真・東方夜伽話

八雲のきつねの尻尾係

2016/12/25 10:53:03
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八雲のきつねの尻尾係

岸屋

尻尾係として拉致された少年。
八雲藍の尻尾梳きの為に浴室まで同伴することになったが……。
※モブショタの視点で進行します。ご注意下さい。

 初めまして、「尻尾係」と申します。
 ……あぁ、突然の事ですみません。順を追って説明させて下さい。
 僕はつい最近まで人里で暮らしていたのですが、ある日の帰り道、突然妖怪に連れ去られてしまいました。初めは食料にでもされてしまうのかと考えてしまいただただ怖かったのですが、どうやらあちらにそのつもりは無いらしく「言うとおりにさえすれば○しはしない」と言われました。それ以降は彼女達の命令に従いつつ、なんとか生き永らえています。
 今は『スキマ様』や彼女の部下の元に付き、主に屋敷の掃除や洗濯などをこなしながら暮らしているのですが、その雑務の中に「彼女らの尻尾の手入れ」という務めがあり、その為僕は妖怪の方々に「尻尾係」と呼ばれております。
 ……妖怪は人を襲うものと聞いたのですが、僕のような子供を食料にするでもなく、人手に欲しいとは、妖怪にも不況の波が来ているのでしょうか。
 そんな事はさておき、もしよろしければこの「尻尾係」の小言にお付き合いしてはいただけないでしょうか。当然妖怪の元で暮らす経験なぞ無いものですから、中々困惑することも多く、当然、その、言い方は悪いのですが、愚痴を零したい事も多いのです。別に恨んだりとかそういう事ではないのですが……。
 ……いえ、尾の手入れそのものより、尻尾の持ち主の方がよく分からない事がきついのだと思います。なぜなら彼女は、なんだか曖昧な部分もあれば、鋭くこちらを見ていることもあったり、ふわふわしていて掴みどころがない方なのです。
 ここにいる人間は僕一人、主人である妖怪の皆様以外と話す機会もありません。ですからぜひこの「尻尾係」の小さな愚痴を、ここに綴らせて下さい。

 ここは『スキマ様』のお屋敷です。見た目は人里にもちらほら見られる立派な日本家屋そっくりですが、ふすまが何十にも連なる部屋があったり、ふと曲がった廊下に突き当たりが見えず、日が当たらない場所まで延々と続いていたり、妖怪の住まいというのは妖怪そのものと同じく不思議です。
 お庭も広く、釣りでも出来そうな大きな池があったり、彼岸花の咲く花畑があったりします。よく雑草毟りを頼まれて外にも出るのですが、何も泳いでいない池から何かが跳ねる音がしたり、花畑に時々人影が見える事があったりして、風景は人間の暮らす場所と変わらないのに人里から遠く離れた場所にいるのだと痛感させられます。
 お庭に面した廊下に繋がる八畳一間が僕の居室です。布団と本棚、それと机しか置いていないのでがらんとしてはいますが、最初に入れられていた石作りの寒くて狭い座敷牢よりは遥かに快適ですし、そもそも生殺与奪を奪われているという事を考慮すれば十分すぎる待遇です。本棚には小説の類が多いですが、純文学というのでしょうか、何やら難しい本が多い印象です。彼女らの命令が無い時は退屈なので、こうして帳面に文字を綴るか、難しい本とにらめっこして暮らしています。
 本日のお務めをまとめていると、ふと廊下から足音が聞こえて来ました。こちらのお屋敷の持ち主である『スキマ様』は文字通り空中に隙間を作って(このような表現が正しいかは分かりませんが)現れますし、『黒猫様』はどたばたと廊下を走って尻尾の手入れを頼みに来るので、今聞こえる静かな足音は、恐らくは『お狐様』のものでしょう。
「……開けるぞ」
 拒否する訳もなく彼女を待っておりますと、しゃっという小気味のいい音で障子が開かれ、その先にはやはり『お狐様』がおりました。
 彼女の唇はお顔が白いことも相まって紅を塗ったように赤く見え、それは犬科の口元に僅かに見える艶やかな赤みにも似ています。口元から繋がる細い頬や顎には角ばりが無く、全体が筆で書いたように細く靭やかに見えます。その容姿は人間の女性の姿でありながら獣の狐にそっくり。目つきは細く鋭く、睨まれたのならば凍ってしまうような恐ろしさを秘めております。
 しかし狐狗狸が美男美女に化けて人を襲うという言い伝え通り、確かに美しいお姿をしております。軸がぶれない歩き方はお淑やかで、長いまつ毛ののぞく横顔も、殆ど動かない表情が相まって名画のようにすら見えるでしょう。
 こんな女性が男に囁きかけたのならば、どんな男でもあっさりと夜道に導かれてしまうと思うのですが、彼女の場合は極端すぎるというか、むしろ美しすぎて警戒されてしまうような印象を受けます。……そもそも梵字の書かれた青い前掛けや御札だらけの帽子、大きな九つの尻尾が彼女が人間でないことを強調しているので、中々人間も捕まらないのではないでしょうか。
「………………」
 余計な事を考えている間にも『お狐様』が僕の方を見つめてきます。彼女は用事でこちらを訪れても直ぐには言葉を発しません。僕の様子をただじっと伺い続けているのです。その時間は凍りついたようになり、呼吸もしずらいような、そんな空気が襲います。手足や背筋、表情、体中のありとあらゆる部分に刺すような視線を感じ、僕はその間微動だに出来ません。
 僕と彼女は人間と妖怪で、当然僕は被食者側ですのでなんらおかしな事は無いのですが、流石にこうも集中的に視線を浴びせられてはたまりません。その金色の瞳から出来るだけ目を反らして彼女の言葉を待ちます。
「……湯浴みの時間だ」
 僕が「はい」と一言返事をするとすたんと障子が閉じて、尻尾混じりの大きな影が過ぎ去って、そうしてようやく僕は呼吸をすることを思い出します。
 『スキマ様』であればけらけらと笑いながら話しかけてくれますし、『黒猫様』であれば同い年のように気軽に接してくれるのですが、『お狐様』だけは獣が獲物を襲うように僕の柔らかい部分を観察しているようです。いつもどおりと言えばいつもどおりなのですが、正直不気味です。蛇に睨まれた蛙というのは、こんな気持ちなのでしょうか。
(貴方を藍に預けるわ。藍の言うことをきちんと聴いてさえいれば、藍も貴方を○すような真似はしないでしょう。死にたくなければせいぜい頑張りなさい)
 座敷牢から出された時、確かに『スキマ様』はそう仰っていました。ですが彼女がこの部屋を訪れるたびに、いつか気まぐれに○されてしまうのではないか、飽きたら三枚下ろしにされ食べられてしまうのではないかと考えてしまいます。
 ……先のことを考えても体がすくむだけなので、最近ではあまり考えないように努力しています。僕は安堵の溜息を一つだけついてから、彼女の後を追いました。
 
 浴室の前で彼女の指示を待っておりますと、脱衣所の湿気がぺたりと肌を濡らすのを感じました。
 こちらの浴室には風呂掃除で既に何度か出入りしております。広さは僕の居室と同じ八畳流し場が半分に浴槽が半分とちょっとした銭湯のような印象を受けます、床や浴槽はヒノキ張りで、こんな場所で湯浴みできたら素敵だろうなと思います。僕自身は湯浴みなど許されておらず、桶から水を汲んで体を拭くことが多いので、少しだけ羨ましく思います。
「入れ」
 扉の向こうの声を合図に扉を開きます。湯気の向こうには、あられもない姿の『お狐様』が、僕に背中を向けるようにして風呂椅子に座っておりました。
 背を向けているので、目の前には九つの大きな尻尾がもさもさと並んでいます。一本一本が地面に付くか付かないかの長さを持ち、その上太さは丸太のよう。強力な妖怪であればあるほど耳や尻尾は立派になるらしく、それほど彼女の妖怪としての格は高いのでしょう。ともかく僕は尻尾係としての仕事に取り掛かりました。
 まずは湯船からお湯を汲みます。体を流す為の風呂桶ではなく、尻尾専用の深底の桶を使います。湯船からなみなみのお湯を汲み終えたら、次に必要な道具を確認します。持ち込んでいたかごの中には大小様々な櫛とブラシが入っておりますが、その中から湯浴み用の幅の広いブラシを取り出します。先端に小さな丸いボールの付いた黄色いブラシである事を確認し、ピンが折れていないか、古い毛や埃が絡んでいないかを確認して準備は完了します。
 僕は一言「お流しします」と口に出して作業を開始しました。まずは右の尾にお湯を垂らします。小麦色の毛並みがお湯を吸って色濃くなるのを確認してから、ブラシを尾の根本から先端まで一気に通すと、流れるように毛が整っていきます。大きなふさふさの尾の末端では、四、五本の毛がするりと抜け落ちていました。
 ……そう、これが僕の仕事です。湯浴み前に彼女の尻尾に櫛を通して毛抜きして差し上げているのです。獣たるものやはり体毛が気になるらしく、毛抜き無しには湯船に浸かれないとの事でした。確かにこれだけ大きな尻尾があれば、湯上がりの頃には湯船の底が彼女の残り毛で敷き詰められてしまっているでしょう。
 二度、三度と繰り返す内に、木の床に落ちる毛は増えていきます。解く回数や速さも決まっており、尾の一つ一つをかつらむきの要領で左から右へ一回、右から左へ一回。彼女の尻尾はブラシが入っていっても一度も引っかからない程柔らかく、初めてお手入れした時はその感触に驚いたものですが、最近ではようやく機械のように一定の動きで淡々とお流し(尾流し?)出来るようになってきました。
 最近では彼女を伺う様子も出来たのですが、眺めていると案外、普段は帽子に隠れている耳がぴくぴくと動いていたり、手入れ待ちの八本の尻尾がひゅんひゅんと左右に揺れたりしています。くすぐったいのでしょうか、それともブラッシングが心地よいのでしょうか。
「…………………」
 そうしている間も彼女は何も語りませんし、体も微動だにさせません。少しでも反応が伺い知れればいいのですが、彼女自身は表情や仕草、眉や唇の僅かな動きすら一切出力しないのです。その上尻尾だけは素直に揺れるものですから、結局僕は彼女の機嫌について何が何やら分かりません。僕は結局気まずさに堪らず、直接彼女に伺うよう試みてしまいました。
 色々と言葉を選んではみたのですが、こちらから話しかける機会も無いので結局はただシンプルに「気持ちいいですか」と声がけをしてみたのです、が。
 返事は無くただ湯の流れる音だけが響きます。彼女は白い肩越しに僕を覗いていておりました。その視線はやはり睨みつけるような鋭いもの。眉間に皺こそ寄っていませんが、彼女の縦長の瞳孔が白熱灯の照射に混じってぎらりと光っているのが見えました。
「………………おい」
 僕は申し訳ない気持ちでいっぱいになり「すみませんでした」と一言言って、二本目の尻尾すきへと意識を向けました。『スキマ様』や『黒猫様』に比べて、彼女は僕を余り歓迎してないようです。それはそれで仕方がありません。彼女の前では出来るだけ淡々と作業をするべきなのかもと考えながら、幹のような尾にブラシを差し続けました。
 
 十と数分の作業の末、ようやく九本目の尾の毛抜きが終わりました。最後の尻尾は白い先端を天井にぎゅっと伸ばした後、彼女の左端へと戻っていきます。艶々のしっぽを眺めておりますと、八本目から順番に小さく揺れる動きが緩慢になり、一本目の尾はとうとう水やりを忘れた朝顔のようにくたびれていました。その様子はまるで尾が早く湯船に入りたいと主張しているよう。犬の尻尾はそのまま感情を示すと言いますが、彼女の場合はこれだけ尻尾がありますから、もはや体とは別に意志を持っているのかもしれません。
 浴室での毛抜きは床に落ちた抜け毛をざる網にさらってようやく終わりになります。白や黒や茶色の毛並は床に落ちても綺麗なままで、その上手のひらが埋まる程もありますので何かに活用出来ないかと考えてしまいますが、『スキマ様』に「強力な妖怪は抜け毛一つにも妖気が残っていて危険」と教わりましたので、仕方なくごみ箱へと捨てています。
 桶の中の水を捨て、ざるやブラシを忘れていないか確認し、最後に僕は一言「失礼します」と言ってお務めを終えようとしました。 ……しかし、その日はどうやら様子がいつもと違っていたのです。
「お前も入っていけ」
 僕は一瞬声に反応することが出来ませんでした。声が『お狐様』のものであることは間違いようもありませんでしたが、言葉の意味がわからなかったのです。お前もということは、一緒に風呂に入れという事でしょうか。扉に手を掛けた所でしたので僕はすっと彼女の方向に振り向きました。
 目の前には胸元にタオルを巻いた『お狐様』が立っておりました。僕は真上に彼女の目を見上げておりましたので、それだけ背丈の差があるのでしょう。浴室の無数にある照明が彼女に薄い影を作り、その灰色の中に彼女の瞳が光っておりました。
 彼女の瞳は琥珀のような色をしており、その中心に黒い瞳孔が亀裂のように縦に伸びていました。彼女の目なんてきちんと見た事はありませんが、恐らく人間のそれとは違うのでしょう。瞬き一つ無くぶれる事なくただ淡々と僕を射刺しています。
 僕は彼女の瞳を見つめ返しておりました。いえ、竦んで動けなくなっていただけかもしれません。僕が不思議な緊張に気づいたころ、彼女が口を開きました。
「何をぼーっとしている。早く脱げ」
 返事をする間もなく、彼女が服に手を掛けてきます。わぁわぁと喚く間も無く僕はすっぱだかにされ、最後は放り投げられるように湯船に飛び込んでしまいまっていました。
 
 ここ最近の秋風は木床や梁を徐々に冷やしているらしく、お屋敷のどこに居ても縮んでしまうような寒さを感じておりました。体拭きの為の水も夏場よりはるかに冷たく、濡れた肌に隙間風が与えると嫌でも震え上がってしまいます。それが今はお湯の暖かさにぞくぞくと震えることが出来ているのだから、有り難いものです。
 妖怪のお風呂というもの恐ろしいほど熱かったりするのではと不安になりましたが、お湯は熱すぎずぬるすぎずで丁度体をぽかぽかと温めてくれる温度で、また湧き立つ檜の香りや湯気の漂う広々とした視界はとても新鮮で、一瞬どこにいるのか忘れさせてくれそうなほどの心地よさを感じてしまいました。
 ……こんな湯に肩まで浸かる事が出来ていながら、体を芯から温める事はままならず、また極楽というには余りにもかけ離れております。なぜなら僕の真後ろには、確かにあの『お狐様』がいるのですから。
 彼女は湯船の中で長い脚をだらしなく伸ばしており、僕は彼女が開いた脚の間で体育座りをしております。どうも彼女は腰を掛けるのに尻尾が邪魔らしく前側に尻尾を回しているのですが、僕からは尻尾が毛をゆらめかせて魚のように漂ったり、水面から出て筆の様な姿を表す姿が見えてしまます。まるで尻尾に取り囲まれているような気がしてして、しかも尻尾を手で押し払うって良いものかも分からないものですから、結果的に窮屈な体育座りを強制されてしまいます。
 さらには後ろからは相変わらず彼女の視線を感じ、首筋やうなじの辺りがちりちりとむずかゆくなります。視線は今までよりもはるかに近く、僕の勘違いでなければ、時々鼻を鳴らすような音が聞こえます。彼女は僕の匂いから何かを確かめようとしているのでしょうか。
「………………」
 それでも彼女は何も話してはくれません。聞こえるのは時折尻尾が水面を揺らす音と、彼女の微かな吐息の音だけです。静寂の中で僕は、かつて母親に湯船の中ではじっとしろと躾けられたのを思い出しました。……ここまでじっとしなければならないものとは、思ってもいませんでした。
 そもそもなぜ僕は嫌われているはずの『お狐様』と湯船に浸かっているのでしょうか。なぜ彼女は僕を湯に誘ったのでしょうか。なぜこれだけ広い湯船の中でわざわざ密着しているのでしょうか。疑問は一向に頭を重くしてしまい、のんびりと湯にも浸かれませ
 そして、感じるのは視線だけではありません。いえ、むしろ問題なのはこちらかもしれません。僕の背中の肩甲骨のあたりには、むにっという弾力が感じられます。……タオルに包まれた彼女の胸が、むにと背中に当たっているのです。
 布地越しにも分かる弾力はとても柔らかく、嫌でも、その……卑猥な行為を想像させてきます。そもそも完全に彼女と密着しているわけではないのに僕の背中に届く胸の大きさというのも恐ろしいものです。これほど大きな胸だと気づかなかったのは、あの厚手の前掛が胸の大きさを隠していた為でしょうか?
 僕だって子供とはいえ立派な男です。こんなものを押し付けられていて、そういった事を想像しない訳がありません。意識を逸らしたくてもこんな静寂の中では想像をかき消すことも困難です。いつしか僕の股間のものは、どくどくと熱を蓄え始めてしまいました。僕も腰にタオルを巻いていますし、体育座りのお陰で腫れものはお腹側に隠れていますから、恐らく彼女には見えないはずです。しかしこのままでは湯船から上がる際にバレてしまいます。どうしたものかと考えても、理性は背中に触れる柔らかさにばかり向かってしまいます。
 悶々としたままでいると、今度は意識が股間の方に向いてしまいそうになります。これ以上の進行はなんとしても避けたいと考えていると、ふとあることを思い出しました。
 湯船に肩まで浸かったなら百まで数を数えなさい。遠くから聞こえた母親の声が天啓のように聞こえました。確かに数を数えて意識を反らせば、その内に隆起も収まるかもしれません。僕は早速数字を数えることにしました。
 いち、に、さん、し、ご、ろく、なな、はち、く、とお。数字の形を頭に思い浮かべて繰り返します。
 じゅういち、じゅうに、じゅうさん、じゅうし、じゅうご。数えて続けて、なんとか五感を遠くに置こうとします。
 じゅうろく、じゅうなな、じゅうはち、じゅうく、にじゅう、にじゅいち。右の手首に尻尾が触れた気がしましたが、気にしていられません。
 にじゅういち、にじゅうに、にじゅうさん、にじゅうし、にじゅうご。少しずつ、頭の中が数字で埋まっていきます。
 にじゅうろく、にじゅうなな、にじゅうはち、にじゅうく、さんじゅ。数字が別の数字に重なって、頭の中を黒く塗りつぶします
 さんじゅういち、さんじゅうに、さんじゅうさん、さんじゅうし、さんじゅうご。尻尾がまた、手首をかすめます。
 さんじゅうろく、さんじゅうなな、さんじゅうはち、さんじゅうく、よんじゅ。彼女の胸の感触が、強くなりました。
 よんじゅういち、よんじゅうに。
 
 「……どうして勃起しているんだ?」
 
 『お狐様』の声は余りにもシンプルで、えげつなく、あっさりと僕の努力を打ち崩しました。よんじゅうさんという数字は頭の中に浮かばず、かわりに真っ白なインクが頭を染めます。
 彼女が後ろから僕の体に腕を回すと、毛むくじゃらの狐ではあり得ないすべすべの感触が背中のそこら中に触れます。さらに彼女の長い脚が僕の股を無理やり広げきて、気付けば僕が必死に隠していたそれは、湯船の下で露わになってしまいました。
 タオルの下から主張する肉棒はまだまだ萎えてはおらず、やはり百も数えない内には厳しいものがあったようです。僕は必死に欲情を否定したかったのですが、証拠をしっかりと見られてしまっていては何を言っても説得力がありません。
 え、あの、その、としどろもどろになるうちに彼女の手のひらが僕の口元を訪れ、すっと言葉を塞いでしまいました。丁度羽交い締めの要領でしたが、強引なものでないためか、それとも彼女の柔肌の為か、一切の苦しさはありません。彼女はただ静かに僕を制します。
 「黙ってろ」
 彼女はそう言い放つと、今度は僕のタオルの下に尻尾を潜りこませてきました。ねじって留めているだけのタオルは九つの尻尾でぎゅうぎゅう詰めになり、くすぐったさに悶える間もなくあっという間に解けてしまいます。そのまま湯船の中で軽くなった体を彼女の脚に持ち上げられると、僕が必死に隠そうとしていたものが簡単に露わになってしまいました。
 孤島のヤシの木のように浮かぶ僕の一物は、間違いなく彼女の視界にあるはずです。徐々に湧き上がる恥ずかしさはに堪らず体を振りほどきたくなりましたが、彼女相手に暴れる事も恐ろしい為、僕は結局この状況の静観を余儀なくされました。
 目をぎゅっとつぶって時が過ぎ去るのを待ちます。しかし次に僕を襲ったのは、しゃり、と隆起を撫でる感覚でした。
 見ると彼女は、尻尾で僕の一物を撫で始めていたのです。濡れた尻尾はやはり巨大な筆のようになっており、そんな尻尾が様子を伺うようにして僕に一物をつつきます。初めは一本目の尻尾が、次に二本目の尻尾が、続いて三本目、四本目……一本一本が恐る恐る僕の一物に触れると、徐々に慣れてきたのか、複数の尻尾が続けざまに一物を撫で上げていきました。
 根本から亀頭までを、睾丸から亀頭までを、時に亀頭側から根本に向かって、気まぐれに腹や太腿を撫でながら、しょりしょり、しゃりしゃり、しゅに、しゅる、ちゃぷん……。
 くすぐったさはいつしか心地よさに変わり、僕は尻尾の愛撫に堪らず腰を震えさせてしまっていました。まるで尻尾が普段のお返しをしているかのような優しい感触は、自分で触るのとは遥かに違った快感を僕に与えてくれます。
 僕の小さな喘ぎは彼女の手のひらに止められ、彼女の尻尾にされるがまま擦られていました。このままでは、もっといけない粗相をしてしまう。僕は暴れない程度に快感から逃げようと腰を水の中に鎮めようとしました。しかし、今度は尻尾が素早く一物に巻き付いてきたのです。
 根本までを覆う毛筆は隙間なくとぐろを巻いています。大蛇の締め付けは時に自分よりも数倍も大きい相手も圧死させてしまう程強力だと本で読んだことがありますが、彼女の蛇は鱗の冷たさも痛みも感じさせず、代わりに先程よりも直接的な快感を与えてくれました。
 濡れた尻尾は未だ柔らかさを失わず、しかし無数の毛先は運動の過程でランダムにこすれ、しゅっしゅと小気味の良い音を立てて僕の一物を扱きます。上下に擦り上げるような、時にぎゅっと絞るような動きはどこか楽しげで、僕は尻尾に犯されているような気持ちにさえなりました。
 動きだけで言えば僕の右手でも出来るようなもののはずなのに、自分以外にされることが、手ではなく尾にされていることが、これほど興奮を掻き立てられるとは思いましませんでした。まずい、このままじゃ、何かを考えようとしても快感の為の運動は止まってはくれません。兎に角下半身に力を込めて我慢しようとはしたのですが、さらに僕の焦りを他所に、今度は持て余した八本の尻尾が僕に襲いかかってきたのです。
 尻尾がとぐろを巻いて僅かに見える亀頭。そこに様子を伺っていた一本の尻尾が一震えの後飛びついてきて、敏感な先端を擦り上げました。唐突な粘膜への刺激に腰がびくんと跳ねても、尻尾は制御を失ったように止まりません。それ以外の尻尾も続くように、睾丸をくにくにと押し上げ、腰やお腹の周りを撫でさすり、腰やお尻をお湯の中からつつき……僕はまるで、尻尾の渦の中に巻き込まれたかのようにあらゆる場所を責められました。集団で襲いかかる尻尾を前に、僕は―――。
 
 びゅくっ! びゅっ、びちゅっ!
 
 ……汚い音と共に吐き出された液体は、勢い良く飛んで腹の上に着地します。我慢の為の力みは発射の為の力に変わってその勢いを増し、またこちらのお屋敷に来てから自慰の隙もありませんでしたから、その液体は自分でも見たこともないほど濃く、多くなっておりました。尻尾は飛来する白濁をすいすいと避け、僕の粗相を眺めます。
 あぁ、やってしまった。彼女の目の前でなんてことを。考えながらも震える一物は脈動し続けます。徐々に萎んでいく一物に彼女の尾は、最後まで出せと言わんばかりに一物を腹に押し付け、きゅっきゅと中に残る汁を管の根本から排出させました。
 温かい湯の中で襲う眠気。このまま眠りについて目覚めたら自分の家の布団の中、そんなお話ならどれだけ幸せでしょうか。こんな姿を晒してしまっては、本当に○されても――。
「気持ちよかったか?」
 彼女の次の言葉は、余りに予想外で、僕はまた、思考を詰まらせてしまいました。
 気持ち良い事は確かにその通りでした。尻尾の愛撫は余りにも僕の自慰とはかけ離れていました。しかし、いくら心地良かったとはいえ、こんな粗相をしておいて「気持よかった」などと返してよい訳がありません。彼女の手はいつの間にか僕の口元から離れておりましたが、結局僕はその問いに返すことはありませんでした。
 気まずい時間はどれだけ続いたのでしょうか。しばらく静寂の中にいると、ふと彼女の溜息がうなじを掠めました。
「ふむ、この程度では物足りんか」
 彼女の言葉はやはり直ぐには理解出来ませんでしたが、どうもそれは『意趣返し』というものらしかったのです。僕はその言葉を知りませんでしたが、後から『スキマ様』が教えてくれました。妖獣というものはとかく、恩返しや仇返し、された行為を仕返すというものを好むものだそうです。つまりこの行為も、僕が彼女にかけた「気持よいですか」という問いへの問い返しだったらしく。
「仕方が無い。それでは、よりきつく搾るとしよう」
 返答しないという間違いを犯した僕は、更なる『お狐様』の戯れに付き合わされることになったのです。
 
「こっち向け」
 『お狐様』が僕を引き寄せると、そのまま僕は起立を強制され、ちょうど彼女と顔と僕の腹が向かい合わせになりました。当然腹の上の液体が下に落ちそうになってしまうのですが、彼女はなんと、僕の腹のそれを指の腹ですくい取り、べろりと舐め取ってしまいました。糸を引いてねばるそれに舌がねちっこく絡むと、白かった指の腹がすぐに元の肌色へと戻ります。
 今度は向かい合わせでしたから、嫌でも彼女の仕草を意識してしまいました。黄色い瞳は行為の快感とは反対に鋭く、視線が彼女と重なってようやく僕はその行為がいけないことだと思い出したのですが、僕が否定の言葉を口に出す前に、今度は腹の上をひちゃひちゃと舐め始めていました。
 臍のあたりをくすぐる舌の感触は、僕の言葉をあっさりと止めてしまいました。彼女の舌は獣の狐と同じく薄く長く、骨に付いた肉を最後まで削ぐためか少しだけざらついています。獣はおろか人間の舌にも詳しくはありませんが、お面の様な顔から垂れるぬめった舌はどこかそれだけでいやらしく、しかし首だけを下から上へ動かすような舐める仕草は確かに犬科の獣のもので、そんな艶めかしい動きで彼女は、臍の辺りへ、お腹の辺りへ、そしてしおれた一物の辺りへ――。
「……ほうら、これはどうだ?」
 にゅるっとした感触が一物を襲います。『お狐様』はなんと、汚いそれを口の中に含んでしまっていたのです!
 狐の口の中はとろりと熱く、脚が浸っているお湯よりも熱いのではないかと思うほど。それでいて舌は腹の上で走っていたのと同じく、薄くて長いざらざらが隅々に押し付けられます。餌の肉を楽しげに転がすような動きが続くと、僕は再び下半身に血が集まっていくのを感じました。
 目下に見える彼女は、内に巻かれた金髪を耳に掛けながら僕の股へと唇を押し付けてきます。湯気に紛れて上がる髪の香りはどこか、干したお布団のような良い匂いがして、その情景に僕は軽く腰を引こうとしました。このままではまた彼女を汚してしまう。焦るままに腰を引いても唇と舌は膨らみかけた一物を咥え続けたまま、僕を追いかけ続けます。
「んむっ、ちゅっ……ん、こら、逃げるな」
 腰をよじって逃れようとする僕に対し『お狐様』は、脚に腕を絡めて動きを制止します。さらに後ろからはあの九つ尻尾がずんと待ち構えておりました。彼女の尻尾は湯船の中を潜りながら、足首や手首にしゅるりと絡んだり、後ろからぐいぐいと腰を押さえつけてきたり。先程扱かれた尻尾の柔らかさとは全く異なる尻尾の感触。狐は人を化かすものですから、やはり尻尾も変幻自在という事なのかもしれません。
 そして彼女の体と口淫が僕の脚に張り付いているので、僕が必死に意識を逸らそうとしていた、僕がずっと気になっていた、たわわなおっぱいにも無理やり意識を持っていかれてしまいました。
 大きさは目一杯膨らませた風船のようなのに、柔らかさはまるで餅のようで、そんな弾力がむにょむにょと僕の右の太ももを挟みこんで水面を揺らしています。彼女が口元を前後に動かすと、それに合わせておっぱいもたぽたぽと揺れて否が応でもその存在を教えこんできました。
「乳房か、ほら」
 視線を察した『お狐様』が僕の手首を掴みます。指先はそのまま彼女の弾力に向かってぶつかり、すると。
 ふにゅっ。
 ……人の体からそんな音がする筈は無いのですが(いや、彼女は妖怪ですからこんな音がすることもあり得るのでしょうか?)、僕には本当にそう聞こえたのです。指は当たり前のように彼女のおっぱいの中に沈んでしまいました。まるでさらさらの布越しにお豆腐を握っているようで、でもみっちりと詰まったお豆腐の形は一切崩れることは無くて、手のひらの中が、指と指の間が、全部そんなふにゅふにゅに包まれて、僕は確かめるように何度も何度も。
「ふむ、お前はこちらが良いのか」
 彼女の手が僕の手のひらの上に被さり、そのまま自らの胸を持ち上げます。ふたつの大きな瓜がどんどん僕のお腹に押し付けられて、気付けば僕の一物は彼女のおっぱいに食べられてしまいました。
 僕は「うわぁあ」と情けない声を上げてしまいました。だって、あのふにゅふにゅが根本から先っぽまでを殆ど包んで、その上『お狐様』は僕の手の甲を支えながらおっぱいを揺らしているのです。一物と指先がとろとろに溶かされてしまう気すらしてしまう程熱くて柔らかいのに、彼女は両手をしっかりと添えたまま、僕の一物も手のひらも逃してはくれません。こうしている間も、外側から僕の指を握らせて、ふにゅふにゅを確かめさせてきて……。
「ほうら、さっさと出せ」
 残酷な『お狐様』は僕の理性が追いつく前に、今度はざらつく舌を僅かに見える亀頭に這わせてきました。僕は二度目の悲鳴を上げて彼女の口淫を強制されます。とろとろのおっぱいに挟まれる中で唯一感じるざらざらの感触は、口だけの時より余計に卑猥に感じられ、獣の舌が皮の中を洗うようにぬるんぬるんと這い回って、最後にちろちろと穴の入り口をくすぐった瞬間――。
 
 ぶぴっ! びゅちっ! びゅううぅうっ!
 
 ……僕は性懲りもなく、彼女を汚してしまいました。我慢なんて言葉はとうに瓦解し、放った種の中に混じって彼女の口の中に吸い出されていきます。こんなに心地よさを前に、抗える訳がありません。出しながらも彼女は真っ赤な先端をぱくりと咥えこんで、胸をぎゅうぎゅうと抱き寄せて、一滴も逃さないように管の中身を吸い上げます。
 僕は彼女の胸を目一杯掴んでその快感を堪えていました。握っても指の間から逃げるおっぱいはやはりそれだけで僕を驚かせ、ただ必死に震えて彼女の吸引が終わるのを待ちます。結局彼女が唇を離したのは、僕が出し始めてから終わるまでの倍ほど経ってからでした。ねちっこく掃除された一物はまたもとのようにしなびて平常に戻ります。
「……どうだ、気持ち良かったか?」
 彼女は僕を見上げながら言いました。彼女の舌なめずりはやはり獣のもの。不思議とそれは可愛らしいような気がしたのですが、対する僕はそれどころではなく、ただ膝の崩れを感じるのみでした。
 
 快感のせいかはたまたのぼせたためか、僕はもう立つだけの力を失っていました。前に倒れこむと『お狐様』にぶつかってしまうので、なんとか彼女を避けて湯船の縁へ寄りかかります。そのまま縁に腕を掛けて、酔い潰れた大人が吐く時みたいに頭を垂れて呼吸します。床のタイルに近い方は湯気が少なく、呼気が冷たくて心地よいです。吸って、吐いて、吸って、吐いて、深呼吸してようやく頭のくらつきが収まりました。
 頭の中に新鮮な空気がやってくるとようやく思考が快感から解放され、代わりに疑問が浮かんできます。彼女は何故こんなことをするのでしょうか。僕をへろへろにして弄んでいるのでしょうか? 確かに彼女の行為はどれも心地よく、僕はそのたびに腰が抜けそうになってしまいます。一方的にされるがまま喘ぐことを強制され続ける。こんな恥ずかしい行為が、一体いつまで続くのでしょうか。僕は頭を少しだけ起こして彼女に向き直ろうとしました。「もう止めて下さい」と、そう口にしようとしたのですが……。
「なんだ、今度はこっちか。欲張りめ」
 お狐様は後ろから僕の一物をそっと撫でてきました。僕が縁にもたれかかる姿は彼女には何故かおねだり同然に見えたらしいのです。違います、止めて下さい、そうではないのです。言葉の数々は彼女の指使いに堰き止められてしまいました。
 彼女の次なる行為は僕を昂ぶらせる為のものらしく、まずは萎えてぶら下がる睾丸に彼女の十つの指が張り付きました。そのまま男の弱点をくにくにと揉みほぐされていくと、僕はくすぐったさに悶まてしまいました。彼女の指使いはお団子をこねるようなもので、二つある玉の中身を丹念に確かめるように、つまむようにして、左右に伸ばして、好き勝手に僕の睾丸を玩びます。さらには太腿やお尻の側に彼女の息遣いがかすれ、くすぐったさやら恥ずかしさやらがつきまとい続けます。胸元へ挟まれたときも恥ずかしさは尋常ではなかったのですが、後ろ向きで責められることの羞恥心の方が遥かに大きく、僕は目をぎゅっと瞑って玉遊びを耐え続けます。
「……声、甘ったるくなってるぞ。そんなに良いのか?」
 僕は急いで口を塞ぎました。声や吐息がどうなっているかなんて、意識しなきゃ自分でも分かりません。僕は悦んでしまっていたのでしょうか。彼女がこんなにも、饒舌になるほどに。
「そうか。ここも弱点か、お前」
 『お狐様』の声色はずっと変わらないのにどこか楽しげで、僕は僕で口を抑えていても声は漏れてしまい、「あぁう」とか「うふぅぅ」とか、彼女の声と比べて自分の声がおかしくなっていることを嫌でも自覚させられてしまいます。その上ぐにぐにと玉を押し転がす指の感触に続いて、ぬるんとした感触が睾丸を一撫でしました。このざらつきは間違いなく、彼女の舌そのもの。
 股間のそれはお稲荷さんとも表現しますし、狐も稲荷やお揚げが好きとも聞きます。丹念に舐め上げるその動きは捕食にも似ていて、僕は一瞬噛み付かれはしないかと体をこわばらせてしまったのですが、無数にある皺を一つ一つ探ってなぞる動きは痛みとは程遠く、またしゅっと伸びる鼻先で睾丸を押し上げたり、唇で軽く吸い付いたり、どちらかと言えば行為は口元を使って遊んでいるようなもので、つまるところ玉遊びはどうも脱力してしまうような、それでいてどこか心地よい、遠回りするような快感を僕に与えていてきました。彼女も彼女でわざとらしく唾液の音を立てており、後ろから聞こえてくる吐息と咀嚼のような音もまた僕の興奮を高めてきて、気づけば萎えていたはずの僕の一物は再び首をぐいと持ち上げて、三度目を期待してしまっていました。
 びんと反る一物を彼女が掴むと、それまで触れられていなかった部分への刺激に一物も腰もびくっと跳ねてしまいました。彼女はそんな事もお構いなしに一物を下に扱き始めます。手のひらの感触は肌や乳房と同じくすべすべで、水滴も弾いてしまいそうなきめ細やかな物らしいようですが、尻尾や乳房と違って僕の敏感な部分をより正確に刺激してきました。片手の親指と人差し指で輪を作って扱きながら、もう片手は自由に僕を刺激します。皮の中から見える尿の穴を人指し指の腹でくちゅくちゅと磨いたり、お尻と玉の間を硬さを確かめるようにぐにぐにと押したり、お尻やももを撫でさすったり、亀頭を無理やり剥き上げたり……。
「……膝、震えてるぞ? 家畜の牛の方がもっとましに四肢を張る。そんなに良いか」
 我慢させないほどの快感を与えているのは『お狐様』ではありませんか。思いはすれど返すことなど出来ず、僕はただ気持ちの悪い声を上げて彼女の搾乳を堪えるのみ。膝の震えを堪えきれずに震え続けていると今度は睾丸が熱い感触に包まれました。『お狐様』は僕の睾丸をぱっくりと口に含んでしまっていたのです。ぢゅるぢゅると啜る音は端正な顔立ちに似合わぬ下品なもので、吸引されるような、下半身の中身を吸い上げられる様な感覚が一気に下半身を襲います。
「んぢゅっ……ぢゅるっ、んっ、ふっ、ほうら、大人しく搾られてしまえ……んぷっ、ぢゅっ、ぢゅるるっ……」
 射精直前の睾丸が持ち上がるのに対し、彼女はそれを口の中へ吸い寄せて逃がさないようにしてきます。舌で転がすことも、片手で下へ向かってしゅっしゅと扱くことも、もう片手で亀頭の粘膜を磨く事も忘れておらず、彼女の搾乳に一切の隙はなく――。
 
 ぶぴゅっ、びゅぅうっ、びゅるるるっ!!
 
 僕は何も分からないまま三度目の射精を強要されました。ただ搾られるがまま、重力に従って下へ下へと種を吐き出します。余韻の痙攣の間も彼女のしゃぶりつくようなお稲荷責めは止まらず、余りの汁まで残さぬようにと、玉舐めと搾乳の動きは続きました。その間僕は、声を上げて搾乳を悦ぶのみ。牛の方がましという言葉は間違い無いのかもしれません。だって僕は、こんなお尻を突き出した格好で好き勝手に搾られて、悦んでしまっているのですから。
「んぷっ、ふぅ……どうだ、気持ちよかったか?」
 搾る為の動きが終わっても彼女の様子は変わらず、何事も無かったかのように問いを再開します。先程申し上げましたように僕はまだ「意趣返し」という言葉を知りませんでした。ただそれでも、何か返さねばこの行為は終わってくれないという直感はありました。だから必死に考えました。彼女の戯れを終わらせる為の言葉を。
 彼女を相手に否定は出来ません。今後のここでの生活どころか、目の前の命にすら関わります。適当にはぐらかすなんて彼女の透き通るような眼光を前に出来やしません。無言で立ち去るのもなんだかおかしく、結局僕は素直な感情を口にするしか無かったのです。
 『お狐様』の方になんとか向き直り、先程まで腕を乗せていた湯船の縁に腰を掛けます。一物を湯船に沈めないようにしながら振り向くと、きっと僕がそこに吐き出したのでしょう、右の手を毛づくろいするように舌で舐めており、その仕草は招き猫のようにも見えました。
「気持ち、よかったです」
 彼女は毛づくろいを続けながら僕の瞳を見続けています。仕草は可愛らしいものでも視線の恐ろしさや表情の冷たさは変わらず、僕は緊張しながら彼女の返事を待ちました。じろじろと僕の表情を観察されますが、僕は素直な思いを口にしたまでです。それ以上の何かを期待されたって。
「気に入らんな」
 返された彼女の言葉は冷たいものでした。
「お前は私の問いに二度も返さなかった。三度目でようやく返事をしなければ終わらないと思ったのだろう。だから嘘を付いた」
 嘘を付いた。『お狐様』は確かにそう言いました。二回目まで彼女の問いに返すことができなかったのは事実です。三度目がどうこうという事も、心の内の話ですが概ね事実です。ですが二度の問いに返せなかったのは『お狐様』の行為が余りにも気持ちよかったからで、三度目の問いは本心です。決して嘘だなんてことは……。
「狐は人を騙し化かすが、人が狐を騙し化かすなんて聞いたことがない。全く、癪に触る」
 弁解しようにも彼女の論調はどこか強く、かと言って怒っている風でもなく。結局彼女はいつも通りの冷たい顔立ちのまま僕に問いかけるのです。湯の中にいた彼女がすっと立ち上がると、そのまま僕の横に来て浴槽の縁に腕を掛けました。先程僕が搾られたように腰を突き出して、僕の方を見やります。
「なぁ、教えてくれ。お前はどこまでしてやったら、『気持ち良い』と言ってくれるんだ?」
 間近にきた彼女の瞳はやはり透き通るように美しく、ですが今だけは、何故か熱がこもっているような、そんな気がしました。
 
 すらりと背の高い『お狐様』にとって風呂場の縁は低すぎるらしく、僕がぴんと足を伸ばしていた高さの縁に、彼女は膝を曲げて腰を突き出していました。くの字に曲がった膝のラインは狐の後ろ足のようにも見え、僕の方を見やる様子も相まって獣らしさを増しています。
 彼女がこれから何をしようというのかを考える前に、彼女の背に乗っていた尻尾が僕の体を引き寄せました。手首が長い尻尾にぐるりと巻かれて引っ張られ、他の尻尾は僕の背中を小突くようにして、誘導された先は彼女の丁度真後ろ。
 『お狐様』の後ろに立つと、その肉体が持つ曲線がよく見えました。浴室の橙色の明かりに照らされる背中に無駄な線は一つもなく、お腹のくびれ、背の筋、肩の骨、お尻の丸みまでがしゅっと続き、また透き通るような白い肌は水に濡らされ鈍い光を放っています。そして僕の股間の側には彼女の股の割れ目がぴとりと張り付いていました。
 ここまでの行為が何のためのものか分からなくても、この行為は、この姿勢は、流石に理解出来ます。つまりこの体勢は、そういった行為の為であり。これは流石にまずいと反射的に彼女の体から遠ざかろうとしたのですが、彼女の尻尾は先程より多く絡んで僕の体を引き寄せてくるのです。
「そう怖がるな。狐穴に入らずんば、と人間は言うだろう」
 それは多分虎の穴では。そう考える間にも、僕の一物は彼女の穴に入ることを期待して血液を蓄えていきます。欲望がお腹の中でぐつぐつと煮だって、お湯の熱さと彼女の熱さよりも更に熱いものを滾らせて、彼女の尻尾はどんどん僕の体に張り付いて、腕を彼女の胸の側まで引き寄せて、足を彼女のお尻へと密着させて、腰を持ち主の狐穴へと誘導して……。

 ぶびゅっ! どぷっ!
 
 ……気づけば僕は、彼女の中へと入る前に精を放っていました。あぁぁ、と声を上げながら狐穴の入り口をどろどろに汚し、僕は汚いものが湯船の中に滴ってしまう事に一瞬罪悪感を覚えたのですが、それでも今の僕には気持ちよさのほうが大きくて、ただ僕は一物が彼女の入り口をぺちぺち跳ねて汚すのを感じ続けました。
「……狐の一鳴きより早かったな」
 狐の一鳴きとは、こん、と表現されるあれでしょうか。あんな一瞬の鳴き声よりも早く出てしまっているのだから、僕の一物はもう壊れてしまっているのかもしれません。三度も射精させられて、その上全く触られずに射精して、これでは壊れた蛇口と何も変わりません。
 しかし、壊れた僕の一物は射精してもびきびきに反り返ったままでした。まるで一物がもっと出したいと望んでいるようです。いえ、一物だけではありません。彼女の中に入れたい、目一杯腰を振りたい。射精したい、射精したい、射精したい。僕はいつしか、あれだけためらった射精を自ら望んでいたのです。
「ほら、次だ。お前もどうせ獣だ、後は分かるだろう?」
 尻尾の先端が狐穴を広げると、白く垂れ落ちるに混じって口内に似た薄桃色が見えました。彼女の言葉の意味は分かりませんでしたが、彼女の尻尾はまた僕の腕や腰に絡み、持ち主の体へと引き寄せます。そのまま先端がぐにゅ、と熱さに包まれ……。
「ふっ、うっ……」
 僕はとうとう彼女の中へと入ってしまいました。尻尾の誘導に沿ってぶら下がる胸を掴み、細身の背中へと体を押し付けると、彼女の体熱がはっきりと分かりました。手のひらも、お腹も、そして一物も、全てが熱く柔らかい。女の人の体というものに興奮を抑えられなくなった僕は、必死に腰を振り始めていました。
 ……恥ずかしながら、そこから先の記憶はとても曖昧なものです。いつ何度精を吐き出したのか、どれほどの間彼女と繋がっていたのか、まるで思い出すことが出来ないのです。興奮してばかりで記憶に留められるほどの理性も無くなっていたのかもしれませんが、狐とは化かす生き物ですから、もしかすればそういった事も出来るのかもしれないと今なら思います。
 覚えていることはたったの二つ。一つは単純で、彼女との性交が気持ちがいいという事実。彼女の言い放った「お前もどうせ獣だ」という言葉の通り、僕はただ盛った犬のように成り下がり、彼女の肉体を全身で味わい続けました。膝まで登るお湯の温かさも、肌をかすめる湯気も、彼女のおっぱいの柔らかさや甘酸っぱい髪の香りには叶わず、ただ僕は彼女の体を覚えようと必死になっていました。
 あと一つは、その、これも曖昧な記憶で恐縮なのですが、彼女が名前を教えてくれたのです。僕はずっと『お狐様』という名前を呼びながら腰を振っていました。ただ腰を振るだけでは物足りず、必死に彼女を求めてしまっていました。おきつねさま、おきつねさま、おきつねさま……湯水の跳ねる音も、彼女の張りの強いお尻と僕の腰が当たる音も聞こえないほどに彼女の名前を呼び続けていたのですが、ふと彼女が呟いたのです。
「……『お狐様』じゃない。」
 子供をあやすような口調で、彼女は。
「スキマ妖怪八雲紫の式で、黒猫の橙の主人。九尾の狐の、八雲藍。あいいろのあいと書いて、藍だ」
 必死にそれを求めるうちに本能は余分な言葉を削ぎ落として、僕は確かに彼女の名前だけを覚えこんで、そこからはずっと『お狐様』ではなく、『藍様』と呼びました。
 らんさま、らんさま、らんさま、狂ったように彼女を呼んで、狂ったように腰を振る。ただ言葉が変わっただけでその心地良さは先程の比ではなく、悦びの余り僕はさらに腰を激しく振ってしまい、ぱちゅぱちゅと小刻みに肉を打ち続け、最後に僕がふるっと背筋を震わせた時、確かに彼女の中が優しくぎゅうっと締まりを増して……。
 
 
 僕はその後自室で目覚めました。『黒猫様』曰くのぼせて部屋に運ばれたとのことでしたが、尾流しの後片付けや湯船を汚したことの顛末は誰にも聞けず終い。彼女とも気まずくなる予感をしていたのですが、あの出来事の後も『お狐様』自身は何事も無かったかのように接してきます。『藍様』という名前を聞いた記憶も曖昧なもので、彼女の機嫌を犯したくはないので僕は再び『お狐様』と呼ぶようになりました。
 それでもどうやら変化はあったらしく、『スキマ様』がこんなことを申しておりました。
「良かったわね、貴方。 藍に気に入られたみたいで」
 思い当たる節は様々あります。朝食のご飯の量が少しだけ多めになったような、彼女が部屋を訪れる機会が増えたような気がします。しかし当の本人は相変わらず無口のままで、相変わらず僕を睨むようにして黄色い瞳を向けるので、果たして気に入られたのかどうか、僕にはあまり分かりません。
 『スキマ様』が仰る言葉を信じれば、恐らく僕はすぐに○されたりすることは無いようです。それでも明日がどうなるかは分かりませんので、僕は彼女の獣の視線に生の本能を迸らせ、今日も生存の記録としてこの記録を綴ります。
 ……と、廊下から静かな足音が聞こえて参りました。恐らくはまたお狐様でしょう。
 刹那、体に甘い痺れが走ります。僕はあの日から少しだけおかしな癖が付いてしまいました。彼女の足音を聞いただけで腰の辺りがぞわぞわするような、そんな風になってしまったのです。きっと体が期待しているのでしょう、彼女がしてくれる、行為の数々を。
 そうこう考えている内にふすまがガラリと開き、やはりその向こうには『お狐様』がおりました。
「……尾の手入れを」
 お狐様の視線はやはり鋭く、恐ろしく、それでも僕の腰の震えは止まらずに疼き続けます。僕はいつもの用に「はい」と返事し、内心で悶々とした思いを渦巻かせながら、彼女の後を追いかけました。
こういう藍様、いいと思います。

<2017.01.05 追記>
コメントありがとうございます。

茶露温様
 子供らしい観点で女性を見、そこに扇情を催すのもまた楽しいかと思います。
>>2様
 モブ少年の主観視点という作風は好みが別れる所かと思いますが、お気に召して頂ければ幸いです。こちらは他のお話も準備しておりますので、気長にお待ち頂ければ。
>>3様
 八雲藍とショタっ子が交接した場合、九尾狐の猥褻な体を前に刺激が強すぎこうなってしまうのでは、と考慮した結果こんな感じになりましたが、確かに肩透かしだったかもしれません。次回はもっとネッチョリネットリ行きたいと思います。
岸屋
コメント




1.茶露温削除
主人公の初々しさや藍さまの魅力が凄く伝わってきて非常に扇情的な素晴らしい作品でした…ごちそうさまです
2.性欲を持て余す程度の能力削除
いい・・・主観的描写はまるで自分が体験しているかのごとく興奮を高めてくれてる
描写もお見事
この少年のいろんなストーリー見たくなるね
3.性欲を持て余す程度の能力削除
挿入後の行為の描写を略したのはちょっと肩透かしだけどもっとみたいっす
4.性欲を持て余す程度の能力削除
自分のかわいい尻尾係がどうやったらなつくか考えてるうちに男を狩り屈服させていた元傾国のS資質が呼び覚まされた藍様と狩られるM資質を開花させた少年といったところですかねどうなるか楽しみです できるならもうちょっと膣内の感触描写をしてくれるとありがたい
5.性欲を持て余す程度の能力削除
この分だと、尻尾を漉く度に絞りとっている感じですねー
しかし、少年が拉致された理由はなんでしょうか
長命種ゆえの単なる気まぐれか、それとも気になった人間のオスを青田刈りしたのかどうか
6.性欲を持て余す程度の能力削除
「そうか。ここも弱点か、お前」この台詞から本質はS?弱いところ見つけたニヤァって笑ってそう
狐>そうせざるを得ないよう持っていき快楽から逃れられない搦め手快楽天国
狸>力技で有無も言わさぬ快楽地獄…みたいなのかな