真・東方夜伽話

幻想的攻撃的選択

2017/12/25 00:48:43
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幻想的攻撃的選択

みこう悠長

読まないでください

「く、ふぅっ……」

 布団の中で、息を殺しながら陰裂をなぞる。ここのところ、ほとんど毎晩だった。
 若さを失って、性欲だってそれなりに勢いをなくすと思っていたのに、躰は違う意味で淫らな形に変わっていくし、性欲は衰えを見せなかった。それは性欲であって、愛欲じゃないような気がした。とにかく、人肌が恋しくて、誰かに抱きしめてほしくて、今自分で触っている場所を、誰かに触ってほしかった。誰かの手で抵抗できないほど無理やり、思い切り絶頂に押し上げられて、ある意味で自尊心を打ち砕くほどに乱れたかった。
 でもそれをしてくれる人はいない。

「っ、んっくぅっん」

 あそこは濡れそぼっている。本当は自分の意思とは途切れた別のものに犯して欲しがって毎晩欲求不満を訴えるそこは、まるで私の分身。私はそれを夜な夜な慰めている。
 入り口の縁をなぞって、ぬめりを広げていく。すぐに肉質のビラビラがはみ出てきて指に絡みついてくる。きっとこの子も、私を慰めてくれている。私の指を仕方なく誰かの指か、もしくは誰かのペニスだと思ってごまかし快感を得ている。

「ねえ、もっと、触って。奥の方まで」

 布団の中に別の誰かがいるみたいに、潜ませた声でおねだりのセリフを言う。でも、誰もいない。この布団にはもう長いこと私一人だ。私はその声に別の私が答えたみたいに、人さし指を割れ目の奥に押し入れる。にゅるり、と、それは抵抗なく入り込んだ。追いかけるように中指。二本をヴァギナの中に押し入れて、指でバタ足するように浅いところをクチュクチュかき混ぜる。

「ふっ、ふっ、ん、はふ……んっ」

 目は、つむったままだ。隣にだれもいないことをみないように。瞼の奥には、彼女を、描いている。
 粘り気をました愛液が、指に絡みついてくる。かき混ぜるたびに空気を食んで、下品な音を立てていた。それを、彼女が私にしてくれている愛撫なのだと思い込みながら、私は、布団の中に声を投げる。

「きもち、いっ もっと、もっと、して」

 空想の彼女は無言で、行為に変えて応えてくれる。指を更に奥まで押し込んで、奥の肉管が狭まったところまで。

「ふっ、んあ、あっ、ああっん 深い、ふかいよぉっ」

 私の指を誰かのペニスだと願いながら、肉壷は蜜を増やしそれを締め付けて迎え受ける。ざらついた肉壁の感触が指に伝わってくる。それを指の腹で押しつぶすようにコスり、掻き分けて奥を弄り、粘液と空気が交じるようにかき混ぜてわざと下品な音を立てる。

「ふうっ、ふうっ、ふうっ、んっ!」

 布団の中で大きく股を広げて、腰を浮かせる。くの字に曲げた指をアソコに差し込んで、それで腰を持ち上げるみたいに強く擦り上げる。オナニーしすぎて快感馴れした私のアソコは、もう自分の指ではちょっとやそっとの刺激では達せなくなっている。自分の意志に関係なく私を犯し倒してくれるのなら、こんなに激しいプレイでなくてもきっと満足できるだろうけど。私のアソコも、そう言っている。
 ごしゅ、ごしゅと、膣壁を強くコスり、他の指でラヴィアをなでて親指の付け根あたりでクリトリスを潰す。もう片方の手は乳首をつまんでいる。

「もっと、もっとォっ!」

 だれに言うでもない欲求不満の喘ぎは、ひとり部屋の闇に吸い込まれて消える。自分の惨めな興奮の吐息だけが、まだ反芻していた。

「んっ! んっ! ああっ! イク、イク、いくっ!」

 どこか、強迫じみたオナニーだ。イキたいだけ。ただ空っぽでもいいからオーガズムに至りたいだけ。ただの、アクメ作業。
 布団の中で股が裂けそうなほど大きく開いて、アソコがだらしなく開け広げられるような姿勢でその中をほじくり回す。愛液も事務的に溢れてきて、快感も機械的に高まっていく。
 情動はない。ただ、ただ肉体の欲求を収めたいだけ。

「ハッ、ハッ、ハッ、ハぁッ、んっ!!」

 隣に誰もいない。彼女がいてくれればと、思うけれど、そこはいつでも空白地帯だ。

「いく、いくいくいくっ、いくぅっ!!――っ!」

 ルーチンワークなアクメの寸前に、私の口から誰かの名前が出そうになった。
 それは、だれの名前だっただろう。
 形式化された日課のようにオナニーして、一応のオーガズムを味わう。枕元においたままのティッシュを、手だけで弄って探し当てて、にさん枚とり、アソコを拭いた。
 虚しい。虚しいのだけど、その虚しささえ日課として無感動の中に押し込めようとしている。
 若い頃、博麗霊夢がもっときらきら生きていたあの頃なら、きっとだれか呼べば、夜通し騒いで虚しさなんて感じない夜を楽しめただろう。
 でも今は、ひとりだ。夜もこうしてひとりさみしい。
 年をとってもまだ増していくとは思っていなかった性欲を、完全に夜の寂しさの中に持て余して、私は眠ることで思考から逃げ出すように、眠りにつく。
 もう何年も続いている一人の夜は、未だに慣れない。そんな夜はどんなに布団を厚くかぶっても、どこか

(さむいなあ)

 そう、ひとり思いながら、眠りに逃げるのだ。







 朝の冷えこみがきびしくなってきた。目がさめればいつもとなりに寝ていただれかの場所は、今は一晩いちども埋まることなくただ冷えた空白となって夜をあかすようになっていた。ひとり分のふとんをずいぶんと横によって寝るくせだけはとれなくて、右側にぽっかりとあいたまま満たされない冷たさが、めざめの憂鬱をさそう。

 きょうもこなかった。

 きょうも、どころではない。もう何年も、ここにはだれも来ていない。私だけがひとりで、ふとんを横によって寝るようになっている。
 ふとんのはしからはみ出した肩にふれる空気が、いっそう冷えて感じられる。身をすくませてふとんからはい出し、私はぽっかりとしたままの右側を見る。見たからって、だれかがいるわけでもない。いまさら誰かがいたら、おどろいてしまうだろうか。

 なんだか、つかれてしまった。

 人生につかれたなんてありふれて安っぽい弱音を吐くつもりなんかなかったのに、けっきょく口から出てきたのは嫌悪感がわくほど安っぽいことばだった。人生を終えるつもりなんてさらさらないけれど、つかれは私の中身を確実にむしばんでいる。

「――」

 きいているひとがいなくて良かった、私はあわててそのことばの続きを飲みこんで、おしとどめる。
 年、なのだろう。ほんとうはさっさと、娘などいないのだから禅譲してしまえばいいのだ。若くはない肉体に、かつてのように幻想郷中を飛びまわって異変を解決するのは、いつの間にかしんどくなっていた。朝の冷えた空気は、すりキズしたみたいな胸中にひりひりしみてくる。わずかに異様な赤い衝動が、脳に突き刺さっているようだった。







 朝の禊。いまだにひとり身の体に、だが幼さは消えている。
 幻想郷とは、若い少女たちの軽薄で、青臭く、ある意味でおろかで、くだらない、乱暴で、原色をぬり重ねたみたいに、だのにいくら重ねてもうすっぺらな思いこみと、それらが嘘のように熱く燃えさかる炎、執拗に絡みあう肉の鎖みたいな妄念で動いている、倒錯の園だ。そして、それをこうして客観しはじめた私は、つまりもう、それではないということでもある。
 もぎりとる手ものびないまま、むだに熟してしまった体。いつまでも幼いままの妖精たちとくらべれば、それはかなしいほどに顕著で、女の身でもずいぶん伸びた背丈と経た月日を、しらしめてくる。胸はいっときからは信じられないほどふくらみ、体の細さは失われて幼いカドがおち、きもちわるいくらい腰まわりが富んだ。私はもう、少女を追い出されて、女というべつのいきものになっていた。この幻想郷の首魁でありながら、私が少女たちの世界(幻想郷)に介入できる時間はもう、あまりのこされていない。紫はもう次の巫女を探しているのを隠そうともしないし、禅譲の話をあからさまに問いかけてくる。

「だれでもいいからつれてきなさいよ、もうゆずるから」

 そうバッサリと言い捨てられるくらいに思い切りのいいひととなりであればよかったものを。跡継ぎの話をされると、うん、とか、そうね、とか、ただぼんやりとぼかして逃げる、私は少女に未練たらたらの、おばさんになっていた。

「おばさんなんて年じゃないだろ、まだまだ現役だぜ。おまえがおばさんなら私もおばさんだろ、やめてくれよう」

 なんていってる魔理沙だって、すっかりりっぱな魔女になっていて、かけためがねに知性さえにじませる姿に、もう昔のやんちゃさはなりをひそめている。もう30近くにもなって、幻想に生きる「少女」といういきものと並べて、おばさんじゃないなんて当人たち以外のだれが言うだろうか。
 それでも魔理沙は、この年になったっていっつもまぶしかった。
 昔はガキっぽい、もっとおとなになりなさいよと思っていたのに、今でもそれをまもっている魔理沙のハツラツとした活力は、宝石のようにもみえる。私はどこで、あれを捨ててしまったのだろう。







 まだきりりと冷たい朝の空気だが、冷たすぎないこの川の水の温度にはなれたもの、ここちよささえある。いつまでもこんな一日が、おなじようにはじまるものだと思っていた。肌をつたう水は、たしかにまだ、老いというには早すぎる体を語っているかもしれない。それでも、内側からどんどん、かわきはじめている。この水は、そんなところまでは潤してくれはしない。
 昨日も、ちいさな異変を解決してきたところだった。ちいさな妖怪が、ちいさな悪さをしていたというだけだ。そうしてちいさな妖怪を、言い聞かせてこらしめて、ひとにもいくらかのガマンをしてもらって、結果として妖怪の方にも里の人たちにも納得をえて。ひとのためにも妖怪のためにも、なることを、できている、それ自体は満足なのだけれど、つかれたというのは、そうして妖怪と、ひとと、それに幻想郷の都合と、言い分と理想と現実と主張を聞きとどけて、私はせいぜい空が飛べるくらいのただの人間で、空を飛んでないときにはそんな都合とはかかわりなく自分の足で立っている人間なのに、いろんなモノを見なければならないのが、どうにもつかれてしまったということだった。

「あなたのいうことは、もっともだわ」

 吐き気がする。もっともなものか。おまえの言い分なんかききたくもない。私が私の判断で、おまえを裁くのだ。それなのに。

「でも、このひともこまっているし。だからこうしてはどうかしら」

 こうさせることも、どうさせる必要も、ないのに。若かったころの私なら、もっと自信に満ちて、もっと自分の信条に従って、もっと顧みずもっと身勝手にもっと横暴に、解決していた。相手の言い分なんて取るにたらないと思っていて、私自身が正義だと信じて疑わなかった。そんな独善を振りかざしていても、不思議と私のまわりにはひとの姿が消えなくて、それが当然だと思ってた。
 そうやって博麗という暴力が異変を解決しつづけること、それ自体が「幻想郷」だったのに。幻想郷(私)は、変わってしまった。体はさかっていても、心が枯れはじめている。そして幻想郷に必要なのは、幼い激情のほうだ。私のそれは燃えつきようとしていて、紫が代わりを探すのも当然だった。







 水にぬれて肌にはりつく黒髪にはまだハリがあり、つやを保っておとろえてなんかない。でも、女としての成熟と、幻想郷のネイティブな少女ざかりは、一致しないのだ。
 私は幻想郷の首魁のひとかけらではあったが、いちどとして幻想郷の本質として存在することはかなわなかった。いったい、私はいままでなんの時間をすごしてきたのだろうか。私がまもろうとしていたのは(それが青臭く稚拙な正義感にもとづいたものだったとしても)、いったいなんだったのだろうか。今、私にこたえてくれるひとはいない。この幻想郷をとおりすぎ、不要に熟れた肉体のうずきだけが、それをあざわらうように、私にとりついている。
 私が未練がましく幻想郷にすがりつこうとしているのは、私という時間の証明が、過露光ぎみでクロスプロセス色な、ティルトシフトしたみたいにミニチュアライクなあの風景の中にうめこまれていて、同時に私はまだ自分の未来を占うすべをもたないから。つまり、私の中身は、老いに不釣りあいなほど、まだ未成熟のままだということだ。あの過激にビビッドだった弾幕ごっこの心象が、今は色あせてあいまいにぼけながらも、たしかにまだ私のなかにある。でも時間と記憶以外、その証人たりえるのは、けっきょく――。

 私は、純粋に、紫に捨てられるという事実を、受け入れられないでいるのだ。

 あいつはかみさまみたいなもので、私は寵愛を受けはしたがただの人間で、交換可能なパーツでしかない。そんなことはことばのうえではずっとわかっているつもりだったのに、いざそのときがせまるとまるで親ばなれできない子みたい。紫以外も、私が巫女をやって、その役職ゆえにことばをかわした多くの存在も、人間である私から見れば大差ない。レミィだっていつの間にか背丈が伸びた私を苦笑いして何も言わないし、無駄に分別が付いて丸くおさめようとするズルさをもってしまった私に妖精たちはあからさまに愛想をつかせているし、幽香は何も言わないが紫と同じ印象を持っているだろう。いつもまわりにだれかがいると思っていた私だが、いつの間にか、そんなことはなくなっていた。

 はなのおくが、つんとしみる。やばい。ばかみたい。こんなの。

 私はだれを相手にしてかごまかすように、川の底が深くなった淵のほうへ進んでしずむ。水に入ってしまえば、目から出てくるなにかなんて、ぜんぜんわからなくなる。
 ざぶんと頭のてっぺんまで淵に入り、冷たいがもうなれた水の感触に身をゆだねる。水中から見える空はむだにきらきらしていて、余計にくやしい。でも水中ならいくら泣いたってわからない。息が切れるまで存分に目から出るものを絞り出して、それからさっぱりと外に出よう。考えないといけないことはいっぱいあって、こたえなんか出ない、出せない。きっと紫はうだうだとすすめないでいる私にしびれを切らして勝手に次の巫女を立てるだろう。ただまわりに流されて禅譲して、私はさみしく博麗の人生をとじるのだ。かつて博麗だった記憶のしっぽをかじりながら、さみしく生きるただの女になる。

(ん?)

 急に、視界がゆがむ。もともとゆれる水面ごしに空を見ていたから、ゆがみまくっているのは承知の上だが、それを差し引いても不意な変形……いや、これは、しずんで、ちがう

 ざばあ

「なにやってんだよ!」
「なに、って、なに?」

 しずんでるのではなくて、たんに、引きあげられたのだった。引きあげたのは魔理沙だった。淵のほうにまで普段の魔女法衣で入ってきたものだから、ぐっしょり。もともとふわりとボリュームのある法衣なものだから、ぬれてぺったりとなるとその貧相さはひどいものだ。

「なにってなに、って、なんだよって!」
「なにってなにってなんだよ、って、朝の禊なんだけど」
「は」

 よかった、やっぱりいったん水に濡れてしまえば、私がどんな状態だったかなんてわかりはしないだろう。まして、魔理沙になんか、絶対に知られたくない。

「毎朝、してるのか」
「ええ。毎朝の日課よ。」
「そ、そっか。潜水式の禊なんてあるのか」
「ないけど?」
「ないんかーい!」

 心配して損したぜ、とぬれねずみみたいになった魔理沙がずるずると川を出ていく。

「気分よ気分。元々そんなんじゃなかったんだけど、ずいぶん前にさ、ほら、あっこの間欠泉が出来たとき。あれ以来ここの川ほのかにあったかいのよ。もちろん、そんな風に服を濡らしてしまえば寒いばかりだけどね。」
「おお、そうかいそうかいっ。ずびび」
「なんの心配したのよ。私が入水自殺でもするって?」
「ああ、そうだよ。だれだって水中に水草みたいにただよってる黒髪を見ればおどろくし、それが霊夢だってわかりゃああしただろ。おおさっぶ、ちょっと服干させろよ」
「なに言ってんのよ、ばかね。ああ、ちょっと、ぬれた服のまんまあがんないでよ、相変わらずね!」
「おー、どうせ私は昔っからこうですよーだ。変わってねーのはおたがいさまだぜ」
「あにがおたがいさまよ」

 おたがいさまなものか。私から見た魔理沙はいまでもいつでもあのビビッドカラードモノクロムな魔理沙だけど、私はもう、くすんだわ。

「おまえのそーゆーとこだよ、いつもエラそうなとこ。すこしは自分の非を認めろっての」
「ふふっ、よく言うわ。20年前のあんたに聞かせたいせりふね」

 ったくよー。なんて毒づきながら、ぬれた服を脱いでしぼっている。どこに干せばいいんだよ、なんて、口をへの字にして私へ非難がましい目をむけていた。なんだか、魔理沙のこういうところに、つられて笑ってしまう。いつも、いつも。うらやましいな、魔理沙のこういうきらきらしたかんじ。

「なにがおかしいんだよ」
「ぜんぶ」
「なんだよぜんぶってよー」
「ぜんぶよ、ぜーんーぶー」

 そう、ぜんぶ。魔理沙のぜんぶが、まぶしい。おなじ人間なのに、紫に依存して生きてきた私と、いつもひとりで立とうとしてた魔理沙とでは、最初から違っていて、そのまま長い月日を経た今は、はるかかなたにいる。もうなにもかもが違うのだろう。

 20年前の私に言ってやりたい。

 なにを?

 なにを言えば、いいだろうか。

 黒い振動の記憶。なにもかもが閉ざされた今でも、今私が博麗霊夢として、細々笑っていられるのは、どんなにか間違って勘違いしていたとしても、たしかにあったあの過去のおかげであることに間違いはない。過去の自分にお前は間違っているだなんて、どうやって伝えればいいだろう。それこそ私自身で私を否定することだ。細々とした自分自身の自覚のひとすじを、最後に自分で刈り取るようなこと、そんなことはできそうにない。







「で、なにしにきたのよ」
「それよりこんな日に裸って、寒くないのかよ」
「寒いわよ」
「禊だかなんだか知らないけど、冬季休業でもいいじゃんか。ああ、引きとめて悪かったから服着てくれ。カゼひかれたらかなわねえぜ」
「ひかないわよ。あんたとは鍛え方が違うの。私は――」

 博麗の巫女なのよ、ということばを吐き出すのを、横隔膜が拒否した。のどの奥で詰まったように舌がよじれて、ことばをジャムらせている。

「ん?」
「なれてんのよ」
「そうかい。じゃあいつもどおりの巫女服に着がえたんなら、私の服を干して、ついでになんか着るもんをかしてくれよ。」
「はいはいこれそのまま干していいの?」
「形状記憶魔術だぜ。どんなに雑に洗っても元の形に戻る。色移りも防いでくれる。最高だろ」
「所帯じみたわね……」
「独身だぞ」
「しってる」

 自分の装束を出して着付けてから、魔理沙の服をなにかてきとうに見つくろおうとタンスを引く。といっても私は魔理沙と違って普段着と言うものを持っていない。白衣と緋袴の普段の巫女装束ともうすこしフォーマルな祭儀に使う狩衣、神楽とかで着る千早、頭飾りや諸々はともかくとして、あとは寝間着くらいだ。ほとんどいつも白衣と緋袴で私服らしい私服を持ってない。若かったころから通して、着る機会もなかったし。寝間着はさすがにないなと思ったので、仕方なく替えがいくつかある白衣と緋袴を出した。

「え、これって私が着ていいのか?」
「べつに」
「ハクレイノミコ専用とか特別なもんじゃないのか」

 裏表をひっくりかえしながら、めずらしいものみたいに見る。目の前にそれを四六時中着てるやつがいるのに、なにがめずらしいか。

「誤解されがちだからゆっとくけど、これ、ほとんどただの作業着だからね。きれいにはしてるけど。」
「マジか。おまえ人前に出るときもジャージ上下とかそういうノリのやつだったっけ? いや、だいたいそうか」
「いきなり雑に改められたわね」

 制服とかゆっとけばよかった、制服には違いないのだから。

「普通の服はないのかよ」
「ない」
「まあいいけど。あれだ、いやーんな感じ」
「どんな感じだ」

 着ながら苦笑いしてる魔理沙。
 金髪にすこしのそばかす、青っぽい目。西洋人ではないけれど1/4くらいは血がまじってそうな容姿の魔理沙が、私と同じ巫女装束を着ているのを、長い付き合いだけれど初めて見たかもしれない。なんかずるいくらい似合う。似合うっていうか、似合わなさ過ぎてファッショナブルに見える。ずるい。

「いやでも乾くまではそれでがまんして」
「いやなんてゆってないだろぅ」

 小袖をひらひらさせながら、なにか妙にうれしそうにしている魔理沙。こいつはいつも、何でも楽しそうに楽しむ才能のあるやつだ、うらやましい。そういうところが、私と違うのかもしれない。

「で、なにしに来たの? きくの二回目だけど」

 着替えた後ソッコーでコタツの中にもぐりこみ、自分の八卦炉に熱変換器を接続してあったまりだした巫女服魔理沙に向けて、私はいつものように仁王立ち。腰に手をあてるポーズもいつもどおりだ。
 やってしまったな、と思った。魔理沙に対してこれももはや体にしみついた習慣のようなもの、無意識の内だけれどこんなのも、まだわかいころならば可愛げがあろうに、今の私ではたんに威圧感ばかりがあってウザいおばさんといったところか。ついでてしまった姿勢を、あからさまにやめるのはなんだかくやしいので、すこしずつ腰から手をはなし、なにもない廊下のむこうになにか気になるものがあるふりをして視線を送っては、肩幅に開いた足をさりげなくもどす。
 でも、魔理沙はそれをちゃんと見ているみたい。なにも言わないけど、ちらりと動いた黒目の方向は私の腕や足の位置をとらえている。はずかしい。それと同時に、なさけなくて、すこしだけ自己嫌悪した。私が耐えきれずに魔理沙から目をふせると、それを待っていたみたいに魔理沙が、半分だけトーンを落としたような、声を出した。

「……いや、なんだっけ」

 今はぬれて乾きかけのぼさぼさブロンドをバサバサとかくふりをして。魔理沙も私とおなじように、なんだか黒目をそろりと別の方にそらして、おなじように話もそらした。
 なんだっけなはずないでしょう、と言うこともできたけれど、なんだかそれ以上深入りする気力は今の私にはなかった。川の水といっしょに目頭はもう乾いたけれど、おりのようなものが、涙腺から心臓をつなぐ管に、まだこびりついている。

「ま、いいけど」

 どうせ来たならゆっくりしてきなさいな。そう言ってお茶を出してやると魔理沙は、いつの間にか起きて出てきた玄爺の頭をつついて遊んでいた。
 玄爺の声も、私にはもう聞こえなくなっている。若くまだ新人の巫女にしか聞こえないのだ。もうひとりで空を飛べるようになった私に聞こえないのも無理はない。とうぜん魔理沙にもきこえないだろう、私にとってはもう玄爺はただの長生きのリクガメ。昔、会話していたあのころの記憶そのものが、まるでドリームランドの出来事だったかのようにさえ思えていた。本当にそうなんじゃないか。もうあのころの私と今の私はまるっきり別の人物で、そこには致命的な断絶があるのに気付いていないだけなんじゃないか。
 そんな非常識な考え方のほうが、それでもいくらか救いがあるような気がした。あのころは、私がこんなふうになってしまうなんてこれっぽちも考えていなかったし、今の私からはかつての自分のことが本当にそうだったのか夢幻のように感じられる。その間を結ぶ細い線がぷつりと切れたところで、何の不思議もない気がしていた。

「霊夢のいれるお茶はおいしい。里の茶屋で飲むのよりここで飲んだ方がだんぜんいいぜ。うまいし、タダだ」
「金取っていいなら取るけど」
「ほめたらこれだ!」
「ほめかたが微妙なのよ」

 魔理沙はうっすら苦笑いのまじった表情で私の出したお茶をすすっている。それを見とどけてから、私もコタツに入った。
 ひとり用のコタツだ。ふたりで入るとたがいの足が干渉する。ふれては、ごめん、って目だけで言って位置を調整して、くっつかず、でもこんなせまいところでははなれるわけにもいかない。なにかの象徴みたい。

 そのまま、ただお互いにお茶をすすりながら、なにをするでもない、とうめいな時間を、ふたりで数えていた。

 わたしと魔理沙も、もうだらだらと長い付き合いだ。いまさら二人きりになったところで間を持たせるためになにか会話をしようだなんて思いもしない。とくに用事もなければ無理に言葉をかわす必要性を感じていないし、なんの前触れなしになにの用事を伝えても急だななんてことにはならない。無言の時間は気まずい空気ではなく、気のおけない温度。
 冬眠させずに起こしたままにしている玄爺は、人を載せない小型モ−ド。あったかいコタツの中にのそのそと入りこんでくる。小さくなっているとはいえ、狭いのに私たちの足がいりくんでいるその中を、空気を読まないマイペースでかき分けて、ひんやり冷たいこうらをあててくるもんだから。

「きゃふっ!」

 びっくりして変な声が出てしまった。魔理沙が小さくお茶をふきだしている。その様子をにらみつけると、憎たらしい笑顔で私に視線を返してきた。

「可愛い声が聞けたぜ。ナイスだ玄爺」
「もう」

 なにが可愛いだ。なんだかもう、そういう時の照れ方も忘れてしまった。小さくため息をついては、コタツの中をうろうろ歩く玄爺を、魔理沙の足の方につつつとおしつける。でも、こうらはもうあったまってきているし、かりに冷たかったとしても声を押し殺すくらいの準備はもうしてしまっているだろう。
 一方的に一本持ってかれて口をへの字にしていると、おおつめたいつめたい、とわざとらしい声を出して私をなぐさめてきた。そういうのいいから。
 そんなふうに玄爺のこうらと遊んでいる魔理沙の足が、不意に私の足にあたる。いったん離れてはまた軽くふれて。でもそれを何回かしているうちに魔理沙の表情が、いたずらじみた笑い顔から、変わっていくのがわかった。なによ、と言う私のことばを待たずに、魔理沙が先に口を開く。

「お前、今日誕生日だろ」
「は?」

 魔理沙が何をゆっているのかよくわからない。
 私だって自分の誕生日を知らないのに、なんで魔理沙が知っているというのか。誰かのと勘違いしているな。

「誕生日なんて、あんたに教えたことあったっけ?」
「ない」
「で、今日はなんの日だって?」
「霊夢の誕生日」
「その支離滅裂さでどうやって魔術の術式回路組んでるのか一度頭の中を開いて見てみたいわ。割っていい?ねえ、割っていい?」

 相変わらずの魔理沙に頭を抱えている私をよそに、魔理沙は悪びれもせず剰え胸さえ張って言った。

「昨日私が決めたんだ。今日がお前の誕生日だ」
「なに、もう酔っぱらってんの」
「至ってシラフだぜ」

 だめだ、相手にするとつかれるばかりの時の魔理沙だこれは。

「はいはいありがと」
「こら、勝手に締めくくるな、ちゃんとぷれぜんとがあるんだぞ」

 魔理沙がさし出してきたのは、てのひらに収まるくらいの、白い石ころ。

「……こんなもの、まだ持ってたの」

 ごつごつと不均等にもりあがる力強い形に反して、透きとおりそうなほどに真っ白い。表面はゴマ粒大の粒状の凹凸と、ひかりを反射するほどに平滑なこまかい平面に包まれている。不規則に散在する白い平滑面は鏡面様で、見る角度を変えるたびにキラキラとひかりを返して、かがやいている。

 それは、『蝶の巣』だった。

「なつかしいだろ」
「なつかしいっていうか」

 すこし、いまは、つらいかも。







 むかしむかし、私がまだ巫女見習になったばかりのこんなにちいさい女の子だったとき。魔理沙とであって間もないころの話だ。もう姉妹みたいにべったりでいっつもいっしょに行動してた。ひとみしりで無口なこどもだった私に対して、魔理沙はそのころからやんちゃざんまい。母さんや紫がつける稽古をいやそうにしている私をつれて抜け出したり、なんにでも興味しんしんな魔理沙の冒険ごっこに連れてかれたり。
 そんな日常の一環だった。魔理沙の目の前を蝶が飛んでいたのをきっかけに、魔理沙がそれを追いかけはじめた。蝶といえばそのへんをフラフラとあてもなく飛んでいるような印象だったのに、その蝶はどこかを一直線に目指しているような飛び方をしているのが、魔理沙の目にはめずらしく映ったのだろう。
 原っぱをとおりすぎて、すこし遠い裏山にも分け入って、それでも向こうへ飛んでいこうとするのをみた魔理沙が「ついていったら、ちょうのすがあるはずだ」なんて言っていたのが、おぼろげな記憶の向こうに思い出される。魔理沙はほうきで空を飛べるようになる前だし、私もまだ空を飛ぶ能力を開花していなかったから、ふたりともせっせと歩いてのことだ。しかもこどもの体力で、たいした距離でもないのに大冒険だったように感じられたのも、おぼえている。
 魔理沙が言い出した「蝶の巣」というのは、完全にこどものたわごとだ。そんなものがあるのかないのかさえ知らない、それくらいこどものころの話だったから。
 けっきょく、蝶の巣なんかなかった。いつのまにか蝶を見失って、帰り道もわからなくなって、迷子。いよいよ私が泣きだしたのをみて、魔理沙もいっしょに泣きはじめた。でも魔理沙が泣いているのをみたら、私の方はなんだか急に気分が落ち着いてしまって、逆に私が魔理沙をなだめる立場になって、でもそんなのははじめての経験だし、どうすればいいのかわからなくなって。
 それで私はすこしはなれたところで見つけたこのきれいな石を魔理沙に差し出して、それが蝶の巣のなかにあったものだと、うそぶいて渡した。

「ちょうちょのすのなかにあったの。この石のまわりに、ちょうちょがいっぱいだったわ。まりさにあげる」

 今にして思えば見えすいた嘘なのに、こどもだからか、それともそういうところで素直さが暴走している魔理沙だからかもしれない、それを受け取った魔理沙は泣きやんでおおよろこび。ふたりとも泣きやんだところで、そのままなんとか家に帰ろうと山の中をうろうろしていたのを、おとなたちに見つけられたというものだ。
 蝶を追って分け入って巣を探して迷っていたのは鬱蒼とした山のなかだったような記憶があるのに、おとなになってから訪れてみると実際にはそれなりにととのった山道で、たいして遠いところでもなかった。おとなたちは、いなくなったこどもを探しに出かけて、ほどなく見つけたところだろう。こっぴどく、叱られたのはおぼえているが。







「私があげたものじゃないのよそれ」

 蝶の巣、なんて呼び方をしているが、ただの質の悪い石英だ。世間知らずのこどもの目には宝石のように映ったかもしれないが、水晶や玻璃ほどの品質でもないこれは、石ころでしかない。同じ石を今までに何度もみたことがある。
 そんなものをいまだに持ってるなんて、おどろきだ。あれからしばらくして魔理沙は家を飛び出してひとりで暮らすようになったのだけど、そのときにもわざわざ持ち出していたということになる。

「そうだっけ? 私が大冒険の末にいよいよ手に入れたお宝だった気がするんだけど。霊夢、ほしがってむくれてたじゃないか。迷子になって泣いてる霊夢を泣きやませるの、たいへんだったんだぜ」

 さすがの魔理沙である。

「こないださ、レミリアがどうのって、ゆってたからさ」
「ん、ああ、あれね。ただのグチよ」
「……そっか。じゃあいいんだけどさ。いつまでもレミリアみたいに、未来ばっかみて生きてくの、辛いよなって、私も思ったから。いいだろ、そういうもん見てなつかしんだって」

 レミィの、つねに未来に向かってすすんでる生き方に、むかしからずっと、あこがれている。過去にどんな失敗があったのか、きっとうまくいかなくてこの幻想郷に来たのだろうに、ほかのやつらとちがって、まっすぐに前だけを見て生きている。幻想郷に来て、そのままいすわるやつというのは、過去への未練が祟ったやつらばかりなのだから。レミィもほんとうはきっとそうで(知ってるけど)、だのに過去をかなぐり捨てて未来に向いている。私もそうありたいと思っていたし、だからこそ、彼女がそうして大暴れした紅霧異変では”推定無害”として一部行動に縛りをかける以外の沙汰はなしとした。
 裁きに私情をはさんだことは問題だが、紫にしても過去にばかり収束しがちな幻想郷住人の精神的指向には問題視があったようで、吸血鬼という西洋妖怪をそのまま住まわせる私の判断には最終的に合意していた。

 私もそのころはまだ若くて、未来に向けて、きらきらとかがやくものを、夢見ていたのだ。

「まあ、ね。そろそろ後ろを見たって、いいわよね」

 でももうそういう時代も終わろうとしている、いや、とうに終わっているのかもしれない。紫はずいぶん我慢しているはずだ、さっさとあたらしい巫女を据えたいにちがいないのに、ぐだぐだ引き延ばし続ける私を、やろうと思えば『消去』してしまえるのに、そうしないでいてくれている。

「けっこう」
「あ?」
「がんばったと思うのよね」

 ああ、こんなこと言うべきじゃないのに。魔理沙にゆったって迷惑なだけで、重荷をかぶせるだけで解決できるものでもない。

「昔の私。今とちがって、けっこう、がんばってたと思わない? 異変解決とかさ、神様とかおっきな妖怪とか相手に、タンカ切ったりして。ちゃんと|幻想郷《少女》してたと思うのよね」
「今だってそうだろう」
「ちがうわ」

 昔のそれと、今の私は全然違っている。やっていることは大して変わらないのかもしれないけれど、どうしてこんなにも空虚なのだろうか。異変解決して、救いようの無い妖怪を退治していたあの頃とは、それらが終わったあとに胸の中に残るものが、ちがいすぎる。ちがうと言うか、今はなにも残らない。空っぽにあいた胸の真ん中には、スカスカ軽くて中身のない、年齢とかいうものがパディングされてしまっている。嵩ばかりがまして、なかみがなにもない。昔はお腹いっぱいにごはんをたべたのと同じくらいに、博麗の巫女としての勤めが満足だったのに。
 きっと、きっとやっぱり、これは経年劣化からくる不感症だ。当代博麗はもう使い物になりません。

「いまはもう、ちがうのよ」
「なにを悩んでんだか知らんけどさ、霊夢は今でも、先を見てるだろう。だからこそ、巫女業(?)続けられてるんじゃんか。だから、たまには後ろを見たってバチは当たんないと思う」

 魔理沙の言いたいことは、理性の上ではよくわかる。きっとそれを甘えだと思う必要が無いことも。それでも並べて比べてしまえば、劣化でしかない。私は骨董として価値を再評価されるような女でもない。その事実をどうしても飲み込めず、ただの汚点としか感じられない。理性ではなくて、衝動的なもの。
 脳裏で擦れた理性がチリチリと、赤い衝動。電波を発している。陰鬱に沈む視界、まっくろの先は、それくらいならばいっそ真っ赤っ赤のほうが百倍ほどもマシだろうか。

「……とりあえず、うけとっといてくれよ」
「とりあえず、って」
「たしかに霊夢の誕生日はしらないけど、365分の1であたるんだからいいだろ」
「むちゃくちゃね。でも、今はね、その石をもらっても全然嬉しくないの。それを見るたびに辛くなるわ。」

 へたくそ。と、おもってしまった。なにがだろうか。私もそうだけど、魔理沙もそうだ。それを私が責めることなんて出来ないけれど、そんなふうにへたくそじゃ……ああ私はゲスか、そんなこと、いま私が魔理沙に言えることじゃないのに。でも、もっと|うまくやってくれるなら《・・・・・・・・・・・》、私はもっと|単純な馬鹿女になれるのに《・・・・・・・・・・・・》。

「わるいけど、受け取れないわ。誤解しないで、あんたが悪いんじゃない。今の私じゃ、だめなの」
「ただ持ってるだけでいい。それが傍にあるもんだってことを、忘れてしまってもいいから。それは、おまえが持っていてくれ。おまえが持っているべきものだ。」
「押し売りってこと? いつもは強奪なのに、めずらしいのね」

 私が悪態をついても、彼女は黙ったままだ。私のてのひらにそれをおいて、指を折るところまで促して、|くだらない白い石《蝶の巣》を私に持たせたのだ。
 たかが石ころだ。ずいぶんと昔の、懐かしんで酒の席で笑い飛ばす程度のどうでもいいエピソードが添付された、雑なタイムカプセルのよう。それを私に押し付けて、持っていろというのはその昔の出来事の記憶を指しているのか。
 うけとってくれよと、ぷれぜんとだと、称して魔理沙が私のてのひらにちいさな白い石をおさめる光景。記憶の中にあるそれとそっくりに思えた。でも、泣いていたのは、どっちだろう。
 呪いの海辺で溺れて私は、まだ這い上がれない。







「なにこれ」

 様子がおかしいことには、朝起きてすぐには気づかなかった。陽の光がなかったから、その「色」が見えなかったのだ。

「まだ、薄いけど……」

 この程度の自然マナ漏出は、予測不能に発生することもある。木、草、水、山、岩、あらゆる天然物に蓄積されたマナは、些細なことで大気中に放出される。そうした現象は特に不審な点もない。よく色が見えないうちは、この付近でそういう現象が起こっているだけかと思っていたのだけど。
 朝の禊の間感じていた、マナ漏出を受けた大気特有のひりひりした感覚は、山の稜線から太陽が完全に姿をあらわしたときに、そうではないのだとわかった。
 朝日に照らされて明らかになったのは、この辺一体がすべて、赤い靄におおわれているということだ。
 よくよく注意しなければまだ気づかない程度の濃度だ。肌にマナ飽和した空気の感覚が貼り付いていなければ、もしかしたら気に留めなかったかもしれない。そして、この靄のことを、私はよく知っていた。

「レミィ」

 思い出されるのは、15年前の紅霧異変だ。この赤い霧、彼女以外に生み出せるものじゃない。
 霧の濃度は漸増している、15年前の霧は遅効性だが致命的な毒だった。日光を遮り生態系も脅かしかねなかった。放置すれば「赤に均される」ものでもあったらしいが、そのことばの指す現象がなんなのか実際に見る前にレミィを成敗したのだ。
 今回のこれは、15年前のそれによく似ている。だが、似ているだけだった。見た目はそっくりだが、毒性は感じられない。触れたものに赤色がついて汚れるが、こすると取れる。明らかに、意図的に似せて、似せながらも実害のないものにしてある。くしゃみやあくびのついでにぽんと生み出されるものではない、わざと撒き散らしているのだ。無毒でただのジョーク現象、意図はわからない。ただ、似せてある以上は、「そうしてほしい」のだろう。もはや犯人も知れている。
 川を出て、巫女装束をまとう。いつものとはすこし違う、いくらか戦闘向きのやつだ。戦闘用の札をおさめて、退魔針を持って。符も必要と思われるぶんを取り出した。

「やめてよ、あんなのはもう、じゅうぶんでしょう」

 15年前を思い出す。あの日も、朝起きたら、こうなっていたのだ。若かった私は、飛び出すように戦闘準備をして、魔理沙といっしょに吸血鬼狩りに向かったのだ。それが自分の使命だと思っていたし、それに逆らう存在は、どんなふうにしても私が正しいのだと信じていた。けっきょく、そうして彼女の「生きたい」に、私も揺さぶられてしまった。
 今にして思えば、レミィを打ち倒したときから、私の「色あせ」は始まったのかもしれない。彼女の未来を睨みつける視線の鋭さと、それにすこしでも心を揺さぶられた私は、それから他人に興味を持つようになってしまったんだ。
 彼女は幻想郷の自律進化のために意図的な不安定要素として導入されたという側面がある。紅魔だけが目立って西洋妖怪の色を強く持っているのはそのためだ。
 ならば。私の劣化は幻想郷の進歩と相関があって……いや、早い話が「博麗霊夢は年老いた」というだけの話なのだろう。私は年を取って時代についていけていないロートルだというだけ。

 そう、それだけだ。

 それでもなすべきことに変わりはない。それが私の手でなせなくなったときが、私が本当に消え去るときなのだろうと思う。札の枚数を確認して、針の先端に歪みがないか確認する。陰陽玉を呼び寄せて、軽く周囲を舞わせてみる。問題ない。紅霧異変からは15年経っているが、他の異変解決は毎年のようにこなしているのだ、扱うだけなら、今も昔と変わらない。
 だから、耐用年数に限界が見えているのは|ハードウェア《からだ》じゃない。|ソフトウェア《こころ》の方だった。

「霊夢」
「おはよ。今朝は自殺ごっこしてないわよ」
「あれはごめんって。それより」
「そうね、それよりこれね。私もいま認識したばかりなんだけど、ずいぶんと察しがいいじゃない、あんたにしちゃあ」

 まるで紅霧の発生がわかっていたかのようなタイミングで登場したのは、それもそういう予定だったみたいに、魔理沙だった。

「これ、何だか見覚えがあるんだけど」

 私はもちろんとして、赤い霧なんて魔理沙にとっても、ひどく昔に聞いたことのあるキーワードだろう。

「似てるだけで危なそうな感じもしない。なんだってのかしら、こどものイタズラみたいな。レミィに娘でも出来た?」
「しらねえよ、咲夜は人間やめたって聞いたけど、レミリアにおめでただなんて話は聞いたことないぜ」

 レミィにこどもなんてできてて、もし箝口を敷いていなければ、事件になっているはずだ。紅魔は吸血鬼という強大な存在だったが、|一代限りの伯卿《マグナート》として整理している。|世襲制貴族《オルディナト》としては認めていない。
 なにより、あのころ(つまり紅霧異変のあったころ)はレミリアはこどもを身ごもれるような年の体ではなかった。私もおなじだったが、私自身がすこし前にそれに適した年齢をすぎたところだ、人間とは寿命の尺度が異なる吸血鬼に10年なんて、数日すぎたばかりと同じ、急に娘でもできていて、母親とおなじような異変を起こしているなど考えられない。

「だったら、犯人はひとりだけね」
「おう、レミリアにちがいないな」
「ちがうわよ」
「えっ」

 私をバカにするのもたいがいにしてほしい。ねえ――

「魔理沙」

 私が視線といっしょに、退魔針の先端をむけると、いやいやいや私にはこんな大規模な|空間魔術敷設法《インスタレーション》やる技術はねえって、と否定して、銃口を向けられた犯人よろしく手を上げる。

「この霧をあんたがやったなんて思ってないけど、あんたが、レミィになんか言ったんでしょう? こないだ私が、変なことをくちばしったから、よけいなおせっかいを利かせたつもり?」

 もうひと押し針を魔理沙ののど元に近づけると、あっさりと白状して……と思ったら、すこし様子がちがうようだ。イタズラしたあとの悪びれ顔でもない。なにかのよからぬたくらみ顔でもない。しいて言えば、深刻な、表情。ひとつ、ため息をついてから、白状した。あまりにもあっさりなところと、隠す気があるのならあまりにもお粗末なところ、最初から告げるつもりだったのかもしれない。

「そのとおりさ、霊夢。私が、レミリアに伝えたのさ、おまえがちょいとスランプにおちいってるってな。」
「スランプ。そうね、スランプかも。二度と抜け出せないやつ」

 スランプということばは面倒くさく解決しがたい不調をさすのに対して適切ではあるが、でも同時に私の絡まってすっかり解けなくなった感情伝線コードの状態を分析するのには不足している。妖怪や化物、異変とおなじものだ。つまり、打倒され解決される前提で作られた概念であって、二度と復旧できない場合にそのことばは違和感を伴う。

「そういうのを指して言ってるんだよ」
「てきとうなことを言うのはやめて」
「テキトウを言っているつもりはないのだけどな。むしろ適当だぜ。」

 つまりそういう意味でスランプということばを突きつけられた私はだから、かっとなってしまう。おまえはそれを抜け出す力を持っていてそうできていないだけだ。そんな状況は自力で終えられて当然で、そうできないのは手前の弱さのせいだ。と、突きつけられている。私がどんなにか希ったところで、どんなに努力したところで、20年前の精神性を取り戻して、再び空を本当に自由に飛び回れるようになるなんてことは、無いのにだ。

「そうね、私はまだ修行が足りないのかもしれないわ。でももうこの年だもの。きっと満足なものを手に入れる頃にはおばあさんで、|幻想郷《少女》はとっくのとうに追放されたあと。つんでいるのだわ。」
「それだよ、それ。そういうふさぎ込んだマイナス思考はな、おまえらしくないんだ。どうしたんだ、そんなの一度だって見たことがない。おまえはいつだって、なにか反抗して、針の穴みたいな細い隙間でも、反抗できる余地があるならそこを通って徹底的に反抗して、おまえの正義をつらぬいてた。それができるっていう自信を、口に出さないけど静かに持ったやつだった。だからそういうふうに閉塞してるのは、おまえらしくない。」

 また、そういう、知ったような口を。
 そんな、うさん臭くてしかも歯の浮くせりふを、魔理沙はまっすぐな目で言う。そのまっすぐさが、今の私にはまぶしすぎて、正直うっとうしい。静かに赤い衝動が、脳に湧き上がってくる。

「私らしくない、ですって?」

 針を地面にうち捨てた。からん、と音がなると同時に、私の手は魔理沙の胸ぐらをつかんでいる。魔理沙の瞬発力なんてそんなものなのか、それともはなから抵抗する気がなかったのか、そうしてやると、大きなポロネックの布地が彼女のほほから口を隠した。そうして隠れた魔理沙の表情は、なおさらうかがうことができない。私を笑っているのか、見下しているのか、哀れんでいるのか。いずれにしても、おなかの底の沸騰が、おさまらなくなってしまって。魔理沙にあたっても仕方のないことなのに。

「あんたになにがわかるのよ、わからないでしょうね、まるで『ありときりぎりす』だわ。あんたはずっとひとりでも立てるように頑張っていたから今じゃりっぱな魔法使い、そのあいだ博麗の名前に依存してただけの私は今寒くてこごえてる、それだけのことだわ! 私らしいって、なに? きやすくひとを、あんたのモノサシではからないで! 私にはつねに自信があったなんて、テキトウなこと言わないでよ! あの頃あれくらいできたんだから、今のくすぶり具合は不完全燃焼だなんて、一体なにを基準にゆっているの? あんな偶然と幸運が重なったような不運の成功体験を引き合いに、私という像を身勝手に作り上げないで!」
「霊夢、話がズレてる。ちゃんと聞い」

「きいてるわよ!!!」

 魔理沙の胸ぐらを、はなすだけにすればいいものを、私は放り捨てるように投げた。もちろんボールのように飛んでいくほどではないけど、バランスを失った魔理沙はすこし先の距離で立ち上がりながら、私を、そう、今は逆転したのかも、追いつけない距離から、見ている。

「聞いてるわよ。ひとの話を、聞いて、聞いて、いろんなものをちゃあんと考えるようになったわ。いつも傲慢だとか、強権だとか、身勝手だとか言われて、それじゃあこどものままだからって、あらためようとしてさ。」

 立ち上がりがてら、ばふばふとスカートをはらう動作のまま私の方を見ている魔理沙の目は、どこか悲痛な色をにじませている。なんであんたがそんな顔をするのよ。いたいのは、私の方だというのに。

「妖精たちや、他の妖怪たちをみてみなさいな。今でもあのころと変わらず自分が世界の中心なんだって傲慢なまま。予めお互いにまるめてからつき合わせるようなんじゃなくて、自分たちの主張をこれっぽちも曲げずに、お互いにちょうどいい形に削り合うまでぶつかりあう、乱暴なやり方。でもその色が、そっちのほうが、すっごくきれいだと思わない? もう、私には、ないものだわ。失ってしまった。それが、このザマよ! 私はもう、色あせた!」
「それのなにが悪いんだ。どんなザマだって言うんだよ。いいじゃないか。それがどうしてもできなかった私からすれば、おまえはすごく早くにおとなになってた。やっぱりかなわんなって、尊敬してたんだぜ」
「『このザマ』よ、わかっているくせにとぼけないで! こんなもの、いまさらあんな石ころ私に見せて、なんだっていうのよ! 昔の私は可愛いかったとか、強かったとか、自信があったとか、そういうことを言いたいんでしょう!?」

 そうなのだ。けっきょく、私のまわりに今もいてくれるひとだって、ほんとうは私ではなく、もっとかがやいてた昔の私を、今の私に重ねているだけ。今の私にはなんの価値だってないと言うのに。

「そのとおりだよ。昔は、昔のおまえは、すごく、ああ!」

 そのとおりだと、肯定してしまった魔理沙だけど、まだ何か言いたいことがあるのだろうか。あたまをくしゃくしゃするのは、魔理沙が考えをうまくまとめられてないときのクセだ。

「すきだったんだよ!」
「……はぁ?」

 突然飛び出してきたことばに、あっけにとられてしまう。なにいってるの。

「ひとつひとつ、どこがどうだったとか、霊夢のあんなところがとか、いちいちいえないし、言うと怒るとこもあるから言わないけど、こっからここまでが霊夢だったとしたら、ここにこれくらい嫌いとか、ムカつくとか、あるんだけど、残りのぜんぶは好きなんだよ、ここにはいろんなもんが入っててさ……ぜんぶ、説明しなきゃだめかよ!? わかった、いちからぜんぶゆってやるぜ、覚悟しろ、どうせ聞く耳なんか持たないんだろうけどな」
「ちょっと、おちつきなさいよ」

 さっきまで私が激昂していたはずなのに、魔理沙が取り乱しているのを見るといつの間にか私のほうが急に冷めてしまって、逆に魔理沙を落ち着けなきゃいけないみたいな気分になって、そういえばいつもこんなな気がする。こどものころからだ、蝶を追いかけて迷子になったときもそうだった。

「落ち着いてるぜ、私は落ち付いてる。だから、霊夢は」
「そう、だから、昔の私の方がよかったってことでしょ? 昔は好きだったかもしれないけど、今はそうでもない。それでいい? さっきからそう言ってるのよ。今の私なんて博麗の名前にすがってるだけの」
「ちがうんだよ!」

 魔理沙は私の肩をつかんで、そのすこし異国情緒のある青っぽい目を、真っ直ぐに私の目のなかに突き刺してくる。
 彼女が大声を出すことは、なにもめずらしいことじゃない。でもこんなふうな表情といっしょに出てくることは、ほとんどないことだ。いつもはわざとなのだろう、どこか気の抜けた雰囲気をまとっている魔理沙が、それをしないとこうなる。つまり、切ったり刺したりするほどの鋭い感情と気配が、どっとおしよせてきて圧倒されてしまうのだ。

「ちがうんだよ」
「なんだってのよ」
「ちがうんだ、霊夢。今を否定する理由を過去に求めちゃだめなんだ。それに、昔を肯定することが今を否定することになってもいけないんだよ。霊夢、おまえは、15年前から変わってなんか」
「変わったわよ。変わりたくなくてもね。それが、成長って言うことで、それが、年を取るっていうことでしょう。今がいけないのは過去に原因があって、その原因時点までの過去はすてきなものだったということに、なんか矛盾でもある?」
「ない。ないけど、そんなの、だめなんだよ」

 ことばをうまく選べないでいる魔理沙は、私の肩をつかんだままこうべを垂れて、それでもしばらく、なにかことばを探しているようだった。
 いよいよ見つからないとあきらめたのかあげた顔、目が、すこし赤い。
 なんで? これは私の問題なのに、なんであんたがそんな顔をする必要があるの?
 魔理沙はさいご、「もういい」と、言い捨てて、肩を落として彼女の名前を出した。

「いいか、霊夢。これから、レミリアが、やってくれる」
「もう『やってくれて』いるんでしょう、この紅霧もどき。」
「そうさ。そして霊夢は思い知るんだよ。こいつは紫のたくらみじゃないぜ。そしてたしかに私がしかけたが、やってるのはレミリアだ。やつにはやつで、きっちりモチベーションがある。私をこの場でふんじばってもこの魔霧はおさまらないぜ」

 ざまあみろ、とでも言いたげな表情の中に、なんだかすこしのかなしそうな色が見える。いったい、彼女が選びきれなかったことばは、どんな感情なのだろうか。私をあわれみながら傷つけないなんて甘いことばをさがしていたのなら、見つかるはずもないだろうが。

「この赤い霧」
「もちろん、紅霧異変だぜ。わかってんだろ」
「にせものでしょ? この霧ならほっといてもかまわないだろうし。それでもこれを解決しろっての?」
「おふこーす。たとえごっこ遊びでも、ルールはあるだろ。鬼は倒される」
「鬼をやっつけられる鬼ごっこって私知らないのだけど」
「そう言わずにさ。レミリアに用意してもらった茶番だ。思い出すだろ。」

 紅霧異変なんて、もう15年も前の出来事だ。でも、今でも鮮明に思い出せる。あんなに鮮烈な思い出は、ほかにはない。私は死にそうだったし、あのレミィさえ本気だったし。あんなふうに全身全霊をぶつけて、それも、体力とか技術とかだけじゃなくって、思想の根底から、正義のあり方から、存在そのものから、ぶつかりあったのは、あとにもさきにも、あれきりだ。あれを似せて、なんのつもりだろう。本当にもう一度するつもりなら、こんな色付きスモークなんか焚くはずがない。
 博麗が私の代になってから、稗田史記に大型の異変として記されるのは紅霧異変以外にもいくつもあるけれど、以降の異変はすべて「儀式」だった、紅魔のときとはくらべるべくもない。ほかの異変はふたを開けてみれば、幻想郷には一時的に影響があるだけだとか、すみっこに住まわせてくれというだけのものだったのに対して、本気で幻想郷を全域を恒常的に侵そうとしたのはレミィくらいなものだった。そういう意味では、私にとってはいまだに、レミィはいまだに唯一無二のとくべつな存在かもしれない。
 魔理沙が私になにかを訴えるのに、レミリアに代弁を頼んだとするなら、それは最善手かもしれなかった。

「くやしいね」

 ほうきにまたがりながら、魔理沙は吐き捨てるようにいう。

「それなりに長い付き合いのつもりだったけど、私じゃ、おまえを満足させられる相手にゃなれないってこったろう。」

 魔理沙の方を見る。魔理沙は私の方を見ていない。ちくりと、胸の奥が痛みを感じた。

「そんなこと、ないわよ」

 魔理沙じゃ足りないなんて、言われてしまうと、私はなにひとつ弁解の余地がない。それは、ほんとうはそのとおりなのだ。でも、そんなことないのも、ほんとうだ。その二枚舌はたしかにおなじ根っこから生えているのにと、うまく伝える舌を、私は持っていない。
 年を取ってわかったことは、ひととの関わり合いとか、感情の色あいとか、そういうものに一直線な数値はないってことだ。順位をつけようとしてしまうと、それは安易な観点の収束でしかない。それがわかってしまって、よけいにめんどうくさくなった。素直に魔理沙よりレミィが、レミィより紫が、好きだなんて直線上にならべて考えられていたあのころは、単純でおろかだったけれど、その分ぎらぎらビビッドで、世界が過激で高彩度の原色だった。多分、幻想郷はそういう世界であるべきなのだ。私は、その中心にあってしかし色のぼやけた残念ポイントに違いない。

「あんたじゃなきゃだめなことだって、たくさんあるのよ」

 さっきみたいなの。魔理沙しか、してくれない。

「そうかい」

 今はもう、私の目はくもって、悪くなった。魔理沙とレミィと紫は同じ焦点距離で像を結ばない。同じヒストグラムでただしい色あいを導かない。おなじ色温度でならばない。その三人だけじゃない、私のまわりにみえるあらゆるひとは、ひとりとしておなじベクトル上にいない。だから、なにもわからなくなった。じぶんの正義でだれかを判断できなくなったし、裁きの切れ味もにぶった。私の感覚は、もう幻想郷の法治には不足なはずだ。

「ほんとよ。今の私に信用なんてないかもしれないけど」
「霊夢を疑う気なんてないけど、今のことばを疑わずに飲み込めるほど、私だってできちゃいない。でかくなったのは図体ばっかりで、コン中はまだ、ガキのままだ。今でもおまえに、追いつけないままさ。さあ、いこうぜ。紅魔館だ」

 もう30年近くも乗り続けているほうき、体の一部にもひとしいなれた様子で魔理沙はそれにまたがった。あそこまで身につけてしまえば、|飛翔術《レビテーション》も|念動浮遊術《フライング》も、変わらない。空を飛べるだけの私との差なんて、博麗であること以外になにもないのだろう。
 あいつは私を目指しつづけていよいよとどかなかったと言っているけれど、そんなことはない。私にはタイムリミットがせまっていて、それをすぎれば私はなんのとりえもないあわれな女になる。それは、もうすぐだ。

「魔理沙」
「どした?」
「こんなふうに私のこと気にしてくれるの、魔理沙だけだから」

 私の声を魔理沙は横目で聞き、ん、とだけ返して浮かびあがる。信じてくれたかどうか、わからない。でも、目を見てくれていないというのは、つまり、そういうことなのだろう。

「ごめんね」
「なさねばならぬことは、わかっているだろう? ごっこ遊びの鬼が、だれなのかも」

 魔理沙はいよいよ、私のことばを、素通りした。そのひとことが、ほんとうは、いちばん伝えたいことだったのに、それは顧みられることなく打ち捨てられた。

「まり」
「霊夢。もういっかい、やるんだよ。あの日とおなじことを。これはあの日の|再現《リプレイ》だ。ぜんぶがぜんぶ茶番。わかってのとおりさ。こんな茶番を演出して、私は自分の首を絞めているのかもしれない。でも、それでも、だ」

 魔理沙はいったいなにを考えてこんなことを仕組んだのだろう。私の知っている魔理沙は、こんなふうに遠回りな根回しをしてはかりごとをするやつじゃなかった。
 もしかして、ほんとうにほんとうの裏側では紫が糸を引いていて、|老朽化した巫女《私》を消そうとしているんじゃ。

(……もしそうだとしても、不思議はないか)

 それならそれで、仕方がない。さっさと引退しなかった私が悪いのだ。







 15年前の魔理沙は、私にはよくわからないけど|機械化したほうき《ウィッチブルーム》にまたがっていた。あと、防霧マスク。今は、ただの竹ぼうきに、毒霧じゃあないからマスクなんかしてない。
 一般に『秋の日はキスメ殺し』という。退屈な秋の夜長に向けて日のあるうちに退屈しのぎを確保しておけということわざだが、それを裏付けるようにさっきまでのぼりかけていた太陽は頭上に昇りきる体力もなく、もう山際に向けて軟着陸を試みているようだった。初老の頭髪に斑の白が交じるのとおなじように、紅葉の始まった山間の風景は、緑の中に赤や黄色を織り交ぜている。肌に触れる空気は冷たくなってきて、ああまた一つ年が流れるのだなと漠然とした寂寞が風に乗って踊っている。
 この山はあっという間に燃えるような真っ赤に染まって、雪がその炎を消す。その雪が溶けてなくなれば、私はまた一つ老いているのだ。あっという間、息をするように、人間の老いも秋の日と、おなじなのだろう。あっという間にピークを過ぎて、黄昏時は憂鬱、暗く光を失った夜が長く続くから、私は消えゆきながら静かにそれを待つものを、なにか探しているようだった。

「霊夢最近こっちの方来てないだろ」
「まあ、用事もないしね」
「懐かしんでるやつもいるんだぜ。最近巫女様はこっちのほうに顔を出してくださらない、ってな。」
「この辺はもう紅魔の自治領だから。あまり頻繁に中央が顔を出すと敬意を欠くことになるのよ」
「おまえとレミリアの仲なら気にならんだろうに、そんなこと」
「まわりへの示しの問題よ。」

 そろそろ氷精の湖だ。すこし先に、チルノが見える。魔理沙かレミィかはわからないが、前のときと同じ事件を演出したいのならば、|チルノ《あれ》をたきつけていることだろう。戦闘か?
 チルノの横を通りすぎようとする。指の間に針を潜ませ、しかけてくればすぐに対応できるよう警戒して。が、とんできたのは弾ではなくのんきな声だった。

「おー、霊夢、ひさしぶりじゃん。どこいくんだ。紅魔館か。レミリアとフランにによろしく。レミリアには氷像なんて二度とつくんねーぞってゆっといて」
「え、うん。あれ? やんないの?」
「なにお?」

 拍子抜けだ。
 魔理沙の方を見るが、はなっから気になんかしてないみたい。なんか普通の世間話してる。
 もしかして私ばかりがバカを見ているんじゃないのか。深読み?しすぎた自分が腹立たしいが、そのくやしさはとうぜんぜんぶ魔理沙にむかう。私はさっさと先を急ぐふうで、魔理沙を呼びつけた。

「魔理沙、おいてくわよ。」
「おおい、ちょっとまてって、チルノ久しぶりだろ、あいさつくらい……ああ、もう、じゃあな!」
「ん」

 結局なにもなかった。魔理沙を問いただす。

「紅霧異変の再来じゃないの?」
「そうだろ。ままごとだがな。」
「チルノは素通りだったけれど」
「もともとあいつは関係なかったろ。声なんてかけてないぜ。声をかけたのは、レミリアだけだ。」

 魔理沙が、レミィになにを言ったのか、気にならなくはない。ただ、それをきいたところで答えてくれる気はしなかったし、なにか知りたくもない事実が転がり出てくるのではないかという漠然とした不安が、それを避けていた。どのみち、レミィに会えばわかることだ。私が彼女から貰った「色あせの原因」。その進行。私の、劣化。
 私が黙っていると、魔理沙はいっしゅんだけことばを選んだようにして、つないだ。

「|レミリア《あいつ》だけで、じゅうぶんだと思ったんだよ。私だって、そういう意味では、この場にはいらないんだ。私はただの案内役だからな」
「15年前あんたがいてくれたこと、忘れてないわよ。いらないとか、言わないで」

 ぞわぞわと、いやな予感が背筋を往復しているのがわかる。二度目の紅霧異変のことじゃない。この先、魔理沙に導かれて私がレミィの前に突き出されたとき、私はすっかり分裂してふたつに分かれてしまっているんじゃないかという、不安だ。文字通りのことじゃない。なんていうか、自分の中にある矛盾を完全にさらけ出されてしまって、私はひとりの私として平仄の合った存在でいられなくなる気がする。
 どんなふたつに分かれてしまうだろうか。いちばんつじつまが合うのは、今の私と接続されない15年前の私と、15年前の私を失った今の私との、ふたつだろうと思う。

 15年前の私を失った今の私は、どんなにか、くだらない人間だろう。
 でもそれが、ほんとうの今の私なのだと、思う。過去なんて、もう失われたものなのだから。

 そんなふうにふたつに分かれた私を、糾弾する、この霧は、そのための演出だろうか。







 そんなふうに苦いものをのどの奥に感じながらチルノがいた湖を越えたあたりで、今度は後方から別の飛翔体が追いかけてきた。

「霊夢さーん」

 胸中うっへり。こんなタイミングでそういうあっけらかんとした声で、それにこの速度に対して余裕で距離を詰めてくるやつなんて、限られている。

「あぁら|文《新聞屋さん》、のんきにカメコ?」
「そりゃあもう、正直こんなの保存しないわけいかないじゃないですか。当然です。あ、霧雨さんもいっしょなんですねどーも」
「ついでにつけた感をすこしはつくろえよ」

 文は15年前のときには関わりのない天狗だった。それが顔を出すのも、紅霧異変の再来としては筋が通らない。やはり魔理沙の言うとおり、レミィだけが対象なのか?

「この赤い霧について、ひとこといただけますか?」
「あとにして。紅魔郷の縮小リメイクなんてわざわざ取り上げるほどのものじゃないでしょう」
「なにをおっしゃいますか。15年前の紅霧異変、完全に情報統制されてて全貌が不明なんですよ? あんな巨大な霊気と妖気の奔流があったのに当事者以外なにひとつ情報を持ってなくって。いったい何があったのか、気にならないわけないじゃないですか。」

 これから突きつけられるのだろう私という女の顛末に、文の興味本位な興奮が、少々腹立たしい。マスコミなんて常にそういうものかもしれないけれど。

「なにもないわよ。これからおこることだって、ただの痴話げんかだわ。若い頃よくやってた弾幕ごっこを、久しぶりにやらないかって誘われてる、その程度のもの。わかるでしょ、この霧、なんにも害はない、ほっといたっていいくらいだわ。その証拠に、前のときに世話になったやつらはほとんど出てきてない。きっと相手はレミリア・スカーレットだけ。この霧もただの演出、ただのゲーム、そこの魔女が企画してくれたみたいなの。天魔にはそう報告しときなさい」

「えーっ! チルノさんいないんですか!? 撮影しようと思ってたのにー」
「……しらないわよ」

 話をそらしたな。
 天狗の各氏族、ひいては天魔がひそかに博麗を快く思っていないのは承知している。
 各天狗を掌握する天魔は、最初からほとんど抵抗らしい抵抗もなく併合された勢力だ。博麗が守矢といざこざを起こしている間に河童やその他山の妖怪・神性を一気にまとめ上げて一つの勢力にふくれ上がった。おそらく博麗と守矢との抗争が長期化すれば、天魔の勢力は強大なものとして存在感を示し、両者が弱体化していれば両方とも食らうつもりだったのだろう。彼らの予想に反して守矢はあっさりと博麗と共同歩調を取ったため、孤立を危惧した天魔は「妖怪の山周辺の有象無象妖怪を、博麗との同盟のためにまとめておきました」と方便を使って守矢とおなじ位置づけにおさまった経緯を持つ。
 それだけに内部でなにを考えているのかわからない。博麗対他勢力の構図で博麗の現在の制域力をおしはかって記録しようというつもりだろう。文は、いい友人ではあるが、すくなくとも|天狗六天氏族の子ら《PIXIES》の手の者だ。
 そのうえで、友人でいてもらっているのだけれど。
 きっと今回、私がレミィにやられたのなら、妖怪の山は何らかの動きを見せるだろう。

「私のことを記録するのはかまわないけど、私のおとろえを期待しているのなら残念ね、私がくたばればすぐに新しい巫女が来る。博麗が敢えて人間を守護者にすえているのは、劣化がはやくとも交換容易性が高いからよ。総合すれば、ハンパに強い妖怪や神性をすえるよりも高止まりする。しってるでしょ?」

 私がそう言うと、文の目がすこし険しくなる。それは私が想像していた変化とはすこし違った。文ならひとつも表情を変えずにとぼけて返してくるか、それともよっぽどうかつを打ったならもっと敵愾心を表に出した表情をするか、だと思っていたからだ。

「ええ、しってます。それでも人気度、ここ何年かで最高潮ですから。もし15年前のときにも報道できたなら、おなじように、最高のニュースだったはずですよ」
「面白くなんてないわよ。これはただの茶番。」
「私の新聞の読者の中には、結構いるんですよ。やっぱり弾と僕らの間で揺蕩っていてこそ、博麗霊夢なんだって、声。今までの博麗の巫女に、こんな風に支持されていた人はいませんから」
「読者? あんたがひとりで勝手に思っているだけじゃないの?」
「えへ、そうです」

 文は、ぐん、とスピードをあげて私の前に回り込んだ。後ろ向きにこの速度で飛翔するなんて、文くらいのものだろう。真正面から私の方を見て言うのだ、魔理沙が私に言うときのと、そっくりな目をして。

「それでも、見ておきたいんですよ、紅魔と霊夢さんの、ガチなやつ。」
「ベイビーフェイスが勝つとは限らないわ。今の私がそれだとしたら、特にね」
「……15年前と変わらないって、期待してますから。それはきっと、私だけじゃないですよ」

 期待? 一体なんのだ。高々とのぼりを掲げておいて博麗霊夢が負ければいよいよ引退、というイベントだろうか。
 重圧でさえない。私はもう、その先に見える結果に対して、すでに落胆さえ感じていた。







「通っても?」

 紅魔館は「館」とは銘打たれているが、実態は城塞だ。銃眼をくり抜いた城壁にはそれぞれ地下道がめぐらされていて、どの郭辺も館自体から素早く行き来できる上、仮に断絶されても個別に戦闘を継続できるよう備蓄が分散されている。いくらかの人間の他に妖精をメイドとして使役しているが、特別に訓練された戦闘妖精が含まれており、普段は館の清掃や手入れをしているだけのメイドが有事には高度に訓練された兵隊として牙を剥く。そもそもここに住まうのが吸血鬼という妖怪としては最上級の存在だと言うのに、個ではなく全としてさえ、紅魔は軍組織化されている。|神奈備《かむなび》との辺境を守る、この幻想郷でもっとも戦争向きの自治体だ。
 その城塞の公的な出入り口である紅門を四六時中見張っているのが(たまに寝てるが)この門番だ。15年前ここを通るのにはかなり苦戦させられたのだが……。

「ようこそ神祇伯。奥でお嬢様がお待ちですよ。ここから先は家政婦長が案内致しますね。」

 やはり素通りさせられた。
 門をくぐれば、季節を問わずバラが狂い咲く中庭。遥か遠くにエントランスが見える。空間圧縮されたこの城塞は、城壁の外側よりも内側の空間が広くなっている。その時空圧縮を担う生体機関が、迎えてくれた。

「お待ちしておりました。」

 十六夜咲夜。この館の家政婦長であり、メイドであり、同時に|紅魔卿《KARMAZYN》の側近。それに。

「本当に、人間をやめたのね」
「やめたと言うか、やめさせられたと言うか、いつの間にか終わってたと言うか。今はお嬢様の|供血器《シャロン》としてお仕えしています。まあこれも、宿命と思えば、気ままなものですわ。」

 私に一礼して、十六夜は次に魔理沙に向く。おなじように客人相応の礼をしてから。

「ずいぶん久しぶりだが、可愛いまんまで、何よりだぜ」
「今なら15年前のようにはいかないわよ、魔理沙」

 名指しされた魔理沙が、たじろいでいる。15年前はメイド側に時空.pkgへのアクセスで勇み足があり、おかげで魔理沙はそこにつけ込むことができた。だがもうそれは望めないだろう。
 人間としての15年の歳月を、このメイドは歩んでいない。紅霧異変からしばらくは紅魔館のそとに現れることもしばしばあった十六夜だが、徐々にその姿を見なくなっていった。その後レミィから「|落とし子《SPAWN》をひとりつくった」と軍拡の事後報告があり、それがこのメイドだったのだ。確かに、あの日とまったくおなじ姿をしている。特定のスペルを発動したときのみだった「赤い瞳」も、今は常態化しているようだ。他にもまぶたの厚みや唇や爪に透ける色など、血の色は異様なまでに鮮やいでいる。まちがいなくレミィの|落とし子《SPAWN》。
 もともと切れ長の目が、瞳の赤色を宿して鋭く魔理沙を見ている。正直、ちょっとここで始めてほしくはない。私はふたりの間に入った。

「レミィの前に、もしかしてあなたが相手をすると? いくら経年劣化していても、こっちはふたりよ。」
「いいえ。お嬢様から、手出し無用と仰せつかっております。口惜しくは、ありますが。」
「そう、よかったわ。主人の配慮に感謝すべきね」

 私の皮肉に表情を崩すかと思ったが、そこはさすがにこのメイドのこと、表情を押し殺し目を伏せて礼をする。もっとも、このメイドについては無表情を向けられるのは最上級に憎憎しく睨みつけられたのと変わらないのだろうが。

「お嬢様のもとへご案内いたします。どうぞこちらへ」

 招かれた客に対しては至極温厚な門番に対して、このメイドは招かれた客にであっても、殺気と区別の付かない瀟洒さを隠そうともしないようだ。その後ろをついて中庭を抜けエントランスをくぐって行くが、背中を見ているだけでも緊張感を払拭できない。この場で無対策のまま時間凍結されれば、まな板の上に乗った魚をそうするのと大差なく首を落とされかねないのだから。

「パチェは、元気か?」
「ええ、『いろいろあったけれど』今は、うまくやっているわ。会っていってあげて、と言いたいところだけれど、ちょうど魔女の契約の対価を取りに来た悪魔を……ちょっとことばでは表現できないわ、とにかく、その対価を『踏み倒す手続き』をしているみたい。また今度来てあげて?」

 『|魔女の債権《Noblessed Obligation》』は、魔術において、超越的存在と対価を用いて効果を得る(叶えてもらう)際の契約上の対価のことだが、『|魔女の債権《Noblessed Obligation》』という言葉は多くの場合、期間契約の効果を得る場合の対価をさす。もっというと、その対価は「術者以外の大量の命」「術者以外の大量の教義的堕落」「社会的な大腐敗」といったものが典型となるが、ほとんど支払うことが出来ずに「術者の命と死後永劫の責苦」で示談される。その取り立ては苛烈で逃れることが出来ないのだが、稀に逃れるやつがいる。幻想郷でも死神を追い返して死を遠ざけることは一応可能ではあるのと同じだ(こちらも殆どの場合死神に抗うことなどできず、けっきょく生を強奪される)。

「またそんなことやってるのかよ。これで何回目だ、信じられんぜ。知識利用だけでも十分桁外れだってのによ」
「あの人は魔術が自己目的化してますから。なにかができれば十分、なんてゴールはないのでしょう」

 『|魔女の債権《Noblessed Obligation》』を踏み倒す唯一の方法は、債権回収者を殺してしまうことだが、それとて生半可な存在ではない。何度も踏み倒しているなど、信じ難いことだ。

 メイドのほうも全く油断ならない、もともとは同じ人間だったのに、今彼女がまとっている威圧感は上二位級魔族を思わせる。レミィが直々に|落とし子《SPAWN》にしたのなら、それは|食べ滓《グール》や|劣製《レッサー》なんかとは桁が違う。加えて、時空操作の特異体質は脅威度を跳ね上げていた。
 レミィの前にこれとやりあうなんてことにならなくてよかったと素直に思いながら、そのあとをついていく。
 光を反射するほど光沢を保って磨かれた床材は、エントランス付近の大理石から木材に変わっている。西洋の趣の強い館だが、幻想郷に来たからか木の温かみを活かし和のテイストを醸した調度がうかがえる。経年変質で赤みを帯び、一直線のリボン杢が輝いているのを見ると、この床がマホガニー材であるのがわかった。神経質なほど等間隔に並ぶ杢目は、もともと高価なマホガニーを、さらに等質になるよう選り好みした証拠だ。そんなものを床材に使うなど、贅の域を超えている。
 辺境伯として強権を認めている以外に、異質な文化は外貨や舶来品の獲得に強みがあるらしい。紅魔の富は桁外れだし、それを許してもいる。私は、それくらいレミィを、買っている。私以外の博霊も、これからもそうあるだろう。

「れみ……|紅魔卿《KARMAZYN》はなにを企んでいるの。この霧が無害なことはわかっているけど、あまりコトを大きくされると話が変わってくるわ」
「存じ上げません。私どもにもなにも、お話がありませんでしたから。そっちの魔女のほうが、事情に通じているかと?」

 十六夜のことばが魔理沙をさすと、彼女はさも当然というようにそれを受け取った。

「まあな。でも私の口から言っても仕方がない。どうせすぐにレミリアとご対面だろ、だったらレミリアの口からでいいじゃないか。どうせ私が言ったって、霊夢はきいてくれんからな」
「私のせいだっての?」
「だから最初からそう言ってるだろー」

 魔理沙のことばを受け入れないつもりはないのだけれど、結果的にそうなってしまっているかもしれない。誤解だと弁解したい気分もあったが、もしかするとこうした言い訳がましさを指して私を叱責しているのかもしれない。クソガキだったころの私なら、今みたいな魔理沙は丸め込んで責任を転嫁するか、レミィを全力で悪者に仕立てるか、どちらかしたかもしれない。そんなろくでもないころの方が良かったなんて思うほど、今の私はうらぶれている。この年でも輝き続ける魔女と、もともと人間だが人間の時間を捨てたメイドを前にして、もともと尺度の違う吸血鬼に会いに行く。眼の前にいるあらゆるものが、妬ましくさえあった。

「お嬢様の意図は私にもわかりかねますが」

 つかつかと先行する家政婦が、後ろを振り返りもせずにことばを放り投げてきた。

「なんとなく、わかった気がします。|人間の魔女《霧雨》が何を言いたいのかも。今のあなたを見ていると、なんだか」

 ちらりと、振り返るほどでもないが顔をかたむけ視線のはしだけを差し込むみたいに私をみる十六夜。だがその視線はすぐにひっこんだ。

「なによ」
「『むかっ腹が立つぜ』」

 魔理沙の口調を真似してそう言ってから、再び瀟洒に歩き始める。

「……それ、魔理沙?」
「えっ、私そんなこと言ったか? 言ったかも」

 なにがわかったのか。なんのいわれがあるのか。いや、わかってはいる。おちぶれた博霊をなにがしか非難したいのだろうが、他人にそこまで言われる筋合いはない。しょせんこれは、私の問題なのだ。紫も含めて、だれも救いの手なんか持たない。救ってほしいとも思ってない、というのは強がりだが。だから、そのことについてはほうっておいていてほしい。憐れまれるほど憐れなことなんて、ない。

「そんなこと言われる筋合い」
「お嬢様。博霊神祇伯をお連れしました」

 ない、と言おうとしたところで、割り込まれた。いよいよらしい。
 私達を迎えた扉は人の背丈の二倍ほどもある仰々しいローズウッドの一枚板だ。この扉のために何年ものの木を、殺したのだろうか。気違いクラスの贅沢品は、豪華さを通り越していやらしさ、さらにすぎれば素材への後ろめたさにまで誘う。だが、紅魔というのはそういう社会だった。悪徳に一定の美を見出す、その異質さが、強さの秘密でもある。
 その、はき違えてなお強い強さと、茶番とはいえもう一度やり合わなければならないのか。
 命名決闘法に準拠した戦闘では、肉体的な損傷は致命とならない程度に抑制される。死ぬほどの負傷をすることはあるかもしれないが。だが問題は肉体的な負傷ではない。この赤い霧が「そのつもり」であるのなら、弾幕勝負にレミィがベットしてくるのは、博麗への造反に等しいものかもしれない。辺境伯の立場ではたりないと領地を切り取り独立を謳うか、あるいは、博麗を食うと宣戦するか。
 今の私に、勝つだけの力があるだろうか。力、いや、肉体的にも技術的にも進歩こそあれ、おとろえてはいないはずだ。問題は、私の精神面だけだ。
 祓幣をにぎる手に、ひさしぶりの緊張が宿る。札は迷いなく取り出せるだろうか。針はすかさずに放てるだろうか。符は。陰陽玉の扱いに抜かりは。
 失敗など忘れる程に繰り返してきた所作ひとつひとつに、急に自信がなくなる。今の私に。今の私には。今の私でも。
 これはただの茶番だ。紅霧異変の|回想《リプレイ》、ただ昔を懐かしんで悦に入る、なんの生産性もなく、後ろ向きで、つまらない再体験。私をそれに引きずり込んで、なんのつもりなのだろうか。もう一度それをやってみろと|調停権《コントローラ》をよこされて、うまくできない私をどうにかするつもりなのだろう。

 ……魔理沙も、そう思ってるの?

「おい」

 いきなり魔理沙に、背中から蹴り飛ばされた。全く気取れなかった。きっと本人も不意打ちのつもりがあったのだろう、さほど強い蹴りではなかったが、バランスを崩してよろめくのには十分だった。

「いった、なにすんのよ」
「だから、らしくないってゆってるんだよ。流石にイラついてきたぜ」
「うっさいわね、あんたに」

 なにがわかるのよ、と言おうとしたが、出てこなかった。私はなにか言い返せるだろうか。ことばを探すが、あいにくなにも見つからない。魔理沙から目をそむけて、目の前の仰々しい扉の方を見ると、その奥から声が聞こえた。

「入れ」
「……では、私はこれで」

 十六夜が扉の奥へと促してくる。なにを賭博するかはともかくとして、たかが弾幕ごっこで死ぬだの生きるだの、そんな時代は終わった。儀式か茶番とかした弾幕ごっこ、でも陳腐化したとは言えそれなりの意味はある。まつりとは、形骸化して枯れることこそが進歩なのだという見方もある。だとすると、それは、そのとおりなのかもしれない。
 幻想郷で行われる弾幕ごっこの多くはこんにちただの儀式となった。それは紅霧異変を境にした変化だ。凄惨な命のやり取りは、互いの主張を通すか引っ込めるかの交渉において、過剰なものだと認識されたからだ。これは命名決闘法のそもそもの理念ではあったが、実際に効力を持ち始めたのは最近になってからだ。
 紅霧異変は、命名決闘法が抗争の解決手段に用いられなかった最後の事例だった。宣言はされていたが、紅魔がプロセス下で放棄し発効していなかった。

(もうそんな時代じゃないわ。だからこそ後進はぎらぎらした輝きを持ったままでも生きていけるし、そしてそうでない私は老いたということなのだから)

 私は扉を押す。たしかに重厚そうな扉ではあったが、それ以上に重く感じられ意識に背いてスムーズに開かない。やっとのことで観音開きの扉を開いた向こうには、おおよそ室内とは思えない空間が広がっていた。

「なんなのぜ、ここってばよ」
「……日本語喋りなさいよ。変わんないわよねあんた」

 背景が存在しない空間の気味の悪さと言ったらない。一点の曇りもない不気味な青色が、全天に塗り込められている。いや、壁も天井も存在していないのだ。ただ何らかの理由で屈折した光がそれを青色に見せている。空色とも違う、のっぺりと不自然な真っ青。それとともに遥か彼方に見えるのは、この青色の無限から、天ではないという除外概念によってのみ切り取られている真っ白な地面、有色の白ではなく無色の白だ。そしてそれら二者の接しあう境界線。なにも存在しない地となににも切り取られない天だけがある、いや、無い、奇妙な空間、『海』だった。
 ふと振り返ると、入ってきた扉は「扉だけが」そこに立っていた。扉の裏側には扉の裏側があるだけ。
 その天と地の境界線をただの一点だけが、乱している。そのイレギュラーこそ、私を迎えたものだ。

「来たか」

 無限に広がる部屋の中にぽつんと立つその姿は、ひどく小さい。だが、堂々とした佇まいには、この永遠の空間を支配しているのは私だと体中で表現するような、王たる威厳があった。
 このただっぴろい空間、やるためだけの世界って感じ。わざわざ用意させたのだろう、慇懃な高慢を裏打ちできる力を得たメイドか、債権を踏み倒し切れる才のある魔女か。

「これは|紅魔卿《KARMAZYN》。うちの魔理沙がお騒がせを」
「まてまてまて、騒がせたのは私じゃないだろ。霊夢、あれ、騒ぎを起こしてるのはレミリアか」
「そもそもあんたが仕組んだことでしょうに」
「だって、霊夢、おまえがな」
「もうどっちでもいいわよ。魔理沙から聞いたわ。魔理沙がレミィに何を吹き込んだのかはわからないけれど、紅霧異変の再現なんて下らないことはやめなさいな。こんなやつに付き合う筋合いないわよ」
「こんなやつなんて、流石に自分を卑下しすぎだぞ霊夢。そういうのが」
「あんたのことなんだけど」
「はっ? こんなやつ呼ばわりはひでーよ」
「だってあんたがこの紅霧異変ごっこの黒幕なんでしょ」
「そうだけどそうじゃないぜ、だいたい」

「静粛に。」

 私と魔理沙がごちゃごちゃとやっていると、レミィはすっと一歩踏み出しまるで私を見下すような冷たい目を向けて、言った。

「静粛にしてくれたまえ。」
「なんだ、レミリア。やけに改まってるじゃないか」
「野次は受け付けない。いや、体は揺らいで頂いて結構である。」

 弾幕回避に備えたフットワークは維持していても構わないと、そういうことだろうか。そういうことなら、つまり、もう始めるということか?
 レミィは視線を私の方に打ち付けながら、数歩をゆっくりと歩き、仰々しい弁舌を垂れる。王笏を放り投げるとそれはコウモリになって何処かへ飛び去り、マントを外して大げさに外して払うとそれは紅い霧になって霧散した。
 マントの下のレミィの恰好は、全体を見れば丈の短いスカートにノースリーブのドレス、長手袋にティアラの改まった服装だが、要所要所には金属製のガードが仕込まれている。腰から伸びるスカートの輪郭をかたどるように|魔鍛白銀《ミスリル》の部分鎧、大綬のかかる肩にも楯が潜ませてある。コルセットと胸当てにも、板金と鎖が入れ込まれている。真っ赤のドレスに、|魔鍛白銀《ミスリル》の部分鎧が散りばめられた出で立ちは、出征儀式の際の女性貴族のそれだ。これが、ただの弾幕ごっこではないことを物語っている。なぜ? これはただの茶番劇ではないの?

「現在、我が幻想郷は仮初の平和にうつつを抜かし、ついには精神的に空っぽに陥っている。」
「あー、そういう前フリ? 好きね、そういう演技がかったやつ。昔からレミィは、まあ一応紅魔の君主……」

 どすん。

 何か音が聞こえる、すぐ右後方だ。何事かと視線を送ると、真っ白な地面に真っ赤な槍が突き立っている。レミィがなにかを投げるのはわかっていたが、命中コースではないので下手に動くべきではないとそのまま立っていた。投げられたのは、『吸血鬼のディナーフォーク』だった。

「ただ技術と屁理屈ばかりに偏った、血も、涙も、儀も、誠も忘れた平穏に蝕まれている。」

 弁舌を続けながら両腕を左右に広げると、背後の空中に赤い魔法円が3つ描かれた ディレイ後展開される特殊弾幕サーヴァントフライヤーを従えて、悠然と歩いてくるレミィ。幼いままの見た目に反して、その歩みには畏怖を誘うなにかがある。

「いきなりご挨拶ね。ところで『宣言』がないのだけど、どういうことかしら」

 レミィは初弾の時点で命名決闘法宣言を、していない。宣言がなければそれは弾幕ごっこではなく、放たれる弾幕や打撃はすべて通常の戦闘行為であり、肉体の損傷その他を軽減しない。つまり、そういうことだ。

「博麗。少女たちを|安寧《絶望》の淵へ誘い、飼い殺しにすることのその真実の意味を、おまえは知っているのか」

 私がそれをしていると? 冗談もたいがいにしてほしい。それは、私がおちいっている淵だ。その意味なんて、痛いほど知っている。この、体が内側から腐っていくような嫌悪感、しかも逃れることが出来ないという焦燥。やるせのない、ありとあらゆるものに対する敗北感。まるで溺死だ。
 サーヴァントフライヤーたちをグレイズ回避して、レミリアの出方を見る。打撃が重ねられていれば上半身無敵で迎撃を試みる必要があったが、それはなかった。赤いコウモリの群れだけが、グレイズした私の脇をすり抜けて、消えていく。

「わかってるつもりよ」

 わかっていないはずがあろうか。それがわかっていないなら、私はきっと未だに少女のままでいられただろう。わかってしまったからこそ、わたしの中身はからからの砂のように乾いてしまったのだ。でも、それは私が|幻想郷《少女》という世界からいよいよ切り捨てられようとしていると言うだけのことであって、私以外のあらゆる|少女たち《ネイティブ》が飼い殺されていることとは関わりがない。
 |幻想郷《少女》という信仰は、共有されてはいないが暗黙のうちに少女間で了解されたものだ。|少女という生き物の本能的な妄執《ネイティブ・フェイス》とは、症状やドグマを全く一箇所に集約しない。他人の例は自分に一つも解決のヒントをくれないし、自分の例も他人にとっては全く関わりのないことだ。私の問題は究極的に私の問題であって、他人の問題は他人問題なのだ。
 この対自的断絶が、|少女という生き物の本能的な妄執《ネイティブ・フェイス》の唯一の特徴的な共通点かもしれない。
 でも、そうした断裂への積極的な信仰を失いつつある今、私の少女はすでに死んでいるのだろう。この死にざらしの体を大人や成長とうそぶいて他人に伝染させること、それはレミィの言う|安寧《絶望》なのかもしれない。
 私はこれを他人に移植するようなつもりはなかった。おとなしくこれを抱えたまま、深い概念の海の底に沈んで、かつてまっすぐに何かひどく馬鹿らしいものを絶対だと信じていたあの頃を懐かしみながら、そのまま朽ちるべきだと、思っている。

「それをわかっているのなら、おまえはそれを正さねばならん。博麗はこの幻想郷の守護者として皆が認めたものであると同時に、その象徴としてふさわしい存在であることを規定されているはずだ。」
「私は、べつに少女たちを飼い殺しになんかしていないわ。むしろ彼女たちの心身ともなる健全な成長と、彼女たちの持つ良きにつけわるきにつけ独善的な精神性に対する守護者として、博麗は」

 レミィは空中に手を伸ばす。赤い霧が凝集して棒状の形になり、それはやりとなって彼女の手の中におさまった。それを持ち、石突で真っ白い床を一つ、かつんと叩いて私の言葉を遮り、言う。

「そうその博麗は! まずなによりも|幻想郷の体現《少女》でなければならない。そうであろう?」
「……そうね」

 ひとつ、ちいさくため息を置いてから、レミィは顔を傾けて怪訝そうな目を私に向ける。

「それにしても、しばらく見ない間に急に大きくなったな。背は伸びたし、でるところもでて、ふん、いやらしい体になりおって。一端の女じゃないか」
「レミィに親戚のお姉さんみたいなセリフを言われるなんて夢にも思わなかったわ。永遠に幼いなんて渾名されているのに」
「その体がそんなに退屈なら、別の体を与えてやってもいいぞ。かわりに、博麗はすべて紅魔が食ってやるがな」

 そう言ってレミィは小さく口を開ける。玉の唇が菱に割れ、あいだから覗くのは艶めかしい舌と、刃物のような犬歯。

「やめろよ、今の体も結構気に入ってんだよ」
「あ? なんであんたが答えてんのよ」
「いや、つい」

 魔理沙はほっとこう。多分、魔理沙としては私のヘタレ具合をレミィに伝えた上でこうして紅霧異変の再現がなされた時点でもう仕事が終わったと思っているだろうし、レミィにしてもここに私を連れてきただけで仕事は終わりだと思っているのだろう。

「その体のなにが不満なのかわからんがな。肉体的にも、それを器にする精神力の面でも、15年前に比べて、今のおまえはまさに|盛り《ピーク》だろう。」
「……なかみは腐り始めてんのよ。もういいでしょ、その話は。紅霧の真似事なんて、レミィに娘でもできたのかと思ってお祝いに来てみれば、なんてことはない、またおんなじことをしようっての?」

 そういうことだ、と付け足して、レミィは再び小さく咳払いしてから改まった言葉を続ける。

「この度、博霊神祇伯にご足労頂いたのは他でもない。当代巫女の『少女性』の信任を問うためだ。あれからまだ15年しか経っていないというのに、今の博麗は私がここに根を下ろしたときのそれと、どうもずいぶんと、違ってしまったように見受けられる。もしも信任がなければ、紅魔としてそれなりの行動を伴うだろう。」

 15年しか、と言った。そのとおりだろう。吸血鬼にとっては。でも、人間にとってはそれなりの期間だ。なんて言ったところで仕方がないのだ。この幻想郷では、運営側に近づけば近づくほど、人間はマイノリティなのだから。人間は常に引き際との戦いを強いられる。

「紅魔は博霊との盟約と同等に、我々の裡にある赤い衝動に従う。以上だ、ご静聴感謝する。」
「それは、他の選巫侯伯の総意? それとも、ゆか……八雲の」
「いいや、これは私の独断だ。私はまだ|幻想郷《ここ》に来て日が浅いからな。他の奴らとそんなに折り合いが良いわけではない。くだらん情報を持ってきた魔法使いもいたが、そんなもの、耳に入れる前からとうに知れていたことだ。」
「そりゃそうだろうが言い方がひどくねえか」

 魔理沙の立場は危ういものだ。博霊が紅魔を反逆に問えば、紅魔は魔理沙のくわだてに載せられたと言える。それで紅魔の叛意が問われずに済むかどうかは別だが、魔理沙はレミィの一言で裁判の壇上に載せられ、博霊の一言で断頭台の上に載せられる。

「あんた、下手すると反乱の片棒担ぎか、全責任おっかぶせられる立場よ」
「……わぁってるよ。でも、いいんだ。いったろ、自分の首絞めてるかもしれんことくらい、承知の上だぜ」

 それほどの動機づけは、一体何によってなのだろう。魔理沙の場合は単純に反逆罪に問われる自覚がないかも知れないが。

「安心しろ、出奔した綾椿の娘になど被せられるものは、犬の小便くらいだ。」
「だからもうちょっとなんか言いようあるだろー」
「とにかく、私が勝手にやった。他のやつらは一つも噛んでいない。だが、大して違う意見も持ってなかろう」

 わかってる。紫もその通り考えてるはずだもの。

「少女性をみせろ、って、どうしろというの。それとも身分証でも見せればいいかしら。あいにく、私は自分の誕生日すら知らないのだけど。さっきあんたも言った通り、第一印象では、もう不合格でしょうね。ペーパーテストでもする?」
「かんたんなことだ。さっき、その挨拶はしたつもりだがね」

 |少女性の確認《信任審問》なんて言って、やっぱり、首を取るつもりなんじゃないか。

「退屈なのだよ、他でもない|博麗《おまえ》が、赤一色ではない多色モザイクな世界を足掻いてみせろと言うからそれに乗ってやったと言うのに、この15年、退屈は人を殺すということばが真であったことを思い知った。」
「だからって退屈しのぎでこんなこと、まああんたならやりかねないか」

 違う。なにか違和感がある。
 レミィの言う「赤い衝動」とは、過去から現在による束縛を受けない未来への渇望だと、理解している。それは確かに彼女を強い存在にするものだ、人一倍それを取り上げて動機にする理由がないわけではない。でも、何か変だ。

「これはただの茶番なのでしょう? この赤い霧だって無毒で、あんたの言うような野望は欠片も感じられないわ。皆が私を罷免しようというのなら、それはもう仕方がないわ、自覚がないわけじゃない」
「自覚だと? これが博麗とは、聞いて呆れる。八雲も焼きが回ったというところか、こんな使えない人間の娘を守護者に選任するなど、嘆かわしい。寝てばかりでろくに状況もわかっていないのだろう」
「私を責めるのはかまわないけど、紫を悪く言うのはやめて」

 紫は、わがままな私に振り回されているだけだ。本心はさっさと次の巫女を望んでいる。レミィの誹謗が紫に向くのは、心苦しい。

「ふん。そういう情にほだされるからろくなことにならんのだ。私はまだ呼ばれたことはないが、こんな巫女を選出するなど、選巫侯伯とやらも大した仕事ではないのだろうな。風見も、風祝も天魔も、楽な仕事をしている。選ばれてしまったおまえには災難なことだな。」
「ねえ、ほかのやつを悪く言うのはやめて。これは私の問題でしょう」
「どうだかな。代表を選挙する方法に妥協し『自己』さえ他人に委ねる奴らなど、大同小異だ。この赤い霧はおまえをここに呼び出すためのただの狼煙だ、害など確かにない。だが、それは私におまえを害する意図がないこととはつながらないぞ」

 レミィは槍の先端と、それと同じくらいに鋭い目つきを私に向ける。その視線には老いに片足を突っ込んだ私への蔑みとはすこし、違う色が混じっているように思えた。挑発? 非難? 憐憫? 失望?

「15年前、私の思想に揺らいで未来を見つめながら、しかし立ち上がれなくなった私を見て心の底で悦に入っていたのを、私が見ていなかったと思っているのか? おまえはなぜ私を潰し、赤い世界を否定した。言ってみろ。なぜお前はあのとき、私と敵対したのか。なにを思って私と私の世界を潰して屈服させたのかを」
「あのまま赤い霧がはびこれば、人間にも、他の妖怪たちにも被害が出た。何より、あんな覇道を認める訳にはいかなかった。秩序の維持の面で、当然のことだわ」

 あの時の霧は毒性を持っていた。日光を遮り、幻想郷に被害を与えかねなかった。あんな広範な異変は、あの時点では初めてだったし、真の意味で幻想郷を侵そうとした異変はあれが最後だった。
 なぜ? なにを答えさせようとしているのかわからない。だって私はハクレイノミコだ。そうした現象から幻想郷を守るのが勤めだったのだ。『なぜ』など意味を持たない。
 だがそんな私の返答にレミィは、やはり不服そうな顔で牙を剥いて言う。

「そんな、有り体な答えは聞いていない。そんなもの、博霊の回答であって、|霊夢《おまえ》の答えではないだろう。くだらん、15年でおまえはそれほどまでに落ちぶれたのか。まったく、ああまったくくだらんな。見損なったぞ霊夢。ならば、そんな博麗にはもう、私のこれを止められやしまい。所詮、人間と妖怪の間で八方美人を決め込んで、なまぬるい裁定でお茶を濁すだけの、いてもいなくても変わらんようななまぐさ巫女か。おまえのようなやつが博麗をやるから、人間も妖怪も等しくロクでもない目にあうのだ。おまえはバランス良く裁いているつもりかもしれんが、大間違いだ。腑抜けが。おまえのまわりにいておまえを持ち上げるやつらもおめでたいことだ、こんな巫女に委ねるなど、たいした器ではないのだろう」

 槍を構えたまま、私に今度はあからさまな失望の表情を向けるレミィ。ああ、憎たらしい顔をしている……!私の気も知らないで、人間の命を経験したこともないやつが、知り得る立場にもないくせに、わかってなどたまるものか。

「私は、あの頃に比べてなかみはおとろえはしたけれど、やることはきっちりやってるつもりよ。妖怪の主張だって通しているし、人間は私が妖怪を抑えなければ食われる一方なのよ。お互い譲れるところがどこまでなのか、ちゃんときいて、妥協点で結んでる。それのどこが行けないっていうのよ。あんたみたいな|外妖怪《イリーガル》が、馬鹿みたいになにも考えずに暴れるから、私が苦労するんじゃない。自分のことを棚に上げて、なんでそんなことまで言われなきゃならないのよ!」
「ほかの奴らをかばうポーズで気持ちの良さそうなことだな。おまえの周囲にいる人間が、おまえを腐らせたのだ。ああ、ああ、そうだそうだとも。おまえのせいじゃない、悪いのは周囲でおまえをもてはやすバカどもだ。」

「だから、私以外のやつを、とやかくいうな! レミィ、今あんたの眼の前にいるのは、誰だ!? 目と耳と口があってその幼い脳みそで考えられるなら、眼の前にいるやつを理解して、そいつに向かってことばを吐け! 吸血鬼ってのの顔にひっついてるやつとあいてる穴は、ただの飾りなの!?」
「空虚な思考と言葉、ならばおまえの頭の中と口もただの木のウロとかわらんな。大儀だの義理だの立場だの職務だの関係性だのに手足が生えた、おまえはそんなやつだったのか。語るに値せん、な!」

 言い終えるやいなや、自分の左手人差し指の付け根あたりを噛みちぎる。その血はまるでもともとその形で合ったように8本の|ちいさな三叉戟《フォーク》が形成される。レミィがなぐように手を振ると、それはホーミング弾に化けて飛来した。更に重ねてグングニールの投擲。

「やるのね」
「もとよりそのつもりだと言っている」

 赤いフォークの大きさはさほどではない、物理的殺傷力も大したことはないだろうが、あれを見たことはある。あのフォークは独立した吸血能を持っている。突き刺されば膨らんで血を吸い続け、触れるだけでも解呪なしには癒えないおびただしい出血を被る呪いの傷を得る。
 飛来するフォークを祓幣で弾き飛ばす。右手からひとつ、ふたつ、左からみっつ、後ろに飛び退いて上は地面によっつ、照準を合わせるひだりて上空を退魔針で貫いていつつ、むっつ、巡航軌道を垂直に持ち直した祓幣の底で潰してななつ、やっつ、真正面からのグングニールをグレイズし、そのまま目の前のレミィへ突進する。後ろに投げ捨てるようにアミュレットを放り、包囲するような軌道で加速するそれと自分のタイミングを重ねて幣を打つ。

「ッハ!」

 目の前から敵が突進してくるというのに、両腕を広げるポーズでサーヴァントフライヤーを呼び出すレミィ。赤いコウモリにアミュレットを食わせるつもりなのだろうが、それでは祓幣の打撃への防御行動が間に合わない。
 予測通りコウモリは標的を私ではなくアミュレットの方に向けている。虫めいてアミュレットに群がり食い破っていくコウモリの群れ。だがそれを呼び出す大仰なモーションのせいで、幣の打撃への対応が取れない。サーヴァントフライヤーを呼び出した腕の振りが収まりかけるそこに、祓の祝福を付与した幣の横薙ぎを加える。コースは狂いなく、首。防御行動が間に合わず哀れ一撃で首を刎ねられ、となると思われたが。

「そうね、あんたってそういうやつだった」
「成長が見えないぞ」

 レミィは幣の打撃を、防御や回避ではなく、防御措置もできていない素手でそのまま受けていた。祓の祝福が付与された幣は、吸血鬼であれば触れるだけでも肉が|浄化され《溶け》、骨は|塵に還る《砕ける》。例に漏れず吸血鬼の手は位置こそ幣を受けているが、肉は爛れ落ち、剥き出しになった骨が灰に変わりかけている。残った組織で阻んでいるだけの、防御とも言えない防御。だが、動きが最低限で済む分、残った方の手は。
 水面下から突然突き出す和邇の顎のように、低い位置から繰り出される血濡れた爪。防御を顧みずに「懐に入られた」のを「懐に入った」へ変換する反撃。幣での防御は間に合わない。

「くっ、|疾《チ》っ!」

 爪が私の左脇腹を胸の方向へ登るように貫く。長く伸びた赤い爪は肋から肺、心臓に至り、内部へ破壊的な小型の呪を瞬時にばらまく。爪が抜き去られたあと、爪跡の内部損傷を拡大する呪が起動して内部を貫通方向以外の無作為な方向へ引き裂く。爪の抜け去った貫入瘡からは、大量の血……の代わりに、符の端が顔を出した。瞬間、私の体に無数の切れ目が入り、それらすべてがバラバラと攻撃用の符に分離して全方位から敵を狙い撃つ。本物の私はすこし後ろへ亜空穴転移している。

「こざかしい!」

 霊撃で全ての符を吹き飛ばし、意識の下に潜り込むような低くて速い突進。視覚から消えるのは速度だけの問題ではない、私から見れば腰より更に低いところまで潜り込んだ高さもある。気配は全く腰から下にしかないが、ここで下方に意識を奪われれば命取りになる。
 消えた幼血鬼の姿、真正面からくるか?

(いや、一旦通り抜けて、背後)

 気配は突如背後に現れる。物理的に自分自身をすり抜けたような錯覚。普通ならば突然現れた背後からの攻撃を警戒するだろうけれど、あれはそういうやつではない。背後に注意を払いつつも、突進してきた元の方向に向けて、打撃を置く。

「どうせ、前でしょッ!? 天覇封神きゃ……斬!」

 サマーソルトを考えたが、空中戦ではレミィに利がある。防がれたときの事を考え代わりに、円月を象った打撃を蹴りではなく、両手持ちした祓幣で、跳躍の勢いを載せ同様な円月を描く剣閃を振る。
 一旦後ろに回ったレミィだったが、更に消えなおして正面からしかけてくるだろうというハイリスクな裏の裏は、だが彼女をよく知り分析すれば当然だった。案の定最初の突進がそのまま継続したベクトルで真正面から小跳躍、すこし高い位置からの下り爪斬。すでに置いてあった祓幣の連続円月斬は、跳躍した吸血鬼へ吸い込まれるように入った。
 がきんっ、と派手な音と、それにふさわしい固い感触が手に伝わってくる。相殺だ。続けて音もなく、しかし柔らかく嫌な感触が伝わってきた。
 一発目で爪撃を弾き、二発で胸から左肩までを昇るように切り裂く、三発目は浅く入って右腕に裂傷を与え、そして四発目は二発目と同じ太刀筋を重ねて左腕を袈裟に殺す。返り血は、全てが空中に一拍してから刃に変わり私を襲ってくる。彼女特有のやりづらい撃ち返しだ。
 ヒット確認で月影の太刀を振り抜き、相殺しきれない撃ち返しを大きく回避してから体勢を整え直した。撃ち返し対応で、追い打ちはかなわない。
 私が十分な間合いから見ると、レミィは仰向けに倒れて……笑っていた。左肩から胸にかけて大量に出血し、中身が見えているにも拘らず。

「く、ハハっ! 手の内が知れている相手は、イヤなもの、だなあっ!!」

 全身を全く動かさないまま重力に逆らい地面を滑るように移動して距離を取り、まるで見えない手が横たわったマネキンをそのまま立てるような不気味な動きで、吸血鬼は立ち上がった。滑るように移動した軌跡には、こすれるような血痕が残っている。右腕で不自然な方向へ開いていく左肩を押さえると、粘土細工のように雑に癒着した。出血はおさまっていない。口につながる器官が損傷したらしい、口からも血が流れている。が、表情そのものには全く苦痛が窺えない。

「その傷で笑ってられるあんたの『手の内を知っている』とは言いたくないけどね。バスター!」

 高速で飛翔する妖怪バスターを放ち、亜空穴を抜けてその速度に追いつくように祓幣の打撃を重ねる。血だらけで片腕の自由のきかないレミィだが、吸血鬼がその程度の傷で戦力ダウンを招く程度の妖怪とは思っていない。案の定、瞬間移動にも等しい速度のスウェイバックで距離を取り、グレイズ付きの翼刃で幣を相殺する前進指向の防御で対応してきた。レミィのこういうリスクを顧みず攻転をもぎ取ろうとする立ち回りが、私は苦手だ。でも、対応できない程じゃ、ない。
 幣は当て不利にならない距離を確保してある。デモンクレイドルに弾かれた幣の勢いを体に流し込んで、昇天脚に転嫁する。幣の打撃もそうだが、昔よりも体が大きくなった分、リーチが深い。15年前の感覚のままのレミィは今度もそれに対応できずに、クレイドルの終了硬直に差し込みを許す。
 サマーソルトのトゥが吸血鬼の顎に入る。打ち上げられる体。だがまだ空中にあるうちに、その手が何かに指示を出した。

「っ」

 さっきまでさんざ撒き散らされ、真っ白だった地面、それにまだ空中にちったままの血溜まりの一つ一つから、無数の赤い錘体が突き出して私の体を狙う全方位からの高密度攻撃だが、そういうのには慣れている。私は小さく兎歩を踏み、垂直方向の軸を傾けぬまま僅かに横に移動した。当たり判定が小さいとの所以は、この最小限の移動で最大の回避を生む天性にあるのらしい。全方位から突き伸びた赤い錐槍は紛れもなく一点を突き刺しているが、その一点はもはや私のいる場所ではない。私はその隙間に潜るように、しかし自然に立っている。
 突きの動作を終えた錐体は再びただの血に戻って地面に零れた。

「ちゃんと、ねらいなさいな。当たる気がしないわよ」

 ばしゃ、と血錘が水たまりに戻るのと同じタイミングで、レミィの体も地に落ちた。新しく、今度は円形に血溜まりが広がっていく。普通の血溜まりではないことは、その展開速度が物語っている。まるで映像の早送りのように、赤い円形は瞬く間に広がっていく。それが通常の血液で、倒れているのが普通の人間なら確実に失血死しているが、吸血鬼がその程度の存在ではないのは承知している。それでも、攻撃の一つも通らず、あまつさえすべてをカウンターで返しているのだ、ダメージが無いはずはない。

「……雑魚が。口ほどにもないのはどっちかしら? 前のときのほうがよほど骨があったわ。教えてあげる、博霊が人間を使い捨てるシステムなのは、これがあるからよ。人間はね、15年程度のまばたきするような時間でこんなにも変わるのよ。|変わってしまう《・・・・・・・》のよ!」

 私が声をあらげると、レミィは傷だらけの体を引きずるようにして私の前に、再び立ちあがる。見た目は痛々しいのだが、レミィの表情からは全く苦痛を感じられない。おそらくは、本当にいたくないのだろう。化け物の体というのはどういう仕組みになっているのか、人間の私にはとうてい理解の及ぶものではない。
 大量に出血し止まるようすのないレミィ。修復中の腕を気に留める様子もなく、自由の利く方の腕で、今度は血溜まりの中から引きずり出すように形成した赤い槍を構えた。

「――あんたが何度立ちあがっても、私がこんなに年をくっても、残念ね、あんたの野望は実らない。あんたは今でもなにも変わってない、長命な吸血鬼、あんたはこの15年なんかで成長なんか全然してない! 所詮は」
「そのとおりだよ霊夢。われら吸血鬼にとって、15年など寝て起きた一晩にもひとしい。そんな須臾の内に私がなにか変わったりするものか」
「だったら。あんたのこの乱は、見込み違いね。私が年老いておとろえたと見込んでのことだったかもしれないけど。でも、いつかとおなじようにできないのは、もうあんたには『|二度目はない《コンティニューできない》』ということよ。首を刎ねて心臓に杭をうち、灰になるまで聖歌をやめない。いつかとおなじように、いや、それ以上にまっさらに、あんたの異変はきっちり終わらせてもらうわ」

 まるで憎いものを見るかのような目で、博麗アミュレットをかまえた私を見るレミィ。

「それもおまえの言うとおりだ。私はまだ、なにひとつ変わっちゃいない、おまえに世界のなんたるかを否定されてその不満足をすべて飲みこんだあの日から、私はなにも変わっちゃいないんだ。あたりまえだ、10年程度、20年程度、30年でも50年でも、私にとってはおなじことだ。そして、それを止めようとしているお前はどうだ。今だって、私をこうして阻止してみせて、次は確実に私を灰に還すというおまえは」
「変わったわ。もう」

「変わっただと? どこが変わったというのだ。15年前と何一つ変わっていないではないか、図体ばかりでかくなりおって。おまえの肉体とそれに相応の器は15年前よりよほどに勢いづいているというのに、やはりおまえはバカなのか」
「それって負け惜しみ?」
「|霊夢《おまえ》は、担がれているだけだ。今おまえが自分自身の力で『空を飛んでいる』だなどと、ゆめゆめ思わないことだな。担いでいる奴らもバカだが、担がれているお前は――」

 まだ、周囲の奴らを引き合いに出すか。いい加減、なんとかの緒が耐えかねる。
 そんなことは承知の上なのだ、私なんて、なにか特別な力を持っているわけではない、ただ空を飛べるというだけで、あとは有象無象の人間と代わりはしない。博霊となって授かった力に頼っているだけなのだ。私の周囲にいる奴らが、霊夢という人間に惹かれたのか、博霊という名に惹かれたのか、後者であることは明らかだ。
 それも、昔は前者だと思っていたのだ。私自身に特別な力があって、私はなるべくしてハクレイとなりハクレイとは私が全てを使役できる力の証書なのだと思いこんでいた。私の周りに集まるいろんな妖怪たちは、すべて私自身の魅力によって集まっているのだと。幼稚な万能感、若さの特権だった。
 でも、この年になればそんなものは幻想だったのだと否応なく思い知るのだ。過去の自分は愚かだがキラキラしていて、未来は無力で干からびている。成長とはニアイコールで加齢であり、加齢とはニアイコールで思考の陳腐化だ、人格の劣化だ、さかしさなどただの硬直でしかない。
 私はこの身にまとわりつく|幻想《勘違い》を自覚し、自らを陳腐な人物像に諦めなければならない。そういう、もうそういう、年なのだ。

「わかってるわよ、そんなことくらい。みんな私ではなくてただハクレイを見て、つかの間の気まぐれだけで付き合ってくれてるってことくらい。でも私は、あんたたちとは歩く速度が違うのよ。あんたたちと違って、私は人間なの。人間なのよ!! あんたたちみたいに強くもないし、時間も長くない、足元はおぼつかないし軸だってブレブレ。そんなものいちいち整えて生きてる時間なんて、人間にはないのよ!」
「その通りだろう。だからだ。今の|霊夢《おまえ》に、私は殺しきれない。」

 これが人間なら確実に死人が立っているだけにしか見えないその立ち姿で、勝ち誇ったようなことばを吐くレミィ。
 血液それ自体が脈打ち泡立つように動き、それぞれが腕を伸ばして互いを探す。隣合わさる血溜まり同士は結合し、そうしてつながれないものは気体に化けて漂う。体組織同士は粘土状に形を失い、元の形への再形成を待つ。物理的な強さが桁違いで忘れがちだが、吸血鬼とて概念性の根源を持つ妖怪であることに変わりはない。まるで不定形生物のように肉体の再生を続ける幼き紅月。

「殺しきれぬよ」

 わざわざ一つ付け足すようにいい、私を挑発する。たとえ私の中身が劣化しようとも、今目の前にいる吸血鬼一匹をどうにもできないほど落ちぶれたつもりはない。精神性はともかくとして、技術と法力のキャパシティだけでいえば15年前よりも伸びているのだ、幻想を生きる少女権を除いて、単に妖怪を調伏する能力なら今の方が上だ。
 彼女がこの紅の霧を異変としたいと望むのなら、私にはせねばならないことがある。それこそ、私はもう、一緒になってこの状況を楽しんで遊ぶような幼性は持ち合わせていない――いや、喪失してしまった――のだ。

「そう。いいわ、わかった。あんたがそこまで言うのなら、お望みどおりの刑に処してあげる。そんな状態でもまだ物足りないってなら、その|おいた《・・・》を後悔できるように。」
「やってみせろ、博麗霊夢が、博麗の巫女たるその所以の業を。それをしなければ、お前は私が喰らってやるぞ、博麗」

 彼女の肝はいつでも根を下ろしたかのように座っている、揺らいだのを見たことがない。今回も例に漏れない、いくらことばを重ねたってもさして意味は無いように思えた。もとより、レミィは宣言なしにフォークを投げつけてきたのだ、コウモリを仕向け槍を放ち、私を害するつもりで来ている。
 魔理沙がなにを言い、それでレミィが私をどうするつもりになったのか。再現紅霧異変はただの茶番劇ではなかったのか。
 レミィは、私をたおせると思っているのだろうか。みすみす封印されるためにこんな茶番を演じているとは思えない。ならば、なんだというのだ。認めたくない色あいが、心臓の奥にひそんでいるのを、感じる。大事になる前に、その姿をはっきりと見せて欲しい。でも、どこかで底から出てこずにずっと潜んだままでいてほしいと思っている私もいる。

 知りたくない。
 なにを?
 だって、私がもう少女ではないことなんて、自覚している。これ以上なにを思い知らせようというの?
 ……知りたく、ない。

「おまえの『とっとき』で私の槍を破ってみせろ。そうでなければ、今度の乱は私の勝ちだ。紅の霧は幻想郷をおおいつくし、世界は赤一色に染まる。おまえの否定した私が、この世界をいよいよ塗りつぶしてやる。」
「いっとくけど、命名決闘法の適用宣言なしにこれを喰らって、明日からも普通に美女の血を吸えるとおもったら大間違いよ」

「霊符 宣」

 念じながら口術で呪を編む。両腕の袖口から配列化した符が龍のように舞い出、描かれた二本の流れがそれぞれ陰陽玉をくるりと巡ってから外縁と内芒を結んでいく。

「請 $>」

 符の配列に格納された呪を陰陽玉が逐次読み取り、内容をデコードして効果を再現する。同時に、呪を抽出された符には代わりに陰陽玉から純エネルギーとしての法力を再格納され、陣を描き符の効力を維持するための動力とする。

「eTrwee, aR yeCierre wt hriyywum um;
(天つ神の外側へ、畏み祈り奉る)

 uThavii de Thu hoqt, sow P ja 0x0gggggg- iM Yaa ThT xxHo
 eT gzzak PrADSR:0.128.255.64:DmnNm[”GENSOKYO”] boh um Attr bt zoffh, Cldd  bt qwee, Horr bt ckck nemm;
(固有ゆらぎ”幻想郷”において、朝と夜、雲と風、月と星を運ぶ無限の力を宿し汝に我、ここに願う)

 eTrwee, yiell 8 mwe, 6 mwii, 7 liquu, bt i 1 ogg;
(八本の腕、六本の足、七つの瞳にたった一つの口の力を、我に授け給え)

 eTrwee, innocc hol-faff yiell vhad Baqqew, fo duf m eT yiell hol-haff;
(我が柔肌を無辜に清め、我を遮る鉄の壁の硬さを、やわらかい綿と為せ)」

 多くの符は予め効果を書き込んであるものだが、これに限っては、内包される法力が大きい上、発動にプロセスを要するため予約(励起)状態で持ち運ぶことができない。だからこうして、この場で符そのものを編織し、活性化する。
 符を宣言し実行待機状態に入ると、符の流れが描く魔法円に沿って極彩色の光球が複数現れる。

「忌々しい祝詞だ、耳に入ってくるだけで吐き気がする。こんな”魔法”を使うやつが人間だと? 笑止な」

 7つの光源、これはそれぞれが存在の根源である七津星を打ち、有機物無機物有情無情を問わずそのもののはたらきを停止させる、封印の呪。博麗の、基本的な、だが絶対的な奥義だ。
 15年前のときには、これは使わなかった。あのときは途中から戦闘が対話の内だと感じていて、途中から|相手《レミィ》を問答無用に封印するつもりがなくなったからだ。
 だけど、今は、違う。もう、私と彼女の間には、きっと埋めることのできない溝ができた。彼女にとっては一晩に等しい時間なのかもしれないが、私にはきっと、致命的な時間だったのだ。それを、彼女はわかってくれているだろうか。
 私が呼び出した7つの光球をみて、レミィはしかし、笑った。楽しそうな笑顔か? いや、どこか嘲りを含んでいる。こんな私を、まだ、嗤うか。

「___arr___ \cn hmnss >文、編、縛、成 | u"夢想封印" -sd
(博霊の名の下、特権命令によって、えがき、あみあげ、しばりつけよと、じっこうす。”夢想封印”)」

 私を取り巻くように符で描かれた魔法円に沿って、七津星の光が円周する。展開が完了した。この間、使役者である博麗の巫女は停止封印の呪を転嫁した|不可侵領域《フリッガ》に取り込まれる。何者からも干渉されない|魔術的空間《フリッガ》から、この七津星を目標へぶつけて仕留める攻防一体の布陣、それが命名決闘に束縛されずに行使される、夢想封印の真の姿だ。

「ははっ、そうだ。それだよ霊夢。それが唾棄すべき博霊の業だろう。だがだめだ。まったくだめだ、そんなんじゃあ、まったく!」

 この技の意味を知るものが、私が符でこの魔法円を描いたのを見れば、迎撃など諦める。真っ先に回避行動に移り、しかし結局逃げ切れずに塩の柱になり、くちなしの花に変わり、石琵琶に戻り、狐の尾は1本に減る。……あるいは純粋に破壊的なエネルギーとなってぶつけられる。
 小さな体に余るサイズの赤い槍を大仰に構えたまま、光球をまとう私の姿を睨むレミィ。それを、投げるか?
 彼女の周囲に赤い霧が集まり、密度を増し、重さを得てそれは、赤い槍へ凝集されていく。槍の大きさは変わらないが、赤以外の光をすべて飲み込む程の沈んだ深紅に色あいを変えていく。更に、赤色だがむやみに光を発していないのは、エネルギーロスしていない証だ。あの槍に集まってゆく妖力は半端なものではないが、それと感じさせない落ち着いた見た目であることは、見た目に反した威力を持っているということである。

「博麗神祇伯には思い知ってもらおう」
「あいにくね。その槍は空を突き、そしてこの星々があんたをただ一滴の赤い雫に巻き戻すわ」

 永遠に幼き紅卿が、地面に石突を突き立てた槍を両手で胸の中央に固定するような姿勢を取り、そのまま『口述』する。言霊に力が満たされるに連れて、周囲の赤い霧が濃く立ち込める。これは、朝から漂っているただの色付きスモークではない。15年前に幻想郷を侵そうとしたあの紅霧のまさしく再現だ。

「|seiða sá;《exec.HOGE》
 盲目ならぬあかき目は、導き手がいなくとも正確無比にそれをなす。
 |巫女は語る《Völuspá》。
 Hringhorniの上に輝きの王はある、と。
 葬送せよ、指輪とともに葬送せよ、輝きの子は今、幼き槍にて斃る、と。
 これは人の世の過大なる損失である、と。
 遠き未来に来たる破滅の、さいしょのほつれぐちである、と。
 仕方がない、|ひとつの木《aR Askr》と|もうひとつの木《aR Elm》によって、\kenning:mögu Heimdalar\ をなせ、と。
 |死した巫女、かく語れり《Völuspá》。
 sýndisk −dev kenning:”harmflaug” >[ def kenning: ”Baldri mund” | nönnur_Reimu Hakurei 6th];」

 お得意のグングニールではないようだ。直接Mistilではないにしろ、トネリコの杭は吸血鬼にとどめを刺すときの象徴的な道具だ。それを含む|呪文《セイズ》で槍の術を実行するなんて。15年前の彼女なら、そうした対立軸の意味を含む術の編織など決してしなかっただろう。『一晩と同じ』だなんて、ブラフじゃないのか。レミィは確実に、自らの足で未来に向かって歩いているらしい。
 だが。私には自信があった。いや、これは確信と言ったほうが近いかもしれない。|レミィ《KARMAZYN》の槍がいかに強力であろうとも、夢想封印の不可侵領域を侵すことはできない。彼女の赤は、決して私を染めない。夢想封印の防衛システムは、『理屈ではない』のだから。

「|seiða "skjóta Mistilteinn"《exec.ミストールテインの槍!》;」

 レミィが大きく振りかぶって身に見合わない長大な紅の槍を投げつけてきた。木の枝のようにいくつにも分かれた軸と、いびつに曲がって伸びた先端。真正面から突き入ってきたが、間もなくそれは偏向されて弾道を変えた。夢想封印の防御機構は伊達ではないのだ。レミィが15年前よりも進んだ術を行使するのと同じように、私はだってあの頃とは持てる技術に成長はある。私の目の前で木の枝のような有機的な歪みを持った槍は、逸れた。

「それが『とっとき』かしら。お生憎さま、外れたみた……」

 い。と、レミィを視認し続ける視界の隅に、赤い飛沫がチラついた。

「え」

 視線を送ると、右肩に、ざっくりと大きな傷ができていた。痛みが追いかけるようにあとから湧き上がって、右腕の先端まで駆け巡る。かすめた投擲の威力に巻き込まれるように、右側の鬢がちぎれ頬にも擦り切れるような傷がついていた。
 うそだ。そんなはずがない。
 夢想封印の防御機構が、吸血鬼のやりなんかに破られるはずが。

「う、そ、でしょ」
「ふん。流石に見くびっていたか、さすがは博霊の奥義と言ったところだな。ど真ん中を狙ったのだが、腐りきっても私の槍を逸らすか。だがこの槍はもともと『おまえのようなやつ』を貫くためのものだぞ、見くびっていたのはお互い様のようだな。」

 右腕の集中を奪われ、描かれた魔法円の一端を突き破られた夢想封印は最終的な効果を発揮することなく収束する。七津星は光を失って消え去ってしまった。

「くっ、!」

 慌てて他の符を、そう、八方龍縛陣なら効果は……
 槍の差し込みで発生保障を破られあり得ない潰され方をした夢想封印の代わりに、袖口から他の符を放とうとしたが、紅魔持ち前の速度はその隙を見逃してなどくれない。瞬間移動にさえ紛う突進からの、防御不能を確信したソバットは私の側頭部を正確に打ってくる。無理やり左腕を差し入れて防御を試みるがろくに軽減できないまま吹き飛ばされた。何もない真っ白い床を一度、二度、跳ねてすこしスライドしたところで、ようやく私のからだは止まる。

「15年前はここで逆転劇にあったがな、それと違うのはな、今の私と妹は、ラポールが形成されていることだ。もう不覚を取ったりはしないぞ。もとよりこの場に妹は来ていないがな。これは、私とおまえの完全に個人的な関係同士の問題だ、妹の関与など入り込む隙はない。|霧雨《魔女》の方も、手出しをするつもりはないようだし」

 そんな薄ら寒い希望に縋るつもりはない。だけど、脳震盪を起こしたのかうまく体が動かない。吸血鬼の接近をみすみす許し、今ぼやける視界を真っ赤な翼を広げた月が満たしている。
 魔理沙が今の私をどういう目で見ているのか、想像したくなかった。勝てると、思っていた自信過剰を嘲っているだろう。この結果を望んで、魔理沙はレミィに、私の経年劣化を告げたのだろうから。

(まり、さ)

 立ち上がらなきゃ。こんな、無様な終わりは……。
 そう思う傍らで、こんな惨めな終わりこそ、時間とうまく付き合えないまま15年を過ごしてしまった自分の末路にふさわしいのかもしれないと、いう思いも現れ始めていた。そうなのだ、きっと、これは私に与えられた、幕引きなのだ。レミィは紅の大義を振りかざして、でもその実、単純に私の退場を促しているだけなのだ。紫が、次の巫女を立てたなら、おとなしくその下で過ごすのかもしれない。
 魔理沙は。同じように年を取っている魔理沙は、時間という理不尽な魔法を、どうやって味方につけたのだろう。それができたから、彼女は今でも星のように輝いているのだ。私にはそれができなくて、立場が逆転してしまったのだ。

 手足がすこし、動いた。でも、戦闘を継続できる状態ではない。

「ま、だ」

 焦点の合わない意識をなんとか収束させて、何か符を取り出そうとした。が、その手首を踏みつけられた。
 かかとの下に敷かれた手首を無理やり引きずり出して距離を取って跳ね上がる。祓幣を構えるが、脳震盪でふらついた手元がそれを落としてしまった。平衡感覚を失って再び倒れる。

(仕切り直しをっ)

 なんとか取り出した警醒陣を張り、ふらつく足元に鞭を打って立ち上がる。吸血鬼は破魔の力を面状に展開する警醒陣の障壁を、ダメージを厭わずにそのまま抜けてくる。肉の焦げる匂いと嫌な音をだだ漏らしにしながら、しかし悠然と迫ってくる。退避コースを取ろうともしない侵入に、結局体勢の整えが間に合わない。祓幣を握り取られ動かせない。幣を諦めて捨て、常置陣を滑り込ませて更に後退するも、人間では不可能なアーチ軌道を描く高速の飛び込みで越えられて懐への再侵入を許してしまった。だめだ、動きが鈍ってる。
 爪の攻撃を霊珠の防御で防ぎ、ひとつ、ふたつ、みっつめに割り込みで

(霊撃っ)
「はっ、透けて見える」

 読まれていた。ありえない、そんな神眼読みが成立するなんて。翼をクロスさせた防御で霊衝を防がれると、霊撃の終了後ディレイは致命的だった。

「終わりだ」

 自らの体を弩矢となして突っ込んでくる吸血鬼。防御が間に合わず、吹き飛ばされた。レミィは衝突によって失われた運動エネルギーを飛翔によって力づくで再充填して吹き飛んだ私を更に追いかけてくる。水平方向に突き飛ばされている私を上から叩きつけてきた。

「がっ……!」

 吹き飛ばしが中断され地面に叩きつけられる私。何本か、いった。
 もう、動けない。仰向けに倒れたままの視界に、レミィが覗き込むように現れる。隙だらけだが、もう反撃するだけの力が残っていない。
 このままレミィがその気になれば、私の心もとない抵抗など一切意味をなさずに私の首を刎ねることができるだろう。終わりか。|人の死の宿命を解呪する魔法《ディゾルブスペル》も、まだ整っていなかった。

(でも、もう、いっか)

 今は、それを使う気にもなれなかった。

「おまえが博麗を諦めるというのならそれでかまわないがな、霊夢。」

 爬虫類じみた鋭利な表情にルビーの冷たい視線で、私見下ろすレミィ。

「おまえが博麗だった過去まで捨てるというのなら、われわれはどうなる。お前に生の分岐を与えられたわれわれは、その特異点以降を勝手に無価値なものにされるのだ。過去に興味のない私には、どうでもいいことだ、だが、そこの魔女はどうかな」

 レミィが指し示したのは、魔理沙だった。ここからでは魔理沙の姿は見えないが、声だけは、かろうじて聞こえた。

「霊夢。私はレミリアみたいに口がうまくないから、うまくいえないんだけど。いいじゃないか、それで。なにが不満なんだよ。霊夢の腕の中には、もうたっぷりのものが、あるだろう?」

 その『たっぷりのもの』なんて、干からびた枯れ草だと、いっているのに。わからないやつだなあ。
 答える言葉を口はうまく紡いでくれない。もとい、もう魔理沙の問に偉そうに答えるだけの立場に、私はいないのだ、きっと口がきけても黙っていただろう。
 そうして視線さえ魔理沙の方に向けるのを諦めた私の胸ぐらをつかみあげて、レミィは私の顔にかじりつくくらいの距離。睨みつける目は、なんだかさっきのルビーの冷たさと違っていて、血の通った熱を感じるものだった。

「……私は認めているのだ。疑う余地もない。過去に囚われるのがはらわたが煮えくり返るほど嫌な私でさえ、この目で見、この体をおまえに傷つけられたのを、たしかに知っている。私以外の、あのころにおまえと交わり一部はこうして命さえやりとりした者たち皆が、おなじように言うはずだ。おまえが『博麗霊夢』でなくなっても、私は『おまえ』を覚えている。おまえが何者であったか、おまえがこれから何者になるかなど関係ない、今のおまえが何者かだけが、問題なのだ!」

 一気にそう捲し上げてから、私を放り投げた。からだの自由が戻ってきている私はなんとか受け身を取って仰向けに崩れ全身で衝撃を逃がす。上半身をなんとか起こしてレミィの声の方へ向き直ると、仁王立ちした彼女が、まるで目標地点に到達した冒険者のように、槍を地面に突き立てていた。そして、叫ぶ。

「自問せよ、霊夢! |博麗《貴様ら》は、何色だ? 私は、赤色だ!」
「あんたが赤色だなんて、今更だわ。」

 うまく動かない体で、私はもう投げやりな言葉を吐くしかできなかった。

「これでわかったでしょう。私はもう、枯れたのだわ。この幻想郷の警察でいられるような力を、どこかに置き忘れたままの、老害巫女よ」
「違うな。おまえの実は、欲求不満なのだ。おまえにはまだ有り余る力がある。底には揺らがない思想も抱えている。だがそれらを燃え上がらせる場所がなくて、体を持て余しているのだろう」
「そんな都合のいいものじゃないわ。ただの、劣化よ私はもう」

 小さいため息が聞こえてきた。レミィは私にとどめを刺す前に何か一言いたいのらしい。

「おまえのもたらした計画的平和は、たしかに博麗の敷いた体制の望んだものだったろうが、その博麗たる貴様は、ほんとうはこんなぬる湯のような安寧を望んではいなかったのだ。心の奥底ではな」
「じゃあ、なんだっていうのよ……」
「おまえは、もっと暴れたかったのだろう? もっと力を振りかざして、侵略的に支配を広げ、正義を掲げて弱きを悪に仕立てて潰し、だがその合間合間に現れる強者とやり合うのが、楽しかったのだろう? 違うか」
「それじゃまるで私が悪者だったみたいな言い方ね」
「おまえは悪者になりたいのだ。違うか。おまえは私とどこか似ている。何もかも理解できるなんて腐ったことばを吐くつもりはないが、同類の匂いくらいは嗅ぎつけられるつもりだ。」
「私はあんたのことを、偽悪趣味な扱いづらい小娘だと思っているけど」
「ならそのとおりなんだろう、おまえも。私は確かに、全くおなじことを思っているよ」

 レミィがいったことは、私よりは早苗の妖怪退治スタンスに似ていると思った。彼女は、というか洩矢はそうしたモチベーションを持っているようにも見える。
 でも、そうやって調停者やバランサにかこつけて妖怪退治を心底楽しんでいるような早苗の姿に、私は確かに羨望を持っていたかもしれない。いや、それは、懐古だったかもしれない。

「霊夢。おまえはさっき、『なんで』と言ったな。なぜ自分がそこまでの責を負わねばならぬのかと。それはおまえが、今でも博麗霊夢だからだ。博麗霊夢は、おまえ以外に、だれにも取って代わることなどできない。そこのケイオトと育ち、魔界を旅して私を阻止し、月と地底を制してみせ、道教仏教とむすび、妖精、河童、天狗、幽霊にまで影響する博麗霊夢が、その他のだれかでなどあるものか! 何年たとうと、何十年たとうと、おまえが死に腐ったあと何百年後でも、それをやったのは博麗霊夢で、博麗霊夢は、おまえなのだ。それを諦め否定するなど、おまえが認めてもこの私が認めない」
「……なにいってんだかわかんないわよ、あんた」

 いいや、レミィが言いたいことが、なんとなくわかってきた。それは確かに、私の中にあって、ずっと封印し続けてきたものだ。赤い衝動はずっと胸の中にあって、ここから出してくれと脳みそをノックし続けていた。自分自身を封じていた。いろんなことを見聞きしてコントロールしなければならない内省的なものを重ねていくうちに、そういうものは反社会的なものとレッテルして檻の中に押し込んだのだから。

「体がろくに動けぬ内に、せいぜい自問しろ。おまえは、15年前、なにがしたかったのだ。私を温かく迎え入れるようなぬるいことはせず、今のおまえがそうなっているように、いや、もっとひどかったかな、私を打ちのめしたのは、なぜだ。私が|幻想郷《ここ》を侵そうとしたのは確かだが、おまえは|幻想郷《こんなもの》を守ろうとして私にいいだけ針を撃ち込んだなどとは、思っていない。そんなやつ相手になら、私は死ぬまで抵抗していた。自問して、思い出せ、バカ巫女が」







「世界の理想は真っ白なんだろう?」と問うた。そしてそんなものは認めないと彼女は赤を取り出したのだ。衝動的なそれは、でも本能であって、だれが否定できようか。
 彼女のその赤は、白でさえなければ何色でも良かったのかもしれない。過去の因果で可能性を絞られた未来を、すべて塗りつぶしてもう一度「彼女」を始めるための、それは自己の存亡をかけた闘争だったのだろう。彼女は、過去を捨てるために、未来を塗りつぶしたのだ。未来は無限の可能性なんかじゃない。望むと望まざるとにかかわらず、無計画に時を歩んでしまえば、未来は全自動で過去に縛られる。望むと望まざるとにかかわらず、未来は『なるようになる』。それを良しとしないというのなら、赤を持って塗りつぶすべきだったのだ。それが彼女のように宵闇の黒と血の赤に生きる者でなくても、その一色は縋るものだろう。先細った未来にめまいを覚えて、こんなはずじゃなかったと後ろを振り返ったとき、ずっと続いてきた過去の足取りを見てなにを思うだろうか。過去に囚われた未来なんて|ただの幻想《ハルシネイション》でしかないと思うしか無いじゃないか。

「誰にでも疑問が百種類あるんだぜ」知ったかぶりを更にぶったような言い草で、彼女は私にいつもそういうのだ、自分のわからないこと、それをわからない理由を説明するために。説明になっていなくても、それは彼女のように知識を求める存在には『ちょっと休憩』するために必要な|呪文《おまじない》なのかもしれない。彼女のように知識を以って世界を切り拓こうとする者にとっては、過去の蓄積がなによりも重要な事だろう。でも、知識を食べて生きる魔法使いのようなやつでなくても、その呪文は有効なのだ。
 凝り固まって身動きが取れないがんじがらめの過去から導き出せる細い細い可能性をだけを未来といって、でもそれを無限だの希望だのなんでもできるだのまるで時間はこれ以上進まないかのようにうそぶく狂った世界を目の前に認識してしまえば、そんな|おまじない《呪文》で歩みを止めたくもなるものだろう。そうやって立ち止まったときに見える過去と未来の間には、いったい何が描かれているのだろうか。過去に囚われた未来なんて|ただの幻想《ハルシネイション》でしかないのじゃあないか。

 この世界は|物語《シナリオ》だ。物語は|嘘の世界《筋書き通り》なのさ。だから、それは嘘、真っ赤っ赤なのさ。彼女が未来を塗りつぶす色に赤を選んだのは、なんの暗示だろうか。それを阻止して塗り返した色は白だった、そのことは一体何の皮肉だろうか。白は虚無の色だ。白が全色の重複であるのは光の世界で、この物質界では全色の重複は黒なのだ。彼女がくれた白い石は、過去の思い出を示すものだった。でも白もまた、嘘だ。

 過去があって未来が決まる、そんなキノウの未来をうそぶいた白の幻想を吹き飛ばして、正体不明な赤い衝動が脳に巻き起こっている。これは、彼女のそれと同じだろうか。失くしたはずの幻想と刺激がぜんぶ、15年前のそれがぜんぶ、蘇る。真っ赤な嘘と、虚無の白。天秤にかけるだなんて、馬鹿らしい。

 私の耳元で、聞き慣れた声が、叫んだ。

「いつまでも狂騒の残像で、泣いている場合か!」







 体がうまく動かない。
 こんな風に徹底的にやられたのは、何年ぶりだろう。夢想封印を過信していたのは確かだけれど、それをして負けたことがなかったのも確かなのだ。だからもう後がないほどにやられて、何かが吹っ切れたのかもしれない。
 体とおなじく、脳みそが落ち着かない、体があんまり言うことを聞かない、そんな状況で、なのに思考が急にクリアになった。こんがらがって絡まっていた紐が突然解けて一直線に戻ったときのような感じ。
 なにかひどくくだらないことを守ろうとしていたのか、でもそれがひどくくだらないものだということにやっと気づいた感じだ。重荷を捨てて、衣服さえ脱ぎ捨てて何かの柵がなくなったかのような解放感。
 だから、見えた。だから、理解した。いや、思い出したという方が近いかもしれない。くだらないばかりの時間を重ねた私は、精神的老廃物で凝り固まっていたのだろう。
 おそらく骨が何箇所も折れていて、うまく動かなくて自由なんてきかないはずの体が、何故か朝起きたときよりもずっと軽く思えた。私は立ち上がって(確かに足元はおぼつかないのだけど、それと意識は一致していない)、魔理沙の方をみる。
 彼女は何か悲しそうな顔で私の方を見ながら、魔力で立てたほうきにせを預けている。なんて顔をしているのよ。

「魔理沙。そういえばこんなものを、くれていたわね。」

 私はそれを取り出した。蝶の巣。魔理沙がきっと、私に過去を肯定するための鍵として、渡したものだ。私がこの期に及んでそれを取り出したことに、魔理沙は何か思うところがあるのか、背をほうきから浮かせた。

「霊夢、それは」
「魔理沙がこれを見せてくれて、ちょっとね、すっかり忘れかけてたあの頃を思い出せたわ。あの頃の私はやっぱり、今よりずっと少女してたと思う。魔理沙もそうでしょ? そりゃあ、無知とか幼さがそれを支えていたのだもの、時間の経過とともに失われてしまうところもあるかもしれないけど、もっともっと俗っぽいところで、私はもうあんなふうにキラキラした少女であることを、忘れてしまった。どこかに捨ててしまったのでしょうね、それも、意図しない間に。どこに落としたんだかわからないものだから、取り戻すこともできそうにないわ。魔理沙、あなたは今でも、ちゃあんとそれを持っていて、うらやましい。私はきっとタイムリミットを迎えて少女をリストラされるのだわ。そうしたら、私はこの石を見ながら、過去に思いをはせて、昔を懐かしみながらそれでも満足して生きていけばいいと。そういう意図でこの石を私にくれたのかしら?」

 魔理沙からよくわからない理由で受け取ってから、それは行き先も定まらずにずっと茶の間のちゃぶ台の上を転がったり何かの拍子に畳の上に落ちたり、していた。普段持ち歩いたりなんかしていなかった。ただ、奥にしまい込むのはなんだか、ふさわしい場所が自宅のどこにも見当たらなくて。
 今日この場にこれを持ってきた理由も、自分でもわからない。この件は魔理沙と一緒に行動するから、何か言われたときに面倒だと思ってとりあえず懐に入れたような気もするし、もっと無意識的なものがはたらいて持ってきたのかもしれない。家に置き場がないからとほっぽりだされたままのそれに、もっていけと呼ばれたような気がしたかもしれないし、捨てる場所を求めたのかもしれない。魔理沙に返そうかと思ったのかもしれない。
 それを懐から取り出した私を見る、魔理沙の表情は陰っている。

「違うんだ」
「なにが?」
「霊夢、もっと、高く飛んでくれ。そんな安っぽいのは、おまえには」
「飛ぶくらい、技術的には今でもできてるわ。でも、それをするのにふさわしい年齢ってのが、あるものじゃない。その安っぽい思想に、全身全霊をかけてしまう愚かな若さがないとできないこと。永遠に幼き、吸血鬼。あなたも、年老いた私を見てせせら笑うのね」

 レミィは無表情の中にほんの少しの嘲りと憐れみを足したような顔で、私を斜めに流し見ている。

「レミィも、魔理沙のたくらみになんかどうして加担したのかはわからないけれど、それってあんたも年を取ってるってことかもしれないわよ、注意しなさいね。だって昔のあんたなら、そんなものひとりでやってろと突っぱねたでしょう。私が過去の自分を再評価するための寸劇だなんて。あんたはいつだって未来を見ていて、過去のことなんか興味が無いのだもの。私の過去になんてもっともっと興味が無いはず。違う?」
「……お前たちの絆とやらを、私は確かに、過大評価したのかもしれないな。まったく、つまらない。|綾椿の一片《ケイオト》、きさまのような頼りないパートナではこのばかものは救えなんだ、残念だったな。とっとと済ませてしまおう。こんな博麗に宣言する命名決闘法など、すぐに形骸化しよう。楽しみなことだ。」

 レミィは|ヤドリギの槍《ミストールテイン》を振り上げて再び私に照準を合わせる。

「あーあ、ほんとうに、見くびられたものだわね。」
「『空を飛びきれない』おまえに、次この槍は防げまい。今度は間違いなくそのど真ん中を貫いてやる。」
「かわしきれたら、しゃがみガードで1秒間に10回『はくれいこわい』ゆってもらうわよ」
「は?」

 別になんだっていいのだけど。愉快だ、今の気分を表現するのなら、それはその一言以外に形容先がない。重たい荷物を捨て去って、目の前に伸びていた坂は今平坦に変わっている。自分の思考の周囲を包囲して私を窒息させようとしていた綿はすべて落ちた。
 私は、レミィが獲物の首筋にそうするように、自分のくちびるに犬歯を立ててその皮を突き破ってやる。ぞぶりとイヤな感触がつたわってきて、そしてすぐに鉄錆の味が口中に広がった。勢い良く吹き出すそれは、口の端を流れてあごを滴り、胸元を汚す。

「……だれのまねだ?」
「だれのでもないわよ。私は、私だもの」

 もとは私があげたものだけど、魔理沙が新しく意味をくれたその白い|石《過去》に、そっと口づける。
 くちびるを潤す赤を白い石に注ぐと、赤が白をまだらに染めていく。蝶の巣のでこぼことした凹部に血の赤がたまって走り、白に不規則だが緻密な文様が浮かび上がる。きらめく白にいく筋も描かれた赤の文様は、送り込んだ霊力を受けてうっすらと赤く蛍光していた。
 白い凹凸面にいびつな赤い血紋が浮かんだ|蝶の巣《過去》を、てのひらに乗せる。
 血を受けたそれは、太細に描かれた赤い文様を血管のようにみせ、硬い質感にも拘らず柔らかく脈打たせている。赤い血を巡らせる白い心臓のよう。
 私が注ぎ込んだ邪呪にも等しい霊力のせいなのか、魔理沙が何かの仕掛けをしていたのか、この空間を充溢する吸血鬼の妖力がそうさせたのか、蝶の巣はいまや付喪神の雛になっていた。
 石英の基板にヘムの回路を描いた、有機物と無機物のクロスブリードな蛹の脈動は、過去もしくは未来が溶け合う蛹が羽化して飛び立つ前の蠢動のようだ。これが羽化して羽ばたくとき、それは過去の具現化だろうか。未来の実体化だろうか。赤い姿と白い姿のどちらをしているだろうか。それともそれらすべての混沌として出来上がるだろうか。
 いずれにせよ、今の私にはもう興味があることではなかった。
 だってそれは今、完全に私のてのひらの中にあるのだから。

「霊夢」

 魔理沙は心配そうに私の方をみていた。魔理沙は私に、これを過去を肯定する扉の鍵として渡したつもりでは無いのだろう。私が安易に|過去《白》を肯定してそれに溺れてしまえば、彼女の目論見は霧散してしまうのだから。でももう、その心配なんかいらないわ。あんたから、それにレミィからもらったものは、私を塗り替えてくれたのだ。

「ごめん魔理沙。やっぱこれいらない、きもちわるいわ。かえす」
「いらないぜ」
「どうすればいいかしら」

 脈拍する蝶の巣をてのひらの上に置いたままにしてそれを見る私に、魔理沙はこどもみたいに叫んだ。

「すきに、おまえのすきにすればいい!」
「そう、好きに。じゃあ、すてちゃおうかな」

 てのひらの上の石に向ける視線の意図を察した魔理沙は、ぱあっと、大輪のなにがしが咲くときのように表情を変えて、言う。

「そうだぜ、霊夢。おまえの思い描く通りに、赤と白の|二色《にいる》を描いてみせろ! 身勝手極まりないお前の|紅白《正義》で、世界を塗り潰してみせてくれよ!」

 一気に力いっぱい、霊力を込めて蝶の巣を、にぎる。たしかに石英の質感を保ちながら、力を込めると蛇の皮膚のような柔らかさを抱いた硬質。その表面の硬さを無視して更に力を込めて指を沈めていく。
 がりっ、と堅いものがこすれる音が一瞬、その直後に小さな破裂音。蝶の巣は、その内側から液体のように流れ出る赤い砂をこぼしながら、白い石片になって割れた。さらさらさらと流れていく赤砂。

「いらないわ、|こんなもの《過去も未来も》。ねえ、そういうことでしょう、レミィ?」

 魔理沙は胸がすくような清々しい顔で私を見ている。だって、私はこんなにも、すっきりしたのだから。きっとみている魔理沙にもそれが伝わっているのだろう。それに、レミィにも。
 てのひらを下へ返し、ただの砂になった蝶の巣を捨て去る。
 レミィも、ほんとうに愉快なものをみているように、少し獣っぽいいたずらな笑みを浮かべていた。

「呪わしく忘れたい過去を受け入れて、輝かしく語りたい過去を捨て去って、おまえはなにを守ろうというのだ? 真っ白な真実の未来を拒絶して、真っ赤なウソの未来も否定して、さあおまえは、いったいなんの地平の空を、飛ぶというのだ?」

 決まっている。そんなのはもう、決まっている。魔理沙やレミィが思い出させてくれたのだもの。
 私は|未来とかいう妄念《仮想敵性》を演じてくれているレミィに向き合って、断言する。

「ただ一瞬の今だけを全力で|肯定《謳歌》するわ。それが|幻想郷《この国》の|少女《幻想》だもの!」

 過去からも未来からも飛び立ち、ただ今この一瞬の一点の上にのみ舞う。それが博麗霊夢という女のあり方だ。それを、少女と称するかは他の人に委ねるところだけど、私は、それでいい、それで十分だと今は、思える。

「もう一度よ。そしてこの勝負の最後。レミィ。これでだめなら、本当にこの首くれてやるわ」
「ふん。何度コンティニューしたかは聞かないでおいてやる。だが次も易くはないぞ。おまえが『それ』を飛びながら私の槍に撃ち落とされるようなら、博麗、次はない。これでおまえは体の真ん中にでかい覗き穴が出来て、私の『赤』のひとしづくとなる。覚悟はできていような?」







 思い出したのだ。あの時なにを考えてあんなことをしたのか。
 私はレミィに向き合って、それを告げる。

「幻想郷の住人がとか、里のひとびとがとか、そんなことどうでもよかったんだわ」

 私が言うと、レミィはすこし驚いたようにしかし感心したというように眉を動かして私の言葉を拾い上げた。

「15年前、あんたをぶちのめしたのは、みんなの願いとか、平和とか、幻想郷の姿とか、社会性とか、儀とかそういうもののためじゃなかった。そうよ、言われてみれば、思い出してみれば、あの頃の私はそんなものになんのこだわりだってなかった。どうでもいいと思っていた。無関心だったかもしれない。博麗の巫女としては最悪だけれどね。」
「……すこしは思い出せたか?」

 レミィが一旦槍をおろした。私に、その先を喋ってみせろという視線を向けたまま。

「はっきり思い出したわ。だって、それって今、全く同じことを思っているのだもの。あの時、私があんたを徹底的にぶちのめしたのは、あんたをほっとくと幻想郷が真っ赤になるとか、未来が乗っ取られるとか、そんな理由じゃなかった。」

 私は符を一枚取り出して、針を成す。それを自分の頭にあてがう。霊力は充填されていて、待機状態。これは令一つですぐに弾丸と化けて対象を貫く。射出直後のエネルギーでは少なくとも頭が無事では済むまい。

「ちょ、霊夢!?」
「そう、私、ただ、ただ単に、あのとき私は、あんたのその思想が、気に入らなかったんだ。とことん気に入らないって、思った。それだけだった!」

 こめかみに据えた針の先端、その針をそのまま、放った。
 針の先端が頭蓋を割り、脳を貫き、鼻から上の部分がすっかり砕けて吹き飛んだ。赤白の飛沫を撒き散らして私の頭がなくなったのを、私を上から見ている私が、みていた。
 頭を失った私の体が、ドサリと倒れる。なくなった頭の破断面から、赤の絡んだ白いものが漏れ出している。体の方は数秒間不随意運動を起こしていたがそれも停止した。

――ディゾルブ・スペル

 魂が霧散する前に、生者必死の契約を反故にする忌まわしい解呪が起動する。吹き飛んだ頭蓋の破片が甲虫のように集まり、地を這う蚯蚓のように血が這いより、飛び散った脳髄は芋虫のように元の位置へ戻る。映像の逆回しをみているように、|博麗霊夢《わたし》の体が、再構成された。
 新しく作り直された肉体で、私は死ぬ前のセリフの続きを、

「気に入らないやつをぶちのめして、そうやって言う事をきかせるのは、」

 吸血鬼に投げつけてやる。これが、欲しかったんだろう、永遠に幼き某。

「たのしかった! 気持ちが良かった!」

 その一言を実際に口から放った瞬間、愉快で愉快でたまらなくなった。大声で笑いだしたい。って、ずっと長い間解けないでいたもやもやとした問題が、一気にクリアに解けたような、そんな気分なのだ。

「そうよ、あれは、私の趣味なのだわ。身勝手な正義で相手を縛り、暴力で言う事をきかせる。気に入らない相手には、それがもっともシンプルで効果的な方法だと思っていたし、実際そう。私の世界は、他でもない私を中心に全てが回っている。他の回転軸なんて許さない。私が気に入らないのだから、私が修正する。それだけの話だものね」

 生まれたての肉体に産まれ直した私の肉体。肩の傷も、折れた骨も、今は新品に置き換わっている。肉体だけじゃない、心の中も、今はすっかりサビが落ちていた。

「……レミィ、いまのあんた、すごく気に入らないわ」

 私がそれを言い切ると、私がそうしたかったのをまるで横から奪い去ったみたいに、レミィは大笑いを始めた。ああ、それよ、笑いたいのは私なのに、何勝手に横取りしているの。気に入らない!

「ふ、ははは、霊夢、どこが変わったというのだ。それだろう、それが、博麗霊夢の本性だろう! かってに忘れていただけで、変わってしまっただなどとうそぶいて、ほんとうはこのとおりではないか! そんなセリフ、真に本気で吐けるやつなどめったにいない。その|自由に空を飛ぶ《身勝手》の極致こそ、おまえの本性だろう。思い出したのならやりなおそうじゃないか、紅霧異変の再来だ、どうする、博麗?!」

 レミィが腕と翼を大きく開き、ひとのものではない叫び声を上げる。突然世界に赤色が塗りたくられて、あの日の再現、紅の濃霧があたりを包み込んだ。

「seiða "skjóta Mistilteinn";」

 再び槍を構えるレミィ。ミストールテインの槍をもう一度投げる気だ。そして、それをどうにかしてみせろというレミィの挑戦だ。
 対し、私も、構えを取った。
 これは、符ではない。レミィが赤で吸血鬼であるのと同じように、私の根本だ。魔法というのなら魔法かもしれない。博麗だからではない、私が私だから、使える、最大の私。これに名前をくれたのは……あんただったわね、魔理沙。でも今は、名前のない方をそう呼んで、目の前の吸血鬼へ宣言する。

「……夢想天生」

 詠唱も起動文言も、何もない。だってこれは『私』なのだ。
 体がふわりと浮き上がる。地面から浮いたのはもちろんだが、この浮遊は、ありとあらゆる存在と、ありとあらゆる概念の平面から空を飛び、ゆえに、ありとあらゆるものから独立した存在となる、真の浮遊。博麗の、ではない、私の、|魔法《肯定》。彼女の言葉を借りるなら、今の私は透明じゃないだけの透明人間になっている。すべての物質も概念も、今の私の存在線と交差しない。映像だけがかろうじて残っているが、これも取り去ろうと思えばそうできる。
 夢想天生は博麗のものではない。私の前の代にも後の代にも、これを使える巫女は現れないだろう。これは私の持つ絶対的な力であり、『霊夢』の存在証明でもある。

「さあ、この私を撃ち落としてみなさいな。さっきとは、わけが違うわよ。それができないなら、今度こそあんたを、撃ち抜いてやるわ」

 普遍的な正義などいらない、この幻想郷で、少女同士のぶつかり合いには。必要なのはほんの少しの勇気と、絶対的な利己。刹那い激情。愚直な思想。それ同士がぶつかり合ってできる副産物こそが、平和であればいいのだ。だから、私はその手段に「空を飛」んでいたはずなのだ、昔は。
 だから、私はまた空を飛ぶことことにした。
 ただ、目の前のやつが、気に入らないからという理由で。
 だって、レミィだって私を呼びつけてぶち殺そうとしたその理由は、15年前に比べて今の私が気に食わないからというだけなのだ。

「貫け!!」

 レミィがありたけの射撃をぶち込んでくる。赤い霧のBUFFを得たすべての射撃は、いずれも強力なものに変わっている。
 フォークもコウモリも、鎖もナイフも、しかし全て寸分違わず私を狙い、私を貫いているが、空間的にこそ重なってはいるが物的に干渉できていない。つまり、すり抜けている。いわゆる|不傷契約《フリッガ》を打ち破るためにレミィが開発したヤドリギの槍も

「harmflaug;」

 私に重なりはするが干渉することなく通過する。夢想天生の「飛行」に、例外など存在しない。
 射撃が通らないとみたレミィが、近接戦闘を仕掛けてくる。爪の攻撃も刃の翼も、すべて私の体がただの立体映像で実体を持たないように、すり抜ける。当たり前だ、全く私に触れることなど出来ていない。彼女たちが立っている地平に、私の足はすでに付いていないのだから。

「eTrwee, aR yeCierre wt hriyywum um;」

 でもここからの射撃は、そうとは限らない。夢想封印で召喚する七津星を再度形成して、彼女に向けて放った。それは今は、あらゆる場所から自由に空をとぶのと等価に、あらゆる場所に自由に着地できる。私を周回する星は間もなく、すぃ、と消え、次の瞬間、吸血鬼の体に接触し、その霊体を侵食していた。

「!」

 私の周囲と、それと彼女自身の四方全体に警戒を払っていたレミィの左足に、突如星が現れた。回避という概念は通用しない、私がそこと願えばそこに、星は『着地』するのだ。
 星に接触した彼女の足は、まるで干物のように萎れて小さく縮む。骨を失い蛭子のように溶けて萎びた脚は、風に揺られるちいさな切れ端のようになってぶら下がっている。

「ははっ、なんだこれは、15年前にこんなエグいのは使わなかったろう!」

 彼女の声を気にすることなく二発目を放つ。今度は右腕を矮させる。レミィは翼で飛び回りながら、まだ残っている部位で反撃を試み、フォークやコウモリをよこす。一本生きている腕で爪を突き立ててくる。が、一つも私に触ることはできていない。近付いたところに3発目。これで、彼女の両腕とも紐のように細って風に揺らぐだけの哀れな姿になった。
 人間型の生き物に定義された七穴は、右手右足左手左足腸心臓頭の7つだ。4つ目を放つと、もう彼女は小さくひらめく細い何かを5つぶら下げたダルマが翼で飛んでいる哀れな姿を晒す。バランスが悪いのだろう、飛び方にもぐらつきが見える。何より彼女にはもう反撃の手段は残されていない。両足が不能となっているので飛翔以外に駆動手段を持たず、そのために翼は攻撃に使えない。

「ははっ…… これだ、これだよ、霊夢。この私が惚れ込んだ|少女病《正義》とは、このおまえだ! なにが忘れてしまっただ。何が変わってしまっただ、これっぽちもおまえは変わっていないじゃないか! 気に食わない理由だけ、この|これ以上無い絶対感《チート》。|ふざけやがって《ふざけやがって》!」

 私が4つ目を投げつけようとしたところで、レミィの前に人影が入り込んだ。魔理沙だ。

「霊夢、もういいだろ。レミリアももう十分だ。おまえのおかげで、霊夢は首尾よくすっかりもとどおりだ。霊夢だって気付いてんだろ、レミリアが、わざわざおまえのために体はってんの。このへんでおさめ、っぐええっ」

 と仲裁に入ってきたけれど、レミィが後ろからそれを突き飛ばしてすっ飛ばした。
 魔理沙を突き飛ばしたレミィは、そのまま、顎がはずれているんじゃないかと思うほど大きく口を開ける。叫んでいるようにも見えるが、なんの音も聞こえない。おそらくは人間の可聴域外の叫びなのだろう。
 間もなく、矮いて萎びた長細いだけの四肢が急に膨らみ始めた。ただ、元の形を取り戻す、というのではない。単に細長い風船が膨らむようにいびつに膨らみ、元の四肢の太さを超えても丸みを帯びて更に膨らみ、やがて

 ばちゅん

 と破裂した。真っ赤な血を撒き散らして過膨張して破裂した四肢のその後から、血まみれに新たな手足が、生えている。

「|吸血鬼《私》の命は一つではないぞ、博麗!」
「吸血鬼ほどの存在の腕一本買い戻すのに、他の命いくつ分使うのかなんて聞きたくないけれど。あんたが今までどれくらい命を食ってきたか、数えられるってことね、相当な数なんでしょう」
「当たり前だ。おまえとて今までに食ってきたパンの数を数えてなどいまい」
「そうね、私ごはん派だから」

 何度やりなおそうと同じだ。今のレミィに、夢想天生と同じところまで存在の地平線をシフトさせる力は無いだろう。

「いいわ、空っぽになるまで続けるだけだもの。このリングは7カウントで終わり、何回立ち上がれるかしら? ただし、私のダウンはありえない、よくわかっているでしょう?」
「ほざけ、|チート野郎《博麗》が」

 と、もう一度始まりそうだったところに、もう一回懲りずに水を指しに入ってきたのは、またも魔理沙だった。ほうきに乗って私の前へやってきて、

「あーもう、ほんとにもういいってば、おい霊夢、レミリアもさ。霊夢の『風邪』はもうなおったろう!?」

 うるさいなあ、これからいいところなのよ!
 魔理沙を引っ込ませようと叫んだ私の言葉は、まるっきりレミィが言ったものとおんなじだった。

「「すっこんでろ、ザコ!」」
「ひで〜ぜ……。じゃなくってな、どっちかがいなくなっちまうなんてことは、だれも望んじゃいないんだよ!おまえら、どっちかが死ぬまでやるつもりだろう!?」
「どうせ吸血鬼なんて100万回殺しても殺しきれないわ」
「博麗には|ヒトに課された死の呪から逃れる禁法《ディゾルブスペル》がある。それが打ち止めになるまでは|終わらない《コンティニューする》のだろう?」
「まじでただの夫婦喧嘩かっての……焚き付けたのは私だけどよ。いいだろう、もう。レミリアが最近霊夢に苛ついてたのも、霊夢がうだうだと何か悩んでたのも、これで一挙両得ってやつだろ」
「それは意味が違うと思う」

 もともとは魔理沙のたくらみだった、それがさっきまで延々とここ何年も悩んでいた私のヘタレ具合に起因しているのだろうことはわかっていたけれど、レミィも私に対して何か思うところがあったということだ。だから魔理沙のわけの分からないたくらみに加担したのだろうけれど、レミィも私ももう引っ込みがきかなくなっている。どこまでやれば気が済むかなんて、気が済むまでやってからじゃないとわからない。
 もう一度魔理沙をはぶいてやりなおそうとしたところで、意外、魔理沙に助け舟を出す声が聞こえた。

「そのへんでよろしいのでは」

 この『海』へ続く扉へいつの間にか踏み入って、その場に立ったまま私たちをみていたのは、あのメイドだった。

「そうやって時間を止めて急に現れるのやめてくれるかしら。とっさの判断で殺してしまうかも。給仕の躾がなってないわよ、レミィ」
「ようく言って聞かせよう、客人の前でみだりに時を止めるなと、」
「……普通にノックして入ってきたんですが」
「咲夜、いつの間に」
「魔理沙がお嬢様にふっとばされたあたりから」
「まじでー」

 悪堕ちメイドが魔理沙に小さく目配せする。魔理沙は最初何事かわからなかったようだがすぐに理解して、レミィの方へ向く。メイドは私の方へ。

「もともと、博麗神祇伯にむけて我が主人が不満を抱いている旨を魔理沙に伝えたのは、わたくしです。」
「そう。でももうそんなこと関係がないわ」
「お嬢様の不信はもうすっかりと収まったようです。これも、神祇伯がわざわざおなりいただいて『協議』頂いた結果と存じます」
「待て咲夜。私はまだ霊夢に言いたいことが」

 何か勝手に語りだしたメイドに向かって、やはり先に声を上げたのはその主であるレミィだった。彼女がメイドを制止しようとしたところで、今度はそれに割って入ったのは、魔理沙だった。

「まーまーまー! なあ、レミリアのお陰でほら見ろよあの霊夢。すっかり前の通りの、イラッとするくらい身勝手なやつに戻っただろう。私はあれを期待していたのだし、おまえだってそうだったんだろう? だったら、やっぱりおまえに頼んでよかったぜ、私じゃ霊夢にあそこまで本気で向き合ってもらえないからな」
「魔理沙! 余計なこと言わないで。っていうかなにそれ、イラッとするって、私完全に悪者じゃないのよ」
「悪者になりたいってゆってたじゃんか」
「言ってないし! それに、その、私別に魔理沙のこと適当に扱ってるわけじゃ」

 あれ? なにこの流れ。

「咲夜、おまえには|落し子《SPAWN》として再調整が必要なようだな。私の前に遮って入るなど」
「人間だった頃は出来なかったと思います。今は、お嬢様に、|お食事《血》を提供する身ですからね。あんまり駄々をおこねになるようでしたら、今夜の晩御飯は抜き、ですよ?」
「……なんだその『だだをおこねになる』って。私がそんな愉快な方法で抑止されると思って」

 ぐぅぅぅぅ

「x」
「ほら。|蓄積された命《栄養》を無駄遣いなさるから」

 なんだか一気に興が冷めた。間に入った二人のせいなのは明らかだし、それがわざとであることも明白だ。







 この収まり方まで魔理沙のたくらみだったとは思えないけれど、結果としてここでノーサイド、となるのが彼女の目的だったのだろう。私はすっかり「この通り」なわけだし、レミィもそれで、その点については満足しているのだろう。

「やられたわね。私はともかく、レミィも」

 なんだかんだ言って、結局メイドを抱き寄せて首筋に歯を立てているレミィ。変わってないのね、血を飲むのがあんまり上手じゃなくって、べちゃべちゃと胸元からそのへんから、零した血で汚している。血を吸われているメイドは、ぴくんぴくんと供血の恍惚に体をゆらしながら、レミィに抱きついている。

「はあ、目の毒。自宅の湿っぽいベッドでやってちょうだい」
「なんだ、『私はともかく』とは。まるで自分は全部知った上で一人舞台を踊っていたのだと言い訳しているようにしか見えんぞ」
「言い訳くらいさせてほしいわ。こんなの、いい年コいて、こんなできすぎた一人舞台を本気になって踊ってたなんて恥ずかしいったらないわよ」

 がっくり肩を落とす。でもそれは落胆だけではない。もちろんそれも5%くらいはあるのだけど、残りの95%は、安堵とかリラックスとか、ドッキリに引っかかった気恥ずかしさとか、それとすこしのありがとうとか、そういう気分が色々とごっちゃになったマーブル模様。

「いいんだよ、ぜんぶできすぎで、この幻想郷は。霊夢、おまえが今のままいれば、それでさ」
「だったらハッピーエンドでもいいじゃない。結局私がおばさん直行なのには変わりがなくて、近い将来|少女《ここ》を追い出されることも、変わらないわ。ほら、『なんかよくわからない魔法の力で、博麗霊夢さんは可愛かったあの頃に若返ってキラキラな人生を過ごして平和に暮らしましたとさめでたしめでたし』みたいなハッピーエンド」
「あにいってんだよおまえ」

 冷たい、魔理沙の目が冷たい。言うのやめときゃよかった。
 さっきまで供血法悦に体を痙攣させていたのにいつの間にかいつもの瀟洒な姿にシャッキリキリッと戻ったメイドを後ろに侍らせたレミィが、言う。

「ハッピーエンドなんてぬるま湯のような救いのないエンディング、なんの意味もないだろう。生きた実感は、傷跡にこそ宿る。ぬる湯などすぐに冷えてあとは流して捨てるだけだ、そこには裸で凍える阿呆しか残らない。」

 あほくさい、とも思えなくなっていた。3時間前の私ならあほくさいと思っていたかもしれないが。結果として何一つ変わらないのだ。変わったことといえば、やっぱり私の中身だけで、そんなのは、最初から飽きるくらいにゆっていた。私は変わってしまったのだと。

「霊夢が少女でなくなったって、霊夢がいなくなるわけじゃないんだ。過去なんて今の原因かもしれないけど今の何かするときに省みる必要なんかない。未来なんてなにも決まってなくて、ただ、今の足跡がずっと続いてるだけだ。その足跡を誰一人否定なんかしない、この先なにがあってもだ。文のやつも言ってたろ。いま全力のおまえが見たいんだって。霊夢がそろそろおばさんなのは、否定のしようがないけどな」
「私がそうならあんたもすぐおばさんよ! あのクソ天狗がそういう高尚な意味で言っていたかどうかは疑わしいけど」

 きっと、言ってたんだろう。あいつもあいつで、無駄に敏いところがある。結局、人間の私には思いも及ばない思慮の上で、この幻想郷って言う火薬庫はバランスを保っているのだろう。博麗とは、八雲に代わってその崩れそうになった端っこを処理する手伝いを買っているにすぎないのだ。

「結局、魔理沙のたくらみどおりってことか」
「ああ、途中、かなりヒヤッとしたけどな」
「これが運命を操るとかいうあんたの能力? 初めて見たけど」
「は。まさか。私には人の運命を操るなんて、そんな魔法じみた能力はない。できるのは、自分のそれだけだ。おまえはたった今、自分の意志でそれをしたのだ。私のせいにするな」
「……それを聞いて安心したわ」

 その、自分の運命を自分で切り開く意志力こそ、レミィの魅力だ。吸血鬼なんて巨大な背景を差し置いて語るべき最大の能力だとおもう。だから、憧れたんだ、レミィに。そして、きっと今回で失敗した。身の丈に合わなかったのかもしれない。でも、あんまり後悔はなかった。

「全員が、それぞれのシナリオのなかで、あがいているんだろう。そこには平等なんかなく不均等に凹凸で、たくさんの後悔とそれよりすこしだけすくない満足感、でも差し引きすればなぜかほんとうにほんのすこしの『悪くなかったかもな』だけが残るように、そういうふうにできている、この幻想郷はそんな筋書きのなかで繰り返す、泣いたり笑ったりを『今』全力であがく場所じゃないのか。霊夢、それは若い頃のおまえが、私に教えたことだろう」
「そんなこと、あんたに教えた記憶はないんだけど」

 レミィが、わざわざ私に見せつけるようにわざとらしく大きなため息を付いてみせる。そして、まるでこどもを叱るときのように(背丈は私のほうが大きいのに、だ)指をさして、言う。

「だーからおまえは自分の歩いた道程を自覚できていないと、いっているのだ。まったく。バカな巫女を持つと|幻想郷《ここ》の住人は困るのだ、自覚してくれ」
「無理もないぜ、霊夢は人間のくせに空を飛びっぱなしだからな。自分のあしあとがわかんなくなる」
「おまえもたまにはほうきを降りたほうがいいぞ。今回は『こちら』側にいるが、基本的には、おまえは少しは霊夢を見習うべきだ。おまえも|いい年なんだろう《・・・・・・》」
「安心しろ、レミリア。私は空を飛びっぱなしでも自分を見失うなんてことはないぜ」
「こいつまっすぐしか飛べないから、足跡なんて見返す必要ないし」
「そういう意味じゃないし! 曲がれるし!」
「そうねえ、最短距離を行く可能性が僅かにあるのと、あとは盛大に間違った方向に向かうばっかりで」
「咲夜もな、すこしはフォローしてくれても良くないか!?」

 強引な弾幕避けで逆にファウルを取られ審判にするときのようなポーズでメイドに抗議する魔理沙。ノーノーノーと首をふって突っぱねるメイド。カードの代わりに符でも出されたら即退場だ。

「だがまあ、今回はその『最短距離』の最たるものだろう。おまえでなければ、霊夢をここに連れてはこれなんだ。私のことばに耳を傾けさせることもできなかったろうし、おまえのあの、なんだ、さっきの白いのは」
「魔法の白い粉さ」
「……そうか、バッドに入らなくてよかったな」

 沈黙。

「突っ込んでくれよ!」
「突っ込みにくいボケをするな。なんだか知らんがあれがなければ霊夢はうじうじウジ虫のままだったのだろうからな。」
「ウジ虫って」

 レミィいつの間にそんな掛け合いスキル上げたんだろう。

「ということで、今回の反乱はすべて|綾椿の娘《こいつ》が企んだことだ。壊れたミスリルライトアーマーの費用は、まあ綾椿に出すわけにはいかんか。霧雨魔法店あてだな」
「まてって、なんもかわってねーし! 霊夢、お咎めなしだろ? ていうかうちの店にあんな上等なミスリル武具一式の代金出せないって!」
「そういう訳にはいかないわ。これからExステージよ。」
「ん?」

 私は魔理沙の襟首をひっつかんで、海の出入り口を通り、紅魔館のエントランスに引き返す。

「じゃあ、うちの魔理沙がお騒がせしたわね」
「えーっ! 流石にこの期に及んで騒がせ犯人は私じゃないだろう! っててっ、離せって霊夢、えくすとらすてーじ、って何のことだよう!」
「えーと、お帰ししても?」
「止める理由はないだろう。」

 レミィもなかなかドライだなあ。あ、そういえば。

「来る途中でチルノに会ったんだけど」
「妖精か。どうかしたか」
「氷像はもう作んない、とかゆってたけど、なに?」

 ふ、と笑うレミィ。私にはなんのことだかわからないけど、レミィはわかっているようだ。

「そうか、伝言ご苦労だった」
「じゃあ、つたえたかんね。また。えーと、次は十三月次かしら。レミィ出席率悪いんだから、ちゃんと来なさいよ」
「ああ、ああ、わかったよ」
(またこねーなこいつ。まあいいけど。)







「で、えくすとらすてーじ、ってなんのことだよ」

 魔理沙を連れて神社に戻ってきた。襟首掴んだものだから最初は抵抗されていたけど、途中からはただ神社への道のりだとわかったらしく一緒に、来たとき同様久しぶりに一緒に、ゆったり空を飛んで戻ってきた。
 特に今更会話なんてやっぱり無い。来たときに会話がなかったのは赤い霧のことや私自身がくだらないことで悩んでいたからだったけれど、それがなくなってからも特に間を埋めるように話すようなことはなかった。話さなくっても伝わるっていうか、魔理沙とは交換すべき意思は普段から交換し尽くしているし、何かいちいち口にするのも野暮っぽいところがある。
 でも、今回のことについて、彼女は何か言いたいに違いない。私は、ある。でも、それはあとでだ。
 ただいま、とだれにともなく挨拶して中に入る。魔理沙もついてくる。付いてこいっていっていないけれど、言わなくても伝わるってのは、そういうこと。

「なあ、えくすとらすてーじって」

 とりあえずお茶を出すか。

「えくすとらすてーじって何なんだよ、っていうか私なんでここに来たんだっけ」

 お茶菓子出してなかったわね。

「なあ、霊夢よお」

 そういえば今朝は文々。新聞みてなかったな。とってこよう。

「れーいーむー?」
「あーほら、河童の核施設、冷却ナトリウム漏れだって。やっぱやばいわよねえ。MOXって土地一つ捨てなきゃだめなのよ、河童ちゃんとわかってるのかしら」
「新聞読み始めたぞおい、私のことは一貫してほっとくのか」
「あれ、文が一緒に写ってるこの写真違わない? ナトリウム漏れのパイプと一緒に写ってる画像じゃなくて、象の足と一緒に写ってる写真差し込んでるわよこれ。いつの写真かしら」
「おいったら……って、ええええそれはまずくねえ!?」
「まずいわよねえ。こんなミスするからインチキ新聞って言われんのよね」
「そこじゃねえって!?」

 連れては来たけど、切り出せない。今回の事件は、いい機会だと思ったのだけどやっぱ、無理。

「霊夢!」

 流石に、怒鳴られた。顔と新聞紙の間に、魔理沙の顔が無理やり入り込んできた。ちょっとそれは近いって。

「なんなんだよ、まだなんかもやもやしてんのか? この際だからぜんぶ言ってくれよ。ほら、身勝手な霊夢に戻ったんだから、ほらほら」
「身勝手、か」
「……なんだ、やっぱまだモヤってんのか」

 そうじゃない、けど。

「いいっていったろ。だいたいさ、長い付き合いで、霊夢が傍若無人な暴君巫女だなんて、みんな知ってるんだよ」
「ひどい言い方ね」
「事実だろう」
「ええ、そうね」
「みんなその上で『長い付き合い』なの。本気で嫌だったら、バッサリ切ってるって」
「そりゃあ、私が博麗だから、関わらざるをえないもの」

 仮に、私が博麗じゃなかったら全然付き合いを継続していないだろう相手は少なくない。

「……私のことも、そう思ってんのかよ」

 魔理沙の声のトーンが、変わった。低い。もしかして、怒ってる?
 楽観的で短絡的な性格のせいで、短気と勘違いされやすい魔理沙だけど、実際ほとんど怒ることはない。本当は私のほうが気が短いし、地雷は多いし、沸点も低い。魔理沙が怒るってのは、結構なことだ。

「なあ。私のことも、『どうせ博麗だからつながり維持してるだけなんだろう』って、そうだと思ってたのかよ」
「違うわ」

 違うよ、違うよ。私は慌てて否定する。

「お前が今言ったのは、そういうことだ」
「違う。魔理沙にそんな風には、思ってない……思いたくない」

 もしそうだったら、なんて、考えただけでも辛い。私は私でひとりで独善的に今を生きてもいいと思いだしたところで、それでも魔理沙が私の中ですごく大きな存在だって言うことに変わりはない。
 これが、霊夢としてではなくて博麗としての儀礼的なつながりでしか無かったら、なんて考えただけで。こんにち、私の胸の中にあるこんなに大きなものが、実はただのはりぼてだったら、なんて考えたくない。

「だったら、そういう物言いはよしてくれよ。身勝手、なんて表現したけど、そんなにひどいって思ってないしさ。いっつも振り回してるのは、私の方だもんな。今回みたいにさ」
「今回のは、私が悪いから。あ、謝らない、けど」
「いいさ、それで。私はさ、あんまり霊夢が変わったとは思ってないんだ。レミリアだってそうだったろう。少しだけ背が伸びたとか、せいぜいおっぱいおっきくなったとか、すこしふとった? とか、そのくらい。だから、すっげえヒリヒリしたけど、落ち着いてよかったって思う。池の中で見たときは、正直まじでびびったからな。その前から、なんか様子へんだなって、思ってたからさ」
「流石に自殺なんかしないって。……悩んでは、いたけどね」

 一応の決着はみたものの、レミィとの会話の中でいったとおり、なにも事実関係は変わっていないのだ。私はこのまま年を取り続けるし、幻想郷の流儀はやっぱり若い子のそれだ。私は間もなくこの幻想郷という社会の主流をはじき出される。単に、それでもいいと、私自身が納得できたというだけ。
 たったそれだけのことに、派手な事件を起こしてしまった。起こしたのはレミィと、きっかけは魔理沙だけど、原因は、私だ。

「ひとこと、グチでもゆってくれればよかったんだよ。私は、それくらいのことを漏らすにも頼りないかよ?」
「ごめん」
「ちがう。あやまってほしいなんて言ってないだろ。ちょっと、責めたい気持ちはあるけど、そっちは本質じゃない。少しくらいさ、頼って欲しいんだよ。弾幕じゃあほとんど勝ったことはないし、異変解決でも霊夢ほど頑張ってないし、頼りないかも知んないけど、長く付き合ってきたってだけでも、なんか、意味くらいあるって思ってる。今回だって、私のお手柄だろう?」

 それは、そのとおりだと思う。それ以外にだって、魔理沙じゃないとだめなことなんて、いっぱいいっぱいある。本当はそれを言いに連れてきたのだけど。
 うん、と頷くと、魔理沙は満面の笑みを返してくる。恩着せがましいのではなくって、そう、そういうところが、魔力とか戦闘力とかそういうんじゃなくって、人間として頼もしいところ。

「そうね……ありがとう」
「どういたしまして、だぜ。でも、でもそれも、ちがうんだ。こればっかりは今度は私が、ごめんって言わなきゃいけないんだけどさ」
「うん?」

 魔理沙はすこし、言葉を選ぶように唇をすこし動かして、そして一拍置いて意を決したように言う。

「おまえには、そういう『ごめん』とか『ありがとう』とかっていうのは、口に出してほしくないんだ。思ってては、ほしいけど」
「難しいこと言うのね」
「おまえは、いつも高く空を飛んでいて、上から私を見下ろしていてさ。私がなにかしてやったって『ごめんなさい』とか『ありがとう』を、ことばではなくて行動で突きつけてほしいんだ。あたたかくてやわらかいことばとしてではなくて、つめたくて鋭い刃物みたいに。私はいつだっておまえより低いところから、おまえの背中を追いかけて生きてきた。霊夢しか見えなかった。なのに急に、私とおなじ高さにまで降りてきて、背中ではなく正面合わせで、平手じゃなくて手つなぎをくれるなんて、されたら、私はどうすればいいのかわからないんだよ。」
「なによ、それ。私、ひどい人間じゃないの。レミィは私に悪者になりたがってるって言うし」
「そうだよ。多分、おんなじことを言ってる。だから、ごめん、って言わなきゃいけないのは私の方なんだ。私はおまえに、ひどい人間でいてほしい。上っ面聞き分けのいいだけの人に、なってほしくないんだよ。いつまでも、私にとっての手の届かない憧れでいてほしい。あのころ見た、真っ白で砕けそうな肌と、鮮やかで燃えるみたいな血の赤が、ぜんぶ自分のものだなんて一つも気づかないみたいにまっすぐに、私の見えない向こうを見据えていたおまえが、ちっちゃい頃から私のすべてなんだ、霊夢。だから、」
「都合の良い偶像を、作りすぎよ。私は、もう」
「だから、ごめん。でも、私にとって霊夢は、今でも|理想像《アイドル》のままなんだ。」

 博麗として、ただの義理でつながってくれている、そんな可能性が怖くて目を背けてきたところがある。本当は嫌なやつだって思われてるのに仮面をつけられているとか、そもそも私の本性で付き合えば嫌われてしまうだろうとか。あまつさえ、レミィや魔理沙がいうように、私が身勝手に振る舞うそのことを、肯定的に捉えて承認をくれる人がいるなんて、思いもしなかった。

「あんたのそういうさあ」
「あんだよ」
「そういう青臭くて鼻につくようなセリフ、まっすぐ言えるとこ」
「うるさいなあ。私だって恥ずかしいよ」
「でも、そういうあんたが、好きよ」
「す、すっ、すっ!?」

 若い頃は、他人から肯定されているとか認められているとか、わからなかった。他人のことなんて関知していないから「私は私だから」なんてことさえ思っていなくて。ただ即自格だけが存在していた。それから巫女をやってからは、神社を取り巻く社会が私を取り囲んだ。私はあんまり対人関係とかが得意ではなくって、対自核は剥き出し。だから他人を認識していてもそれを見て見ぬふりをしていた。それが、巫女としての職務がいちばん輝いていた頃だ。
 更に年を取って対他殻を持ってしまった。本当は、一般的にはそのほうがいいはずなんだ。それは成長で、人格的な拡大であって、魂の高まりでもある。でも、対他殻は私には重たかったのかもしれないし、何よりこの幻想郷では邪魔者に見えた。対他の過多は少女としての輝きを損なうように感じられた。それは、若さを失うということと直結していて、ひどくネガティブな認識。
 だから、私はせめて心の中くらいは積極的対自核回帰を望む。普遍的には社会性を欠き、幼稚性を取り戻して、退行を意味する方向へ、敢えて向かおうとしている。そんな選択をした私は非難されるべきなのかもしれない。けど、それを認めてくれる人たちが、少しだけでも、いる。もしかしたらこの幻想郷では、少しだけではないかもしれないと、思っている。
 幻想郷=世界だとは言わないけど、世界は私を中心に動いている。それでいい。それ以外を考えるのは、ひどく煩わしいし私の輪郭を自ら抹消するようで恐ろしくもある。
 それが、今日、分かった。驕るつもりはない。でも、きっと自覚はしなければいけないことなんだろう。
 私をいちばん気にかけてくれて、私のこんなくだらないことに体を張ってくれた誰かのおかげだ。

「アイドル、ねえ。だったら、違うでしょう。あんたが言うことばだって、ゴメンじゃないわ」
「えっ」
「わがままにお付き合いさせていただいてありがとうございます、でしょう」
「い、いや、さすがにそれはひでえぜ」

 ふふっ、おっかしいの。私が笑うと、魔理沙も笑った。
 人間サイズの、くだらないやり取り。でも、それができるのは、人間同士だからだろうなって思う。
 魔理沙はああ言ったけど、こういう気の置けないやり取り、あんたがおんなじ高さにいると思ってるから、するのよ?

「ねえ魔理沙」

 やっぱ、今、言わなきゃだめだ。喉元まで出てきてるけど、それを押し出す勇気はきっと、こんな出来事の後でしか湧かないだろうし、こんな出来事はもう、この先ないかもしれない。
 昔はよく言っていた言葉。家でなんだか大したことでもないストレスを発散だとか言って酒を飲んで笑いながら管巻いて。最近はとんと言わなくなったけど、今こんなところで言ったら、意味、通じるかな。

「今日、泊まって、いかない?」
「え? まだ日高いし」
「……Exステージ」







 久しぶりに、自分以外の分のごはんをつくった。前に作ったとき……も、店がうまくいかなくてひもじそうにしてた魔理沙だったかもしれない。ロマンティックじゃないなあ。
 でも、きっと、今夜、する。
 魔理沙は厠にいってる。ご飯よりも、お酒のほうが久しぶりだった。お祭りやなにやらでみんなに振る舞い酒するのではなくって、ひとりでちびちびやる晩酌でもなくって、夜のゆったりを目の前にひとがいるお酒と一緒に過ごすなんて。思った以上に、進んでしまう。
 紅魔館の行き帰りではさして話すことなんてなくって全然会話にならなかったのに、お酒を入れて口を開けてみればいくらでも出てくる。昔の話とか、大昔の話とか、これから先の不安とか、そんな大きな話でなくても共通の友人の噂話とか。こういう会話を「くだらない会話だから」って飲み込んでしまうようになったのも、年を取ってくだらない柵にとらわれていたからかもしれない。やっぱり、一人の夜が長すぎると、だめなんだなあ。

 魔理沙はまだ帰ってこない。

 魔理沙が食べているお皿を見る。あいつ、あんなガサツっぽいのに、食べ方きれいなのよねえ。本当は育ちがいいからかもしれないけど。余分に取りすぎないし、皿はいっつもきれいに食べ終わってるし、こうやってトイレ行くだけのときでもお箸の置き方も整ってる。あんな風なのに、中身のほんとうの芯は、ちゃんときれいな大人の女性なんだなあ。
 ずっとひとりなら気にならないしサシ飲みは好きなんだけど、サシ飲みしていて、相手が席を外して一人になる時間が、私はすごく苦手だった。さっきまでいた人が今目の前にいなくて、さっきまでいた空間と飲食していた形跡はくっきりそこに残っているのに、でも人だけがいない。私だけが引き続きご歓談くださいの状態でひとり放り出されて、置いてけぼりをくらった感じ。寂しいを通り越して私は、不安になる。もう相手は帰ってこないんじゃないのか。私だけが、ひとりこの空間に取り残されて、ずっとこのままひとりなんじゃないのか。そんなふうに思ってしまう。

「魔理沙、まだ?」

 酒が、深いみたい。いつもよりもその傾向が強い。自覚している。でも止められない。マイナスに入ったお酒ほど、迷惑なものはないのに。やめなきゃいけない。
 お酒の席でなくても普段から生きていて感じている不安が、どっとこの瞬間に雪崩を打って私を飲み込んでくるような感じがする。
 いつもまわりから取り残されている感じがする。ひとりで空回っている気がする。本当は私と同席なんかしたくないと思われている気がする。

「魔理沙」

 まだ帰ってこない。
 『Exステージ』なんて言って引き止めたけれど、その瞬間魔理沙、ちっちゃく頷いて、顔真っ赤にしてた。ご飯を用意してお酒も飲んで、まさか飯食ってけよ、の意味だとは思っていないだろう。きっとその間、魔理沙だって『Exステージ』のことを考えながらいるはずだから。
 魔理沙の座ってたおざぶを手で触れてみる。あったかい。魔理沙の体温が残っている。さっき、食べ方きれいだなってみていたお皿とかお箸を見る。ここに魔理沙がいたって生々しさ。さっきまでここにいて、そのままここの時間だけ止まっている。空間そのものが魔理沙の形にすっぽりくり抜かれてる。時間も。
 私は、魔理沙が座っていた場所に、そのままおんなじように、座ってみた。同じ方向をみて、おんなじ姿勢で。
 あ、この位置から見たら、思ったより私の顔、近いのかな。光源の問題で、私の位置から魔理沙を見るよりもしっかり見えそう。私のこと、ここからどういうふうにみてたんだろう。Exステージ、なんてゆった私を正面において、どういう視線を向けていたんだろう。ご飯を食べて、そろそろ寝ようか、ってなった後のこと、考えながら、私をみてた?
 きゅうう、とみぞおちのあたりが締め付けられた。
 きっと、今夜、する。
 好きとかわざわざ改めて気持ちを確認したわけじゃないけど、今日の出来事で、すっかりわかってしまった。私は目を背けてただけでずっとそうだったし、魔理沙もそうだとおもう。ただこういうふうに長い時間一緒にいる機会はなんとなく避けていて、ごはん同様こんな夜は、若い頃ぶりだった。

「魔理沙」

 ばかみたい、こんな風に意味もなく名前を呼んで、まごまごしてるなんて。10代女子かっての。
 きっと、今夜、する。
 そのワードが頭の中をぐるぐる回って、勝手に恋愛感情増幅。おへその下が、お酒を飲んだおなかみたいに熱くなっていた。
 気、早くない? まだご飯残ってるし、お酒も残ってるし、日沈んだばっかりだし。魔理沙はただ厠行っただけだし。
 でも、魔理沙がいた空間にすっぽりおさまっていると、ゾクゾクと、その、性欲が湧き上がってきてしまう。

「まりさ」

 少女を追い出される年齢になって、私のからだはあの頃とは変わってしまった。
 やたらと膨らんで重い胸。肉がついて丸まった腰回り、尻。からだの中の深いところ、それもあちこちに砂漠の暑さと渇きを重ね合わせたような焦れが、埋まっている。

 足音が聞こえた。魔理沙が戻ってきたのだろう。ひとりで勝手に燃え上がって、恥ずかしい。すごく汚らしい女に思える。でも、本心。
 それでも流石に魔理沙のいたところに座っていたなんて、変な目で見られそうだ。慌てて立ち上がる。
 博麗神社は排他的空間は広大だけれど境内はさほどでもない。社務所というか私がひとりで生活するための空間はもっと狭い。ちゃぶ台を置く居間はもっと狭くて、つまりは立ち上がって元の場所に戻ろうとしたときに、足を引っ掛けてつんのめってしまった。慌てていたせいもあるのだけど間抜け。

「スマンスマンまたせ、おわっ!?」

 ああもう、タイミング|悪《良》過ぎだわ。
 ふすまを開けて入ってきた魔理沙の方に、バランスを崩して倒れてしまう。受け止めてくれた、と言うよりは受け止めざるをえない位置関係なのだけど、魔理沙に抱きとめられる。

「どどど、どうした」
「ちょっと、つまづいちゃって」

 戻ってこないかもしれないなんてどっか病んだような不安感が、氷に熱湯をかけるみたいに解消される。強烈な安堵感は振り切れて喜悦に化けた。
 魔理沙のからだに、むず痒さにもにた疼きを宿す自分のからだを抱きとめられて、彼女の体温に、拍動に、吐息と声に、魔理沙に、欲情する。人肌のぬくもりの誘惑は、今の私にとってどんな媚薬よりも強烈だった。人肌で溶けて液状に滴っていく泡みたいに私の体は、なっていた。
 今触れられたら、即座に溶ける。
 今、触れられたい。

「れ、霊夢?」

 すぐに魔理沙から離れるべきだったのに、体温の引力がそれをさせてくれない。魔理沙に体を預けてくっついているのが、堪らなく心地よい。
 顔を上げたら、当たり前、魔理沙の顔がある。お酒で少し赤くなっている。それとも、私がくっついてるから? 視線送ると魔理沙は目を逸らせた。でも、私を押し返そうとしないし、抱きとめたときに肩に置かれた手がまだ、しっかり掴んでいる。

「もう戻ってこないかと思った」
「え、いや、トイレ行ってただけだって」
「わかってる」
「……変なやつだな」

 顔を寄せる。魔理沙の視線を取り戻したくて、もっとくっついて、彼女の顔の正面に逃げ場を作らない。青い瞳が私をみた。
 もう、だめ。
 もっと寄せて、魔理沙のぷっくりした唇を、唇でむしり取った。
 驚いたように声を上げた魔理沙だけど、すぐにキスのラリーに堪えてくれた。吐息と吐息を交換して、唇を唇で食べて、舌をお互いにくっつけ合う。舌と舌を交えて、お互いの甘い声がすぐに輪唱した。

「れ、霊夢、いきなり」
「ごめん、わたし」

 そのまま横の壁に、魔理沙のからだを押し付ける。そしてその魔理沙の体に、自分の体を擦り付ける。1ミリでも多く魔理沙のからだに、自分の体を密着させたくて、壁との間で彼女のからだを潰すみたいに。密着した体を上下に動かしてしまう。そんな風にするつもりなんかなかったのに、腰は体全体の動きよりもよりねばっこく前後に揺れてしまう。
 魔理沙に抱きついて、壁に押し付けて逃げられないように半ば拘束して、その首ったまにかじりついて彼女の首筋に唇を当てて、そのまま項の生え際に吐息を漏らし、耳の匂いを嗅ぐ。股間から、どろりと腐敗液が流れ出した、加熱され、糸を引いている。
 彼女の首元にすがりついて視線をかわさないまま、押し付けたからだの布越しの感触に高まりながら、私は魔理沙に懇願するみたいな媚声で囁いていた。のどの壁と壁がこすり合って息がきゅうと啼くような、メスの誘い声。こんな声、自分ののどから出るなんて。

「わたし今、サカッてるの……」

 そう言ってことばに出すと、自分で自分のからだの火薬庫に火を放ったみたい。どうしようもない。強く抱きしめてほしい、私が今こうして彼女を壁に押し付けて体をこすり合わせてるのみたいに、魔理沙からも私を抱きしめて、ああ、押し倒して今度は私が逃げたくても逃げられないようにしてほしい。そして、そのまま――

「なぐさめて、くれない?」

 このまま唇に吸い付きたい。そうするだけできっと私、どんなクスリよりトべる。でも魔理沙の顔の正面に自分の顔を持っていく勇気が出せず、肩で交差するみたいにくっついたままで、彼女の体温と匂いだけを感じていた。
 魔理沙の股間に手を伸ばす。もう、思いっきり固く膨らんでた。その硬さと暑さをてのひらに感じただけで、触ってもいないのにずんって、へその下に衝撃が走る。下半身の熱が心臓の上、鎖骨の間あたりにヒートポンプで送られてそこで急激に熱せられて膨張した吐息が口から溢れて出てくる、変な声と一緒に。
 まどろっこしい、自分が邪魔くさい何枚もの布にくるまれていることが堪らなく許しがたく感じられた。魔理沙の上半身に体重を投げ出して、私はスカートをたくしあげてパンツの中に手を突っ込んだ。もうぐちゅぐちゅにぬれて貝の合わせが開いてはみ出してる割れ目に、躊躇なく指を這わせる。自分を焦らす気なんかない、クリトリスを巻き込むように割れスジを上下にこすりまくる。ぬめるが、いつものオナニーのときより柔らかい愛液が、信じられないくらいの量溢れ出していた。指だけじゃなくて、てのひらまで使ってこすると、愛液は十分すぎる量でそれを潤す。魔理沙の体温が、私の名前を呼ぶ声が、それに跳ねる心音と吐息が、ぜんぶ私のせいだと思うと、オナニーを我慢なんかできなかった。
 少女を追放されてメスになった私のからだは、いともかんたんに性欲に支配されるようになっていた。若いからだのほうが好きモノの容れものだと思っていたのに、いざ年を取ってみると、夜な夜な燃え上がる性欲は、今のほうが強いように思える。それに、欲求不満と売れ残りの焦りとがぜんぶ燃料に化けてその炎にくべられるのだ。そんなふうにサカリ癖の付いた体が、今は、魔理沙に向いている。
 魔理沙の体で満たされたくて、したくて、したくて、したくて、止まらなくなっていた。

「れいむ……?」
「いまだけ、だから」

 うろたえている魔理沙の声。突き飛ばされたり拒否されたら私の方も諦めがつくというものなのに、そんなふうに可愛い戸惑い顔を見せられたら、わたし、つけあがってしまう。
 中身が大きく膨れ上がっている魔理沙のスカートの中へゆっくりと手を忍び込ませる。猶予は与えたつもりなのに、魔理沙はやっぱり拒否しない。それどころか壁に押し付けられたまま魔理沙の腕は私の背中に回っている。もう、そうするのならいっそ強く抱きしめてほしいのに! 魔理沙ときたらまるで臆病な童貞初年みたいにただ手を背中に乗っけるだけで抱き寄せてくれない。
 いいわ、魔理沙がその気なら私は、こっちを、可愛がらせてもらうから。
 魔理沙のスカートの中ですっかり自己主張している膨らみに触れる。ぴくん、ぴくんってはねている。それが、私のを求めて魔理沙が性的に興奮している証拠だと思うと、それだけで

「だめ、わたしもう」

 べちょべちょにぬれて役立たずになっているぱんつをぬぎすててからスカートを押し上げて、下品に濡れて火照った腐裂を晒して魔理沙の前に立つ。体が自由になっているはずの魔理沙は、呆然としたように立ったまま、でも目だけは私の股間に突き刺さっている。
 魔理沙の視線がそこに向いているのを認識しただけで、痛いくらい、あそこが、よじれてうずく。
 そのまま魔理沙のスカートもぱんつも剥きとって、勃起しきった棒を股に挟むようにして、また魔理沙の体に寄り添う。抱きついて、すりすりと体を上下に揺すって、媚びる。精神的な優位を得たり利益を狙ってのものじゃない、純粋な、性欲由来のメス媚び。心臓が早回しで吐息がふいご。あそこが、洪水。またに挟んだ魔理沙の肉棒に、私の愛液が塗りつく。

「霊夢、その、する、のか?」

 なにか信じられないような声で、それを聞く魔理沙。そんなこと聞かないでよ、できればなにも言わずに押し倒して逆転して、私をがんじがらめに抱き絡めて、乱暴に犯し抜いてほしいのに。

「目、つむって。じっとしてて」

 急にこんなことになって、魔理沙は体全体を、真ん中の棒と同じくらいにこわばらせている。でも、そのままいてくれればいい。これは、私ひとりで済ませてしまえばいいことだから。

「ごめんね、すぐ、済ませるから」

 太ももの間に、魔理沙の熱いものを挟む。肉の付いた私の股の間で、ぴくん、と震えるのを感じて、私の心臓は、後ろから木槌でなぐられたみたいに突き上がる。

(いれ……たい)

 かろうじて、口にだすのだけはこらえた。言っちゃ、だめ、それは。
 でも、魔理沙のが、「女」の内側にほしくてほしくて、おなかが痛いくらい。膣の中に毛穴があるわけがない。でも、まるで鳥肌が立ってぞわぞわする時みたいに、股の間がざわついている。みつを垂らして、くしゃみをする前みたいに焦っている。風邪を引いて熱があるときの頭痛みたいに、ずきずき熱を脈打ってる。若い頃に恋心とバンドルされていた性欲と、ぜんぜん違うのだ。この暴力的な淫欲は、内側から私を食い尽くすくらいに激しくて、へその下から私を突き破って目の前の獲物を貪ろうとする。

(ごめん、こんな、きたないの)

 魔理沙のほうがすこし背が高いから、太ももにそれを挟んだままにするには私は背伸びをしなきゃいけなくて。背伸びをしたまま太ももを閉じて、どくどくあつくてぴくんって跳ねる魔理沙のものを挟んで、背伸びのままだとバランスが悪いから魔理沙の体によしかかる。彼女もどくどく心臓が跳ね回っていて、それが私を求めているのだと思うと私の子宮の奥の欲はいっそう暴れたがる。

(ねえ、抱きしめてよ。この気持ちが悪い獣を、縛り上げて締め付けて、懲らしめてよ。それができるの、魔理沙だけなのに)

 身勝手なことを口走りたくて仕方がない。魔理沙に女性として、いや、メスの肉体として求められたくて、のどがカラカラになってる。
 太ももの感触はとんでもなく敏感で、他人に触られるどころか太ももそれ自体以外に触れるものがあまりない、新雪の雪原みたいなもの。魔理沙の熱いペニスを挟んであっという間に溶けて雪の下に寝ていた欲望があっという間にむき出しにされる。溶けた雪が、大量に液体になって滴った。

(ヤバ、い……よぉ)

 左腕を魔理沙の首に絡めて密着すると、太ももの熱い感触が、入り口に触れた。

「くぅっ……」

 噛み殺しても全く耐えられなかった。甘ったるい喘ぎ声が、奥歯の隙間を縫って漏れ出してしまう。

「霊夢」

 魔理沙の呼吸が荒くなっている。私の耳の傍に漏れてくる、少し低くて、耳の奥の方まで愛撫する声。ああ、頭蓋骨の中で、脳みそが愛液に浸ってるみたい。エッチなことでアタマが一杯になって、いま奥歯を噛みしめて我慢するのをやめたら、即座に魔理沙にセックスねだりしてしまう。
 ほしい、まりさのほしい、ちんぽほしい。セックスしたい、魔理沙とセックス。好きなの、ほんとに。若い頃の花火みたいな恋心じゃなくって、不純物だらけの溶岩みたいな性欲を、股の間で我慢するのをやめてしまいたい。

「まりさ、まりさ、もしヤじゃなかったら、たまに、名前だけ、よんで」

 れいむ。
 またすぐに名前を呼んでくれた。耳から極上のあまいあまい媚薬を流し込まれて頭のなかで何度も波打つ。私を不可逆に深刻に溶かしてしまう声。ただ名前を呼ばれただけなのに、よっぱらったみたいにからだが熱くてくらくらして、膝がくだける。へそから下のお腹の中がぐちゃぐちゃに溶けたみたいに、あついどろどろになっている。
 開いている右手で、オナニーする。ぐずぐずに煮崩れた入り口には、魔理沙のおちんちんが触れている。それを思いながら、豆オナ。もうムケてすごく張ってる。指を持っていったらすぐにナマの先端に指先が当たって。そのまま指が性欲まみれの別の生き物みたいに陰核を責め殺しに来た。

「はあっ、ん、っく、ふぅっ」

 魔理沙に全身の体重を投げ出して、もう閉じてる余裕がなくなった太もものどこかにペニスを感じられるように当てる。魔理沙も、欲してくれている。先端が発熱した内ももを撫でると、ひんやりとしたスジが追いかけてくるのがわかる。

(魔理沙の、カウパー……っ)

 太ももは粘膜なんかじゃないのに、彼女の欲情汁が塗りつけられてると思うと、ゾクゾク快感を撒き散らしてくる。挟んだまま体を揺すらせてムケた赤い肉棒を絞ってあげると、彼女の性欲の結晶がとろりと太ももに滴る。魔理沙も、いつの間にか両腕で私の体を抱きしめたまま、鼻息を荒くしながら私の内ももにちんぽの先やら雁首やらこすりつけて、腰振ってる。たまらない。
 私は押し付けて密着するからだ全身、太ももに当たる肉棒の熱さと、滴るカウパーの感触、それに

「れ、れいむ……」

 私の名前を呼んでくれるその声に、全身発情しまくってる。右手でこするアソコの濡れ方が、半端じゃない。ラヴィアは唇なんかより柔らかく、よだれを垂らして、だらしなく溶けて開いている。魔理沙の勃起したペニスに負けないくらいに、クリトリスは自己主張していて、私は全身で魔理沙を感じながら、めちゃくちゃクリオナしてる。
 はりつめたクリトリスをつまんだりこすったりしているのでは飽き足らず、もう中に指を入れてしまった。一本、すぐに二本。内側が圧迫される感覚に安心感を覚えちゃうなんて、私のからだはもう、スケベがしみついちゃってるみたい。指先をくって曲げて、膣圧で押し返してくる肉を押し込む。ぬるぬるの愛液でぬめってスムーズに出入りする指の感覚。膣肉がこすれて肉が押し分けられる感触も大好きだけど、オナニー慣れした私の体は、スイッチが入ってしまえば指の方もおまんこ大好きの代用ちんぽになっている。股の間でにゅっ、にゅって動くたびに指の腹とか関節とかつまさきに、柔らかくふやけて濡れたふかふかの肉と、締め付けてくる硬い膣筋の、波状運動が覆いかぶさってくるのを、指で感じるのもすっかり好きになってる。

「もうちょっ、と、だけ、からだ、かして……もうすぐ、おわる、からっ」

 太ももの表面を行き来する魔理沙のペニスの感触。はねている心臓の音、吐息、呼んでくれる名前。抱きしめてくれる腕。溶ける、私の全身。

「うっ、ん、ふぅっ……んくっ!」

 指を、膣の中で好き勝手に暴れさせる。腰が前後に揺れて、指は小刻みに奥の方を震えさせる。愛液が滲み出す場所が、興奮に従ってどんどん奥の方に潜り込んでいる気がする。最初は入り口から、だんだん中の方で滲むようになってきて、今は、一番奥の、メス専用の内臓から溢れてきてる。それって感じるポイントの移動とおんなじ。奥の方から熱とエッチ汁が出て来る感じになったとき、指は一番奥まで突っ込んでグリグリ自分を性的虐待するのがちょうど一番感じるの。

「ふぐっ、ん、んぅぅっっ!」

 子宮と卵巣なんて、もう私の体じゃない別の生き物。別の意思を持った淫乱生物。だって、自分の指なのに、この下半身ってば魔理沙のちんぽと勘違いしてめちゃくちゃ締め付けてくるの。マン汁どばどばたらして、目の前の惚れた相手に媚びまくってる。自分の指相手にはらみたがってる色キチ子宮が、今、私の体全体を支配してる。

「ま、り」

 首をもたげて、彼女の顔を見る。大好き。大好き。こんな歳になって、好きすぎてべたべたしたい甘えたいなんて恥ずかしいけど、でも、溶けたゼラチンみたいに好きエモーションが止まらない。魔理沙だってそんなふうに熱っぽい目で私のこと見て、私に欲情してる? そんな顔見せられたら、私の膣も子宮も、今突っ込んでる指をもっと締め付けちゃう。本気汁増量して、もっと感じちゃう。オナニーなのに、|低脳繁殖生物《失格少女》が孕み願望むき出しでうごめいてる。

「きも、ち、いっ オナニーきもちぃぃっ」
「れいむっ」

 キスっ、こんな時にやっと、キス。ただ臆病なだけなんだろうけど、そのせいで焦らされまくった唇が、一発で性器に化けた。魔理沙の唇がくっいた私の唇は与えられた体温に酔いしれた。彼女に吸われるのを望んでよだれを増量し、舌を突き出して無言のおねだり。魔理沙は私の舌を舌で迎えてくれて、吸い上げて、それにたまに歯で甘噛して懲らしめてくれる。性器化した舌は柔らかく甘噛されるたびに脳みそに興奮電流をぶち込んでくる。意識、吹き飛びそう。

(舌いれて、舌、もっとぐちゅぐちゅ、口の中混ぜてっ 魔理沙の舌ぁ、口の中犯してくるぅっ きもちぃいよお、キスすき、すきぃっ)

 ふぐっ……んぐ、ぶちゅっ、ちゅぅっ、くちゅっ

「まり……ん、さぁっ もっろ、もっろぉ」

 キスでべろべろに感じちゃったせいで、手マンがどんどん激しくなっていく。指で奥からマン汁掻き出して、それをぬるって引っ張るみたいにしてクリトリスのところまで持っていく。だらだら濡れた指を上下させてクリトリスを濡らし、人差指と中指で挟んだり左右にこすったり。クリは刺激強すぎてアクメまっしぐら、ひとりでオナニーするときはもったいなくってそこそこにしているけど、今は違うから。魔理沙に我慢させちゃってるから、早く済まさないと。

「ごめん、もうちょっと、だから、っ」

 勝手に股が開いて腰が落ちると、魔理沙のペニスは私のおなかのあたりに当たるようになった。ここ数年肉がついてみったくなく緩んだおなかを魔理沙の肉棒がつついて撫でて、たまに押し込んでくる。

(だめ、よ、魔理沙。私を欲しがったりしちゃぁ……魔理沙モテるんだから。おかずになっていて欲しいだけなのに、そんなにされたら、欲しいの、私、とまんなくなるっ)

 指が膣の奥の方のツラいところまで貪って、入り口の近くの弱いところを責めてから、にゅるっと粘液まみれになって出てきた指でクリトリスをいじる。イクためだけのオナニーはすごく効率的で、機械的。その分、早い。

「もうイク、イクっ まりさ、まりさ、ごめん、わたし、まりさでオナニーして、イク、のぉっ」

 魔理沙の顔を見る。好き、好き。私のだらしないおなかにちんぽ当ててせつない顔してる魔理沙、やばい。見てるだけで、くる。
 おなかに当たってるペニスの感触、これが、本当に膣をかき分けて私の中に入ってきたら、どんなだろう。指が出入りする代わりに、本物の魔理沙ちんぽが、マンコを出入りしたら。この熱くて先走り漏らしてる、魔理沙のいちばんビンカンなところが、私のいちばん大切な場所を侵略しに来たら。

(そんなの、私、ダメになるに決まってる……!)

 魔理沙の顔を見ながら、その下半身が私の陰裂をかき回しまくるのを想像して、願望のままに右手を動かす。濡れ膣を思い切りシェイクして、クリトリスを弾く。ひとりでオナニーしてるのと違う、目の前に本物があって、私の行為を見ている。

「まりさ、まりさあぁっ!」
「霊夢、エロすぎ」

 またキス。ここでされたら、キスしながらイッちゃう。キスされながらイッたりしたら、唇がアクメ覚えちゃう。魔理沙に、唇をマジイキ性感帯に開発されちゃうっ。

「っむんっち、ちゅっ、まりさ、キしゅぅ、きうっ、ちゅ、ちゅぱっ、きひゅ、らぇ、らぇらろぉ」
「ちゅっ、霊夢、霊夢 んちゅっ あむっ 霊夢」

 魔理沙の手が、頭をなでてきた。めちゃくちゃに手マンしてる速度を無視した、すごくゆっくりで優しい、でも魔理沙の方に頭を引き寄せられるすこしの強引さもあって

(や、だ、そういうの)

 とける。

 頭の中が愛液でべちょべちょになってる。勝手に溢れてくる涙も、鼻水もよだれも、ぜんぶ愛液。強さもプライドを失って|少女崩れ《メス》になった身も心も、魔理沙の|たらし《・・・》にかんたんになびいてしまう。イきかけの体に次から次に弱点調教コマンドを突っ込まれて、私、完全にとろけてる。

「はーっ、はへっ、まりさ、らめぁから、そーゅぅのぉっ……」

 上手な呼吸の方法とまともな心臓の動かし方をすっかりわすれてしまった私の体が、魔理沙の前でぶっこわれてる。性欲が暴走して目の前で興奮顔してる初恋の相手に、オナニー、止まんない。イク、イクイク……。
 ぐぐっ、と膣の浅いところにある好きなところを押し込んで、自分にとどめを刺す。もう、ずいぶん前から息の根を止めたかったはずなのに、ずいぶん長いこと自分焦らしをした気がする。だって魔理沙が、魔理沙の傍でこんな風にオナニーできるなんて。
 眼筋がゆうことを聞かない、ずっと見ていたかったはずの魔理沙の顔なのに、目の焦点が合わなくて左右二重に見える、まぶたが勝手に落ちてきて、力が抜けて言葉がうまく発音できなくなってるのはとっくにそうだ。

「まぃひゃ、らわ、イぅ、ぃきゅっ、まりさ、はっ、はひっ」
「霊夢っ!」

 名前を呼ばれてもう一回口付けられた。それが、トドメ。

「むぐ、っちゅ、まり、っちゅ、く、いく!い……くぅっ……いく、いくぅ、んんぅぅぅつつっ〜〜〜〜っ!」

 子宮を爆心地に、強烈な快感爆風が全身を吹き飛ばす。下半身に体中にぜんぶの力を吸い取られたみたいに、腰、背骨、それに手足に首のちからが入らない。股を開いたまま魔理沙に全身投げ出して、崩れた。
 抱きとめてくれた魔理沙は、まだアクメブレしてる私の体をぎゅうっって抱きしめてくれて、耳のあたりに小刻みにあっつい息が吹きかかる。イキあとの耳、すごく鋭敏になってるから、それぞくぞくしちゃうよぉ。

「ま、り……ごめ、んね、わたし」
「霊夢。霊夢っ、やっぱ、好きだ、霊夢!」
「〜〜っ」

 耳の傍に大量に、魔理沙の声で名前を置かれた。興奮ですこし上ずってて、でも、魔理沙の低い目の声の特徴が耳の奥をザラザラ愛撫してくる。

「や、やだ、やだやだやだっ、たまにで、いいってばぁ そんなに何回も、名前、呼ばれたら、呼ばれるたびに……っ」
「霊夢 霊夢 霊夢、霊夢 霊夢! ……霊夢 霊夢。霊夢っ」

 クールダウン前の性感帯に、ひっきりなしに致死量の|呼び声《愛撫》を突っ込まれて、アクメが終わらない、下がりかけて絶頂、冷めかけて絶頂、休まりかけて絶頂、ずっと絶頂。

「ひうっ! ぉほぁ、らめ、なまえ、みみ、らめ、イクっのぉっ! はっ、はっ、はっ、まりさ、すき、すき、わあしもしゅきぃっ! イク、まらいくっ! まりさ、まりしゃ、まいしゃ、まいしゃああっ!」

 もうアソコ触ってないのに、魔理沙に呼ばれるたびに何度も何度も絶頂して、マン汁べしょべしょ。体中の骨がなくなったみたいになって、後ろにひっくり返って倒れてしまった。
 股を大きく開いて、力の入らない腕は行き場がなくてふらふら、だらしないおなかが見えていて、まるで猫の降参ポーズ。
 私が体を離したから魔理沙のスカートはストンと落ちて、勃ったままのペニスがスカートを持ち上げてる。私の目はそれに釘付けになって、口を半開きにしてよだれを垂らしたままじっと視線を向けてしまう。

(やっぱり、ほし、い……)

 イッたばかりのアソコがきゅんってまたうずいた。淫乱まんこがよだれを垂らす。スカートに出来上がっているペニステントを見つめる目を、いつの間にか無意識に、私は色目に変えている。視界はピンク色になっていて、その中央で膨らみに向けてロックオンマーク。ハート型のホロサイト。
 降参猫ポーズのままその目でじっと見ていたら、魔理沙がすぐに覆いかぶさってきた。私の股の間に腰を挟み込むような感じ、腕はもう私の手首を押さえてて、逃がさないって感じ。イッたあとのぐちょぬれのアソコに、魔理沙の膨らみが当たる。ぞくんっ、てまた、くる。

「霊夢、せっくす、したい」

(こんなじょうたいで、ことわれるわけ、ないわよぉ……)

 私は小さく頷いた。
 |子宮《こころ》のそこから、魔理沙が欲しい。魔理沙に一つキスしてから、立ち上がろうとした、けど。

「……布団出すね」
「いい、ここで」
「えっ、ちょっと、あっ、ま、まりさ、ちょっ、布団くらい」
「いまさら、待て、なんて、ないぜ。えくすとらすてーじ、なんだろ、これ?」

 スカートをたくし上げた下ではもう、ぱんつはおりていた。魔理沙の手は乱暴に私の胸元を暴いて、晒をずらして剥きとってしまう。
 床はただの畳。ずっと私に土壁に押し付けられていた魔理沙は私をその場で畳に組み敷いて股間を寄せてきている。

「私はずっと我慢してたんだ」
「ごめん、すぐ済ませるつもりだったんだけど。焦らしちゃったよね」
「そういう『ずっと』じゃねえよ!」

 自覚より大きな声になったからか、魔理沙はふっと口をつぐんで目をそらす。

「何年、焦らされたと、思ってんだよ」

 そう言いながら、魔理沙は先端を入り口にあてがった。もう腰を押し出せば入る状態。
 眉がたれて、顰められているかお。頬はすっかり興奮で紅潮して息も荒いのに、魔理沙の表情は泣きそうにも見える。そんなに、待たせてしまったの?そりゃあ私、前は紫にぞっこんだったし。でも、魔理沙だっていろんな子とくっついたりはなれたりしたじゃない。
 でも下半身はよだれを垂らして魔理沙に賛同してる。先っちょをあてがわれた状態で、下の口は舌がないのを恨んでさえいそうに蠕いてる。私の本当の正直な気持ちは、そこが示している。今更違うなんてことはない。
 私は魔理沙を迎えるように腕をのばす。

「何年、またせちゃったの?」
「……10分くらいだよ」
「もう。そんなのばっかり」

 こいつのこういうところ、昔はよくわかんなかったけど、今はすごく、すきかも。
 本当は魔理沙のほうが一つかふたつ年下だと思う。私は自分の正確な年も誕生日もわかっていないけど、なんとなくそんな感じ。面倒くさいと思っていた魔理沙の年下っぽさも、なんだか年をとるごとに愛おしく思えてきて、本当、おばさん化してる。
 でもそんな風に私を求めてくれるの、そんなにそんなに真っ直ぐだと、下半身に来ちゃう。

「ごめん。魔理沙、きて。今すぐ、ここで、して。準備、いらないから」

 魔理沙は無言で腰を押し出して、先端を押し込んでくる。前戯なんていらないくらいべちょべちょだもん。本気汁でぬるついてるアソコ、掻き分けられる肉溝。押し出される愛液はこぼれて畳を汚す。

「んっ、き、たぁ」

 本物だ。指じゃない、本物の魔理沙ちんぽが入ってきた。体中が歓喜でざわついてる。ぞくぞく震えて、おへそのしたはよじれるみたい。手淫で達して着火したままの陰裂に本物のペニスが入ってきた感触と、そして実感は、一瞬で脳髄をふやかせた。体の芯まで媚びメスに落ちている。

「れいむっ ずっと、ずっと欲しかった、霊夢のっ」

 魔理沙がうわ言みたいに私の名前を呼びながら、奥まで差し込んだ淫棒をぐちょん、ぐちょん、と音を立てながら動かす。それにいちいち形を変えて応じながら悦蜜を垂らす淫花は、さっきまでのオナニーとは比べ物にならない濃密で芳醇な淫香を漂わせている。蜜自体も私を求めて動く雄蕊に答えるべく、ねっとりと糸を引きはじめていた。
 あの頃に比べて無駄に肉の付いた駄乳を、魔理沙の手は執拗に撫で回している。熟れて張りつめたクコの実みたいになっている乳首が押しこまれたりつままれたりするたびに、乳芯に甘いしこりが膨らんでいった。
 強く握るように揉みしだかれる肉毬。痛みが先行するものの、あとからはじんわりと甘い感覚が追いかけてきて背筋を抜ける。乳虐に私が感じているのを見て、魔理沙はいっそうおっぱいをいじめてくる。

「あふっ、こんなの、あんたにも、あるでしょっ……くふぅ」
「自分と相手のは、別だ、ぜっ」

 そう言って、充血した乳首を乳輪ごと口に含む。舌が、こんなにいやらしい責具だったなんて。魔理沙の舌が乳輪を回り乳首を突き包むたびに、だらしない声が止められない。

「ふぅ、ふうっ、んぁあっ、おっぱい……そんなにっ」

 しかも魔理沙が乳首いじめのために体を乗り出したせいで、下半身の結合がより深く強くなる。魔理沙のイキリ勃った雄槍が、私の蜜壺の奥をぐりっ、ぐりっ、と押す。メスの概念が直接愛撫されているみたいな、暴力的な性感。

「くぅ……ン、こんな、に、んっ!」

 体内で膨らむ重くて熱いペニスの感触は、ひとコスりごとにどんどん存在感を増している。私のアソコもぎゅうぎゅうと締め付けてしまって、魔理沙のペニスの反り返り具合からエラのはり方まで、わかるくらい。きつく絞まってる上に、媚粘膜はビンカンになっている。返しの効いた魔理沙ちんぽの雁首が、べっとり濡れてテラ光りする鶏冠みたいな淫肉を奥から引きずり出すたびに、一緒に私の喉奥からケダモノじみた嬌声が引きずり出されてしまう。

「くふ、ひンっ! あ、あっ! おヲっんっ!」

 擦り上げられて感度をました肉アケビはますます粘蜜を垂らして肉悦を体現している。ふやけて蠢き、なのに雄棒を悦びながら舐り回していた。腰を打ち付けられるたびに奥まで淫らな衝撃を感じて、その悦びは胎内全体にずっしりと蓄積されていく。

「いい、いいの、まりひゃ、しゅごくぅっ! 魔理沙の、動いて、動いてるっ! なかいっぱい擦れて、しゅごい、きもひ、んっ!」

 うまく焦点を合わせられない。ぼやけた視界の向こうに、私を求めて焦り顔で息を切らした魔理沙が、私を見つめている。激しく揺れているのは、下半身が私の肉穴を容赦なく掘削しているからだ。そのピストンのせいで私はもう全身スライムみたいに骨抜きになっていて、ちんぽ突っ込まれるたびにただただ、えっちな声を上げるだけの肉になっている。
 魔理沙が口付けてきた。舌が歯茎を、頬の内側を舐めるたびに、口の中が膣と直結したみたいに燃え上がる。舌にしたが絡みつくとクリトリスをつまみ上げられたみたい。口から愛液が止まらなくて、魔理沙はそれを飲んでいる。魔理沙の唾液を飲まされると、それは媚薬だった。喉を通っていに収まると、じゅん!と子宮が燃え上がって、肉桿のクビレが巻き込む淫襞の感度を何倍にも跳ね上げた。

「ぅうんっ! きもひ、ぃいぃっ、まりさぁ、まりさぁっ♥ おまんこ勝手に絞めちゃう、魔理沙のちんちんヨすぎて、きゅんきゅんしちゃうっ!」
「霊夢の中、すっげえ、うねってる……やば、いっ」

 イキそうなのか、魔理沙の動きが一瞬止まる。けど、私の腰のほうが勝手に動いちゃっていた。敷かれているからあんまり自由は利かないけれど、魔理沙のちんぽをぎちぎちくわえちゃってるのがわかる。ちょっとくらい腰を引いてもすぐに擦れなくて、柔らかくほぐれた肉襞がしばらくちんぽにしがみついてる。もっと動かすとやっと、ぬるってマン汁まみれの感触が伝わってきた。ぴくんって、魔理沙が中ではねてる。逆に腰を押し出すと、角度がずれるのか先端が責めてくる場所が変わる。チン先が手前側の肉を押し上げたとき、ぞくんって、キタ。感じるポイントに当たってみたい。

「ふぁ……♥ こ、こぉっ♥」

 場所を見つけてしまった私は、組み敷かれたままの無理な体勢で、その場所に魔理沙のおちんちんをこすりつける。
 好きなポイントに浅ましくペニスを当ててこすりつける淫らなメスブタ。好きな相手の目の前で、好きな相手の肉棒を使って、苦しい体勢でも浅ましく肉悦を求めて腰を振る。そこに魔理沙の先端が当たるたびに、私の子袋が、きゅううっきゅううって鳴いて喜んだ。背筋が痺れてのけぞるくらいの快感電流が走り抜けて、とんでいきそうになって魔理沙に抱きつく。

「ふぅ、ふぅっんっ♥」

 快感に伸び上がった私の腰を捕まえ直した魔理沙が、腰の動きを強めた。
 ぐちょっ、ぐちょっ、と淫らな水音が耳から私を犯してくる。茹で上がった敏感な乳は形が変わるほど揉みしだかれて快感発電機になっている。乳首をつままれれば快感電流で背がのけぞり、全体をもみ潰されれば色火が子宮を炙る。
 魔理沙が腰を突き出すたびに、花蜜はぼたぼたと滴って畳を台無しにしていく。膣壁淫粘膜はぞわぞわ何かに備えるように色めき立って襞を立て、ペニスに擦り上げられるたびにピンク色の火花をちらす。びくびく、くる。
 耐え難いほどの快感は、今は幸福感とほぼおなじ。魔理沙に生おかずになってもらうだけだったのに、押し倒されてセックスの流れになった。それも今はただ幸福感と満足感のディプロマクリームになって脳みそをたゆたわせている。

「魔理沙、まりさとせっくす、きもちい、まりさのちんぽ、きもちいいのぉっ♥」

 魔理沙の首っ玉にかぶりついて股で魔理沙の腰を挟み込んで、魔理沙のちんぽ絶対抜けないように抱きついちゃう。おまんこが魔理沙のこと絶対逃がすなって言うから、体が勝手に魔理沙にだいしゅきホールドしちゃった。

「魔理沙、イキそう? ねえ、私のぐちょぐちょ新古品まんこで、イキそうなの?」
「う、うん もう、出そうっ 霊夢、脚、離して」
「抜いちゃ、だめ。ずうっとおひとりさま専用マンコで欲求不満だったんだから。押し倒してセックスしたいだなんて、もう発情抑えきれない♥ ちゃんと責任取って、膣内射精、してほしいの♥」

 絡めた脚で魔理沙の腰を引き寄せるようにしながら、強制おちんぽピストンさせる。ビクビク限界痙攣してる魔理沙のちんぽ、だくだくって我慢汁出してる。乱れた淫乱肉壷の中でぴくんっ、ぴくんって射精我慢して身悶える魔理沙のふたなりペニスが愛しい。

「せ、せきにんって……ば、ばか、締めるなってぇっ、んくっ」
「前の生理、先々週くらいだったんだ。意味、わかるよね、ね?」
「おいっ」

 嫌がるかな。腰を思い切り引かれて逃げられたら、傷つくなあ。と思ってたけど、魔理沙のちんぽはまだ私のナカにいる。……嫌がっては、いないのかな。

「超危険日♥ 精子どぷどぷされたら、きっと絶対孕んじゃう日」
「えっ、ちょっ、まてって」
「あんたモテるくせに、私なんかに色目使うから、責任取ってもらうわ♥ 後悔しても遅いから」
「……霊夢!」

 挑発したら、魔理沙の顔つきが変わった。腰が止まって、私が脚で引っ張ってもほとんど動かない。膝でガッチリ止めてる。重なってた胸も離れて、ひゅうと冷たい空気が二人の間に入り込んだ。頭が近づいてきて、さっきまでの性欲まみれの顔ではなくなっていた。

「さっき私がゆったこと、忘れたのかよ。……後悔するのは、霊夢だぜ」
「えっ」

 ずんっ

「ク、ひっ……♥」

 言い終えるや否や、いきなり一番奥まで貫かれた。目の前がピンク色の火花でちかちか。魔理沙の顔をずっと見ていたいのに、焦点がずれてうまく見えない。
 熱くほぐれた雌穴を一気に奥まで穿ちぬいた愛しい肉棒に、肉襞はもう離さないとしがみついている。奥に奥に、送り込もうといやらしい蠕動で、おちんぽに不随意ご奉仕。膣襞がゾワゾワ動いて魔理沙のおちんぽに媚奉仕する肉ブラシになったそのセックス摩擦が、背筋を通って全身に伝播していく。体中の各部位で快感は、魔理沙の体温に触れて化学反応を起こし幸福感に変化する。

「いきなりぃっ♥」

 体が強張って言うことをきいてくれない。魔理沙の体を、まりさのちんぽを、離したくないって、抱きついた形のまま動いてくれないのだ。体中で炸裂する幸福感は、魔理沙とセックスしてるって記憶とどんどん結びついていく。これが女なんだ、セックスの快感と幸福感をくれたおちんぽを覚えて、その人に絶対お嫁さん服従するのが。

「れいむ、でる……」

 すこしかすれたような魔理沙の声。目をぎゅって閉じて、私の一番奥の大事な場所をこじ開けたおちんちんから、私殺しの最強の魔法の薬を、注がれる。

 びゅーっ! びゅっ、びゅーっ、びゅ!

「んうっ♥ すご、ぃ、すごいいっぱい、奥に、キテるぅっ♥」
「まだ、だっ! ずっとこうやって、霊夢とえっちしたかったんだ、こんなかんたんに、おわんない、ぜっ!」

 射精を繰り返し勃起も終わらない内に、魔理沙はまたピストンしてきた。さっきより、激しい。中に放たれた大量の精液が、ピストンで掻き出されて外に出ていく。グチュグチュ泡立って白くなった愛液と精液の混ざり汁が、どろりと溢れてお尻の穴にたれていく。
 容赦なく蜜壷をほじくりかき回す、魔理沙の愛棒。私も腰を振って魔理沙の腰の動きに併せて、下の口でペニスをなめなめして応えた。

「霊夢のなか、ほんとに、ちんぽとけそう……っ」
「そんなこといったら、んほぁっ、私の中なんて、もう魔理沙の形になってるんだからっ♥ 他のちんぽはフィットしない魔理沙専用のハメ穴っ♥ おっ、オ゛ぉ゛っん♥ ちんぽ、ちんぽしゅごいっ♥ ほへ、ほへぇっ♥ ちんぽしゅごしゅぎて、んふぅぅぅ〜〜ッ♥ イキそう、魔理沙、私イキそうっ♥ 魔理沙との恋人セックスで、子宮悦びまくってるよぉっ♥ おなかのナカ、きゅんきゅんってっ♥ 魔理沙のセックスにラブラブしてるぅっ♥」
「霊夢、ちょっとえっちすぎだろっ♥ んあア゛っ♥ 霊夢のマンコぬるぬるきゅっきゅで、すっごいっ♥ 私のふたなりちんぽ、めろめろになってる♥ ふぐっ、ふぐぅっッ♥ ちんぽ止まんない、腰振り種付けダンス止まんないっ♥ この穴から出たくないって駄々こねてるぅっ♥」

 体温と、一緒に好きの気持ちが高まり続ける。いい年した女が、夢中になって恋人セックス、子作り作業じゃなくって本気の愛欲セックスしちゃってる。膣内はもう私の言うことなんか聞かなくて勝手に魔理沙のちんぽをくわえこんで締め付ける。締め付けて強まるちんぽ摩擦が、気持ちいい電流をどんどん撒き散らして、それに喜んで腰も膣もハートの中も、ぜんぶがセックスもっとセックスもっとって循環しちゃう。

「はへっ♥ はへえぇっ♥ おまんこのなかでムクムクビクビクしてるちんぽ、ラブなのぉっ♥ もっと♥ もっとぉっ♥ 魔理沙♥ 魔理沙だいしゅき♥ だいしゅきぃっ♥」
「狭くてヌルヌルのまんこにずぼずぼとまんないっ♥ ちんぽ♥ ふたなりちんぽが、霊夢に種付けしたがっていう事きかないんだあっ♥ 中のコリコリに先っちょ押し付けると、竿がぜんぶぎゅううって絞まって、たまんない、たまんないぃっ♥」
「奥のそこはあっ♥ コリコリしてるそこは、ダメなとこっ♥ そこノックされたら、んきゅぅぅっ♥ そこ、されたりゃぁぁっ♥ んふっ、ふぅぅぅっっン♥ お、お゛ぉ゛っん゛♥ あかちゃんべやの入り口ノック、らめぇっ♥ そこ、カンジすぎるのぉっ♥」

 ぐぼっ、ぐぼっ、ぐちゅ、っぶちゅんっ
 抜き差しされるちんぽに、マンコ襞がしがみついて伸びる。赤色フジツボになって魔理沙のちんぽに食らいつく雌淫裂は、自分のものとはいえあまりにも浅ましい。でも今はその浅ましさが誇らしくさえある。そうして淫らに堕落していける自分を喜んでさえいる。目の前に、私のことをずっと大事に思ってくれてた人がいて、私を女として所有することを求めてオスの象徴を奥深くまでぶち込んでくれているのだもの。その肉体的プロポーズに即座にオッケーを出した私の雌躰を、今は褒めてあげたい。

「ねえ、イク、いく、イクいくっ、魔理沙、私のマンコイクっ! あ、ああ、っく、いく、いくいくいくぅぅっ♥」

 下半身が爆発したかと思うとその閃光は瞬く間に全身に広がって全身を痙攣させた。背筋がのけぞったまま、脊髄が甘い波動を発し続ける。噛みちぎってとどめをちょうだいと降伏してみせる反り返って曝け出される白いのど。魔理沙はそののどにかぶりついてキスの雨を降らせる。
 ちゅっ、ちゅうううっ、ちゅっ、すごいバキューム音。絶対キスマークだらけになる。私が魔理沙のものになったっていう証明サインが、首、そのまま鎖骨を折りて、無駄に膨らみ続ける胸、肉がついてきたおなか、おへそ、そして今イッたばっかりの。

「はへっぇっ!? おまんこ、チュー吸い、だめっ♥ いまイッたとこだかりゃ、クンニなんかされたら、わた……ふぐぅぅゥ゛ぅっっ〜〜〜〜っ♥ オっ、ヒぃ゛っんッ゛♥ 今オマンコ、ダメなのっ♥ イッたばっかりで、またすぐイケちゃうアクメ激アツなのぉぉっ♥」
「ちゅうぅぅっ、ちゅぶっ、きゅちゅくちゅっ、霊夢のマンコすっげえ臭い。本気汁でベチョベチョ、これ完堕ちマンコの媚匂だぜっ チュルルっるうっ! 私のザーメン出てこないな、奥までごっくんしたのか?」
「ホひいぃっ♥ 魔理沙のザーメンはぁ、もったいないから絶対吸い出させないもん♥ 受精完了するまでぜんぶ私のっ♥ ん゛っほぇ、ほひぃ゛っ♥ バキュームクンニらめッ♥ クリにキスだぁめぇぇ゛ぇっ♥ またイク、またマンコイクっ♥ イグぅっイグイ゛グイ゛グぅ゛ぅぅ゛ッ〜〜〜〜〜っ♥ のけぞりアクメまたくるぅっ♥ オほオ゛ッ゛♥」
「うわっ、霊夢潮すっげえっ 太ももびくびく痙攣ながらおしっこみたいにのけぞり潮吹き、エロすぎっ! たまんねえ、またいれるぜ、霊夢♥ また種付けするからなっ♥ 私のちんぽもイキ後敏感状態だから、早漏ちんぽになってるからなっ、またすぐだらしなくザーメンどば出しする、ぜっ♥」
「おっん゛♥ またキタぁっ♥ また奥までっ、ちんぽで女の子の大切なところ容赦なく串刺しっ♥ きもぢい、きもぢぃよお゛っ♥ ずぼずぼっ♥ もっとじゅぼじゅぼぉっ♥ 種付けピストンしてぇっ♥ 絶対受精するからっ、絶対妊娠してあげるからぁっ、魔理沙に責任取らせちゃうからぁっ♥ おっほ、おっほぉおおっ♥ ちんぽすごい、ちんぽすごいちんぽすごいちんぽすごいぃっ♥ 感じる、かんじるかんじるぅっ♥ もう何がなんだかわかんないのぉっ、キモチよすぎて、なにされてるのかわかんないぃっ♥ ほぉっほっへぁあぁァぁああ♥ おまんこきもちい、きもちいいっ♥ 魔理沙ちんぽ好き、好き、すきすきすきぃん♥ 行き遅れ巫女のオマンコ、完全に魔理沙専用のヌキ穴になっちゃったよぉっ♥ 魔理沙が私のマン穴オナホにしてくれて、私幸せすぎて馬鹿になっちゃうぅっ♥ もっと、もっとごりごりしてっ、ズボズボっ、腐れ巫女の淫乱雌穴、ハメたおしてぇっ♥」
「可愛すぎ、エロすぎっ♥ 熟女手前の淫乱巫女マンコ、すっげえ絡みついてくる♥ エロすぎて、興奮しすぎて、ふたなりちんぽ反り返りまくるっ♥ びきびき痛いくらい勃起、破裂しそうだっ♥ 肉穴に突っ込んでコスってるだけで腰、ぬけるっ♥ 腰溶けるっ♥ なのに止まんない、止めたくても止まんないっ♥ じゅぼじゅぼいやらしい音してマン汁ドバドバのエロすぎマンコとラブラブセックス、求められてマジでピストン止まんないっ♥ ちんぽ幸せっ♥ 霊夢と念願の子作りセックス♥ ふーっ、ふーーっ♥ ケダモノみたいに種付けバイブズとまんねえぜっ♥ 絶対、ゼッタイ受精させるからなっ♥ おまえの子袋、精子でたっぷんたっぷんになるまで、ザーメンそそぎまくってやるからなっ♥ おおっ、んっ♥ でるっ、また出るっ♥ イキ後早漏ちんぽ、またザー汁噴いちまうぅっ♥ おぉオっ、おおぉおっ、出る、でるでるでるっ♥」
「まって、まって私もイキそう、魔理沙の本気種付けのヨがり顔可愛すぎて、マンコズボズボされるのと一緒に見てたら、私もぞくぞく止まんなくって、子宮ノックでイキそうっ♥ 一緒に、ねえ、一緒にイこおっ♥ 一緒にアクメしよっ♥ 魔理沙と私の夫婦の最初のラブラブ共同作業、しよぉっ♥ キテっ♥ 射精寸前の限界勃起ちんぽで、子宮の入口突きまくってっ♥ お、ぎた、きたぎだぁぁ゛っ♥ イク寸前のクライマックスピストン、きたぁああっ♥ すっごい、すごすっぎ、マン汁泡立ちまんこ、おちんぽでめくれるっ♥ ぎもぢよすぎっ♥ 奥のコリコリ、めちゃくちゃノックしてる♥ あ、あ゛ぁ゛ッっ゛♥ イク、イクいくイクイクイグイ゛グイ゛グイ゛グぅ゛ぅぅ゛ぅ゛っっッっ゛っ〜〜〜〜〜♥」
「は、孕めっ! はりゃめ、はらんぢまえこの売女ぁっ♥ ふたなりまじょの汚れた子種で堕落しちまえ、淫乱巫女ぉっ♥ でる、でるでるっ♥ 種付けするぞ、霊夢、種付けするぞ、種付けっ♥ 種付けェッ♥ んほぉっぁぁぁっ♥」
「んんン゛ぅぅっ♥ さっきよりすごい、いっぱいっ♥ アルコールみたいに膣の中にジュワァって、クるぅっ♥ 子宮の中までどばどばはいってくるっ♥ イキまんこ、ちんぽくいしばっちゃうぅっ♥ ほぁへっ……♥ しゅごい、しゅごいのぉおっ♥ 余韻アクメおさまんにゃい……っ♥ まりしゃのじゃーめん、活き良すぎっ 私の中でうじゃうじゃしてる♥ 私のタマゴ目指して卵管遡上中っ♥ やだ、やだぁっ、私のオナカの中で魔理沙の精子うじゃついてるの想像しただけで、またイクっ、いくぅっっ♥ まりさ、だっこ、抱っこしてっ♥ だいしゅきだっこ♥ ん、んぅんんん゛〜〜〜〜〜〜っ゛♥」
「イッたちんぽがマン肉に舐め回されて、残り汁まで吹き出しちまうよぉっ♥ 吸い出されるっ♥ みこまんこに精子すいだされっ♥るっ♥ん゛っ♥」

 爆発炎上してその吹き戻しみたいに、私も魔理沙も急に、しん、と静かになった。その間私は魔理沙に抱きついたまま絶頂硬直で動けなかったし、魔理沙は射精後の法悦喪神でがくがく揺れていた。ふたりともうめき声も出せなくて、私は虚ろな意識で魔理沙をなんとか視認して、口づけをねだった。
 魔理沙は唇を返してくれようとしたみたいだけど、同じく意識が飛びかけてる魔理沙のキスは、がちんって、当たって痛かった。







 睫毛と瞼をこして入ってくる日光が眩しい。朝の気配に目覚めを強制され、別れを惜しむ上瞼と下瞼を引き剥がす。
 あのあと、布団を敷いてお互いすごい乱れ方をしたのを恥ずかしがって苦笑いのまま『寝よっか』なんて言ったのに、そのあとまた二回くらいシた。魔理沙の「男の子」がギブアップしたので、今度は魔理沙の「女の子」とレズった。最終的にどれくらいやったんだか覚えてないけど、まだ日は昇ってなかったから大した時間ではないだろうと思う。多分。やりすぎてヒリヒリひするし、まだなんか入ってる感じがする。
 また、無意識の内に布団を左に寄って寝ていたらしい。でも、今朝の目覚めは、右側は空白ではなかった。冬の朝の冷たい空気を払う、温かい体が、横たわっている。

「魔理沙」

 起こさないくらいの声で、つい、名前を呼んでいた。

 まだ寝たままの魔理沙の顔。宴会とかで酔い潰れてるこいつを見るのは、もう数えきれないくらい。でもそれらのどれとも、今見える魔理沙の寝顔は、違っていた。
 不思議と、気持ちが、しん、と静まる感じがする。二日酔いの割れそうな頭で叩き起こす時とも、若気の至りで体を重ねて惚けてくっついてた時とも、違う心持だった。ただ傍に潜り込んで、静かに寄り添っていたかった。彼女に自分の存在を主張するんじゃなくて、その逆。ただ気に入りの万年筆みたいに自然に傍に置いといて欲しい。気に入りの口紅みたいにここぞという時には密やかに使って欲しい。気に入りの腕時計みたいに普段から気兼ねなく頼ってほしい。
 腐れ縁、なんて言葉が通用するのも精々若い内だけだろうけど、私と魔理沙の間にあるのは腐れ縁が更に干からびたような、酷い奴だ。二十年以上一緒に過ごしていて、別々に生きていた頃のことがあまり思い出せないくらい。一緒にいることに何も感じなくなっていたけれど、でも、そんな相手だから、透明な冷たさが居座ったままだったこの右側を、するりと埋めてくれたのかもしれない。

 どんなにうらぶれた今日も、あらゆる過去の肯定の上に成り立っている。他人にひけらかすことが出来るようなきらきらした今日じゃないけれど、成功も失敗も偶然も事故も全て通り過ぎて、途切れずなお続いている今日なら、言うほど悪くはないと、思いたい。
 魔理沙と同じ朝日を見る羽目になってしまったこと、もしかしたら20年後には間違いだったと思うかもしれないけれど、20年後まで繋がる今に違いはない。こんな今日を、ただの間違いにはしたくない。間違いなら間違いで、それもひっくるめて「ま、悪くはないでしょ」と思えますように。
 右側で暢気な寝顔を晒してるその額に、唇を軽く乗っける。寝ぐせのついてるブロンドを撫でて、なんだかまた堪らなくなって再び布団に潜り込み、魔理沙の肩と耳の間に頭を押し込んだ。
 流石に目を覚ました魔理沙に気付かない振りをしていると

「やっぱ、霊夢らしくない。可愛いからいいけど」
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自分用。一応SSの体を成したので投稿。

【20180114】
・パクリ元を記載。タグのひとつについて、これに関るため残置。
・指摘いただいた誤字を修正。有難うございました。


【パクリ元】
八十八ヶ所巡礼「国民的攻撃的音楽」
八十八ヶ所巡礼「赤い衝動-R.I.P-」
SYNC.ART's「Bichrome」

【参考作品】
拙作「八紅一憂」「花絡堕」「筋書き通りのスカイブルー」


【20180227】誤字を修正しました。
みこう悠長
http://monostation.blog112.fc2.com/
コメント




1.しゅうさ削除
老いていくのは止められず、劣化していくのだとしても、大切なのは「自分」がどう在るべきか、改めて考えさせてくれる作品だったと思いました。
レイマリのエッチも最高でした。「霊夢と魔理沙がいちゃいちゃするだけの話」もとても好きでしたが、今回のエッチも獣みたいなんだけどラブラブもあって滅茶苦茶良かったです。ラブラブが好きなんです。
咲夜とパチュリーの関係がどうなったかずっと気になっていたので、「いろいろあったけれど」に参考作品の「スカイブルー」があったので、あの関係にどう決着がついたのかまた楽しみが増えました。(以前twitterでパチュリーのキャラクターは作っていく途中と呟かれておられましたので一区切りついたのかなとも思いました)
今回も素晴らしい作品ありがとうございました!
2.たまねぎくん削除
エロ以外の部分に主眼が置かれてるんだと思いますが、この二人みたいなカップルになれたら素晴らしいと思いました。中学生みたいな感想で申し訳ありません。
私が理解できないのは、夜伽話に創想話のようには採点機能がついてないことです。
まあこの作品は採点なんてしなくても100点……と言いたいところですが誤字が多いので90点、どんなに悪くしても80点は間違いなくありますね。
作者様の今後の健闘をお祈りしております。スランプもあるでしょうし描きたいものがない時もあるでしょうが、このレベルであれば後は書き続ける、継続することが最も重要な課題になるでしょうから、どうか書くことをお続けになってください。

というか、死ぬまで名作を書いてくれよなー頼むよー。いや、佳作でも駄作でもいいから書いてください。お願いしますね!
3.たまねぎくん削除
それから、故意なのか失敗なのか、レミリア・スカーレットの名前が間違っていますね。
故意としか思えないのですがなぜそのような間違いをする、もといしているのですかね?
4.性欲を持て余す程度の能力削除
玉ねぎくん…もといホモガキくん、成人するまでは夜伽話を見るべきではないしコメントなんてもってのほかだからさ、上から目線の意見とかまるで見当違いの指摘とか、唐突に馴れ馴れしく語録使うよりも学校のお勉強に精を出しなさい
5.みこう悠長削除
>4様

お気遣いありがとうございます。
上から目線やなれなれしい口調については、
私自身が看過できないときのみ私から直接申し上げますので、大丈夫です。

なお、規約に従うと
・コメントは基本的に作品に対しての使用のみ許可される
・コメントによる他コメントへの誹謗中傷は許可されない
・閲覧/投稿の可否は成年か未成年によってではなく「18歳以上かつ高校生ではない」か否かによって規定される
となっております。
規約を再度ご確認ください。

よろしくお願いします。
6.性欲を持て余す程度の能力削除
ああああ!好きなっ、過去作のっ、設定盛りだくさんんん!
過去はいつも気づかないうちに遠くにあって、人としての自分の歩みがどこかぼんやりとして、周りや時代の流れが眩しく感じて、大人なんだからと納得してみても、時折に顔を覗かせる“あの頃”に手を伸ばしてみたくなる
人間である限り当たり前のことなのに、概念や体裁に捕らわれた霊夢は本当に人間臭くて、けれど魔理沙やレミリアの気持ちが近く感じるほどに気取りすぎていて、でもやっぱり、彼女は楽園の素敵な巫女のままでした。ほんともう、盛り上がり方が半端ない
厨二全開なレミリアのセリフがまた格好いい……幼さのなかにある信念や吸血鬼らしい強大な力が生み出すギャップなのかもしれませんが、こういった役を演じるに彼女の右にでる者はそういないでしょう。しゃがみガードではくれいこわいは笑いました(とても見たかったです鼻血)全体的に静かな流れが続いていたので、今回は淫語控えたのかなと思った矢先!溜めて溜めて溜めてからの怒濤の淫語ラッシュなパコラッシュ!ぼくもう疲れたよ…(搾り取られすぎて)ふたなり魔理沙が一瞬で男の子スイッチ入ってしまう場面は霊夢よろしくどきりとしました
レズマリでもきっと乱れまくったのでしょうね。心のホロサイトの拡大率全開で変換して二度楽しめますね、最高です。レミィと咲夜もあのあとしっぽりと楽しんだのかななど想像が膨らむエロさと面白さでした
とても楽しめました、ありがとうございました
蛇足になってしまいますが誤字報告にて終わります↓

きょうも、どこではない。→どころでは
「だれでもいいからつれてきなさいよ、もうゆずから」→ゆずるから?
も30ちかくにもなって、→もう30?
魔理沙の服をなにてきとうに見つくろおうとタンスを引く。→なにかてきとうに
空気を読まないマイペースででかき分けて、→での衍字
たいした遠いところでもなかった。→たいして
有色の城ではなく無職の白だ。→無色
そいつに向かって向かってことばを吐け!→向かっての衍字?
あのフォークは独立した吸血能を持っている。→吸血機能?
レミィが15年前よりも進んだ術を講師するのと同じように、→行使する
「そう、私、ただ、ただ単にに、あのとき私は、あんたのその思想が、→にの衍字
私の周囲と、それと彼女自身の司法全体に警戒を払っていたレミィの左足に、→四方全体?
すみませんまた続きますorz(文字数)
7.性欲を持て余す程度の能力削除
「……なんだ、やっぱまやモヤってんのか」→まだモヤって?
私の旨の中にあるこんなに大きなものが、→胸の中に
そのままここの時間だけ泊まっている。→止まって
オナニーを我慢安価できなかった。→我慢なんか
ふたりもうめき声も出せなくて、→ふたりとも?
体温と、一緒に好きの気持ちが高毬続ける。→高まり
もしかしたあ20年後には間違いだったと思うかもしれないけれど、→もしかしたら?

以上です。今回自信のない部分はありませんでしたが、それでも意図部分がありましたらすみません汗
それでは、長々と失礼しました
8.性欲を持て余す程度の能力削除
投稿から時間が経ってしまっていますが、 久々に覗いてみたら常連作家さんの読み応えのある力作が!と思いまして、コメント失礼します。
レミリアとの戦闘のくだりは純粋に質の高いバトルアニメを観ているような臨場感があり、紅魔郷~永夜抄、萃夢想が発売されて間もないころに頒布されたバトルもの同人誌とか、90年代頃のバトルものアニメの猪突猛進で痛快な感じとか、アニメに限らずその頃の時代に人気のあったあらゆるポップカルチャーの良い意味で濃厚な厨二的エッセンスを凝縮して、郷愁と言うには未だ鮮やかな色褪せないそれらセオリーの集合体がみこうさんの独特のセンスで料理されている印象で、楽しめました。
女性キャラクタの描写も、Hシーンは最盛期のエロゲーも真っ青のまさに弾幕!という狂気を感じさせる程の相変わらずの圧巻のみこう節炸裂ですし、平常時のシーンも180度変わって凪いだような穏やかさ、透明感があり<幻想郷の少女>的美しさを感じました。
東方Projectも長寿作品になりつつあり最近の原作の動きにはあまりついていけていないのですが(汗)、今作に登場するキャラクタは馴染み深い面々でスムーズに読むことが出来ました。
今後の作品も楽しみにしております。