩けてしまいそうだった。
 酸欠で息が苦しい。苦しいのすらも気持ちいい。薄れゆく意識に自分が無くなる感覚をおぼえる。己という妖怪がいなくなって、ただ、さとりの熱を受け止め、愛撫を受け入れ、悦びに身をよじるだけの生きものに成り下がる。嫌ではなかった。怖くもなかった。至福ですらあった。
「さと、り……さとりっ」
 求めた指先が導線に絡め取られ、その上からしっかり握りしめられる。パルスィ、と熱を孕んだ声が鼓膜を叩き、辛うじて残っていた思考の切れ端をも押し流し、とかしていく。
 その瞬間、腹の奥を鋭く抉られ快楽が爆ぜた。途方もない開放感と真っ白に塗られていく思考に身悶えながら、自由の利かない両手を必死で動かし、さとりを探ってかき抱く。


 片目を閉じ、もう片方の目もうっすらと細めたまま、さとりはパルスィをなでさすっている。早鐘のようだった鼓動は幾分か落ち着き、やんわりとした気怠さに浸る心身は正体を取り戻していた。今にも寝入りそうなさとりを見上げる。「ん?」と片目が開かれた。
「……もしかして起こしちゃった、ですか。否定はしませんよ。意識がなくとも能力は働いています」
 だから休んでいるときは近づかないようペットにも言ってあるので、と続けられる。やはり、と思う。
「だったら」
「寝室を別に? ご冗談を。ひと月ほどなら寝ずとも問題ありません、知っているはずでは?」
「そういう問題じゃ」
 眉を顰めるパルスィを遮って「それに」と両目を閉じすり寄ってくる。
「あなたとて、毎日夢を見るわけではないでしょう。むしろ、私がいるときは熟睡していることが多いと認識していますよ」
 この言には口を閉じざるを得なかった。否定ができない。たしかに、さとりのぬくもりや気配を感じ、彼女の匂いにくるまれて寝るのは心地が良くて、自分でもいつ寝入ったか分からないほどだ。目覚めは良いし、しっかり睡眠を取った後特有の晴れやかな心持ちでその日を過ごせる。しかし、かといって、それを素直に認めるのはあまりにも癪で──
 黙りこくるパルスィにさとりはにこにこと頰笑んだ。
「うれしいですねぇ」
「もういいから黙りなさい」
 体勢を入れ替え、胸元に抱きしめる。もぞもぞと動かれてこそばゆかったが、これ以上なにがしかを言われるよりはマシだ。
「抱き枕、ですか。かまいませんが……」
「なに、っひゃん!」
 乳房をぺろりとなめられてあらぬ声が出た。「ちょっとさとり、んん、っま、まって、ちょっと……ゃ」
 慌てて引き離そうとするも、背中をしっかり抱きしめられ乳首を舌で転がされて強張っていた身が脱力してしまう。ツンと尖った先をくりくりなめられ、鼻先を埋めるように乳房を食まれ、たまらず頭をかき抱く。ぴくぴく震える腰をどうにか動かすまいとしたものの、そんな己をじっと見下ろしている眼と目が合って赤面した。
 分かっているはずなのに、さとりは白々しいほど無邪気なまなざしでこちらを見上げる。
「実を申しますと、あのくらいではちょっと満足できなくて、あなたのぬくもりが近いと平静ではいられないのですけども……パルスィ?」
 返す言葉がない。
「…………好きにしなさいよ、もう」
 せめてもの虚勢だった。愉しげに笑ったさとりは「では、遠慮なく」と再度胸元に顔を埋める。逃れられないようしっかと抱きしめられた。柔い刺激に身じろいで、再びの法悦を期待し始めたパルスィの姿を、導線から伸びた赤い眼は、余すところなく瞬きすらせず一途に見つめ続けている。
 結局、さとりを抱き枕にできたのは日が変わってからのことだった。
初めまして、もしくはお久しぶりです。空賀青と申します。ここまでお読みいただきありがとうございました。
さとり様に甘えるパルスィほしいぞ!!で勢い余りました。少しでも暇つぶしになりましたら幸いです。
(12.2追記)
>>1様
あの分量をお読み頂いた上コメントまで頂き本当にありがとうございます。少しでも気に入って頂けましたなら幸いです。お粗末さまでした!
空賀青
コメント




1.性欲を持て余す程度の能力削除
氏のさとパルを一通り読ませて頂きました。とても好みです。ご馳走様でした。

三度目の正直おめでとうございます(?)