真・東方夜伽話

魔理沙がおかしくなった話

2017/11/03 12:15:26
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魔理沙がおかしくなった話

たまねぎくん

魔理沙がおかしくなって、それを心配したアリスが皆に相談する話

 博麗神社に珍しい人間がやってきた。魔法使いであり、人形遣いでもあるアリス・マーガトロイドだ。普段は魔法の森にある家で暮らしていて、神社まで来ることはあまりない。
 霊夢との雑駁そのものの会話を酒の肴にするために、いつものように神社を訪れていた萃香と、たまたま、妖怪の山などの住人達の様子を伝える用事のあった早苗の二人を合わせて四人が、神社に集まることになった。挨拶もそこそこに、アリスは心配そうに切り出した。
「魔理沙がおかしいのよ」
 だが、誰も驚かない。はっきりした反応はない。
「ふうん」
 早苗はこともなげに言った。それより、何か別のことが気にかかっている様子だ。今日の夕食のおかずのことでも考えているのかもしれない。
「いつでもそうでしょ」
「うん」
 霊夢と萃香はそう口々に言った。霊夢は加えて言った。
「大体、努力家だとか何とか形容されるけど、私よりあいつの方が変人だわ。みんなは誤解してるけどね」
「え、そうですか?」
 早苗はそう口を挟んだ。お茶を入れつつ、霊夢は続けた。
「だって、あいつは何でも四角四面に考えるでしょう? 融通が利かないのよ。妖怪とあらばすぐ退治しようとするしね」
「なるほど」
『融通が利きすぎる方がおかしい。それに、妖怪を退治するのは霊夢と早苗の方だろう』
 と思ったが、萃香は黙っていた。ぶん殴った所で、怒るでもなくなぜ殴るのだろうと不思議そうな顔をしてこちらを見つめてくるような面々だ。何を考えているのかも判らないし、普通の人間の常識が通じる相手でもない。それこそ基督みたいに、殺そうとしてきた相手にも笑いかけるかもしれない。勿論それは相手へ慈悲を持って相対するということとは限らないし、狂気に陥っているのでもない。だからと言って、相手を油断させるための戦略というわけでもない。ただ、普通の人間とはとかく次元が違っているというだけなのだ。
「まあ、そりゃ大変だねえ。おかしいなら何とかしなきゃいけない」
 アリスが何か言い募る前に、機先を制して萃香がそう話した。自分を含め、アリスがこの油断ならない三人に対しての態度を決めかねていることを察して、そう案ずる必要はないと教えるためと、円滑に意思疎通して話を進められるように、との配慮からだ。
「そうなのよ」
「具体的には?」
 萃香が言った。
「魔理沙の家が訳の解らない魔法の書かれた紙で一杯になって、その上部屋の片付けもしないから、まるでゴミ屋敷のようになってしまって……助けてあげなきゃいけないわ」
「勝手に助けりゃいいでしょ」
 霊夢がぶっきら棒に言い放った。
「大体において、あいつが家をゴミ屋敷にした所で何も驚かないわよ。あいつの蒐集癖は知ってるでしょ」
「そういうことじゃないわ。今回はそうじゃなくて……大変なの」
「小鈴の家に行ったことはある?」
 霊夢はそう問い返した。
「え?」
「あいつの家なんか、間口はそんなに幅がないのに、家の後ろ側が迷路のように入り組んでいて、恐ろしく懐が深くなってるのよ。そうでもなければ、膨大な本を収納するなんてどだい不可能なの。本に限らず何かを蒐集しようと思ったら、普通の家では出来ない。広さがとんでもなく大きいか、普通の住居としての機能を犠牲にしてでも、まあ……そうね、そんな家には住みたくないけれど、犠牲にして倉庫として使うしかないわね。いくら幻想郷の住居が外の世界より広い造りだからって、限界があるのよ」
「まあまあ、霊夢。アリスが心配してるんだよ? やっぱり何か理由があるよ」
「いつも以上におかしいと?」
「まあ、そうだ」
「面倒ねえ。あいつ個人の問題だし、異変とも言えないようなことだし……放っておいたら元に戻るんじゃないの?」
「冷たいわね」
 アリスは鋭利な刃物のように鋭く言い捨てた。
「霊夢。それじゃこの神社に誰も来なくなるよ? それに知ってるだろう。アリスは魔理沙に対して特別な気持があるんだよ」
「なっ! そ、そうよ。そうに決まってるじゃない」
「まあそれも、アリスに限ったことでもないようだけどね。私の知る限り数人の妖怪と人間が魔理沙に……あいつは普通の性的嗜好の持ち主だから、嬉しくはないでしょうね。困惑してるんじゃないかしら」
「普段はどうしているんですか?」
 早苗が訊いた。
「そりゃあ、内心では穏やかではない筈なんだがな」
「そんなことないわよ。鉄面皮な上に鈍感で、無神経を通り越したお人よしなのよ。だから誰が何を考えていようがあいつには関係ないわけ」
「そんなことがあるものかねえ……」
「今更何言ってるの? 馬鹿じゃないの?」
「ふっ、この幻想郷で珍しいことでもないのは知っているがね」
「私も神奈子様、諏訪子様のことはお慕い申し上げておりますが」
「酷いカマトトね」
「カマトト? 違いますよ。ただ私はそうだと言っている……ええ! そういうことではないんですか? ということは、同性でありながら……」
 萃香は目を眇めて露骨に呆れて見せながら、グビリと音を立てて瓢箪から酒を飲んだ。
「まあこんな奴は放っておいて、魔理沙を何とかする算段を練ろうか」
「どうにかするって、どうすればいいのよ」
「それは今考えてるよ。酒を飲みながら」



 魔理沙の家。青白い顔をしたこの家の主が、一心不乱に何かを書いている。
「オー、オー、オー。次は……エヌシーさん。次はピーシーろく」
 魔理沙が書き捨てた紙には、アルファベットと数字がいくつも書いてある。まるで暗号のようだ。
 コン、コンと、ノックの音がしても、魔理沙は振り向くことさえない。外の世界の家と違って扉などに密閉性がないので、外から発せられた声は魔理沙のいるテーブルの前までよく届くようだ。だがそれでも、何の反応もない。ただ、ひたすら自分の行為に熱中していて、何が聞こえても静謐の中にあるが如しの心境なのであろう。
 だが、その病的な没頭の最中には殆ど食事も睡眠も取らないせいか、悪鬼羅刹もかくやという風体で、いつ死んでもおかしくないと言っても過言ではない有様である。
「おおい、大丈夫か魔理沙?」
 萃香の声がする。
「魔理沙、魔理沙! 何してるの! 返事しなさいよ!」
「ビーエックスエイチご……」
「魔理沙!」
「面倒臭いよなあ」
 そう声がするなりギギギギ……と凄まじい音がして、続いてバリバリ、と扉が音を立てた。その直後、蝶番と反対の向きに、引き戸のように扉が開かれた。
「大丈夫かー、魔理沙?」
「魔理沙! 今の貴女はおかしいんだから、扉に鍵をかけちゃダメと言ったでしょう」
「おかしくなってる奴にそんな言い付けしても守るわけないって。みんな心配してるぞ、魔理沙……」
 魔理沙はそこで不意に振り向いた。その魂の抜けたような表情と、亡霊のような佇まいに、流石の萃香も言葉を失った。アリスが目に涙を溜めて、それが絨毯と、足の踏み場もない程に散乱した紙の上に落ちた。霊夢が言った。
「アリスも私も心配してるわよ」
「放っておけ、って言ってなかったっけ?」
「そう言っても心配は心配よ。どうしたの?」
「……別に」
 辛うじて魔理沙に近い霊夢と萃香が聞き取れる位の声で魔理沙が呟いた。
「別にって何よ。普段の元気な貴女はどこに行ったのさ」
 まるで意中の男を前にした内気な少女のように、たどたどしく魔理沙は言った。
「何でもない」
「はあ? いい加減にしないと怒るわよ? このお払い棒を持って来てよかったわ、これで活を入れて……」
「待って! そんなことをして魔理沙の精神状態がこれ以上荒廃したら、廃人になっちゃうわ」
 霊夢はアリスの言葉を内心鼻で笑いつつ、振り上げた手を下ろした。
「……まあ、そういうことがないとは……言えないというより、0.000001パーセントぐらいは考えられるかしら。じゃあどうしたらいいわけ?」
「私もぶん殴った方が早いと思う」
「でも、魔理沙さんは妖怪じゃないし、ノビちゃいますよ? 下手したら死んじゃうかも」
「下らんな。とっととぶん殴って……」
「コラー!」
 本棚から一番分厚くて丈夫そうな本を咄嗟に取り出して、アリスが萃香の角のない部分を角で思い切り殴った。
「いて! 何すんだコラ!」
「外に出なさい、相手するわよ」
 萃香は怒鳴ったものの、アリスのあまりの気迫に感じる所があったらしく、魔理沙の方に振り向いた。
「で、結局あいつは……」
 そこで早苗が、床に落ちている紙を拾い上げて言った。
「あ、これはチェスの棋譜ですね」
「え?」
「私は知ってますよ。将棋の羽生善治さんがグランドマスターに勝った棋譜だけですが、並べたことがあります」
「ほう。それは助かった。つまり魔理沙は何でか知らんが、その『ちぇす』とやらに入れ込んでるわけだ」
「そうなの。そんなことなら私達が一々心配してやらなくても……」
「いや、ダメよ。そういうことなら精神病の一種だから、きちんと治療しなきゃ」
 アリスはそう心配そうに早口で言った。
「お前は医者か。こんなの放っておけば治るんだよ」
「これだから鬼風情は……話にならないわ」
「鬼を馬鹿にするなよ! 力だって強いし頭もいいんだぞ!」
「私の40パーセント位かしらね。まあいいわ。もし皆が見捨てても私が何とかするから」
「どうやって?」
 霊夢が訊いた。
「まずは話を聞きましょう。魔理沙はこの状態になってから、私に何も話してくれてないのよ」
「おいおい。そりゃ凄いな。口を利く暇もないのか」
 萃香がへらへら笑いながら、心配そうなそぶりも見せず言った。
「それだけ熱中しているってことね」
「大変ですねえ」
「はあ……とにかく私は心配なの」
「ちょっと私、用事を思い出したわ。じゃあね」
「え、ちょっと霊夢!」
「心配しないで。その内戻ってくるから」
 霊夢はそう言って出て行った。
「冷たいねえ」
「でも、心の中には熱いものを秘めてる人だと思います」
 早苗がそう返事をした。
「そういう話じゃないんだけどな……まあいい。私に考えがある」
「え? 何ですか?」
 萃香は返事する代わりに、大声を張り上げた。

「私もチェスがやりたい!」

 何も起こらなかった。魔理沙が羽根ペンで紙に文字を書き付けるために時々インク壺に羽根を浸す静かな音が微かにするだけの、静謐が続いた。ややあって、早苗が言った。
「反応がありませんね」
「おかしいなあ。ダメか。まあ、私も人格者だからまずは家の中の片付けでもやるか。見た所流しも食器だらけだし、ゴミも出していない。この足の踏み場もない位散乱した紙も、一箇所に積み上げた方が片付くだろう。捨てたらまた魔理沙が何か言うかもしれんし、とりあえずはそうするのが上策だろうな」
 三人はシンクから魔理沙の家を片付け始めた。片付けながら、萃香は呟いた。
「しかし……片付けてる間に魔理沙がまた紙を散らかすし、あれを止めさせてから片付けたい所なんだけどなあ」
「私も話しかけてみましたけど、返事もないですし、コミュニケーションが取れない状態ですね」
「可哀想だわ」
「いや、本人は案外幸せかも知らんけどね。しかしあれは、中々治るもんじゃないと私の勘が告げているんだけどね。そもそもあれは、何をやってるんだ?」
 暫し考えて、アリスは言った。
「解らないわ」
「そうだよねえ。何かに取り憑かれているみたいだけど」
「私もおかしいと思ってるのよ。普通だったらお腹もすくし、会話位できる筈なのよ。普通じゃないわ、本当に」
「私もそう思います!」
「うん。何をやってるかは私も判ってきた。ずっとその、『ちぇす』とかいうものの棋譜を書いてるみたいだねえ。だけど、そんなことをして何になるのか、やっぱり解らんねえ」
「そうよね。早苗、貴女は解る?」
「え? ええ、ええと……うーんと……あ、そうだ。チェスの練習じゃないですか?」
「ほう。確かに囲碁でも将棋でも棋譜を並べるのは練習になるが、このわけの解らんアルファベットを一杯羅列した所で、練習になるのかねえ?」
「とにかく私は、魔理沙が元に戻ってくれたらそれでいいの。そのためなら……いや、何でもないわ。とにかく助けるわよ。早苗、貴方も手伝って」
「はい! 私に出来ることなら何でもします! で、何をすれば?」
「え、ええと……とりあえず後ろから頭を叩いて正気に戻してから考えれば……」
「やっぱりぶん殴るのが早いんじゃん」
「いや、待って。それより羽根ペンを取り上げればいいわ。そうすれば書くのを止めるでしょう」
 アリスは再びずかずかと魔理沙の背後に近づいていって、羽根ペンを持っている魔理沙の右手に自分の右手を近づけた。
 途端に魔理沙は、アリスの右手に噛み付いた。
「いたたた! 魔理沙! 何するのよ」
「こりゃ完全に動物だなあ」
「何かが憑いてるの?」
「いや、そういう感じでもなさそうな……なんだろうね一体?」
「ただいまー」
 そう言って、霊夢が帰ってきた。紫もいた。
「紫を呼んで、一緒に永遠亭まで行ってきたの。それでこれを貰ってきたわ」
 霊夢の持っている手提げ袋には、瓶が入っていた。
「何ですか? 薬?」
「そう、自白剤。これを魔理沙に飲ませて、話を聞きましょう」
「そんなこと言っても、全くこっちに関心がないんだからどうしようもないんじゃないか?」
「そんなことないわよ。永琳も魔理沙に蓬莱の薬を飲ませた事実はないと言ってたし、人間だから水ぐらい飲むわよ。とっても美味しい紅茶も用意してるから、これをこっちのテーブルの上に置いておけばその内飲むわ。面倒だけど、私も忙しいわけじゃないから付き合うわよ」
「霊夢……」
 アリスは泣き出してしまった。
「ありがとう」
「この位お安い御用よ。紫にも感謝しなさいよ」
「ええ」

 そして、およそ二十四時間後、魔理沙が暫くぶりに待ちくたびれた皆の方へ振り向いた瞬間。
 霊夢は紅茶を入れ始めた。魔理沙は、皆に向かって話しかける。萃香は酒の飲みすぎで寝ていた。
「水をくれ……」
「いい紅茶があるわ。よかったわね」
「紅茶でもいい。喉が渇いたんだ、水をくれ」
 入ったわよ。
 魔理沙は、ティーカップに入った紅茶を一息に飲み干すと、また言った。
「もう一杯くれ」
「いいわよ」
 テーブルには二つのティーポットが置かれている。どちらも同じ紅茶を同分量の湯で抽出してあって、ポットそのものは同じなので区別がつかない。
「私達も飲んでいいですか?」
「いいけど、こっちのポットじゃない方からにしてね。自白剤が入ってない方に」
「解ってるわよ、それ位」
 アリスはそう言いながら、自分のカップに紅茶を注いだ。霊夢は再び元の場所に戻って、紙に棋譜を書き始めた魔理沙の背後に回った。
「あのー、こっちじゃなかったですか?」
「何言ってるのよ。霊夢がこっちと言ったんだからこっちよ」
「さっき霊夢さんが指した方はこっちでしたか? こっちだったような気がしますが」
「え? こっちで合ってるわよ」
「そうですか?」
「そうよ」
「そうですか。ならいいんですけど」
 アリスは早苗の分も紅茶を注いだ。早苗とアリスは、同じポットから紅茶を飲んだ。五分後、霊夢が言った。
「魔理沙、結局貴女は何がしたいのよ」
「強くなりたいんだ」
「チェスで?」
 そこで魔理沙は振り向いて言った。
「そうだ! 私はチェスのプロになる」
「幻想郷で?」
「そうだ」
「棋譜を書いてるのはなぜ?」
「強くなるためだ」
「いや魔理沙、棋譜を書いたって脳内盤で並べられていなかったら意味がないよ」
 不意に起きた萃香が言咎めた。
「いや、そんなことない! 絶対に意味がある。よく解らなくても、棋譜を覚えれば上達できる」
「そうかしらね……」
「そっか。じゃあ私、もう一度寝るから」
 萃香はまた寝てしまった。
「努力は裏切らない」
 魔理沙はぺたんこの胸を張った。
 ややあって、霊夢は少し反論めいたことを言った。
「普段の理知的な貴女らしくもないわね。その辺の妖怪がいくら頑張った所で、私より強くはなれないのは解り切ってるじゃないの。ましてや競争相手もいないのに一人で強くなれると思ってるの? 第一、目的がないじゃないの。強くなってどうしたいの?」
「別にどうもしないぜ? それ自身が目的だから」
「楽しいの、それで?」
「楽しい……ってなんだ? 私にはよく解らない」
「えっ」
 そこで紫が割って入った。
「永琳を呼んでくるわ。重症だもの」
 紫がスキマの中に姿を消すと、早苗が突然叫んだ。
「友愛! 友愛こそが全てです! 世界は平和にならなければならない!」
「ど、どうしたのよ」
「そのためには妖怪は排除するべきです!」
 早苗は両手を水平に上げてから、それを顔の両側に立てて万歳をし、また水平に戻すという動作を何度も繰り返し始めた。やかましいので、萃香が目を覚ました。
「んあー、早苗。なんだその運動は。友愛体操か?」
「そんな感じです」
 アリスが今度は問わず語りを始めた。
「私はそんなことより……魔理沙とセックスがしたいわ。勿論本当のセックスは出来ないけど。レズセックスなら出来るでしょう? まだ一回しかしてないし、気持ちよくないなんていわないでしましょうよ」
「ふうん、してたんだ、そんなこと」
「ほう。実に興味深い」
「アリスさん、恥じらいを持ってください! 私も興味がないとは言いませんがみんなの前で話すようなことじゃないでしょう! そんなことより問題は世界平和をどうやって実現するかです。幻想郷の平和をどうやって守り維持するかです」
「そんな七面倒くさいことを考えてたのね、貴女って」
「面倒くさくてもきちんと考えないと!」
 萃香が霊夢に言った。
「自白剤の入ってる方を二人とも飲んだらしいね」
「そうみたいね……私が迂闊だったわ。でも大丈夫、魔理沙が何とかなればいいのよ」
「まあ、そうだよね。放っておこう」
「世界平和!」



 数分後、紫が一人で戻ってきた。
「残念なお知らせがあるわ。永琳はこんな所には来たくないんだって」
「じゃあ、どうするのよ」
「いや、原因が判ったわ。永琳の作った、月ではありふれた薬を飲んだのが原因よ。放っておけば元に戻るらしいわよ」
「あいつ、私にはそんなこと言わなかったわよ?」
「訊かれなかったから教えなかったんだってさ」
 霊夢は怒りを顕にした。
「舐めた奴らよ」
「何でも記憶力と集中力が増す薬らしいんだけど、薬の効果がある間はあるデメリットが現れるらしいわ」
「どんな?」
「アホになるんだって」
「麻薬みたいなものかしら?」
「違うわよ。依存性も害もないらしいの」
 萃香がまた酒を飲んでから言葉を発した。
「それはいいけどさ、魔理沙が『ちぇす』とかいうものをどれ位できるか、ちょっとテストしてみないか? 相当強くなっていないとおかしい筈だから」
 霊夢は肯いた。
「それは面白いわね」
「そんなことより私はセックスしたいわよ。今すぐでも」
「解った解った」



 紫が外の世界のパソコンを魔理沙の家に運び、魔理沙はそのパソコンに入ったソフトとチェスを指すことになった。
「ようし、じゃあ、こうだ!」
 魔理沙はクイーンの前のポーンを二つ前に出した。
 その後はスラブディフェンスになったが、魔理沙が着実にナイトを中央に出そうとするのを不思議な動きで阻止し、あっという間に黒有利になった。
 チェスは先攻の白がとても勝ちやすいゲームだが、あっという間に白は数で負けてしまい、最後はルークでの一列殺到が決まった。魔理沙の負けである。
 その後何度やっても、それどころか途中でアンドゥしても魔理沙が勝つことはなかった。
「そ、そんな……努力は……努力は裏切らないはずなのに……」
「あのねえ、棋譜を写経みたいに写すんじゃなくて、せめてチェス盤で駒を動かして勉強しなさいよ」
「う、うう……わだしは……負けない……負けないぞ……はっはっはっはあ!」
 そう言って、魔理沙は後ろに倒れこんだ。
「大丈夫かしら」
 心配する霊夢に、紫は人差し指を立てて言った。
「私達は教訓を得たわね。もっとも、ずっと前から知っていることだけれど」
「何?」
「努力より才能が物を言うってこと」
 魔理沙が、がばっと起き上がった。
「努力は裏切らない!」
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