真・東方夜伽話

廻る季節の境界線

2008/03/31 08:07:15
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廻る季節の境界線

(´・ω・`)
※ヤンデレアリスの異常な愛情・幼い月の恋愛事情 の設定が背景にあります。
 今回は病み要素は少ないですが、若干シリアスです。自己設定も少しあるので、嫌な方は見ないのをお勧めします。















その夜、霊夢は夢を見た。
それは酷く曖昧で、しかしながら幸せな、何処か矛盾した夢。
夢の中で霊夢は誰かと笑っていた。
誰か、もまた、霊夢の手を取りながら微笑んでいた。
その誰かを、霊夢は知っていた。
だが、その誰かを認識するのを霊夢は拒んでいた。

それは、決してしてはならない事だと。
そう、理解していたから。



/幻想の境界線



ある晴れた日の事。
その日、博霊神社の縁側に、二つの小さな影があった。

「―――でね、咲夜ったら本当に可愛いのよ!
この前なんか、トイレに一緒に来て下さいなんて言いながら裾を掴んできたのよ?信じられる?」
「…へぇー…そーなんだー…」

うへぇ、と砂糖を吐きそうな表情で霊夢は嬉々として語るレミリアにそう返し、お茶を啜った。
…かれこれ1時間、霊夢はレミリアののろけ話につき合わされている。
以前の『彼女が出来たら紹介する』という約束を果たすという形で、最初こそ笑みを浮かべながら霊夢も聞いていたものの、流石に糖分過多なのか、数分前から多少なりとうんざりした表情を見せ始めていた。

「もう、何よその顔。折角咲夜と私の甘い関係について語ってるのに」
「…まあ、元気が出たみたいで何よりだわ」

不満げな声を漏らすレミリアに、思わず苦笑しながら霊夢はそう呟いた。
そう、今のレミリアは前回博霊神社に来た時とは打って変わって明るかった。
…若干明るすぎるような気もするが、少なくとも悩みを抱えているよりはいいだろう、と霊夢は一人納得する。
それに、レミリアを祝福したい感情は確かに霊夢の中にあった。

そう、『あった』のだ。

「…霊夢もいい人が見つかると良いわね?」
「ええ、本当にね…」

レミリアの少し心配そうな声に、霊夢は思わず大きな溜息を付く。
…実の所、霊夢には、『良い人候補』ならば既に居るのだ。
ただ彼女は幻想郷の中でも随一と言って良いほどに、一筋縄では行かない…悪く言えば、変人で。
それが『彼女』の良い所でもあり、霊夢が惹かれた理由でもあるのだが。

…霊夢は、自分でも気付かない内に焦っていた。
自分の周りが皆幸せになっていく中で、自分だけがただ取り残されていくような、そんな孤独感。
孤立感を、感じていた。
焦燥、とでも言うのだろうか。

だが、それを感じながらも、霊夢は決して顔に出す事なく。
その日も、何時も通りに夕暮れにはレミリアも帰り、一人になった霊夢は、ぼんやりと夕焼け空を眺めていた。





ある晴れた日の事。
その日も、博霊神社の縁側に、二つの小さな影があった。

「…でさ、アリスとパチュリーが最近なんか企んでるっぽいんだ。霊夢、何か心当たり無いか?」
「心当たり、ねぇ…」

魔理沙のあながち真面目な問いに、霊夢は困った表情で苦笑した。
無論、霊夢が何か知っている筈は無い。
魔理沙の方もそれは理解している。
だから、これは実際のろけのようなモノだった。
自分達の幸せっぷりを皆に伝えたい、という無意識のうちの行動。
霊夢もそれを理解してるからか、苦笑しつつ魔理沙の愚痴を聞き流していく。

そうして、暫く時間がたち。日が暮れる頃になって、漸く魔理沙は縁側から立ち上がって、お尻を軽く叩いた。

「んー…何だか悪いな、霊夢。愚痴、聞いて貰っちゃって」
「あはは、何言ってるのよ。私と魔理沙の仲じゃない」

少し申し訳なさそうな顔をする魔理沙に、霊夢は満面の笑みを浮かべながらそう返す。

少なくとも、表面では。

「それじゃあな、霊夢。今度一緒に皆で遊ぼうぜ?」
「ん…気が向いたら、ね」

箒に跨りながら夕焼け空へと飛んでいく魔理沙を見送り、霊夢は珍しく…本当に、珍しく。
小さな、小さな溜息をついた。





ある雨の日のこと。
その日は、珍しく博霊神社には一人の影しかなかった。

「………」

縁側に座り、一人で暖かいお茶を飲む霊夢。
その表情に、何時もの笑みはなく…ただ、何処か呆けたような顔で。

「…こんにちわ、霊夢。久しぶりね?」
「きゃっ!?」

だからだろう。
突然頭上から出てきた顔に驚いて、素っ頓狂な声をあげてしまったのは。

「ゆ…紫…?」
「ええ、そうよ霊夢…元気にしてた?」

するん、と、まるで抜け落ちるかのように隙間から降りて、紫は霊夢に笑みを向ける。
霊夢は、そんな紫に…今までならば抱かなかった筈の、動悸を抱いていた。
まるでじんわりと身体が暖まるかのような、そんな心地よい動悸を。

「…当たり前じゃない、元気に決まってるわ」
「そう、何だか元気が無い見たいって聞いてたから…でも、元気なら何よりね♪
今日は大吟醸を持ってきたから、二人で飲みましょ?」
「仕方ないわね。
おつまみ持ってくるから、ちょっと待ってなさい」

恥ずかしそうに笑みを浮かべながら、何時もの口調で言う霊夢に、紫も満面の笑みを浮かべて酒瓶を差し出す。
霊夢もそれに応えるように、方を竦めながら台所へと向かった。
それはもう、何時になく浮き足立った足取りで。



そして一緒に卓袱台におつまみと御猪口を並べて、酒を口にしていく。
その日は春も直ぐ其処まで来ている割には若干寒く、程よく強い酒が、二人の身体を温めてくれた。

「それにしても、最近は随分とあちこちの春度が高くなったわねぇ。
家の藍達も私の前でいちゃいちゃしてまいっちゃうわ、本当に」
「そうよねぇ…私の所にも、最近レミリアや魔理沙達がのろけに来るし…まあ、嬉しそうだから良いんだけどね」

クピ、と霊夢は御猪口に入ったお酒を一口飲んで、おつまみを口に運んだ。
その表情は何時になく明るく…そして、酒のせいか、朱に染まっていて。
紫も心なしか楽しそうに、何でもない話を霊夢と楽しんでいた。

そう、あの一言があるまでは。

「しかしまあ、これで春が来てないのは永遠亭の連中や幽々子達、それに私達くらいなのよねぇ。
あーあ、私もお相手が欲しいわぁ…」
「…そう、ね…」

紫の何気ない一言に、突然霊夢の言葉がにごる。
紫にとってはほんの何気ない一言だったのだが、その言葉は霊夢の心に深く響いていた。
何しろ、その「お相手」が目の前に居るのだ。
動揺するな、と言う方が無理がある。

「…どうかしたの、霊夢?」

様子のおかしい霊夢に、紫は少し心配そうに顔を覗き込んだ。
紫の顔が近付くと、霊夢の中の動悸が、一際激しくなる。

酒の勢いもあった。
今まで魔理沙達にのろけられてきた事の影響もあった。

「…わた、し」

だが、何よりも。
霊夢は、もうこれ以上、彼女への思いを、隠し通す事も…そして、はぐらかす事も、出来なかった。

「私…紫が、好き」
「…え?」

ぽつり、と。
小さな声で呟いた霊夢の言葉に、紫は思わず声を出してしまった。
それは驚きからか、それとも疑問からか。
そのどちらかも判らなかった霊夢は、しっかりと紫を見て…もう一度、繰り返す。

「…私は、紫の事…好き、なの」
「ちょ…ちょっと待って、霊夢…突然何を」

突然の霊夢の告白に戸惑う紫。
だが、霊夢はもう、止まらなかった。
今まで内に溜めてきたものを吐き出すかのように、紫に近付いて、顔を赤らめながら見つめて。

「…っ、ずっと…ずっと、好きだったの…紫の事…っ!
お願い…紫…ちゃんと答えて…?」
「…霊、夢…」

霊夢の真剣な表情に、思わず紫も息を飲む。
紫は、こんな霊夢の表情を見るのは初めてだった。
以前自分に勝負を挑んだ時ですら、霊夢はこんな真剣な表情は見せていなかったと言うのに。
だというのに、今目の前の霊夢は真剣な表情で、そして…紫に、答えを求めている。

…それをかわす術を、紫は知らなかった。
否。
そんな真剣な霊夢の言葉を、何時ものようにはぐらかす気になど、なれなかった。

「…お願い…紫…」
「…霊夢…私は…ごめんなさい。貴女を、幸せには出来ないわ。
私は妖怪で、貴女は巫女…だから…」

そして、そんな霊夢にかけられた言葉は。
嫌悪からくる拒絶でもなく、好意から来る肯定でもなく。

種族の差、という、変えられないモノだった。

「…ぷっ」
「…霊夢?」
「あっははははは、何本気にしてるのよ紫?
何時もからかわれてるお返しに決まってるでしょ?」
「ぁ…あはは、そうよね…ふふっ、ひっかかっちゃったわ、私♪」

紫の言葉に、突然可笑しそうに笑い出す霊夢。
紫もそれに安心したように、ほっと胸をなでおろして、釣られたように笑い出して。

だが、紫は確かに見た。

霊夢の瞳から、一筋の雫が零れ落ちたのを。





「…あ、紫様、お帰りなさい。
何処に…って、言うまでもなく博霊神社ですよね。どうでした?」
「…何も無かったわ。
今日は疲れたから、夕御飯は二人で食べて」
「え…ゆ、紫様?」

何時ものような、何処か間の抜けたような、そんな態度ではなく。
純粋に、何処か辛い表情を見せた紫に、藍は酷く狼狽した。
だが、藍には紫にかける言葉などある筈も無い。
何しろ、何故暗いのかも、そんな表情をしているのかも、彼女は知らないのだから。

だから。

「…藍しゃま…紫しゃま、大丈夫かな…?」
「…判らない。
けど、今はそっとしておこう?」

藍も、主の力になれない事を歯痒く思いながらも、橙にそう言う他なかった。





「………」

霊夢は、真っ暗になった部屋の畳の上で、天井を虚ろに見つめていた。

断られた。
嫌われたならまだ救いはあった。
だが、あれはそう言うものではない。
好き嫌いの区分ではなく、好きであろうが嫌いであろうが、決して結ばれる事は無いのだ、という純然たる事実。

博霊の巫女とは、元々そういうモノだ。
巫女は、巫女であり続けなければならない。
そうしなければ、幻想郷が瓦解してしまうのだ、と。

霊夢は幼い頃から、先代の巫女にそう教わってきた。
それ故に、巫女である自分が誰かと…ましてや妖怪と結ばれるなど、あってはならない。

「…何よ、それ」

ポツリ、と。
霊夢の口から、言葉があふれ出る。

つまりは霊夢が巫女である限り、霊夢は絶対に紫とは絶対に結ばれない、結ばれてはならない。
そして霊夢が巫女を辞める時は、恐らくは―――死ぬ時だけ、だ。

絶対に、霊夢は紫と結ばれる事は無い。

「…何なのよ、それ」

心の奥底では理解していた。
それでも霊夢にはまだ淡い期待があったのだ。
紫なら、それでも受け入れてくれるんじゃないかという、そんな期待が。

しかしそれすらも崩された今。
霊夢の心の中は、グチャグチャに、壊れ始めていた。

「…はは」

そして、寝転んだままの霊夢が不意に、哂った。

「…あはは、何だ、簡単じゃない」

可笑しそうにケタケタと、誰に言う訳でもなく呟き、そしてうつろな目を歪ませる。

「―――待ってて紫。
終わったら直ぐに迎えに行くわ―――」

愉しそうにそう呟くと、霊夢は赤い月の浮かぶ夜空へと飛び立って。







その夜。
幻想郷にとって、最悪の事態が起きようとしていた。











「…え…」

その夜。
幻想郷の中に居る全ての生き物が、目を覚ました。
大きな音がした訳でも、振動があったわけでもない。

だが、有象無象の妖怪からレミリア達のような力を持つモノまで分け隔てなく目を覚まし…そして、空を見上げた。

空には大きな赤い月と、一つの影。
そして…まるで、ガラスが割れたような。
そんな、異様な大きなヒビが、入っていたのだ。

大半の妖怪はその現象を理解出来なかったが、レミリアと咲夜、幽々子、紫に四季映姫、そして永遠亭の皆と妖怪の山の主要な妖怪はそれを一目で理解する。

大結界の、崩壊。
幻想郷が始まって以来、一度たりとも起きた事の無かった異変が起き始めているのだと。

誰が言うわけでもなく、しかし一斉に…気付いた幻想郷の住民達が、空へと飛び立つ。
大結界に入ったヒビの中心にいる黒点。
幻想郷を保つための鍵だった筈の、その人物。

博霊の巫女、博霊霊夢の元へ。


「―――霊夢!!
何をしてるの、止めなさい!!!」

誰よりも早く、時間を止めて駆けつけた咲夜は何時になく真剣に…そして焦りを見せながら、霊夢に呼びかけた。
咲夜は未だに自分の目の前の光景が信じられなかった。
あの何時も明るく、気だるげで、そして優しい霊夢が幻想郷を破壊しようとしてるという事実。
しかし、目の前で起きているのは紛れも無く現実で。
霊夢自身もまた、咲夜を興味無さそうに一瞥すると、再び大結界に亀裂を入れ始める。

その瞬間、咲夜の思考は切り替わった。
話して解決など出来ない事、そしてもしこのまま今の状況を傍観していれば、恐らくは…大結界が、本当に崩壊してしまうと言う事を。

「―――『エターナルミーク』!!」

咲夜は一瞬の躊躇の後に、スペルカードを宣言した。
超高速弾を無造作にばら撒くだけの、しかしそれ故に強力なスペル。
時間を止めるタイプのスペルは以前霊夢に完膚なきまでに潰された記憶が在るゆえの行動だった。
そう、咲夜の判断は間違いなく正しかった。
弾速の遅いスペルを放った所で、霊夢には恐らく掠りすらしない。
弾速が早く、かつ軌道がランダムなエターナルミークならば、仕留められる可能性は確かにある。

だが、発動した一瞬後に…咲夜は、自分の考えの浅はかさを思い知る事になった。

ズン、と。
咲夜の耳に、鈍い音が響く。
咲夜は初め、それが何なのかを理解する事が出来なかった。
咲夜の口から、何か液体のようなものが溢れ出す。
それを自らの体液だと認識した瞬間、咲夜は自身に起きた事を理解した。

腹部に深々と突き刺さった霊夢の足。
そして、次いで聞こえてくる何かが潰れる様な音。

認識した瞬間に、咲夜は激痛にうめき声をあげ…そして、遥か下方の地面まで堕ちていった。

それを見届ける霊夢の目は、ほんの僅かな悲しみと、申し訳なさが残っていて。
それでも、邪魔をするならば容赦はしない、という明確な意思を乗せて…眼下に迫る、無数の住民達を睨み付けた。

「…咲夜!!!」

悲痛な声をあげながら、レミリアが落下していく咲夜を抱きかかえ、そして地面へと降りていく。
そして、霊夢の視線に…それだけで動けなくなった住民達が、その場から動けなくなる。
それでも尚動けたのは、ごく一部の人間と妖怪達だけだった。

「…っ、霊夢!
止めろ、止めるんだ!!自分が何してるのか判ってるのか!?」
「魔理沙、危ない!!」

全速力で箒で駆けていく魔理沙の眼前に、無数の弾幕が迫る。
魔理沙はそれを…紙一重でかわし、そして霊夢の眼前に迫った。

「おい霊夢、聞いてるのか!?」
「…魔理沙じゃない。どうかしたの?」

眼前まできて漸く霊夢は魔理沙を認識したのか…仄暗い瞳で魔理沙を見つめながら、そう呟く。
何時もとはまるで違うその様子に、魔理沙は背筋を凍らせながら…しかし、必死に霊夢を説得しようとした。

そう、必死だった。
幻想郷の崩壊は魔理沙を含む住民全てに影響を及ぼす。
無論、どういった影響を及ぼすかはまだ判らないが…少なくとも、良い影響ではないのは判りきった事だった。
魔理沙は、自分が愛する2人に被害が出るのを看過することが出来なかったのだ。
内心では霊夢が親友だから、かもしれないが…一番大きな理由は、間違いなくアリスとパチュリーの安全であり。

そして、霊夢にはそれが堪らなく目障りだった。

「どうしたのじゃない、今すぐ止めるんだ!結界を壊してどうするつもりなんだよ!?」
「魔理沙は良いわね…自由で、幸せで…羨ましくて仕方ないわ。
ねえ、どうするつもりって聞いたわよね…?」

魔理沙は、次の瞬間…恐らくは、長年の経験則からだろう…身を捩った。
身体を無数の針が掠め、血が流れていく。
かわさなければ、致命傷だったかもしれない。

「―――私は巫女を辞めるの。
幻想郷を無くしてしまえば巫女も、巫女である必要もないでしょう?」
「…霊夢…」

そう言った霊夢の表情を見て、魔理沙は思わず動きを止めた。
その表情は、何処かで見た覚えがあったからだ。
そう、それは確か―――丁度、アリスが自分を監禁した時の、ような―――

「だから、邪魔をしないで」
「っ、しま…っ!!」

我に返った瞬間、魔理沙は自身の周囲が結界に囲まれている事に気付いた。
四方八方を完全に結界で包囲され、回避が不可能だと判断した魔理沙は八卦炉で結界に穴を開けようとするが…間に合う筈も無く。

「…『封魔陣』」

結界内に、眩いばかりの閃光が走り―――そして、魔理沙はその瞬間、意識を失った。

「「魔理沙!!!」」

堕ちていく魔理沙を見て、悲痛な叫び声をあげるアリスとパチュリー。
霊夢を憎悪に満ちた目で見据える、が…魔理沙を放っておく訳にも行かず、地表へと落下していく魔理沙を2人は追いかけて―――

「―――『西行春風斬』!!!」

―――霊夢がその声に、気配に振り返るよりも早く、一陣の斬撃、そして数多の弾幕が霊夢に降り注いだ。

「―――っ!?」
「霊夢さん、今の貴女には鬼が取り付いてます。
暫くは大人しくして頂きますよ」

楼観剣を鞘に仕舞い、今しがた斬り捨てた霊夢を見上げる妖夢。
不意打ちは決して彼女の本意ではない、が。
数多もの妖怪を一睨みで萎縮させ、咲夜や魔理沙のような強者ですら一蹴してしまう今の霊夢には、妖夢は不意打ち以外で一撃を入れる自信が無かった。
其れゆえの、遥か上空からの必殺の一撃。
無論峰打ちにはしているが、これで暫くの間は動けない。
少なくとも肋骨は砕いたのだ。
妖怪ならまだしも、巫女とは言え人間である霊夢に耐えられる筈はなかった。

だが、妖夢は見誤っていた。
霊夢は確かに人間だ。
苦痛も感じれば、斬り捨てられれば気絶、或いは死ぬ。
だがしかし、それは飽くまで妖夢が全力で斬り付けたならば、の話だ。
今、妖夢は峰打ちと言う明らかな『手加減』をした。
その手加減は、完璧だった筈の太刀筋を少なからず歪ませる。

それ故に。

「…邪魔、を…しないで…!!」
「!?」

口の端から血を滲ませながらも、霊夢は小さく口を開き…眼下に広がる妖怪、人間の群れを睨みつけた。
その表情には、もうこれ以上邪魔をするなという懇願と。
そして、邪魔をされた事に対する怒りが、入り混じっていて。
その表情を見た妖夢は、少なからず固まった。
何て悲しそうで、苦しそうな表情なのだ、と。
妖夢は、その表情に霊夢の心情を、悟ってしまったから。

「『博麗弾幕結界』!!」

その一瞬の躊躇の間に、霊夢はスペルカードを宣言した。
それと同時に、夜空に巨大な結界が現れて…そして、妖夢を、その他の妖怪、人間達を絡め取っていく。
身動きが取れない訳ではない。
だが、結界から放たれる無数の弾幕のせいで、妖夢は回避以外の行動が取れなくなっていた。

力の弱い者ならばコレだけで一歩も進めなくなるが、力のある妖怪達は、それでも結界の中をかいくぐって霊夢へと殺到する。
しかし、霊夢はもうその妖怪達を見る事は無かった。
初めから、霊夢は…必要以上のダメージを、魔理沙達に与えるような真似をするつもりはなかったのだ。
無論、魔理沙と咲夜の2人は完全に気絶させた。
だが、やろうと思えば致命傷すら与える事が出来た状況でありながらも、霊夢は…意識的に、気絶させるだけでブレーキを踏んでいた。
霊夢は初めから、大結界を破壊する事だけが目的だったのだ。
確かにその為ならば手段を選ばない、という感情は霊夢の中に存在する。
それでも尚。
霊夢は、友人を殺す事を、良しとはしなかった。
それは、彼女の優しさか、それとも気紛れかは…霊夢以外には、判らないのだろうが。

後方で叫び声が聞こえる中、霊夢はただ…大結界に入った亀裂を見つめていた。
今、霊夢は大結界を破壊しようとしている。
それは少なからず、幻想郷に住むものたちを不幸にするだろう。
だがしかし、それで死ぬものは居るのだろうか?
環境の変化こそあれ、変わらず生活できるのではないか、という願望じみた思考を霊夢は思い。
そして、そっと…大結界を開こうと、ゆっくりと…手を、大結界の亀裂に入れようとして。

…その瞬間、霊夢は目を見開いた。

霊夢が大結界を破壊しようとするよりも早く、亀裂が消失していく。
無論、霊夢が直している訳ではない。
ただ、まるで大結界が独りでに修復していくかのようニ、亀裂は薄れて…霊夢の目の前から、消え始めていた。

「嘘…待って、何で!!」

必死に霊夢が再び大結界を破壊しようとするが、破壊した先から結界は修復されていく。
霊夢は、その理由を薄々感づいていた。
自分以外に大結界に干渉できるのは、唯一人しか居ない。
だが、それを霊夢は認めたくなくて。
まるで、壊れていく積み木の山を、必死に支えようとする子供のように…霊夢は、結界に力を注ぎ。

そして、完全に亀裂が無くなり…普段の様相を取り戻した幻想郷の空を前に、霊夢は崩れ落ちた。

「…何で…なんで、邪魔するのよ…」

霊夢の周囲には誰も居ない。
だがしかし、霊夢は…誰かに話しかけるように、小さく呟いて。

それに答えるかのように、霊夢の眼前の空間が裂けて…そして、中から一人の妖怪が姿を現した。
八雲紫。
大結界を支える、もう一人の妖怪が。

「…っ、何で邪魔するのよ!
あと少しで…あと少しで、巫女を辞められたのに!!」

霊夢は、目の前に現れた最愛の妖怪に掴みかかり…そして、慟哭した。
理由など判っている。
自分との恋愛よりも、幻想郷の維持を望んだのは紫の方なのだ。
それ故に、もし…自分が、大結界を破壊しようとすれば、紫は黙っていないのだろうと、霊夢は理解していた。
それでも、一縷の望みをかけて…皆が寝静まった時間に、大結界を破壊しようとした。
破壊さえ出来れば、霊夢はもう巫女である必要がなくなる。
そうすれば、紫とも普通に恋愛が出来る、から。

霊夢は、気付かない内に…ポロポロと、涙を零していた。

「…霊夢…」

そっと、霊夢の頬に伝っていた雫を、指で掬い上げる。
酷く悲しそうで…そして、申し訳無さそうで。
その表情からは、普段の紫の様子は、まるで見られなかった。

紫は、優しく…そして、強く、強く…霊夢を、抱きしめた。

「…悲しい思いをさせてごめんなさい、霊夢」
「ゆ、かりぃ…っ、私…わた、し…」
「泣いて良いのよ。
…思い切り、泣いて…私が、受け止めるから…」

気付けば、夜空にはもう2人以外の影は無かった。
空気を読んだのも在るが…それ以上に、今の霊夢の姿を見るのが、住民達には何よりも辛かったから。

夜空に、少女の泣き声が木霊する。
その声に、住民達は…自分達が今までどれだけのものを彼女に押し付けてきたのだろうか、と。
そんな、後悔にも似た感情を、抱いていた。





「…落ち着いた?」
「…ん…」

涙で目を赤く腫らしながらも、霊夢は…優しく頬を撫でる紫に、小さく頷いた。
もう、霊夢には…大結界を破壊するつもりなど、毛頭無かった。
無駄だと理解したのもある。
だが、それよりも…何よりも、紫自身がそれを望んでいないのを、改めて理解してしまったから。
それ故に、霊夢の心の中に残ったのは、諦めと、紫への愛情と…そして、消して結ばれないという、絶望だけだった。

「霊夢…貴女に、見せたい物があるの」
「…見せたい…物…?」

紫の言葉に、霊夢は泣き腫らした顔を上げて、小さく首をかしげる。
霊夢の瞳に映る紫の表情は何時になく真剣で。
…大事な話なのだろう、と霊夢は小さく、首を縦に振った。
紫は小さく息を吐くと、足元に隙間を開けて…そして、霊夢と一緒に隙間の中へと落ちていく。
思えば、紫が自分から隙間の中に誰かを招きいれたのは、これが初めてだった。
霊夢は上下左右の感覚が狂う、不思議な空間に思わず紫にしっかりとしがみ付いて。
紫は少し嬉しそうに微笑み、霊夢をしっかりと抱きしめると…隙間の中に、裂け目をいれた。

「…これから見せる光景は、絶対に他言しないで。良いわね?」
「う、うん…」

裂け目に飛び込む寸前に、紫は…少し悲しそうに、しかし有無を言わせぬ力を乗せて、霊夢にそう呟いた。
霊夢は紫の言葉に、少し戸惑いながら頷いて…それを見た紫は、寂しそうに微笑むと、空間の裂け目へと飛び込んで。

―――その瞬間、灰色の世界が2人の眼下に広がった。

「………」

霊夢は、目の前に広がる光景に思わず言葉を失う。
眼下に広がる世界には、一面…ただ、灰色だけが広がっていた。
空は、厚く雲がかかり、灰色で。
石を切り出したような、異様な建造物が立ち並び、其処には数多もの人の波が蠢いていた。
だが、妖怪の気配はまるで無い。
まるで最初からそんなものなど居ない、といわんばかりのその世界には、信仰も妖怪も存在しなかった。

「…これが、外の世界よ」

言葉を失った霊夢に、紫は…静かに、そう呟いた。
その表情は何処か寂しそうで…そして、悲しそうで。

「もう、どれくらい前なのかも忘れたけれど…人間達の間で、大きな革命が起きたの。
今からは想像出来ないけれど、当時の人間達は幻想郷と同じように、妖怪も神も…僅かながらに根付いていたわ。
…今では、見る影も無いけどね」

何処か昔を懐かしむように、紫は語る。
紫が思い出せない程の昔は、霊夢には想像も付かない。
だが、この灰色の大地が…昔は、妖怪や神、人間の住む世界だったと言う事だけは、理解できた。

「革命が起きると、世界はあっという間に一変していった。
戦争は起きて人が大量に死に、信仰は別のものへと変わり、妖怪は住む場所を失って…」
「…そんな…こんなのって…」
「私と…霊夢の大分前の代の博霊の巫女が大結界を張って、妖怪達を保護してから随分経ったけど…
その間に、世界はこんなにも変わってしまった。
もう外の世界に妖怪は住めないわ。こんな信仰も何もない世界じゃ、私達は存在できないもの」

だからこそ、と。紫は、何処か遠くを見るような瞳で、灰色の大地を眺める。

「…だから、私はこの大結界を守らなければならないの。
こんな世界を見ても…誰も喜ばないでしょう?
幻想郷から一歩外に出れば、自分達では生活すら出来ない灰色の世界が広がってるなんて…」
「…紫…」
「世界がこうなってから、私はずっと…この事を誰にも知られないように、隠してきたわ。
この事を知ってるのは、藍を除けば貴女だけよ、霊夢」

霊夢の視線に、紫は微笑みながらそう答えた。
…霊夢は、紫の告げた事実に思わず心を乱される。
自分は、そんな大切なものを、壊そうとしていたのかと。
罪悪感に、胸を押し潰されそうになる。

「…ごめんなさい、霊夢」
「え?」

霊夢が口を開こうとした矢先に、紫は…申し訳無さそうに、霊夢に口を開く。
霊夢には、何故紫が謝ったのか理解できなかった。
謝るのは自分なのに。
大切なものを壊そうとしたのは、自分なのに、と。

「ずっと、貴女にはこの事を黙っていたかったの。
…貴女に…霊夢に、私は…これ以上、重荷を負わせたくなかったから」
「…そんな…だって、私は…っ」
「貴女の今回の行動は、私の責任よ。
…霊夢を愛してるのなら…ちゃんと、全部を話すべきだったのに…私は、立場を理由に断ったから」

「…え」

…今、紫は何と、言ったのか。
霊夢を愛してるのなら。
そう、言わなかったか。

「…もう、隠す必要も無いものね。
愛してるわ、霊夢…ずっと、ずっと…愛してた…」
「え…ゆ、ゆゆ、紫…っ!?」

紫は申し訳無さそうにそう言うと、霊夢を強く…強く、愛しそうに抱きしめた。
霊夢は余りにも予想外な出来事に…慌て、しかし見る見る内に顔は真っ赤に染まっていって。

「…私はね、霊夢…貴女に重荷を負わせたくなかったのよ。
貴女は優しいから…異変が起きれば真っ先に駆けつけて、悩み事があれば聞いて…そんな貴女に、この世界の事は知られたくなかった」
「…紫…」
「…貴女に告白された時、凄く嬉しかった。
けど…貴女が、博霊の巫女が巫女で無くなったら…大結界は保てなくなって、外の世界の事を皆に知られてしまうから…
だから…私は、ああいう事しか出来なかったの」

そう言いながら…紫は、ただ…霊夢の体温を確かめるかのように、抱きしめていた。
霊夢はただ、紫に身体を任せるように…背中に手を回し、紫の独白を聞いて。

「でも…私は…やっぱり、間違ってたわね。
あの時、ちゃんと…私の気持ちを、貴女に伝えるべきだった…」
「…ありがとう、紫…私…嬉しい…///」
「…霊夢…」
「紫の気持ちが判っただけでも、嬉しいの…
紫が、私を愛してくれてたなら…それ以上は、もう…」

其処まで言って…霊夢は、言葉をきる。
いらない、とは…例え嘘だとしても、霊夢には言えなかった。
言わなければならない、と。
これ以上紫にだけ重荷を載せられない、と…そう、霊夢は思っていたのに。

「…待って、言わないで…。
霊夢…一つ、聞かせて欲しいの」
「…紫…?」
「私は、霊夢と…少なくとも、その…そういう事は出来ないわ。
それでも良いなら…お願い…私と、付き合ってくれる、かしら…?」

…紫の、その言葉に。
霊夢の瞳から…雫が、零れ落ちた。
悲しいとか、苦しいとかではなく…喜びの、涙。

「…馬鹿ね、紫」
「…そう、よね…ごめんなさい、霊夢…」
「此方こそ、お願いするわ。
…そういう事ができなくても良い。
ただ、傍に居て…触れ合うだけで良いから…私と、付き合って…?」

霊夢の言葉に、今度は紫が目を見開く。
…そんな紫に、霊夢は優しく微笑むと…どちらからでもなく、口付けた。
ただ、唇同士を触れ合わせるだけの、優しいキス。
互いの体温を確かめるように、互いに抱きしめあい…唇を離すと、二人は可笑しそうに微笑んでいた。







博霊神社の境内に裂け目が入ると、霊夢と紫はゆっくりと舞い降りた。
二人の表情は何処か赤く…あの紫ですら、何処か初々しささえ感じさせる表情をしていて。

「…あら、随分遅かったわね?」
「全く…もう少しで寝るところだったぜ…」
「とか言っておきながら、凄い心配そうな顔してたけどね、魔理沙」

…そんな二人を出迎えたのは、縁側で並んで座っている見知った顔だった。
パチュリーとアリスに挟まれながら顔に絆創膏を張った魔理沙、気恥ずかしそうにレミリアに膝枕をされている咲夜。
それに、今まで知り合った妖怪、人間達。

「…っ、皆!?どうして…」
「どうしても何も、みんな霊夢を待ってたのよ?」
「そうそう、みんなお前に一言あるんだぜ。
今回の件で、どうしてもいわなきゃならない事が出来たしな」
「…言っておくけど、逃げたりしないでよ?」

魔理沙やレミリア達は口々にそう言って、じっと…霊夢の方を見つめていた。
紫が霊夢に心配そうな視線を向けるが…霊夢は、苦笑しながら大丈夫、と呟く。
これは自分が受けなければならない咎だ、と。
幻想郷全体を危険にさらした罰は受けなければならないだろう、と…霊夢は、思っていたから。

―――だが、皆が口にした言葉は、どれも。

「…ごめんなさい、霊夢」
「悪かった、霊夢」
「…申し訳ありませんでした、霊夢さん」

霊夢が予想していた言葉とは、かけ離れていて。

「…え…な、何で…?」

余りにも予想外な皆の言葉に、霊夢は思わず言葉を失った。

「…私達は、ずっと…貴女が巫女である事に甘えてきたから、その詫びよ。
コレで許して貰えるなんて思ってないけど…」

そう言いながらレミリアは、バツが悪そうに視線を下に向けた。

「異変を起こしても、何処かで霊夢が解決してくれるって…そんな甘えがあったしな。
…私はまあ、異変なんて起こした事ないんだけどさ」

魔理沙も、何処か申し訳無さそうに…しかし、しっかりと自分はそれとは関係ないと付け加えて。

「私達、霊夢さんが巫女でなくても…大丈夫なように、色々考えてみます。
だから…これまでの無礼、許して貰えませんか?」

妖夢は、そう言いながら…真摯に、霊夢を向き合って。
そして、霊夢の手を優しく包むように…握り締めた。

「…みん、な…」

皆の言葉に、霊夢は…思わず、その場で泣き崩れる。
自分はこんなにも、皆に思われていたのだと。
そして、ソレを自分が不幸にしようとしていたのだ、と。
嬉しさと悲しさと、申し訳なさが入り混じり…妖怪達は突然泣き始めた霊夢に動揺するが、傍に居た紫は…何処か、安心したように微笑んで。
そして、泣き崩れた霊夢を、優しく優しく…抱きしめた。

流石に妖怪達も空気を読む、という言葉は知っていたらしい。
そんな二人の様子を見ると、顔を赤らめたり…含みのある笑みを浮かべたりして、神社の境内から一人ずつ、ゆっくりと…邪魔をしないように、夜空へと帰っていった。



/廻る季節の境界線



「…まあ、話は判ったわ」

あの日から数週間後。
霊夢と紫は、紅魔館に居た。
二人の前に居るのは、レミリアと咲夜。
本当ならこの場にいるのはレミリアだけで大丈夫なのだが、レミリアは一時たりとも咲夜を離したくないらしい。

「全くもう…初めから私に相談してくれれば良かったのよ。
二人が一緒にする方法なんて、私なら幾らだって作れるのに」
「あはは…いや、だって…ねぇ?」
「…正直、貴女の能力を使ってる所なんて、見た事無いもの。
そんな事まで出来るなんて想像もしてなかったわよ」

少し呆れた様なレミリアの言葉に霊夢は苦笑し、紫も少し非難するように視線を逸らした。

あれから、霊夢と紫は立派な恋人同士となっていた。
無論、肉体的な干渉は未だにしていないのだが…それを見て不思議に思ったレミリアが二人に理由を尋ねた所。
『そんな事ならどうにでも出来るじゃない』と、呆れた表情で述べて。
霊夢と紫としては、その言葉を聞いた途端にレミリアに縋りつき、今に至る。

「…じゃあ行くわよ。
言っておくけど、ずっと変更しっぱなしは難しいから…半日で元に戻すからね?
昼から日を跨ぐまでが、制限時間だと思いなさいよ―――」

レミリアは二人にそう告げると、能力を発動させた。

『運命を操る能力』。
普段、レミリアはその能力を殆ど使う事は無い。
使ってしまえば結果が見えてしまう上に、それでは自分自身も楽しめないから。
それ故に、その能力は今まで殆ど誰にも見られる事は無く…精々、レミリアが咲夜を可愛がる時くらいしか使ってこなかった。

レミリアの身体が仄かに光り、そして…霊夢の身体を、淡い光が覆っていく。
それも直ぐに収まると、レミリアは小さく息を吐いて。

「―――ふう。
これで大丈夫、『博霊霊夢はたった今、巫女じゃなくなった』わ。
代理は前にも言ったとおり、あの子だから安心して良いわよ」

少し疲れたように、レミリアは二人にそう告げると、ヒラヒラと手を振りながら…咲夜と一緒に、部屋から出て行った。
霊夢の頭に代理の少女の顔が思い浮かぶ。
…少々気の毒な気がしたのか、霊夢は後で何かごちそうしよう、と心に決めた。

そうしてレミリアは部屋を出る寸前に、悪戯っぽい笑みを浮かべて『後はごゆっくり』と告げて。

そして、部屋には霊夢と紫だけが残された。

「…え、えっと…これで、その…」
「…そうね…これで、やっと…霊夢と、一緒になれるわね?」
「…っ、う、うん…紫…それじゃ、その…えっと…」

二人きりになった部屋で、霊夢は恥ずかしそうに顔を赤らめて…もじもじと、指を絡ませて。
そんな霊夢に紫は可笑しそうに、そして嬉しそうにクスっと微笑むと、ぽん、と…霊夢の頭に手を置いて。

「…私と一緒になってくれるかしら、霊夢?」
「ぁ…う、うん…///
…私と…一緒に、なって…愛して、ほしいの…紫…っ」

優しく、そう囁いた紫に…霊夢は、顔を赤らめながら頷いて。
そして、強く…強く。
これが現実か、確かめるように…紫を、抱きしめた。

「…ん…ちゅ…はむ…霊、夢…」
「ふぁ…ん…んゃ…ちゅ、む…ゆかりぃ…っ///」

そしてどちらからとも無く、二人はキスを交わし…そして、初めて。
生まれて初めて二人は、互いの身体に…愛しい者の身体に、手を伸ばした。
手に伝わる、柔らかく、そして暖かな感触に二人は感動すら覚え、そして愛しむように、労るように互いの身体を撫でていく。

「ふぁ…霊夢の、身体…綺麗で…あたた、かい…」
「紫の、身体も…ひゃ、ぅ…柔らかくて…きもち、よくて…っ、んひゃ、ぁ…っ///」
「私も…霊夢に、身体を触られてるだけで…溶けちゃいそう…」

紫はそう言うと…ゆっくりと、霊夢をベッドに押し倒した。
霊夢は紫を見上げ…そして、小さく、恥ずかしそうに頷く。
霊夢には、今紫が何をしたいのか…不思議と、理解する事が出来た。
服を肌蹴て、サラシを解き。
自分の素肌を紫の前に晒しながら、霊夢は薄く微笑んで。

「…紫…私の、初めて…貰って…?」
「霊夢…ええ…貴女の初めて…もらう、わね…///」

霊夢の笑みに、紫は気恥ずかしそうに笑みを浮かべて。
紫は、そっと自分の下腹部に手を当てると…紫にある筈の無いモノが、ニョキっと生えてきて。
優しく、紫は霊夢の袴を脱がせると…既に濡れている、無毛の秘所に指を這わせた。

「ひぁ…っ、ぅ…!」
「あ…大丈夫、霊夢?その…痛かった…?」
「ぁ…ううん、違うの…ただ、その…ちょっと、気持ちよすぎて…吃驚、して…///」

敏感に反応した霊夢を気遣う紫に、霊夢は恥ずかしそうにそう答えた。
その言葉に安心したように、紫は息をついて。
そして…指先から手の平まで、霊夢の愛液で濡れ始めた頃に…漸く、自分にはやしたソレを、霊夢の秘所に押し当てる。

「…それじゃあ、霊夢…」
「…うん、来て…紫…」

互いに見つめあい、そして手を伸ばして。
…プツ、という小さな音と共に、紫のソレは…霊夢の秘所へと、飲み込まれていった。

「ひぁ…っ、つ、ぁ…!!!」
「ん、ぅ…っ、れい、む…大丈夫…?」

処女膜を破られた痛みに、霊夢は思わず小さな悲鳴を漏らす。
目尻には、僅かに涙さえ浮かべて…紫は、それを心配そうに見つめていた。
しかしそんな紫に、霊夢は小さく首を振って。

「…凄く…うれ、しいの…///
紫、に…っ、大好きな、紫に…ちゃんと…初めて、あげられたから…っ///」
「ん、ぁ…霊夢…私も、嬉しいわ…霊夢の、初めて…貰える、なんて…っ!」

霊夢の言葉に、紫は幸せそうな笑みを浮かべ、強く抱きしめて、腰をゆるゆると動かし始めて。

そうして、二人は…甘い甘い、快楽の世界に耽っていった。
本来ならば適う事の無かった恋は、愛は…此処に、実ったのだ。
幻想郷を支える巫女と、そして妖怪。
二人の間に年月や種族の差はあれど、それは最早些細な問題に過ぎない。

今はただ。
二人に訪れた幸福に、祝福を―――









「…みょん。
意外に境内の掃除も大変ですね…」

そして、そんな幸せとは少し遠い場所に、少女は立っていた。
銀色の髪を靡かせて、普段とは全く違う、紅白の衣装に身を包んだ少女。
少女の傍らに常にある二対の刀は縁側に安置されており、今の彼女を見れば誰もが巫女と答えるだろう。
…まあ、半霊が見えているので純粋な人間ではないのだが。

「おー、頑張ってるじゃないか」
「あ、魔理沙さん。
こんにちわ、ひょっとして手伝いに来てくれたんですか?」
「まさか、ちょっと様子を見に来ただけなんだぜ。
…いや、しかし…」

境内の少女の前に降り立った魔理沙は、茶化すようにそう言って。
そして、少し感心したように少女を見つめた。

「…な、何です?
やっぱりこの格好、似合わないですか…?」
「ああ、いや…そうじゃなくて。
普通に違和感無くて驚いてただけだぜ」
「…それは喜んで良いんでしょうか…」

魔理沙の言葉に、半霊半人の少女は小さく溜息をつき、肩を落とす。
そんな少女の前に、不意に小さな花びらが舞い落ちた。

…桜の花びら。
今、幻想郷は春真っ盛りだった。
季節の面でも、内面的な意味でも。
剣一筋で生きてきた少女は、桜を見上げながらふと思う。

「こんな私にも、春は来るんですかね…」
「来るさ。
来ない春なんて、絶対にありえないんだからな」

少女の呟きに、魔理沙は…真剣に、笑みを浮かべながらそう答える。


そう、季節は巡る。
心が凍て付く冬の時期が来ようとも、何れは花咲き誇る春となるのだ。
人によって個人差こそあれど、それだけは変わらない。
幻想郷であろうと、外の世界であろうと。

少女は魔理沙の言葉に、微笑み。
そうして、半日間割り当てられた、巫女と言う役割を心行くまで楽しんだ。

何れ来るであろう、自分の春を夢想しながら。
…と言う訳で、ヤンデレアリスから続く3部作(のつもりのモノ)はこれで完結です(´・ω・`)
今回もまたネチョ分が非常に薄いですが、そこはご勘弁を…orz

このコメントを見てくださった方々に。
長々とした上に、少々自己設定の入った文を最後まで読んでいただき、本当に有難うございました。

※設定に一部ミスがあったので若干修正しましたorz

追記:3/31
・指摘があった誤字と、文法がみょんだった部分を修正しました。
…飽くまで自分なりに、なので出来てない可能性がありますorz
・レミリアの能力ってそんな事できるん?という感想があったのですが、レミリアの能力は『運命を操る能力』です。
1.霊夢から『博霊の巫女である』という運命を削除する
2.可哀相なみょんに『博霊の巫女である』という運命を追加する
という自分なりの、超自己満足な使い方をさせていただきましたorz
突っ込み所は満載かと思いますが、此処は許容してくれると有難いです(´・ω・`)
(´・ω・`)
コメント




1.774-sun削除
これは長編の締めにお誂え向きな良い話。
でも代理の人が意外過ぎで吹いたw
2.なな子削除
3部作完結オメ!
ヤンデレイムはいいものですね、わかります。
3.千変万化削除
これはよいゆかれい
しかし代理で吹いたwww
4.オワタ削除
代理お前かwwww!
これはいい話でした
5.鍋チルノ削除
砂糖・・・いや、グラニュー糖吐かせて頂きました。次は妖夢と予想
6.ざぜんだ削除
×幻想卿
○幻想郷

文法的におかしい点が幾つか見られました。が、こっ、ここ、これは素晴らしいゆかれいむです!ご馳走様でしたw寧ろネチョいらな(ry
ところでレミリアの運命を操る程度の能力ってそこまでできたっけ?
7.名無し削除
完結だと・・・!
さあ早くみょんの外伝を書く作業に戻るんだ
いや書いてください

覗く→除くでは?
8.74削除
BAD→GOOD変換は難しいですね、、、
今度小説の参考にさせてもらいますよ。。。GJ
まあ書くかどうかはry
9.だれかさんのおもいで削除
まさか、魔理沙あたりかと思ったらみょんが代理とはwww
それにしても、いいやんでれいむでした。
強いて欲を言うなら、早苗あたりを出して、帰ってきた後に、外の世界の人から見た外の世界と幻想郷のことについての話とかを入れて欲しかったと思いました。

なんだか本編よりも代理のコメが多くない?
10.だれかさんのおもいで削除
あ、代理って、巫女代理のほうね。
書き込む人の代理ではないので。
紛らわしい文章、申し訳ありませんでした。
11.削除
良い話なのに誤字や文法がおかしい所があって惜しい
あと、みょんwwwwwwww
12.その辺の妖怪削除
完結されましたか。
最後のゆかれいむは良い物でした。( ^ω^)
13.ななし削除
さぁ早くゆゆみょん外伝を書くんだ。
いえ書いて下さいorz
14.774@通りすがり削除
狂気の愛3部作お疲れ様でした。良い作品でした。
しかし、みょんが代理とは。
あと、気になった誤字が1つ。
(誤)博霊→(正)博麗 です。
15.ISOLA削除
ども、お初です~w
これは良い作品w
ネチョが少ない作品も大好きな私w
16.ななし削除
「魔法騎士レイアース」の「柱」システムとエメロードを思い出した。
ネチョ抜きでもいい話でした。
冥界組編にも期待がかかります。
17.名前が無い程度の能力削除
愛ゆえに人は狂うのか…
ヤンどろうが、ツンだろうが、やはり

 ゆ か れ い む は 最 高 だ

イィィィィィィヤッフォウゥゥゥゥゥゥ!!!
18.七品のサー削除
ううう…
泣けるのぉ…泣ける!!

ありがとうございます!!