真・東方夜伽話

夜の帳が落ちて、そして明けるまで

2014/06/11 17:44:48
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夜の帳が落ちて、そして明けるまで

kiki

メリーに彼氏が居る、そんな噂を聞いた蓮子は……。

1. いつも通りの、見知らぬ貴女



ああ、こんなもんなんだなって、あっけなさすぎる終わりに、私は全てを投げ出したくなった。
そして気付く。
私の手の中には、投げ出す全てすら無かったと言うことに。

隣を歩く彼女はいつも通りなようで、いつも通りではなかった。
私に対する接し方や仕草はいたっていつも通りのメリーだ。
待ち合わせ時間には私より早く来ていたし、遅れてきた私に呆れた顔をするのも、いい加減に時間通り来て欲しいと説教するのもいつも通りだ。
何もかもが、いつも通り、普段通り、変わらない。
それが、たまらなく嫌だった。

「蓮子、なんか今日機嫌悪い?」
「いや……別にそんなこと無いけど、どうしてそう思ったの?」
「なんとなく、ちょっといつもの蓮子と違うかなと思って。
 気のせいだったらいいのよ」

メリーと私は手を繋いで歩いている。
いつからかは覚えていないが、最初はこんなことしていなかったことだけは、はっきりと覚えている。
どっちから始めたんだっけ、少なくとも私から積極的に手を繋ぐことはしないと思うのだけれど。
となると、メリーだろうか。
特に手を繋ぐために問答をした覚えはないから、きっとメリーも自覚していないぐらい自然に手を繋ぎ始めたんだろうけど。
仲の良い女の子同士が手を繋ぐのは、確かに不自然と言われるほど妙な行為じゃないのかもしれない。
けど、大学生になって、と少しだけ年不相応だと感じてしまう、冷静な自分が頭の隅っこにいるのだ。
恥ずかしくないわけじゃない、ただ恥じらいに嬉しさが勝っているだけだ。

「……私の顔に何か付いてる?」
「ううん、別に何もついてないわ」
「じゃあ何で私の方じーっと見てたの、何も無いって言われると逆に気になるわ」
「メリーぐらい可愛い顔だと、見てるだけで目の保養になるの。
 だから何も無くても見ちゃうんだよね」
「嬉しい台詞のハズなのに、そんな風に無表情で言われるとなぜだか喜べないわ……」

確かに、この状況で喜ばれても困る。だって嘘なんだから。
でも可愛いと思っているのは本心だし、この状況で笑えと言われても無理だ。

手を繋いで歩く自分たちの姿を見て、デートみたいだと思ってしまったことがある。
それはふとした拍子にぽんと飛び出た発想で、特に何かきっかけがあったわけではない。
でも一度そう思ってしまうと、次からはすっかりそんな気分になってしまって、しばらくはメリーと一緒に出かけるだけで顔を赤くして恥じらっていた記憶がある。
もう数カ月前の話になる。
さすがに赤面はしなくなったけれど、”デートみたいだ”という意識は中々消えなかった。
具体的には、今日メリーと顔を合わせるまでは。
メリーと一緒に居る時だけ私のテンションが高いのはそういう理由だった、そりゃメリーとデートともなればテンションだって上がる。
だから、彼女が今日の私に違和感を感じるのも仕方ない、いつもに比べるとやけに寡黙なわけだし。
まるで躁鬱のように。
まるでというか、そのまんま。
絶頂から奈落の底まで叩き落とされたような、そんな気分だった。

行く宛もなく歩く私たち。
いつもは街のちっぽけな不思議を見つけては私が騒ぐのだけれど、今日はそれすらも無い。
私が何も喋らなければ、ただ手を繋いで歩いているだけだ。
元から目的なんて無いんだから。
もちろんそんな時間が楽しいわけはなく、気が滅入るような沈黙が、長く長く続く街路のようにひたすら続いていた。
やけに時間が長く感じる。
やけに道が長く感じる。
疲れる。こんな時間、早く終わりにしてしまいたい。
メリーと二人きりで過ごしているのに、そんな風に考えるのは、これが初めてだった。

「……ん、んんっ」

わざとらしく咳払いしたり、チラチラと私の様子を伺うようにこちらを見るメリー。
この気まずい沈黙を、どうにかして打ち破ろうとしているのだろう。
私はそんなメリーに気付かないふりをして、いつも通りを装いながら周囲に目を向けていた。
いつまでもこんな時間が続いていたんじゃ窮屈で仕方がない、いつも通りにできないのなら、せめていつも通りを装う努力ぐらいはしないと。
けど不思議なことに、いつもはどんな下らない事でも興味深く見ることのできる私の目は、今日に限って何も見つけることが出来ない。
目に映る風景が、全部灰色に写る気がした。
燃えカスだ。
メリーの居ない風景なんて、全て燃え尽きた後に残るゴミに過ぎない。
私のアイデンティティだと思っていた無駄な好奇心の強さは、私自身の所有物じゃなかったのだ。
メリーへの想いが生み出す副産物だった、私はその事実にたった今初めて気付いた。

「あ、あの……蓮子?」
「何?」
「いや……何って、別に何か用事があるわけじゃないのだけれど……」
「そう」

私は嫌な女だ。
メリーがこの空気をどうにか変えようとしていることを知ってるくせに、それでもそっけない返事を返してしまう。
そんな私が、私は嫌いだった。
だから、そんな私みたいじゃないメリーが……好きだった。
好きって、友達の意味じゃなくて。
恋人の好き。
だからデートだって思い込める状況が嬉しかったし、手を繋いでいられる時間が幸せでしょうがなかった。
でも、今は嫌だ。
私はそんな自分が嫌だと嘆きながらも、子供じみた衝動を止めることは出来なかった。
メリーと繋いでいた手から力を抜く。
そのまま私たちの手は離れた。

「あっ……」

一瞬メリーは声を上げたが、自分の方を全く見ようとしない私に気を遣ったのか、それとも諦めたのか、あるいは呆れてしまったのか――それ以上は何も言わなかった。
それから。
すぐに帰ることも出来たはずなのに、メリーはずっと私と一緒に歩いてくれた。
あてもなく、行き先もなく、会話もなく、何も楽しくない、ただつまらないだけの時間だったはずなのに、それでも文句言わずに付いてきてくれるメリーが、その時の私にとっては憎たらしくてたまらなかった。
反動だ。自分でもわかってる、恋愛の好意はいとも簡単に嫌悪にシフトする、二つの感情はかけ離れているようで似ているから。
自分が冷静じゃないことだって十分理解してるつもり。
でも、やっぱり私には自制心という要素が欠けているみたいだ。
メリーが憎しいと思う心を、止められない。
私を好きになってくれなかった、という理不尽極まりない理由で、私はメリーを憎もうとしている。
なんて、醜い私。

「え、えっと……じゃあね」
「うん、さよなら」

私たちが別れたのは、日も暮れ始めた夕刻頃。
ここまで一言も文句を言わずに付いてきてくれたメリーに、ねぎらいの言葉一つ告げることができずに私たちは別れた。
私から離れていくメリーの背中は、心なしか落ち込んで見える。
でも私は、そんなメリーの姿を見て、あろうことか安心していたのだ。
下衆もここまで極まると笑える、どの面さげて私みたいなクズがメリーみたいな良い子と一緒に歩いているのだろう。
けど、それでも――あの”匂い”がしないだけで、こんなに気持ちが落ち着くなんて、自分でも驚いてしまうほどだった。
メリーの服に微かに染み付いた、嗅ぎなれない匂い。
匂いと言えば、今日のメリーは珍しく香水なんて物を使っていたのだけれど、それも嗅ぎ慣れなかった。
けれどそれとは違う。

「……煙草の匂い、してたよね」

メリーの服に染み付いていたのは、間違いなくメリーの物ではない、煙草の匂い。

「気のせいじゃ、無いんだよね……」

悔しくて悔しくて、砕けそうになるぐらいに力いっぱい歯を食いしばった。
そうでもしないとやってられなかった。
今にも、涙がこぼれそうで。
別に煙草の匂いだけで、メリーに……恋人ができたって、そう判断したわけじゃない。
家族や、友人、知り合いが煙草を吸っただけかもしれない。
でもね、そうじゃないことは私が一番よく知っているから。
私以上にメリーのこと知ってる人なんて居ない、そう断言できるぐらい私はメリーと一緒にいるから。
今までこんなことは無かった。
メリーが部屋に上げる人間の中で私の知らない相手はいなかったし、その中にメリーの部屋で煙草を吸うような人間も居ない。
私の知らない人間だ。それも、私が知らないぐらい最近知り合った。
何より――メリーが自分の服に染み付いた煙草の匂いに気付かないなんてこと、あり得るだろうか。
あのメリーが。
ありえない、断じてありえないと言い切れる、私なら。
具体的な理由があるわけじゃない、全ては私の知識と勘だ。
でも言い切れる、私なら全ての理由は”メリーだから”という言葉だけで片付けられる。
だから……煙草の匂いがするということは”そういうこと”なんだって、私にとって十分すぎる根拠があったからこそ、気付いてしまったのだ。
絶望的に。奈落の底で汚泥を啜るぐらいに屈辱的に。

数日前、メリーと共通の友人から、こんな話を聞いていた。
”私が見たわけじゃないけど、あの子が街で知らない男の人と歩いてたって”。
私はメリーにそんな相手が居ること知らなかったし、信じたくも無かったから、そんなのあり得ないって笑い飛ばしたんだけど……結局、それは事実だったわけだ。

「馬鹿みたい……」

手を繋いで喜んでいた私。
デートみたいだってはしゃいでた私。
全部、道化だった。

「バッカみたい……!」

私がそんな些細なことで喜んでいる間に、その男はメリーの部屋に上がり込んで煙草を吸っていた。
部屋に上がり込んで煙草を吸ってるってことは、もうそういう間柄だってことでしょう?
部屋に上がった程度で――そんな風に思うかもしれないけれど、私はメリーのことよく知ってるから、わかる。
メリーが部屋に上げるって、そういうことだって。
服、脱いだんでしょう? 私だって直視したことのないメリーの裸、見たんだろうなあ。
ああ、その前に唇だって奪ったんだ。柔らかかっただろうな、気持よかっただろうな。
その時メリーは、私も見たことのない艶っぽい表情をしていたのだろうか。
私の見たこと無い表情を、私の知らない誰かに、知らない場所で見せていたのだろうか。
見せていたんだろう、きっとそうなんだろう。
触れたことのない体にも、誰も触れたことのない場所にも、見知らぬ男の手が触れて、汚して、混ぜ合って。
あ、あはは、いや、違うな、私はメリーのことよく知ってるって自称も改めないといけないか。
だって恋人がいることにこれっぽっちも気付いてなかったんだから!
知らない、知らない、私はメリーのことなんてこれっぽっちも知らない自惚れ屋さん。
メリーは私の知らないメリー、私の知らない誰か。

「は、はは……あははははっ……」

笑ってやった。
全部笑って、私は徹頭徹尾道化だったんだって笑い飛ばして、じゃあ明日からメリーとは普通の友達になろー!って簡単に済ませようと思った。
恋なんて捨ててやれ、ノーマルに恋愛すれば私だってきっとメリーみたいに幸せになれる、そう思い込もうとした。
逃げるようにして。
けど、やっぱ無理だった。
恋心は私についてくるんじゃない、それはもう私の一部でもあったから。

「はは……あ、あああ、ああああああああっ!」

メリーと別れた路端からそう離れない場所で、人通りの少ないその場所で、きっと誰かに聞かれてしまうだろうと理解はしていたけれど、やっぱり私は我慢できない。
笑い声は叫び声へ、そして――

「ああああぁ……あ、っぐ……ぐぅぅうぅうう……っ」

泣き声へと、私の全ての感情を内包して、ただ単純に、獣のようにそれを外へと垂れ流す。
隠すこと無く、不細工に、みっともなく、恥じらいもなく、でもそれでいいやって諦めながら。
見た目とか、気にしてる場合じゃないんだもん。
全部吐き出さないと、私がぶっ壊れて、どうにかなっちゃいそうなんだもん、仕方ないじゃん。
こうでもしなけりゃ、立っていることすら出来そうにないんだから。

「ううぅ……めりぃ…なんで、なんで……っ、私じゃ、私じゃないの……ううああぁぁぁっ……!」

言葉に意味なんて、無い。
垂れ流しだ。
感情はデコードされず、理路整然とは対局にあるめちゃくちゃな文字の羅列になって口から嗚咽のように漏れだす。
本当は、吐き気がしてた。
メリーと一緒に歩くだけで、彼女がちょっと動くだけで香水の匂いと煙草の匂いがして。
きっと香水も彼氏から、恋人からプレゼントされた物だろう。
もしかしたら煙草の匂いを誤魔化すためにつけてきたのかもしれない。
あるいは、わざと? 誇示するために?
ああ、そうかも、それならわかる、だって普通の友達なら彼氏が出来たことを喜ぶはずだから。
なのになぜだか私は落ち込んで、機嫌が悪くて、自慢するはずだったメリーもどうしていいのかわからなかった。
引かれたかも。
嫌われたかも。
彼氏がいるのなら、私はもういらないのかも。
可能性は、いくらだってある。
でもそのほとんどは私にとってネガティブだ、悪影響しか与えない。

「うううぅぅ…………」

獣が唸るような可愛げのない声を出しながら、私は道にうずくまって涙を流す。
拭うのは服の袖で、慰めるのは自分自身だ。
メリーと違って、私には支えてくれる誰かは、もう居ない。
もう、じゃない。
最初から、居ない。



『あ、蓮子? 調子悪いみたいだったから、どうしてるのかなって気になって……』
『体調は悪くないのね、それなら良かった。もし熱でも出てたらどうしようって心配してたの』
『もし良ければ、気分転換に明日ぱーっと遊びに行かないかしら?
 明日は私だけじゃなくて、他の友だちも呼んでるから』
『……え?』

その日の晩、メリーから私を心配する電話がかかってきた。
それと同時に、明日一緒に遊ぼうと。
気を遣ってくれてるのはわかる。
心配してくれているのもわかる。
でも、それが逆にイライラして、ムカムカして。

『え、あの……えっと』
「もういいよ、二度と私に電話しないで」
『え、蓮子? ごめんね、ちょっと聞こえなかったんだけど……』
「……っ!
 二度と連絡しないでって言ったのっ!!」

その日初めて、私はメリーからの誘いを断った。

それでもしつこく鳴り続ける電話とメールの音がいつも以上に耳障りで、私はメリーの電話番号を着信拒否に設定して、アドレスも変更した。
誰にも言わずに。
すっかり静かになった部屋の中、私は膝を抱えて嗚咽を漏らす。
終わりは私を楽にはしてくれなかった、忘れようとしても忘れられなかった、何一つ、欠片さえも。
メリーへの憎しみと、身勝手な自分への嫌悪感が入り混じった、汚らしい感情に支配されながら。
夜が来ても、夜が明けても、私はそこから動こうとはしない。
ただ目をつぶって、暗闇の中を漂うだけ。
そこには無いメリーの香りの残滓を感じながら、鬱々と、深く深く、沈んでいくように。





2. 勘違いのサディスト



友人曰く、マエリベリー・ハーンは人の皮を被った悪魔らしい。
なるほど確かに、と私が手を叩いて納得すると、その友人は嫌そうに顔を顰めた。
なぜだろう、私は的確な表現をした友人を褒めたつもりだったのに。

例外は多々あるけれど、私は自覚と開き直りって似ていると思っている。
何でも受け入れる私だからそんな風に思ってしまうのだろうかもしれないが、少なくとも自分に関しては自覚=開き直りという方程式は間違いなく成り立つ。
例えば、蓮子に一目惚れした時だってそうだった。
今まで私はノーマルだと思っていたから、それにしては初恋と呼ばれる物を経験していないのは何故だろう、と疑問に思ったりもしていたのだけれど、蓮子という天使をみた瞬間に気付いてしまった。
ああ、私は男性に興味が無かったんだな、と。
そのことを友人に話した時、”そんな重要な事を簡単にカミングアウトされても困るわ”と言われたけれど、私からしてみれば特にカミングアウトと呼ばれるほど大それたことをしたつもりは無かった。
だって、当たり前のことだと思ったから。
むしろ周りが変なんじゃないかと疑ってしまうぐらい。
なんであんなに可愛い宇佐美蓮子という生き物が存在しているのに、誰も近づいて、食べてしまおうと思わないのだろう。
恋をしているからだろうか、愛しているからだろうか。
どんな仕草も、どんな言葉も、何もかもが可愛かった。
変なのは私の方だ、と友人は言う。
自覚した瞬間に開き直る、そんな私が変なのだろうか――と一瞬考えを変えそうにもなったが、やはり納得はできなかった。
確かに周りの反応を見ればそうなのかもしれない、100人中99人がノーと言えば世間一般ではノーになる、イエスと言う一人が異常なのだ。
だけど、そうだったとしても、私は自分を異常だとは思わない。
蓮子が可愛いのは、きっと世界の摂理みたいな物だから。
気付いていないみんながおかしい、気付いていないみんなが不幸なだけ。
ああ、私はなんて幸せ物なのだろう。
この世で一人、蓮子の魅力に気づくことの出来た、選ばれた人間なのだから。

さて、話は戻るが、私のことを悪魔と呼んだ友人は、別の表現としてこう言った呼び方もしていた。
”あんたは根っからのSだ”。
Sとは、SMのSだ。いわゆるサディズム。加虐性愛。
人を傷つけたり、相手の苦しむ顔を見て性的快楽を得る人間の事を指すのだが、昨今はもっとライトな意味で使われてる節がある。
私が言われたのはライトな意味なのか、それとも本来の意味なのかは別として、確かに私という人間を表すのにぴったりな言葉だと思う。
自慢気に自分の優秀さを周囲にひけらかしていた生徒より一点上の点数を取って、プライドをへし折った時なんかはすごい快感だった。
それ以外にも、私が自覚していない物も含めて、友人は私のSエピソードを時間がいくらあっても足りないぐらい語ることができる。
ああ、ちなみにその友人っていうのは、私が蓮子と出会う前の友人のことだ。
今でも時折連絡を取り合う程度には仲がいいし、実は蓮子も彼女と何度か会話をしたことがある。
もちろん、直接話したわけではないけど。

さて、要するに私は自他ともに認めるサディストだった、というわけなんだけれども。
早速だけど、私はそのサディストの称号を返上しなくてはならない。
だって、嫌いな奴が苦しんだり、悔しがったりする所を見て喜ぶなんて、その大小はあれども誰もが持ち合わせた当然の感情だから。
たまたま私は大小の大側に偏っていたというだけであって、サディストと言う程でもない。ただ性格が悪いだけだったわけだ。
私は勘違いしていた。
蓮子が恥ずかしがったり、怖がったり、驚いたり、そういう場面を見て楽しんでいる自分を、サディストだと思い込んでいたのだ。
好きな子にいじわるするなんて、それこそ小学生にありがちな素直になれない男子がやりそうな事じゃないか、サディストと呼ぶほどのことじゃない。
全ては私の勘違い。
好きな人の泣き顔なんて、見たくないに決まってる。
勘違いの果てに、私はそんな簡単なことにも気付けなかった。
バカだ、アホだ、救いようがない。
胸が苦しくて、今にも泣きそうなぐらい胸から何かがこみ上げてくる。
こみ上げてくる何かは、痛みにも似ている。
でも誰も慰めはしてくれないだろう。
何せこれは、自業自得の痛みなんだから。

「ああ、それは自業自得ね」
「……自業自得」

友人に全てを白状した所、見事にこう言われた。
他人も認めるほどだ、もうこれは確定と言ってしまっても良いだろう。

全ては私の思いつきだった。
私に彼氏が出来たと知ったら、蓮子はどんな反応をするのだろう、と。
私は蓮子が私に、友達以上の想いを寄せていると気付いた上で、その反応を見てみたいと考えた。
だって私はサディストだから。
蓮子の戸惑う反応や、落ち込んだ表情を見て楽しめると、そう思っていたから。
次の日にでもネタばらしすれば、きっと蓮子も頬を膨らませながら許してくれるだろう、そんな風に想像していたから。
友人に”私が男と歩いていた”という噂話を蓮子に話して欲しい、と頼んだのも私だ。
蓮子と共通の友人は二人ほど居る。
そのうち一方はやめた方がいいと提案してきた。
思えば、その提案を受け入れていればこんなことにはならなかったのだ、私は蓮子のことを知り尽くしているつもりだったけれど、どうやら彼女の方が一枚も二枚も上手だったらしい。
それも当たり前だ、だって私は自分のことすらロクにわかっていないのだから。
何がサディストだ、そんな自分に酔っていただけじゃないか。
しかしそれとは対照的に、もう一方の友人は一つ返事で乗ってくれた。
楽しそう、私が協力してあげる、と。
思えばそれは悪魔の囁きだったんだろう、サディストなのは私ではなく彼女の方ではないだろうか。
そして私は、わざわざ服に煙草の匂いを付け、いつもは付けない香水を軽く振りまいて蓮子とのデートへと赴いた。
まあ、私が勝手にあれをデートって呼んでるだけなんだけどね。

あとの顛末は……あまり語りたくない。
笑うなら笑って欲しい、いっそ笑ってくれた方が私の気も楽だ。
人々を楽しませる道化を演じたつもりが、誰も笑ってはくれなかった。私はただの加害者になってしまった。

『二度と連絡しないでって言ってるの!』

聞いたことのない声色と、聞いたことのない蓮子の拒絶。
声が震えていた。今にも泣きそうだった。
私はその時ようやく、取り返しの付かないことに気付いたのだ。



「しっかし、よくもまあそこまで酷いことできたよね」
「正直引く」
「そんなの私にもわかってるわよ、でも協力してくれたじゃない……」
「私は当事者じゃないから、知らない」
「薄情者……」
「人のせいにしたって仕方ないじゃない、メリーがやらかしたってことには代わりはないんだから」

翌日、大学で二人の友人たちに事の顛末を全て話した。
協力した友人――二人のうち背が低くて毒舌な方、仮にAとしよう――が、まるで他人事のように話しているのがちょっと気に食わないが、彼女たちの言葉に間違いはひとつも無かった。
自業自得と彼女――背の高い友人、Bは言った、全てはそれに尽きる。
私の欲望を満たすために、蓮子をおもちゃのように弄んだ。
どんなに言い訳しようとも、それが事実である以上、私は自分の非を全面的に認めるしか無い。

「それにしても、被害者を責めるのはあんまり好きじゃないんだけど、さ。
 蓮子も結構重いよね……」
「私も、こんな大事になるとは思ってなかった。だから協力した」
「……まあ、私もそれに関しては予想外だったわ」

Bの言う通りと言えばそうなんだけど。
私は蓮子の気持ちの重さを、嬉しいと思わないでもない。
だってそれって、蓮子がそれだけ私の事を好きでいてくれてるってことなんだから。
蓮子が私に友情以上の感情を持ってるってことは知っていたけど、もしかしたら本人も気付いていないぐらいの淡い気持ちかもしれない、と私は勝手に想像していた。
それが今回の件で否定されたわけだ。
マエリベリー・ハーンは宇佐見蓮子を愛している、でもそれと同じかそれ以上に、宇佐見蓮子もマエリベリー・ハーンを愛してくれている。
それに気付けたのは不幸中の幸いと言ってもいいのかもしれない、たった一つそれだけは収穫と言える。
……といっても、いくら自業自得とはいえ、その対価がちょっと大きすぎるんだけどさ。

「改めて聞くのも変だとは思うんだけどさ、メリーって……蓮子のこと好きなんだよね。
 その、友達じゃなくて、恋愛的な意味で」
「うん、好きだよ。愛してる」
「言い切ったよこの子……」
「今更。
 メリーちゃんの蓮子ちゃんラブはは今に始まったことじゃない」
「そりゃそうだけどさ、でも今回の件で蓮子がメリーのこと、あんたに負けないぐらい好きだって事がわかったわけじゃん?
 だったら、これが解決したら二人は付き合うってことになるのかな」
「私はそうしたいと思ってるけど、まず今回の件が解決するかどうかがわからないわ」
「そんなに絶望的?」
「今のところはね」

昨日、蓮子と別れた後、遠くから叫び声のような、泣き声のような声が聞こえてきた。
今思えば、あれは蓮子の声だったんだろう。
たぶん私は、その時点で蓮子の声だということに気付いていた。振り返るのが怖かっただけだ。
自分の非を認めたくなかった、無意識に。
どんなに良い人を取り繕っても、無意識までは騙せない。本性はこういう時に出るものだ。
あの声が蓮子だったとするのなら……って言い方も変かな、あの声は間違いなく蓮子の物だ。
そう、蓮子の泣き声を聞く限りでは、私が蓮子の心に大きな傷を付けてしまったのは否定しようのない事実だろう。
言い訳になってしまうけれど、昨日の時点で私は、蓮子がそこまで私のことを想ってくれては居ないと、そう思っていたのだ。
手を繋いでもあんまり反応しなかったし、私の部屋に泊まった時だって至って平然としていたから。
それとも、私が気付いてなかっただっけ? 鈍かっただけ?
入学式の時に一目惚れして、それから感情を積み上げてきた私と比べて、そこまで私の事を好いてくれてはいないだろう――そんな風に、甘く見ていたのに。
甘かった、本当に甘かった。
蓮子の想いは、私の想像なんててんで届かない、もっと高い場所にあったのだから。
こんなに嬉しいことはない。
でもそれ以上に、こんなに悲しいことはない。

「連絡はとったのよね?」
「ええ、寝ずに何回もトライしたわ」
「メリーちゃんの目の下、くまできてる。たぶんほとんど寝てない」
「はー……そんな遅くまで連絡してたんだ、よくやるわね」
「電話は着信拒否されたから、その後はずっとメールを送っていたの。
 でも、じきにメールアドレスも変えられてしまったわ」
「うわあ、これは重症だね」
「だから絶望的だって言ってたのよ」

蓮子から着信拒否されたり、アドレス変えられたり、実は結構ダメージが大きい。
あの端末、私と一緒に買いに行って、アドレスだって二人で一緒に考えた物だった。
今でもはっきり覚えている、蓮子の部屋で隣合わせで座って、私は脳天気に顔が近いとか可愛いとか、表面上は平静を保ちながらも心の中では大はしゃぎしていた。
そんなに遠い昔の事ってわけでもないのに、何だかずいぶん前の出来事のように感じる。

「実は、今日の朝も蓮子の部屋の前まで行ってきたの。
 でもね、全く反応は無かった。
 何度も何度も声をかけたんだけど、まるで誰も居ないみたいにしんとしていたわ」

蓮子と会えない。
ただそれだけの現状を確認をするだけでも、いちいち私の胸は痛くなる。
胸が痛くなると、連鎖的に昨日の蓮子の表情が思い出されて、更に辛くなる。
因果応報。甘んじて受けなければいけない罰なんだけれど、いつまでも苦しんでばかりいるわけにはいかないのに、私は蓮子に会わなければならないんだから。
けれど、この痛みは前に進むのに少々邪魔すぎる。
せめて釈明と弁解の機会さえあれば、誤解を解くことが出来るかもしれないのに、その場にたどり着くことすらままならない。

「あー……かなり追い詰められた状況ってのは話を聞いてたらわかるんだけどさ。
 何ていうか、アドバイスしようにも頭が真面目モードにならないって言えばいいのかな。
 発端が発端だけに、どうもメリーの話を真剣に聞けないんだよねえ」
「バカップル並に喧嘩の動機がアホらしい」

あまりに指摘が的確すぎて、ぐうの音も出ない。
これがもし、私に本当の彼氏が出来て喧嘩してる、って状況だったら二人共もっと真剣に話を聞いてくれたんだろうけれど。
発端は私のイタズラなのだ、こんな馬鹿馬鹿しい悶着、私一人の力で解決しなければいけないのだ。
相談ぐらいは構わないかもしれないが、二人には可能な限り迷惑をかけないようにしなければ。

「わかったわ、元はといえば100%私が悪いんだもの。
 よし、行ってくるわ」
「行くって、どこに?」
「そんなの決まってるわ、蓮子の部屋よ」
「いや、まだ午後の講義があるし……」
「止めても無駄、バカップルは止まらない」
「日本の古い言葉に、思い立ったら吉日ってあるでしょう?
 そういうことよ、ぐずぐずしてたらもっと取り返しの付かない事になるかもしれないわ」
「……代返はしないよ?」
「そんな卑怯な真似はしないわよ、私への罰と思って甘んじて受け入れるわ」

大体、今の大学のシステムでどうやって代返なんてすると言うのか。
そんなの過去の産物だ。
私は蓮子の誤解をとくためなら、多少の犠牲は厭わない。
無断欠席が何だと言うのか。
いっそ犠牲が多大でも構いやしない、だって愛しい蓮子のためなんだから。

「罰、ねえ」
「いちいち言葉が重い。
 蓮子ちゃんのこと重いって言ってたけど、私はメリーちゃんも変わらないと思う」

何とでも言えばいい、私の蓮子への想いが変わることはないんだから。

「それはつまり、重い同士でお似合いってことよね?」
「……メリーちゃん、ポジティブすぎ」

ポジティブで結構。
ネガティブ思考に陥った時は、無理があるぐらいポジティブに振る舞うのがちょうどいいのだから。





3. I Scream



蓮子の部屋の前に辿り着くまでの私は、まるで戦場へ赴く兵士の様に緊張していた。
様に、というか私にとってはまさに戦場だから、そうなるのも仕方のないこと。
昨日は蓮子の声を聞くことさえ叶わなかった、せめて今日は声ぐらいは聞きたいものだ。

「蓮子、居るんでしょう? 居るなら返事して」

ドンドンドン、と扉を叩きながら、私は何度も蓮子に呼びかける。

「一昨日のことで話したいことがあるの、蓮子は誤解してるのっ。
 お願いだから開けて、ねえ蓮子!」

ちょっと苛立っている自分が居るのは否定出来ない。
今日の朝から通算して三時間近く、私は蓮子を呼び続けた。
電話で連絡を試みた時間を加えるともっと長くなる。
別に私は蓮子に対して苛立っているわけじゃない、そんな横着な真似できるわけがない。
ただ何も進展しない現状にいらだっているだけだ、同時にあんな頭の悪いイタズラを仕掛けた私にも。

「あれは嘘だったの! 煙草の匂いも、香水も、全部蓮子を驚かせるための冗談のつもりだったの!
 だからお願いよ、声だけでも聞かせて!」

ドアに耳をくっつけて中の様子を伺うものの、全く音は聞こえない。
単純に扉が厚すぎて聞こえないのか、それとも中に誰も居ないから音が聞こえないだけなのか、それもわからない。
次に私は、少し躊躇いながらも郵便受けを開いて中の様子を探ろうと試みた。
さすがにストーカーじみていると自分でもわかっているが、必死にならないと蓮子に私の言葉は伝わらない。
いくつかの郵便物を押しのけ、私は部屋の中を覗き込む。
中の様子は……辛うじて、少しだけ見ることが出来た。
相変わらず音は何も聞こえてこない。
中は真っ暗で、人の気配があるようには思えない。
ただし、私に人の気配を察知する能力なんて無いので完全に勘だ、あてになる物じゃない。
それと……何だか、いつもより散らかっている気もする。
少なくとも、私の記憶の中にある蓮子の部屋とは一致はしていない。

「……暴れた跡、かしら」

私にはそう見えた。
自暴自棄になって、自分の身の回りの物を投げて暴れたのだろう。
その姿は、あまりに簡単に想像出来た。
胸が痛む。苦しい。蓮子の泣き顔を見たいと言っていたくせに――今は、考えるだけでこっちが泣きそうになってしまう。
少し考えればわかったことなのに、あまりに浅慮な私の愚かさを痛感する。
しかしいつまでも落ち込んでも居られない、蓮子が本当に部屋の中に居るのか確認しなければ。
顔を上下左右に動かし、何か手がかりになるものが無いか、狭い視界でどうにか見つけようと試行錯誤を重ねる。
それにしても、この状況、他の住人か誰かに見られたら一発で通報されてしまうかもしれない。
蓮子の部屋に意識を向けるのはいいけれど、適度に周囲も気にしてないと、こんなので警察のお世話になってたんじゃ笑うに笑えない。
蓮子に会うまでは、そんな下らないことでタイムロスなんてしてられないんだから。
私は足元の方に、蓮子の靴が散乱していることに気付いた。
あれは確か、いつか一緒に出かけた時に私と一緒に選んだ靴だったはず。
一昨日もあの靴を履いていたはず……それが、玄関付近に乱雑に脱ぎ捨てられている。
もし蓮子がどこかへ出かけているとするのなら、履き慣れたこの靴を履いていくはずだ。
そう考えると、蓮子が外出している可能性は低い。
取り乱して、裸足で出かけた可能性も考えられないことはないけど、候補に入れるほど信憑性のある選択肢では無い。
他の靴を履いていった……と言う可能性は大いにあるけれど、私個人の願望でそうあって欲しくない。
とりあえずは、蓮子はこの部屋の中に居るという説を採用するのが妥当だと私は判断した。
私の声に反応しないのは、耳をふさいでいるのだろうか、布団に潜り込んで自分の殻に閉じこもっているのだろうか、あるいは”私だから”反応しないのだろうか。
あんな嘘を吐く奴、友達なんかじゃない、と。
無言のままそう主張しているのかもしれない。
どちらにせよ、ただ名前を呼ぶだけでは私の気持ちは伝わりそうにない。
でも私にはそれぐらいしか方法が無くて――

「蓮子、返事をしてよ蓮子っ」

馬鹿の一つ覚えみたいに、ひたすらに蓮子の名前を呼び続ける。
時折弁明と謝罪をしながら、蓮子の反応がないか繰り返し扉に耳を付け、郵便受けから中を覗い、数時間それを続けた。

空は赤くなり、やがて紫を経て黒になる。
月が私を照らし始めても、蓮子からの返事はない。
私の声も枯れはじめ、最初ほどの大きさも、元気さも無くなってしまった。
ついでに気概まで枯れそうになってしまっている。
扉に背中を預けながら、体操座りでただ作業の様に蓮子の名前を呼び続ける。

「蓮子、私のこと嫌いになっちゃったの……?」

そりゃ嫌いにもなるだろう、と自分でツッコミを入れてしまう。
いくら冗談でも、あんな嫌がらせ、もし私が逆の立場だったとしても、今の蓮子と同じ行動を取ったかもしれない。
私が話しかけるだけ無駄なんだろうか。
……でも、私以外が解決できる問題ではない、結局私がやるしかないんだ。

「明日もまた来るから」

そう言い残して、私はすっかり暗くなった道を一人で帰った。
いつも蓮子と別れたあと暗くなったこの道を一人で帰るわけだから、嫌と言うほど見慣れているはずなのに……なぜだか、今日に限って全然違う道のように見えて。
奥へ奥へ続く暗闇の向こう、境界の奥不覚にいつもは見えない何かが見えている気がする。
逃避しようとする私の脳が見せる幻影か、それとも本当に逃げ道なのか。
どちらにしても、私には不要な物だ。
悪魔の誘惑のつもりなのかもしれないけど、私には最初から逃げるとか、諦めるって選択肢は無いんだから。



そして翌日、私は約束通り蓮子の部屋の前へとやってきた。
まあ、時間は昨日より遅くなってしまったんだけど。
さすがに2日連続はまずいと思ったのか、友人二人に半ば力づくで引き止められてしまった。
どうせ講義に出たって頭に入ってこないから無駄なのに。
そこまで引き止めるんなら、いっそ私に無断でもいいから代返してくれればよかったのに。

「蓮子、こんにちは」

挨拶の定型句から入ったものの、今日は何を話すべきか。
昨日も最後の方は名前を呼ぶだけだったし、今日だって蓮子のことで頭がいっぱいだったから、特に話せることもない。
弁明なんて蓮子だって聞き飽きただろうし、私も言い飽きた。
だから結局は名前を呼ぶことしか出来ないわけで。

「私はずっとここに居るからね。蓮子が私の話を聞いてくれるまで離れないんだから」

加害者の分際で図々しいかな、と思わないでもない。
でも蓮子が出てこない以上、こうするしか方法はない。
大体、あの子ってばトイレとかどうしてるんだろう。
私が居ない時はともかくとして、私が居るときは一切の物音すら立てない。
ベッドに寝転がっているのか、あるいは床に座り込んでいるのかはわからないけれど、二時間も三時間も微動だにしないというのは、中々に体力を使うはずだ。
私だって、こうして玄関の前に座ってるだけでも結構疲れてるのに。
さらにそれに加えて、蓮子はトイレにすら行けないのだ。
まさか……ペットボトルとか? おむつとか? いやいやいや、そんなわけない。
というか私、こんなタイミングでふしだらな想像をするのはさすがに不謹慎だと思う。
おむつ姿の蓮子とか、ペットボトルをトイレ代わりにする蓮子とか……想像するだけで生唾飲んじゃうけど、けども!
今はそんなこと考えてる場合じゃない。
バッカじゃないの私、自分のせいであんなに蓮子を傷つけたっていうのに。

「ごめんね蓮子……」

聞こえているか聞こえていないかはわからない、けれど私は心の底から蓮子に謝罪を繰り返す。
謝意も、愛情も、全部嘘なんかじゃない。
心の底からだって誓える、永遠だって誓える、なのにたった一つの嘘のせいで一つも信じて貰えない。
蓮子と出会った時のことを思い出す。
入学式の日、私は遠くから蓮子の姿を見つけた。
その瞬間、他の全ての学生は脇役に成り下がってしまった、全部同じ顔にさえ見えた。
ただ一人、蓮子を除いては。
何だか周りが輝いて見えて、一瞬で私の心は蓮子の物になってしまったのだ。
明るくて、好奇心が強くて、可愛くて、純粋で、そんな蓮子を一番近くで守りたいって、そう思っていた。
思ってたはずなのに……どうして私は忘れちゃうかなあ。
守りたいなら、例えイタズラであっても泣かせていいはずなんて無いのに。
むしろもっと早くに抱きしめて、好きです大好きです愛してますって、伝えておくべきだった。

結局のところ、その日も蓮子の声は聞けなかった。
こんなに長い間蓮子の声を聞かないことは無かったから、まさか自分でもこんな事になってしまうとは思わなかったけれど――私の耳は、まるでジャンキーのように蓮子の声を求めていた。
耳だけじゃない、目が、鼻が、手が、体全体が蓮子を求めていた。
よく”何とか分”が不足してる、なんて言い回しをするけれども、今の私の状態はまさにそれだ。
蓮子分が不足している。触れられなくてもいい、抱きしめられなくてもいい、ただ声を聞いて、蓮子の姿を見たい。
今はなんとか端末に保存してある蓮子の写真でしのいでいるけれども、気持ちは日に日に沈む一方だ。
沈みたいのは蓮子の方なのに、なんで私が被害者面して落ち込んでるのか。
自分でも不甲斐ない。でもどうしようもない。



次の日も、また次の日も、私は蓮子の部屋へと向かったけれど、蓮子は私の声に反応すらしてくれない。
私の心は折れそうだった。
そもそも蓮子はこの中にいるのだろうか?
それすら信じられなくなってくる。
最初から蓮子はこの部屋の中に居ないんじゃないだろうか。
実はとっくに実家に帰っていて、私は無駄な行為を繰り返していただけなのでは。
まだ疑念だったけれども、それが確信に変わった時、私の心は折れてしまうのだろう。
発端がくだらなすぎて。やってることが不格好すぎて。結果が無様すぎて。
あれもこれもうまくいかない自分が、嫌で嫌でしょうがない。

「その顔、見てると気が滅入る」
「……ごめんなさい」
「謝られても困る、早く治してもらわないと」
「重症は蓮子だけかと思ってたけど、メリーも重症ね。
 それにしても蓮子もよくここまで意気地貼れるよね、とっとと出てきちゃった方が楽だと思うんだけど」
「どっちも面倒くさい」
「迷惑かけてごめんなさい……」
「だからそれが面倒くさい」

ボキャブラリティの貧しさが目立ち始める。
どうやら私は、落ち込むと頭まで悪くなってしまうらしい。
今までの人生でここまでどん底に落とされたことはなかったから、これは新発見だ。
私は大学でもずっとこんな調子で、学生の本分である勉強には全く身が入っていない状況だった。
寝ても覚めても蓮子、夢の中でも蓮子、どこへ行っても蓮子、蓮子。
これは恋の病よりもタチが悪い。

「どうしたら蓮子は出てきてくれるのかしら……」
「そのゾンビみたいな顔やめなって、それじゃ出てくる物も出てこれないんじゃないの?
 メリーの顔が怖くて」
「そうかしら……」
「見るからに顔が青い、死体寸前」

友人二人、ひどい顔色の私を心配そうに見つめていた。
口は悪いが、こんな私に対して心配してくれているのだ、なんて心優しい友人たちなんだろう。
相変わらず、ためになるアドバイスは何一つしてくれないけど。

「でも、方法なんて一つしかないと思う。
 馬鹿でも思いつく簡単な方法」
「あ、あるのっ!?」
「ある。
 言えばいい、好きって」
「……はい?」
「都合のいい言い訳ばかりしてないで、蓮子ちゃんにはっきりと伝えればいい。
 好きです、愛しています、あなたの体が欲しいですって」
「ちょっと、それじゃまるで私が体目当てみたいじゃない」
「違うの?」
「体以外も欲しいわ」
「結局体も欲しいんじゃんか……」
「そんなの当たり前じゃない、恋ってそういう物でしょう」

プラトニックラブなんて私は求めてない、愛って情欲含めての物だ。
手を繋ぎたい、抱きしめたい、キスをした、もっと先のことだってしたい。
どの人間にだってある当たり前の欲望だ、否定なんてできっこない。

「きっと言い訳なんかしたって蓮子ちゃんには聞こえない。
 都合の悪いことを取り繕っても無駄、だから蓮子ちゃんにとって都合の良い現実を押し付ければいい」

珍しく、本当に珍しくまともなアドバイスを聞くことが出来た。

「まさかまともなアドバイスを貰えるとは思えなかった、って顔してる。さすがに失礼」
「あはは、ごめんごめん」

まさにそのとおりだ、彼女はこういう時やけに鋭い。
人の悪意とか、邪気とか、そういうのに人一倍敏感なんだろう。

「私も罪悪感を感じなかったわけじゃない。
 蓮子ちゃんを傷つけた分は、手伝う」
「ん……ありがとう」

アドバイスが正しいかどうかは置いといて、どうせ私が取れる方法なんてそう多くはないのだ。
武器が増えただけでありがたい。
自分の気持ちを素直に伝える、ただそれだけの単純なことを私は思いつきもしなかった。
ただ自分の失敗を、後悔を、蓮子に押し付けるだけで。
確かに謝罪は必要だ、でも蓮子がそれを拒否している以上、いつまでも繰り返したって効果は無い。
だったら、もっと前向きな方法で私の気持ちを伝えるべきだったんだ。



戦地に赴くような緊張感――はもう何度目だろう。
いい加減慣れればいいのに、私の気持ちは落ちついてくれない。
あいも変わらず、バクバクと緊張のあまり破裂しそうなぐらい胸が高鳴っている。
今日は特に、今からやるべきことを考えると、高なりを抑えられない。

「落ち着け……落ち着くんだ私」

まずは確認しなければならないことがある。
慎重すぎるかもしれない、でも臆病ってわけじゃない。
私はいつもしているように、蓮子の部屋のドアにぴったりと耳を付ける。
あちらも私が来ていることに気付いているのか、私がいる間は全く動こうとしない。
よっぽど私に諦めて欲しいらしい。
でも万が一、億が一にでも蓮子が本当に部屋の中に居ないのだとしたら、今から私のやることは全く無駄になってしまう。
それだけはなんとしても避けなければならない。
ただでさえ近所迷惑になるんだから。

蓮子に気付かれないように、そっと部屋の前から離れる。
そして蓮子から完全に音が聞こえないであろう場所に移動すると、私は端末を取り出した。

『もしもーし、急にどうしたのメリー』

電話の相手は友人Bである。
こういう時は、余計な勘ぐりをしない彼女の方が色々と頼みやすい。

「今ね、蓮子の部屋の前に居るんだけど」
『うん、まあそんな気がしてたけど。
 どうしたの、蓮子のことで何か私に頼みたいことがあるわけ?』
「頼みってほど大げさな物じゃないわ、ただちょっと電話をかけて欲しいだけよ」
『電話? 何か話して欲しい事があるとか?』
「ううん、電話をかけるだけでいいわ。蓮子が部屋の中のいるかどうか確認したいの」
『何で今更……まあいいけど、すぐにかけちゃっていいの?』
「ええ、この電話が切れたらすぐにお願い」

大した用事ではないが、使い走りのようで悪いと思わないでもない、後日お礼と一緒に彼女の好きな煎餅の一つぐらい渡すことにしよう。
私は足音を殺し、慌てて蓮子の部屋の前へと戻る。
蓮子が私の存在に気付いているであろうこの状況で、足音を殺す意味があるのかはわからないが、何故か自然とそうしてしまった。
再びドアにぴったりと耳を付け、蓮子に動きがないか耳を澄ます。
そろそろ彼女からの電話が、蓮子の端末にかかってくるはずだ。
辺りは静寂に包まれている。
――静寂の中、ほんの小さな音が部屋の中から聞こえてくる気がする。
振動音だ、蓮子の端末はおそらくマナーモードになっていて、はっきりと聞こえるわけではないがさっきまでの無音とは全く違う。
確かにそこには音があった。
そして、微かに布ずれの音もする。
振動音が消えると同時に布ずれの音も消えた、つまり蓮子が端末を確認し、電話を切ったということ。
……端末の電源を落としていないあたり、完全に無視してるってわけではないのかな。
まあいい、これで蓮子が部屋の中に居るってことはわかったんだ、それなら私のやることは一つしかない。

「……よしっ」

パンパン、と両手で頬を叩き気合を入れる。
恥ずかしいとか、ご近所迷惑とか考えてる場合じゃない。
やってる途中で隣の住人に怒られる可能性も十二分にあるけど、その時はその時だ。
やってから考える。後悔なんて後からいくらでもすればいい。
その場しのぎで、後先考えず、そういう猪突猛進さが今の私には必要なんだ。
だから――私は蓮子に向かって叫ぶんだ。

「蓮子ーっ!」

包み隠さず、まどろっこしい言葉も使わず、ただド直球で、ど真ん中に。

「私は、蓮子のことが好きだあああぁぁぁぁぁっ!」

声が枯れるぐらい、高らかに。
蓮子は部屋の中にいる、例え耳を塞いでいても私の声は聞こえているはず。
あとは住人が誰も文句を言ってこない奇跡を祈りながら。

「蓮子のこと愛してるわ! 世界で一番、誰よりも蓮子のことを愛してるっ!」

一度叫んでしまえば、後は簡単だった。
感情を言葉にするだけの行為なんだから、気も頭も使う必要はない。

「初めて会った時から、私は蓮子だけしか見てないのっ!
 蓮子以外を好きになることなんてありえない、これが私の初恋で、人生で最後の恋なんだからっ!
 この一週間、蓮子と会えなくて寂しかった! 死ぬかと思った!
 蓮子の方が辛かったかもしれない、でも私も辛かったの、だって蓮子が好きで好きでたまらないからっ!
 蓮子に会いたい! 蓮子の姿が見たい、蓮子の声が聞きたい、蓮子と手を繋ぎたい、蓮子を抱きしめたいっ!
 もう私、蓮子以外の何もいらないの! だから――」

”鍵を開けて欲しい、蓮子に会わせてほしい”、そう叫ぼうとした瞬間、私の願いが叶ったのか、ガチャリと鍵の開く音がした。
叫ぶのに必死で、蓮子がこちらに近づいてきていたのに気づかなかったのだ。
私は大慌てでドアノブを掴み、力いっぱいに引っ張った。
会える、会える、愛しの蓮子にようやく会える。
ただその喜びで頭がいっぱいだった。

「れんっ」

しかし、扉を開き、思い切り名前を叫び、力いっぱい抱きしめようとした私の目論見は、儚く崩れた。
全力で引っ張ったはずのドアは、ジャラジャラとした金属音と同時に止まってしまったのだ。
気を落ち着けて、何が起きたのかと扉を見てみると、ドアの隙間からチェーンが伸びているのが見えた。

「れ、蓮子……?」
「……うるさい」

枯れてはいるが、間違いなく蓮子の声だった。
一週間ぶりに聞く蓮子の声に、私の乾ききった心は潤いを取り戻していく。
蓮子だ、蓮子だ、蓮子だっ、やっと蓮子の声を聞くことが出来た。
まさか自分でも、声を聞くだけでこんなに気持ちが昂るとは思っていなかった。
いや、まあ……素直に喜べる言葉じゃないんだけどね。声も枯れてるし、若干キレてるようにも聞こえるし。

「嘘を吐いたのは謝るわ、ごめんなさいっ!」

まず最初に、私は蓮子を騙したことを謝らなければならない。
これだけで許してくれるとは思えないけれど、それでも。

「……」
「すぐに許してもらえるとは思えない、信用してもらえるとも思ってないわ。
 でもね、少なくとも今日私が言った言葉には一つも嘘は無いの。
 全部、本当のことよ」
「……離れて」
「お、お願いよ蓮子っ! 私、蓮子に会えない間寂しくて寂しくて仕方なかったの!」
「だから離れてっ」
「いやよ離れないっ! 私は蓮子から二度と離れないって決めたの!」

ここで離れれば、きっと今生の別れになってしまう、そんな気がするのだ。
だから私は引くことは出来ない。

「その、メリーの気持ちはすごく嬉しいわ、私だって離れたくない……」
「だったら!」
「離れたくないんだけど、その……チェーン外すから一旦離れて」
「あっ……」

どうやら、私の早とちりだったようだ。
冷静さを失っていたのは私だけで、思ったより蓮子は落ちついていたらしい。
さすがにこれは恥ずかしい、一気に顔が火照るのが自分でも分かった。
開いたドアの向こう、ようやく会うことの出来た蓮子の姿は……部屋に閉じこもっていた間、どれだけ苦しんだか想像するのが容易な程にボロボロだった。
髪はぼさぼさ、目は充血し、目の下には私以上にくまができている。
顔色だって悪いし、肌はかさかさ唇だって荒れ放題。
そして着ている服はしわくちゃになったスウェット。

「今の格好、好きな人に見せたくなかったんだけどね。
 あんな告白聞かされたら……もう出てくるしか無いよ。
 仮に嘘だったとしても、言葉だけですっごい嬉しいんだもん。自分の単純さが嫌になるぐらい嬉しかった」

それでもやっぱり、蓮子は可愛くって、私の理想すぎて。

「……こんな私でも、メリーは好きって言ってくれる?」
「どんな蓮子でも、私は好き」
「えへへ……ありがと」

蓮子は私の言葉を聞くと、はにかんで笑った。
何で私は気づかなかったんだろう。
苦しむ顔も、悲しむ顔も、ましてや泣き顔も、この笑顔には叶うはず無いのに。
サディスト気取りで泣き顔を見ようとした私は――何よりも重い罰を受けるべきだ。
アホだ、馬鹿だ、ぶん殴ってやりたい。百回ぐらい平手打ちしたってまだ足りない。

「ごめんね、ごめんね蓮子っ」

感極まった私は、蓮子を抱きしめようと両手を広げる……が、

「ストップ!」

なぜか蓮子に静止されてしまう。
今のムードなら抱きしめるぐらい平気だと思ったんだけど。

「あれだけ盛大に告白してもらっておいて何だけど……やっぱ、まだ信用できないっていうか、心のどこかでまた嘘つかれてるんじゃないかって思ってる私が居るの。
 私だってメリーのこと信じたいと思ってるよ? 今はもう彼氏が居るとは思ってないし、騙すつもりがあるとも思ってない。
 でもやっぱ、何でかな、心の底から信じられないっていうか。
 メリーから告白されたのがなんだか夢みたいで、本当は夢で、気付いたら私、まだ暗い部屋の中で寝てるんじゃないかって……そんな風に思っちゃって」

そこまで蓮子を追い込んだのは、他でもない私だ。
”まさかそこまで私のことを想っていてくれたなんて”、なんて言葉は言い訳にならない。
傷つけたという事実だけが全てだ、そしてそれを癒やすのも私の勤め、というか義務。
命をかけても遂行しなければならない。

「どうしたら、私のことを心から信じられるの?」
「……キス」
「え、え?」
「この場で、私にキスしてくれたら、メリーのこと信じら……むぐっ!?」

言葉を最後まで聞いてる余裕なんてなかった。
そんなの。
そんなの。
そんなの聞かされたら、理性なんて一瞬で吹っ飛ぶに決まってる。
俯きながら、上目遣いで私を見て、頬赤らめて、あろうことかキスのおねだりなんて。
思わず手を掴んで引き寄せた、抱きしめて、勢いに任せて唇を奪った。
初めて知った蓮子の唇は、荒れていてもなお柔らかくて、温かくて――

「あふ……メリー……っ」
「私の事、信じられた?」
「うん、うんっ、メリーのこと信じてるよ、心の底から信じてる。
 だから、私も言うね」
「ええ、聞かせて」

そうだ、私はまだ聞いていない。
私は蓮子に告白したけれど、蓮子からの答えをまだ聞いていないのだ。

「好き。メリーのこと、好き。大好き!
 たぶんメリーと一緒で、出会った時から好きだった。
 ずっと、ずっと、こんな風にキスするの……夢みてた。
 ……んっ」

私は告白を全て聞き終えると、無言で蓮子にキスをした。
蓮子もそれを受け入れる。私たちはお互いに目を瞑り、長めのキスに酔いしれる。
そっか、蓮子も一緒だったんだ。
私たちはずっと両思いだった。
きっと、手を繋いで歩く時、デートしている気分だったのは私だけじゃなかった。
二人共デート気分なら、それは間違いなくデートだったんだろう。
もしかすると、気づかなかったのは私たちだけで、他人から見れば私たちはデートしているようにしか見えなかったのかもしれない。
鈍感で臆病な私たちだから、こんなに時間をかけてしまった。
だったら、今まで時間をかけた分、これからは濃い時間を過ごさなきゃね。

「ずっと玄関で話してるのも何だし、部屋の中に入ってもいいかしら?」
「あ、えっと、部屋は……ちょっと」
「別に散らかってても良いわよ、何なら片付けだって私がやるし」
「べ、別にそんなのいいよっ! せっかく恋人になれたんだから、もっと有意義なことしないとっ」
「有意義なこと?」
「……いちゃいちゃ、とか」

ダメだ、この子。可愛すぎる。
とっくに吹き飛んでいた理性だけど、隅の隅に残っていたほんの少しの理性まで、今の一言で吹き飛んでしまった。
もう私には本能しか残っていない、蓮子を求める事しか考えられない。

「じゃあいちゃいちゃしましょうか、ベッドの上で思う存分ね」
「へ、へっ!? いや、待って、ベッドの上とかそういうのはまだ早いんじゃっ」
「早くないわ、今までが遅すぎたのよ」
「私の心の準備がっ!」
「うだうだ言わないの、ほら早く部屋の中に入りなさい」

あたふたする蓮子を無理やり部屋の中へと連行する。
ドアが閉まり、私が鍵を閉めると、蓮子は観念したのか大人しくなった。
私だって経験があるわけじゃないし、全く緊張していないわけじゃない。
でもこんな蓮子を見てると、めちゃくちゃにしてしまいたいと言う感情が止められなくなる。
私は蓮子の手を引いて、ベッドへと向かう。
蓮子は真っ赤になった顔を伏せながらも、素直についてきた。
恋人になったってことは、お互いに求め合ってるってこと。
蓮子は”待って”とは言ったけど、やめてとは言わなかった。
それってきっと、蓮子だって私のことを求めてくれているということでしょう?

有無をいわさずベッドに押し倒す。
馬乗りになって、蓮子を見下ろす。
顔を伏せて私から逃げられなくなった蓮子は、今度は目線を横に逸らした。
頬を染め、目を潤ませ、胸元を片手で隠す蓮子の姿は、見たこともないぐらい煽情的だ。
本人は私から胸元を隠して逃げているつもりなのかもしれないが――そんなの、逆効果に決まってる。
わかってないんだろうか、今の自分がどんなに魅力的な姿をしているか。

「蓮子、こっちを向いて」
「……やだ」
「嫌じゃないの、蓮子がいちゃいちゃしたいって言ったんでしょ」
「そりゃ言ったけどさぁ、まさかこんなにハイペースで事が進むとは……うぅ」
「お願い蓮子、こっちを向いて」
「わかった、わかったわよ、別に私だってこういうこと、したくないわけじゃないんだから」

蓮子はようやくこちらを向いてくれた。
潤んだ目は、口では嫌々と言いながらも私を求めている。
納得のいかない表情をしながらも、蓮子は隠していた胸元の手で、なんと自らシャツのボタンを外し始めた。
一つ外れる度に、私の本能のスイッチが1つずつ入ってく音がした。
その音はきっと蓮子には聞こえていない。
私にしか聞こえない。
一つ、二つ、三つ。
蓮子のシャツが肌蹴て、飾り気のないブラが上着の隙間からちらりと見える。
私の脳が沸騰しているせいだろうか、そんな下着でさえもやけに色っぽく見える。
全てボタンを外すと、私に何かを確認するように蓮子は目配せした。
誘っているのだ、きっと蓮子は無意識なんだろうけど。
我慢なんてできるわけがなかった。許しが出たのだ、我慢する必要もない。
馬乗りになった体を倒し、蓮子と私の体を密着させる。
胸と胸が密着し、やわらかな感触がダイレクトに伝わってきた。
これだけで、もう気持ちいい。
吐息だってすぐ傍で聞こえる。

「蓮子の匂いがする……」
「あ、ごめんっ、私引きこもってばっかりで、シャワーとか」
「いいの、蓮子の匂い好きだから」
「汗臭く……ない?」
「蓮子だったら、汗の匂いだって好き」
「うぅ……ちょっと変態ちっくだよう」

そりゃ変態ちっくにもなる、だって今からもっと変態なことをしようっていうんだから。
私は蓮子の唇を奪う。

「はむっ……ん、ふ……」

何度も、何度も、啄むように唇を奪う。

「ん、ちゅ……はふ……。
 んふー、私もうダメかも……」
「何がダメなの?」
「キスしてると……幸せすぎて、頭がどっかに飛びそうになっちゃう」
「そんなの、私も一緒よ」

きっと正気なんて物は、もうどっかに飛んでいってしまっている。
今の私なら、どんな恥ずかしいことでも平気な顔をしてやってのけてしまうだろう。
でもいいや、だって幸せだから。

「だから……もっと一緒になりましょう、蓮子」
「もっと……一緒に?」
「そう、もっと一緒に。一つになるの」
「……うん」





4. 夜が明けるまで



いくら相手がメリーと言えども、馬乗りになられて見下ろされるなんて経験は無い、ましてや上から乗られて抱きあうなんて、そんな経験あるわけがなくて。
もちろん、メリーが初めての恋人だからキスも初めてなわけで。
興奮で上気したメリーの顔も、耳元で聞こえる荒い吐息も、全部、見るのも聞くのも初めて。
何もかも全部”初めて”ばっかりだ。
今この瞬間、私は沢山の初めてをメリーに捧げているんだって思うと、私の頭は撹拌されたかのようにぼうっとしてしまう。
右手が頬に添えられるだけで、その手が少し動くだけで、私の体はぴくりと反応してしまう。
その度にメリーの瞳は揺れて、私を見つめて、自然と二人の唇が触れ合う。
今まですれ違ってきた時間を埋めるように。溜めに溜めた愛おしさが溢れて、我慢ができなくなる。
もっと、もっと近くに行きたい、一つに溶け合ってしまうほどに。
私はそう望んでいるのに、きっとメリーも同じ気持ちなのに、私たちはその方法を知らない。
知識として何をしたらいいのかを知っているだけで、この先の手順も、作法も、何もわからないままに求め合っている。
だから手つきがたどたどしい、指先がもどかしい。
それでも、そのもどかしさを楽しめるぐらいに、頭の中がメリーへの想いでいっぱいだった。
指先も、吐息も、頬に触れる髪さえも愛おしい。

「ん、ぁ……はぁ……」

メリーのキスが、私の唇から顎へ、そして首へと少しずつ下がっていく。
恥かしいけど、メリーが喜んでくれるなら――その一心で、私はキスしやすいように、顎を上げて首筋から鎖骨までをメリーへ差し出す。

「ぁん…メリー、くすぐったいよ……」

何度も何度も首へのキスを繰り返すメリー。
さすがにくすぐったくなった私は軽く抗議してみるけれど、彼女からの返事はない。
私の首に甘い蜜でもあるのかってぐらいに必死にキスを繰り返している。
よっぽど興奮しているのか、ふーふーという鼻息の音がここまで聞こえるぐらいだ。

「め、メリー……っ」
「蓮子、蓮子……んちゅ、ちゅぅっ……」

時折唇の先から舌を突き出しながら、メリーは執拗に私の首への愛撫を続ける。
首がメリーの唾液でべとべとになってしまいそうだ。
私が甘い声を上げるのが悪いのだろうか、でもくすぐったくて思わず声が出てしまうのは反射的なもので、止めようにも止められない。

「待って……ぁ、ん…ちょっと待ってっ……」
「はぁ…は、……どうしたの、蓮子」
「えっと……」

このままじゃ飽きるまで首を舐められそうだから、どうにかして他の場所に移動してもらえないかと思ったんだけど……そんなこと、いくらスイッチが入ってるとは言え恥ずかしくて言えない。
うぅ、でも言わなきゃこのまま舐められ続けそうだし……。

「その……べ、別のとこも…触って欲しいの」
「……っ」

ああ、ダメだ、こんな言い方したらメリーのスイッチがもっと入ってしまう。
でも、私だって興奮してる今の状況で、冷静な判断なんてできるわけなくて。
後悔後先に立たず。
私の言葉を聞いた瞬間、メリーの目が見開かれて、そのまま私を食べるように口を大きく開けて、唇に貪り付いてきた。

「はむっ…ん、んちゅ、んぐ……っ」
「んふーっ、ふーっ……ちゅ、はぷっ…ぁ、はぁっ……」

舌と舌が触れ合い、唾液と唾液がからみ合って、口元からいやらしい音が脳にダイレクトに響いてくる。
私だって、メリーのことを言えるほど冷静じゃない。
ここにいるケダモノは二匹なんだ、理性なんてとっくに吹き飛んでる。
脳みそが滾りすぎて、きっと今ならどんな恥ずかしいセリフだって言えるし、メリーがリクエストするならどんな恥ずかしいポーズだって取れると思う。
今だってそう。
私の口の中に流れ込んでくるメリーの唾液も呼吸も、何もかもが愛おしくて、口元がメリーの唾液で汚れてしまうことすら誇らしく思う。
だってそれって、私がメリーにそれだけ愛されてるって証拠だもん。

「好き、蓮子好きぃ……っ」
「メリー……私も、私も大好きだよ」
「本当に、メリーの体中触ってもいいの? 好きにしちゃっていいの?」
「そんなの当たり前よ。だって、私の体は全部メリーだけのものなんだから」
「はぁ……あぁ、そんな……そんなこと言われたら、私っ」
「いいよメリー、我慢なんてしなくても。私の体、好きにしていいから」
「蓮子、蓮子、蓮子ぉっ!」

首への愛撫が終わったかと思えば、今度は顔中にキスの嵐。
額に、瞼に、耳に、鼻に、頬に、顎にさえも、もちろん唇にも。
私の名前と愛の言葉を何度も何度も口にしながら、私の顔中、触れてない場所は無いんじゃないかってぐらいにキスを繰り返す。
顔がこそばゆい。でもそれ以上に嬉しくて、胸がいっぱいになる。
いつもは冷静なメリーが、叫んでまで私を外へと連れだそうとしてくれた。
それだけでもうれしいのに、こんな風に周りが見えなくなるぐらい私のことを求めてくれるなんて。
言葉にしなくたって、その行動だけでも十分に、私の事本気で好きでいてくれてるんだって伝わってくる。

「愛してる、愛してるの蓮子っ、ずっとこんな風にするの夢見てた。
 手を繋ぐだけじゃ足りなくて、やっぱりキスとか、抱き合ったりとかしたいって、ずっと思ってたのぉっ」
「私も……メリーとずっとこうなりたいって思ってた」
「ほんとに?」
「ほんとだよ。大好き、メリー」
「ん、ちゅ……私も、蓮子のこと大好きよ。
 蓮子とえっちなことするの想像してたの、毎日、毎日。蓮子と手をつないだ手で、いやらしいこと考えて、一人でいやらしいことしてたのっ」
「ぁ……はぁ…嬉しいよ、メリー」
「ほんとに? ほんとに嬉しいの? 蓮子のこと想像してオナニーしてたんだよ?
 嫌じゃなかった? 気持ち悪くなかった?」
「気持ち悪いわけなんてないじゃない、だって私も……してたから。
 メリーのこと考えながら、毎日のように、自分のこと慰めてた……」
「そっかぁ…私たち、二人とも変態さんだったのね……」
「うん、お似合いの変態さんだったんだね」

二人でくすくす笑いながら、手を絡ませる。
デートのあと、いつもメリーのこと想像しながら自慰をしてた。
さっきまで手を繋いでた方の手でこんなことするなんてって思いながら、罪悪感を抱きながら、その背徳感が逆に気持ちよくって。
きっとこんな気持ち悪いことしてるの私だけなんだろうなって、勝手に自虐的になってた。
でも、違った。
私たちは一緒だった。
思えば最初から、二人とも一目惚れで、お互いに下心丸出しで近づいて、そのくせ妙にへたれてて。
だから、こんなに時間がかかっちゃった。
でもね、今まではへたれだったけど、こうしてくっついちゃえば何も怖いものなんてあい。
二人とも一緒だから、一緒で変態で一途だから、これからはきっと、並の恋人じゃ真似できないぐらい愛しあうんだと思う。
今だってそう。
きっと、今のこの瞬間、私たち以上に愛し合ってる恋人たちなんて世界のどこにもいないはずだから。

「ねえメリー……」

もう何も隠すことなんてない。
してほしいこと、全部伝えよう、言葉にしよう。
どんなことしたって、私とメリーは一緒だってわかったから。
今望んでることだって、たぶん一緒だと思うから。

メリーの手を取って、そのまま私の下腹部へと導く。
指先が太ももに触れて、ぞわぞわっと全身にくすぐったさに似た快感が広がる。
そのまま太ももの内側へ。
上へと移動して、少し濡れたショーツを撫でながらお臍に触れて。

「蓮子……そ、それって……」
「ん……その、中……触って、欲しいの。
 きっともう、ぐちゃぐちゃに濡れちゃってるから……っ」
「れん、こ……っ」

メリーの声が、吐息が震える。
緊張でガチガチになりながらも、ゆっくりと、確実に、メリーは指先を私のショーツの中に滑り込ませていった。
自分以外誰も触ったことの無い、大事な場所。
そこに初めて触れるのが、メリー。
いつも繋いでた手が、いつも妄想で触れてくれていた手が、現実で……私の中に、触れようとしている。
私も息が荒くなる、震える。
腹筋にきゅうっと力が入って、ドクン、ドクンって、目眩がするぐらい胸が高鳴る。

「は……んあぁぁんっ」
「蓮子、大丈夫っ?」
「だ、だいじょぶ……気持よかった、だけだから……」

私のクリトリスにメリーの指先が触れた瞬間、私の体は未知の快楽を感じた。
息も出来ないぐらいの気持ちよさ、勝手に体が跳ね上がってしまう。
自分で触った時とはまるで違う、張り詰めた弦を弾かれるような感覚。

「ここ……気持ちいいの?」
「ん、あぁっ…んくっ…ひうぅっ……き、きもちぃよ……っ」

私の気持ちいいという言葉を聞いて気を良くしたのか、メリーはクリトリスの周辺を執拗に触りだした。
その度に私は体を跳ねさせて、はしたない声をあげてしまう。
恥ずかしいか恥ずかしく無いかって言われればそりゃ恥ずかしいけど、相手がメリーなら何だっていいやって思ってしまう。
”相手がメリー”というたった一つの理由だけで、私の思考は全てを許してしまう。
まるで毒みたい。私だけに効く、何よりも強力な劇毒。
でも私、このままメリーの毒に冒されて、死んじゃってもいい。それぐらい幸せ。

「こっちもいいのかな?」
「はあぁぁっ……んんぅっ、そ、そっちも……っ」
「蓮子のここ、すっごい濡れてるわ……いつもこんなになっちゃうの?」
「ならない、ならないよぉっ……相手が、メリーだから…メリーに触ってもらってるから、こうなるのっ」
「あぁ……そっか、そうなんだ。私が触ってるから気持ちいいのね? 私にずっとこうして欲しかったのね?」
「うん、うんっ、メリーに触って欲しかったっ! メリーにずっと、こうしていやらしいことして欲しかったのっ!」

本当のことがどうだったか、今は思い出すことさえできない。
今は頭にピンク色の霞がかかってて、何を思い出そうとも全部ピンクのフィルターがかかってしまうのだ。
メリーと過ごした全部の時間、私がいやらしい事を考えていたような、そんな気すらしてしまう。
でもそれでもいいやってなっちゃうのが今の私の思考回路で、とっくにショートして、めちゃくちゃになって、まともに理解出来るのはメリーへの愛おしさぐらいのものだ。
メリーへの想いだけで、今の私は動いている。

「あ、あっ、あっ、あぁっ」
「はぁ……はぁっ……」

メリーは息を荒くして、じっと私を見つめながら手を動かし続ける。
彼女の手が動く度に、意識せずとも喘ぎ声がでてしまう。
その声がメリーをさらにヒートアップさせているのは理解しているのだけれど、止めたくても止められない、どうしても声が漏れてしまう。
時折、メリーが思い出したようにキスしてきて、まともな反応が出来ない私は、されるがままにキスを受け入れるしか無い。

「はぅ……れる、ん、じゅ……んじゅるっ……んはぁっ……」

口と口で、セックスしてるみたいだって、朧な意識でそんなことを考えてた。
粘膜が全部性感帯になって、何されても、どこ触られても気持ちいい。
視界にはメリーしかない。
嗅覚も、味覚も、触覚も、聴覚も、何もかもがメリーに支配されている。
私はメリーの物なんだって、直感的に理解できる。
何ならこのまま道具にされたっていい、一生、ずっと。
どんな形だろうと、メリーの物になれるのなら私はきっと幸せだ。

「んっ、くぅ…っ、ひああぁっ! ん、はっ、あ、はぁっ……!」

次第に喘ぎ声が高くなっていく。
快楽が頂点へと近づいていっているのがわかる。
メリーもそれを察したのか、手の動きが少しずつ激しくなる。
最初だったら痛かったはずの激しい動きも、今はもう気持ちいい。
ただでさえびしょびしょに濡れてた私のあそこは、メリーの手をしとどに濡らすほどにもっと濡れていた。

「あ、ああっ、メリー、メリー…っ」
「蓮子、蓮子っ」
「っく、んああぁぁぁっ……!」

びくびく、と体を震わせ、私は絶頂を迎える。
頭が真っ白になるってよく言うけれど、まさにその通りで、頭のなかが気持ちよさでいっぱいになって、それ以外なにも無くなってしまう。
体を反らし、震わせながらただただ声を出すことしかできない。

「あぁ、あ、ひっ…ふぅぅぅ……んうぅ……っ」
「はぁ……はぁ……れんこ……」

意味のある言葉なんて発せなかった。
ようやく落ち着いてきた頃、視界に写るメリーの姿はやけに色っぽかった。
目は、おそらく私に負けないぐらい虚ろで、肩で息をしながら私の名前を呼び続けている。
メリーも……イっちゃったのかな?

「ん……」

ぼーっとした表情のまま、メリーは私のショーツから手を引き抜いた。
その手は案の定私の愛液でべとべとになっていて、なぜかメリーはその手をじっと見つめている。

「すんすん」
「メ、メリー……?」

何を考えているのか、メリーはその粘液まみれの手を嗅ぎ始めた。
いくら私でもそれはきつい、だって……その、昨日とか……シャワー浴びてない、し。

「蓮子の匂いがするわ……」
「ちょっと恥ずかしいからやめてよぉっ」
「いいにおい……えっちなにおい……」

そんなわけない、だって自分で匂いぐらいわかってるつもりだしっ。
少なくともいい匂いではない、好んで私だって嗅ぎたいとは思わない。
でも……メリーの気持ちは、わからないでもない、かな。
だって私だってメリー匂い嗅いでると、ちょっと変な気分になっちゃうし……。
……って、それとこれとは話が別だ。
さすがに恋人と言えど、そんなことをされるのは――」

「ぱくっ」
「うわあああああっ! め、メリーっ、メリーっ!? 何やってんのっ!」
「ん……むちゅ…ちゅぱ……んふー……」

完全に目が据わっている、どこからどう見ても正気じゃない。
何より、そんなものを目の前で舐めるなんて、こんなの羞恥プレイどころじゃない、恥ずかしくてメリーの顔が見てられない。

「口の中に……蓮子の匂いがいっぱいなの……」
「や、やめてー!」
「なんで? こんなに素敵なのに……んふぅ、おいし」

アブノーマルだ、いくら変態さん二人組でもいきなりこんなプレイはアブノーマルすぎると思う。
それとも、実は世の中的には全然普通だったりするのかな。
そういえば、確かにしゃぶったり、口でしたりするってのは聞いたことあるけど……けど……!

「蓮子もやってみればいいのよ、ほら」
「へ……?」

ほらって、ほらって何を差し出したんだろう。
私は恐る恐るメリーの方に視線を向ける。
すると、メリーはいつの間にかスカートを脱いでいて、ショーツをずらして自分の秘部を私に見せつけていたのだ。

「蓮子のえっちな姿見てたら、私もこんなになっちゃったの」
「ぁ……」

濡れている。
私と同じか、それ以上にメリーのそこは濡れている。
メリーの髪の色と同じ金色のアンダーヘアが、粘液に塗れててらてらと光っている。
ごくり、と私は生唾を飲み込んだ。

「さっきは私が触ったから……今度は、蓮子の番」
「私の……番?」
「ずっと、蓮子の私のここ……舐めて欲しかったの。
 蓮子に、私の匂いと味を、確かめて欲しい」

アダルト画像でも見たことのないような、艶かしい姿。
メリーほどかわいい女の子は、モデルにも中々居ない。
そんな子が、下半身だけを露出させて、性器を私に見せつけて、おねだりをしている。
脳が見せる幻覚じゃないかと、一瞬だけ現実を疑う。
けどその疑念は、私の手から伝わる感触が瞬時に払拭してくれた。
くちゅり。

「んあぁっ!」

無意識の内に、気付けば私の右手はメリーの秘部に伸びていて、その濡れそぼった女性器を愛撫しようとしていた。
自分でも驚いた、だって私はまだ躊躇ってる途中で、メリーに触れようだなんて全く意識していなかったのに。
もはや私の体は理性の制御下に無いのかもしれない、欲望をむき出しにしたケダモノが私を支配している。
自然と体は前傾になって、蜜に群がる虫のようにメリーの秘部へと近づいていく。
近づくたびに、メリーの体温がむわっと私の顔を包む。
同時に、香りも。
いつものメリーの甘い匂いと、むせ返るよなフェロモンが、私の鼻孔を刺激する。
これが、メリーの匂いなんだって思うと、私の下腹部が熱くなる。

「あはぁ……そう、そのまま……舐めて欲しいのぉ」

私の吐息が太ももに当たる度に、メリーはくすぐったそうに身を捩る。
なんだかそんなメリーがたまらなく可愛く思えて、私は意地悪に笑いながら、メリーの女性器の目の前ですんすんと鼻を鳴らした。

「……んぁ……どんな匂い、する?」
「メリーの匂い……嗅ぐだけでえっちな気分になる、メリーの匂いがする……」

まるで答えになってない、なのに不思議とメリーには伝わる。
私の匂いがメリーにとって媚薬だったように、メリーの匂いは私にとっての媚薬だ。
劇薬級の、一瞬で狂ってしまうほどの。
このまま匂いを嗅いで焦らしてやろうかと考えていたのだけれど、メリーより先に私が我慢できなくなってしまった。
しゃぶりつきたい。
舐めまわしたい。
メリーに、気持ちよくなってもらいたい。

「んっ……」

私の唇が膣口あたりに触れると、メリーは小さく声を上げた。
メリーが私の顔にそうしたように、私は今度こそ焦らすためにあえて秘部を避けてキスを繰り返す。
太ももや臍の方、メリーの陰毛越しにクリトリスの上あたりにキスをしてみたり。

「ひっ、ぁう……っ」

その度にメリーは面白いように声を上げる。
メリーが夢中になっていた理由もわかるような気がする、こんなの可愛すぎる。
好きな人の体を自由に出来る征服感が、私の気持ちを高ぶらせていく。

「ぁ……っく…ん……ね、ねえっ……蓮子ぉ……」
「んー、どうしたの」
「それ…っ……焦らしてるでしょっ」
「ふふふー、どうだろうねぇ」
「もう、いじわるしないでよぉ……ちゃんと、私の大事なとこ……舐めてよ」

ゾクゾクする。
相手に恥ずかしい言葉を言わせるだけでこんなにテンションが上がるなんて、これは癖になるわ、間違いない。
でも、あんまりやりすぎるとメリーの機嫌を損ねてしまいそうだ。
せっかくおねだりしてくれたんだし、応えなければ宇佐見蓮子の名が廃るというものだ。

「れるっ……はむ、ちゅぱ……ちゅっ」
「んっくうぅぅぅっ! あ、はぁぁっ」
「じゅるっ…んちゅぅぅぅっ」
「ひうっ、く…ぁひっ、あっ、はぁぁぁっ!」

口いっぱいにメリーの味と、匂いが広がる。
匂いも味も人それぞれって言うけれど、メリーと私のも違うんだろうか。
メリーの味は、ちょっとしょっぱくて、でも甘い感じがする。
匂いだって――もしかしたら相手がメリーじゃなかったらまた変わるのかもしれないけれど、ちょっと酸っぱいような、少なくとも私が興奮する類の匂いだ。
……って、さっきから匂いだの味だのって、私たち匂いフェチなのかな。
女性器だけに限らず、メリーってば私の首とか、脇の匂いも嗅いだりしてたし。
まあ……私もメリーの匂い好きだから、いいんだけど。

「ちゅっ、ちゅぅっ、んじゅ……じゅるっ」
「そ、そっちはぁっ、んううぅぅっ」

時折クリトリスを舌の先で刺激してあげると、メリーは面白いように声を上げる。
感じやすいのかな。私よりもずっと大きな声を出してる。
それとも、私もメリーに舐められたら同じぐらい声を出しちゃうんだろうか。
それもいいな。私も、メリーに舐めて欲しい。

「はっ、ひっ、れん、こぉっ…んあぁっ、れんこぉ……っ」

メリーが切なそうに私の名前を呼ぶたび、私の体は熱くなる。
もっともっと気持ちよくなって欲しいって気持ちが強くなる。
さっきよりずっと好きで、その前よりもっと好きで、好きが好きで上書きされて、余計に今まで以上にメリーのことしか考えられなくなる。

「んあ、あっはあぁぁぁぁぁっ!」

そしてメリーは背中を逸らしながら、ひときわ大きな喘ぎ声を響かせ、絶頂に達した。
秘部からぷしっと愛液が吹き出、私の顔を濡らす。
彼女が達する姿を見ていると、不思議と私の体から快感が湧き出してきて、ほぼ同時に私も体を震わせ、軽い絶頂に達した。
私は快感で頭が真っ白になりながらも、それでもメリーの秘部に口付け続ける。

「ん、っく……は、ふ……」
「い、くっ……はあぁっ、あっ、あぁっ」

彼女の快楽に合わせるように、少しずつ少しずつペースを落としながら。

「はぁ……あっ、ん……ほ、ふ……はぁ…はぁ……っ」

メリーの絶頂がようやく落ちついたタイミングで、私は体を起こす。
二人で肩で上下をしながら、呼吸を落ち着けるためにしばしの休憩。
メリーが汗で頬に張り付いた髪を払いのける。
そんな姿を、私はぼんやりとした頭で見ながら、顔についた愛液を指で拭き取り、その指を咥え舐める。
愛液と少し違う味が口の中に広がる。
味、違うもんなんだな――なんて冷静に考えながら、ちゅぱちゅぱと指を舐め続けた。

「人のこと、言ってたくせに……蓮子も、指舐めてるじゃないっ……」

メリーは肩で息をしながら、私の方をジト目で睨んできた。

「仕方ないじゃない、メリーの味がおいしいんだもん」
「……もうっ」

呆れたように笑うメリー。
でも内心では私においしいって言われて喜んでるのかもしれない、だって私がそうだったから。

「ねえ蓮子、もっかいキスしましょ」
「いいの? 口の中……メリーのでいっぱいだけど」
「それを言い出したら、私の口の中だって蓮子でいっぱいよ」
「……そっか、そういえばそうだったわね」

だったら何も問題はない。
自分の性器に口付けたあとだろうが何だろうが、メリーとキスするのを嫌がるなんてことはありえないから。
むしろ、私を気持よくしてくれた口だから、もっと愛おしく感じるぐらい。

「メリー」
「蓮子」

互いの頬に手を当て、まっすぐ見つめ合う。

「「愛してるわ」」

二人の声がリンクする。
私たちの気持ちが一緒だってことは確信しているから、別に言葉にしなくてもいいんだけれど、何となく言葉にして伝えたくなってしまう。
儀式のようなものだ、互いの気持ちを確認するための。
そして私たちは幸せのあまり頬を緩めながら、互いの唇を合わせた。
頬に当てていた手を背中に回し、ぴったりと体を密着させて抱き合いながら、唇と唇を合わせる。
ちゅ、ちゅ、と愛情表現のキスを何度か繰り返す。
そして、二人は同時に唇の間から舌を突き出し、次第に激しいキスになっていく。
私の体は火照ったままだ。
きっとメリーもそうなんだろう。
だからこのまま、夜が更けるまで――いや、夜が明けたって、私たちは愛し合うんだと思う。
だってこんなにも好きなんだもん、相手を求める気持ちが途切れるわけがない。
キスをして、抱き合って、触れて、舐めて、愛撫する。
二人、疲れて眠りにつくまで。





5. エピローグ



――そんなこんなで、蓮子はようやく大学に復帰した。
ようやくと言っても、せいぜい休んでいたのは一週間程度。
たかが一週間、されど一週間。
何やら休んでいた分を取り戻すのにずいぶん苦労したみたいだけれど、私から見るとそこまで辛そうには見えなかった。
曰く、”メリーが隣に居るだけで幸せだから、全然苦じゃなかった”とのこと。
嬉しい事言ってくれるじゃない。

そして久々の友人たちとの昼食。

「ごめんね、なんか迷惑かけちゃって」
「蓮子とも無事仲直り出来たわ、協力してくれてありがとう」
「……まあ、別に大したことしてないからそれはいいんだけど、さ」
「私からは言わない、任せる」
「いやいや、私こそ言えないからな。
 毒舌なお前から言ってくれないと私からは言い辛いじゃないか」
「嫌、そっちが言うべき」

顔を合わせるや否や、何やら言い争いを始める友人二人。
二人はなぜか蓮子の方をちらちらと見ている。
そういう蓮子は、何故自分の方を見られているのか全く心当たりがない様子。

「ちょっと、二人共何なの? 私の顔に何かついてる?」
「顔にはついてない」
「どちらかと言うと、首だな」
「……首?」

言われるがまま、私は蓮子の首に視線を向けた。

「……あっ」
「え、何、メリーも見つけたの?」
「いや……ちょ、ちょっと私……買い忘れた物あったから、食券機に行ってくるわねっ」

思わず逃げる。
もちろん蓮子はきょとんとした表情のまま。

「……言いにくいんだけど、さ」
「キスマークはちゃんと隠すべき」
「付き合いたてのお二人さんがいちゃつきたい気持ちはわかるんだけどね、節度は守らないと」
「は、はっ!? き、きききキスマークっ!?
 まさか、メリーってば昨日っ……!」
「昨日ヤったんだ」
「生々しい話だな……」
「こ、こらメリー、待ちなさいっ! き、キスマ……これがどういうことなのか、きっちり説明してもらうからっ!」

説明と言われても、その場の勢いで付けてしまったとしか言い様がない。
気づかない蓮子が悪いのだ、私は無実だ、だから逃げる。
全力疾走で追いかけてくる蓮子、それから逃げる私。
……と言っても、運動神経は蓮子の方が遥かに上だ、私は間違いなく捕まるだろう。
でも、蓮子に捕まるのも幸せだからいいかな、なんて。

こんな馬鹿馬鹿しいことをやりつつ、私たちは今日も幸せに毎日を過ごしている。
恋人として、秘封倶楽部として、お互いに分かり合いながら。
きっとずっとこんな関係が続くんだろうな――と、現在進行形の幸せを噛み締めながら、幸せな未来を確信しつつ。
シリアス書いてると、なんかイマイチな気がしてくる。
でも蓮子とメリーがちゅっちゅしだすと異常に筆が進む。
やはり世界を救うのは蓮メリちゅっちゅなんだな、とこれを書きながら確信しました。

最近のマイブームは青霊と燐霊です。
押しかけ妻状態の青蛾さんとか、ペットと恋人の間で揺れるお燐とか素敵だと思う。

(追記 6/15)
感想ありがとうございます、やっぱり蓮メリちゅっちゅですよね。
女子大生二人がいちゃいちゃとか、こんなに幸せな世界は他に無いと思う。
kiki
コメント




1.性欲を持て余す程度の能力削除
よかったです。
連メリちゅっちゅごちそうさまでした。
2.性欲を持て余す程度の能力削除
連メリちゅっちゅ!
3.性欲を持て余す程度の能力削除
おお、よかった
あなたの書く青霊も見てみたい
4.性欲を持て余す程度の能力削除
いいね。二人とも正直重いけど、この重さが実にいい。
素敵な蓮メリありがとうございます。
5.性欲を持て余す程度の能力削除
やっぱり蓮メリちゅっちゅだな
6.性欲を持て余す程度の能力削除
とても良いすごく良い とても良い
なんだか男前なメリーちゃんが新鮮でした、とても良い。あと友人もいい味出してる
もっと読みたいと思いました。連メリちゅっちゅ