真・東方夜伽話

雲わく道に山居の命②

2018/02/14 00:15:51
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雲わく道に山居の命②

みこう悠長

読まないでください。

§§§



「いきなり動き出したりしないよね」

 バンの助手席に乗り込んだクーは、怖がっていそうな科白を、大して怖がっているようでもない様子で言う。指差しているのは、車両後部に積んである、死体二つ。二人はまだ手袋に長靴、黒ずくめの姿のままだ。マスクこそ取ってはいるが、すぐに付けられるように首元に通されたまま。

「多分ね」
「なにそれ、こわ」

 バタン、とクーがドアを閉めたのを確認してから、リンは車を出した。行き先は海辺の焼却炉。普通の死体なら|死体《ボディ》ブローカーとしての本職、腕の見せ所だったのだが、今回の死体は全く使い物にならない。ただの死体処分も本職、ではあるのだが、一銭にもならないこと確定だ。いや、歯や髪の毛くらいは売れるだろうか。足しにはならないだろうが。
 本来、死体なんて幾らでも売り先はある。新鮮であればあるほどいいが、臓器を取り出して移植に使えるほどである必要はない。そうであるに越したことはないけれど、移植に使えない程度の死体でも十分に商品価値はあるのだ。部位ごとにバラバラにして、必要とする先に必要な部位を売る。まるごと売ることもある。スーパーで食肉を売っているのと、全く同じ感覚だし、買う方もその通りだ。
 死体を求めている、特に組織は多い。解剖の練習台や医療機器の性能宣伝用には需要は事欠かず、特に最近はこの医療機器宣伝用の需要が急増していた。一般人には全く想像し難い話だが、手術ショー、あるいは解剖ショーというのが、存在するのだ。高級ホテルやイベント会場を借り切り、一般の客の目に触れぬよう、そのイベントは行われる。優秀な医者の卵を獲得するために、業務環境の充実としての手術練習機会のセッティングは、医療機関の企業努力として必要なものになっている。そこで用いられる医療機器についても、性能を発揮し宣伝するいい機会で、医療機器メーカーは自社の威信をかけて、死体を弄ぶためのマシンの性能を競う。
 移植用の死体(器官、部位あるいは臓器)の流通については厳しく法律による規制があるが、そうではない死体の場合は、流通には全く規制がない。極言してしまえば、遺族がいいとさえ言えば、葬儀を終えた死体を焼却せずに|死体《ボディ》ブローカーに売っぱらってしまってもよいのだ。

「この仕事が終わったら車の中全部消毒だね」
「あー、また金がかかる、余計な仕事受けちゃったねぇ」
「選り好みできる立場じゃないからね」

 彼女ら『火車』はそうした|死体《ボディ》ブローカーであり、同時に処分屋でもある。今回のように死体の処分を依頼される場合もあるが、多くの場合は、死体の買い取り営業を行っている。そうでなければ安定した仕事は見込めず、安置した仕事の確保は価格面で客への還元となる。葬儀場、病院、893、宗教団体、パイプさえあれば警察にさえ営業する。モラルはない、事件性もない、そこには社会から切り取られた死体と、都合のいい金、それらの交換ルートだけが存在する。そして表の社会でのトレーサビリティは器用にロンダリングされるし、誰も「この死体の生前の名前は?」などと聞く者はいない。社会から切り離された死体は、元人間でさえあることを認められず、ただのタンパク質を主成分とした商品としてしか見られない。その価値しか、無い。だがその価値が医療のレベルを底上げし、切り刻まれると悲しまれるような恵まれた死体の立場を守る。体は一人につき一個、だがその体を失ってなお生きる者が代わりの体を求めることを『生存権』というのなら、|死体《ボディ》ブローカーは、それを補完する社会悪だ。
 生命倫理に欠く仕事と言われればその通りだが、それでも信用というものがある。命に対する尊厳ではない、職業に対する尊厳だ。病原体に犯された死体を、それとは知らせずに解剖用に卸したりはしない。そんなことをしては、せっかく無法地帯で商売出来ている自らの首を絞めかねないし、顧客だって失うのだ、いいことは何一つ無い。卸す死体は、それなりの品質を保つ必要がある。
 だから、今回のような死体は、焼却炉直行だ。

「|阿波戸《あわと》でこんな死体を引き取るのは、何年ぶりだろうねぇ」
「私達が出てきてこんな仕事をし始めてすぐの頃だったと思うけど……いつだったっけ、忘れちゃったな」

 まるで子供のような体で車の運転をするリン。長身のクーはシートを倒し目にして窮屈そうに頭を天井に擦っている。彼女達が一体いつから火車を名乗り死体処理業を営んでいるのか、知っている者は|阿波戸《あわと》にはいない。視野を広げて|牛音《うしおん》市や、県内、県外にまで広げても、死体処理業を公に(といってもタウンページに広告を出しているわけではない。あくまでも裏で、だ)している組織は多くない、女二人組ということもあって関東甲信越一円の裏社会ではよく知られた存在だが、いつから営業しているのかは、誰も知らなかった。
 運悪く検問に引っかかると、面倒だ。座席を取り払って荷台スペースにしてある車両後部にある死体が、犯罪行為の末に出来上がったものではなく死体遺棄の要件にも抵触しないことを示すには、多くの場合売り主の証言が必須となる。だが売り主はその死体について多くを語りたがらないものだし、結局殆どの場合は犯罪行為の末に出来たものだと判明する。それは商売上余り望ましいことではない、彼女達は警察の検問などをするすると回避するための経験的な技術をよく身に着けていた。

「脳喰い虫ってわけじゃあないし、ヤバそうな方はバラしたじゃないか。それに、問題は虫の方じゃない」
「そりゃわかってるけどさ。新しく温泉が出たみたいだから、関連性があるのかな」
「お湯と?」
「やまと。」
「やまとか」

 やまと、と言ったイントネーションは少し変だった。

「まあ、そうかもしれないねぇ。あの辺りにはそういうのがいっぱい埋まってる。クーだってそうでしょぉ」
「そんな昔のこと、忘れちゃった。私、鳥頭だし。」
「そうなの?」
「わすれたわけじゃ、ないけどさ」
「問題はこんがらがってる。誰かが解くのか、それとも団子結びのまま全部まるごと切り捨てられるのか。虫なんかにゃ、山を救う力なんて元々無いんだ、彼らの努力が実を結ぶのを願う位なら奇跡を祈った方が幾らっか希望がある。……これから、忙しくなるよぉ」
「売れない死体ばっかりは、困る」

 背もたれにどさりと体重を預けてため息を吐くクーと呼ばれる火車。彼女達の言うことがそのまま比喩ではなかったというのなら、死体の焼却はこの大きい方が担当することになる筈だ。売れない死体というのが増えると彼女の仕事量が増えるのだ、溜息だって吐きたくもなるだろう。だが苛立ちとも怒りとも取れる表情は、単に仕事の増えることを厭うそればかりとは思えなかった。

「さっき会ったあの女の子さ」
「あ、サユちゃん?」
「……いつの間に名前訊いてたの」
「対面10秒位」
「あ、そ」
「やぁーあ、拗ねないでよう、クーが一番だからさぁ」
「そーゆーんじゃないですー」
「そぉゆぅののくせにぃ」

 リンが茶化すように言うと、クーの腕が横に伸びて拳がリンのほっぺたにペチンとあたる。ぐりぐりぐり横から押されてリンの頭が押されるまま傾いた。運転中、運転中だからあ、と言うリンからおちゃらけた様子は消えず、気が済んだのか済まないのか、手を引っ込めたクーを見て悪戯っぽく笑う。前見て、と口を尖らせるクー。はいはい、って。それから少し表情を落ち着かせたリンが、口を開く。

「あの子、部外者なのに、気の毒だねぇ」
「元々あの地を荒らしたのは『部外者』だよ。日本中、そんな話が犇めいてる」
「そりゃあそうだけど、それこそ『昔の話』じゃぁないか、忘れちゃえばいいのに。|クー達《八咫烏》は切り替えたじゃんか」
「だからってそう出来ないやつが、悪いわけじゃない。今でも私は……『あっち側』だ」
「それは、承知してるよ。でも、あたいとあんたが、そんな過去のことなんかで切れるなんて、思ってない」
「……当たり前でしょ」
「なら、いいよ。あたいが心配してるのは、そのことだけ。他のことなんて、ホント、どーでもいい」

 リンが不満そうな声を上げると、クーは後ろの頭陀袋に目をやる。中には当然死体が二人分入っていて、焼却待ち。詳細は分からないが、リンが言うところによると『虫』とやらに冒された死体なのらしい。二人の会話は、まるでその死体がそうなった理由を知っているかのようだ。しかもそれが、二人にとって余り望ましい情報ではないようにも見える。
 重苦しい空気が、バンの車内を支配していた。グローブボックスの上に脚を放り上げて組み、視線を外に放り投げるクー。
 大して味もわかっていない煙草を引っ張り出して咥え、火を点ける(今、どこから火を出した?)。どこでも買えて安くて、数が吸えればいいからって、緑色だか黄色のパッケージの短くて本数がたくさん入っているやつを吸っている。タバコを吸わないリンにはよくわからない世界だったが、煙が車内に充満するのを彼女は特に気に留める様子もなく、黙って運転を続ける。

「あ、ごめん」

 苛立ちなのか何なのか判然としない感情が喫煙を招いたのらしいが、隣にリンがいること思い出して消そうとする。

「いいよ、消さなくて。あんたの息に色が付いてると思えば、別に気になんない」

 それはあたいが、欲しいものだからさ。
 そう言ってハンドルを切る。

「あたいにとって今一番大切なのは、あんたとこうして二人でロクでもない仕事をしながら、ロクでもない世界で、ロクでもない日々を踏みしめて生きていくこと。今更、死んだ山が起きたとか忘れられた虫が出てきたとか地方病が復活したとか、そんなこと、あたいとクーの間にゃ、何一つだって関係がない」
「そうだね。うん、そうだ」

 火車の駆る見送りのない霊柩車は、道幅はあるのに何故か他の車の通りのない通りに出た。青い看板が頭上を抜ける。焼津まで45km、と表示されていたのをリンは見ていなかった。過去何度も行き来し通り慣れた道だ、そんなことは看板を見ずともわかっている。
 彼女は運転中にも拘らず前を見ず、隣の女が煙草の息を吐いて口を離した隙を縫って割り込んで、唇を重ねていた。



§§§



「ごちそうさまでした! いやあ、アミさん料理上手! このお値段でこんな幸せ家庭的空間にいられるなら、ずっと泊まってたいですね」
「いや、それはちょっとぉ」
「冗談ですよう」

 ちょっとだけ、冗談ではなかった。いやちょっとじゃないかも。アミちゃんの料理は、ちゃんと美味しかった。伊達に旅館を一人で切り盛りしようと頑張っているだけはある。作ってくれたのはそんな、旅館で客に出すような上等な料理ではなかったけれど、きっといつも一人で食べているような内容に比べれば幾らか色気を出しているのはわかった。「ほんとにいつもどおりの雑なのでいいんですよ」なんて言ったら「いつも雑に作ったりしてるわけじゃないですからっ」ってにっこり叱られた。

「あ、私洗います。アミさん座ってて、わがままゆって食べさせてもらってるんですから」
「わがままじゃないですよ、お代は頂いてるんですから。あ、もしかしてチャラにしようとしてますか? そうはいきませんからね。私も生活がかかってるんですから、お代分はきっちりやらせてもらいます。サユリさんはそこでおとなしくお茶でも飲んでてください」
「ふぁい」

 私がおとなしく座ると、彼女は台所に消えた。すぐにカチャカチャと食器同士の当たる音が聞こえてきた。私は彼女の後ろ姿を見ている。かわいいなあ。ほんとにお嫁さんにしたい。
 お茶をすすりながら、台所に向いたままのアミちゃんと会話を続ける。

「私の家が九州だった由来はよく知りません。父も母もそういうのには頓着のない人だし、私もあんまり……。でも、祖母が元々、この辺に土地を持っていたみたいなんです。」
「地主さんなんですね」

 おばあさんが彼女に相続を伝える以前は、彼女は九州の方で就職してたんだって。九州とここじゃ随分と距離がある、どうしてなのか気になったのだ。それに、私の今の調査の仮説の中ではこの地と九州をつないで考えることが前提になっている。もしかすると人のつながりがあるのか、なんて気になったのだ。
 お茶のついでにそんなことを話してもらえることになったのも、竜宮に泊まったから。つくづく運が向いている。

「由緒はよくわかんないんですけどね。本家は|柾《まさき》、って名字です。今も変わってないのかなあ。私のとこは分家だしもう名字も違うからあんまり関係がないと思ってたんですが、この宿だけ相続したみたいで。|こんな《・・・》でも、本家は神職なんですよ。この辺じゃ氏家も結構多いんです。」
「へえ。え、もしかして、阿祖神社?」
「あれ、ご存知なんですか!? 有名じゃないと思ってたんですけど」
「有名では、ないですね。こうしてわざわざ調べに来たくらいですから」
「ああ、そうですよね……なにゆってんだろわたし」

 予想外のところからキーワードが飛び出てきた。まさか、アミちゃんからつながりが生じるなんて。それに、これはますます気になる。アミちゃんが九州出身でその血縁者が阿祖神社の神職だなんて。阿祖神社が、富士山信仰のアソから生じた傍流ではなく、本当に阿蘇山からの系譜の可能性が、出てきた。早く行ってみたい。

「阿祖神社は、代々女性がシュクシュをやるんだそうですよ。神主とか宮司とかはいなくって、兼ねてるとか。そのシュクシュが、私の家の本家筋の世襲なんだそうです。まあ分家の私には全然関係のないことですけど」
「しゅくしゅ?」
「おいわい、の祝って字に、|主《ぬし》です。祝主」
「|祝主《しゅくしゅ》、ですか。神社関係なら、その祝うの字を書いて『|祝《はふり》』っていうのはよく聞くし、|祝《しゅく》を『|祝《いわ》う』と読むなら、『|斎主《いわいぬし》』が、まあこれは一般の寺社ではつかわないですが、一応名前はありますね。でも|祝主《しゅくしゅ》ってのは初めて聞きました。まあ|祝《はふり》と同じなんでしょうけれど」
「神主や宮司さんがいないので、一緒くたになっているのかもしれません。神主の『主』とその、はふり?とかいうのがくっついたってことなら」
「きっとそれですね、アミさん名推理」

 なにゆってんですかもう、なんて、こっち向いて、にへらと笑うアミちゃんが可愛い。一人でこんなお宿を受け継いで守ろうなんて、健気な子だなあと思う。

(やばい。こんなに、入れ込んじゃうなんて)

 若い娘の煽情的な後ろ姿に向かっておっさん剥き出しの視線を送ってしまった。自分でも呆れちゃうくらいに浮かれていて顔が熱い。ふやけてんじゃないよただの旅先での気の迷いだろう、アミちゃんだってそれくらいの軽いノリでないとあんなふうに乗ってこないって。自分に言い聞かせて苦笑いしつつ、私は散策ルートを確認することにした。
 リュックから引っ張り出してこの部屋に持ってきた地図とノートとペンを見ながら、事前に下調べで分かった範囲でのメモと照らし合わせる。

「まずは資料館、人様の知識蓄積を食うところからだよね」

 一軒だけ郷土資料館のようなものがあるということはわかっている。だがどこにあるのかまで詳細な地図はない、大まかなものだけだ。この地域なら大まかな地図でも問題ないかもしれないが、一応行くときにはアミちゃんに聞いてからにしよう。本命の阿祖神社はその後だ。知らない知識が郷土資料館にあるかもしれない、それを下敷きに見に行ったほうがきっと建設的だろう。
 それと、これは直感だが、この欄間のモチーフがよくわからないのも、何かこの辺の文化と繋がりがある気がする。その一端でも資料館から得ることができれば、大きな進展だ。
 アミちゃんとの会話の中では話がややこしくなるからと思って出さなかったものが、『|両面宿儺《りょうめんすくな》』の存在だ。これは飛騨の方に伝わる民話のようなもので、悪者として伝えられる一方で土地の人々には親しみを持って語り継がれている。いわゆる妖怪や妖怪といった不思議な立ち位置だ。その正体は不明だが、大和朝廷に従わなかった何者かを悪く伝えようとした中央の神話と、その地の人々の親和が混じり合った姿、など分析は色々だ。|両面宿儺《りょうめんすくな》も双面多腕として描かれるのだが、いかんせん飛騨の存在だ。勿論先に出したヘカトンケイルなど以ての外だが、元々私が調べに来た阿祖神社について私は予め九州との繋がりを否定しないまま散策しようと決めてきていた。それ以外にも他の地域との類似性や関連については否定せず調査するつもりでやってきたものだし、九州に比べればここは飛騨とはご近所と言ってもいい、安易に肯定も完全に否定することも出来ずに引っ込めたというわけだ。

「うーん、なんかこう、似た色のボタンだけが散らばってて紐でつながらないんだよなあ。もう少し手がかりがあれば」

 その『もう少しの手がかり』を求めてアレヤコレヤと調べると、手がかりではなくもう一つ似た色のボタンが見つかるだけ、と言うのはこの分野ではよくあることだし、むしろそんなことばかりだから歴史はIFまみれになるのであって、同時にそれが面白さでもある。

「あとは、夜遊び、どうしようかなあ」

 もう一つ、どうでもいいことだけれど、この|阿波戸《あわと》が『青線』だったというのも少し気になる。こんな寂れた街にそんな過去があったとして、少々歩いた程度では何の名残も感じられなかった。青線なり赤線なり、普通は今も幾らか繁華街としての残り香があるものだが。全く本筋とは関係がないが、興味本位で足を運んでみたいなと思っていた。

「夜遊び?」

 洗い物を終えたアミさんが、自分の分のお茶を持ってテーブルに戻ってきた。

「あ、瓶ビールくらいならありますよ。飲みますか?」
「あー、いや、やめときます。これ以上ここで『あっとほーむ』感じちゃったら、ヤバそうなんで。お茶を、いただけますか」
「ふふっ、承知しました」

 アミちゃんは新しいお茶を持ってきてくれた。手際が良い。うーん、アミちゃんにお酌してほしいのはやまやまなんだけど、さっき行ったことは本当だ。あまりにも居心地がいい、私も独身で一人暮らしが長い、仲のいい友人がいるわけでもなく、こうして誰かと夜長を過ごすこと自体久し振りで、気持ちのいいことだったから。

「ここが『青線』って、仰ってたじゃないですか。『青線』って、まあ普通の人にはただの風俗街の危ないやつって思われてるんですけど、文化的な観点ですごく興味深い研究材料なんですよ。」
「そうなんですか。青線が……」
「元々ここに来た理由は」

 そんなことを調べに来たんじゃない、と言おうとしたけれど、色々と説明が面倒くさいので一緒くたにしておくことにした。

「民俗のフィールドワークですけど、風俗は大いに関わってますから。あ、風俗って、フーゾクじゃないですよ」
「はい。へえ、そういうお勉強もあるんですね。その、そういう技術のこととかを」
「だから違いますって(笑)。 まあそういうのも多分に含んでますけどね。食文化や性以外の大衆娯楽、街の作り方、その時代の社会問題、色んな庶民の文化の観点でです。勿論性風俗は時世を映し出す鏡として、かなり|怜悧《・・》ですけど。あとは宗教とか、信仰とか。ソッチが専門かな」
「ああ、欄間のお話とか」
「そうですそうです、あんなかんじ」

 よくわかんないですよね、なんて苦笑いで肩を竦めてみると。そんなことないですよ!とよくわからなさそうな顔をしていた。かわいいなあ。

「そういうわけで、神社と資料館は行くとして、自分の足で探して回るような感じの調査の一環で、『青線』の町並みとかを一回見ておきたいなって、思ってるんです。もちろん買うつもりなんて無いですよ!」
「あ、そうなんですね」

 どういう『そうなんですね』なのか、ちょっと不安になってしまうが、そうなんです、って答えることにした。

「案内して、なんて言うつもりは無いですけど、どのへんなのか、教えてくれませんか」
「ええ、構いませんが……」

 なんだか、あんまりいい顔をしない。やっぱりああいう性の売買をするところに興味がるという事自体が、忌避対象なのだろうか。まあ普通はそうか。
 アミちゃんは浮かない顔をしたまま、私に青線地区への道のりを示してくれた。私はそれをメモにとっていく。歩いて行ける距離だった、まあこの|阿波戸《あわと》の範囲なんて端から端までいっても歩いて行ける距離だろうけれど。ただ、バスに乗っているときに見えた『淡』と書かれたバス停、あの範囲までを含めると、案外広いのかもしれない。今は明らかに人の気配がしなかったから、あそこはもう|阿波戸《あわと》ではないのかもしれないけれど。

「サユリさんは」
「はい?」
「『買い』に来た人ではないんですよね?」

 アミちゃんが、不審そうな目で私を見る。やっぱり買春目的で来たと思われてる!?

「違いますよう! 大体、忘れてませんか、私、女なんですけど!」
「あっ……」
「ちょっ、そこでまじで忘れてたみたいな反応するのは、大変遺憾でございます!?」
「あ、ああ、いえあの、そういういみでは、いやそういう意味なんですけどそうじゃなくって」

 天然かこの子……。それともあざとく狙っている? ちょっとその可能性も否定できないな、見た目はすこぶる可愛い子だし。

「『青線』って、その、ただ女の子買うだけじゃすまないって聞きます」
「大丈夫ですよ。そもそも買いに来たんじゃないって言ってるじゃないですかぁ」
「あ、あはは、そうでした」

 ごめんなさい、って小さくなるアミちゃん。

「ありがとうございます、次時間が出来たときに行ってみますね。『青線』って最近もうほとんど姿が見えないから、貴重なんです。『赤線』も含めて」
「いいえ、お役に立ててよかったです」

 なんか、様子が変な気がする。けど、深入りするわけにも行かない。私はもらった道順メモをしまって、言う。

「やっぱり、ビール、いただけますか」
「はい、よろこんで」

 気分転換が、必要だと思った。



§§§



 |花鹿《かじか》様はいつも空をみあげている。あなたが空そのものみたいなものだというのに、空に焦がれるようにいつもいつも空を見ている。いや、知っている。見ているのは空じゃない。焦がれているのは本当なのだろうけど。
 |花鹿《かじか》様が見ているのは、|阿祖《あそ》様だ。空を支える巨大な山、麓に住む人間たちはその山を『阿祖山』と呼ぶ。あれくらいに大きい山は、すなわち神様。そして|花鹿《かじか》様も、その阿祖様と一緒に神様として奉られる山の一つ。『阿祖見山』とか『小阿祖山』とか呼ばれている|山《神》の顕現。元々は大昔に捧げられた人間の娘なんだけど、もう神様に作り変えられてしまっている。ヒトと同じようには歳も取らないし、ヒトであった頃のことはもう覚えていない、ヒトと同じような食事ももう摂らない。この山のあらゆる存在を意のままに従える、全き神様だ。
 私も、その「従う」者の、ひとつ。
 |花鹿《かじか》様は、阿祖様に焦がれている。その様子をして、人間が阿祖見、と呼ぶようになったのだ、無理もない。阿祖見山と阿祖山であれば、お似合いもいいところの二人。勿論、阿祖見様から阿祖様を見上げればその見事な御姿を見上げることは出来るが、もう少し離れて見れば、この二人が並んでいるところだってそれは、他の神様達でも羨むような、綺麗な光景なのだ。
 だから、|花鹿《かじか》様が空を見上げているときは、私達は声をかけることが出来ない。その御姿に違わず、空を見上げる|花鹿《かじか》様は、恋する乙女に相違なくて、とてもそれを邪魔してはいけないんじゃないかと、思わされるから。

「どうしたの?」
「あ、っ、その、」

 ぽう、と見惚れていた。見惚れていたと言いながら、|花鹿《かじか》様が振り返りこちらに視線を向けてらっしゃることに気付かなかった、妄想フィルタが視界を覆い隠していたみたい。

「恥ずかしいところを見られちゃった」
「も、申し訳、ありません」

 肩を竦めて舌先などちろりと出す仕草はとても可愛らしい。ああ、私、なんて畏れ多い。私なんて|花鹿《かじか》様から見れば虫けらでしか無いと言うのに。

「『どうしたの』?」
「あ、はい、その、ヒトが木を伐って、山を削っています」

 改めてもう一度同じ言葉を繰り返させてしまった。平伏して、伝えるべきことを伝える。
 人間が阿祖見の山に立ち入り木を伐り倒し、斜面を削って畑を作っている。人間は、山を神様と崇めておきながら、山の体を削って自分のものにしたりそこに生きる動物や木を奪っていくこともある。何をして区別しているのか、神様の山と神様でない山があるのだという。冒涜と崇拝の両方を同時にさも当然という顔でやるのが、人間という生き物の不思議なことだった。
 ここには遥か西からやって来た人間と、北東からやって来た人間が一緒に住んでいる。『阿祖』とか『阿祖見』とかって名前は、本当は海を越えて西からやって来た人たちが付けた名前。西から人がやってくる前に何と呼んでいたかはもう憶えてない。言葉らしい言葉が、この地にはなかったから。山はどれも大きくて、指差すだけで見れば個体識別が出来るから、『あれ』とか『おおきいやつ』とかで済んでいたのだ。北東の方からやって来た人間は何かから逃げてきたみたいだけれど、利害が一致したらしくてここで一緒に暮らしているみたい。
 まあ、人間の暮らしがどうであるかなんて、私達には関係のないこと。でも、|花鹿《かじか》様を、阿祖見山を傷つけていることは、私にはどうにも許せなかった。でも、|花鹿《かじか》様は。

「じゃあその辺りには熊や蛇が行かないようにしなくてはいけないわね」
「えっ、追い出さないんですか?」
「彼等はちゃんと、山と|吾《あ》れを敬ってくれる。捧げ物も、祈りもくれる。人間に恵みで報いてやるのも、神様の務めよ」
「はい」

 なんてお優しい。だって、山が削られるということは、|花鹿《かじか》様の体そのものが傷つけられるということだ。木を伐られればその分痛みもあるだろうし、斜面を耕されるなんて想像もしたくない。それでも人間に優しいのは、元々が人間だから、というわけではない。この阿祖見の山の持ち前の気性が、穏やかで慈しみ深いのだ。

「そうか、そなたは|吾《あ》れを気遣ってくれたのね。ありがとう」
「あああああありがとうだなんて、却って畏れ多いですあわわわ」
「もう、そなたはいつまでもその調子なのね。もうそんな必要はない立場でしょうに」
「滅相も御座いません! 私などただの虫けら、お山の前には比べるべくも」
「|吾《あ》れの前ではヒトの王も、そなたも、変わらぬ。そなたは礼を欠いたことがない、身分もそのような卑しいものではなかろう。少しは自分の立場を自覚せい」
「は、はひ……」

 阿祖見――|花鹿《かじか》様はこういうお方なのだ。山神らしく尊大ではあるが、そのその尊大さを使って無理やりにこっち側の目線まで下りてこられる。
 それでも私は、|花鹿《かじか》様に顔向けできないような畏れ多い感情を抱いている。知られれば恐らく消される。|花鹿《かじか》様からだけではない、阿祖様からも、他の神様にも、勿論この山に住まうありとあらゆるものに、処刑されるだろう。

 私は、空を見上げる|花鹿《かじか》様の姿を後ろから見ながら、その向こうに見える阿祖様に、嫉妬していた。つまり、そういうことだ。

 それでも、|花鹿《かじか》様は、私を傍に置いてくれることが多い。それは私にそんな感情があることに気付いていないからだろうし、ああは言っていたが、私のことを下僕や小間使いと同じ程度にしか認識していなくて、私の持つ光を玩具として気に入っているからに、違いないのだ。それくらいは、自覚している。でも、この感情を外に出さずにいれば、精々飽きるまでは傍において頂ける。それで、私には十分だった。

「ねえ御覧なさい。阿祖様、今日もお美しいわ」

 |花鹿《かじか》様が、空の上と言わんばかりに高い山のてっぺんを、指差す。力強く雄大な、阿祖山。それを見る|花鹿《かじか》様の横顔は美しくて、阿祖様を見つめる視線は恋する乙女のそれ。

「ええ、そうですね」

 でも、気付いていないだろう。あなたがその山を見るのと同じ視線で、私があなたを見ていることを。
 行き止まりの感情、でも、私はそれでいいと、思っていた。



§§§



 こんな時間に誰だろう、なんていうと死亡フラグらしいけれど、まあ実際にそんなことは無い。
 晩御飯を探して川の畔をうろうろしていると、後ろから誰かがやってくる。四足の獣が、ボクと同じように獲物を探してか、あるいは水を飲みにここまでやってくるときの感じに似ている。
 それならそれでかまわない。弁えた野生鳥獣なら、ボクの姿を見たら引き返していくだろう。気にせずに食事探しをしていると、がさがさとの音は大きくなって、それはすぐ後ろに現れた。大きさにして、熊か何かだろうか。ここは今ボクが食事をしているところだからよそへお行き、そう返そうと思って振り返ったところにいた姿は、熊ではなかった。

「楓?」

 やあ、そういってニッカリと笑う楓、たしかに獣には違いないけど、ちょっとレベルが違うのが出てきた。こんな時間にどうしたんだろう、結局最初のと似たような疑問が浮かんでしまう。

「今日の僕は間男だ、新妻さんが月にいっぺんの人間狩りリサイタルに行ったのを狙って、僕がやって来た、そういうこと」
「自分で間男っていう間男初めてみたよ。どうしたの、こんな時間に。見ての通りボクは今晩御飯中なんだ、まだ捕まえてないけど」
「だから、間男だと言ってるじゃないか。意味、知らないでゆっている?」

 しってるけど、え、なに?

 ボクがキョトンとしていると、小さくジャンプした楓がボクに覆い被さってきた。

「えっ、ちょおぉおっ!?」

 すぐに、唇を奪われる。あれ、楓の唇って、男の子なのに甘い。
 なんて思ってると、舌がどんどん入ってきて口の中をかき混ぜられる。ボクの上で彼の腰が動いていて、お腹や、おへその辺りに、固いものが当たっている。

「か、楓、なに」
「だから、こないだゆったじゃないか、お礼は頂くよ」
「はあ!? 楓ってソッチだったのぉ!? こないだのは冗談だと思ってたのに!」
「それはこっちの科白だよ、キミこそ本当に男なのかい? そんなに可愛い顔して、可愛い声して、まるで男のふりして男に食べられに誘い受けしにきた牝みたいだよ。全く、僕だって最初は『そんな』筈ないって思ってたんだ、キミが男だってことは知ってるからね。でも、リグルを見ていると無性に欲情するんだよ、理性はわかっていても、体の方はキミを女の子だと勘違いし続けてる。罪な虫だね」
「なんかツラツラともっともらしくヘンなことを言わないでよお! や、ほんと、楓の、あたっ、てるってば……」

 楓が腰を動かして、きっと大きくなってるおちんちんをボクのお腹やおへそや……股の間にくりくりと押し当ててくる。どんどん硬くなってる。そんな風に押し付けられたら。

「ふふ、なあんだ、キミだってその気になってくれてるじゃないか。夜這い受け入れ準備できてるってことだね」
「ま、って、ちがうよ、これは」

 違う、の、だけど、違わない。
 楓の舌が、ボクの首の付根をぺろぺろ舐める。ボクの上で腰を動かしているだけだと思っていたのに、気づかないいつの間にか、彼の手はボクのブラウスのボタンを外していた。中のシャツをたくし上げられて、おなかと、胸元が剥かれてしまう。

「大丈夫、男同士のやり方はちゃんと勉強してきたから。僕に任せて」

 楓の、男としては高めだけど、決して女の子のそれではない声が、ボクの気門をびりびりと震わせる。女の子からされる甘いのとは違う、ぞわぞわと震えて痺れるように入り込んでくる声。
 そのまま耳たぶを舐めて濡らされた後、はみはみと甘噛される。

「やっぱり。男のくせに、すごくいい匂いがする。ここからは異性を引き寄せる匂いが出てるんだ、でもキミの匂いはちょっと特別だね。男の僕でも……食べてしまいたくなる」

 そう言って耳の中をぐちゃぐちゃに舐め回される。舌の感触だけじゃなくて、唾液がいっぱい注がれてるのがわかった。耳朶が楓の口愛撫でべとべとになるころには、ボクにはすっかり抵抗の意志がなくなっていて、それどころか迷いがちにだけど彼の背中に手を回してしまっていた。触角が、ボクの意思とは関係なく楓の体をつんつんと探り、彼の匂いを覚えこんでいく。ボクの体の中では耳や鼻より、あるいは目よりも権利の強い感覚器、楓の、狼特有な野性味がありながらもちゃんと手入れされた、少年の性臭。

(おぼえちゃうよお)

 ローリーのエッチな匂いも、チーやルーミィの恥ずかしい匂いも、それに幽香さんのアソコのニオイもしっかり覚えてる触角が、次に憶えてしまうのが、男の子の匂いだなんて。
 背徳感と言うには言葉の持つイメージに対してひどく安っぽい、でも正常な感覚に抵抗しながらそれを心地よいと思ってしまうようなべっとりと甘い優越感のようなものが、鼻の奥から額のあたりに溜まって後頭部へ染み出していく。
 躊躇いがちだったはずの、彼の背中に回した腕は、いつの間にかしっかりと楓の体を抱き寄せていた。恥ずかしくて彼の方へ視線を投げることは出来ないが、彼がボクを真正面から、舐め回すように見ているのを感じる。その視線だけでも皮膚がちりちり焦げ付くみたい。

「ほんとに、女の子みたいだ」

 そう一言言って、彼は乱暴に貪り付くようなキスをよこした。ボクの体は素直にそれを受け入れ、唇の舌で歯はもう解け、その奥で舌は彼を待ち構えて期待に唾液を増している。あっという間に唇が押し付けられて、舌が入り込んできた。開いてある顎を迷いなく進み、ボクの舌を彼の舌が捕まえた。
 楓の体温が上がっているのが、わかる。とくとく脈打つ彼の心臓も、どんどん強くなってる。きっとボクも。男の人相手に、こんなにときめいてしまうなんて。楓だから? それともボクが元々そういうケがあるのかな。自覚が無いわけじゃ……ないけど。

「かえでに、こんなに、どきどきするなんてぇ……」

 自分でも信じられないくらい、トロけた声が出た。朝までした時とか、徹底的に焦らされたときとか、そんなときに無意識にでちゃう媚びた声が、キスだけで出ちゃうなんて。
 はずかしい、と思った刹那、楓の口がボクの顎関節の付け根の辺りに吸い付いてきた。そのまま喉に何度も吸い付いて来て、ちゅうちゅうと音が聞こえる。首筋、喉仏の辺り、顎の先、頬、耳の裏。唇を避けられながらされるキスは、こっちからしている感覚が無い分、まるで自分が無性に求められているような感じがする。事実、そうなのかもしれない、楓の、ボクの腕を掴む手の力はすごく強くて、絶対に逃がさないと言われているみたい。所有権を主張されているみたいで、ぞくぞく、その感情が気持ちいい。
 首の周りや鎖骨、顎へ執拗にキスの雨をもらいながら首を反らせていると、彼の手が股間に伸びてきた。すっかり固くなってしまっているボクのそれを、ズボンの上からすりすりと触ってくる。掴む程でもない、でもただ掌で撫でるでもない、包み込むみたいにして撫でられるとその掌の中で思惑通りに、なんどもびくびく跳ねさせてしまう。もっと、つよくして、って、おちんちんが勝手に主張してしまう。
 犬同士がじゃれ合って噛み合うのとまるで同じように、楓の歯がボクの喉元に甘く突き立てられる。痛くない、それどころか唇と舌で舐め回されて、甘鋭く入ってくる犬歯の感触は、官能的な刺激。いつの間にか、彼のキスは口元にも戻ってきている。舌を絡めるとさっきと違って粘っこい唾液が絡みついてきた。きっと上がった体温と、刻まれている呼吸が、そうしているのだろう。彼の本気が流れ込んできてるみたい。
 はっ、はっ、はっ、って、細切れに荒い息遣いが、胸元から聞こえてくる。楓の息遣い、本来の犬のそれみたいで、同時に、ボクを求めて必死になってるようにも見えて、きゅんってなる。『僕に任せて』なんて強がっていたのに。そのギャップを思うと楓が可愛くて可愛くて堪らなくなる。彼は、女の子みたいな外見というわけではない、殊更中性的というわけでもない。ただ、若い白狼天狗に見られがちな幼気の残る少年チックな容姿。彼も別にそういう気性の持ち主ではない。可愛い、なんて言ったら、きっと怒るだろう。

(でも、かわい)

 ボクを必死に押さえ付けて、何度もキスをくれて舐め回す。いいよ、もっと、楓、したいようにして。彼がボクの体を弄んで触れて重ねて来る度に、ボクは何もかもを「されて」いるのに、まるで「やらせている」みたいな歪んだ優越感と欲情が湧き上がってくる。

「楓、おちんちん、もっと強く、シて……?」

 彼の手の中でむずむずと勃起しているものに愛撫を請う、いや、命じる。ほら、彼の手はその通り、ボクを感じさせようと愛撫奉仕してくるのだもの。
 ズボンの上からボクのおちんちんを掌に押し付けて指で挟むようにしていた楓は、ズボンの前を器用に外してぱんつの中に指を入れてくる。

(さわっちゃうんだ……直に、ボクの)

 ぞくぞく、電流が下半身を旋回するように駆け巡っている。先端の敏感なところに、楓の手の感触を期待してむずむずの感触がわだかまっている。ぱんつの中に滑り込んできた彼の手が、いよいよ、触れた。

「きゅぅっ♥」

 変な声が出た、ガチガチに勃起して先走りまでトロって出てる先っちょに楓の指が触れたのだ、もうそれだけでも腰が浮いちゃう。

「リグル、キミ、濡れてるじゃないか」
「そう? ……なんで、かな……?」

 ボクの胸の上に乗っかるようにして、手をボクの股間に差し入れている楓の方を、挑発するみたいに見つめてみる。いつもはボクの身じろぎ一つだって見逃さない眼力を発揮している彼の目が、余裕のない様子でボクを見つめていた。不安そうな、でも期待しているような、ボクの視線を感じるとまるで降参したワンコみたいに顔と目を逸らして、でもちらちらと目だけでボクを窺ってくる。

「なんで、ぬれちゃってると、おもう?」

 楓は息を荒くして、もう一度貪り付くようなキスをしてきた。前歯が少し当たっちゃったけれど、そんなの気にならない。楓は何かに取り憑かれたみたいにボクの口の中を舐め回して、唾液を吸い出して注いで、舌を蠢かせて、でも最後にはボクに舌を甘噛されてすっかり蕩けた顔でボクのカウンターキスに震えている。
 彼がボクにしたように、彼の服の中に手を滑り込ませて、胸のあたりに指を這わせてやると、ぷっくりした乳輪が指先に当たった。その周囲を円を描くようになぞったり、指の腹で擦ったり、たまに爪先を立てたりすると、ツンと這った乳首が先端で背伸びし始めた。

「楓だって、女の子のおっぱいになってる」
「ち、ちがっ……くぅっ!」

 否定の言葉を遮るように、乳首を摘んであげる。きっと少し痛いだろうけど、わかる、今の彼にそういう痛みは、快感な筈だ。
 その証拠に、彼はボクの乳首愛撫を受けてボクの股間を弄る手を完全に止めていたし、半開きの口で吐息を刻んでボクに胸を弄られるままに、蕩けた顔と目がまるで媚びて誘うようにボクの方に向けられている。心なしか胸を張るように前に出し、進んでボクに弄られているようにも見える。

「手、止まってるよ?」

 ボクの声を聞いた楓は、うたた寝から目を覚ましたみたいに慌てて半開きのままになっていた口を結び直し、ぼくのモノをにぎにぎと触る。

「んっ、ふぅっ」

 楓に触られて、ボクはつい腰を揺らしてしまう。手でしてもらうのが初めてというわけではないけれど、人それぞれ触り方があるみたい。楓の触り方は控えめで、ボクの様子を窺いながら。それが、やがて上下に擦るような動きに変わった。
 もう少し、つよく。そう思ったボクの胸中を彼が読み取ったとは思わないけどきっと、察したか、感じたか。楓は男の子だから、ボクがどうされたいのかきっとなんとなくわかっているのだ。男の性欲がどうやってせり上がって、どうやって膨れ上がって、どこで爆発するのか。どうやって舞い上がって、どうなってしまいたいのか。それに必要な一つ一つの機微を。

「かえでっ」

 声が上ずってしまった。まるで欲しいってねだる代わりみたいな、裏返った声。勿論楓がソレを聞き逃すはずもなく、彼は熱っぽい視線をボクの目に挿しっぱなしにしたまま手の動きを加速させる。先走りが漏れて彼の手を汚していく。指に絡んだヌルヌルが、擦れる自分のおちんちんに返ってくるのにボクはすっかり酔い痴れてしまっていた。

「り、リグルこそ、手が、とまってるっ」

 楓の声も慌ててボクを急かしているみたいな、切羽詰った色。垂れた眉、潤んだ目、甘い吐息を細かくこぼす、形の良い唇。上気した頬。ハスキーな切な声。乳首を弄ってほしいのかなと思ったけれどソレは違うとすぐにわかった。ボクのおちんちんをすりすり触りながら、まるでその動きと連動するみたいに、彼の腰が揺れている。ショートパンツの内側ですっかり膨れ上がっているその先端が突き立っているのが見える。ボクのを擦りながら彼は自分のものをぱんつの布地に擦りつけているみたいだった。きっとそれでは全然物足りないんだろう、それを満たしてほしいって、えっち欲の熱でとろとろになった彼の顔が物語っていた。手が止まっている、とボクを非難するのは、そこを触って欲しいって、ことみたい。
 ボクは、自分がされているみたいに彼の股の間に手を伸ばす。白い装束のショートパンツの舌でかちかちになってる膨らみを指でなぞると、彼は腰を出してボクに近付くように座り直して、もっともっとと言外に要求してきた。

「楓、ぬいで」

 ボクのぱんつをズリ下ろしておちんちんをすっかり露出させて触っていた彼に、同じ姿になるよう要求する。彼は、元から上気していた顔を真赤にして目を逸らし、顔を少しそむけたまま、立ち上がった。ボクの方にお尻を向けたまま半ズボンをおろそうとするのを

「こっちにみせて」

 と少しだけ強い口調で止める。叱られた子供みたいに手を止めて、恐る恐るとボクの方に正面を向ける楓。恥ずかしくて泣き出しそうな顔、ちゃんと見ると女の子みたいに長い彼のまつげに羞恥で滲み出た涙の粒を湛えたすごく可愛い目を伏せて、ショートパンツを掴んで下ろす。褌タイプのぱんつが、すっかり大きくなってる彼の先端に引っかかって、おちんちんがお辞儀。そのまま下ろして通り抜けると、ぷるん、と跳ね上がった。

「かわいい」

 思わず口に出すと、それだけで彼の膝は崩れてボクの上に覆い被さるように倒れる。ボクの体と彼の体の間で存在を主張する楓のおちんちんに手を伸ばして、優しく包み込んであげる。彼の体が、びくん、と震え上がった。

「っ! あ゛っ、ん゛ぅっっん! 〜〜〜っ、〜〜〜〜っっ! っはっん!」

 手の中に、ひんやりとしたゼリー触感が広がる。どぷ、どぷ、、、どぷっ。

 ボクの首ったまに頭を突っ込んで、震えながらボクの首筋に歯を立て甘い声を漏らす楓。彼の射精を感じた手が、じん、と気持ちよく思える。手と指に何発も噴き出し絡みつく楓の精液。ボクは射精が続いているうちから、彼のおちんちんに追い打ちをかけていった。彼自身の粘液を絡め、ぬめぬめになったおちんちんをもっともっと握って擦る。

「お゛っ♥ あ、あっ♥ リグル、うぁ゛ぁっ♥ まって、リグル、出っ、だめ、だめっっ! だめだからっ! もう僕、ちんちん、だめ♥ ちんちん溶けちゃうっ♥ あつい、きもちぃぃ! イってるの、続いてっ……とめ、とめてえっ! 熱い、亀頭じんじんあつぃぃっ! んもぢ、いっ、リグル、ちんちんとまんないよぉ♥ シコシコだめ♥ もう、おかしくなるぅっ♥」

 彼がほんとに蕩けきったサカり声を上げてボクにしがみつく間に、ボクの手と体には、何発も彼のおちんちんアクメ汁が飛び散っていた。ぬるぬるの精子を何発も吐き出して、でも勃起は全然収まらない。

「楓ったらぁ♥」

 彼の顔を挙げさせる。彼の表情は、もうぐちゃぐちゃに蕩けていた。鼻の下を伸ばして涎を垂らして、脳髄の奥まで染み込んでくるおちんちん射精の快感に震えている。その顔を引き寄せて、キスした。唇同士が触れただけで、楓のおちんちんはもう一発精液を噴出させた。

「ちゅっ、ちゅうっ♥」
「ん゛ぶっ んぼ、ぶふっ ぶちゅっ♥」

 イキっぱなし(ボクがとめてあげないんだけど)の彼の唇には締まりがなくて、ユルい口同士の接合線から二人の唾液がとろとろ漏れ出してしまう。舌はボクの口の中に垂れ込んでいるけどボクが弄ぶままになっていた。
 彼のおちんちんはボクの手の中で何度も跳ねて震えているけど、もう精液は出ていない。だしきっちゃったかな。おかげでボクの手とお腹の上は彼の精液でべったりだ。

「はー♥ はーっ♥ はーっ♥」

 ボクの上に倒れ込んだまま恍惚に沈んで、ヨリ目のまま犬みたいにベロを垂らしてぴくぴく震えてる楓。

「楓、イクときの顔可愛かった♥」
「待っ……りぐ、僕、ま、だっ」

 まだ体がふにゃふにゃの楓を、くるりとボクは仰向けにする。彼の膝の下に手を入れて膝を持ち上げて股を左右に割った間に体を押し込んだ。残った上半身の衣服を剥いて、ボク自身もブラウスをポイと投げ捨てる。ボクの眼下に、イッてすっかり可愛らしくなった楓の裸体。ボクもすっかり裸になる。
 男同士なのに全裸同士で、肌をくっつけあっている。彼の脹脛を持って足を上げさせて、足を肩に抱えるようにしてもっともっとくっつく。まだイケてないボクのおちんちんはエロ可愛く蕩けた楓を見て今もガチガチで、股を割って間に押し込んだ体を密着させると、あそこ同士が接触した。勃起して天を指してるボクの、付け根と袋の間辺りに、射精を終えてふるふる小さく揺れる楓のおちんちんの濡れた先っちょが、触れる。押し付ける。擦り付ける。

「楓の、当たってるよ」
「リグル、ああ、っ、そんなことされたら、また、僕っ」

 目を合わせてくれない楓に無理やり正面を向かせてキスした。彼の口の中を容赦なく蹂躙して唾液を注ぎ込む。密着度合いを増す二人の肌、腰を揺らすとボクの竿の根本で楓がまた元気を取り戻していく。もっともっと腰を押し出して彼のペニスにボクの陰部を擦り付けると、楓は完全復活してまたびくびく跳ねさせている。そのまま続けると彼はまた達してくれるだろうか。ぬめりを吐き出し続ける先端に、玉袋を擦り付けると、彼はまた苦悶の快楽顔に溶けていく。
 ボクの体で、彼のペニスが果てる。その瞬間の可愛い楓の顔。鼻の下を伸ばして焦点の合わない目を揺らすだらしない表情。何度でも彼をアクメに導いてあげたい。そう思ってしまうけど、でも、今度は。

「こんどは、ボクがイカせてもらう番だよ……?」

 だってボクもイキたい、楓の体で、ボクもいっぱいおちんちんイキたい。さっきの楓みたいに気持ちよくって何も考えれなくなって朦朧としたい。楓の体に溺れてみたい。
 ボクは腰を引いて陰部同士の摩擦を我慢する。ボクの手、お腹、おへそにたっぷり出された彼のザーメン。それにボクの先走りでベッチャリに濡らした指を、彼の股に運ぶ。おちんちんを握ってちょっとだけ刺激して上げると「ふぁぁぁ」って可愛い声が聞こえてきた。でもそこじゃないんだ。そのまま裏筋に指をなぞらせるようにして更に移動。今はきっと空っぽになっちゃったかな? 彼の可愛いたまたまを触って、更に蟻の戸渡り……そして。

「り、ぐる……そこは」
「男の子同士でせっくす、どうやってやるのか、調べたんでしょ?」

 お尻の穴の周りに、たっぷりとぬめりの元を落としていく。放射状にシワをすぼませ、シワごとにぷっくり膨らむつるつるのお肉を、指先に感じる。そのすぼまり向けて、彼自身の精液を塗りつけてあげた。

「ちから、ぬいて?」

 ボクがそう言うと、彼は素直にお尻の穴の力を緩めた。ぬるぬるになった蕾を指の先でつついたり少し押したり、周りをなでたり日本の指でくつろげるように力を入れたりして、彼のアヌスを撫でほぐす。つん、つん、と指で押し込むと、力が抜けた菊穴に指先が入り込んだ。

「く、ふぅっ」
「もうちょっと、そう、|出す《・・》ときみたいに」

 更にぷっくりが膨らむ彼の穴。入ってすぐの部分は、本当にふわふわの内肉と、入り口を締めるキツキツの唇が共存している。もう少し奥まで入った指は、ふわふわしたお肉の向こうに感じる硬い筋肉を感じていた。そこを無理にほぐす必要はない。ほんの少しだけ指を曲げたり、揺らす程度に指を前後すると、もう一度立ち上がった彼のペニスから透明な汁が糸を引いて滴った。

「はーっ、はーっ……んぐっ、きゅぅぅっん!」
(みつけちゃった♥)

 ここだ、彼の、よわいところ。ボクは目的の『宝物』を見つけたことで満足して、指を少しずつ抜いていく。ヌルヌルはまだ続いていて、ボクの指はにゅるりと彼のお尻の穴から拔け去った。最初ぷっくり膨らんですぼまっていた肛門と菊皺は、一層物欲しそうに今度は口を開いたままひくついている。もう一回、なかにあげるからね。
 わんこの腹見せ降参ポーズのまま、お尻の穴をホジラれて期待に疼いている楓。舌を出して真っ赤な顔ではっ、はっ、って息をして、潤んだ目で物欲しそうにボクを見る。

「じゃあ、男の子同士のセックス、しちゃおっか」

 そう、言うだけ言って彼の答えを聞く気なんてない、聞かなくたって答えはYESだし、NOって言っても始めちゃえばきっと翻す。ボクはおちんちんの先を、ほしがりにひくひくなってるお尻の穴にあててる。

「りぐ……」
「えい☆」
「ほぐっ♥」

 にゅるっん! 初めてとはとても思えないスムーズさ。ボクが初めてお尻をされたときは、こんなにスムーズじゃなかった。痛くて違和感が辛くて、なれるのに小一時間かかったけれど、楓は違うみたい。
 入った瞬間に、彼自身自覚しているだろうか、彼の表情には満足そうな色が浮かんでいる。眉が垂れ涙で潤んだ目、伸び切った鼻の下、でも口元が薄く、笑っている。ふわふわの耳がぴくぴく動いて可愛い。ぱたぱた動くしっぽが、後ろからボクのお尻や腰辺りに触ってくる。あ、これって気持ちいいかも。

「さっき、楓の弱いトコロは見つけちゃったからね。いっぱい、そこ、してあげる」

 彼の可愛らしくハミ出た舌を指でつつくと、口が自然に開いた。指を口の中に入れると彼はちゅぱちゅぱ吸い付いて、指に舌を絡めてまるでフェラチオしてくれてるみたい。指なのにすごく気持ちいいし、そうやってボクに奉仕している彼がすごく愛おしい。責任を持って気持ちよくしてあげなくっちゃ。
 ボクは腰を押し出して、彼の中に深く侵入していく。勿論角度を調節して、彼のオトコノコGスポットに狙いを定めて。

「はーっ、はーっっ♥」
「ぐんぐん入ってくよ、楓のおしりまんこ、ふわふわできつきつで、すごく気持ちい♥」

 彼の直腸をぬるぬると進んでいくと、一番最後まで入り切る前に先端が奥に当たった。ぷっくりとハリのある膨らみが先端を迎える。ここがきっと、彼のオンナノコスイッチ。
 彼の可愛いオンナノコ♂声を阻害しちゃもったいない。名残惜しいけど指フェラはおしまい。そのかわり、ホンバン。

「楓ってば普段はあんなに|おすましくん《…》なのに、えっち始めたらいきなりすごく可愛い。どっちがずるいんだか」

 体を倒してくっつけて、キスしようかと思ったけど、入ったままだと遠くて無理そう。彼の足を持ち上げて脹脛の脇あたりに口づける。普段山歩きしてるから、細いのに脹脛の上辺りがきゅって丸く引き締まってる。今ははじめてのおしりえっちで力が抜けてないからか、可愛く内股気味になっていて、力が入ったように足先まで伸び切って脹脛のちからこぶもコリコリ可愛くシコってる。

(楓の足ってかわいいな……)

 太ももから脹脛までの曲線が妙にえっちだし、足のかたちがなんだか丸っこくて可愛らしい。山歩きで擦れたり打ったりしてるのかと思っていたけど、筋肉は発達してるのに傷は全然なくてすごくきれい。天狗様ってずるい。
 突く、ってほどではなくてただ中を徒に動かして揺らすみたいな腰の動きで楓に慣れてもらいながら、ボクは楓の脚にいくつもキスマークを刻んでしまう。こんな部分を人に見られたりはしないだろうけど、見られたらなんて言うつもりかな。ヤマビルに取り憑かれたとか、ダニに食われたとか、しどろもどろになって見え見えの嘘を付くだろうか。楓のそんな様子を想像したら余計に可愛らしく思えてきた。

「おちんちん触っちゃだめだよ。ボクも触ってあげない。楓はこれからおしりで気持ちよくなるんだからね。エッチな声出してオンナノコみたいにイッちゃうの」
「そ、そんら」

 乳首ならイジっててもいいよ、っていうと、切ない顔で目を背けて、ボクに言われたとおりに胸を触っている。ほんとにしちゃうなんて、きっと実際に感じているわけではないのだろうけど、『いわれてそうさせられてる』って思うと興奮しちゃうタチなのかな。わかるよ、それ♥

(うわぁ、男の子が乳首自分でいじってるのって、すごくえっちだぁ……ボクもこういう目で見られてたのかぁ……)

 自分がされていたことを目の前の相手がすることで、客観してしまう。すごく恥ずかしいのと、すごくえっちなの。目の前の楓に興奮もするし、今後もう一度誰かに同じようにされてしまうときには、一層興奮もしてしまうだろう。
 楓の乳首オナニーを見せつけられてボクも気が急いてきてしまう。もう一回押し込むために腰を一旦引いみたら、楓のおしりの内側がすっごく絡みついてきた。

「う、わぁっ……」

 入り口はきゅうぅって締まって搾り取られるみたいなのに、内側のお肉はふわふわでぬるぬるで、それが色んな方向から不規則にボクのおちんちんに絡みついてくる。少し擦れると離れて、別の面から次の膨らみが触る。気持ちいい先端が大きく波打つヒダヒダに包まれて、気を抜くとボクの方がヤられちゃいそう。
 せっかく油断して夜這いしてきた楓にあっさりとリバれてるのに、そんなになってしまってはもったいない。ボクは直腸ヌルひだの感触を我慢しながらもう一度腰を押し込んで、楓の|前立腺《Gスポット》を押し込む。

「ふぁ、ぁあ、そ、そこ、だみぇへ」
「ゾクゾク、くるでしょ、おちんちん触らなくっても、根本のところ、響くでしょ」

 腰を引いてまた押し込んで、楓の弱いところを何度も何度も執拗に押し込む。衝く。がつん、って入れてから先を当てたままぐりぐり押し込んで、突き当てる角度も微妙に変えながら。その度にボクの方も楓の|直腸《おまんこ》に包まれて擦られて、かなり、ヤバイ。我慢しながら、楓の前立腺にピストンご奉仕を続けた。
 その間も楓はしっかり乳首オナを続けている。これじゃ楓、憶えちゃうなあ。

 ぐりっ、ぐりっ、こつん、ばちゅん、ぱちゅっっ

 すごく素直でいい子なアヌス。すっかり広がってボクの太さ(大きくはないけど……)に慣らされて、きっちり咥えこんでいる。押し込むときには入り口が開き、内側の柔らかい直腸粘膜はぬるりと包み込んで閉めてくる。抜くときには少しだけすぼまって、仮首の返しに気持ちの良い抵抗を加えて、ボクを喜ばせてくるすごくエッチな男の子まんこ。とろとろぬるぬるボクに絡みついてくる。締め付けてくる。

「楓、もっとはやく、するよ」
「だめ、だめ、だめ」

 楓ったらさっきから「だめ」しか言ってない。でも顔は嬉しそうで、声も吐息もピンク色。喘ぎ声がどんどん大きくいやらしくなってきてて、触ってないおちんちんの先からは透明な液体が糸を引いて途切れなくなっている。
 堪らない。ボクだって、こんな風に気持ちよくなりたい。楓を気持ちよくしてあげるのは、シテあげたいけど、ボクだって、おちんちんもっと激しくしたいのに。がまん、出来ないよう。
 ボクは自分がイッちゃうかもしれないのを顧みる余裕を失って、もう、腰を暴れさせてしまう。

「か、楓、やっぱ無理、楓のこと気持ちよくさせてあげようと思ったけど、無理っ♥ ボクだって楓で気持ちよくなりたいもん♥ 楓の中に入ってるおちんちん、もっとずぼずぽうごかして、おちんちんもっと気持ちよくなりたいもん!」
「りぐゅぅっ♥」


 来て、と言葉を紡ぐ余裕がなくなってる楓が、ボクの方に腕を伸ばして蕩けきった顔でボクを見つめてきた。そんな可愛いおねだりされたらボク、抵抗できないようっ……♥
 我慢できなくなっちゃったボクはもう楓に遠慮も気遣いもなく、ボク自身にも見栄も恥ずかしげも気にせず、腰を動かしまくってしまう。ぐちゅぐちゅ音がなる位らいフィットしてるボクと楓のオトコノコセックス。彼の中を色んな角度から衝いて擦って、それに彼の|Gスポット《牝スイッチ》を押しまくる。ぷっくりしこしこ張ってる前立腺の膨らみに亀頭の先端を、仮首の縁を、いっぱい押し込んで擦って、動かす。開いたお尻お穴の隙間からぐぼぐぼやらしーおとが聞こえて、その度に楓のおちんちんから愛液がとぷんとぷんって溢れてくる。すごい量。

(おちんちんの根本、びりびりぞくぞく、きもちーの来てるんだろうなあ。あんなにえっち汁たらして、きもちいいんだ、きもちいいんだぁっ)

 おちんちん入れて責めてるのはボクの方なのに、楓のおちんちんとそのオクに響いてるおんなのことおとこのこの快感両方が混じったような未分化な快感。射精して吐き出したい外向きの快感と欲求でもあるし、男としては本来ありえない内側に向いて収縮していく快感と欲求でもある、言葉に出来ない快感。浮遊感、幸福感。しってる。それがいま、楓の体の中をぐるぐるうずまいて、理性をとろとろに溶かしている。おちんちんの先から出てきてる透明な液体は、頭の中で融解した正常な理性と思考。それがあんなに溢れて出てきちゃって、楓、今すっごく。

(きもちいいんだろうなあ、しあわせなんだろうなあっ♥)

 彼が溺れている快感を自分のものとも想像しながら、それに加えて彼の無自覚エロな肉襞締め付けがおちんちんを責めてくる気持ちよさにも酔ってしまう。彼が愛液ところてんしてるのと同じように、ボクも楓の中で牡愛液を一杯吐き出しちゃってるの、自分でわかる。

「楓、きもちいっ、楓の|おまんこ《・・・・》、ボクのと相性いいみたいでっ、我慢できなっ♥ 射精、するっ♥ 楓のオマンコにナカ出ししたくて、我慢出来ないっ♥ 楓の中に出すからっ、だすからぁっ♥」

 ああもう、だめ。ボクも、めちゃくちゃに腰を動かしちゃう。楓の中に射精したい、射精したい。めちゃくちゃに腰を振って、ナカをかき混ぜて、ぬるぬる楓粘膜に擦りつけておちんちんかいかんに素直になってしまう。楓の可愛い様子に刺激されて、ボク自身のおちんちんに負けてしまう♥

 ぐちゅっ ぐちゅっ ずっ、ずっ、ぬっっ

「はふ、ふああっ、ん、楓、かえでえっ、孕んで、ボクの赤ちゃん、孕んでっ♥」
「はら……なに、いっへ、りぐる、キミ、僕は、おとこほぉぉぉっ、おっほ♥ ほへ、はぅあぁあへええっ♥ しょこ、しょこらめっ♥ はらんひゃう、ぼくおとこらろり、りぐゅのせーしで、はらみたがってるっ♥ はらまへへ、たねぢゅけ、たねぢゅけひへぇぇっ♥」
「かへへ、かへれぇっ♥」

 いじり倒してイチイの実みたいになった楓の乳首は、風に吹かれても快感電流を発する敏感性器になってる。指を伸ばしてひと撫で舌だけで「きゃぅん!」って声を上げて、痛いのかと思ってビックリしたけれど、直後に半開きの口にとろんととけた物欲しそうな目のだらしない顔で見つめられて、すっかり性器になったと確信した。触ることを禁じられた牡茎は、ボクがずんずん衝く度に根本の裏から響き上がる高揚感に翻弄されて液体理性をこぼし続けていた。
 ボクの方もおちんちんをこんな風に下の口ですっかり食べられちゃって、ただの交尾中の虫みたいに必死に楓の体にしがみついて腰を振ってしまう。快感に暴れまわる彼のしっぽは、ふかふかの柔らかい毛並みで背後から腰回りを触ってくる。彼の脚はボクの腰に絡みついてくるし、押し倒しているのに後ろから抱きつかれているようでもあって、身震いするほど気持ちがいい。

「かえで、かえでのおまんこ、きもちいいっ♥ いっぱいでちゃうよ? かえでのなかに、せーしいっぱい、だしちゃうよっ!? だめって言われてもがまんできないもん、楓かわいーし、きもちーし、かわいーし、無理っがまんむりっ♥ かってにこし動いちゃうし、おちんちん我慢できなくなってる♥」
「はへふぃあにぃぁっぁっっぉぉぉん♥ りゅぐりゅぐぅっらむえあらおほぉぼきゅぅうぅっ♥」
「んふふ、かへれ、なにゆってるかわかんっ、ないよぉっ♥ かわいいっ、おんなのこになっちゃったかえで、いつものキリってくーるなかえでが、ざんねんわんこになっちゃってるの、すごいかわーよーっ♥ もっとしたげる、もっとおしりまんこきもちよくてばかになっちゃえ♥ かえで、かえでっ♥」

 ぶしゅっ

 今まで先端からとろとろとくとくエッチな透明汁を垂らしていただけの楓のおちんちんが、勢いよく飛沫を飛ばした。一吹き、二吹き、少しだけ間をおいてから、三吹き。楓の脚が思い切りボクを引き寄せて、彼の背中はのけぞって震えている。噴き出した飛沫は彼の胸から顔くらいまで飛んで、それは少し白く濁っている。

「ほ……ふへ……あっ♥ うしょ、ぉっ、さわって、な、のに……♥」
「でちゃったね、楓♥ でも、これ男の子の精子じゃないよ? こんなにサラサラで白っぽいのも薄くって」
「ふへ……」
「男の子なのに、おちんちんから女の子みたいな潮吹き♥ 楓がオトコナノコになった証拠だね♥ 記念日だよピース、ピース」

 楓の目が泳いで、そしてすぐに、ためらいがちな笑顔に変わる。ボクが促すのにいいなりになって、彼はピースサインを作って見せてくれた。頬に自分の潮吹き飛沫が付いたイキ後トロ顔でピースサイン、えっちすぎる。

「あーもうだめ、かえでかわいーすぎるーよ〜〜〜!」

 楓が牝イキしたのが可愛くって、もう一度腰を振りまくってしまう。もう、今度はボクがイくまで絶対止まれない。自分の射精のことだけ考えて、楓のおしりまんこをオナホみたいにズボズボ使ってしまう。それでも感じてヘンな声で喘ぎまくってる楓が可愛くて、もっともっと止まらなくなって。

「〜〜〜〜ほひぁぇ〜〜〜ああぁぅ〜♥ りぐゆ、ゆぁっぇぇぁおぉんにょぉぉ〜〜〜♥♥♥ りぐりゅ♥ おひゅぅあぇぇえっっぇ〜〜〜ん♥♥♥」
「でりゅ、かへれぇ、ぼくももう、もうれでゅぅっ♥ いっぱいれれる、れりゅぅうっ♥ 楓にたねゆけひひゃううぅぅっ♥ でゅ♥ でりゅ♥ でる♥ でゅ♥ でゅ♥ でりゅぅうぅぅっ♥♥♥♥」

 おちんちんのなかを大量の精液が通り抜けていくのが、自分でもわかった。すごい量が、おちんちんの付け根から無理やり引っこ抜かれるみたいに勢いよく出ていく。射精し続けてる先端を彼の|前立腺《牡Gスポット》に当てて精子が噴き出す感触を自分で確かめてしまう。それに刺激された楓のおちんちんは、もう一回、派手に潮吹きをキメる。

「ほぁ……しゅごっぉぉっ♥ とまんなひ、かえでのおまんこきもちよくって、とめられないよぉっ♥」
「とまっへ、りぐる、とまっへええっ♥ そんなに、つづ、っひきぅっ♥ つづけられひゃら、ぼくもっ、ぼくのおちんちんのつけねが、とけひゃぅっ♥ こわれひゃうよぉぉっ♥」

 楓の中でイッて、精液をどぼどぼ吐き出す快感で、頭の中がぐるぐる。おちんちん溶けてちぎれちゃいそうな程の快感、でもそれが欲しくてもっと欲しくてめいっぱい腰振っちゃって、楓の中に一滴残らず出し尽くしてしまう。イってるちんちんを楓の肉壷を使って自分で更に擦って、空打ちアクメになってももっと続けてしまう。
 楓はボクが種付ばかになって、もう空っぽなのに腰を振り続けてる間に、なんどもなんども薄白い愛液を噴き出して、あられもない声で鳴いている。完全に寄り切った目でベロを出して、自分の噴き出したところてん愛液を自分の体のぶちまけながら、のけぞってビクビク痙攣している。

「はーっ……かえでぇっ♥」
「〜〜っ♥ っ♥ 〜〜〜〜っ♥ ♥♥ っ♥」

 ボクが疲れ果てて彼の上に倒れ込み、おちんちんが彼の|おしり《おまんこ》から拔けたとき、ぶぼっ、ってすごく下品な音が聞こえた。ぷるぷるの寒天みたいに柔らかくなった彼の菊縁に仮首が擦れたとき、その刺激でもう一度勃起してしまうかと思ったけど、もうグロッキー、立ち上がることは出来なかった。ギブアップしたボクのおちんちんを見計らったみたいに、開きっぱなしになってひくひくしている穴の奥からどろどろと白濁が溢れ出してきて、彼の綺麗な毛並みのしっぽを汚してしまった。
 でも、彼は全然気にしていないみたい、それどころか危機感さえ漂う満足そうな薄ら笑いを浮かべたまま、降参ポーズでボクにお腹を向けていた。



§§§



「こ、こんなハズでは……」

 仰向けに倒れてぐったりと倒れている楓。まるで白旗を掲げるみたいに、真っ白な毛並みの尻尾をふりふりと振って突っ伏している。恥ずかしすぎて死ぬ、なんて突っ伏したまま呟いている。
 いやいや、楓があんなに可愛くなっちゃうなんてボクの方だって予想外だった、けどそれを言うのは今はやめておこう。
 あの後お互い自我を取り戻して(?)から、体を川の中で綺麗にした。お互いの体を綺麗にしてあげるのが気遣いなのかなと思ったけど、そんなことをしたらまた始めてしまいそうだからと、きっと無意識にふたりともわかっていて、自分の体だけを洗う。
 その後体が乾くまでは服を切れなくて裸のままだったけど、ちょっと気恥ずかしさもあって少し離れた木の辺りに腰を下ろしてお互いを見ないようにしていた……けれどお互いにチラチラと見てしまうのをお互いに気付いていた。
 やっと服を着て、どうやって声をかければいいのかよくわからないから、「お、おつかれ、さま?」と笑いかけると、彼はうずくまるようにしゃがみこんて、そのまま地面に突っ伏してしまったというわけだ。気持ちがわからないでもない、ボクだってはじめてお尻で気持ちよくされたとき、自己嫌悪と思い出し快感の間でどうしていいのかわからなくなってしまったものだ。

「どうゆうハズだったんだよう」
「皆まで言わせないでくれ、キミがこんなに|経験豊富《・・・・》だとは思ってなかったってこと」
「また経験値上昇しちゃったね」

 ボクがそう言うと、楓はむくりと上半身を持ち上げてボクの方を見る。少し驚いたような表情。それからちょっと目を逸らして少しバツが悪そうな表情になって、胡座をかいて座り直した。

「キミは、最近、変わったね」
「そうかな」
「ああ。」

 そうかも。多分、自覚はある。ある一定の過去に、決着がついたからだと思う。それを上手く説明できないのは、楓に対して不公平な感じがして申し訳なくも思えた。それより、その変化をいい方向に捉えてくれているか、あの出来事に全く無関係な人達から見てボクや、もしかしたらローリーや幽香さんにも現れているかもしれない変化がどう映っているのか、心配な面もある。

「それって、嫌な、感じ?」
「いいや、いいと思うよ。僕は肯定する。キミはもっと、輝いてもいいだろう、その可愛いおしりみたいに」
「えー、もう! でも、よかった……」

 光ってるのはお尻じゃなくて、腰だよう。
 でも、心底、ホッとした。
 それは、ある種の決意みたいなものを以て踏み越えるべきかどうか迷っていた一線を、踏み込んだことなのだ。それを見せる相手は幽香さんだったけれど、そうした変化は幽香さん以外からも見えてしまうのだ。変化はそれまで保っていたバランスを破壊しかねない、楓には全然関係のないところが原因で、楓に嫌な思いをさせていたのなら、それは、避けがたいことなのに申し訳ないことだ。彼が、それを嫌だと思わなくって、本当に良かったと思う。

「ちょっ、何でそこでそんな深刻な顔をするのさ? ああもう、キミといるとなんだかいつも僕は悪者になっているような感じになる」
「ご、ごめん、そんなつもりはないんだけど」
「わかってるよ、だからタチが悪いんだ。ほっとけなくって、構うと|ちりちり《・・・・》して、なのにいつの間にかまたキミの弱り顔が恋しくなってしまう。」

 そう言って立ち上がり、かっさらうように口付けられた。

「本当に、姉と性別を交換したいよ。女なら堂々とキミにアタックできるしね。姉も、男なら文ともっと上手くやれるだろうし。もしくはキミが女の子になるか。ああ、それなら新妻さんも、風見の姉御も手放してくれそうだ、そのほうが都合がいいね」
「楓はもう十分堂々としてるじゃないかぁ」
「いいや、|もっと《・・・》だよ。僕が本当に女なら、あるいはキミが女の子なら、絶対にキミを骨抜きにしてやるのにね」

 立ち上がって、座り込んだままの僕を指差して笑う。まるで宣戦布告みたいな顔と言い草。

「楓は、ほんとに『こうじゃない今』が、好きなんだね」
「はは、確かに。でも、好き、というか、好都合に見えるんだろうね。僕は今のいろんな状況が、僕にとっては望ましくないと思ってるから。」

 いたずらに茶化してみたけれど、楓にはそういうところがある。現状に対する不満、というのとも少し違うかな。構造に対する不満、既定に対する不満、そんな感じ。この間も、ボクに地底の虫を呼び込んでしまえなんて言うし。
 彼の立場が少し特殊であることを、ボクも少しは知っているつもりだ。彼の姉である椛さんも。今の天狗社会での白狼天狗という種族の複雑なポジション。天狗という、妖怪全体の中でも力を持ち、高い社会性と文化、それに誇りを持った存在の中にあって、今既に出来上がり膠着した状態が自分とフィットしていないと認識してしまったときの、無力感と悲観。
 一部高くなりすぎた社会性によって文明を高めることができなかった蟲にも、種類こそ違うけど膠着してもう動けなくなってしまった閉塞に対するもどかしさがある。ボクはそんな社会の中で幸か不幸か高い位置に座ってしまった。でも、性にはあっていないし、閉塞を打ち砕けるとも思えない。ボクが蟲じゃなかったら。ボクは王様じゃなかったら。ボクが男じゃなかったら。なんだって考えたことがある。正直、ボクも自分を取り巻く環境が自分にマッチしているとは考えられないタチだ。みんな、どんな人でも多かれ少なかれ生きていくのに苦しみや悩みはあるだろうけど、ボクにばかりどうしてこんなに生き辛さがつきまとうのかと、何にともなくあらゆるものに恨みを抱いたこともある。今でも、そうだ。
 だから、わかる。でも、わかるなんて安易に口には、出来ないけれど。

「でもそれは、あくまでも僕から見ての話だ。多くの人は、今のままである方がいいのだろうし、それを覆そうだなんて思わないよ。ひっくり返ってしまえだなんて、僕は、口先で言っているだけだから。本当は、何も変わる必要なんてない、変わるべきは僕。わかってる、けど、巧くいかないもんだね」

 特徴的な犬歯を見せて口角を上げながらも眉尻を少し落とした笑顔でボクを見ながら言う。

「だから、キミに生じた何らかの変化を、僕は肯定する。羨ましいよ」
「楓……」

 そんな切ない顔で笑わないでよ。鼻の奥が、つんと痛くなった。なんだろう、可哀想とも違う、でも同情とか共感とも違うし、助けてあげたいなんて大それたものでも、哀れみなんて思い上がった感情とも違う。でも、胸の奥がズキってなって、喉元から何かを吐き出したくなる。言葉は意味を持たなきゃいけないのが、じれったい。感情をそのまま声に出来ないもどかしさが、鼻奥を通って熱を持つ。熱さに変換できなかった分は、目尻に溢れてしまう。
 なんだかどうしていいのかわからなくなって、ボクは、楓に飛び込むみたいに抱きついてしまった。

「あっ、こら。そんな風にされたら、また襲ってしまう、僕が狼なのを忘れちゃだめだよ?」
「いいよ、いい、楓っ」



§§§



 結局またえっちしちゃった。いや、ボクがしたいなんて言ったわけじゃないよ! 楓がなんか可愛かったから抱きついたら、いきなり逆転マウントされてそれでね」

「キミが誘ったんだよ。あと、声に出てる」
「ぅぇ」

 はい。

 今度はボクがぐったりしてる番だった。
 そうしていても仕方がないので、と体を起こした目の前に美味しそうなのがいたのでちょんと摘んで口に放り込んだ。中身だけ頂いて、殻を放った地面に手を合わせる。ごちそうさま。

「キミは相変わらず『それ』が好きなんだね」
「え、うん。味覚が子供っぽいって、言われるんだけど……なかなか卒業でくなくって」

 楓の言う『それ』とは、まいまいのこと。ボクらは小さい頃はこうした貝類を食べて育つ。大きくなってから(つまりこういう、妖怪にまで変態できれば)は食性が変わって、基本的になんでも食べられるし、もっというと人間が一番味も栄養価も高い。だからボクらの仲間の間では、貝類が好みだというのは、子供っぽいとみなされがちだ。

「それの味を『子供っぽい』とは思わないけれど」
「天狗は、まいまい食べないの?」
「昔は食べていたとも聞くけれど、今は食べないね。」
「ニナも?」
「ああ。ニナは食べない。ニシは、湖にいるのはお|汁《つゆ》にして食べることもあるかな。あんまりなくなった。ああ、でも二枚貝の類は食べることもあるかな、カラス貝とか。」

 そっかあ。未だにこんなもの食べてるのは、やっぱり劣った妖怪だからなのかなあ。天狗とか河童とかの天魔領の妖怪はちょっと、ステージが違う気がする。鬼も昔は人ばっかり食ってたって言うけど今は違うというし。

「僕らはキミと違って、多分、貝にいる悪い虫に抵抗できないから、文化的に廃れたんだと思う」
「そうなんだ」

 悪い虫、ってのは、ボクはあんまり意識したことがなかった。王位について他の種族のことを見聞する中で初めて知ったことだ。どうやら、特に人間にとっては大変な影響があるらしい。河童は平気みたいだけど、天狗もやっぱり駄目みたい。

「ほら、僕も|リグル《悪い虫》にやられちゃっているだろう?」
「ひっどぉい! ボク、害虫?」
「害はないけどね、毒はあるかも」
「むー」

 頬を膨らせていると、つん、と額を突っつかれた。
 同じようにまいまいを見つけた楓はそれを摘んで持ち上げている。やっぱ口に入れるのはあんまり、という顔をしながら少し遠巻きに見ていた。
 彼がさっき言った通り天狗にも昔は、陸貝や虫、淡水貝や虫を食べていた辛い時代があったんだろう。今はそうではないと言うだけで。もうこんなものを食べる必要なんてない文明を、天狗や河童は持っている。白狼天狗はその中でも高い地位に君臨していたことがある種族で、河童とともに、あるいは競り合いながら、留守にしがちな鬼に変わって山を支配していたのだ。今は、白狼天狗に変わって鴉天狗が要職を占めているみたいだけど。

「ねえ楓、ちょっと、聞き辛いことを、聞いてもいい?」
「答えられることなら。」

 彼は摘んでいたまいまいを木の枝の上に戻してボクの方を見た。その瞬間に、彼の濃紺の瞳が、信じられない高速で動いたのがわかる。ボクの隅々までを、光学スキャンしたのだ。急にどうしたんだい改まって、そう口に出す代わりの態度。彼はボクの前に向き合って腰を下ろした。

「楓は、昔は、位の高い天狗だったんだよね?」
「僕が生まれた頃はもう、白狼天狗は鴉天狗に蔑ろにされていたよ。天魔宮の中央に白狼天狗の部屋があったのを、僕は知らない。だからその答えは『ちがう』かな。でも僕の父は、それなりに高い地位だったみたいだね」
「そっか」
「それが、どうかしたの?」
「その、『明日からいきなり今までの地位はなくなる』って言われたとき、どういう風になってしまうのかなって」
「なんだい、王様。もう都落ちの計算をしているの?」
「ボクのことじゃ、ないけど。でも、楓がそうじゃなかったって言うなら、筋違いだったね」

 まあ、僕はそうではなかったけれど、そう前置きしてから、楓は答えてくれた。彼が想定しているのが一体誰のことなのか、恐らくお父さんのことなのだろう、場合によっては自分のことよりも余程答えづらいことだ。質問の内容も内容だけに、彼や彼のお父さんの尊厳にだって関わる。家だけじゃなく、白狼天狗という種族そのものにだって言及する必要があったかもしれない。

「答え辛ければ」

 そう言って、やっぱり制止したけれど、彼は言葉を止めなかった。

「認めたくないんじゃないかな。だから、その地位を簒奪しようとした相手と、戦う。天狗の中で内乱があったのもそのためだろうし。おとなしく認めたくない人がほとんどだったから。白狼天狗なんて、そんなバカばっかりだからさ。」
「戦った結果、負けちゃったら」
「負けたら、終わりだよ。その後どうなるかなんて、ない」
「えっ」
「殺されるんだから。競争に負けた者がどうなるのかは、キミのほうがよくわかっているだろう、虫の社会はひどくシビアで残酷じゃないか」
「それは、そうだけど。これは、社会性『だけが』発達した生き物での話。でもそういうのを何とかするのが、文化と社会が両立した生態じゃないの?」

 人間もそうだし、天狗もそうだ。高い社会性と並行するように、文明や文化、個人の尊厳というものが発達している。ある種の宗教もそうした働きをしているだろう。蟲には自我はない。個人の尊厳もないし文明も文化もボクらのような妖怪になるまでは無い。あるのは、社会性だけだ。機能と効率、全と本能だけ。それを美しいという人もいるけれど。

「どうだろうね。確かに敗者は皆殺し、ということはないみたい。だからこそ僕や姉が生きているわけだけど。甘んじて下るくらいなら自害する、みたいな人も少なくなかったみたい」
「自殺なんて、虫は、しないから。自死は、ごくたまにあるけれど」
「そうだね。天狗の社会も、割とシビアだ」

 そう言って、肩を竦めて笑う楓。
 自殺は、勿論生命にしか出来ない。そして、これは人間や天狗、社会と文明を営む妖怪に言えば反発を受けるかもしれないけれど、自殺は文化の賜物だと、ボクは思っていた。自死と自殺を、ボクは区別している。したいと、願っている。自殺を選択できる生き物は、ある意味では高度であって、幸福だと、思っている。それさえ出来ない生き物が、この世界にはほとんどなのだから。

「今この時点での最も安っぽい回答をするなら、こうかな。失脚した白狼天狗の中でも、|犬走《僕等》の血が残ったのはね、ある人が父に『未練を与えたから』。多分、それ以外には大して何も考えてなかったんじゃないかな。考える余裕が、なかったのかも」
「未練?」
「そう。もっと生きたいと思ったのか、天狗社会の統合を願ったのか、その人には無事でいて欲しいと思ったのか、もしかしたら僕らに生き残って欲しいと願ったのか、それは、僕は父じゃないからわからないけれど。少なくとも、自ら血を絶やしたり、破れかぶれで玉砕したり、そんなことはしなかった。事態をなんとかしようと足掻いていたらしいことは、聞いてる。姉や僕が今こうして、まあただの鴉天狗の使いっ走りみたいな立場で生きているのは、そういうこと。」

 意外な答えが返ってきた。もっと大きな枠を言う答えを想像していた。白狼天狗の存亡とか、天狗自体の多様性とか。彼が言ったのは、地位を剥奪されても生き続ける動機づけや、生き延びるための積極性としては、少し後ろ向きすぎる気がした。でも、それに直面していた父親の背中を見ていた彼が言うのなら、きっと、それは全くの間違い、ではないのだろう。
 未練。彼はそう言った。それも、高度な思考の賜物だ。それ自体が、IFで出来た機能なのだから。蟲には未練という言葉はない、もとい、死にたくないという願望だって、妖怪化するまでは持っていない。ただ、生きている間は、たとえ体の半分が潰れてしまった状態でも、今残っている部分だけで生き続けようとして、治療や手当なんて概念は存在しない。それで生ききれなければ死ぬだけだ。もっと言うのなら、生きようという機能があるだけで、生きようという願望を持っていない。有機的な存在なはずなのに、気持ちが悪いほど無機質な機能だけが備わっている。鳥獣もそうなのかもしれない。魚もそうかもしれない。だけれど、きっと|虫《ボクら》よりは、高等だ。
 では、神様なら? 神様は死にそうになったとき、未練を抱くのだろうか。それともそんな汚い感情は持たないのだろうか。神様は概念や現象であるというのなら、たとえ目の前に人の姿で現れたとしても、そんな俗っぽいものなんて、持たないかもしれない。

「父が失脚したとき、他に何を持っていたのか、僕は知らない。でも、未練は、きっとあったんだと思う」
「その未練を植え付けた、ある人ってのは……」
「さあ、誰だろう、僕は知らないよ。白狼天狗になんか情をかけ、そいつのせいで父が未練を覚えることになるような、そんな異端の鴉天狗のことなんてね」

 吐き捨てるように、でも、どっか冷たくしきれない仕草で、その『だれか』を言う楓。それは、きっと。

「もしキミが、そんな誰かを救いたいだなんてだいそれた事を考えているのなら、それなりの覚悟がいると思うよ。その誰かの未練になるような、キミは人にならなきゃいけないんだ。そしてその荷を背負い続けないといけない。あんな風に白と黒の間で苦しむ羽目になっているのに、僕には何も出来ない、悔しいけど」
「……その人のこと、知らないんじゃないの?」
「あっと、そうだった。知らない知らない」

 左右の手の人差し指を✕に組んで口元に当て、にやにやと笑う楓。

「未練になる、か」

 ボクは、どうすればいいだろう。誰かにとって未練になるというのは、誰かと少なくとも対等な立場にならなければいけないといういことだ。その感情をきっとボクは向けられたことがある。相手は、ボクよりもすごく大きな存在だ。ボクなんか一捻りに殺せてしまうような、強大なひと。でも、それを『どうやってやったか』なんて言うことは、おこがましくて考えられやしない。
 思い切って本人に聞いてみようか。「幽香さん、どうしてボクのことをそんなに追っかける気になったんですか?」だめだ、間違いなく今度こそ殺される。ローリーに聞いたってひどい目にあう気がする。
 きっとボク自身が、相手にとって未練に足る存在にならなければいけないんだ。『彼女』はきっと、ボクではなく別の未練、あるいは恨みを持って、そこに現れた。それを、もう一歩進める必要があるのだ。出来るだろうか。いや、しなきゃ、いけない。

「すまないね、湿っぽい話になっちゃったね」
「いや、ボクが聞いたことだから。嫌な話しさせちゃって、ごめんね」
「おっと、さっき借りを返してもらったのに、またもらっちゃったな」
「えっ」

 笑っている楓。またやらしー手の動きでボクの体に触れてくる楓に、ボクが「ふえええ」ってなっていると、彼の手がボクの肩に回ったところで急に話を切り替えてきた。彼としても、今またヤルつもりなんて無いのだろう。

「貝の話だけれど」
「うん?」
「今でも進んでニシだかニナを食べてる人間がいるって聞いたなあ。山に迷い込んできた修験者っぽい人と、人間に化けて話したときにそんなことを聞いた気がする。どっかの地域では、逆に病を退ける効果があるなんて言われてた、んだったかな。よく憶えてないや、その人間は結局殺してしまったし」
「……ふうん。そっか」
「ん? なんか思い当たる節でもあった?」
「えっ、いや、ううん。へー、そういう人間も、いるんだなあ」

 ごまかしはしたけれど、きっと彼の目を逃れることなんて出来ていなかったろう。ただ、彼はそれ以上の追及をしては来なかった。そこに何の意味もないと踏んでのことか。そんな細かいことは、男同士というのはどうでもいい、そういう良い意味での雑な距離感があって、男友達というのはこれはこれで、心地が良いのだ。

「あと、一つ謝らなきゃいけないことがあるんだ」
「うん? な、なに?」
「キミに散々乱されたときに、|抵抗《レジスト》を維持できなくなってしまった。」
「れじすと? なんのこと?」
「ええと、言いづらいんだけど」
「?」

 告げられたのは、衝撃的、と言うか穴があったら隠れてそのまま冬眠してしまいたいような。

「キミとセックスしてるところを、|椛《姉》と、文に、見られてた」
「え、えええええええ」



§§§



 私が客室に戻る機会はとんと減っていた。もはや広いだけの荷物置き場だ。あの欄間もなんだか気にし始めると気味が悪いっていうか見られているみたいで落ち着かない。だから今はアミちゃんと一緒に、竜宮の自宅部分のお部屋にお邪魔してることが多い。他にお客さんもいないし、私も朝から晩まで出張って調査してるってわけじゃない。アミちゃんも戻ってくる私に「お茶が入ってますよ」なんて、客室じゃなくて葦長家の方の茶の間に招くものだから、すっかり居心地が良い。
 あー、このままアミちゃんチの子になろうかな、なんて。

「そういえば」
「はい」
「この辺お客さんなんて、いないじゃないですか。まあ私は来ましたけど。お宿はどうやって維持してるんですか? 土地ごと所有してるったって、色々税金とかもってかれますよね」

 私が来たときにはもう完全に閑古鳥という感じだった。チョークアートの看板は今風だし、カジュアルで入りやすい雰囲気を作ろうとしているのは伝わってきたけど、佇まいが完全に民家。いわゆる『入りづらいカフェ』とかそういう感じの面構をしている。改修するお金がないのかもしれないけれど、なおさら、この宿がどうやって維持されているのかわからない。きっと昔からの土地所有者であることもあるし、こんな過疎地域の土地だから不動産としての管理費は大した額ではないだろう、修繕でもいない限りは老朽以外で大きな出費は無いのだろうけれど、彼女は独り身でずっとこの宿を守っている。どうやって維持しているのだろうか。

「……その、いろいろ」
「そっか、副業があるんですね。でもお家にいっぱなしだから、内職で、維持できるお仕事……ってことは、結構単価のいいお仕事してるんですね、アミさん多才なんだ。」

 今の時勢、大きな稼ぎを要さないのならば確かにネット接続できるパソコンが一台あれば、出来る仕事もある。とはいえISDN公衆電話があったような街だ、ネット環境がどうなのかは疑わしいが……例えばフリーライターなんかならやり取りするデータなんて文字くらいだろうし、ISDN網でも我慢はできるのかもしれない。

「多才なんてことは、無いです。単価は、いいかもしれませんが」
「ほらー、単価が良いお仕事なんて、才能がないと出来ませんって」

 専門性の高い仕事なら、サテライトでも結構稼げるものもあるっていう。プログラマかもしれないし、デザイナとか、ああアミちゃんデザイナとかだったら納得しちゃうわ。あとはあれか、アフィで稼いでるとか。可愛いから顔出しすれば出来そうだなあ……。あながち間違ってないかもしれない。

「あの、そのはなしはもう」
「当てちゃおうかな。実は有名アイチューバーとか。|阿波戸《あわと》の日常と魅力を発信する人気チャンネルで、|牛音《うしおん》公式」
「そんなんじゃないです。若ければ誰でも出来る仕事です」
「えー、若い人間だけとって年取ったら捨てるブラック企業が、単価高いとか在宅だとかなんて、無いですよ。謙遜なさいますなって。いいなー私もそんなお仕事したいで」
「したくてしてるんじゃないです!」

 突然、アミちゃんが声を張った。

「えっ」
「あ……ごめんなさい。ほんとに、そんなものじゃないですから」

 大声を出してしまったことを後悔するように、彼女は小さくなってしまった。でも、悪いのはきっと私の方だ、彼女の逆鱗に触れるようなことを言ってしまったから。それはさっきまでのやり取りを反芻してみたならすぐに分かることだった。
 私は、恐る恐る、それを聞いてみた。本来は最初から触れるべきではなかったのだろうけども、中途半端に触れてしまったからには誤解を余さず解かねばならない。それでもいいたくないと拒否されたなら、ただ平謝りするだけだ。

「若ければ出来る仕事、って、もしかして、|女性の方が単価高い《…》やつ……?」

 私が言うと、アミちゃんは言葉にするのは嫌なのか、ただ頷いてみせた。やはり、地雷踏んでしまった。そうだ、ここは『青線』直近なのだ。いくらなんでも私の思慮に不足があった。お店に出て売っているのかもしれないし、もしかしたらこのお宿で。
 そう考えると、竜宮、なんて名前はすごく、ひりひりしたものに感じられてきた。冗談めかして『ラブホ?』なんて思っていたけれど、その斜め上だった。
 売春婦も性商売も、こんな趣味をしていると文化の一環なのだという意識は私にはある。そこで働いてる女性が普通の女性であることも、十分知っている。だが、普通の人にはないだろう。普通の人にとっては、汚れた職業で罪人で、落ちぶれた賤民とまで思われている感がある。あんなふうに声を荒げたアミちゃんは、そうだと思っていて、でもそうして売るしかなかったのだろう。
 私の尺度で考えてはいけない。悪いのは、私だ。

「ご、ごめんなさい。そういうつもりでは。配慮が、足りてませんでした」

 頭を下げて、謝る。流石に、今のはなかった。

「私こそごめんなさい、変なお話始めちゃった上に、勝手に怒鳴ったりして……お客様に……」
「客なのはどうでもいいよ、こんなにいいお宿だとか、女将さんが世間話に付き合ってくれるフレンドリーなひとだって言いふらすことはあっても、悪くなんていわないですって。私の察しが悪かったのがいけないんですから。」

 客にだって、守るべき節度がある。それを欠いたんですから。そう付け足すと、彼女は俯いたまま小さく|頭《こうべ》を振った。

「私がこのお宿を引き継いでから、『女の人のお客様』は初めてで、すごく嬉しかったんです。やっと、まっとうなお宿としてやっていけるかもって」
「アミさん……」

 最低だ、私。
 最初に入ったときのアミちゃんが嬉しそうで、軒先で妙なテンションだったのは、そういうことだったんだ。お客が全く来ないんじゃなくて、|理想と違う形《…》で、客が来るのが、辛かったんだろう。

「こんなにいい温泉出てるんですから、すぐに、お客さん来るようになりますって。昨日外でも誰かに言われてたじゃないですか、こんなところに温泉出たんだって。すぐに口コミで大繁盛ですよ」
「そうでしょうか」
「まちがいないですって。こんな素敵な女将さんにおもてなしされたら、みんな大喜びですよお。いえ、おもてなしってのは『そういうやつ』ではなくって。ほんとうに。私、これでもある雑誌にコラム持ってるんですよ。ちょっと記事書いちゃおうかなあ!」

 私が言うと、困ったように笑う。まだ、心中は収まっていないのだろう。そんな苦々しい表情を見せられて彼女にその自覚はないのだろうけど、責められているのと変わらない。私が悪いのだから、それは当然なのだけれど。

「ごめんなさい、いやなことを、思い出させてしまって」

 私は、もういっぺん、頭を下げた。謝る以外に、何が出来るか。

「ちがうんです。そんなこと、どうでも」
「そう、ですか」

 どうでもいいという雰囲気ではない。これは明らかにまだ私を責めたいオーラだと思う。
 うわあ、穴があったら生き埋めになりたい。やっちゃった痛い女じゃないかああああ。頭を抱えてうずくまる。

「サユリさん」
「はい」

 アミちゃんに改めて呼ばれて、なんだか死刑判決言い渡し待ちみたいな気分で、顔を上げる。アミちゃんは、

「軽蔑、しましたよね、売春婦なんて」

 そっち? え、そっちなの?
 私に怒ってるんじゃなくて、ソッチ?
 おい民俗学趣味の痛いオタク女舐めるなよ、そんなことで誰かを蔑むと思われてるなんて心底心外だわよ!

「えっ、してないですよ、ぜんぜん! ほんとに!」
「でも」
「私こんな趣味してますからね、そういうの、慣れっこなんです。むしろ自分自身を商品としてプロデュースしてマーケティングして販売するなんて普通の人には出来ないすごいことだって思うし、そういう仕事にも誇りってもんがあるって思うし、何より究極の客商売サービス業ですよ。お客さんに喜んでもらうって、そんなの性サービス最高じゃないですか、ホテルマンがなんだってんですか、バーテンが何だってんですか、三ツ星レストランのシェフがなんだってんですか、そんなのよりよっぽど尊敬に値するやつですよ。私なんか絶対できないです。尊厳がどうのとかじゃなくって、自分の売り方そのものがわかんなくって売れなくての稼げなくて野垂れ死にするだろうみたいな意味で。それに比べてこんなりっぱな温泉宿維持できる位商売になってるってすごいですよ!? あれなんか私ヘンなこと言ってるかな、きっと言ってますね。とにかくですね、私は売春って商売をそんなに悪いものだと思ってないんですぞよ! 売春婦はカッコいいと思ってるフシさえあるです! フンス!」

 何故か胸を張って最後の一言を締める私。なんかよくわからないテンションで切り返してしまったけど、嘘はいってないから後悔もない。
 ぷっ、と、アミちゃんが、めをぐるぐるさせて変なこと口走ってる私を見て、小さく笑った。しめた、ナイスだ私、トチ狂ってわけわかんなくなり甲斐があった。

「あはは、ありがとうございます」

 ちょっと痛みが残る表情だけど、笑ってくれた。よかった。思わずため息を付いてしまう。

「アミさんを、怒らせちゃったかと思いました」
「私は、サユリさんに軽蔑されちゃったなって」

 なんだお互い様じゃん、わざとフランクにそう言ってみると、そうですね、なんて笑って返してくれた。

「でも」
「はい」

 でも、一言言っておかなければならないことがある。私はアミちゃんに向き直って言う。アミちゃんは不安そうに私を見た。その目をじっと見て、視線を目のど真ん中に投げ込む。

「私、本当に素敵な人だって、思いますよ。嘘じゃないです。」



§§§



「わあい、温泉だ! 昨日も入ったけど今日は美少女と一緒に貸し切りなんて夢みたいじゃないか!」
「仁王立はやめてください仁王立ちは」

 照れ隠しですハイ。

 美少女とかそういうんじゃないですから、なんて隅っこの方で小さくなってかけ湯をしているアミちゃん。髪の毛結わえてうなじが見えると、するりと細い首が艶めかしい。穴が空くほど見てしまいそう。やはりなんだか色々と気になるようで、温泉に入る前になにかあれをあっちに持っていったりこれを片付けたりしている。いい女将さんになるようん。冷えるから早く入んなよう、なんて。
 ここの温泉は、透明だけど少しだけ硫黄の香りがする。地獄ってほどじゃないけど。硫黄の香りって、いかにも温泉ですって感じがして好きなんだよねえ。
 私もかけ湯をして、温泉に浸かる。温泉って言っても、まだちゃんと整備されて無くて、プールの脇にある小さいジャグジーみたいな湯船のおっきいやつを雑に置いただけの手作り感溢れる佇まい。元の大浴場のところまでお湯が引けてないんだって。うーん、これが成長してきっと檜の浴槽に生まれ変わるんだろうなあこれはプレミアム体験だなあ、なんて妄想してしていると、アミちゃんも入ってきた。

「失礼しますね」
「どーぞどーぞ、って私がいうことじゃないですね」

 アミちゃんは私のすぐ横に入ってきてくれた。これで向かい側とか、一人分間を空けて入られたらどうしようって思ってたけど、安堵。

「やー、ほんと、この温泉をちゃんと整えたら、すぐにお客さんでいっぱいですよ。|阿波戸《あわと》の過疎問題も解消! いいことづくめじゃないですか!」
「そうなればいいんですが、工事に先立つ費用が用意できませんし、もうすこし」

 そこ迄言って言葉を濁すアミちゃん。もうすこし、売春を続ける、ということだろう。

「軽々しく、そんなことやめろ、なんて言うつもりは、無いです。さっきも言いましたけど、私は売春家業にだって誇りとかかる生活があると思ってますから。それでなければ埋め合わせることが出来ないことがある現実も。でも、『もう少しの辛抱です』とだけ、言わせてください。私が力になれることなんて、ほとんど無いですけど」
「……ありがとうございます。それだけでも、すごく救われます」

 苦く笑う彼女が、とてもいじらしくて、愛しい。なんだか、ただつまみ食いするつもりだったはずなのに、私、完全に彼女にヤられている気がする。でも、嫌な感じじゃない。
 私は正面から彼女の顔を見つめて、言う。

「アミ|ちゃん《・・・》は、すてきなひとだと思う。女将さんとしても、人としてもすごくきらきらしているし、それに」

 それに? 不安そうに聞いてくるアミちゃん。そのほっぺたをつん、と指でつつく。

「それにすごく私の好みだし!」
「ぷっ、なんですかそれ、お上手、ともいいずらいですよぉ」
「ほんとうだよお。あ、若い子口説くときのおっさんになっちゃってる?」
「そんなことゆって、サユリさんおいくつですかあ」
「じゅーななー」
「おっさんですね」
「そーなの。だからゆるしてね」

 私は湯船の中にある彼女の手に自分の手を重ねる。触れることで、合図と同時に、捕まえたってメッセージ。そのまま体重をずらして彼女の方に顔を寄せる。この距離、私が何しようとしているのか、きっと分かるだろう。まっすぐ彼女の少し細い目の中ででも存在感を放つ丸い瞳の中に、視線を差し込む。そしてそこからは、ゆっくり近づいて。もう片方の腕を彼女の上を覆うみたいに伸ばして彼女のもう片方の手にも重ねる。上半身同士が触れない程度に重なって、ゆっくり、ゆっくり近づいて。

「アミちゃん」
「サユリ、さ……」

 そっと唇を攫う、最後の一歩を、アミちゃんはすっと目を閉じて、息を殺して受け入れてくれた。吸い付き甲斐がある肉厚な唇、唇同士を重ねて挨拶を終えると、こんどは唇で挟んで弾力を楽しんだ。

「ん」

 甘い声に、嫌悪感はない。ジューシーな唇を舌でつついて上げると、察したように彼女は、口を開いた。従順すぎていじらしくて、堪らない。唇をくっつけたまま、彼女の肩に手をおいて、私の方へ抱き寄せる。彼女は抵抗すること無く私の唇を追うように私に体を寄せてきて、私の上に乗るように引き寄せるとそのまま私の上に重なった。温泉の湯の中で胸と胸が重なって形が変わる。私の先端が当たってしまって、期待し続けて固くなっていたことが伝わってしまうかもしれない。でも、もう手遅れ。バレてしまうのが? 手を出してしまうことが。アミちゃんは私の上に乗っているけど、お湯の中だから重さは全然感じない。乳房同士以外に、太もも、お腹、が触れ合っていて、唇は今もずっとくっついている。開いた口から舌を差し入れると、彼女は一層口を大きく開けて私の舌を招き入れてくれた。

「誤解だけしてほしくないんだけど」
「わかってます、遊び、ですよね」
「あー、ほら誤解してた!」
「へ?」
「ああ、先読み訂正してよかった! その逆だからね!」

 ざばあ、と立ち上がって指さしていってやる。ほら、さっきのやっぱり私のことまだ責めてるんじゃない?

「私はここに来るの初めてだし、|阿波戸《あわと》の情報なんて知らなかったし、アミちゃんがそういうことしてるなんて知らないでここに来たんだから! そりゃあ? 初めてみたときからこの子いいななんて思ったなんて、外見からだって言われたら言い返せないけど? 遊びで女の子ひっかけるような、確かに私軽い女だけど? でも最初っからそういう風に見られてたって、結構ショック!」
「ちがっ、私が、あ、えっ? どういう」

 おろおろしてるアミちゃん、畳み掛ける私。

「あーそう、じゃあ買うよ、買う買う。遊びって言われちゃうくらいならむしろ買った方が後腐れないもんね。私、女の子大好きだから。てか男きらーい。アミちゃんみたいな子ばりタイプだし。アミちゃんは商売女だから、お金払ってくれれば相手が女だって頑張ってくれるんでしょ? 遊びだったなんて嫌な思いさせちゃうくらいなら、いっそ買って恨みっこなしの方がいいもん。いくらー? ねえ、ひとばんいくらー? アミちゃん高いんでしょ、すっごい上玉だもんね。女の子弄んで悲しませるやつだって思われてたんだぁ、悲しい」
「えっ……あ、えっ……ちが、ちがいます、ちがうんです」
「ちがう? なにが? 遊んで捨てるためにアミちゃんに近づいたって?」
「わたし、サユリさんが人を弄ぶような方だなんて、思ってないです」
「ふうん。じゃあ、さ」

 そこ迄言って、トーンダウン。さっきみたいに近い、もう一回キスできそうなくらいの距離。自分でも笑っちゃうくらいのマジな顔で、アミちゃんの目を見つめる。彼女は、全然私から目を逸らさない。まるで、睨み合ってるみたいにお互いに譲らない火花でも飛びそうな、見つめ合い。じっ、と見つめ続ける。もう一度唇を重ねたら、彼女は目を逸らした。屈服させた、みたいないびつな優越感に任せて、私はやっと、続きの言葉を投げつける。

「『遊び』が『違う』なら、私と、本気で付き合ってくれるの?」

 おかしいなあ、本当はホントに遊びでこんな子と一晩イチャイチャしたいなって思ってただけなのに、これって自己暗示? アミちゃんと一生添い遂げてもいい気がしてきた、遊びじゃなくて。会って昨日の今日って、一目惚れと大して違わないよねこれ。
 自分でもよくわかんない感情の変化、私自身も持て余してしまって混乱してる。アミちゃんに、すごくイジワルな方法で迫ってる。でも、ま、バッサリ切り捨てられちゃうだろうな。明日から気まずいぞ、下手するとほんとにそのへんの山でテント暮らしだ。

「……はい」

 えっ?

「はっ!? そ、それこそ軽過ぎるんじゃない?」
「商売女ですからね」
「あっ、いや、そういうんじゃなくって、いやでも」

 ずるいこと言ったらずるい返し方をされた、自業自得。私が驚いて元の位置まで跳ねるように戻って座り直すと、アミちゃんはそれを追いかけるように、こぶしひとっつ分だけ体を寄せてきた。くっつかない、でも近い。ぞくりと粟立ってしまう。こうやって見ると、凄い色香。少し背が高めなのが、ボリューミィな体のラインの見栄えを崩していない。温泉の水面に浮いているようにも見える豊満な乳房、水面で歪んで見えていても下ろしている腰の肉付きは、言葉を選ばずに言えば淫らな肉感を伝えてくる。湯粒のしたたる肌理は細かく整っていて、触れば吸い付いてくるに違いないと思えて仕方がない。思わず、目を逸らしてしまう。そもそも顔立ちだって、(私は目が肥えているわけではないので確証はないけど)アイドル級に可愛いと思う。
 これは、確かに辺鄙な土地の旅館なら維持できるくらい、売れてしまうだろう。
 でもそれは抜きにしても、今になって思い返してみれば、ひと目見たときからヤられていたのだと思う。だって、私は最初から、彼女の後ろ姿をずっと目で追っていて、さっきみたいに彼女を怒らせてしまったかもしれないと思えば必要以上にそれを恐れてしまって、周辺の散策を終えて返ってきて彼女がお茶に誘ってくれるのが何よりも楽しみ、それに、彼女と同じ空間を共有している今がとっても幸せで、今の私を支配しているのはそういう感情なのだと思う。

「元々私、おとこのひとが、こわいんです。その裏返しで女の人が好きになっちゃった、なんて言っても言い訳がましいですけど。その。でも生活のためには、買ってもらわないといけないし」

 そうなんだ。それで娼妓をやっているだなんて、しんどいだろう。でもちょっと出来すぎた話かな、とも思う。やっぱり買ってほしいのかもしれない。もしそうなら、すごく悲しい。そのために、あんなふうに私に笑いかけたりしてくれていたのかと思うと、やっぱり辛い物がある。軽い気持ちでつまみ食いしたかった、そのままの感情でいたかったかもしれない。

「もし、サユリさんが『遊びじゃない』って仰るなら、私を買ってください」
「な、なんだ、結局、買……」
「身受け、してくれませんか」
「み、みう?」

 身受け、って。いつの話よ。しかも別にここは遊郭ではないし、彼女はここに囚われているわけではない。でも、そう言って私を見上げる彼女の目は、なんだか、ありきたりな表現でいやだけど、迷い猫のようにも見える。こういう目、弱い。
 待て待て、彼女はプロだ、私が転がされてるだけじゃないのか。

「ずっと、このお宿で私は自分の体を売ってましたから。そういう宿にするつもりなんかなかったのに、このお宿のお客さんは男の人ばかりで、必ず一人、たまに二人か三人で来ることもありましたけど、|することは一緒《…》でした。おばあちゃんに譲ってもらった、まあ由緒もよく知らない場所ですけれど、それでもそれをまるで涜してしまっている気がして、私|自身《・・》も、辛くて、もう、やめちゃおっかなって思ってたんです。そしたら、お客さんが、来たんです、ある日のことです。女の人でした。こんな人が私を買いに来たのかなって、でもちょっとだけ期待して空回りして、お客さんの頭に思い切りドアをぶつけちゃったりして、ふふ、バカみたいですよね。」
(ぅん?)

 なんか話が|きな臭い《・・・・》ぞ?

「その人が、私には救世主か何かに見えたのかもしれません。一人の時間と、二人で男に抱かれてる時間、そのどっちか以外の時間なんて忘れてたのに、そのお客さんったら、うちの接客じゃ不満だからもっとサービスしろって、私のあるんだか無いんだかわからないようなプライベートに、ドカドカ入り込んでくるんですよ、酷いと思いません?」
「えっ、あー……うん、ひどいおんなだね。でもちょっと出来すぎじゃないかなその話」

 恋のロマンスはいつでも出来すぎなんですよ、と笑って、アミちゃんは続ける。

「……それが、すごく、きもちよかったんです。わすれてたなあ、人と一緒になんでもない時間を過ごすの」
「アミちゃん……」
「そんなもの、思い出しちゃったら、またただ体売って生活している日々になんて戻るの、すごく辛いと思うんです。いやきっと辛いですね、想像しただけで辛いです。あー世を儚んで自殺しちゃうかも、せっかく温泉が湧いてもう少しで切り開けるかと思った矢先に」
「えっ、マジでw」

 まじです、と笑って私を見るアミちゃん。

「どうでしょう、女を一人、買ってもらえませんか?」

 そうまで言われて、いらん、なんて言えるわけがない。

「わかった、買うよ。お代は、私の一生分の私で、足りるかな」
「ちょうどです」

 アミちゃんが、私の上に覆い被さってきた。温泉のお湯と違う温度が伝わってくる。お湯よりも温度が低いから、お互いの体を冷たいの感覚で伝え合う、外ではちょっと味わえない感じ。これはこれですごく密着感があって、どきどきする。
 どきどきに任せてアミちゃんの目をもう一回見つめると、彼女はすぐに察して、顔の正面を向けてくれた。うん。キス、啄んでから、もう一回、ちゅって、申し合わせてもいないのにお互いの目を見てちょっと笑って、もう一回キス。
 あーもう、どきどきやばいよ、もじもじとしてしまう。私が落ち着かない様子で彼女を抱く腕を無沙汰な感じでさまよわせると、彼女はすぐにそれを察した。

「さ、サユリさん……」
「お部屋に戻って、すぐアミちゃん抱きたい、なんて、アハハ」

 あんまりにもドストレートに言ってしまって、言ってから少し後悔する。またおっさんだよこれー。

「風情も何もなくて正直スマン……」

 彼女のむちむちのおっぱいに向かって頭を下げる。冗談めかして言ったつもりなのに、アミちゃんはなんだか同じようにもじもじしている。いいにくそうにして、口を何度か小さくぱくぱくさせてから、言った。

「す、するなら、ここで、が、いいです」
「えっ」
「その、おふろあがって、お部屋に戻るまでの時間、こわい……」

 確かに、片方がベッドで、もう片方がシャワーから出てくるのを待っているみたいな状態ではない。同時にお風呂を出て体を拭いて、二人で鏡に並んでそれなりに夜のケアをして、並んでお部屋に戻って、なんて、間が持つわけがない。きっと交わす会話もぎこちなくなって、距離感もよくわからないし。途中で気分が萎えるか……その場で私が押し倒すかどっちかだ。え、そっちを怖いって言ってたらヤだな。
 あれ、アミちゃんってお仕事でそういうことはあんまりしてないのかな。それともほんとにヤルだけの売り方なのか。あんまり考えても仕方がない、っていうか考えたくないや。

「わかったよ。じゃあ、ここでたべちゃうから」

 私がアミちゃんのほっぺたに触れると、彼女の体全体が私に吸い付いてくるみたいに、抱きついてきた。耳元で、彼女の少しハスキーな声が「すべて、おまかせ、します」なんていうものだから、むらむらを通り越して、ぞくっ、ってなってしまった。
 目を瞑って小さく呟くアミちゃんを強く抱き返して、キスした。今度は少し強く。それから、首の付根に唇を滑らせて「ここだよ」と示すように啄んだあと、囁き返してあげる。

「|私の《・・》跡、つけるから」

 彼女は自ら喉を反らせて、私に差し出した。



§§§



 ……と、いうことで。
 いや、夢オチではないぞ、ちゃんとヤッたから。結構燃え上がったんだけど、ずいぶん長いこと愛し合ってたらいつの間にかお互いのぼせちゃってグロッキーになって「また後で……」ってことになったのだ。下腹部にまだ熱い塊がわだかまったままだけど、一旦上がった。なんせ毎日のお楽しみ、晩御飯前だったのだ。部屋に戻るときの間の持たなさや空気の悪さは、のぼせたアミちゃんを、自分も割とフラフラな中で抱えて歩くことで、全く気にならなかった。いや二人で完全にのぼせてたらやばかったと思うけど。
 でも、のぼせかけてる彼女を介抱する口実でイチャイチャさせてもらった。ふたりともまだほくほく感が残るのは、お風呂あがりだから、というだけではない。そりゃあ、あんな風に燃え上がってしまった後は、少しの気恥ずかしさと少しの体温上昇があとを追いかけてくるってものだ。お互いの照れ隠しもあって、テンションがテンション#位になっている。

「ねえ、この辺りって、名物は何かあるのかな」
「え、えっと、食べ物ですか?」
「うん」
「名物に美味いものなし、なんて言いますけど……」
「それは知っているけど、その限りでもないとおもうけどなあ。この間、焼津に行ったけどやっぱ魚は美味しかったよ。江戸前とは少し品揃えが違うし、港の周りのお店は観光向けになってて、メニューが面白かった! どどーんってこんなおっきな掻き揚げが乗っかってるの」

 あー、あれ有名ですよねー、なんて笑ってるアミちゃん、いやあ、やっぱ可愛いなあ。もう一回この場でキスしたい。いや、今の私なら彼女に触りたい放題だ! いかん、考えがだめなおっさんになってる。

「焼津は、死体を焼いた場所だから焼津って言う、なんて話があるの、知ってる?」
「え、そうなんですか?」
「ヤマトタケルっているじゃない、神話の」
「はい、聞いたことは。くさなぎのけん持ってる英雄とかその程度ですけど」
「そうそう。まあ私はヤマトタケルってのは一人の神様を指す言葉ではないって説を推してるんだけど……それはいいや。ある悪者の死体を焼いたのが、あの辺。だから焼津って名前がついたんだって」
「へえ……けっこう剣呑な名前なんですね」
「まあ、歴史にIFはない、ってよく言われてるけど、実はそんなことなくってさ。なあんにも証拠がなくてIFだらけ、みたいなのがごろごろしてるのが歴史ってやつだから、噂話みたいなものだけどね。で、この辺の名物は? あ、果物はナシ。知ってるし、散々美味しいのもう食べたから」

 この|阿波戸《あわと》ではどうなのかは分からないが、県内にはたくさん農園があって、林檎に葡萄、桃に柿、季節ごとにこの辺は果物と言われるものを何でも無節操に作っているイメージさえある。しかもちゃんと美味しいのだから、果物好き、あるいは果実由来のお酒が好きな人には堪らない。かく言う私は両方好きなのだけど、関東から日帰りできる距離にこんなスポットが有るというのは非常に誘惑的だ。今回はフィールドワークとして来たのだけど、前に純粋に果物狩りに来てから市内の方にはよく行くようになっている。
 一方で私が果物以外の|阿波戸《あわと》の名物を聞き出そうとすると、アミちゃんは少し困ったような顔で人差し指を口元に当てて考える。少ししてから、でしたら、と口を開いた。

「正直、あんまりお薦めではないんですけど……特に女性は好きでない方が多いので」
「ふんふん。大丈夫だよ、私、ゲテでも食える方だから」
「あー、私食べちゃうくらいですからね」
「その自虐にはどう反応すればいいのかな!」

 アミちゃんは、厨房ではなく自宅部分の台所の方へ向かい、タッパーウェアを一つ持ってきた。何か、黒っぽいものが入っている。お薦めではないと言いつつタッパに入っているというのは、本当に期待が持てるやつだ。つまり、観光化されていない、本物のその地の伝統の食品。

「お、これは……貝?」

 山ばかりで海に隣接していない地域だと言うのに、タッパーウェアの中から出てきたのは意外、貝だった。先から口までで3〜5センチ位になる黒っぽい色をした巻貝。丸っこくて、殻には光沢がある。

「タニシ、みたいなものですね。この辺特有の淡水巻貝で、他の淡水巻貝より大きいのと繁殖力が強いこともあって、この辺では昔からよく食べられていたそうです。最近は全然食べなくなっちゃったみたいですけど、好きな人もいるんですよ」

 元々、タニシ一般や、近年外来したスクミリンゴガイは、淡水巻貝の中でも文化的に食用とされる例がある。また陸貝、つまりカタツムリの一部も昔はタンパク源として食されていた。フランス料理のエスカルゴがそんな感じであることを考えると、内陸産の貝を食用とすること自体はさほど珍しいことではない。ただ、たしかにツブやサザエといった海産の巻貝に比べて余り食すイメージはないのも確か。アミちゃんが言った通り、水槽の中にいるとか、用水路やドブの中にいるとか、あまりいいイメージがない。海産の貝は魚介類扱いなのに、陸貝や淡水貝は何故か虫扱いだったりする。まあナメクジに貝を見い出せと言われても難しいのかもしれないが。
 長年海と親しんできた民族である日本人の海産物への無条件な高好感度は、ある意味で無慈悲だ。海老や蟹、蝦蛄のような生き物が陸にいれば確実に衛生害虫だし、それは魚の類でも同じことが言える。虫の類を食用とするのは、日本の中でもそんなに多くの地域ではないし、その文化の多くは消え去っている。やはり汚いというイメージのほうが先行するようだ。
 だが、その日本人とて、本来は単一民族ではない。アイヌという先住民は今でも同化されずに残っているし、縄文人というのは現在の日本人に交雑・同化された先住民だったとも言われる。それ以外にも同化され名前を消された先住の民族というのは、きっとたくさんあったのだろう。黄赤青黒白の5つの肌の色をした民族が日本にいたとかいうオカルトも存在する。民俗学を基礎に趣味で旅行する身ともなると、そんな話をわんさかと耳にする。だがそれらのいずれも、海産物は大好きだったというのは、ある意味で統一的な宗教と同じなんじゃないかと冗談めかして思ったりもするのだ。

「ふうん。何ていう貝なの?」
「みんな慣習的にサワニシ、って呼んでますが、正式名称はよくわかりません。学名もきっとあるんでしょうけど、多分誰も知らないですね。山中の沢でとれたからサワニシなんでしょうけど」
「これ、アミさんが取ってきたの?」
「まさか。野生のなんておっかなくて食べられませんよ。昔はそうだったかもしれないですけど、今はちゃんと業者さんがいて、衛生管理された状態で養殖されてます。|阿波戸《あわと》とかその周辺でしか流通してませんし、養殖家さんももう数軒しかないですけどね」

 淡水貝は一般に、回虫や吸虫などの寄生虫の中間宿主として知られており、淡水貝にはその幼生の一態であるスポロシストなどが潜んでいることがある。それらが生きた状態で貝を経口摂取すれば、当然人間に入り込んでくる。アミちゃんの言った「おっかない」とはそのことだろう。陸貝・淡水貝を食す文化がある場合は、それはきちんと火を通すことが前提になる。それらの寄生者は熱に弱く、火を通せば無害化出来ることは広く知られていることだ。川魚とスタンスは一緒である。

「ニシ、なんだね。まあこの形はニナじゃあないか。タニシの仲間なのかな」
「外来種っぽい形ですけど、古くからこの地方にいて、この地方以外にはいないらしいですよ。あんまり益もないし、食べはしますけど殊更美味しいわけでもないですから」

 |螺《にし》と|蜷《にな》はどちらも巻貝を意味する言葉だが、本来的には淡水産か海産かの違いがあると言われている。|螺《にし》は海産で、|蜷《にな》は淡水。ただ、|螺《にし》でも|田螺《たにし》は名前の通り淡水であるし、|川蜷《かわにな》はわざわざ淡水産であることを重ねてあるような呼び方で、非常に紛らわしい。汽水域にしかいないものも認められていて、現代ではさほど明確な区別はないようだが、総じて|螺《にし》はずんぐりした形の巻貝で海水淡水を問わず使われる、一方、|蜷《にな》は淡水にのみ用いられて比較的鋭い錐体の殻をもつ巻貝を言うようだ。

「ふうん、これは面白いものに出会えた。ね、ね、いただけるんだよ……ね?」
「もう、そのつもりでおっしゃったんでしょ? でもそんなに期待しないでくださいね」
「大丈夫だよ、期待はしてないから。面白いものを食べることのほうが重要なの。」
「あー、酷いですね。これでもお客様に出すお料理は私が作ってるんですよ? 期待してないなんてズバッと言われたら傷つきます」
「えっ? 期待って、料理の腕のこと? ちちちちがうよ、そっちは期待してる、期待してないのは貝の方で……ええっ、アミさん結構イジワル?!」
「さっき散々|いじわる《・・・・》されましたからね」

 くすくす笑っているアミちゃん。じゃあお食事の用意しますね、と、テール髪を揺らしながら台所に消えていった。

(やばい)

 言葉遣いは丁寧だし控えめな様子だけれど、やっぱりその後姿はセクシーだ。特に腰回りの肉付きは、背の高さもあって太った印象になっていなくてグラマラス、逆にエロティック。さっきまであの暴力的な肉体と、絡み合っていたのかと思うとすぐにまた、興奮を思い出してしまう。こんないい子と、ねんごろになれるなんて、ほんとツイてる。

「アミちゃん」
「はい、なんですか?」
「すき」
「ふぇっ」

 私が言うと、彼女は火がついたみたいに真っ赤になって俯いてしまった。お風呂であんなに乱れてたし、これは言えないことだけど彼女の商売柄こんな言葉は慣れっこなはずなのに、そんな素人っぽさが、すごくキュンってなる。

「わ、わたしも、って言っていいですか?」
「だめ」
「ええっ……」
「『私も』じゃなくって、|ちゃんと言って《…》?」

 私がそう言うと、彼女はまた小さくなって俯いてしまった。でも、顔をうつむかせたまま小さく言ったのが、聞こえた。

「すきです」



§§§



 夕方になると、あとはあっという間に夜へと向かうだろう。

(唇の荒れが気になるなあ。明日リップクリーム買ってこようかな家に帰ればあるけど)

 リップクリームは家に帰ればばあるのに、出先に持ってこず、出先でで買い足して家に増えてしまうものの代表格だと思う。私自身は余り化粧をしないたちだけれど、化粧水にBB+粉くらいはする。でも無頓着なせいで忘れてくることが多くて、これも増えていく。でも、それを買い足すことさえ、ここでは少し不安があった。中心部まで出ないと売ってないのではないか? と思わされるくらいだからだ。
 それはともかくとして、今日は件の『青線』を探索することにした。|阿波戸《あわと》に来た理由とは直接関係はないものの、やはり風俗(だぶるみーにんぐ)と愛好家としてはチェック不可避というものだ。
 意気揚々と外に出ては見たものの、次の瞬間にはその気概はすぐにへし折られてしまった。そう、竜宮ではアミちゃんといい関係に慣れたこともあって全く忘れていたのだが、この|阿波戸《あわと》の過疎具合と来たら酷いものなのだった。
 外に出ればアスファルトの舗装は不完全でひび割れや穴も修復されていない。今じゃすっかり珍しくなった地上送電線は未だに空を区切り疎な家々に細々とした腕を伸ばしてそれらを接続している。だが過去都市部によく見られた『四角い空』と悲観される光景とも違い、力なく伸びる送電線の線分は余りにも心許なく、見上げてもその存在感に疎ましさを感じるどころか何故か応援さえしたくなってしまう。空を翔ける鳥はそれに邪魔される様子もなく、電線は足場として踏みつけられているばかり。それになんせあの青空を区切るのには、黒くか細い線よりも、白い雲の方が余程に乱暴なのだから。旧式の白くごついガードレールは役目を忘れて錆付き、足元に舗道を割って這い出した草を育んでいる。標識も色褪せ腐食が目立ち、傾いているものさえある。もう地上を追放されるのだと言いわれかねない、寂れた人工風景。車が走ることが稀な道路、勿論人の行き来はそれより幾らかはあるが、多いとはいえなかった。

(いやいや、アミちゃんとあんなふうになれて願ったり叶ったりではあるけど、この気分と街の雰囲気がリンクするはずもなく)

 それにしてもやっぱり、竜宮の温泉の湯は肌に合わなかったのかもしれない。指の股とか、胸とか、赤くなってる。汗疹したみたい。唇が荒れ始めたのもそのせいかなあ。痛くはないのだけど、ちょっと痒い。

(『青線行ってくる』って言ったときのアミちゃんの顔……あれだけは心臓に刺さったなあ……)

 それはそうだ、すきだよ、なんて囁いた夜に、風俗街行ってくるなんてどんな屑だよってことだ。そこはもう『買う』つもりが無くても非がなくても私が全面的に悪いのだから全て説明して平謝りして、教えてもらった。私の方だってそんなに……いっちゃあなんだけれど、旅先での一夜の恋に入れ込むつもりなんてない、無いのだけど、進んで後腐れを悪くするような気だってやはり無い。元々この|阿波戸《あわと》にやって来た理由を一から説明して、それと風俗街(つまり『赤線』『青線』)が関係しているという……のは嘘なんだけどそういうことにして、全部説明するのには、1時間を要した。1時間で済むなら安いものだが。
 それでもいってらっしゃいと送り出してくれる彼女の表情はなんだか寂しそうな顔をしていたので、未だに胸が苦しい。

「こっち、だと思うんだけどなあ」

 女は買わないぞ、と改めて胸に誓ってから、目的の通りへ向かう。
 だが、こんな寂れた街にある歓楽街が、一体どれほどなのかと疑う部分も多かった。一応は都市派の私は、歓楽街などというとそれなりの規模を想像してしまうのだが、例えば各駅停車しか止まらないような小さな駅にへばりついて生きながらえているような、アパートの各部屋に小さなスナックやバーが詰まっているようなあの不思議な佇まいを指しても歓楽街というのであれば、この|阿波戸《あわと》にあるのもそういうものかもしれない。人の営みがあればついて回るような商売だ、存続さえしているのならそれなりの商売として成り立っているのだろう。
 私は手帳にメモしたアミちゃんの指示を眺めながら全く見知らぬ土地をうろうろと、それを探し回る。

 人が住んでいるのかどうかさえ怪しい家の前庭には、落ち葉と雨水を繰り返し重ね続けた上に粗大ごみが放り捨てられ、更にその上から草葉が覆いかぶさっている。人工物は堆積する時間と自然に覆い尽くされていくが如く、だがその自然や時間というのが巷で語られがちな綺麗で風情のあるものではなく全く頽廃で腐臭さえ伴い寒気を覚えるような薄気味悪さを漂わせている。誰も住んでいないのならこの中途半端に残る人の手の匂いと生活感が、もし誰かが住んでいるのならこの状態のまま打ち捨てるこの家の主がまともではないように感じられ、どちらにしても気味のいいものではない。

(まだ日が傾いたばかりなのに、真夜中の路地裏歩いてるときみたい)

 せめて早くその繁華街にたどり着いて欲しい。太陽はオレンジ色に化けて燃えている、焼却炉の窓から覗いたあのオレンジ色だ。この街は廃棄されたのか、そんな風にさえ思えてしまうのだ。明るく光が指して影は影として背伸びしているというのに、まるで明るいだけの闇がひたひたと街を満たしていくみたい。これで完全に日が暮れてしまったら、ここはどうなってしまうのか。旅館で一人部屋に残ったときに感じた、あの回避に焦燥さえ感じるほどの寂寞。部屋という防護壁の内側にいなかったなら、どうなってしまっていたろう。

(寂れてるっていうか、死んでるみたい)

 行き交う人が全くいないわけではない。なのに、歩いている人と歩かれている街とが一致していないような奇妙なギャップを感じる。まるで合成映像みたいな、浮いた感じ。町並みの方だけに注目すれば、ゴーストタウンと言われても信じてしまうだろうし、人だけを見れば東京でも郊外に出れば一日の間に人通りが数人程度の道なんてあるだろうし、人自体も至って普通だ。だと言うのにこの重なり合うふたつの映像の間になんだか分厚い透明な距離があるように思えてしまう。行き交う人とすれ違っても、全く気配がない。思い切って話しかけてみたけど、別に普通に会話はできた。この溝はなんだろうか。
 一方で、大敗を進み続けるような町並みには、生気はないというのに存在感はそちらのほうが圧倒的に強いのだ。
 営業をやめてから全く見栄えを気にしないまま放置された店舗らしい軒先には、日焼けを通り越して日光漂白で真っ白になりもう何が書いてあったのか判然としない広告や看板が傾いて、下げられず放置された卒塔婆が散乱する墓地を彷彿とさせる。広告に描かれている人物像は白飛び薄まり、だがそこから動けずに表情さえあの頃のままなのだろう、ボロボロで遺棄されたような佇まいの中で依然として広告らしい明るいふるまいを無理して続けようとしているのが、ぞっとする幽霊のようにも見えた。腐食して近寄ることに危険さえ感じるシャッターや割れた後雑にアルミテープで補修しただけの薄い壁材が私の侵入を拒絶しているが、物理的な遮断は既に薄く、そこに漂う孤独や寂寞によって立ち入りを阻む結界を敷いているだけに思えた。その結界は、十分に機能していると思う。
 わずか20分ほど歩いている間に、日が完全に沈んでしまった。廃墟とも思える建物をいくつも通り抜ける間に、人間とは一人としかすれ違っていない。暮れた宵闇は黒ではなくまだ濃紺をしている。だがなまじっかその色が見えるせいか、宵闇はその中を泳ぎ続ける私の体にねばっこく絡みついてくるように思えてしまった。

「あった……ん?」

 この感覚は覚えがある。そうだ、竜宮を見つけたときと同じだ。アミちゃんが示してくれたのが正しいのならこの場所がこの街で唯一の繁華街であり、今ではすっかり珍しい、非合法で性でも買える『青線』な筈だ。でも感じたのは

(いや、ないでしょ。看板の一つも出てないし、どう見ても住宅街なんだケド)

 住宅街以外の何物にも見えない町並み。ここが民宿だと言われて竜宮の前に立ったときに感じた強烈な違和感と同じだった。何なのだ、この|阿波戸《あわと》という集落は。田舎だから常識が通用しないというのはある程度は認めるが、ある程度にとどまる。この町並みのどこに、飲食店があり、性風俗店があり、売春宿があるのだろうか。この民家一軒一軒が、『竜宮』のように実はそうだというのか。
 1ミリも信じられないまま、私はその小路を折れて入っていく。

「ひと、いないし」

 繁華街、というのなら、客か、そうでなくても通行人が幾らかでもいるはずだ。だと言うのにここは全くその気配もない。この工事に入り込む前のあの閑散とした道の風景だけが、続いている。民家らしく明かりが灯り、看板やネオンの類は全く見えない。この通りではないのかもしれない。きっと私が間違えたのだ、そう考えるのが一番自然だ。引き返して、隣の小路か、あるいは間違えやすそうな場所を洗い出して探し直すか。アミちゃんにもう一度聴き直すか。
 一旦この通りを諦めよう、そう思ったときに、私はどうにも意識の端に引っかかるような妙な感覚を覚えた。今目の前にある光景の、一体どこに、そんな深層に問いかけるようなものがある? ただの過疎地のボロい住宅地で、民家が並んでいるだけではないか。時折小さなバラック物置もあるが、このどこに繁華街の気配があり、そうではなくここがただの住宅街だとするとこのどこに違和感がある?
 私は引き返そうとするのを一旦踏みとどまってもう一度その小路を眺める。先入観を取り除いて、自分に正直な目でそれを見るのは、|民俗学《趣味》で今とは違う文化や文明を眺めるときによく使うものだ。

(ん?)

 もう日が暮れた後だ。民家には明かりが灯っていても不思議じゃない。事実、目の前に広がる住宅街には、やはり人が住む街だと証明するように、明かりが灯っている。ネオンも看板もなく、至って民家然とした光。だが、変だ。
 普通、玄関灯というのは、あんなにも明るいものだろうか。控えめに暖色の明かりが点きっぱなしであるか、人感センサーで人が近づいたときにだけ煌々と明るく光るものではないのか。こうして眺めていて感じる不自然さというのは、全ての玄関に一様に明るいオレンジ色の光が煌々と照っていて、一つとして寒色の明かりは混じっていないことだ。いくつか消えているものはあるが、ここから見える通りを拔けきるだろう向こう側まで、ずらりと点灯したままの玄関灯が列をなしているのだ。これは、まるでアニメの中で描かれる町並みのような違和感がある。特にこの|阿波戸《あわと》が過疎地域であることを考えると、これほどに律儀な玄関灯の列は自然とは言えない。

(もしかして、これは『ネオン』なの?)

 そう思って、さっき見つけたバラックみたいな物置小屋に目を向ける。そこにまで、明かりが灯っていた。ありえない。物置ではない、とすると、あの小屋も店だということか。あんな小さな小屋で飲食店は無理だろう。バーもスナックも余りセンスがいいとは思えない。だがここが『青線』であることを考えると、それはストンと腑に落ちる。
 あの小屋は、買った性を愉しむための部屋だ。

(ほんとに、そうだっていうの?)

 不思議な高揚感があった。当たり前だ、『青線』自体が存続していることが貴重なのに、それがこんな風にまるで土に埋められて隠匿されたような様で残っていて、私はそれを見つけることが出来たのだから。こんな場所がまだ日本にあったなんて。

「ま、まだよ。確証があるわけじゃない」

 私はその通りを歩いていく。左右にある民家のような建物が、実はバーやスナック、売春宿だとすると、それを通り抜けるだけでも興味が湧いて仕方がない。本当にそうだというのなら、まるで看板を出していなくて、一軒一軒が少し大きくなった、新宿のゴールデン街だ。左右に立ち並ぶのは、平屋か二階建ての民家のような佇まい。その一つを通り過ぎると見えたのは、入口の扉が、半開きにされていることだった。左右の家とも両方だ。

(中が、見えそう?)

 ちらりと見えたのは、半分開かれた玄関の戸の奥に、年老いた女性が座ってこちらを窺っている様子だった。逆サイドの玄関も同じで、幾らか若いが決して娘という歳ではなさそうな女性が同じようにこちらを見ている。
 不気味だ。私が客なのだとしたら、私の方が店を選んでいる立場になるはずだと言うのに、まるで店のほうが私を値踏みしているみたい。
 その家の前を通りって次に並ぶ玄関へ進もうとしたとき。

 ぱち、ぱちぱち

 「?」

 なにか乾いた破裂音が響いた。いやこれは……拍手?
 驚いて立ち止まってしまい、その音の方を見る。拍手をしているのは、さっきの半開きの玄関の奥にいてこちらを窺っていた女性だった。ふたりとも。熱心に、という様子ではない。テレビでも見てファンの演歌歌手が出演したとかそういうものでもないようだ。確かに彼女たちの目は私の方をじつと見ているのだから。
 意図がわからない内はどうしようもない。私は拍手の音を聞き流すように、玄関を通り過ぎた。そのときに、近くの方の家の玄関をちらりとみた。拍手する女性がこちらを見ている、そのさらに奥側には、年頃らしい、もしこの街が女衒街だとするとまさしく商品価値の有りそうな年代の女性が、座っているのが見えた。若い娘はこちらを見ていない。横顔だけが、十分に光を浴びて綺麗に映えるように、据えられている。

(あれが、ウリの子?)

 気にはなったが、私はなんとなく足を止めるわけにもいかないような気がしてそのまま通り過ぎる。そうすると、次の家の玄関に近づく頃には、同じように向こう側の玄関からも拍手が聞こえてきた。ぱち、ぱち、ぱち。

(客引き、なのかしら、もしかして)

 いらっしゃいませ、営業中ですよ。そのかわりに、柏手を打つというのが、この街の道義なのかもしれない。
 次の玄関に近づくと、やはり年をいった女性がこちらを窺いながら拍手をし、その向こうに若く売り物になりそうな女性が黙って、横顔だけがこちらに見えるように座っていた。さっきと全く同じ。
 間違いない、ああして客を引き、売っているのだ。

(す、すごい、こんな街があるなんて)

 もう少し進んでいく。さっき見えた物置小屋のような場所の前を通ると、粗末な板材で区切られた小さな空間に、食べ終えたカップ麺やビールの缶、毛布と女性のものらしい足先が見えた。殊更安いタイプの店かもしれない。
 ここから見える家の全てがそうなのかはわからない。わからないから営業中アピールと客引き、女の子の顔見せシステムが出来上がっているのだろう。そうではない建物も混じっているのだろうが、こうした店がこの町並みの中にすっぽりと潜んでいるという事実が、私を高ぶらせてしまう。
 私の専門は近代ではない、もっと昔の民俗なのだが、こうした文化も確かに文化だ。しかもこの辺にこんな文化があるなんて訊いたことがない。詳しくはないが、四国や九州の一部、離島にはこうして客を引く性サービス店が住宅街に埋もれているという話を聞いたことはある。が、目のあたりにするのは初めてだった。

 ぱちぱち、ぱちぱち

 柏手の音が、宵闇に、薄く響いている。後ろの方でも音が再開した。振り返ると、別の男性が通りを歩いていた。買いに来たのだろうか。温泉が出たという話は全く広まっていないし、それに寄って観光客が増えているという感じもまったくない。ということは地元の人だろうか。私をさっさと追い抜いて、どこかの店に迷いなく折れて入り込んだ。行きつけの店、とでも言うのだろうか。まるで家に帰ってきたサラリーマンのようにさえ見えた。
 拍手はまだ響いている。当然、私がここにいるからだ。

 鬼さんこちら、手の鳴る方へ

 まるでそう言われていたみたいに思う。
 手を鳴らして捕まえさせる目隠し鬼の遊びは、子供の鬼ごっこを大人が楽しむために改変したもの、という説がある。遊郭で客と女の間で行われ、いわゆる「あはは、つかまえてごらんなさぁい♪」「こぉのお♪」みたいなやつだ。客は目隠しをして手を打ち鳴らす女を追い、抱きついて捕まえたりと、今どきパワハラ係長でもやらないようなやつだが。
 もう一つが、子供の遊びになる更にその前には儀式的なもだったという説だ。節分の豆巻きや、鬼やらいと同じように、災難や不幸を持ち込む鬼を社会から追い出すためのもので、手を叩いて逃げる役の者が、追いかけてくる鬼を外へと導き連れ出すのだという。連れ去られた鬼は帰ってこなくてもいいが、手を打つ囮役がどうなるのか、なんだか雑に作った都市伝説のようだが、視界を遮った誰かが、音のなる誰かを追いかけるという遊びは世界中に類型があり、そうしたサブカルと接続して考えたい人情があるのだろう。

(この街に鬼がいるのかどうかは知ったことじゃないけどね)

 一応相手は、違法とはいえ生活のかかった生活のたつきとしてああして手を叩いて呼び込もうとしているのだから、まるで買う気の無い私は鬼と言われても仕方がないかもしれない。軒先を通り抜けるたびにちらりとその半開きになった扉の内側に視線を投げ込んで見る。角度に寄って見えたり見えなかったりするのがもどかしい限りだが、中を垣間見ることが出来ると必ず内側にはバーカウンターが見えた。横顔だけを外に見せている若い女の方はバーカウンター外側にいて、その内側には誰もいない。もしかすると手を叩いている方の女性が担当するのかもしれないし、バーテンが別にいるのかもしれない。とにかく、驚いたのはいきなりベッドがあってヤるための施設になっている、というわけではなさそうなことだ。いずれの店も二階建て以上であり、通りに対して空を削ってせり出した二階部分には明かりが灯っていたりと持っていなかったり。よく見ると人影が揺れていたりするのだから、もしかすると売春宿として機能しているのは二階部分なのかもしれない。
 急峻な土地柄にある温泉地には、1階で何らかの店舗を経営しながら2階が宿泊施設になっているという旅籠街もあると聞く。ここも山にへばり付くような土地だ、そうした文化がここにもあるのかもしれない。ここから最も近いと思われる有名な温泉郷には3つの泉源がありそれぞれに温泉街を形成しているが、そのいずれにしてもこの|阿波戸《あわと》と同一の街とみなすにはいささか離れすぎている。ここは温泉街として名が通っているわけではない。この間出たばかりだというのだからそのカテゴライズは間違っているかもしれない。もっとロマンのある見方をして、大昔には温泉街として一度は栄えた過去を持つ、なんてならいいのになあ。

(でも、もしそうだとすると、あの竜宮が民宿として現存していることへの一つの回答にはなるなあ)

 2階が売春宿だとすると、1階は客の待合室と、女の子のマッチングを兼ねた飲食店かもしれない。もしかすると下の階でだけ働く普通の女の子もいるのかもしれない。例えば普通のバーとして使うことも出来るが、合言葉を知っているものがそれを言うと女の子の写真が貼られたメニューが出てくる、とか。ちょっと現実味がないか。
 拍手は、まだ聞こえている。残念だけど、私はここで『買い物』をしていくつもりはない(アミちゃんのほうが絶対イイしね)。『青線』で性を買うのは、かなりの熟練を必要とするらしい。ぼったくられることもあれば性病を伝染されることもあると噂されていた。流石に私にはそんな技量も度量もない。この繁華街?がたしかに今日まだ残る『青線』らしいことを確認できたし、何より極めて珍しいスタイルでそれが残っていた、それを目のあたりにすることが出来ただけでも、私はもう大きな満足を得ていた。

(収穫はあったし、横に拔けて、お宿に戻ろうかな)

 私は来たときに比べて圧倒的に軽い足取りでその通りを進んでいく。見える町並みも、正体が知れてしまえば、よりライトに興味深く、まじまじと観察しながら歩くことが出来そうだった。もう暫くこの通りの雰囲気を楽しんでいたいのは山々だったが、彼女たちの仕事を冷やかしすのも気が引ける。私は適当なところで道を折れてこの通りを出ることにした。



§§§



 一本ずれて裏手のとおりに入ると、半開きの戸もないし妙に明るい玄関灯の列も見えない。これが普通の町並みだ、どちらも大きく異常性はなく、さっきの通り非日常感も拍手がなければわからないほどだった。この通りこそは、普通の住宅地だろうか。一応さっき見えた売春宿外の裏手で、接してはいるのだが。
 音もなく、大きな物体が入り込んできた。|阿波戸《あわと》に来てからほとんど目にしないものだからすっかり忘れてしまいそうになっていたが、それは自動車だった。大きめのバン、といってもマイルドヤンキーが好みそうな鼻面のデカいトレンディなやつではなく、何十年も前からデザインの変更がないんじゃないかと思わされるような、無粋で無機質な古臭い(でも私には、どこか可愛げがというか、愛嬌があるように思える)やつだ。それが、小路を曲がり入ってきてしばらく進み、ある店の裏手で止まった。
 私のような動機を持って|阿波戸《あわと》に、この売春宿街に来る人間が多いとは思わないが、この『青線』というのは、ある一定の界隈ではプレミアムな価値を持つこともあるのだとか。
 法規制の目を縫って存在しているため、それに縛られない。風俗店や風紀、治安を取り締まる法や条例を全く無視して売り手は売れるものをなんでも、買い手は買えるものなんでもを、取引するものだから、風俗営業を公的に認められた代わりに様々の規制がかかる『赤線』では買えないようなサービスが、『青線』では買える。本番、未成年、動物、薬漬け。なんでも。そういうのを好む人には、ここは『少々高い金を出せば夢が叶う場所』なのだという。
 ちなみに県中心部にはかつて『赤線』が存在していた。江戸時代以前から旅籠街として存在し、以降も遊郭としてかなりの規模を誇っていたらしい。大火事を経験したり、空襲で損害を受けたり、近年ヤクザの抗争に絡んだだのということもあって、赤線としては現在では廃止されており、『青線』としても存続していない。だから、この|阿波戸《あわと》に『青線』が残っているというのは、もしかするとその遊郭の名残なのかもしれない。それらの惨事に追いやられてなお細々と幻想的に続けられている売春宿街というのが存在するのかと思うと、なんだか郷愁や憧憬に似た寂寞が感じられてしまう。歴史や民俗を追ってその断片が今も残っている姿をみるのは、いつもそういうものだ。
 さて。あのバンが客なのかどうかは知らないけど、とんと見なかった車の出現は、わざわざ遠方からこの|阿波戸《あわと》の、しかもこんな隠れ潜んだ店にまでやって来た人がいるということだ。何らか手近な店では満たせない要求があることに違いはないだろう。

(特殊なお店なのかな。それとも、可愛い子がいるのか)

 件のバンの傍までやって来た。真っ黒に塗られた車体は妙に夜の闇に溶け込む、そうか、車にしては珍しい、艶が出ない塗装をしているんだ。昼間ならば、光があたっても全く照り返しのない車体など違和感があるだろうが、こうして夜の姿を見ると、まるで輪郭を失い溶け出してしまいそうなほどマッチしている。まるで各ライトだけが気味悪く人魂のように浮いて見える。あれ、エンジンかけっぱなしなのか。
 車の横を通り抜けようとしたとき、ふいに人の声が聞こえた。女の子声、いや、子供の声。店の裏口のようなところから二人の人影が出てきた。真っ黒でよく見えない。

「そっち持って、そーっとだよ」
「わかってるよう。リンこそもう少し高く持って、私常に中腰で膝死ぬぅ」
「こ、これくらい?」
「あ、うんーいい感じ」

 私の脳みそもずいぶん単純なもので、この街の中で女の子を見かければ即ち娼婦のように思ってしまう、ああそうした今は私だってそうじゃないか。でもそれはすぐに否定した。だって車の傍に出てきた二人の女声は真っ黒い服に包まれていてどう見たって華やかさとは無縁、売り物としてのアピールに欠いていた。それを『粋』とする文化があるのかもしれないが。彼女たちはせっせとなにか大きな物を運び出しているようだ。

「これだけですか?」
「ああ、そのふたりだけだよ」
「責任を持って処置しますんで、またご贔屓に」
「もう勘弁だよ」
「そいつぁたしかに」

 真っ黒い衣服はそのバンと同じように闇に溶けるような黒。小さいのと大きいのがいる。小さい方の子はまるで子供のように小さい。ここから見る限りはひらひらとした形ばかりはドレスのような服、但し黒以外の色を使っていないので全く華やかさはない。こんな言葉があるとは思えないが、言ってしまえば喪服ドレスみたいな感じ。一方の大きな方の女の子は、キャバクラの黒服みたいな黒スーツにシャツまで黒い黒。異様に背が高い、大型のバンの車高は彼女を収めるのに心許ないくらいに見える。ふたりとも顔が見えないのは、黒いマスクまでしているからだった。手元も見えないのを見ると手袋の果までしているのかもしれない。それも黒いのか。流石に普通ではないような気がする。そして、目元だけが異様に爛と目立って見える。声を聞く限りは女性だし、背丈に見合ったような声をしている。一体何をしているのだろうか。
 二人の影が、店の裏手側で店の人らしき人物と挨拶を交わした後に、バンの後部で止まり荷物を下ろす。小さい方がごそごそと懐を弄って、そして手を止めた。

「クー、悪い報せがあるんだケド」
「なに?」
「キーが」
「中に入れっぱなしとかやめてよ?」
「……」
「はぁ?! JAFとか呼ぶわけいかないんだから! どうするの!?」
「ち、ちちちがうよ、車の中じゃない、『袋』の中」
「ああ、なんだ。だったらいいじゃないか、さっさと出そう。ビックリしたもう」

 私に気付いてないんだろうか。彼女は車の尻の後ろにいて、私は車の鼻先の方に居る。彼女たちが何をしているのかはよくわからないが、別に興味のあることではないしあまり立ち入るべきではないのだろう。さっさと横を通り過ぎることにした。

「どっち?」
「……細切れの方」
「なるほど悪い報せだったわけだね。しかし何でこんな中に入っちゃうんだよ」
「いろいろあって」
「そりゃ退っ引きならない理由だね、仕方ない」
「ごめんって」
「じゃあ、お客さんに挨拶してくるから、探しといてね」

 二人は抱えていた袋を下ろし、背の高いほうが店の方へ戻る。残されていた小さい方が何重かに包まれていたのを解いて最後に出てきた袋のジッパーを開ける。

(っ)

 なにか、ぞわぞわと強烈な違和感が体中を覆った。違和感、違う、これは。

(お、お腹空いた)

 何でこんなタイミングで、しかも、すごい、お腹がよじれるほどの空腹感。すごく胃液が出てるのを、自分でわかる。下腹部も蠕動していて、ああ、これって、お腹がすいただけじゃない、空腹時に目の前にご飯が置いてある時と同じ感じだ。そんなにお腹が減っただろうか、アミちゃん手作りの晩御飯をたらふく食べた後だって言うのに。ぐぅぅぅぅ、お腹がなる。キリキリ痛いくらいの空腹感、実際にお腹が減ってるのだろうか、ちょっと考えづらいのだけど、血糖値が足りてないようなフラフラ感もある。何で、いきなりこんなに。
 それよりも、あの袋の中、なんだろう。気になる。すごく気になる。なんだか知らないけど妙に気になる。見たい、あの中に入っているもの、きっと面白いものだ。この集落が不思議な理由を知ることが出来るかもしれない。もしかするとサワニシ以上の珍味でも運び出すつもりかもしれない。何にせよ個の目で見てみたい。見てみたい。見てみたい!

「あ」
「お?」

 なにかに急かされるように思わず飛び出した私を、黒尽くめの女の子が振り返った。目が合う。
 ぞくっと、背筋を何かが駆け抜ける。悪寒のようにも感じられたが、目を見張る美術品を見たときの感じにも似ている。
 子供のような背丈に子供らしく大きめの頭、太っているというのではなくこれも子供特有な感じに丸みを帯びた頬、大きな目、だのに、他の部分だけアンバランスに妙に大人っぽい。目は大きいのに成熟した女性のように形が整っていて長い睫毛はそこだけを見れば雑誌のモデルのようにばっしりしている。顔の彫り自体も深いし、鼻は子供らしい丸さを持ちながら鼻筋はすっと通っていたが、この丸みを帯びた輪郭にはアンマッチだ。何よりもまるでオイルでも塗ったかのように濡れた印象の唇、きっとウェット系のグロスをべっとりと塗ったものなのだろうが、それにしてはあまりにも崩れていない。塗りたてはこうなっても、ああも普通に喋っていればこんな風に水の膜を保ったようにはならない。だとすると、素材そのものが余程に特殊な粘膜なのだ、この唇は。何よりも、赤いキャンドルみたいに透け感のある真っ赤な様子は、否応なく目を引く。

「えっと」
「こんばんは、月が綺麗だね」
「月なら出てないですが……」
「夜中に外で初対面の人に会ったらこう言うもんだと思ってた」
「は、はあ」

 総じて言ってしまえば、可愛らしい、という言葉ではない。綺麗というのとも違う。何か、歪なのだ。不安定感と言ってもいいかもしれない。子供の体に無理やり大人のパーツを嵌め込んだかのようなアンバランスな気味の悪さが目立つ。猫耳をあしらったボンネットも、可愛いのか不似合いなのか、どちらに落とし込むのが妥当なのか迷ってしまう。こんな夜の街で働いているから、と言い直したくなったが、メイクの問題でもなさそうだ。わかりやすい外見の良さではないのだが、妙に印象に残る。それも、悪い印象ではない。綺麗な女性やカッコいい男の人を見たときには後頭部あたりに残るような感覚が、この人の印象は、心臓に残る感じ。
 突然現れた私に特に動じないまま「月が綺麗」だなんて言う。ちょっと変わっている。でもその手は、的確にすばやく、その袋の中のものを隠すようにジッパーを上げた。その瞬間に、私は見てしまった。

 今、袋の中に入っていたのは、人の体ではなかったか?
 しかも、手足がばらばらになっていたように見える。

「あたしの顔になにか付いてる?」
「あ、いえ。その、綺麗な唇だなって」

 何言ってんだ、私こそ。でも、彼女はそれこそ三日月みたいな曲線を描く唇でケタケタと笑ってから、もう一度私を見上げた。

「おやおや、月は出てないけど口説かれてしまったよ。
「あ、や、そういうわけでは」
「あたいは、リンってんだ」
「えっと、サユリ、です」

 本名を名乗ることもないだろうし、ここで名乗ることは少し配慮が足りないかもしれない。相手もリン、だなんて本名っぽくない名前を出してきたのだ、ちょうどいいだろう。子供、だと思うのだけど顔つきの不思議さと、何より雰囲気に押されて、なんとなく丁寧に口を利いてしまう。

「さゆりんは、唇荒れてるねえ」
「え、あ、はい(さゆりん……)。」
「いいリップ知ってるよ。ていうか未開封のあるから、あげよっか?」
「いえ」

 よく見ているなあ、というか、このタイミングでどこ見てるんだという感じだが。

「ここのお店のお客さん?」
「いいえ、ちょっと通りかかっただけで」

 嘘といえば嘘だが本当といえば本当だ。流石に女を買いにでも来ない限り通らないような場所なのだろう。知らないできた、というわけでもないが、実際に買いに来たわけでもない。身の上から説明することになりそうなので方便を言うことにした。

「じゃあ温泉に来たお客さんかぇ?」
「あ、はい」
「そっかそっか。この辺の泉質は、ちょっと強いから。慣れない内はちょっと刺激を感じるかも。でもすぐに収まるよ」

 それにしても、いきなりお節介でリップクリームをくれようとするなんて、見た目が子供のようだと言うのに(子供なのだろうけれど)、まるで田舎のおばあちゃんみたいだ。見た目が普通と少し違うから身構えてしまったけれど、話をしてみるとまるで確かに関西のおばちゃんや田舎のお節介おばあちゃんのような、嫌じゃない感じを漂わせている。口調がそうさせるのかもしれない。

「あんまりひどくなるようなら、すぐに病院行ったほうがいいよ。ここにある病院じゃなくてこの街の外の病院。」
「はい、どうも」

 私が礼を言うと、丁度さっき店の中に引っ込んだ大きい方の人が出てきた。

「リン、行こう」

 リン、とはこの小さい子のことだろうか。彼女のことを呼んでから大きな方の女性は、私の方を一瞥だけして車の方へ足を向けた次の瞬間。

「ん?」

 その人は足を止めて突然ターン。私の前にやって来た。大きい、こうして目の前にすると、完全に見上げる必要があるくらいの長身だ。でも、男の人の背が高い様子と比べて明らかに違うのは、細すぎてひょろりと引っ張ったように背が高いのではなく、かといってガッチリなスポーツ選手のような巨躯というわけでもない。『縦横比を維持』にチェックを付けたまま倍率で普通の女性の体を拡大したみたいな均整の取れた感じ、逆に気味が悪い。仮に普通のサイズに戻したとすれば、アミちゃんとベクトルは似ているかもしれない、スレンダーと言うよりもグラマラスな魅力を持った体をしている。
 彼女は私を見下ろすようにしたかと思うと、私の顎を掴んで上に向かせてきた。まるで、これって男の人が女の唇を奪うときみたい。

(ひええええ!?)

 そうなって初めてこの人の顔を近くでよく見ることが出来た。この距離にしてやっと肌が少し焼けているようだったのがわかった。少し、斜視が入っている? 私を見る目は若干より目っぽく見える、だが薄い内向斜視の持つ独特の印象は、夢見がちでエキゾチックな雰囲気に変換されている。面長な様子と合わせて外国人のよう、だったら欧州、アジア、中東、南米、アフリカ、大まかに見てどの辺りの雰囲気なのかと言われると全くわからない。小さい方の彼女と違ってこっちは黒スーツを着込んでいるせいもあって、男装の麗人、といっても差し支えがないだろうか。少し鋭い印象を受ける唇の輪郭と、猫耳喪服ドレスの彼女よりも深く通った鼻筋の鋭角な感じは、顔の正中線を殊更強く描き出している。若干の内向斜視もあって、まるで中央に鏡をおいた半分の映像のようにも見えたが、その対称性はゾクリとするほどの美しさもある。

「リン、この子」
「そ。唇が荒れちゃってるの。」
「そうじゃな」
「『湯かぶれ』だって。リップクリームあげるってゆったんだけど、いらないってさぁ」

 リンさんがまるで遮るように私のことを言うと、背の高い方の子は小さくため息を吐いた。

「……そのいきなりお節介する癖はやめなって言ってるじゃないか」
「うんー」

 ふたりとも不美人ではないのだが、どこか浮世離れした容姿。それも飛び切り美人すぎるとか余りにもグロテスクとかそういうのではなくて、隣りにいても不思議じゃないし平気なんだけど、これを実在と呼ぶことになんだか危うさを感じる。例えば電車で隣に乗ってきた人が超写実主義の絵だったとか、向かいに座ってる人が写真だったとかそういう感じ。確かに目の前にいて口を利いているのに。それはこのまちがとても他の地域から隔絶されていて、時間からさえ切り離されたように感じられるから、だろうか。同じような人と池袋駅ですれ違っても何も思わないかもしれない。

「あ、あの」
「あたしらは葬儀屋だよ。この中に入ってるのは、見た通り正真正銘の|死体《仏さん》。ここのお客だったらひと目会っておきたいのかと思ったけれど、そういうんじゃないってんで、|安心したよ《・・・・・》。」

 私の疑問を先回りするように、リンさんが口を開いた。

「この店の関係者だったみたいでね、ここで通夜を終わらせた後なんだ。普通は棺に入ってるもんだけど、この仏さんはこの後献体されるんだ。献体先は、お仕事の都合上言えないけどね。」
「この子そこまで訊いてないって」
「ありゃ、そいつは失礼。」

 この二人、こうして並ぶと余計に現実味がない。顔つきはさっき見たとおりだし、背丈があんまりにも違って、親子と言われたって違和感がある、まるで|別の種族《・・・・》みたい。
 二人はテキパキと袋の中の仏さんを、車の後部に乗せる。さしづめこの車は霊柩車ということか。火葬場に向かうのではないのでちょっと語弊があるのかもしれないけれど。ばたん、と後部ドアが閉じられて、大きい方の人が私のことをちらりと一瞬だけ見てから、窮屈そうに助手席に乗り込んだ。

「じゃ、あたいらこれからお仕事続行だから、お別れね」
「はあ」
「肌荒れ、酷くなったらちゃんと病院行くんだよ」
「あ、はい」
「そいじゃぁねぇ」

 リンさんも運転座席の方に乗り込んだ。あの身長で運転できるのだろうか、出来るのだろう。車内からひらひらと手を振っているので私もなんとなく振り返してしまう。
 バンは発車後加速して割と乱暴な運転でUターン、入ってきたのだろう道を引き返して行った。

(なんだったんだろう)

 なんだか妙な出来事だし妙な出会いだった。こんな珍しい売春宿外ではこんな珍しい出来事も、きっと珍しくないのだろう。いや、お通夜だなんて言っていた、珍しくないなんてことはないか。
 ぽつねんと取り残されたように佇んでしまった。一人になって、急に現実に途中下車させられたみたいな感じ、この繁華街(?)に足を踏み入れるときに入り口に置き忘れてきた現実感が、今どっと自分の足で立っているのを自覚してから、押し寄せてきた。

「かえろっか」

 自分に言い聞かせるように独りごちて、私は竜宮へ戻ることにした。今はただ、アミちゃんの顔が早く見たい。なにかに、不安を感じている気がする、彼女がではない、私が。竜宮で、ゆったり温泉にでも入って、気を落ち着けよう。この空腹だって……

「あれ?」

 あんなに強烈にお腹を虐めていた空腹感は、いつの間にかなくなっていた。



§§§



 この地を訪れた天狗二人は、翼を隠し修験者に身を窶して里に入った。修験者は慣習的に天狗の恰好をすることも多い、天狗が人に化けて里に出るときにはこの逆輸入な変装は好都合だった。それに、今はどうしても天狗のコスプレ、のコスプレをしなければならない理由がある。
 天狗に窶すための鳥の嘴のような口飾り、これが必要だった。射命丸と犬走の二人は、この口元のみを隠す鳥の嘴を模した天狗の面のその内側に、防塵フィルターを備えている。また嘴の先に香炉を設けてあり、毒を打ち消す魔術効果も持っていた。
 つまりこの里の空気は、警戒するに値するものに、なっている。
 射命丸と犬走は、特に天魔宮の指示があってここに来たわけではない。むしろ天魔宮は天狗、河童や小鬼、狐狗狸などの支配下にある妖怪には、ここへ近づかないよう指示を出している。それでもこの二人がここにやってきたのには、卑俗に言えば安っぽい正義感によってである。射命丸は、色々と他人に言い辛い汚れと聞きたくもない口利きを働いた結果、公然と不正に獲得した警察探偵権を使って、犬走を連れてこの場にやってきた。博霊が地底と契約を結んで帰還し騒動に一段落付いた後から、穴の周辺で不可解な伝染病が流行っているらしいということを知ったからだ。

「人の姿が見えないですが」
「|風祝季《ふうしゅくき》の上では今年はもう苗を植え付けて田に根を下ろさないといけない時期なのに、どこの水田も全く田植えがされていない」

 『|風祝季《ふうしゅくき》』は守矢が毎年発表する暦のことで、地域ごとの自然暦を反映した偏差暦のことだ。四『季』を『乾坤』に二分したものを、更に『風』で三分し、それぞれに十の『候』を持つ。日付の管理よりも自然の変化や農業の目安とすることを目的にした暦だ。偏差暦だから地域ごとに違うし、一季が何ヶ月であるかも、一候が何日なのかも異なる。それは毎年、博霊から配布される|博霊大麻《ひろみたまのおおぬさ》(博霊の霊験を与える御守の御札であると同時に、八博体制の下にあることを示す証明書でもある)と共に、各地に配られる『|八坂本暦《やさかほんごよみ》』と呼ばれる冊子に記されている。
 偏差暦だから、例えば無名の丘周辺とも、迷いの竹林の付近とも、一致するわけではないが、この地域では既に|夏季乾中風一候《なつのあめなることなかつかぜのはじめ》、つまり田植えの時期をとっくに過ぎている。だと言うのに射命丸文の言う通り、この村の田には苗が植えられていないどころか、水さえ引かれていない。ちなみに博麗神社はよりカミに近い行事を主としておりこうした民衆向きのマツリゴトは専ら守矢神社が受け持つが、|八坂本暦《やさかほんごよみ》には|風祝季《ふうしゅくき》の他、博霊の祭事の予定表である|霊喜式《りょうぎしき》も含まれている。

「少し、見て回りましょう」
「一応、人の姿はいくつか見えます。ただ……」

 人の姿、に大して犬走椛は口ごもる。どう伝えたらいいものか、迷っているようだった。恐らく|千里眼《テレグノシス》で一通り確認したのだろうが、すぐに目を閉じ直した。何か見たくないものがあって、すぐに遮断したらしい。その様子を見て、射命丸の方も、何かを察した。
 この二人がこの里を訪れたのは、この里が何事もなく平和だと思ってのこと、では無い。ある程度のことを身構えながら人気のない里の、さほど大きくなくともおそらくは幹線なのだろう道を進んでいく。左右に見える水田は雑草が生え放題で、畑の作物も手入れされていない状態で地に落ちているものもある。
 全く人気のない里を歩いていると、犬走椛が里の一角を指差して声を漏らした。彼女とて生半可ではない場面を幾度か潜り抜けた白狼天狗だ。その声は悲鳴ではない、浮ついても取り乱してもいない。だが、それらを全て抑制したときに垣間見える押し込んだ声色が、隣を行く射命丸文の耳をざらりと撫でた。

「文さま、あれ」

 犬走が指差す方へ、射命丸は既に視線を送っていた。そして、表情を険しめている。
 死体が折り重なっていた。既に腐敗が進み蝿がたかって狭蝿の音を鳴し、その周囲にはその肉を食いにやってきた野犬や烏がいる。捨てられた死体は、その場から見る限り四人分。村人全てがここで全滅しているというわけではないようだが、この光景が普通とは考えにくい。死体の山の麓には、黒い腐敗液が広がっており、夥しい数の虫が群がっている。

「埋葬されていない……もうそんな余力もないってことかしら。死体に頬ずりして死を嘆くような宗教観がない地域な分、マシかもしれないけれど」
「無事な人はいないんでしょうか」

 死体の山を遠巻きに見、不要に近づかないようにしながらそれを通り過ぎる。

「虫の行動半径は大したことがないし獣は隔離網を突破できないから問題ないでしょうけど、鳥がいるのはまずいのでは。もし鳥と人に共通感染出来るようなのだったら」
「隔離政策がいい方法とは思えないけど、それでも隔離するんならちゃんとしなさいっていうのよ、こんな雑な隔離じゃ意味が無いわ」

 天魔宮はこの流行病の存在を外部に、博霊にも公開することなく隠蔽し、隔離網を張って終息を待とうとしていた。だが犬走が呟いた通り隔離網は抜け穴だらけ、特に空については全く防衛線が機能していない。人鳥共通感染の危険性を認識していながら、|地底《サブタレイニアン》からやってきたと思われる未知の病に対して、天狗の誰しもが恐怖を抱き職務を怠っており、隔離はお世辞にも機能しているとは言い難い状況だった。地上の移動体は遮断できると考えていたが、もしかするとそれも危ういかもしれない。今のところ、天狗や河童、狸狐なんかには発症の報告はなく、人間にしか発症が認められていない。だが、それも偶然かもしれない。
 二人は一軒の家の前に立った。住人に、状況を聞いてみようと思ってのことだ。勿論、まだ生きれいれば、のことだが。

「妖力を持った虫がいないか、確認だけして……あんなもの見るのは嫌かもしれないけど」
「了解です」

 射命丸の指示で、犬走は死体の山にその『目』を向ける。死体に群がる虫。死体から滴る腐敗液に群がる虫。全てをその眼力で分析する。

「|その手の虫《・・・・・》は、いないみたいです」
「わかったわ、ありがとう。人間に、取材をしてみましょう」

 取材、とは射命丸が日常的に使っている言葉が口を突いたものだと思われるが、彼女にはこれを新聞記事として|認《したた》めるつもりなど毛頭なかった。扱うには、ナーバスすぎる。

「ごめんください」

 犬走が扉に触れることなく、声だけで内側を伺う。返事は聞こえない。

「ごめんください、どなたか、いらっしゃいませんか?」

 再度犬走が声をかけると、家の中からではなく、別の家の方から人の気配が現れた。男が一人、家の扉を開けてこちらを窺っている。二人はその家の方へ向かった。その間に、さっきのような死体の山が、いくつもあった。いずれも腐敗が進んで悪臭を放ち、狭蝿を呼んで衛生を損なっている。
 患者同士で何らかの諍いがあったのか、あるいは民間療法が流布したか、もしくは根拠の無い死体処置が流行したのか、藁に簀巻にした死体が松の木の幹に縛り付けてあったり、麻縄で足を括られた死体が木の枝からぶら下がっているものもあった。いずれも鳥や獣が食い散らかし、虫が沸いて腐っている。
 その状況を警戒しながら通り過ぎ、二人は視線をよこしていた男の方へ向かう。

「ごめんください、山を渡り歩く修行中のものですが」
「……何用だ……」
「そこの山を通りかかったところで、山の中腹からこの里が見えたものですから、顔を出したところでした」

 平静を装って受け答えしているのは射命丸。犬走もその後ろで涼しい顔を繕っている。だが二人を迎えた男の顔は違った。
 顔全体を白身がかった豆状の膿疱がびっしりと覆っており、それは顔だけではなく腕や足などの見る限り露出した肌全体に広がっている。数カ所の膿疱は破れて出血しているが、どうやら痒みを伴うらしく男は天狗二人と話している間も膿疱に指を運びながらそれを破ることを躊躇って掻くに掻けないような仕草を見せていた。指が、無い?

「ここは、もうダメだ はやく、出て行け」

 男の白目は黄色く変色しており、恐らく肝臓に異常をきたしている。膿疱の出ていない唇やまぶたと言った粘膜は血を滲ませており、荒い息遣いは、発熱しているか、呼吸器に障害を生じているかどちらかを示していた。
 防塵マスクは臭いの粒子までは遮らないらしい、二人の口と鼻には、香の匂いを通り越して尚この男の周りに漂う強烈な腐臭が届いていた。生きた人間から腐臭がするなどとは、度合いが薄ければ内臓疾患などを疑う程度だが、いま二人が嗅がされているのは、それとは比較にならないほど強い腐臭、いや死臭に他ならない。膿疱か、もしくはその下に隠れた組織か、あるいは男の|中身《・・》いずれかが、壊疽しているのだろう。それを裏付けるように、扉を開けている男の手には親指と人差指だけが残されていて、後は短く詰まり先が黒紫に変色している。そう思ってよく見れば、膿疱だらけの男の顔の右側部には、耳らしいものがなくなっていた。恐らく足先もそうなっているのだろう。

「あの、この村は、流行病が?」
「俺をみりゃあ、わかるだろう、もうすぐ、ぶっ倒れて死ぬ。体中から、血が出る、特に死ぬ直前に、口とかケツから吹き出す血に、一滴でも、触ったら、同じになっちまう。そうでなくても、どっかで|伝染《うつ》される。この村、は、もう」
「……薬師は、この村には」
「死んだよ。なんにんか、まだ元気なやつが、外の医者を呼びに行ったが、もどって、こねえ。どっかで、死んだんだ」

 男は辛そうにしゃがみこんだ。二人は手を貸すことも出来ずに、それどころかそこから一歩、退いてしまった。さっき聞かされた話を鑑みれば、無理のない反応だ。男がしゃがみこんだことで、家の中が少しだけ見えた。家の中には、恐らく妻子らしい人影が横たわっている。生きているのか死んでいるのかはわからない。どちらにしても、もはや大した差はないかもしれないが。

(隔離網に引っかかったのね)

 男の言葉にあった集落の外に医者を求めた無発症者は、恐らく隔離政策を実施する天狗の手で殺されている。発症していないとは言え曝露している可能性は高いとして、そうした死体は徹底した防護を纏った専門の係が一箇所に集めて処分していた。たしかに処分された死体の中には、目の前の男のように豆状の膿疱を生じた死体もあったと聞いている。

「はやく、でてけ」

 男は一言それだけ言って、扉を閉めた。
 射命丸も犬走も、しばらくその場に立ち尽くしてしまう。実際に男を目の前にしては露わにすることはできなかったが、男の容貌は、もはやとても人間には見えなかったのだ。知能を持たない低級妖怪や、地縛霊なんかを含めても、あんな悍ましい外見を、二人は知らなかった。射命丸はマスクの下から手を入れて口元を抑えている。

「文さま」
「大、丈夫」

 恐らく空気感染ではないのだろうことがわかったが、念のためマスクを付け直した射命丸。頭を振って、意識をしっかり保とうとする仕草の彼女を、犬走が気遣う。

「……これほどのものとは」
「隔離なんて非人道的な、と思ったけれど、その非人道的な感覚が自分にもあったと思い知らされて、今猛烈に吐きそうだわ」

 吐き気の理由はそれではないのだが、それも目のあたりにした犬走には、全く気の利いた冗談には聞こえない。
 二人はその家の前を立ち去った。

「もう少しだけ、様子を見ていきましょう」
「はい」

 二人とも明らかに気は進まなそうだったが、このまま何の成果もなく引き上げるわけにもいかない、もう一軒を訪問することにした。どのみち、健康体の人と出会えるとは思っていなかったが。次の家の扉の前で、射命丸が声をかける。

「ごめんくださ」

 い、をいい終える間もなく、扉が開かれた。さっきのような鼻をつく腐臭。扉は開いたが、姿が見えない。気配がして足元を見ると、扉を開けたのは這いずった女性だった。さっきの男と同じく肌にびっしりと粒状の膿疱を生じているが、掻痒を耐えるのを諦めているのか、顔の膿疱が掻き潰されていて頬が血塗れになっている。また、這いずっているせいで地面と接するそれが潰れたのか、家の中を這ってここまでやって来た軌跡が、床に描かれていた。出血の赤よりも、膿疱が潰れて漏出した透明な液を引き摺った跡の方が目立つ。まるでナメクジの歩いた後のように軌跡が描かれており、だが這いずって動いているのは表皮にびっしりとブツブツを生やした人間らしき生き物なのだ。

「たすけて……お医者を……たすけ、」

 足元を這い摺って来た女は、射命丸を見上げるように、そして必死の形相で助けを求めている。さっきの男が死を覚悟していたのは、幾らかでも救いだった。こうして未練を訴えられると悲痛さは比ではない。びっしりと生えた疱瘡で、元の顔の形などわからない。血や膿がべたべたと濡れている。漂う匂いと膿、血に寄せられて虫が群がり、しかしそれを追い払う力が残されていない。肌の粒瘡と粒瘡の間にも虫が這い、嚢胞の内側に蛆さえ見える。恐らくさっきの男よりも症状が重篤(大差など無いが)なのだろう。黄変した白目の中央で、明るいというのに黒目は瞳孔を開ききっている。気温が低いわけでもないのに震えていて、荒い息とともに血混じりの涎が口から糸を引いていた。
 きっと同じように発症した女には、玄関先に移動するのが精一杯だったのだろう、家族だったのらしい死体が二つ、転がっていた。腐敗が進みやはり虫だらけになっている。その内一つの腐敗の進み具合は著しく、男か女かを判断することさえ難しい。やはり疱瘡にやられたらしく、そうして腐敗が進み男女の判別さえ出来ない状態になってなお、肌に夥しい数の粒状の凹凸が残っているのがわかる。腐り、虫に巣食われてもなお残る豆状の疣贅は、こうしてみると一つ一つがまるで虫瘤のようにも見えてしまう。

「っ」

 犬走が流石に引き攣った声を上げる。横に並んでいた射命丸が、後ろから回すように両肩を掴んで、しっかりしろと伝える。

「お医者は、呼びに行きます。無事な人は」
「たすけて、くるしい……あつい、いたい……」

 女はそこまで言って、急に咳き込み始める。ぜろぜろと、液体を巻き込むような喘鳴、荒い咳を繰り返す度に、聞こえてくる咳の音は液状の色合いを増す。生きたまま虫にたかられていた女が咳き込むたび、虫がぼとぼとと落ちた。咳をして聞こえるのは、げほげほという音ではなく、むしろごぼごぼと響く咳音。そして一際大きな咳込みを一つ、二つ……

「椛っ」

 三つ目の咳とともに吹き出した大量の血液。それを察した射命丸が、咄嗟に犬走の体を抱いて後ろに大きく飛び退く。一瞬前まで二人が立っていた辺りには、女が吐き出した血液の飛沫が飛び散った。あのまま立っていれば二人も曝露してしまっただろう。普通の移動では間に合わないと判断した射命丸は、翼を広げて低空飛翔でそれを回避した。

「す、すみません、私」
「無理もないわ、あんなの」

 飛び退いた先で、女は事切れているのが見える。弔いなど出来ようものか。二人は苦々しい顔でその場を後にしようとする。

「天狗様じゃ」

 遠巻きにこちらを窺っている別の生存者が声を上げた。

「天狗様が、この村の様子を見に来られた……!」

 やむを得ない状況だったとは言え、翼を出してしまった射命丸はしまったと呟く。もはや翼を隠したところで意味など無いだろう。
 男が天狗の名を出して声を上げたことで、もう数名の生存者が家の中から這い出してきた。いずれも既に病状が進行しており、葡萄のような腫瘤を体中からぶら下げ、血か、もしくは浸出液をどろどろと垂らした体で二人の方へ向かってくる。
 身分を隠していた二人だったが、もはや隠しきれないと踏む。犬走も耳と尾を出し白狼天狗の本性を表した。

「みなさん。この病は、この前の地震で噴き出した間欠泉の周囲に……」

 犬走が村の生き残り達に事情を説明しようとする。一方の射命丸はどこか冷ややかだ、というのも、二人を遠巻きに見ている生き残りの民達の視線が、突き刺さるようだったからだ。まるで、恨みを抱いているかのように見えるのは、疱瘡まみれで表情が読み取れず化け物じみた様相を示す体のせいだろうか。二人を遠巻きに見る生存者の内一人が、口を開いた。

「この病は、天狗の仕業か」
「天狗の撒いた疫病か。何のつもりだ、俺たちが、一体何をしたっていうんだ」

 その声に、犬走が驚きの声を上げた。

「なっ……! ま、待ってください、私達はこんなことは」
「黙れ! 天狗はいつもそうやって人間をたぶらかして、苦しめるじゃないか」
「俺達は何もしていないのに、子供をさらい、田を荒らし、夜も眠れない山鳴りを響かせて、山犬をけしかける」
「その上、こんな病気まで撒き散らして……何の恨みがあるっていうんだ、ゆるせねえ」

 病で力も入らずぼろぼろの体でもなお、一人の生存者が農具を持って天狗二人に一矢報いようとする。が、倒れて、膿疱がびっしりと敷き詰められた異形の顔の奥から恨めしげな視線を投げてくる。怨みと嗚咽の混じった声を向けてくる。それはもう残り少ない幾らかの生存者に伝染し、二人を遠巻きに見る視線は一切が怨めしさと悔しさと、非難と殺意と、悲しみに塗りつぶされていた。

「天狗め……どうしてこんなひどい仕打ちを」
「天狗様、お助けください。このようなこと、おやめください」
「まって、話を、話を聞いてくださ」
「うるさい、天狗が、天狗が……娘を返せ、妻を、母を返せ、この化物!」
「天狗は、山の神の堕落した姿だ。人に害をなすことしかしない。ああ、誰か、誰か裁いてくれ」
「こんな仕打ち許されるはずがない。地獄に、地獄に落ちろ、天狗め」
「皆さん、お願いです、説明させて。これは私達のやったことじゃ」

 あらぬ嫌疑をかけられた犬走が抗議しようとしたが、射命丸はそれを無視して犬走の体を抱えて翼を大きく広げて飛び上がった。

「思い知れ人間。これは人の業だ、そのまま、死ね」
「?! 文さま、どうして!?」

 抱き上げられた犬走は、今すぐここで降ろせと言わんばかりに射命丸の腕の中で暴れる。だが射命丸はそれを離すまいとさほど太いわけでもない腕で強く、締め付ける。

「……どうせ、この人達は長くない。悪評が広まることはないわ」
「そういうことではないです! なんですか、あんな科白」
「もう、だめなのよ。ああなった人間は、もう」
「それでも、医者に見せればもしかしたら!」

 射命丸が捨て置いた言葉を、犬走は理解できない。何でそんな徒な言葉を置いて行くのか。暴れまくって射命丸の腕を抜け出そうとするが、その腕はパワー型の犬走でさえ上手く解くことが出来ない。射命丸の腕は、いつもの白く細い腕から、山猫のようなしなやかだが力強い筋繊維を持つそれに、変わっていた。それを見た犬走が抵抗をやめる。疑問はあれど、射命丸にその『变化』をさせるには何らかそれなりの動機があるのだとも感じたからだ。

「病気のことではないのよ」
「え?」

 想定外の答えに、暴れに暴れて服が乱れきった犬走も、疑問を隠せない。

「どういうことですか」
「ああなった人間という集団は、罪を被る羊を求めるのよ。もし病が癒えて私達の疑いが晴れたとしたら、今度はあの村の中の誰かが、犯人にされる。真犯人を捕まえて目の前で自白でもさせない限り、無関係な羊を祭り上げるのよ。本当に犯人である必要なんて無い、ただ、罪や穢を被って生贄に捧げる誰かを探して、決める。個ではなく、人間社会という全がそれを選択するの。そういう生き物なのよ。でももう、彼らには真犯人を知るだけの時間は残されていない。だったら、私達を恨んだまま死んだ方が、まだ幾らか救いがあるってものだわ」
「なんですか、それ」

 射命丸の腕の中で、呆れ、同時に悲しみを帯びた声を漏らす犬走。目を逸らし、何かを思い出すみたいに胸元を押さえ、険しい表情で射命丸の言葉を聞く。

「人間の社会にはまだ、伝染病の正体を知る力もない。それどころか統一的な道徳観念もなく宗教に左右され、人権意識も司法制度も無い。見たでしょう、木に死体を吊るしていたの。きっとあれは、ああすれば伝染が抑えられるというデマが出回ったからだわ。まだそんな水準なのよ。仮にそれらが出来上がったとしても、その後千年は正しく運用できずに過ちを繰り返すわ。だって」
「そんなの、|天狗《わたしたち》が歩んできた道と、同じじゃないですか」

 犬走が呟いた言葉を聞いて、射命丸は黙った。沈黙を以てその通りだと肯定した。犬走も射命丸も、そのまま何も言わなくなった。
 暫く犬走を抱いたまま空を飛んでいた射命丸が、そろそろいいかと着地した。村の生き残りに追いかけてくる意志があったとしても、ここまでは生きたままやってくることはないだろう。

「ごめんなさい」

 射命丸の腕を離れて自分の足で地面に立った犬走は、射命丸に頭を下げた。

「私、まだ、半人前です。世の中を、知らなさすぎる」
「しょうがないでしょ、まだ若造なんだから。当たり前よ」

 そのために私が躾けてんのよ、と犬走の癖っ毛気味の銀の頭髪をくしゃくしゃと撫でる。

「私だって昔はね、天狗の良心ってものを信じて誰かに大迷惑をかけたわ。でも歳とともに、腐って消えるのよ、そういう『きれいなもの』って」
「……はい」

 納得いかない感情と、でも今目の前で目の当たりにしたその通りのことを、同時に噛み締めて、犬走は俯く。

「でも、そういうのも、持ってなきゃだめよ。最初から何もかもに折り合いをつけて汚れていったら、こういう色になってしまうわよ」

 そう言って、自分の髪の毛や翼を見せるようにして、小さく笑う射命丸。
 それを見た犬走は、そうじゃない、それでもかまわない、そういうことじゃない、それだけじゃない、それはあなたじゃない、それは、何だかまとまりのない色々な感情を含めて、ただ首を振った。それを追いかける言葉は何も口から出てくることはなく、何に首を振っているのか目の前の先輩天狗に説明することも出来ず、ただ、もう一度頭を下げた。

「そろそろ隔離網の境界よ。そんな情けない顔、仕舞いなさいな」

 射命丸が言うと、犬走は顔を上げる。目が少し赤い以外は、すっかり元の気高い、少しばかり居丈高な白狼天狗の佇まいだ。

「わかってますよ、子供扱いしないでください」

 そのちょーし。射命丸が苦く小さく笑って、歩き始める。その後ろをついていく犬走。暫くそうして進むと、鼻高天狗が形成する病域隔離網の境界に到達した。具している天狗が射命丸を見て寄ってくるが、射命丸は警察探偵権の証明書を提示して中にいたことの正当性を説明する。鼻高天狗に、鴉天狗の行動特権類を止める権限など無い。それが正当なものなのか追求する勇気も、疑う気すら無い。二人は悠々と隔離網を通り抜け、抜けるときに嘴型のマスクと靴、手袋と上着を脱いで処分を依頼し、隔離網境界の詰め所に用意された新しい衣服を着て、その場を去る。
 射命丸は、一旦自宅で情報をまとめることを犬走に進言する。反対する理由など無い犬走はそのまま黙って射命丸と行動を共にする。
 道すがら、まとめるべき情報が既に頭の中や口から漏れ出してしまいそうになっている犬走。射命丸も同じで、歩きながらお互いに考えていることを交換し始めた。

「この病を、リグルさんが広めている可能性が?」

 犬走が気にしているのは、やはり突然|深道風穴《フォール・オブ・ウィル》へアプローチを持とうとしたリグル・ナイトバグのことだった。彼は、天狗のテリトリには今まで全く興味を示したことがない。せいぜい、犬走椛の弟である楓と交友関係にあるという程度のことで、それは直接あの間欠洞には関係のないことだ。何故、突然あの穴に行きたがるようになったのか。さっき見てきた深刻な伝染病が、あの穴の周辺に起こっていることと、虫という伝染病を媒介しがちな存在の王は、どうにも無関係とは考えづらい。

「そういう人には思えないんだけど……今、虫という種族が立ち置かれている環境を考えると、どこで『雪辱を果たす』とか『栄光を取り戻す』とか、言い出しても不思議はないわ。理解が進まず、人間や獣よりも嫌われがちな虫は、思想を何処かで踏み外せば簡単にテロリズムに走りかねないとは、思うわ」

 射命丸も、虫の王であるリグル・ナイトバグへの嫌疑を払拭できていない。確かに彼には、彼女が言うような動機はある。

「|深道風穴《フォール・オブ・ウィル》に近づく明確な目的がわからないですしね……。|地底《サブタレイニアン》には、まだ博霊との関係を快く思わない勢力もあると聞きます、もしかして、そうした反体制側と結んでバイオテロに」
「可能性は、なくはないわね。楓くんは?」
「まだ、リグルさんと親しく行動しています。引き上げさせたほうが……?」
「任せるわ。私達の想像も、何の根拠もない憶測でしか無いのだし。いざとなったときに協力者として立ち回ってもらうことも必要でしょう」
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【20180227】誤字を修正。
【20180306】寄生虫の幼生について、「セルカリア」がやや不正確な記述だったため、正確性を期して修正。「スポロシスト」としました。
みこう悠長
http://monostation.blog112.fc2.com/
コメント




1.しゅうさ削除
外の世界と幻想郷、何か繋がりがありそうだけど見えて来ない。本当に先が分からずドキドキしながら読み進めていました。
楓君とエッチも最高でした。二人とも可愛すぎです。
色々続きを予想しながら、次回も楽しみにしています。お疲れ様でした。
2.匿名希望削除
時間があるときでかまいませんので今度は、霊夢が魔物に操られた里の男達に捕らえられ襲われ陵辱される内容の作品を読んでみたいです。
3.性欲を持て余す程度の能力削除
ひゃあホモショタセックスだぁ!我慢できねぇ、RECッ!!
ショートパンツ越しにわかっちゃうおちんちんの形とか大好物ですよふぅ…責められているのに優越感を抱くところは体を許した女の子な感じなのに、そのあとの懇願を命令に変換しちゃう支配欲潜ませてるリグルきゅん可愛い
におい覚えちゃったらまたシてしまいそうですねこのリグルきゅんは。おちんちん握られてアクメ汁どぴゅどぴゅしちゃう女の子おっぱいな楓くんもまた可愛くて、アナルを突かれながら自分で乳首いじっちゃう絵面が反則的にエロい!
女の子になっちゃう悦びを理解しながら腰振って孕ませ本能疼いてるリグルもいいですねぇ…ショタい子が男全開で種付け決めにくるシチュほんとたまりませんね
呂律の回ってなさから容易に浮かんでくるアヘ顔で潮噴いちゃう楓くんも、中出しキメて射精に酔いしれるリグルきゅんもどっちも最高でした(けしからん二回戦だ!)
アミちゃんとサユリちゃんの百合ックスは文もみのふたりで脳内再生されました、が…!どうにも感染してるっぽいんですよねぇ(リンとクーは感づいてるような口振りですし)、温泉に原因があるのか、アミちゃんがキャリアなのか、それともやはりあのニシが原因なのかはわかりませんが、今後のふたりがどうなるのか不安増し増しで見守りたいです
阿波戸の閉塞的な生活感が実にリアルで、現実にそこへと足を踏み入れたかのような感覚がたまらない。文字が脳から体に染み込んでくるような“これ”がほんと好きなんですようひひ(変態)
花鹿さまやその従者などの新しい役者も出てきましたが、彼女たち(?)がどういった役目を持っているのか、どのキャラに当てはまるのか等々と(完全オリキャラの可能性もあってそれはそれで面白くあり)わくわくが止まりません
幻想郷の一部で起こる伝染病の原因や、阿波戸のきな臭い出来事がどのように繋がっていくのかが楽しみです今回もとても楽しめました、ありがとうございました
誤字脱字報告にて終わります↓

・気が済んだの済まないのか手を引っ込めたクーを見て悪戯っぽく笑う。→校正漏れ?
・文化的な寒天ですごく興味深い研究材料なんですよ。→観点
・そう思ったボクの真鍮を彼が読み取ったとは思わないけどきっと、→心中?
・きっとそれでは全然物足りないんだる、→物足りないんだろ・だろう?
・唇動詞が触れただけで、→唇同士
・指の先でつついたり少し推したり、→押したり?
・もう少し置くまで入った指は、→奥まで
・って入れてから先を当てたっまあぐりぐり押し込んで、→当てたまま?
・おちんちんの先からは透明な液体糸を引いて→液体が?
・あの出来事になったく無関係な人達から見てボクや、→まったく無関係な
・いかにも温泉ですって感じがして隙なんだよねえ。→好き
・その場で渡しが押し倒すかどっちかだ。→私が
・「みんな慣習的にワサニシ、って(省略)→同行内でサワニシと書かれていました
・私自身は余り化粧を市内たちだけれど、→しないたち
・客は目隠しをして手を打ち鳴らす女を追、→追い?
・(でも私には、どこか可愛げがとうか愛嬌があるように思える)→可愛げがというか?
・それとは比較にならなほど強い腐臭、→ならないほど
・球に咳き込み始める。→急に
・席をして聞こえるのは、→咳をして
・「みなさん。この病は、この前の自身で噴き出した間欠泉の周囲に……」→この前の地震
・突然あの穴に生きたがるようになったのか。→行きたがる
・足を方に抱えるようにしてもっともっとくっつく。→足を肩に?または足の方?

こちらは自信がない部分で…↓

・人間に恵みで報いてやるも、神様の務めよ→やるのも?
・すっかり性器になったと革新した。→確信(意図してだったらごめんなさい汗)
4.性欲を持て余す程度の能力削除
前作よりは匂わせているとはいえ今のところはあまり繋がってこない外の世界と幻想郷が今後どうなっていくのか楽しみです