真・東方夜伽話

クズんげが精液を採取するだけの話

2016/06/01 08:43:01
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クズんげが精液を採取するだけの話

フカが孵化する

 ……はあ~、やれやれだわ、まったく。
 絶妙な感じで指をピンと立てた手を額にやって、私は盛大に溜め息を吐き出した。
 かくかくしかじか、よくあるパターンのやつで、今日も面倒な仕事だ。かくかくしかじかの内容は、心の底からどうでもいい。とりあえずは診察室の扉の前でやれやれのポーズを決めた後、緩む頬を引き締めて、制服の襟を整えた。

「お待たせしました」
 どうして人間なんかに頭を下げなければいけないのかと疑問に思いながらも、礼儀正しい私は、なけなしの妥協案として、3mmほどお辞儀をする。
 静かに目を伏せた自分の清楚さを想像すると、心が軽くなるようだった。ただ、ここに鏡が無いことが残念と言えば残念ではあったけれど。

 純和風の屋敷の中に、取って付けたように浮いている、清潔な白い色調の部屋がある。簡易ベッドの上に座っていた男を、横になるように促がす。

「じゃあ、服を脱いでください」
 テキパキと指示を出して、採取用の紙コップ等の用意をしておく。男が何か言っていたけれど、作業中なのが見て分からないんだろうか。後にして欲しい。気配りができないのって、知的生命体としてどうなの? ……あ、人間は知的生命体じゃないか。所詮は地上の生き物だしね。
「はい。横になりましたか? なりましたね? 早くしてください」
 折角、この私がテキパキしているのに、何をもたもたしているんだか。ま、地上の生き物だし……こんなもんよね。まったくもって嫌になる。
 根気よく、苛々を抑えてじっと待つ。

 まあ、理由は分かっている。人間ごときが玉兎様の私と同じ部屋にいるんだから、光栄に思って当然。ジロジロとした視線は不快の極みだけれど、私は優しいから許してあげる。
 だって、仕方ないわよねぇ。実際、私って可愛いし、人間の雌なんかと比べものにならないほど魅力的だし。それに、内面から滲み出るものが違うって言うの?
 そうそう。そうに決まってる。私は性格が可愛いから、容姿も可愛いのよね。いや、どっちかって言うと綺麗系かな?

「では、失礼しますね」
 さっきも思ったけど、この辺は決まり文句なので、あまり気にしても仕方ないか。
「……」
 うっげぇ。
 勃起した生殖器を見ると、つい吐き気を催した。
 ムリムリムリ、気持ち悪い気持ち悪いっ。
 本当は視界に収めるのも嫌。同じ空気を吸うのも嫌。でも、それを堪える私……健気すぎるっ。私ってば可愛いんだから。いや、これはもはや可愛いと言うか、こんなにも劣悪な仕事に勤しむ私の聖人君子っぷりに、感動の涙が溢れそうになった。私自身の眩しさに、眩暈すら感じる。
 がんばれ私♪ まあ、既に滅茶苦茶がんばってるんですけどね。ふふっ。ふふふっ。
 ほんと、私ってどれだけ慈悲深いんだろう……?
 大丈夫かな? 後光とか差してないよね?

 さてと。ともかく絶対に素手で触れるとか嫌なので、自分で用意したゴム手袋を嵌める。もし直に触ったら手が榛穢化する。
「はい?」
 何か文句を言われている?
 ちなみに私は最初から、男の言葉を全く耳に入れていない。これもちょっとした波長を操作する能力の応用で、私の能力をもってすれば造作も無い。地蟲……じゃなかった、人間の声なんて聞いたら、耳が穢れる。これはどうしても必要な処置だった。
 で、何の文句……って、それは大体分かってる。
 性風俗か何かと勘違いしているんだろう。いや、勘違いとも言い切れないけど。
「誤解しないでくださいね。これはれっきとした医療行為なんですから」
 と、こちらもお決まりのセリフ。
 要するに、そういうシュチュエーションとでも思えば万事解決。
 患者の変態性癖は満たせるし、私はこんな汚いものに直接触らなくても済むし。

「……………………」

 ローションを垂らしてから、黙々と、一定のリズムで生殖器を上下に擦って刺激する。
 ぬちゃぬちゃといやらしい音が無音の部屋に響く。もしかしたら気持ち悪い喘ぎ声とか発されているかも知れないけれど、私の神にも等しい能力によって打ち消されている。波長を操れば、ざっとこんなものよ。地上の生き物には説明したところで、どうせ理解できるはずもない、玉兎様の崇高な能力。

 それにしても、ゴム手袋越しとは言え、性器の感触は気持ちが悪い。どういう経緯かは知らないけど、わざわざお金を払ってまで性処理をしてもらうなんて、恥ってものがないんだろうか。それとも下らない見栄のために、健康診断の名目になっているのかどうか、興味も無いけれど。
 でも、こんな所にまで来られるのは迷惑。私の迷惑も考えて欲しい。他人の気持ちを考えて慮るってことができないからクズなのよ。人間は人間らしく、汚らわしい人間同士で番いを作ってれば良いのに。まさかそれもできないとか?
 あー、童貞? 正直、人間の個体差なんて見ても分からないんだけど。こいつの顔は、醜い部類なのかしら。人間なんてどいつもこいつもこんな感じじゃない? あ、分かった。性格がなってないんだ。
 うんうん、分かる分かる。まあ、わざわざお金払って性欲処理するようなやつだもの。交尾の相手がいないから、コミュニケーション能力が終わってるの。
 あれよ、独りよがりって言うの? 結局、自分さえ気持ち良ければそれで良い、みたいな。ま、だから童貞なのかしらね。ほんと、こういう自分のことしか考えてないクズって最悪よね。
 自己中心的で自分勝手で。死ぬまで勘違いしてれば?
 あーあ。よく見たら醜い顔してるわ。中身の気色悪さがだだ漏れしてる。気持ち悪い。

 しばらく続けていると、ビクんと震える反応が出るようになった。
 ま、当然よね。だってこの私が処置してるんだもの。
 本来なら、玉兎様の私が塵にも等しい人間の相手をするなんて有り得ないのだから、精々、一時の良い夢を見たら良い。
 でも、私は玉兎様だけど、人間を見下したりとかはしない。博愛主義者を気取っても良いかな、とか思っちゃう。ほら、仮にも私だって、こんな辺鄙な場所に住んでいるんだし? 哀しいけど、私も地上の兎なのよねぇ。本当に残念だわ。
 しかしまあ、虫けらの命も尊重してる私って、本当に偉い。差別もしないで対等に相手をしてやっているんだから、感謝して欲しいわ。そう。偉い。偉いに決まってる。私が神だからこうして、気持ち悪いのを我慢して優しくしてあげているの。これが慈しみの心ってやつよ。
「ふふ……」
 仕事中なのに、口元が緩んでしまう。でも、それもこれも私が凄過ぎるのがいけないのである。あー、これはもう確実に後光とか差しちゃってますね。

 って言うか、ちょっと濡れてきた。

 さっさと終わらせたいので、手を動かすペースを上げる。あと、握る力も強くした。とっとと射精して欲しい。
 急な刺激に驚いたのか、地蟲は電流を流されたように震えて、その腕が何か捕まるものでも探すように伸ばされた。
「私に触らないでくださいね」
 唇から紡がれた凛々しい声に、心臓がトクンと跳ね上がった。
 あーあ、また私の違う魅力を発見しちゃったなぁ。下着は早くもぐしょぐしょである。

 …………で、まだなの?
 玉兎様の私がシゴいてあげてるのに、なんで射精しないの?
「時間です。早く射精してください」
 開いた方の手で紙コップをカタカタと台の上で叩いて、人間にも分かるよう、懇切丁寧に言ってやった。この程度の簡単な指示なら分かるはずよね?
「……?」
 何か言っているけれど、もちろん聞こえていない。
 まさか注文ではないだろうし……何?
 意味を察するのも面倒なので、少しだけ能力を解除する。
「……痛かった? ちゃんとやれ?」
 なに言ってるんだろう。地蟲って、一応、脳はあったはずよね? まあ、存在として遥かに劣るんだから、仕方ないけどさ。
 この私にちゃんとやれとか、はっ、もういっそ笑えてくるわ。
 これ以上、何をどうしろと? 確かに私は優しいけど、なんで玉兎様の私が地蟲のためにそこまでしてやらなくちゃいけないんだか。
 はあ~。このクズ、いったいどこまで調子に乗れば気が済むのかしらね?
 でも、まあ。これも仕事だからねぇ、やらなきゃいけないんですよ。私って偉いな~、惚れ惚れしちゃうわ。
 力を込めて思い切り性器を握り、ゴム手袋の指を絡めて、一気にシゴき上げた。
「!?」
 びゅくっと飛び出した白濁が、顔に掛かる。すぐに紙コップを被せたけど、遅かった。量はそれほどでもない。暴発? 何それ? 私に関係あるの?
「…………」
 死ねよ。
「気にしなくて良いですよ」
 慈悲の心、ここに極まれり。私って神かしら?
 じわ~っと、いやらしい液が股の間に滲むのが分かった。
 ヤバいヤバいヤバいっ! 私様が可愛すぎてムラムラしてきた。私様って超可愛いんですけどっ!? もうどうでもいいや、早くオナりたいっ! オナニーしたいっ!
 適当にビーカーを台の上に戻して、ゴム手袋も外す。即座に顔も拭いた。そしてすぐに部屋を出ようとした私様は、あろうことか呼び止められてしまった。
「何です?」
 この地蟲、まだいたの? 早く失せろよ。
 これで終わりか、ということらしい。私の知ったことじゃない。勝手に帰れば? 料金は……確か、基本は前払い制だったはずだし。オプション付けてないし。
「あ、零れたものは自分で片付けておいてくださいね。私が搾精してあげたんですから、最低限のマナーですよね」
 ほんと、もうどうでもいい。
 今は一刻も早く、鏡を見ながら自慰に耽りたかった。



 後で聞いた話だと、終始、目線を合わせることもなく、しかもほとんど無言で、挙句の果てには施術にも粗が目立ったため、すこぶる評判は悪かったのだとか。率直に言ってハズレ嬢。30分手コキオンリー15000円でこれは無い、二度と来ない、と。
 ……はあ?
 意味が、分からなかった。何様のつもりなのかしら。


 腹の立った方もいるかも知れませんけど、この道化っぷりを放置して眺めて失笑するのが、鈴仙を愛でるための乙な楽しみ方だと、私は思うのですよ。
フカが孵化する
コメント




1.mku削除
勤務する店がちょっと違うだけでこれはこれでですね