真・東方夜伽話

こころのなか

2016/12/07 23:53:36
最終更新
サイズ
22.17KB
閲覧数
1612

分類タグ

こころのなか

仲村アペンド

※催眠っぽい描写を含みます。ぽいだけです。




 こくり、と喉を鳴らして緑茶を一口。
 湯のみの中で氷がカランと音を立てる。

 一席舞って火照った身体がほどよく冷やされ、とても心地よい。

 人里で能楽を披露したあとは、必ずこの茶屋に寄るようにしている。
 ここは年配の者が好んで利用していて、若者の客は少ない。

 年寄りというのは大体がお喋り好きだけど、騒いだりしないので店の中はいつも物静かで穏やかだ。
 騒がしい場所は感情の本流が渦巻いていて、長くいるとあてられて疲れてしまうので、あまり好きではない。
 宴会のように自分も一緒に騒げればいいのだが、見知らぬ人間相手ではそうもいかない。

 もっとも、感情の勉強中という身からすれば、そう言う場所にこそ学びを求めるべきなのかもしれないけど。

 その点、穏やかなこの店は居心地がよく、冷えたお茶にお手製の大福もいい塩梅だ。
 贔屓にしている内に、大体の客と顔なじみになり、来ると誰かしらが話しかけてくるようになった。

 そんなだから、雰囲気が少しでも違えばすぐに分かる。

 まずそもそも客が少ない。
 もともと多い店ではないが、常連が多いのでいつも客の数は大体同じだ。
 それが、今日はいやに人数が少ない様子である。

 その少ない客は、寄り集まってボソボソと小さい声で話している。
 普段の陽気に満ちたお喋りとは違う。表情も明らかに暗い。

 いつもなら誰かしらが話しかけてくるのに、今日は誰も来ない。

「おばあちゃん、何かあったの?」

 私は店主のおばあさんに声をかける。

「ああ、最近この辺りで変な噂が立つようになったみたいでねえ。用心のためにあまり外出しない人が増えたらしいのよ」

ちょっと言葉足らずな質問だった気がしたけど、おばあさんは汲みとって返答してくれた。

「変な噂?」

「ええ。なんでも、人気のない路地を歩いていると、いつの間にか目的地と違う方向に歩いていることがある、とか。そして、その人はふっと掻き消えるみたいにそこからいなくなってしまう。きっと妖怪の仕業に違いない、ってね」

「……神隠し? でも、そんなはずは……」

 確かに、そういう事の可能な能力を持つ妖怪はいくらでもいるだろう。
 だが、外ならいざ知らず、人里の中でそんなことをすれば、たちどころにに退治されてしまう。

 人里は人間たちにとって、唯一の安寧の場所だ。
 その中で人間が妖怪に襲われているとなれば、幻想郷のルールを逸脱しているという事になる。
 それを妖怪の賢者たちや、何よりも霊夢さんが許すはずがない。

「それが、また妙な話なんだけどね。いなくなった人っていうのは、そのうち戻ってくるんですって」

 私が思考を巡らせる間に、おばあさんは話を続けた。

「時間はまちまちだけど、遅くともその日のうちには発見されるらしいわ」

「それって、ただ黙ってどこかに行ってただけなんじゃ……?」

「それがねえ、戻ってきた人に聞くと、自分がどこにいて何をしていたのか、ほとんど覚えていないのですって」

 いまいち要領を得ない話だった。噂なんてそんなものかも知れないけど。

「戻ってきた人の様子は、なんだかひどく疲れてたり、夢見心地でぼんやりしてたり……でも、お医者様に見せても特に問題はないって言うそうで、どこで何があったのかなんにもわからないんですってよ」

 一時いなくなった人が戻ってくる。神隠しっぽくはあるけど……どうなんだろう。

「そんなだから若い子の中には、原因を突き止めてやると言ってわざわざ人気のない路地を練り歩く人もいるみたい。そうでなくても危ないことには変わりないし、よしたほうがいいと思うんだけどねえ」

 おばあちゃんはため息をついた。
 外傷がないと言っても、何が起きてるのかわからないでは不安になるのも当然だろう。

「こころちゃんも用心するようにね? あなたみたいな可愛い子は特に注意しなくちゃいけないんだから」

「はーい」

 戦う力のある私には無用な心配だったけど、素直に頷いておいた。
 親分にも「年寄りのおせっかいは素直に受け取っておくもんじゃ」と言われたし。



 人里を歩くのは好きだ。
 里の往来は大体いつも、喧騒と静寂の中間のようなほどよい賑わいに満ちている。
 考え事をするのにも、人々を眺めて感情を観察するのにもちょうどよい。

 人里を練り歩く時は、私の本体とも言える仮面たちは展開せず隠している。
 たぶん、傍目には人間と変わりなく見えているはずだが、往来の人々からは少なからず視線を感じる。

 里にも私の能を見たことのある人は少なくないだろう。
 その人たちは、私が人間ではないことを勘付いているはずだ。
 注目されるのも当然かもしれない。

 中にはぶしつけにジロジロと見てくる人もいる。
 失礼といえばそうなのだろうけど、見られるのは嫌いではない。
 そんな時は、こちらからもニコリと微笑み返して見せる。

 まあ、たぶん実際は笑えていないのだろうけど。
 様々な感情を覚えても、なかなか表情を作るのは難しい。

「神隠し、ねえ……」

 おばあさんに聞かされた事を思い返しながら、人々を眺めてみる。
 確かに、普段と比べて人通りは少ないように思える。

 噂の内容が真実なら、いなくなってもその日のうちには戻ってくるわけで、これといって被害が出ているわけではない。
 それだけなら特に恐れるようなことではないだろう。

 けど、人里は人間にとっての安住の地だ。
 妖怪から身を守るために、人々はここで身を寄せあって暮らしている。
 その場所に、妖怪と思しき脅威が現れているというのなら、それは無視できないことだろう。

「…………」

 こつん、と自分の頭を軽く叩く。
 私が少し前に起こしてしまった異変も、そういえば人里を大いに巻き込んでいた。

 けど、私の時も、それ以前に起きたという異変でも、人里が直接に害されるようなことはなかったはずだ。
 そういう約束事が妖怪たちの間には存在する。らしい。

「……いつの間にか、違うところに向かっている……」

 無意識に。

 その単語が思い浮かんだ瞬間、何か閃きのようなものが頭によぎった。

「いや、でも……まさか」

 浮かんだのは、黒の帽子に薄緑色の髪をなびかせる少女。
 人々の記憶に残らないというのは、あいつの特性に似る。

 そういえば、最近あいつの姿を見なかった気がする。
 気まぐれなやつだから、追い払ってもしつこくまとわりついてくる事もあれば、いくら探しても見つからないこともあった。

 けど、あいつの仕業なのだとして、目的はなんだろう?
 また何かの都市伝説ごっこでもしているのだろうか。

 考えはぐるぐる巡るだけで、ちっとも答えにはたどり着かない。
 自然と早足になりながら、私は頭を働かせ続ける。
 自然と……

「…………!」

 意識して足を止める。それは労力のいる事だった。

 考え事をしていて、周りの景色もろくに見ないで、それでなぜ早足になるのか。
 普通なら、むしろ遅くなるだろう。

 周囲を見る。
 建物同士の隙間、いわゆる「人気のない路地」だ。
 見える範囲の建物は大きなものばかりで、たぶん、商店街あたりの路地だろう。

 こんな場所に来る理由はない。
 いつの間にかたどり着いていた。無意識に。

 後ろを振り向いても、すでに入り組んだ路地の半ばまで進んでしまっていたらしく、どこを戻れば大通りに出られるのかわからない。
 普通の人なら途方に暮れて、進むか戻るか逡巡するところだろう。
 私の場合は、飛べば戻れるのだけど……。

「……こいし? いるのか?」

 私はどこへともなく、声をかける。

 古明地こいし。
 無意識を操り、同時に無意識に支配されて生きる妖怪。

 言うことやることいちいち素直で、本能のままに行動しているような奴だ。
 だけど、その奥で何を考えているのかは、想像できた試しがない。

 彼女なら、それと気づかせずに人を誘導することは簡単にできそうだ。
 そして、これが彼女の仕業であるのなら、その目的を推察するのは無理だろう。

 呼びかけへの返答はない。が、

「……あ…………よ……」

 ほんの微かに声が聞こえる。
 やはり、いる。

「……なんのつもりか知らないけど」

 ここで彼女は人を誘い込み、何かをしている。
 偶然か、私もそれに巻き込まれたということらしい。

 だが、私にとっては好都合だ。
 噂の真相をここで突き止めることができれば、おばあちゃんも安心するだろうし。
 人々の不安を煽る妖怪を懲らしめる、異変解決屋の真似事をしてみるのも悪くない。

 そう、思っていた。



「ああっ……! いい、あっ、いいの、すごい!」

 声がはっきり聞こえてくるところまで来て、私の足は完全に止まってしまった。

 なんだ。なんだ、これは。

 目眩がするような心地で、震える脚を、壁に手をついて支えた。

「そうよ、あっ、もっと……もっと奥まで、ああ、混ぜて、掻き回して!」

 声の主は、間違いなくこいしだとわかる。
 でも、こんな声は、聞いたことない。

「気持ちいい……気持ちいい! 中が、奥が、全部、全部気持ちいいの!!」

 悲鳴のような。嬌声のような。
 抑えられなくて溢れ出てくるような。

 こんな声が、どんな時に漏れるのか。
 それがわからないほどには、私はおぼこじゃない。

 いっそ、わからない方が良かったかもしれない。

「引っかかって……ヌルヌルして……混ざって、こすれて、溶けて、とけて、ああ、ああっ!」

 よろ、と倒れ込みそうになりながら、私は脚を進めた。
 曲がり角から顔を覗かせて、声の方を確認する。

 そこに、古明地こいしがいた。

 壁に手をついて、お尻を突き出して、腰には何も着けてなくて。

 知らない男が、その後ろから、何度も何度も腰を叩きつけていた。

「もう、ダメ、ダメ、すごい、すごいのが、来ちゃう、きちゃうよおっ!」

 声が聞こえて来たあたりから、その光景は予想できていた。
 それでも、私は胸を内側から思い切り叩かれたみたいな、そんな感覚を味わった。

 何がそんなにショックなのか、私には分からない。
 ただ、目が離せない。

 男の腰から生えたモノが、こいしの小さいお尻に吸い込まれていくのが見える。
 二人の腰の間から、水滴が落ちていくのが見える。
 路地は暗いけど、妖怪の私の目は、それをはっきりと写してしまった。

「あ、あ、イク、イクの、ああ、あっ」

 こいしの喘ぎ声が、どんどん切羽詰まったものに変わっていく。
 それに合わせるように、私の心臓は早鐘を打った。
 息を吸っても、全然空気が入ってくる気がしなくて、自然と呼吸が荒くなった。

 気づいたら、私は膝をついて、半身を乗り出して二人の痴態を眺めていた。
 もしこっちを見られたら、間抜けな格好で出歯亀してる姿を簡単に見つけられてしまっただろう。

「イッちゃう! あ、あぁ……んあぁぁぁあああ!!」

 こいしが長く尾を引く声を上げると同時に、男も低い唸り声を上げて、腰を深く沈めて震わせた。

 しばらくそうしていたかと思うと、男がこいしから離れて尻もちをつき、こいしもまた腰砕けになって倒れた。
 はあ、はあ、と荒い呼吸が聞こえた。けど、これは自分の呼吸だ。

 倒れた二人から目を背けて、私は曲がり角に身を隠した。
 背をもたれさせて座り込む。

 なにか、いけないものを見てしまったような、いや、実際いけないものを見たのだろう。
 知識はあるけど、人のあんな姿、見たこと、いや、想像したことさえなかった。

 あの見たことない男は、こいしの恋人かなにかだろうか。
 人知れず行われる逢瀬の現場に、私は踏み込んでしまったのだろうか。

 自分の感情が分からない。何を思えば良いのかも、思考が上手くまとまらない。
 けど、ここにこのまま居てはいけないような気がする。

 足に力が入らなくて、立ち上がるのはひどく億劫だった。
 なのに身体の節々が妙にこわばっていて、コントロールが上手くできなかった。

 ボーっと呆けた頭で、ただ、この場を離れようと歩き出す。
 どこに向かっているのか、そもそもここがどこなのか全然分からない。
 ただ、歩く。

 あんなものを見てしまって、私はどうしたら良いのだろう。
 そもそも、どうもしなくて良いのだろうか。

 私はこいしの家族じゃないし、あいつがどこで誰と何してようと、気にする必要はない。

 そうだ、気にする必要ないじゃないか。

 足がフラフラとおぼつかなくなるような、そんなショックを受ける必要は全くない。

 なのに、私はなぜ。

 かくん、と膝の力が抜けて、私はまた座り込んでしまった。
 何かにつまずいたわけじゃなくて、本当に、ただ膝が抜けたという感じだった。

 顔を上げて、周囲を見る。
 暗い路地の、ちょっとだけ広くなった空間。

 なんだか少し、妙な匂いがする。
 周りの風景を、頭がうまく処理できない。

「よく、来てくれたね……」

 聞こえてきたのは、誰の声だろう。
 とても聞き覚えのあるような。
 さっきまで、さんざん耳に聞かされたような。

「こころちゃん、来てくれてうれしいよ」

 そうだ。この声は、こいしの声だ。



「声、聞こえるよね? どこから聞こえるか、わかる?」

 ごく近くからはっきりと聞こえるその声は、けれど、耳の奥で反響するかのようで、方角が判然としない。

「もし、分からなくても、安心していいよ? だって、声があなたを傷つけることなんてない。ただ、気持ちよくなれるだけだもの」

 風景の中に、こいしの姿があるような気がする。
 もしかすると、目の前にいるんじゃないかと。

 けど、頭がそれを理解するのを拒んでいるような。

「ここが、なにをする場所か……うふふ、見てたんだから、分かるよね?」

 立ち上がろうとしても、力の抜けた脚は、全く思い通りにならない。
 両手は地面についたまま、離れようとしない。

「これから、さっきのわたしとおんなじ事をして、わたしと同じように……ううん、もっともっと、気持ちよくなろうね」

 聞こえてくるこいしの声は、頭のなかで反響して、消えていかない。
 前の言葉が残ったまま、次の言葉が入ってくるみたいで、処理が追いつかない。

 けど、何か、とても怖いことを言われたような気がする。
 背筋にぞわ、と怖気が走った。

 いや、怖気じゃないかもしれない。
 むしろ、何かを期待するような。

「もしかして、少し、怖くなっちゃったかな? でも、心配しなくていいよ。わたしが、ずっと付いていてあげるから」

 なに言ってるのか、全然わからない。頭が理解を拒んている。
 でも、なぜだか背中が軽くなったような、妙な安心感を覚えた。

「ほら、新しい人が来てくれたよ。あの人が、あなたを気持ちよくしてくれるの」

 誰かの手が、私の身体を反対側に、多分、ここへの入り口の方に向けた。
 ふらふらと怪しい足取りで、男の人が向かってきていた。

 里でよく見るような、普通の格好。
 年寄りではないけど、そんなに若者という感じもしない。
 少なくとも、見たことはない人だ。

 男の人は、私に少し離れた位置で立ち止まった。
 座り込んだ私を見ていた。どこを見ているのか、よくわからない目つきだけど、私を見ているのはわかった。

「それじゃあまず……あなたの全部、見てもらいましょう? 気持ちよくしてもらうためには、隠し事なんか、しちゃダメだよね?」

 こいしの声が、私の頭のなかで響く。
 反響は収まってきて、何を言われているのかは、なんとなく分かるようになってきた。

 後ろにいる誰かが、私のブラウスに手をかけ、ボタンを外し始めた。

「ほら、手伝ってもらうだけじゃダーメ。自分でできた方が、もっと気持ちよくなれるよ?」

 私はその手を止めて、自分でボタンに手をかけた。

 どうして、服を脱ぐのか。
 どうして、声に逆らわないのか。

 その「どうして」という疑問さえ、頭に浮かぶ側から消えていって、私はただ、こいしの声に従わされていた。

「上だけじゃなくて、下も脱がないと、ね?」

 足首に手を添えて、靴と靴下を一緒に取って裸足になる。
 スカートの留め具を外して、両足から抜き取る。
 肘に引っかかっていたブラウスを放って、肌着をめくって脱ぎ捨てる。

 従わされてるんじゃない。
 従うのが、気持ちよかった。

 男の人が、じっと私を見つめ続けている。
 身体を全部見られてしまう。それが怖くて、恥ずかしくて、でも、

「……あら? 手が止まっちゃってるよ? まだ、残ってるの、それも取らないと、ね?」

 最後に腰に残っていた下着に、手をかける。
 ゆっくりずらしていって、曲げた膝を通して、足首から順番に抜いて、投げ捨てる。

「ほら、寄りかかっていいよ……膝を少し伸ばして……もう少し、脚、開こうね?」

 ぞわぞわと、肌が粟立つ。
 しびれるような感覚が、全身を覆っている。

 ……恥ずかしい……。

「あ、ダーメ。手で隠したりしたら、せっかく全部見てもらってるのに、台無しだよ? なーんにも、隠しちゃダメ。全部見てもらうの。恥ずかしいけど、嬉しいでしょ?」

 足の指に自然と力が入って、きゅ、と丸まる。
 空気が肌に冷たいはずなのに、なんだか、全身が熱い。

「嬉しくなっちゃうのは、見てもらっているから。だから、お礼をしなくちゃね? あの人にも、気持ちよくなってもらいましょう?」

 誰かに寄りかかっていた背中が、軽く押された。
 私は、のそのそとした動きで、座り込んだまま男の人の前に移動した。

「ねえ、こころちゃん? 本当に気持ちよくなるためには、一人じゃだめなの。相手が気持ちよくなってくれるほどに、自分はもっと気持ちよくなれる。自分が気持ちよくなれるほど、相手も気持ちよくしてあげられる。そうやって、感覚を分け合えば、二倍、ううん、もっともっと、何倍も気持ちよくなれるのよ」

 男の人の腰が、ちょうど私の目の前に来る。
 股引の前がぐっと押し上げられていて、窮屈そうだった。

「どうやったらいいか、わからない? うふふ。心配しなくていいよ。わたしの言うとおりにすればいいの。
 ……ほら、まずは、窮屈そうにしまわれたそのおちんちんを、取り出してあげましょう」

 声の言うとおりにしていると、背筋にぞわ、と波が走るようだった。
 なんだか、ものすごく、気持ちいい。

「ほら、出てきたね……優しく触って……少し、濡れてるね? うふふ、こころちゃんの裸を見て、興奮しちゃったんだ……。さ、手を動かして、ゆっくりさすってあげて……あ、びくんってしたね? 気持ちいいんだよ……とっても……」

 囁くような声の中に、甘いため息が交じる。
 それが耳に届くと、頭がかあっと熱くなって、怖いくらいに心臓がドキドキした。

「ね、こころちゃん、お口開けて?」

 声の言うとおりにすることに、なんにも疑問なんてなかった。
 もっと言うとおりにしたい。どんなことでもいいから。

「舌、出して……裏の方から、そっと舐めて? あ、そう、上手よ……とっても気持ちいいよ……上の方も、そう……すごくいいよ……ほら、おちんちんビクビクしてるの、わかる? 舌だけじゃ、わかりにくいかな? それじゃあ、もっとわかるように、お口をもっと開けて、くわえてみましょう? そう、ゆっくり……歯を立てないようにして……」

 熱さが、硬さが、口の中をいっぱいに満たした。
 喉のあたりまで届いて、少し苦しいけど、なんだか、胸の奥から腰のほうまで甘い痺れが走って、思わず腰が浮いてしまうくらい、気持ちよかった。

「ほら、動いて……無理しないで、ゆっくりでいいよ? ……ああ、すごく上手だよ……とっても気持ちいい……ねえ、こころちゃん。これが一番気持ちよくなった時、どうなっちゃうのか、わかる? さっき見てたから、わかるかな? うふふ、こころちゃん、いっちばん気持ちいいところに、連れていって……? あっ、そんな、激しくしたら……もう、良くなっちゃう……イッちゃうよ……こころちゃん、こころちゃん、こころちゃん!」

「……んんっ! んっ……」

 口の中で、何かがはじけた。
 熱い液体に満たされていく。
 その熱が、喉から胸、お腹から腰まで、快感の波となって広がった。

「んくっ……ん……」

 液体を飲み込むと、また、波が喉の奥から広がった。
 頭のてっぺんから足の爪先まで、気持ちの良い痺れがずっと走っていた。

 悲しくもないのに、じわ、と涙が浮かんだ。

「とっても良かったよ……うふふ、こころちゃんも、気持ちよかったんだね? わかるよ……だって、とってもエッチで、素敵な顔をしてるもの」

 顔。私の顔。
 いつだって、何も表情は変わらないはずの顔。
 なのに。

「わかるよ。わたしにはわかるの。だって、こころちゃんが大好きだから……だからね、もっともっと、気持ちよくなってほしいの」

 誰かの指が、口の端からこぼれる液体をすくって、口内に押し込んだ。
 そのまま、私の舌を指先で撫ぜる。

「……は、あ……」

 指の感触があまりに気持ちよくて、思わず吐息が漏れた。

「それじゃあ、そろそろ、いちばん気持ちいいことをしましょう? ほら、後ろに寄りかかって……脚を開いて……」

 声が、私を導いてくれる。
 いちばん気持ちいいところまで、連れて行ってくれる。
 こいしと、一緒に。

「そうよ、わたしと一緒に……泣いちゃうくらい、おかしくなっちゃうくらい、壊れちゃうくらい、気持ちよくなりましょう?」

 壊れてしまっても、大丈夫。
 だって、ふたり一緒だから。



 ほら、膝を持ち上げて……そう、ほら、見える? おっきくなったおちんちんが、あなたの中に入ろうとしているの……ああ、でも、うまく入らないね。入るところがわかりにくいみたい……ねえ、教えて? ほら、そう、おちんちんに手を添えて……入り口に、先端を……うん、いいよ。
 うふふ、ドキドキしてる? わたしもだよ……覚えてるよね? これが入ったら、あなたはもう、これなしではいられない身体になっちゃうの……あんまりにも気持ちよくて、声が抑えきれなくて、全身が弾けるような喜びに包まれちゃう……何度も何度もイッちゃうよ……うふふ、イッちゃうって、よくわからないかな? わからなくても大丈夫だよ。だって、すぐに味わうことができるから……。

 ほら、入るよ……入っていく……。

「……あっ、あ、あ、ああ」

 ああ、すてき、その声とっても素敵……もっと、声、聞かせて……?
 ほら、もっともっと入っていく……奥まで……もっと奥まで……。

「うぁ、ああ、あぁあっ」

 ああ……全部、入っちゃったね……すごく、気持ちいいね……声が出ちゃうね……ねえ、女の子の身体の中には、気持ちよくなれるところが、いっぱいあるよね? ほら、例えば……。

「うあっ! ……ああっ!」

 あ、ビクンってしたね。気持ちいいんだね……わたしも、たまらなく気持ちいいよ……ねえ、わたしをもっと、気持ちよくしてほしいな……あなたが気持ちよくなればなるほど、わたしも気持ちよくなっちゃうの。知ってるよね?

「……ああ、ああっ、すごい、すごい、気持ちいい!」

 あん、いいよ……すごくいいの……ほら、中だけじゃなくて、こっちも……。

「ん、ああっ……ダメ、そこダメ、ダメぇ!」

 うふふ、おっぱい、弱いんだ? それじゃあ、もっといじってあげるね。こうやって、先のほうをこねこねされると……。

「うああ、ダメダメダメ! あっあっ、来る、来ちゃうからぁ!」

 中も外も、身体の全部が気持ちいい……イッちゃいそう……でもダメ。まだイッちゃダメ。我慢、我慢して……。

「ダメ、ダメ、ガマン、できない、イく、イっちゃうよぉっ!」

 ダメ! 我慢しなきゃダメ。だって、我慢すれば、もっともっと気持ちよくなるの。……ほら、あんまり気持ちがいいから、腰の奥が、もうドロドロに溶けちゃってる。わたしとあなたの身体が、とろけて、混ざり合って、お互いの気持ち良いところに、直接触れ合えるの……ああ、すごい、とってもいい。気持ちいい、気持ちいいよ!

「うあぁぁあダメダメダメ、ダメ、イカせて、イカせてえぇぇ!」

 もうちょっとよ、もうちょっとだけ我慢して……ああ、いい、いいの、すごい! もう、どこがいいかわからないくらい、全部が気持ちいい! 何もかも溶けて、全部全部、あなたの中に混ざっちゃう! はじけて、爆発して、飛び散って、一つになっちゃう! こころちゃん、あなたも、はじけて、一つになるの! わたしと、一つになって! 全部溶けて! 混ざり合って!
 ああ、ああっ、いいよ、スゴイ! はじけちゃう、とけちゃう、ぜんぶ、ぜんぶ、
「とけて、まざって、ひとつになっちゃう! ああ、イく、イくイく、スゴイ、ああ、イッちゃう、」
 イッちゃう、ダメダメ、イッちゃう、ああ、あっ、あっ、
「あっ、ああっ! …………ああぁぁぁああーーーーーー!!!!」

 あぁ………………。

 ………………。

 …………。

 ……。



「ねえ、こころちゃん。わたし、あなたのことが好きみたいなの……多分。でもね、わたし、よくわからないんだ……。好きっていう気持ちや、愛してるっていう気持ち。わたしには心がないから……よく、わからない。
 でもね、いろんな人を見ていてわかったんだけど、好きってことや、愛するっていうことは、とっても気持ちのいいことみたい。だからね、いっぱい気持ちいいことを知れば、きっと、わかると思うんだ……ねえ、こころちゃんも、一緒に探しましょう? 気持ちのいいことを……そうしたら、きっと……」



 語られる噂には自然と尾ひれがつき、往々にして真実とはかけ離れる。
 しかし、時にはその尾ひれが、より噂を真実へと近づけることもある。

 一人で歩いていると、気づかぬうちにどこへともなく消え失せる。
 けれど、その日の内には戻ってくる。
 いなくなっていた間のことは、本人にもとんとわからぬという。

 しかしどうやら、何者かに連れ去られてしまうのは確からしい。
 いやいや、連れ去られたというより、自分でも気づかぬ間に、自ずから足を踏み入れてしまうらしい。
 その場所にはどうやら、美しい二人の妖怪がいるらしい。

 その場所では、何か恐ろしいことをされてしまうとか。
 いやいや、むしろ恐ろしいほどに気持ちのよいことだとか。
 楽しさのあまりに時間を忘れ、それどころか自分のことも忘れ、終いには何が起こったのかも忘れてしまうとか。

「……あら、うふふ、ようこそ、いらっしゃい」

「私たち、知りたいことがあるの」

「それを知るために、わたしたちと、とっても気持ちいいことをしてほしいの」

「そうすれば、きっと分かる……だから、ねえ」

「「いっぱいいっぱい、気持ちよくなりましょう?」」



 人里の神隠し。
 その噂は少しずつ広がりを見せ、多くのものがその噂を様々な心持ちで聞くことになる。
 その中で、桃色の髪の能楽師が舞う姿を見なくなった事に、気づいているものは、ほとんどいない。
ご読了に感謝いたします。ご批評をお聞かせ願えれば幸いに存じます。
己の好みを余すところなく詰め込みましたが、読みにくかったという方はゴメンナサイ。
仲村アペンド
コメント




0. コメントなし