真・東方夜伽話

同伴指名は別料金

2018/03/16 17:42:23
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同伴指名は別料金

ぱ。

eratoho小説合同「eratohoSS」(http://www.dlsite.com/maniax/work/=/product_id/RJ215689.html)寄稿作品です。
興味をお持ちいただけましたら是非合同誌のほうも手に取ってくださいませ(DL販売中です!)
あとがき欄にリンクがあります。

「やめなさい、ってば……っ!」
 男の指が少女の恥部を緩やかに撫で回す。初めのうちはあくまでもゆっくりと。徐々に追い詰めて、逃げ場を失わせて、言い逃れをできなくさせて、本格的に愛撫するのはそれから。どういうつもりなのか、文字通り手に取るようにわかる。ああ、私も、あの指。あの無骨に見えて案外すらりとして、器用に動く指に、やられたのだ。
 まだ碌に水音も起こっていない中、私が唾を呑む音が響く。はっとしたが、彼は私を咎めるつもりはないようだった。

「へえ、案外こういう行為への知識はあるのね」
「んなっ……!」
 主様は黙々と指を動かし、彼女……どうやら小鈴というらしい、人間の小娘に愛撫を施していく。彼女を言葉で追い詰めるのは、助手である私の仕事だ。
「ふーん……官能小説? そういうものを読む趣味がある、と」
「ちが……っ、うちにそんな本は……」
「一番のお気に入りは、会計机の鍵の掛かる引き出しの中、予備の帳簿を一冊めくった下に」
 ぷっ、と主様が噴き出すのが聞こえる。本当に、何とも可愛らしい話である。
「待て待て待て! 何なの!? あなた一体何なのよ!」
「あら、その本について詳しく考えそうになっているのね。いいわ、どんどん見せなさい」
「考えない、考えないから!」
「私が何者か気になっているのね。いいわ、私は古明地さとり。貴方と同じ、買われた身分の惨めな女よ」
 息を呑み、頭の中で『さとり』という存在について考えている。思い当たる節があるらしい、人間の小娘にしては中々の博識だこと。
「ええ、『それ』よ。その『覚』で合っているわ。納得したらほら、貴方の宝物のこと、もっと詳しく教えなさいな」
「だ、誰がそんなことするもんですか! 大体、て、あ、っひ」
 主様の指が彼女の陰核を、こり、と抓む。ああ、今の彼女にあれはきついでしょうね。ほらやっぱり、少し痛みを感じている。
「あら。今の、小説のシーンに似てるんだそうですよ。『痛い、自分でしたときは気持ちよかったのに』だそうです」
「思ってない! そんなこと思ってないから適当言うなあ!」
 ばっちり思ってたわよ。まったく、人間って都合のいいことしか言わないのね。
「この娘、貸本屋をやっているようなのですが……客の入らない時間などは、厭らしい本を取り出して、服の上から楽し」「わーーわーーーーーわーーーーーーーーーーーー!!」
「……うるさいわねえ。主様、そろそろ大人しくさせてやっては?」
 ……『だったら少し黙っていろ』と、はい。そのようにしましょうか。

 しばらくの間、黙って彼女の心を鑑賞していた。静かな室内、主様の指が這う音さえ聞こえそうなくらい。
「……っ、くふ」
 時折、堪え切れない声を漏らし、肩を揺すったり、膝を合わせようとして阻まれてみたり。一目見て、感じている様子がわかる程度には、可愛らしい様子。
 私の方を潤んだ目で見つめている。何かと思えば、『だめ、気持ちよくなっちゃう、気が紛れるように話しかけてくれたほうがいい』なんて。自分で口を開けばいいでしょうに、恥ずかしいのね。
「主様、私はそろそろ口を開いても?」
 ……肯定。でもね小鈴さん、私がしてあげるのは、貴方の気晴らしなどではないの。……あなたがもっと、主様の指を感じられるように、手伝ってあげるのよ。
「では……この娘、ぬめりをたっぷり付けて、小さな動きで陰核を撫でるのが好みらしいですよ」
「~~~~っ!」
「あ、そう、それですね。『今の好き、もっとして欲しい』だそうです」
「ちが、あ、あっ、あぁあっ」
 ああ、本当に気持ちいいのね。何てずるい話なのかしら。私も同じのしてもらわないと、割に合わないじゃないの。
「それを、速くしたり、ゆっくりにしたり、繰り返すとすぐ達してしまうのだとか」
「やめ、ばか、この変態、変態妖怪めぇ、っ、くぅぅ」
 仕事中に自慰に興じる娘にそんなこと言われてもねえ。ここらへんでちょっと攻めてみましょうか。
「主様、遠慮しすぎですよ。女心が分かっていないんですね」
「はあ? ちょ、何言って」
「この娘、主様の指、ずいぶん好きみたいですよ。自分でするよりもずっと気持ち良くて、このように男性に抱かれて少なからず陶酔しているようです」
「ちが……、っく、ん、ふぅ」
「自分でも気付かなかったけど、男性の匂いに頭がくらくらしそうで、本当はずっと誰かにこうされたかった」
「や……、そんな、んじゃ……」
 『でも、気持ちいい、やめないで、ずっとこうしていて』……あらまあ、わかりやすい子だこと。
「『気持ちいい、ゾクゾクする、もっと』……あ、胸ももっと触って欲しいらしいですよ」
「だめ、だめ……っふあぁ♥」
「『イきそう、やだ、イきたくない』? ……ああ。我慢してからの方が気持ちいい、と。厭らしい娘ね」
「ちが、っあ、ん、くぅ……、……っ」
「そうして息を止めると、気持ちいいのに集中できるのね。欲張り」
 これ、心を読んでいると気持ちよくなっているのも何となく伝わって来ちゃうのよね。損な役回りだわ。

「あ、達するみたい」
「だめ……ッ、く、~~~~っふ、んんんっ」
「……小説では、何度も続けてイかされていたけど、自分ではどうしてもできなかった、と。主様、してあげましょう?」
「や、やだっ、だめ、イってる、イってるから、あ、あ、あ、ああっ」
「あらあら、そんなに喜ばなくてもいいじゃないの」
「ひっ、イ、って、う、イってうの、ふえぇ、っ、また、イ……ッあ、あ、あー……♥」
 がくん、がくん、激しく痙攣して、頭の中身もぐっちゃぐちゃね。ああ、そんなに気持ちいいの。そう、そうなの。いいわね。

「……むう」
 ふむ、『後でちゃんとしてやるから』と。どうやら、主様も私の心が読めるようね。




 ――ここに来てから一か月にもなるかしら。

「不便なものなのですね、他者の心が読めないというのは」
 そう。この場所に連れて来られて最初の感想はそれだった。この場ではどういうわけか妖力を使えず、従って他人の心を覗くこともできなかったのだ。まあ、反逆の防止ということなのだろう。直接暴れる能力を欠いている私でも、妖力が使えればこんなところ、無礼者どもを一人残らず廃人に仕立ててさっさと帰ってしまえるのだし。
 ――まあ、最初はそんな風に思っていた。今は……主様の計らいで、私は能力の使用を許されている。先程の小鈴という娘を辱めてやったときのように。だから、やろうと思えば私は元の暮らしに帰ることもできるのだろう。単に、私は今、それをしようと思っていないというだけ。
 
 ともあれ、他者の心が読めないというのはずいぶんと不便に感じたものなのだ。だって、目の前に現れた男の言っていることが、とても本気で言っているようには思えなかったのだから。
「こんなことを問うのは初めてかもしれないわ。貴方、本気でそんなこと言ってるの?」
 そう。私は調教されるのだと。私の顔立ち、体つきが性的に好ましいから、娼婦として商品にするのだと。そのために私を抱いて、性の歓びだの技巧だのを仕込むのだと。やりにくかった。言葉を紡いで話されるというのは、私のペースに合わずまどろっこしい。言っていることの意味が一から十までさっぱり解らないのだから尚更だ。いや、私とて地底暮らしのならず者や罪人、怨霊どもの心を読んで暮らしていた身である。恐らくこんな青瓢箪よりよほど濃密に、そうした性の売買の知識は持っているだろう。解らないのはそっちではなくて――。
「私は古明地さとり。嫌われ者の蠢く地底に在って、その内でも最も愛されない女。誰にも好かれない、心は読めても空気は読めない、どんな男にも求められない妖怪女よ」
 なぜ、よりにもよって私なのかと。売るなどと言って、買い手がつくはずもない。私と相対して安らかであった者など居ない。いくらとりあえず女のカタチをしているからと言っても、中身に私という余計なものがついている以上、商品価値などないでしょうに。同じ地底にだって、もっと見た目に美しく、中身だって私よりはマシな娘はいくらだっているのに。
 第一、その見た目にしたって大したものではない。私とて、嫌われるのが嫌で多少容姿を磨いてやろうと思った若い頃が無かった訳ではない。でも、私がどんな外見をしていようが、相手が男だろうが女だろうが、私に向けられる目は同じなのだ。だから、私が向ける目も同じだ。内心では怯えて、私を悍ましく思っているのを暴いてやるのだ。中には私に欲情する男も、優しい言葉を掛けようとする男も居たが、みんな中身は同じだ。皮を剥げば赤い身が詰まっているし、心を剥けば私を畏れ、悍ましいと思っているのだ。
「ああ、本当に不愉快ね。出まかせを聞かされるばかりで、答え合わせができないのだもの。どうせ解りきっているけども!」
 久しく他人に興味を持ったというのに、その心を読むことができない。こんなことを抜かす男が、内心で私のことをどう思っているのか、こんなにも知りたいのに届かない。
「ねえ、初めてこんな言葉を使うのよ。『あなたの気持ちが知りたい』の。見せてよ。そのへらへら薄呆けた茄子みたいな顔の奥で何を考えているのかしら。私のことをどれほど気味悪く思っているのかしら。どんなに嫌ってくれているのかしら。ねえ、いっそ頭を割ったら、ちゃんと見えるようになる? 中身のない南瓜を勿体ぶっても良いことないでしょう。いっそ素直に教えてくれてもいいの。気味が悪い、近寄るな、って」
 思い出した。この話をしながら、私と彼は全裸だった。ベッドでいかにもこれから睦みあうという様子で、私は彼への疑問をぶつけるまま、ぶつけて、そして。――ああ、キスをされたのだった。長いやつを。
 
 ……初めて、というわけではない。でも、男どもは、私と接吻を交わすと、頭の中を覗き込まれているようで寒気がするという。気不味くて、居辛くて、気分が悪いのだそうだ。だもので、こんなに長いこと続けさせてもらえたことはなかったと思う。
 ちゅぱちゅぱ舌を舐られながら、肩だの髪だの紐だのを撫で回されて、こう、ふわふわと良い気分にされたこともない。口を離して耳元で『伝わるようにちゃんと言うよ』だの『可愛いよ』だの『やっぱり魅力的だ』だの言われたことなどある筈もない。私だってこの男の心中を暴いて突き付けてやりたいのに、それもできない。私はそれを耐え難いと感じた。今にして思えば微笑ましくもなる話だが、あの時の私にとってこの行為は心地良さが過ぎて苦痛だったのだ。
 
「――はふぅ」
 茶の一杯もしばいた後のように一息つく。いつ思い返しても刺激的で、あの日から私の生活が一変した、転換の時。彼との逢瀬を待ち遠しく思うようになるまで、さほど日数を必要とはしなかったように思う。
 第一、ずるいのだ。彼の指は私をとことん気持ちよくさせてくるし、彼が居ない間、この灰色の部屋には何の娯楽もありはしない。長い時を生きてきた妖怪の身とはいえ、退屈なものは退屈である。そして恐ろしかった――何が、と言えば、私が。
 
「ひっ、ん……っふ」
 彼の顔の前に脚を開かされ、性器にしゃぶりつかれた状態。予測のできぬ舌の動きに不意を突かれる。私が予測できずに不意を突かれるというだけで既に異常な話。たまらず、私の意思と無関係に腰が跳ねる。
 なぜ?
「あ、だめ、だめです……っひぁ!」
 なぜ腰が動くの?
  ――私はそんなことしようとは思っていない!
「っん、く、~~~~っふぅぅぅ」
 なぜ声が漏れるの?
  ――私は声なんか出していない!
 そして彼は私に、『もっとして欲しいの?』と問うてくる。
「い、や……あ、う、あう……わかり、ません……っ」
 なぜわからないの?
  ――私は嫌だったはずなのに!
「やだ……やだぁ、わからないの嫌、嫌ぁ……」
 なぜ涙が出るの?
 なぜ?
 なぜ、身体を重ねてくる彼を拒めないの?
 そもそも、なぜ私の体は、愛液を分泌しているの?
「あ、あ、あっ……だめ、だめですこれ、だめです」
 頭の中で何かが、かちっ、と嵌まってしまった。
 彼に抱き寄せられ、向かい合ったまま交わると、私は彼を強く抱きしめ、腰を振っていた。
  ――私はそんなことしていない。
 怖かった。心に思い描いたことと違うことをする自分が怖かった。人間も、妖怪も、心に思ったことをするものだ。何か行動を起こす前に、こうしてやろうとか、ああしてやろうとか、何らかの思いを巡らせてから実際にそうするのだ。だから私は彼らが何をするか読むことができる。思ってもいないことを、思ってもいないまま実行する者などいない。いるわけがないし、そんなことは不可能だ。
 いないはずなのに、今の私はどうなの。
「あぁ、あ、これ、好きです、これ、っくぅん」
 ほら。こんなこと言おうと思ったわけではない。私じゃない。私はこんなことしていない。
 そんな風に思っている間にも、両手両足で彼の背を抱くようにしがみ付いて、爪まで立てそうになっている。私が。これ、知っている。これは、無意識というやつだ。気味が悪くて、言うことを聞かなくて、解らなくて、怖いやつだ。無意識というのは、私の考えなんか知りもしないで、私の知らないうちに現れて、私の読めないことをして、私の見てない所へ行ってしまうのだ。私から最も離れたものだ。怖いものだ。無意識は怖い。心にもないことは怖いのだ。だって、わからないのだから。
「こわい、怖いです、怖いの、っん、ん、んぅぅん♥」
 ほらまた。自分からキスなんかしている。こらさとり、誰がそんなことしろと言ったの。おい古明地、じゅるじゅる唾液啜ってる場合じゃないでしょう。私のくせに私の言うことを聞かない、無意識は嫌。怖い。そして、気持ちいい。ゾクゾク、している。ずっと、ずっと、頭の奥がチリチリ光っている。
 気持ちいいのだ。身体が言うことを聞かなくなって、彼に操られるように、私の管制を離れてしまう。我慢しようとしてもできなくて、気が逸れたらすぐに勝手なことをする。考えてもいないこと。さとりの理解できないこと。解らないこと。
「あ、あー、これ、これだめ、だめですよ? だめなんですよぉ、あ、あー……あ、あ、んぅ~」
 ぐちゅ、ぐちゅ、ちゅぽ、じゅぷ。
 繰り返す水音がどちらの動きによるものなのか、私にはもう解らなくて。私が動いているのか、彼が動いているのか、両方なのか、全然さっぱり意識の外。ただ気持ちいいのが大事で、譫言のように「すきぃ、すき」とか言ってた記憶は残っている。
「あ、あっあ、だぁめ、だめ、いきゅ、いっぎゅ、あ、あ、っあーーーーー♥」
 くちゅ、ぐちゅ、ぐりゅ。これは私が動いてるってわかる。だって、ぐりぐり擦るみたいにしてるから。私はそんなことやった覚えないけど、状況が私だと言っている。客観的に考えると、やはり私がやっているんだろう。そんなことしようなんてこれっぽっちも思っていないのに。私の体は、私の言うことなんかちっとも聞いてはいないのだ。なにこれ、おかしいじゃない。私は他人の心を読むどころか、自分のやってることすら解らなくなってしまったんだ。
 ああ、なんて、気持ちいい。怖くて、どうしようもないことは、こんなにも気持ちいいんだ。
「あう、あー、えへ、あははぁ、きもちいい、きもちいいですよぉ……」
 そこから先はもう、記憶にも残ってはいない。
 
 ――結局のところ、私はこの行為が好きなのだ。他のあらゆる存在と違って、私にちゃんとそれをしてくれる彼が好きなのだ。いつ頃からか、私は今の立場を受け入れ、彼を主と呼ぶようになっていた。
「能力を使ってもいい、と?」
 だから、突然の申し出に少なからず狼狽えた。彼が他にも女を買っては飼って可愛がっていることを知ってはいた。そうした女たちを助手にして、まだ経験の浅い者の相手をさせることがあるというのも。他ならぬ私もここの先輩の世話になったことがある。私は直接会ったことはなかったけれど、あちらは私を知っていた様子。以前屋敷を訪れた人間に指示を出していた妖怪。彼女が私を調教する助手として、この部屋に来たのだ。地上でそれなりに知られた妖怪が私を喜ばせようと指や舌を使ってくれるというのは、悪くはなかった。彼女もまた同じ境遇で、同じ主人に惚れ込んだということも、多少の仲間意識を芽生えさせてくれた。……でも彼女は始終、私が本当に能力を使えないのか気にしていたようだった。腹の底で私をどう思っているのか、心が読めなくても態度で知れるというもの。
 主様が言うには、私にも助手をさせたいのだと。そのために私の能力は便利だから、私さえ良ければ使えるようにしてやると。
「……生憎人の心の機微に疎いもので、真意がわかりかねますけど」
 心を読んでいいと言うのなら、こんな酔狂を言い出す主様の心をまず読んでみたいものだった。だって、それはつまり私の妖力を戻すということであり、その気になればこんな所、すぐにでも出られるようになるということ。あるいは、主様のような生白い陰干しニンゲンなど、私程度の控えめな妖力でも労せずばらばらにできそうなもの。
「怖くはないのでしょうか、私が。……いえ、今まで散々な扱いをもって苛み辱めてきた女に刃物を持たせるのが、主様は怖くないと?」
 本物の馬鹿なのかもしれないし、とにもかくにも底が知れず、全て見通してやりたい思いが高まる。
「私に助手をさせたい、ええ、大いにわかります。私の能力は奴隷たちを辱め屈服させるのに大いに役立つことでしょうね。ですが、それは主様自身の身の危険、つまり私が貴方に逆らうリスクと比べて、それほど大きなもの?」
 主様は屈託なく笑いながら、確かそう……『楽しそうじゃないか』と言ったのだっけ。本当に性質が悪い。
「まさか、主様は私が貴方に逆らうことなどないと思っているのではないでしょうね? 十分気持ちよくさせてやったから、この女は俺のものだと、自由にさせても言うことを聞くはずだと。なんて傲慢なのかしら」
 そう、こんな話をしている時点で私の負けである。もし逆らうつもりがこれっぽっちでもあったのなら、こんなこと言うわけがないのだもの。一も二もなく飛びついて、妖力を奪還したらあとは知らんぷりで当然。私がそうしないことの意味をこの夏野菜はちゃんと解っているのだ。
「と言いますか。そんなにご自分の読みに自信があるのでしたら――私の力など、必要ないでしょうに」
 もうだいたい心は決まっている。主様がそれを楽しいと思うのであれば、私はその手伝いをすること吝かではない。寧ろ乗り気であると言ってもいい。そもそも、自由にしてもらえるのであればそれを拒む理由などあろうはずもない。本当にこの人ときたら、私の心を読むことにかけては、さとり顔負けの精度なのだ。
 ……でも、不安だった。
「信じられないくらい傲慢な人……本当に大丈夫だと思うの? 私が妖力を取り戻しても、貴方に背かないと?」
 不安なのだ。私は。
「ねえ、答えて。私は、力を取り戻してもいいの?」
 そこまで言って、止まらなくなって、最大の疑問をぶつけてしまう。

 ――主様の本当の気持ちを、知ってしまってもいいの?


 ――。
「あら」
 近い距離の思考が飛び込んでくる。どうやら、間もなく主様が見えられるようだ。『さとりは何をしているかな。拗ねていないかな』なんて、なんというか律儀な人よね。
「どうぞ、入ってくださいませ」
 思考が扉の前まで来たところを見計らって声を掛ける。『やれやれ、こうやって先手先手を打っていくのやめた方がさとりは人気が出るんじゃないかなあ。そういうのが引かれるんだぞ』とか考えながら、かつては私を閉じ込めていた重い扉が開けられる。
「大きなお世話ですわ」
 何食わぬ顔で入ってくる主様。どうやら私が何をして待っていたのか気になっているようなので、話すことにする。
「私がここに来てからのことを思い返していたんですよ」
 ここに来てから、こうなるまでのこと。濃密な一か月。『退屈してた?』と、ふうむ、そう聞こえるのね。
「私は、自分の心を読むように、掘り下げていくこともできます。鮮明な追体験はなかなか悪くないものですよ」
 ……照れてる。もう、何が『つまり自分とのエッチがずいぶん良かったってことだな』よ。『良かった良かった』じゃないし。
「いや良くないですけど」
 本当に変な人なのだ。本当に。あの日、主様の心を読んだ私が、思わず「はぁ!?」なんて頓狂な声を上げたくらいには、変なのだ。
「主様のほうは今日もお変わりないようで」
 正直、私を誑かすための演技の裏を暴くつもりで、半ば自棄になっていたのだろう。私は彼を嫌いになるつもりでそうしたのだ。彼から本当の愛情が読み取れるなんて淡い期待を抱くほど、私は楽観主義ではなかったから。でも、予想は裏切られたし、だからといって真実の愛とやらを教わったわけでもなかった。
 彼は、頓着していなかった。今までもこうして女を扱ってきた自信なのだろうか、私に対して怖れなんていくらも持ってはいなかったのだ。だからといって愛と呼べるものも無かった。ただ単に、私を、便利な能力を持つ小娘としか見ていなかったのだ。
「あら? ふむ、私に興味を持つお客さんがいるのですね?」
 彼はたくさんの女たちを悦ばせ、従え、いずれは商品として売りに出す。その商品に対する深い愛着、完成度への執着、自負といったものは、掘っても掘りきれないほど吹き出てくるのに、手元に置いて愛したいなどという感情は一片も転がってはいなかった。
「ふふ、そんな風に宣伝しているの? 人が悪いですよ。私のこと、そんな簡単な女じゃないってご存知のくせにね」
 『はいはい、可愛い可愛い』じゃないわよ。何で心の中でまでこんなに雑なのこの種無し西瓜。
 でも、この『可愛い』は本心なのだ。彼は私を可愛いと思ってくれている。顔立ち、身体つきに欲情してくれるし、私個人を見てくれるのだ。見つめ返されることを気にも掛けず、私のことを見ているのだ。心を読まれることに抵抗がないなんて、正常ではない。
「あのですね。そこで『めんどくさいなあ、そろそろ触ってやるか』とか本当に無いと思うんです。デリカシーとかそういうものが。ってこら! 本当に全く聞いてない!! んっ、せっかく、もう、やめなさい!」
 どこを触られるかは解るから防ぎようはあるけれど、この人ときたら女と見ると考える前に手が動いているのか、たまに反応し切れないことがある。大体いつもそんなふうに有耶無耶になって、気づいたら私は気持ちよくされているのだ。
「もー、そうそう、話をしましょう。昨夜私がしてあげたあの子、小鈴ちゃんと言いましたか」
 うん? と手を止めて私の背中へ回る。両脚の間に私を座らせ、頭にぽんと手を置いてくれた。そこまでは割と結構なのだが、内心では『あの子も可愛いよなぁ。早くセックス中毒にしてあげたいな、上手く仕込めば絶対いい所に売れるよなあ』とか思っているので思い切り台無しである。いつもこんなものなので今更突っ込む気も失せてくる。そもそも、読まれているのは分かっているだろうに、この人は隠そうとさえしない。馬鹿なのだ。まあ隠したって私には見えるのだけども。
「……その可愛くて良い値がつきそうな小鈴ちゃんですけどね」
 『あっ、やべ』じゃないでしょう。『ごめんごめん』もせめて口に出しなさいよ緑横着野菜。『さとりが一番可愛いよ』じゃないわよ本当。『でもあの子も』この辺で読むのは切り上げて次に移ることにする。
「まあ、可愛かったですよね。あの子、相当な助平ですよ」
 私と主様でみっちり可愛がってやったときは、息も絶え絶えに甘く善がっていたが、終わったら涙目で主様を睨んで呪詛を呟いていた。私には一瞥もくれず。私を怖がるのはまあ無理もないとはいえ、たぶん主様のほうがいくらか性質が悪いと思うのだけども。
「『さとりに掛かればみんなスケベか』、ですか。ええまあ、隠している淫乱の気を暴くことは得意ですけども、そもそも持ち合わせていない娘は難しいと思いますけど。単に主様が助平な娘を探すのが上手いだけね」
 言い終わりざま、彼の太腿をつねり上げる。『なるほど、さとりみたいに』とか入ってきたので、当然の報い。口に出さずに内心で痛がっているのは随分器用なことだと思う。
「でも、あの子たちに私が言っていることって、実は全部本当じゃないんですよ」
 私は心を読む妖怪で、淫らな責めを受ける女たちの悦びや、内に秘めてきた恥ずかしい欲望を暴き立てることができる。でも、彼女たちは自分でそれを認識できているとは限らないのだ。私はもっと深いところまで、見通している。
「本当である必要なんかないんです。私の口から言われたことは、自分でそう思ったのだと、思い込むから」
 『なるほど』ふむ、さすがは主様。こういうことには聡明ね。
「そう。いくつか本当のことを読みあげてあげれば、後はもう、私の土俵です。何を言われても、本当だと思ってしまう。自分でも知らないうちにそう思っていたのだと」
 『そのうち、本当にそう思うようになると』おや、本当に聡い。仮にも女を狂わせて食っているだけのことはあるわね。
「ええ。あとは、ときどき本当を混ぜてあげれば……どんな娘でもころりと行ってしまうわ。もっとも、主様の交わりが気持ちよくなければ、効果もあまりないけれど」
 『それなら』はいはい。自信があるのはわかったわよ。なんなのこの男本当。
「だから、また遊びに連れて行ってくださいまし。きっとお役に立ちますわ」
 『そしてその分、可愛がってくれという訳か』……ふふふ、恥ずかしいことを言わなくても伝わるのは、主様の察しの良さに感謝するところよね。いや、『おっと。どうせならさとりに言わせたいな』じゃないから。
「それじゃあ、そろそろ……今日の働きの報酬、いただけます?」
 静かに目を閉じて、心地よい腕の温もりに身を任せた。『可愛いな』って、聞こえてきた。
 ――ああ。やっぱり私は、この人のことが、好きなのだ。





「入っていいぞ」
 『心が読めるとか言うが……親父も悪趣味な。俺のことを試してやがる』なんて、素直に入っていきたくない思考が読み取れる。落ち着いた雰囲気のドアに、柔らかい絨毯の敷かれた廊下。私が奉公することになった、お屋敷。どうやら幻想郷の外にあるらしく、出会う人皆、妖怪という存在に対して無知で無防備。まあ、人間なんて大体そういうものなんだけど。
「おい、居るんだろ。入るんじゃないのか」
 『親父にLINEで聞いてみるか。何て言って寄越したんだ、まったく』たまにこういう、読み取ってもよく意味の分からない言葉が混ざることがあって、少し困ったりもする。深く読み取れば何のことなのか探れるのだけれど、ドア越しでは少し大変ね。
 『……本当に居ないんじゃないだろうな。だったら俺が恥ずかしいだけじゃないか、忌々しい。親父も、あの女もだ』とか考えてらっしゃるの、正直大変可愛らしいと思うので、今すぐ入って愛でて差し上げたいのは山々なのだけども。この様子だとあまり歓迎はされないのでしょうね。
 コン、コン。
 そういうわけでノックから。坊ちゃんは19歳でしたっけ、気難しいお年頃ね。
 『あの女、居やがったな。しかも、ノックは3回以上が常識だろう。奴の身分なら4回が当然だ、全く、親父も……』はいはい。
 コン、コン、コン、コン。
 『クソッ、偶然か? それとも本当に心が読めるとでも? 顔を合わせてさえいないのに』……面倒くさいわねえ。
「坊ちゃん。私です、古明地さとりです。参上致しましたわ」
「入れと言ったろう!」
 キィ。
 ドアを開けると、机に向かっていたらしき人影が、高価そうな椅子を回してこちらを向く。黒髪を脂で横に流し固めた、細身ながら油断ならない目つきの男性。……ここに買われた日、一度お会いしたことがある。私がこれから共に暮らす、この家の跡継ぎとなられる方。内心では得体のしれない女に多少ならず気圧され、怯えてもいる。しかしそれを顔色にも所作にも見せることなく――自信、そう。自信に満ち溢れた様子、あくまで泰然として、私を部屋へ迎え入れた。
「失礼致します」「ふん……」
 えっと……『失礼しますと言うのはドアを開けるより先だ。本当に所作が田舎臭い娘だ。親父は何を考えてるんだ』と。少し前の私だったら、田舎臭くてすみませんとか言ってしまうところだけど、そういうことをするとどうやら嫌われるらしいから、我慢していくことにする。この方は現在の私が仕えるお方なのだから、粗相があっては主様……そう、私の本来のご主人様の顔に、泥を塗ってしまうものね。
「ええと、自己紹介をさせて戴いて宜しいでしょうか」
「勝手にしろ。お前を呼んだのは俺じゃない」
 と言いつつ、興味深く耳を傾けていらっしゃる。でも……中々どうして、彼も傑物である。『上っ面の自己紹介なんぞどうでもいい。お前にこの声は聞こえているのか? 聞こえているなら、自己紹介をしながら……そうだな、服の一つでも脱いでみるがいい。そうすれば信じてやるぞ』と。この若さにして、私のような得体の知れない女を、量ろうとしているのだ。ふふ、主様も、彼のお父様もだけれど……彼もまた、素敵な殿方ね。
「それでは……」
 しゃなり、とはこんな時に使う言葉だろうか。精一杯女らしい足取りで、彼の目前、胸に息が掛かろうという所まで歩み寄る。
「何だ。俺を見下ろすつもりか」
「いえ。ただ特等席にご案内して差し上げなくては、と」
 はら、はら。ぷち、ぱらり。身に付けた上等な衣服を、ひとつひとつ解き、足元へ落としていく。こんなにふわふわしたスカートなんて、ずいぶん長いこと身に付けていないので、手間取らないように少し必死。柔らかな布地が降り積もり、小さな浮き輪のように足元を囲む。
「……随分変わった自己紹介じゃないか?」
「そうですね……坊ちゃんには、有りのままの私をご覧に入れなくてはいけませんから」
 服らしい服が全て私の肌を滑り落ち、残すはぴっちりと体型を整える、レースに飾られた下着のみになる。『わかった、わかった。もういい』……ふむ。
「それでは改めまして。古明地さとり、地霊殿の主をしております、しがない田舎の妖怪ですわ」
「ああ、ご苦労」
 『……聞いていやがったな、忌々しいクソ女め』、と。そういえば、控えるつもりだったのに。やってしまったわね。
「あー、さとり……だったな」「はい、何でしょうか」「地霊殿、というのは?」
 『それだけではない。そもそも妖怪というのは。あの親父、一体どこでこんな女を拾ってきた?』困惑しているのは私だけではない、と。そうよねえ、私から見てのここが不可思議である以上に、彼らには私は異様に見える様子。
「地底にあります……ええ、ちっぽけな、家ですよ。こちらのお屋敷とは比べ物になりません」
「そういうお為ごかしはいい。何だ、お前は名の有る屋敷の出なのか」『地底とか聞こえたがその辺を突っ込んでも始まらん……』
「名だけはありますれど、体はなし。お館様と比べれば、屋敷といっても……そうですね、猫の寝床か、鳥小屋が精々のものですわ」
「さっぱり判らん。そんな処の、主と? その主とやらは、こんな若造の前に裸を晒して立っているのが果たして似合いなのか」
 『底が知れん。忌々しい、只者ではないことだけは確かだと言うのに』……ふふ、買い被って戴けるのは光栄なのですけれどもね。
「さあ……今の私は、買われた女。ご主人様の御慈悲で生かされているのみの女ですので、一切解りかねます」「ふむ……ん、待てよ」『ご主人様? 俺のことは生意気にも坊ちゃんと呼んでいたはずだが』あら聡明。
「私はご主人様に買われた身。ご主人様の命のもと、坊ちゃんに誠心誠意お仕え致すものですわ」「ふん、やはりか」
 『この女も俺を子供扱いしようというのだな。親父の考えそうなことだ……こいつを屈服させてみろということか?』、と。結構なことで。
「ええ、そうですね。坊ちゃんも、ご主人様に私のことを任せられているのかと」「……好きにしていいと?」「お好きなように受け取られて結構です」
 『……肉付きの薄い身体だが、相当慣れているんだろうな』なんてことを考えながら、値踏みするように……いえ、実際に値踏みして、私の体を見ている。じろじろと不躾なようでもあるのに、どこか冷辣な印象を与えるのは彼の育ち故なのだろう。『吸い込まれるように淫らで、妖怪と言ったが、確かに妖しい女だ』……これは、褒めているのかしらね。
「触れて下さっても良いのですよ」
「俺がそんなことを考えていたか? それとも、やはり心が読めるなどとは……」『どうせ、触れて欲しくなったのだろう。浅ましい女だ』「あら失礼しました、私が触れて戴きたいだけでした」
「……忌々しい女だ」『脇腹に触れてみよう……』こんな風に、どこを触られるか解ってしまうので、どうしても身構えてしまう。でも、他人に優しく触れられるというのは。
「ん……っ」こんな風に、予想していたものと違った感覚を生んで、私を困惑させる。……いいえ、私を悦ばせる、の方が正しい。
「敏感なんだな」『……結局、普通の女か。多少生意気だが、抱いてやれば大人しくなるだろう』あら……。
「ん、ふ……坊ちゃん、おやめになってください」「どうした? 何か不都合でもあるのか」心を読まれていることに動じない。いえ、読まれても、まぐわえば言うことを聞くようになると考えているのね。……確かに、気持ちの良い交わりは魅力的で、心を動かすものではあるけれど。
「どうせ、そうするつもりで来たんだろう」
 する、とタイを解いて、シャツのボタンを一つ外してにやりと笑う。『何も恐れることはない。この女も、結局は俺の物なんだ』と。
「ええ、その、まずはその指を……ふふっ」「これか?」
 『この程度で腰をくねらせて、淫らな女だ。いけ好かない性格に貧相な肉だが、中々どうして美しい。抱いてやるのに支障はない……すぐ、解らせてやれるだろう』ああ、考えが、若すぎる。こんなの。
「ふふ、くすぐったいのです。ですから……」
 こんなの、可愛くて。坊ちゃんたら本当に可愛らしくて。
「私から、ご奉仕させて下さいませ」
 こういうの。私は、我慢できなくなってしまうのよ。



「んむ、んぅん……れる」
 椅子に座ったままの彼の前に跪き、ズボンの留め具を外して取り出された男性器に舌を這わせていく。この姿勢だと彼は、女を征服している思いがして、気分が良いらしい。『どこで覚えるんだか……舌使いは本当に大したものだ』などと、ご満悦のようである。
 私は下着姿のまま、彼の感じる部分を探り当てる作業に没頭する。この段階ではまだ、探るだけ。彼の意識に全ての集中力と妖力を向け、反応を探る。
 先端の丸い部分は。ふむ、こう感じるのね。では、くびれた部分……あら、これだけでも結構……?
「くっ……続けろ、言わなくても、解るんだろう?」
 ふふ、若いのね。主様よりも、ずっと感じやすい。ふふふ、解りますとも。貴方のことなら、貴方よりもずっと、詳しく、深く、解るのだから。
「んぷ。ふふ、急いてしまうのはよろしくありませんわ。ゆっくり、楽しみましょう……あむ、ぢゅる」
「う、お……」
 ふむふむ、咥え込まれるだけでなく、上目遣いで舌を這わせ、手では陰嚢を……と。本当、注文が多いこと。思われたようにしてあげると、更に反応を観察することができる。まだ、もっと深く。彼の考えていることを読み取り、それに従って奉仕する。彼に取ってみれば、自分の手足のように意のままに動く女の口で、思う存分自慰をしているようなもの。その快感、充足感は……なるほど、こんな風なのね。『こうして献身されるのはやはり気分がいい』んー、だめね、浅い。『俺が感じている所が解るから、こんなに的確に奉仕できるのか……なるほど』こんな表層は、剥がしてしまっていい。もっと奥を見せなさい。
 ちゅる、てろ、ちぷ。
「ん……ぇぁむ、んぷぅ、ちゅ、ちゅぶ」
 『あ……気持ちいい』もっと奥。『こんなに気持ちいいなら、多少イラつく女でもいいな……』それはどうも。『だが、このままいいようにされるのは癪だ。抵抗しなくては』……これは、鱗ね。丁寧に心に張り付けた自意識の鱗。そんなものに用はない。
「う、あ、おい、ちょっと待て」
 『このまま続けられたら射精しそうだ』……そんなこと、大事にしまい込んでどうするのだか。心なんて読めなくても、ひくつく内腿、力が入って浮きかける腰、まるで隠せていやしないのに。『気持ちいい……気持ち良すぎて、少し怖い』あら?
「おい! 待て、っく、あ」
「んふ、ぢゅるる、ちゅ、ちゅぶ」
 『やめろ、怖い、これ』ですか。ようやく……いや、まだね。まだ奥。『怖い、このままイかされるのは、怖い』少し責めを緩めつつ、『亀頭をぬるぬる舐められると、射精できないのに、気持ち良すぎて怖い』と、親切に教えてくれた通りにしましょう。
「あ、ぐ、うあ、あ、あ、やめ、やめろ、馬鹿女、こ、このッ」「ぷぁ、んふ」
 ちろちろ、ちろ、れろれろ。
 腕で引き離そうとしているのは解っていたので、手を掛けようとしたところで、舌先でこちょこちょ。主様もそうだけど、これをして上げると男性はがくがく震えて、力が上手く入らないみたい。
「ひ、っ、ひ、ぐあ、あ、あ、あ、ああ、うおお、おおぉ」
 れろぉ……ちろちろ、ちろ。
 私の頭に両手を置いたまま、喉を逸らしてがくがく震えている。私とて妖怪の端くれ、妖力で何とでもしようはあるけれど、力比べは好みではないから、こうして可愛くなってもらった方がずっと良い。『駄目だ駄目だこれ駄目駄目駄目駄目だやめろやめろ馬鹿やめろ』って、これじゃ上手く読み取れないので困るけども。
「はふ……ふふ、ゆっくり楽しみましょう、と申し上げましたわ。さあ」
 あむ、れるぅ……くぷ、ぷ。
「くそ……、お前、許さんからな、俺、っぉ、俺を、こんな、っあ、あ」
 『恥ずかしい、こんなに感じているのは恥ずかしい』……だから、私が読みたいのはこんな上っ面ではないの。『俺が俺でなくなる、怖い』そうね、怖いわ。無意識は怖いもの。『気持ちいい』では、これをもっと……唇を窄めて、くびれを、ぬぷ、くぷ、こうやって。『これ良い、もっと』あら、あら。
「やめろ、やめろ、やめろ! やめろ、やめろぉ……あ、あぁ」
 『もっと、もっと、もっと気持ちよく』やっと出てきた。『気持ちいい、こんな女に虚仮にされて気持ちいい』ふふ、ふふふふ。
「お前、お、お、お前、っ、おぁ、ああ、ああぁああっ」
 これ、お前許さんぞ、親父に言って酷い目に遭わせるぞと言おうとしたらしいけれど。言えていないし、言おうとしている内容も酷いもの。『出る、出る、そこ、続けてくれ、気持ちいいのくれ』嫌です。まだです。
「んむ……あら、何か仰りたいのですか。何でしょう?」
「うあ、あ……あ? あ?」
 『ああ、なんで、なんでやめるの、イきたい、出したい、して、してくれ』そうそう、こうでなくては。男も女も同じ。
「ふむふむ、『おちんちんちゅぱちゅぱしてください、射精させてください』ですか」だいぶ意訳だけども。
「ちが、あ……ぅ、あ、っ、くそ、っ!」「駄目ですよ」きゅ。手でふわりと、性器を握って離す。ただそれだけ。「くあ、っ」
 『イく、イくイく、これイける、これ』それだけ。もう、彼の性感は読み慣れたので、簡単。もう一度握ってあげればきっと、どろりと漏れちゃったでしょうね。上下に擦ってあげれば気持ちよくすっきりできたでしょう。でもそれでは、せっかく私がいる意味がないというもの。
「あ、っ……あう、あ、あ」
 『イかせて、もっと、気持ちよく』ここで面白いのは、彼自身の手で射精に至ろうとはしないこと。『気持ちいい……最後までして欲しい……』ってずっと思っているくせに、自分でするのは思いつかないみたい。男性って大抵こうなのかしら。
「坊ちゃんは、ご自分でなさろうとはしないのですね」
「あ、ぁ?」『そうか、でも……そんな恥ずかしいことはできない』ふふふ、面白い。男性って大抵こうなのかしら。主様といい、読み取ってもいまいちピンとこない、意地みたいなもの――これ、へし折ったら、気持ちいいんでしょうね。

「坊ちゃん、こちらへどうぞ」
 手を引かれるままよろよろと立ち上がり、ズボンが足首まで落ちる。赤く張りつめ反り返った亀頭に、透明な珠が滲む。しゃがんで、歩こうとする彼の思考の通りにズボンを足から抜く手伝いをする。集中すれば、私は彼の一部になる。ただし、彼の本当の望みしか、聞いてあげるつもりはない。『早く……続きをして……出させて……』こんなのは、心の浅い部分で思っているだけ。
「そう、ベッドに座って……私は後ろへ回ります」
 後ろから両手で体を抱き、首を預け……ふふ、私の髪の匂い好きみたい。両手で胸元を抱き――ぬるり、彼の気が逸れたところで、掌を亀頭に被せる。
「お、おぉ……」
 『ゾクゾクする……こんなに気持ちいいのは初めてだ……もっと……』と。ぬち、ぬち、先走り液を塗り広げるようにしてあげるようにすると……ああ、こんなに喜んでくれると、私もやりがいがあろうというもの。
「お召し物を失礼しますね」
 呆然とされるがままの彼の心は、『ああ、やめないで、もっと』とか、そんなもの。腑抜けられてしまっても張り合いがないし、もっと気持ちよく溺れて戴かなくてはね。ゆっくり、衣服のボタンを外していく。脱がせ方は……ふむふむ、こうね。こういうとき、指の関節をなるべく曲げないようにすると、妖艶に見える。主様に仕込まれたことはきちんと役立てていかないと。
「う……あ、あ?」
 いくらか、意識がはっきりしてきた様子。『あ……くそ、何だこれ、この女絶対』下品な罵詈雑言が続く。あらあら、育ちの良い割に中々。
「さあ、脱げました。寒くは……ないようですね」私の身に付けた高級な下着と、ひたと胸に触れる掌、どちらもむず痒く心地良く感じている様子。胸を押し当てているのには気づいてくれていない。手加減する気はなくなった。
「やめろ……やめて、そこに寝ろ」「あら、頭の中が『犯したい』でいっぱいでいらっしゃいますのね」「黙れ。抱いてやると言ってるんだ」
 『気が狂いそうだ。射精感は引いたが興奮が収まらん、責任を取らせなくては』と。獣のように犯されるのも悪くないけれど、私は自分が気持ち良くなるためにここに来たわけではない。そう、職務を全うしなくては。
「ふむふむ、力で払い除けて押し倒してしまおうと考えて、身体が弛緩していて思うように行かなくてお困りなのですね」「うるさい、貴様……本当に覚えていろよ」「はい」
 さわさわと指を這わせると、ぞくりと反応した。男も女も変わらない、気持ちよくされ続けると、全身どこを触られても甘美な性感を得られるようになり、それを与えてくれる者に靡く。私もそうだったし、彼もそうなっている。
「く……早く、そこに寝ろ、いや、四つん這いになれ」
「お言葉ですが」両手を脇腹に当て、人差し指から小指、指の腹で、つぅっ。胸筋まで撫で上げる。
「くぁ、ああ……クソッ、離せ、犯してやる、貴様の処遇を考えるのはその後だ!」
 『何だこの、ゾクゾクして、熱くて、疼く、女、女が欲しい、早く、早くセックスさせろ、射精させろ』ごくり。余裕のない感情を向けられるのは、とても好ましく、下腹部に響く。
「はぁ……ん、大変、魅力的な申し出ですけども」「早くしろ、っく、あっ!? お、お、あ」くり、くり。
「私、などの貧しい身体より、こちら……私の指、もっと、味わってくださいませ」すりすり、ころ、くにゅ。親指で、両胸の先端……彼の小さな乳首を、丁寧に愛撫する。
 『何だ、何だこれは、腰が暴れる、気持ちいい、疼いて、気が狂う』ああ、なんて心地良い。でも、もっと。もっと教えて下さい。『胸で感じるなんて、女みたいな、やめろ、恥ずかしい、気持ちいいから、駄目だ』ぞくぞく。私自身も、興奮しているのを自覚する。
「おっぱい、気持ちいいんですね。ほら、どの触り方がお気に召しましたか」「やめ、あっ、ん、ん、んんんッ」
「なるほど、勝手に甘い声が出るのが恥ずかしくて、我慢していると。そして、身体が震えて腰が暴れてしまうのですね。いいですよ、感じてください、ほら、ほらぁ」
 指先を立ててくりくり、くすぐるような動きで、乳首を小さく左右に弾くのが、どうやら一番腰に響くらしい。丁寧に、こういうふうにしたら駄目だと思ってくれるので、とてもやりやすい。『息が続かなくなったところで動きを変えられると駄目』なるほどなるほど。
「ふふ、うふふふ、『犯す』、『気持ちいい』、『首だ』、『これ好きだ』、『殺す』、次は何ですか?」
「黙れ、黙れッ、お、あ、あ、うう、ううううっ」
「あらあら、『触ってくれ』? どこをですか……ふふ、そんなに強く思わなくても伝わりますわ、はしたない」
「いい、いいから、やめ、胸やめ、っ、さわ、触ってくれ、あ、ああ、また、ッく」
 『胸をされると、腰が疼いて、射精したくて、おかしくなる』と。『気持ちいいのに、イけない、助けて、助けてくれ』まだまだ、もっと奥。『気持ちいい、気持ちいい、もっと、もっと気持ちいいの、教えてくれ』これ。見つけた。
「安心して下さいませ、ふふ、もっと、気持ちいいの、教えて差し上げますからね。ええ――坊ちゃんのお望み通りに」
「あああ、ああ、望んでな、あっ、ない、ないから、早く、出させてぇっ」
「そんなに高い声も出るんですね……可愛いですよ。ふむ、こうやって転がすのも好きなんですね? ほら、くりくり、ころころ……」「うあ、あ、うああああ」
 かちかち、歯を鳴らして、ぞくぞく込み上げる快感と、腰を浮かす焦燥に耐えて、目の前がチカチカ明滅して……読み取っているだけで、こちらも陶酔してしまうような、甘美な感覚。羨ましい、私もまた、こういう風にされたい。
「……『気持ちいい』」低く耳元で囁く。「うあ、あ、あ」「『射精したい』」「したい、したい、出したい」「『気持ちよくなりたい』」「あうあ、あ」そろそろかな。
「『触りたい』」「ひ、っ」「『触りたいけど、恥ずかしい』」「ひぐ、っ、あっ、あああ」「『おっぱい気持ちいい』」「きもち、いぃい」彼自身の思考はもうドロドロで、私が好きなように作り変えられる状態。私は彼の一部だから。だから、私が言えば、彼はそうなる。
「『女の子みたいに感じるの、気持ちいい……』」「きもちぃ、きもちいぃい」「『おっぱい、くりくりされて、射精したい』」「あう、お、おぅお、あ、あ、だす、出す、出すぅ」ぐにゃぐにゃ、身体をよじって、胸つき出して、本当に……可愛い。
「『おっぱいで感じながら、オナニー、したい』」「あ、あぁあ、オナニー……?」「『したい』」「したい、した、あ、あ、あ」すり、すり、優しく円を描いて撫でると、甘くてむずむずして、凄いみたい。
 『おなにーする』あ。『さとりにおっぱいいじってもらう』はい。『それでおなにーして射精する』『する』『イく』よし。私は――集中する。
「する、するから、するからな」意思が決まって、手が動いて――ぱし、直前で手首を掴んで止める。
「ぐ、あ、ああ、あああああ!」「駄目ですよ」がくん、腰が跳ね上がる。考えないで動くから、こういうのは止めにくい。でも、手はガッチリ掴んで、胸元へ持っていく。
「ふあ」「坊ちゃんは、私の代わりにおっぱいを可愛がってあげてくださいね」
 彼の指に指を添え、乳首をかり、と擦る。『気持ちいい……!』かり、かり、くりくり。すぐ夢中になる。判断力が無くなった人間は、快感を与えればいつまでもそれを貪っているから、楽。
「さあ、自分でなんて勿体ありません。私の指を感じて戴きますわ」両手を男性器に被せ、反応に集中。絶対にこんなところで射精なんてさせない。これから、彼には最高の快美を味わい、古明地さとりに溺れてもらうのだから。

 つう、くり、ぬる、ぬる、ぬち。
 声も枯れ、静かになった部屋に小さな水音だけが響く。時折、かちん、と歯がぶつかる音。小さく痙攣したはずみで、ベッドの軋む音。ひゅう、と隙間風のような、かすれた息。それらの音を聞き流し、私は彼の心に全ての集中力を注ぎ込む。一体になる。
 私は彼の一部。私の右手は彼の理想の、彼自身の望みを叶える手。射精なんかより気持ちいいことを覚えてしまった彼は、私の手にずっと甘えていることができる。『きもちいい……』そう、彼は射精寸前の状態で、ずっと、私の指に愛撫されている。
 くり、くり、しゅ、しゅ、くに。
 彼自身の手は、乳首で気持ち良くなることに夢中で、私の邪魔をすることはない。
「はぁ、ん……きもち、いいですね……ずっと、イきそうなの、幸せ、ですね……♥」
 ちゅく、くぷ、ぷち。私の左手は、私の膣を、中指で静かに掻いている。『きもちいぃ……ずっと、ずっときもちいい……』彼の悦びは私の悦び。私は彼に没頭し、込み上げる興奮のままに自慰をする。
 『きもちいい、きもちいい、イく、イく』私は、彼のその反応を確実に捉えることができる。「だめ」陰茎から手を放し、太腿を指で撫でる。彼は引っ掻くように乳首を弾いて、口をぱくぱくさせ、腰をがくん、がくん、振り上げる。
「気持ちいいですね……終わるの嫌ですよね……」「あ、ぉおお」ゆっくり、射精感の波が引いていくのを感じ取り、また……ふむ、指の腹で、裏筋をこう、すり、すり。これが気に入ったみたい。ゆっくり、ゆっくり。くむ、ぷちゅ、尽きぬ泉のように先走りが漏れ出し続け、彼の悦ぶぬめりを生み出す。
「いつまでも続けてあげますね……坊ちゃんが気持ちよくなりたいだけ、ずうっと、あ、あぁん……♥」
 『きもちいい、きもちいい、きもちいい』私も、気持ちいい。気持ちいい……。

 ――『あ、イく』ぴく、と反応して指を止める。「あ」読み取ると、ようやく来た。私だけに解る最高の波。彼の全てを知ったから、わかる。この波は、この射精感は、彼の最高。彼が一番気持ちよくなれる巡り。
「では、イきましょう……♥ どうなっちゃうでしょうね……」
 すりすり、指先で亀頭をなぞり……彼の背中を引き、身体の位置を入れ替える。彼に跨り、見下ろすように。
 『きれい……女、身体……』見とれてくれるのは、嬉しい。ほら、とばかりに私の秘部を見せつける。思考が一瞬で、私との性交、それだけに染まる――その、一番、私を望んでいる、瞬間。
「しますよ」「あ、うあ」
 ぬち、じゅぶぶ。
「あ……♥」「!? お、お、おおおおお、おあ、あおおおおお、いいぐぐ、ぐああおおおおおお!!」どぶ、どぷ、どぷ、彼の鼓動が、私の下腹部を、びしゃ、びしゃ、打つ。響く。
「き、きもち、いいぃ……」「おおおお、お、おうっ、お、おおお」咆哮を上げ、自分で胸を弄ったまま、腰を振り、私に溺れる。私で、気持ちよくなっている。私を愛している。私に注ぐことしか考えない雄が、私だけを見て、私を求めている。
「ふふ、ふ……これ、好き……♥」
 古明地さとりが、彼にとって、この世で最も魅力的な女になった。
 『すき、すき、きもちいい、すき、すきすきすき』あ、これ来た。腰が大きく動いて、どぷ。まだ出ている、まだ気持ちよくなれる。ここまで我慢した、その分だけ。だから、私も動く。彼がもっとも気持ちいいように。彼がもっとも、古明地さとりを愛してしまうように。
「射精しながら、こう、されると、あはぁ、きもちいいんでしょう、ほら、解りますよぉ……♥」
「うお、ぉ、ぉ、き、きもちいい、これ、これ、これ」
 彼の記憶は全て見た。彼の全てを知った。これは彼が経験したことのない射精。全て出し尽くして溺れる交わり。締め付けも、腰の捻りも、見下ろす視線も、甘い声も、全てが彼の意のまま。こうして欲しいと望むまま。自分の手で触れるように、女が腰を使うのだ。
「えへ、これ、自分じゃできませんよね……イったばかりのとこ、こんな、ほら、ほら」
 射精したばかりの、いや、まだどろどろと漏らしているペニスを、萎える間もなく責める。どぷ、どぷ、溢れている。失神もさせない。私にはその加減も解る。
 じゅぷ、じゅぷ、ぢゅぽ。
 『気持ちいい』彼の感覚が、広がって、私のことも包んで、『好き』私が一番欲しい言葉がまた、溢れてきて。ぞくぅ、と背筋に危ないのが昇ってくる。ぶるぶる震えて、腰が不規則にかくかく、勝手に動き出す。
「あ、あ、あ、好き? 好き? 好きですか、ほんとに」「おおぉ、うあ、あ、あ、あ、すき、すき、すきすき」『すき、すき、すき』言葉と心が一致して。
「あ、あ……♥ あ、イ、……っく、ぅぅ……――っ!!」『すき』に溺れながら――私も、達した。



 ――『さとりの買い手が見つかったんだよな。大丈夫かな』
 
 あの日、私は泣いた。

「主様」
 話しかけたのはいつも通り私から。
「『さとりは最高の商品になるんだけどなあ』、ですか。ええ、そうですね。普通そんなこと言ったら、女は怒るでしょうね」
 ああ。でもやっぱり、主様は私のことをよく分かっているのだ。
「『さとりは愛されるよ。どんな男でも、さとりが本気になれば、好きにさせられる』……本当に、性質の悪い」
 私が、どれほど嫌われていたか知っていて。どれほど愛されたかったか知っていて。この人は私に、こんな技術を与えたのだ。相手の本当の望みを読み取って、それを与えること。相手が決して抗えない快楽を与えて、虜にしてしまうこと。
「……そうですね、行ってくることにします。私も、もっとたくさんの方に、愛されたいので」
 ……『さとりは気が多いなあ』じゃないわよこの虫食い青トマト。ホント台無しだからやめてもらいたい。

 この人は、自分が魅力的に磨いた女を、他人に評価されたいのだ。私が顧客に深く愛されれば、対価を大きく受け取ってくれば、その分だけ彼は満たされるのだ。
 ――そして、彼を愛する女なんて求めていないことを、私が一番良く知っている。

「そのうち帰ってきましょうか。小鈴さんとか、私が居たほうが物になるでしょう? それに……」『……好きにさせたい相手がいるから?』
 ……ほんと、この主人。
「……野菜の収穫があるからかしら」

 ――。



「ん……」
「お目覚めですね。ふむ……『温かい、起きたくない』と。よろしいですよ、もう少し微睡んでいられましても」
 なで、なで。ご主人様の跡取りとしてこれまで張り詰めた日々を過ごして来られた彼にとって、私にこうして優しくされるのは非常に心地の良いものらしく。どうやらもうしばらく目覚める気はないようだし、覇気も戻ってくる様子はない。
 私はここに買われて来たのは、主様……私をこんな風にした彼の所に、客として今のご主人様が来て、私のことを大層気に入ったため。私も実際にお会いしてその心を読んだけれど、人間というのは解らないものね。
「んん……」『いい匂いだ……そこにいてくれ』
 よしよし。――人間の男のうちでも、こういう風に大成する者は、だいたいどこかおかしいのだ。主様にしろ、新しいご主人様にしろ、心を読まれることをまるで厭わず、私のことを見下してさえいる。というか、『女ならセックスで言うことを聞かせればいい、問題ない』と本気で思っているのよね。馬鹿だから。でも、そういう馬鹿は好きなのだ。私を嫌わないでいてくれるのだから。

「坊ちゃん、何時までお休みになりますか」「ん~~~」『うるさいぞ、俺は、俺はな』はいはい、よしよし、いい子ですね。
 思えば二人とも、私の能力のことをスケベな目でしか見ていなかった。でも、それが私には……。
「むにゃ……」
 『触ってくれ。頭とか背中』はい、そのように。なでなで、なでなで。
 誰からも嫌われるものであった私の能力。それを、相手の望むことを読み取って実行できる、誰にでも好かれることができるなどと。考えたことはなかったのだ。

 そんな風に考えていると、坊ちゃんが『起きる……』と考えて身を捩りだした。
「あ、お目覚めですね。……用を足しに行かれますか、お供しましょうか?」「……あ?」
 『ふざけるなよ貴様』、と。すみませんでした。
「失礼、冗談ですわ」「さとり貴様、本当に許さんからな」
 『あんなに恥ずかしくて気持ちいいのは初めてだ』と、これは言ったら怒るので黙っていることにする。代わりに……。
「解りました、でしたら次の機会には私に罰をお与え下さい」「ふん、都合のいい」「私も、あのように素敵な時間は初めてでしたから」
 『結局全部読んでいるんだな……まあいい、気分の悪いものではない』と。どうやら大丈夫。私は、上手にやれている。
「なあ、お前のことは奴隷商が仕込んだと聞いているが……」
 ん……、と。『可哀想な目に遭っていたのだろうか』、それと『どれくらい抱かれたのだろう』という意図の質問ね。なるほど若い、私のことを……所有したいのだ。
「そうですね。素敵な方に仕えることができて幸せですわ」そういうことなら、これが模範解答。
「お前の主人は親父だろうが」あ、拗ねてる。「ふふ、確かにそうですが……直接関わる坊ちゃんが私に良くしてくださいますのは、有難きことですよ」
「しかし、その呼び方は何とかならんだろうか」「そうですね……坊ちゃんは坊ちゃんですから、いつか私のことを召し上げて、ご主人様になられて下さい」
 心を読みながら、相手の望むように振舞えば……嫌われない。自信を持っている人間に好かれることで、愛され、重んじられ……私は、気持ちいい思いがたくさんできるのだ。こんなことは、以前は考えたことがなかった。人のために力を使いたい、なんて。
「食えん女だ」「あら、そんな風に仰らないでください」ぎゅ、と腕を抱くように密着する。どうやらこういうのが好きみたいなので。
「随分サービスが良いが……何をしてやればいい? ボトルを入れればいいのか」「何ですかそれ」「何だろうな」読み取っても良く解らなかったので気にしないことにする。
「そうですね……私の元居たところに、一言『お前の所の女は良かったぞ』とお伝え戴ければ」
「何だそりゃ、別に構いはしないが」「アフターケアを気にする店なんですよ」
 私は、それだけでいい。上手くやってますよ、と伝えるだけでいい。ここでも私は、愛されることができたのだと。それを教えてくれた人に伝われば、それだけでいいのだ。目下、帰る必要はきっとない。

「さあ坊ちゃん、お手洗いへ参りましょう」「来んな」
 私という商品を作りあげて下さったあの方に、感謝と敬意を。

「……っておい、泣くほどか!? そんなに来たかったなら来てもいいぞ……」
「じゃあ行きます。お世話させて戴きますね」
古きeratohoの時代に生きた者として。

eratoho小説合同「eratohoSS」(http://www.dlsite.com/maniax/work/=/product_id/RJ215689.html)寄稿作品です。

宣伝がてら公開させていただく運びとなりました。
わたしの作品以外にも、eratohoへの様々な思いが満載されたいろいろと暗黒な一冊です。
興味をお持ちいただけましたら是非合同誌のほうも手に取ってくださいませ(DL販売中です!)
ぱ。
コメント




1.性欲を持て余す程度の能力削除
ぬおおおおおお、冒頭の文章にやられた……愛撫に喉を鳴らすさとりの感情に重ねてしまったせいで脳内雌化物質がどばどば排出されますねぇ、たまりません!
助手として追いつめていく覚りらしいいやらしさが最高で、言葉のひとつひとつに深層心理を引きあげられていく小鈴の反応と誘導されていくさまがめちゃくそエロい。追想のなかで愛撫に悶え、喘ぐさとりの内外の様子が、たまらなく興奮を誘ってくれて、快感の波に飲まれて乖離していく心と体と制御できない自分の反応に無意識と同じ恐怖を覚えながらも、最終的には肉欲の重力に逆らわずに溺れていって、思考もなく記憶にすら残らないほどに惚ける彼女のさまがありありと浮かんできました。もうほんとたまらんほどエロい。記憶を俯瞰するさとりの語りが溶けるように脳へと入ってくるから、読み進める手がもう止まらない止まらない(シコココの手も止まらない止まらない)
買われた身分なのに逆調教じみた催眠的誘導はさとりの醍醐味で、相手の反応をうかがいながらこぼすその語りがエロさを増幅してくれる。幼い体つきの彼女がくれる行為はどれも倒錯的で想像も容易なために、ちんちんの勃起が収まりませんよ!?(シコォ…)いかに慣れていても彼女の口には大人のサイズは大きすぎるとわかるし可愛らしい唇から伸ばされる舌はきっと味蕾の汚れもなくて、唾液でてらてらなさまは外見と一致しないいやらしさで動いて、そんなことをされたらどんな男だって童貞の初々しさを取り戻したようになってしまうに違いなく、逆らうことだってできやしない。後ろから腕をまわしてくる手淫は幼さも手伝ってぞくりとくる淫靡さで(というかバブみですよね!!!!)、柔らかい指先が脇腹から這いあがらされる場面は男の気持ちだけでなく手玉に取るさとりの気持ちとも重なってしまえたのでやばかったです
乳首をいじられる快感に虜となって射精欲が高まっても覚え立てで開発の弱い乳首ではイけなくて、羞恥心や判断力がなくなった頃合いに自分でさせながら寸止めを繰り返すえげつなさは、心を読めるさとりならではの味でたまらない。限界まで抑えていた射精感をわずかな挿入で解き放つ快感はどれほどのものなのか。達した瞬間に目の前の相手しか見えなくなる感覚っていいよね……イッたばかりの敏感ペニスで〝好き〟を求めて腰を振るさとりがドチャクソエロくて最高ですねふぅ…
心が読めるばかりに遠ざかっていく心に触れるすべを知ったさとりのこれからは、きっと明るいものになると祈っています
というかそうなるとペットたちはどうなるんだろうと小首を傾げるもあの子たちも商品にしそうですねあの夏野菜さんはw
eratohoは知らないのですが、子宮とちんちんの両方に火をつけてくる素晴らしさでした。とても楽しめました、ありがとうございました
誤字脱字報告かもしれません↓

私はその手伝いをすること吝かではない→ことも?(脱字?)
これをして上げると男性はがくがく震えて→あげると
2.性欲を持て余す程度の能力削除
新しい自分の有り様に自分なりの自信を掴めて来ているさとりの姿が素敵でした。
エロくて、そしてなんだかかっこいいですね。