真・東方夜伽話

病んでる蓮子

2014/05/30 14:24:50
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病んでる蓮子

しずおか

病んでる蓮子の一人称です。

 
 救急車のサイレンが聞こえる。ぴーぽーぴーぽー。うるさい。
 トラックのエンジン音が聞こえる。ぶおおおおん。うるさいよ、もう。
 車が走る音。子どもの叫び声。誰かの笑い声。小鳥の鳴き声。カラスの鳴き声。
 ちょっと黙っててくれない?
 うるさくしなきゃいけない理由でもあるの?
 ああいまいましい。

 電話の呼び出し音が鳴る。ピロリロリン。誰かしら。メリー以外だったら無視してやる。

「もしもし、メリー?」
「蓮子、今どこにいるの?」
「家の中だけど」
「え? 今日の2時にいつものカフェで会おうって約束したじゃない。忘れたの?」
「ああー。ごめん、忘れてた」
「そう……。蓮子最近物忘れが多いんじゃない?」
「なにそれ。そうやって私を貶めて楽しい?」
「え、ちょっと蓮子、何言ってるの」
「メリーなんて死ねばいいのに」
「蓮子」
「ごめん。今の嘘。そんなこと思ってないよ。今から着替えて行くから待っててくれる?」
「……ええ。分かったわ」

 プチっ。ツー、ツー、ツー。電話って案外すぐに切れるのね。まるで人の縁みたい。
 今日は真夏日らしい。とびっきり涼しい恰好をしてやろう。
 白いワンピースに白のサンダル。帽子だけはいつも通り。ちぐはぐかしら。
 下宿のドアに鍵をかけ、いざメリーのもとへ。ほんと京都は暑いわね。

 信号待ち。車がびゅんびゅん走ってる。未だにガソリンやらディーゼルエンジン使ってるなんて時代遅れだわ。
 隣に背の高い男性が並ぶ。185センチくらいありそう。帽子のつばを上げて見てみると、男性は私の胸元をチラチラと見ていた。
 変態。男ってずっとそういうこと考えてるのね。動物みたいに繁殖期があればこうはならないのに。
 私が睨むと男性はバツの悪そうに目を逸らして早足で行ってしまった。
 
 気持ち悪い。




「お待たせメリー」

 つばを人差し指でくいっと上げてかっこよく登場する。まるでメリーの彼氏みたいね。

「蓮子、最近大学行ってるの?」
「うーん。割と行ってないかも」

 すいませーん。はい、アイスコーヒーお願いします。

「単位は取れるの?」
「なんとかなるんじゃない」

 授業内容はぬるい。他の学生が必死に聞いているのを見てバカだなと思う程度には。

「出席日数は大丈夫なの?」
「ああ、メリーの学部は未だにそんなのがあるんだ。うちの学部はね、授業に全く出なくても単位がもらえるのよ。というか、出席点や出席日数という概念がないわ。出席するのは当たり前だもの。それにいちいち点数をつけることが間違っているのよ」
「まあ、そうだけど」
「あ、メリー。今日の服かわいいわね。すごく似合ってるわ」
「へ? あ、ありがとう。でもこれ、いつも着ているやつだけど」

 そうだったのか。私には新しい服に見えたのだけれど。

「メリー。さっきはごめんね。私メリーのこと大好きよ」
「……蓮子、最近様子が変よ」
「そんなことないよ。これが私の姿よ。宇佐見蓮子という人間よ」

 アイスコーヒーが運ばれてきた。冷たさと喉を通る苦味がたまらない。

「メリー。そのドアノブカバー、いつも着けているわね」
「ナイトキャップだってば」
「今はアフタヌーンよ」
「……これは、大事なものなの」
「へえ。大事なものなのに、いつも身に着けてるんだ。私だったら大事なものはしまっておくけど」

 カフェの音楽は心地よい。外の喧騒をどれだけ綺麗に濾過してもこの心地よさは生まれないだろう。
 メリーの髪はすごく綺麗。しなやかで、なめらかで、触りたくなっちゃう。
 アイスコーヒーが入ったグラスには結露ができている。

 だらりとテーブルに突っ伏す。火照った頬をテーブルに押し付けると気持ちいい。

「ちょっと蓮子」
「なあに?」
「あなた、ブラしてないんじゃないの」

 ワンピースの胸元を引っ張ってみた。メリーの言った通り、ブラはしてなくて、自分の貧相な胸が見えた。
 ちっちゃいなあ。もうちょっと大きかったらいいのに。メリーくらいほしい。

「蓮子、その体勢やめなさい。見えちゃうでしょ」
「いいじゃん。女同士なんだから」
「周りのお客さんに見られるわよ」
「こんな貧相な胸、誰も興味ないよ」

 それよりこっちのほうが目がいくと思うよ。
 メリーの胸に手を伸ばしてみる。むにゅ、と柔らかい感触。やっぱり大きい。

「あっ、ちょっと、やめてよこんなとこで」
「じゃあ別の場所でする?」
「そうじゃなくて」

 メリーは私の手を引きはがそうとするけど、私は構わず胸を揉み続ける。
 男だったら興奮するんだろうなあ。実際私でも少し興奮する。

 ついにメリーの胸と私の手がおさらばした。私は手に感触が残っているうちにその手を開いたり閉じたりしていた。

「メリー顔が赤い」
「ばか」

 メリーは伝票を持ってレジに行ってしまった。最近のメリーは短気なのかなあ。
 カフェから出るとまたあの喧騒が襲い掛かってきた。四方八方から容赦なく。ああ、耳がなくなればいいのに。
 そこを歩いている人も、みんないなくなればいいのに。

「どうするの? もう3時よ」
「メリーの下宿に行きたい」
「うちに来てどうするの?」

 ふふふ、と笑ってメリーに近づく。通りの真ん中でメリーを抱きしめ、耳元でささやく。

「メリーといちゃいちゃしたいなあ」

 直後に耳たぶを甘噛みする。

「やっ、ちょっ」

 耳の裏に舌を這わせるとメリーはぶるぶると震えてしまう。

「ここでしてもいいのよ?」
「いやっ、分かったからやめて」

 ドンっ、と突き飛ばされる。
 ドサッ、と地面にしりもちをついた。
 アスファルトは焼けるように熱い。まるで何かの罰とでも言いたいのか、私の身体を焼き付ける。

「あ、ごめんなさい、蓮子」
「……」
「蓮子、ほら」

 メリーの白い手がぬっと突き出される。パシッ、と払って自力で立ち上がる。
 痛かったわメリー。とっても。心も体も。
 メリーも同じ目に遭わないといけないわね。そうじゃないと不公平でしょ?

 メリーの下宿まで無言で歩き続けた。メリーはずっと悲しそうに俯いていた。






 玄関のドアを開けて中に入った瞬間、メリーを中へ押し込んでドアに鍵をかけた。
 靴も脱がずにメリーを床に押し倒し、メリーの腹部あたりに馬乗りになった。

「蓮子、やめて……」
「なによ。分かってたことでしょ。ここに来たらこうなるって。それを何? 今更そんな顔して。見知らぬ男に犯される前の少女みたい。でもまあいいや。その怯えた顔とっても素敵よ」
「いやああああ」

 うるさい。うるさい。メリーまでうるさくするのか。

「目を覚まして蓮子」

 もう起きてるよ。覚醒してるよ。むしろ全身の細胞が活性化しているみたい。身体が熱くてたまらない。顔も耳も、指先も舌先も。
 バッグから手錠を取り出してメリーの両手を拘束する。足はどうしよう……。

「お願い、もうやめて」
「わかったわメリー」

 あは、その希望を取り戻した瞳、かわいいわ。
 私の言うことちゃんと聞いてくれたら手錠を外してあげるわ。

 まず、靴を脱ぎましょうね。それから鞄は私に預けて。そうそう。はい、立ち上がって。
 寝室に行きましょうね。はい、ベッドに寝転んで。目を閉じるの。え? 嫌だって?
 じゃあ一生それつけて過ごすの? うん、だったらはい、目を閉じて。

 手錠をつけたメリーをベッドに寝かして目を閉じさせた。
 せっかく手錠が4つもあるんだから全部使わないともったいないわよね。

 メリーの両足に手錠をつけて、ベッドの両端の部分につける。よし、これでいいわ。
 はいメリー、もうすぐ手錠を外すけど、私がいいって言うまで目を開けちゃだめよ。
 鍵を取り出してメリーの手錠を外す。メリーの表情が少し柔らかくなった。
 両腕をすすすと上げさせ、素早く再び手錠をつける。これでメリーは四肢を拘束された哀れな状態になってしまった。

 目を開けてもいいわよ。

 首しか動かせないメリーは自分の置かれた状況を悟って絶望したような顔になる。
 あは、その表情たまらないわ。
 あらら、泣き始めちゃったわ。

 メリー、ほら泣かないの。何も怖くないわ。

「蓮子、蓮子……」
「なあに?」
「もう、やめてよ、元に戻って……れんこ」
「元って何? 今の私は私じゃないって言いたいの? それは間違っているわメリー。私は紛れもなく私よ」

 ベッドに拘束されたメリーの姿は興奮する。スカートを下ろし、上の服をまくりあげた。
 可愛いブラね。でもメリーの胸はもっと可愛いんじゃないかしら。今外してあげる。
 ふるふると首を振るメリーをよそに背中に手を回してホックを外す。メリーのふくよかな胸が露わになる。
 うらやましい大きさね。ちょっと分けてほしいわ。

「いやあ、や、だめ、汗かいて汚いから」
「メリーの汗も舐めてあげるよ」
「ひゃあっ、んん、だめぇ……」
「メリーのおっぱい美味しいよ」
「やぁ、れんこ、やめ」
「乳首も噛んじゃおっかな」
「ひううぅ、ふああ、ああっ」

 腰をくねくねさせるメリー。でも四肢は固定されて動かない。抵抗したくてもできない状態のメリーはすごくかわいい。

「さっきは嫌がってたのに、すごく気持ちよさそうじゃない」
「そ、そんなこと……」
「メリーってもしかして変態?」
「ち、ちがうっ」
「じゃあ、気持ちよくない?」
「……気持ちよくなんか……」

 頭をなでなでしてあげる。それから耳の裏を指先でこするとメリーは静かな吐息を漏らした。
 次に頬を優しく撫でる。だんだん表情を落ち着かせるメリー。
 首筋をつうっと指先でなぞる。また声にならない吐息が漏れた。
 その調子で私はメリーの全身を時間をかけてくまなく愛撫した。足の先まで行ってまた上に戻ってくるころには、メリーはとろけた表情をしていた。

「気持ちいいの?」

 とろけた表情を引き締めて首を振る。分かりやすいわね。
 もはやどこを触られても反応してしまうくらい敏感になっているくせに。

 とっておきのところを触ってあげよう。

「ひいっ」
「どうしたの? 太ももに触っただけよ?」
「なんでも、ない」
「そうよね、だってメリーは拘束されて感じちゃう変態じゃないもんね」

 布の端から既に蜜が垂れているそこを、布越しに軽く撫でる。

「んんっ……」
「あれ、メリー、今の声は何かしら」

 ぎゅっと目を閉じ、口も固く閉ざす。首を振り、絶対に声を上げないようにと我慢している。
 それでも、快感には勝てない。

 秘裂を布越しにさすると、たちまち声を上げてしまう。

「ああっ、いや……」
「ここが気持ちいいのかしら」
「はぅう、や、だめ……ひゃっ」
「もうびしょしょね。気持ちよくてたまらないのでしょ?」

 パンツを脱がし、指先を直接秘裂に当てる。

「あああっ、んああ」
「これだけでよがってたら、指を入れたらどうなるのかしら」
「んんっ、や、それだけは」

 メリーの顔を覗き込む。涙半分、快感半分といったところか。今すぐ快感の海に溺れさせてあげる。
 よがる顔、もっと見せて。

 ぷちゅ、と蜜が溢れる秘裂に指が食い込んだ。

「ああああ、うう、ひゃあっ」

 もっと、もっと声を出してほしい。指を上下させて中をこする。

「んんっ、はうっ、や、れんこ、やめ、んあっ」

 とろとろの秘裂からは蜜が溢れてくる。中指を曲げて敏感なスポットを探す。
 あった。ここだ。

「はっ、ああっ、だめ! そこはだめ! だめなの!」

 そこを繰り返し愛撫する。メリーの腰はびくびくと動き始めた。

「いっちゃえ。気持ちよくなっちゃえ」
「いやあああっ、だめっ! いっ、くうう」

 くいっと指を曲げると、突然メリーの腰がびくんと跳ねた。

「ああああああっ!」

 目を見開き、大きく口を開けてメリーは絶叫した。その声が脳内に響いてたまらない快感に変わる。
 腰はびくんびくんと痙攣し、秘裂からは大量の蜜が垂れていた。
 かわいい。大好きなメリー。
 もっといかせてあげる。
 もっと気持ちよくしてあげる。

 征服感がたまらない。

「んあっ!? ちょ、れんこ、いま、いったから」
「関係ないわ。どんどんいきなさい」

 未だ痙攣が収まらない秘裂に指を挿入し、弱い部分を責めたてる。そこに思考は存在しない。ただひたすら、メリーをいかせるだけ。
 敏感になってるのね。蜜で手がびちゃびちゃよ。

「あああっ、また、またいっちゃうううう!」

 メリーの中がびくびくと動き、腰がビクンと跳ねた。
 もっと。もっといきなさいメリー。

「いやあああっ! だめっ、それ以上したら!」

 壊れちゃえばいいんだ。快感に溺れて、犯されて、吹っ飛んじゃえばいいんだ。
 くちゅくちゅと卑猥な音が響く。同時にメリーの苦しそうな喘ぎ声も。

「なか、敏感になってる、からぁ、らめえええ」

 何回も何回もいかせる。
 いくたびにメリーは潮を吹いて腰を跳ねさせる。5,6回いったところで、それまでの絶叫が聞こえなくなった。

 メリー? 失神したの?
 気持ちよすぎて?

 メリーは半分白目をむいていた。唇の端からは泡のようなものが垂れていた。

 壊れちゃったのね。
 ふふふ。メリーのこと壊しちゃった。私がこの手で。メリーを……。
 よがり狂うメリー、最高に素敵だったわ。
 写真に撮って待ち受けにしようかしら。

 メリーの蜜がたっぷりついた手を舐める。んはっ、おいしいわ。ちょっと酸っぱくて、くせになりそう。

「あがっ……かはっ……、はあ、はあ、はあ……」
「メリー。メリー。失神しちゃうくらいよがっちゃうメリー。可愛くて素敵。またしてあげるわね」
「蓮子、あなた……」
「なあに?」
「こんなこと、して、楽しい?」

 その言葉が私の全てをさらっていった。
 戻ってくる。感覚や思考や感情が。
 再び聞こえるようになる。外の喧騒、車のエンジン音、子どものはしゃぐ声、スズメの鳴き声。
 別の私が戻ってくる。

「メリー?」
「蓮子」
「ああ、めりい、めりー。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい……」
「いいのよ。蓮子。謝らなくていい」
「何言ってるの。私、わたし……ひどいこと、これ、だって、めりいのこと……」

 メリーのことレイプして、犯して、壊して、私はそれで喜んでいた。
 バカみたい。いや、筋金入りのバカだ。救いようのないバカだ。
 救いようがない。
 もう私は死ぬしかないんだ。

 メリーを放置してキッチンに向かった。研がれていてよく切れそうな包丁があった。
 死のう。死のう。こんな宇佐見蓮子は、死んだほうがいい。
 首に刃先を近づける。ああ、メリーが呼んでる。

「めりー、わたし、もう死ぬよ。生きてても、いいことなんて何もないもの。きっと私はメリーを犯すことしかできないゴミ人間なのよ。害悪。死んで正解なの」
「何を言ってるの蓮子。変な気を起こさないで。蓮子が死んだら私は泣くわよ。大泣きするわよ」
「ほんとに?」
「うん。眠れないくらい泣き続ける」
「どうして?」
「蓮子のことが大切だからよ。大切な人が死んだら悲しいし、泣いてしまうものよ」
「私のこと愛してる?」
「ええ。愛してるわ」

 じゃあ私は愛されているのか。この醜い、ゴミ人間を、愛する人がいるのか。
 きっとメリーだけね。
 じゃあ、メリーも一緒に死のうか。一緒に次の世に行って、今度は同性婚ができる国に行って結婚しましょう。
 結婚すればこの身体もすべて私のもの。なで肩も、ふくよかな胸も、ピンク色の乳首も、金髪もツルツルお肌も、全部私のもの。

 手錠を外すと、メリーは四肢を畳んで身体をちぢこめた。生まれたての赤ん坊のようなポーズだ。
 仰向けにさせたメリーの首に包丁を突き立てる。頸動脈はこの辺かな。
 しゅぱっ、と横に動かすだけ。それですべて終わる。鮮血がシーツを赤く染める。
 
「私のこと好き?」
「大好きよ」
「愛してる?」
「とっても」
「自分に包丁を向けるような人間でも?」
「ええ。だからその手をどけて。包丁を置いて」

 メリーの目は弱弱しい。怯えているような、悲しんでいるような、不思議な目だ。
 もっといろんな目を見たい。メリーのいろんな目を。
 包丁はいらない。投げ捨てた。
 メリーに馬乗りになって首に手をかけた。

 手のひらで首全体を圧迫する。気管も血管も。

「かっ、はっ、あ、ああ、れんこ……やめ、て」

 苦痛に歪むメリーの顔が愛おしい。もっと見せてほしい。
 ぐっと体重をかける。より強く握る。ばたばたと身体を動かして抵抗するメリー。手を外そうと私の腕を掴んでくる。

「まだ息ができるのね。もっと絞めてあげる」
「やっ、か、は、あ……か――」

 目を大きく見開いてこちらを見てくる。メリーの手が私の頬に触れる。
 頭を大きく左右に振って、なんとか気道を確保しようとする。そうはさせまい。

 死ね。死んじゃえ!
 めりいなんてしんじゃえ。

 押さえていたメリーの身体が痙攣を始めた。目は明後日の方向を見ている。
 頬に触れている手はまだ離れない。

 声にならないメリーの喘ぎだけが部屋に響く。

 突然、頬に触れていた手がストンと落ちた。
 それだけじゃない。抵抗していた身体も急に動かなくなった。

 めりい?

「メリー?」
「…………」
「しんじゃった?」

 首から手を離しても反応はなかった。
 ただ身体だけはびくびくと小さな痙攣を続けていた。

 死んじゃったのかな。

 もうメリーの目は私を捉えてはくれない。

 投げ捨てた包丁を拾ってきた。私はこれで死のう。頸動脈切ればすぐに失血死できる。
 再びメリーの身体に馬乗りになる。これで私が死ねば、二人で身体を重ねてあの世にいける。
 首に包丁の刃先をあてがう。
 目を閉じた。
 もう何も見えない。もう何も聞こえない。
 私の周りにはメリーだけ。
 さよなら、そして、初めまして。
 こんにちは、こんばんは。
 ありがとう、ごめんなさい。

 またいつか一緒になろう。


 包丁を握り締め、動かそうとした。

 しかし包丁は動かなかった。目を開けると、痙攣が収まったメリーが私の右手を必死に押さえていた。



「死ぬのは、はあ、はあ、まだ、早いわ。かはっ、あ、蓮子」
「メリー。どうして? どうして生きているの?」
「バカね。始めから死んでないわよ」

 苦しそうに肩を上下させて呼吸をしている。
 あれはただ失神していただけなのか。

 メリーに包丁を捨てられた。そしてメリーは身体を起こし、私は抱きしめられた。
 メリーの身体の感触が生々しい。気持ちいいけど、気持ち悪い。
 
「もういいよ。死なせてよ」
「だめ。自殺だけは、だめ」
「どうして。私はもういいわ。十分人生を楽しんだ」
「これから何が起こるか分からないでしょう」
「何も起こらないよ。だって私の中には何もない。私の外にも、メリーしかいない」

 私を構成していたものはすべて、ポロポロと剥がれ落ちていって、私はいつの間にか欠落だらけになってしまった。
 修理不可能な欠陥製品だ。

「私が蓮子の中に入ってあげるから。蓮子の中を埋めてあげるから。足りない部分は補ってあげるから。だから、もう少し生きて」
「それで私は幸せになれるの?」
「分からない。先のことは、誰にも分からない」
「じゃあやっぱり」
「でも、いいことが起こる確率は、ゼロじゃない」
「ほとんどゼロに近い確率っていうのは、もはやゼロと同じなのよ、メリー」

 ぎゅっと身体を引き寄せられる。メリーの身体がより近づいてくる。

「気持ち悪いよ、メリー」
「え?」
「気持ち悪い。どうしてそこまでして私に」
「蓮子に求められることが嬉しいからよ」
「なにそれ。気持ち悪い」
「うん。気持ち悪いと思う。でも、これが私なの」
「私たち二人とも気持ち悪いわね」
「ええ」

 でも、片方だけよりはましかもね。
 まだ心が通じる可能性があるから。

 ああ、また聞こえてきた。外の音。ものすごくうるさい。
 鳥の声から時計の秒針が動く音まで、全部が私の身体を刺す。
 メリーの息遣いだけは、身体の中に静かに入ってきた。静かに、取り込むように。

「もうわけがわからない。頭の中がぐちゃぐちゃでどうしようもない」

 バサッ、と折り重なるようにベッドに倒れこむ。
 このまま眠ってしまおう。永遠の眠りになっていることを願って。
 もう二度と起きないことを願って。

 あるいは、起きたら気持ち悪いことが全てなくなっている世界であることを。
 私にとって最高の世界であることを。
 メリーにとっても最高の世界であることを。

 ああだめだ。頭がいつまで経っても休まらない。

「メリー、キスして」

 メリーは黙って唇をくれた。
 むちゅ、ちゅぱ。
 気持ちいい。心地よい気持ちよさだ。強すぎず弱すぎず。
 頭がほぐれていく。固まっていた粘土が水で溶かされていくみたい。
 
 次第に視界がぼやけていった。瞼は重そうに閉じ、意識が果てしなく遠くへいってしまった。




 

 目覚まし時計が鳴っている。とてもうるさい。どこにあるの。
 鳴りやんだ。誰かが止めたらしい。
 外では雀がチュンチュンと鳴いていた。重い身体を起こしてみると、見慣れない景色があった。
 ああ、メリーの下宿か。
 時計は午前5時を指している。あれからずっと眠っていたのだろうか。
 
 あれから?
 何があったのだっけ。思い出そうとしても思い出せない。

 キッチンのほうからいい香りが漂ってきた。

「メリー」
「なあに蓮子」
「何を作っているの?」
「お味噌汁よ」 

 姿は見えない、声だけの会話。廊下に二人の声が響く。
 
「どうして私がメリーのベッドで寝てるの?」
「……覚えてないの?」
「全然」
「そう……昨日二人で夕食を食べて、そのまま蓮子が泊まったのよ」

 そうなのかな。全く記憶にない。
 もっと大変な、重大なことがあったような気がするのだけれど。
 でも思い出せない以上、メリーのことを信用するしかない。

 キッチンに行くとちょうど味噌を溶かしていた。

「今日はちゃんと大学行くの?」
「へ? 何それ。私がいつもサボってるって言いたいの?」
「え、だって、昨日はあんまり行ってないって……」
「そんなこと言ったかなあ」
「……蓮子、やっぱりあなた、一度病院に」
「なにそれー。私どこも悪くないよ。うん。超健康体」
「そう……」

 メリーは不審そうな目を向けてくる。そんなにどこかおかしいのかな?
 お腹も頭も痛くないし熱もない。ああ、記憶がちょっと曖昧なだけだ。
 若くても物忘れくらいあるわよね。メリーは心配性なのよ。

 二人で朝食を取り、メリーの講義の時間に合わせて下宿を後にした。
 キャンパス内で別れを告げ、自分の講義がある部屋に向かおうとした。

 あれ、講義室どこだっけ。
 休憩時間だからかキャンパス内はたくさんの人でごった返している。
 みんなそれぞれ目的の場所へ向かって歩いている。

 私はどこに行けばいいんだろう。

 知らない土地に突然放り出されたような気持ちになった。

 目的地も、現在地も分からない。私はどうすればいいのだろう。

 忙しなく動き回る学生の中で、私は一人でいつまでも立ち尽くしていた。
六作目です。
蓮子ちゃんいつも病んでばっかりで申し訳ない。

twitter始めました→ https://twitter.com/touhounijiss
ぜひフォローしてください。
コメントお待ちしております。

ASAさんへ
そう言っていただけると嬉しいです。もっと甘い秘封も書けるように頑張ります。

akskさんへ
そうですよね。この二人は二次創作だと病んで共依存になりやすいと思います。だがそれがいい。

性欲を持て余す程度の能力さんへ
ありがとうございます。病んでる蓮子大好きです。

ふわふわおもちさんへ
読んでいただきありがとうございます。
完成させるのはなかなか大変でした。病んでる蓮子が見たいという一心で書きました。
しずおか
コメント




1.ASA削除
こぇぇぇぇぇΣ(゚д゚lll)
でもこの病みっぷりがまたよかったりする
2.aksk削除
蓮子ちゃんがっつり病んでますけど、メリーも実は相当病んでますよね!いいですね!
3.性欲を持て余す程度の能力削除
この病みっぷりは…いい…!
4.ふわふわおもち削除
これくらい壊れていると逆に心理を追う、記述する、というのが非常に難しい気がするのですが、丁寧にかつ大胆に日常を抉っていっているのがいい。
5.Yuya削除
メンヘラ好きだと自称していましたがまだまだ甘かったようだ……、怖いとは思わないけど、レイプごめんなさい包丁のコンボはめんどくさすぎる