真・東方夜伽話

筋書き通りのスカイブルー⑤

2017/03/22 01:46:32
最終更新
サイズ
131.63KB
閲覧数
963

分類タグ

筋書き通りのスカイブルー⑤

みこう悠長

読まないでください

「みすちがいない」

 ルーミィが不思議そうな声で入ってきた。

「もう朝は寒いし、風呂でも入ってるんじゃねーの。すぐ出てくるだろ、雀の入水っていうし」
「言わないよ!?雀さんがするのは行水だからね!?」
「するのはからすだよ」

 チーが不穏すぎることを言うから、という訳ではないが、心配になる。

「おうちにいなかった。おうちの中も、きちんとしてあったし」
「買い物かな?でもこんな朝早くじゃ人間の店は開いてないし。リグル知らないの?」
「うん、全然……」

 ボク達四人は、朝方だいたい、これくらいの時間に顔を合わせる。ローリーはボクと同じく夜行性だから、そう決めた最初は辛そうだった。ボクも辛くて、二人で起こしっこしてた。ルーミィは案外適応が早くて、チーは最初から朝方だった。慣れてからは一緒の時間に起きて一緒に色んなことが出来るのが楽しくて、あっという間にみんな昼間に活動するようになった。そろそろ秋も深まって朝には冬を感じる、冷えた空気の匂いが鼻孔に入ってくるようになった。夜行性でなくても朝は結構つらい。おふとんと添い遂げたくなる。
 だから、ちょっと何か用事でも足しているのだろうと思う。この場に集まらないのはみんな寝坊と相場が決まってて、おうちに行ったら寝てるとか、大慌てで準備中とか、そんなことで済んだ。でも今日のローリーは、どうも見つからないようだ。

「探そう」

 チーが言う。大したことじゃない、どうせすぐ戻ってくる、何事もない、と、みんな危機感をひた隠すために日常や平穏に軸足を置きがちな時でも、チーだけはいつも、直感に素直だ。いっつもおバカなことばかり言ってるけど、こういう時にすぱっと行動しちゃうのは、四人全体の救いになっている。

「あたいは湖の方見てくる。」
「わたしはやかたのほう」
「ボクは森見てくる」
「手の空いてる『ともだち』がいるなら、ミスティアの家に一匹」
「ローリーの家の近くのいる『ともだち』……うんとね、ごきぶ」
「違うのにしてやれよ、な?」

 なんで皆あんな綺麗好きで強くてカッコイイ子のことを目の敵にするんだろう。

「じゃあてんとうむしさん?」
「うん、それがいい。うん。」

 ボクはてんとうむしさんにお留守番をお願いして、チーが湖の、ルーミィが紅魔館の方に行くのを見て、森の方へ向かう。森の中を探すつもり、ではない。そんな悠長にしているつもりなんか、無かった。
 森の中で、ボクはちょっとだけ力を使った。髪の毛をみみずさんはりがねむしさんに、手をくもさんとざとうむしさん、目をかぶとむしとさん、耳をかめむしさんとこのはぎすさん、まつげをげじげじさん、舌をなめくじさん、唇をひるさん、鼻をぞうむしさん、脚からちょうちょさんととんぼさんを、右足をたまむしさん、左足をはんみょうさん、おなかからへびさんとかなへびさん、こしからかえるさん、爪からだにさんはえさんはちさん、おへそからかたつむりさん、背中からせみさん、お尻はだんごむしさん、に変えて、みんなの声を一斉に出した。
 色んな音が一斉に鳴って、森の一角が一瞬でおおきくざわつく。それからすぐに、一斉にいろんな虫達が、僕の周りに現れた。

「「「「よびだしちゃってごめんね。虫の報せサービスを、お願いしたいんだ」」」」

 基本的に彼等は、ボク達や人間なんかと違ってただ生きるために必要な分だけエネルギーを蓄え、生きることですっかり使い果たすゼロエミッションな存在なのだ。だから、ボクのお願い(実質命令になってしまうのだけれど)なんかきいてエネルギーを浪費するのは、それだけでも死活問題。人間相手の「虫の報せサービス」は、それなりに好評を得た部分もあったけど、結局……従事した虫たちがぼろぼろと死んで行ってしまったので、やめた。ボクはどんな虫とでも会話出来るけど、他の子たちは違う、蝶と蜻蛉は会話ができないから、情報の完全なバケツリレーは実現できなかった。それはいずれ、虫、という存在が昔のようにもっと大きな力を取り戻してから、もしくはボクがみんなの分のご飯≪マカナイ≫をちゃんと用意できるようになってからにしよう、そう思っていたのだけど。

「「「「人探しをお願いしたいの。いや、まだ深刻な事態にはなっていないと思うから、見かけたら、でいいんだ。虫の報せサービス、報せるのはボクに。あ、お手伝いしてくれた子には、ごはん≪エネルギー≫あげるよ。安心して」」」」

 すぐ戻ってきてくれたり、すぐ見つかるのならそれでいいのだけど。ボクは、もしかして、の可能性を拭い切れないでいた。幽香さんは、すこしおっかないけれど、酷いことはしない人だとは、思っている。実際にでこぴんとか、足蹴にされたり、踏みつけられたり、家事全般をやらされたり、お店の仕事は殆どボクがやってたり……あれ、結構酷い。いやいや、そういう事ではなくて、居なくなってしまうとか、生きていなくなってしまうとか、そういうことは、しない人だ。昔は人間や、格下の妖怪を呑み込んだりしていたと、紫太妃が言っていたのを覚えているけど、今はそんなことはしていないらしい。そうでなければ博麗の神社に顔を出したりできないはずだ。
 そういえば管理者たる紫太妃は別格として、幽香さんは当代博麗と仲がいいようだ(本人はそういうと否定するが)。今でもたまに人間を食べるボクらは博麗の巫女の前では恭順の意を示さなければならないのだけど、幽香さんは全くいつも通りなのだ。でも、当代の巫女は、結構妖怪が人食べること割と放置気味かな。「私に見えないように喰え」みたいなところはあるかもしれない。
 そんな「最近は随分大人しくなった(紫太妃談)」幽香さんだけれど、ローリーに対しては、何かしでかすのじゃないかと言う、嫌な予感があったのだ。

(ローリーとえっちしたの知ってたし、それで、ボクにあんな、こと、したし)

 幽香さんに抱かれたことを、思い出した。少し思い出しただけでムラムラと沸き上がるものがあったけれど、今となってはそれだけではなく感じられていた。ローリーと幽香さんの間に、何かあったんじゃないか。幽香さんは「好きじゃなくったってセックスは出来る」と言っていた。幽香さんはボクのことを好きなわけでもないのに挑発して誘惑して、セックスしたのだろう。ローリーと張り合うためだけに?欲情と不安が混じって、煮ても焼いても処理できない不定位な感情が生まれる。

(……ただ、遊ばれたのかな)

 ともだちがローリーを探してくれているというのに、ボクはもやもやとした感情を、胸の中に押し込めて、押し込めても押し込めても膨らんで蓋を押し上げて顔を出すのをまた押し込めて、そんなことを考えていた。
 幽香さんとローリーの仲が悪かった様子は、今迄は一度だってなかった。むしろボク達の中では幾らか大人びたローリーは幽香さんの思うところを少し理解しているようでもあったし、幽香さんからの対応も相応のものだった。ローリーのことは大切に思っているし、幽香さんのことも同じ。「すき」という言葉に直してしまうとどうしても同じ枠の中で大小を比べさせられる気がして、その言葉に収めるのは好きではないのだけど、それでも言うのなら、二人ともだいすきだ。その二人が仲違いするのは、辛い。その原因がもしかしたらボクなのかもしれないとしたら、ボクはどうすればいいのだろう。お腹痛い。
 ローリーは、ボクのことを好いてくれているみたい。でも幽香さんは違くて、ボクのことを好きではないのだと、いうようなことを言っていた。なんで、仲違いなんかするのだろう。ボクなんかのあずかり知らぬ理由があるのだろうか。

 ともだちから、それぞれがもつ断片的な情報が入ってきた。insctSVCHostへスイッチしたボクは、四鬼童子の一角が戯れにやるみたいに薄く広い存在になって、指先で範囲内を手探りするように虫の住まう広い範囲をサーチする。もっとも、分散末端はただの虫だから極環境へいける子は限られてしまうしそんなに万能ではないのだけど、たとえばコインの一枚を探し出せというのではない、人型大の存在を見つけるだけなのだからそれはすぐに済むと思っていた。
 だが、蓋を開けてみるとそうはいかなかった。今いるこの森を中心に、水が滴り水溜りが広がっていくように、「不在」タグが埋まっていく。チーやルーミィが探している頭上と足元とすぐ横を通り抜けてもうかなり広い範囲を探っているけど、ローリーの姿は見つからない。

(ほんとに、いない……)

 いやな予感だけが、募っていく。ボクは虫の報せサービスを終了して、お手伝いしてくれた子にエネルギーを配分する。

「……ぅぅ~」

 たくさんの子が手伝ってくれたおかげで一気に広い範囲を探査できた分、一気に疲れが来た。ローリーの姿は見えない。でも、まだサービス実行中に範囲内だが探査していない幻想郷領が、三つだけあった。一つは博麗神社の本殿。ここは禁足地への入口で、ある妖怪以外は立ち入れない。ただの虫は入れるが妖力を介した場合はそれを拒まれる。ある妖怪とはもちろん紫太妃で、彼女の住処こそ博麗神社の本殿を主たる門(あの方には出入口の概念が基本的に存在しないが)とする、回遊偏在の楽園、禁足地『迷ヒ処』だ。そこが二つ目。

「行ってみようかな」

 虫の報せサービスで探せないのであれば自分の足で行くしかない。当代の博麗の巫女、霊夢さんは、下級妖怪に優しい。少しつんとしたところがあるけど、嫌な性格でツンとしているのではない。幽香さんと似ているかもしれない。その代の巫女ごとに、博麗の妖怪に対する接し方はかなり変わるけど、当代博麗は無礼さえ働かなければ、普通に接してくれる珍しい博麗だった。きちんと説明すれば怒られる事は無いだろう。まあ、博麗の本殿や禁足地『迷ヒ処』にローリーがいるとは考え辛いけれど。







 人体実験台≪マルタ≫の頭蓋骨を開けて、内側に種を設置する。
 置く場所が重要で、予めマッピングした場所にそのまま設置すればいいというわけではない。まず種の性質の見極めが必要で、どの程度生きのいい根を伸ばす種なのかによって、もともとのマッピング位置から若干ずらした位置に配置する必要があった。また埋設の深さも重要だ。あまり深く人の手で掘ると当然肉体側に支障が出る。だが根が最初に内側へ入る切り口は用意しておかなければならない。誘引ポッドのサイズはミクロン単位で、その埋設も成功率に関わると考えられていた。いずれも明確なガイドや正解は存在せず、勘と経験でなんとなく決めるしかないのだ。
 頭蓋内に埋め込んだ種子は、皮質下に埋設した誘因ポッドを目指して根を伸ばす。切り口から内側へ入り込んでいくが、この根は自らを特殊な酵素と細胞で包み、脳を侵襲しても脳機能への影響を最小限にとどめる。剰え、その機能を代替さえする。この植物がマルタの脳へしっかり根をおろした後、しばらくは宿主の肉から栄養を得て育つ。
 十分に成長するのには2か月ほどを要するが、その間、この植物はどうやら宿主の思考も吸収するらしい。根と幼芽は新皮質を貫き、到達した大脳へ根をおろす。じわじわと脳の深部へ根を伸ばし、右脳、脳幹、前葉すべてにびっしりと根を貫入させ根毛を伸ばす。脳の皮質を食べるように進み成長していく。2か月の後、肥大し宿主の頭蓋に収まりきらなくなったそれは、まず内側から眼球を外へ押し出す。その頃には頭蓋の内側はほとんどその草の根と幼芽で占められており、脳機能は代替しきれなくなっていて痛覚は無いと言われていて、ありていに言えばゾンビのように、生命活動の維持に必要な機能を除いて失われていると考えられている。
 眼球が頭蓋の外に押し出されて落ちると、眼孔の内側にはぎっしりと詰まった細い糸のようなものが見える。これは光合成による栄養獲得をやめた葉が、寄生のために最適化し根に近い姿と機能へ変化しているものだ。次いで、光ではなく触れた血液か肉質の養分を吸収する幼芽が、鼻や口、耳の空洞へ、肉を突き破って溢れ出す。血液がほとんど出てこないのは、この花が吸い尽くしているからだ。このころになっても、脳機能のほんの一部だけは生存していて、手足を動かすことがあるし、何より内臓機能の多くは微弱ながらも稼働していることを示す数値が計測されている。
 頭部に空いた穴から幼芽を伸ばしそれが空気に触れると、その植物は爆発的に成長を始める。頭蓋を内側から砕いて膨らむように体積を増殖させて頭部から噴き出すように現れた日光を受けずに育った幼芽と前茎、そして根は、当初は真っ白い無数の管が固まった形をしているが、やがて様々なものに形を変えるのだ。他の人間の顔、全身のこともある。動物、自動車、地球の形、歯ブラシだったり何かの料理だったりもする。植物が既存の他の存在の形を成形させることは驚くべき現象だが、それは脳に寄生し成長している間に、血液と一緒に吸い取り続けた記憶なのだと、予測されている。
 やがてその形状は失われ紫色の球形となる。これは変形菌の胞子体に似た形状だが、その通り、球体はそのまま色を失い乾燥し、大きな目が開くように表面が割れると胞子様の非常に小さな種子が形成されている。その後他の宿主の脳に入り込む手段は見つかっていないが、何らかの中間宿主を経て最終的には蚊による血液媒介が有力視されている。実際に蚊にこの種子を運ばせると確かに感染はしたのだが、脳への到達が確認されていない。我々はこの植物をアンノウンと呼んでいる。どこから来たのか、どこで増えていたのか、種がどうつながっていたのか、由来もわからないし系の所属もわからない。
 このように植物学としての研究の余地は別にあるのだが、古今ではこの植物の持つ特性に着目した研究がなされている。この植物≪アンノウン≫には、脳に寄生時した場合、脳を侵食する性質があるが、逆に損傷状態の脳の機能を補填するケースが認められている。この植物の性質を応用し、成長と共に宿主を殺す性質を除去することが出来るなら、持続的植物状態の患者との意思疎通が可能になるかもしれない。また試しにデザイニングで二カ月の潜伏期間なしに即座にこの状態になる様に調整してみたところ、種子の埋設から3時間で頭蓋を割って現れた。驚くべき成長速度だが、その際は何の形も成さず、種子も不実だった。脳でなければならないことと時間を要することから、人の「記憶」を栄養にしている可能性は強く示唆されていた。
 今はこうして頭を割って中に種を手で植えるしかないので、マルタに対して地道に種付けしているのだ。そうした処置を10体分もやると、いい加減疲れてきた。というか、飽きる。せめて1株でも発芽がある日ならいいのだが、今日は1株も発芽しないのだ。

「これなら自分の部屋であの子≪n倍枚葉のクローバー≫でも眺めてた方がいいなあ……」

 先代の白詰草は枯れた。だが、花を咲かせたのは事実で、種は不実だった。白詰草は栄養繁殖する筈だがすぐに弱って死ぬだろう。またやり直しだが、毎回葉が増えているわけではないのだ、こういう繰り返しは今までも何度もあった。あるいはデザイニングをもう少し変える必要があるかもしれないが。

「またそんなこと言って。あんな畸形植物のどこがいいんだよ。雲月、明日オフでしょ」

 声を掛けてきたのは真矢。アンノウン種の埋設に対して、検査機器でのサポートをしてくれていた。

「うん。休出もしなくて済みそう」
「雲月は休出しなくてもエクストラの面倒見てるからね、模範的な公私混同だよね」
「なんだいそりゃ……」

 十一体目の作業は午後からでいいかと、簡易ソファに体を投げ捨てる。ほんと、疲れたというより飽きがきつい。

「吸う?」
「あー、いや、娘たちがね」

 真矢が煙草を差し出してきたが、断った。管理しているエクストラ達が、煙草の匂いをあまり好きそうではないのだ。特にパウラは、煙草の匂いが付いた服では近寄ってもくれない。

「えらいねー。私には無理だね」
「禁煙?」
「そんな風に甲斐甲斐しく面倒を見るのが。雲月ってホント変わってるよね、変な植物つくったりさ」
「変な植物はここの所員はみんなやってるだろ」
「いや、そうじゃなくってさ。仕事じゃなくて趣味でやってるんでしょ、あれ」

 主任からは仕事にするように言われていたが、今のところそれをわざわざ言うこともないだろうから肯定しておいた。

「変わり者の巣窟みたいなとこじゃないか、古今なんて。大体、真矢にそんなこと言われると思っていなかったけどね。真矢も相当変わっていると思うよ」
「性癖の事は言うな」
「ひとっことも言っていない。」

 ガチレズを隠そうともしない上に、機械オタク。そんな身の上で女性職員なんかほとんどいない、畑違いの理科系研究所に来ている。前職が何だったのかは、個々の所員は皆聞かないのが暗黙の了解だが、前職は兎も角どうしてここに来たのかは全く持ってわからん奴だ。


「ガンマニアなのとか」
「普通じゃないか。」
「普通か?モデルガン山ほど持ってるようなのが。サバゲでもするのかと思ったらしないっていうし」
「あんな子供の遊びするもんかい。私は銃の機能美が好きなのさ。どんなに進化しても『火薬の爆発で物を飛ばして対象に当てる』って至極シンプルな原理を、ただただ追求してきたその姿勢が、素敵だと思わない?そのためだけに存在して、そのためだけに進化し続け、それ故に歴史を動かしてきた。有情の者として生まれたなら、ああやって生きたいものだねぇ。火薬の暴力的なエネルギーであることに意味があるのさ、レールガンとか邪道!レーザーカービンとか邪道!」
「うん、変人だよ。」

 呆れたように言うと、にひひ、と悪びれもせずに笑う。変わった奴だ。

「でさ、オフは何してんの。アイドルたちの世話?パウラちゃん歌うまいし、ジルちゃんは運動センスあるし。瑠美ちゃんはカルト受けよさそうだし、本当に芸能活動させた方がいいんじゃない?」
「主任と発想が同じだぞ」
「それは光栄だね、あの人には憧れているし。外に、連れてったげたら?」
「外?」
「外ったら外だよ。敷地の外。あんな人間臭く調整されてる子たちがこんな辛気臭いところに押し込められてるなんて、可哀想すぎるよ。」

 まあ確かにそうだ。だがエクストラは基本的に敷地から出ることを想定されていない。一般教養は、元の記憶と一緒に引き継げるものは引き継いでいるし、不足があれば再教育するが、もっぱら兵器として調整されているから、外で運用するのは任務を受けての事に限られた。

「ティムちゃんもそうだけど、あの三人はほんと、もっと健全に育ってほしいっていうかさ。日常の癒しだから。こんなところで人の脳みそくちゅくちゅしてる様な仕事ばっかで気が滅入るところに、ねこみみカチューシャでもつけたあの三人が来てみなさいよ、おねーさんエナジー全快だよ」
「そ、そうかい」

 真矢の言い分にはついていけない部分は多いが、もっともだというところもある。

「銃もナイフも無線機も持たない、プライベートでの外出か。確かに、経験させてやりたいな」
「銃は持ってっていいよ。」
「だめだろ」







「一卵性双生児だ。可能性が高い」

 真っ白い部屋の中で、研究員が数名、小さな子供二人を取り囲んで何事か話している。立っている子供は裸でどこか生気がなく、足許はしっかりとしているのにどこかふわふわとしていた。二人は双子なのらしい、見た目は確かにそっくりだ。

「免疫系はダウンさせておくとして、万能性励起細胞をクッションすればどうだろうか。」
「その前に、脳のマッピングを予め書き換えておいた方がいいんじゃないか。増設脳が右半身を、従来脳が左半身を、司るのが良いと思うが」
「マッピングを書き換えてから術了までに要する時間との兼ね合いだな。恣意的に書き換えたマッピングで片方の肉体しかない状態では、致命となる」

 その部屋を覗くことが出来るよう大きなガラスで仕切られた、その別室から中の様子を見ているのは梨来。冷ややかな視線をガラス部屋の内側に送っている。
 今部屋の中で行われているのは、別々に生まれた一卵性双生児を意図的に結合双生児にする実験である。究極の目的は、半身≪デミ≫と呼ばれる存在を作り出すことである。二つの体を一つの意志で制御できること、二つの人間が互いの欠損を補完して一つの存在となること、相反するものが共存すること、そうしたイコンとして象徴的な人体実験で、アカヒルメというプロジェクト名を与えられている。

「俺はモザイクマッピングを推す。何か欠陥があっても可塑性がカバーする可能性がある」
「脳の可塑性の優秀さを否定するところではないが、こうしてきっちり設計して手順通りに作業し期待通りの効果を得ようとするときは、一旦は抑制すべきではないか?不確定要素になりかねん」
「やはり……いっそ片方の脳は捨て去るべきではないのか?」
「それでは半身とはならない。あくまでも、二つが一つになること、二つの魂が一つに融和することが目的なのだ。今更何を言ってる」

 青いディスポガウンを着てマスクをつけた男たちは、ぎらついた視線で少女二人を奥へ導いていた。報告では、今回は頭蓋結合を再現する試みなのだそうだ。つまり、あの少女は頭蓋を割られ、脳を切開されて管と人工組織によって融合され、細部電気刺激経路の選択的遮断と短絡を施され、二つの脳を一つにしようとされていた。また、そうしたときに二つの意識が一つになるのかどなのかも観察対象だ。これが成功すれば、頭部を一つ持ち体を二つ持ち、四つの腕と四つの足、四つの目と二つの口、四つの耳と二つの性器を一つの脳が制御する人間が生まれる。恐らく、生まれないが。

「頭蓋代替はどうするのか」
「ポリオレフィンの袋でよいだろう。今は完成度の高さを期待するものではない。まずは人工的に接合双生児を作り出すことが先決なのだ」

 実験は、投入される技術に対して、被験者への配慮は極めて粗雑なものだ。この二人の頭蓋は結合後、ただのビニールで覆われ生理食塩水の満たされた袋の中で繋がるらしい。まあ、そんなものだろう。どうせ生きてはいまい。生きていたとしても一人なのだ、左右の体が別々に動いてビニールが破けて死ぬという事は無い。
 中から電動のこぎりの音が聞こえてきた。彼らはこれを麻酔なしでやる。マルタは、人ではない。生物的に人間と同じなだけで、法的には人間ではない。彼らの尊厳を守るものは、人工皮膚一枚だってないのだ。

 とにかく、生命の機能を解剖し(生命体を解剖するのとは意味が違う)、恣意的にそれを扱おうとすると、どうしても脳機能の分析に費やす割合が多くなる。我々人間は言語以外で他の個体と情報を共有することが出来ないが、言葉として出力される以前のrawな情報と言うのは今もって謎なのだ。クオリアの話は生命科学とは関係がなさそうで深くつながっている。特に、他人とのつながりを通信技術や精神世界、言語や認識といった出力媒体に頼るのではなく生命体そのものに拠ろうというのなら、仕方のないことだ。頭蓋結合双生児のサンプルは、余りにも少ない。しかもそれはただの結果でしかなく経緯を得ることが出来ない。だからこそ、こうした努力は必要なのだ。

「A群は25Gyで生存した者です」
「それぞれの頭髪、リンパ、血液、骨髄、配偶子を採取しておけ。」

 もうしばらく行ったところには、巨大なレントゲン装置を備えた部屋がある。一般的に致命的と言われる量の放射線を人体にあて、一定期間生存したマルタのみを集める。生存したマルタからDNAを採取し、破損部は復元して、人工生殖させる。放射線に強い人間の意図的な選別・品種改良だ。地球の環境は既に劣悪を極める。放射線への耐性は、地球上のエネルギー問題もそうであるし、人間が宇宙へ進出する際の宇宙船の影響もそうであるし、早急な答えを求められている分野だ。

「マルタの本体は不要だ、硝子封入≪キャニスタ化≫して処分しろ。」
「採取した細胞からDNAを再構成して人工授精を行う。」

 放射線の影響がまるで宗教上の禁忌の様に扱われるのは、その影響で亡くなった死体の、旧来の病気や毒で死ぬのと全く違う症状に、嫌悪感が強いからにほかならない。その他の嫌悪感は、人間自身が生み出した文化が自身により醸成したものである。
 なんせ人間が今まで種として生き延びてきた中に存在していなかった脅威なのだ。もし、地球上に昔から致死性の放射線を発し続ける地域があちこちにあったとしたら、人間の体はどういう方法によってかでそれを感知できるようになっているはずだ。ちょっとした不快感かも知れないし、嗅覚で多くの場合それに付随する物質の匂いを感じるかもしれないし、目が光と同じように放射線の色を見るようになったかもしれない。それを出来る人間だけが、生き延びることで、種を繋げたはずだ。
 南米の一部の地域の人達は選択的生存を長期間続けてきたことにより、猛毒の砒素をメチル化して毒性を下げるAS3MT遺伝子を獲得している。
 だが、放射線はそうではない。人間は放射線の脅威に対してまだ無抵抗過ぎる。そして科学はそれを放置できないところにまで来た。人間は科学によって、放射線を克服しなければならないのだ。
 遮蔽物や分子組換による科学的な対策とは別に、生命科学から寄与できる面もあるはずだ。
 だがこのような破壊的方法によってそれが成し遂げられるかどうかは、疑わしい。

 古今には実際に研究を行う実験施設だけではなく、教育機関のような場所も備わっている。古今で関る学術分野は、中心的には生物学、遺伝子工学に違いはないが、その脇を固める豊富な知識や発想の源泉は、他の学問を先入観無く内に取り込もうとするスタンスに支えられている。

「アーリア人だユダヤ人だなどと述べるつもりはないが、生物的に優生な人種は存在する。それは今日地球を取り巻く日常環境と非日常の苛烈環境を対比した場合に、日常生活に隣接した苛烈環境により強く適応できる生物的な特性、或いは日常環境において他より優位に活動できる性質を指す。」
「強く優秀で生き残るべき人種とは、そうした目的に応じ明確に条件的に抽出しなければならない。万事に優生な人種などいないのは確かだが、条件を絞ったうえで優生な人種は存在する。マラソン一つをとってもそうだ。もしオリンピックで優勝することが絶対の国家あるいは地域があったとするなら、例えばアスリート心臓を持つ率の高い人種や特性は、確実に優生と言える。」
「国家のイデオロギや宗教に左右されるのでは、この研究は最初から形骸なのだよ。今迄悪の権化として扱われた優生学は、まずそこが誤っている。そしてそこを誤らなければ、優生学は正当な研究分野なのだ。」
「たとえ私が劣等種だという結果が出ても構わない。人間をより優れた存在へ収斂するための礎に成れたとあれば、この上ない栄光だ。そうだろう?」

 先の砒素の例を取れば、もし地球上の砒素の率が突然高まったりしたら、かの砒素耐性獲得群が優生種となる。鎌型赤血球はマラリアに耐性があり、彼らはそうして生き延びてきたことは、中学生でも習うことだ。政治とイデオロギ、戦争と差別による色眼鏡を取り外した上で優生学を見直す教室が、開かれていた。
 植物は言わずもがな、動物では愛玩目的の犬や競走馬には容赦なく優生選択を強いるのに、人間自身にはその観点は及ばないとは、それ自身が「人間は神に選ばれた特別な存在である」という究極の選民思想ではなかろうか。それを否定するなら、こうした優生学は意味を持つ。

 そんな古今生命科学研究所≪秘密の花園≫を、梨来は闊歩する。

(そろそろ河城君が、あれを連れてくる頃か)

 古今生命科学研究所、第四プラント≪ドランメン≫の重要免疫区画≪シバルバー≫へ、彼女は向かっていた。
 それまでに通り過ぎたこれらすべての狂気の実験室が、彼女の思想の上に出来上がった、まさしく彼女の理想を作り上げる幻想郷だった。
 悪魔の学問、それをあえて地で行くのは容易なことではない。精神的にも、現実的にも、それを成し遂げてこの施設を作り上げ運営しているのは、それ自体がフィクションにさえ見える。
 その道のりは遠いし彼女の存命中に成し遂げられるとは誰の目にも到底思えない。だが梨来と言う人物は、どちらかと言うと結果よりも姿勢に誠意を見出す人物だった。それは掲げるその理想がそもそも実現不能なものであるからなのだろうが。







「あら、ナイトバグ辺境伯。ご機嫌麗しゅう……じゃなかった、えっと、元気?かしら」

 突然後ろからその声がかかり、飛び上がるほど驚いた。慌てて声の方を向き、跪いて顔を隠す。少なくとも対面の挨拶時には直視が許されていないのだ。

「大博麗神祇伯の姫巫女におかせられては、益々御清栄のことお慶び申し上げます。大博麗の聖慮により畏れ多くも我々禽獣草蟲の森羅下妖は」
「あんた、文字読めなかったっけ」
「はっ?」

 定例の博麗の巫女への挨拶を向こうから一方的に中断されて戸惑ってしまう。
 挨拶、といってももう古臭いを通り越してさび付いて土に還り黴まで生えているような、そんな形骸化した挨拶なのだが、ボクら下級妖怪は博麗に対して最上敬意を示さなければ生きてこれなかった過去から、未だにそれを続けている。形骸化しているから最初の一言目だけだけど、まあ長くてよくわからない言葉なのでもう丸覚えの呪文のようになっていた。
 それを中断して、霊夢さんはぴっぴっと向こうにある触れ札を指していた。見ると何やら長々といろいろ書かれているが、人語だ。ボクは人語が読めない。

「読めません」
「あそ。つまりね、先月からさっきみたいな片っ苦しい挨拶、ナシになったの。金輪際ナシ。私が決めた。文句ある?どうせ顔を合わせた最初の1分だけでしょあんなの。終わったら普通に口きくのにね。意味ないわー、手順覚えるのだるいし、人生もっと有意義なことに時間使いたいわー」

 その『終わったら普通に口を聞く』巫女は珍しいんですよ、霊夢さん。

「破ったら浄滅だから」
「はっ!?」

 挨拶しなくて礼を欠いたら罰する、ならわからなくもないけど、ちゃんと挨拶したら死刑、って、しかも妖怪にとって一番痛い死刑ってどういうこと!?

「というわけでやり直しよ。あら。ムシキング、元気?」
「だからってその呼び方はどうなんですか。ていうか霊夢さんも慣れてないんですか。辺境伯にムシキングってルビ振ったら、色んな人が怒りま」
「あんたら辺境伯には毎年毎年結構いい金出してんのよ、神奈備≪かむなび≫との矢面だっていうけど、ぜんっぜん戦争なんてないじゃない、ぜんっぜんよ、私だけじゃなくて母の代でも諍いの一つだって起こってないじゃない、平和よすこぶる平和!あんたら小妖怪が勝手に下らない喧嘩してそれを『辺境での有事』ですって?強請ってんの?この博麗強請ってんの?」

 いきなり首根っこ掴まれてがっくんがっくん振り回される。霊夢さんはこちらをどうにかしたいというよりはお金のなさの八つ当たりをしているようにしか見えないのだけど……。

「ぼぼぼボクらのところはスカーレット卿と風見伯に委任してますー~、直接博麗からは一銭一兵もも貰ってません~」
「あらそうだっけ。まああっこならちゃんとやってるからいいか……」

 実際、神奈備≪かむなび≫方面の辺境伯として明確に有効な施策を打っているのは、レミリア紅魔卿≪KRMAZYN≫と風見夢幻伯≪SleepingDandeLion≫くらいだった。他の有象無象の小妖怪の中には、辺境辺りに縄張りがあるという理由だけで辺境伯を自称し、宮中≪博麗≫から小銭をせびっている奴もいる。ボク等四人は、昔から四人で一つの領域を縄張りとしていたが、今は申請上、スカーレットと風見に接収された形になっていて縄張りを持っていないことになっている。が、実際にはルーミィとチーが紅魔卿≪KRMAZYN≫に、ボクとローリーは夢幻伯≪SleepingDandeLion≫に、それぞれ従う形で本領安堵を貰っていて、現実的にはそこで排他的縄張を持つ形になっていた。その中でなら獣を食おうが人を食おうが、あまり博麗も介入しない。

「で、今日は何しに来たの。寄付?いい心がけだわ、そこの賽銭箱にたんまり入れてきなさい、硬貨禁止だから。高額紙幣推奨よ。ああ、あんたのポケットマネーからよ。雑損計上して夢幻経由で請求したらぶっ殺すから」
「すみません、人間のお金の持ち合わせは今なくってですね」
「じゃあ『点』おいてきなさい。ないといったら潰して絞り出すわ」

 点、とはボク等にはよくわからない概念だった。わかっているのは博麗の巫女と紫太妃だけみたい。幽香さんも、紅魔の人達もわかっていないらしい。ただ、それを取られても何も影響はないし、それを沢山持っていても何も嬉しいことがないので、博麗には素直に差し出している。博麗の巫女にとってはそれなりに大切なものらしい。
 貨幣について、昔はボク等も最初は価値が分からなかったけど、今ならそれを集める意味もなんとなく分かってきた。同じようなことが『点』にも言えるのだろうか。
 わからない今の内と騙されて取られている、との見方もできるけど、価値が分からないものを必死になって守るモチベーションもなかった。多くの妖怪が素直に点を差し出している。潰れて出るのかどうかはちょっと試したくない。白玉卜令家だけは別で、点らしき何か別のものを一定数集めているらしい。
 僕は素直に掌を上に向けて霊夢さんへ差し出す。霊夢さんが掌を下にしてボクの掌の上に向けると、手の間に青い立方体≪キューブ≫が現れる。これが『点』だ。それが霊夢さんの掌へと吸い込まれた。これで終わり。

「仮にも辺境伯ね、その辺の毛玉や雑魚妖精とは全然違うわ。で?さっき虫がざわついていたけど。」
「あの、友人が行方不明で」
「人失せのおみくじ?あそこで売ってるわよ」

「いえ」
「ああ、失恋。それならそっちに売ってるわ」
「ちが」

 わなくないかもしれないけど。

「います」

 っていうかおみくじが用途別になってるってがめつ過ぎじゃないですかね?

「もう、何なのよ」
「あの、割と真面目なんですけど」

 ボクがそう言うと、腰手を当てて溜息をつき、「なによ。逆に下らないことだったらぶっとばすわよ」と悪ぶっている。『ぶっとばす』って。

「虫を使って、幻想郷のほとんどの領域を人探ししたんですが、ある人が見つからないんです。いつも仲良くしてる夜雀が、昨日の夜っきり姿が見えなくて」
「で、虫で探せてないウチに来たと」
「禁足地≪迷ヒ処≫も探せてはいないんですが……まあ、博麗の正殿にせよ禁足地≪迷ヒ処≫にせよ、夜雀が入れるとは思ってませんけど」
「ふうん。虫の集合知で探して見つからないんじゃ、本当にいないのかもね。ウチには来てないわよ」

 霊夢さんはそう言って、拝殿の方に向かう。賽銭箱のあるところだ、いや、お賽銭は持ってきていないのだけど……もしかして探して欲しかったら寄付しろとかいうんだろうか。そんないやらしい商売はやめてくださいよ、仮にもボク達の君主なんですからあ。
 とか思っていると、霊夢さんはがらんがらん、と本坪を鳴らす。

「紫、ちょっと紫、起きなさいよ。虫妖辺境伯が用事だって。ほらいつまで寝てんのよこのすかたん」
(ええっ!?紫太妃を、そんな呼び出し方するの!?……すかたんって)

 神社の参拝客は絶対にしないような、ふざけた子供でもしないような、子供がやったら親がげんこつとともに怒るような、そんな乱暴な鳴らし方を、当の博麗の巫女がやっている。当代博麗の霊夢さんは、さっきの触れの通りかなりリベラルな人だけど、そんなにリベラルな鈴の鳴らし方するとは思わなかった。
 しばらくがらがらがらと喧しいくらいに鳴らしていると、賽銭箱の横あたりの空中に黒い線が現れる。

(わっ)
「やっと起きた」

 ボクは平伏した。
 絹を裂くときのような、きめの細かい高い引裂音、ただ、布が裂けるような軽いだけの音ではなく、獣の皮をちぎるときのような生々しさや、髪の毛を無理やり引き抜いたときの痛々しさ、それに生き物の断末魔のような響きと、寺子屋の黒板に爪を立てて引っ掻くような神経に障る音が薄く重なり合った、正直不快な音が、響いた。正直身の毛もよだつ、耳に入っただけでも勝手に全身に鳥肌が立つ音だ。これこそ、紫太妃が空間を切り裂くときの音。
 両膝と両肘、両掌と額を地面につけて、紫太妃の幸出を直視しないようにする。

 げしっ

(け、蹴られた……やばい、なんかしちゃったんだ、なんかよくわかんないけど失礼なこと)

「それもうなしだって忘れたの?浄滅したい?」
「あう」

 蹴ったのは霊夢さんだった。
 そういうの、いいから。そう言ってボクの触角を片方摘まんで僕を立ち上がらせた。恐る恐る立ち上がって、なお霊夢さんに顔を上げろと髪を引っ張られて目にしたところに、黒い裂け目≪御隙≫が広がっていて、奥の方に……あれ?

「Zzz」
「いい加減起きんかいこの三千年寝太郎!」

 奥のほうに見える紫太妃の寝姿を幣帛でべしべし叩いている。

(ひいいいいいいい!なななななんてことをおおおおお)

 恐れ多すぎてもはや何考えてるのかわからないレベルだ。しぬ、ボクの用事で起こしたとか言われてきっとボク死ぬ!

「あによぉ……まだ六霜17年じゃない。あと10年……」
「少しは人間≪私≫にあわせんかい!」

 霊夢さんはさっきボクに向かってしたように腰に手を当てて、一言。

「ご飯抜きよ」
「あらリグル君、今日はお姉さんに何のご用かしら?」
(は?)

 いつ着替えたの?いまだっていまねいま寝てたよね?ていうかごはん?餌付け?博麗の巫女って紫太妃に餌付けしてるの?
 寝てたと思ったのに一瞬でいつもの胡散臭い≪神々しい≫姿で御出でなされた紫太妃。

「あの」
「お姉さんって……」
「知ってるわよ、あなた、幽香ちゃんのお気に入りでしょう?」

 どういう伝わり方をしているのかはわからないけど、ボクへの認知があることに驚きと畏怖を禁じ得ない。はい、と肯定するのも憚られるし、違うとも言えないので、ただ頭を垂れて礼をした。

「人探しだって。この子、人探しさせたらちょっと便利な能力持っててね、萃香のみたいなやつ。だから多分探せないはずないんだけど、見つかんないんだって。この子が自力で探せないのが、わずかにウチと、あんたのとこ。だから来たってわけ。」

 なんだかんだで優しい霊夢さんがさらりと事情を説明してくれる。
 ふうん、と意味ありげに意味のない相槌を打つ紫太妃。玉顔の下半分は扇子で隠されており、口元は見えないが、声はどうにもそこから聞こえてくるようには感じられない。このあたりの空気全体が音を発しているような。

「しってるかしら、幻想郷はモザイクでレイヤーなの。概ね私……と今は霊夢の世界だけど」
「おい、私は聞いてないわよそんなこと」
「幻想郷は当事者皆が、それぞれ思い描いた通りに出来上がる。その集合意識≪モザイク≫と重畳世界≪レイヤー≫でできてるふんわり宇宙なの。夜雀ちゃんはそうね、きっと、そうありたいと思ったんでしょうね。」
「ミスティアが?彼女は何を思っていなくなったんですか」
「ちがうわよ」

 紫太妃はボクの言葉を否定して、でも、その叡慮はボクにはとても忖度出来ない。

「ミスティア・ローレライの姿は私からは、霊夢からも、薄くぼけた映像でしかない。その姿をきちんとらえていたのは、彼女自身を除けば、リグル君、あなたくらいかしら。あなたの目の前からミスティア・ローレライがいなくなったとしたら、それは彼女の意思であるのと同じくらい、あなたの意思でもある。」
「何をおっしゃっているのか……それじゃあ、まるで、ボクが」

 扇子で隠されず、お目見えしたままの紫太妃の目が、細まる。ぞくっ、と背筋が凍った。恐怖や畏怖と言うよりも、もっと以前の原始的な忌避感情が、乱暴に握り取られた様な感覚。

「あなたが、願ったんでしょう、リグル君?」
「そんな、ボクは……それじゃまるで、ボクがローリーを、その」
「違うと、言い切れるか知ら?」

 隠し事が、出来ない。そう本能が直感していた。
 幽香さんとローリーの間に何があったのか、あるいは何もなかったのか、幽香さんは何を考えてるのかわからないし、ローリーも最近の突飛な行動は意図を組み切れないことがある。

 どっちかがいなければいいなんて、ボクはかんがえていた?

 そんな恐ろしいことをボクが望んでいたのだろうか。違う、違う、これは紫太妃のなぞかけの様なものなのだ。本当にそうだという意味ではなくて、そうやってボクの内省を促してくださってるのだ……きっと。
 冷や汗が、止まらない。否定することは簡単だし、実際そうだと言いたくはないし、なにより余りにも現実離れしている。でも、脊髄と思考を両方同時に素手で乱暴に握られているみたいな恐怖と焦燥と、不快、は、増す一方。
 霊夢さんから「必要以上の慇懃は不要」という触れが出てはいるし、その言葉の主が横にいて、対象もそれを許諾している。だのに、ボクはこの方を直視できなくなっていた。

「あんまり苛めなさんな。神様にそういわれちゃ、彼らはぐうの音だって出ないわ」
「あらやだ、そんな風に見えた?もう、リグル君可愛いから、苛めたくなっちゃうのよ~」
「幻想郷のババア共はどうしてこうショタコン揃いなのかしら……」
「ばっ……!」

 霊夢さんのズバズバな物言いに、紫太妃の胡散臭い≪神々しい≫御姿が急にただ胡散臭くなる。さすがにおばさんはないと思うけど……お姉さん、くらいが本当は適切ではあるのに、女の子同士って怖い。

「誰がババアよ!霊夢だってあと20年もすれば陰りが見えて、30年もすればそんな口きけなくなるわよ!ちょっと眠ってる間にそうなるんだから!」
「そうだったとしても若者には年寄りをそう呼ぶ権利があるんですー。何たって、今、だから。あんたたちには昔かもしれないけど、私にとっては今なの。」
「か、かわいくないわね」
「あんたみたいな化け物と同じモノサシで物なんか考えられるもんですか。この子≪リグル≫だってあんたが寝てる間にあんた好みじゃない、爽やか中高年になってるかもしんないのよ。それを、自分の好みの見た目の間だけチヤホヤして、ほんと年寄り共って自分勝手」
「あー、あーあー、霊夢ったら妬いてるのね?それならそうと言いなさいよ」
「ハア?誰が。あんたは寝てばっかいないでそろそろ介護ロボットでも調達すること考えなさいよ、博麗なんて人間なんだから、あんたの世話なんてできないのよ。世界で介護ロボットとあんただけの二人きりの淋しい楽園で仲良くくたばりなさい」

 霊夢さんの物言いが余りにも苛烈で、言葉の余波だけでこっちの心臓が痛い。
 あ、だめ、これもう、やんごとなきかたがたのくだらなきやりとり、になる。
 ボクは退散の準備を始めた。

「あの、ボクそろそろおいとまを」
「あらそう?リグル君、またおいでね?」
「またそうやって色目を使う!」
「色目じゃないわよ!」

 犬だって食わない奴を横目に、ボクはその場を飛び立った。

「し、しつれいします……」

 何もしてないのに酷く疲れ果てた。ローリーの居場所についてもわからずじまいだ。
 三つあるうちの二つには、ローリーの姿は確認できなかった。本当は、可能性が低いだろうと思って来た博麗神社だったけれど、思わぬ指摘を受けた。可能性は、ボクの中にあるという。
 ボクがいなくなることを仮に、万が一、もし、望んだとしたって、それが実際にそうなる筈はない。

(あれは、ボクの女々しい気持ちを戒めるための、忠言だったんだ。そうに、違いない)

 しばらく飛んで、三つ目の場所へ向かおうというところで、紫太妃のことだ、きっと聞こえているのだとわかって言ったのだろう。聞き耳をお願いしたともだちが、紫太妃が霊夢さんに向けて言った小さな声が、伝わってきた。

「霊夢、準備なさいな。異変になるわよ」







 望まない子供≪かっぱ≫、というありきたりな型に嵌められて語られるのが、いや、それならばマシだ、ただ「かわいそうな子」と同情の言葉≪陰口≫を言われるのが、堪らなく嫌だった。
 どこで孕んできたのかもわからない子供≪ガキ≫、そういわれていた。その少女には物心がついたころには母親はおらず、父親の代わりに義父がいた。義父は、母親とどういう関係の男なのかもしれなかったが、親切≪残酷≫にも彼女を家に置き、中等教育まで受けさせていた。
 少女の血縁者は、彼女が置かれた憐れむべき≪不都合≫な状況と、可哀想≪面倒≫な生い立ちと、時折見せる特徴的な≪知的障害じみた≫言動、機械類をなんても分解して遊ぼうとするに個性≪理解不能の偏執≫的な嗜好に、距離を置いており、彼女はその義父の家≪豚小屋≫から出ることも出来なかった。
 ただ、時が過ぎるのをひたすらに待ち続け、義父からの愛情≪性欲≫を受け止めながらも蛹となって耐えた。羽化してここを飛び立てる日を夢見て。







 高い天井は外の光を存分に取り入れるため、全天ガラス張りになっている。勿論耐震基準は満たしている。全面がガラスのように見えるが、従来のCNFよりも更に軽量で高い耐久性と同時に透明度を持つFCNFがガラスを補っているのだ。
 このFCNFこそ我が古今で生み出された新素材で、元となるセルロースは古今で「作成」した新種の植物に頼らざるを得ない特殊なものになっており、古今はそれにより利益を得ていた。古今はこのセルロースを生み出す植物そのものを知的資産としてライセンスビジネスを行っている。化学製法で人工的に作成するとべらぼうに高いコストになるが、この植物に頼れば日の光と水と酸素、それに僅かな「栄養」を与えるだけでFCNFの元となる特殊セルロースがまるで雑麻の繊維のように採取できる。但し、この「栄養」がミソで、これがなければ生産植物は生命を維持できない。それがこのビジネスの鍵になっていた。
 自社産のテクノロジ≪FCNF≫により陽光を施設内いっぱいに取り入れることに成功し、それこそがこの古今の主要建屋である第四プラント≪ドランメン≫の特徴的な光景を生み出すのに欠かせない要素になっていた。日の光をいっぱいに取り入れるのは、職員の勤務環境にそれが必須だと、主任研究員で所長である梨来優花が、考えているからだ。だって、とかくオフィスと言うのは空間を外部から遮り、外の気温と同じ気温にするためにわざわざ空調を使い、外と同じ明るさを保つためにわざわざ電灯を使うなんて、莫迦みたいに非効率だろう?外の自然を取り入れればそれで終わるのに。とのことらしい。

「ここは……楽園のようですね」
「はは、言い過ぎだね。こんな建物でもデザイナーズ某のコンセプトハウスって言ってしまえばそんなもんだ、何より、働いてるのは夢も希望もないサラリーマンだよ」

 仮にもライセンスに関る研究を行い、社外秘情報に埋め尽くされたような場所だ、仕方なく敷地は高い壁で囲っているが、正面玄関たる西門には、門柱の代わりに造種クレロデンドルム・カラミトスムを左右に備えている。この木が石のように固い幹をしていて建材に最適なのは間違いないが、それ以上に少しずんぐりとした佇まいでまっすぐに伸び、てっぺんにのみ葉を茂らせる特性から、こうした場所には似合いだろうと、主の趣味でそうしたものだ。門柱樹には寄り添うように大型の薇や蔦植物が生え、見た目に植物たちの生命力が伝わるように栽培されている。所員用の通用門である東門からは、左右からシンプルな形の骨組みに絡むように茂った常緑葛のアーチが伸び、各プラントへの道になっている。足元は基本的にコンクリートだが、複数の種類の苔や芝の島を配置してある。一般の花壇とはその規模が違う、床面積の約30%は、何らかの植物が覆っているのだ。敷地内はなるだけ、このように植物と人工物の共存をはかっている。外だけではない、建屋内に光を取り込む構造にしているのは、そうした人工物と植物の共存が、建屋内でも実現されているからだ。
 この光景を見て、楽園、と称したのは、就職活動中の若い少女。面接の名目でここに呼び出され、この施設内を見学していた。

「夢、えと、夢、は、その、私は御社の経営理念である医植同源に強く心を打たれて、
近年とみに多様性を減らしつつつっある植物界の価値再発見にじぇ非私も力添えしたくて」
「うん、君のような熱心な子は、こちらとしても歓迎だよ」

 無機質な白塗りの壁、機能性と経済性だけを考えたタイル張りの冷たい床。だが、そこに影を落とすのは、屋内にもかかわらず大型の樹木だ。栗、栃、楓。公孫樹、竜血樹などが建物内にもかかわらず自生している。中でも目を引くのは中央に立っているセコイアの大木。この古今生命科学研究所の第四プラント≪ドランメン≫は、このセコイアを中心に抱くように設計されている。他にも灌木や草花、多肉植物まで、品揃えに秩序のない植物たちが、床のタイルから自然に顔を出す水耕培地から生え、植物体との親和性の高い素材で埋められた壁を這い、階段の手すりに絡み、通用口ではまるで人間と一緒に出入りしますと言わんばかりにその境目にくるりと枝葉を伸ばし、建物の中は現代的な建材を使いつつもそれと隣り合う植物が空間を埋めたある種異様な風景となっている。透けた天井や大きくとった窓から入る光は、これら植物によってすべて木漏れ日となって、心地よい光量を建物内にもたらしていた。
 ここまでこれば、先の話を持ち出すのなら壁など必要なくただ外にいればいいという事にもなりそうだが、残念なことにここは植物園ではない。れっきとした企業の社屋であり、研究施設であり、そして一部の者にとっては家なのだ。巨大な薇構造の頭をもたげるオオソテツの横には業務用端末のディスプレイが表情をころころと変え、壁から無数の指を伸ばしているキイロヒロハノキシノブに埋もれる様に非接触ICカードリーダのインジケータがちかちかと呼吸している。日の光が届かない場所や夜のためにある調光器は、オニビホオズキやチョウチンスズランの群れを内側から照らして鮮やかな色彩光に染まっていた。キーボードを叩く音や業務報告をする声、各種機材の機動音に混じって聞こえるのは小川のせせらぎの音、これは施設内に隈なく設置された水耕培地へ配された富栄養水の流れる音だった。
 見学少女はどうやら古今の活動に心酔しており、入社を希望しているのらしい。
 建物の中は潔癖すぎる位に透明感のある色遣いと清潔さだが、例えば工場や工房の腕利きの職人が使用感のある愛用の作業着を着っぱなしであるのと同じような印象を受ける、と言えばそう見えなくもない。特に、古今に対するカルト的な心酔を持った若者の間ではそうした傾向が強い。梨来はそれが理由で白衣を汚しっぱなしにする傾向を持っていた、と言うわけではないのだが、自身もそれを悪く思ってはいないようだし、今となっては自身が広告塔となることも多い、そうした少し変わったビジュアルは時にはメディア映えする武器になることも知っていた。その証拠に、白衣の内側には、いたって普通の女性らしい服を着ているのだ。そのミスマッチもまた効果を生んでいるのかもしれないが、基本的に不衛生を好む人物ではない。

「あの、わたし」
「安心していいよ、君はもう決まりだ。よろしく頼むね」

 見栄えする笑顔で少女へ「決まり」が告げられる。少女の方はそれを聞いて花咲くように表情を明るくする。だがその「決まり」の意味を、彼女は知らないのだ。
 そもそも古今は新入社員を新卒から取ったりはしない。関係会社やステークホルダーからの中途ばかりだ。即戦力を求めている、という訳ではない。古今は既に裏社会に伸ばした根の方が深い企業なのだ、青臭い正義感を持った経歴のない若者を、採用するはずがない。汚れ仕事の機微や悪事に目を瞑る精神的な図太さ、汚さ、或いは諦めを持った者だけが、職員として採用される。

 この河城と名乗った少女は一体何に決まったというのか。

「この第四プラントが古今生命科学研究所の中核施設であることは説明したが、その所以はこの先の領域の存在による。他のプラントにはない特殊な施設が備わっていて、そここそが古今の本体といっても過言ではないんだ。これから君を案内しよう」
「えっ!この奥にそんな場所が!見せてていただけるんですか!?」
「ああ、当然だよ」

 先進技術の開発を担っていることもメディア露出させている古今は、更に神妖≪かみさま≫との戦いに有用な分野の研究を行っているということも、戦略的に公開している。施設の内部の比較的メディアフレンドリに公開している。所謂研究機関としては市井の認知度が比較的高い方である古今だが、この第四プラントだけはメディアの視線を深くに入れることを拒んでいる施設で、それも対外的にはよく知られていることだった。古今のカルト信者はこれをして、往々に第四プラントの内部に対して憧れの機密を感じている。この少女も例に漏れず、面接として第四プラントの内部を案内してもらったことに足元がふらふらになり言葉さえしどろもどろになるほどの喜びを覚え、「決まりだ」などと言われた上に、その深部を見せてもらえると、すっかり舞い上がってしまっていた。

「この第四プラントは天井がああして透明なのだけど」
「はい、存じています。ここで開発されたFCNFが使われているのですよね。軽くて丈夫で、透明度が高い新素材」
「うん、流石に詳しいね、その通り。正確にはFCNFの材料となる特殊なセルロースを生み出す植物を、開発したんだ。うちはその植物の栽培ライセンスでがっぽり儲けさせていただいているわけだけどね」

 そう言って、人差し指と親指でわっかを作って「メイク、マネ$マネ$」とジェスチャーして見せる。

「植物なんて、種か球根か何かを土に植えて水でもやっていりゃ育つのだから、ライセンスビジネスなんて成り立たないと思う?でもこの植物の栽培にはかなり高度な知識とノウハウが必要でね。それに何より、従来の植物と違って水と自然由来の様分だけでは育たないんだ。敢えて人の手である成分を加えてやらないと、すぐに枯れてしまう。それも含めたパッケージということだね」

 淡々とした説明を受けながら、面接少女はプラントの奥へ案内される。敷地面積としては決して狭いわけではないが、何でもかんでも格納できるほど大きいわけでもないし、何より神妖≪かみさま≫との戦いに有効なさまざまを開発している研究施設としては手狭な感じがする。古今は都市部にあるために全ての設備が一か所に集まっているわけではなく、第四とここが呼ばれているように、設備は秋来宮の各地に点在していた。1から8、それに研究設備を持たない経営の事務所のみので便宜上0番と呼ばれるプラントを有している。

「そもそも、大学みたいに何とかキャンパス、とか、会社らしくなんたら支社って呼べばいいのに、プラントなんて名前が付いてるのは、まあここが植物をメインに生命の本質へアクセスすることを目的としているからなんだけど、第四だけはちょっと手狭になってしまったみたいでね。最近はどんどん地下に広くなってるんだ。上下に移動が多いのは、大変だけどね」

 階段とエレベータ、エスカレータとまたエレベータ。随分と地下階が深いが、それらをスキップして、少女はかなり深い階層へと招かれる。その間何度も認証を行い、ものものしい検問を通過していた。段々と人気がなくなり、今はほとんど人の気配がない。真っ白い無機質な壁と天井に、放送用のスピーカと証明、監視カメラ、消防スプリンクラだけが並んでいる。階層が浅いうちは、病院や大型の公共施設のように足元に行き先を示す色付きのガイドラインが引かれていたが、それももうなくなっている。一部の人間しか入らないからなのか、それともこの先には行き先は一つだからなのか。
 幾つかの上下移動を繰り返した最後に、エレベータに乗り込んだ。エレベータの停止指示ボタンの下にあるリーダ部分に指を強く押し付ける。指紋だけでなく同時に皮膚の成分の一部を採取する認証機器だ。そこで認証が下りてから、何も書かれていない階層のボタンを押す梨来。

「最下層ではないけどね。一番下の階は、もう使えないものとか≪・・・・・・・・・・≫を置いておくための物置になってるんだ。一番大切な階は、これから行くところ。私達はシバルバー、と符牒している。」

 ぽーん、と妙にアナクロな到着音を立てて、エレベーターはシバルバーと呼ばれる階層へ辿り着いた。エレベータの扉が開かれると目に飛び込んて来たのはやはり植物。地上の階層とは異なりここは森林を思わせるほど鬱蒼と繁茂していた。上の階層では白やライトブルー、ペールグリーンをイメージさせる空間が広がっていたが、このシバルバーは、濃紺とビリジアン、それに赤色がその印象だった。光がないわけではないが、暗い印象を受ける。

「ここは」
「ここがシバルバー。ここでは古今で二番目に重要な業務を行っている」
「二番目……それに、私が携わることが出来るのですか」
「ああ、君はなくてはならない存在になる。さ、こっちだ。」

 手招きされるままに、少女は付いていく。右手にも左手にも頭上にまで木や草花が茂っており、森林の中の獣道を思わせる風景だが、足元はタイル張りで天井にはしっかり照明が備わっている。時折見える壁には、計器類がびっしりと埋め込まれていてバックライトを照り返らせている。表示されている内容はさっぱりわからないがとかく膨大な情報量をひっきりなしに出力しているようだった。
 何か、獣のうめき声の様なものが聞こえる。この森林には動物も収められているらしい。梨来所長はそうした中を慣れ切ったもののようにすたすたと歩いていく、後に続く少女の方は怯えたような様子でちょんちょんと歩いていた。

「ここだよ、入って。ここは私のプライベートな研究室の一つ。君の仕事はこの中にある。早速実験を始めよ」
「ここが」
「少しやかましい部屋でごめんね、くつろげるような場所ではないけど、力を抜いて。ちょっと準備をしてくるから。」

 その場に残された少女は、その空間を不思議そうに見まわしていた。やかましい、と言ったが音が鳴っているわけではない。研究室だと言われたそこは、外と同じように天井にまで植物が生い茂っている。むせかえるような植物特有の匂い。やかましい、とはその視界を遮る枝葉の密度と、鼻を衝く緑色の香りのことだった。
 情報端末の乗った机と椅子、それにその脇には様々な計器が並んでいる。床は外と同じくタイル張りだが、植物の根が這い回っていた。不思議なことにこの植物の根は、床を覆うタイルを突き破ったり、あるいはタイルが根を避けて敷かれていたりという事は無く、根はそのタイルと同化するように癒着していた。そのままさらに下へ根を伸ばしているのかどうかはここからははわからないが、恐らくそうなっているのだろう。この床タイルに限らない、この施設を形成する幾つかの部分では、植物は床材や天井、壁や手すりと融合するようにくっついていて、この部屋はこの部屋中の何もかもがどこもかしこもそうだった。その溶け合い方が目を疑う程に自然で、根とタイルどちらからどちらへというのではなく、全くきれいな勾配を持つグラデーションを描いて融合している。全く、奇妙な光景だが、古今は常にこうした植物と人工物の奇妙な一体化をテーマの根底にしていた。生命の本質を扱うとなればこうした光景も一つの結論として導き出されるのかもしれない。少女は感心しきりでその妖しげなミニチュア楽園を眺めている。
 少女は、期待していた。私は適性試験できっと何か殊更良い結果が出せたのだ。きっと特別な仕事を任される職員としての待遇を受けるのだろう、と。その証拠に、オリエンテーションみたいにこんな機密空間に案内されて、所長の直轄研究室に迄入れてもらえたのだ。私の職場はきっとこの部屋になるのだろう。今までそうしてきたように、幾重ものセキュリティゲートを潜り抜けて、他の職員がほとんど入り込まないような最重要な業務(二番目に重要、といっていた。相当なものだ)に携わるのだ。
 誇らしく思っているのだ。心酔していた古今に内定を受け、その日の内にそんな重要な待遇を提示されたのだ。今まで家庭内では余りよい扱いを受けておらず、教育を受けさせてやるのだからその変わりだと、義父から性的な虐待まで受けてきた。大して可愛くもねえのに使える物は使えるんだな、と。少女はそれに耐え抜いて教育を受け、その結果古今という大きな舞台で重要な職務につくことになったのだ。無論義父に恩返しするなどと言うつもりはない。憧れだった古今に入れたこともそうだが、自分を除け者として扱ってきた血縁者皆を見返せるのだと、期待もしていたのだ。できそこないの烙印を返上し、周囲から認められる時が来たのだと。
 きぃん、と精密機器が稼働すとき特有の高周波のような音が部屋内に響いた。部屋中のいろんな場所のライトが点滅し、眩しいという程ではないが俄かに部屋中が光に満たされる。ガラスの向こうで所長が少女に向かって、親指を立てて笑ていた。

「準備完了だよ、さ、ここに立ってみて。そ。その辺。OK」

 少女は立ち位置を指示された場所へ立つ。
 天井にまで背を伸ばし窮屈そうに90度体を捻って一周するように枝腕を下に垂らし、それ同士が複雑に絡み合っているそのいずれのものかもわからない木の根が足元を行き交うその合間に、円形に整えられ木の枝の融合を受けていない一角があった。ほんの少しへこんでいて、床の一部が格子のようになっている。丁度足の様な印が刻んである。

「実験ってどんなことをするんですか?」
「いや、実際には結果はほとんどわかっているんだけどね、長期的に検査を継続して経過を見る必要がある場合もあるんだ。その手伝いをしてもらうよ。適性検査の結果、君には素質があるみたいだから」
「素質」

 少女は嬉しそうに、だが抑え気味の、悦びの光も対象もすべてが自己の内側に向いた暗い笑みを漏らす。経済的な自立、ひいては空間的な独立。精神的な自己の確立、ひいては主体的な存在の成立。本来ならばもっと幼いころに到達していただろう些細な喜びに、もろもろの事情で至っていなかった自分は、だがここで大逆転を遂げる。誰にもできない偉業に携わり、誰にもまねできない役目を帯びて、自分は認められるのだ。
 少女はその円形に立ち、目の前に伸びる一本のある植物に気付く。それは薔薇だった。巨大な薔薇。赤々と大輪の花を咲かせるその薔薇の大きさは、人の大きさかそれ以上のものだ。この薔薇が、きっと大きな任務を負った、新しい発見の礎なのだろう。その研究に自分も参加できる喜びに、彼女は身体中が熱くなるのを感じた。興奮で武者震いさえしてしまう。
 薔薇は平たい透明な板、きっとこれもFCNFで出来ているのだろうその向こう側で、まるで自分自身を見せつけるように、その威容を見せていた。

「レントゲン撮影ってしたことあるかな?」
「はい」
「じゃあ話は早い。その板に、肩をつけるみたいにして体をくっつけて。そうそう。手は両サイドに上げて、そこに機械があるでしょ、それの辺りに手が行くように、掌をつけて。うん、おっけ。じゃ、始めるね」

 少女が透明な板に手をつくと、少女が手を突いていた透明板の向こうの装置から、かしゃん、と半円状の金具が回されるように現れて少女の手首を固定する。

「あの」
「うん?どうかした?」

 草木に抱かれた端末のキーボードが、たん、と一つ鳴った。黒い背景に緑色の等幅文字、それとキャレットの点灯。

>> [Y]:実行 [N]:キャンセル
>> Y
>> 実行します。何かキーを押してください...

 指示通りに動いていた少女は、向こう側の薔薇を見るような形で手首を固定され、透明板に密着する形になる。確かに、確かに言われた通りレントゲン撮影をするときの様な格好だ。手首が固定されてそこから動くことが出来ない以外は。

「私、光栄です。ここで働けるようになって、やっと、一人前になれます。古今生命科学研究所のおかげで」
「そっか、それはよかったよ」

 透明な板が、少女の背後にもう一枚現れる。少女の背丈と幅をカバーする大きさ、大柄な男が同じようにその場に立っても余すところなくすっぽりと覆うだろうサイズの透明板が、薔薇をおさめたケージと板との間に少女を置く形で、設置される。

「入社したら、きっとお役に立てるように頑張りますね。やだ、私何言ってるんだろ、今はお仕事のお手伝いをしている最中なのに、私、嬉しくて。私、中卒で、ロクな扱いされてこなかったから、こうしてまっとうなお仕事につけることになって、嬉しいんです」

 少女の自分語りは、貼り付けられているような状態のせいで、目の前の薔薇に対する懺悔のようにさえ見えた。その光景を、所員は、モニタ視線を交互にしながら、見ている。

「うん。私も君の願望をかなえることが出来て嬉しいよ」

 所員の表情は、穏やかだ。どこか慈愛さえも感じる、ちょうど母親であってもおかしくない頃の女性の、表情。浮かぶ温かみは、愛情のそれにも見える。
 面接少女の背後の透明板が、彼女の方へ近寄って来た。速度自体はゆっくりだが、これだけ大きな板を安定感を以て運ぶ動きはパワーよりもフォースに重きを置いたものだろう。その動きのゆっくりだが重く、何者にも代えられない圧倒的な力強さを、この所員は気に入っていた。

「私、がんばります」
「変に力まなくてもいいよ。すぐ終わるとは言わないし、痛いかもしれないけれどね」

 少女が決意表明をするあたりで、透明板二枚の間に少女が挟まれ、三者が接触する。板は、進行をやめない。

「あの、私、がんばりますから」
「ああ」

 板は、進行をやめない。

「ですから、私」

 板は、進行をやめない。
 レントゲン撮影から、実験は急遽マンモグラフィ検診に変わったのらしい。

「わたし」

 圧迫から逃れる様に頭はすぐに横を向いた。そして最初に衝突が起こったのは、骨盤だった。板の進行は低速ではあったが、骨盤の抵抗は全く感じられず同じ速度で進み続ける。何かくぐもった破砕音が小さく聞こえた。激痛。逃げ出そうにも手首は固定されており、滑り出ることもかなわない。圧迫感はすぐに胸部、それに頭部へ到達した。
 少女は悲鳴を……上げられなかった。悲鳴に近い何か呻きの様な声は零れた。実験とは何なのか。自分の身に危険が及ぶなどつゆも感じなかった。いや、いまだって感じていない。こんな不条理は許されるはずがないのだ。許されるはずのない不条理は起こるはずがない。起こる筈がないことは起こらない。
 少女はそうして今まで、自分に都合のいいように物を解釈し自己中心的な考えを貫いてきた、単にそれによって他人へ明らかな危害が生まれなかっただけで。性質が彼女を周囲からの孤立へ導いていたのだが、そもそもそれを自覚するようならば自ら更生している、それをそうとは理解していなかったし、そうして自分が嫌われているとも思っていなかった。だが今回ばかりは、危機感を感じている。危機感を感じてはいるが、それでも自分の思考がおかしいのだという事には思い至らない。
 自分は正しい。正義だと振る舞うつもりはないが、間違っていないのだから周囲からとやかく言われる筋合いはないと。それを理由に危害を受けるはずはないと。自分の嫌なことは、許されないことなのだと。そういう判断が生まれている。性格でも思考でもない、既に性質であり、純粋な判断でしかないのだ。彼女にその歪を説いて理解するはずもないだろうが。

(ある程度まで行ったら、解放されるはずだわ)

 ある程度がどこなのか、そんなことには思考は回っていない。ただ、解放されるのは間違いないと、カルト少女は疑っていなかった。だって、手首を固定していた金具は引っ込んでいて解放されている。きっとこのままことが済めば板は離れていき、自分は解放されるのだと信じていた。圧力が強くて手首が解放されたぐらいではここから抜け出すことは出来そうにない。耐えていればいい、少女はそう判断した。希望的観測の元に。
 だが無情にも圧搾機はその間隔を狭め続けていく。透明な板で出来たその絞り機ならば、女の子が物理的に潰されていく継続的変化をつぶさに観測することが出来た。
 既に耳と頬はぺったりくっつき圧迫を以て肌と透明板の接着で出来る特徴的な映像を映し出している。柔らかそうな頬の真ん中あたりには、逃げ出すことが出来なかった気泡が残っていた。鈍い音を響かせた腰回りからは激痛が走っている。だが顎を上手く動かせる状態ではなく、呻きの様な無様な声だけが、さっきからだばたばと板と板の間から漏れてくる。肉体だけではなく呼吸まで挟んで潰そうとする圧搾機。

「やっぱり、普通の人間では抽出量が少ない。……ゴミだわ」

 所員は、そうして徐々に圧迫の進む少女の方からすでに視線を完全に剥いでいる。興味はモニタに映し出された数値のみ、視線は表示された文字列を追い、それ以外には手元のノートを見ているだけだ。圧迫されゆく少女の方には、もはや一瞥さえない。
 板の圧迫はさらに進み、抵抗もできないまま肋骨が折れて肺や肝臓などへ無造作に突き刺さる。圧迫が進み、行き場の無い圧力は横方向へ逃げようとして、腹は横へ膨らんだ。骨に比べて柔軟な肉は押し潰されると破砕されずに変形したが、その中に含まれている各種臓器は必ずしもそうした変型に耐えられるようなものではない。横隔膜は動きを阻害されて呼吸ができなくなっている。一瞬で窒息死するなら少女にとってもまだ救いだっただろうが、存外にも生は続く。無慈悲な圧迫は、彼女を生きたまま更に、しかし酷くゆっくりと潰していく。
 小さなうめき声が板の間から零れてくる。もう先ほどのような勢いはなく弱弱しい、滴るような声。圧搾処理を指示した所員は、ようやくモニタから目を離してまさに押し潰されていく肉の光景を余すところなく透視している透明な板へ歩み寄った。さっきまでの無関心な様子とは打って変わり、今のその表情は妖しい笑みと、高揚したような赤い頬。
 緩慢だが強力な圧迫で、中身が追い出された。口と、肛門から、チューブを絞ったときの様に噴き出した。口から噴き出したのは恐らく朝食べたものだろう。昨日までの宿便も下から押し出されている。暴力的に圧迫されのされていく人体。頭蓋の圧迫も深刻らしい、顎は何かを訴えるように半開きのまま砕け、その隙間から強制ゲロが噴き出していた。横に潰れた顔面は無様で、頬と鼻と耳が高さを同じにされようとしている。透明板に圧迫されところどころ圧に負けて裂けた部分から出血している。

「わざわざこんな役立たず拾っても無意味だったかな。こんな尻子魂じゃ、何の足しにもならない。いてもいなくても変わらない人間なんて、こんなものか」

 ゴミ。役立たず。無意味。いてもいなくても変わらない。体を潰滅され骨も内臓も無残に砕かれてもう助からないのだからさっさと途切れてしまえばマシなものを、なお継続される命と意識は、所員の放った言葉を認識してしまう。
 ゴミではない。役立たずではない。無意味ではない。いてもいなくても変わらなくない。それを望んでそれを信じてそうなるはずのここで、ゴミで役立たずで無意味でいてもいなくても変わらないのだと、最後にざっくりとまとめられてしまった。このまま死んでしまえば、そのざっくりまとめは誰も覆してくれない。それを覆すためにここに来たのに、だれも。だれも。

 私はゴミではない。私は役立たずではない。私は無意味ではない。私はいてもいなくても変わらなくない。
 私はゴミではない。私は役立たずではない。私は無意味ではない。私はいてもいなくても変わらなくない!
 私はゴミではない。私は役立たずではない。私は無意味ではない。私はいてもいなくても変わらなくないのに!!!!!

 頭蓋骨が砕けて裂けた頭皮から押し出されたオレンジ色の柔らかいふわふわがはみ出している。それでも少女には僅かに意識の様なものが残っていた。死なない限りは生きているという生命活動は、かくも残酷なものだ。自分の体がどうやって終わっていくのか、意識の続く限り考えてしまうのだろう。肉体だけが無様に終了するならまだしも、彼女は最後の最後に尊厳の果てまで砕かれていた。この世に無意味に生を受け、でもそれを肯定できると希望を持った瞬間、その希望ごと折り直されて、そのまま命尽きる。
 少女のすり潰されて消える直前の意識は、怒りと無念と悔恨と疑念と呪怨を、もはや区別できない。だがそれが境界をしないぐちゃぐちゃにミンチされた不定形の感情を以て、この世を呪ったまま終わろうとしていた。だが。

「でも、かわいい」

 もう声を上げることは出来ない。目を動かすこともできない。呼吸もできず、内側は破裂している。中身がいろいろと絞り出されて噴き出していて、心臓だってきっと満足に血液を送れていない。更に圧搾は続いているのだ。間違いなくこのまま死ぬだろう少女に、しかし場違いな言葉がかかった。
 カルト信者の圧搾を指示した所員が、スカートの裾をたくし上げて、中を圧搾する残酷な透明板の角に股を擦り付けていた。膝と腰の運動で上下に動く体、股間の割れ目にちょうどいたの角部分が食い込む形で擦られると、その軌跡には中の少女から噴き出したもろもろの液体とは別の、透明な液体で濡れた跡が残る。

「潰れてる君、可愛いよ。尻子魂はゴミ糞だったけど、そうやって潰れてる姿、最高だよ。他に何の取り柄がなくったって、君は最高に可愛い❤」

 透明板に抱き着くようにして、今まさに殺人中の板で角オナをしている所員。熱い息がかかった板は、その呼吸に合わせて曇り、晴れ、曇り、を繰り返している。今も徐々に圧搾が続く生きたままの肉体を透明板越しにうっとりと見ながら、その所員はオナニーに興じていた。

「はーっ❤はーっ❤潰れてる人体ってマジで興奮する……❤女の子が抵抗できずに段々圧死してくところって何度見ても最高っっっ❤黙ってたら可愛くもない顔だったけど、そうやってべったり潰れて唇をつんってしてほっぺた潰れて目見開いて、魚の顔みたいになったら、ヤバい可愛いよ❤魚顔のアイドルかわいいっ❤」

 べきっ、と一際大きい音を立てたのは頭蓋骨だった。既に砕けて中身を押し出されていた破片が、更に細かく砕けた。大の字になってもともと人の組織だったらしいものが挟まっているという以外、もはやそれが人間だったかどうかは疑いの目をもって見なければならないような姿になっている少女。もうこと切れている。

「自信もっていいのに❤私潰れたらこんなに可愛いって自信もっていいのに❤ふーっ❤オナニー止まんない❤潰れてるの見てたらマンコ疼きすぎてやばいもん❤最高のオカズっ❤」

 もう人型の赤いクッキー生地。そんな感じだ。大まかな輪郭線以外、人の尊厳は圧潰され抹消されている。
 破裂して内側から噴き出した赤い液体や立体的な生き場を失い横に広がり付きだした骨格、弾性を持っているせいで形を保ち他の組織の移動に押される形で上下左右へ逃れ続ける組織も体の外へ飛び出し圧力に負けて外でやはり破裂した。
 透明板はそうした無慈悲な肉体の変化を余すところなく映し出している。所員は板の向こうで潰され形を失い死んでいく少女の姿にうっとりとした視線を送り、熱い吐息をかけ、愛にも似た言葉を投げ、吸い付くようにキスし、舌を出して舐めている。自らの胸をはだけ、ピンと経った乳首を透明板の表面に押し付けてくりくりと潰し擦る様に刺激し、手は下半身を掻き回している。所員の体重などあってもなくても変わらないフォースで圧潰していく板だが、それに自分の体重を加えると言わんばかりに重心を預けて、つま先立ちになって太腿を震わせていた。

「はっ❤はっ❤はっ❤はっ❤イク、イクっ❤これ見ながらのオナニー、興奮しすぎてすぐイクっ」

 股間を弄る手の動きを、まるで機械のそれのように早く細かく激しく変えて、中の肉を掻き混ぜて自分の一番好きな場所を指先で擦る様に刺激する。大好きなカレシにセックスしてもらっていきそうになっている女はきっとこうなるのだろう、そういう顔を、透明板の向こうの肉塊に向けて晒して、だらしのないトロ顔でキスの雨を降らせている。
 板の間で液状化した肉体は、少女の着ていた少々手入れの行き届いていない学生服にしみこんでいる。体の中身は、内臓も骨も皮も筋肉もなく無差別に圧潰されていて、透明板の四辺からはみ出すように赤いパテになってはみ出し、床下の円形の窪みに垂れている。格子状の穴へ流れていく少女だった液体。

「イク、イクイクイクっ~~~っ❤」

 肩を竦め、その透明板がカレシの胸板であるように寄り添った姿勢で、所員はオーガズムを迎えた。元少女の液体が流れる水溜りに崩れて膝を突き、オーガズム後の弛緩で

「あ、ふ……でちゃ、う❤」

 失禁する。透明板に抱き着くようにしながら、ぱんつとスカートをはいたままの放尿。愛液交じりのアクメ失禁尿は、潰された少女の液体と共に排水口へ流れていった。

「ふう、気持ちよかった❤」

 透明板の間隔は、挟まった学生服以外の厚みのみとなっていた。残りは全て、赤いマッシュポテトになって、板の脇に押し出され、所員のアクメ尿と共に排水口へ流れ去っていた。幾らか固形を残したまま下へ落ちたものが、床に残留している。所員はそれを足でぐしぐしと排水口へ押し込む。

「尻子魂はゴミだったけど。まあ、あんな風に自分を切り売りして、ここに、ありもしない救済を求めてくる子供なんて、たかが知れてるか。でもま、『特別な栄養』になってもらう大切な役割だ、君も嬉しいだろう?」

 所員は、足を拭いて靴を履きなおし、ぱんつを替えて普段の研究服姿にすっかりと戻った。デッキブラシと雑巾を取り出して脇に放り、蛇口から引いたホースを伸ばして、少女だったものを洗い流していく。徹底的に綺麗にする必要はない、この圧搾機の付近だけ汚れが残っていなければ、それもこの部屋に生える植物達(元人間や元動物性妖魔だが)の餌になるだけなのだ、適当に洗い流す。デッキブラシでざっくざくと赤いシミを消し、細かい部分は雑巾で軽くふく。特にFCNFの透明板は、こうして圧搾後は脂肪がべったりとついて掃除が面倒臭い。こればかりは、専用の洗剤と熱湯でしっかりと洗わなければ曇って透明度が下がってしまう。尻子魂を抜くのにこの板の透明度はあまり関係のないことだが、副産物としての余興の質が落ちるのは御免だった。

「油汚れに強くしたいなあ。人間の脂肪って落ちにくくてイヤ。そっか、汚れのつかない俎板の技術をここに適用すれば、新しい商品になるんじゃないかな。尻児魂とは別に、社内ベンチャー申請してみるかな……」

 カルト信者として喧しい活動をしていた少女は、古今社内での稟議を経て、処分を兼ねてこの所員の実験台となった。メディアフレンドリに情報開示と民間融和を図る古今ではあるが、勝手に余りにも喧しく行き過ぎた理想イメージを作成されるのは、悪いイメージで風評被害を出されるのと同じくらいに厄介なのだ。

「君の恵まれない境遇には同情を禁じ得ないけどね。歪も中二病も反社会思想も、現実と折り合いをつけながらスマートに飼い慣らして、使うべきところでパワーに変えてなんぼだからね。君が『異常者な自分』が大好きならば、それはうまく使わないといけないの。使うのではなく振り回されて呑まれた君は、まあ、残念でした。」

 透明板を洗剤で雑巾がけし、熱湯で洗い流しながらもうここにはいないその少女に向けて言葉ばかりの同情、その実ただの嘲笑を溢す所員。

「望まれない子≪毀れた河童≫は山を下り、今ではこうしてちゃあんと生きている。ここで誰にも邪魔されずに、誰にもなしえない誰にもまねできない役目を果たしている。今では故郷でも『ちゃんと社会人やってる』奴ってことで『人間が好きなんて異常者だ』と追い出した私を、掌返したように迎えてくれる。社会なんて、クソッタレだよ。それには同意するけどね。社会に牙を剥きたいなら、逃げ方も、攻転タイミングも、一つも間違っちゃいけないんだ。哀れだね、今君にそれを言っても、仕方のないことだけど」

 すっかり綺麗になった透明板を、額の汗を拭うようにしながらすがすがしい笑顔で眺める所員。コンソールに向かい、動作の初期化を指示すると、圧搾するために現れた背後の板は床下へ隠れた。再び、改造植物と人工物の融合体に埋め尽くされ、中央に鎮座する巨大な薔薇を抱くような部屋は、元の姿へ戻った。

「せいせいしているさ、私を産み捨てた母さん≪クソ女≫も、私を教育してくれたお父様≪クソ男≫も、私を追い出した社会全部も、全部私は餌にして、今生きてる。そういう点では、嫌な過去でも肯定するべきなんだろうね。それが出来ずに過去を否定するだけだった君は、ここでゲームオーバー。次の君はもっと上手くやるでしょう。幸福にはなれないとしてもね。アデュー」

 水洗いのホースで、さっきまで少女だった赤いシミの最後のひとつが、綺麗に洗い流された。

「済んだかい河城君」

 ほどなくして河城、と呼ばれた所員の部屋で、もう一つの声が聞こえた。入り口の扉の方だ。

「げえっ、主任、どこから見てたの?」
「そこから」
「場所じゃなくて」
「『魚顔のアイドル可愛い』」
「ほんと勘弁して」

 声の主は梨来だった。尻子魂ヌキの一部始終まで見られていたとなって、河城と呼ばれた所員は顔を真っ赤にする。

「あともう河城じゃないんで!」
「ああ、ついな。わかってるよ、真矢」

 真矢(旧姓河城)は、化学(遺伝子工学)系専攻の所員が多い中で、機械系にも強い珍しいメンバーだった。エクストラの装備について、多くはアウトソーシングやライセンス品の購入で賄っているが、そうした立場からブリッジエンジニアとして委託先にものを言える数少ない知識者だ。

「どうせ明日には戻ってるんだろうけど。主任の頭はエクストラと雲月のことばっかりだもんね」
「待て、出クンは関係ないだろう!」
「怒るのは図星の証拠。何『出クン』って。惚気過ぎでしょ」
「これは昔からだ、別にアレがきっかけでは」
「昔から……あれ?アレって何?」
「」

 口をパクパクさせて目を逸らす梨来主任。

「何故君の様な奴が結婚できて私が……」
「なにか」
「なにも」

 楓は夫婦っていうより共同生活相手だから、と言い足した上で、梨来へ言葉をつづける。

「産業スパイ、ではなかったみたい。尻子魂はそう言ってた。質の低いゴミ玉だったけどね。マシンの運用コストの方が高くついちゃった」
「そうか。ごくろうさま。」

 端末に表示された文字列を梨来へ向けて見せる真矢。ディスプレイされた緑色の文字列を指先で指示しながら、もう片方の手でキーボードを叩いて画面を遷移させる。見ている梨来もその文字列を目で追いながら小さく頷いていた。

「これ全体が尻児魂の構造体で、ここんとこが霊的存在根≪レジストリ≫文字列。リレーションを示す値にタルターロスに関係する値は含まれていない。他の値も洗ったけど、トリニティにもタルターロスにも辿り付かなかった。ただの運動市民だね。」
「……ワイヤド上でかなり喧しかったからな、ただの、とは言いたくはないが。何にせよ、ごくろうさま。真矢に頼めば、汚れ仕事ってわけでもないから助かるが」
「一応汚れは汚れだけどね。喜んでやるかやらないかだけでしょ。汚れ仕事は掃除だってそれなりに大変なんだから、こんな風にね」
「喜んでくれて何よりだ。ところで」

 口調も明るく日用レベルのものに変えて、話を切り返す梨来。地雷を踏みそうなので話題を変えたかったのか。

「ここに、クローバーズの誰か≪・・・・・・・・・≫が来なかったかい?」
「雲月なら≪・・・・≫、来ていないよ。ティムは昨日の夜来てたけどね。来てても今は入れなかったはずだけど?誰かみたいにマスターキー持ってるわけじゃないし」
「そうだなあ。出クンと四人そろって休暇なんて、少なくともこの中≪ドランメン≫にいる訳がないか」
「商店街でも行ったんじゃない?」
「外出だと!?誰がそんな許可を……」
「こないだの会議で主任がはんこ押してたけど」

 頭を抱えてうずくまる梨来。

「どうせあの三人≪クローバーズ≫は外見じゃ普通の人間と変わんないんだし、常識もそこそこ育ってるし、いいんじゃない?……って、同じこと言いながらはんこ押してたと思うけど」
「そういう問題ではないのだよ!」
「どういう問題なのだよ?」

 またうずくまる。

「押した気がする、確かになんか二日酔いの精霊に頭をがんがんハンマーで殴られながら押した気がする」
「……」

 いつものことだが植物の研究をしているか死神面してそれを売っているかどちらかをしていないときのこの人の仮スマ≪・・・≫具合はすごいものがあるなと、真矢は雑巾を乾燥機に放り込んでから椅子に腰をおろし、背もたれに体重を預けて天井を見るように体を反らせた。

「あー、私も休みが取れたら中島製作所に顔を出してきたいなあ。長瀬のゲンさんに、こないだ色つけてくれたお礼したいし。るーことちゃん製作の最新状況見たいし。」

 つまるところ、出を管理者≪admin≫とするエクストラ三人≪クローバーズ≫は、今日一日古今敷地内のどこを探してもいないのだ。オフなのだから特にそれが問題と言うわけではないが、梨来は妙にそわそわしていた。

「それにしても雲月はあの三人の、いいお兄ちゃんしてるね。よく色んなところ連れていっているし、施設内でもずっと一緒にいるし。お兄ちゃんというよりは、あの三人娘の共同カレシかも」
「か、彼氏だと!?」
「……あーわかりやすい」







 虫の報せサービスを使用して、探査範囲に含めることが出来なかったもう一つの場所は。

「あのー、おはよーございますー」

 幽香さんち。
 まだ朝早くだから、幽香さんは寝ているかもしれない。幽香さんって割とお寝坊さんだし。農家(?)なのに信じられないよもう。ボクは幽香さんのおうちの扉をノックする。このおうちってただの別荘みたいなもので、本当のおうちは紅魔館くらいおっきくて、お付きの使用人とかもいるんだとか言っていた。辺境伯の一端を担うのだ、それくらいで当然だとは思うのだけれど、実際にそんな屋敷が幻想郷のどこかにあるというのは見た事が無い。
 ここだけは、格別の事情がある訳でもないのに虫の報せサービスを走査させていなかった。いや、殴られるのがいやだという深刻な事情はあるのだけど。
 時間も時間だしまだ寝ているかもしれない。あの呆然自失に乙女チックなナイトウェアに三白眼で「くだらない理由で起こしたなら殺すわよ」って言われるのが目に見えている。そういえばなんかそういうところ、霊夢さんと幽香さんは似てる気がするなあ。
 さっき紫太妃は、これが異変になると予言していた。そうであってほしくはない。異変だとしたら、神隠し的なものだろうか。誰が、隠すのか。紫太妃の言葉を真正面からとらえるなら、ボクと言うことになる。博麗が認定する「異変」というものの不可解な性質上、もし異変の首魁がボクであると判定されるなら、ボクが何を主張しようとも、ボク以外のあらゆる存在からはボクが犯人ではないという確証が無いように映るのだろう。
 異変、には政治的な取引がつきものだ。犯人が更生不能な悪性存在ならば、博麗は容赦なく浄滅させる。とるに足らない小さく弱い存在の場合は、更生が可能であっても費用対効果を鑑み

「なによ、まだ早いわよ」
「あ、あれ、えと」

 寝ていると思っていたのに、あっさり扉が開いた。しかも普通に服着てる。えっと、こういう時どう対応すればいいんだっけ。さっき霊夢さんがしてたようにすれば……

「えっと、む、虫の報せサービス、モーニングコールverでーす」

 なぐられた。




「い゛た゛い゛て゛す゛」
「私は痛くないけど」

 そりゃあそうでしょうよ!

「朝から何」
「実は、朝からロー、ミスティアの姿が見当たらなくって」
「何であの雀の居場所を私が知ってるというの」
「えっ、それは」

 そう切り替えされると困るってしまう。

「他のところはもう全部探したんですけど、見つからなくって。その、ミスティアと幽香さん、喧嘩したんじゃないかなって、ボクの勝手な想像ですけど。こないだ、急に、その、あんなこと……」
「私が、あんたを寝取ろうとしたっていうの?ばかばかしい。どの道あんたにそんな甲斐性ないくせに、自惚れんじゃないわよ」
「ぐぅ」

 ぐうの音くらい返しておいた。

「こっちにお邪魔してるわけではないと」

 ここにいるんだろ、なんて容疑をかけるつもりはないのだけど、そう聞くにはそれなりの疑いが必要なのだ。勿論幽香さんを疑いたいわけではないのだから、こんな言葉そのものを発したくない。それ以前に、紫太妃が言っていた「異変になる」という言葉が、ボクの中で明らかな比重を持ち始めていた。
 ここにいないことを確認する目的ではあったが、ボクが恐る恐る聞くと、幽香さんは腕を組んだまま一瞬、黙る。いつもののりなら「いるわけないでしょ」と秒で返されるのだけど、妙な間があった。ボクを品定めするような、不機嫌そうな、そんな視線をくれて、ほんの少しの沈黙の後に。

「私が食べたわ」





 折角のオフなのだからと、三人を連れて外に出てきた。ダメ元で申請したエクストラの外出願いが、所長直々の許可を得られたので、これは連れて出ないてはなかった。
 古今生命科学研究所第四プラント≪ドランメン≫のある秋来宮は、他の地域に比べても生活水準が高く、緑と人工インフラのバランスが綺麗にまとまった治安のいい地域だ。吸水アスファルトで綺麗に塗り込められた舗道の脇には飲食店や服飾雑貨店が並び、屋台カフェの移動販売車が止まっている。マンハッタンのように背の高いビルの建設は制限されており、そうでない建物も外観に一定の統一感を出すよう義務付けられているせいで、中庸な市場主義を採用した経済とそれによる人口増加の割には、均等で穏やかな街並みを維持していた。
 秋来宮の執政府が景観の維持にこだわるのは、この地域が現在の支配体制が敷かれる前に存在していた別の王権の遺跡「古墳」が残っているためだ。これは他の地域に類を見ない巨大な王墓であり、秋来宮はその美しい景観と旧時代の遺構を貴重な観光パッケージとして活用していた。古墳が学術的に重要なものとなれば執政府に接収されるのだろうが、今のところは一定の管理に留まっている。
 だがそんな古墳も瑠美にしてみれば

「かびくさいし、ただのおやまだし。これならバプラのおてらのほうがすごかったよ」

 とつれない反応だ。他の二人も大して変わらない。パウラは表にこそ出さないが、やはり面白がっているようでもなかった。やはり子供にはつまらなかったらしい。

「リメンバアンブレラとなんか関係があるのかと思ったけど、何にもなかったな。」
「まあ、あったとしたらCYPHERの人達が探り当ててるだろうしねえ。でもあの三角形が沢山重なった絵は見てて気持ち悪くなっちゃった。ただの幾何学模様なのに」

 エクストラ三人娘≪クローバーズ≫は今のところ、仕事以外で外に出した事は無い。仕事で外に出たときに待ち時間があれば僕の裁量で行動させることは出来たし、泊りがけの仕事ではそれなりに好きにさせたが、彼女達は本当のフリーと言うのを知らない、いや、忘れている。まだ小さいのに可哀想なことかもしれない。
 小さな古墳に臨む形で、堀との景観を一望できる小さなカフェは古今からほど近く、所員の息抜きの場であると同時にランチタイムには混雑を極める。ただのカフェなのだから座席数は少ないのだが、ここのベーグルは手軽に食べられるランチとして普段使いされていた。
 今はランチ時でもない、すっきりと空いたその店に三人を連れてきた。

「円墳ベーグルたべたい」
「円墳って、普通のベーグルにしか見えなかったけれど……」
「ひとのおかねでたべるものはなんでもおいしいんだよ?」
「瑠美……」

 お腹が空いたと言う瑠美は古墳から出るなりこの店を指さすものだから、とやってきたわけだ。古墳に入るころにはまだ、あの妙にのっぺりと塗り潰した様なスカイブルーは雲間に見えたのだが、出る頃にはすっかり曇りになっていた。

「好きなものを頼んでいいよ。と言っても、なにがなんだかわからないか」
「おい、あたいらをあんまり子供扱いすんじゃねえぞ。こいつはメニューで、この中から選ぶんだろ?それくらい知ってるぜ」
「あーっ、ジル、めにう≪・・・≫ひとりじめしないでー」
「わりいな瑠美、こいつはあたいがとっぴしてんだ」
「メニューならこっちにもあるから喧嘩しないでよ、もぅ」

 品書きをした厚紙に写真を載せてパウチしただけのメニューが、彼女≪こども≫達のお宝だ、古墳の奥にあるかもしれない財宝なんかより。

(日常こそ、宝物ねえ)

 三人が一つ一つを指さして、この字が読めるか読めないかの強がり合いまで始めている。早く注文を決めて欲しいのだが、まあ店は空いているし勘弁してもらおう。向こうにいるウェイトレスのお姉さんも彩度の高い子供の声に嫌な顔せずに、むしろ楽しそうだ。

「出さんは、何にするんですか?」
「そうだなあ、僕はお昼を食べてきたから軽く……」
「ニューヨークチーズケーキなんかどうですか?さっき店先で見たんですけど、タルト部分が薄くって、下の方までしっかりチーズなんです!それに耳の部分がサクサクのパイ生地っぽかったんです、珍しい!表面にカラメル入りのナパージュが塗ってありました、あれはベイクドチーズケーキの定番なんですが、ニューヨークチーズケーキでやってるのは珍しいです……私、気になります!ラズベリーが乗ってるのも可愛いですけど、さりげなく添えてあるペパーミントの葉の香りが、食欲をそそりますね~。ぐっどですよ、美味しくないはずないですよ!」
「えっ、あ、うん」
「ちげーよ、出はトリプルミックスパフェに決まってるだろ、な?これ、ほら、チョコ、ストロベリー、バニラの三種類が縦に三分の一ずつになってるんだぜ、サイズはでかいし飽きないって。それに見て見ろよ、コーンフレークの層が厚すぎず暈増しじゃなくてちゃんとアクセントになってる、いいやつだ。上がそれぞれ、ベルギーチョコ、ヨークランド産生クリームと、すげえ、女峰が乗ってるってよ!何でもかんでも甘くすりゃいいってわけじゃないイチゴをよくわかってるじゃんか、パフェみたいなのに乗っけるには、酸味がある女峰か章姫って決まってるんだよ。で、中はディプロマクリームとティラミスだ、すげー!」
「わたしエビグラタンとキドニーパイ」

 何が何だかわからんのはこっちだった。古今の中をどんなに探し回ったって、チーズケーキの種類とかイチゴの種類とかキドニーパイなんてものは出てこないのだけど、一体どこでそういうのを仕入れてくるのだろう。ワイヤドくらいしかないが、だとすると真矢のやつがミーハーな知識を仕込んでそうな気もした。いや、これくらいの方が、このくらいの年の子らしいのだろうか。連れてきてあげたつもりが置いてけぼりだ、これがおじさん化か……。

「ぼ、僕はアメリカンでいいかな、うん」
「はあ?!なんでですか!?」
「そうだぜ!せっかくなのによ!」

 結局、僕の前にはアメリカンコーヒーと、ニューヨークチーズケーキと、トリプルミックスパフェが全部来た。当然ジルはジルでパフェを頼んでいるし、パウラはパウラでチーズケーキを頼んでいる。瑠美はグラタンとスパゲッティを頼んだ上に、店員の去り際に昔ながらのナポリタンを追加した。







 三人ともぺろりと平らげたのでジルにチーズケーキを、パウラにパフェを半分あげようとしたら、両方から「私が選んだものを他の人にあげるの?」という無言の視線が飛んできたので我慢して食べた。美味しいのだけどこんなに甘いものばかりは……。これで瑠美が何か塩味のあるものをくれればまだバランスがとれたかもしれないが、瑠美は一口もくれずにあの三品を一人で食べてしまった。

「……三人とも、満足したかい?」
「うまかったぜー」
「はい!」

 あのジルが引き気味に見ていることからお察しの通り、瑠美の食欲は生半可なものではなかった。大の男の僕よりも食べるのだ。このちっちゃい体のどこに三人前のヘヴィなメニューが入るというのだろうか。

「出さん」
「うん?」
「ちょっと偽装音声通信しますね≪ちょっとクソミソ中止しますね≫」

 パウラの言う偽装音声通信とは、ここでの会話の音声が、この範囲の外、今回はきっとこのボックス席の外側では、全く別の会話に聞こえるという芸の細かい技だ。5級以下の指定だからどこでも申請なしで使えることになっているが、基本的に、そういう必要があるときのもの。まだ制御が巧くいっていないらしく(というか二重に思考するのがおっつかないんだろう、僕なら無理だ)、外部に聞こえる言葉は基本的に意味をなさないものになる。注意深く聞かれてしまえば、会話の支離滅裂さに気付くだろうが、それでも会話の本当の音声自体は隠蔽される。うちの三人組は本当に諜報向きの花卉構成だ。

「どうしたの?≪童貞なの?≫」
「一昨日、トリニティ・インダストリの私設軍との共同で任務したじゃないですか≪男湯取りに行ってって言いだしたの、親切ぅ~っ今日どう?って淫夢したじゃないですか≫」
「若津が陥落した件?それがどうかしたの?≪若ッ!快楽したけん、オレが強姦したの!≫」

 一昨日実行した作戦は、パウラの言う通りトリニティ・インダストリの私設軍と共同で、過激派宗教組織の近江内の拠点を攻撃するものだった。近江が組織的にその宗教組織のテロリズムをバックアップしていて、トリニティ・インダストリとは経済的利害に不一致がある、というのが大義名分だった。参加したのはうちの三人と、インターポール≪IRPO≫の武装警官に偽装したティムと、実際の武装警官数名だ。ティムを含めたエクストラは、トリニティ・インダストリに売り込みたい政治的な判断で余り条件の良くない中でも仕事を引き受けたために使われ方も相応で、気持ちのいい作戦ではなかった。

「あれさ、トリニティの軍がヘタレでよ。瑠美が暇だっつうから、サボってるよりはってちょっと中入って来たらしいんだ。そもそも敵が何なのかさえ知らされてないし、怪しいだろ?≪イエッサ、懲りずニノ君がヘタレでよ。組が今だっつうから、ズボッてるよい穴って、腸液の中はいってキタら死んだ。ごほごほ咳がアンナの未遂さえ汁だされて、内心アパシーだろ?≫」
「確かに、どうにも腑に落ちない任務だったからね≪脚、蟹?豆腐もふにょって味ない淫夢だった洗え≫」
「けいさつかんがなくなったけど、あれ、みうちのしわざ。ほんとはトリニティがやったの、かくしてる≪経過観察が無くなったけど、アレニウスの死、わざと。魂斗羅取りに行ったの隠してる≫」
「身内?トリニティの兵がインターポールの警察官を刺したってこと?≪Me too.取りに行ってる弊害インポの警察官に刺したってこと?≫」
「そうみえた≪早漏下手≫」

 トリニティ・インダストリは私設軍を持ってはいるが少なくとも反社会組織との接点は確認されていない。だが、今回の作戦の犠牲者の内、唯一ゲスト参加からの犠牲者である武装警察官が、トリニティ・インダストリの私兵によって殺害されていたのだとすると、何か面倒がありそうだ。社内軍法会議でも開いてその容疑者を裁いたと聞けば(おそらくは社内治外法権が適用されて不当に軽い刑に処されたことだろうが)納得もいくが、近江のテロリストにやられたと偽装報告されていることになる。

「この間の任務は、怪しすぎます。私は、ご都合的で懐疑的だと、見ています。私達を巻き込むために発注された、目的が別にある任務だったんじゃないかと思うんです。≪この愛だろ淫夢は、悲しすぎます。形は、ごつくてでかいものだと見ています。股下、血を撒きゴム駄目にファッキューされた。奥手クンがケツにあう淫夢だったんじゃないかとホモ産んでる≫」
「それは、パウラの主観?≪それは、パウラの主観?≫」
「はい≪はい≫」

 他に目的が、と言っても全く見当もつかない。単にトリニティ・インダストリとインターポール≪IRPO≫との確執の問題かもしれないし、そうであれば古今は何も関係ない。そもそも、個人的な怨恨があったのかもしれない。企業イメージを保つために隠蔽しただけの可能性もある。

「このけんを、古今にかぶせるって、いってた≪このケツを、ここぶってるって、イってた≫」
「は?≪はん❤≫」
「あいつら、なんか企んでるぜ。この間も所長、トリニティの事何か探ってたし。あたいら、嵌められたんじゃね?≪あついっ!ナニ硬いん出るぜ。この愛だもん、怒張トリノ五輪級か触ってたし。会ったらハめられたんじゃね?≫」
「主任が?≪Shining!≫」
「こいつは真矢からのオフレコだけどな≪この逸話マジヤバからのオゥフ、レッツゴーだけどな≫」

 所長も真矢も知ってるってことか。トリニティ・インダストリとの取引開始は、もしかしてデカい地雷だったんじゃないのか。

「一応、出さんの耳にも入れておこうと思って≪胃腸、キトサンの意味にも、挿入れておこうかと表≫」
「そっか。教えてくれて有難う≪ウォッカ、お尻でくれてありったけ≫」
「偽装音声通信終わります≪クソミソ中止困ります≫」

 これは、もしかしたら何かが起こるのかもしれない。トリニティ・インダストリは、開けてはいけない箱だったのかもしれないな。取引相手としては魅力的だったが……古今は痛手を被るかもしれない。

「何かあったら……僕には君たちだけが頼りだ。情けない話だけど」
「は?今更何言ってんだよ」
「ほんとだねー」
「私達は、admin≪出さん≫を護るために、生きてるんですから。任務≪お仕事≫なんて、出さんに言われたから、やってるだけですし」
「おー、いいセリフ持ってたなー、パウラ」
「えへへ」

 こんな子供たちに、まもってやる、なんて言われて心強くなるのもなんだか情けないけど、この子たちは確かに、その辺の軍隊なんかよりよっぽど、強い。それに、その辺の大人なんかより、よっぽど、辛い。
 他の部分は、僕が、支えてあげなければ。

「ありがとう」

 得意げに、でも少しはにかんだ様に笑う、ほんの小さな子供達。
 こんな子を兵器として使うことに、どうしてなったのだろうか。僕のあのn倍枚葉のクローバーは、その元凶を、体現しているような気がしていた。大した意味もない欲望、それを満たすためには大げさで切れ味の良過ぎるメス。そして出来たものの不幸は、出来たものが負い、作った者は傍観するだけ。
 この子たちは、おもちゃじゃない。主任は、それを割り切ってしまったようだけど、きっと忘れてはいけないのだ、自分が持った剣が、おもちゃの剣ではないということを。

「ねー、出氏」

 瑠美が、僕に何か言いたそうにしている。

「なんだい?」
「えんふんベーグルわすれてた」
「あ、ああ」
「まだ食べるの?」
「グレイトだぜ瑠美……」

 これが、彼女達の日常だ。







「雨」

 古墳カフェから出る頃、雨脚はすっかり無視できないくらいになっていた。

「最近の雨はざっと降ってすぐに止むもんなんだけど、雲の切れ目が見えないね。本格的に降り出してしまったかも」
「濡れるのは構わないけどサ、電車で人が迷惑がるからな」

 ジルも瑠美も困り顔で空を見上げている。

「コンビニで傘買ってこよう。ちょっとここで」
「傘?」

 僕が少し先に見えるコンビニまで走ろうとしたとき、パウラが僕の手を取った。

「傘は……」

 傘に抵抗があるのだろうか、無理も無い、あんなひどい目に遭ったのだ。

「ごめん。無神経だったよ」
「あっ、違うんです。傘が怖いとかそういうのはないんです。でも、傘を使い捨てみたいに簡単に買って簡単にぽいってのは、もう、出来そうになくって。ごめんなさい」
「あたいは新しく買うくらいなら濡れて帰る」
「かさかうおかねですいーつもうひとつたべよ」
「瑠美はスイーツ食べてなくない?」

 パウラだけではなかった。ジルも瑠美も、傘を避けている向きがある。リメンバアンブレラの呪怨に至近で長時間曝されていたのだ。恐らく、傘を使い捨てにする、置き忘れ去る、軽んじて扱う、と言ったことへの忌避をもたらす精神影響が残留しているのだろう。……が、それを、単に神妖≪かみさま≫の超常の力の残滓とみる安易な結論付けに、この子たちは、それに僕も、納得出来ないような気がしていた。

「そうだね。古今に帰ったら傘、あるもんね」
「はにわプリンたべたい」
「瑠美まだ食うのかよ?さすがの食いしん坊だな、食う事ばっかじゃんか」
「(ぷん)」
「ジルだっていつも一緒になって食べてるじゃない」
「そんなことねえって、ちげえし、付き合って仕方なく」
「はいはい」
「今日はパウラだって一緒にたべてるだろ?いつも『だいえっと』とか言って残してるくせに」
「だ、だっだだだだだだめええっ!秘密って言ったじゃない!出さんにばれちゃったじゃない!!」
「あっ、ワリ……」

 三人とももう雨をどうしよう傘をどうしよう、という考えはすっかりなくなっている。雨が降ってるなら止むのを待てばいいという、ある意味で達観したところにいるように見えた。そのはにわプリンを買うのは僕なのだけど。
 初めての神妖≪かみさま≫との戦闘からしばらく経過して、パウラにも特に悲壮感はない。嘔吐を繰り返してでも僕にしがみついて来たあの出来事は、それでも神妖≪かみさま≫との戦いが原因と言うわけではないし、体を欠損したことが深刻に影響しているわけでもないらしい。だからこそもっと根が深いのは間違いないのだが、条件付けと暗示がエクストラには不可避のことであるのなら、戦闘の負傷による嫌な記憶が深く残るよりはましかもしれない。パーツ交換を要する負傷と言えば瑠美の右手もそうだった。だが元々彼女の生得部位ではなかったこともあってか、こちらも別段新しい手に不満を持っているようではなかった。
 神妖≪かみさま≫が道徳の授業をしているとは思っていないが、日本に出現する神妖≪かみさま≫は、必ずどこかでそうしたものを感じさせる存在になっていた。ばかばかしい、命を懸けて「よいこのどうとく」をするなんて、そんな割の合わない授業料があるか。エクストラは普通の人間とは違う、ありていに言えばアンドロイドと言うようなものだが、彼女達は現に道具を惜しむ心の代わりに、子宮と、右手とを失い、肝臓と脾臓を貫かれた。口で言ってわからないような馬鹿な子たちではないのに、だ。

「じゃあ、雨が止むまでもう少しここでお世話になろうか」

 店内に戻ると、店員はにこやかに迎え直してくれた。ただ、その笑顔に何か、奇異の視線が、特に僕に対して、向いているような気がした。最初に入店した時より、視線がずきずき刺さる感じがする。パウラがフォローしてくれていたから、さっきの会話の内容は聞かれていないはずだが……。

「まあ、おっさんが一人で三人も子供連れてこんなところにいりゃあなあ」
「そーじゃないとおもう」







「たべた、って、え」

 想像の斜め上どころか直角に上の答えが返ってきて、ちょっと意味が分からない。

「た?」
「小骨が多くて、あんまり食べるところなかったわね」
「朝からミスティアの姿が見当たらなくって」
「ええ」
「虫の報せサービスであちこち探したんですけど見当たらなくって」
「ええ」
「こちらにお邪魔してるんじゃないかなって」

 なに、同じことを繰り返しているのだろう。普通なら「なにをばかなことを」と一笑に付すような内容だが、今ばかりは、その限りでもないように思えた。ローリーと幽香さんが喧嘩してたなんて、ボクの勝手な思い込みだったのに、本当にそうだったの?

「ええ、そうね。来たわよ、ここへ」
「ろ、ローリーは、何でここに」
「さあ?」
「あ、じゃあ、その、ボク達4人って朝、一回集まるんですよ、みんな元気だねって確認の意味で。その時間何で、そろそろ」
「でも、あんまり小うるさくぴいぴい言うものだから、ついね」

 腕を組んだままボクの方から小さく目を逸らす幽香さん。そういえば幽香さんなんでこんな早く起きて、もう普通の服着てるんだろう。やっぱりローリーが来て起きたのかもしれない。そもそもローリーは何でここに来たのだろう。何か用があってここへきて、幽香さんと何かあって、それで……?
 ボク達四人なんて、幽香さんがそうしようと思えば、まるでひょいと手を伸ばしてテーブルの上のお菓子を摘まんで食べるくらいの感覚で、丸呑みに出来てしまうに違いないのだ。単に虫の居所が悪かったところに、うるさく飛び回る邪魔な小物が飛び込んできたら、それは、気紛れにそうされてしまっても不思議ではない。

「あの、お部屋の中見せてもらっ」
「ダメよ」
「どうしてですか?いつも入れてもらってるじゃないですか」
「今はちょっと、ちらかっているから」

 朝早く起きたとしても、幽香さんは人を迎えるためにわざわざ着替えるような人じゃない。ナイトウェアは、汚れてしまった≪・・・・・・・≫んじゃないのか?何をして汚れたって?何を、して?

「ちょっと失礼します!」
「あっ、こら……」

 幽香さんの脇をすり抜ける様に、その中に入り込む。玄関で靴を脱いでる間に捕まっては堪らないと翅を生やして浮き上がり、低空飛行で一気にリビングへ向かう。ちらかっている、と言ったそれは何なのだろう。それはローリーと喧嘩した後、幽香さんが「食べた」というのが本当で、まだ後片付けが終わっていないのだとすると、家に入れたくない辻褄も、合う。

「ローリー……っ」

 リビングが「それ」でなければ、もしくは幽香さんのプライベートルーム。先に幽香さんの部屋を確認すべきだったかもしれない。リビングに「それ」が無ければ、引き返して幽香さんの部屋へ向かう間に、幽香さんに経路を阻まれてしまう。玄関から廊下、リビングへ繋がるドアを開ける。扉は、まるで内側から圧力がかかって押し出されるように、勢いよく開いた。

「ローリー!?」

 幽香さんの言う通り、リビングはいつもの姿をしていなかった。ダイニングキッチンのあるリビング、キッチンカウンターと並行レイアウトで配置されたダイニングテーブルと、その奥のL字ソファ、それらすべてが緑の葉で埋め尽くされていた。部屋の空気にも、お店と同じくヘキサナール系の香り≪グリーンノート≫が充満している。

「う、わわ、これ……白詰草?」
「見たからには、片付けるの手伝ってもらうわよ」

 後から部屋に入ってきた幽香さんが、ボクの首根っこを掴んでいった。

「試しにやったらできてしまって。ちょっと制御に失敗してぼうぼうになってしまったの。でも気持ち悪いから、二度とやらない。こんなのに夢中になっていたなんて、何考えてるのかわからないわね」

 部屋を埋め尽くす葉を足で掻き分ける様にして中へ入っていく幽香さんは、腕を組んで部屋の惨状を見回し、そう言った。翅で浮いていた僕は、そのまま部屋の中に入り、幽香さんの横でその草を手に取った。

「こ、これって」

 それは確かに白詰草だったが、幽香さんが『気持ち悪い』と言ったのもわからなくもない、部屋をぎっしりと埋め尽くす葉は、たった一株の白詰草から生えているのだ。部屋の中央くらいから放射状に広がっているのを見ると、その辺りに株があるのらしい。これは、三つ葉、四つ葉……と増えていったその先にあるお化け白詰草らしかった。

「何枚葉なんですか、これ」
「しらない。」
「幽香さんが生やしたんじゃないですか」
「生やしたのは私だけど、成長させたのは……」

 そこまで言って、言葉を切った。成長させたのは幽香さんの意志ではないという事?幽香さんの花を咲かせる能力は、幽香さん一人が司るものではないのだろうか。

「もしかして、ミスティアが関係してるんですか?ローリーの死体から生えてるとか」
「バカなこと言わないで、関係ないわよ」

 さっきの言い淀みとは打って変わって、いつも通りの即答だ。だが本題はこんな葉っぱの話ではない。

「冗談よ。」
「はっ?」
「あの子を食べたなんてのは。そんなに必死になるなんて、よっぽどなのね」

 幽香さんは、n倍枚葉のクローバーの葉をげんなり顔で片付けている。丈夫な草ならば株の位置はわかっているのだから株から一網打尽に出来るのだが、どうにも脆くて弱いらしい、少し乱暴に摘まんで持ち上げようとするとちぎれてしまう。自重に耐えられる強度を持っておらず、こうして床にぺったんこにはいつくばっているしかできないようだ。
 それよりも、ローリーを食べたのか、食べてないのか、というかこの家にいるのかいないのか?だった。それを冗談でそんなこと言って、冗談だという種明かしを、しょうもないことみたいな顔をしている。

「じょ、 冗談でそういうこと言いますか普通!?」
「あんたの狼狽え具合が可笑しくって」

 幽香さんが何を考えているのかよくわかないのはいつものことなのだけど、それをいちいち非難しても全く暖簾に腕押しなのもいつものことだけど、今回のはちょっと傷ついた。そういうことを簡単に言う人ではないと思っていたのに。
 ボクはなんかそうしなきゃいけないみたいに、一緒になってその葉っぱを片付ける。すごい葉っぱだ。これが一つの株から生えているなんて、信じられない。気持ち悪いというのもわかるが、こんなものを咲かせられてしまう幽香さんの能力は、何なのだろうか。

「ローリー、ミスティアは、ミスティアだけじゃないです、チルノもルーミアも、なんていうか、うまく表現する言葉が見つからないんですけど、お互いに友達と家族と戦友と姉妹を足したような関係なんです。信頼と依存と愛着が入り混じってて、大切な仲間なんです」
「何度も聞いているわ。羨ましいことね」
「だから、そういう冗談は」

 もうそのことはいい。どうせ幽香さんはボクがいちいち反応するのを面白がっているだけなのだ。さっさと葉っぱを片付けてローリーを探さないと。案外もうチーとルーミィが見つけているかも。

「なんだってこんなもの……うちの店にいつも赤詰草があるのとなんか関係あるんですか?まさかあれも作りすぎちゃったから売ってるみたいな」
「まあ、あるわ。作りすぎたからではないけれど。」

 そう言って、摘まんで取った葉の一枚を、指先でくるくる回すようにして眺めている。なんか、いつも見る幽香さんと表情が違うような気がする。穏やか?普段からちょっとやそっとのことで取り乱したりする人じゃないから、穏やかかと言えばいつも穏やかなんだけど。だとすると優しい?
 幽香さんは他の人や他の妖怪なんかに対する態度よりも、植物や作物に対する態度の方が優しかったりする。滅多に見られない幽香さんの優しい笑顔なんて、でも畑のトマトはいっぱいかけてもらってる。羨ましい。
 今部屋を埋め尽くしている(もう半分くらいは掃除したけど)白詰草の葉は、畑の作物だとか売り物だとか、造園資材だとかそういう事ではなく、何を思ってか幽香さんがつくったものだ。増やしたのではなく、つくった。こんな朝早くにというのも、気になった。
 人気もないのに年中置いてあるレッドクローバー。今日来てみると突然部屋を埋め尽くしていたたn倍枚葉のクローバー。見せる優しい表情。

「あ」

(そっか、幽香さんには誰か好きな人がいて、その人との思い出が、白詰草とか赤詰草とか、なのかもしれない。)

 ボクのことを好きではないと言った幽香さん。ローリーとの酷い結果を招くほどの確執は否定されているし、でもあの日確かに何かが理由でボクを抱いた。もしかして、ボクに似ているのかな、その人。こんな子供に似ているとは、思い辛いけど。
 いつも言葉少なげな幽香さん。特別寡黙と言うわけではなくて、多くないながらも出てくる言葉の脈絡が分かりづらいせいで意味を成す文脈を汲み取れないことが多い。ただ、普通の会話をしようと思えば支障なく出来るし、そうした文脈を崩した言葉が意図的なものであることも、わかっていた。
 その度にこうやって断片的な情報をかき集めて想像するしかないのだ。幽香さんにボクに似た好きな人がいるのかもしれないことも、こうしてやっとたどり着いた一つの予想でしかないのだが、それでも大きな意味を持つ気がした。
 急に、胸の中に重苦しいものが垂れこめる。繋がるべきじゃなかったいろいろな事実が、ボクの不都合に符合した形に、重なり合っていく。
 幽香さんには誰か好きな人がいて、ボクは好意も向けられることもなく弄ばれて、親友を愚弄されて。一体何なんだ。それでもボクはどうしてもどうしても否定できない幽香さんへの好意を自覚している。でもそれが、本当に好意なのか自分でもわからなくなりかけていた。
 今までずっと好きだった人に突然幻滅して、そうして好きではなくなったとして、好きだったころの自分をすべて否定するのが怖いだけ。今残っているどうしてもこびりついて取れない好意は、昔確かにあったそれの形骸なんじゃないのか。急に冷めていくこれは、恋心だったのか?過去の自分を理性が守ろうとする。

「幽香さんは」
「ん」
「草花にはそんな顔、よくしますよね」
「そんな?」
「やさしいかお」

 そうそう、そうやって草花から視線をボクに移したとき、あからさまに表情が変わるの、結構辛いんですよ?

「そうかもね、あんた見てるよりは心安らぐし」
「ぅっぐ」

 ド真正面から肯定してきた!

「で、でも、幽香さんがお花好きなのって、その力のせいだけじゃないですよね」
「え?」

 ボクがそういうと、幽香さんは意外そうな声を上げた。
 ローリーを食べた、なんて悪い冗談を言うから、ボクの方も少しムキになっていたかもしれない。でも、それくらいは許されてもいいと思って。そんな酷い冗談を言って、笑って済まそうなんてさすがに無い。

「幽香さんがお花好きなのって、言葉を返してこないからですよね?」
「は?」

 ほら、そうやって不機嫌そうな顔で、でも何を考えているのかとか、本当の気持ちとか全然表に出さないの。だから不要な誤解とか、ああいう冗談を言った時に冗談に聞こえないのとか、あると思う。

「幽香さんって、あんまり、意見言わないじゃないですか。でも、こう、っていうのは決まってて、その通りにしかしないし、何ていうか、相手の反応なんて関係ない人なんだなって思ってたんですけど、もっと根っこのところは違うって、感じたんです。」
「……」

 幽香さんが、珍しくボクの言うことを黙って聞いている。そのまま聞いていて欲しい。ローリーを食べたなんて酷いことを言ったのもう少し反省して欲しい。それに、それに、他に好きな人がいるのに、ボクを抱いたりして、身勝手すぎるのも。ボクはどうせ何も言い返さないからって、おもちゃだと思ってるんだろう。

「相手から反応が返ってくるのがめんどくさいんですよね?どう反応されたって、幽香さんはどうせ自分で決めた通りにしかしないですし?最初っから言葉で返してこないお花の方がいいってことですよね?どうせ僕の気持なんか何も関係なくって、そもそも幽香さんの気持ちなんて僕にはわからなくったっていいって、そういう事ですよね?」

 あれ、なんか、ボク、勢い余ってない?こんなことまで言おうと思ってたわけじゃないのに。

「ローリーを食べた?そんな冗談、よく言えますね。僕の気持ちも知らないで。おまけに、こんな片付け、幽香さんが誰のこと好きで、その代用品としてボクを使ったのかなんて、ほんっと、どーーーーーーぉでもいいことかもしれませんけどね、よくそこまで、こうやって一緒にお仕事してきた相手に、よくそこまで、よくそこまで酷い口をきけますよね」

 あ、だめだ、我慢してたの、勝手に出てく。しかも何かひどいことになって出てく。もしかして、僕が原因で起こる異変って、幽香さんを、ボクが風見夢幻伯を、怒らせてしまうってことじゃ?

「なんでボクが幽香さんの好きな人の思い出の品を、部屋いっぱいに広げて物思いに耽った後片付けを手伝わなきゃいけないんですか。ボクは、ボクはボクで、大切な人が行方不明になってることで頭がいっぱいなのに、あんまりじゃないですか!?さすがですよね、相手の気持ちなんて考える必要がないって、そうやってずっと生きてきて、ボクみたいな子供はおもちゃにしても構わないって、ボクの気持ちが、どうしようもなく幽香さんに向いてるのに、そんなのもひとっつも関係ないなんて!」

 堰を切ったように、溜め込んできたものが、一気に噴き出してしまった。ダメなのに、こういうものをきちんと処理してどこかに捨ててなかったことにするのが大人なのに。子供を馬鹿にするなみたいな口を、子供のやり方でしか主張できない、子供。
 呼吸ができないくらい吐いた後みたいな、不快感の残る息切れ。それに眩暈を覚えて息を整えようとしているところに、幽香さんが歩み寄ってくる。表情が、よく見えない。

「あんた、ほんとに憶えてないの?」
「え、なんの……」

 吐き出し始めたら止まらなくなった、ただ口から零れ続ける汚物みたいなボクの言葉を掻き分けて押しのけるみたいに進んでくる幽香さんは、ボクを壁に追いつめて、ドン!と強くボクの顔の横の壁面に手を突いた。怒っていたのはボクだったはずなのに、一気に委縮してしまう。引くわけにいかない、と思ったのは、クソ下らない男のプライドだったかもしれない、でも、一瞬で幽香さんの気迫に握りつぶされる。

「ぎゃ、逆切れ、ですか?」
「あんたが。ただしらばっくれてるのか、本気で憶えてないのか、どっちかって訊いてるのよ!」
「あ、え……えっ?」

 幽香さんの視線が、まっすぐにボクの目を見ていた。そして、近い。まつげが、瞳がふるふると揺れるのまで、わかる。
 え、揺れて?
 はっ、と見返すと、幽香さんの視線は、床辺りに打ち捨てられてゆらゆらと揺らいでいた。

「もう、いいわ」
「あの」

 幽香さんが顔を背け、ボクから離れた。離れる一瞬前、幽香さんの目が。
 なに?どういうこと?今、泣いて……?

「明日から、来なくていいわよ」
「……え?」
「店じまいするわ」
「はっ?え、なんで」
「なんで、ですって!?」

 きっ。突き刺すようにボクの方を見て、また逸らす。何か言いたそうに口を開き掛け、一度、二度、閉じて開き掛け、を繰り返し、また閉じられる。一文字に結ばれてから、改めて開かれた。その声のAtackは、少し上擦っていたかもしれない。

「……別に。もう飽きたからよ。帰って。」

 ボクがあんな風に言ったから、ではなく、飽きたから。今何か言いかけたのは、もっとボクへぶつけたい不満や罵倒の言葉があったのだろう。でも、それは発されることなく擂り潰されて消えた。内に籠るように、ボクの反応など関係ないという言いぐさ。やっぱり、そうなんだ。
 あなたはどこまでも自分のことだけ。ボクのことなど、見ているように見せかけて一つも見ていないのだ。

「飽きた、なんて、そんな身勝……」
「帰って!」

 幽香さんの咆哮のような一声。ここは私のテリトリー。そう威圧するオーラが巻き起こり、ボクの本能に訴えかけてきた。その声は、耳ではなく精神にそのままぶつかって来た。本気でボクを追い出すつもりらしい。理性の奥にあるものが、危険信号を、アラートを、けたたましく響かせていたが「もう遅い」。
 恐怖心がボクの心臓を鷲掴んでいる。このままここにいたら握り潰される。これは幽香さんのチカラなのだとわかっていても、怖くて怖くて仕方がない。
 純粋な恐怖。理由のない恐怖。眠れる恐怖。
 煮えたぎる恐怖に立つ気泡と混じって、鋭い牙の間から太い舌を垂らした何かが、時折その巨大な顎を伸び上がらせてボクを食いちぎろうとしてくる。自分が意志を手放さない限り、その恐怖は影のようにずっとずっとずっとボクを、ボクの精神を追いかけてきて。あの化け物は精神を、ボクの心を、体もろとも一呑みに食べようと追いかけてくるんだ。精神を放り出せば、その化け物はそっちに行くかもしれない。だが、その甘い誘惑に乗って精神を手放せば自我を食い尽くされるのだ。恐怖を餌に自我を食らう、それはぎざぎざ犬歯の花獣、眠れる恐怖≪SleepingDandeLion≫。ひとたび目を覚ませば、唸り声一つでボクなんか、このざまだ。
 これがボクと幽香さんの力の差。ボクには抗えなかった。ボクの事なんてどうでもいいのだ。ボクの言い分も、何が正しかったのかも間違っていたのかも、何もかも関係がない。幽香さんにはそれを無理やり力づくで押し通すだけの力がある。ボクには、無い。

「!~~~~~っ!!っぁ!いや、いやだ!」

 泣き叫びながら、後ずさって、砕けた膝を引きずるみたいに腕で体を引っ張りながら、ボクはやっとのことで店を出る。その後も体が自由を取り戻すことはなく、這いずるみたいに自分の家に転がり込んで、頭から布団を被って、震えながら泣いて。
 夜が来ても眠れない。恐怖が許してくれない。眠るのが恐ろしい。意識を途絶えさせたらそのまま真っ黒い巨大な何かに飲み込まれて消えてしまいそうで。
 やっぱり、幽香さんには、ボクの存在なんか、どうでもいいものなんだ。こんな風に小さくて弱い虫けらなんて、取るに足らない、おもちゃでしかないんだ。
 ちょっとでも気を許されたと勘違いして不当を訴えてみたら、飽きたからとあっさり捨てられた。
 ローリーだって、本当は、本当に、幽香さんに食べられたんじゃないだろうか。何か気に障ることを言って、今はあの人の腹の中に、丸呑みされた残骸があるんじゃないだろうか。ボクも、ボクもそうなる?

「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ」

 布団の中で泣き叫びながら、幽香さんの障気が抜けるまで震え怯え畏れ続けた。







 とうに日は上っている。ローリーがいた頃はみんなで集まっていた時間はとっくに過ぎていて、カーテンの隙間から高めに上ったお日様が見えていた。みんなで集まる時間はもとより、『お仕事』の時間も過ぎていた。でも、もうどっちも行くのが嫌だった。どうでもいい。
 ローリーはどうしていなくなってしまったのだろう。やっぱり幽香さんが丸呑みしたのだろうか。それとも紫太妃がおっしゃったように、ボクが無意識の内に何らかの方法で消してしまったのだろうか。
 もう、どちらにも顔向けができない。仮に今ローリーが帰ってきたとして「どこにいってたの?」なんて怖くて聞けない。「風見さんのお腹の中にいたの」「お前のせいだ」どちらを言われても、ボクが悪いみたいじゃないか。
 幽香さんは、ボク無しで花屋をやってるのだろうか。それとも本当に店仕舞いしてしまっただろうか。ボクが「あなたには人の気持ちなんて関係ないから、花が好きなんでしょう」と言った時、確かに泣きかけているように見えたけれど、今にして振り返れば、あれは単に光の加減だったようにも思えた。人の気持ちを推しはからない人が、人の気持ちがわからないと責める人の気持ちを酌むはずがない。
 随分長いこと、こうして部屋に籠っている。しょうがないじゃん、寒いんだもん。ボク、もともとは冬なんて外に出ないんだから。ローリーが行こうって手を引いてくれたから、幽香さんが仕事だから来なさいってけつを叩いてくれたから、仕方なく行ってただけ。もう、両方とも、ないもん。
 この寒い日に外に出なくてもいい、出る理由がない、ということは、今のボクにはなんだか恐ろしく身軽になった気分だった。重い重い荷物を、左右の肩から一つずつ、捨てたような。でも身軽になったのと反対に、ボクは今動く気を失ってる。体は鉛みたいに重くて、何時もの冬眠ともちがう、もっと鈍くて重くて暗くて、面倒くさい。ずっとこうやって、一人で布団かぶってる方がいい。ずっとこのままでいい。

「おーい、リグル……いい加減、出てこないか?虫の王様のお前がふた月み月でくたばるとは思ってないけどさ」
「みすち、さがしにいこうよう」
「ていうか飯くってるのかよー」
「ごはんたべいこ。ひさしぶりににんげんたべよ?おなかのとこ、あげるから。あたまでもいいよ」

 チーとルーミィはああやって、毎日迎えに来てくれるけど、ごめん、正直邪魔。うるさい。ほっといて。このままひっからびて死んでも、もういいよ。
 ボクはまだ幽香さんにぶつけられた『恐怖』の瘴気が抜けてないの。……そういうことにしといてよ。
 元々布団にもぐっていたのを更に頭から被って、布団の中で体を縮こめる。ともだちが死んだときみたいに、脚を折って、腕を抱えて、背を丸めて、頭を押し込んで。ほんとうに、このまんまでいい。
 ばかみたい。舞い上がって。

 ボクが幽香さんを泣かせた?

 そんなわけないのに。ばかなの?お前がそんなことできるわけないだろ。仮にそうだったとして、それに何の意味があるでもないのに。ちょっとばかり抱かれたくらいで、舞い上がって、調子に乗って、きっと自分は特別の存在になれるんだって勘違いして、ボクならこの人に何を言っても許されるなんて思い上がりがあった。
 情けないし、消えたいほど恥ずかしい。ローリーはボクにもうちょっと自信持ちなよと言ってくれていたけど、そんなのほら、やっぱり、ただのばかの入り口。どうせ失敗してみんなから白い目で見られて、何より当人から嫌われたり嗤われたりして、何もしないよりよっぽどひどい結果になるんだ。何もしない方がマシだった。
 ばかみたい。ばかみたい。ばかみたい。ばかだなお前。あんなことして、こんなふうになって、チーもルーミィにも心配かけて、でもみんなの前に出るなんて、いったいどの面さげて、なの?無理だよ、どうせ嗤われて、内心「こいつほんとにどうしようもないやつだな」って、でも弱者とか病人とか折れてる人とかは助けなきゃいけないって同情とか憐憫とかで完全防護して、お前みたいな病原菌に対処するんだ。そのままいなくなった方が、みんなせいせいするよ。お前はそういう存在だ。
 幼稚な思い上がりをひっくり返されて、先に立たなかったかもしれない後悔に打ちひしがれて、重くて、身動きだってできない。重いのは相手からの非難ではなくて、ただの、自分自身だ。わかっていても、自分自身の重さに耐えられない精神状態の時、それはどうしたって自分ではどうにもならない。ただ、逃げて逃げて逃げて、回復を待つ。耐久卵みたいなものかも知れない。

「リグルよー、あんまり出てこないと、こっちにも考えがあるからなー」

 いいよもう、家に火でもかければいい。
 とか、思っていたら。

 がたん!どん!ばたん!

「は、はあ!?」

 何か明らかに破壊されたような音が聞こえたので、重い体を引きずって見に行ったら案の定破壊されていた。土の扉はぽっかりと口を開いて、かけてあったはずの『鍵』は元の六節六足六尺の大蜈蚣の姿に戻ってボクの方を申し訳なさそうに見ている。

「はろう、リグル、生きてた?」
「い、一応、六合結界≪その子≫が張ってあったんだけど」
「こいつも主人を心配してたんだろ、交渉に快く応じてくれたさ。交渉を決裂させたのはあたいだけどな」

 チーの手には氷でできたナイフ。六合の喉(どこだかわかんないけど)元に突き付けられていて、いつでも刺せるとアピールしていた。
 チーに続いて開いた口から入って来たルーミィ。

「とつげき、となりのばんごはん、みたいなかんじ」
「ご飯なさそうだけどな。……なんもくってねーだろ、お前」
「何、勝手に……」
「勝手、そうだな、強制捜査だ。容疑は孤独死」
「なにそれ」
「ルーミア、かかれ!」
「リグルがげんきか、かたくそうさくするよ!」

 ルーミィが部屋の中をちょろちょろ走り回るのを横目に、チーは六合を解放してアイスナイフを消す。そのままつかつかとボクの方に歩いて来て。

 どかっ!

 殴られた。グーで。

「いっ……」
「ふん。これで勘弁してやる」

 殴ったその勢いのまま、ボクをベッドに座らせた(うちにはテーブルセットとかなくて、L字のソファベッドとありあわせにつけた木製テーブルだけがある)。

「ルーミア、どうだ」
「しょくひんざんぞん、わずかにアリ!たべがらは、たくさんアリ!タイショウにはしょくよくがあり、わりとげんきとおもわれます!」
「よし、捜索を続けろ」
「いえっさー」

 再びとてちてたたたと走り回るルーミィ。チーは険しい目でボクを見たままだ。腕を組んで、浮遊仁王立ち、チーお得意のポーズ。でも、今はそれを直視も出来ない。ほら、こうだ。また他の人に世話を焼かせてしまって、めんどくさい奴って思われてる。だったらこんな風にひきこもるな?動かないんだからしょうがないだろ。いいよ、どうせ全部ボクが悪いんだから、さっさと僕が消えればよかったのに、なんでわざわざこんな風に。ボクに謝らせて恥をかかせて、楽しいのか。でも、そうかもね。お前はそうやって、逃げることも許されてないのさ。お前は人の前に引きずり出されて、公開処刑を受ける方が似合いなんだ。

「まあ、いっか」
「……よくないよ」

 ふっと、ひんやりちくちく刺さってきてたチーの雰囲気が、緩んだ。見上げると、U字の口で笑ういつものチーの顔。それがひりひりするほど眩しくて、また顔を落とす。

「いいんだよ」
「りぐるのせんたくものをさいしゅ、くんくんしたけっか、おめでとうございます、げんきなおとこのこです!」
「ちょっ……!!なにしてんの!!やめてよかってに!!ほっといて、どうせ」

 立ち上がってルーミィを止めようとしたところで、チーがボクの肩を掴んで引いて、叩き付けるくらいの勢いでもう一度乱暴に座らせて。

「んっ」
(えっ!?)

 ほっぺたにちょっと冷たい唇の感触。

「少し、落ち着けよ。」

 耳元で、冷たい吐息と一緒に、落ち着いた声。ううん、ちょっとチー自身動揺を、押し殺してる。
 ボクが目をぱちぱちしてすとんと座り直すと、チーは隣に座った。ボクのぱんつを洗濯篭に戻したルーミィも、その逆に座る。
 チーはボクの左手の上にひんやりの手を乗っけて、ルーミィはボクの太腿の辺りに無温の手を乗っけて、いる。二人の肌の接触は、青臭い道徳心を押し付けてくる。少し鬱陶しさがある。同時に、ボクを拘束しているみたいでもある、下手なことをしないようにって。

「ミスティアは、まだ帰ってきてないよ」
「……しってるよ」
「かざみねぇのとこも、さいきんぜんぜんいってない。はなやは、しまってるって。」
「そう」

 どうでもいいよ。そう小さく呟いた。

「ミスティアは心配じゃないのかよ」
「そりゃ……心配だけど」

 ボクが心配するのって、なんか筋違いじゃないか。ローリーは何も言ってなかったし、幽香さんも何も言ってくれないし、紫太妃は何か含むところがあるし、でも、きっとボクは何らかの形で関っていて、そのボクが「心配してる」なんて、すごく白々しい。

「あいつはあいつで、結構一人で考える方だからさ。しばらくしたらそのうち帰ってくるって。」
「リグルがみすちのことしんぱいなら、わたしたちもおんなじなんだから」
「……どこ行ったんだろうね。何も言わずに」

 ルーミィがボクの頬っぺたを引っ張ってつねる。

「はなしをちゃんときく。おんなじなの。リグルもうおうちからでてこないとおもった」

 あ。
 摘されて、ボクはやっとルーミィの言わんとすることに気付いた。
 幽香さんに向かって「人の気持ちもわからない人」と言ったのに、ボクだってわかっていなかったじゃないか。ほらみろ、結局ボクなんて何かすれば自爆する、ばかな奴なんだ。なに、そんなこと言ってボクを責めたいの?ああ、もういっそ消えたい。お前なんかあの時幽香さんの恐怖に呑まれて壊れてしまえばよかったんだよ。

「そ。まだ生きててごめんね。」
「リグル、もう一発殴られたいのかよ。あたいはお前のこと大好きだけど、そーゆーうじうじウジ虫なところだけは、だいっきらいだ」

 しょうがないじゃん。もう直んないよ。
 もういちいち口きくのもめんどくさい。何を言っても僕が責められる。だって全部ボクの失敗からだもん、誰かが肩代わりするものじゃないし、だとしたら結局ボクを断罪したいんでしょ?お前なんてさ、そうやって死刑になればいいんだよ。どうせ自分で死ぬとか出来もしないくせにごちゃごちゃ言ってるなら、誰かに殺してもらうしかないもんな。

「リグル、ちゃんと聞けよ。今のスルーすんのはキツイって」
「いやーチルノ、いまのはわかんないっしょ」

 ちゃんと聞いてなかった。ていうか何、なぞかけみたいなことして、ボクを試してるの?そういうのほんと嫌。返事するのが面倒臭くって、言葉を発する代わりにただ、溜息だけが漏れた。

「失恋で落ち込むのも、その、わかるけどよ」
「失恋じゃないよ」
「じゃあなんだよ」

 じゃあ何なのだろう。そもそも恋愛とかではなかったと思う。そりゃボクはずっと前から幽香さんのことが好きだったけれど、こんな風にめっちゃくちゃになったのは、単に幽香さんに「ごめんなさい」って言われたから(そんな丁寧な言い方はしてくれないけど)とかではない。この状況を、自分以外の誰に説明すれば、もっともだねそれはと、肯定してくれる?誰もしてくれない。ってことはボクが全部悪いんだ。そんなことわかってる。
 ボクが、みんなと同じ女の子だったら、こんな訳のわからないことにならなかったのかな。好きだなんて思わなかったら、こんな変なことにならなかったのかな。
 失恋じゃなければ何なのか、それ以外に適切な言葉を、子供のボクは知らない。でも、違うと思う。

「失恋じゃ、ないよ」

 答えを、反復してしまった。

「同じこと繰り返してもわかんないって、ばかだな」
「リグルがチルノみたいになってる」
「ちょっと待て、どーいう意味だよ!?」

 ルーミィにチョップしたチーは、そのまま、ボクの正面に顔を潜り込ませるみたいにして、ボクの目を見る。冷たいのに、やかましいくらい、あったかい奴。

「こっちの身にもなってくれよ。ミスティアがいなくなって、その上リグルまで即身仏なんて、まっぴらだかんな。それに」

 何か言い淀むチー。もごもごしているのを見て、ルーミィが痺れを切らし、横から割って入って来た。

「リグル、わたしね」
「まて、まて、邪魔すんな」

 割って入られたのを再度押しのけて、チー。今度は顔を真っ赤にしている。

「さっきスルーされて、もっかい言うの死ぬほど恥ずかしいんだけど、もっかい言うからな」
「何。」

 さっきなんか言ってたこと?聞き逃して「バカが見る~」とか系の茶化し方をするの?うんざりだよそういうの。

「すきだ、リグル」
「……なにそれ」

 安っぽい、思った以上に。どうせ、ヒキコモリ野郎を元気づけるための方便でしょ。こんなタイミングで言う事じゃない、取って付けたみたいな科白。
 めんどうくさい、うんざり、つかれた、ほっといて、どうでもいい、でもそういう物言いもボクが悪いんだから本当はしちゃいけない、そういういろいろの言葉を全部ミキサーしてどろどろになった奴が、胃の奥にずんと溜まる。ガスが、溜息になって出てきた。
 二人を押しのけて、ボクは布団の中に潜り込もうとする。寒い。もうめんどくさい。
 布団をかぶったところで、それを追いかけるように横に入ってきたルーミィが布団をバサッと取り去る。

「もういい加減に……!」

 して、と言おうとしたところで、首根っこにかぶりつかれた。左右から、二人が飛び込んできたのだ。チーは僕の首もとに、ルーミィは耳のあたりに鼻先を押し付けて、二人でボクをぐるりと腕で縛るみたいに。
 ルーミィが耳元で、囁く。こんなに艶っぽい声を、彼女が出せると思ってなかった。耳元にふわりと置かれた声は、今まで聞いたことがある彼女のどの声よりも、女の子ううん、女性、だった。

「リグル。きょうせいそうさは、まだつづいてるんだよ。とりしらべだよ。ようぎしゃの『げんき』を、かくにんしま~す……」

 抱き付いてきたままの手がするすると移動する。その掌はいちいちボクの体に吸い付くように波打って、徐々に、胸元から、下半身へ。ローリーとしたことを、思い出した。

「あたいら二人で、慰めに来たんだよ。さみしいんだろ?女二人に、フられてさ。」
「なぐ、さ……?」

 ルーミィの手がそうだったように、チーの手もボクの体をぬめぬめと撫でている。体も寄せてくっついて、体温の低い二人の温度が、伝わってくる。首元に、いつの間にかチーの唇が何度も吸い付いて、ちっちゃい舌が鎖骨をなぞっていた。彼女の声も、今は、すっかり女だ。熱に浮かされたような、吐息。それに混じって左右から聞こえるボクの名前。女の子二人の手が、ボクのからだを上下に、左右に、撫でていた。

「る、ルーミィ、なにして」
「……げんきかな?」

 上目遣いに、妖しく微笑む彼女の手が、隙間に隠れようとする小動物みたいにするすると、ぱんつのなかに入り込んできて、もう、ずきずき窮屈になってるおちんちんに触れた。
 それに申し合わせたかのように、チーの手はボクのズボンを器用に下ろして、ルーミィが捕まえたものを外へ出すよう促す。

「る、るーみ、ちー」

 二人のコンビネーションの前に、もうおっきくなっちゃったおちんちんは、ぱんつの紐を押しのけてあっという間に、びんっ、て外に出る。

「わ、あ、すげ♪」
「げんき❤」

 二人の視線が、遠慮なくボクのおちんちんに注がれている。すごく恥ずかしい。二人のひんやりの手は、すりすりって、左右別々の動きでそれを撫で続けている。

(同時に、ふたつって、すごっ……い)

 全く別の意志を持った指と掌は、それぞれ竿、亀頭、雁首、玉、裏筋、と全然別の場所を、全く違うリズムで、でもそのどこかがぴったり息の合ったコンビネーションを保って、ボクのおちんちんを絶え間なく愛撫してくる。右と左、上と下、同じ場所、そしてまた上と下、甘い刺激がちりちり生まれてじんじんひろがっていく、そのポイントが寄っては離れ離れては寄り、上に下に自由に移動しながらボクを責める。

「う、っぁ」
「声、出していいよ、リグル。我慢すんなよ」
「リグルのえっちなこえ、ききたいナ。白状するまで、ゆるさないんだから」

 左右別々に、あまったるい女性の声になったチーとルーミィのそれが、耳元をくすぐる。この二人が、こんなに、女の子だったなんて。左右から別々に降り注ぐキスの雨、舌で頬を、耳を、首を、鎖骨を肩を、舐めて吸って、甘噛んで来る。
 リグル、リグル、ボクの名前を呼びながら、体を擦り付けてくる二人。チーは体をボクに擦り付けて、ボクのおちんちんを右手で撫でながら、左手を自分の股間に潜り込ませている。ルーミィは両足で僕の太腿を挟んで、太腿を股の間の一番奥に押し付けて体を揺すっていた。ルーミィのぱんつの感触は、ぬるっとした湿り気を帯びていた。

「わたしたちなら、どっちかえらぶなんて、しなくていいから」
「二人いっぺんに、リグルのお嫁さんになってやる」
「それっ、て」

 何か言葉を言う前に、チーの唇に言葉を摘み取られた。チーの舌がボクの中に押し入ってくる。ボクの舌と唾液を交換して、顎の上、歯茎、頬の裏っかわを舐め回して、最後にぐちゅぐちゅに混ざったボクとチーの唾液を吸う。口が開いて深い息をして、また、最初から。口から二人が溶けてくっつくのを待ってるみたいに、口粘膜と舌粘膜とを交える。目を開くと、すんすん鼻で息をしながら、紅に染まった頬で口付けてくるチーの顔。女性らしさなんか全然感じたことなかったのに、こうされると、すごく、えっちだ。

「りぐる」

 チーとキス合戦してると、少しいじけたようなルーミィが、ボクとチーの唇接合部に割り込んできた。粘膜同士があっつくなっている間に、もう一つの熱粘膜が現れた。チーはそれを抵抗なく受け入れ、三人の唇と舌が絡み合う。

 んっ、ちゅぅっ、くちゅっ、ちゅばっ
 スーっ、ふーっん、んっぅん、すんっ、はぁぁっ

 今食んでいるのがどっちの唇なのか、今絡みついて来ているのがどっちの舌なのか、リグルと呼ぶ声がどっちの甘え声なのか、わからない。三人の前髪が、目の前でさりさり絡み合う。チーとルーミィから漂う、女の子の香り。二人がうわごとのように呼ぶボクの名前。

 うんんっ!ふっ、ん、くんっん……
 ちゅぱっつ、くちゅ、ぃぐるぅっ、くちゅ、ちゅぱっ、しゅ、き、しゅきぃっ

 一対一で吸いつき合えない唇は、それでもとろとろと唾液の交換を求めてそれを溢す。どうしても注ぎ先に隙間が生まれ、舌を伸ばして互いの舌を求める瞬間にも一瞬唇が離れる、スリーピースキッス。唇を伝い、顎、喉、そして胸や太腿に、誰のかもわからない唾液がぽたぽた滴る。どっちのかももうわからない手が、ボクの顎あたりに手を当てて、滴る唾液を掌に受ける。その唾液を、おちんちんの上に垂らして、左右コンビネーション手コキがエスカレートしていった。

 あくっ、ぷ、ぁ、んっ!ふっ、ふっ、ん!

 差し出されてお互いの口を攻め合う舌の動きが激しくなり、混ざり合う唾液と吐息の温度が上がっているのが分かる。お互いに鼻から抜ける苦しげにくぐもった喘ぎは、少しずつ、音が高くなっていって、切迫感をにじませていた。ルーミィはボクの太腿に押し付ける股間の動きがどんどん早くなっていて、ヌメりが増している。チーの右手の動きも、細かく早くなって、時折粘った水音が聞こえた。そしてボクも。

「ぷぁ、だ、だめ、もう、もうボクっ……!」
「いくの?リグル、おちんちん、イクの?」
「出せよ、我慢する必要なんかないから。あたいらの手に、たくさん、ぶちまけちまえよ」

 びゅっ、どぷっどぷっ

「ふにゃぁぁぁ……手、ゆびっ、きもちぃいっっ、でちゃ、って、るぅっ」

 五度、六度とおちんちんが跳ねたけど、二人の手はずっとボクのものを捕まえたまま。吐き出された精液は全部彼女達の掌に、指に、指の股に、手首に、受け止められた。

「うわぁ、すっげえ出たな」
「すんすん、いいにおい。リグルのせーしのにおい、すき」

 二人は、打ち合わせをしていたかのようにボクの精液がべっとりついた手同士を繋いで、指を絡めて、まんべんなく精液を塗りたくり合う。くちゅくちゅいやらしい音が聞こえるのと、チーとルーミィのちっちゃくて白い綺麗な手に、べっとり糸を引いてとろとろにボクの精液が垂れている。

「へへ、見ろよこれ。リグルのザーメンでこぉんないやらしーことになってんぜ、あたいの手」
「ねばねばぁ。おててでにんしんしちゃうよぉ」

 精液でてらてら光を返し、ところどころに泡立った気泡と固まってぷるぷるした精液を残す手を、ルーミィはチーの、チーはルーミィの口元に寄せる。ルーミィは大きく口を開けて、チーはかわいい舌を出して、お互いの手を舐め、ボクの精液を口に吸い取り、唾液と一緒に飲み下す。喉を鳴らす瞬間、二人同時に淫蕩に細めた視線をボクによこした。

「くっせえ、これ、あたいら本気で孕ませようとしてる匂いだぜ❤」
「はむ、あむっ……ぺろぺろっ、くちゅ、ちゅぱ、おいしぃっ♥」
「ふたりとも、なんで、こんな」
「なんでって、そりゃ」
「……すきだから、だよぉ」

 手をひっこめた二人は、ボクの精液が付いて、お互いに舐め合って、まだぬらぬら濡れている手で、オナニーを始める。口を半開きにして吐息を加熱させながら、うっとりしたピンクハート型になった目をボクに向けて、股間を擦り続けている。

「はーっ、はーっ、リグル、すげえっ、あたいのココ、濡れすぎっ、きゅんきゅん痛いくらい疼きまくって……!」

 チーの手マンは、女の子のオナニーを始めてみるボクには、思った以上に激しくて、目が離せない。女の子もあんなに激しくコスるんだ。どきどきがとまらない。
 そうしてチーのオナニーに見とれていると、ルーミィが。

「リグル、もっと、ざめーんもっとほしいよぉ」

 おちんちんにしゃぶりついて来た。

「わ、わわ、ルーミィっ……ふぁ、っぁあっ、す、すごっぉっ」

 一気に奥まで。おちんちんの先が、全方向から熱い肉感に包まれている。喉の中まで入っているみたい。そんなの、出来るの?
 ルーミィは喉から少しだけ引き抜いて、先っちょを口の中に戻す。ちらりと上目で僕を見て、口に咥えたままで、器用にその場でくるりんと仰向けになった。
 ルーミィの、あんまり膨らんでないおっぱいと、するっとおへそがへこんだ白いおなかと、べちょべちょに塗れた股間が見える。ルーミィは仰向けにおちんちんを口に含んだまま、万歳するように僕の腰に手を伸ばして抱え込み、一方で足を大きくM字に開いた。喉を反らせて、思い切り伸ばした形で、ボクの腰に回した腕を引く。

「え、っ、そんなの」
「シてやれよ。ルーミアはそいつが、好きなんだ」

 そいつ、っていうのは、このままおちんちんを彼女の喉の奥まで入れる、こと?
 それを肯定するように、チーの手がルーミィの手を支えるように、ボクの腰を押し出した。同時に、チーのもう片方の手はボクの手を取って、彼女の股間に導いた。シチューに指を入れたみたいに熱くて濡れてぬるってしている、これが、チーの……?

「んぐっ!」
「あっ、ご、ごめ」

 チーのおまんこの濡れ融け具合にどきっと興奮しておちんちんに響いてしまった。その跳ねっ返りがダイレクトにルーミィの喉に伝わる。苦しいのか、と思たけどおちんちんの袋にあたるルーミィの吐息は、すっごく熱くて激しい。

「興奮してるんだって。くいしんぼうだろ?」

 ルーミィに腰をぐいぐいと、引かれている。動いて、と言うメッセージ、なのらしい。

「ほら、ルーミアをイかせてやれよ。……あたいも、たのむぜ」

 ボクの手は、チーのぬるぬるのワレメと手に挟まれて逃げ場がない。指を、つぶ、と入れたら、甲高い声が響いた。チーの方を見ると、潤んだ目でボクを見て鼻の下を伸ばして口を半開きにしたチー。声にせず、ほとんどただの吐息で「もっと」と、言っている。

「うん」

 ボクはチルノの割れ目に入った指を、もう少し侵入させる。キツく挟み込まれるような締め付け。

「は、きた、リグルの、ゆ、びぃっ、もっと、もっとおく、こいよぉっ、そう、そうっっっ」
「んーっ、んんっ!」

 チルノが喘いでいる声を聞いたルーミィが急かすので、おっかなびっくり腰を押し出した。

「っ!」

 ずるるっ、とざらざらで熱い、すごい締め付けの管の中に、おちんちんが飲み込まれていく。これ、食べ物を呑み込むときのだなって、わかっちゃうような動きで、ぞわぞわ奥に吸い込まれる。見ると、ボクの股の間で、ルーミアの白い喉が、上下に蠢いている。少し太いのは、その中に僕のおちんちんが入っているからだ、と思うと凄く興奮した。首の付け根辺りにまで、きっと届いている。ぞくぞくする。それに、ぎゅうぎゅう締め付けられて、気が遠くなりそうなくらいキモチイイ。

「はんっ!りぐる、リグル、もっと、キツく動いて……んきゅぅぅうっ♥とける、まんことけ、るっ……リグルの指、ゆびぃっ♥」

 チー自身が腰を振って、ボクの手を両手で股間に押し付けている。口を寄せてもの欲しそうな目で見つめてくる。キスを差し出すと、思いっきり吸い付いて来た。舌が入ってきてめちゃくちゃに僕の口の中で暴れる。鼻からの荒くて激しい息遣いが聞こえる。溶け切った目がハート形になってボクを上目遣いで見ている。キスを続けながら指をくちゅくちゅ動かしていると、その目が段々ふるふる揺れながら寄っていく。彼女の舌の動きが鈍ってきて、その代り指を締め付ける膣の動きが激しくなる。

「ふーっ……、ちゅっ、ん、ふーーっ……♥」

 どうすれば、彼女を最後に押し上げる「トドメ」を刺してあげられるのかわからなくて、同じ動きで戸惑っていると、チーの方からボクの指をさらに奥へ押し込むように彼女自身の指が入り込んできた。ボクと彼女の指が、ふわふわでぬるぬできゅってしたワレメの中で一緒に動く。もっとこう、ここ、こうやって、とボクに示すみたいに動く彼女の指に合わせて、ボクも動かして。その動きを、彼女のそれよりも少し荒っぽく、肉壁を押し込む力をぐっと強くした瞬間。

「あ、あ、っ!ああああっ、そ、れっ♥ほぁ、それぇっ♥きもち、い、イク、あたいそれ、イくっ♥」

 もうひと押し、加えた瞬間。

「ヒっ……ん!!!」

 チーが喉を反らせて、窒息したみたいな音を喉から漏らしながら背を張った。ぎゅううううっと指が締め上げられて、そのまま彼女の体はかたく強張って、ぴくっ、ぴくっと偶に小さく跳ねている。イったの、かな。
 そして、そのまま一気に力が弛緩して、彼女の体重が一気にボクにのしかかって来た。だらしなく蕩けたチーの顔が、あんまりにもいやらしくって、おちんちんがまた、ぎんって、なる。
 チーにばっかり構ってたから、ルーミィは自分で体を揺すっていた。大きくM字開脚した足で体を前後に揺らして、ボクの挿入を喉に受けている。荒い息遣いが蟻の戸渡りに当たって、むずむずくすぐったい。そのもどかしさがそのままびりびりおちんちんまで走り抜けていく。

「ほ、ほら、ルーミアも、かんじてる、ぜ……。みろよ、まんこひくついてる」

 前後に揺すって喉の奥にボクのおちんちんの挿入を受けているルーミィ、その股間の割れ目が、ひくんひくんと蠢いている。

「さわって、やったら?ほら、クリ、ピン勃ちしてるだろ」

 アクメ後の浮遊時間をボクの体に体重を預けながら過ごしているチーは、ルーミィの喉を撫でている。チーの手の重さが、ルーミィの喉越しに感じられた。
 ルーミィの白くてやわらかそうなおなかが、興奮で荒刻みになっている呼吸で上下に膨らんだりしている。その向こうで、ひくつくワレメと、勃起したクリトリスが、口をきけず表情を窺えない彼女のヨガリ具合を示していた。

「る、ルーミィ、うごく、ね」

 ボクがそういうと、ひくん、と腰が小さく跳ねるのが見えた。
 ボクはそれに一つも触れることなく、チーの手を払って、ルーミィの喉を、両手で包むように握った。

「ふっぐ、ん♥」

 そのまま、腰を、前後に、動かす。

「んーっ♥んぐっ、フッ、んごっ❤」

 ぎちぎちに締まる食いしん坊喉まんこにおちんちんを突っ込んで揺する。前後運動は、じょじょに早く。彼女の喉を掴む手の力も、自然に強くなっていく。

「んっ♥んっ、っぐ、ぶごっ❤っぶっ、ンゴっぐぐぐんっ❤」

 もう、おちんちんの付け根に彼女の歯の感触があるくらい、乱暴に腰を打ち付けていた。白い喉に赤く僕の指の跡が残っている。締まり吸い込む喉の蠕動運動が、あんまりにも気持ちよくて、夢中で腰を振るボク。ぞくぞくおちんちから上ってくる快感が全身を支配している。

「うわぁ、キチク。リグル、お前そんなので興奮するのかよ……見直した❤」

 もうチーと一度キスをする。その間も喉粘膜で亀頭が擦れる快感に酔いしれていた。チーの口が離れて、開けた視界に見えたルーミィの下半身、がばっと股が開いたまま腰が浮いて揺れている。明らかにオスの挿入を求めている動き。でもボクはこのまま喉で、登りつめようとしていた。

「るーみぃっ、るーみいっ!のどきもちい、喉もっとしめて、っあ、すごい、すごいすごいっ、吸い込まれるっ!」

 興奮し切ったおちんちんをごりごりに締め付けられて、ボクはもう限界。腰が全部溶けて液体になって、御ちんちんから噴き出すんじゃないかってくらいキモチイイ。

「でるっ。ルーミィ、このまま、このまま喉膣内射精≪なかだ≫しするからっ、飲んで、ボクの臭いザーメン、食いしん坊クチマンコで、全部飲んでっっ♥」

 ごんっ、がんっ、て彼女の首に負担がありそうな力で、腰を打ち付けてしまう。でも、止まらない、もう、射精するまで止まらない。

「イく、ルーミィ、イク、いくいくっ、っ、で、るぅぅっ……っ!」

 どぶんっ、びゅぅっ、どくん、どくん

 彼女の喉を思い切り握りしめて、射精しながらなおルーミィの喉オナホでピストンをつづけながら、最後の最後まで精液を、彼女の中にぶちまける。失神しそうなくらいの快感。ルーミィは、持ち上げた腰をひときわ高く上げて、ほとんど横一直線に開いた股の中心、しこり勃つクリトリスの向こうで、割れ目からはぴゅっ、ぴゅっ、っと潮が吹き出ていた。
 何度か痙攣するように腰が浮き、潮飛沫を飛ばした後で、彼女の体からすっと力が抜ける。ボクの腰を捕まえていた腕の力も抜けて、全身が弛緩した。腰を引いて、射精後にまだいくらか弾性を保ってはいるが縮まり反り返りを失ったペニスを彼女の喉から引き抜く。
 ずろろろ、と喉膣壁のざらつきが雁首に引っかかる感触。また勃起してしまいそう、名残惜しいのを我慢して抜き去った。いっぽ、にほ、ボクも力なく後ろによろめき離れる。
 仰向けになって喉マンコアクメで失神したルーミアの顔は、涙と涎と鼻水とでぐちゃぐちゃになって白目をむいている。それを見て、また、ずん、とペニスが勃起してしまった。チーはすぐにそれに跨ってくる。

 ぐ、げ、ぼこぉっ

 仰向けで白目をむいてるルーミィの口から、白い液体が逆流してで噴き出した。口だけではなく鼻の穴からも。

「あ、やばい」

 次はあたいがおまんこセックス、と喜んでいたチーだが、ルーミィの様子を見てすぐに僕のところを離れた。ルーミィの耐性を整えて、チーは口を、彼女の口に添えた。ずるずるずるっ、って音を立てて、ボクの精液を彼女の喉から吸い出す。喉を鳴らしてそれを飲み下して、次は鼻から出た精液を舌でなめとって口で少し吸い取る。

「こうなったルーミア、やばいエロいよな……もいっぱつ、したくなったろ?」

 ルーミィの上半身を起こして座らせる。目を覚まして咳き込んでいるルーミィ。

「う、うん……ごめん、すごく……」
「じゃあ、決まり」

 チーはにっこり、でも頬を紅に染めたえっちな笑顔で、もう一度ボクに跨った。







 あれから、どれくらい、ひたすらセックスしてただろう。休んで回復したルーミィも混じって、今度は三人で性器セックスを延々と繰り返していた。もう精液なんか出ないのにおちんちんは収まらなくって、それを見た二人はずっとえっちな挑発でボクを煽ってきて。
 もう、むり、ってへたり込んだボクに向かって、チーが言う。

「へへ、元気……出たかよ?」

 ボクの精液でべっとり濡れた股の間に少し血がにじんでいるのを一つも気にせずに、チーが真正面からボクの頭を抱いた。

「みすちも、かざみねぇも、もういいじゃん。わたしたちが、かわりになったげる。」

 ルーミィも、ボクの背中にかぶりつくように抱き付いて来た。ルーミィも、唇が切れて血が出ていた。なのに、なんで。

「幽香じゃまだなーとか、ミスティアに先越されちまったなーって、思ってたけど、チャンス到来ってこと。あたいらだって、結構わがままなんだよ。ひどい女なんだよ。二人ともいなくなって、あたいらがお嫁さんになれるチャンス来て、ほんの少しうれしいんだ。友達がいなくなって喜んでるとか、ひっでえだろ?」
「みすちはぬけがけしたの。リグルは、わたしたちみんなのおムコさんだもん。ほんとはわたしたちだって、ずっとまえからこうしたかったんだよ?わるいこは、リグルだけじゃないよ。」
「みんな、お前がオスだって認識したのと同時に、お前を男として見てた。お互いには何も言わなかったけど、みんなそうだって、互いにはわかってた。」

 ボクにぺったりくっついたまま、チーとルーミィ。

「あたいらが、二人の代わりになるからさ。それでいいだろ?あたいらでカバーできないのは、おっぱいくらいかな」
「わたしはすぐおっきくなるもーん。ちるのはむりかな?」
「んなことねーって!」

 慰めに来た、と言っていた。
 ほんとに彼女達が僕のことを好きなのかどうかは、わからない。でも、嫌いな相手にあんなことが出来る子じゃない。
 チーが、ボクの正面に立って、ボクを真正面から見て、またあの浮遊仁王立ち。

「あたいらなら、どっちかなんて選ばなくっていい。ほんとは、ミスティアだって、そうするつもりだったんだと思う。でも、風見が、狂わせたんだ。あいつが、ミスティアを急かした。それでどうなったのかはわかんないけど」
「これいじょうは、もう、いいじゃん。しょうがないよ。」

 そんな、甘ったれたボクをさらに甘やかす言葉。ボクは幸せ者だ。
 でも、本当に、こんなので、いいのだろうか。
 二人の気持ちは嬉しいし、応えたい。でも、いなくなったローリーと、ボクを追い出した後どうしてるのかわからない幽香さんを、ノータッチでフェードアウトって、それは、いけない気がする。

「風見には、関わり合いになるな。あたいも嫌いじゃないけど、リグルは、あいつと関ってももう、失うだけだ。そうだろ」

 チーの言うことは、正鵠を得ているのかもしれない。あんな風に恐怖を穿り返されて自我の破壊まであり得た仕打ちを受けて、それでもなお、幽香さんに、何か心残りを感じていた。
 それは恋慕の残滓と言うよりは……どちらかと言うと、遺言の方が、感覚が近いと、感じていた。







 恐怖の舞台≪シバルバー≫、その名の通りの、そこは場所だった。だが、そう名前を付けたのは、もしかしたら梨来≪主任≫ではなかったのかもしれない。だって、そんな名前を付ける訳がないのだ。もし本当にその目的をなそうとするのなら、恐怖の舞台≪シバルバー≫の王を打ち倒す双子の名前を与える筈だ。
 それとも、この場所が崩れ落ち一つの神話が終わることが、筋書きだったというのだろうか。

「やり直しだ、ああまたやり直しだ、また一から、最初から、やり直しだ!!出クン、私は、だが私は諦めない。何度でも、君を、私は……!」

 赤い水溜りの中央に横たわり、その色に染めたかった花を抱き、主任の上半身≪・・・≫はボクを睨み付ける。狂気なのか。それとも、純粋な正気とはああいった姿をしているのかもしれない。

「呪いだ、これは、私から君への、連綿と続き達されるまで終わらない、呪いだ!……また来世≪次の筋書≫でな」

 地下の深い場所で、もう誰も彼女に手を差し伸べることはない赤い溜まりの中で、銃声が一つ、響いた。
パクリ元---------------------------------------
ゲーム「サガ・フロンティア」アセルス編未使用イベント「ナシーラの研究」
ゲーム「白詰草話」
映画「シャニダールの花」
漫画「ガンスリンガーガール」


関連------------------------------------------
拙作「契約的に定義される感情に対して、心象的絶対値を付与した場合に裏返り表現される出力を発信者へリダイレクトさせた際の、反応と情動に対する或る喜<悲>劇な過程について」
拙作「そのそのはそとのその」
拙作「八紅一憂」
拙作「snow dAnce」

-----------------------------------------------
次回の⑥で終了です。
⑥は2017年6月4日(日)、リグル・ナイトバグオンリー即売会「東方蛍光祭」の日の朝頃に投稿します。

なお、同イベントでは、「間に合えば」
A:①~⑥を修正/再構成したもの
B:表紙絵・挿絵
C:本筋とは関係ない追加エピソード1本
D:設定資料集のようなもの
を含めた本を
「東方+サガ・フロンティア クロスオーバーSS本【筋書き通りのスカイブルー】」として
少数のみ頒布(自分用程度の数)します。
買わなくても①~⑥は夜伽で読めるようにします。

頒布しないかもしれません。


【20170416】
上記記載を削除とし、⑥が投稿されました。最終は⑦になります。
また、元ネタの記憶違いで2点記載を修正しました。
・近江→若津
・オーマイガッ→若ッ
申し訳ありません。

誤字を修正。毎度毎度有難うございます…
鼻が何も咲いていないことだった。→この一文は記述を全体的に修正しました。

【20170417】最新集から落ちたらコメ返しようと思ってたんですが最近流速が遅いのでてきとうに返すことにしました
1様:今回はギャグ回です。たぶん。カフェでのシーンは普段あんまり喋んない瑠美をちょっと前に出して流れを立てました。
   言いたいことはあそこで真矢に全部言わせた(キリッ
2様:お察しの通りです。昔色々あったのでびくびくしているだけです…
   そろそろ人も減って来たしわざわざつけなくてもいいかなあって思っています。
みこう悠長
http://monostation.blog112.fc2.com/
コメント




1.性欲を持て余す程度の能力削除
こんなにひどい偽装音声通信は初めてだよチックショwwwwww「シャイニング!」じゃねぇよwww
そら出さん疑われますわ。あんな会話のあとに(というか戻したからw)普通になっても事案ものだよ(大変面白かったです)
それにしても瑠美かわいい…いっぱい食べもの与えたいああ…今回は誰がアクメ決めちゃうのかなぁと思ったら、まさかの真矢さん!(oh…)圧搾観賞オナニーは正直なところ煩悩よりも胃にキました(でも読んじゃう悔しいビクン)
真矢さんの独白じみた(というか地の文の)彼女への感想部分は「ああ確かに」とこくこく頷きながら読んでました。しかし古今にはまともな性的嗜好者がいな(ゲフン)
後半の3Pもなかなか濃いかったですね。特にルーミィがマニアックすぎる(てかリグルきゅんおちんちんご立派すぎない!?首の付け根までとか結構すごい)、声帯まんこってなんか気持ち良さそう…唇の奪い合いが大変好みでした
紫の異変発言に所長のやり直し発言と不穏な終わり方でしたが、この筋書きの結末を楽しみにしております。
以下誤字脱字報告です↓

皮質下に埋設した誘因ポッドを目指して値を伸ばす→根を伸ばす
「マルタはの本体は不要だ、硝子封入≪キャニスタ化≫して処分しろ。」→マルタの本体は?
エレベーターはシバルバーと呼ばれる階層へ辿り付いた。→辿り着いた
鼻が何も咲いていないことだった。→花が
或いはタイルが音を避けて敷かれていた李という事は無く、→或いはタイルが根を(省略)~敷かれていたり
パワーよりもフォースに重きを置いたもだろう。→ものだろう
だらしのないトロ顔をでキスの雨を降らせている。→トロ顔で?
ぱんつとスカートををはいたままの放尿。→「を」の衍字
こうして圧搾後は脂肪がべったりと吐いて掃除が面倒臭い。→べったりとついて
尻児魂ヌキの一部始終まで見られていたとなって、→尻子魂(ほかが「子」で統一されていましたので)
今日着てみると突然部屋を埋め尽くしてたn倍枚葉のクローバー。→来て(着いて)みると?
それに眩暈を覚えて息を整えようとしていると炉に、→整えようとしているところに?
吐く情するまで、ゆるさないんだから→白状
彼女の下の動きが鈍ってきて、→舌
もうひと押し、咥えた瞬間。→加え?

すみません続きます汗
2.性欲を持て余す程度の能力削除
続きですが、ここからは自信がない部分で↓
立っている子供はどこか裸で生気がなく→裸でどこか生気がなく・または「どこか生気がなく裸で」?続く同行にて「足元はしっかりとしているのにどこかふわふわとしていた」と続いているので、校正漏れかもしれません(全部違ったらごめんなさい汗)
そして一分の者にとっては家なのだ。→一部?(これも意図してだったらごめんなさい汗)
Shaining→Shining?
以上です。毎度長々と※数をかさばらせてしまいすみません汗
3.性欲を持て余す程度の能力削除
批判でも何でもない純粋な疑問なんだけど、何で『読まないでください』って前置きを毎回するの?
4.性欲を持て余す程度の能力削除
あ~、米3だけど(いろいろと好き嫌いあるかもしれないので、嫌いな人は)読まないでくださいってことかな?昔の作品漁ってたらそんな気がしてきた。