真・東方夜伽話

Let's raise the white flag.

2018/06/29 22:39:38
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Let's raise the white flag.

空賀青

※誰てめえ
※ネチョが薄い
※原作との矛盾・自分設定・自己解釈あり
※環境要因としてのオリキャラ?要素あり
※拙作「Je te veux」(作品集49)の前日譚的な話ですが、単品でも読めると思います
以上、ご注意ください。

 稗田阿求にとって、本居小鈴は(認めるのは気恥ずかしいが)かけがえのない友人であると同時に、稗田が守護すべき里の人間であった。
 臆病なくせに好奇心旺盛で「人とちがう」ことに憧れる危うい性格。パッチリとした大きな目。ちりんと鳴る鈴で結われている柔らかな手触りの飴色の髪。喜怒哀楽を素直に表すその顔を、いっぱいに綻ばせる様はまさに花が咲いたようで、ついつい甘やかしてしまいたい気持ちに駆られる。いや、実際に、甘やかしてしまう。
「阿求見て、変な本を見つけたの!」と初めて妖魔本を持ってきた時も、「阿求、聞いて聞いて、妖魔本を読めるようになったの!」と目をキラキラ輝かせて来た時も、その危うさを誰よりも知っている阿求が小鈴を止めきれなかったのは、その笑顔があまりにも眩しくて、屈託のない表情が曇るとどうにも強く言いきれなくて……という、稗田家当主にあるまじき理由からだった。可愛いは罪である。
 負い目がある分、阿求は、これまで以上に小鈴に気を向けていた。彼女は幼い頃からなにかと不用心で目が離せなかったが、妖魔本が絡んでくるとなると話はより深刻だ。霊夢や魔理沙も気にかけてくれているが、本当にのっぴきならない事態に陥ってしまったら、彼女らは小鈴と対峙する側に回らざるをえない立場である。そんな事態にならないよう、阿求がよく見ておかなければ。それが、人里の安寧を維持する一端を担う稗田家の使命であり、阿求自身の想いでもある──そう、思っていたのに。

 阿求は、目の前の光景に、言葉も失くし愕然としていた。普段ならば未だ眠気で朦朧としているであろう思考回路を、一瞬で覚醒させるくらいの異常事態がその瞳に映っていた。
 白いシーツに白い肌が目の奥でちらちらと揺れる。文字通り顔から血の気が引いていく。くらりと倒れそうになった阿求に、なんとも表現しづらい顔で頬をかいていた小鈴が、慌てて手を伸ばす。否応なく素肌同士がふれあって、反射的に上げかけた悲鳴を努力してかみ殺した。
「ちょっと、大丈夫?」阿求を支えた小鈴は、その混乱を察したのだろう。ほのかに苦笑を浮かべ、薄手の毛布を阿求にかけながら、困ったように、気恥ずかしそうにまなじりを下げ、こちらを覗きこんでくる。
「えー……っと。なんていうか、その……責任取るよ、で、いいのかしら。責任、取れる? 取らせてくれる?」
 予想に反して真摯なまなざしに、どうにか立て直そうとしていた思考回路がピシリと固まる。
 責任て、責任って。
 お互いに着物ひとつ着ておらず、布団を見れば寝乱れていて、ついでに言うなら体はだるく腰は痛い現状において、その言葉は、あまりにも重い意味を持っていた。そのくせ、不安そうに揺れる目前の明るい色の瞳に、胸のあたりがきゅうんと締めつけられる。
「ちょ、と」ひどいかすれ声だ。ん、んんっ、と咳払いをして、阿求は小鈴に片手のひらを示す。「ちょっと、まって。──かんがえるから」
 小鈴は素直に頷いた。
 阿求にとっての「考える」とは、ありとあらゆる記憶を総ざらいして、今この場に何が起きているかを分析し、最適な対処法を考えることだ。見聞きしたことを覚えているとはいえ、その膨大な全てをさらうには少々時間が必要である。阿求が「考える」と言ったら、急かしたりせずに、彼女が答えを示すまで待った方が良い。小鈴はそのことをよく知っている。
 それにしても、むき出しの肩が寒そうだ。酷暑は過ぎ、過ごしやすい気候になってきた今日この頃、朝晩は空気が冷える。先ほどかけてくれた毛布に小鈴も招き入れ、高めの体温を身近に感じながら、阿求は顎に手を当てる。鮮明によみがえってきた記憶の渦に潜りこんだ阿求は、小鈴が、ひどく嬉しそうに口元をむずつかせたことに気がつかなかった。


 阿求が鈴奈庵を訪れたのは、鮮やかな夕焼け空が人里を覆った頃だった。鈴奈、まではきちんとまっすぐなのに、庵、が傾きかけている看板の下、暖簾を下ろそうとしていた小鈴に声をかける。「今日はもう店じまいよ」と言おうとした彼女に先じて抱きかかえていた風呂敷包みを示すと、小鈴は目を輝かせる。現金なものだ。
 いそいそと招き入れられた母屋では、小鈴の両親が簡素な食事をかきこんでいた。曰く、親しく付き合っている商家で十五夜に合わせ月見を開くらしい。阿求が来ると分かっていたら、と特に本居夫人が残念がったが、その声音に、小鈴がひとりで夜を過ごさずに済む安堵が潜んでいることに阿求は気づいた。放任主義を貫いているように見えても心配なものは心配らしい。なんだかんだで過保護だと思わないでもないが、その過保護さは胸を暖かくする類のものだった。
 正直なところ、小鈴とふたりで過ごせるのは気が楽だった。小鈴の両親は、幼い頃から本当に良くしてくれているし、阿求も慕っているけれど、若干、こう、構いたがりなところがある。嫌ではないが、気恥ずかしいし、鬱陶しさが無いと言うと嘘になってしまう。
 その点、人懐っこい割には淡泊なところもある小鈴といると、肩の力が抜ける。自然体でいられる。阿求には、友人と呼べる相手はいても、互いに気の置けない相手はほとんどいない。だいたいが、相手に気を遣わせるか、こちらが気を遣うかになってしまう。今となってはそんな境遇に不満はないし、寂しかったり、辛かったりすることも最早ない。稗田阿求は恵まれていると心底から思っている。
 ただ、小鈴と一緒にいると楽しい。顔を見ないとなんだか物寂しい。それだけだ。

 夕餉と湯浴みを手早く済ませ、風呂敷包みとお盆をもって屋根裏部屋に引き上げる。こちらも月見と洒落こむことも考えたが、なんだかんだ彼女の部屋がいちばん落ち着けるし、縦格子の窓から差しこむ月の光だけをつまみにするのも乙なものだ。
 すぐに寝られるよう布団も敷いて、行灯の灯を消した小鈴は、さて、と目を輝かせる。急かされるまでもなく風呂敷を解き、小ぶりの酒壺を床に置く。中身を柄杓で徳利に移す阿求の手元に小鈴はまじまじと見入っていた。
「きれいな透明ねぇ。今日のはなんてお酒なの?」
 阿求は少しばかり得意げに口元をほころばせた。「一夜のクシナダ」
「えーっと……ああ、チュパカブラの! やった、飲んでみたかったのよねー。……ってこれ毒入りじゃなかったっけ!?」
「もちろん、一夜茸は入れてないわ。当然でしょう」
「な、なんだ、びっくりさせないでよ」
 大仰に肩を落とす小鈴に笑い声がこぼれる。その反応を見られただけでも作った甲斐があったというものだ。
 形式上酒を注ぎ合ってから杯を交わす。酒椀に口をつけた小鈴は「んっ!」と頬を緩ませた。
「おいしい! スッキリしてて飲みやすいわね」
「そうね。度数は高いはずなんだけど……」
「いやぁ、これならいくらでもいけちゃうわー」
「明日に響かないようにね」
「わかってるって」
 そそくさと二杯目を注ぐ様子はとても分かっているように見えない。やれやれとため息をつきながらも、もう一口含んで、阿求は目元を綻ばせた。
 花を思わせる芳潤な香りが鼻腔をくすぐり、サラリとした甘みが舌に優しい。果物を思わせる甘口な酒は、けれど、舌の先から喉の奥に移るにつれてピリッとした辛味に変わってゆく。おかげで口の中は爽やかな後味で満たされるのだ。
 小鈴ではないが、たしかに、これはいくらでもいけてしまう。先だってのチュパカブラや、かの八岐大蛇が泥酔するまで飲んでしまうのも納得である。
 とりとめもない話をしながら呑んでいると、あっという間に徳利が空になった。そろりと柄杓に伸ばされた小鈴の手を軽くはたき、徳利に酒を補充する。曲がりなりにも花も恥じらう年若な娘が、酒壺から直接、柄杓で呑もうとするのはいかがなものか。
「べつに、阿求しかいないんだからいいじゃない」
「あら、将来いい人ができたときに、ばらされてもいいのかしら」
「それこそ今さらだしー」
 言いながら、素直に猪口に手を伸ばす姿に笑ってしまう。求聞持を持つ阿礼乙女を前にしてこの発言である。剛胆と言うべきか、浅はかと言うべきか。
「なに、にこにこして」
「小鈴は考えなしねぇ、って思っていたのよ」
「もしかしなくてもバカにしてる?」
「さあ、どうかしら」
 突っかかってくる小鈴の猪口に酒を注ぎ足す。途端に頬を緩め緊張感のない笑みを浮かべるのだから、ちょろいもんである。自分のものに口をつけ、阿求は小さく頰笑んだ。

 酒壺に入っていた酒を半分ほどに減らしたあたりで限界がやってきたのを感じる。阿求も小鈴も酒に弱い性質ではないし、いつもならこの大きさの酒壺くらいふたりで空にしてしまえるが、やはり、一夜のクシナダは強いのだろう。
 渋る小鈴を無視して蓋をし、部屋の端に酒壺を移す。せっかくだから小鈴の両親への置き土産にしよう。明日、伝えるのを忘れないようにしなければ。
 ふらつく頭を軽く抑えてふり向くと、文句をこぼしていた姿はどこへやら、小鈴は布団の上に大の字になっていた。心地よい酔いに身を任せている無防備な様に、ふっと湧いてきたチリチリとした焦がれを認める。少し長く息をついてその感覚を追い払い、阿求は仕方ないと苦笑を浮かべた。
「布団くらいかけなさい。風邪ひくわよ」
「わかってるわよ。でもねぇ、ぽかぽかしてるんだもん」
「そうでしょうとも」
 ふわふわした声音に互いの理性が薄まっているのを感じ取る。ここまで酔ったのは久しぶりだ。これはもう早々に寝てしまったほうが良いだろう。幸いというべきか、酩酊から来る眠気も濃くなる一方なのだし。
 足取りが覚束ないので膝立ちのまま布団まで移動する。ほんのり冷えた麻布のシーツの感触が火照った体に心地よい。そのまま倒れこみたい衝動に駆られたが、隣に寝転ぶ小鈴は気持ちよさそうに目を閉じていて、ともすればそのまま寝てしまいそうだ。「だから、風邪引くって」とがめながら、気怠い手を伸ばして掛け布団を引っ張り上げた、その時である。
 ぐいっと手を引っ張られた。「ひゃあっ!?」思わず悲鳴を上げ倒れこむ。ぐるりと反転した視界に目を白黒させたら、くすくすと楽しそうな声が耳元で聞こえた。
「ちょっと、小鈴」自由が利かない体をみじろがせ、不満の声を上げる。「急に引っ張ったら危ないでしょう」
「ごめんごめん、つい」
「つい、じゃないわよ、ついじゃ」
「ひゃあっ、だって。かーわいー」
「聞いてないわねあんた」
 ほわほわと赤らんだ上機嫌な笑顔を間近にとらえ、胸のあたりがぎゅっと締めつけられたのを感じる。甘い痛みを無視し、阿求は小鈴の額をつついた。こちらの内心など少しも分かっていないのであろう、へらりと気の抜けた面差しが腹立たしい。いや、内心を悟られたら、それはそれで非常に困るのだけれども。
 子猫のようにすり寄ってくる小鈴を押しのけようと試みてみるが酔いのせいで力が入らない。あろうことか「いいにおい」と首筋に鼻先を埋められた。肌をなでる呼気に背中がぞくりと泡立つ。頬に触れる熱い温度に思考がくらくらする。遠慮なしに預けられる体重が快くて、阿求は、いけない、と理性を奮い立たせた。この状況は非常によろしくない。
「小鈴、重いから」
「んー」
 不服そうに上体を離す小鈴と間近で目が合ってしまい、阿求は、あ、と思った。とろんと潤んだ赤褐色の瞳。陶酔したように緩んでいる無防備な顔つき。あどけないくせに奥が見えないまなざしに吸いこまれそうになって、慌てて唇を引き結び視線をそらした。顔のすぐ横に小鈴の手がつかれている。まるで彼女に迫られているかのような体勢であることに今更気がつき、酔いのせいではなく頬が熱くなった。
「ほら、のいて」
 声を震わせずに言えたのは重畳だ。なのに、小鈴は少しも動く気配がない。どうしたのだろうと、情報量で飽和しそうな脳を無理くり動かして考える。幼い頃ならいざ知らず、今の自分たちは、ちょっとじゃれあうことはあっても、ここまで身を寄せることなどほとんどないのに。人肌恋しいのだろうか。たしかに、ふんわり漂う彼女自身の香りにくるまれて、胸のあたりから足先までポカポカとした小鈴のぬくもりを感じるのは、ちょっとどうしようかと思うほど気が安まるが──いや、ちがう、そうじゃない。
 現状の幸福を受け入れそうになる心を張り倒し、はあ、とあからさまに大きなため息をつく。かなり苦労してまなじりをつり上げ「あんたね、いいかげんに」と視線を戻した阿求の唇に、ふに、と細い指が触れた。は、と思う。
「ふふ、やわらかい」
 いったいどうして、そんなことを、蕩けるような声で言い放つのか。
 物凄い勢いで顔が熱くなった。言葉にならない声がこぼれる。そんな阿求を見て何を思ったのか、小鈴はいっそう頬を緩めて唇をなでる。細い指の腹で薄い皮膚をなぞられるたび、ぴりぴりした淡い刺激が背筋を走る。今まで経験したことのないゾクゾクとした感覚がどこか恐ろしくて、悲鳴を上げて逃げ出したくなった。心とは裏腹に、体は少しも動いてくれないのだけれども。
 頬に両手が添えられた、と思ったら、やわく口づけられていた。これ以上は本当に良くない、と頭の端で警鐘が鳴るも、嬉しそうに唇を寄せてくる小鈴を見てしまうと抗う気力が失せていく。そっとついばんでくる彼女の背に手をおずおずと回したら、心地よさそうに喉を鳴らした。本当に猫のようだ、と冷静に笑う思考が、暖かくて柔らかな快さに薄くぼやけていく。互いの熱を分かち合う行為は知識として知っていたけれども、こんなにも満たされるものだとは思ってもみなかった。
 ちゅ、と音をたてて小鈴が身を起こす。
 薄い膜を張ったように潤みキラキラ光る宝石のような目は、愉悦の色を浮かべていたが、同時に、もどかしそうに揺らめいていた。物足りないのだろうな、と阿求は思う。もっと深く感じたいのにその手段が分からなくて焦れている。
 その未成熟な仕草が浮かされていた思考に水をかけてくれた。やってしまった、と悔やむ気持ちはあるが、口づけだけなら他愛のない触れあいの延長として済ませられる。
 小鈴には長い先があるのだ。自分がその足枷になってはいけない。努めて気丈に声を張る。
「こすず、っゃん!?」
 何を思ったのか首筋に唇を寄せられ、ぴりっとした鋭い刺激にあられもない悲鳴が出た。思ってもみなかった色めいた響きに、阿求は固まり、小鈴も固まる。数秒、時が止まる。
 先に硬直からとけたのは小鈴だった。
「やん、だって」
 かわいい、と笑う彼女は、今まで見たことがない表情を浮かべていた。からかうようでいて、瞳の奥は煌々とした艶めきを宿している。顔つきは無邪気なのに、こちらが圧倒されてしまいそうな妖艶さを纏っている。こんな小鈴、知らない。
 とっさに出した両手を押さえられ、首筋に吸いつかれる。唇でやわやわと食まれるたび、堪えようのない刺激が下腹を疼かせた。声を漏らすまいと全神経を集中させているのに、裏切りものの声帯は小さな喘ぎを落としてしまい、小鈴を調子付かせてしまう。
「ぁ……小鈴、ほんとうに、もうやめ、んっ」
「あー、だめよ、唇かんだら。痛いでしょ」
「っふ……んん」
 諫めるように唇をなでられて体が震える。全身がひりついたように熱く、下腹のあたりに今まで感じたことのない熱が溜まっていくのが分かる。身の内に積み重なっていくばかりの熱をどうにかしたくて体をよじったら、小鈴がそっと上体を離した。
 何をする気なのか分からなくてぼんやり見ていると、もういちど唇を寄せてくる。指とは異なる柔らかい感触に、またぞろ思考がとかされていく阿求だったが、襦袢にこもっていた熱がふっと楽になって慌てて小鈴を両手で押した。ん? と首を傾げた小鈴は、予想通り、長襦袢を結んでいた紐帯を脇に放っていて、肌襦袢のボタンにも手を伸ばしてくる。「ちょっ、と!」我ながら悲鳴に似た声だった。
「まって、小鈴、これ以上はほんとうにだめ!」
 どうにか一息で言いきると、小鈴は手を止め、何故だか泣き出しそうな顔になる。気弱な表情に、罪悪感と庇護欲が混在した気持ちがこみ上げてくるが、ここで流されるわけにはいかない。阿求と小鈴はちがうのだ。彼女を阿求に縛るわけにはいかないのだ。たとえこの一時小鈴を悲しませようとも、長い目で見るならこれ以上を許してはならない。
 そう思っているのは事実なのに。
「……嫌だった?」
「そ、……そんなことは、ないけれど」
 おずおず尋ねられるとどうしてもはねのけることができない。情けない、と頭を抱える。どんな時でも毅然として、時には冷徹ですらあらねばならない立場だと自覚しているのに。
「じゃあ、なんでだめなの」
 寂しそうなまなざしに、ねだるようなぬくもりに、流されてしまいそうな自分がいる。
「これ以上は、冗談じゃ済まないから」
「冗談って」
 浮かされたように不安定だった目つきがキッと鋭くなる。あれ、と思った不意を突かれ、唇を奪われた。一瞬ぬくもりを味わいそうになるも、人の話を聞いていたのかこいつ、とどうにか理性が働いてくれる。慌てて手を動かすと、意外なほどあっさりと解放された。けれど、見上げた顔は悲愴にゆがんでいる。どうして、と思う。
「……冗談で、こんなことすると思うの」
「え」
 思ってもみなかった言葉に思考回路が停止する。気の抜けた声を受け、小鈴は幾分か表情を和らげた。「なんとなくそうじゃないかって思ってたけど。あんたって、変に鈍いところあるよね」
「え、にぶいってどうい、っ、ちょ、まってまって、小鈴まって!」
「嫌じゃないんなら、またない」
「まちなさいって、あっ……」
 肌襦袢の上から胸元を探られ、色濃い声がもれてしまう。頬を赤らめ口を押さえた阿求に、小鈴は楽しげに目を細めたが、今度こそボタンを取り払おうとする細い指には明らかに迷いが現れていた。これでいいのか、この先どうすれば良いのか、と震える手を進めさせるわけにはいかない。こんなところで変に無理をしなくたって、小鈴には、きちんとした将来があるのだ。それを思うと、心のどこかにある何かは凍えたように縮こまるけれど、そんなものに構っている場合ではない。一時の気の迷いで一生引きずりかねない傷を負うなんて、許すわけにいかない。
「あのね、小鈴。いい子だからすこし話をき、んぅ」
 言い終わるよりも早く口がふさがれた。
 こんな黙らせかたをするなんて、と思うものの、必死な様子で唇を食まれると、どうにもこうにも思考がぼやけてしまう。そんなところに胸元をさすられて、背筋がびくりと強張った。身体の熱は溜まる一方だ。しっかりと働いてほしい冷静な部分はとかされていくのに、わずかばかりも働いてほしくない全身の至るところが研ぎ澄まされ、張り詰めて、敏感になっていく。些細な刺激で身が震え、拙い愛撫に反応してしまう。初めて経験する官能は、頑強に作り上げた阿求の理性を崩すのに十分すぎるほどの威力を持っていた。
「ね、阿求」
 何度目かも分からない口づけの合間に名を呼ばれ、潤んだ視界に小鈴を映す。まなじりに浮かんだ涙をそっと拭った彼女は、不安そうな、楽しそうな、形容しがたい表情で阿求を見据えていた。
「こういうの、あまりわからないから、ヘタだと思うんだけど」
 何かを言う前にまたキスを落とされる。唇を押しつけあうだけの幼い口づけなのに、頭の芯が蕩けるようなぼんやりとした快感が阿求を包む。下手の言は否定しないけれど、ならば、小鈴が触れる箇所からじんわり広がる、この途方もない心地よさはどう理解すれば良いのだろう。
「その、い、痛くしないようにがんばるから。……できるだけ」
 自信なさげな言葉とは裏腹に、キラキラ輝く瞳はバカ正直なほど内心を表していて、これはもう、大人しくする他に手はないのだと認めてしまった。ボタンを外した隙間から遠慮がちに触れられるだけで、痺れるような快感が体を走る。熱っぽい顔の横に落ちてきた飴色の髪をかき上げ、頭をなでると小鈴が破顔する。ふわりと浮かぶような微笑を見て、もうどうしようもない、と阿求は目を細める。
 そも。こんなに幸せそうな小鈴を止めるなんて、阿求には無理な話なのだ。自分の身ひとつで小鈴が喜ぶのなら、安いものじゃないかとぼんやり思う。
「べつに、ヘタでも、痛くても、平気だから」
 耳の先まで赤い小鈴をそっとなでる。
「あんたの好きにしなさい」
 きっと、阿求にとってもそれがいちばんなのだから。頬をなでていた手を促すように首に回したら、小鈴はほの柔らかくはにかんだ。


「──おじさまとおばさまに申し訳が立たないっ……!」
 昨晩のことをすっかり思い出し、羞恥心を堪えながらもこの先取れる手段を総ざらいして、阿求はそう結論づけた。
 つまるところ、酔った勢いで幼なじみと一線を越えてしまったのである。たまらず両手で顔を覆う。なんてことをしてしまったのか。快さにほだされた昨夜の自分を思いきり蹴り上げたい気分だ。可愛いは罪だのなんだの言っている場合じゃない。取り返しのつかない一線を越えてしまった。
「いや、申し訳を立てなきゃいけないのは、どう考えても私だと思う」
 妙に冷静な小鈴に「なに言ってんの!」と首をふる。
「これは私の責任よ。踏みとどまれるだけの正気は残っていたんだから。ほんとうになんてことを……あのね、小鈴。こんなこと、恥の上塗りだってわかっているんだけれど、でも、」
「忘れないし、なかったことにもしないわよ」
 言う前から否定され、さしもの阿求も言葉に詰まる。だけど、と眉を下げた阿求を、小鈴は内心を読めない顔で見つめていたが、目元をふっと頼りなく下げた。
「一個だけ聞いておきたいんだけど。阿礼乙女って、その、お世継ぎ……とか、あるわよね? と、当然だよね、貴重な血筋なんだし」
「えっと、ないけど」
「そうよね、うん、わかっていたんだけど……えっ? ないの?」
 妙に食いついてくる小鈴に首肯する。話のつながりが全く読めないし、小鈴が阿礼乙女に関することを聞いてくるなんて珍しいことこの上ないが、一応、正直に答えよう。

 "御阿礼の子"は、あくまで「稗田家の血縁」に生まれるのであって、阿礼乙女・男の直系というわけではない。そもそも、御阿礼自身の子どもというのは、稗田家の歴史に存在しないし、これから先も存在しないだろう。理由は単純。阿礼乙女は出産に耐えられる体ではないのだ。
 竹林の診療所が現れてから生存率が格段に良くなったとはいえ、今の幻想郷においても出産は命がけである。元来体が弱い阿礼乙女が、幻想郷縁起編纂の使命を捨ててまで命を冒す危険に踏み出すことはなかった。
 当代の阿礼乙女である阿求も、永琳が信頼の置ける人物だと分かってから何かと相談に乗ってもらっているが「この体では出産に耐えられない」ときっぱり言われている。ただし、永琳曰く、時間さえかければ次代かその次あたりに血を分けた子どもを抱かせることは可能、だそうだ。
 とはいえ、永琳の言葉が実現したとしても、やはり、直系の子が生まれる可能性は低いだろうと阿求は考えている。これは、完全に、稗田という家のシステム上の問題だ。
 稗田家の当主は御阿礼の子だが、百数十年に一度、三十年そこらしか現世にいない輩に、当主の仕事全てを任せるのは無理な話だ。よって、稗田家は、「幻想郷縁起の編纂」並びに「知識によって人間を守護する」仕事と、「一般的な名家に期待される役割」の仕事を分離した。
 御阿礼の子たる稗田家当主が果たすべきは、幻想郷縁起の編纂とそこから派生したいくつかのみ。その他の雑事も交じった仕事には、二つの分家の代表が"当主代行(もしくは当主補佐)"として、五年区切りで交互に当たる。
 言葉を選ばなければ、稗田家に生まれた子どもは"御阿礼の子"として覚醒したら、その瞬間から家とも仕事とも切り離され、ただ、幻想郷縁起を編纂するための存在へと代わるのだ。
 そんな仕組みなので、資産の配分などの割り当てからも、御阿礼の子は枠外に置かれている。御阿礼の子が引き継ぐのは、先代の御阿礼が遺した、幻想郷縁起を初めとした歴史書の執筆に必要な膨大な資料と、心安らかに物書きに励める環境だけだ。
 そこに直系の子などが生まれてしまっては、色々なことがややこしくなる。ともすれば、稗田家が分裂し幻想郷縁起の編纂に支障が出る事態になりかねない。阿求が、直系の子が生まれる可能性は低いと考える理由はここにあるし、歴代の阿礼男が子を成さなかった理由もまたここにある。今の幻想郷においては、時代錯誤な考えだと揶揄されるかもしれないが、こうして情を排さねばならない時代もあったのだ。

 別に隠しているわけではないが、これら全てを説明しても小鈴は混乱するだけだろう。主に体の問題を中心に据えて説明すると、小鈴は「あー」と複雑な声音を上げた。その反応に、しまった、と思う。不要なことまで話してしまっただろうか。すでに納得していることに、余計な同情を向けられるのは御免被りたいのだが。
 けれど、小鈴は憐憫を見せるでもなく、ただ、へろへろと肩の力を抜いただけだ。脱力した体が毛布からはみ出そうになって慌ててひっつかむ。そういえば、よく考えなくとも、お互いに裸のままだった。いい加減服を着なければ。
「じゃあ、阿礼乙女を穢した罪とかで、打ち首なんかになったりはしないってことね。よかった。……あー、よかったぁ」
「なん、なんだって? 打ち首?」
 物騒な単語に考えていたことが吹き飛んでしまう。いったいどうしてそんな発想になるのか。
「そんなことあるわけないでしょう。子どもさえ作らなければあとはわりと自由なんだから。……って、そうじゃなくって。そんな、江戸時代でもあるまいし、小鈴を打ち首になんて、ああもう、そんなことさせるわけないでしょうに」
 嫌な想像をしそうになってブンブンと首をふる。力の抜けた顔で頷いた小鈴は、何を思ったのか阿求にすり寄ってきた。温かい素肌に反射的に赤面してしまう。ふわふわした髪が肌をなぞるのがこそばゆい。
「さすがに、今すぐ死ぬのは嫌だもんね。よかったわー」と緩みきった声で言う。
 どんな言葉を返せば良いのか分からずまごついていると、なにやらキラリと目を光らせて、阿求の目をのぞきこんだ。
「阿求、私、忘れないし、なかったことにもしないからね」
「だ、だから、」
「さあ、早く服着ないと。もうすぐおとうさんたちも帰ってくるわ。証拠の隠滅が必要よ」
 いたずらっぽく笑うやいなや、身軽な動きで立ち上がり、手早く服を身につけていく小鈴に眉間を押さえる。なんだか頭が痛い。証拠隠滅は確かに必要だが、それ以前に解決しなければならない問題がある。無かったことにしないと言うのなら、まさか小鈴は、これからも阿求の傍にいるつもりか。そんなこと考えるだけで恐ろしい。
「小鈴、まじめに話を聞きなさい。これはあんたの気持ちだけで決められる問題じゃないのよ。悪いのは全面的に私だけれども」
「毛布一枚でお説教ってのもいいけどさ、そろそろ服着ないと体冷え……あっ?」
「なに」
 これっぽっちも話を聞くつもりがないらしい小鈴にそろそろ苛立ちが募りだす。阿求の襦袢を手に取り、気まずそうに目を右往左往させている小鈴を睨みつけると、おどおどと肩を落として、
「あのー……えっと、その、まだ乾いてないみたいで」
「乾いてないって、なに、が……」
 手渡された肌襦袢は、何でとは言わないが、未だしっとりと湿っていた。そういえば、小鈴は脱がせるタイミングが分からなかったらしく、最後までずっと着たままだったかと腑に落ちる。
 じわじわと顔が熱くなっていくのが分かった。
「……新しい着替え」
「はいただいま! えっとちょっとまってね、たしか布団のところにしまってたはずなのよおかあさん」
「いいから急いで」
「はいはいはい、わかってるって」
 慌てて階下に降りようとする小鈴だったが、なんということか、玄関の鍵が開く音が、次いで、引き戸が開けられる音が響く。ハッと顔を見合わせたふたりに、無情にも明るい声が届いた。
「ただいまー。小鈴、阿求さま、帰ったわよ」
「お、お、おか、おかえりなさいおかあさん! おとうさんも! お月見楽しかったー!?」
 とりあえず寝たふりしてて! との視線に頷き、濡れた襦袢を脇に抱え、毛布を体に巻き付ける。押し入れをガサゴソやる音と、本居夫妻が階段を上がってくる足音が妙に大きく響く。ふたりに気づかれる前に着替えをよこしてくれるだろうか。
 気が気でない阿求だったが、幸いにも小鈴が屋根裏部屋に駆け上がってくるほうが早かった。乱雑に手渡されたのはこの際不問にしよう。湿ったほうの襦袢を渡し、気怠い体に渇を入れ急いで肌襦袢の袖に手を通す。
 だが、小鈴が階段を下りるよりも、夫妻が二階の居間に上がってくるほうが早かった。
「お土産をいただいたから、朝ごはんにでも……と、それは阿求さまの寝間着か。どうかしたのか?」
「えっ? 小鈴あなた、なにか不作法でもしたんじゃないでしょうね?」
「ええっ、と、えっとねこれはその、実はえっと、阿求、お、」
 お漏らしなどと言おうものなら末代まで呪うわよ、持てる知識を総動員して。
 動揺している横顔をキッと睨む。
「お、お、お酒こぼしちゃって! 寝ぼけてるのに柄杓なんて使うからよねー困っちゃうわー」
「ちょっ、小鈴!」
 お漏らしよりは幾分マシかもしれないが、それにしたってもう少し別の言い訳はなかったのか。寝汗が酷かったとか、夢見が悪かったとか、着物と長襦袢の色が合わなかったとか。小鈴の小さい脳みそにとっさの機転を求めるのは酷かもしれないが、それでも、これでは阿求が卑しん坊のようではないか。
 慌てて反論を試みるも、小鈴は素早く階下に駆けて行ってしまう。「あらあら阿求さまったら」と、本居夫人がほほえましそうに言うのが聞こえる。「そういうときは、阿求さまの恥にならないよう、なにも言わずに処理をするんだ」と本居氏が静かに諫める声も聞こえる。
(ちがうのに!!)
 心の中だけで絶叫しつつ、阿求は渋々ボタンを留め続けた。

 ***

 それから数日のあいだ、阿求は全く使いものにならなかった。
 とはいえ、意地でも日々の記録に支障をきたしたりはしない。むしろ、様々な問題から逃れるように筆を動かすので、文量だけ見ると捗っているくらいだ。言葉遣いどころか"てにをは"も考えず、頭に浮かんだ文章を片っ端から書き殴っているので、後で校閲を入れるのは必須だが。筆が乗らず現実逃避をした経験はあれども、現実から逃れるために仕事に没頭する経験は初めての阿求である。またひとつ知識が増えた。縁起編纂や歴史書の執筆には使えない雑学だ。
 仕事が捗っているのだから、大半の使用人たちの目には、阿求が不調だと映っていないだろう。しかし、阿求が幼い頃から仕えてくれている者たち──女中頭のお竹をはじめ、松爺やその配下の奉公人。そういえば、付き人であるお梅からも心配そうな視線を向けられていた。彼女は阿求に仕えるようになって一年も経っていないのに。反省。──には、その不調がありありと見えてしまったらしい。
 尋ねられたことへの答えを探すのに五秒以上かかったと思えば、打ち掛けと羽織を逆に着ようとして止められる。常はしゃんと咲き誇っている髪飾りが曲がっていたり、何もないのに袴の裾につっかかり転びそうになってお梅や松爺の肝を冷やす。挙げ句の果てに、長湯をしすぎてのぼせるときた。
 どれもこれも、阿求らしからぬ失敗である。忠義者揃いの使用人たちは、言葉にこそ表さないけれど、物言いたげな視線をビシバシと向けてきていた。「阿求お嬢様、いったいぜんたいどうなさったんですか、その有様は」と。
 もちろん、阿求とて、望んでこうなっているわけではない。私事で心乱れて配下の者に心配をかけるなど、九代目阿礼乙女にあるまじき失態だ。歳が片手で数えきれる時分ならまだ拠ん所ないと弁明も立てられようが、この歳になってこんな事を引き起こしてしまうとは。
 情けない。頭ではそう思っているのに、ふと気を抜いたら小鈴の間抜け顔が脳裏をちらついて、心が体を離れてしまう。本当に、情けない。

「阿求様、阿求様。起きてください。……阿求お嬢様」
「……ん……あ、れ?」
 少し強めに揺さぶられのろのろと目を開ける。ぼんやりと目を瞬くと、目前にあったお竹の顔が苦く緩められた。どうやら、書き物の途中で寝入ってしまったらしい。文机から身を起こすと、背中や腰がビキリと痛んで阿求は小さく呻いた。
「お目覚めですか、阿求様」
「ええ。……何時?」
「もう少しで朝餉の準備が整います」
「あー……」
 やってしまった、と手のひらで目元を覆う。何も言わないお竹の無言の圧力がとても痛い。
 元来体が弱い阿求にとって、規則正しい生活を送り、毎日の体調を整えるのはもはや仕事の一部だ。こんなに冷えた部屋で毛布も掛けず、熟睡もできない体勢のまま一晩を越すなど言語道断である。
「ごめんなさい」と肩を落としたら、やれやれと首をふったお竹は「見つけたのがわたくしでようござんした。松さんが見たら卒倒しますよ」と釘を刺す。
「ほんとうにね。すぐ、支度をするから」
「その前に湯を用意いたします」
「ええ? そこまでしなくていいわよ。ちょっと冷えた程度だもの」
「阿求お嬢様」
「……わかった、わかったわ。悪いわね、手間を取らせて」
「いえ」
 静かに一礼したお竹に頷き、広げたままの巻物をしまいにかかる。多めに摺っておいたはずの墨は一滴残らずカピカピに乾いてしまっていた。ああ、と肩を落とす。
「おそれながら」
「なに?」
「久しぶりに外出をされたらいかがでしょう。屋敷に籠もってばかりでは、気も滅入ります」
 心配そうな声の響きに反射的に反論しそうになる。だが、お竹がこんなことを言ってくるのは初めてのことだと思い直す。口を結び、無言のまま続きを促すと、年上の女中頭は思いきったように口を開く。
「もしも、煮詰まっていることがおありでしたら、どなたかに話すのも手段のひとつかと。三人寄れば、とも申しますし」
「…………。そうね。お竹の言うとおりね」
 口元を緩めて頷くと、緊張で強張っていた肩から力が抜けた。生真面目な彼女にそこまでさせてしまったことをすまなく思う。
「朝餉をいただいたら、すこし、外に出ることにするわ。供はいらないから、松爺に伝えておいてくれるかしら」
「かしこまりました、阿求様」
 言って、深々と頭を下げたお竹に「ありがとう」と呟く。微笑を浮かべるだけで気づかないふりをした忠実な女中頭は、そうそう、と幾分か気楽そうな声で続けた。
「借りている本で、いくつか期限が迫っているものがあったと思うのですが」
 どきり、と心臓が大きく跳ねた。気づかれぬよう息を吸いこんで「そういえばそうね」と話を合わせる。
 貸本の期限など、阿求が把握していないはずもない。お竹がわざわざ口に出すのは、暗に「鈴奈庵で気晴らしでもしてきたらどうですか」と提案している時だけだ。それ以外の意図などない、と自らに言い聞かせ、呼び水を得てよみがえりそうになった記憶を強引に堰き止める。
「近いうちに返しに行くわ。なにか借りたい本があったら、ついでに借りてくるけれど」
 お竹が、おや、と不思議そうな顔をした。しかし、それ以上は何も聞かずに「他の者にも聞いておきます」と笑みを浮かべる。そうして、湯浴みの用意にと出て行った彼女を見送って、阿求は深いため息をついた。


 お梅らに見送られて門を出ると、清々しいほどに晴れ渡った秋空が広がっていた。爽やかな風が頬をなでる。グルグルと同じところを回り続け鬱いでいた内心が、どことなく軽くなった気がした。やたらめったらに広い屋敷とはいえ、お竹の言うとおり、籠もりきりなのは良くなかったのだろう。
 もうひとつの提案も思い出し、阿求はふいと下唇を噛む。ゆっくりと進めていた歩を止め、先ほどは強引に堰き止めた記憶の蓋をそっと開ける。ここのところの不調の原因であり、途方もない幸福感と罪悪感を呼びこむ記憶に身を浸す。
 目に映る真っ赤な顔も、耳に響くうわずった声も、必死で、一生懸命で、可愛らしくて。阿求はきつく目をつぶった。
 求聞持の力を、これほどまでに疎ましく、残酷だと感じたのは初めてかもしれない。
「……未練ねぇ」
 ゆるりと首をふり、止めていた歩みを再び進める。
 行き先は既に決まっていた。お竹は三人寄れば、と言ったが、こんなにも愚かな姿を見せるのはひとりだけで十分だ。本当ならば、もっと早くに彼女を訪れるべきだったのだろう。それをずるずると引き延ばしてしまったのは、阿求の不徳の成すところだ。いや、不徳というならば、こんな事態を引き起こしてしまったことそのものから、そうなのだけど。
 頭突きの一、二発は覚悟しておくべきかもしれない。ふるふると身を震わせた阿求は、それでも足を止めなかった。

「おはようございます、稗田殿。こんな朝方からどうされました?」
「慧音さん、おはようございます。協力を依頼したいことがあって伺いました。今日は、寺子屋はお休みでしたね?」
「……ふむ。ひとまず、中へどうぞ」
 人里のはずれ、迷いの竹林にほど近いところにある平屋を訪れると、慧音は快く招き入れてくれた。都合の良いことに今家にいるのは彼女ひとりらしい。
 示された座布団に腰を下ろし、茶を用意してくれるのを大人しく待つ。今すぐにでも本題に入りたい心情ではあるが、阿求は、慧音の性格上いい顔をしないであろう依頼をする立場なのだ。姑息な気回しだろうとなんだろうと、できる限り相手のペースにおもねるほうが良い。
「あいにく、私も妹紅も茶が好きなもので」と出された玉露に礼を述べて口をつける。上等な渋みとほのかな甘さが舌に快い。爽やかな後味が未だ未練がましくまごついていた背中をポンと押してくれた心地がした。
「それで、依頼とは」と微笑を浮かべた慧音に、背筋を伸ばす。
「その前に、ひとつだけおねがいがございます。此度の依頼は大変個人的なもの。私にも面目というものがございますから、決して他言しないよう頼みたいのです」
「ずいぶんと重要な依頼のようですね。承知しました、お約束しましょう」
「ほんとうにおねがいします。もしものことがあれば、寺子屋で使える資料の数が大幅に減ることになりかねません」
 あえて被せた言葉に、人当たりの良い笑みを浮かべていた慧音が表情を強張らせた。
 当然の反応だろう。寺子屋の教材を作るため、阿求は、邸宅の蔵書や資材を惜しみなく貸し出している。その貸し出しを、口外したらやめる、と言っているのだ。
 ひとつの教材を作り上げるのには複数の資料が必要だし、年が過ぎるたびに新たな知見に基づいたものに更新せねばならない。阿求からの協力が得られなくなると今の教材を維持するのは厳しいし、寺子屋の授業の質、ひいては、里の人間が得られる知恵も偏った脆いものになるだろう。たとえ冗談だとしても、稗田家当主に許される発言ではない。
 だが、きっと、それ以上に慧音の気に障ったのは、
「……寺子屋を盾にせねば、私が約束を違えると?」
「人里において、私以上にあなたの誠実さを信頼している人間は、おそらくほとんどいないでしょう。ですが、最初に申し上げたとおり、個人的な依頼ですから」
「稗田阿求ではなく、一友人の願いは軽んじるとでも? 頭突きが必要か、阿求」
「わかりました、慧音さん、わかりました私が悪かったですから。ストレッチしないで。怖いから」
 不機嫌そうな顔で、これみよがしに首筋を伸ばす慧音に両手を上げる。ふん、と鼻を鳴らした慧音は、切れ長の目をまっすぐに向けてきた。
「まったく、あなたらしからぬ言葉に驚いているよ。それだけ重大なことだと理解はしたが。まず事情を聞かせてくれないか。協力するか否かはそれから決める。もちろん、協力できないことであったとしても、誰にも言わない」
 やはりこうなってしまうか、と阿求は内心嘆息した。慧音は誠実で、生真面目で、頑固者だ。これ以上無いほど信頼できる人柄だが、だからこそ、融通が利かない部分もある。
 仕方がない。腹は括ってきたのだ。茶で唇を湿らせてから、阿求は「実は」と口を開く。
「酔った勢いで小鈴と関係を持ってしまって」
 一息で言いきる。慧音が物凄い勢いでむせた。
「げほっ、ごほっ! なん、ぇほっ、なんだ、なん、なんだって!?」
「二度も言わせないでください。縁起がなければ今すぐにでも転生したいのだから」
「ど、な、い、いつのまにそこまで進展していたんだ!?」
「数日前です。慧音さん、お茶を飲んだほうが」
「あ、ああ、かたじけない……」
 茶碗を手渡すと、慧音はそろそろと口をつけた。性格的にこういった話は苦手なのだろう。頬が赤い。若干涙目でもある。
 対する阿求は、自分でも不思議に思うほど冷静だった。そういえば、片方が取り乱すと、もう片方は自然と冷静になるという話があったか。まさか自分で体験するとは。
「驚かせてしまってすみません。それで、依頼というのは」
「ああ、うん、なんとなくわかった。謹んで辞退させていただく」
「その歴史を食べてほしくって」
「謹んで辞退させていただくと申し上げたが!?」
 声を荒らげる慧音に「そこをなんとか」と頭を下げる。
 無茶な頼みをしている自覚はあった。他でもない「歴史」を扱う彼女なのだ。その重みと責任は骨の髄まで染みているだろう。それが分かっているからこそ、寺子屋で働く慧音を全面的に支援しているのだから。
 しかし、阿求だって易々と引くことはできないのだ。己が忘れられないのは仕方がない。妥当な罰だ。けれど、小鈴は。
 慧音が困ったように頭をかいた。
「阿求、頭を上げてください。あなたの言葉とは信じられないが……気持ちはわかる。だが、小鈴はきっと、喜んでいたのだろう?」
「……"忘れないし、無かったことにもしない"と」
「だろうな。ならば、あなたも腹をくくるんだ。元教え子の恋路を邪魔するなどできないよ」
 聞き分けのない幼子に言い聞かせるような辛抱強い声音に、阿求の中の何かが千切れる音がした。必死に堪えていた情念が、なんでもないことだと目を逸らしていた我欲が、楔から解き放たれ、身体中を巡り満ちていく気配がある。
 カッと熱くなる思考の端で、ああ、嫌だな、と頭を抱える自分がいた。親切なこの人に、八つ当たりなどしたくなかったのに。
「……だからこそ、」低くかすれた声は震えていた。
 顔を上げて慧音を見据えると、阿求のまなざしを受けた彼女はハッと口元を引き締める。
「だからこそ、"なかったこと"にしていただきたいのです」
 声の震えが収まらない。どす黒い欲望が心の中で暴れて視界が滲む。両手をきつく握りしめ、阿求は言葉を絞り出す。
「小鈴が嫌ってくれたなら、嫌がってくれたならば、こんなこと言いません。良い機会です。離れればいい。私は彼女に近づきすぎた。その過ちを正すだけのこと。でも、」
 阿求に触れる小鈴を思い出す。
 興奮で浮かされたような目を、期待と緊張にうわずった声音を、こうしていると幸せなのだとあらゆる手段を使って伝えてくる、無防備な笑顔を。
「……うれしそうだったんです。信じられない。私では駄目なのに。私は、彼女に、なにもあげられないのに。あの娘をおいていくのに。ひとりっきりにしてしまうのに」
 堪えきれず俯いた。両膝の上に置かれているこぶしは力の入れすぎで白くなっていた。
「わたしは、小鈴に、なにも渡せません。資産なんてあってないようなものです。おじさまとおばさまに孫を抱いてもらうこともできない。共に歩む家族となり、子を育てる、普通の幸せすらもあげられない。ただひとつ遺せるものと言えば、愛した相手に先立たれるという事実だけ。そんなの、……そんなの、あんまりよ」
 小鈴に幸せになってほしいのに、阿求ができるのは、それを邪魔することばかりだ。
 堰を切ったような言葉の奔流が収まると、部屋には重い沈黙が満ちた。喉がヒリヒリする。滲む視界がグラグラ揺れて気持ちわるい。目の奥に集まる重い熱が雫となってこぼれそうになったが、奥歯をきつく噛んで堪えた。これ以上無様な姿を見せて、慧音に気を遣わせるのは嫌だった。
 慧音は何も言わずに阿求の言葉を聞いていたが、口を結んで俯いた姿に、静かで長い息をついた。「阿求」と穏やかに名を呼び縮こまっている肩にそっと手を置く。のろのろと顔を上げたら、優しい、けれど、どこか痛切な光を目に宿し、阿求を見守っている。
「あなたは、鈴奈庵が大切なんだなぁ」
 どこかのんびりした口調に、とっさに反論をしなければと口を開くが、何を言えばいいのか分からなくて唇を一文字に引き締める。観念してこくりと頷いたら慧音は「うん」と微笑を浮かべる。
「すまないが、あなたに協力することはできない。人の歴史はその者が歩んできた道のりそのものだ。たとえどんなに切実な理由があろうとも、いや、あればこそ、道を歪めるような真似、二度とすまいと心に決めた」
 平らかだが少しも揺らがない声に、阿求はつい、慧音を見つめ返した。慧音は今"二度と"と言った。その言葉と、今は家にいない彼の人の姿を思い出す。
「──ああ」
 荒れ狂っていた心がストンと腑に落ちる。いつの間にかまなじりに浮かんでいた涙を指先で拭われた。慧音は「叱られたよ。盛大に」と呟く。その声は、嬉しそうであり、悲しそうでもあった。
「なあ、阿求。幸せというのは、つくづく扱いづらいものだよなぁ。明確なときがあれば、曖昧なときもある。時と場合によって変わることがある。誰かの幸せが、誰かの不幸を呼ぶことさえある。さきほど、あなたは"普通の幸せ"と言ったが、それを苦痛に感じる者だっているだろう。……幸せには際限がない。正解もない。必死になって探してやっと見つけた不安定なものを、大事に抱えてみるしかない」
 慧音の言葉は水のようだ。説教くさいと思うのに、乾いた大地に染み入るように心の中に入りこんでくる。諦観で乾涸らび固まっていた場所に恵みを与えると同時に、希望という不安定な潤いで心をくるむ。
 必要なものは得た。考えなくては。そんな気にさせられる。
「……では、わたしは、どうすれば」
 目を閉じ耳をふさぎ、これが唯一正しいことだと信じてしがみついていたものから引きはがされると、果てのない暗闇が広がっていた。いつもならば阿求の往く道を煌々と照らす厖大な知識はそろいもそろって沈黙している。
 縋るような響きを持ってしまった阿求の言葉に返されたのは、小さく肩をすくめる仕草だけだった。不安が表情に出てしまったのだろう。慧音は困ったように苦笑する。
「そんな顔をしないでくれ。いじめたいわけではないんだ」
「わかっていますけれど……」
「そうだなぁ。私は、阿求でもないし、小鈴でもないから、ほんとうになんとも言えないのだが」
 言葉を切り、少し考えこむ。答えを素直に待つ阿求を見て、慧音はちらりと悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「幸せは人によりけりで、際限がなければ、正解もない。だが、ふとした拍子に、お互いの幸せが重なることもあるでしょう。その重なりは、大事にしてもいいのではないかな」
「ですから、小鈴を幸せになど、私には」
「できる、できないの問題ではないだろう。あなたたちの場合は」
 なんだか禅問答の風合いを帯びてきた。思いきり顔をしかめた阿求に、慧音は「さて」と立ち上がり、奥の部屋から何冊もの本を持ってくる。話は終わりということだろう。
 納得がいかないどころか、なまじ"解決策"を否定されただけに、心中の混乱は悪化しただけだ。しかし、これ以上慧音の邪魔をするのは気が引ける。渋々立ち上がったら、意外なことに体が少しだけ軽くなっていて、気分も幾分かマシになっていた。情けない弱音を聞いてもらった影響だろうか。
「……とんだご迷惑をおかけしまして」
「普段、稗田殿にかけていただいているご助力を思えば、この程度はなんてことありませんよ」
「ん、む、と。……ありがとうございました」
 慧音は闊達な笑顔を見せた。
「なに。こいばな? というのも、存外楽しいものだとわかったからな。……また、誰かになにか話したくなったら、いつでもおいで。阿求」
「はい」
 片手を上げる慧音に頭を下げ、引き戸を引いて外に出る。眩しい日差しに目を細めながら、よろよろと歩いて行く阿求の背中を見送って、慧音はふいとひとりごちた。
「それにしても、つくづく阿求は小鈴に甘いな」


 稗田邸に歩を向けながらも、阿求の頭は慧音の言葉で埋め尽くされていた。優しく言い聞かせられた声が思考回路をグルグル巡る。道行く人からかけられるあいさつに笑顔を返しながら、小鈴の幸せ、とぼんやり考える。
 昔なじみの贔屓目を除いても、小鈴は魅力的な少女だと思う。
 奇抜なものや珍しいものに惹かれるきらいがあるから、そこだけ見て敬遠されがちだが、いつも朗らかで見ていると元気になるし、ああ見えて面倒見も悪くない。臆病なくせに、後先考えず好奇心に身を任せて厄介ごとを引き起こしたり、巻きこまれたりすることは多々あるが、それで未だに元気でピンピンしているあたり、危機回避能力は高いと見える。博麗の巫女や霧雨魔理沙といった、人里の人間が頼るには最上に当たるふたりの庇護を受けているのも、なんとなく力になってやりたいと思わせる、彼女が持つ不思議な雰囲気がそうさせるのだろう。おまけに顔立ちだって悪くない。
 いずれ、引く手数多になる未来など目に見えている。小鈴の知り合いは貸本屋に関わっている人が大半だから、彼女が家業を継ぐことに不満を言うものなどいまい。妖魔本を集める趣味だって、小鈴を得られることと天秤にかけたら大したことはない、と判断する者もいるだろう。本を扱う職の性質上、跡継ぎには、血縁よりも本人の性質を重視すると本居氏から聞いたことがあるが、小鈴に育てられて本が嫌いになる子どもはいるまい。寺子屋では慧音たちを悩ませる腕白坊主・少女が、小鈴の読み聞かせでは大人しく、食い入るように話を聞いている様を阿求は何度も目にしている。
 順風満帆。そう思う。ひとつだけ気がかりなのは、本人があまりに妖魔本、ひいては妖怪に傾倒してしまっていることだけだ。落ちたら即死確定の綱渡りをしているのだと自覚すらせず、危なっかしい足取りでほいほいと綱を渡る姿は、見ていて肝が冷えることこの上ない。まあ、霊夢たちが目をかけているから、大丈夫だろうと思うけれども。
 その未来に思いきり泥をつけたのだ自分は、と改めて思い出して、何度目かも知れぬ絶望感が身を蝕む。胃のあたりがキリキリと痛む。自身の幸いに目がくらみ、流されて受け入れてしまうなんて。慧音からは、多分、そうした懺悔を窘められたのだろうが……。

 再三堂々巡りに陥りかけた阿求だったが、稗田邸の中がなにやら妙に騒々しいことに気づいて表情を改める。自分の居ぬうちに何か問題があったのか。
 門をくぐると、使用人のひとりが阿求を認め駆け寄ってきた。
「阿求様、おかえりなさいませ」
「ただいま。なんだか落ち着かないようだけど」
「はい、それが、縁起編纂の様子を知りたいという方がいらっしゃって、お竹さんがお相手を」
「どこにお通ししたの」
「阿求様の書斎です」
 聞き終わるやいなや、大急ぎで地面を蹴った。下駄を脱ぎ、無駄に長い板張りの廊下をパタパタと走る。すれ違う使用人たちが驚いたように阿求を見たが、構っている余裕はなかった。
 慌ただしいながらも使用人が脅えていないということは、相手は変装をしているのだろう。彼の大妖がここでそんな手間暇をかけるはずはない。わざわざ変装をして稗田邸を訪れ、縁起編纂の様子を尋ねてくる来客。その上、霊夢や魔理沙や小鈴でもない相手となると、自ずと選択肢はひとつに絞られる。嫌な汗が背中を流れた。
「──たいへん、おまたせを、いたしましてっ」
 息を切らせ書斎に駆けこむと、上座に置かれた座布団の上に背筋を伸ばして正座していた来客が、ああ、と頬を綻ばせた。手には湯呑みを持ち、脇に据えられた小机の上には羊羹が添えられている。どれも上等なものだ。さすがはお竹である。
「すみませんね、突然訪問したというのに、上がりこんでしまって」
「とんでもない。あなた様ならいつでも大歓迎です、四季様」
 地獄の最高裁判長、四季映姫・ヤマザナドゥは阿求の言にほんわり微笑した。今は休みらしい。閻魔の制服ではなく、地味な(けれど、見る者が見れば上質だと一目で分かる)臙脂色の着物に身を包み、ほっこり茶を楽しんでいる様は里の娘と大差ない姿だ。
 下座に座布団を敷いて腰かけながら、阿求の分の茶を運んできたお竹に目だけで礼を言う。
 人に言うと意外がられるが、映姫は、本当の休暇の際にまで"閻魔様"と扱われることをあまり好んでいない節がある。そのため、人里を訪れる際も今のような格好をするし、阿求にも「礼は無用」と言い置いている。
 だが、阿求からしてみると、将来の上司に失礼を働くのはできるだけ避けたい。そこで、お竹と松爺、それからお梅といった限られた者にだけは、変装時の映姫の容姿を伝えてあるのだ。
「幻想郷縁起は、ご覧いただけましたか?」
「ええ、さきほど。今回の追加分も充実していますね。それに、あなたは相変わらず文章がうまい。歴史書しか書かないなんてもったいないわ」
「ありがとうございます」
 軽く頭を下げながら、胸の内の疑念が強くなる。「礼は無用」と言うだけあって、幻想郷縁起の確認をするだけならば、書庫に滞在するだけのことが多い映姫である。阿求の不在時に訪れ、そのまま帰ることだってままあることだ。そんな彼女が、わざわざ書斎に残って待っているとは、らしくない行動だ。
 だとすれば。
「つかぬことを伺いますが、転生の儀を始める必要が……?」
 声を震わせずに済んだのは僥倖だった。けれど、笑みを浮かべる余裕まではなかった。
 阿求の言に、映姫は数度目をしばたいたが、次いで、軽やかな笑い声を立てる。
「まさか、ちがいますよ。縁起の編纂にはもっと時間が必要でしょう。あなたがこちらへ来るのはまだまだ先のこと」
「そ、そうですか」
 力が抜け、ふらりと倒れそうになった体を、両膝に手を置いてどうにか支える。手のひらの感覚がない。緊張が緩んだせいか全身から汗が噴きだすのを感じた。
 そんな阿求を見て、映姫はすまなそうに目を細める。
「動揺させてしまいましたね。私も、ほんとうはすぐに帰ろうと思っていたのだけれど、頼まれてしまって」
「たの……?」
 意味が分からない。映姫に頼み事とは。
 いや、もともと地蔵菩薩であった彼女は、人からの願いは快く引き受ける性質であるけれども、それを知る人間は多くない。この邸宅でも然りだ。それなのに、閻魔にものを頼む輩がいたとは。
 一気に脱力した影響で、未だ震えが収まらぬ体を支えながらも、きょとんとする阿求に、映姫はなにやら、少しおかしそうなまなざしを向けてくる。
「あなたの付き人……お梅と言いましたか。彼女から、ここ最近のあなたの様子がおかしいと、相談を受けたのです。自分たち使用人には弱音をはけないからと。ですからまあ、ざっくり言えば、お悩み相談ね」
「は」
 ふらり、と先ほどとは異なる衝撃で、今度こそ体が揺れた。気が遠くなる。地獄の閻魔様に主の相談役を頼むお梅もお梅だが、自身の不手際がここにまで影響を与えてくるか。
 できることなら時間を遡りたい。遡って、小鈴を喜ばせたいからといって余計なことをするなと、一夜のクシナダを漬けこんでいる自分の頭を引っぱたきたい。ああ、いや、訂正。一夜のクシナダを鈴奈庵に届けるくらいはしてもいいだろう。けれど、せっかくだからと泊まろうとする己は、首に紐をつけてでも引きずり戻したい。
 現実から目を背け、少々夢想するとささくれ立っていた心が気持ち慰められた。だが、映姫が目の前にいるというのに、いつまでも呆然としてはいられない。
 長い息をはいて思考を立て直し、畳に手を突き頭を下げる。口を開こうとした阿求を制するように、映姫が言う。
「謝罪なら不要。お梅を叱るのもよしなさい。彼女は本気であなたのことを案じていました。良い奉公人を持ちましたね」
 羨ましいわ、とおどけるように言われ、言葉に詰まる。そろそろと目を上げたら映姫は和やかに目を細めていた。
 ありがとうございます、と戸惑いながらも礼を述べると、うん、と鷹揚に頷く。が、一転こほんと咳払いをし、心なし阿求に身を寄せる。何故だろう、嫌な予感がした。
「それで、いったいなにがあったというの? 九代目阿礼乙女(あなた)が配下の者にここまで心配されるなんて、らしくない」
「……ええと、その」
 反射的に言い返しそうになった跳ねっ返りな言葉を堪え、口を濁す。
 さて困った。どうやって誤魔化そう。映姫の気持ちはありがたいし、お梅の気遣いも嬉しいが、悩みの内容が内容である。百歩譲って自身のプライドは捨てるとしても、惚れた腫れたの俗めいた相談を閻魔にするというのはいかがなものか。かといって、適当なことを述べて誤魔化したりしたら、根が実直なこの方の怒りに触れかねない。
 やむを得まい。阿求はひとつ息をついた。
「実は、非常に個人的な事柄でして。四季様の相談に乗ってもらうほどのことでは」
「あら、そうなの?」
「えっ」
 意外そうな声が返される。映姫は口に手を当てていた。その目は先ほどよりもわくわくしているように見える。
 たとえるならば、先ほどまでの映姫が迷い人を導く慈母だとしたら、今の映姫は面白いことを聞いて何かを考えている時の魔理沙のようだ。嫌な予感が増した。もしやこれは、墓穴を掘ってしまったのではあるまいか。
「縁起か、転生に関することだと思っていましたが……個人的なこと。個人的なこと、ねぇ」
「あの……四季様……?」
「ごめんなさいね、阿求。かえって興味が湧きました。なにがあったのか話してみなさい」
「閻魔様ともあろうお方が、俗っぽいことを仰らないでください」
 思うよりも早く口を突いた苦言も、ふっと笑みを浮かべただけで聞く気はないらしい。まあまあ、といそいそ座り直し、片手のひらで阿求を示す。
「あなたのことだから気になるの。誰に対してもこうではないから、安心して」
「光栄ですがうれしくありません」
「そうね。それで? 素直に口を割ってもいいでしょう」
「謹んでお断りいたします。大したことでもありませんので」
「話せば楽になりますよ? 自分で言うのはなんですが、こう見えて、聞き上手ですもの」
「次の縁起更新の際に追記します」
「まじめねぇ」
「四季様ほどでは」
 礼儀を投げ捨て丁々発止のやりとりを交わしながら、頬を冷たい汗が流れるのを感じた。困った。見逃してくれる気配が無い。このままでは埒があかない。
「その、ええと、白状しますと、先ほどまで慧音さんに相談をしていたのです。それで、解決しましたので」
「それにしては浮かない顔ね」
「え」
「自覚していなかったの? この部屋に入ってきてからずっと、表情が優れないけれど」
 思ってもみなかった指摘につい手を頬に当てる。「それに」と言葉を切った映姫は、これ見よがしに文机の上に置いてある巻物に目をやった。
「あんなに荒れた文を書いておきながら、大したことないとはねぇ。嘘つきは泥棒の始まりですよ、稗田の」
「な──」
 慌てて巻物を確認する。紐の留め方が朝とは異なっていた。屋敷の者が阿求の許可なく書き物に手をつけるはずがない。頬がカアッと熱くなった。
「だっ、だ、だから! 書庫に入っていないものは、校閲が済んでいないものは読まないでくださいと! あれほど!」
「ならば、せめて引き出しにしまうくらいはしなさい、不用心な。私だってそこまで漁ったりはしません。けれど、そうね。普段の行儀がいい文章もあなたらしいですが、そのやんちゃな感じ、嫌いではないわよ」
「勘弁してください……!」
 顔から火が出そうだ。両手で目元を覆った阿求を、映姫はやれやれと見守っていたが、ふぅと姿勢を正し「話を戻しましょうか」と手を打った。
 なんの話だ、と睨みつけたら、縮緬の小物入れから手鏡を取り出す。阿求でも片手で持てるくらいのそれを手渡された。反射的に受け取ったそれを覗きこんだら、艶々とした透明の鏡面に頬を染めた阿求が映る。一見シンプルな造りだが、八角形の枠の部分には、絶妙に簡素化された細やかな花の模様が彫られている。はて、この形、どこかで見た覚えがあるのだが。
「なかなか良い鏡でしょう」
「そうですね。鏡面がこんなにきれいなものは久しぶりに見ました。模様も……これは、彼岸花と竜胆、でしょうか」
「その通りです。さすが、目の付け所がしっかりしている。浄玻璃の鏡を修繕ついでに、アレンジしてみたのですけどね」
「わっ、わかりましたわかりました、話しますから!」
 大急ぎで鏡を映姫に突き返す。プライバシーもへったくれもない地獄の道具を、こうも気軽に手渡されるとは思っていなかった。
 頭を抱えて大きなため息をつく阿求に、映姫はころころと鈴を転がすような笑い声を立てた。結局、閻魔様の手のひらの上か、と映姫に向き直る。気恥ずかしさがないではないが、浄玻璃の鏡で見られるくらいなら口で話したほうが大分マシだ。
「実は、」本日二度目の説明を始めながら、阿求は内心で肩を落とした。

「──なぁんだ、ただの惚気話でしたか」
「のっ……」
 阿求の話を聞き終えた映姫の第一声はそれだった。あんまりな言いぐさに阿求は顔を赤らめる。惚気話って、惚気話って。こちとら真剣だというのに。
 ささやかながらも自認するだけあって、なるほどたしかに、映姫は意外なほど聞き上手だった。二度目とはいえ言いづらいものは言いづらい。言葉に詰まる阿求を急かしはせず、丁寧に相づちを打ち、時には助け船を出しながらも、必要以上に尋ねることはない。柔らかな姿勢に誘われて、慧音とのやりとりや、結論の出ない悩みまでも話してしまった阿求である。惚気話、の一言に強く反論はできなかった。
 口を結んで俯いた阿求の前で、映姫は安心したように肩の力を抜く。
「何事かと思ったのですが。心配して損したわ」
「……心配、してくださっていたのですか?」
「半分くらいはね。もう半分はただの興味です」
 うぐ、とさらに項垂れる阿求に、映姫はそっと近寄ると、緊張した力を抜くように肩に手を置く。顔を上げたら、まさに地蔵菩薩を偲ばせる面差しで微笑していた。
「そんな顔をしない。答えなど最初から決まっているでしょう。賢いあなたが気づかぬはずもない。覚悟を決めなさい」
「ですが、四季様。私は……小鈴と共に歩める身では……こんなことに、なってしまって」
 苦い気持ちがとぐろを巻く。映姫は苦笑して阿求の肩をぽんぽんとたたいた。なんだか今日はこうして励まされてばかりだな、と関係のないことをぼんやり思う。
「しっかりなさい、稗田阿求。想い想われるふたりが結ばれたのです。お天道様に恥ずかしい行いをしたでもない。祝福こそされど、非難される謂われなどあるはずないでしょう。あなたは自分の立場を理解しすぎているから、重荷に感じてしまうのかも知れないけれど、事実はもっとシンプルです。そう──」
 ふっと、映姫の声の質が変わった気がした。美しい緑青の瞳が吸いこまれそうなほど透明に澄みわたる。
「──あなたは少し、責任感が強すぎる。種としての人間の幸せを方向付けるのは目をつぶりましょう。ですが、個々人の幸せにも手を出そうというのは、ただの傲慢です。里の人間は、あなたに守護される者ですけれど、同時に、あなたと共に道行く者でもあるのですよ」
 淡々とした清閑な声を受け、阿求は瞳を揺らした。
 傲慢だなんて、と反発しそうになる己を自覚して一笑する。痛いところを突かれてムキになるのは幼子のすることだ。映姫の言葉を理解し受け入れようと努める自分と、反発しそうになる自分とで裂かれる心を押しとどめ、息を吸う。袴の布地を握りしめ、髪飾りの重みをなにとはなしに感じながら、ゆっくりと時間をかけて呼吸する。
 分裂しそうになっていた心をくるみ、落ちついたのを感じてから、阿求は映姫に笑いかけた。
「……私も、まだまだですね」
「そう言えるだけでもたいしたものよ」
 映姫は、まるで彼女の部下の死神のように、飄々と片目をつぶってみせた。

 ***

 慧音と映姫に背を押されてからも、すぐ行動に移ることはできなかった。自分らしくないフットワークの重さに膝を抱えてのの字を書きたくなる。怖じ気づいている自覚はあった。けれど、動けないものは動けないのだ。
 そも、鈴奈庵を訪れた時の小鈴の反応が想像できない。阿求を見て、気恥ずかしそうにするだろうか。それとも、いつも通り「なんだあんたか」とつまらなそうに肩の力を抜くだろうか。もしかしたら、時を置いて冷静な思考で考えてみたら事の面倒くささが身に染みてきて、困った顔をされるかもしれない。考えなしに行動して、問題を引き起こして、どうしようと頭を抱えるのは小鈴の得意技だから。
 どんな反応をされても気が重い。いっそもう一、二週間くらい時を置いて何も無かったことにしてやろうか、と小賢しい考えも頭に浮かんだが、念を押すように二度も言われた言葉が脳裏をめぐる。頭が痛い。
 結局、丸二日も費やすと、取り組んでいた歴史書の執筆は完了してしまった。幻想郷縁起の次の追加分に必要な資料の整理やインタビューの結果、並びに、執筆計画までもがきちんと立ってしまい、阿求は深いため息をつく。こんな時ばかりは己の優秀さが恨めしい。
 観念して鈴奈庵に行く旨を伝えると、お竹から結構な量のお使いを頼まれた。思わず目を白黒させたら「明朝お迎えにあがりますので」と付け加えられ、まさか全てを知っているのではなかろうかこの女中頭、と見慣れた顔をマジマジ見つめてしまう。
 その視線をどう取ったのか「差し出がましいのは承知しておりますが、一段落ついたのですから休憩をされたほうが……いえ、必要とあればお供いたします」と弁明された。どうやら純粋に気遣ってくれただけらしい。他の使用人たちから陰で「鬼のお竹」と畏怖される彼女がしどろもどろになるのは本当に珍しいことで、驚いた弾みに「では、明日の朝にね」と返してしまう。
 顔を輝かせたお竹とお梅に丁寧に見送られ、門を出たところで、退路が断たれたことに気がついた。さすがお竹である。
 諦めて鈴奈庵に足を向けた阿求だったが、歩を進めているうちに、自然と気分は上向いていた。やはりこの時期は外に出ると爽快だ。清々しい秋風を頬に受け、午後の里の賑やかな喧騒の中を歩いていると、久々に地に足が付いている心地がした。
 目に付いた金平糖を手土産として風呂敷包みに加え、道を曲がって橋を渡る。傾いた「庵」を目に捉えると緊張で鼓動が早くなったが、それでも、湧き上がる歓心を堪えることはできなかった。

 入り口の脇で深呼吸をして、よし、と息をつき暖簾をくぐる。切なくも穏やかなアコースティックギターの伴奏と、異国の軽やかな歌声につつまれて、小鈴が本を読んでいた。「いらっしゃいませー」と顔を上げ、阿求を認めると、ふっと頬を綻ばせる。
「なんだ、阿求(あんた)か」
 そのまなざしがあまりにも優しくて、親しげな声が柔らかくて、胸を突かれた。ふっと止まってしまった動きに構うこともできずに、記憶をさらう。おかしい、おかしい、と温度のない克明な世界を遡る。
 ──小鈴は、こんなにも満ち足りた顔で笑う娘だったかしら。
「阿求? どうしたの、ボーッとして?」
 何かを言わねばと思うものの、記憶を漁るのが精一杯で、体の自由が少しも利いてくれない。呆けたように突っ立っている阿求を不審に思ったのか、小鈴はきょとんと首を傾げた。
 そんな姿だけを目に刻みながら、阿求は、慧音や映姫の言葉を思い出していた。告げられた言葉や励ますような目つきが、記録としての記憶とかみ合って、阿求の世界を想像もしなかった形に作り替えていく。
『できる、できないの問題ではないだろう。あなたたちの場合は』と慧音は言った。
『個々人の幸せにも手を出そうというのは、ただの傲慢です』と映姫は言った。
『あんたって、変ににぶいところあるよね』と、仕方がないと言うように、小鈴は苦笑した。
 鮮やかに映し出された世界に阿求は絶句する。一緒にいると楽しい。顔を見ないとなんだか物寂しい。そう感じているのは自分だけのはずだった。小鈴も同じである可能性なんて考えてもみなかった。
 自分が小鈴の幸せに関わっているなんて、ほんの少しも思っていなかった。
「ちょっとあんた、ほんとうにどう……阿求!?」
 焦ったような声にハッとなる。ようやく身体の自由が戻ってきた。慌てて目をしばたくと、弾みで目から涙がこぼれ落ちる。あれ、と雫が落ちた手のひらを見た。
「……なにこれ?」
「こっちの台詞よ!」
 持っていた返却分の本を奪い取られ、頬に手を添えられる。労るような手つきがくすぐったい。少し低いところにあるまなざしは真剣そのものだ。その瞳が自分だけを映していることが嬉しいと、素直にそう思った。
「どうしたの? どこか痛いの? 体調悪いとか? それか、疲れた?」
 矢継ぎ早に尋ねられ首をふる。「えぇー?」と困ったように眉を下げ、小鈴は、ほろほろこぼれる涙を指で拭っていく。目の奥が熱く重いことに今さら気がついた。
 悲しいわけではない。かといって、嬉しいのかと問われたら、なんだかそれも違う気がする。
 言葉にできない空ろさがあるのに、身じろぎできないほどの充足感もある。切なさも愛おしさも、罪悪感も昏い喜びも、小鈴に抱いている感情の全部がこみ上げてきて、混ざり合って、ぐちゃぐちゃになっている。飽和状態になってしまった心から溢れたものが雫となって落ちているようだ。
「阿求」と頬をなで、手をつかんでくる小鈴のぬくもりが身に染みる。あたたかいと、そう思ったらなんだか泣けてきてしまって、阿求は小鈴に身を預けた。つながれている手をそっと握り返す。「なんでもないわ」かすれ声で囁く。
「ほんとうに、なんでもないの。なんでもなかったの。……ばかね、わたしは。……できることをするしかないのに」
 静かにひとりごちる。意味が分からないのだろう。小鈴は「らしくないわねぇ」とぼやいた。そのくせ、頬に添えていた手をそっとすべらせ、阿求の背中をゆっくりなでた。
「ま、いいけどさ」
 包みこむように抱きしめられて目をそっと閉じる。こぼれる雫が小鈴の肩を濡らしてしまうが当の本人は気に留めた様子もない。ぐす、と鼻を鳴らした阿求のすぐ横で、髪飾りの鈴がちりりんと鳴った。


 泊まらせてほしいと請うと本居夫人は一も二も無く諸手を挙げた。すぐさま稗田邸に駆けて行こうとした本居氏を止めお竹の言葉を伝える。鈴奈庵に向けるお竹の信用を受けた夫妻の面差しがどこか誇らしげだったのは気のせいではあるまい。この家族は得意げな表情がよく似ている、と阿求は思った。
「ないすたいみんぐです、阿求さま」と笑顔で示された二尺近いイワナを使った夕餉をいただき、風呂も世話になる。そのあいだ、小鈴は拍子抜けするほどいつも通りで、さすがに両親がいるのに危ういことをするほど考えなしではないかと、内心安堵していた阿求だった。
 が、しかし。
「……ねえ、なによこの手は」
「こっちの台詞よ。なにする気なのよあんたは」
「えー、言わせる気?」
「おじさまとおばさまがいるでしょう!?」
 最大限声量を抑えて叱りつけるも、小鈴に響いた様子はない。ごく自然に寄せられようとした彼女の口を押さえている手のひらに、呼吸が当たってこそばゆい。阿求を布団に組み伏せている小鈴は、顔の横に落ちてきた髪を耳にかけへらっと笑った。
「大丈夫、大丈夫。下まで声届かないし、ふたりとも、一回寝たら朝まで起きないし」
「そういう問題じゃなくて。おじさまたちがいるのに、なんていうか、その、こういうことするのはよくないでしょう」
「そうかしら。かえってドキドキしない?」
「変態!」
「ひどっ」
 阿求の安心を返してほしい。やはり小鈴は考えなしだった。気づかれなければ良いという問題ではないだろうに。
 はぁ、とため息をついたら、シーツに広がった髪を整えるように頭がなでられた。指先で梳く手つきが心地よくて良識がグラリと揺れる。う、と顔を口を結んだ阿求に小鈴は「そもそも」と口元に当てていた手もそっとつかむ。
「あんた声小さいんだから。大丈夫だと思うんだよねぇ」
「だっ、な、なに言ってんのよ」
 直裁な表現に顔が熱くなる。阿求の反応を気にした風もなく額に口づけを落とされた。ふわふわした甘美な柔らかさに胸のあたりがぞわりと揺れる。
 もしかして、とふと気づく。もしかして、小鈴の人の話を聞かない強引さは、こうした場面では強力な武器になり得るのでは。
 細い指先になでられると肩が震える。頬に、額にと口づけられるたび下腹のあたりがぞわぞわとして落ち着かない。当然のことではあるが、詳細な映像として頭に残っている記憶に浸るのと、こうして小鈴に直接触れられるのは、比べものにならないほど刺激の差があった。伝わるぬくもりが、肌をなでる呼気が、探るように触れてくる指先が、いちど覚えた情事の名残を鮮明に浮かび上がらせる。身に直接教えられた官能が、この先を空想させ期待を呼び起こす。
「……ね、阿求」
 寄せられた唇を、もういちど拒むことはできなかった。そっと口付けられた唇から、痺れるような快さが身体中に広がっていく。ちゅ、ちゅ、となんどもついばんでくる小鈴の頬は赤い。伏せられたまぶたが時折ぴくりと動くのが可愛らしかった。
 ふっと、小鈴が目を開ける。間近にある彼女の瞳に映る自分はぼんやりと甘えるような表情を浮かべていて、なんだか無性に恥ずかしい。
「……えっと。さすがに、そんなマジマジ見られると、恥ずかしいんだけど」
「だめなの?」
「だ、いや、だめってわけじゃないんだけどなんていうか、私だっていちおう羞恥心とか見栄とかあるわけで」
「べつに、今さら取り繕ったところで、意味ないわよ」
「そりゃそうだけどさー」
 小鈴はがっくりと肩を落とす。
 違うんだけど、と少しだけもどかしく感じた。どんなに情けない様でも、気の抜けた間抜け顔でも、阿求にとっては好ましいものでしかないのだから、小鈴を疎ましく思う要因になりようがないのだ。
 分かっているのだろうか、とぼんやり思う。分かってないんだろうな、と少し笑って、小鈴の首に腕を回した。背中に力を入れて阿求のほうから口づける。小鈴は驚いたように目を見開いたが、すぐに阿求のうなじを支え、嬉しそうに喉を鳴らした。
 何度か口づけを交わしてから張りのある唇をそっとなめる。小鈴はハッと目を見開いた。視線で黙らせてもうひとなめすると、阿求の意図を察したのだろう、おずおずと口が開かれる。頭の中で手順を反復しながら舌を差し入れたら、うなじに触れる手に力がこめられた。びくつく舌先にそっと触れ、くすぐるように動かすと小鈴が甘い声をもらした。電流のような刺激が背中を走る。幾分か積極的に舌をからめると、ゾクゾクした快感が腰のあたりにたまってゆく。
 もっと味わってみたかったが、息が苦しくなって身を離す。互いの唇に銀の橋がかかった。
 ふ、と大きく息をつく阿求を小鈴はじっと見つめていたけれど、何を思ったかぐいっとのしかかってくる。先ほどの阿求の動きをなぞるように唇をなめられたが、なんだか、猫にじゃれつかれているようでつい笑ってしまった。小鈴がむくれる。
「笑うことないじゃない」
「ごめんごめん。なんだか、一生懸命だから」
「そ、なんでそういうことわざわざ言うかなー」
 むにむにと頬を引っ張られる。くすぐったくてついつい笑い声がこぼれてしまう。小鈴の頬がいっそうふくれた。
「なによ、余裕ぶって。緊張してるのがばかみたいじゃない」
「あら、緊張なんてしてたの」
「してるわよ! なんだと思ってんのよ!」
「ひょっとこひゅ、いひゃい、いひゃいって」
 むにむにむにむにと頬を引っ張られる。色気も情緒もない空気に、なんだかなぁ、と肩の力が抜けた。
 ぎゅ、と抱きすくめられる。「……緊張するに決まってるじゃない」と呟かれた声は予想よりも切実で、胸の奥がつかまれる。
「私だって緊張してるわよ」と言ってみたら「ほんと?」と覗きこまれた。幼い口調がいじらしくて苦笑してしまう。頷いたら、小鈴は少しばかり安心した様子で口元を緩めた。
 もう一回、と口付けられる。今度は素直に開けてやると、探るように舌がつつかれた。ぴりりとした快感が走って腰が引けそうになるが、布団に押し倒されている体勢では逃げられない。たどたどしい愛撫に意図せず鼻にかかった声がもれる。阿求の反応に気を良くしたのか、舌をきゅうとからめてきた。熱い舌先がこちらの側面や裏面に触れるたび、頭の奥が痺れるような熱を持つ。視界が潤み、もどかしい疼きが腹の奥をなでる。
 呼吸が苦しくて小鈴を押すと、大人しく身を離された。だが、阿求の息が整うよりも早く再三唇を寄せてくる。口全体を覆うように合わせられ頭がくらくらした。
「ぅ、ん……っは、こすず、まって、くるし……んんっ」
 遠慮のない動きに思考がぼやける。くちゅくちゅと唾液を交わす淫蕩な音が耳に響く。軽い酸欠で意識が薄れそうになったところで、ようやく唇が解放された。胸を大きく上下させる阿求に、小鈴は「鼻で息したらいいのに」と他人事な言葉を投げかける。それができれば苦労していない。
 少しのあいだ、髪に指先を遊ばせながら阿求が息を整えるのを待っていた小鈴だったが、不意に、何事かに気づいたかのように目を見開く。
「そうだ、服! 服脱がなきゃ!」
 阿求は内心がっくりと項垂れた。
「……あんたさー。もうちょっとこう、ムードを大事にしようって気持ちはないの」
 緊張を考慮に入れたとしても、酔って前後不覚になっていた時のほうが明らかに手際が良い。理性が働いている分こちらへの心配りもあるのだろうと推察できるが、こうも手間取られるとあの時の強引さが少々恋しく感じてしまう。つい胡乱げな目を向けた阿求に「しっ、仕方ないでしょー!」と必死なまなざしが返された。
「こういうの、わからないんだもん。勉強するったって限界があるし、だいたい、なんであんなに慣れてるんだか」
 阿求は眉をひそめた。あんなに慣れてるとは。
 ブツブツとこぼす小鈴から聞き出すと、どうやら彼女なりに自身の経験不足を補おうとしたらしく、ここのところ、親の目を盗んでそういう描写がある本を読んでいたらしい。だが、得た知識を実践できるのはまた別の話な上、内容ごとに細かな描写が異なるので、思い出すだけでいっぱいいっぱいになってしまったと肩を落とす。
 阿求は嘆息し、小鈴を抱きしめた。
「フィクションを教科書にするのは無理があるでしょう」
「だって」
「小説なんて頭で書かれたものなんだし、そりゃ、都合よく上手に進むわよ。そんなのを参考にするよりも、私に聞いたほうがよっぽど実践的だと思うけどねぇ」
 背中の中程まである髪を梳いてやりながら、今日はもう切り上げるかな、と頭の隅で考える。中途半端に火が付いた身体を放置するのは苦しいが、小鈴に無理をさせるのは本意でない。
 ならば阿求が、との気持ちもなくはないけれど、経験が無いのはこちらも同じだ。小鈴に手を出す罪悪感や背徳感は努めて全力で放り投げるとしても、今のままでは心許ないからもう少し予習して臨みたい。幸いと言うべきか、空気は完全にだれているのだし、眠くなるまでこうしてくっついているのは魅力的でもある。
 小鈴、と顔を上げさせようとした、その時だった。「そっか」と小鈴がこちらを見やる。
 先ほどまでのもどかしそうな様子はどこへやら、その目はキラキラと輝いていた。
「そうよね、私の恋人はあんたなんだもん」
「う、ん?」
 恋人、の単語に心臓が無駄に跳ねる。ぽっと頬が熱を持った。いやそうだけど、間違っていないけど、そうもあからさまな表現をされるとむずがゆいようなこそばゆいような。
 けれど、阿求を覗きこんだ小鈴は、もじもじとまごつく様子には頓着しておらず。
「ねえ、阿求?」
 甘えた声で名を呼ばれ、あれ、と思う。身を起こし顔を寄せてくる小鈴の目には、消えたと思っていた情欲の火が戻っていた。
「なるべく痛くないように、いろいろ試してみるから、どんなのが気持ちいいか教えてくれる?」
 とろんとした言葉を受け返事に詰まる。これは、もしかして──

 ──不用意なことを言った!
 自身の喉があられもない鳴き声をあげるのをぼんやり捉えながら、阿求は心中で己を詰った。
 つんと立った乳首をそっと転がされ、ぞくりとした刺激に肌が粟立つ。さほど大きくも柔らかくもない胸など触っても楽しくないだろうに、小鈴は熱っぽい目で阿求を見つめ、わずかな変化も見逃すまいと神経を尖らせている。そんな風に一心に見られると、それだけで腹の底が変な具合に引きつるので、是非ともやめてほしいのだが。
「ここ、こうするのは?」
「あっぁ、こすず、まっ、ゃんっ」
「気持ちいいのね。じゃあ、これは?」
「ふぁあ!?」
 乳首と一緒に秘裂もくすぐられて色にまみれた声がもれた。自分のものだとは信じられない甘ったるい声音に思考が沸騰する。
 気持ちいいところの確認という名目で体中を丁寧に愛撫され、阿求は完全に発情してしまっていた。小鈴が触れるどこもかしこもが堪らなくて、けれど、頂に達せるほどの刺激ではなくて、もどかしさとこの先への期待に腹の奥がじゅんと濡れる。分かっているのかいないのか、小鈴の手はこの上ないほど優しいので、反発する気力は根こそぎ奪われてしまった。
「やっぱり、片方だけよりも、いっしょに触ったほうが気持ちいいの?」
「ぅ、そ、んなの、あぅ……みればわかる、でしょっ」
「だって、強すぎると辛そうじゃない。無理してほしくないのよ。これは?」
「ひぁぅっ、やぁあっ!」
「っと、ごめん」
 充血しぷっくりとふくれた陰核をくいっとつままれ目の奥で火花が散る。思わず上げた悲鳴に小鈴は慌てて手を離した。「ふゃ」泣きそうな声がもれる。もっとほしかったのに。
「ん、あれ、今のはよかったの?」
 おそるおそる窺われた。理性に構わずなんとか頷いたら嬉しそうに目元を緩める。乳の輪をさすりながら陰核をくりくりともまれてゾクゾクした震えが背中を駆け上がった。焦らされていた分悦びは大きくて、阿求は淫らな歓声をこぼす。ふわりと意識が浮かぶ。頭の中が真っ白になる。数秒息を詰め、身体の緊張がふっとほどけると心地よい倦怠感が広がっていった。
 滲む視界に映る小鈴は上気した頬を綻ばせていて、覚えていたいな、と手を伸ばす。
「小鈴、」
「今のは、ちゃんと気持ちよかったのよね?」
 快感でぼやけた思考が一気に正気に引き戻される。薄くなっていた羞恥心が耳の奥でわんわん鳴りだして頭がおかしくなりそうだ。
「あんたねぇ」と身を震わせながら不満をこぼしたら「だってさぁ」と小鈴は眉を下げる。
「どこさわっても気持ちよさそうなんだもん。言ってくれなきゃわかんないわよ」
 阿求の中の何かが切れた。
「あんたにさわられるとどこもかしこもきもちいいのよ、文句ある!?」
 比喩でなく時が止まる。
 ぽかんと口を開ける小鈴に、自身の顔が真っ赤になるのが分かった。
「…………。わすれて」
「いや、むり」
 顔を覆ったら即答された。悲鳴ともうめき声ともつかない声がもれる。
 なんてことを口走ったのだ自分は、とこの場から逃げ出したくなるが、小鈴はそれを許さなかった。目を隠している両腕をそっとのけ、ねだるように頬に、額にと口づけを落とす。おずおずと目を開けたら、ひどく切なげで、それでいて満ち足りた微笑を浮かべていた。きゅう、と胸が疼く。
「……忘れられないわよ」こぼれるように囁かれる。そのまま唇を奪われた。
 触れるだけの穏やかなキスなのに、小鈴の内側に渦巻いている熱量を分け与えられるようで、わずかばかり落ちついていた身体が再度熱を持つ。
 口づけを交わしたまま、指先で内ももがなぞられる。ぴくりと震えた阿求をのぼせたように見つめながら、そのまま秘裂に指があてがわれた。十分に潤っているそこを細い指がなでるたび、淫蕩な水音が耳に届いて恥ずかしい。
 いれるよ、と小さく呟いて、指の腹が体の中心を押し広げる。ピリッとした痛みが走った。
 心配そうに手を止めた小鈴に大丈夫だと頷くと、慎重に押しこんでくる。小鈴の指は細いのに、一本だけで十分すぎるほどの圧迫感がある。浅い息をついたら頭がなでられた。幼子にするような仕草は若干癪に障るが、なんだか妙に安心した。ふっと体の力が抜ける。
「……やっぱり、痛い?」
「すこしだけ。大丈夫よ、このくらい」
「ん。でも、気持ちいいってわけじゃないのよね。どうすればいいのかしら」
 耳まで赤いのに思案顔になる様が、どうにもちぐはぐで笑ってしまう。
「さあ、どうしたらいいのかしらね」
 こればっかりは、阿求にも分からない。知識として、与えられる刺激を快感とするには手間暇をかけるのが必要な部位と知っているが、具体的な手段までは調べていない。わずかな痛みと圧迫感の他に、なんとなく腰に響くような、下腹のあたりが疼くような感覚もあるけれども、快感と呼ぶにはあまりにも些細だ。
「……とりあえず、」
「ひゃんっ。こら、こすず、ふあっ」
 陰核を優しくなでられて鋭い快感が体を走った。中に入れたままの指は動かさずに、反対の指で充血した芽をつまみ、そっと扱く。繊細な愛撫に身のうちにたまる熱が煽られ、とろりとした愛液が小鈴の指に絡まるのを感じる。
「きゅってした。かわいー……」
「ぅあっ! あ、あんたね、あまり変なこといわな、っゃあん」
 鋭い刺激に腰が勝手に跳ね上がる。弾みで膣の上側のざらざらした部分を柔らかい指の腹でこすられて、阿求は淫らな声を上げた。あれ、と思う。見上げると小鈴も目を瞬いていた。嫌な予感がした阿求が止めるよりも早く、同じ部分をぐっとこすられる。「ひあっ」顔の熱がいっそう高くなった。
「ちょ、ちょっと待って、小鈴、まっ、ひうっ……そ、そこだ、だめぇっ」
 なんだろう。鋭い快感というわけではないのだが、腰への響きが強くなる。今までとは種類の異なる刺激に、喜悦よりも不安が勝ったが、小鈴は手を緩めない。充血した肉芽への愛撫はそのままに、腹の内側を丹念に指でこする。
「やっ!」
 肩が跳ねた拍子に蜜が溢れる。じんわりと疼いていた響きは徐々に甘美な刺激を伴ってきた。より鮮烈な悦楽を欲して膣壁が小鈴の指を締めつけるのを感じる。気づいたら阿求の口からは媚びるような喘ぎ声がもれていて、小鈴のことを求めていた。
「小鈴っ、こすず、まって、ぁっ、なんか、ふっ、つよいの、が、あぁっ!?」
「……阿求、かわいい」
「やぁっ、いわなぃ、で、そんなっあ、ひぅ」
 ぽつりと落とされた言葉にすら愉悦に震えてしまう。身の置き所がない強烈な快楽が恐ろしくて、必死に手を伸ばしたら、小鈴はちらりと笑って身を寄せてくれた。その弾みで陰核が押しつぶされ、弾けるような白い波がおそってくる。
「ぁ、だめ、ゃだ、こすず、ぁ──っ!」
 目眩に似た恍惚感が身体を貫く。かき抱くように細い体に縋りついたら、蕩けた声で名を呼ばれた。「阿求、阿求」とねだるような声が途方もなく愛おしくて、力が抜けそうになる両手を必死に動かしてぎゅっと抱きしめる。首筋に柔らかな唇が押しつけられたのを感じたのを最後に、阿求の意識は白い世界にとけていった。


 ゆったりとした動きで髪が梳かれているのを感じとる。ときおりからかうようにくしゃくしゃっとなでられて、すぐに丁寧になでつけられる。遠慮のない触りかたが心地よい。このまま寝てしまおうかとの欲求がこみ上げてきたが、微妙に覚醒してしまった意識が眠気を邪魔した。
 渋々目を開ける。油断しきった顔でこちらをなでていた小鈴がふっと頰笑んだ。髪を下ろすと印象が変わるな、と改めて思う。
「よかった、起きたわね。いきなり気絶するからびっくりしたわよ」
「……その台詞をあんたに言われるとはね」
 言いながら、頬にかかっていた飴色の髪を後ろに払う。首のあたりが暖かいなと思ったら腕枕をされていた。どんな反応をするのが正しいのか分からなかったので素直に頬をほころばす。
 内容のない会話を交わしたいような気もしたが、満ち足りた気怠さに身を任せるのも悪くない。小鈴のぬくもりを感じながら穏やかな沈黙に浸っていると、中途半端な覚醒がなだめられていって、とろりとした眠気が湧いてくる。
 小鈴も似たようなものらしい。しょぼしょぼと目を細める様がおかしくて少し笑った。「なによぅ」とむくれる小鈴のまなざしはのどやかだ。「なんでもないわよ」目を閉じて小鈴にすり寄る。一瞬だけ動きを止めた小鈴は、すぐに阿求の体を抱きしめた。
 なんだかなぁ、と薄れる意識で阿求は笑う。
 自身を抱く腕は華奢で細くて、逞しくなければ強そうでもない。優しいと言えば優しいけれど、それ以上に遠慮がないし、ちょっと褒めるとすぐ調子づいて天狗になる。この身を預けられるくらい頼れるどころか、やたらに危なっかしくて目が離せない。
 それなのに。
(……おちつく)
 こんなに安心できる場所は他にないのだ。
初めまして、もしくは少しお久しぶりです。空賀青と申します。
ここまでお読みいただきありがとうございました。お疲れさまでした。

書く前
既成事実を突き付けられてタジタジな阿求とイケイケゴーゴーな小鈴のあきゅすずがほしいぞ!!!!
現在
小鈴はともかくも、既成事実を突き付けられてタジタジな阿求……?

少しでも暇つぶしになりましたら光栄の至りです。

(7・9追記)
>>1様
冤罪、冤罪です!(平伏)
阿求がポンコツ化とか許されるのか…と戦々恐々しておりましたので、かわいいのお言葉、安心しました。コメントまで頂きありがとうございました!
(7.16追記)
>>2様
誤字報告ありがとうございます、修正致しました!やらかしました!とても助かります、ありがとうございます!
そして、ご丁寧なコメントを頂きありがとうございます!触れてほしいところを指摘してくださって、本当に嬉しいです。
これをきっかけにエッチなことに興味出てきた小鈴ちゃんとか、映姫様あなた部下の死神さんとはどうなのとか、そのうち書けたらいいなぁと、はい。
総じて、あきゅすずは製本という名の子作りしてほしいです。コメントありがとうございました!
>>3様
勿体なくも有難いお言葉、ありがとうございます!リアルに小躍りしております。
グラグラ揺れる稗田の阿求ちゃんとか、慧音さん映姫様にも言及して頂き嬉しい限りですが、この話だとかなり分かり辛かったであろう小鈴の内心にも触れてくださって嬉しいです。小鈴には、ぜひともこの調子でガンガン行ってほしいなと思います。コメントありがとうございました!
空賀青
コメント




1.性欲を持て余す程度の能力削除
あきゅすずが尊すぎて部屋が砂糖まみれになった、訴訟
ポンコツ化した阿求かわいい…
2.性欲を持て余す程度の能力削除
稗田の役目という枠のなかで生きている阿求からすれば、自分という過去に縛られるだろうと危ぶむのも仕方ないことですよね。けれど家名は家名でしかなく自分や小鈴という人格が自由であると気づけたのなら、誰しもが死に向かって緩やかに進んでいるひとときのなかでも、ささやかな幸せを掴めるだろうと思わされました。ひとことで言えばあきゅすず最高ですね(鼻血ブゥ)
気心の知れた仲であるとわかっていても年頃の娘さんたちをひと晩も過ごさせるなどと……これはもう家族公認ですね。抑え込んでいた感情のふたが外れちゃうくらいに酔っぱらっちゃう小鈴ちゃん可愛い。冗談でこんなことしないって言葉がお酒を頼ってようやく振り絞った勇気なのだと考えたら、もう!思考はクールなのに小鈴のこととなると逆らえないで流されちゃう阿求のだめ保護者っぷりがなんとも萌えました。既成事実に脳をダイレクトアタックされて編纂作業に影響出しちゃう豆腐メンタルなのもあわせていいですねぇ、きみほんとに転生してるのと疑いたくなるくらいにそっちの免疫がなくって傍観してるこっちがむずがゆくなってきちゃうようでしたw(さっさとセックスするんだよオラァ!(野蛮))
慧音も積み重ねてきた経験からくる言葉も、死が終わりでない阿求からすれば共感できない部分が多いのでしょうか。転生を繰り返しているからこそ余計に臆病なのかもしれませんね。寧ろもう悩みなんて頭突きで解消してもらってはどうだろうか(提案)
侍従を含めた周りのキャラたちがみんな魅力的で、そんななかで映姫さまのプライベートな姿がめちゃくちゃツボでした。フランクどころか恋バナに興味示してぐいぐいいっちゃう映姫さまも鏡渡してくるおちゃめなところもどっちもいい……閻魔さまも恋いとかしちゃったりするのかなぁと問いただしたい可愛さでした
手探りな小鈴の愛撫に喘いで、好きな人に触られたらどこもかしこも気持ちいいって白状して恥ずかしがるの愛くるしいすぎません??自分の体と人の体は感じ方が違うので参考にならない部分もあるとはいえ、小鈴ちゃんてば自慰とかしたり(したいと思ったり)はなかったのかな。今後自らを開発して目覚めた快感を阿求に試そうとして怒られて喧嘩しての仲直りックスとか想像したらたまらんスケベですね
限られた時間を生きるふたりの関係がどのくらい続くのかはわかりませんが、お互いの存在が消えることのない居場所であるだろうなと感じられるものでした。これはもう製本という形での子作り待ったなしですね
とてもよいあきゅすずで楽しめました、ありがとうございました
誤字脱字報告にて終わりたいと思います↓

退路が断たれたことに気がづいた。→気がついた、または気づいた?
3.性欲を持て余す程度の能力削除
御阿礼の子としての頭でっかちな使命感と小鈴への私的な情欲で揺れる阿求にぐっと来ました
慧音や四季映姫も阿求を微笑ましく後押ししてくれて、阿求と一緒にこっちまで恥ずかしいような温かいような気持になります
小鈴は小鈴で受け入れたり距離をとろうとしてくる阿求にきっともどかしい思いをしてて、だからこそことに及ぶときガンガンせめるんでしょうね。切なくていじらしい…
阿求の賢ぶった不器用な揺れる思いも、小鈴のイケイケゴーゴーな性急さもほんとうにしっくりくる描き方で、百点中二百点のあきゅすずでした。ありがとうございます…