真・東方夜伽話

(天空璋ネタバレ)僕と、世界と。

2017/08/13 15:28:18
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(天空璋ネタバレ)僕と、世界と。

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※注意:天空璋5ボス、6ボスネタバレです。



 僕たちは笑っている。
 いつでも、悲しいことがあっても、捨てられても、苦しめられてさえ、笑っている。そのように生まれつき命じられたからだ。二度目の生を受けてから。
 芸事を見せる時には笑っているようにしつけられる。たとえそれが取るに足らないバックダンサーであっても。
 僕たちは踊っている。
 捨てられた赤子だから。忌まわしい子供だから。母親が怖くて踊るのはどんな子供でも同じことだけれど。捨てられて人間でなくなってしまったから。
 僕たちは見えない。
 この世界は扉に満ちている。たくさんの扉がこの世界にはあって、たくさんの世界に通じているのに、僕たちはどこにも行き着くことが出来ない。ただ笑って、踊って、この世の全てを見て見ぬふりをする。
 外から巫女が来ても、魔法使いが来ても、全ては変わらない。
 僕たちはただ、お互いに開いた扉をまさぐる。上下の唇に挟まれた口腔を、陰唇に挟まれた膣穴を。
 その先がどこにも通じていないのだということを知りながら。





 僕たちが人間だった頃のことを、里乃も僕もあまり覚えていない。多分、障碍の神である隠岐奈にかどわかされたということは何かしらの障碍を得て生まれたのだろうが、僕たちはそんな苦しい時代のことなど覚えてはいないのだった。
 僕たちの記憶にあるのはこの世界に連れてこられてからのことだ。隠岐奈は隠岐奈だけで自分の居場所を作っているから、普段の暮らしは里乃と僕の二人だけで過ごしている。
 無数の扉と闇だけがある後戸(うしろど)の世界は、よりどころがなくて、僕たちはほとんどずっと身体を触れあわせていた。そうしているのが自然なことだと思えた。
 家らしい家もなく、部屋らしい部屋もなく、ただ宇宙に漂う小惑星や恒星のように僕も、里乃も、たくさんの扉たちも、ただ虚空の闇に浮いているだけのこの世界はひどく殺風景だ。
 扉は時々開いては、その向こう側の輝ける景色を垣間見させてくれる。その光はとても美しくて、今居る世界がどうにも退屈なものだということをしみじみと分からせる。
 でも、僕たちは命じられるまでは外の世界に興味を持たなかった。そこは、もう置いてきたものたちのための世界だから。
 僕たちはとても空虚で、身軽で。
 ただお互いしか持っていないのだった。

「舞は、万有引力って知ってる?」
 里乃がある日言った。
「何それ」
 僕は眉をひそめて問うた。聞いたことのない言葉だ。僕の知らない言葉を里乃が知っているというのが不快だった。
「全ての質量を持った物体は、小さな引力をお互いに持っていて、引かれあうんだって」
 里乃はそっと遠くの扉を指さした。僕はもたれていた彼女の肩が動くのが不快で、わざと彼女の腕に自分の手を絡めた。二人の身体が密着する。くっついていないと落ち着かない。
「あそこの扉、ちょっとだけ開いているでしょう。本棚が見えるの。この間、あそこから辞書が流れてきて、暇つぶしにたまにそれを読んでる」
「里乃は勤勉だね」
 僕は目を細め、それから猫が甘えるように彼女の頬に自分の頬をすりあわせた。
「じゃあ、何さ。僕が里乃にくっつきたがるのは、他のいろんなものが持ってる万有引力と同じだっていうの?」
「……そうは言ってないけど」
「そういう風に聞こえたよ、僕には」
 里乃の頬を両手で挟み込み、口づけた。たっぷりと唾液を含ませて、柔らかい唇を堪能する。
 彼女とキスをするのは、僕が不機嫌なことの合図。
 たくさん甘やかして欲しいという気持ちの表れ。
「僕は、ごめんだよ。僕のこの気持ちが、そういうつまんない法則と一緒にされるのは」
「……そんなこと言ってないじゃん」
「そう聞こえたよ。責任とって」
「まったく」
 里乃が吐息だけで笑う。僕は里乃がそうやって甘やかしてくれるのを知っている。しょうがないなあって、笑うのが好き。
「してる途中で隠岐奈に呼ばれたらどうするの」
「つながったまま行ったら怒られるかな」
「知らない。『面白い趣向だな。そのまま踊れ』とか言うかも」
「ありうる」
 僕たちはくすくす笑った。

 僕たちは、僕たち以外に何もないところでつながることに慣れすぎているけれど、何かを寄処(よすが)にしなければうまく腰を打ち付けることも出来はしない。今日はとびきり激しくつながりたい気分だった。
 そういうときに僕たちはたくさんある扉の枠にもたれかかる。声を出してもどこかの誰かが気づかないように、出来るだけ分厚い扉を選ぶ。新しく力を必要としないほど強くて、鈍感で、世界の裏側になど絶対に気が付かないような奴の背中に寄りかかって、僕たちはお互いの身体をむさぼり合うことにした。
 僕は里乃の唇の上をゆっくりと舌でなぞる。その輪郭線を確かめるようにして唾液を塗りつける。同時に手の指が彼女の身体の線を順番になぞっていく。彼女の身体の在り方が、僕とそっくり同じであるかどうかを確かめるように。
 お互いの服が色違いのほとんど似たデザインであるのと同じように、僕たちの背格好はずっとよく似ていたような気がする。
 かつての僕たちはそうあることを決めた。ここに来るよりも前の話。ずっと同じであるようにと願った。だから人間をやめた。
 僕はそうなのだと信じていて、里乃はたぶん、そうではない。彼女は慎重だから、そんなことで人間をやめたりはしないだろう。
 僕の服のフリルの付き方やスカートのシルエットが、里乃のそれと違うことに、僕は目をつぶる。指先の感覚だけになってしまえばそれらはただのくしゃくしゃの布で、それに、服を脱いでしまえば僕たちはもうただの裸の女の子だ。
 抱きしめた肩からゆっくりとなぞって、僕は彼女の半袖から伸びた肘の内側に触れる。皮膚の柔らかいところに優しく触れる。里乃の息がほんのわずかに弾む。僕は知らないふりをして、彼女の身体を扉の枠に押しつける。木の堅さに挟まれて、彼女の息が止まる。
「きょう、ちょっと、らんぼう……」
「そうしたいの。させて?」
 僕は甘くささやく。里乃は許すように、僕の頭をそっと抱いた。
 彼女ののど元に口づける。僕たちはずっとこの世界に閉じこもっているから、日に焼けたことがない真っ白な肌。たぶん、人間の死体よりも白いだろう。
「僕は里乃が好きだよ」
 まるでうわごとのように言った。服の上から彼女の胸を揉む。ほんのわずかな膨らみであることに、僕は安心する。
 僕たちはもう人間ではない。だから成長することはない。子供のままでいられる。ずっと、このままで。
「んっ……」
 里乃が小さくうなずく。こくりと唾を飲んだのが分かる。首筋の薄い皮膚。とくとくと波打つ血管の動き。僕たちは人間でなくて、それでも心臓を動かして生きている。どういう仕組みなのかは知らない。興味もない。
 背中に手を回して、ワンピースのホックとボタンを外す。すべすべした彼女の背中に指が触れる。その背中には扉はない。そのことに安心する。僕たちは見張られていない。大丈夫。だいじょうぶ、きっと。
 里乃の長い髪が指にからむ。さらさらと砂が流れるような音がする。彼女の、甘い香りがする。
 僕の指先と、彼女の肌と、どちらがどちらなのか分からないぐらいに同じ体温と、柔らかさで。僕は自分だけが服を着ているのが馬鹿みたいで、彼女の唇に軽くキスをして、甘える。両手を前にさしだして、小首をかしげて。
「ぬがせて?」
 それを聞いた里乃は少しだけきょとんとして、それから、しかたないわね、と笑う。
「舞ったら、自分ばっかりがっついて」
「だって、自分で脱ぐのやだ。さみしい」
「行動力があるのはいいけどね」
 そして、里乃は僕の背中に回り込む。わざとじらすように僕のうなじに指を走らせて、ボタンをゆっくりと丁寧に外す。僕はもどかしくて身じろぎする。
 彼女は僕の骨格を指でなぞる。肩胛骨を、背骨を、肋骨を順に撫でていって、小さく息をつく。
 僕は尋ねる。
「ねえ、大丈夫?」
「ええ。大丈夫よ」
 里乃は、細かく言わなくても分かってくれている。何が大丈夫なのか。僕の背中にもまだ扉はないということ。僕たちは僕たち自身だけで完結しているということ。やっかいな潜在能力などなくて、僕たちはこれ以上何者にもならないのだということ。
 僕たちは誰もいない世界で生まれたままの姿で抱き合う。四季のどこでもない時間、どこでもない場所で、僕たちはただ身体を熱くさせて抱き合う。四季が巡ることのない場所で、僕たちはお互いの時間を拘束する。
 里乃の全ての場所に口づけを落とす。僕自身も里乃の唇に全てを蹂躙される。お互いの頭を、お互いの股の間にやって、そこからこぼれ落ちた蜜をなめる。とろとろになった花弁がすっかりほころんでしまって、僕たちはお互いに指と舌とで愛し合う。
「……ふ、ぁ……」
「里乃、さと、の……」
「すき……まい……」
「んっ、ぁ、きちゃう……」
「いっしょ、いっしょに……」
 僕たちはどちらがどちらの声を出しているのか分からない。名前をうわごとのように呼んで、間違えることさえある。
 僕が里乃で、里乃が僕で。
 きっとたぶん生前は一つの生き物だったかもしれない。身体が一つで頭が二つあるような。
 僕はそれでもよかったのにな、と快楽でぼんやりした頭で思う。
 彼女の指先で性器を撫でられて興奮して、彼女の膣が愛液で濡れているのを見て心臓が狂おしく鳴る。頭の中で性的な刺激が渦を巻いて、お互いが同じものを感じていることを信じるために、甘い吐息が喉を鳴らす。
「ゃ、あ……」
「すき、ふぁ、そこ……」
 全身の筋肉が快楽と絶頂で張り詰めては緩み、痙攣しては弛緩し。寄せては返す波のように、終わりのない性交が扉だらけの宇宙で続く。


 何度目かの恍惚の後で、少しの間まどろむ。
 目を覚ました時、里乃はとっくに服を着ていた。手には分厚い本。暇つぶし用の辞書だとかいうものだろう。
「おはよう」
「……おはよう」
 寝ぼけている僕に、里乃が口づけを落とす。
 いつだったかも、こんな風だったような気がする。人間だったころも、いつも里乃はしっかりもので、僕の方が粗忽者だ。
 里乃が言う。けだるげに目を細めている。
「コーヒーがないのだけは、残念ね」
「誰かの背中から盗んでこようか。手を伸ばしてひょいって、さ」
「捕まったらどうするの」
「ちょうどいいんじゃない。仲間を増やすのに」
 僕たちはそんな冗句を言いあって笑う。
 そしてまだ僕たちにも、僕たち以外に愛する物があることをあらためて知る。

(了)


 お久しぶりです。最後に投稿したのが2013年10月という事実に目の前がくらくらしますが、皆様いかがおすごしでしょうか。
 ついに東方が公式で僕っ子を出してくれやがったので、こうして久々に復活せざるを得ませんでした。
 リグルとかナズーリンとか、これまでにもツボにはまるキャラはいろいろおりましたが、こうして公式で僕っ子が出てくると、感激もひとしおです。本当にありがとうございました。
 舞くんは粗忽者なのに僕っ子腹黒っていうのがなんかもう死ぬほどツボです……。そして相方の里乃ちゃんとのそこはかとなく双子コーデっぽいところが好きです。
 そして元人間というね……設定がね……しぬほどもえるよね……しんだよね……しんだ、かくじつに全宇宙のわたしがしんだ。平行世界全部飛び越えて全ての時空の私を殺しにかかっているとしか思えない設定でした。
ではでは。

あ、そうだ、宣伝。そういえば夏コミに出てました。紅魔館のほのぼの全年齢です。よろしければどうぞ。
https://www.melonbooks.co.jp/detail/detail.php?product_id=270448
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コメント




1.性欲を持て余す程度の能力削除
新キャラごちそうさまでした。
2.性欲を持て余す程度の能力削除
ああ、仕事が早い、、さとまい最高ですありがとうございます