真・東方夜伽話

片思いの島、あるいは消失点

2013/04/07 22:23:12
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片思いの島、あるいは消失点

SYSTEMA
※ この作品は単体でも意味をなしますが、拙作「さよならセックスフレンド」を先にお読み頂いた方がお楽しみいただけるかと存じます。
※ 読む方によっては不快に感じる描写があります。
※ 独特の解釈がございます。
※ 嫌な予感がしましたらブラウザバックを推奨いたします。
※ 癖が強い作品です。


以上ご理解頂ける方のみお進みください。







































0

 この夏のあいだ文々。新聞にとある物語を連載していた。
事実を載せる新聞に物語を載せる。それが周囲の天狗達にとっては珍しかったのだろう、当時はどうしたのかとよく訊かれたものだ。
珍しいだけですぐに飽きられるかと思った。だが初めての試みにもかかわらずその物語は前の号を求められるほど好評だった。
  
 好評だったとはいえ、新聞記者である自分が物語を書くことにはまだ抵抗があるし、事実を報じる新聞に物語を書いてしまったことを後悔している。
だからもう書こうとは思わない。それならば何故書いたのか。

 当時としてはそれなりの理由から書かねばならない状況に置かれていたのだ。
まず、愛用していたカメラが壊れてその修理に数週間かかった。
 その間は紙面を写真抜きで構成しなくてはならならず、記事の穴埋めのために余計に文章を書かねばならなかった。
情けないことだけれど、紙面の構成を考えるときに写真が大きな比重を占めていたと気がついたのもカメラを失ってからだ。
結果として私は数週間机の前で苦労することになる。そんな現実的な理由が一つ。
 
 単純にカメラが壊れただけなら、薄めた文章で紙面を飾れば良かった。私もそのつもりだった。
だが、そうならなかったのにもまた理由がある。
私の身の回りでさまざまな秘密がいくつか生まれ、そして消えていったためだ。
最終的には私もその一つに巻き込まれることになる。

 秘密。

 秘密は心の中で留めておくことが出来ない。
それならば安全な形へ中和した後、誰かに伝えればいい。
そんな思いつきから私の身の回りの秘密達は何度も加工されたあと安全な物語となって紙面に登場することになった。
東風谷早苗の提案のもとわざわざ調べてまで、海――外界に有るという大きな湖――を舞台として書いた。
 幻想郷の誰が遠くの、それも見たこともない世界の出来事を地続きの現実と紐つけるだろうか? 
予想通り物語形式になったその秘密達は、多くの人妖の前に姿を現したけれど、ただひとり――秋静葉――を除いては誰も気がついていないようだった。

 この夏の間は本当に様々な出来事が起こった。
退屈ではないが、愉快でもない日々が続いた。
まるで舞踏会に放り込まれたような日々だった。
様々な妖怪達と手を取って踊り、ひとしきり踊るとまた別れる。その繰り返し。そして踊る度に一つ秘密を貰う。
舞踏会といっても必ずしも楽しい事ばかりではない。偶然の気まぐれにより踊る相手に嫌な奴が準備されている事もあった。
そんな感情も含めて遠くに隠してしまいたかった。

 始まりがあれば終わりがあるように、その連載は静葉と踊った次の日に終わった。
それきり私の周りには変わった出来事は起きていない。つまりその日を境として私の生活は元通り平坦な日常に戻ったということになる。

 さて。
カメラが直った今ではその物語を載せる必要も無く、紙面は元通りになっている。もうあの物語を話題に出す人もいない。
蒐集家の魔理沙でさえもてあます文々。新聞を取っておく習慣がある人妖などこの幻想郷には存在しないだろう。
つまりあの物語は人々の中では秘密もろとも忘却の彼方に沈んでいる最中なのだ。それがあの物語の最後にふさわしい。

 今更手元に綴じた文々。新聞のその記事を見直していると、そのお伽噺に題名を付けることを失念していた事に気がついた。
今になっては誰も読む人も居ないから付ける必要は無い。
だが退屈ではないが、愉快でもなかったあの日々から生まれた物語にあえてタイトルを付けるとするとこうなる。

「片思いの島、あるいは消失点」

 と。










1
 
 今年の夏は暑い上に、雨も多かった。
湿気が多い文月を終えると本格的に乾いた夏がやってきて、幻想郷全体がじりじりと音を立てて灼熱に溶けはじめた。妖怪の山も例外ではない。
妖怪の山では暑さをしのぎきれなかった河童たちが水の中で過ごしたり、またあるいは幾抱えもある太い樹の木陰で過ごす姿を何度見たことか。カメラを向ける気にもならないほどだった。
 私の住処には河童の里ではまだまだ貴重品である空調が一つある。そのおかげで夏の暑さとは窓一枚を隔てて無縁の生活を過ごしている。
あまりにも涼しい中で過ごすと足先が冷えるから時折窓を開くことがあるが、そんな時は夏独特の熱く湿っぽい空気と一緒に蝉の声がなだれ込んでくる。
 相変わらず、求愛のためにみんみんと騒がしいこと。
数週間の命を精一杯使って鳴き続ける蝉。それがこんなにたくさん居るのだ。

 私は蝉のように燃え上がる恋に落ちたことがあっただろうか。そんな事をふと考える。
恋と肉欲を勘違いしていた若い時分には体の関係を数えていたこともあった。
だけど物心ついてからそれほど時間が経たないうちに体だけの関係を結ぶことはそれほど珍しいことではないと気がついた。
天狗は性欲が強いから知らない相手と交わる乱痴気騒ぎが毎晩のようにあるのだ。

 そう。愛と肉欲には全く関係が無いものなのだ。そんなことに気がついてからは数えることをやめている。
 種族として仕方がない。
そんな口実をもとに、今では私も大天狗の権力に物を言わせてある天狗と当然のように肉体関係を持っている有様だ。
この関係は秘密だ。他の天狗が発行している新聞の紙面を飾りたくはない。
それに相手は口が堅いからうっかりこんな関係を誰かに話すこともないだろう。他のすべてがすれ違っていたとしてもその点だけは信頼している。
 
 そいつにとっては望んだ関係ではないはずだ。でも私にとってはそのくらいがちょうど良い。
冷め切った関係からは熱が生まれることもないし、物心つく前のように甘い夢を見なくて済むから。
窓を見ながらそんな事を考えていた。空からの光が一時弱まり、次第に風が強くなってきた。あと半刻も経たないうちに雨が降るだろう。

「今日は壊れたカメラの修理には行けませんね」

 空と地面を交互に見てから、薄暗い部屋の奥に戻る。元々物が少ない部屋の中のテーブルの上に商売道具のカメラが置かれていて目に付く。これは壊れているのだ。
手にとって振るとからからと音がするし現像した写真もすべてピンボケ。使い物にならないからにとりにでも修理をしてもらおうと思っている最中。
カメラが壊れた原因は椛と体を重ねたとき、カメラに足を引っかけて落としたから。

 そう。私の秘めたる関係の相手は椛なのだ。

2     
 
 椛を選んだのは彼女が両性具有だと言うこともあるし、何より彼女が大天狗の命令に逆らうことがないからだ。
 大天狗と私は懇ろであるから、椛を体目的で私の家に寄越すなんて朝食の準備よりも簡単だった。
もちろん相手の事なんて何も考えていなかったから彼女は帰り際にさんざん私を罵っていた事を思い出す。
曰く「文さんとはこんな関係になりたくなかった」だとか「元々はただの知り合いなのになんでこんな事をしければならないのか」
 云々。

 そんな彼女も見えないところで力関係が働いているのを察してからはずいぶんとおとなしくなった。
だけどまだ、納得していないのか時折小さなため息を吐く。
「分かってください。こんな関係嫌なのです」そんな意味がため息には込められているようだった。
私が今までそうだったように、彼女も身体だけの交わりに対して何も感じなくなるだろう。

 雨が降り始めた。たんたんとトタン屋根を雨粒が叩く。音に包まれて心地よくまどろんでいると不意に誰かから聴いた話を思い出した。
 事後には恋人の身体を抱いて眠るという。そこで仲良く話すのだそうだ。

 それは幸せなのだろうか。

 感じやすくなった心を遮るために一人シーツをたぐり寄せて、眠り込む。
壊れたカメラのことも、聞き伝えでしか知らない恋人の温もりがないことも考えないようにした。
 
3      

 翌日は晴れ。
分厚い玄関の扉を開くと蝉が放つ重奏が耳に届き、少し遅れて外の濃い熱気がシャツ越しに伝わってきた。
首から提げた壊れたカメラは炎天の光を浴びて既に体温以上の熱を帯びている。
 光は深い青色の空から降り注いでいた。
空には薄い筋雲が幾つか浮かんでいるだけで、じっとりとしたこの暑さが日暮れまで続くことは一目瞭然。
こんな中、ネタ探しを兼ねてここからにとりの家まで歩いたら汗だくになるだろうか。なるはずだ。
 踵を返して部屋に戻りたい気持ちでいっぱいになる。
部屋には空調が効いているし、シャワーだってあるのに。
少し涼しめの空気の中で、タオルケットを被りそのまま眠りたい。そして夕涼みの頃に目を覚まし、それからネタを探すのだ。
 そんな呑気なことは言ってられない。ネタを探して早く新聞を出さなければならないのだ。
新聞を定期的に出さなければ、周囲から「どうした?」と訊かれるに違いないだろう。その時に「カメラが壊れました」なんて言えば他の記者達に笑われてしまう。こういう決まり文句でだ。

「カメラがなかったときも、新聞はあった」

 そんなことを言う奴が多いのは奢侈品のカメラを持てないからだ。また自ら望んでカメラを持たない天狗も多い。
しかしそういう奴に限って将棋の手を解説する為に紙面を大きく割いていたりする。
そんな奴に馬鹿にされたくはない。手っ取り早く修理をして元の生活に戻りたい。

「カメラが直っていたりしませんよね」

 首から提げたポラロイドカメラを振るとからからと乾いた音が聞こえる。山の神社では奇跡の大安売りをしているのに、私のカメラは縁が無いようだ。
 独りごちた言葉に呼応するかのように頭上からまた一匹蝉がじいじいと鳴き始め、急かされるようにして私は空へ飛びだした。
風きり音が止んだとき、蝉の声は聞こず上空のひやりとした空気が身体を包んでいる。
 翻って山へと向き直り、中腹にあるにとりの家を探す。
険しい勾配が続く妖怪の山に生い茂る木々も夏至から続く暑さを吸い込むかのように葉を青々と茂らせている。
にとりの家は見えない。おおかた成長した木にでも隠れたのだろう。
 適当に見当を付けると私は再び山へと向かう。蝉の声の湖に飛び込んでいく心地がした。

4     

 にとりの部屋の壁には大きく開いた窓がありそこから風が吹き込んでいた。しかし動き回っている機材の熱のせいでこの部屋は蒸し暑い。
数分に一度は額から出す汗を手で拭わなければ汗が目に入りこんでくる始末。とっくの昔にシャツと素肌はべっとりと貼り付いている。

「この部屋、すごく暑いです」
「『暑い』って言ったら暑くなるんだ。そんなときは『涼しい』って言えば気が紛れるよ」
「涼しいですね、ああ涼しい」

 全く涼しくならない。

河童は暑さに強いのだろうか。でも目の前のにとりも同じく滝のように汗を流しているから彼女も暑いのだろう。
蒸れた部屋の空気を吸い込んでいると頭がくらくらする。一刻も早くこの部屋から出たい。
そして部屋に帰ってシャワーを浴びて空調の効いた自分の部屋で一杯やるのだ。その時はグラスだけが汗をかいていればいい。そんなことを思った。
しばらく私のカメラをいじくり回していたにとりがやっと顔を上げた。

「どうやら奥の方のレンズが割れているみたいだね。文」
「そうですか。それなら、レンズを交換すれば直るわけですね」
「うん。そうだね」
「それじゃあすぐに直してください」
「それが出来たら苦労しないんだけどね」

 苦笑混じりに言うと、にとりは近くの煙草を咥える。
油まみれの手がライターの着火ボタンを押し、じりじりと紙巻き煙草の先を炙った。
大きく煙を吸い込んだあと、ため息のように最初のひと口を宙へと吐き出す。それから難しい顔をしてにとりは話し始めた。

「カメラは作れてもレンズは簡単には作れないんだ。
 文のカメラのレンズは特注品だから職人が一つ一つ磨かないといけない。
 だいたいひと月はかかるね。あればっかりは真似が出来ないよ」

 河童の技術を誇るかのように腕を組んで満足げな顔をしている。どうやら修理には時間が掛かるようだ。

「その、私としては写真が写れば良いのですが……」
「いいかい。生半可なレンズを付けるとまず、ピントが合わなくなる。
 それにへたに鋳造したレンズには曇りが多いから、シャッタースピードを遅くしなくちゃ十分な光量がフィルムにまで届かない。
 その上、歪んだレンズでズームすると光が偏るから右側だけやけに明るい写真とかになるよ?」
「それは大変ですね」

 わかった振りをして、適当に頷いたあたりで会話は途切れてしまった。レンズについて何か訊けば良かったのかもしれないけれど
まず私は、光学の仕組みがよく分からないし、興味がなかったし、そもそもカメラがすぐに直らないと分かった時点でどうでも良くなっていた。
その後延々とカメラの仕組みとレンズの重要さについて語られたが右から左へと流れていくだけ。
 河童たちは寄り集まってこんなつまらない会話を延々と続ける能力がある。爪の先ほども羨ましいと思わないし、ネタにもならないけれど、一種の才能かもしれない。

「換えのレンズがあったかもしれない。ちょっと待ってて」

 話の途中にひらめいたのかにとりは半分ほど吸い終えた煙草を空き缶に落とすと部屋の中を探し始めた。
引き出しを逆さまにしたり、戻らなくなった引き出しを力任せに戻したり。からくり人形のように動き回る姿は何処かおかしかった。
「それにしても文らしくないね、カメラを落とすなんて」
「ええ、まったくです。うっかりしていました」
「文にもそんなところ有るんだ。意外だね」
「綺麗な物を見かけてぼうっとしていたら、つい手が滑って落としてしまったんです」

 嘘だ。本当は椛と身体を重ねている最中にカメラを足に引っかけて地面に落としたのだ。
高揚感に包まれている最中に誰がカメラのことなんか気にする? にとりは一旦手を止めて、汗をぬぐった。

「へぇ、そんな綺麗な物があるんだね。もしかして文、いい人でも出来た?」

 無邪気に笑いかけてくる彼女は、私と椛の関係を知っているのだろうか? 真意を測りかねて曖昧な笑みを返す。

「いえ、そんなことはありませんよ。どうしてそう思われたんですか?」
「それはね。そうだ、これは内緒にしておいて欲しいんだけれど、私にも好きな人が出来たんだ。だからなんとなくそうなのかなって思えて。私もその人のことをつい見とれちゃうこともあるからね」
「へぇ、お相手は?」
「それは言えないね。いろいろと面倒ごとはあるし、まだ今は話せないけれどいずれ話すよ。今はそれなりに上手くやっているとこ」
 言葉尻からにじみ出る幸せを隠しきれないようだった。

「幸せそうで何よりですね」
「そう、たぶん幸せなんだと思う。『恋は錠前屋をあざ笑う』っていうのかな」
「何ですかそれは?」
「恋に落ちたら種族なんて関係ない、どれだけ相手の家に鍵があったって愛はすべてを突き破るってことさ」

 今ここで私と椛の関係を話したなら、得意げに話す河城にとりの表情はどれほど曇るだろう。

「にとりさんっておもしろいですね。それに楽しそうです」
「その人もよく同じ事を言うよ。さて、レンズはもしかしたら裏の倉庫に有るかもしれないね。ちょっと見てくる。ここで待ってて」
 私が返事をする前に、にとりは足元に広がる有象無象を足で蹴散らしながら部屋の外に出て行った。
おかしな鼻歌を歌うにとりが部屋の外に出ると、私はこの部屋にひとりぼっちになってしまった。
私と椛の関係には勘付かれていないようで安心した。

 それにしてもにとりは秘密を持っていて、それに夢中と言った様子だった。
 秘密は時として指輪のように人に見せつけることも出来るのだ。
私にだって秘密の一つくらいはある。たとえば椛と身体だけの関係を密かに続けていることもそのうちの一つだ。
 秘密と言うよりも天狗の社会で生きていくための世間体を守るために公に出来ないのだ。
 それはきっとにとりの楽しそうな秘密とは違う、後ろめたい何かだろう。
この子はまだ自分たちの秘密を後ろめたく感じてはなさそうだ。だから「楽しそうだ」と言ってやった。少しだけ羨ましかったのかもしれない。
 
 にとりがせっせと川下の鍵山雛の家に向かう姿を見たという風の噂を思い出した。その通りであるならばにとりの相手は雛だろう。
にとりも面倒な奴を好きになったものだ。彼女に限っては天狗達ですら手を出せない。
厄が怖くて近寄ることすら出来ないから近くに哨戒の天狗を置いて彼女の動向を監視するのが精一杯だ。
 
「ごめんよ文、見つかりそうにない」

 部屋の入り口辺りから汗だくになったにとりが顔を見せる、片手にはレンズと全く関係が無さそうなスパナが握られている。

「そうですか。それは残念です」
「あと、そのレンズ職人なんだけれど最近怪我をしたみたいでレンズ作ってる余裕はないみたいだよ。どうする、他のカメラ貸そうか?」
「それは困りますね。このカメラじゃなきゃ写せない写真が多いのですが」

 自分のカメラは特注品で、高速移動をしながら撮影してもぶれないような構造になっている。
動き回りながら写真を撮る私にとってはこれ以外のカメラは使えない。

「文、一つ提案なんだけれどさ、私にレンズを磨かせてくれないかな? おそらく基準器どおりに磨くだけなんだ。
それに一通り光学関連の事を分かってからあまり悪い物は出来ないと思う。どうだい? やってみたいんだ」

 背に腹はかえられない。

「出来るだけ早くお願いしますね」
「頑張るよ」
「ええ、よろしく」
     
 手付け金が入った封筒と、壊れたカメラをにとりに渡してから、部屋を出た。
いつもならこの後どこかに取材に回るのだけれどカメラが無くては商売あがったり。暫くの間は自主休業としよう。
にとりの部屋から出る。深い渓谷にへばりつくように建っているこの辺りは風通しが悪く湿度も高い。
気分が悪いから草いきれのするうす汚い土手から早々と飛び去ることにした。
空は何も遮る物がないから西に沈む太陽が筋雲を赤く照らしているのがはっきりと見て取れた。鳶が空で緩く円を描いている。

「涼しいですね」
 
 上空の快適さはさながら天国のようだ。
夕凪は空に浮かんだ一番星から吹き込んでくる。今夜は窓を開けて眠ろう。きっと少しは快適に違いないから。

5      

 記事のネタになりそうな事件が起きない日々が続き、ただ昼間の太陽がじりじりと地面を炙るのを見るだけの日々を過ごす。
そろそろ新聞について真剣に考えなければ私の存在意義が消えてしまいそうだ。 

 カメラが壊れたからといって、刻一刻変化を遂げる幻想郷の指をくわえてみているわけにはいかない。
新聞記者ならカメラは無くともどこかにネタを探さなければならない。
 先の新聞では、人里のことを記事にした。たまには他所の事情を書いてみるのもいいだろう。
 ネタが困ったときには博麗神社に行くに限るが、霊夢は暑さで極端に不機嫌になっている。わざわざ弾幕を交えに行くほどの気力はない。ここは順当に、守矢神社に行くのも一つの手だ。
 守矢神社は山頂にあるため日差しを遮る物はなく、太陽はちっぽけな土地を遠慮無く照らす。
時折吹く風は山の中腹に比べると少々涼しい程度で不快なことに変わりはなかった。

「取材ですか?」

 境内に降り立ったとき、後ろの方から声がした。この神社の風祝の東風谷早苗だった。

「そうです。なにか面白いものがないかと探しているんです」

 営業用の薄っぺらい笑顔を振りまく。手帳を取り出そうとしたときに手が滑り真っ白な手帳が二人の間に落ちた。

「この様子だとあまりネタがなさそうですね」

 苦笑いを浮かべる早苗に真っ白な手帳を見せつける。

「ごらんのとおりです。その上カメラまで壊れてしまいましたから」
「それはそれは災難で。取材の相手が悪かったんですか?」
「まぁそんなところです」

 椛について一言二言愚痴をこぼしそうになるが、それを何とか飲み込んで話の方向を元に戻す。

「今日は暑いですから参拝客の方もいらっしゃいませんし。上がって行かれますか? 私も暇ですから。お茶くらいなら出しますよ」
 そう言って小石ばかり集めた塵の山を植木の下に隠すと早苗は社務所へと歩みを進めていった。銅青が浮いた屋根に照る光はしばらくの間弱まることはないだろう。何せ雲一つ無い夏の日なのだから。

「それじゃあお言葉に甘えて」

 先に軒先の影に入った早苗に続いて社務所に入ると中はがらんとしていた。どうやらあの騒がしい二柱は不在らしい。
そのまま客間に通された。小さな中庭の緑は光の加減で少し白みがかっている。ネタになりそうにない景色を眺めていると、早苗が冷えた緑茶を出してくれた。
お茶を飲む早苗はひどくくつろいだ様子で、足を崩して分厚い机に頭を押しつけ、冷ややかさを頬で感じている。
 気の抜けた彼女に最近変わったことが無いかと聞いてみたけれど、目新しい事はないとのことだった。

「うーん、何か良いネタがありませんかね。このままじゃ紙面が埋まりません。
 そうだ、早苗さん。外の世界の新聞についてお聞かせ願いませんか? 
 外の新聞で書かれていることを取り入れて、幻想郷に新しい風を吹かせたいのです」
「外の新聞ですか、あまりこちらの新聞と変わったところはありませんけれど」
「こう、何でも良いんです」
「ああそういえば毎日新聞の隅に連載している物語がありましたね。毎日それが続いていて、一年くらいで完結するんです」
「へぇ。そんな物があるんですね」
「ええ、やってみてはどうでしょうか」

 物語と、真っ白な手帳にメモをする。

「たとえば外の世界の海なんかを題材にしたらどうですか? 孤島で起きるサスペンス! 
そしてロマンス! 幻想郷には海がないから、ちょっと注目を集められるんじゃないでしょうか?」

 早苗の言う案も楽しそうではあったけれど、まず物語を書く事なんて記者の職分には無いから知識も疎い。

「考えておきます」
「名案だと思うのですが」

 そのまま家に戻り、原稿が広げられた机に腰掛ける。
紙面の構成を考えよう。
文字だけでも記事は出来るはずだ、たとえばこの暑さのことも記事になるだろう。
目を引くようなネタはこの暑さですっかり干上がってしまっている。思い起こせる限りのストックから出しても紙面の底の部分はまだ真っ白だ。
焦りが、汗となって白い紙を黒く濡らした。
 最初は妖怪の山を舞台にした表だって言えない実話録を書くことも考えた。大天狗を怒らせそうな内容しか浮かばなかったのでやめた。
 妖怪とはいえ宿無しになるのは辛い。
 
「物語ねぇ」

 早苗の言うように、少しずつ物語を載せていけば楽に紙面を埋めることは出来るだろう。
  海の存在なんて伝聞でしか知らない幻想郷の人々にとっては目新しい事は間違いないだろう。早苗の言うようにそこで何かしら起きる架空の出来事を書けば紙面の穴埋めくらいにはなる。
空調のごうごうという響きを聴いているうちに早苗の言う海についての話も魅力的だと思うようになっていた。

「海、ですか」

 幸いなことに霧雨魔理沙が紅魔館の図書館から奪った本が流れ流れて私の家にある。その中には海について書いてある本だってある。
海の歴史から、写真、またそれにまつわる出来事諸々が載っている外の世界の幼子向けの本だ。
天然色の写真をぱらぱらとめくっていくと「海に関するできごと」として、島流しという物があるらしい事を知る。
外の世界では悪人達を遠くの孤島に流してしまうのだそうだ。何かネタになりそうだと思い、書き損じた原稿用紙の裏側にメモを取る。
これを元に話を進めたら上手く行けばカメラが直るまでの期間はしのげそうだ。
だけど絶海の孤島に行くことになった辺りまでは決まるけれどその後が浮かばなかった。
   
     ――潮の香りがいつも漂っている小さな町に一人の男が訪れた。

 その日はそれ以上進まず、書くのをやめてしまった。

6     

 それから何らめぼしい進捗がないまま数日が過ぎた。空に身体を飛ばし、新聞の記事になりそうな場所を巡る。
河童のバザーの賑わいの中にネタが落ちていないだろうか、そんな一縷の望みにかけて見て回ることにした。
河童のバザーが行われている広場では蝉が鳴いていた。道には打ち水がされたばかりだった。
 バザーを上空から見たとき、ふと見覚えのある姿を見かけた。河城にとりだ。おおかたこの間注文したカメラの部品を探しに繰り出してきたのだろう。
その後ろに距離を置いてにとりを追いかけるもう一人の姿を見つけた。金髪で金色の瞳の少女、秋静葉だ。茜色のロングスカートを身にまとい、にとりを後ろから付け回している。
時折すれ違う人に肩をぶつからせ、そのたびに腰を折って謝っているからひどく目立っている。
その姿が気になって静葉の傍にそっと舞い降りて肩をつかんだ。

「え、ひゃあ!?」
「静葉さん、落ち着いて」

 大きな声だったがにとりは気がつく様子が無い。

「静葉さん。言っちゃ悪いですが、かなり挙動不審でしたよ」 

 私が言うのも気にすることなく、静葉はにとりがどこに行ったのか探し回っている様子だ。
どこかの老天狗と、河童の将棋の観戦をしている人混みから歓声が上がりにとりが一時こちらを向く。それに合わせて静葉は目を伏せた。

「にとりさんに用があるなら、私から話しかけましょうか?」
「え、ええっとそれはだめだよ」
「どうしてですか?」

 静葉は少しだけ口ごもっていて、その視線は私の手元の手帳に向かっている。ネタにされると思っているらしい。
いつもの癖で出していたペンと手帳を仕舞うとようやく静葉は一言。

「秘密」
「なんですか、それは」
「誰にだって言えないことくらい在るわよ」

 といっても、その表情は恋する少女の姿そのもので、秘密の正体なんて言うのはだいたい見当が付いた。
きっと彼女は河城にとりのことが気になっているのだ。蝉でもないのに恋に身を焦がすのは神らしくないと思った。
 秋の終焉を告げる神は、夏が求愛の季節なのかもしれない。なんてくだらない見出しが頭の中に浮かんで瞬時に霧散した。
それに静葉の思いは伝わらないだろう。この間にとりは誰か恋人が出来たと話していたのだから。
 終わりが見えている恋に情熱を燃やす様を見ているとどこか心が曇るのを感じた。悲しい行き違いだ。
最初から終わるであろう恋の話だと分かっていた。だけど口出しするのは私の記者としての役割の中にはない。

「まぁいいでしょう。誰だって秘密は持っていますから」
「ありがと」

 そんな返事をしたとき、遠くからにとりがこちらに向かってくる。彼女は私たちの姿を一瞥すると、大きく手を振り近づいて来た。
「えっ、ああにとり!?」
「落ち着いてください静葉さん。こういうときは怯えたら負けなんです」

 固まっている静葉を後ろに隠してから何事もなく手を振り返す。
にとりはずんずんとこちらへと近づいて来て立ち止まった。オイルが染みついた作業服。実用性重視の河童らしくあまり気にしていないようだ。
 静葉の手前もあり当たり障りのない話題を出す。

「にとりさん、こんばんは。カメラの修理はどうですか?」
「悪いけれどあれはまだ時間がかかるよ」
「あのカメラじゃないとどうも調子が狂っちゃっていけないので、なるべく早く修理をお願いします」
「文の撮り方だとあのレンズじゃないと難しいだろうね」
「ごもっとも。明るくて、望遠が効くレンズじゃないと、この私の仕事についてこれませんからね」
「そういえば静葉は買い物に来ていたのかい?」

 私の背中に隠れている静葉に声がかかる。落ち着こうという考えなのか胸に手をやっている。

「う、うん。その紅葉の準備とかって実は時間がかかったりするし、それに標高が高いところは紅葉になるのが早いから」
「そうなんだ。今年もきれいな紅葉が見えると良いな」
「任せて! 今年一番の紅葉はにとりに届けるから」
「ありがとう」
「それにしても、暑いね」
「ええ、今晩も熱帯夜ですって」
「じゃあさ、文も静葉もちょっと飲んでいかない? 冷えた麦酒がおいしいと思うんだ」

 静葉に小さく目配せすると彼女は小さく、それも嬉しそうに頷いた。
にとりに導かれるまま、河童の里の大通りを曲がった細い路地へと進んでいった。軒先に提げられた風鈴から涼しい音が流れ出ている細い路地に入る。

「文は、蝉の声が嫌い?」

 不意に静葉が尋ねてきた。

「ええ。やかましくて好きじゃありません。早く秋が来て欲しいものです」
「私も。そうすればにとりに最初の紅葉を渡せるから」

 その笑顔はとても眩しかった。

7 

「ここだよ、ここは天ぷらが旨いんだ」

 にとりが立ち止まった店先には狸の置物が置かれており、その首になにやら品書きが書かれた板をぶら下げている。
店内からは香ばしい油の香りと、がやがやと語り合う声が流れ出していた。

「こんな店が有ったとは知らなかったわ」
「まぁ、通しか来ないような店だからね」

 得意げなにとりを先頭に店の中に入ると、何処の席も河童や下っ端の天狗達であふれかえっていた。
ずいぶんと広い店内なのに、空いているテーブルは見あたらない。
近くの店番も忙しそうにしていて、捕まらない。
この店は混んでいるから他の店にしようと提案したけれど、どうやらこの店が一番空いているらしい。待つのも面倒だからこのまま帰ろうかなと悩んでいると、静葉が店内の真ん中辺りを指さした。

「にとり、見てあそこの席、あれ椛じゃないかな?」

 柱の影に隠れるようにして座っているのは椛。どうやら一人で飲んでいるようだ。
この日は昼の哨戒だったのだろうか。数日ぶりだというのに何となく新鮮な心地で見つめていた。
 彼女とは身体の関係では何度も会っているけれど、人を交えて会うのは初めてだ。
会いたいような、会いたくないような。
将棋仲間のにとりは気にすることなく椛の元に向かった。それを追いかける静葉に続いてゆっくりと歩みを進める。

 にとりと椛が話している最中、何度か椛と視線を交えた。椛は困惑している。
 話がまとまったのか椅子に腰かけ、酒とつまみを注文した。にとりの隣に腰かけて、満足そうな表情の静葉を見ているうちに料理が運ばれてきた。
テーブルに危なっかしいほどの大皿が並べられ、湯気が上がっている。共通の話題が無かったせいか会話は長く続かないけれど、久々に味わう酒は心地よく体に染みこむ。
最初のグラスを空けた辺りでにとりは、話があると切り出した。

「振られちゃったんだよ」
「にとりは恋人が居たんですか? 相手は?」
「まぁ聴いてよ」 

 肩をすくめるにとり。それを信じられないといった様子で眺める静葉。驚きの余りか箸を落としそうになっている。
箸をのばしながら椛の様子を伺ったけれど、前髪に隠れてその表情は見えない。

「相手は雛だったんだ」
「えええ?!」
「雛が相手だったんですね、それは河童の連中には知られてる?」

 哨戒天狗の任務の一つとして、鍵山雛の監視がある。
雛の厄が山に入り込んで、いらない混乱を招かないように見張っているのだ。そんな哨戒天狗としてにとりの話は聞き捨てならないのだろう。

「いや、たぶん知らないと思うよ。雛の元に向かうときにはいつも光学迷彩をつけていたし、夕闇に紛れて動けばみんな気がつかなかったよ。哨戒している天狗にさえもね」

 にとりの言葉に椛が黙る。

「厄は大丈夫なの? そんな身体で身の回りに異常が起きたりしないの?」
 
 と静葉。

「大丈夫、雛が綺麗に取ってくれたさ。普通の奴よりも厄は無いって言っていたから」
「そっか。でも雛は出て行っちゃったんだね」
「そうだね。もうだめかも」
「それって一区切り付いたってことよね」
「そうなるのかな……」

 静葉は軽く身を乗り出してまで話を続けている。普段物静かなのに、こんな一面もあるのだ。

「一度距離を置くのも良いと思うよ、二人は、付き合っていたんだよね?」
「いや、それが」

 一呼吸置いて

「はっきり付き合っていると言ったこと無かったんだよね」

 馬鹿みたいに笑うにとり。さらに戸惑う静葉、黙る椛。私は困った。
 二人が肢体を絡ませている様子が頭に浮かんで困惑したからではない。
それよりも自分たちの関係を見せつけられているような気分がしたのだ。
体だけを重ねる関係がこんなにも愚かしく見えるのだろうか。気が滅入る。
結局私が追加の注文をするまで話は進まなかった。近くの柱から流れる愛の歌はこんな状況でどれほどの力を持つのだろう。
 綺麗すぎるものは実在しないのだ。と内省させる位の力しかないのではないかと思ってしまう。
隣に腰掛ける静葉は秋が終わる前なのに気配を消してしまっている。気になっている奴がこんなろくでなしだった。きっと静葉はあきらめるに違いない。

「こんな関係だったけれど、何で終わったのか未だに見当が付かないんだ。ねぇ何がおかしいかな?」
「「「全部おかしい!」」」
「うええ」

 それからにとりの下手な自己弁護が延々と始まり、それにああだこうだ文句をつけたりセックスフレンドだとか囃したりしていた。騒ぎは収まることなく、白熱し、やがてにとりが酔いつぶれて泣き始めた。

「だってさぁ、だって雛のこと好きで好きで苦しくって、でもみんなに言えないしもう良いあ゛あ゛あ゛あ゛!!」
「うるさい河童ですね子供みたい」

 これほどまでに自分の感情に素直になれたらずいぶんと楽だろうに。

「そういうもみじはどうなの! だれかを好きになったりしたことくらいあるでしょ!!」

 ろれつが回ってない口で文句をいい、椛はつぶれたにとりをなだめている。

「秘密です」

 何が秘密なのだろうかと考えているうちににとりが動かなくなりお開きとなった。

8     

 店を出ると外はもう夜だった。

「まだ飲み足りないぁああ」

 じたばたもがくにとりを押さえながら話し合う。すっかり酔っ払っているにとりとは対照的に私たちはしらふに近い。

「誰がにとりの家まで送りますか?」

 できれば送りたくはないが、

「私は方向が違いますし、それに、静葉さんも違いますよね?」
「うん、ちょっと飲み過ぎたから早く帰らないと、穣子がうるさいし」

 予想どおり二人の視線が私に集まる。

「はいはい、それじゃあ、私が送りますよ」

 酔い潰れたにとりを背中に担ぎ、その場をあとにする。
にとりの家は私の家へと戻る道中になる。少しだけ歩いて風の様子を見て穏やかなようだったら飛んで帰る。そして寝る。
 にとりにはそのうち何か面白いネタでも提供して貰おう。
最近は記事のネタが暑さで蒸発して雲に化けてしまっているから水の神である河童に祈るのも理にかなっているはずだ。
 全く持って深刻なネタ不足だった。
 
 何事も起きない暗い山道を下っていく、鳴いている蝉は昼に比べればずいぶんと減ったけれど、その声が途切れることはない。
蝉の声が鈴虫の鳴き声になる頃には秋が来るのだろう。
過ごしやすい秋が終われば厳しい冬が訪れ、この山は雪に覆われ静かになる。
冬の気配の中にいつの間にか春の兆しが見え、そしてまた夏が来て。
 頭の中で季節がぐるりと一周したとき、背中から一つの気配を感じた。
振り返ると先ほど店で別れたはずの静葉が立っている。

「静葉さん、どうして?」
「なんだか歩きたくなっちゃった。星がよく見えるじゃない」
「静葉さんってロマンチストなのですね」
「穣子が司る農事はやり直しがきかないし大切なのだけれど、その後に訪れる落葉なんて言うのは大した物じゃないから。
 出来るだけロマンチックにするのよ。切なくて、また秋が来て欲しいってみんな願うくらいにね」
「それは、カメラが直ったら記事にさせてください」
「喜んで」

 そんな話をしながら、再び道を歩き始めた。

「にとりも頑張っているみたいね」
「そうですね。でもどうしようもないくらいの馬鹿ですけれど」
「それは言えてる」
「静葉さんは、にとりさんのことが好きなんですか?」

 静葉は一瞬戸惑った表情を見せたけれど、子供のような笑顔をすぐまた浮かべた。

「内緒」
「そうですか」
「でも誰かに恋をしているわ」

 静葉の金髪が月明かりの下で、鈍く輝いた。
 
「その人を好きになったきっかけは?」
「これは記事にする?」
「しませんね。色恋沙汰は犬も食わないですから」
「そう、それなら安心した」

 静葉は楽しそうに話し始めた。

「昔ね、私をからかってきた妖怪が居たの。すっごいやな奴らで。その時は稲穂を刈り取る前だから穣子も居なくて。
 我慢するしかないかなって思ってたんだ。
 だけど、次の日そいつらが椛さんにお説教をされているのよ。あとで椛さんに訊いてみたら、その人が助けてくれたみたい。
 お礼を言ったら笑っていたわ「そんなこと気にしないでも良いって」って」

 慎重に言葉を選ぶ静葉は、自分の綺麗な思い出を自分の言葉で壊さないように注意しているように見えた。
静葉はそんな事が本当に叶うと信じているのだろうか。
にとりのあのごみごみした部屋を訪れたらその仔細で繊細な幻想が傷ついたりしないか不安になる。

「その時、好きだっておもったの。私って馬鹿かな?」
「いえ、そんなことはないでしょう」
「私は終わりを告げる神、だけど何かを始めるのもいいでしょう?」
「そうですね」

 何故みな秘密を話したがるのだろう。このにとりも、秋の神も。
そのあとも、静葉はその『好きになった人』との生活が始まればどんな風になるだろうとはずかしそうな小声で告白してくれた。
 うっとりとした表情の静葉。
私はといえばこの瞬間が永遠に続けばいいと思っていた。
静葉はにとりとの未来に恋をしていて、胸に秘めたるその思いを誰かに話す。綺麗な物だけを見ることができる一番幸せな時だろう。まだ誰も悲しんではいない。

「長々とごめんね。これは私が酔っているときの話だから忘れてね」

 恥ずかしそうにそう言ってから静葉は飛び去った。月に向かって飛び去る彼女。それと対照的に背中で眠っている馬鹿。

「にとりさん、あなた静葉さんに惚れられているかもしれないですよ」

 背中からは反応がなく、静かな寝息が聞こえるだけ。

「幸せすぎて気がつかないのでしょうかね」

 にとりは母親に抱かれる子供のようにすやすやと眠っている。

9
 
 剛直を押し当てているにとりを起こして、文句を交えつつも雛の話題になった。
遊びすぎだとか、決心が足りないだとかありきたりな文句は浮かんでくる。
あまりにも雛の良いところばかり見ているとも言った。にとりもそう感じていたようだ。
 
「何というか、雛の心の中って読めないんだ」
「仰るとおり分からないです。なぜにとりさんみたいな妖怪を相手にしようと思ったんでしょうか。
全く不釣り合いですよ。雛さんは美人過ぎますし、彼女は慎み深い。それに対して貴女みたいな馬鹿と」
「そこまで言わなくても」
「私も、ああいう笑顔を貼り付けている人って言うのは基本的に信頼しません」
「そこまで言わなくても」
「まぁ、あなた方の関係は、知ったことではありませんし」

 またにとりは黙り込んでしまった。
しかし鍵山雛の役割は大変だ。自分じゃとてもじゃないが勤まりそうにない。
光があれば闇があるように陰と陽が互いに調和を取って、この世界は成り立っている。
 厄もその一つだから彼女のような厄を専門に取り扱う役割は必要とされている。
それにしてもいくら出来た人格者であろうと、人妖から疎まれ続ける生活を続けることなど、並大抵の神経じゃ無理だ。
それでも雛はすれっからしになってしまう様子もなく甲斐甲斐しく迷い込んだ人間を人里に送り返しているのだ。
 大方の天狗の意見として彼女は極度のお人好しだ、という事で意見は一致している。
例外としてにとりをため込んだ不満のはけ口にしていたとしても、不思議ではない。むしろ、まだ足りない程だ。
にとりとの関係を終わらせる理由は何だろうか。もしかしたら彼女は全く違う価値観で動いているのかもしれない。
 考えているうちににとりの部屋についた。
風が叫び声のような音を立てていたせいか、余り心地の良い夜ではなかった。

10      

 家に帰って、ほろ酔いのまま机に向かいあれこれ考えを巡らせる。
ことあるごとに静葉が叶わぬ恋をしている、と言う事実が頭をよぎっただけだった。
 
「それにしたって、あんなに楽しそうに話さなくても良いじゃないですか」

 静葉はとても楽しそうににとりと付き合った「ならば」の話をしてくれた。
彼女がいつか恋に破れたとき、自らその秘密を私に打ち明けるだろう。
静葉の願い事は叶わない。終わりを迎えることは火を見るよりも明らか。
 悲恋。とでも言ってしまえばいいのだろうか。美人の彼女ならその芝居がかった言葉もしっくりくるだろう。
もし願い事が叶うなら彼女は幸せだろう。だがそんな場所はどこにも無いのだ。
そんなぼやついた思案と目の前の白い原稿が結びついた。

    ――潮の香りがいつも漂っている小さな町に一人の男が訪れた。

 
 願い事を叶える島の話。というのはどうだろうか。
 妖怪の山では決して願いが叶わない秋静葉の恋模様を物語にするのだ。
島流しの文献とは逆に絶海の孤島に自ら進んでいくのは願い事が叶うからと言うわけだ。
そんな舞台を準備して、終わるであろう秋静葉の恋模様の軌跡を載せていく。それだけでも話は出来るだろう。

 簡単な話じゃないか。そう物語の登場人物として彼女を紙面に登場させればいいのだ。
だがにとりと静葉だけじゃすぐに話が終わってしまう。いっそのこと居酒屋でテーブルを囲んでいたあの四人をみな登場させてみたらいいだろう。
もちろん私も含まれる。他人事だけど観察者として私が登場するのだ。
 名前も種族も変えてしまえ。何かの登場人物に当てはめてしまえば読む人は彼女たちだと分からないだろう。それどころか本人達も気がつくかどうか。
舞台は島。この島に行くのは願い事が叶うとされているから。この話の中では愛を求める人々が集まるミステリアスな場所だ。
ただしその場所から戻った者が居らず、噂は噂として広がっているだけ。もう、どうやっても願い事が叶わないからとあきらめた人々が流れ着く島。

 登場人物はロボット、女神、女剣士、そして男。という事にしておいた。
ロボットはにとりだ。あいつは機械ばかりをいじっているから。
この女神は静葉。この物語の悲劇のヒロイン。
そして女剣士は椛。とりあえずの頭数合わせ。その上彼女が何か秘めたる願いを持っていることを知っている。
 たとえば最近体を合わせるときに、何かを言い出そうとしているのだけど言わずにいることとか。
そして、この主人公の男は私。静葉の叶わない恋に巻き込まれる羽目になり、こんな話を書くに至った男。

そんな何か秘密を持っている人々が集まる島の話を書いた。始まりはこうなる。


11

      行けば願いが叶うとされている島がある。
     その島は岸から数十里離れているだけで、晴れた日ならば海岸線からでも小さくその島陰を見ることが出来る。
     ただ、この辺りは年中強い風が吹き付けている上に、潮流の流れが速いから、生半可な船乗りだとその島にたどり着くことすら出来ない。
     その島に行って帰って来ることが出来るのは、近くの村に住むたった一人のベテランの船乗りだけだ。
      願いが叶うという噂を聞きつけた人々がひっそりとその船乗りの元を訪ねるが、そしてほとんどが返される。だがそのうちの何人かは島に送られる。
     その基準は分からない。
      また今晩も怪しげな島に、数人の人が運ばれていく。

      今まで数多の人々がそこに運び込まれたが、だれも戻ってきた試しがない。
     だから島の広さを正確に知るものは誰もいないし、中でどんな暮らしをしているのかなんて知ることもできない。
     近くに住む人々にとってはその島は有ってないようなものだ。あの世に近いのかもしれない。
     そんな怪しい島に向かう人は、どこかくらい陰を背負っている。何か後ろめたいことがあるのだ。

     そんな島に、ある男が行くことになった。
     船に揺られながら、男はこの船乗りとの押し問答を思い出していた。

     「おまえさんは、願い事があると言うが、どんな願い事なのだね」
     「それは、いえません」

      ほう、と船乗りは頷いた。

     「教えて貰えないような秘密の願い事を持っているのだね」
     「……はい」

      近くの窓から風に乗った煙の香りが漂ってくる。この男が持っている秘密とは昔の幼なじみを見つけて、好きだと伝えたいという事だった。
     長い間の戦乱が二人を引き裂き、今では彼女が生きているのかすら分からない。
     だけどそれを口にすることを男は恥ずかしく思いついに言えなかった。このまま帰されるだろうと男は思った。
      船乗りはあまり表情の無い方であったが、やがて顔をほころばせた。
          
     「よし、おまえさんを連れて行こう」
     「はい?」
     「連れて行こうと言うのだ、さっさと準備をしろ。出帆は今晩だ」

     そんなやりとりがあり男は船に乗っている。不思議なこともあるなと男は考えていた。


  
12     

 昔の私ならば新聞に物語を載せるなんて考えもしなかったし印刷もしなかっただろう。
新聞を配った翌日には少し後悔もしたが後の祭り。何かしら不都合が出たらまた新しい新聞記事を載せればいい。それくらいに思っていたのだが期待を裏切って物語への反響は大きかった。
人里のカフェーに置かれた新聞もいつもよりも多くの人々に読まれているらしい。
 東風谷早苗に至っては「私が編集長になります」だなんて言い出す程だ。丁重にお断りをしたが。

「おもしろい試みね、文はカメラがない方が良いんじゃないかしら?」

 皮肉混じりのはたての言葉もあながち間違いではないと思う。
 物語はファンタジーであったが、結局それは私や椛や静葉やにとりと言った人々が幻想郷での行動の軌跡を綴っただけだった。
現実から遠く離れた出来事を身の回りの出来事に関連づける奴なんて早々居ない。ファンタジーならなおさら。
書き出しは少し考えたけれど、これからのストーリーは現実の投影だからただ皆の動向を書けばいいだけなのだ。
 だけど悲しいかな。この物語は静葉が振られることを前提として書かれているのだ。
適当なつなぎを書いていても、そのことだけが胸をちくりと痛めつけた。
 さて、この島は、願いが叶う島とされている。しかし願いが叶うだけではおもしろくない。
だから願い事を叶えるか、その願い事を誰かに話してしまうとその島から消えてしまうようにした。
こうすればいつでも切りよく終わらせるし、私にとっては凄く都合の良い話だ。
 いつでも終わらせることが出来て、みんなが読む。机に向かうのがこれほど楽しいとは思わなかった。

 明日あたりは気晴らしに椛で遊ぼう。儚い逢瀬に体を任せて、その間だけ私は椛に恋をしている。
素敵な話じゃないか。

13

 翌日は雨だった。

来る途中で降られたのかベッドに腰かける椛の上着には至る所に雨粒の跡が残っている。
彼女の呼吸は深く、じっと板張りの床の木目を見たり、また窓の外に広がる曇天模様の空を見たり。
降り始めた雨が木製の屋根を叩き、とんとんと音を立てている。床の木板からわき上がった湿気はいつの間にかこの部屋を包んでいた。
この部屋は電気が灯っていないから雨天の外よりも一段と薄暗い。
少し開いた窓から水気を含んだ空気が薄暗い部屋に混ざりこむ。
そのおかげか部屋の雰囲気がよりいっそう陰鬱なものへと変わっていく。
遠くからゴロゴロと雷が鳴る音がする。稲光は見えないけれどやがてここも強い雨になるだろう。
ベッドの隣に腰掛けた椛は顔を上げるとこちらを見つめた。銀髪が窓からの風に吹かれて僅かに揺れる。

「また、ですか。文さん」

 声がくぐもって聞こえるのはトーンを落としているからだろう。

「そう、『また』なの」
「――どうして、私なのでしょうか」
「ただの遊び相手なのだから。嫌いな方が良いでしょう」
「そんな」

 文句を言う口を冷めた口づけで塞ぐ。椛の服を乱暴に脱がせるとしなやかな筋肉をまとった身体が露わになった。
抵抗をしないのは、諸々のあきらめの感情が彼女の中で渦巻いているからだろう。
汗の香り、濡れた地面の香り。夏をぎゅっと閉じ込めたような香り。
それを嗅いでいるうちに自分の本能が首をもたげた。おもちゃ同然の椛相手に何を躊躇うことがあろうか、何も遠慮する必要はない。
舌をねじ込み、下半身の剛直を服の上から上下にこする。避ける身体を押さえ込んで、次第に硬くなる剛直を掴んだ。

「――――っつ! 文さん、ちょっと」
「二人の時は『あや』で良いわよ」

 頭をなでると諦めたのか、抵抗する力が弱くなった。
汗を吸い込んでじっとりとした袴を脱がせると、硬くなった肉棒が露わになる。
山蛭に血を吸われた跡が彼女の足首に残っている。哨戒の任務は空から見ているだけではないから、こうした傷にも慣れないといけないのだろう。
床に膝をついて赤黒く怒張した肉棒をまじまじと見つめる、恥ずかしいのか椛は何処か遠くを見つめているようだ。 

「椛のチンポ、何もしてないのに、ぬるぬるしてる。何か期待していたんでしょ?」
「……そんな、あっああ」

 自分の手のひらに唾を垂らして、肉棒の先を手のひらで包み込む。
ぬちゃ、ぬちゃ、と音をたてて上下に擦りあげる。声を我慢している椛は見ているだけでも楽しいが、もっと深いところを見てみたい。
 再び口づけを交わしたあと。軽く身震いのあと、甘い吐息が漏れ出て耳をくすぐる。

「あっ、――ふぁ!!」

 この子も普段は男勝りの活躍をしているにもかかわらず、よがり声を上げている。
椛は腰を少し浮かせている。そのぬらめく肉棒のカリの裏を強く擦る。うっと言う声と共に、熱い液体が掌の中に注ぎ込まれた。
 タオル地の毛布にくるまってうめき声を上げている。刺激を繰り返すと肉棒は熱と堅さを取り戻してきた。

「貴方だけ気持ち良くなっていても駄目でしょう?」
「あ、う」

 スカートを捲り上げ、ショーツを片方だけ外すと、椛と向かい合わせになって座り込んだ。

「まだ硬いから、楽しみ」

 服を着たままだけれど、その方が楽だ。
ゆっくりと腰を下ろし、椛の肉棒の先としっとりと濡れた秘所が軽く触れた。

「いくわよ」

 返事を待たずに、膝を曲げゆっくりと剛直を身体の奥深くに飲み込ませていく

「あっ、あや、さまっ」
 
 ベッドがギシギシと軋む音の中は思いの外大きく、かろうじて椛の声が聞き取れた。
彼女に跨がり、腰を強く落とすと肉壁にこすれて目がちかちかするような快感が全身に広がる。
溜め込んでいた欲求が、解消されるどころかまた強まり、波のように全身へと広がっていく。
 身体を支えきれなくなって、椛にもたれ掛かる、そっと手を絡ませて唇を合わせる。
じゅるりと音を立てて唾液の交換をしたあと、片脚に残ったショーツを手で外して放り投げた。
 蕩けた目でそれを追いかける椛は、軽く身震いをしてから私の腰をつかんで乱暴に上下させた。
椛の肉棒が硬さを増す。
私でしごいて気持ちよくなろうとしているのだ。

「あ、ふぁ、んっ……やっ!!」

気持ちを昂ぶらせるために自分の喉から艶っぽい声が出る。やがて、椛の手の動きが速くなり、強く強く打ち付けた。

「――!!」

 身体の奥に精液を流し込まれ、声にならない声を出す。
力が抜けた身体が椛のごつごつとした手のひらで引き寄せられる。力の抜けた体を抱きよせてくれるのは彼女の優しさからだろうか。
そとの雨脚はその勢いを増していて、窓の近くの床に黒い滴のあとを次々と残している。

「こんな雨の日の哨戒は大変でしょう」
「ええ。とても大変です。傘を差すわけにもいきませんからね」

 この瞬間、椛の腕に抱かれて外の天気について話すだけなのに、なんだかとても幸せな気分だった。

「それじゃあ、私は帰ります」
「そう。それじゃあ」

 繋いだ指先が、そっと離れると少し寂しげな表情を浮かべる。
心なんて最初から近づいては居ないのに、身体が離れるだけで寂しげな表情をこの子は浮かべるのだ。

「もう。こんな関係は嫌です」

 そう椛は言い放った。望まない体の関係を強要されていたら私も嫌だ。

「分かってるわ」
「文さんは何も分かってない」

 怒気を含んだ声がまた穏やかになる。

「……いえ、何でもありません。それじゃあまた。来週にでも」
「ええ」

 おかしな椛。それだけ言い残すと傘も差さずに部屋の外へと去って行く。面倒くさい奴だ。
窓を閉めて新聞の続きを書く事にした。

14     


      時間通りに行くと、船が待っていた。桟橋から小さな船に乗り込むともうすでに数人の乗客が待っていた。
     船室の中は狭くて薄暗い。一緒に乗っているのは男を含めて三人だった。
     人間離れしたほど美しい女と、そして顔をヴェールで隠した女が一人。やがて船乗りが船室に入り込んできた。

     「この島は、噂通り願いが叶う島だ。だが、そのためにルールがある」
     「ルール?」
     「ああ、そうだ。自分が心の中に秘めている願い事を話すか、叶えるとどこか遠くに飛ばされてしまう。これは本当の事だ。だから秘密を話すなよ」

      薄暗い船室の中は、沈黙が横たわりはじめていた。皆不安とも、あきらめともつかぬ表情をしている。
     男も例外ではなかった。


12     

 
 さて、文章中では私が椛に惚れている事になっているが、実際は「少し良い」くらいの感情を抱いているだけだ。
恋に落ちている訳ではない。だけどこうして文中だけでもこんな関係だと少しだけ意識してしまう。
だけど、すべてが間違いから始まっているこの関係が正しい物に変わる見込みは限りなく薄いだろう。
 夕闇が近づいてきても外では蝉が鳴き続けている。あれだけ愛を求めている。静葉も蝉のように、にとりに思いを伝えようとしているのだ。

「大変ですね。みなさん」

 にとりも、静葉も。大変だろう。
私だけが醒めている。

15       

 山の天気は変わりやすい。
文字ばかりの新聞を発行してから暑い日が幾日か続き、嵐が訪れた。嵐の次の日から、風は強くとも涼しい日々が続いた。
人っ子一人居ない河童の里には、風に吹き飛ばされたゴミがあちこちに散らばっていて。
 何処か知らない場所へと来たようだった。
河童の里を歩いている最中に雨が降り始めた。めぼしい収穫も無かったからその日の取材はここで切り上げる。

住処に戻って濡れた服から着替えていると。音を立てて降っていた雨はいつしか煙雨となっていた。
濃い霧は渓谷のくぼみに這うようにして辺りに漂っている。乾いた土埃が雨に流されたお陰で遠くまで見渡せる。
温度が下がったから空調をきって、窓を開ける。

雨粒が木の葉を叩き、さわやかで涼しげな水の音を奏でている。
野を渡る風はさやさやと微かに吹く。
遠くの方で虹が消えかかっている。虹の根元には青々とした田が広がっている。あと数週間もすれば穣りの季節が訪れる。
 その時にはカメラが直っていて、元通りの新聞を発行すればいいのだ。
雪が全てを埋めてしまうまではあらゆる意味で実りが多い季節となるはずだ。
 次の新聞はこの台風の出来事と、河童バザーの様子を書く。残りはまた物語で埋めればいい。
 少しだけきりが良いところまで進んだから、少しは休憩をしよう。時間も身体も持てあましていたから椛の家に向かうことにした。
 山を下って、古びた庵の前に降り立つ。
椛の庵には不在と書かれた看板が下がって居るけれど、時間はたっぷりあるから玄関の戸口の前で待って時間を潰すことにした。

やがて、雨は弱まり始めた。遠くの方は霧に隠れていて有りもしない物が見えてくる。例えば椛と出会ったときの事とか。
身体ばかりが伴う無口なデート。私の気まぐれで始まった関係も、椛からすれば屈辱的に違いない。
天狗の上層部へのつながりが無ければ、椛のように哨戒天狗の中でも指折りの堅物をこうして手籠めにすることなぞ無理だ。

 次の新聞には彼女とこんな爛れた関係になってしまったいきさつでも書こうかと思う。
その思い出の綺麗なところだけを取り出して、そして遠くの島に投げてしまえ。
遠くから見覚えが有る姿が現れた。蓑をかぶっているがその歩き方はこの家の主に違いなかった。

「文さん?」
「あや、で良いわよ。貴女がカメラを壊したのだから責任取って」
「何も出しませんけれど」
「結構ですよ」

 椛の家の中は薄暗く、土間の辺りの空気は朝方の涼しさを残していた。勝手に部屋に上がり込んで、囲炉裏の向かいに腰かけた。

「文さんにとって私は何なのですか?」
「遊び相手だけれど」
「そうですか、遊び相手なら相手の都合も考えてください」
「生意気ね」
「生意気で結構です」

 大粒の雨脚はいつの間にか霧雨になり、外から音をすっかり奪っている。雨の中では蝉は鳴かないのか珍しい沈黙が続く。
自分が放つ衣擦れの音すら大きすぎるほどだ。

「生意気さんで、遊んで良いかしら?」

 濡れた髪の毛からぽたりと滴る水が、板張りの床に黒い跡を残した。
口づけを交わし、身体を重ねた時、不意に胸を押し返された。

「今日は、そんな気分じゃないのですが」

 私が手を掛けてずらした服を直しながら椛は応えた。身体だけの関係なのに、ここまで進めておいての拒否に苛立つ。
一方椛は表情を明るくして、話し始めた。

「文さん。今度秋になったら一緒に渓流で釣りでもしませんか?」

 一体この子は何を言い出すのだろう。

「嫌です。記事になりもしないのに」
「それじゃあ」

 椛は近くの鹿の角の飾りが付いた弓を取り出して弓を射る構えをする。

「いいです、貴女は狩りに集中しすぎて私のことなんて放っておいているでしょう?」

 何も言わないでいると椛の作ったような笑顔がだんだんと薄れていった。

「なんで貴女は、そんなに私と過ごしたいの? 体だけの関係なんだから」

 椛は目を見開いてこちらを見上げ、そして口元に歪んだ笑みを浮かべる。まだ何も言わない。

「にとりの話でも聞いて嫌になったの?」
「いえ、その上手く言えませんが……そうだ、この後時間ありますか? 将棋でもしませんか?」
「あのねぇ、将棋とか囲碁とかそういう意味での遊びじゃない位分からないの? この馬鹿」
「すいません……」

 しゅんと消え入りそうな声をあげる椛。
少し苛立って、そのまま部屋から出ようとしたとき、不意に背中から声がかかる。

「何もしないで文さんが帰るのって本当に久しぶりですね」

 何処か懐かしそうに、椛は話した。

「ほっといて」

 出会った頃の記憶がよみがえってきて、やっとのことで喉から絞り出した声がそれだった。
 そもそも、私たちはそんな関係じゃ無かったはずだ。椛は腕が立つ哨戒天狗で、私はただの記者だった。
そんな頃、彼女と狩りに行ったことを思いだした。
 つまらなさそうに独り古木に腰掛けて居たら、彼女は嬉しそうに鳥を持って来たのだ。その時の椛はまるで犬のようだった。
無邪気で、楽しそうだったのに。そのままが良かったのかもしれないのに、ふとした気まぐれからすっかり変わってしまったのだ。

部屋に戻ると空調は付けっぱなしになっており肌寒い。思い出が急に頭の中をよぎり、気分が優れないからソファに腰掛けて、度数が高い酒を手に取る。
 空も気持ちも何処までも曇天模様。すっきりとしないまま再び机に向かって物語を書き始めた。筆が勝手に進む。やはり内容は二人の出会いと別れだった。

16       
 
     数刻ほど揺られた頃だろうか、美しすぎる女が、自己紹介をしましょうと提案してくれた。 

     「私は、その変に思われるかも知れないけれど、女神なの」
     「女神? 神様なの?」

     ヴェールの下から素っ頓狂な声が飛ぶ。

     「それじゃあ、不思議な事も出来たりするの? 例えば、何もないところから宝物をだしたりとか」
     「それが、出来ないのよ。女神も色々あって、平和を司る女神が居れば、豊穣を司る女神も居る。
     私はとても地味な事しかできないの。花瓶の花が枯れていたら再び花を咲かせるくらい。
     空を飛ぶことすら出来ないわ」
     「妖精か、魔法使いみたいね」
          「そうね。そう言っても良いかもしれないわ。とにかく、私は居なくてもあまり世界には変化がないの。
     それじゃあ、あなたが自己紹介をして」

     指を差された女が、ヴェールをめくる。その顔がヴェールから見えたとき、男も女も「あっ」と声を上げた。

     「久しぶり」
     「もしかして、え?」

      ヴェールに顔を隠していた女はなんと男が会いたかった女だった。
     男にとってはその幼なじみと出会って好きだと告げる事が目的だった。そして返事を聞くことも。
     昔々にこの二人はよく遊んだ。住まいは近くで、顔を合わせれば何かと話すし、遊ぶのも一緒だった。
     だけど二人は戦の動乱の中で離ればなれになってしまった。女は東へ、男は西へと行くことになった。

     「男も、この島にいくんだ。何か願い事があるんだね。ねぇ何を望んだの」
     「それはね――」

      そこで男が目的を果たそうと言葉を用意していると、船長の大きな声が船室内に響いた。
      
     「うるさい、そろそろ島の近くだ。あまり自分の願い事に関することは言うな。消えたくないだろう」

      船長の声が船室に響き渡って二人とも口をつぐんだ。やがて船乗りは船室にむかって「到着だ」と短く告げた。
     甲板に並べられた男達に向かって船乗りは簡単に告げた。

     「詳しくは桟橋の向こうにいるロボットに聞いてくれ。それじゃあ」

      荷物を下ろしていると遠くからランタンを持ったロボットがガシャガシャと音を立てて近づいてくる。
     男は、あと少しのところで目的を果たせそうだったのに出来なかった。
     ひとえに偶然だった。

      二人とも気まずくなって、黙ったまま桟橋を渡っていくと、銀の筒をつなぎ合わせた人型のロボットが立っている。

     「ようこそ」

      単調な言葉でそのロボットは迎え入れてくれた。
          魔法や神の類は珍しくない二人だったがロボットについては噂でしか聞いたことがなかった。
     荷物を放り出してぺたぺたと触ったり中に人が入っていないか調べたりしていた。

     「ねぇ。あなた――」

     遠巻きに見ていた女神はロボットを見て驚いた様子だった。
          だけど、何か言おうとして再び口をつぐんだ。

     島には幾つかの家があり、少し掃除をすれば、すぐにでも使えそうだった。
     夜には広場に集まって、皆で焚き火を囲んだ。
     島は誰にも言えない願い事を持った者達が集う。だけど願い事を話してしまったら消えてしまう。どこかに飛ばされる。そして願い事が叶ってしまってもきえてしまう。
     男は、この女騎士を追いかけて、幸せになろうと願い、この島にやってきた。
     だが、男が彼女に好きだと告げた瞬間、願い事を他言したと言うことで消えてしまう。
     どうにもならないのだ。

     その晩。ロボットを囲んで食事を摂った。

      男がロボットに以前にこの島居た人物のことを聞いてみると、ノイズ混じりに彼は説明してくれた。
     以前恋がしたいという老人が居て、最後にはこの島に流れ着いた人魚と仲良くなって二人して消えていったとか。
     その前にいた奴は死んだ嫁に会いたかったらしいが。最後に自分が殺したって自白して消えてったなどなど。

     「イジョウデス」

      ロボットが簡単に告げた。この三人の中で真面目に話を聞いていたのは女神と男だけだった。
     女神は話し終わってからも、ロボットのことを見ている。
     何があったのだろう? 沈黙が気まずかったのか女剣士が話し始めた

     「私はね、この島に来た理由は」
     「だめだ、それ以上話しちゃだめ。消えてしまうだろう」
     「あ、そうだった」

     うっかりしているところも昔のままで、男は懐かしく思った。


17

 この女神、つまり静葉はロボットに恋をしていることになる。だけどにとりが雛に会いたがっているように、ロボットはこの島に居ない誰かとの再会を望んでいる。
そんな流れになるだろう。相変わらず新聞は好調に購読者を増やしている。前の号を求める者も出てくるほどだ。

さて。にとりの意見は聞いたけれど、雛の様子については取材をしていない事に気がついた。
 厄神とにとりがふとした切っ掛けで出会うことは有るだろうけれど、それ以上の関係になるなんて考えにくい。厄神が誰かを愛する事なんてありうるのだろうか。
にとりには目立って良いところなどみあたらない。寄り集まらなければ生き抜けないほど弱い種族だし、その種族の中でもちょっとだけ変。
頭も言葉も軽いし、それにやけに無気力になることもある。
お世辞にも良いとは言えないにとりを好きになるのには何か裏があるだろう。
にとりの話通りなら、彼女は出会った者の厄を取ってくれるようだ。ならばこちらから変に刺激しなければ彼女のことを上手く取材できるはずだ。
天狗の連中達が知り得ない情報を聞き出すことが出来れば、さらに文々。新聞の知名度はあがる。

「案外カメラが無くても、新聞は出来ますね」

 調子よくそんな言葉が出てくるくらい、すべてが順風満帆だと感じて鼻歌交じりに厄神の住処に向かう。
その途中で雛の動向を哨戒している天狗と出会ったけれど、説き伏せて道を明けさせた。説き伏せるというよりも、半分脅しに近かったが。
「変なこと書いたりしないでくださいね」と怯える天狗に案内されたとおりに行くと白いペンキが剥げた小屋が見えてきた。
きっとあれが雛の家だろう。家の前に立ち玄関を数回ノックすると、ドアは音もなく開いた。
 ヘッドドレスから垂れるリボンの合間から整った顔立ちが見える。そのとき、この厄神がとても美しいことに気がついた。
華奢な手首も人形のようになめらかな首筋も、この夏の暑さのの中ではひときわ異彩を放っている。綺麗すぎるのだ。怖いくらいに。固まっている私に向かって雛は優しく話しかけてきた。

「あら、取材?」
「ええ、そんなところです」
「そ、何もないけれど上がって」

 軽やかな足取りの雛について行く。人形ばかり並んだ部屋は空気も停滞していて不気味だ。
片目の人形の前で思わず目がとまる。美しい装いも白く濁った片眼で台無しになっていた。

「良い趣味とは言えませんね」
「お仕事だから仕方ないでしょう、さぁ掛けて頂戴。一体雛流しの取材でもないのに。何の用事なのか教えてもらえる?」

 人形ばかり置かれた壁の奥には大きな窓が一つあり、家の近くを流れる川がよく見える。
誰にも見られたくないのか、雛はカーテンを閉めた。夏の光はたちまち厚いカーテンに遮られて失われてしまった。
薄暗がりの中で雛はテーブルに頬杖をついて、うさんくさそうにこちらを見た。

「今日は、特に目的があって来た訳じゃ無いんです。山に変わりがないか見て回って記事にならないか見てるのですが、ふと立ち寄りたくなりまして」
「そういうのは白狼天狗の仕事だと思っていたけど。そう、取材の種になりそうなことを探しているのね。私はあまり山の連中に馴染んでいないからネタになりそうでしょう」
「理解があって助かります」
「でも、妖怪の山の端の方に住んでいる私に何もおもしろい事なんて無いわ。暑くてうだっている位かしら。どう? 何かいいネタになりそう?」
「この暑さには参りますね。それも記事にしてみましょう」
「そう」

 気怠げな声で、彼女は続ける。

「あと、誰も来ないからとても暇。ねぇ、天狗さん、たまには貴女から何かおもしろい話を聞かせてくれないかしら、そうね……」

 雛は冷えた紅茶をテーブルの上に置いた。

「――そうね、にとりが最近どんな風にすごしているか、だとか、貴方が椛と体の関係を持っていることとか」

 出された紅茶を飲んでいる最中に平坦な調子で言われてしまい思わずむせた。雛は妖しげな表情を浮かべている。

「どうしてそれを……」
「自分の能力のおかげかしら。なんだかそう言うの分かっちゃうのよ」
「そんなに厄が溜まっていましたか?」
「生き物は放っておいても厄は溜まるのよ。それにどんなに厄が溜まらないようにしていても溜まるものは溜まる。
例えば部屋を掃除して、その上すきま風が入らないように目張りをしても、半年も放っておけば部屋の中に埃で字が書けるようになる。そんな風にね。
ただ生きているだけでも厄は溜まるのに、そんな爛れた関係っていうのが厄を呼び寄せないとでも思って?」
「おっしゃるとおりですね」
「ねぇ文。私とても暇だから、あなたの厄を取ってあげようかなって思うの」

 そういって雛は私の横に腰掛けた。

「それにずっと一人きりで、ちょっとさみしくて」

 そういうと雛はもたれかかってきた。香水の匂いが理性を崩す。首筋に吐息がかり、細い指先がシャツの上をなであげた。

「私は時々悪い子の厄を取るの。暇だから遊んでくれないかしら」
「私は、悪い子ですか?」
「ええ、とっても。だから厄を取ってあげるわ」

 人差し指と親指で私の首元のリボンをつまんで緩慢な動作で引っ張り出した。
その声色、手のなめらかさ。雛は少女じみた容貌にもかかわらず、妙に色気があった。
 
「暇なのは分かりますが服を剥く必要はあるのでしょうか?」
「それは私の気分次第。ねぇ今私が何をしたいか分かる?」
「ええ、とっても」
「あら、抵抗してくれないのね」
「それは……良いんです。そんな気分なんです」

 久しく椛のぬくもりを忘れていたこともある。それに雛のこの気配だと抵抗したところで無駄なのだろう。

「素直なのね。遊んでいるっていう噂だったからから積極的に来るかと思っていたのに」
 
 内股をさすっていた指が波打つように神経を尖らせ、焦らされる一秒がだんだんと長く感じられる。
目線が交錯した時には何の感情の高ぶりもない口づけが行われていた。
シャツの上から乳房を触られ身体の芯から火照った。スカートをめくられ,ショーツをずらされる。

「あの椛のチンポを咥え込んでいるくせに、綺麗な色してるのね。イカせて欲しそうね。天狗って種族はお盛んらしいから」

 指が自分の中に入りこんでくる。そして舌が唇を割ってねじ込まれてきた。

「やっ、ん」
「遊んでるなんて思えないわね、ほら」
「やっ、んんああ」

 指でかき混ぜられ、ぐしゅぐしゅと水音が響く。死ぬ程恥ずかしくて顔を背ける。
何の感慨もなく、何の高ぶりもなく。ただ淡々とただ抱かれるだけと思っていたのに。
膣内の肉襞を一枚一枚を指先がなぞる。指が出入りすると、頭が切なさでいっぱいになった。緩急を付けた刺激の波に呑まれそうになる。

「どう? 感じる?」

 湿っぽい吐息が耳をくすぐって、それに抵抗する声すらまともに出せなくて。

「あふっ、っくあんっあああ」
「こんなみだらな子、見たことないわ……」

 ぬるりとぬめる指を膣内から抜き出すと、雛はそれを私に見せつけた。

「ほら文、自分で見てごらん、こんなにびちょびちょにしちゃって……はしたないんだから……」
「そんな、ひゃあ!」

 雛の指が膣内でまた動き回る、浅く擦りあげると、腰から力が抜けた。
先ほどの狂ったような欲望の火照りは消え、穏やかな気持ちだけが残っている。
 声を出してはいけないのか、唇で蓋をされた。背筋に力が入って体がはねると、やっと雛の手は止まる。

8     
 
 気だるい事後の余韻が、薄暗い部屋の中に漂っていた。 
はぁ、はぁ、と荒く息を吐いてみても体が動こうとしない。うめき声を上げてやっとの事で寝返りを打って、雛から離れる。
 幾らなんでも手慣れすぎだと思った。

「文って、結構うぶなのね。かわいい声あげちゃうからちょっと本気出しちゃった」

 背中越しに雛が水を飲む音が聞こえた。粘っこい口の中をすっきりさせたくて手を後ろに伸ばすとグラスを渡してくれた。
水を飲んで、ようやくまともに声を出せるようになる。

「今日は、ちょっと疲れていて、その本調子じゃなかったんです」
「そう。その疲れの理由にはやっぱりあの狼さんの事が関わってくるわけ?」
「そんなことありません」

 私にとっての椛は遊びにしか過ぎないし、彼女は私を災いのような物として考えているに違いないのだ。
「こんな関係は嫌なんです」と苦々しげに言っていたことを思い出す。
もともとすれ違っている私たちの間に熱が生まれるはずもなく、ただ終わりに向かってゆっくりと歩みを進めている。
それだけなのだ。

「お遊びです」
「椛とは遊びなのね」

 もう一度、確認するかのように雛は尋ねた。

「ええ、遊びです」
「じゃあ窓を開けましょう」

 涼しい風が入り込む窓には雛の服と同じ生地で作られたレースのカーテンが翻っている。
その向こうでは濃い緑を重ね合わせたような夏山が広がっている。

「ねぇ文。もう一回良いかしら?」

 嫌です、と返事をする前にはもう雛の手は体のあちこちに蠢いていて、少し冷ましただけの体から再び快感がはじけ飛んで、力が抜けた身体から体液が流れ出る。
涎、涙、愛液、意識も身体もぐちゃぐちゃになっているのに雛の手は止まらない。
 再び目の前が真っ白になる寸前のほんの僅かな時間だけ雛と目線が交錯する。
何処か寂しげで、こんな事望んでやっているんじゃない。
 そんな風に見えたけれど、雛と私の相性が手袋のようにぴったりと有っていて、次の瞬間には身体が大きくはねていた。

19     

「文って可愛いわね」

 頭のリボンを結び直しながら雛は言う。

「手慣れていますね。これまでどれくらい寝たんですか」
「うーん両手で数えられるくらいかしら」

 雛は指を見せつけるかのように指をぴんと伸ばした。思ったよりも少ない。たまたま雛と私の相性が良かっただけなのだろうか?

「大したことありませんね」
「あら、にとりは両手で1024まで数えられるって教えてくれたけれど? もう天狗のお偉方ならみんな知っているかも」

 雛は無邪気に微笑んだ。全く悪びれていない様子に呆れてなにも言えなかった。

「それじゃあ、にとりさんと関係を持ってる間も遊んでいたって事ですか」
「それはしてないわ」
「どうして」
「うーん。にとりが特別だからかしら。ああいう馬鹿みたいな子って好きなの」
「馬鹿、ですか」
「見ているだけで幸せになれる馬鹿って早々居ないもの」
「言われてみると、そうですね」

 にとりはすぐに落ち込んだり、喜んだりところころ表情を変える。言葉も行動も子供っぽい。そんな馬鹿だけどどこか憎めないところがあるのだ。
あまり肉がない背中をこちらに向けたとき、首の裏側の傷に目が行く。

「その首の傷も、にとりに付けられたんですか」
「ああ、これね」

 少しだけ雛は表情を曇らせた。  

「これはにとりに会いに行ったときによく作る怪我なの」
「にとりに?」

 そういえば厄を司る彼女には見張りの天狗が付いていたはずなのに、どうやってにとりに会いに行くのだろう。

「どうやって哨戒の天狗をくぐり抜けているのですか?」
「下っ端の狼に『厄をなすりつけるわよ』って脅したら、通してくれるの」
「呆れました」

 そうでしょう、と雛は笑う。

「それに私ったらみんなから嫌われているから隠れて行かなきゃ行けないのよ。
 まずは河童の作業着に着替えるの。その時には髪を束ねて、出来るだけ地味な格好で歩かなきゃいけない」

 まるでピクニックに行くように話すけれど、見つかったときに無事で帰れる保証なんて無い。
腕の立つ天狗なら彼女をひっつかまえて幽閉してしまってもおかしくない。

「それで、空も飛べない、そのうえ太い道を歩いて行けないから、藪の中をかき分けて行かなきゃならない。
 なかなか大変よ。作業着が泥だらけになっても、木の枝が落ちてきたせいで多少血が出ても隠すの。そしてにとりの家の近くでリュックから服を取り出してそこでまた着替えるの。
 あの子ったらそれでも気がついていないみたい。だからこの間はちょっと怒っちゃった」
「とんでもない悪女かと思っていたら、そうでもないんですね」
「意外でしょう?」
「どうして、そこまでするんですか?」
「好きになっちゃったから、じゃ理由にならないかしら? ああいう子放っておけなくて。だからちょっと厳しくしてみただけ。それにまだ大好きだからいずれにとりの元には戻るわよ」
 
 包み込むような笑顔を見ていると何も言葉が出てこなくなる。そしてふと思う。
にとりは雛の苦労を知らないのだろう。ひとときの逢瀬のために相手はこれほど心細い思いをしているのに。

「私なんかが山に不用意に立ち入ったりしてごめんなさい、
だけどそれはにとりに会いたいからなの。もしそれで天狗が動くのなら、私の所に来て。あの子は何も知らないままが一番幸せなんだから。お願い。あの子に何も教えないで。何も知らないあの子が安心した顔で眠っていると、かわいくて、かわいくて」

 笑いをこぼしてこちらに向き直った。

「ねぇ文屋さんも意地張っちゃっているといつか一人になるわよ。あの白狼天狗との関係もすっきりしちゃえば良いのに」
「それでもいいです」

 もともと一人が好きなのだから。それに望みは叶わないのだから。

「貴女は、人のことを見るのは得意でも、自分のこととなるととんと疎いわね。と言うよりも、分かっていても分からない振りをしているのかしら? 自分に嘘を言うのは一番駄目よ」
「清く正しい射命丸文ですからら、何もやましくありません」
「そう、それなら、いいんだけれど」

 雛はシャワーを浴びていくかと尋ねてくれたけれど、その場所に居たくなくて丁重に断ることにした。


20      

 嫌なことは忘れてしまいたかった。
静葉の事も、にとりの阿呆さも、雛が私以上に妖怪の山の事を知っていることも。
 雛はやはり心優しいだけの神ではなかった。厄を取り扱うに相応しい程のどす黒い一面を持っていた。
 にとりは雛のそんな一面を知らないだろう。知ろうとも思わないだろうし。気分が良いはずもないが、にとりを責める気持ちにはなれなかった。
 もしかするとにとりのような奴は、雛にちょうど良いのかもしれないからだ。
 少なくとも雛の慈しみを十分に感じる事が出来るうちは、にとりは間違いなく幸せ者だろうから。
要らない正義感でそんな二人の関係は壊してはいけないのだ。
だから今日起きた出来事は記事にも連載にも載せないでおこう。何も変わらず、丸く収めよう。
さて、今日は紅魔館で舞踏会が有ったと帰りにはたてから聞かされた。
 面倒ごとと、楽しいことは同じ世界で同時に起こっても交わることはないのだ、と苦笑いしながら感じる。
こんな風に目の前が淀んでいるのなら、紙面上の彼女達だけでもただひたすらに楽しくしていても良いだろう。

おもしろおかしく、笑えるように。


21     
  
     この島には住人が4人しか住んでいないのに食料の備蓄は大量にあった。そのうえ温泉が湧いている場所もあった。
     皆いつでも清潔で、やる気がみなぎっている。この島は霧が濃く、歩き回るには危なかったので散歩も出来ないからやるべき事は奇跡が起きるのを待つだけ! 
     だから皆時間は有り余るほどたくさんあった。

     島ではお互いの秘密を話していてはいけないから、会話をすることも減っていて皆部屋に籠もりがちになったが。ただ一時食事の時は例外だった。
     この島の建物には炊事をする場所が無かったのだ。だから食事の際は島の中央にある場所に集まらなければならなかった。
     ロボットは給油するだけだったが、寂しかったのかいつの間にか食事の手伝いをしていた。
     食事中には女神もロボットも騎士も顔を合わせることになるから、取るに足らない世間話を延々としていた。一人で籠もることに飽きた皆はよく話した。くだらない話を延々と続けていた。
     そのまま焚き火を囲んでいるとロボットが昔の軍の倉庫から蓄音機を持ってきた。

     「あっ! 蓄音機! ねぇそれ動くの?」

     と女騎士。彼女は元居た国では時折ダンスパーティが行われていたことを話した。訓練から抜けだして踊っていたこともあるほど踊るのが好きだったらしい。
     ロボットが蓄音機のネジを巻くと、レコードから少しかすれた音が鳴り始めた。短調の軽快な音楽だった。

     「ねぇ、踊りましょうよ! 楽しいわよ」

     女剣士を始め、皆思い思いに踊り始めた。
     踊り始めてから男は踊ることは良い事だと気がついた。踊っている間は何も考えずに済むのだ。
     ロボットも関節をぎちぎち言わせながら踊ろうとしているが、かくついた動き、それにワンテンポ遅れて踊る姿。

     「ムツカシイデス」

      全員が納得した。一通り踊り終えると、今度はペアを組んで踊ろうということになった。
      二人でペアを組んでいる最中にちょっとした出来事が起きた。
     背の低い女神にあわせて踊っていたロボットの手先が故障し。開かなくなってしまったのだ。
     でも女神は楽しそうだった。

     「でも楽しいから良いわ! さっ続けましょう」

     けなげな女神だった。結局ペアは交代することなく、踊り続けることになった。
     ひとしきり踊り終えるとみな笑ってそれぞれの部屋に戻っていった。ロボットも、女神も何だかたのしそうだった。

     「こんなに楽しいなんてすばらしい。いつまでも続けばいいのに」

     そんなことを女剣士は話していた。


22      

 静葉とにとりはすれ違ってばかりだけれど、少しだけでも紙面の上で楽しそうに過ごして貰った。
にとりと静葉の投影は踊り続けているけれど、これから現実では反対の事が起きるのだ。
静葉の恋はいつか破綻し、にとりと雛は成就する。そんな筋書き通りの景色はいつかみえるだろう。
 物語のようにただ手を取って踊るだけならどれほど楽しい生活だろうか。
 ふとあの時の居酒屋にいた面子でダンスを踊るところを思い浮かべてみる。
静葉はぎこちなさそうにおどるだろうし、にとりは元気いっぱいで空回りするだろう。椛は恥ずかしくて逃げ出すかもしれない。
 それでも楽しそうだ、なんて考えていた。

20

 そうしてある日、終局が訪れた。
靄の中で妖しく下弦の月が光る夜。妖怪としての本能が刺激され無性に外の風になった日のこと。
 私は崖の上に立っていた。切り立った崖の上で感じる風の中にはもう秋の気配が混じっている。
立秋もとうに過ぎてしまったから、いずれ過ごしやすい日々がやってくるのだろう。
 その時までにはカメラが直っていればいい。今書いている連載も河童の連中を中心にしてある程度読まれている。
今まで私の新聞なんて見向きもしなかった連中ですら、一つ前の号を求めに来るほどだ。
 上手く行きすぎて怖い。
自分よりも早く物事が流れていくような感覚に襲われて気後れしてしまう。

何も考えず、感じる月の光にだけ意識を集中させると少しずつ気分が良くなってきた。
今宵は何も考えずゆっくりと休めそうだ。家に戻ろうとしたとき崖の下で何か動く姿が見えた。
 獣の形ではない。
だけどふらついた動きで、その影は崖下の道ばたの辺りに座り込んでしまった。髪飾りを付けている。銀髪を靡かせているから雌の天狗なのかもしれない。
 ゆっくりと舞い降りてその影に近づく。
その影は泣いていた。黄金色の月明かりを天から浴びて居たためか髪の色が分からなかったけれど、金髪で臙脂色のドレスを着た姿は秋静葉に違いなかった。
 彼女の恋に終わりがきたのだ。

「静葉さん、どうされたのですか」
「なんでもっ、えぐっ、無い……」
「どうなさったんでしょうか。泣いていてはわかりません」

 彼女の身に何が起きたのかを知っていながら、営業用の口調で話しかける。

「話せば何か解決するかもしれません」

 何も解決しないと分かっているのに。ぐずつく静葉を老木の傍まで導いて座らせた。
しばらく泣いていた静葉もやがて落ち着いたらしくぼんやりと月を見つめている。まだ涙のあとが頬に残っていた。

「ただ、ただ聴いて欲しいの……」
「ええ、分かりました。手帳も何も使いません」

 わざとらしく胸ポケットに入った手帳を叩いて、微笑み返す。こんな茶番を繰り返しすぎたせいか何も感じなかった。
一度涙を拭い、木にもたれ掛かると静葉は話し始めた。

「私ね、にとりの事が大好きだったの。ほらこの間酔っ払ったにとりを背負ってるときに話したでしょう」
「ええ、はい」
「あの時話していた人がにとりだったの。あの日の飲み屋の時に、にとりが雛と付き合っていたことにも驚いたけれど、
だけど、その時は付き合っていないから、告白してみようかなってぼんやりと思ってたの。
どうしようかなって穣子に相談してみたら『ねーちゃん、頑張れ』だって。私らしくもないけれど私も頑張って告白しようと思った」
 清流が近くにあるのか数匹のホタルが私たちの前を横切った。

「でもだめだった」

 静葉はうつむいた。

「にとりから断ったんですか?」
「ううん、違うの。私が意気地なしだから、自分から引いちゃった」

 寂しそうな声がその場にこだました。

「にとりに告白したとき、一晩待ってと言われた。にとりも凄く悩んでいたみたいで、その日は帰ったの。
 その夜にとりは何を悩んでいるのかって考えてたら、こんな事が思い浮かんだの
 にとりにしたら雛との関係を公にすれば発明が出来ない。だけど私だと発明が出来る」

 結局。と彼女は続けた。

「結局にとりの気持ちは私には向いていなかったのよ。天秤にかかっていたのは、発明品と雛だったってこと」

 秋静葉は考え過ぎなのかもしれないけれど言っていることも間違いではないと感じた。
結局あのにとりにとっては発明か雛かを比べるだけの問題で、そこに静葉が入り込む余地など元々無かったのだ。
 綺麗すぎるのに、タイミングが悪かったおかげで自ら手を引いた静葉。

「静葉さんほど綺麗なら、アホのにとりなんてイチコロだと思うのですが」
「文は優しいね」

 これも連載のネタになるだろう。

「……そうですか」

 私はひどい奴だ。泣く人のそばに立ちながらまったく別のことを考えている。

「実を言うと、にとりさんの事を好きなことは薄々感づいていました」
「そう、やっぱり記者だからそう言うのすぐ分かっちゃうんだね」

 秘密にしていたんだけど、もう良いかしらね。なんて言いながら静葉は立ち上がった。

「にとりの恋を後押して、まだちょっと後悔してる。でもにとりが幸せならそれで良いかな」

 顔は笑っているのに頬を伝う涙を月明かりが照らす。静葉のことを一番綺麗だと感じた瞬間だった。
彼女の静かな恋心は届かず、こんな暗闇の中で一人涙を流しておしまいになってしまったのだ。
タイミングが違えば、にとりと静葉が仲良く手を繋いで秋の山を歩く姿も実現したかもしれない。
だけど、それは叶わなかった。結局それがすべてだ。

 静葉は話し終えると月明かりを背に浴びながら家に向かって帰って行った。
その姿が見えなくなるまで見つめていた。

 静葉の恋はおわった。それならば新聞の連載について書かなければならない。
新聞の上で踊る彼女たちは、いつかは消えてしまう運命なのだ。静葉、つまり、女神は秘めた恋心を話してしまったから彼女は島から消えてしまうことになるだろう。
机に向かって筆を走らせている間、静葉の泣き顔が浮かんで、苦しかった。
 だけど自分の決めたルールだから、仕方ない。しがらみを抜け出して彼女達は、もっと別のしがらみに捕らえられているのだ。


23     
 
     この島には使われていない小屋が数多く存在したが、調理場は島の中央にある屋外の調理場一つしかなかった。
     というわけで、皆朝食、昼食、夕餉はここで食べることになっている。わいわいがやがや。何とも和やかな時間。
     ロボットも本来不要なはずの料理という行為に対して興味があるようで、日替わりの当番の中の一つを任されているのだった。
      ある朝、男は4人分の料理を作りおえると女神がやってこないことに気がついた。

     「やけに遅いな」
     「朝寝坊じゃないかしら?」
     「そうなのかな」

      ひとしきりやりとりを聴いていたロボットが話し始めた。

     「女神は、キエマシタ」
     「消えた? どうして?」
     「昨晩、女神がワタシの部屋マデヤッテキタノデス」

      とロボットは話し始めた。
     女神は思い詰めた様子であったこと、そしてこの島に来たきっかけを話し始めたこと。等々。
     彼女は、死んだ恋人に会えると信じていたらしい。
     恋人は戦の神で、いつも身体に甲冑を纏っていてその姿がロボットにそっくりだったらしい。
      女神は話した後、一度だけロボットに抱きついたのだという。

     「そんな、本当に消えてしまったの」

      と女剣士が尋ねた。

     「ハイ、足下から砂がこぼれるようにさらさらとキエテイキマシタ」

      ロボットにも感情は宿るのか、頭の部分を下に傾けた。

     「食事が終わったら、女神の家を見に行きましょう」
     「そうだね」

      三人だけになった食卓は嫌に静かで、男は何も言わずに冷めたスープを啜った。
     食事が終わると、誰ともなく女神の部屋へと向かっていた。
      まだ男は女神が消えてしまったことが信じられなかった。
     だけど簡素なベッドと、机、そして持ち物のバッグが一つだけ残されている部屋を見たとき女神が居なくなったことを実感した。
     机の上には開かれたペンダントが一つあった。それを開くと剣を持った甲冑の神と、それに寄り添う優しい女神が居た。
      甲冑の姿をした神は、ロボットにそっくりの姿をしていた。

     「願い事を叶えちゃったのかな。それとも秘密を言ったから消えたのかな」
     「ワカリマセン」

     遠くの波のざわめきがやけにはっきりと聞こえた。嵐が近づいていた。

24

 月明かりの下で微笑んでいた静葉も落ち込んだようでしばらくの間、彼女を山で見かけることはなかった。
静葉の――女神であった彼女の――願いは叶うことはなく、彼女は秘密を話してしまい消えてしまった。
だけど静葉は、きっと立ち直るだろうとも思った、ひとつは秋が近づきつつある中で静葉が力を持つだろうということもあるし、なによりもはっきりと勇気を持って行動したから。
 私のように雛と身体を重ね、椛と居心地の悪い関係を続けるような選択肢は静葉には無かったのだ。
ある意味そんな選択が出来る彼女が羨ましかった。

 飲み屋の帰りに静葉が話していたにとりとの未来を思い出す。
そこに私と椛を重ねてみたけれどしっくり来ない。朝起きたら椛が傍に居て、朝食を作っていたりなんて。悪い冗談だ。
今日も日が暮れる。黄昏時の妖怪の山は昔のように薄暗く不気味だ。
今宵は濃いめの酒を片手に近くの清流から生まれた蛍の光でも眺めていたい。

 一匹目の蛍が窓縁で静かに光り始めた。
蝉も、蛍も命を削りながら愛を謳歌している。だけど叶わない恋だって有るのだろう。
別段私たちの恋も特別な物じゃないはずだ。静葉の涙も、きっと――。
 
25     

 月が眩しく気持ちの良い宵だった。汗もないからシャツと素肌がこすれることもない。
波のように襲い来る眠気に身を任せてしまいたかった程だ。
戸口の方から自分を呼ぶ声がした。
手を起こすのすらおっくうだけれど大天狗からの連絡とあらば飛んでいかなければならない。急な呼び出しじゃないと良いけれど。
 ソファから身体を起こして、ふらつく足で扉を開く。外ハネの青髪に短めのつばが付いた帽子を被っている。
にとりだ。

「ああ、にとりですか」

 にとりが目のやり場に困っていることに気がつく。自分の格好は下着にワイシャツだけだ。

「で、何ですか? 発情したけれど、相手が居ないからお願いしますとか言うお願いならお断りですが」

 ちびのくせに威嚇する様子を見せる。

「そんなこと言わない!!」
「それじゃあ要件は?」

 家の奥の光を見つけた羽虫が数匹私の部屋に入り込む。蚊に座れたら面倒だ。

「ああ、虫が入ってくる。にとりさん、中に入って下さい」
「うん」

 帽子を被ったにとりを部屋の中に連れ込んで、通り一遍の挨拶を交わす。

「それで、要件は何ですか?」

 静葉のことを懺悔するのなら他所にいけと言うつもりだった。

「ああ、カメラの修理なんだけど、その思ったより時間が掛かりそうでさ、今月中に渡せるかちょっと分からないんだ
あと、少し修理代が足りないから、この間渡して貰った金額だけじゃ足が出ちゃうんだ」

 カメラのことをすっかり忘れていた。何年という相棒でも使わなければいつの間にか存在を忘れる。
 
「理解があって助かるよ」

 酒が回ったのか、明るい声だ。
そんな彼女になにか変わったことが無いかと尋ねてみると「おもしろくない話」として静葉の話をし始めた。
 にとりが「静葉」と言葉を発する度に、泣いていた静葉の姿がよぎった。

「うん。静葉の事を意識した事なんて無かった。おどろいたのかも」

 だなんてにとりは話していた。そして

「いや、よくよく考え直してみたら結局私が悪いんだろうし。迷惑をかけちゃうから、暫く籠もろうって思ったんだ。静葉も泣いちゃったのに何もしてあげられなかったし」

 その通りだと思った。 

「もう、恋とか愛とかうんざりだよ。本当にいいんだ」

 本当にこいつは自分の事だけしか考えていない。自分ばかり苦労していると勘違いして、その上勝手にあきらめて自嘲している。

「にとりさん」

 この子は、あの静葉の涙すら想像したことがないだろう。どれほど好きだったのか。何故好きだったのかそんなことすら考えたことがないのだ。
その上、こいつは雛がどんな思いをしてきたのかすら知らない。
 文句ばっかりの馬鹿野郎だ。馬鹿もここまで来ると怒りがわいてくる。

「その話、凄くどうでも良いです」
「えっ?」
「どうでも良いって言ってるんですよ」

 何も考えていない河童の事なんて考える必要は無い。

「にとりさん、貴女の中の一大事は別に大したことじゃ無いんですよ? 失恋しようが三股をひっかけようがそれは記事にすらならないんです。なぜだか分かりますか?」
「……。分からない」
「そうですか。にとりさん、人里に行ったことは?」
「何度か」
「たくさんの家が建っていませんでした?」
「建ってたね」
「あの家の数だけ、家族が住んでる。その数だけ夫婦が居る。愛だ恋だ囁き合った元恋人たちが居るわけです。
 そしてその数の何倍も終わった恋がある。つまり、色恋沙汰なんて供給過多のありふれた代物でしかない。皆さんご立派です。
 そんな数を前にして何も行動を起こさずにいる河童の話なんて本当にどうでも良いんですよ。
 特ににとりさんみたいに自分の中で自己完結して悦に浸っているような場合なんて、本当にどうでも良いんです。
 なんで私に向かってそんなくだらない事を一大事のように伝えるんですか?
 客観的に見てそんなの蝉の抜け殻よりもどうでも良い代物なんですが。いや全力で恋をしている蝉の方が千倍も立派です。雛さんと 関係を戻したいんですよね?」
「うん」
「静葉さんが泣いてた時、何か励ましました?」
「いや……してないね。何を考えてるか分からなかったから。それに私は雛のことで、頭がいっぱいで」
「それじゃあ、雛さんが今どんな気持ちで過ごしているかとか考えたことは?」
「無い……かも。だけどわたしは雛の事が好きだったし――」
「その、『私は』とか『自分は』とか言うの止めた方が良いですよ」
「だって自分の事すら分からないし、他人の事なんて分からないもの」

 その通りだ。私も椛のことは分からない。だが無性に苛つくのは何故だ。

「にとりさんは自分の話を重要な話だと思ってるようですね。悲しんでいる人の傍で頷きながら、心のなかでまだ自分の事が最重要事項だと考えている。まずそれを克服したほうが良いですよ?
雛さんの気持ちすら考えたことが無いのに、自分の事ばかり考えて。それで上手くいくなんて舐めてるでしょう? 
にとり。あんたみたいな阿呆で、無気力で、退屈で、自意識過剰なバカが世の中で叫ぶから鬱陶しいんですよ。この馬鹿」

 どうして、こんなに苦しいのだろう。

「な、な」
「もう一度言いましょうか?『馬鹿』」  
「そこまで言わなくても……」
「バカは謝罪もしないし、自分の過ちから学ばないし同じ事を繰り返す。だから馬鹿って言うんですよこの馬鹿!!!」

 誰もかもが馬鹿なのだ。にとりに言い放った言葉の半分くらい自分に向かった物だった。
静葉の横で泣きながら、大した慰めをしていない私もにとりと大して変わらない。
涙で目を潤ませながら彼女は立ち去ってしまった。

「ばっかみたい」

 私も、椛もにとりも、雛も、そして静葉も。

26      
 
     居なくなった女神はどうしているのだろう、と二人と一体ではなしていた。
     何処か遠くへ行ったのかも知れない、もしかしたら死んだのかも知れない。

     「なんだか怖くなって来ちゃった。何処に行くんだろう」
     「ワタシニハ死ノ概念ガアリマセン」

      潮風が強い日はロボットは外を歩くのを嫌がるようで、その日はそそくさと帰っていった。 
     嵐の中で、もし女神がこの大海原の何処かに放り出されたらそれはとてもかわいそうなことだと思っていた。
      だけど行き先は誰も知らないからそんな事もあるだろう。
     嵐が止むと男は女の小屋に向かって歩き始めた。女がこの嵐の中でいつの間にか消えてしまったらどうしようかと思ったのだ。
     女は居た。玄関口で黙っていると女から外を歩こうと言いだした。その日はいつも漂っている霧が珍しく晴れていたのだ。
      抜けるように真っ青な青空で強い風に逆らい、時折流されながらカモメが飛んでいる。
     二人が波打ち際を歩いていると浜辺の奥に朽ちた小屋が建っている事に気がついた。

     「ねぇ行ってみましょうよ。もしかしたら誰か住んでいるかも!」

      女の言うとおりだった。
     この島には4人しか居ないと思っていたけれど、もしかしたら誰かが隠れ住んでいる人が居るかもしれない。いや、この際ロボットでも良いだろう。
      男は小屋に駆け寄り、扉を開いた。扉は音もなく開き、中からかび臭い空気が流れ出した。

     「こんにちはー!だれかいますか?」

      薄暗い燭台にはうっすらと埃が被っていて、しばらくの間使われていないことが明らかだった。

     「誰も居ないかもしれない」

      と、男。

     「こっちに、扉があるわ」

      女が近くの扉を開き、そして動くのをやめた。

     「誰か居る?」
     「『誰かが居た』って言った方が正しいかしら」

      部屋の中のベッドには、乾いた死体が2つ並んでいた。

     「帰ろう」

      帰りは、行きと違って二人とも寡黙だった。

27      

 窓から斜めに太陽の熱い光が差し込んでくる。その光で目を覚ました。
手でその暑さを払いのけようとして、結局あきらめた。目覚めとしてはいいほうではなかった。昼をとっくに過ぎている。

 この間は酒も入っていたせいかにとりに強く言いすぎたかもしれない。
にとりも悪いわけでは無い。ただ少しだけ気がつくのが遅かっただけだ。タイミングが違えば、また違う未来が見えたのかもしれない。
例えばこの魔理沙から借りた海洋の本にもそんな未来への願いが紙切れ一枚に残っている。
へたっぴな文字の手紙はパチュリー・ノーレッジへと宛てた物だった。
口で言えばいいことを詫びの手紙には延々と書かれていて彼女が素直になれない少女なのだと分かる。そしてまたお詫びの品を持って行くからお茶でもしないかと書いてある

「良いですね。恋文ですか」

 終わった恋はこんな風に古びた本の隙間に挟まっているのだ。
いつの間にかお互いを見なくなる。そして振り返るといつしか距離が出来ていて。もう過ぎ去ってしまったのだと気がつく。
私は悪い女だ。椛のような堅物を見るとすぐに手を出したくなる。静葉に向かって「それはやめておけ」と忠告もしない。
雛に抱かれている時にも、気持ちが昂ぶった。

 そのくせまだ自分が有りもしない恋を求めている。それに真面目に向かい合えない自分が嫌なのかもしれない。

「どうだって良いんですけれど」

 反省したって今更直る見込みはない。
さて静葉と、にとりの望みは分かった。だけど私と椛の望みは一体何だろうか。

 椛が最近つれないのは、彼女にいい人が出来たからだろうか。
身体だけともなった関係を続けること自体には罪悪感は無かったけれど。静葉のように綺麗な関係に作り替えることは難しいだろう。
 そのうちけじめを付けないといけない。
ずっと冷房を効かせていたせいか頭が痛い。魔理沙の恋文をゴミ箱に捨ててから、本を片手に部屋の外の椅子へと足を進めた。 
再び海洋の本に目を落としたとき、玄関から呼ぶ声が聞こえた。

「文、居る?」
「居ますよ」

 にとりだった。カメラがもうすぐ直るらしい。だけどそれを伝えに来るだけにしては少し、緊張している。

「それで、にとりさん何か言いたそうですね」
「うん、今から雛のところに行って、告白してくる」

 ここに来て変わるはずもないけれど、にとりは静葉を選ばなかった。

「順番がおかしい気もしますが」
「分かってる」

 まともに眠れていないのか、目の下には立派な隈ができているし、服の端々には灰色の液剤がこびりついている。だけど目つきだけがしっかりとしている。

「今更戻れるとも思えませんが」
「それも分かってる。文、今度カメラが壊れたら新しいのを買うと良いよ。私は雛と過ごす。
だから私には修理が出来ないかもしれないだろうから」
「そうですか」
「文は、引き留めてくれないんだね」
「止めても行くくせに。行き倒れてミイラになってたら何処かに飾っておきましょう」
「飾るときには何て書くんだい」
「馬鹿の干物とでも書いておきましょう」

 にとりは大きく笑ってそれじゃあと立ち去ってしまった。喉の渇きを覚えて、部屋に戻ろうとしたとき、地面に死んだ蝉が仰向けに倒れていた。
微かな秋の気配を含んだ風が、蝉の死骸を揺らしていた。

28      

 思った通りにとりは、雛の元に帰ってしまった。
雛の元に戻った翌日に河童の里の首長の元に赴き、自分たちの関係を話したらしい。

「今まで厄神とこんな関係を続けてきたのに、何か変わったことはあった? 今年はみな息災で過ごせそうだとか言っていたけどその言葉は嘘になるわけ?」

 そんな屁理屈混じりの演説をぶっこいたらしい。
にとりを援護する者、罵る者、一時は逃げ出す河童も居たようだが、

「分かった。厄神も自分の厄の始末をきちんとつける事が出来ると言うのだな。厄神は河童の人が集まるところへ急に入ることはこれまで通り許さない。
 だが、御前達の関係について口出しはしない。二人で立ち入ることが出来る場所は下流の一部に限定する。
 しかし厄を始末してくれる存在を河童のそばに置くことはそれほど不利益とも思えないからの」

 そんな首長の言葉で丸く収まったようだ。
 にとりはさぞ痛快だっただろう。そのうち河童通の天狗がその出来事を小さく紙面に載せるかもしれない。
とにかく彼女たちはハッピーエンドを迎えたのだ。
自分の中で決めたルールに従うと、にとりは願い事を叶えてしまったから消えることになる。
にとりは島から去ってしまった。後に残った私達には、何もすることが出来ない。

29

 
     ――二、三日は女神が消えた事で、ぎこちない日々が続いたが普段通りの生活を取り戻していた。
     三人でもやっていける、そんな言葉で自分を励ましながら、ロボットと、女騎士と男は日々を過ごしていた。
     時折男の脳裏に消えた女神の事が浮かんだが、それもこの島を襲った先日の台風の後片付けで紛らわせることにした。

      先の台風のせいで男の家の壁には大きな穴が開き、それを修理しなければならなかった。
     ロボットが何処かから見つけた木の板を男が運び、ロボットが道具を運び、そして女騎士が昼食を運んでいた。
      小高い丘の上に出た時、風にあおられて男の持つ板が大きく揺れた。
     その時。先を歩いていたロボットが急に立ち止まり、わめき始めた。

     「なにか、聞こえます」
     「えっ?」
     「男さん、動かないで、そう、そのまま、少しだけ板を右に傾けて貰えますか?」

     言われるがまま男は板を傾けた。

     「どうしたの、ロボ?」
     「座標です」
     「座標?」
     「ああ、それにこれは――博士」

      何も分からない二人に向かって、ロボットは語り始めた。

     「私を造ってくれた博士からの信号を受信しました、博士は濡れ衣を着せられて王国から追われていました。
     私は、博士に会いたかった。それが私の願い事でした」
     「ロボット!」
     「みなさん――さようなら」

      男が慌てて目の前の大きな板を落とすと、もうロボットの姿は見えなかった。

     「ロボットは?」
     「消えちゃった」

      女騎士は力なくうなだれた。

     それから二人きりの生活が始まった。
     島の生活は楽しい物ばかりと思っていたから、変わり始めた生活が自然と落ち着くのは仕方がなかった。
      それに男は、女騎士に対して願い事を持っている。
     それを口に出してしまえばすぐさまこの島から消えてしまうだろう。
      
     数日間は嵐が荒れ、陸地すら見えなかった。
     一人きりの小屋の中で、静かに願い事が叶うことを祈っていた。


 

30     


 紙面で踊っているのは、私と椛の二人だけ。そしてカメラはまだ直らない。つまり書き続けなければならないのだ。
そうして二人きりになった時に、一体自分や椛の言えない願い事は何なのかと言う疑問が湧き起こってきた。
あの居酒屋で椛が言った秘密とは何なのだろうか。酒が入っていたとはいえ、普段は口を滑らせる事なんて無い椛が言った秘密。
その正体を確かめなければならないし、それに私自身も椛との関係が変わり始めていることに薄々気がついていた。
 ――答えを出す時か。
 紙面の中の男は、女に恋をしている。だけど私が椛なんかに恋をしているはずがない。
身体だけの関係。すれ違うだけの関係。そんなものなのだから。


31      
 
 物語は好評で、その期待に応えるために新聞の下半分を物語に割くようになっていた。
とはいえ、にとりも、静葉も居なくなってしまった物語の進行は次第にゆっくりとしたものになっていた。
 間をつなぎながらしい変化が身の周りに起きないかをじっと待つ日々が続く。
ネタを探そうにも大風の日が続き、部屋から出ることすらままならない。
 そんな私の部屋に椛が訪れたのは目がくらむような夏の日が折り返しを過ぎた頃だった。

「文さーん」

 空調の冷風の中で聞こえた呼ぶ声に目が醒める。何度か呼ばれた後、玄関の扉を開くと大きな西瓜を抱えた椛が汗を流しながら立っていた。

「大きい西瓜ですね」
「ええ、河童の畑の隅の方で栽培していた物らしいのですよ」
「これ、食べるの?」
「そのつもりです。上がってもいいですか?」
「そうね。ここじゃ暑いから」

 部屋に入った椛は西瓜を机の上に置くと、冷風の出所である空調を眺め、部屋の中を見ている。

「その西瓜は置物ですか」
「ああ、すいません。包丁をお借りしても良いですか?」
「こんな西瓜を持ってくるなんて、あんたも馬鹿ね」
「ええ、二人で食べようって決めたんです」
「正気?」
「ええ、正気です」

 椛は台所に在る包丁で器用に西瓜を切り分けている。

「で、何か要件は?」

 いったん手を止めて、椛はこちらを振り向く。静かに息を吸い込むと話し始めた。

「二人でこうして居たいです」
「どういう事ですか?」
「その、文さんと、おつき合いしたいなって」

 空気を和ませようとしたのか作り笑いが目についた。

「それはできませんね」
「どうしても?」

 私の中では何も始まってもいないのに、こんなことを言い出すなんて、面食らうほか無い。
黙っていると椛は下唇を悔しそうに噛みしめた。

「――それは、相手が厄神ならまた返事は別のものになっていたのでしょうか?」
「どういうこと」

 もう良いです! と椛は声を荒げた。

「私のことなんて文さんはこれっぽっちも考えてくれない。ただ、こんな関係は体が悪いから私がどこかに落ち着いた方がいいんでしょう?」

 何故こんなことを言い出すのだろう。冗談なら笑えない。それに冗談を言う場面でもないと分かっていた。

「分かったわ。大天狗にもこれ以上貴女に来るように命令させない。そうすればもう来ないでしょう、鬱陶しいのよそういうの」
「大天狗様から命令が来たのは最初の一回だけです」
「それじゃああとは……」
「自分から来たんです。だけどもう、おしまいです」

 この子は、ひょっとすると。
 
「私は、私は文さんのことが好きでした。本当に好きだった」

 苦しそうに椛は話す。

「だからあの厄神と、文さんが身体を重ねているときに、とても苦しかった。辛かった。やっぱり今日も、文さんは私を見てくれないのですね」

『それじゃあ窓を開けるわね』

 交わった後のそんな雛の言葉を急に思い出した。
あのとき、もし千里眼を持つ椛が窓からこちらを見ていたら。雛との望まない関係も見られていたことにも納得がいく。
 涙を流している椛を不思議と冷静な気持ちで見ていた。雛を恨む気持ちにもならなかった。それよりも自分が何に対しても不感症になっているという事実が寂しかった。
知らない間に、わたしも面倒事に巻き込まれていたようだった。そしていつの間にか終わりを迎えようとしていた。

「きっと変に期待していた私も悪いのでしょう。だから、もうきません。それにもう来ないでください」

 椛は言い放つと立ち上がり部屋を出て行ってしまった。立ち上がった時に切り分けられた西瓜が机から転げ落ちぐしゃりと音を立てて床に散らばる。
だが彼女は立ち止まることはなかった。

32      
 
 ここからの記憶の鮮明さには我ながら驚く。
 まずは部屋で散らばった西瓜を片付けて、椅子に座り、椛がどうしてあんな言葉を言ったのかを考えた。
椛はにとりの話を聞いて私達のただれた関係についてもいろいろと考えたのだろう。
 ひょっとすると彼女は本当にこの関係を気に入っていて――考えたくもないことだけれど――私の事が好きになり思い切って告白したのかも。
 権力に絶望して、醒めきった関係だと思っていたのに。椛は甲斐甲斐しくもこの部屋を訪れてくれた。
 ついこの間叱りつけたにとりと雛の関係を見ているようだった。だけど私は椛に対して何の感情も持っていないつもりだ。憤りもしないし、悲しくもない。
一方椛は私の事をすき『だった』。それは覆しようがない事実だ。
そんな風に冷静に考える事が出来ているのだ。もともとおかしかったのかもしれない。

「さっさと言えば良かったのに」

 でももう遅い。床に散らばる西瓜のかけらのように私たちの関係は、終わってしまったのだ。形を崩して、泣いているかのように液体を流して。
もう椛とはこれきりだろう。
手が冷たくなるような冬の日はこれから一人で温めなければならない。

33

 出来事を文字に起こすのは酷く簡単な作業に思われた。
島にいた女剣士が消えてしまうだけ。男は一人になるだけ。
しかしどれほど経っても筆が進まない。一分、十分、一時間、一日。私の心に戸惑いと言う感情が芽生え始めていた。

34     
 
        ついに男と女剣士は二人きりになってしまった。
     意中の相手だから、日に日に好きだという気持ちが高まっていった。ある夜、騎士が男の部屋を訪れた、真剣な面持ちだった。

     「私は、戦から逃げてきた」

      静かに女剣士は話し始めた。

     「いや、追い出されたとでも言おうか」

     女剣士の属する一団は権力争いに敗れて散り散りになってしまったとのことだった。
     懐かしそうに語るが、時折つっかえているのは彼女の中でまだ記憶がよみがえり苦しいからだとも話した。
     昔いた一団は元々小さかったがほとんどの者は相手側に寝返り、残ったのは女剣士とその師匠だけだった。
     女剣士は若かった。だから年老いた師匠は自分が首を刎ねられる代わりに、この世の果てである小さな島に女剣士を送ることで相手を承服させた。

      戦続きの旅路は辛かったが、その生活だけが彼女の生き甲斐だった。
     それすらも失った彼女は、自分の願い事を考えていた。剣を失って思い出したのが男のことだった。最後に男に会えれば良いと思った。
      幼い頃の、剣すら握ったことのない頃の、甘い記憶をよみがえらせようと思ったのだ。

     「お前に会えたことはとても嬉しかった。だから秘密は言わないでおこうと思ったのだけれど十分楽しめたからもう良い」

      すがすがしい笑顔は子供の頃の女剣士の笑顔にそっくりだった。

     「ここは世界の果てだ。ならばここから消えたら世界の真ん中にでも出るんじゃないか? 今は戦争の真っ最中だから私はきっと戦で死んでしまうだろう。だけどその前に少しだけ好きな人に思いを告げられると良いなと思っていたんだ」

     男も、何かを言おうとしたが唇をふさがれていた。

     「おまえのことが好きだった。ありがとう」

     自分も好きだ、と伝えようとする頃には女騎士の身体は薄く消え始めていた。
     男は抱きしめようと腕を伸ばしたけれど、何も腕の中に残らなかった。

      暗い夜空から、男に向かってぽつぽつと雨が降り始めた。男は一人きりになった。
     この島は秘密を誰かに話すか、願い事を叶えると消えてしまう。だが、聞く者が居なければ消えることは出来ないのだ。
     大声でわめいても、誰も聞いてくれない、それどころか願い事も叶わない。

     いつしか島は孤独な牢獄へと変化していた。



35     

 紙面に書いている文字は実際に起きた出来事と遠く離れているのに、何だか無性に悲しかった。
 酒でも堪えきれない寂しさが襲ってくる時は、あれほど嫌がっていた天狗の乱交まがいの集まりに顔を出すようになった。
勿論そこに椛は居ない。身体にさんざん精液を流し込まれて、何も考えずにただ酒と、麻を吸って気を紛らわせた。
気が紛れても、椛の泣いていた表情が頭に浮かんでは消えていく。質の悪い幻影を打ち消さねば。
 そう思い立ち鍛錬中の彼女の様子を見に行った。なんと声を掛けるべきか考えながら椛の元へと向かっていく。
椛は人望が厚いのか練習をしている天狗達と軽く挨拶を交わしている最中だ。一区切り付いたところで声を掛ける。

「椛、頑張っているみたいですね」

 自分らしくもない言葉だなと思った。椛も可笑しかったのか笑いながらええ、と応えてくれた。
彼女は山を下る小径へと足を進めた。つづら折れになった道は葉擦れの音に包まれている。道の傍には小河が流れており、その周りの角張った岩は緑の苔で包まれている。
小さく迸る水滴と、高い木々が夏の日光を防ぐお陰で地面は湿り、辺りは苔の香りが漂うトンネルのようになっていた。流れる水音と、二人が道の砂利を蹴り飛ばす音だけが響く。
川の傍を通り過ぎる時あちこちにハンモックを引っかけて眠る哨戒天狗達がいた。
哨戒中はしゃんとしている尻尾が垂れているのは、遠くから見ている分にはかわいらしい。

「あれは何をしているの?」
「みんな暑くて眠れないから、河の近くにハンモックを張っているんです」
「かわいいですね」

 そこでメモを取る。椛も少しだけ表情をゆるめた。なんだか、出会った頃の私達に戻っているようで懐かしくもあった。
感じ過ぎていたのは私だけだったのかもしれない。少し恥ずかしい。椛はそんな細々としたことを気にするような奴じゃ無かっただろう。
しばらく山道を下っていくと屋根が苔むした小さな庵が現れる。椛の家だ、このまま元の関係に戻れたらどれほど素敵だろうか。
 椛は立ち止まりこちらを振り向いた。

「どうされますか? 射命丸様?」

 その呼び方に強烈な違和感を覚えて、言葉をつむげなかった。
もう他人なのですから。ただの知り合いに戻ってしまったんですよ。そういうことなのだ。

「終わってしまったんですね」

 私と椛が紡いでいた密かな関係は、すっきりとここで終わったのだ。

「始まってすらいなかったのかも知れません」

 夏の強い日差しに目を細めてから椛は一人で庵へと消えていった。
終わりはこんな暑い日にも訪れる。いずれ訪れるであろう終わりのうちの一つだと思っていたから多少は構えていたつもりだったが、私は動くことすらままならなかった。
 こういうときは泣くべきなのか分からなかった。長生きをしすぎて、感情が腐ったのだろうか。
雛の言うように他人のことばかり見過ぎたせいで、いつの間にか自分をどう制御したらいいのか忘れたのか。

 いつの間にか私は一人きりになっていた。一人になってしまった私は、一文字も連載を進める事が出来なかった。 
身の周りに起きた話を書くことに頼っていたから何も起きないと何も書けないのだ。
しばらくの間は天狗の集まりにも顔を出すこともやめて冷房が効いた部屋の中で夜となく昼となく眠り続けた。
長い夢の中で島に立っていることがあった。夢の中でも私は一人だった。

36      

「ごめん文、雛がレンズを踏んじゃったせいでまた壊れたんだけど、すぐに磨きの作業に入ったから数日で出来たんだ!
文これはつまらない物だけど交換のフィルムを付けとくよ。ねぇ文機嫌直してよ。遅れたことは悪かったからさ。そんな黙ってばかりいないで」
「……なんて?」
「文は怒ってるのかって」
「怒ってませんよ。どうも」

 興奮したにとりの話し方が早くて着いていけなかっただけだった。

「いや、別にどうでもいいです。やっとカメラが直ったんですね」
「うん。写真もばっちり撮る事が出来るよ」

 これで元通りの生活に戻れそうだ。カメラが直れば、記事を書いて今まで通りの射命丸文に戻る事が出来る。

「そういえば、文の連載、クライマックスだね、次も楽しみにしてるよ」
「ありがとうございます」

 そういえばそんな話も書いていたのだ。終わりについても考えなければならない。
久しぶりに手元に戻ってきたカメラを落とさないように首にぶら下げて、秋が近づく山の中へと歩み始めた。

37      

 まず静葉がどうしているのか気になった。にとりに恋をしていた彼女が居なければそもそもこんな話を書かなかっただろう。
静葉の写真を撮ることにしよう。彼女もそろそろ自分たちの季節がやってくるのだから多少は元気になっているはずだろうし。
 秘密を解き放ってしまった彼女が元気だと良いなと考えた。
それならば最初に島から消えた彼女が何処か遠くの国で幸せを掴んでいて、結局あの島は孤独な地獄だった言う物語の終わらせ方もできる。
その為には取材だ。そしてあの島の出来事を早く終わらせるのだ。

38      

 山裾に広がる段々畑の中に、大木に半分飲まれるようにして秋姉妹の家が建っている。
あちこちに熟れすぎた西瓜が残された収穫後の畑は秋の訪れを十分感じさせてくれた。
それでもまだ湿った土からわき上がる湿度が高い空気はもうしばらく続くだろう。
 妹の秋穣子はこの時期は忙しいだろうが、姉は居るはずだろう。

「あら、珍しいお客さん」

 目を向けると、静葉は眩しそうにこちらをみていた。

「穣子なら今は大忙しだけれど」
「そうですか、カメラが直った記念にお二人のショットを収めたかったのですが、これは残念です」

 芝居がかった物言いをすぐに見破ったのか彼女はくすくすと笑う。

「分かりやすいわね。どうしたの? 暇をしているの?」
「つまりはそういうことです」
 
 それなら、と行って静葉は立ち上がった。

「文、ちょっと歩きましょう」

 静葉に導かれるまま畑を抜け、雑木林を歩いていると静葉は話し始めた。

「にとりは、雛のところに行ったみたいね」
「そうですね」
「河童の一番偉い人に向かって説教までしたなんて凄いよね。惚れ直しちゃうかも」
「静葉さん……」
「冗談よ」

 くすくすと笑う静葉を見て一安心。ここで泣かれたらどうしようもない。
やがて雑木林が開けて小さな空間に出た。地面は若草で埋められていて、木々の合間から妖怪の山の頂がよく見えた。

「さて、文って最近新聞で物語を書いているよね?」
「ええ。最近は忙しくて書けていませんが」
「好評みたいだね。私も読んでるよ」
「そうですか、ありがとうございます」

 静葉の言葉は続く。

「あの島の物語ってさ。私たちが出てるわね?」

 誰も気がつくはずなんて無いと思っていたけれど、そう甘くは無いようだった。彼女の涙も何もかもあの紙面に載せてしまったから静葉は怒っているのだろう。

「……よく分かりましたね」
「そうねぇ、私の勘だとあの物語に出てくるロボットはにとり、そして女神が私かしら。そして剣士が椛で文は主人公かな? どう?」
「ご明察です。よく分かりましたね」
「あの話珍しいから何度も読んでいたの。そしたらあの居酒屋にいた皆が登場人物なんじゃないかなって思ったの」
「そうですか。勝手に載せてしまってごめんなさい」

 謝ろうとする私を止めて、静葉は話し始めた。

「私ね、あの文の話とっても好きだったんだ」

 静葉は表情をほころばせた。

「特にあの島の中でロボットと女神が踊っている所、本当に好きだわ。何度も繰り返し読んでいるのよ」
「そう、ですか」

 恥ずかしくて思わずうつむいた。

「私は、まだにとりの事が好き。だけどもう叶わない。そんな時に文の新聞を見ていると少しだけ悲しい気分にならなくて済むの」

 それで良いのだろうか。そんな言葉をもらえるほど立派な物語だとは思わない。
今更ながら静葉と私はとても似ていると思った。二人とも目の前の出来事を上手く受け入れられていないのだ。
 もしあの物語をにとりや椛が読んだって何も感じないはずだろう。
だが静葉や私のように上手く答えを出せなかった者達にとってはまた変わったように見えたのだろう。

「あの時の居酒屋の四人ってわけだけれど、文と椛は何かあったの?」
「振られちゃいました」
「文はきっと仲直りすると思ったのになんだか残念」
「もともと始まってもなかったのですから、仲直りもなにも」
「強いね、文は、そういう風に割り切って考える事が出来る」
「いや、むしろ逆です」

 口がするすると話を紡ぎ始めた。知らない自分が勝手に話しているようで可笑しかった。

「長生きしすぎたのか、そういうのに弱いんでしょう。弱いから近寄りたくなくて、切り捨ててしまうんです。
 それに。今話すとすごく滑稽ですが、私はもしかしたら椛の事が好きだったのかも知れません。
 もしかしたらというのは、自分でも分からないからです。あの時本当に好きだったのか。それともただの思い違いだったのか。
 タイミングが違えばまた違う未来が存在したのかもしれませんが、それを認めたくないのでしょう」

 私たち似たもの同士ですね、と付け加えると静葉は一歩こちらに近寄って来た。

「ねぇ。文、私たち友達になれるかもね」
「振られた者同士としてですね」
「そう。気がついたら終わっていた者同士。ねぇ文踊らない? 踊るシーンみたいにさ何も考えずにただ踊るのって楽しいと思うの」

 そこまで言うと、静葉は靴を脱いで裸足になった。ほっそりとした素足が芝生の上に触れる。なんだか見下ろしている自分が馬鹿みたいで。自分も下駄も脱ぐ。
しっとりとした土の感覚に浸っていると、声を掛けられた。

「さぁ、踊りましょう」

 静葉は軽やかに踊る。
指先を絡め、鼻歌で調子を取りながら動き始めた。両手を繋いで近寄ってはまた離れ。
右足、右足、左足、左足。手を繋いでぐるりと回る。たどたどしく踊っていたけれど、そのうち慣れてきた。
素足で感じる柔らかい地面の感覚が新鮮だった。
静葉の向こう側には色づきかけた稲田が広がり、そして次には夕日が妖怪の山の木々を染める。

「手は離さないでね」
「ええ、相手は一人しか居ませんから」

 安心したのか、うっとりとした表情で静葉は目を瞑る。心の中では去った誰かとまだ踊っているのか、それとも秋がやってきたことを体で感じているか。
紙面の上だけではなく実際に私は踊る。軽快な音楽に合わせて楽しく、そして優雅に。
 この夏の間、私は知らず知らずのうちに踊っていたのだ。
 相手は椛だったり、雛だったり、にとりだったりした。そして踊った相手の感触が手に残って戸惑っていた。
次々と踊っているうちに人々は離れ始め、最後に踊っているのは私たち二人だけになってしまった訳だ。
まったく、雛が言うとおりだった。わたしは自分の感情にうまく向き合えていなかった。
いろいろと失ったような気がする。でも、いまはこうして静葉という相手が居る、それはとてもいいことなのだろう。

「楽しい」

 つぶやいた静葉の言葉に合わせて近くの木の葉が一枚ひらりと落ちた。
私も笑っている、愉快では無い日々が終わったことにほっとしていたのかもしれない。
それとも、すれ違いばかり見てきて、そしてまた自分もそのすれ違う人妖の一員だと知って滑稽だったのかもしれない。
 椛との関係は始まっても居なければ終わってもいない。ただすれ違っただけなのだ。すれ違いに始まりも終わりも無かった。
それでもだれかと手のぬくもりを感じているうちは孤独ではないのだ。
昔でいえば椛と手を繋いでいたことだったり、例えば今静葉と手を繋いでいるように。
 
 そんな事に気がついた時私の心は物語の島から離れ始めていた。
 木漏れ日が漏れていた木々がだんだんと集まり森となり、やがて砂浜を含む小さな島の全景が見えるようになった。
そしてどんどんと遠ざかり、しまいには霧の中に消えてしまった。

 もう独りじゃない。あの孤独の島はもうどこにも存在しない。終わったのだ。
そんな事を考えて踊っている最中にこんな終わらせ方が頭の中に浮かんだ。


39     
                
     一人きりの男は、桟橋の辺りで日中を過ごすことが多くなった。
     寂しさを紛らわせるために波の音を一日中聞いて過ごすのだ。
     どれほど時間が過ぎただろうか、遠くから船の姿が見えた。誰かがやってきた。
      船が近づいてきたとき、その舳先に消えたはずの女神が立っていた。

     「久しぶりね。男さん」

     男は何か声を掛けようとしたが、長い間言葉を話していなかったので、一言も出てこなかった。
     頭の中は嵐のように吹き周り、身動き一つとれなかった。
     そして男は一つの出来事を思いついて一目散に、蓄音機の元に向かった。

     「ねぇ、どうしたの?」

     寂しくて苦しかった男が何も言わずにレコードのスイッチを入れる。
     船乗りは苦笑いをしながら、遠巻きに眺めている。
     男は一旦手を止めて女神に話しかけた。

     「どうやって……、此処まで来たんだい? それにどこに行ってたんだい?」
     「遠くの国に気がついたら居たわ。砂漠の真ん中だった。歩いているうちにたくさんの屍を見たわ。
     怖くて仕方なかったけれど立ち止まったらだめだと思って、歩いたの。
     足が止まりそうになるときは、楽しかった島での日々を思い出して乗り切ったの。そのうち砂漠の住民に助けて貰った。
     それから、町に出て。どこに行こうかと思ったけれど結局私に残されていたのは願い事だけで。
     だからまた来ちゃった。船長さんったら驚いてたわ。また来た奴なんて初めてだって」

      女神が笑うと、その周りだけ日が差すように霧が晴れた。
     十分ネジが巻かれた蓄音機は、やがて軽快な音楽を流し始めた。

     「ねぇ、女神、まだ願い事は変わらないのかい」
     「ええ、変わらないわ」
     「僕も、変わらないんだ、それにもう叶わない」
     「それならずっと居られるわね。わたしも叶わないから」

      しばらくこの二人は、島に居留まり続けるだろう。
     二人の願い事は叶わないし、そして、二人は相手の秘密をもう既に知っている。
     だから誰かに秘密を打ち明けたくもならない。このあと二人は緩やかに孤独を癒しつつ島での日々を過ごすことになるだろう。
     男は咳払いをして目の前の女神に向き直った。女神もどこか嬉しそうだった。          

     「ねぇ、一緒に踊りましょう」

     女神は

40
 
 静葉はそう言って微笑みかけてきた。





























暑いと寒い話を書きたくなります。寒いと暑い話を書きたくなります。
気がつけばもう夏も目の前ですね。



>>1様 
 お読みいただきありがとうございます。
 HAPPY ENDではなかったかもしれません。それでも何かを感じて頂ければ幸いです。
>>2様
 お褒めの言葉ありがとうございます。
 物語の中身や構造やネチョなど今後の課題は多いですが、それでもこつこつとやっていきたいと思います。
>>3様
 お読みいただきありがとうございます。
 こういう関係ですと、答えを出せないことも有るのかもしれません。
 が、それでも何らかの最適解を出すことが必要だったかなと感じております。
 これからもよろしくお願いします。
>>4様
 お読みいただきありがとうございます。
 >>綺麗な視点のシフト
 そのお言葉嬉しく思います。これからも頑張ります。
>>5様
 お読みいただきありがとうございました。こちらもそのお言葉でやる気が出ます。
>>6様
 お読みいただきありがとうございます。
 今回の二作で完結ですが、書いて居る途中タイトルの最後に(表)(裏)と付けておりました。
 みんな自分の立場でしか物事が見えないのかなとかそんな事もぼんやり。
  
>>7様
 お読みいただきありがとうございました。
 にとりがいかに幸せ者か感じて頂ければ幸いです。
>>8様
 お読みいただきありがとうございました。
 ひきこまれた、というお言葉ありがたく思います。
 おかしくて、ちょっと悲しい。そんなお話でした。お付き合い頂きありがとうございました。

>>9様
お読みいただきありがとうございました。
もう少し明るい話にすれば良かったのですが、すれ違いを描く上ではやむなしでした。
何もかも、にとりたちのようにHAPPY ENDとは行かないのかなとも思います。
そんなチラシの裏でした。

>>10様
ここまでお読みいただきありがとうございました。
二つの物語から立体的に関係を感じて頂ければ幸いかなと思います。
この二つの物語(作中劇も合わせると三つ)の主役は静葉なのかなと考えておりました。
今後とも精進いたします。ありがとうございました。
静葉 is God

>>11様
ここまでお読みいただきありがとうございました。
拙作で何か感じて頂いたならば、書いた甲斐があります。

>>12様

長い話でしたが、ここまでお読みいただきありがとうございました。
>>楽しい一時と、素敵な作品をどうもでした。
こちらこそ、ありがとうございます。思いついたは良いものの、
長さもキャラの関係構造も(一部分とはいえ)三人称の文章を書くのも未知の領域でしたので不安ばかりでした。
それでもそんな言葉をいただけてとても嬉しいです。もうこれは嬉しい。
重ねて御礼申し上げます。

>>13様

お読みいただきありがとうございます。
もったいない言葉どうもです。そして静葉は可愛いですね(唐突)

>>14様
お読みいただきありがとうございました。
いろいろと工夫したのが幸いしたようで良かったです。
106kb近くありましたが書いていて楽しかったと思います。
そんなのも伝われば幸いです。
SYSTEMA
コメント




1.名前が無い程度の能力削除
なんだか物悲しい
2.名前が無い程度の能力削除
こんな文がかきたいと思わせられる作品でした。ありがとうございました。
3.名前が無い程度の能力削除
おおお、切ない。けど素晴らしい
前作で終わりかと思ってたところで続編があることに気づいて小躍りしました。
文と椛はこれで良かったのだろうか。
文章が巧みなので想像が広がります。
4.名前が無い程度の能力削除
一気に読ませていただきました。
切なさで呼吸が苦しいです。
綺麗な視点のシフトと読みやすい心情描写が素晴らしかった。
ありがとうございました。
5.名前が無い程度の能力削除
ハァーー……ため息が出るくらい面白い話でした、感無量
6.名前が無い程度の能力削除
不思議と惹き込まれる作品でした。
現実は小説より奇なり、色々な話でよく聞くそんな言葉が頭をよぎり、読み終わった後の何かが終わった物悲しさでいっぱいになりました。
全ての出来事は表裏一体。一つが崩れることで全ての物は崩れ、再生し、始まり、終わる。
叶わぬ願いを持つ二人の少女に幸のあらんことを。
7.名前が無い程度の能力削除
さよならの方が思ったよりすれ違っていなかった分こっちのすれ違いぶりが悲しいほどに際立っていますね。
まさに消失点。
8.名前が無い程度の能力削除
おもしろかった!
出てくるキャラが輝くのではなく、みんな影をもっているんだけど
魅力的で話にひきこまれました。
起きたことを劇中劇に変換するというアイデアも良かった。
9.名前が無い程度の能力削除
透明感があるのにどこか薄暗い、独特な筆致に引きこまれました
やっとのことで始まった前作と対を成す、始まらないまま終わってしまった物語。切ないです
10.名前が無い程度の能力削除
文ちゃんの物語と同時完結、だいぶ練られたのが伝わってきたような。
にとりちゃんの物語と合わせて読むことで、二人の情景描写から全体を見渡せるような。
これが小さな島の全体が見えるという仕掛けだった……だと
そしてやっぱり静葉ちゃんはかわいい。
2つ合わせて全体が見える良いSSでした。
11.名前が無い程度の能力削除
素晴らしかった。
この終わり方は想像できなかった。
12.名前が無い程度の能力削除
面白かったです。作中に挟まれる物語の設定も好みで、読み進める内にどんどん惹きこまれました。
登場人物は妖怪と神だったりですが、長生きしすぎているからなのか凄く人間臭くて、東方ということを一時のあいだ忘れてしまったほどです。
終わり方も凄く切ないようで、どこかあっさりとしている感じがまた堪りませんでした。
背景描写なども細かくて素敵でした。
読み終えたあとの余韻に浸れる作品は、自分のなかで割と少ないので、まさか夜伽でこれほどの一作を読めるとは思っていませんでした。
楽しい一時と、素敵な作品をどうもでした。
二度目になりますがもう一度言わせて下さい、面白かったです。
13.名前が無い程度の能力削除
とっても切なかったですが、なんだか、とっても、心が強くなったような。上手く言えないですが、最高でした。ありがとうございます。
14.名前が無い程度の能力削除
前作から一気に読ませて頂きましたがやはり素晴らしい
何処か悲しくなる文調にすっかり引き込まれてしまいました