真・東方夜伽話

On your happy days.

2013/07/21 20:58:32
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On your happy days.

名無し

On your happy days.  

《 だって今日は、特別な日。 》


――――――――――――――――――――――――――――――

* 半直線の始点における必要条件と最低条件  *

 昔の、話だ。
「お前、――――は好きか?」
 その問いに対して自分がどう答えたのか、私は覚えていない。
 少なくとも、無条件の肯定ではなかった。
 否定か、保留か、誤魔化しか――――まぁどれにしても、捻くれた答えであったと思う。
「クク、そうか」
 『彼女』は笑った。
 ギラリと、月光を反射して光る牙。 月光の妖を吸い取ったように艶く髪。 月光のような煌く瞳。
「じゃあお前、私についてこないか?」

 『彼女』は笑った。
 月が私に、微笑んだ。

――――――――――――――――――――――――――――――

* 素直になれたらキルミーベイベー *

 最近、紅魔館の当主、レミリア・スカーレットの体調が悪いらしい。
 その噂は、人里にすら広まっていた。
 なに、不思議なことではない。 噂が広がるのも、レミィの体調が悪いのも。
 紅魔館には、口が軽い者が多い。 それから、身軽な者。 恐らく、噂が広がったのは『身軽な者』のせいだろう。
 身軽で口軽な魔法使い、霧雨魔理沙が先日紅魔館に侵入した折に、妖精メイドやら門番やらメイド長やら小悪魔やら、その辺りから聞いて、それを周囲に吹聴した、というのが私の見立て。 元より謎の多い紅魔館、噂が広まるに、時間は要さなかっただろう。
 ――――それと、レミィの体調が悪いことも、不思議ではない。
 確かに妖怪は、人と違って風邪に侵されたり病に臥したりはしない。 特に吸血鬼なんてのは、菌や病が裸足に逃げ出す。
 でもそれは、それだけのことなのだ。 風邪をひかない、病にならない。  でも、身体は壊す。 妖怪だって、胃痛をしたり筋肉痛をおこしたり、飲みすぎれば二日酔いにもなる。 種族特有の病があったり、疲労で毛が抜けることも。
 レミリア・スカーレットのも、その延長線でしかない。 数日の間寝て妖気を養えば、きっと元通り。 
  ――――そういう風に、周りは思っているようだ。
 いやあながち間違いではない。 確かにレミィは、数日経てばよくなるだろう。 だが、コトはそれほど単純ではないのだ。 コトを解決する為には、私が手を貸さなければならない。
 私でなければ、いけない。
 はぁ、やれやれ。 厄介な。
 呟きながら、本を閉じて、私は椅子から立ち上がった。 使い走りの小悪魔が、ニッコリと私に微笑んだ。 私はつっけんどんにプイ、と顔を逸らし、扉を開けた。
 長い廊下を歩いたときに零れたのは、溜息でも愚痴でもなく。
 ふふ、という笑いだった。

――――――――――――――――――――――――――――――

* 運命の妖怪と理不尽の溶解 *

「どうしたの? レミィ」
「あぁ……いやどうも、頭痛が」
「ふぅん、睡眠が足りないのかしら」
 紅茶に一口もつけず、ぼーっと虚空を見据えるレミィ。 湯気はもうとっくに消えて、今から砂糖を入れてもきっと溶けきらないだろう。
 好物である筈の紅茶にすら、幾十年来の友人である私の話にすら、興味を示さない。
 体調でも悪いのだろうか。 まぁ本人が言うくらいだから、きっと悪いのだろう。
 ――――ふと、私はとあることに気がついた。
「……あぁ、そっか。 あれからもうそんなに経つのね」
「ん、何か言った? パチェ」
「いえ、なんでもないわ」
 カップの底にほんの僅か残った最後の一滴を飲み干す。 さっきまでより、ずぅっと甘かった。
「養生することね。 吸血鬼が真っ青な顔なんて――――笑えてしまうもの」
「ふん。 魔女が青白いのは、吸血鬼への負け惜しみ?」
「まぁ――――直ぐ顔を真っ赤にはしないわ」
「青臭い」
「垢抜けないのよ」
 どうやら、冗談を交わす程度には元気があるらしい。 人間のメイドである咲夜が、私のカップに新しい紅茶を注ごうとする。
 私はそれを手で制した。
「今から少し調べ物があるの。 妖精メイドを数匹貸してくれる?」
「畏まりました」
 恭しく頭を垂れて、咲夜は近くの妖精メイドに指示を出した。
 レミィはようやく、紅茶に口をつけた。
「――――甘くない」
「当たり前でしょう。 砂糖を入れてないんだもの」
「今から入れても遅い、か。 理不尽ね」
「運命を操る妖怪が、理不尽なんて言葉を知っているのね」
 ざぁっ、と、スプーン山盛りの砂糖がカップの中へ落ちた。
「……今更入れても、溶けないわよ?」
「いいのよ」
 そう言うとレミィは、カップの中の液体を一息に飲み干した。
「こうすれば、甘いわ」
 勝ち誇ったような、満足そうな、或いは子供のような。 そんな全く似合わない笑顔を、レミィは浮かべた。
「――――そっちの方が、よっぽど理不尽だわ」
「運命なんてそんなもんよ」
 私は肩を竦めた。
 レミィはお茶をお替りした。

――――――――――――――――――――――――――――――

* 琥珀色の死 *

 昔の、話だ。
「パチュリー、――――は好き?」
 この質問に対して、自分が何を言ったか、今でもはっきりと思い出せる。
 否定ではない。 まぁだからといって、手放しに肯定したわけでもない。
 捻くれた物は、中々平らにはならない。
 でもまぁ、その答えは、彼女を笑わせるには充分で。
「うふふ、そう。 じゃあ、これからも私についてくる?」
 えぇ、今更離れるのも面倒臭いもの。
 そんなことを、言ったのだったか。
 「そう。 うれしいわ」
「……それに、ここは本が一杯あるから」
「好きなだけ読むといいわ。 吸血鬼の宝の持ち腐れなんて、屍鬼にすらならない」
 私の照れ隠しに対して、彼女は素直だった。
「だから、一杯読んで頂戴。 なんなら、全部読んでくれて構わないわ」
 彼女は、楽しそうにそう言っていた。
「本を読むのに疲れたら――――そうね、紅茶でも飲みながらおしゃべりしましょうか」
 楽しそうに、楽しそうに。
「貴方は、貴方が読んだ本の話をして……私は、そうね。 大したことは話せないけど、きっと楽しいわ」
 あぁ、それはそれは。
 それはそれは楽しいだろう。
 
「パチュリーは紅茶は好き?」
「……嫌いではないわ」
「そう、じゃあ紅茶で決まりね! 早速用意させましょうか」
 全く、いつもこうだ。
 彼女はいつだって、他人の話を聞かない。
 或いは、聞く必要がないのかもしれない。
  まぁ何にせよ。 明日のお出掛けの予定を友達に自慢する子供のような、無邪気な邪鬼に。
 私は惹かれていくのだった。

――――――――――――――――――――――――――――――

* 吐気の唾棄は禁忌を抱いて *

 安っぽい。
 嗚呼なんて薄っぺらいのだろう。
 私がこれまで探してきたのは、捜してきたのは、こんなにも浅薄で安易な答えだったというのか。
 私の決して短くない時間は、こんなもののために消えていったのか。
  はは、
   あはは。
 嘲るような笑いが勝手に漏れる。
 自嘲。
 自嘲自嘲。
 自責自縛自壊。
 三流吟遊詩人すら吟わないような、夢見る乙女でも唾棄するような。
 そんな物語が、私には任されているというのか。
 負かされているのか。 撒かされているのか。
 私に出来ることなんてその程度でしかないと、正面から言われた気分だ。
 気色悪い。 いやそれ以前の問題だ。 そうか、そうだったのか。
あのときから、そうだったのか。
 私に出来ることなんて昔から変わっていないと、後ろから切り捨てられた気分だ。
 後味悪い。
 吐きそうだ。
 自分の過去に自分の愚かさに自分の愚鈍さに自分の黒さに自分の汚れに自分の重みに因って。
 彼女の過去に彼女の美しさに彼女の賢明さに彼女の白さに彼女の穢れに彼女の重みに酔ってしまっているから。
 いっそ吐いてしまおうか。
  愚かで愚鈍で黒くて汚れた私からは、何が流れ出すのだろうか。
 弱音? 愚痴? 或いは胸に秘めた思い? そんなものは吐き捨ててしまえ。
 忌避し敵意していたものに、私はきっと勝てないだろう。
 
 嘘。
 そんなものに負ける私なんて、居ない。
 だって彼女は、負けないもの。
 重厚なハッピーエンドなんて吐き捨てて。
 私は安いバッドエンドを選ぶとしよう。 
 気持ち悪さのバーゲンセール。
 奇跡幸運の大安売り。
 者ども集え眺めよ嘲哂え。 
 大魔法使いの、一世一代の出血サービスの始まりだ。

――――――――――――――――――――――――――――――


* 反芻する反照 *

「パチェ、貴方は、――――、好き?」
「えぇ好きよ。 ――――と同じくらい」





――――――――――――――――――――――――――――――

* 猛獣は檻にて嘶かず *

「レミィが居ない……?」
 青天の霹靂、とはこういうことを言うのだろうか。
 私の部屋に入ってきて、挨拶もなく咲夜が告げたのは、現在体調を崩しずっと『寝たきり』になったままのレミィの消失だった。
 今朝(といっても暮れ方)、妖精メイドが様子を見に寝室へ行ったところ、ベッドが蛻の空となっていたらしい。 自分の意思か、或いは第三者の介入によるものか……どちらにせよ、緊急事態だ。
「只今出来うる限りの人員を動員し捜索にあたっております。 しかしながらお嬢様の行方は依然として掴むことができません。 ――――ひいては、パチュリー様に、お嬢様の居場所の心当たりなどを」
「――――ないわね」
「左様でございますか」
 タイムラグもなく、瞬時に答え瞬時に姿を消す咲夜。 普通ならば、もっと食い下がったりするものではないだろうか。
 まぁといっても、咲夜はそもそも普通ではないし、食い下がったところで変わらないと知っているのだろう。
 「……あの、バカ」
 一人ぼっちの部屋で呟いてみる。
 こんなにも人を心配させて。 本当にバカな奴だ。
 こんなにも人を心配させて。 本当に罪深い奴だ。
 ぎゅうっと、手の平に爪が食い込んだ。
 パタリと、読みかけの本を閉じた。
 物語はようやく、幕を開けた。

――――――――――――――――――――――――――――――

* 始まりのような、始まりの終わり *

「パチェ」
「……何よ」
「なんだ、ちゃんと反応するじゃない」
「無視したらしたで、反応するまで呼び続けるでしょ」
「ふぅん。 パチェは素直じゃないのね」
「……いい加減にして頂戴」
「今日はどんな本を読んでるの?」
「――――アンタって人は」
「昨日はどんな本を読んでるの? 明日は何を読むつもり? その次は?」
「そんなの、覚えてないし考えてないわ」
「どうして? きっと楽しいわよ。 それに私は、パチェの考えたことが知りたい」
「私には貴方の考えていることがわからないわ」
「だから、話して欲しいの」
「私はそろそろ離して欲しいわ」
「そう。 じゃあ」
「……あら、あっさり引くのね」
「伊達や暇つぶしでここに来ているわけではないわ。 酔狂かもしれないけど」
「酔ってるの?」
「久しぶりの友人に」
「……酔い覚ましは、何がいいかしら」
「ゆっくり本を読んでね。 私とおしゃべりするのは、気が向いたらでいいわ」
「……じゃあ。 また。 あとで」
「えぇ。 また会いましょう。 あとで」
「そうしましょう――――……レミィ」
「何か言った?」
「いいえ、何も」


――――――――――――――――――――――――――――――

* 指切り拳万そこには居ないから *

「私、――――が嫌いだわ」
「……そう」
 本に目を落としたまま、レミリアの呟きに相槌を打つ。
 なんだかいつもと言っていることが正反対だが、まぁ気紛れな彼女のことだ。 特に深い考えや意味があって言っているわけじゃないだろう。
「貴方は――――が嫌い?」
「貴方と一緒よ」
 私は適当に、しかし妥当であろう答えを選ぶ。
「そう、じゃあ、大好きなのね」

 紅茶を注ぐ音が止まった。
 止まるまで鳴っていたとは気づかないほど心地のいいそれは、今度は湯気に変わっていた。
 私は本をパタリと閉じた。
「えぇ、きっと」
 差し出されたカップを、私は両手で受け取った。
 カップの中身に、矛盾は何一つとしてなかった。
 

* 退屈を貫く歪んだ剛直 *

「まだ、帰って来てないのね」
 何となく感じた喉の渇きで、そのことを思い出した。
「……紅茶が頼みにくいじゃない」
 主が居なくなった従者達に、主の縁者として屋敷に居るだけの私が紅茶を頼むなど。 出来ない訳じゃないが、いや彼女達は喜々として紅茶を淹れてくれるだろうが。
 でも、何ていうか……まぁ、とにかく、頼みにくい。
「はぁ、水でも飲もうかしら。 魔法でその辺から湧かして」
 ――――なんて貧乏臭い。
 やめやめ。 魔女が恥を忘れたらお終いだ。
「……全く、早く帰ってきなさいよ。 あのバカ」
 そういえばレミリアの寝室に水差しかなんかが有った筈だ。
 運が良ければ何か入ってるかもしれない。 それを戴こう。 そんな打算があって、私はレミリアの寝室に向かうことにした。
――――不思議と、それを恥ずかしいとは思わなかった。
  
――――――――――――――――――――――――――――――

* 手乗りサイズの幸福、に良く似た毒 *

「……まだ、帰って来てないのね」
 シーツが乱れたままで空っぽになってしまった、ひとりで寝るには大きすぎるベッドの縁に腰掛ける。
 スプリングの音はせず、柔らかい感触が私の尻を受け止めた。
 ぽっかりと空洞ができた布団に、私は手を入れてみた。 温もりはなかった、当然だ。
 当然のことなのに、当然のことだから。 それが余計に寂しかった。
「寂しい――のね。 私」
 久しぶりに感じた、孤独。 昔はそれが当然だったのに、今となってはその『当然』が私を苛む、苦しめる。
 何となく、私はレミィのベッドに寝転がってみた。 温もりは無かったけど、彼女の匂いがした、気がする。 深く深呼吸をしてみる。 ――――やっぱり気のせいだった。
 馬鹿馬鹿しい。
「捜しに、行こうかしら……」
 でも、何だか眠いから。
 このまま、お休みなさい。
 


* 現実から目覚めた小さな岩の上のアホウドリ *

 井戸の中の蛙は、大海を知らない。
 でも、必死で上を見上げれば、月くらいは見える。
 月は海よりもずっと大きい。
 そんな詩を昔読んだ気がする。
 でも、私はそのどっちも知らない。 
 
「でも、私はもっと大きな物を知ってる」

 月より輝き、海より果てしなく。
 海に映る月よりも、ずっと手の届かない物。

「私は、海になりたい」

 彼女を。 彼女の全てを。 彼女の。 偽物を。
 映し出して。 揺らして。 歪めて。 壊して。
 
「蛙なんかには、なりたくないわ」

 月を見上げた蛙は首を折った。
 海を知った蛙は融けて喰われた。

「月になんか、なれっこないわ」

 果てしなく暗く、恐ろしく広い空間にポツンと佇み。 
 他の誰とも関わることなく、他の誰かは勝手に関わって。
 でも、自分の物ではない光を反射し続け。
 気高く尊くそこに在る。
 そんなこと、私にはできない。

「私は、海になりたい」

 全てを包み込む、海に。
 私はどろりと融け始めた。
 ポタリポタリと滴り始めた。
 形を亡くした端から、じわりとじゅわりと昇っていった。
 月はもう、私なんて見てなかった。


――――――――――――――――――――――――――――――

* 後ろの正面の私は誰 *

「悪い夢ね」
「そう?」
「えぇ、最悪に劣悪で醜悪に凶悪」
「そうだったのかしら」
「現実と夢の区別はつけなさい」
「ここは夢?」
「現実。 私が居るでしょ?」
「……そう」


――――――――――――――――――――――――――――――

* このフィクションは嘘です * 

 夢だった。
 
――――――――――――――――――――――――――――――

* 毒蛇の牙は腐らず、刺された者を喰い続け *

「パチュリー様はどうやってお嬢様とお知り合いに?」
 唐突だな、と思った。
 咲夜が私に話しかけてくることなんて滅多にないし、こんな質問をしてくるなんてもっと無い。
 いつもは従者らしく、どんな形であれ自分から私やレミリアにアプローチすることはないのだが、今日はどうやら、『いつも』ではないらしい。
「そうね、どうだったかしら。 少なくとも良い出会い方ではなかったような気がするわ。 運命的ではあったかもしれないけど」
「運命的、ですか」
「……比喩表現であって、深い意味はないわよ? レミィの能力がどうとか、そういう事じゃなくて」
「えぇ、存じておりますが……ところで、パチュリー様。 運命ってなんだと思います?」
「さぁ。 それこそレミィに訊いてみればいいんじゃない?」
「……答えて下さると思います?」
「……応えてもくれないでしょうね」
 チラリと、私達二人は同じところに目を落とした。
 そこに居るのは――いや、在るのは――たった今話題になったレミリア・スカーレットその人だった。
 『棺桶は死人の入る物』と生前主張していた彼女は、正にその『死人の入る』棺桶に眠っていた。
 寝返りも打たず。 寝息の一つも立てず。
 それは眠るというより、そう。 『在る』だけのようで。
 月光の妖を湛えた煌髪はくすみ、月のような瞳は閉じられ、月光を反射する牙は隠れ。
 でも、彼女の持つ気高さは少しも隠れず、衰えず。
 狭い狭い棺桶は、まるで彼女だけが存在を許された、パルティアの聖域のようで。
 とても触れようとは、思えない。
「――――とっても綺麗だと、思いません?」
 咲夜はポツリと呟いた。
 目を細め、僅かに微笑んで、しかし、彼女の膝の上の手は、強く握りこまれていた。
「えぇ。 いつもこうだと良いのにね」
 皮肉っぽく、わざと空気に沿わぬ事を言ってみる。
 咲夜は怒るだろうか。 そう思ったが、彼女の表情は相変わらず柔らかく、拳は硬いままだった。
「悔しいの?」
「そんなこと……ありませんわ」
 どうやら咲夜は、嘘が苦手なようだった。
 レミィが咲夜のことを狗と揶揄することがあり、咲夜もそれを自負するきらいがあるが、成る程。 尻尾は口ほどに物を言う。
 咲夜は冷静で、優秀な従者だ。
 優秀だからこそ、悔しいのだろう。 冷静で優秀な従者は、冷静で優秀な人間足り得ない。
 人間一人に出来ることなんて、本当に少ない。 その事を知っているから、悔しいのだろう。
「……あまり自分を追い詰めないことね」
 私は咲夜に目をあわせないまま、言った。
そんなこと言えた身じゃないクセに、偉そうに。
誰かの声が聞こえた気がした。
「私の方で出来ることはしておくから。 あまり無理はしないようにね」

 咲夜からはきっと、私の言葉がただの気休めに聞こえるだろう。
 意味のない、挨拶以下の雑音として。
 今咲夜に必要なのは、私なんかの慰めではなく、主人であるレミィのたった一言。
 いや、例えばレミィが目を開けてくれれば、それだけでいいのだろう。 レミィの身じろぎの一つでも、咲夜はこの苦痛から解放され、大きな喜びを得ることが出来るだろう。
 でも。 それは。 叶わない。
 他人とはいえ、同じ屋根の下で暮らし、同じ者を慕っている者として、今の咲夜に何かしてあげたいという気持ちはある。
 というかそうでなかったとしても、今の咲夜は、直視するには痛々しすぎる。
 だから、私は。 
 もう一度、気休めを吐いた。
「ねぇ、咲夜――――」

――――――――――――――――――――――――――――――

* 目覚めることなきマゾ歪夢 *

「あくっ……ん……ッ!」
 ぴんと張り詰めた双丘に、私はむしゃぶりつく。
 可愛らしい嬌声が聞こえた。
 唾液をたっぷり絡めた舌で、ねとりと舐る。  いやらしいラインが出来た。
「パチュリー、さまぁ……!」
「呼ばないで」
 せめて、今だけは、その名を。
 私のためにも、貴方のためにも。
「今は、気持ちいいことだけ考えていればいいわ」

 そうでなきゃ、こんなことする意味ないもの。
 私はまた、咲夜の可愛らしい癖に誘惑的な胸を愛撫する。
 人間の必経であるはずの醜老や変衰など、永遠にないのではないかと思わせる程美しく若々しい、ハリのある肌に舌が這った。
 びくりと、咲夜の身体が反応した。 素直に快感を享受しているとは思えない、控えめな喘ぎ。
 きっと咲夜の心にはまだ、遠慮だとか戸惑いだとか、そういうものが残っているのだろう。
 主人の非常時に、こんなことをしてて良いのか。 自分だけが気持ち良くなって良いのか。 
 そんな、つまらない考えが。
 「く…………ひっ!」
 いたわるような愛撫を、無言で荒々しくしてみる。
 突然の脳髄をくすぐるような電流に、さすがの咲夜も我慢できなかったのか、抑えていたらしい声を漏らした。
 我慢なんていうのは、一度決壊すればあとは済崩し。
 弱点を狙い、触れて撫でて舐めて揉んで、昂ぶらせるだけでいい。
「んあぁ……! んっ……」
 鳴き声のような声を漏らしながら、私の愛撫に合わせて、咲夜は背をのけ反らせたり、身を捩らせたりする。
 いつもは犬みたいなクセに、その動きは何だか猫のようだった。
 反応の違いから、咲夜の一番感じるところを探す。
 そこを重点的に、或いは執拗に責めて、咲夜を快楽へと誘う。
「だめ、です……っ! お止めください……!」
 全く止めて欲しくなさそうな声を、快楽の波から絞り出す咲夜。
 唾液がねっとりと糸をひく咲夜の口に、私は指を突っ込んだ。 極上の綿飴よりも柔らかい唇に指の腹を押し当て、ゆっくりと開かせる。
 熱っぽく甘い吐息が指を撫でた。 ざらざらした咲夜の舌の表面を、指先でなぞる。 咲夜の口内にたっぷり溜まった唾液が絡みついて、滑りがよくなる。
 暫く指だけで咲夜の口内の温もりを楽しむ。 それから、もう一度、咲夜の口を大きく開けさせた。
「んぐ……っ」
「まだ、開けたまま」
 強引に押し開いた咲夜の唇に、私は自分の唇を合わせた。
 そして、ゆっくりと重ねて。
「んっ……! ひぁっ」
 たっぷりと溜めた唾液を、咲夜の口内に流し込む。 そして、かっさらうように、舌で咲夜の唾液を掬い取り、飲み込む。
 ほんの一瞬で終わる、唾液の交換。
 でも、媚薬のように甘く、淫らな二人分の唾液は、心の芯を溶かすには充分すぎて。
「ふ、ぁ……っ、ちゅぱ、じゅるるっ!」
 舌先で、咲夜の舌の表面をザラリとなぞる。ビクビクと、咲夜の身体が小刻みに痙攣する。
 ――――あぁ、なんて可愛い。
 この美しい花を、今から私が汚す。 散らす。  そう考えると、勿体無いという気持ちと、征服欲に似た悦びの気持ちとの、二つの感情が湧いてきた。
 でも、私のワガママな心は、即座に後者を選んだ。
「あ……! ソ、コは、ダメです……っ!」
 ゆっくりとした口づけを続けたまま、私は咲夜の秘所に手を伸ばした。
 咲夜が唯一纏っているショーツは、触れてもいないのにグショグショだった。 柔らかいコットンの布地に触れると、じわりと愛液が染み出して指先を濡らした。
 「期待してたの?」
「ち、ちが……! ん、ちゅ……」
 何かを言おうとする咲夜の口を強引に塞ぐ。
 そしてまた、どちらのものかも判らなくなってしまった唾液を流し込み、舌を絡める。
 興奮と昂ぶりと羞恥で真っ赤になった咲夜の頬にも、私は一つキスをした。
 ほんの少しの汗の味と、肌の火照りの熱を感じた。
「脱がすわよ」
「あぅ、だめぇ……」
 咲夜の答えなんてまるで聞かず、私は咲夜のショーツに指を掛けた。
 ゆっくりと、しかし止まることはなく。
 咲夜の控えめなヒップには緩すぎるウェストゴムは、簡単に咲夜の腰を抜けた。
 私は少し手を伸ばして、咲夜のヒップを撫でる。 サラリと、お白粉でも撒いたような肌触り。 弾力のある薄い尻肉は、少しでも触れると、指を離せなくなってしまうほど、魅力的な柔らかさだ。
 きっと少しでも乱暴に揉みしだけば、簡単に尻骨にも触れられるだろう。
「ひぅ……っ、ひゃん……んふっ……!」
 甘く漏れ出した吐息は、私の理性を破壊的に占領する。
 微弱な響きが、この淫靡な空間の作用脳で増幅し、脳が蕩けてしまいそうになるほど刺激的になる。
「もっと、もっとないて」
 願わくば、私の胸で。 腕の中で
 咲夜はレミィの胸で、どんな声で泣くのだろうか。
 咲夜はレミィの腕の中で、どんな顔で啼くのだろうか。
 私はその声を、その姿を見ることは永劫に出来ないだろう。
 もし仮に機会に恵まれても、きっと目を向けてはいられない。
 ――――あぁ、なんて狂おしいの。
「パチュリーさまぁ…………」
「だから、名前を呼ばないでって言ってるでしょ。 なに?」
「その、もう、せつなくて……っ」
「――――ふぅん?」
 私は、下卑た笑みを浮かべた。
 顔の歪みを止められないまま、私は更に下卑た声で咲夜に言った。
「せつなくて? せつなくて、どうしたの?」
 答えは、知ってる。 でもそれを、咲夜の口から聞きたい。 気色の悪い、にやけとも言えない口元の歪みが抑えられない。 
「ですか、らぁっ……! もっと、くださいっ……!」
「もっと、なにをしてほしいの?」
 頬を、これでもかというくらいに真っ赤に染めた咲夜を見ても、どうやら私の欲求は尽きないらしい。
 鍵盤でも弾くように、咲夜の瑞々しい肌に触れる。
 健康的な太腿の弾力が、何だか咲夜の今の姿とは不釣合いで。 そのアンバランスさは、私を酔わせた。
「もっと……、その……」
「――――いじめて、ほしい?」
「え……?」
 熱に浮かされたような瞳のまま、私を見上げる咲夜。
「もっと、いじめて欲しいのかって」
 そんな訳ないのに、その言葉は自然と口から飛び立っていった。 どんな結果をもたらすかなんて、想像もしないままに。 私の嗜虐心は、どうやら自分を苛むのも好きらしい。
 いいや、やっぱり撤回しよう。 こんなことを言って、何になるのだ。
 そう思った矢先、咲夜の白磁器のような喉がゴクリと動いた。 
「おね、がい……します」
「――――え? な、なんて?」
 私は思わず、そう訊き返してしまった。
 折角の緊迫した雰囲気を台無しにしてしまうような、間の抜けた声で。
 しかし咲夜はそんなことを全く気にしない様子で――というより、そんな余裕もないといった様子で――もう一度、しっかりと復唱した。
「私を、いじめて下さい……っ! 私を、めちゃくちゃにしてください……!」
 それは、涙混じりの震えた声だったが、確かな意思の強さを感じた。
「……咲夜」
 そんなものを見せられたら。
 理知的な咲夜の、淫らに乱れた泣き姿で魅せられたら。 
「……きゃふっ!」
 耐えられる筈が、ない。
 私はほぼ無意識の内に、咲夜の剥き出しの肩に掴みかかり、咲夜の身体を拘束するように覆いかぶさっていた。
 その状態から、上からキスを浴びせる。  唾液を交換するようなゆっくりとしたキスではなくただ唇を重ね、密着することだけを目的としたような、激しいキス。
 咲夜の苦しそうな荒い呼吸すら、私にとっては行為を加熱し過熱させる為のBGMに過ぎなかった。
 唾液が零れるのも気にせず何度も口づけを交わしていくと、咲夜も余裕が出てきたのか、自分から舌を絡めるようになった。
 勿論私は、それに応える。
 強い静電気が、私達の身体を一瞬で駆け巡り往復する。 まともな感覚など、既に酔って麻痺してしまった。
「はげ、ひっ……! じゅぷ、ちゅぱ……っ」
 ふと咲夜の口元を見ると、咲夜の口端や頬に、唾液が垂れているのが見えた。
 私は唇を離し、その唾液を舌で掬い取る。
 新しい唾液が塗りたくられ、結局のところ意味はないのだが、咲夜はくすぐったそうに笑った。
 そして、私にも同じことをしてくれた。
 どうやら私にも、中々の唾液がついていたらしい。
 そんな姿を見られていたのかと思うと、恥ずかしくもあり、何だか嬉しくもあった。
「あふっ……ん、ちゅっ……」
 互いの唾液を舐めとり終えると、私と咲夜は、どちらからともなくキスをした。
 肌を重ね、舌を絡め、唾液と体温を混ぜ、互いの身体を求め合い貪り合うような情愛的なキス。
 ――――嘘だ。
 求めてなんか、いやしない。
 只の自慰行為だ。
 慰めを必要とする者同士が、それぞれ互いの身体を道具にしているだけの、浅はかな自慰。 妄想に投影し性欲を解消する思春期の子供にも劣る、幼稚で野蛮な自傷行為。
 私は、咲夜の背中に爪を刺した。
「……っ! い、った……!」

 脳味噌を掻き毟るような嫌な感触がした。
 咲夜が苦痛に顔を歪める。 私はその顔に口づけを施した。
「ん、ふくぅっ……!」
 強引に唇を塞ぐと、咲夜は抗うかと思ったが、寧ろ私を強く抱き締めてきた。 やられっぱなしは割に合わないと思ったのか、積極的に私に舌を絡めてきた。
(――――面白いじゃない)
 私は咲夜の肌から爪を離した。
 その瞬間、咲夜が一層痛そうに顔を強張らせた。 
私を責める舌の動きも、一瞬だけ止まる。 その一瞬を私は逃さず、一息に攻勢にまわる。 咲夜の舌にたっぷりと絡んだ唾液を吸い取る。 咲夜の身体がびくんと跳ねた。
 その隙に、空いた手を咲夜の秘所に伸ばす。 しばらく放置していたソコは、未だぐっしょりと濡れそぼっていた。 生え揃った陰毛の感触を撫で梳いて愉しむ。 唾液が奏でる淫らな水音が、陰毛の感触とは何だかアンバランスで。 
「くふっ……んちゅ……っ」
「ふふ、可愛いわ……ふぁっ!?」
 突然私の背筋に、咲夜の指が這った。 全身の毛が逆立つような、寒気に似た快感が全身に走った。 一瞬だけ、頭の中が真っ白になったような錯覚に陥る。
 ――――そう、一瞬。
 既視感と違和感、そして。
「ひぁっ! すっ、ちゃ、だめぇ……!」
 咲夜が、私の首元に噛み付いた。
 いや、正確には吸い付いたというのが正しいのだろうが、首の薄皮に甘く立てられた咲夜の歯は、私には強すぎる刺激だった。
 全身の血が一箇所に集まるような感覚がして、咲夜の歯が当たっている部分が熱くなる。 
「ほん、とにっ……犬みたい、ねっ……!」
 全身を蹂躙する快感に抗いながら、私は精一杯の皮肉を口に出す。
 しかしそれは寧ろ、惨めな遠吠えでしかなくて。
 咲夜はニコリと笑い、次は私の肩に喰らいついた。
 浮き出た鎖骨に舌が這うと、私の身体の芯に甘美な電流が流れた。
(歯立てられると……拙い……!)
 全身から力が抜け、咲夜の蛮行に対抗できず、されるがままとなってしまう。
「ふふっ、可愛いですわ」
 先程までの乱れた姿は何処に行ったのか、余裕ぶった様子で咲夜はそう言った。 そしてその余裕で、私を更に責めたてる。 片手を私の首に回したまま、もう片手で私の乳首を抓んだ。
「ひゃぁんっ!」
 思わず大きな声を出してしまい、私は赤面する。 咲夜はそんな私を見て、ふふ、と更に余裕のある笑みを浮かべた。
 ――――調子に乗って。 覚えていなさいよ。
「おっぱい、感じ易いんですか?」
 一度自分の指先をペロリと舐め、それから咲夜はまた私の乳頭に手を伸ばした。
 滑りの良くなった咲夜の指先は、私の情感を一層昂ぶらせた。
 私の乳首を二本の指の腹で挟みながら、胸を優しく揉む咲夜。
「あっ、ん、ふぁ……!」
「良い声、ですわ」
「ふっ、くっ――――ふ、ふふふ。 随分と、手馴れてるのね」
「……はい?」
 咲夜の口が私から離れ、咲夜の愛撫が止まった隙を見計らって。 私は彼女に囁いた。
「自分でも、触ってるの?」
「え、えっと……?」
 途端に、咲夜は露骨に動揺しはじめた。
「だから、オナニーしてるのかって訊いてるの」
「い、いえあの、パ、パチュリー様……?」
 咲夜が冷や汗をかきはじめる。 目はキョロキョロと泳いでいる。
 あぁ。 なんて隙だらけ。
「だから、名前なんて呼ばないで。 ――――こんなときくらい、そんなこと忘れちゃいましょう?」
 グイ、と咲夜の手首を強く掴む。 
「あ…………」
「激しく、いじめて欲しいんでしょう?」

 幸い、というか、怪我の功名というか。 咲夜の愛撫で私の身体はすっかり昂ぶっていた。 
 これならきっと、本能の赴くまま、理性なんてつまらないものの出番がないまま、先程の宣言通り、咲夜をたっぷりと『いじめられる』だろう。
 掴んだ手首を、ぐいと引き寄せる。 誂え向きに、咲夜の首元が、私の口の前に近づいた。 そう、それはまるで、瀟洒な召使によって運ばれてきた、最高のメインディッシュのように。
 私はそれに、かぶりつく。 飢えた子供――或いは獣――のように、マナーなんて守らず。
「ひあっ……! くぅっ……!」
 さっき咲夜がしたように、私は咲夜の首筋に歯を立ててみる。 甘噛みなんかじゃなくて、少し痛みを感じるくらいに。
 咲夜の悩ましげな喘ぎに、私は満たされたような気分になった。
 嗜虐で満たされた訳ではない。 もっと粘度の高い、ドロドロとした歪みに。 
 咲夜の首に噛みつくのは、本来私の役目なんかじゃなくて。 咲夜もきっと、私なんかにされるのは本望ではなくて。 それを私は知っている。
 でも。 止めない。
 浅薄な真似事で。 最低な劣化品で。 私は今、私のモノではない咲夜を占領している。 我侭な感情で、身勝手な倒錯で、咲夜を犯している。
 それを悦びと感じてしまう自らの歪みを、また悦びとして。
「っん……! ――――あ、ひゃあ!」
 咲夜に咲夜の秘所に手を伸ばす――――何度目かも解らないけど、今度こそたっぷりといじめてやろう。
 陰毛の感触を楽しむなんて悠長なことはせず、私は早速、咲夜の秘裂に触れた。 周りには既に愛蜜が溢れていて、私の指先を濡れさせた。
 滑りがよくなったところで、まずは指一本で咲夜のワレメに侵入を試みる。 侵入者を拒むように、ピッタリと閉じられたソコは、しかしあっさりと開いて。 まだ湧いているのか、と驚いてしまうほどの愛液がたっぷりと溢れだしてくる。 大して力を込めなくても、愛液の潤滑によって私の指はずぷずぷと咲夜に埋没していった。
「はっ、ふぅ……くゥ、ん……!」
 深いところまでは挿れず、入り口のところで指を浅く往復させる。
 激しい動きでもないのに、蜜壷から溢れ私の指を包む愛蜜は、淫らな水音を奏でていた。 
「んぁっ……くふっ……。 ちゅ、ちゅぱっ……」
 咲夜が必死に首を伸ばして、私にキスしてきた。
 顔を真っ赤にして私の唇に吸い付こうとする咲夜は、何だか赤子のようで。 私は咲夜にキスを返して、咲夜の後ろ髪をサラリと撫でる。 砂のように指の隙間に滑り落ち、僅かな光をも反射しキラキラと光る。 サラサラした感触の中に、潤いや、ひんやりとした冷たさすら感じるその髪は、馬油を塗ったように艶やかで、しかし全くベタつきや引っ掛かりを感じさせなかった。
「くっ……あ、ひぅっ!」
 咲夜の肉裂を弄りながら、私はふと、自分のクリトリスに手を伸ばしてみた。
 下半身に両方の手を伸ばしているので、何だか不恰好だったけど、この際どうでもいい。 気持ち良くて、イヤな事を忘れられるなら。
 ようやく手が届いた自分の秘所は、咲夜のソコと同じように、いつの間にかしとどに湿っていた。 その滑りを頼りに秘所の上の方を探ると、肉芽は簡単に見つかった。
 くり、と少し指で挟むと、強烈な電流が一気に走った。
「はぁ、んッ……!」
 強烈な快感の余り、私は結構大きな声を漏らしてしまった。 ――――咲夜に聞かれてしまっただろうか、そう思って咲夜の顔をチラリと見るが、どうやら自分の快感に夢中のようだった。 
(――――でもこのままじゃ、また声出ちゃいそうね……)
 折角咲夜をこちらのペースに巻き込んだのに、みっともなく私が喘いだりなんてしたら、恥ずかしいというか、興醒めだ。
 何とか声を抑えられないものか――――そうだ。
「…………咲夜」
「……ふぇ、なんで……んむっ!?」
 開いた咲夜の口を、私の口で塞いだ。
「んー! んぐっ、んむーーっ!」

 咲夜の荒げた呼吸が、鼻から漏れ出す。 そんなことお構いなしに、私は咲夜の蜜壷を指の腹で引掻きまわす。 と、同時に自分のクリトリスをぎゅっと抓んだ。
「ん――~~~ッ!」
「っ――――!!」
 一時、呼吸困難に陥ったような錯覚で、目の前が真っ暗になる。
 しかしその後、あっという間に視界は真っ白に染められた。
「…………っく、ふぅ……」
 一通り、電流が身体を駆け巡り終わり、私は溜息のような喘ぎを漏らす。 同時に、下の口からも多めの愛液が零れる。
 どうやら、軽く絶頂を迎えてしまったらしい。 最近、性欲を解消してなかったせいか、こんなにも簡単にイってしまった自分が恥ずかしくなる。 
――――いやもしかしたら、それが原因でないのかもしれない。 咲夜が相手であるというのが――――いや、ないない。 所詮これは、お互いの肉体を使った自慰行為なのだ。 ちょっといつもとは状況が違うから、感覚が狂ってるだけだろう。 
 それはそうと、身体が軽く痙攣を起こして、力が入らない。 ふらりと、咲夜に全身を預けてしまいたいという欲求が鎌首をもたげる。
 すると、今まで目蓋をぎゅっと閉じていた咲夜が、目を閉じたまま私をぎゅうっと抱き締めた。 
「咲夜?」
「ん……あ、ふっ……あんっ!」
 肌と肌が密着した状態で、私の身体に擦り寄る咲夜。
 胸の突起やら、身体中の敏感な所が擦れあう度、絶頂を迎えた直後で鋭敏になった性感が過剰に反応してしまう。
 甘えるような咲夜の喘ぎが、私の耳と素肌をくすぐる。
 咲夜に甘えられるのも悪くないな、なんていう感情が浮かんだ。 私はそれを振り払って、もっと下品に、動物的に快楽を追求することにする。
 まず、先程簡単にイってしまったリベンジの意味も込めて、自分のクリトリスに触れる。 一瞬、身体が大きく跳ねる。 が、その後ゆっくりといたわるように触れると、丁度いい快感を感じることができた。
 くりくりと、部屋で自慰をするときと同じように自分の肉芽を捏ね弄る。 咲夜の動きで擦れる肌の感触も、その快感に華を添えていた。 
 咲夜は片方の手を私の後首に回したまま、もう片方の手を、私と同じように秘所に伸ばした。 そして、これも私と同じようにクリトリスを探り出し、軽く指先で弄りだした。
 彼女の可愛らしい蕾に、私は触れてみたいと思ったが、自粛する。
 今はそんなことより、自分で自分を慰めることが大事だ。
 お互い、『お互いではない何か』を求め合うように肌を重ね擦り合わせ快感を生じさせる。 そして自分で、女の最も敏感な部分に触れる。 私と咲夜との性感が何だかリンクしているかのように、体躯を占領する熱は増し、甘美な電流は全身を痺れさせ、行為は更に激しくなっていく。
 水音と荒げた呼吸と二つの身体の擦れる音。 芳しき淫蕩な匂い。
 あぁ、決して一人での自慰では味わえない、贅沢なアントレ。
 贅沢で背徳的なそれを、充分に味わえないままメインディッシュが近づいてくるのは、幸か不幸か。
「あ、んっ……やっ……!」
 二度目の絶頂が、ひたひたと近づいてくるのがわかる。
 その瞬間をどう迎えるか、そうだ、咲夜とキスをしながらなんていうのも悪くないかもしれない。 きっと今までに味わったことのない、死にそうな程のエクスタシーが味わえるだろう。 ――――そんなことを、考えていたときだった。
「――――さ、まぁ……! レ、ミリア……さまぁ……っ」
 その、名前が。
「あ……? え……?」
 体躯の芯から、どうしようもなく熱く、止め処なく迸る熱が訪れるのを感じた。
 ――――待って。 そんな反射的な願いは、自分すら止めることも出来ず。
 勝手に私の手が、私自身に止めをさすため、肉芽を強く抓んだ。
「レミリア様ぁ……っ、もう、だめですっ……!」
 咲夜の、私――の身体への投影――を抱き締める力が強くなった。
 まず、灼熱の炎のような熱が私の全身を包んだ。
 ――――嘘。 いや、知っていたけど。
 次に、全てを焼き尽くすような光が私の視界を支配した。
 ――――だって私は。 
 最後に、指一本も動かせない程の痺れが私の全てを犯した。
 ――――そうか。 咲夜にとっては。
 ――――私は。 私はずっと一人で。 独りよがりで。
「あ、ああっ……! いや、いやぁああああああっ!!」
「ひぁっ! イ、きます……! れ、レミリア様ぁっ!!」



 崩壊。


――――――――――――――――――――――――――――――

* 幕明け、暗転、幕閉じ。 スポットライトに空の花瓶 *

 
 朝起きると、咲夜は居なくなっていた。
 脱ぎ捨ててあった衣服や、酒の空き瓶はすっかりと片付けられ、シーツは新品同様の綺麗なモノに替えられ、私以外の誰かが居た痕跡すら残されていなかった。 恐らくこの分だと、銀色の髪の毛は一本たりとも落ちていないだろう。
 身体を起こして、一つ溜息を吐く。
「あたま……いた」
 私以外誰も居ない、シーツと掛け布団以外何もないベッドの上で、私は呟いた。 肌寒さと気持ち悪さが同時に襲ってきた。
「最悪、ね」
 目覚めも――――昨夜のことも。
 あのあとどうなったのか、私は全く思い出せない。 思い出そうとすると、頭が縄で縛られているようにきりりと痛む。
「はぁ、どうでもいいわ」
 怠さの残る身体に鞭打って、何とかベッドの淵まで辿り着く。 まだ立ってもないのに、眩暈が襲った。
 ふらふらと、そのままもう一度ベッドに倒れ込んでしまう。
「………………はぁ」
 早朝目覚めて一分もせず、二度目の溜息が口を吐いた。 いけないいけない、こんなことでは。 
 きっと咲夜が、いつも通り私一人分の食事を用意してくれているだろう。 何事もなかったように。
 ――――また、頭が痛くなってきた。
「承知の上だった……のに、ね」
 私と咲夜は、別に愛し合っているから『そういうこと』をした訳ではない。 互いがお互いを慰める術として、交じり合っただけ。 自棄酒と、一緒だ。
 情なんて、要らない筈。 だった。

「自棄の妬け……なんちゃって」
 つまらない冗談が、するりと口から滑り落ちた。 しかしその軽い言葉は、重々しく私の心に刺さった。
「妬いてる、としても、ねぇ」
 ――――どっちに、なのか。
 情事の最高潮にて名前を呼ばれた、レミリアに? それとも、咲夜に? ……どちらにせよ、歪んだ感情であることに違いはないんだけど。 そんな風に、冷静に自己分析するフリを、私はしてみた。 馬鹿馬鹿しいからすぐ止めた。
 どっちでもいいんだ、そんなの。 私は自分が思ってたいより子供で、我侭で。 咲夜は私が思っていたより大人で、冷静で。 ただ、それだけのこと。 
 レミィが知ったら、大笑いするでしょうね。
 自嘲気味に笑って、ベッドから立ち上がる。 本棚から適当な本を取った。 古い装丁の本だ。 もしかしたら一度読んだ事があるかもしれない。 まぁでも、それくらい頭を使わずに済むのが、今の私には丁度いいかもしれない。
 もう一度ベッドに寝転がって、行儀悪くも寝そべったまま本を開く。 ずっと昔に紡がれた言葉の列は、私の頭の中で軽やかに無音の音を奏で始めた。

――――――――――――――――――――――――――――――

* 幕開け、役者は準備を始め *

 紅魔館内は、にわかに騒然となった。 安堵と、心配の声で。 
 まぁ、といっても騒然としていたのは一部の妖精メイド達だけで、あとは咲夜の指示により、喋る暇もないくらい急がしそうに働いていた。

 レミィが、帰ってきたのだ。
 
「えぇ、今朝太陽が昇るちょっと前くらいでしたね。 ――――発見が遅れてたら危なかったでしょうねぇ……」
 そう話すのは、司書の小悪魔。
「発見? さっきは自分で帰ってきたみたいな言い方だったけど?」
「あ~……いえ、そうなんですけどぉ……。 えっと、玄関の前で倒れてたみたいですねぇ……」
「玄関? 門の間違いじゃなくて?」
「あ……は、あはは。 えっとどーでしょー……」
「――――美鈴は何をしていたのかしら」
「あはは……えっと、自主的に捜索していたらしいですねぇ……」
 それでレミィが蒸発(本当の意味で)してしまったら、本末転倒なんてものじゃない。

「はぁ、全く……。 まぁいいわ。 今は寝室に運んだの?」
「えぇ、らしいです。 あ、申し訳ありません! 現在の容態を訊くのを忘れてしまいました……でもなんか、喋れるようになったとか……詳しくは知りませんが」
「自分で確かめるわ。 お留守番よろしく」
 私は小悪魔にそう言い残して、ドアに手を掛ける。
「いってらっしゃいませー……ふふ、何だか嬉しそう」
 が、小悪魔のそんな意味ありげな言葉が気になって、足を止めた。
「……どういうこと?」
「あ、い、いえいえ。 何でもありません」
「言いなさい」
「あう。 えっとぉ……その、パチュリー様、お嬢様が帰ってこられて嬉しいんだなぁ、と」
「…………そう見えるの?」
「え、えぇまぁ」
 ――――何を焦っているんだ私は。 小悪魔の目にそう映ったからって、ただそれだけのことじゃないか。 あれ、何だろう冷や汗が。
「私てっきり、パチュリー様が紅魔館乗っ取りを目論んでると思ってましたから。 がっかりすると思っていまして……」
 ――――唖然。 内容にも……いや内容に。
「……バカみたい」

 吐き捨てて、ドアに手を掛け直した。 小悪魔は何故かニコニコと笑っていた。
 ドアを開けて部屋から出る。 ――――『いざと言うときは協力しますね!』なんて言葉は聞こえなかった。 

――――――――――――――――――――――――――――――

* 明転、花瓶は何処へ *

 扉の前に立つ妖精メイドの制止を力づくで振り払い、私はレミィが運び込まれたという寝室に入る。 偉そうに、部屋の中心に鎮座する、大きな天蓋付きのベッド。 私は脇目も振らず、そこへ向かう。 ここでも、付き添いの妖精メイドが私を制止しようとする。 ――――やたらと執拗だった。 どうやら咲夜に言い含められたらしい。
「で、ですからっ! お嬢様の容態はまだ安定してなくて……」
「そう。 いつになったら安定するの?」
「そ、そんなの解りませんけどぉ……」
 ――――運良く口で丸め込めそうな相手で助かった。
 そうでなかったら、(さっきの扉の前のメイドのように)魔法で眠らせることになっていた。 そんなことをしたら、レミィにどんな影響が出るか解らない。
「でしょう? だったら私がここに居たからって変わらないわよ」
「ま、まぁそうですけどぉ……。 メイド長が……」
「咲夜は貴方を信用して、ここを任せたんでしょ? だったら貴方が私を信用して、ここを任せるっていうのも、悪くないと思うわ」
 妖精メイドはハッとした顔を浮かべる。
「な、なるほど……!」
 いや、何がなるほどなのだろうか。 理論性の欠片もない、滅茶苦茶な言い分だと言うのに。  
「解りました! パチュリー様を信用します!」
 ――――咲夜はこんな妖精メイドにレミィの横添いを任せて良かったのだろうか。 仕事はできても、どうやら適性を見抜く目までは、持ち合わせていないらしい。 
「そう、ありがとう。 ……じゃあ代わりに、扉の前に居てくれる? さっきまでしてた子が、眠っちゃったみたいでね」
「はいかしこまりました! お任せをー!」
 ビシッと敬礼をして、その妖精メイドは駆けていった。 ――――本当に大丈夫だろうか、あの子。 自分で嗾けておいて、心配になった。 それと、彼女にここを任せた咲夜のことも。
 まぁそんなこと、直ぐにどうでもよくなるだろう。 今の私にとってもっと大事なことが、直ぐ近くにあるのだから。 
「――――ん、ぅ」
「ご機嫌いかが、レミィ」
 私が布団に埋もれたレミィを見つけるのと同時に、レミィは寝返りを打ちつつ、ゆっくりと目を開いた。
 本当に意識が回復しているということに、少なからず驚愕を禁じ得なかったが、それを隠しつつ余裕ぶってレミィに挨拶する。
 レミィは多少苦しそうではあったが、うっすらと目を開けて微笑んだ。
「久しぶり、パチェ」
「また会ったわね、レミィ」
 私は、ベッドの横にに添えられた椅子に腰掛ける。 妖精メイド用なのだろうか、少し私には小さすぎて、座りづらかった。
「ベッドに座ればいいのに」
「龍の口に手を置く?」
「くちづけくらいなら、いいじゃない」
 いつも通りの、軽い冗談の飛ばし合い。 私が思っていた以上に、レミィは快方へ向かっているらしい。 そこに安堵を感じたことは、誤魔化さないでおこう。
「で、体調はどうなの? 知っているかも知れないけど……」
「えぇ、私意識を失っていたらしいわね」
「それでいきなり姿を消すんだから、驚きなんてものじゃないわよ」
「ええ、そうね。 でもどうしても――――これが欲しかったから」
 そう言うとレミィは、情けないくらいに弱々しい手つきで、ベッドの反対側に置かれた花瓶を指差した。 そこには、見たこともないような紫色の花が一輪咲いていた。 
「……綺麗、ね」
「好きでしょう?」
「まぁ、嫌いでは、ないわね」
 レミィは、安心したように笑った。 私hはふと、先ほどのレミィの発言を思い出した。
「……ってまさか、これだけの為に!?」
 今まで瞼一つ動かさないくらい、深すぎるくらいの眠りに沈んでいたというのに、一輪の花を採るために・・・・・・?
「そういえば私、眠っていたみたいね」
 他人事のように、さらりとそんな事を言うレミィ。 寝坊してごめん、と食卓で謝るような、少しはにかんだ顔だ。
「眠ってた、ってアンタねぇ……」
「心配させて、ごめんなさい」
 レミィは、身体を起こして頭を下げる。
「あのお花に免じて、許してくれない?」
「だ、だから、どうして体調が悪いのに、花なんかを……」
「あはは、やっぱパチェ忘れてるわよね」
「忘れ、てる?」
「うん、あのお花、パチェが『綺麗』って言っていたのよ」
 そんなこと、あっただろうか。 いや確かに、全く見たことがないと断言できるワケでもない。 しかしあの花に関して、さしたる印象は受けなかったのだが。
「何時の夜だったかしら。 あなたが窓際で、何かを見ていたから、私が何を見ているか尋ねて……そしたらあなたは、この花を指差して、綺麗ね、って呟いた」
「そう……だったかしら」
 確かに、窓際に腰掛けて外を眺めるのが習慣だった時期もあった。 でもそれはずっと昔のことだろうし、大して深い考えや計画があったわけでもない。
「あなたが、花を見て綺麗なんて言うなんて、珍しいと思ったのよ」
「それで、ずっと覚えてたの……?」
 レミィは、微笑んだ。
 まるで、それが当然であると言うかのように。
「何十年前のことよ……。 それに、だからってどうして急にその花を持ってきたりしたの?」
「ふふ――――パチュリー」
「え? な、何よ?」
 レミィは、私の名前を呼んだかと思うと、身体を起こして花瓶から花を抜き取る。 そしてそれを私の目の前に差し出して、言った。
「誕生日、おめでとう」
「――――……は?」
 私は思わず、そんな声を出してしまう。 レミィの言うことが、あまりにも予想外で以外で的外れなことだったからだ。
「誕、生日……?」
「えぇ。 パチェ、あなたの誕生日」
 ――――おかしい。 だって今まで一度だって私の誕生日なんて祝ったことはないし、
それに私自身誕生日なんて覚えていない。 教えた覚えも、ない。
 それなのに、今、今日と言う日に、何故誕生日なんて言い出すなのだろうか。
「なんで私の誕生日なんて知って……」
「知っているに決まってるじゃない。 私を誰だと思っているのよ、パチェ」
 ――――レミリア・スカーレット。 五百年を生きる、運命を操る吸血鬼で、紅魔館の主人。 そして、私の――――。
「百歳の誕生日、おめでとう。 パチェ」
「ど、どうして私ですら覚えてないものを……」
「あらあら、七曜の魔女様は、こんなことも忘れてしまったのね?」
 レミィは皮肉げに、しかし楽しそうに、牙をギラリと光らせた。 
「私たちが出会った日――――それが、新しい私たちの誕生日。 なぁんてね」
「…………は?」
 二回目の、そんな声。
「あは、私にしてはちょっと臭かったかしらね。 まぁ、何にせよ――――これからもよろしくね、パチェ」
「え、えぇ……?」
 えっと、つまり今日は私とレミィが出会って百年目で、それを『新しい私たち』の誕生日として祝うために、レミィは深い眠りから醒め、近くはない山から花を摘んできた……?
 どうしよう、理解できそうにない。
 ――――いや、でももしかしたら……確率は低いが、レミィの性格なら、それも有り得るかもしれない。 確かめて、みるか。
「よろしくと言われたら、よろしくで返すものよ、パチェ」
「ねぇレミィ。 もしかして、さ」
「ん?」
 レミィは、不思議そうに首を傾げた。 まぁ、話題とそぐわぬ事を突然言われたのだから当然だろう。
 私は構わず、浮かんだ疑問をレミィに尋ねてみる。
「あなた、本当は心配させた謝罪の為に、それと自分が無事だってことを示す為に――――その花を摘んできたの?」
「――――~~~!?」
 レミィの顔があっという間に豹変する。 それはそうだろう。 事実非事実に関わらず、唐突にこんなことを言われたのでは。
 よく考えたら根拠も何もない訳だし、それを口に出すというのは、レミィに対してあま
りにも失礼というものだろう。 
 とりあえず謝って、ありがたく素直に花を――――。
「ち、ちちちち違うわよ!」
……図星、だったらしい。
「あ、あなたまさか本当に……?」
「だ、だから……もう、いいわよ、それで。 心配させたのは本当だし、ね」
「ふふ、隠す必要なんてないのに」
 バツが悪そうに顔を逸らすレミィの顔は、何だか子供のようで。 五百年を生きたにしては、少し未熟すぎるんじゃないかな、なんて思うけど、でもそれはきっと、私の前では無防備で居てくれるシルシだから。
「あぁ、そういえ言ってなかったわね。 快気おめでとう、レミィ」
「はぁ――――ありがとう。 心配掛けたわね」
「ふふ、心配なんてしてなかったわよ。 だってレミィが帰ってこないなんて、ありえないもの」
 掛け値なしの、素直な言葉。 自分でもよくこんなことが言えるなと関心するが、それもきっと、今が無防備で居られる時間だからなのだろう。
「そうね。 っていってもまぁ、まだ全回復した、って訳でもなさそうでね」
「あら、頭でも痛む?」
「うん、それもあるわね……それと、ちょっと呼吸が苦しいかも」
「ふぅん。 寝すぎ、かもね?」
「有り得るわ」
 どちらともなく、私たちはくすりと笑った。 下らない秘密を共有した、幼い乙女達のように。
「まぁ、だったらそろそろ私はお暇しようかしら。 メイド長がいつ見回りに来るかわからないし」
「咲夜もそんなことに一々目くじらをたてたりしないわ……まぁでも、妖精メイド達が怒られるかもしれないけど」
「――――知ってたのね」
「私を誰だと思ってるのよ、パチェ」
 そう言って、レミィは小さく手を振った。 私は立ち上がりながら、手を振り返す。 小さな椅子が、少し軋んだ。


――――――――――――――――――――――――――――――

*何も持たずに、その先は*

 恐らくきっと、これは夢だろう。
 私は、海月になっていた。 夜の遠瀬で、独り漂う海月に。 この世界で私はきっと、波のままに漂い、気ままにプランクトンを捕食して生きているのだろう。
 それも悪くないと、私は思った。
 気づくと私は、緩やかに浮上していた。 月光に照らされた海面が、波でゆらゆら揺れている。 私はそこに向かっていった。
 ぷかり、と私のカサは海面を割った。 海に浮かぶ月を割った気分だ。
 私は月に照らされた。 生身では感じることのできないであろう、月光の柔らかな熱を感じた。
 そのまま、私は波に揺られて漂う。 月の光は、変わらず私を照らし続ける。 
 いつかきっと、朝が来るだろう。
 月と踊った夜の海は、跡形もなく消え去り、鮮やかな朝日と煌めく海面に代わるだろう。
 そのとき私は、どうなるのだろうか。
 海の奥底に沈み、何も考えずプランクトンを捕食して、また次の夜を待つのだろうか。
 私はそれも悪くないと思った。
 ただせめて、月に一言、何か言って欲しかった。
 海は言った。

「この先には何もないよ」

 私は言った。

「いいえきっと有るに違いない」
「いいや無いさ。 他ならぬ私が言うんだ。 この海には、海しかない」
「そう、でもね」

 私は月を仰ぎ見た。

「あの月が浮かんでさえ居てくれれば、私はきっと何時までも」
「そうかい。 ところでいつか僕は、あの月のところに行きたい」
「あら、それでどうするの」
「そうさね、あの月と共にあれば、きっとそれだけで楽しいだろうさ」
「でも貴方、いつも月と居るようなモノじゃない」
「あぁ、僕に映った月のことを言っているのかい。 いいやこれは違うさ」

 海は月から目を逸らした。

「この月はね、偽物さ。 僕が月に憧れて映し出した、虚影さ」
「そうなの? でも私、貴方の持つ月が好きだわ」
「それは、どうも。 僕も君のことが好きさ。 まるで近くにあの月が居るようで」
「あら、私が月だなんて。 そんなの似合わないわ」
「そんなことはないさ。 君は海の月。 僕の映し出す虚影と違った、本物の、偽物さ」

 私達は笑った。

「そう、そうかもしれないわ。 でも私も月に憧れているんだもの。 いつか月になってもおかしくないわ」
「それは、諦めた方がいいね」
「どうして? そのときは貴方も、一緒に周りに居てもいいのよ?」
「僕が憧れているのは、遠くに居る月さ。 近くに月があったって、そこに遠くの月を投影するだけさ」
「ふぅん。 難儀な性格ね」
「僕は、海だから」

 私達は黙った。
 月は、私達など、見ていなかった。

「それで、海月さん。 これから君は、どうするんだい」
「そうね。 月と一緒に、探してみるわ」
「それは楽しそうだ。 僕もご一緒させてくれ」
「大事なものを見つけられるのは、自分自身だけよ。 大事なものを大事と決められるのは、自分だけだもの」

 そうだね、僕もそう思う。 海はそう言って、大きな波を起こした。
 
「もうすぐ朝が来る。 おやすみなさい、海月さん」
「えぇ良い夢を」

 月は少しずつ、水平線に横たわっていった。 海はそれっきり、何も喋らなかった。
――――――――――――――――――――――――――――――

* 緋色のピエロ *

 私は初めて、彼女が人を襲うのを見た。 飲み干しきれず、溢れる大量の血液。 脳を直接揺さぶるような悲鳴。 悲痛に歪んだ苦悶の顔。
 それらが一瞬に私の脳に流れた瞬間、私は思わず、絶句して大きく息を吸い込んだ。 鉄臭い血の臭いは、意外に大した事がなかったのは、よく覚えている。
 彼女はしばらくして、肌から牙を引き抜いた。 くい、と口端を拭ってから、彼女はゆっくりと私の方を向いた。
「見てた?」
 彼女の口調は、軽かった。
「え、えぇ」
 対する私の言葉も、案外するりと出た。 ある程度大きなショックを受けたとき、人は口が勝手に動くのだと、私はそのとき知った。
 先ほどまでジタバタと暴れていた、その『元』人間は、いつの間にか瞬き一つしなくなっていた。
「あら、また服を汚してしまったわ」
 そう言うと彼女は、服の裾を掴んで伸ばした。 お気に入りのカップを割ってしまったような顔で。
 私は相変わらず、言うべき事を失ったままで。 ただ呆然と突っ立って、彼女を見ていた。
 彼女は、何かを思い出したかのように、顔を上げた。 そして、血に塗れた口角を上げて、血で光る牙を見せて、言った。

「ねぇパチュリー。 貴方は、貴方の事、好き?」
「えぇ、貴方の事を好きなのと、同じくらい」
「そう、それはよかった」

――――――――――――――――――――――――――――――

* 断片的な *


「……方法が、解ったんですね」
「解った、というより――――知っていた、というべきかしら」
「――――知っていた、ですか」
「えぇ、思い出せなかった、忘れていた、思い出さなかった……どれが正しいのかは、解らないけど」
「……お手伝いできることがあれば、是非」
「あら、貴方が自分から仕事を求めるなんてね」
「仕事……です、か」
「ま、なんにせよお願いすることになると思うわ」
「……はい。 畏まりました」
「嬉しそうね? 気持ちは解るけど。 ……でも」
「えぇ。 何があったか、何をするかは訊かない、ですよね」
「流石。 瀟洒ね」
「……お嬢様が、元に戻られるのであれば、私はそれで」
「愛されてるのね。 レミィが羨ましいわ」
「……こぁー」
「はいはい、あざといから変な鳴き声出さないの」
「――――それでは、私は、これで」
「えぇ、何か有ったら、この子か妖精メイドに伝えるわ」」
「畏まりました。 失礼いたします」
「こぁー」

「――――はぁ。 若い、わね」

――――――――――――――――――――――――――――――

* 地獄も沙汰も金儲け *

「あった――――これで、レミィが……」 
 小悪魔や数匹の妖精メイドに手伝ってもらい、ようやく見つけた緑色の表紙の本。
 それに記されているのは、レミィの体調不良を治す方法。
 ――――六十年前に同じことがあったときにも使った、年季の入った本だ。
 本自体が禍々しい妖気を放ち、まともな人間や妖怪であれば、近づくこともできないだろう。 
 咲夜ではなく、妖気に鈍感すぎる妖精と妖気を自分の物にしてしまう小悪魔に手伝ってもらったのは、正解だったかもしれない。
 妖気を中和しながら、本を手に取る。
 表題は――――読めない。
 古い本や、秘法が記されていたり、偉大な魔術師が著した魔導書にはありがちなことだ。 
今は使われていない文字など星の数ほどあるし、みだりに情報を拡散されないよう、マイナー、或いは独自の言語で記すのはそれほど珍しいことではない。
まぁ珍しくないからといって、読めないことは変わらないのだが。
「はぁ……どうにか、しようかしらねぇ」
 六十年前はどうやって読んでいたのだろうか。 案外図解やらが多くて解りやすかったのかもしれない。
 それだったら、今の私にも読めるだろう。
「そういえば、タイトルだけは聞いたのよね……」
 『全ての物の名前と目的が解る』などと豪語する怪しい半人の言うことだから、本当のことかは解らないけど。

 六十年前、全てが終わった後。
 私はこの本を――――小悪魔だったか、妖精メイドだったかに預けて――――とある道具屋に持ち込んだ。
 その店の店主に、この本の本来の目的とタイトルを聞く為に。 
 すぐその場で答えを言付けられることはなく、店主は後日直々に紅魔館を訪れて、私に
タイトルを教えてくれた。
 半信半疑話半分で聞きながら、店主が朗々と前置きを語ってから、重々しく告げた、その本のタイトルは――――。



 「吸血鬼の殺し方」


――――――――――――――――――――――――――――――

* 暴発的合理主義 *

 扉を開けた瞬間に、むわりとわざとらしいくらい甘い香りがした。
 その香りは、鼻腔を通っただけで、私の全身を犯す。
 吸いすぎないように、服の袖で鼻口を塞ぎながら、扉を閉めて部屋の中に入る。
 薄紫色の光が、お香の煙を通ってゆらゆら揺れた。
「――――おはよう、レミィ」
 視界を遮っていた煙を通り抜けると、豪華絢爛に装飾されたベッドが現れた。
 そこに眠っているのは勿論、レミリア・スカーレット。
 一糸纏わぬ全身は、妖しい紫の光だけで装飾されていた。
 ベッドに近づいて縁に腰掛けると、ぎし、とスプリングが音を立てた。
「綺麗な身体ね、レミィ」
 寝ていてもくすむことのない、銀糸の髪。
 人形のような小さな顔ー一度捕らわれてしまえば逸らすことすら許さない眼光も、光を反射する鋭い牙も、今は見えないけどー。
 大妖とは思えないほど、細くて頼りない、氷細工のような首筋。
 どんな数式でも表現できない曲線をたたえた、鎖骨と肩胛骨のライン。
 微かに膨らんだ、子供のような胸。 きゅっとくびれた華奢なウェスト。 そこから伸びる、一流の陶器のような膨らみを帯びた腰のすじ。

 そして。

 空気を切り裂くように鎮座する、そそり立つ――――陽根。


(解ってたけど……ちょっと大きすぎないかしら)
 恐らく、男性の平均的なソレよりも、レミィの股間に生えた陽根は一回り以上は大きいだろう。
 レミィの繊細で儚美な身体と、猛々しく脈打つ肉棒。 その二つが同時に存在するこの眺め。
 ――――ごくり、と私は思わず唾を飲んだ。
(な、何を考えているのよ私は! こ、これはあくまで『儀式』なんだから……)
 ――――そう、儀式。 レミィを謎の『体調不良』を治療する為の。 
 そして、それを放置した場合に起こる、『最悪の事態』を防ぐ為の。
 神聖な儀式なのだ、これは。
(儀式、儀式なんだから……)
 不自然なまでに昂ぶる身体を、冷静な理性で治めて、儀式を『厳かに行う』為に、心の準備をする。 何度か深呼吸をすると、何故か逆に心臓の鼓動が早まった。
「始める、わよ。 レミィ」
 私は、レミィの閉じられた両脚を自分の膝で挟むように、レミィの下半身で膝立ちになる。 レミィの立派すぎる陽根が真正面に来て、意識することを強要される。
 同時に、私の『女』の部分が徐々に目を覚ましていくのも、意識せざるを得なかった。 じゅん、と躯の芯が、融ける程に熱くなる。
 私は、覚悟を決めて、ゆっくりと陽根に顔を寄せた。
(うわ、おっき……)
 視界の殆どがレミィの肌の色で占領され、鼻腔には、レミィの香りと陽根の放つ臭いが混じった、何とも言い難い、しかし何故かクセになる匂いが広がった。
(こんなものを舐めるっていうの……?)
 いつだったか読んだ、男女の性行為の詳細が記された本に書かれていた、『フェラチオ』という行為。
 男のモノを、女が舐めたり咥えたり、或いは手や、ときには胸なんかを使って刺激するという恐ろしい行為のことらしい。
 これを、一般的なつがいの男女は、挿入の前に行うらしい。 
(こんなの口に入る訳ない、わよね……?)
 本当にこんなことを世間一般のカップル達はしているというのだろうか。
 ――――少なくとも、私にはできない。
(とりあえず――――舐めてみようかしら)
 咥えることはできなくても、表面を舌でなぞって刺激することはできるだろう。
 こんなに強烈な臭いを放つモノを口に含んでは、お腹を壊してしまうのではないか、というのも些か心配ではあるが。
 背に腹は代えられない……というか、これからはもっと敏感な部分にこれを挿入することになるのだから、口くらいはきっと平気なのだろう。
 覚悟を決め、おそるおそるレミィの太幹に舌を伸ばす。
(――――あら、案外普通の味……)
 グロテスクな様相を呈した陽根は、どんなに刺激的な味がするのかと思ったら、全くそんなことはなかった。
 汗をかかないせいだろうか、普通に皮膚を舐めたときよりも、寧ろ味気ないくらいだった。
(それなら、こっちも……)
 私はそそり立つ性器の先端の、皮が剥けてよりいっそう臭いの強そうな、亀の頭のような部分を見る。
 本来、この行為というのはそこを刺激するものらしいし、少々覚悟は必要だけど、本来の作法に則ることにしよう。
 私は、舌を這わせたまま、肉棒を下から上舐めあげる。
 やはり、この性器の臭いというのは先端の方から出ているらしく、臭いはより一層強くなる。 
(うぅ……こんな臭いがするって、やっぱりお腹壊しちゃうんじゃないかしら)
 しかしそれでも、世間の男女というのは、こういうことをしているというのだろう。
 恋人だから、或いは仕事だからなんとかできるのか……。
(儀式……これは、儀式なんだから……!)
 レミィの為には、多少のリスクもしょうがない。
 そう腹に決め、肉幹と亀頭の間の溝になった部分に舌を伸ばす。
(う、わっ、凄い臭い……! な、なんか動いたし……)

 私の舌先が溝の部分に触れると、レミィの陽根はびくんと軽く跳ねた。
 すると、亀頭の先端が私の鼻先に触れ、臭いを直に吸い込んでしまった。
(今度は動かないでよ……?)
 私はレミィの陽根の根本の部分を、片手でしっかり握って固定する。
 そして今度は、亀頭を直接舐めることにする。
 赤く腫れたソレは、尖った舌先で簡単に形を変えてしまうくらいに柔らかかった。 
 中心にはとても硬い芯のようなものがあるが、それ以外は、まるで生肉を直接舐めているような気分だった。
(ん、ちょっとだけヘンな味、かしら)
 こんなに臭うのに、味は肉幹と同じように淡白で、少々クセが強くなったくらいだった。
 舌の表面にたっぷりと唾液を絡めて、レミィの亀頭の全体に塗りたくる。 その状態で、先端を使って鈴口やそこから伸びる糸のような部分を、ざり、と舐めあげると、レミィの陽根は嬉しそうにビクンビクンと跳ねた。
(気持ちいい、のかしら)
 レミィの、本能からの素直な反応が嬉しくて、私はもうちょっと大胆にレミィを刺激してみることにする。
 舌の表面のざらざらとした部分で、レミィの亀頭を包み込むように舐める。 零れた唾液で滑りやすくなったので、手で軽く扱いてみると、レミィの陽根がより大きくなった気がした。
(ちょっとだけ……先っちょだけなら、咥えられる、わよね)
 舌と手で扱いただけでこんなに反応するのだから、きっと口全体で包んでやれば……。
 そう思うと、さっきまでの、この邪悪にも思える陽根を咥えることへの抵抗感など、すっかり消えてしまっていた。
(今でもこんなに気持ちよさそうなんだから、口の中に入れたら……しゃせー、しちゃったりして)
 僅かな好奇心と期待を胸に、私は口を閉じた。
(ま、まずは先っちょにキスするみたいに……)
 そして閉じた口を、鈴口に近づける。
 この据えた臭いにもすっかり慣れて、今では寧ろ気分を高揚させる媚薬の香りにすら思えてきた。
 鼻でその臭いを思い切り吸い込んで、レミィの鈴口に、挨拶をするようにキスをする。
 そして、唇の間から、唇を割るように舌の伸ばす。
 ――――そこで私は、一つの悪戯を思いついた。
 肉幹を握った手を少しずつ持ち上げる。 すると、レミィの亀頭がすっぽりと皮で包まれてしまう。
(ふふ、レミィったらほーけーさんだったのね……?)
 最初から剥かれた状態だったためよく分からなかったが、私の見立て通りレミィの皮は少し余り気味のようだった。
 私は少し口を開き、その余った皮を唇で挟んだ。
 鈴口には舌の先端を這わせたままだ。
 レミィの皮を咥えたままで、私は思いきり頭を下にストロークさせた。 ずるん、という音が聞こえた気がして、レミィの包茎皮は一気に剥かれる。 それと同時に、私の舌が亀頭の裏側を滑り、びくんとレミィの陽根が跳ねる。
(しゃせー、しちゃうの?)
 ここからは陽根に遮られてよく見えないが、手に少し触れた陰嚢が、きゅうと縮こまっていくのが解る。
 
(でも――――だぁめ)

 私は、レミィの亀頭を咥えたまま、指を輪にして、レミィの陽根の根本の部分を力一杯握りしめる。
 熱い精液がどくどくと登っていこうとするのが、手に伝わる激しい脈動で解る。
 しかし、その全てが私の指に堰止められ、逆流していく。
 気づくとレミィは、腰を弓のようにしならせていた。
(ふふ、そんなにしゃせーしたかったのね、レミィ)
 別にそのまま、私の口の中に精液を爆発させてやるのも悪くないとは思ったが、折角コツが掴めてきたのだ。
 もうちょっと今の状態を愉しんで、それからゆっくりでも、悪くはないだろう。
 長い脈動が終わり、レミィの陽根は僅かに萎みを見せた。
(次でしゃせーさせてあげるから、それで許してね、レミィ)
 心の中でそう呟いて、もう一度レミィの亀頭に舌を這わせる。
 もう少し咥えられるかな、と私は少しだけ顎を開いて、レミィの肉幹を口内に受け入れる。 すると、私の口腔の殆どがレミィの肉棒に占領されてしまう。 生温く湿った口内の空気が、じっとりとレミィの肉棒にまとわりつく。
 少し口を窄めて、頬の内側の粘膜でレミィの陽根を包み込みながら、頭を上下に動かして口全体で陽根を扱く。
 じゅぽじゅぽといやらしい水音を立てながら、徐々に肉幹の根元まで飲み込んでいく。
 そして、亀頭の先が、私の喉にまで届こうとした、そのときだった。

「――――んんッ! んぐ、んー!?」

 ぐい、と私の頭が急に押さえつけられ、ゆっくりと侵入していた陽根が、一気に私の喉奥まで乱暴に突っ込まれる。
 急に呼吸を禁じられた苦しみは、簡単に耐えられるものではなく、私はじたばたと必死に手足をもがく。
「んー! ――――む、ぐ……っ、んんー!!」
 髪を引っ掴まれ、ぐい、と頭ごと上に持ち上げられたかと思うと、また無理矢理喉奥まで突き入れられる。 それを何度も繰り返され、その度に、痛みと苦しみで意識が消し飛びそうになる。
 愛おしく思い始めたレミィの陽根が、今となっては私を拷問する為の凶器にしか思えない。
(な、何コレ!? まさかレミィが起きた……?)
 まさか、簡単には起きないよう、念入りに催眠させた筈だ。
 そう思ってレミィの顔を見上げようとするが、乱暴なピストンはそれすら許さない。 太い亀頭が容赦なく私の喉奥を突き刺し、長い肉幹が私の狭い口内を犯す。
(もう……無理……! 死んじゃう……!!)
 喉を潰され、鼻で呼吸することも許されず、私はもう窒息死寸前だった。
(出して、早く出して……!)
 その必死の願いが通じたのか、レミィの動きに変化が生じた。
 口から喉までの長いストロークから、私の喉奥を使って亀頭だけを扱くような動きへ。
 苦しいのは変わらないが、死の恐怖まで感じる程ではなかった。
 少しなら呼吸も出来るようになったので、唇と肉幹の隙間から深く息を吸った。
 ――――そのとき。 
「むぐっ! ――――ん、んんーッ!!」
 レミィの両の手の平が、私の頭をぐいと思い切り押し抑えた。
 こんなところまで入るのかというくらい、喉どころか食道までレミィの陽根が私の体内に突入してくる。
 あまりにも強引すぎる挿入に、私はもがくことすらできなかった。

 そして勿論、それだけで終わる筈が、なかった。
(――――く、来るっ!?)
 私の喉の中で、レミィの肉幹はさらに膨らみ出した。
 私の唇に触れた肉幹の根元の部分が、どくりと大きく脈動する。
 それは、先ほど一度目に起こったのと同じ、射精の前兆なのだろう。
 私は、何も抵抗できないまま、体内に直結した食道に射精口を突っ込まれたまま、レミィの射精を受け入れるしか、なかった。
(来る、来ちゃう……っ!)
 レミィの熱くて濃くて生臭い精液が、私の腹の中に容赦なく吐き出されるのか、そう考えるだけで、自分の下半身がじゅんと熱くなるのが解った。 レミィの肉幹が熱を帯びる。
 あと二三秒もしない内に、私の喉奥にレミィの精液は、噴火したかのように吐き出されるだろう。
(来て、レミィ……全部、出して……!)
 私がレミィの射精の受け入れの覚悟を決めたのと、ほぼ同時に。
 ぐい、とレミィが更に腰を突き出す。 私の喉が、レミィの陽根に埋め尽くされて。 肉幹が、根元から上に向かって、熱とともにぎゅうと膨らんで―――― 
 

 どくっ、ぶびゅるるっ! ぴゅ、どぴゅぴゅっ!!

 
(うわ……、濃っ……!)
 レミィの鈴口から、どくどくと熱いマグマが流れ出す。
 この世のものとは思えない臭いを放つ、濃厚で粘度の高い液体は、食道の敏感な粘膜を通って直に胃の中に流し込まれる。
 喉を灼かれるような感覚と、呼吸器を完全に塞がれた苦しみで、意識はフラッシュバックしかけていた。 
「――――んっ……ぷはっ! ごほ、げほ……!」
 胃の中がレミィの精液で満たされてしまったかのではないかというくらい、長く激しい射精が終わった。
 足りなかった酸素を補う為に、ほぼ無意識で大きく息を吸う。
 すると、喉の壁にへばりついた精液が引っかかって、私は思わずむせてしまった。
 奥で射精されたせいか、どんなに咳をしても胃から精液が逆流してくることはなかった。
(全部、飲み込まされ、ちゃった……)
 レミィの野生的な欲望が私の体内に吐き出され、私はそれを吸収してしまう。 その事実に、私の身体が疼いた。
 体内に吐き出されたなら――――次は、胎内に、と。
 しかしまぁ、これで儀式は終わったのだ。 満身創痍に近いこんな状態で、必要のないことまでする必要はないだろう。 そう判断して、私はしばらくレミィの隣横になって、回復に努めることにする。
 
(はぁ……レミィったら、あんなに激しいのが好きなのかしら……?)
 初めて垣間見えた、親友の深層的性的欲望。
 しかしまぁ、それは吸血鬼という種族の特性、本能なのかもしれない。
 ふとレミィの顔を見ると、先程まであんなにも乱暴に私を犯していたことなどすっかり忘れたように、すやすやと安らかに眠っていた。
 やはり、突然私の頭を掴んで、野生的で暴力的な口淫を強制したのは、レミィの眠っていた本能が覚醒して、そうさせただけなのかもしれない。
 だとしたら私は、レミィの奥底に閉じこめられた欲望を解消させてあげることができたのだな。 そう思うと、何だかさっきまでの苦しみや痛み、死の恐怖などが、すっかり報われたような気がしてきた。
 でも、辛かったのは事実だ。
 次があったら、ゆっくり、たっぷりと私のペースで搾り取ってやろう。
 そんな意地悪な考えが頭に浮かぶと、レミィの手が私の腰に伸びた。
 もしかして、また先程のようにレミィに動きを塞じられ、乱暴に犯されてしまうのか。
 そう思ったが、レミィの手は私を優しく抱きしめるだけだった。
(ふふ、甘えん坊さん♪)
 たっぷり欲望を吐き出した私に、直後に甘えてくるなんて、何だか本当に恋人にでもなったような気分だ。
 レミィの子供のような寝顔を見ると、そういうのも悪くないかもな、なんて柔らかな多幸感に浸ることができた。
(あれ……何か脚に……)
 少しばかりなら眠ってもいいだろう、そう思って、レミィの方に向かって軽く寝返りを打つ。
 すると、私の両脚の太腿の間あたりに、固いナニカが触れているのに気づいた。
(――――もしかして、これは……)
 さぁ、と全身から血の気が引いていった。 それと同時に、肌の表面が火傷しそうなほどに熱くなった。 
 ――――恐る恐る、その固いモノの正体を探る為、私は顔を下げた。
 私の太腿――それは丁度、私の横で眠るレミィの股間のあたりな訳で――――。
「う、嘘……でしょ……!?」
 そう、そこには、先程と同じように大きく怒張したーーレミィの陽根があった。
 ぬるりと、亀頭にまとった粘液が私の太腿に触れた。
「え……? だって、一回出せば終わりじゃ……!」
 レミィが吸血鬼として生活していく上で、どうしようもなく、エントロピー的に溜まっていく、「負のエネルギー」。
 それが溜まると、レミィの身体は変調をきたし、それを放置すれば、レミィが力を解放して暴走してしまうかもしれない。
 最悪の場合、レミィが負のエネルギーに押し潰されて死んでしまうことだって、ある。
 しかし、レミィにストレスを与えないよう、適度に吐き出させれば、レミィはまたいつものような健康体でいられる。

 それが『吸血鬼の殺し方』だ。
 『ただ破壊し君臨し破壊するだけの存在である』吸血鬼を殺す為の、人間が見つけだした儀式。
 しかし勿論、その儀式には危険が伴う。
 吸血鬼の持つ『エネルギー』というのは、それが負であろうと正であろうと、人間にとっては強大で膨大すぎるものだ。
 そんなものを直に受けてしまっては、並の人間や、妖怪ですら耐えることは難しいだろう。
 それに、儀式の途中に堰が決壊し暴走を始めることも有り得るし、儀式の途中に吸血鬼が起きてしまえば、怒り狂った吸血鬼に食い殺されるかもしれない。
 
 だから、魔法や魔力に関しては人並み以上である自負もあり、仮にレミィが暴走したり目覚めてしまっても、ある程度なら何とかできる私が、この役目を引き受けたのだ。
 が、そんな私でも、こんな状況までは想定していないし、対応ができるわけがない。 一度解放してもまだ勃起していた場合、なんて、あの本には書いていなかった。

 しかし恐らく、常識に照らし合わせて考えれば――――

「前戯の後、は……――――」
 ぐっ、と、レミィが突然腰を突き出した。
 固く怒張した陽根は、私の太股の間を割って、両脚に挟まれるような形になる。
「ちょ、れ、レミィ……?」
 まさか私の脚で射精するつもりだろうか、私がそんなことを考えた瞬間、私の腰を抱いていたレミィの両腕の片方が、私の肩をガシリと掴んだ。
 ぎり、とレミィの細い指が、服越しに私の肩に食い込む。
 私の肩を掴んだ手が、私の身体をベッドに押しつける。
(――――犯、される……!)
 恐らく間違いないだろう。
 レミィは、このまま私をベッドに抑えつけて、今度は口なんかじゃなくて、精液を受けるべき女の壷にへと、その欲望をたたきつけるつもりなのだろう。
(器用な本能ですこと……!)
 と、皮肉混じりに私はそんなことを考えたが、それは違った。
 何せ、レミィの瞳はしっかりと開かれていたのだから。
 爛々と煌めくその眼は、いつものような高潔さと妖艶さを湛えた美しい光ではなく、野生的で暴力的な、悪意悪欲欲情劣情の光を放っていた。
 その眼に睨まれた私は、全くと言っていいほど動くこともできず、呼吸すらも忘れていた。
「……きゃ!」
 片手で肩を掴んだまま、レミィのもう片方の手が私の足首を乱暴に掴んで、ぐいと持ち上げる。
 すると、縛りが緩かったのか、紐で留めた下着が、掴まれたのとは逆の方の脚からスルリと抜ける。
 ――――私の秘所を守る最後の砦が、レミィの圧倒的な力により、あっさりと崩されてしまった。 
「い、いや……! やめてぇ……!」
 私のそんな否定の言葉は、真でもあり、また偽でもあった。
 こんなレイプ紛いなことで、私の貴重な処女を散らすわけのはあまりにも惜しい。
 しかし私の『女』……否『牝』の部分は、レミィの太い陽根を挿入され、膣内をかき乱され、子宮にその精を叩き込まれることを、望んでいるのだ。 
 レミィが、既にびしょ濡れになっている私の膣口に、ぬるぬると亀頭を押しつける。 レミィの亀頭が私の愛液で滑る度、電気ショックのような快楽が私の脊髄を駆け抜ける。
 いつレミィが一息に奥まで挿入してしてくるかは解らない。
 或いは私が少し腰を動かせば、私の処女は簡単に散ってしまう。
 そしてそのまま、気絶するまで、気絶しても、レミィの欲望の赴くまま、獣のように乱暴に犯されてしまうかもしれない。
 そんな恐怖と期待の混じった緊張感で、私の脳は沸騰してしまいそうになる。

 ――――私の肩を押さえつけていた、レミィの手が離れた。
 そしてその手は、私のもう片方の足首を包んで、反対側と同じように、持ち上げられる。

 ――――あぁ、挿入れられてしまう。
 子宮の奥が、亀頭に触れた大陰唇が、何度か擦れて充血した陰核が、精液で灼かれた喉の奥が、レミィに掴まれた両足首が、首の後ろが、じゅんと熱くなった。
 
 そして。

「――――っつ、ぅ、くぁああっ!」

 レミィの陽根が、一瞬で私の膣奥まで到達する。
 愛液が十分でなかったら、膣壁が全てめくれてしまうのではないかというくらいの勢いで。
 ぐいと膣肉が無理矢理押し拡げられ、ずんと全身に重い衝撃が響いた。
「あっ、くぅ――――ん、ぎぃ……!」
 苦痛に顔を歪める暇もなく、陽根が引き抜かれていく。
 挿入れられたときの痛みとは違う、普通からは明らかに逸脱した排泄感に、胃液が逆流しそうな程の気持ち悪さを感じた。
 とても愛を交わす為の行為とは思えない苦痛と吐き気。
 しかし、レミィのカリが膣壁を引っ掻く刺激は、私に確かな快楽を届け、苦しみを多少は緩和してくれた。
「――――んぅ……っあぁ! んっ! ひぁっ! っくぅう……!」
 膣口の寸前で、カリが引っ懸かって止まる。
 レミィはそこで腰を止めたかと思うと、また一気に膣奥を突いた。
 今度は引き抜くのではなく、浅いピストンで私の膣奥の壁をガツガツと突き虐める。
 私の両脚はもう限界まで拡げられているというのに、膣奥を突かれる度に、衝撃で更に拡げられていくような錯覚を覚える。
 ピストンの度に膣口から愛液が溢れていくというのに、私の蜜壷から際限なく湧きだしてくる。
(私、気持ちいい、の……? これが、気持ちいい、なの……?)
 自分を慰める時の、甘く痺れるような感覚とは違う、全身を、心を、魂をがぶりと噛まれ、咀嚼され、飲み込まれるような感覚。
 痛み混じりのその感覚を、確かに私は快楽と感じていた。
(こんなの、聞いてない……! こんなの――――初めて……っ!)
 物語や指南書、そして自分の手だけでは味わえなかった、生まれて初めての『快楽』。
 自分を好き勝手にされ、道具のように扱われる。
 そんなの、屈辱としか思えない筈だ。
 でも今は、それを悦びと感じている。 私の牝が、野生が、欲望が、それを望んでいる。
 ――――これが「犯される」ということなのだろうか。

 脚を掴まれ、股を拡げられて、無理矢理挿入れられて、体内の奥まで突かれて、それで尚、悦びを感じる。
 そんな自分が、ひどく下等な生き物のように思える。
 しかし、こんな快楽が味わえるならそのままでもいい、そんな風に思ってしまう自分が居るのも確かで。

「――――きゃ!」
 
 ピストンを止めないまま、レミィが私の膝の裏から、背中に腕を回す。 そして、ぐいと私の背中を抱き上げたかと思うと、その勢いでレミィは立ち上がった。 空中に浮遊するような奇妙な感覚がしたかと思うと、急に落下感が襲う。 ぎしぃ、とベッドのスプリングが軋んで、レミィはベッドの縁に腰掛けた。
「れ、レミィ……! ちょ、恥ずかしいわよぉ……!」
 所謂、対面座位という体位だ。
 股を大開きにさせられたまま、尻や背中を外に向けることになるのが、今更すぎるとは思うが、たまらなく恥ずかしく感じられた。
 私のそんな声なんて全く聞かず、レミィは止めていたピストンを再開する。

「んっ! ぇぐっ! ぁう!」
 レミィが腰を突き上げる度に、膣の『天井』が破られてしまうのではないかと思ってしまう。
 ゆさゆさと身体を揺さぶられ、足首に引っ懸かったショーツも一緒に踊る。
 レミィが私の背中を抱く力を込めると、開いた両脚も閉じられ、きゅうと私の膣壁がレミィの陽根を締め付けた。
「ん……っ、ん、ふぁ……」
 私の首筋に、レミィの舌が這う。
 ぞくぞく、と背筋に電流が走り、私の肉壷がそれに反応してレミィの陽根を更に締め付けた。
 それが気持ちいいのか、レミィは私を強く抱き締めながら、私の首から肩のラインにむしゃぶりつく。
「あ、ひぃっ……んきゅう……っ!」
 うなじから落ちた汗の玉が、私の背筋を撫ぜながら落ちる。
 その寒気に似たくすぐったさが、私の快感を更に高めた。
「あっ……ひきぃっ!」
 ぐい、と身体が持ち上げられたかと思うと、重力に従って亀頭が私の膣壁をかき分けて奥まで到達する。
 そんな遊びのようなピストンをレミィは何度か繰り返す。
「ら、めぇ……! 赤ちゃんの部屋ぁ、ダメになっちゃうってばぁ……っ」
  亀頭が、本来赤子が入るべき部屋への入り口をノックする。
 いたわりなど一切なく、ただ奥へ奥へと這入しようと、ぴったり閉じられた子宮口を突くレミィ。
 固く怒張した陽根に責められて、子宮口が段々と緩くなってしまう。
 だらしなく開いた子宮口に、先程のような勢いでレミィの精液を吐き出されたら……。
 きゅん、と胸が疼いた。
 あの噴火のような吐精を、子宮に受けたら。
 私の純潔を、レミィの白濁で汚されてしまったら。
 もし、こんな乱暴な性交で子を孕んでしまったら……。
 ――――気付くと私は、自ら腰を振り出していた。
 上下の刺激だけでは飽き足りず、娼婦のような腰つきで、レミィの陽根を、膣内に余すことなく受け入れる。
 ぐにゅぐにゅと、茹だった秘肉がレミィの陽根に合わせて形を変える。
「レミィ、レミィぃ……っ! ――――ん、っふぁああっ!」
 ずぷり、と肛門にレミィの指が這入した。
 私の不浄の穴に、レミィの白い指が半分まで入り込む。
 本来排泄すべき穴なのだから、勿論何かを受け入れる準備など、していない。
 当然かなりの苦痛を伴うが、前の穴から送られてくる強烈な快感にかき消されて、いつの間にか、痛みすら快楽に変換させられる。


「お、ひっ、お尻なんて、ダメよぉ……!」
 今まで感じたことも考えたこともない、痛み混じりの快楽。 
 こんなもので絶頂させられたら、クセになってしまいそうで。
 そうなってしまったら、私は壊れてしまうだろう。 
 禁忌的な快楽を貪欲に求めるだけの、性欲の獣となってしまう。
 そんなことは許されない――――許されない、筈なのだが。
「んにゃぁっ! ふにゅ、んっうぅ!」
 レミィの陽根と指が、私の膣穴と肛門を同時に責める。
 二倍、三倍に増幅された、理性を融して精神を犯し尽くしてしまうような、重みを帯びた快楽。
 粘度の高い熱いそれは、私の中の空の部分を満たしていく。
 膣側の腸壁を押されると、その圧でレミィの膨らんだ亀頭に膣肉が沈む。
「っくぁ……! ぎ、ぅう……っ、あ、んきゅっ!?」
 ――――突然、身体を芯から切り裂かれたかのような衝撃が全身に走った。
「ふあぁっ! おマメが、擦れてっ……!」
 膣口の少し上で勃起していた陰核が、激しい動きで、抽送運動を繰り返すレミィの陽根に巻き込まれたのだ。
 レミィが私を突き上げる度に、レミィの肉幹に私の陰核が擦れて、私に更なる刺激を与えた。
「あっ! ちょ、止まってぇ! とま……ひぁうっ!」
 ずぷりと、レミィの指が、更に私の腸内に挿入り込んだ。
 膣へのピストンは未だに激しさを増し続けていく。
 それに加えて、今度は陰核からの刺激も私を苛む。
 三箇所、いや首筋を含めれば四箇所から、うねりのように押し寄せる快楽。
 ――――絶頂は、近かった。
「レミィ……! わたし、もう……イっちゃう……っ」
 レミィが、私を支える手を少し動かして、更に激しい動きを求める。
 私もそれに応えるように、残りの僅かな体力を振り絞って淫らに腰を振った。
 レミィの亀頭が私の子宮口を突く度、カリが肉壁を引っ掻く度、陰核がレミィの肉幹に擦れる度、レミィの指が私の腸内で動く度。
 私の四肢二十枝の先から熱い血が流れて、身体の中心で熱い塊のようなものを形成していく。
 少し気を抜けば、その塊は弾けて、私にこの世の物とは思えない快楽を与えてくれるだろう。
「イく……! イっくぅ……っ!」
 欠片程度に残った理性で、その塊を爆発させまいとする。
 少しでも長く我慢すれば、堪え切れなくなったときに、もっと大きな快楽を感じることができる。
 そんな、誘惑と誘惑の対峙に、私は悶えながら、耐えに耐える。

 ――――が、そんな目論見は、レミィによってあっさりと挫かれた。


「ん、あ、っく…………んむっ!? ――――ッッッ!!」

 レミィの唇が、私の唇を塞いだのと同時に。
 『それ』は訪れた。
 全身に駆け巡る、電気ショックのような、快楽。
 体内で爆発を起こしているのではないかと思うほどの、熱。
 真っ白になる、視界と思考。
 陽根から精液を搾り取ろうと、蠢きうねる膣肉。
 そして、全身を包む、多幸感。

 ――――これが、絶頂か。
 
「ひゅっ……あ、ぇ……」

 何度か大きく身体が跳ねたあと、全身が細かく痙攣する。
 最早姿勢を保つことすら叶わず、ぐてりとレミィに身体を預ける。
 肩で息をしながら、火照った身体から吹き出た汗の冷たさを感じた。
 脳髄は未だに麻痺を残していていたが、徐々にじぃんとぼやけた意識を取り戻していく。

 ぬるりと、レミィの陽根が引き抜かれた。
(終わ、った……?)

 身体中を、否、心までも一から作り直されてしまったかのような、強烈すぎる体験は。
 レミィを体調不良から救う為の儀式は。 これで、終わったのだろうか?
 ――――勿論、そんなわけがなかった。
 そう、今のはあくまでも私が絶頂しただけ。
 私が極上の快楽を得たというだけで――――レミィの本能から欲望は、そんなことで納まってくれる筈が、なかった。
 レミィは、すっかり力が抜けて、人形のようになってしまった私を軽々と持ち上げる。
 そして、まるで服でも脱ぎ捨てるように、ひょい、と自分のすぐ横に私をおざなりに放り投げた。 ベッドの縁に合わせて、私の身体がくの字に曲がる。 それは、そう。 獣の雌が、雄を誘うときのように、淫らに腰を突き出した姿勢と同じで。
 レミィがゆっくり立ち上がったかと思うと、私の後ろ正面で止まった。
「ひ……っ、あっ……!」
 ――――喰われる。
 ぞわりと、恐怖が背筋を走る。 
 今の私は、抵抗すらできない弱きもので、強大な力を持つレミィのような存在からすれば、格好の餌だ。
 生存本能が警鐘を鳴らして、逃げろ抗えと五月蠅くうなる。

 しかし、そうではない。
 哀れな子羊である私は、狼なんて目ではない程の力を持つレミィに、喰われるわけでは、ないのだ。
 レミィはこの後、私の竦んで力が抜けた腰を掴み、絶頂したばかりの私を犯すのだろう。
 後ろから、私を屈伏させながら、道具のように私の肉孔を何度も穿つのだろう。
 そして今度こそ、その欲望の全てを、猛き精を、荒ぶる野生を、私の子宮に叩き込むのだ。 私が鳴こうと喚こうと喘ごうと死のうとお構いなしに、腰を叩きつけて。
 私の子宮を、全てを、壊して自分の物にしてしまうのだ。
 そしてそれが、レミィにとっての、本当のセックスなのだ。
 先程までの、牝を責め立て疲労させ、屈服させる為の、『前戯』とは、比べ物にならない程に、激しく肉体を貪られてしまうのだ。 
「あ……あぁ……!」
 ひくひくと、愛液に塗れた淫口が蠢く。
 レミィに背中を向けているから、レミィがいつ挿入してくるかは分からない。 いつ、どのタイミングで、レミィが狂ったように私を貫くかは分からない。
 先程挿入した時のように、入り口を虐めて挿入してくるのだろうか。
 それとも、入り口から奥まで一気に貫くのだろうか。 そんなことを考えていると、蜜壷の奥から熱い液が更に湧いてきた。
 
 ――――そして、その溢れだしてきた愛液が、糸を引いて床に零れた時。
「――――っ、ん、くぁぅ……ッ!」
 ずん、と身体の中心に走る重い衝撃。
 口を固く結んで、私はその衝撃に耐える。
(……案外、あっさり入ったわね……)
 何度も激しく穿たれたせいか、私の肉孔はすっかり解れて、一気に挿入された陽根を素直に受け入れた。
 ――――勿論、この奇妙な異物感に慣れた訳でもなく、多少は、というより未だにくるしさを感じているのは確かなのだが。
 レミィが私の腰のくびれの部分を両手でがっちりホールドする。
 それはきっと、私を犯している間、絶対に逃がさないと、そういう意味なのだろう。
 そして、そのままレミィは――――更に深くまで挿入してきた。
(う、そ……! まだ入ってくるの……!?)
 そう。 私はてっきり、レミィが一息に陽根を根元まで挿入してきたと思っていた。
 しかし、それは違ったのだ。 
 先程まで、正常位や対面座位で挿入されていて、私の膣内は、『その時の陽根に合わせて』形を変えられていた。
 激しくて深いピストンや、執拗なまでの浅いピストンで。
 しかし、今は違うのだ。
 正常位や対面座位とは違って、後背位では、私から見て背中側に反り返った陽根が肉孔を穿つことになる。
 先程までの、比較的ゆっくりとしたピストンによって、お腹側に解された膣肉は。
 これから行われるであろう『本当のセックス』で、歪められてしまうのだ。 そして私は、レミィの欲望を治める為だけの肉便器として、作り替えられてしまう。
「あ、にゅぅっ……!」
 ぬぷぬぷと、膣壁をこじ開けるように亀頭が這入してくる。
 被虐的な快楽と相まって、私は自らの身体を支える腕にすら、力を込めることができなくなった。
 レミィに支えられていなければ、このまま崩れ落ちてしまうだろう。
「あ……あ、っん――――ふ、あぁあっ!」
 亀頭の先端が、膣の最奥を突いたのと、同時に。
 ――――『それ』は始まった。
「あっ! んっ、ひゃ! っく、ぅんっ!」 
 じゅぷじゅぷと、愛液が結合部から掻き出される。 
 最奥から、膣口までの、深く鋭いストローク。
 ただ腰を叩きつけているだけのような、野生的なピストンが、私の膣奥を揺さぶる。 
「イった、ばかり、なのにぃ……! こんなの、激しすぎて……っ!」
 レミィのカリや肉幹が、絶頂直後で敏感になった膣壁を容赦なく擦る。
 満腹の腹に熱い泥を流し込まれるような、駄目押しの快楽に、私は吐き気すら催した。 はっきり言って、これを素直に快楽として受け入れることは出来ず、寧ろ純粋な苦痛にすら感じた。
「ダメ……っ、んぅっ! あ、ふぁあ! もっと、ゆっくりぃ……!」
 内蔵を直接掻き乱されているような、鈍く重い苦痛が全身に響く。
 少しだけ開かされた両脚は、生まれたての子鹿のようにがたがたと震えていて、足元も覚束ない。 全身から噴き出した汗の玉が、じっとりと鬱陶しく肌に纏わりついていた。
 一度突かれる毎に、私の意識は飛んでしまう。 しかし、直ぐに訪れる身体中の内蔵を揺さぶられる苦しさに、意識は戻ってくる。
 今死んでもおかしくないと思ってしまえるような、快楽と苦痛。
 口を閉じる力、余裕すら、今の私にはなくて、だらんと垂れた舌から、或いは口端から、だらしなく涎が落ちる。
 虚ろになった眼で見える視界は、チカチカと眩んでいて、現実味の欠片もなかった。
「あ、ぃ……っん、ぐぅ……ッ!」
 しかし、膣を突かれ子宮を壊されるようなこの苦痛は、紛れもなく現実で。
 レミィが自分勝手に性欲を私にぶつけている間、私は現実と虚幻の間を行き来するほどの刺激を与えられ続ける。
 これが陵辱以外のモノであったとして、では何と言うのだろうか。
 ただ、私の中の『これは重要な儀式なのだ』という意識と、何より『レミィの為なら』という独善的な自己満足だけが、この乱宴を肯定する。
 レミィの陽根が私の奥深くを突き刺すと、肌と肌のぶつかる乾いた音がして、汗や淫液の混じった液体が弾け跳ねる。
 早く、早く終わって欲しい。
 できるだけ早く、この拷問に等しいセックスを終わらせて欲しい。
 ――――私の子宮を、その熱き精で埋め尽くして欲しい。
 強制的に流し込まれる快楽から、そんな欲望が芽生え始める。
「開い、ちゃう……っ!」
 レミィはピストンを止めて、膣の最奥の子宮口をこじ開けようと、ごりごりと亀頭を押しつける。
 少しでも奥に精を流し込んで、私を確実に「はらませ」ようと。
 何度も亀頭を押しつけられる内に、壁は徐々に緩くなっていった。
 実際に、もう既に亀頭の先端を少しだけ子宮の中に受け入れてしまっている。
 子宮が亀頭をカリごと飲み込んでしまうのは、時間の問題だろう。
 子を孕み、育てる為の、神聖な器官に、レミィの欲望を受け入れてしまうのだ。
「くる……ぐるぅ……ッ!」
 ぐいぐいとレミィが腰ごと陽根を押し込んでくる。
 徐々に、亀頭が子宮に半ばまで這入ってきた。 
 ――――そこで、一度止まって。

「あ――――っく、ぐぅうううッッ!!」
 


 ドクッ!! びゅるっ、びゅぶ! どくくっ! びゅ、びゅるるっ!! 



「あ、あぁ……っ! うあぁ……!」

 熱せられた鉄の棒が子宮の中で暴れ回っているような、そして、子宮壁を、卵管に融けた鉛を流し込まれているような感覚。
 今までの、腰を叩きつけるピストンなんて、全く比較にもならないほど、猛々しく、濃厚で強烈な刺激が私の全身を支配する。
 ――――これが、『犯される』ということなのだろうか。
 今までの快楽と苦痛を伴う性行為は、ただの前段階で。 あくまでも、この射精を行う為の準備でしかなかったということを、痛い程に、苦しい程に、死んでしまう程に、理解する。 理解させられてしまう。
 この射精こそが、レミィの欲望、野生、本能の最終地点で。 私を『犯す』ということであったと。
 固体に近い、どろどろとしたゲル状の精液が私の子宮を満たし、卵管までも白く埋め尽くしていく。
 それでもまだ精液は止め処なく吐き出されて、膣を逆流して、結合部からぼたぼたと溢れ落ちる。
「あ……ぇ……」
 虚ろになった瞳が、ぐるんと白目を剥く。
 燃える程に熱い肉体には、僅かばかりの力も残されておらず、レミィの欲望を受け止めるだけの穴となっている。
 何十日も、何年も、永遠にも続いたと思えるその射精は、実際のところ一分も経たずに終えた。
 大量に放出された精液精子は、私の胎内、否、体内の全てで、汚し塗り替えていないところは無いのではないかと思う程だった。
 射精を終えたレミィが、ずるりと膣から陽根を引き抜く。
 ぼたぼたっ、と大きく開いた膣口から精液が多量に零れた。
 支えを失った私は、糸の切れた操り人形のように、ベッドに倒れ込む。
 膣壁が収縮して、更に大量の精液が逆流してフローバックしていくのが解る。
 また、これほど放出しているのに、未だに胎内には、逆流しないように奥にしっかり叩き込まれた精液が、ずっしりと残っているということも。
「お……わ、った……?」
 今度こそ、この射精を以て、『儀式』は、『セックス』は、終わったのか。
 そう思うと、さっきまでの内蔵をかき乱されているような苦しみや、子宮をこじ開けられる痛み、マグマのような精液の熱さが、単なる過去の物としてしか感じない。
 逆流して零れ出した、或いは胎内に残った精液には、いっそ愛しさすら感じた。 こんなことを毎日続けていたら身体が保たないだろうが、たまにならいいかな、なんてことも、今となっては妄想してしまう。
 真っ白だった視界が、徐々に色を取り戻していく。 スパークした意識も、現実感を帯び始める。
「――――お疲れさま、レミィ」
 心の奥から、自然と流れ出したその言葉に応えるように、レミィは私の髪にそっと触れた。


――――――――――――――――――――――――――――――
 
* とってつけた既定事項 *

 そして、いたわるように、優しく撫でる――――なんてことは、なかった。

「……ッ!? う、んぁっ!」

 がしり、と、髪を乱暴に掴み、私の頭を持ち上げる。
 そしてそのまま、逆流した精液の溜まったところに、叩きつける。
 べちょ、と火照った頬に精液が付着する。
 そのままレミィは私の頭を押さえ込んだ。
 すると、だらんと垂れた舌が、精液を舐めとるように床に着く。
 そしてレミィは、また先程のように私の腰を乱暴に掴み、陽根をあてがう。
 ――――そう、私は一つ、大きな誤算をしていた。
 レミィの体内に溜まった『負のエネルギー』は、一度や二度の射精で吐き出しきれる物では、決して無いのだ。
 ならば、三度、四度なら?
 五度、いや十度の射精を行ったら?
 おそらく、それでも足りないだろう。 
 何故なら、その蓄積された量たるや、六十年分にも及ぶのだから。
 体内の水分全てを吐き出したとしても、まだ足りないのではないだろうか。 そう。 こんな二度の射精など、準備運動、挨拶程度でしか無いのだ。
 本当の『宴』は、これから始まる。
 恥辱陵辱肉欲暴力欲情の限りを尽くした、至上で最低なセックスは、まだまだ続く。
 六十年前、同じ事があったときのように――――記憶が、消し飛ぶくらいまで。
 私が壊れるまで、壊れても、レミィの本能が荒ぶり尽くしてむしゃぶり尽くして貪り尽くして飽きるまで。
 私は、犯され続けるのだ。
 

 ――――『若い』
 

 そんな、知った風な声が、聞こえた気がした。




* 水で薄めたワイン *

「ん、ぅ…………」
 目をゆっくりと開くと、いつも私が寝ている図書館ではなかった。 恐らく、この館に住み始めた当初にレミィにあてがわれて以来全くその役目を果たしていない寝室だろう。
 眩しすぎる太陽の光が、開いたばかりの目に容赦なく刺さる。
 いつも日の当たらない所で寝たり過ごしたりしている私にとっては、その陽射しは敵以外の何物でもなかった。
「腰、いた……」
 起き上がろうとすると、腰骨にヒビが入ったような痛みが走った。
 何か腰を痛めるようなことをしたのだったか。 昨日は、確か……あぁそうだ、レミィの体調不良を治す為――――と。
 ずき、と突然頭が痛んだ。
 レミィを治療する為の儀式を行い、そしてレミィがそれによって回復したことまでは思い出せるのに、その儀式の方法やら実際どうしたかが、全く思い出せない。
 「……ま、禁法秘法なだけあるわよね」
 吸血鬼に干渉する、なんて、多少の犠牲を伴わなければ到底無理なのだ。 今回、この儀式は、その犠牲というのが『記憶』だったというだけなのだろう。 いやまぁ実際のところ、またあの本を紐解けばいいだけの話なのだが。
 そこまでして、何があったかを思い出す必要なんてないだろう。 また次同じようなことがあったときに、また調べればいいのだ。 それこそ、それくらいの手間は必然の犠牲というものだろう。

「あっ! お目覚めになられたのですね、おはようございます!」
 扉をノックすることもせず、元気良く小悪魔が寝室に飛び込んでくる。 その手に持っているのは……なんとありがたいことに、咲夜特製ミルクティーだ。 頭痛や寝起きの怠さを覚ますのに、これ以上のものは中々無いだろう。
「はい、どうぞ。 お目覚めのお茶です」
 私は身体を起こし、紅茶をお盆ごと受け取って、ひっくり返さないよう慎重に布団に乗せる。
「――――それで、昨日はどうでした?」
 少し濃いめに淹れられたアッサムに、ポットに入ったミルクと、角砂糖を一つ混ぜる。
 それでもまだ熱いので、ふぅと息を吹きかけると、小悪魔が話しかけてきた。
「あぁ、それがね……忘れちゃったのよ。 どんな風になったのか、したのか。 ま、成功はしたと思うんだけど」
「えぇ、先程見に行ったら、お嬢様は安らかな寝顔でした。 さすがパチュリー様です! ――――ふふ、それにしても」
「それにしても、なに?」
「いえいえ、ちゃんと成功したんだな、と」
「ん、ま、大変だったけど……」
「いやー、そっちじゃないんです。 まぁ、こっちの話ですけど」
 小悪魔はそう言って、嬉しそうに笑う。
 ……うぅん。 何を言っているのか、全く解らない。
「本当に、私の事情ですから。 お気になさらず」
「……ふぅん、あっそ」
 素っ気ない素振りをしてみたが、実際のところ、凄く気になるのだけど――――まぁ問いつめたとしても小悪魔が答えるとは限らないし、こうしている間にも紅茶が冷めてしまう。
 それぞれにはそれぞれの事情があるのだろう、そんな風に納得して。紅茶を啜った。
 砂糖を一つしか入れなかったせいか、甘くなかった。
 私は角砂糖の入った瓶から一つ取り出して、濃肌色の液体に放り込む。
 
「今入れても、溶けないと思いますよ?」
「いいの。 こうすれば」
 ぐい、とカップに残った液体を一気に飲み干す。
 最後の数滴だけ、とても甘かった。
「――――お行儀悪いですよ?」
「これがこの館のしきたりなのよ、きっと」
「はぁ……」
 釈然としない、と言いたげな顔の小悪魔は、瓶から一つ角砂糖を摘んで、そのまま自分の口に放り込んだ。
「……そっちの方が行儀悪いと思うのだけど」
「悪魔だから、いーんです」
「ふぅん、あっそ」
 今度こそ、心の底からどうでもよかった。
「それにしても、パチュリー様がこの部屋を使ってるの、初めて見ました」
「別に、私が選んでここに居るわけじゃないけど」
「えぇ。 儀式の後、お片づけに入られたメイド長さんが運んだらしいですね。 何でも、折角毎日掃除してるんだから、たまには使って欲しいとか」
「…………ふぅん、あっそ」
 そうか、咲夜は毎日律儀にも――――じゃなくて。
 儀式の後片づけをしたということは……あの部屋に入ったということだろう。
 そのことを考えると、何故か腹がきり、と痛んだ。 まるで、自分の悪事が露見しかけたときのように。
 もしかして、これも儀式の代償なのだろうか。 儀式で何があったのか、気になってきた。 まぁだからと言って、やっぱり改めて調べる気にはならないのだが。
 案外私というのは、初志貫徹を好む生き物らしかった。
「あぁ、そうそう。 そういえばパチュリー様をここに運んで以来、メイド長の姿が見えないそうです」
「え? じゃあこの紅茶を淹れたのは……?」
「とーぜん、私ですよ。 使い魔ですから」
 ぷい、と拗ねたように小悪魔は顔を背けた。
 ……なぜ拗ねたろうか。 従者を名乗る生き物の持つ『忠誠心』などという、私には到底理解できそうにない感情の副産物なのかもしれない。 (そもそも小悪魔が私の使い魔であるという話自体、別に決まっていることではないのだが。 というか、私は認めた覚えがない)
「パチュリー様ったら、折角のお紅茶を味わいもせず……」
「あぁ……それで怒ってるの?」
「怒ってません!」
「――――ふぅん、あっそ」
「……あ、そうそう。 咲夜さんはいらっしゃいませんけど、妖精メイドさん達が張り切ってるみたいで。 お嬢様がお起きになられたら盛大な食事会をするそうですよ」
「ん……立ち上がれるようになったら行くわ」
 いきなり、ぱっと顔を平常に戻して私に告げる小悪魔。
 ――――うん、やはり理解できない。
「食事会、ね…………」
 そういえばレミィと食卓を共にするなんて、かなり久しいことのように思える。
 実際はそれほどでもないのだが、レミィが病床に伏せてからの数日間が余りにも濃密過ぎて、そう感じてしまうのだろう。

 レミィはまず、私にどんなことを言うのだろうか。
 いつも通り『おはよう』とか?
 或いは『ありがとう』なんて言葉だったりして。
 そんなことを考えていると、胸が期待で膨らんでいく。
 遠足を前にした子供のような、私にはきっと似合わない感情。 でもその感情を、私は悪い物とは、思わなかった。
「まぁお嬢様がお目覚めになるのは、きっと日が落ちてからでしょうから、今はゆっくり身体をお休め下さい」
「えぇ、そうするわ。 ――――紅茶、美味しかったわよ」
「次はしっかり味わって下さいね?」
「忘れない内に淹れなさいよ?」
 にこ、とまぁ可愛いと言えなくもない笑顔を浮かべる小悪魔。
 悪魔というのは、感情が移ろいやすい生き物なのかもしれない。

「それじゃ、私はメイド長を捜しに行くことにします!」
「そう、行ってらっしゃい」
 私からお盆を受け取り、元気良く手を振って寝室から出ていく小悪魔。
 しん、と突然静かになった寝室。
 私はその中で、レミィに掛ける最初の言葉を決めた。
 と言っても、何か面白みがあるわけではなく、捻りも含みも何もない、無難に無難を重ねた言葉だ。
 その言葉をそっと胸で復唱して。
 一度、口に出してみる。


「――――おはよう、レミィ」


――――――――――――――――――――――――――――――

* ワインに混じった手首からの血 *

「はいどうも、小悪魔です。 いやぁ、どうなることかと心配していたんですが、ちゃんと成功しましたね。 流石――――私です!
私の作った『記憶が失くなるほど気持ち良くなっちゃう上に精力増強しまくっちゃう媚香』、効果はバッチリみたいです! ――――ただ、やっぱり強くしすぎましたかねぇ。  
だって……ねぇ? まさか、こんなところにまで、一日経って部屋に入ったくらいで効いちゃうなんて……。 うぅん、これは責任を取って、私が治めてあげるべきなんでしょうね! うん、これはお仕事なんです! 趣味では決してありません!」

 小悪魔の作ったお香を吸い込んでしまい、淫乱になって、小悪魔が居るにも関わらず自慰に耽る咲夜を見つめて、小悪魔は楽しそうに笑うのだった……。
新人さんではございません
名無し
コメント




1.名前が無い程度の能力削除
エロくて良かったです
そして紅魔館の住人の素敵な関係が伝わってきて良かったです
ただ少々散漫に感じました
2.名前が無い程度の能力削除
ぼくもパチュリーさんになりたいです
帳の芝が青く見えるのは仕方が無いので
その青さをぼくは喜びたいですね!
とてもよかったです!
3.名前が無い程度の能力削除
こあの本性を垣間見た気がする。
面白かったです。
4.性欲を持て余す程度の能力削除
パチュリーさんえっろ
さくやさんがこあに好き放題される話も気になるます。