真・東方夜伽話

アマノイワト

2016/09/13 12:01:05
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アマノイワト

つわ

書割みたいな私の世界。本物なのは貴女だけ。
※「独り舞台と見切りの影」の続編です。

両手首に感じる手のひらの重み、寄せられる顔、重なる唇。舌はさらに唇をこじ開けようとする。
手首を振りほどいて、のしかかる相手の胸に押し当てた腕を突っ張り、膝を使って引きはがす。
それは少し早い夕餉を終えた後の出来事であった。森のねぐらへ急ぐ烏の声が遠く聞こえる晩秋の宵、
夕陽の縁が山の端にかかり始める頃、博麗神社の母屋の居間、二人分の食器が重ねられた卓袱台の脇で、
その二人は鏡写しの姿勢、ぺたりと床につけた腰の左右に両手を置いて、開かれた立膝の両足を相手に向け、
互いの目をじっと見つめている。霊夢は白い巫女服の袖で唇をぬぐい、赤いスカートをばっと押さえ、足を横座りに組み替えて、

「いきなり何すんのよ!」

肩を上下しながら甲高い声で怒鳴り、対面の少女、霧雨魔理沙の応答を待つ。
彼女は眼を伏せ、逆に問うた。

「私のこと……嫌いなのか?」
「それは……」

いつも歯切れの良い霊夢の口調がよどんだ。好きか嫌いかで言えば間違いなく好きだ。
しかし、それを表立って言うのは憚られる。なぜならそれは……。魔理沙は重々しく続ける。

「好きに決まっているよな……」

聞きようによっては身勝手な思い上がりとしかとれない言葉、しかしそれは霊夢の胸を抉る寸鉄だった。
霊夢の頬はかっと熱く、裏腹に背に伝う汗は冷たい。さながら火遊びを咎められた子供の心持。霊夢が表立って告げられず。
魔理沙にとっても喜ばしいものでない理由。なぜならそれは……。

「だって、私が木立の奥でしてるの、ずっと見ていたんだから」

気付かれていたという事実に、上体がぐらりと揺れたかと錯覚する

「いつ、から」
「もうずっと前」

話は数か月前にさかのぼる。その日霊夢は、魔理沙の持ってきた茶菓を茶うけにいつものように他愛のない話を楽しんでいた。
不意に、霊夢が小用から戻ると、自分が残したハンカチ共に魔理沙が消えていた。ひそかに後を尾け、
木立の奥に見たものは、自分が口を拭った布に唇を当て、自らを慰める魔理沙。その色香に中てられ、
霊夢もまた魔理沙の艶姿を肴に自ら耽ってしまった。魔理沙の切なげな姿は美しく、また見たい、もっと見たいと霊夢に思わせ、
これまで様々なお膳立てをしてきた。今や霊夢のひそやかな楽しみとなっていた。
しかし、そんなことを表立って告げられるわけがない。なぜならそれは、好きは好きでも上品に言えば「舞台女優」
言葉を悪くすれば「春画の君」に向けるものと変わらないから……。

「……わかってる。霊夢が好きなのは"あの時"の私であって実際に触れる私じゃないんだってこと」

見透かされていた。その事実に空気の塊で音もなく体を殴打された心地がした。

「いやじゃなかった……」

彼女は訥々と語り始める。

――霊夢はいつも素っ気無い感じで、私がどんなに楽しそうに話しかけても、静かに笑っているだけで、
ひょっとしたら、私といるのが本当はつまらなくて、愛想笑いをしているだけで、私は邪魔になってるんじゃないかって
だから、木立の陰から私を見つめて自分もしているのに気づいた時、私はとても嬉しかった。

そこでいったん言葉を区切る。緊張が緩み、詰められていた息が一度にあふれた

「でも……」

前髪が瞳を覆い隠す。きっとそのその表情は暗いものだろう。
夕日はその中ほどまでを山の稜線に沈ませた。魔理沙はまた訥々と、

「嬉しかったのは一瞬で、それはすぐ悲しさに変わった。霊夢が、とても満たされた表情をしていたから、
 私が、じゃない、私がすぐその手で触れるところにいるのに、離れたところから眺めているだけで、
 それだけで満たされてしまう霊夢が、その先を自分から求めることを知らない霊夢が、今は悲しい」

再び言葉を切り、彼女はすっくと立ち上がった。そうして徐に、黒いスカートの留め金を外し、
するりと畳に落とす。適度に日に焼けた小麦色の細い両脚と、短めの白いドロワーズ。
霊夢は短く息を飲む。対照的に、魔理沙は顔を伏せたままで長めに息を吐きながら、
胸の前に通して反対の肩に伸ばした手で、黒い袖なしチョッキの肩の部分をなだらかな曲線にとって二の腕に滑らせて、
それもまた床に落とした。黒白から白一色へ、否、長袖のブラウスの生地からキャミソールの薄ピンクが透けていた。
体の横に両手をだらりと下げて、その姿で霊夢を見つめる。細められた目は潤み、日暮れの影は顔半分を黒く塗る。
金縛りの霊夢に構わず。小さな両手は第一ボタンへ、第二、第三と開かれる毎に、白の隙間にパステルピンクが広げられる。
一番下を外し終えたと同時に漏れる熱っぽい息。
ブラウスの袖が肩口から抜け、だらりと下げられた両手から滑り落ちる。
目に鮮やかな桃の薄衣にふくらみのきざした胸部が頼りなく覆われている。小さいながらも固く尖った先端を、
頼りなさを隔てて指で挟んで浮き立たせ、もう片方の手は白いドロワーズの上から秘裂を擦る。
濡れた琥珀が、同じく濡れた黒いダイヤを見据え、ほっと漏らされた息は霊夢の胸を軽く締め付けた。
擦る動きの指が折り曲げられて、そこに沈み込まされると同時、押し出された吐息は深く長く、
押し当てられた指を中心に内から染み出してきたものが白地に広がっていく。
指の腹がつっと裂け目全体をたどって、

「あぁ……」

こぼれる声は、甘く甲高い。その一方で膨らみかけの実を下から上にもみしだく手。
きつく閉ざされた目の縁は光の粒を抱き、自らの手つきに自ら焦れて、
キャミソールの肩紐が丸みを帯びた稜線にくぐらされるとこれもまた空気を包んで床に落ちる。
瞼がジワリと開かれて、その目は虚ろに霊夢を、もっと正確には霊夢の方を向いてはいても焦点は背後の虚空にあわされている視線で見つめ、
小さな蜜柑ほどの乳房を隙間を広げた指で押し包んで、肌色の濃淡の中に小指の爪程の乳頭が目を奪う。
上ずっていく二つの息だけが宵闇に飲まれていく。魔理沙の手のもう片方は折り曲げられた深さを行き来し、
徐々に力がこもって、より深くが探られる毎に眉根はきつく寄せられる。

「はぁっ」

小さな体が、不釣り合いに成熟した悦楽に震え、へたり込んで肩幅に開かれた膝小僧で上体を支えつつ、
秘所から離された粘っこい滲出が絡む指先をくっつけては離し、糸を引かせる。
また一つ深い息が漏れ、腰骨の少し上にあるドロワーズの口にそれぞれの手が伸び、
手入れをされたへそから下の腹部と鼠蹊部を徐にさらけ出していった。
そしてついに露わにされたそこは、染み出てきたものに濡れ、薄暮の仄明かりを淡く照り返す。
未だ貝の口に似てぴたりと閉ざされた裂け目、そこはしかし、ドロワーズが足首から引き抜かれ、
むき出しの小ぶりな臀部を畳みにつけ、立てられた膝の隙間が広げられるのに合わせて、
透き通った淡い襞を外気にさらけた。斜めに顔を伏せ、ためらいがちにへそから下腹へ滑り、
その口を指先にとらえた右手は、さらにその先を折り曲げて、つぷりという音を立てた。

「はっ」

詰まった息が吐きだされ、彼女の身にただ一つ残る、白い靴下に覆われた足先が畳を噛んだ。
霊夢の手も同じくざりっと畳をひっかく。

「んっ、あっ、あぁっ」

親指でその口を広げ、すでに半分程沈められた人差し指に中指を加えてかき回す。
にじみ出てくる水気が泡立てられ、水あめに似た粘っこい音を奏で、
ただでさえ子供っぽくて高めの声がさらに上擦り、何とも言えない甘味までもが加えられると、
耳から胸へ沁み入って、そこから全身を熱していく心地がした。

その手がより深く、強くその場所を泡立てる。切なげにゆがんだ顔が、虫刺されをかきむしるみたいな手つきが、
木立の独り舞台が、寸分違わず、否、一つ一つの要素がさらに洗練されて目の前で繰り広げられる。
見切りの影で息を潜めて見つめるしかなかった艶姿が、より近く、より鮮明に瞳に焼き付けられる。
しかしなぜ、自分の姿が目の前にあるのに、彼女は木立の奥でしているのと同じく……。

「同じなのは、当たり前だよ」

女優は禁を犯して観客に話しかける。

――お前にとって、木立の陰もすぐ目の前も変わらない。そして私もそれが分かったから、お前が目の前にいても全く同じなんだ。

かき回され、粘りが徐々に緩んでいく水音と一緒にさらに台詞を続けた。息を弾ませ、全身の肌に桃の化粧をしながら。

――女優が演技をするのは観客の為、だけど女優は観客の視線を意識してはいけない。
  芝居をする女優にとって、観客はいるけどいない、見られてるけど見られてない。
そして観客にとっても、舞台の中の女優はこの世界の人間だけど、この世界の人間じゃない。
  それが観客と女優の間にある結界。そして、私とお前の間にある結界。
  お前にとって周りの皆は芝居の役者で、この幻想郷も芝居の舞台なんだよ。

そう語り終えた魔理沙の指の第二関節が口開いた裂け目に没する。肺の底で熱せられた霊夢の吐息があふれた。
心臓が暴れ、足の間に湿った感触を感じる。その中で霊夢は回顧する。

『渡り廊下の曲がり角に身をひそめ、魔理沙の様子を伺えば、
 果たして白い布を懐にしのばせた女優が、木立の奥の舞台へ上る花道を歩みだす』

魔理沙の語る通り、魔理沙が一人耽る時の木立は舞台であり、魔理沙は女優。
そして自分は観客だった。そう、どんなに彼女の媚態に引き付けられても、
そこに駆け寄ろうとは思わなかった。何故か、如何に近くとも、観客は女優に触れてはならず、
芝居の脚本にない場面を演じさせてはならない。観客が舞台の中の世界に手を突っ込むことは禁忌だから。
いつの間にか、霊夢の中に染み付き、彼女自身も自覚していなかった思考の枠組みを言い当てられ、
胸の底を魔理沙の小さな手にそっと撫でられた心地がした。

「見て、霊夢に見られてるって思うだけで、私はこんなにあふれて、心地よくて」

両脚をあらんかぎり拡げて、かき回され愛液をこぼし続けるその奥と、うごめく襞を見せつける。

「だけど、霊夢に触れてもらえないことが切なくて、見つめるだけの霊夢が悲しくて」

切羽詰まった声と一緒に、きつく閉ざされた瞼の端から涙が一筋落ちる。
哀しき独り舞台で舞を続ける踊り子をよそに。霊夢は陶酔と共に回顧に沈んでいた。

『一々の話題に丸い目を輝かせて大きな手ぶりを交えて語る魔理沙に、
 じっと、それでも微笑を浮かべて頷く霊夢』

いつ誰が自分の敵になるかわからない幻想郷で、務めを果たすため、たとえ旧友といえど、
自分はどこか突き放していた。深く関わろうとしなかった。その為すに任せていた。
まるで決められた演目を決められたとおりに楽しむ芝居の観客のように。
自分に向けられる親愛も敵意も、目の前にあっても、別の世界の作り物であった。

「分かっている。それが、霊夢のッ、強さだからっ、私が、勝手にっ、悲しんだり、
 憐れんだりすることは、とても非礼な事、なん、だって」

嗚咽なのか悦楽の故か、途切れ途切れに声をかすらせ、指はさらに深くを抉った。
背がびくりと反って腰が浮き、薄褐色の後ろの窄まりが目に飛び込む。
前から溢れた蜜はそこを伝って、畳の目を黒ずませた。

「霊夢が見つめるだけでいいなら、私は見つめられるだけでいいって思うのに、私は触れて欲しくて」

涙の筋は二つになっていた。

「霊夢っ、私、綺麗だよね」

頷き以外に許された答えなどない。触れることはおろか、それを肴に自ら耽る事すら忘れるほどに、魔理沙は……。

「嬉しいのに泣いてしまう。弱い、私を、許して」

言い終え、指が坂を駆け下りるように加速された。

「あっ、はっ、霊夢、あぁん、れいっ、うああっ」

もはや、その他の何も目に入らないかの如く、自分の名前を呼び、その快楽に没入していった。
秘唇から散る飛沫は、弧を描いて四五寸先の藺草を濡らす。
不意に、霊夢の目に、魔理沙を後ろから抱きすくめる自分の形がおぼろげに見えた。
虚空に這う彼女の赤い舌に、覆いかぶさる格好で同じ色の柔い肉が絡められ、
乳房から少し離れた場所に位置する左手の平は、乳房に伸びる幻影の手首に添えられている。
はしたなく拡げられた細い脚を閉ざすことも許さずに、その部分をかき混ぜる自分の姿が、
おぼろに、しかし、確かに霊夢の目には映された。魔理沙の頭が左に傾ぐ、
幻影は場所を譲られたそこに横顔を差し入れ、魔理沙の右耳に口を寄せ、何事かを吹き込む。

――ああ、本当に、いやらしい娘(こ)

横座りの足の奥に冷たい感触を感じながら、胸の内に呟くと、果たして幻影も唇の動きを同じくする。

「い、いやっ、そんな、言うのっ」

魔理沙が小さく身震いした。幻影が、傾いて癖毛の隙間から覗いた首筋を舌でなぞったから。

――ふふ、可愛い

「やっ、だっ」

魔理沙の顔が小刻みに揺すられる。いや、正確には密着した横顔と、秘められた場所に伸びる右の二の腕に顔を挟まれ、
小刻みにしか動かせない動作を、魔理沙は再現した。演じ切っていた。魔理沙は自分が目の前にいるのに、いないかの如く、
そして、自分がいないのにいるかの如く、完璧に……。

――さぁ、イって

「やめてぇっ!」

ここに至って、幻と実体は裏腹に口を動かした。

――魔理沙、可愛い、私だけの……

「ああぁっ、霊夢、私っ、もうっ」

幻の胸に後ろ髪を預けて、その時が近いことを告げた。
うっとりとした言葉で責める幻と、狼狽して制止の声を上げる実体。

「やめて、ねぇ、やめて、お願いよ、魔理沙ぁ」

細目から垣間見える琥珀の水面が胡乱に揺らぐ、薄明かりの中でも肌がうっすらと染まっているのが分かる。
かきむしられる如く指が出入りするその下は小さな水溜りが作られる。

『自分の幻影に抱かれている魔理沙の、酔いしれながらもどこか切なげな声の響きだったり、
 閉ざされた瞼の縁に浮かぶ涙だったり、きつく寄せられた眉根だったり、
 虫刺されを激しくかきむしる如く、自らを卑しめる手つきだったり……。
 求むれど得られず、されど求めざるを得ないやるせなさと焦燥がかもし出す、
 その焦がれて焦げ付いた色香に激しく心奪われた霊夢は、同時に、
 自分が「した」のでは決して、それを手中にすることが出来ないことも理解してしまった』

求めてもなお得られぬもどかしさ、焦燥に惹かれた霊夢の想いに必死に応え、
しかし、そのやるせなさに引き裂かれ続けた魔理沙の心は、完璧な霊夢の幻影を生み出し、
そいつと交わって綻びを埋めようとしているのだ。

「あんたが、心地いいのは私が見てるからなんでしょ、でも、それじゃ、私がいなくてもいいじゃん、
 ねぇ、お願いよ、そんな幻に酔い痴れないで、私を見て、私をいないことにしないで……」

ここで霊夢ははたと気づいた。あの焦燥に満ちた魔理沙の表情を心地よく思ったのは、
魔理沙が幻は幻であると峻別していたから、換言すれば、幻影に抱かれながらも、
その目は確かにここにいる霊夢を見つめていたことの裏返しだ。
あの時とは対照的に、その表情は陶酔だけに塗り潰されつつあり、しかと自分に向けられていたはずの瞳は、
虚ろに半開きで、もはやこちらに向いてはいない。全ては"作り物"の霊夢に……。

「ねぇ、ねぇったら魔理沙。あんたのその目まで作り物になっちゃったら、私に本当のことは何もないの、だから、だから」

確かに手のひらは畳の上にあるのに、まるで崩れる砂に飲まれていくみたいに地面の手ごたえがなかった。
人に忘れ去られた怪異が、消えかけた蝋燭で映される影絵の如くなんとかその存在を繋ぎ止める幻想郷。
怪異は時には人間のような姿をとりながらすぐそばにあれど、それらはふとしたきっかけで消え去ってしまいそうな危うさをはらんだ絵空事であった。
宙に浮くというよりは地面がない場所に立っている……霊夢がずっと忘れていたその感覚。
そして思い出した。風船みたいにどこまでも飛んでいってしまいそうな博麗霊夢を地に繋ぎ止めたのは、目の前の霧雨魔理沙の眼差しだったのだ。
今更な懇願だと、胸の奥で突き放す自分がいた。どんなに真摯な眼差しを向けられてようが、自分がそれに作り物への眼差しを返すならば、
相手もまた自分を想っても甲斐のない作り物とみなすだろう。そして同じ作り物ならば、自分に何も返してくれない実体より、
自分の好きに応答してくれる幻の方を選ぶに決まっている。人に忘れられた怪異が消え去るしかないように、
魔理沙に絵空事にされた自分は、また絵空事の世界へ回帰させられようとしている。

「あーっ、ぁっ」

舌をだらりと口の端からこぼして、掠れた声を漏らしながら蕩けていくばかりの彼女、
霊夢が目の前にいるのに、彼女の目には"霊夢"しか映らない。
魔理沙が自分を悲しいといった理由が、ありありと分かった。木立の陰で息をひそめて見つめていただけの自分は、
今の魔理沙と全く変わらなかった。そして自分が彼女に何を強いてきたのかもまたありありと。

「見てて、辛いよ、やめてよ、やめてよ、魔理沙」

顔を伏せ、か細い声を漏らす。
だが、その声が届く道理はない。劇の中の殺人鬼をいくら人でなしと罵ろうが、演じられる場面の凄惨さに目を塞ごうが、
劇の内容は一寸も変わることはない。それが舞台と観客席の間の結界だからだ。
満ち足りた"霊夢"と魔理沙の芝居は、霊夢に構わずクライマックスへとひた走る。
その終わりはきっとハッピーエンド、誰にも邪魔をされない"霊夢"と魔理沙の終わることのない至福の時間。
魔理沙はきっとその世界から帰ってくることはない。そこに霊夢の入る場所はない。

「魔理沙……」

悔恨の粒を頬に落として、霊夢はついに舞台と観客席の結界を、虚構と現実の結界を自ら破り、魔理沙の手首をわしづかむ。

「あっ……」

それは、夕日の最後の一欠けが山の端に没する寸前だった。
魔理沙は焦点の合っていない濡れた細目を中空に向けて、名残惜しさと抗議の入り混じった吐息を漏らした。

「いいところなのに、どうしてやめるの?霊夢?」

骨が軋むほど手首を握り締めているのに、いまだあらぬ方向を見つめ続ける魔理沙と、
彼女にこんな悲しい芝居を演じ続けさせてしまった自分自身への腹立たしさに突き動かされて、
やや乱暴に熱いほほに両手を添え、半開きの薄い唇に自身のそれを重ね、
隙間から舌を忍ばせる。絡まってこない彼女の舌にこびりついた塩辛さを静かに舐め取っていく度に、
胸の奥で苦い塊が転がる。こらえ切れずに口を離し、いまだ中空を漂う虚ろな半開きを見つめる。じっと。
長いまばたき、開かれていくつぶらな瞳。

「霊夢」

寝ぼけ半分の声で呼ばれる自分の名前、後頭部に腕を回し、ぐっと胸に引き寄せる。

「バカよっ、魔理沙、あんたバカよぉっ!」

金の頂に、黒い双眸からこぼれた粒が落ちる。

「あんたは、何もしなくても誰からも愛されて、満たされる。そんな場所に居たはずよ、
 私なんか見つめなければ、こんな辛い思いをすることもなかったはずなのに」

魔理沙の両手が優しく霊夢の背中を撫で回して。

「持ってないものは与えられない。私が小さいころから当たり前に受け取ってきたそれを、私は霊夢にあげたかったんだ」

自分のそれよりも一回り小さな手がとても頼もしくて、息苦しげにくもぐってそれでも淀みのない声がとても暖かくて、
雪解け水が流れ出すように霊夢は言葉を連ねる。

「ありがとう。ごめんなさい。私が素っ気なかったのは、つまらなかったからじゃない、すごく楽しかったからなの」

――
黒い塊が、また地面に落下した。
この結果のしれきった茶番を二人は何度繰り返しただろう。里の人間が、魔の道を志して家を飛び出すなど、
決して歓迎すべきことではなかった。だから口でいさめ、こうして体で教え込む。
しかしその度毎に、自分を見上げてくる負けん気に満ちた瞳が、いつも心に棘に似た疼きをもたらしていた。

「もう、帰れって言わないのか」
「言っても無駄でしょ、根負けしたのよ」

地べたと中空の皮肉のやり取りも、もう既に霊夢の日常の一部だった。
大の字に寝そべりながら、ニヤニヤとした笑いを浮かべてきた魔理沙に

「何よ」

その問いに白い歯を見せて、

「根負けしたんなら、私の勝ちだよな。賞品はお茶を一杯」

そう言い放つ魔理沙にため息を漏らしながら、その日から出迎えは一杯のお茶になり、
縁側で日がな一日、茶飲み話で過ごすのが当たり前になって、そしてそこから、
木立の中の独り舞台が始まって
――

「私は、その時々で、とても、とっても満たされていて、それ以上を望んでしまうのが罰当たりに思えるくらい楽しかったの」

背中がさらに擦られる。胸に当たる息が弾む。喜びをありのままに伝えて、喜びを返される喜び。
作り物の世界に閉じこもっていては決して味わうことのできない感覚。

「不安だったのよね……私がそれ以上を望まないことで、私が本当に喜んでるのか分からなくて」

背中の手がきゅっと握られる。今度は霊夢が、ふわふわの癖っ毛の後ろ髪を梳きながら。

「本当にごめんね」

胸の中ですんすんと鼻をすする音がして、熱い涙が上着の胸にしみ込んできた。
いつもそうだった。霊夢自身がもうこれ以上のものはないんだと自らにはめてきた枠、枷、結界を打ち破って、
魔理沙は良き物を与えてきた。霊夢にその先を求めることを忘れさせるほどに、
それはあたかも最高の芝居が観客から拍手すら奪ってしまうのに似ていた。
彼女は最高の女優"だった"。そしてこれからは違う。そっと、彼女を胸から引き離し、

「大好き」

最も簡潔な告白と一緒に、泣き顔にそっと唇を重ねる。ぐっと押し当てて、開いた隙間に舌を差し入れると、
ためらいがちに絡めてきた。より深く、大胆に霊夢が動かすと、魔理沙もそれに応じる。
水あめを静かにかき混ぜる音と、徐々に甘みを帯びていく二人の吐息が宵闇のしじまに溶けていく。
離れることを刹那惜しんで糸を絡める二つの唇。

「いい」

赤いリボンで飾られた黒髪の少女が、髪と同じ色の瞳を潤ませて問えば、
同じく潤んだ黄色い瞳がまっすぐ見つめて、丸みを帯びた頤がこくりと動いた。
左手を肩口に残して、右手はいまだ閉じられない両足の間。既にしどしどに濡れたその場所を、一直線に目指す。

「あぁ……」

人差し指がほんのわずかに沈み込むだけで、魔理沙は目を細め恍惚の息を漏らす。
指一本でためらいがちにかき混ぜているだけなのに、くたりと霊夢に横顔を預けて、

「あ、あん、あぁ、くっ、ああっ」

気だるげで甘ったるい声が、頬の熱と一緒に胸の奥に染み入ってきた。
跳ね回る心臓が肺を押しつぶして息苦しい。襟を弱々しく両手で掴みながら、
トロンとした目で上目遣いに見つめてくる魔理沙。霊夢は中指もそこに加える。

「んあぁぁっ」

体がびくりと震えた。ゆっくりとあくまでゆっくりと、激しさでいえば自ら弄んでいた手の半分にも満たないのに、
ただ、霊夢がしているという事実が、魔理沙を蕩かせた。霊夢自身も下腹の奥底から、
熱い滲出が足の間に溢れるのを感じて。

「ちょうだい……」

さらに指を進ませ、お菓子をねだる子供のように、

「もっとちょうだい!」

ずっと封印されていた、自覚すらしなかった希求の声を弾ませ、

「霧雨魔理沙を、全部ちょうだい」

言って指はさらに深く、探る動きはより大胆に。

「あっ、はっ、わっ、私は、初めから、全部っ、霊夢のっ……」

押し寄せる悦楽の波に翻弄されながら、必死に応える。
その応答だけで、霊夢は達した。止められない微震に押され指は最奥へ、

「んっ、つっ……はっ……っ……」

眉根をぎゅっと寄せながら、しかし深みを抉られた感覚と、
しかと霊夢と結ばれた喜びに押されて魔理沙もまた登りつめた。
余韻の内に、魔理沙の体内から引き抜いた指を見れば、虚構ではない確かな傷を彼女に刻んだ証が、赤く絡み付いていた。

「私が破ったわ、魔理沙の結界」

うっとりとつぶやきながら、その手を拭うのも忘れ、未だ震えが治まらない魔理沙の、呆けた風に開かれた口を口で覆いつつ、
後ろに押し倒す。手首に添えた手のひらで両腕を畳に固定し、足と足を絡めながら、口の中を貪る。霊夢は未だ満たされてはいなかった。

その後、何をどうしたものか……。倦み飽きるまで互いを求めた二つの裸体が、
一組の布団で眠っている。朝を告げる鶏の声に、霊夢が重い瞼を持ち上げると、
先に目覚め自分を見つめていた琥珀の眼差しに包まれる。布団越しに伝わる畳の確かな感触が心地よかった。
優しく微笑む魔理沙の胸に顔を埋めて。

「怖い夢を見たの……今と同じように私の隣に魔理沙が寝てて、でもなぜだかとても悲しそうで、
 私が幾ら抱き締めて、私は幸せだよっていっても泣き止まなくて……私も辛くて。
 どうしていいかわからなくて、私も泣いちゃうところで目が覚めたの」

胸の前で絡み合っていた指を解いて、艶を帯びた黒髪をそっと撫ぜながら、

「それは逆夢だよ、そんな夢が、現実になる訳がないじゃないか」

子供をあやすみたいにそう語りかけた想い人は自分より一回り小さいのに、
とても大きく見えて、確かに自分に触れる温かさに霊夢は感極まって、
嗚咽を漏らしだす。

「おいおい、泣くなよ。それじゃ私が怖い夢の正夢を見ちまうぜ」

一度正夢になりかけた怖さと、そうならなかった安堵とを綯い混ぜて、

「ばかっ、嬉しいのよ」

しかと二人求め求められ、満たして満たされた喜びをかみしめながら、くしゃくしゃになった顔で霊夢は笑った。
なぜ霊夢は、前作で見ているだけで満足してしまったのかを突き詰めて考えてみました。
あまり書くと破たんしそうなので、彼女は幻想郷という舞台の観客であり、
時折、演技指導のようなことをする監督さんと言えばいいのでしょうか?
観客は演じられる脚本をその通りに楽しむだけで、もっと違うシーンを見たいとは普通思わない。
その枠を初めて踏み越えたのが魔理沙なのかなと思います。
つわ
コメント




1.性欲を持て余す程度の能力削除
壁| ▽ `)b
2.イージーエイト削除
今度は研究していた魔法の失敗で魔理沙のアソコに男性のシンボルがはえてしまい。
神社で霊夢に相談最中に魔法の副作用で(体が)疼き霊夢を押し倒しエッチしてしまう内容のお話を読んでみたいです。
3.性欲を持て余す程度の能力削除
雰囲気の出し方がとても素敵だと思いました。大変よかったです!
4.性欲を持て余す程度の能力削除
やはりこの2人はいい…
ハッピーエンドになって良かった…