真・東方夜伽話

雨降りの午後

2015/02/19 22:21:03
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雨降りの午後

しずおか

雨降りの午後、読書をしていると、ずぶ濡れの蓮子が家にやってきた。シャワーと着替えを提供し、私は蓮子に対して……

 二月の京都には昼過ぎから強い雨が降っていた。気温は高く、夜更けすぎに雪に変わることもなさそうな雨だった。ザーザーと耳につく音を発しながら地面を勢いよく叩いている。
 私は下宿で一人、レイニーデイを楽しんでいた。スピーカーでジャズを流しながら、雨音をバックに小説を読んでいる。先ほど入れた紅茶からはまだ湯気が立っている。
 心地よい音の調和を乱すように、玄関のベルが鳴った。ディスプレイを確認してみると、そこには蓮子の姿があった。

「メリー、実は私傘持ってなくて。余ってたら貸してくれない?」
「とりあえず上がって」

 小説のページにしおりを挟んで机の上に置き、玄関のドアを開くと、そこにはずぶ濡れになった蓮子がいた。

「どうして傘持ってないのよ」
「降らないと思ったから」
「折り畳みくらい鞄に入れておきなさいよ」
「はーい」

 玄関に置いてあったビニール傘を手渡そうとして、ふと手を止めた。

「ねえ、これだけ濡れてたら今から傘差しても意味が無いんじゃない?」
「あー、まあそうかも」
「うちでシャワーしていきなさい。その間に乾燥機で乾かしてあげるから」
「いいの? メリー、暇してたの?」
「暇じゃなくても、ずぶ濡れの蓮子なんて放っておけないわよ」

 玄関から脱衣所までタオルを敷き、その上を伝ってお風呂に入ってもらう。蓮子が脱いだ衣類を受け取り、乾燥機の中に放り込んだ。

「ありがとう」と言って蓮子はお風呂に入っていった。とても寒そうだった。一体どれだけ濡れていたのだろう。
 エアコンの設定を一度上げる。それから、蓮子のための衣類を準備するため、箪笥の中を適当に漁る。さすがに下着は貸せないわね。
 雨は勢いを増していた。遠くでゴロゴロという雷鳴が轟いていて、しばらく外には出ないほうがいいと思った。

「メリー?」とお風呂場の方から聞こえた。「シャンプー使ってもいい?」
「どうぞー」
「ありがとう」

 ドライヤーも準備してあげなきゃ。
 雨の日には読書をするのが私の習慣だった。昔から、雨の日は本を読むのに適している雰囲気を持っていると思っていた。雨の音は私の心を丸く削り取り、そして落ち着かせてくれた。
 そんな日に、思わぬ来客が一人。習慣というパターンから、アドリブへ。レギュラーからイレギュラーへ。日常から非日常へ。そんな変化をもたらした張本人に対して、私はいら立ちのようなものを全く感じていなかった。
 シャワーを終えた蓮子に、タオルと着替えを手渡す。上はシャツとセーター。下はスウェット。

「ノーブラでノーパンなんだけど」
「乾くまで我慢ね」

 ふとリビングのテーブルを見ると、飲み残した紅茶があった。もうすっかり冷めてしまっている。蓮子の分も含めてもう一度入れ直そう。

「助かったよメリー。ありがとう」
「いえいえ」
「メリーはさっきまで何してたの?」
「読書」

 いつの間にか流していたジャズが終わっている。リモコンを操作すると再びお気に入りの曲が流れ始めた。
 紅茶を入れ直して二つのティーカップに注いだ。私のセーターとスウェットを着た蓮子は、リビングに立ったまま不思議そうに私の動作を見ていた。

「読書の時間、邪魔しちゃってごめんね」
「そんなことないわよ」

 何がそんなことないのか、私はすぐにはに分からなかった。しかし、邪魔されたという気持ちは私の中に全くなかった。そういう意味で「そんなことないわよ」と私は言ったのだ。
 さっきまで一人でここで本を読んでいたのに、気づけば蓮子が目の前で紅茶を飲んでいる。雨は相変わらず降り続いていて、止む気配はない。スピーカーからはゆったりとしたジャズが聞こえる。

「雨、止むと思う?」と私は蓮子に聞いた。
「夜まで止まないんじゃないかな」
「そっか」

 蓮子は首を傾げた。私の考えていることがよく分からないといった顔だ。しかし、それは私もよく分かっていないことだった。
 紅茶を飲み終えた私は、蓮子をリビングに残して寝室のベッドに寝転んだ。何だかよく分からないもやもやとした感情を整理するために一人になりたかった。枕に顔を押し付けて、暗闇の世界に潜っていく。
 雨で丸く削り取られた心に問いかける。触れてみる。ツルツルの表面のうち、一部だけざらついた部分がある。そこに一体何があるのか。

「メリー、どうしたの?」

 私は俯いたまま「何でもない」と言った。でも蓮子には何でもなくは見えなかったのだろう。ベッドに腰掛けてきた。

「体調が悪いの?」
「いいえ」
「じゃあ、どうしたの?」

 だらりとベッドに置かれていた私の手を、蓮子が軽く握った。その瞬間、ぞくぞくと身体が粟立つような感覚に陥った。
 身体を起こした私は蓮子の身体を抱きしめた。暖かくて柔らかい感触に包まれる。
 私は蓮子にキスをした。十秒ほどだったと思う。その間、ジャズの音も雨の音も雷の音も、何も聞こえなかった。唇を離すと、蓮子は少し心配そうな目をしていた。きっと私が不安そうな目をしていたんだ。
もう一度キスをすると、どちらからともなく舌を絡めた。熱い舌が私の舌の上を這っていく。くちゅ、ぷちゅ、という卑猥な音だけが寝室に響いている。
 二人とも軽く肩を上下させていた。蓮子は心配そうな、あるいは気持ちよさにうっとりしているような目をしていた。
 私は蓮子をベッドに押し倒し、貸してあげたセーターとシャツをめくった。もちろんブラはしていないから、蓮子の胸が露わになる。大きくはないけれど、とても綺麗な形をした胸。私に見られているのに、蓮子は恥ずかしがって隠そうとはしない。
 馬乗りになり、胸を手で愛撫しながらキスを続けた。唇が少し離れるたびに「んっ」という喘ぎ声が蓮子の口から漏れる。
 ピンク色の可愛い乳首はピンと立っていた。それを口に含んで舌で転がすと、蓮子は身体をよじって甘い声を出す。もう一方の乳首を左手でいじり、指先で弾くと蓮子は腰を浮かせようとする。ずっと続けていると、ほとんど背中がベッドにつかなくなってきた。
 私の頭や手をどけようとすることは一切なかった。蓮子は私から与えられる快感をそのまま受け取り、感じていた。
 鎖骨に舌を当てると「はぅっ」と今まで聞いたことのない声が漏れた。舌先で浮き出た鎖骨をなぞると、蓮子は腰や背中をピクピクと動かした。右も左も、順番に鎖骨部分を舐めると、もう先ほどのような余裕のある目はしていなかった。

「気持ちいい?」
「……」

 蓮子は返事をしなかった。どう見たって感じているのに。
 もう一度鎖骨を舐めてみる。蓮子はやはり私の頭をどけようとはしない。必死に声を出さないように口元を手で押さえている。

「気持ちいいんでしょ」
「……」

 舌を離すと、蓮子は閉じていた口をだらしなく開け、必死に空気を得ようとする。
 私はスウェットの隙間から下に手を入れようとした。すると蓮子はそこで初めて首を横に振った。嫌だ、という意思表示を初めて私に示した。
 私は下腹部の辺りを手のひらで優しく愛撫した。指先がスウェットの下に少し潜るたびに、蓮子は不安そうな顔で首を振る。鎖骨を一度舐めてみると目は更に潤みを増し、泣いているようにも見えた。しかし、その状態でもやはり手を下まで持っていくと蓮子はそれ以上の侵入を拒否する。
 私は左手で蓮子の視界を遮った。そしてスウェットに右手をかけ、ゆっくりと下ろそうとした。蓮子は抵抗せず、口を真一文字に閉じただけだった。





 そこで聞きなれた電子音が脱衣所の方から聞こえてきた。それは乾燥機が作業の終了を告げる音だった。私の手は、スウェットを脱がせかけたところで止まっていた。
 雨の音が再び強くなるのを感じた。雷も近づいてきているようだった。私はスウェットを腰の位置まで戻し、まくり上げたセーターとシャツを元に戻した。
 憎しみのような愛おしさのような、あるいは悲しみのようとでも言うべきか、そんな感情が私の中で渦巻いていた。きっと蓮子には上手く伝えられないものだった。
 馬乗りをやめると蓮子は心配そうに私の肩に手を置いて気遣おうとしてくる。さっきまであんな顔をしていたのに。

「ごめん」
「……」
「許して、蓮子……」
「うん」
「こんなことするつもりはなかったの」
「分かってるよ」
「ねえ、一つだけ教えて」
「なあに?」
「雨に濡れて私の家に来たのは、わざとなの? それとも偶然なの?」

 それは私にとってとても重要なことのように思えた。何故だか説明はできないけれど、そのどちらかによって私の中の何かが変わる気がした。
 少しの沈黙。蓮子は何を考えたのか。そして口を開く。

「偶然よ」と蓮子は言った。声が少しだけ震えていた。蓮子の言ったことが果たして嘘だったのか真実だったのか、私には分からない。もし分かる術があるというのなら教えてほしいと思った。

「私は蓮子のことが好きよ」
「……私もメリーが好きよ」
「ねえ、どうして抵抗しなかったの? 抵抗してくれれば、私は自分が悪いことをしていると自覚できたのに。蓮子をあんな風に汚したりしなかったのに」

 まだ私の唾液が付着しているであろう、蓮子の鎖骨を見ながら、蓮子に問いかける。蓮子は私から目を逸らして考えている。言葉を選んでいるようにも見える。

「きっと、それがメリーにとって必要なことなんじゃないかと、思ったから……かな」
「必要なこと?」
「私の身体をほしいままにすることで、メリーの中で何かが解決できるんじゃないかって、思ったの。メリーは、何だかとっても悩んでいるように見えたから。それが私の身体で解決できるなら、メリーに差し出してもいいかなって」

 蓮子の言葉を私は何度も反芻した。そうして自分が何かに悩んでいたのか、自分自身に問いかける。雨に打たれて丸くなった心に問いかける。

 あなたは、どうして蓮子を犯そうとしたの?

 私は犯したくなんてなかった。ただ、蓮子と肉体を重ねたかった。どうしようもなく、蓮子が欲しかった。
 蓮子が抵抗するか、もしくは積極的になってくれていたら、私は正気を取り戻していたと思う。

「きっと、寂しかったの」
「寂しかった」と蓮子は私の言葉を繰り返した。
「そう。ずっと、雨の日は寂しかったんだと思う。蓮子が来てくれるのを、ずっと待ってたのだと思う」
「私、メリーの役に立てたのかな」
「うん。だって、蓮子はちゃんと来てくれたもの。ずっと待っていた私の元に」

 蓮子の背中に両腕を回し、蓮子の身体を抱きしめた。
 今ここに蓮子がいる。私の腕の中に、確かに存在している。そんな確信を得て、ようやく私は心に渦巻く混沌とした感情を整理することができた。
 さらさらと、私の頭を蓮子が撫でる。
 とても気持ちよくて、心地よくて、心も身体もとろけてしまいそうだった。

「やっぱり私は、蓮子が好きなんだ」
「私も、メリーが好きよ」

 私が笑うと、つられて蓮子も笑った。二人の笑い声が、寝室に響いていた。
 二人でベッドに横になり、いつまでも私たちは抱き合っていた。雨が上がって蓮子が帰るまで、ずっと……。
八作目です。しずおかです。

今回はメリーさんが少し病んでいる、のかもしれないし、病んでないのかもしれない。
雨降りの休日の午後です。何となく気だるい雰囲気の中に、狂気のような非日常が含まれています。

コメントを頂けると非常に嬉しいです。

2月21日。東京で行われる東方合同祭事において、秘封倶楽部の健全小説本を頒布します。
興味のある方は是非【封-22】までお越しください。
しずおか
コメント




1.性欲を持て余す程度の能力削除
ヌケるかヌケないかで言えば抜けないが、官能的なシチュエーションが伝わってきた。
蓮子もメリーも気の使い方とか、頼り方とか、間違ってるんだよ。
もどかしい。
2.性欲を持て余す程度の能力削除
優しい雰囲気がとてもいいです。甘い秘封は美味しい。
安心感のある空気作りが巧みだといつも思ってます。蓮メリちゅっちゅ。
3.名前が無い程度の能力削除
 驚くほど引っ掛かることなく読み終えられました。
 好い秘封倶楽部をありがとうございました。
4.ayamilk削除
いつも楽しく読ませて貰っています
大好きです
5.性欲を持て余す程度の能力削除
かわいい