真・東方夜伽話

さとり獣姦

2013/02/21 17:06:20
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さとり獣姦

菜っ葉63
   1


 ――交尾がしたい――発せられた思いに、私は驚いてしまった。スカートの中に鼻を突っ込んでいるペットは、下着越しに私の恥部を舐め、執拗に鼻でつついた。
 スカートを盛り上がらせている膨らみへ、私は平手をお見舞いした。鼻の頭に命中したらしく、バカな発情犬と化していた犬は小さく呻いた。
 まったくなにを考えているのだろうと呆れて見下ろすが、本人は気にも留めていない様子で尚もこちらを見上げ尻尾を振っていた。
 はて、この子はなんと言ったか。最近になってペット達は拾うというより、勝手に寄りついてくるものだから名前なんて与えてはいなかった。
 盛っていることを考えればまだ若い、三歳くらいだろうか? 犬種は見るからに赤犬の雑種、鼻周りが黒くてぴんと立った耳が可愛らしいけど、体躯はまるで狼だった。
 ――さとり様、イイ匂い。ウル、さとり様と交尾したい――お座りをしてお行儀の良い子、とでも褒められたいのだろうか? 残念ながら股間の先から露出している赤みが情けなくて目も当てられない。
 構わずと本棚を漁るとまた鼻先を突っ込んできた。今度はお尻の方から。リズムを刻むように小刻みと嗅いで、大きく鼻息を鳴らす。生温かさが布地越しに広がった。
 張りついてくるウルを足で押し退けるが、それでも諦めないと繰り返し鼻を突っ込んでくる。ついには立ち上がり私の腰元を掴んでくる始末だ。
 ええいもう、鬱陶しい。私は本を立ててウルの脳天へと天罰を落とした。ウルは悲鳴を上げて離れたが、痛みなんて一瞬で消え去り、もう頭の中は交尾で一杯だった。私はため息をついた。
 興奮状態のウルはくるくると回って、汚いモノを露出させたまま近づいてくる。足早と離れる私を追いかけて、ウルがまた飛びかかってきた。
 ひょいと躱して扉を開け、私はウルを書斎に閉じ込めてやった。
 把手は回さなければいけないものだから、自力じゃ出れない。あとで人型へと化けれる子達に出してもらうよう言っておこう。
 悠々と廊下を歩いていると袖を掴まれて、私は足を止めた。愛しの我が妹こいしが、むっとした顔で私に視線を向けていた。
「お姉ちゃん、ウル見なかった?」
 実の姉になんて顔を向けるのだろう。唇を尖らせて睨むこいしの瞳は、あきらかな怒りを孕んでいた。なにか確証でもあるのだろうか。
「そんな顔して聞くことじゃないでしょう」
 こいしは八の字を寄せた。
「だってお姉ちゃん、ウルのにおいがするんだもん」
 あら驚いた、鼻が利くのね。「あの子を連れてきたのはあなた?」
「そうだよ。ねえ、ウルを返して」
 そんなに袖を引っ張らなくてもいいじゃない、もう。私だって意地悪がしたいわけじゃないのだから。
「書斎よ。あとね、こいし。拾ってきたのなら、ちゃんと責任を持って躾なきゃだめよ。いいわね」
 私を解放したこいしはくるりと背を向けて書斎へと走り、一度足を止めて「お姉ちゃんだって躾なんてできてないじゃない」と吐いてから、また廊下を駆けていった。
 一言余計だわ。あの子も、ウルが力をつけ妖怪になればきっと理解するはずだ。おつむの弱い子が変に力を持つことで、どれだけの面倒が生まれることか。
 足を動かそうとして思い出す。そうだあのウルって子、変なモノ出したままなんじゃないのだろうか。あの興奮状態だと、こいしのことも襲いかねない。どうしよう。
 こいしは私と違って心は読めないから、ウルの考えていることはわからない。丸出しになった性器を見てどう思うのだろう。「常識はある子なんだし、まさか興味本位で獣姦なんてしないわよね」
 自分で呟いた言葉なのに恥ずかしい気持ちになってしまった。ウルの体躯に押し倒されてなければいいけれど。可愛がっているつもりでいるのなら、されるがままに、させたいことをさせてしまいそうな怖さが、あると感じる。あの子には。
 過保護かしらとため息が出てしまう。まあ、こいしを信じましょう。言って息を漏らす。可愛いペットが自分に欲情する姿を目の当たりにすれば、先ほど告げた言葉の意味もわかってくれるはずだ。
「さて」さっきみたいな邪魔が入らないところで本を読みたいのだけど、どこがいいだろうか。歩いているとペット達がすり寄ってきて語りかけてくる。静かにしててくれるならいいけれど、数が多いと要望も絶えないから困りものだ。
 犬、猫、鳥、鼠だったりトカゲだったり、まあ多いこと。寄ってくる子達を適当にあしらって、結局自室へと逃げ込んだ。
 私はゆっくりと椅子へ腰かける。鼓膜を震わすことも、頭に声がよぎることもない、私だけの時間だ。
 持ってきた本は一見、面白くもなんともない地上の人間が書いた妖怪図鑑や、人の書き物を真似た妖怪の書物。詩ばかり書かれている本もあった。
 開いて一行一行をなんども読み直す。本はいい。書いた者の心が直に伝わってくるようで、読むたびにその顔色を変えてくれるから。なにより、覚りの私が読んでいても嫌悪なんて感情は流れてこないもの。当然だけど。
 地底に来る以前、地上で暮らしていた時のことを思い出した。物書きをやっている人間が居て、自分の書いた物語を自信満々と露店に出していた。書いている時の心も覗いたけれど、世の不満や人への憤りなどを込めて書いていたわね。
 これが俺だ、馬鹿にした奴らを見返してやる、俺を見ろ。好意を寄せている女が書き物を手に取った時なんて、恥ずかしがりながら歓喜して、出来の感想を知りたくて聞きたくて仕様がないと、見ててまあ面白かった。
 実際はつまらなかったのにお世辞の一言を貰って満足していたから、私が嘘よと教えてあげたのだ。
 怒り狂って発狂する姿が最高に傑作だったのを覚えているわ。うるさい、人の心を見るなって。
 不思議よねぇ、こうやって本を作っては自身の思いを文字へ乗せて見せたいと思っている癖に。
 頁をめくると埃が目に舞ってきた。読んでない本もあるし、今度ペット達に掃除でもさせておこう。そう考えて、本当に動物達は素直でいいなと思った。
 まあ、本能のままに欲情されて腰を振られるのは嫌だけど。
 雄の犬はウルだけなのだろうか。どちらかというとウチの子達は全体的に雌が多い気がする。
 私達、覚りのペットはなぜか妖力を得て妖怪に近づく。今は動物だからいいけれど、お空みたいにしょっちゅう問題を起こされるのは正直面倒だ。
 妖怪になってまで発情されたら困るじゃ済まない。私やこいしだけじゃなく、お燐やお空にまで牙を剥くのではなかろうか。実際、雄のペットはまだ妖怪へとなってないからどうなるかはわからないけど、起こってからでは遅いのだ。
 読み終えた本を机に放り投げる。「これは早々に解決した方が良さそうね」こいしのところへ行って、ちゃんと躾るように言わなくては。
 こいしはどこに居るのだろう。無意識を操るあの子に避けられたら探しようがない。さっきの様子じゃご機嫌は斜めに違いない。
「こいしを見かけなかったかしら」とすれ違うペット達に聞き回る。あっちで見たよ、こっちで見たよ。こんな時ほど便利な能力はないなと実感できる。
 導かれるままに来たのはこいしの部屋だった。――ウルと一緒にはしゃいでたよ――ペットの一匹から聞いた言葉。さすがに、「興奮してナニ丸出しじゃなかった?」なんてことは聞けなかった。
 バカっぽかったから、歩きながら交尾交尾と言ってそうなのだけど、ペット達もそれらしいことを見ていなさそうだった。
 動物同士でも会話はするし、陰口なんかもあったりする。あいつは間抜けだとか、怒られてたザマミロだとか。
 とにかく書斎へ向かったあと、こいしが襲われていないとわかればそれで十分だ。私は扉を叩いて呼びかける。
 しかし返事はなかった。怒っているのだろうか。もう一度、扉を叩いて呼びかけてみるも、やはり返事は返ってこなかった。把手を持つと扉がすっと開いた。
 鍵をかけていないなんて珍しい。いつもの調子なら機嫌が悪い日は、鍵をかけて閉じ籠っているのに。もしかして、行き違ったのだろうか。
 思案していると、部屋の奥から物音が聞こえた。なにかが擦れるような音だ。私はそっと足を踏み入れる。
 ウルと遊んでいる? それにしたら声が聞こえないのも変だった。普通なら楽しげな声くらい発するものだもの。
 歩を進める内に音が聞き取れてきて、犬の息遣いが耳に届いた。ああ、やっぱりウルと遊んでいた。丁度いい、ちゃんと躾るように話してみよう。
 音がする方へと足を運び、ひょいと角から顔を覗かせた私は我が目を疑った。
 四つん這いとなったこいしに、ウルが後ろから腰を突き打っていたのだ。こちらに背を向けているから私には気づいていない。どうすればいい、頭がぐちゃぐちゃだ。
 妹の腰元を掴み、欲情の赴くまま腰を振るケダモノに、私は殺意を覚えた。
 抑えられないであふれ出た殺気に気づいたのか、こいしの首がくるりとこちらへ向いた。
「あ、お姉ちゃんだ。なに?」と気の抜けた言葉をかける妹に、私は呆気にとられてしまった。なに? じゃないでしょう。あなたこそなにをしてるのよ、どうしてそうなったのよ、あなたがさせているの? それともされた?
 思っていることが直に伝わらないのがもどかしい。言葉にしたくても整理しなくては話せないほど狼狽していた。
 深呼吸をして落ち着いた私はこいしを睨んだ。
「こいし、自分がなにをしているのか、わかっているのよね」
 こいしは首を傾げてみせた。構わずと腰を振っているウルに目を遣ると、こいしはくすりと口角を上げた。
「うん、わかってるよ」
 返された言葉に、私は怒りが込み上げてきた。「わかってるじゃないでしょう、あなたのやっていることは獣姦なのよ? 恥ずかしいと思わないの?」
 目をぱちくりとさせるこいしは、話していることの意味がわかっていないように見えた。苛立ちを覚えた私に、こいしは四つん這いのまま、こちらに向き直った。
 ウルはこいしを離すまいと呻きながら腰元にしがみついた。こいしの臀部はめくり上げられてはいたものの、完全に露出していた亀頭部分は挿入されていなかった。
「勘違いしてるみたいだけど、これ、獣姦なんかじゃないよ。お姉ちゃんが昔教えてくれたことだよ、動物が自分の優位を示す行為だって」
 確かに教えたけれど、発情している事実があったから私は勘違いしたのだ。こいしは心が読めないから、ウルのアホな言動を知らないだけなのよ。
「優位を示す行為ということは、こいしあなた、舐められてるってことなのよ?」
 それだけじゃない、実際ウルは発情してる。めくり上がっているスカートから背中部分にかけて、白濁の液体が飛び散っていた。それに気づかないはずもない。どういうつもりでその行為を許しているの。
「別にいいよ。ウルと私は友達だもん。ウルがしたい遊びならなんだって付き合うわ。でもね、お姉ちゃん」
 亀頭の先端から精液があふれてきた。何度目の射精だろうか。ウルの精液が妹の身体を汚していく。
「獣姦はさすがにないよ」
 その言葉に私はほっとした。妹の常識を疑わずに済んだと。ウルは満足したのか、こいしの腰から離れて妹の顔を舐める。
「でもさぁ」と膝立ちで起き上がったこいしは、背中の汚れを袖で拭き取りながら続けた。――やめて、ちゃんとしたもので拭いてくれないと見てて嫌よ、お姉ちゃん――こいしはにやりと笑みを向けた。
「優位を示す行為って言ってたお姉ちゃんなのに、獣姦なんて恥ずかしい考えが真っ先に浮かぶなんて、そっちの方が恥ずかしいんじゃない?」
 なぜか胸に刺さった。「実はお姉ちゃんの方が、獣姦に興味があったりして」
 それはない。ないのに、恥ずかしさで顔を真っ赤にさせた状態で、言葉がすぐに出てこなかった。
 自分でもわかるほどに紅潮している、絶対。薄笑うこいしの表情からそれが見てとれた。「そんなわけないでしょうバカ」
 私はこいしの部屋から離れた。情けない、まるで捨て台詞じゃないの。ああ、今日はもう最悪だ。――さとり様怖い、怒ってる――私の足取りを見たペット達はみな、すれ違い様に口を揃えて漏らした。
 自室へ逃げ込んでみても恥ずかしさは増すばかりで、顔の火照りも一向に治まらなかった。こいしのバカ、お姉ちゃんの気持ちも知らないで、あんなこと言わなくたっていいじゃない。
 獣姦に興味があるんじゃないのかですって? あるわけないじゃないのまったく! 私はこの気持ちをあなたと共有したくて仕様がない、ただそれだけなのに。
 どうせこいしは私のことなんてちっとも考えてくれてなんかいないんだ。酷い、酷い妹。
 他人との交流は確かに諦めた、だって向こうが読まれることを良しとしないんだもの、当然よ。覚りだもの、妖怪だもの、心を読むことが私の存在意義なのだから。
 それで私達を嫌い離れてく者達なんだから、わかり合うことなんて不可能だ。でもこいしだけは別。唯一、覚りとしての痛みも喜びも共有できる大切な妹。
 心を閉ざしてからそれらをわけ合うことができなくなったけど、諦めてなんかいない。だからなんだっていい、あの子と話せる理由があるのなら。
 例え閉じた心がもう開かないとしても、私はこいしともっと接したい。同じ覚りとして共感できなくなったのなら、姉として、一人の妖怪として接したい。時間はあるのだからいつかきっと。
「そう、考えていたのですけどね」
 息をついてベットに倒れ込んだ。敷布の柔らかさに、身体だけでなく意識まで沈んでいきそうな気持ちだった。
 昔に戻りたい。無理だとわかっていても、思わずにはいられなかった。私はどうすればいいのだろう。答えてくれる人なんていないし、自問自答ももう飽きた。どうせ答えなんて出ないのだ。
 微睡んでいく意識に、今日あったことすべてが、夢であればと願った。


   2


 放り投げた縫いぐるみが壁に跳ね返り、それをくわえたウルはぶんぶんと首を振り回した。ボロボロだった縫いぐるみはウルに噛まれて中の綿が飛び出している。
 ――さとり様遊んで、遊んで――つい先ほどのことだ。くわえていた縫いぐるみを床に落として、ウルが尻尾を振って見つめてきたのだ。こいしと遊べばいいじゃない。放った言葉にウルは「こいし様、どこか行っちゃった」と寂しげな顔をした。
 先日のこともあるから、ウルの相手をしてやるべきかと迷った。正直いって気は進まなかったのだけど、このまま放っておくのも可哀想だと感じたので、仕方なしと付き合っている。
 もっと投げてと催促されて手にした縫いぐるみは、ウルのよだれでベトベトに汚れていた。今度は少し遠めに投げてやる。
 ウルは嬉しそうに追いかけた。よだれが手について気持ち悪い。こいしったら、ウルは友達だなんて言っておきながらすぐこれだ。相変わらずなにを考えているのかさっぱりな妹だ。
 手のベトつきを布で拭いていると、もうウルが帰ってきた。「ねえウル。ほかの子達とは遊ばないの?」――ウル仲間と遊ぶより、さとり様と遊びたい。さとり様好き――
 息を吐き、竦めさせた肩を落とした。ウルと同じくらい大きい動物がいないから、こんなことを言うのだろうか。
 先日に発情した件もあることだし、雌の、それも大きめな犬を探した方がいいかもしれない。縫いぐるみを振ってみせて、また遠目に放り投げた。
 扉の軋む音がして目をそちらへと向けると、隙間からこいしが顔を覗かせていた。
 また、そんなむくれた顔をして。ウルを横取りしたとでも言いたげな目。別に、私から進んで構ってあげたわけじゃないんだから。
 ほったらかしにされているのを見かねて、付き合ってあげているだけなのだから。
「また私のペット」
 取ってない。あなたがほったらかしにするからでしょう。言葉の途中で噤んだのはそれを自覚しているから。心の不満を伝えきれないのはお互い様なのに。
「どうせお姉ちゃんの方が動物には好かれるもんね」
 どうしてそうふて腐れた言葉しか吐けないの。ペット達は心が見える理由だけで私の方に来てるわけじゃない、あなたが察してあげなさすぎだから、結局私に甘えてくるのだ。
 それがわからない子じゃないでしょうに、嫉妬心なんて向けても意味がないことも。
 気づいたウルが駆け寄ってきたというのに、見下ろすこいしの視線は冷たいものだ。くわえている縫いぐるみを手に取って、私の足下へと放り投げてきた。
 遊んでもらえたと思っているウルは喜びを露わにして、縫いぐるみを振り回している。ウルの様子を不満そうに見つめるこいしは、その突き刺さるような視線を私に移した。
「ウルが気に入ったのならあげる。身体も大きいからアレも大きいもんね。獣姦大好きなお姉ちゃんにぴったりじゃない」
「こいし!」なんてことを言うの。言って良いことと悪いことの分別くらい、わかるでしょうに。怒声に驚いたウルは不安そうにしている。
 自分の不満をぶつけるだけぶつけて、こいしは部屋から出ていってしまった。
 なぜわかり合おうとしてくれないの。本来ならそれができる、同じ覚りだったのに。
 ウルが案じて手を舐めてくれるけど、癇に障る行為でしかなかった。軋轢の原因が自分だとわかってもいないで、このバカ犬が。向こうに行って頂戴よ、もう。
 私はウルに「こいしのところへ行きなさい」と命令した。望まない気持ちが伝わったけど、ウルは言う通りに妹のあとを追っていった。
 寂しそうな後ろ姿を見届けてから、自身がとった振る舞いが恥ずかしくて、ため息を吐き、肘かけ椅子へ身体を落とした。私はどうしてしまったのだろうか。動物に当たったって意味がないことくらい、理解しているはずなのに。
 こいしの世話をペット達にさせてから、あの子は以前ほど放浪しなくなったけど、それでも奔放さはあまり変わらず。変化を上げるなら、ペット達に愛着を持ってくれたということだ。
 その証拠に、自分で拾ってきたと話したウルが私に懐くことを、不満と感じている様子だ。
 世話をやらせているペット達が私のところへ逃げてくることも、不満はあるようだけどウルの時みたいにあからさまな態度は取られたことがない。
 私の知らないところで、きっと子犬の時から育ててきたのだ。愛着のある分、不満や嫉妬も激しいのとなってしまうから。
「どうしたものかしらね」
 良好とは呼べない姉妹関係にしても、今になって頭がもたげてくることばかりだ。仕方ないと言い聞かせ交流を放棄した癖に、唯一の肉親とだけは親しみを忘れたくないだなんて、やっぱり身勝手なのだろうか。
「私、こいしになんて思われているのだろう」甘えてくるような時もあるけれど、それは本心なのだろうかと胸中に疑心が募るばかり。
 この気持ちを吐き出せる拠り所が私にはない。だから、こいしの心を求めているのだろうか、自分は。
 こいしの本心が知りたい。心にしこりができたみたいで胸が苦しかった。
 重苦しい気持ちの晴らし方がわからず、またため息をついた。背中を凭れかからせた時、椅子が軋む音に混じって、入り口の方から音がした。
 開けっ放しにされていた扉が揺れ、その陰から顔だけをひょこっと覗かせたウルが、私を見ていた。
 目が合うと、ウルは遠慮勝ちに尻尾を振りながら近づいてきた。寂しげな感情が流れてきて、沈めていた上体を起こしウルの頭を撫でてやる。ウルはその手を愛おしく舐めてくれた。
 こいしはどうしたのと聞くと、またどこかへ行ってしまったらしい。先ほどまで抱いていたウルへの気持ちはもうなくなっていた。
 望んでなったわけではなかったが、この子達にとって私は拠り所なのだ。そして私にとっても。
 沈んでいた気も、今は落ち着いている。心でとはいえ酷い言葉を吐いてしまった。それなのに、まだ私のことを慕ってくれているこの子に、なにができるだろう。
 ウルは、私のことを窺っている。「ふふ、犬の癖に生意気な子ですね」必要以上に、人のことばかり心配して。いや、犬とはそういう性格なのだ。
 こんな風に、純粋に生きられれば、なにも苦悩しなくて済むのだけど。
 笑みを向けてやると、ウルは尻尾を元気いっぱいに振ってみせた。可愛い子。毛並みのいい頭は撫でていて実に気持ちがいい。
 しばらくそうして頭を撫で続けていると、ウルがスカートの中に鼻を突っ込んできた。またかと思ったが、これはひょっとして癖かなにかじゃないかと考えた。
 お座りをしている姿はなかなか様になるのだが、どうにもほかの躾がなっていないような気がする。こいしが育てたのだとしたら、なんとなく納得はいった。
 獣姦はないと言っていたが、今になって疑わしくなってきた。以前に官能小説なるものを読んだことがある。犬に自分の股座を舐めさせている描写などがあったが、初めて見た時は吐き気を感じた。
 でも実際にそんな性癖を持った者はいるのだ。私には理解できないが。
 まさかと思うけど、挿入させなければ獣姦にはならないと考えているのではなかろうか。それはそれで貞操観念がなさすぎて、姉として受け止められないものだ。
 まあ、鼻を突っ込んで匂いを嗅いでいるだけなので問題なかった。「でも、やっぱり嫌」スカートを膨らませている部分を軽く小突いてやる。
 やっと顔を出したウルに、どうしたものかと息を漏らした。癖なのか、仕込まれたのか。
「ウル、あなたのそれは癖なのかしら?」
 短い息を吐きながら舌を出すウルは、私の言うことを理解していないようだった。やっぱりバカ犬という評価は抜け出せそうにない。
 舐めてみなさいと言えば多分ウルは舐める。でもそれは私が命令したからだ。こいしに仕込まれているのなら、ちゃんと指示を出してから動くと考えられる。
 じゃあ興奮した時に出る癖なのか。それとも、悦ばれることだと認識しているから、積極的に鼻を突っ込んでみせるのか。そういえば、犬のペットに芸を教えたことがあったけど、褒めると異常なくらいに喜んでいた。
 これも心が読めるからわかることだが、飼い主が喜ぶことを犬はとても嬉しく思い、指示もなしに芸を披露してくれたりする。
 そんな犬の心理を利用した、大道芸なるものを地上で一度見かけたことがあった。あれは妖怪ながらに感心したので覚えている。
 私の場合は地霊殿の管理が忙しい理由で、そちらの方を仕込む暇も興味もなかったのだけれど。
 こいしがもし、恥部を舐めさせる行為を教えているのならば、ウルはそれを褒められるまたは喜ばれる行為と認識して、それを私にもアピールしていることになる。そう考えてみると一応の合点はいく。
 私は訝しい気持ちでウルを見つめた。ここで下着を脱いで見せたら、ウルはどうするのだろうか。
 いつもしている行為だと思い、わあいと喜び飛びついてくるのではなかろうか。確認したいがもう少し、思考を巡らせる。
 そう、鼻を突っ込んできた時に〝よし〟と言えば舐めてくる可能性はないだろうか。仕込まれているのならそうなるはずだし、もし違っていたのなら、なにに対しての〝よし〟か理解できずに、ウルは首を傾げさせるのではないだろうか。
 獣姦はないと言った真偽を確かめるためにも、試す必要があると感じた。今のところウルは大人しく私を見つめているだけなので、こちらから動いた方が早そうだと思った。
 まずは、下着だけを脱いでみて反応を見てみよう。考え過ぎな気もしたが、妹のことを疑ったままなのはどうにもすっきりしない。
 考えを固めて腰を浮かせた時、ウルがまた鼻を突っ込んできて、私は驚き尻を落とした。一体なにを考えているんだと心を覗いてみた。――さとり様、いい匂い。交尾したい――
 前言撤回、確かめる必要もない。ただの発情犬だ。可愛くもなんともないし呆れて物も言えない。
 スカートに突っ込んでいる顔を出したウルが、ついに飛びかかってきた。真っ赤な性器を見事に露出させるウルの興奮は、最高潮と高まっている様子だった。
 腰元を掴もうと必死なのか、両の太股を前足で挟み、引きずろうとしているように思えた。こんな状態じゃ心も読めない。
 やめなさいと言ってもこの興奮状態では聞くとは思えず、ため息をついて、腕だけの力で椅子から立ち上がった。
 諦めるかと思っていたのだが、一緒に立ち上がったウルは前足で足を挟んだままだった。
 挟む位置を太股から腰元へ移し、勃起した性器は股からお尻の方へ突き出て、ウルがその状態で腰を振りはじめる。肉の生温かさが布地を通して伝わってきた。
 直立したウルは私より、頭一つ分くらい大きかった。私の左肩に顎を乗せて、立っているというよりは凭れかかられている感じだ。
 ウルの息遣いが広く裂けた口元から漏れ、うなじに妙なくすぐったさを覚えた。
 押し退けようとしたり逃げようとすると、ウルは低く唸り声を鳴らし、逃すまいと離さない。いい加減この体勢に疲れた私は、なんとかしてウルを振り払いたかった。
 勿論そんなことは造作もないのだけれど、暴力と成りかねないやり方を私は望まない。バカ犬なので少しくらいなら叩いても大丈夫なのでしょうけどね。
 足を上手く使えないのですり足で動く。私は若干焦っていた。理由は、ウルが興奮した原因。
 私の恥部は知らぬ間に濡れていたのだ。おそらくはその匂いに反応したと考える。
 ウルが鼻を突っ込んできた理由について考えている時から、じんわりとだけど妙な感覚が私を襲っていた。
 敏感な箇所ではあったが、まさか犬の鼻息で濡れるだとは思ってもみなかった。でもそれは間接的なこと。本当の原因は私にある。
 半信半疑というか、認めたくなかったが、私は無意識に獣姦を意識していた。官能小説で読んだことを思い出し、仕込まれたのか癖なのかと悩んでいる時に私は、小説の主人公と同じ気持ちになっていた。
 確かめようと決めた時、舐められたらどうしようかと鼓動が早くなった。なまじ心が読める分、余計に。
 わあい、こいし様といつもしている遊びだ、なんてことが表層に浮かんできたらどうしようと。それをウルが性行為だと認識している、という可能性も考えた。
 もしも犬畜生なんかに淫乱な雌扱いと思われていたら、考えるだけで恥入り、心の中は撹拌されたが如くメチャクチャになった。
 妹が獣姦をしている事実に加え、姉妹そろって淫らな視線を受けるのだから。ペット達の間でも囁かれるのだ。動物から妖怪へと変化したペット達からはなんと思われることか。
 お燐やお空からも軽蔑されてしまい、そこから地霊殿の外へ外へと噂が広まって、地底中に覚りの姉妹は変態なのだと指を差されるに違いない。
 こんな妄想ばかりが浮かんでしまうのは本の影響かと不安になってくる。
 ありもしないことばかりを考えて、バカみたいだ。現にウルはなにも考えていなくて、ただ興奮のままに腰を振っているだけなのだから。
 変に意識し過ぎたと息を漏らした。そろそろウルを振り払う算段を考えよう。思考しながら目線を動かしていると、入り口のすぐ横に飾ってある、花の刺さった花瓶が目に入った。
 片手で持つには少々大き目な花瓶だが、結構な量の水も入っているはずだ。あれを使おう。
 花を抜いて、中の水を頭から被せてやるのだ。そうすればこの子の興奮も落ち着きをみせるはずだ。足をすり動かして花瓶へと近づいていく。
 もう少し、というところで、私の足はなにかに引っかかった。ウルの体重を受け止めていた身体はあっさりと重心を崩してしまい、私は倒れまいと踏ん張ろうとしたが、すでに崩れた状態から復帰させることは不可能だった。
 辛うじて受け身は取れたが、私は着衣の乱れに焦った。倒れるまでの流れで、下半身を包み込んでいるはずの下着が、あろうことか膝元にまで落ちていたのだ。
 私はウルにお尻を突き出している状態で、立ち上がる暇も、下着を直す暇もすでになかった。
 受け入れの姿勢になった背に、ウルが飛び込んでくる。
「やめなさい、やめてウル!」
 身体を身じくることも、立てている膝を崩すこともできずに、露出した亀頭の侵入を許してしまった。すでに充分と潤っていた私の膣は、気持ちとは裏腹にウルの分身を受け入れる。
 膣内を前後している肉棒から、熱が放出されたのに気づく。射精したのだ。
 膣の中が熱かった。嫌だ、感じたくない。
 床を這い逃れようとしたけど叶わなかった。子宮を内側から叩かれた感覚に、根本まで差し込まれたのだと感じた。
 それでもまだ前進を続けるウルの肉棒に、私は恐れを感じざるを得なかった。根本の部分なのか、ひと際太いと感じる物が膣の浅い部分にはまった。
 若干の痛みがあったが、これからなんども子宮を突かれる恐怖に比べればなんとも思わなかった。
 すると、膣口に入った瘤のような根本は、みるみると膨らんできたのだ。膣が裂けてしまうのではと思えるような痛みに、私は悲鳴を上げた。
 初めて覚える痛みに、のたうち回りたい気持ちだった。媾合なんて数えるほどしか経験がなかったが、それでも気晴らしとなるくらいには気持ちよかった。
 獣姦といえど本ではもっと感悦に書かれていたが、まったくの快感はなく、膣口からくる激痛だけが身体中を駆け巡っていた。
 ウルは動く気配がなく、荒く長い息を吐くだけだった。逃げようとして身体を前に動かすと、また痛みが走った。
 なんてことだろう、膣口を膨らませている球体がすっぽりとはまっていて、私は身動きすらできなかったのだ。
 胸の奥が寒々と震えた。こんな状態を見られたらどうしよう。扉は開いているし大声も上げてしまった。
 扉を閉めたくても動けない。早くウルが射精を終えてくれないかと、ただ願うことしかできなかった。
 どれくらいこの状態でいたのだろう、とても長い時間が過ぎていたと思う。子宮の中に生温いものが吐き出されるのを感じて、ウルがまた射精したのだと理解し、私は安堵した。
 雄々しい肉棒が異常なくらい熱かったからか、子宮に注がれる精液が余計と生温く思えた。熱の違いがわかることに気持ち悪さを覚えたが、それももう終わりだ。
 打ち止めになったことを確認した私は、ゆっくりとウルから離れようとした。
「抜け、ない」
 なぜ? 射精は終わったはずなのに……根本の膨らみもそのままだった。動けば相変わらずと痛みが走った。
 まさかと考えて、こいしに腰を振っていた時にウルは、大量の精を吐き出していたと思い出した。脳裏に思い起こされたあの量は、一度の射精で成るものではない。
 まだ地獄のような時間が二度三度と続くのだ。確信して絶望する。一体、いつになれば私は解放されるの?
 もうやめて、お願い。小さく呟いてみても、ウルに言葉は届かなかった。
 せめて、せめてこの場に誰も来ないでと、私は祈る気持ちで三度目の射精を受け止めた。子宮にウルの精液が満たされてゆくのを、黙って受け入れる。
 ウルの肉棒はまだ硬度を保ち続け、膣口に引っかかる瘤も膨らんだままだ。私はもう限界だった。飼い主である自分が、なぜ犬畜生に蹂躙されねばならないのか。
 寛容に振る舞う余地など最早ないに等しい。増えすぎたくらいのペットだ、ここらで一匹くらい処分しても問題はなかった。
 沸き上がる怒りにこぶしを握るも、こいしの顔が脳裏によぎった。
 ウルが居なくなれば、あの子はなんと思うのだろう。殺した事実を隠しても、私が追い出したと考えて、糾弾するのだろうか。
 きっと恨まれる。もしかしたら、殺そうと考えるのかもしれない。私の背中にのしかかる、温かい命を奪った報復として。説明しても多分無駄に終わる。
 私とこいしの間に、埋めることのできない溝ができてしまうことは確実だ。それでも、私はこれ以上耐えたくなかった。
 振り上げようと決めたこぶしなのに、結局暴力を振るうことができない。こいしとの繋がりを失いたく、なかった。
 悔しくて、情けなくて、声を殺して涙を流した。
 ウルの興奮はまだ治まらない。瘤を膣内に引っかけてからというものの動く素振りはなく、腰を挟んでいた前足も床に着けている。
 自分よりも大きな体躯に覆い被さられて、頭上から荒い息遣いが聞こえる。
 動きがあるとすれば、たまに顔を近づけては頬を舐め上げてくるくらいだ。進んで行為に及んでいたのならば、素直に喜べたのかもしれない。望んで関係を結んだわけではない私に、ウルの行動を喜べる余裕などなかった。
 腹の内側に熱が広がって、なんの感慨もなく射精を受け止める。もう嫌悪感を感じるほどの自我がなかった。
 他人との交流を放り投げたのと同じ感覚で、打ち出される脈動が終わるのを静かに待つ。
 子宮の中はウルで一杯だ。ふと、妊娠してしまうのだろうかと思考した。妖怪同士ならば、種族は違えど子供はできる。
 ここにきて、獣姦をしてしまった事実に恐れを抱いた。もしウルの子を孕んでしまったら、こいしはもちろん、ペット達も思うだろう、誰の子と。
 生まれてくる子供が獣の耳を立て、尻尾でも生えていたらもう言い逃れなんてできはしない。
 こいしに言い放たれた、獣姦に興味津々だった姉としての判を押され、ウルを奪ったとまた妬まれて嫌われるのだ。修復なんて不可能になることだけは間違いない。
 押し広げられていた膣口の痛みが引いてきて、覆い被さっていたウルはやっとその肉棒を引き抜いてくれた。
 解放された私はうつ伏せていた上体を起こした。注がれた体液が逆流するのを感じて、スカートをめくって覗き見る。
 白濁色の精液が膣からあふれ出てきていた。拭き取りたかった気持ちを抑え、先に開いている扉を閉めようと立ち上がった。
 隙間から顔を覗かせて、部屋の外に誰もいなかったかを確認し、胸を撫で下ろす。息をついて扉を閉めた。
 歩きにくかったので下着を穿き直すも、膣から垂れ落ちた精液がべったりとついていて、肌に気持ち悪さが広がり後悔した。
 顔を歪ませる原因となったバカ犬は落ち着きを取り戻し、平然としている。なんて腹立たしいのか。
 正直殴ってやりたい気持ちはあったが、それよりも汚れた床と漂うにおいをなんとかしたかった。
 ちり紙が切れていたことに気づいて、どうしようか悩んだ。こんなことがなければ、ウルにお使いをさせるのだが。
「背に腹はかえられないか」
 ほかのペット達に言い触らさないかが心配であったが、広がる染み込みに耐えられなくなり、私はウルに言いつけた。「絶対に今してたことを、話してはダメよ」と付け足して。
 返事はしたものの、正直なところ不安ではある。でもウルが言い触らす利点もないのだと考えることにした。
 しばらくすると、扉をひっかく音がした。そっと開けると、ウルがちり紙の入った箱をくわえて座っていた。お利口ねと撫でてやり、もう行きなさいと告げた。
 いつ口を滑らせるかわからない危険はあるが、部屋に閉じ込めておけば、それこそ私の身が危ない。実際、襲われても拒める力はあるけれど、ウルを傷つけたらこいしになんと言われることか。
 それだけじゃない、ウルが居ないことを不審に思ったこいしは私のところへ訪れるはずだ。襲われても抵抗できず、行為に至ったところを見られるなんて最悪の状況も予想できる。
 ウルを側に置いておくよりも、追い出してしまった方が安全と、今は判断した。
 ちり紙で床に垂れこぼした精液を拭き取った。においは花瓶の花を床に押し当て、すり潰して誤魔化す。
 これでなんとかなればいいけど、妹の鼻が思いの外利くみたいなので若干不安である。
 股元の湿りに耐えきれなくなった私は下着を脱ぎ、ごみ箱へ投げ捨てた。逆流していた精液は止まっていた。腹の中に、精液が残っているのを感じた。
 蓋をされているような感覚だ。腹奥の熱に吐き気を覚える。
 痛みに気付き目を遣ると、太股にはひっかき傷が幾つもできていて赤く腫れ上がっていた。
 ちり紙を数枚取り、ベッドに身体を横たわらせて布を被る。ちり紙を恥部に押し当て、眠りながら逆流を待つことにした。
 静かなことが逆に辛く感じてしまう。嫌なことを思い出してしまう。私は、ウルと関係を持ってしまった。
 事実を消すことも、原因となったウルに嫌悪を持っていても殺すこともできない。この先、一体どうやってこいしと接すればいいのだろうか。
 隠すしかない、今となって心を読めない状態が唯一の救いになるとは、思いもよらなかった。それでもウルが死ぬまで隠し通せる自信はない。
 妖怪とならず、動物としての寿命を全うする確率の方が少ないから。考えれば考えるほど、浮かぶ未来は泥濘に沈んでゆく。
 子宮に残る熱と、太股の痛みを交互に感じながら、犯された疲れのままに意識を沈めた。


   3


 頁をめくり、淹れられた紅茶を口にする。書斎の椅子へ腰かけて優雅に読書、と傍から見ればそのように見えるかもしれない。
 手にしている本が、官能小説でもなければの話だが。一行一行、流さずに読んでいく。読んでいるものは獣姦を課題にした小説だ。
 この本を手に取った時、獣姦にはまったわけではないのだと、否定するように顔を振った。
 ウルの行動を押さえる手がかりでもないかと、必死になっているだけだ。正直、心を読めるだけでは足らないのだ。私はペット達のことをわかっているつもりで、全然わかっていないのが現状だった。
 読心ができるからと、相手のすべてをわかった気でいたのかもしれない。そう思うと、放棄していた交流の仕方も、見直した方がよいのかもしれない。
 以前に読んだ時は、獣姦という描写を受けつけれなくて放棄したのだが、この官能小説はなかなかに面白いと思える。
 主人公となっている女の背徳心や、獣姦に興味を持つきっかけなどの描写が細かく書かれていて、読み物としては私好みだ。これで官能小説、それも獣姦物でもなければ、素直に楽しめるのだけれど。
 読み進めていくと、物語は飼い犬との性行場面に突入した。飼い主の女は、愛犬をその気にさせるため、赤い肉棒が隠されている皮の部分をさすり始める。
 赤みがかった肉棒はすぐに露出し、女はそっと手を伸ばして根本を握った。地上で書かれた本だったが、あの生々しい性器をよく握ろうと思えるわね、と描写に少々の嫌悪を感じた。
 女が犬の肉棒を撫でるように擦ると、勃起した先端から、透明な液体が流れ出た。しばらく続けていると、今度は白色の子種となる体液が流れ出た。
 書き方から察するに、一度目に出た液体は精液ではないということだろうか。昨日、犯された時に四回ほど、体内に吐き出される熱を感じた。
 この小説から知識を借りるならば、一度目に注がれた液体は射精じゃないということになる。結局は三度に渡り射精されたのだから、それが一回減ったところで、あまり変わりはなかった。
 女は犬への愛撫をやめ、自身の恥部を愛撫しだした。犬の肉棒を迎えるつもりだった女の恥部は、早くから濡れていて、犬に股を舐めさせる前戯の必要もなかった。
 恥部から引き抜いた指を犬に嗅がせ、愛犬の興奮を誘う。その気になった犬は女に飛びかかったが、女は犬の根本を掴んで、それを制御した。
 この本に書かれていることが本当ならば、次にウルが襲いかかってきても、対処が可能になる。あまり試したいとは思わないけど。
 犬の落ち着きを確認して、女は腰元に持ってきていた枕を置き、契りを結びやすいように腰の位置を高くした。
 正常位の描写は、進んで獣姦を望んでいる体勢なのだと読み取れる。私の場合は不慮の事故から起こったことだったから、嫌悪に近い感情しかなかったけど。
 読み進めていくと、膣口に激痛を走らせた瘤の描写も書かれていた。内側から与えられる刺激に登場人物の女は感じていたが、どうにも嘘くさい。
 まあ、書かれている女は私と違い成人だから、体格の差から生まれた相違としておく。あの痛みが蘇りそうになるので少し飛ばした。
「お姉ちゃん」
 囁かれた声に肩を跳ねさせて、顔を振り向ける。「こいし……」扉に手を添えて佇んでいる妹へ、恐怖を感じた。
 一体いつ入ってきたのか、扉が開く音すらわからなかった。
「ウル、見なかった?」
 怒気などは感じなかったが、平静と振る舞っているその様子が今は怖かった。
「見てないわ」
 返答に納得したのか、疑う素振りもなくこいしは出ていった。昨日のことを引きずっていると思っていたので少し意外だった。
 手にしていた本が官能小説だったと、今さらながら慌てた。気づかれていないとは思ったが、驚かされたこともあって動悸がする。
 落ち着かないままに、また小説を読みはじめた。
 正常位のまま、女は内側から押し出されるように露出した陰核を刺激した。身の内を震わせる快感に、女は結合している幸福感を味わいながら、なんどとなく達した。
 首に腕を回して抱き締める女は、愛犬の熱を感じながら射精を受け止める。打ち出される種子が腹の内へ溜まる感覚に、女は法悦の色を浮かべた。
 性描写のひとつを読み終えて息をつく。自身が体験したものと、全然違というのが感想だった。
 無理矢理でも、正常位ならば悦楽を感じられたのだろうか。思い出すと嫌なことしか浮かばないはずなのに、私の身体は火照っていた。
 動悸がしている時に官能小説なんて読んだからだ。香水の芳香で胸が高鳴り、その異性を変に意識してしまう原理と同じだ。
 そうに決まっている。私は変態なんかじゃないとかぶりを振った。
 獣姦なんて懲り懲りなのだ。思案しているところに、廊下から響いてくる爪音が近づいてきた。
 耳の奥を震わせる音は聞き覚えている。沸き上がる複雑な感情に、胸が締めつけられた。――さとり様、遊んで――
 お気に入りの縫いぐるみをくわえたウルが、開け放たれていた扉から入ってきた。綿の少なくなった縫いぐるみは、萎びて噛み甲斐がなさそうだった。
 尻尾を振りながら私の足下に置いて、鼻でつつき催促する。投げて投げてとお座りをして語りかけてくるウルに、こいしが探していたわよと言った。
 返ってくる気持ちは相変わらず妹よりも私。仕方なく、縫いぐるみを放り投げてやった。
 嬉しそうな後ろ姿を見て不安になる。また襲われたらどうしようと。
 火照る身体と不安は、本当に小説のせいだろうか。湿りはじめる下半身に、私は自分のことがわからなくなっていた。
 ウルが戻ってきたら、またすぐに放り投げる。今、匂いを嗅がれたら、きっと襲われてしまう。
 推理小説に出てくる犯人みたいな気持ちだ。いつ気づかれるか冷や冷やな状態、不安から鼓動が強くなった。
 大丈夫、適当なところで切り上げてしまえばいい。それからの数日間は部屋に籠もるのだ。
 時間が経てば、獣姦をした傷は癒えぬとも意識することもなくなるだろう。足下に落とされた縫いぐるみを拾い、また放り投げた。
 首を捻り、追いかけた視線を戻したウルが、唐突と股座へ鼻を突っ込ませてくる。
 反射的に仰け反らせた身体は重心を崩し、結果、私は椅子ごと床へ倒れ込んだ。露出する赤みを目にして肩を竦ませた。
「やめなさい!」
 抑えていた感情が声になっていた。ウルは興奮していたが、飼い犬としての自我は保てている様子で、怯えた仕草をみせた。
「そう、良い子」座っていなさいと指示を出す。言うことは聞くが、今にも飛びかかりそうな雰囲気だ。
 表層に浮かぶ感情も、高ぶる気持ちに塗り潰されていっている。
 警戒を解かず、ウルの目を見つめたまま立ち上がると、抑えつけていた自我の糸はついに切れ、私に襲いかかってきた。
 押し倒されまいと踏ん張る下腹部に、完全に露出した亀頭が突き当てられていた。
 恐怖で足が笑ってしまい、私は尻餅をついてしまった。犯されてしまう、そう感じた時、前足の間から咄嗟にウルの性器へ手を伸ばしていた。
 およそ犬にとっても性器は敏感なのか、根本を掴むと同時に、ウルはその巨体を跳ねさせた。
 私にのしかかろうとしていたウルの動きは、驚くほどに静まった。正確に言えば、急所を掴まれて動けないと思われる。
 結果として、私はウルの動きを封じることに成功した。
 掴まれることなんてないであろう部分を握られているからか、ウルは落ち着きない様子で鼻先を舐め、後ろ足を足踏みさせていた。
 感情の方はまだ読めない。眼前で動きを止めていた顔から、荒い吐息が鼻先に、なんどもかかった。
 鼻にかかる息が少々におうので、握っている位置を根本から先端に移した。
 前足の間から掴んでいる姿勢も疲れるので、また暴れられぬよう手は握ったまま、ウルの側面へ身体を動かした。
 手の内に広がる熱は、脈を打ち僅かながらぬめっていた。嫌悪を抱いているはずの、生々しい赤みを今、私は小説の女と同じようにして握っているのだ。
 このまま擦り、ウルの欲情を発散することはできないだろうか。ふと考えて、ゆっくりと手を前後に滑らせる。
 先端の穴からいつ精液が飛び出てくるかと、恐れを抱きながら擦り続けた。
 すると、描写されていた透明の液体が先端からあふれてきたのだ。私は驚いた。まったくの相違もなく同じ現象が起きたから。
 と言うことは、あの小説は事実に基づいて書かれていたものだろうか。
 このまま続ければいずれ射精に至るだろう。滴る体液が手について、動作の潤滑を良くしてゆく。耳奥へ届く粘着質な音はまるで、絡みついてくる蛇のようだと感じた。
 動きには現れなくとも、性器を刺激し続けていることでウルの興奮は増していくばかり。瞬間的に高ぶったその時、先端から精液が打ち弾かれた。
 一度目に出た液体よりも多く発射される精液は、床に白い水溜りを作ってしまった。
 こいしの背に吐き出されていた時もそうだったが、一回の射精時に出る量が半端ではないと思う。
 朝方を過ぎても体内に精液が残っているほど、昨日も出していた。なのに今、これほどの量を出せるものなのだろうか、犬という生き物は。
 射精が止まっても、ウルのアソコはまだ力強さを保ったままだ。
 小説にも書かれ、私自身も体験したからわかることだけど、まだ二度三度の射精が残っている。
 ふと、書かれていた描写で気になっている部分がある。ここまでの行動は、小説の内容と変わらない。
 私がした体験と違うのは、女が悦を感じていたということと、犬を都合よく躾れていたことだ。
 悦楽を得るための道具として、そう簡単に仕込めるものなのだろうかと、私は疑問に思っていた。
 作中で犬は射精をするまでの間、腰を振れるように訓練されていた。腰を振っている時に射精はしない。これは私も経験済みの知識だ。
 だからこそ気になる。本当にそれは可能なのだろうかと。
 試す状況が揃っていても、獣姦だ。それを試したいと思う輩はどれほどいるだろうか。
 私は自分の心がわからない。ウルに犯され、飼い主として傷心していたはずなのに、小説を読んで濡れてしまった。
 いいえ、もっと前。ウルに鼻を突っ込まれた時、官能小説の描写を思い出していた。犬に恥部を舐めさせる、その行為を。
 私は心の奥底で、気持ち良くなりたいと思っていたのだろうか?
 こいしの言っていたように、獣姦なんて恥ずかしい考えが真っ先に浮かんだもの、読み知った内容を試したいと望んでいたのだろうか。
 私の本性は、本当に変態なのかもしれない。まだ出したりないと言わんばかりに膨らんでいる亀頭から、手を離した。
 立ち上がり、ゆっくりと歩む後ろから、興奮したままのウルがぴったりと張りついてくる。
 執拗にお尻を鼻でつつき飛びかかろうしてきたので、私は待てと言う。
 あまり効果はなかったが、それでも指示は理解できるみたいで少しだが動きは止まる。
 私はベッドの縁に腰かけた。スカートの中へ鼻を入れ、匂いを嗅いだウルは飛び乗るようにして、前足だけベッドに置いた。
 亀頭が私の腹に当たっている状態で、ウルは腰を振ろうとしていた。交尾の本能がそうさせるのだろう。私はウルに、「交尾がしたいですか?」と聞いた。
 自我を保てていたウルは、――したい、したい――と語りかけてくる。言うことを聞けるかと聞くと、ウルは鼻を舐め、その場にお座りをしてみせた。
 それを確認した私は、スカートの中に手を入れ、下着に指を引っかける。座ったままの状態で、ゆっくりと足先まで下ろした。
 脱いだ下着の匂いを、ウルは執拗に鼻を鳴らし嗅いでいた。また鼻を突っ込んでくると、恥部を舐め上げられてしまい私は声を出した。
 ベッドに前足を飛び乗らせたウルに、私は舐めなさいと命令した。
「言うことを聞くのでしょう? さあ」ウルは、再度スカートへ潜り込み、私の恥裂を舐めはじめた。
 思わず膝を閉じそうになる刺激が、股座を襲った。温かく長い舌が素早く動き、なんども舐め上げてくる。
 堪えきれず前屈みになって、スカート越しにウルの頭へ手を置く。膝が震え身体が跳ねる、声を漏らしてしまう。
 扉はまた開けっ放しだ。こんなところを見られたら、私は変態扱いされてしまうに違いない。
 なのに、気持ち良くて、恥ずかしいのにやめようとも思えない。私は自分でも驚くほど、どうしようもない変態だった。
 布地越しに鼻先を押さえ、もういいわと声をかけた。顔を出したウルは、走ったあとのような息遣いをしていた。
 私も変わらないくらいに息を乱していた。深く深呼吸して落ち着く。
 ウルの肉棒を見て、熱を欲している下半身が疼きだした。その前に、扉のことが気になった私は、閉めてくるよう言った。
 前足を使い扉を閉めることができたウルは、駆け足でこちらへ戻ってくる。
 私も、そろそろお預けをするのは辛かった。ウルにも、自分にも。もう一度だけウルに確認した。本当に言うことを聞けるのかと。
 ちゃんと返事をしてきたのでそれを信じる。身体を後ろへ倒し腕で支えてから、床に着けていた足を開き、ベッドの縁に乗せた。
 名前を呼ぶと、ウルは前足を飛び乗らせてきた。膣口を探す雄々しい肉棒を、手を使いそこまで導いた。
「ゆっくり入れて、おねがい」
 膣口に先端が触れ、身体の中に熱が進入してくる。ウルの肉棒は子宮の奥まで届く長さだ。強く腰を振られるは好まれないが、瘤をはめられた痛みと比べたら全然いい。
「ウル、できるだけ、長く腰を振ってくださいね」
 腰元を前足で挟むと、ウルは腰を振りはじめた。膣内を前後する熱に、私は二度目の悦楽を感じた。
 力強く腰を打ちつけてくるウルの肉棒が、子宮を内側から押し上げてくる。そのたびに、肺の中にある空気も押し上げられて息が漏れ出た。
 扉が閉まっていることに安心して、私は声を抑えなかった。変態としての証が絶え間なくあふれ、粘着質な音と自分の声が交互に響いた。
 ぶら下げていた足を挟むようにして、ウルの腰元に回した。
 媾合なんてものは気晴らし程度で、悦びを感じることはないと思っていた。
 だけど、この胸を熱くさせる背徳感に、今や私は酔いしれていた。犬としている、それも妹が可愛がっている愛犬と。
 申しわけない気持ちはあれど、それ以上に魅力的で、寧ろ後ろめたさがなによりも堪らなかった。
 獣姦をしているという非常識で変態的な行為もまた、私の心を燃え上がらせる薬味のように感じた。
 打ち突けられる悦びを感じていると、ウルは急に動きを止めた。そして膣口にあの痛みが襲う。射精する状態に入ったウルは瘤の部分も挿入し、膣内でそれを膨らませた。
 内側から押し広げられる膣口は、雄々しい肉棒からすればいささか小さすぎるのだ。でもウルにそんなことはわからない。
 妖怪として自分が小柄なのか、ウルが犬として大きすぎるのか、あるいは両方なのかもしれない。私にとってウルの肉体は大きすぎた。
 瘤が限界まで膨らむと、腹の内側に熱が打ち出されるのを感じた。昨日と違い望んで繋がっていたせいか、子宮に溜まってゆく熱を嬉々として受け止める。
 膣口は相変わらずと痛んだが、それでも昨日よりはマシだと思えた。
 ――伸びちゃったのかしら――
 ちょっと嫌だなと思うも、特に意中の相手でもいるわけでもない――いたとしても覚りと付き合いたがる輩なんているはずもないか――と、その思考は消すことにした。
 ウルは相変わらず断続的に射精を続けている。ここで私は小説の描写を思い出す。
 太い首元に回していた手を、自分の下半身へと滑らした。隠れている肉芽に指先が当たった。
 ウルの射精が終わるまでの間、私は露出した陰核をいじることにした。
 指の腹で軽く触れてみたが、どうも痛みが気になり快感は得られない。結合部から流れ出ている蜜を絡め、摩擦で痛くならないよう肉芽に塗りたくった。
 中指でもう一度触れてみる。加重がかからないようにそっと、綿みたいに。前後左右に動かしていくと、少しずつだが小さな快感が沸き上がり、痛みの感覚を塗り潰していく。
 動かしている中指の外側にウルの産毛が触れて、ちょっとくすぐったかった。
 内側から発せられる熱と外から得る刺激に、段々と私は気持ち良くなってきた。「イキそう……」肉芽を叩くと足が跳ねた。
 連続でその刺激を与えて、私はエクスタシーを迎えることができた。気持ちいい……! 粟立つような感覚が緩やかに、全身へ広がってゆく。
 こんなにも気持ちがいいのは初めてだった。もっと、もっとと、私はまた肉芽をいじくり回す。
 ウルが射精するまでの間に、私は三度のエクスタシーを得た。余韻に痺れ、ウルの射精を法悦と受け止めた。
 膣口を広げていた瘤は収縮していき、肉棒も縮んでいった。肉棒を引き抜いたウルは前足を退け、ベッドから完全に降りる。
 息をつくと、側面へ回り込んでいたウルがベッドに飛び乗ってきた。顔を向けると、ウルは私の口元を舐めてくる。
「もうわかったから、やめて」
 ウルの顔を押し退けた。気持ちは嬉しいけど口元がベトベトになるのは好きじゃない。寝返りを打って、ベッドから降りたウルの頭を撫でてやる。
 もう行きなさいと部屋を出るように促した。落ち着いている時のウルは従順で、軽快な爪音を響かせながら開いた扉の向こうへと姿を消した。
 後処理をしなくちゃと思いつつも、身体がだるかった。漏らした息を拾ってくれる誰かが居なくて、しんと静まり返っている静寂さが一層に強調されるようだった。
「わたしは」なにをやっているのだろうか。ぼんやりとしたままで頭は働かない。
 冷静になれば色々な感情が現実を纏って沸き上がってくるのだろうけど、今はとてもじゃないが考えたくなかった。
 事実を直視することが怖い。見たくない。顔から火が出てしまうかもしれない。
 なら溶けてしまえばいいのだと、都合良く思った。今、私は夢心地だ。身体には今し方味わった快感の余韻が、ぴりぴりと静電気を帯びるように残っている。


   4


「最近その子とよく遊んでいますね」
 お茶受けが乗った盆を持って、お燐はつり目気味の瞳を細めた。「こいしが飼ってるのよ」と言うと「へえ、そうでしたか」と卓上に盆を置き、カップに紅茶を注いでくれた。
 カップがふたつあったので「ひと休み?」と、淹れられた紅茶を口にした。
「はい、死体運びの方はですけど」
 話すお燐は椅子を引いて腰を下ろした。「怨霊達の方も大人しいですよ」湯気の立つ紅茶を一口して、お燐は熱さからびくりと身体を跳ねさせた。
 妖怪になっても、元々が猫だからか猫舌は直らないらしい。冷まそうと息を吹きかけている様子が可愛らしかった。
 お茶受けのクッキィを割り、ひと欠片をウルに与えた。大型な犬というのもあったが、一瞬で平らげたウルはもっと食べたいと上目遣いで舌を舐めずった。
 食いしん坊ねと呆れてみせると、お燐はくっくっと肩を揺らして笑う。釣られて私も笑った。
「いいなぁ。あたいもこうやって息抜きはするけど、前みたくさとり様と、ずっと一緒にはいられないもん」
「そういえばそうね」と、久々に見たお燐の顔を懐かしく眺めた。「こいし様が拾ってきたということですよね、この子」
「ええ、そう聞いたわ。ウルっていうのよ」上下関係を理解しているのか、お燐がクッキィを手にするとウルはお座りをしてみせ、物欲しそうに見上げている。
 持っているクッキィを上下に振ってみせて、ウルの顔も上下に動いた。
 座り直すような動きをして、尻尾を振りながらウルは舌を舐めずる。お燐の悪い癖だ。
 犬のペットに対し、たまにこうやってからかう。嫌っているからというわけではなく、お燐の――というより猫としての――性格がこうなのだと、私は知っている。
 少し目に余るところもあったが、しもの者同士がすることだから、干渉はしない。
 ぽいっと放り投げられたクッキィをウルがぱくり。動物の口からこぼれる租借音は、なぜか聞いていて微笑ましいと感じる。
「いい音立てるねえ」今度はお肉でも持ってきてあげるよとお燐は目を細めた。
 口の裂け目から落としたカスも舌で舐め拾う。甘い残香が移っているのか、ウルは床をなんども舐めていた。
 身体は大きくても可愛いものだと口元が緩んだ。
 ウルの租借音に食欲を刺激されて、私もお燐もまたひとつ、クッキィに手を伸ばす。
 クッキィはサクサクとしてて美味しい。口の中から香ばしさが鼻孔へと流れ、ほど良い甘さが舌に残る。
 口内の乾きを紅茶で潤わせば、思わず息を漏らしてしまうくらいの幸福感が、胸に広がった。
 ウルはまだ食べたいと、上目でお燐に訴えていた。どうやら私よりも、お燐に媚びを見せた方がありつけると悟ったらしい。
 本当、変なところだけは嗅覚が優れているなと呆れた。
「だめだめ、もっと食べたいなら、あんたも早く妖怪になりな」
 お燐の言葉に胸が、きゅっと締め付けられてしまった。
「じゃあ、あたいはこれで」お燐は席を立ち、両端に結った三つ編みを揺らしながら出て行った。
 たかる相手が居なくなって、ウルは私のところへ身体を移した。上目で見て尻尾を振ればおやつにありつける、と覚えたようだ。「ダメよ」と言ってカップを口にした。
 お燐が言った、「早く妖怪になれ」という言葉が耳の中で反響していた。
 ウルが妖怪に。それはとても喜ばしいことだ。こいしの相手としてはもってこいだし、地霊殿の管理も任せられる。
 でも不安もあった。今の〝関係〟をどうするか。
 ウルとの獣姦を体験してから、もう二ヶ月は経つ。あれからこいしとは一度も会っていない。
 その間、私はウルと交わった。といっても挿入させたのは三回ほどだけ。腰を振る時間も少しだが長くなり、結合時に得られる快感は増えた。
 私は、獣姦の味を占めていた。ウルがクッキィの甘美を欲しがるように、性交を楽しめる身体、心になってしまった。
 滑り込んでくるような長く温かい舌に、幾度となく狂わされた。結合するよりも、私はこちらの方が好きだった。
 わざわざ鏡の前へ座り、ペットに恥部を舐めさせている自分の姿を見て興奮した。なんてふしだらなのだろう、なんて恥ずかしいことをしているのだろう。
 誰にも知られてはいけない秘密だと、認識して思うほどに身体は熱く火照った。
 ウルが妖怪になったら、どうなるのだろう。人型の姿に化け、私の股座へ顔を埋めるだろうか。
 下半身に熱が広がった。想像するだけで欲しくなる、そんなだらしのない身体に私はなってしまった。
 こいしが知ったらなんと言うだろうか。きっと悲しむだろうし、汚れ物を見るような目を向けられるかもしれない。
 つい二ヶ月前までは心を通じ合えればと願っていたのに、今はこいしに心を覗かれなくてほっとしている、見られたくないとすら思っている自分がいるのだ。
 湿りを感じる股元に、紅茶を落としてみたくなった。この間とは違う小説、もちろん獣姦物だ。
 丁度、読んでいるところにそういう描写があったのだ。お湯の中に蜂蜜を溶かし、恥部へ薄く塗りたくる。
 液体だから味が薄れて犬が舐めるのをやめても、垂らすだけでいいから補充が簡単だった。
 お腹から落とせば恥部を舐めていた舌は、味がなくなると同時に、垂らしたお腹部分まで舐め上げてくる。
 舐められるのが好きな私は、これを試したいと思った。紅茶ならば丁度良いはずだ。
 考えるだけで下半身の湿りが加速するようだった。もう少しお茶を楽しんだら、試してみよう。
 柄にもなく興奮してしまい、香りを楽しむ余裕もなく、くいっと中身を飲み干した。
 空になったカップへ紅茶を注ぐと、ひょいとクッキィが持ち上がった。
「こいし」身体が跳ねてしまった。萎縮した心臓が一瞬の硬直を経て、強く打ち鳴った。「帰ってたの?」
 胸を突き破るのではないかと思うほど、速まる鼓動はうるさく鳴り響いていた。それを誤魔化したくて言葉を絞るも、乾いた声しか出なかった。
「うん。ただいま」椅子を引いて腰を落とす。「お燐が持ってきたの?」ポットを手に取って、こいしは紅茶をカップに注いだ。「そうよ」と返した。
 小骨が刺さったみたいに、喉から出る言葉はぎこちなく漏れたが、こいしは気にする様子もなかった。
 クッキィを感慨なさそうにかじり、寄ってきたウルの頭をこいしは気持ちよさそうに撫でた。「いままで」
「ちょっとね。ふらぁっと」被せてきたこいしは私に、久々に笑みを見せた。
「久しぶり」
「そう、ね」
 妹の目を直視出来ない気持ちが、ツケとなって沸き上がってきた。堪らず、ウルへ視線を移した。
「ウル、お利口にしてたわよ」
「ふぅん」
 ウルに対して関心が消えたんじゃないかと思うような、気の抜けた返事だ。「たまには」
 一度、出した言葉を飲み言い直す。「んっん、もっと構ってあげたら? ウル、あなたのことを探して、私のところへ聞きにくるのよ」
 本当のことだ。今日も居ない、こいし様、居ない。こいしよりも私のことが好きだと言うが、それでも、ウルは妹のことも好きだった。
 私は可哀想だと思い構った。でも次第と気持ちは都合よく取り、快楽を得るための理由にしていた。
 飼い主がほったらかしにするのだから仕方がない、代わりに遊んであげているのだからと。
 ウルを撫でているこいしは、窓の外をぼうっと眺めるばかりだ。
「お姉ちゃんの方が好かれているじゃない。私なんかより、お姉ちゃんと遊んでいる方がウルも喜ぶよ」
「また、そんなこと」
 胸が痛かった。あなたが居ない間、ウルは私と言エナイヨウナコトをしているのよ?
 話せるわけがなく、ただ息を漏らすだけしかできなかった。
「でも、本当のことだよ。私なんかより、お姉ちゃんが育てた方がちゃんと育つと思うもん」
 こいしはクッキィをウルに与えて、窓に向けていた視線を私へと向けてくる。「幾ら動物の心が純粋でも、私は心なんて見たくないから」
 ふいっと外された視線はウルに向いた。でもその表情は酷く嘲った感じだ。
 私には、こいしの心がどこにあるのかわからなかった。あれほど執着していたウルに対して、寒々とするような嘲笑を向ける妹は、本当に、妹なのだろうかと。
 向かい合うこいしが、心を読めない状態で良かったと安堵した。
 こいしの心を読めなくて良かったと。混濁した内面を見ることに、耐性はついている。だが妹の汚れきった部分なんて知りたいと思わない。
 溜まりに溜まり、詰まった肥溜めのような、汚濁とも呼べるものを、肉親が抱えているなんてことは耐えられない。
 椅子の底が床に擦れて鳴り、こいしが立ち上がったのだと認識した時には、もう姿を視認できなくなっていた。
 無意識を操るあの子は、もう私と繋がることもなく、姉である存在も必要としないのだろうか。
 糸目のない凧のように、ふわふわと風に吹かれるまま際限なく、ただ一人で……
「扉くらい、閉めていってよ」開けっ放しにされている扉を見つめ、聞いているはずもない妹に言葉を投げかけた。
 自分に言われたのだと勘違いしたウルが、入り口へ駆けてゆき、前足で扉を押し閉める。
 褒めて褒めてと語りかけるウルは、頭を撫でるとご褒美も期待していた。
 卑しん坊ね、と思わず固まっていた口角が上がった。沈んでいた気持ちは、靄が晴れるように癒えていった。
 息をついて、私は平常を取り戻した。というより、お預けを食らっていたのだと思い出した。
 下着の湿りは乾きはじめていたが、腹の奥についた火は消えず、くすぶっていたのだから。
 スカートの縁を持ち上げ、ぬるくなった紅茶を下着に垂らした。
「ご褒美が、欲しいのでしょう?」
「よし」と声をかけたら、ウルは私の恥部を猛烈な勢いで舐めはじめた。薄い布地に染み込んだ甘みを求めて、ウルは嬉々の感情を浮かべながら舌を這わせ続ける。
 我慢していた感情が、喉の奥から這い上がって漏れた。心地よい、痺れに似た感覚が恥部から頭の先まで、じんわりとのぼってくる。
 舌の温かみを感じたくて、下着を横へずらした。そこへまた紅茶を垂らす。
 追加された甘みへ、ウルはさらに舌の動きを早くした。恥裂の隙間に舌が滑り込んでくる。そのたびに、私の足は震えた。
 内側に隠れていた肉芽が突起しはじめ、充血している頭部が顔を出した。
 陰唇ついた味がなくなって、甘美を求める舌は私の肉芽を捉える。あまりの刺激に、身体がしなるように震えた。
 開いていた膝でウルの顔を挟んでしまい、驚いたウルは行為を中断してしまった。
「大丈夫よ……さ、舐めなさい」カップを手に取り紅茶を落とす。再開された愛撫に、法悦と息を漏らした。
 舐めることを――紅茶の味を――楽しんでいるウルは、少し興奮気味に息を出す。
 鼻から送られてくる生温かい息が、舐め上げられる刺激に混じり、意識の集中する股間は一層に湿りが増した。
 紅茶を継ぎ足し、ウルの頭へ手を添えた。「ああ、イイ。イキそう……」足に力が入っていく。
 扉を叩く音が、頭を突き抜けるように届いた。「お姉ちゃん、ちょっといい?」
 全身の血が足先から抜けていった。一拍して身体を捻る。肘に触れたカップが倒れた。「こいし」
 再度、扉が叩かれる。コンコン、コンコン。妹は、扉の向こう側にいる。
 入り口までは距離がある。声は、聞かれていないはずだ。見られてもいない。でも、こいしの存在が、私の胸を掴んで離さない。
 回された把手に胸が飛び出そうなほど打ち鳴る。隙間からひょいと顔を覗かせた妹に、固まったまま言葉が出なかった。
「お姉ちゃん、ウル」
 ウルが、なに? なぜ、そこで言葉を止めるの。
 足下で、床にこぼれ落ちた紅茶を舌で掬い上げる音がした。
 満足げに鼻息がふすんと聞こえ、舌を舐めずったウルがこいしのところへと駆けてゆく。
 手に持っていた、焼き上げられた骨付き肉の匂いに気づいて、ウルは駆けていったのだと理解が追いついた。
「ウル、借りてくね」にたりと笑って、こいしはウルを連れ扉を閉めた。
 借りるもなにも、あなたの犬じゃない。落ち着きを取り戻しはじめて、なぜかその考えに納得がいかなかった。
 こいしの代わりに相手をしてあげたから? ちがう。快楽を得るための存在として、ウルを使っていたからだ。
 私はこの二ヶ月の間に、ウルに愛着を持っていたのだと気づいた。
 こいし、お燐やお空、ほかのペット達とも違う感情を、ウルへ抱いていた。だから、「借りていく」という言葉を気にして、こいしの犬だという考えに違和感を感じてしまった。
 部屋を出る直前に見せたあの顔が、脳裏から消えず浮かび上がる。
 ウルは、紅茶よりもお肉の方が好きなんだよ。そんな言葉をかけられた気がした。
 じんわりとくすぶっている火照りに、無意識と手が伸びた。「ああ、ウル、ウル」あなたはこいしより私のことが好きじゃなかったの。
 こんな半端な状態で、お預けを食らったばかりだったのに、放り出すなんて……
 ずれたままの下着に指をやり、陰唇をかき回した。抜けきっていた血液が足先から徐々に戻ってくる。
 絡みつく音にウルの舌を想起して、膣へ潜らせた指先をでたらめに動かした。
 丸めていた背を伸ばし、力む足先を爪立てる。「くぅぅ!」
 唇の隙間から漏れ出た熱に続き、腹の中で膨れ上がる快感が破裂した。電流となって全身を突き抜け、ゆっくりと余波が伝わってゆく。
 意識だけが肉体から抜け出たみたいに、頭がふわふわとしていた。でも身体は重かった。気だるさのような脱力感が、肢体の末端まで染み込んでいくようだ。
 長湯で逆上せた時の感覚に似ていた。内側から吹き出る熱で喉が乾いた。
「ああ、ウル……」
 治まりのつかない、火照りを冷ます術なんて、私は知らない。


   5


 読み終えた小説を閉じ、息をついた。前と変わらない、暇があれば本を読み、ペット達とたまに遊ぶ生活。
 それなのに私は違和感を覚え、妙に落ち着かなかった。以前と同じ? 違う。
 違うと思うのは、ウルと関係を持ってしまったから。主従を越えた関係への依存が、私にため息を誘う。
 胸にできた穴から風が通る、そんな感覚が取れないでいた。
 ウルとは最近会っていない。姿すら見かけなかった。私自身あまり部屋を出ることはない。ペット達が仕事をしているか見回り、寄ってくる子達を構ってやる。それが終わったら、また暇つぶしと読書に耽るの繰り返しだ。
 もっともペット達の監視なんてことは滅多にしないのだけど。
 私が部屋から出歩く理由の殆どは、書物を漁りに行くことなのだから。
 こいしが居なかった二ヶ月の間は、自分からウルを探したりもした。正直、今も気持ちはそうだ。ウルに会いたい。
 姿は見かけないものの、ウルの居場所には見当がついている。きっと、こいしの部屋に閉じ込められているのだ。
 閉じ込めていると言えば、こいしは怒るだろう。犬は従順な存在だ。飼い主であるこいしが「私の部屋に居なさい」と言いつければ、ウルは従う。
 たとえ不満を感じたとしても、飼い主の命令は絶対だ。だから結果的に閉じ込めているのだと私は思う。
 だけど、それを話したところでなんになるだろうか。ウルがこいしの犬であることに変わりはないのだ。
 ウルに会いたくとも、会うための理由が私にはなかった。
 息をついて椅子へ凭れかかると、扉が叩かれた。声をかけてくる気配は感じなかった。なんとなく見当がついたので「どうぞ」と返した。
 留め具の軋む音を鳴らしながら、扉はゆっくりと開く。ポットとお茶受けが乗る盆を手に、こいしは微笑みを浮かべていた。
 テーブルに盆を置き、こいしは向かい側の椅子に腰かけた。「珍しいわね」身体を起こし、淹れてくれた紅茶に手を伸ばす。
「たまにはね」
 返される言葉に槍でも降るんじゃないかと口元を緩ませてみるも、内心こいしのことを訝しんだ。
 クッキィを手に取りかじる。クッキィは、私にとってお茶受けの定番であるが、煎餅や団子までが隣に並んでいた。
 団子なら理解できなくもないが、紅茶のお茶受けに煎餅を選ぶ辺り、その味覚や感覚には首が傾げる。
 狐色の煎餅を口にしながら、平気というより寧ろ美味しそうな顔をして、こいしは紅茶を飲んでいた。
 合うのだろうかと考えさせられるものの、試したいとは絶対に思わない。
 会話もなく、静寂が部屋を包み込んでいた。お茶受けを頬張る音がたまに響くだけで、私とこいしの間には、視認できない仕切りがあるように感じた。
 返された、「たまには」という言葉の真意はなんなのだろう。姉の私とただ同じひと時を過ごしたい、そういう意味だろうか。
 紅茶も二杯目だというのに、相変わらず会話はなかった。話す必要なんてないと感じているのか、それすらわからない。
 昔なら確かにそうだった。口での会話より、心で繋がっていることの方が多かった。
 たまには、言葉を発することもあった。覚りだからこそ、発言したい、して欲しいと思う言葉があるのだ。
 今では姉妹という間柄しか、私とこいしを繋ぐものはなにもない。「たまには」と話すのなら正直、振って欲しいとじれてくる。
 音もなく流れるこの間は、嫌いではなかった。それは変わらない気持ちだとも思っていた。
 けど、気がつけば私たちの関係は噛み合っていなかった。私とこいし、覚りとしてのズレは、自分が考えるよりも広いのだと実感した。
 ウルはどうしているのだろう。私と一緒に居ることを快く思わないから、ウルを閉じ込めているのでしょう?
 聞けるはずもなかった。返されるだろう疑問の言葉が怖くて、言い出せない気持ちを紅茶と一緒に胃の奥へ流し込んだ。
 飲み込んだあとの温かい息を吐き出して、こいしの目が私を捉えていることに気づいた。
「ウルがどうしてるか気になる?」
 数日前、ウルを連れ去って行った時と、同じ笑みを浮かべていた。一拍おいて「ええ、最近見ないけど元気かしら」と返す。
 核心を突かれても、表面に出さないよう注意して。
「秘密の特訓でもしているの?」
「うん、とっても気持ちいいよ」
 カップを持つ手が震え、受け皿に擦れて音が鳴った。「気持ち、いいって?」頭の中に言葉が駆け巡る。どういう意味だと。
「え、そんなこと言ったっけ?」
 小首を傾げるこいしの返事に、私は思考も身体も固めさせてしまう。「また無意識に出ちゃったみたい」
 気にしないでねと笑うこいしは、時たま関係のない言葉を発してしまうんだと話しながら、団子を食んだ。
 覚りとして軸がズレているこいしの感覚は、私には理解できない。だから、真意なのか、虚言なのかという判別もつかない。
 私の中で嫌な言葉が浮かび上がってくる。無意識に? なら、それは言葉だけじゃなく、行動も?
「さてと」と言って立ち上がったこいしは、じゃあ頑張りますかと呟いた。私は「なにを」と、つい漏らしてしまった。
「頑張るのは、私じゃなくてウルかな」
 考えるような上目をして、唇に指を当てる一連の動作が、わざとらしく見えた。
 そう感じたのは、身体を捻って背を向けた時に、無表情の横顔が映ったから。
 小さく漏らされた「獣姦」の言葉に、全身の熱がすうっと抜けてゆく感覚がした。
 消え入りそうなほど小さな声だったが、微々たる口の動きも私は見ていた。意図か無意識かは、わからない。
 だがこいしは、確実にその言葉を言ったのだ。確証はなくとも確信できる。
 立ち上がり、私は追いかけた。扉の向こうへと消えたこいしは、もう見当たらなかった。
 通りかかった猫のペットに訪ねても、見ていないと言う。すでに無意識を操ったあとだった。
 意識的に抑えている時ならば、姿を捉えることもできる。でも、妹にとっては使うことすら無意識に近いのだと思う。
 行き先が部屋だとしても、鍵がかけられているのなら私にはどうすることもできない。
 施錠された扉は、閉ざされた心そのものだから。
 渦巻く感情をなんと表現したらいいのか、判別できないほど混濁していた。
 ただひとつ拾い上げれる、不安という思いだけが胸に広がった。


   *


 佇むだけで息苦しいと感じるのはなぜだろう。胸に置いていた手を拳にした。
 考えて時間を置けば置くほどに、頭を締め付けられてしまう。半日が過ぎて、ようやく妹の部屋へ足を向けた。
 ゆっくりと腕を上げた。上げたまま、数秒くらいだろうか。硬直していた私は軽く握っていた拳を下ろし、把手に手をかけた。
 扉を叩いてみても、了解など得られないと思ったから。鍵はかかっていなかった。音を立てないよう静かに開ける。
 踏み込んだ部屋は静かだったが、胸の鼓動がうるさく響いていた。
 私の部屋と若干の違いはあれど、大体の構造は同じだ。ここまで増えると予想していなかったペット達が、遊び回れるだけの居室が幾つもある。
 こいしは、どこに居るのだろうか。管理するのも大変なくらい地霊殿は広かったけど、必要のないところはペット達の遊び場として手を加えていったから、どこも広い空間だ。
 呟かれた言葉の真実を知りたくて、私は来たのだ。一人と一匹を探す足は、段々と重くなってくるようだった。
 ちぎれるような声が耳に入った。微かにだけど聞こえてくるこの声は、喜びの色を孕んでいる。
 歩を進ませるにつれて鮮明になっていく声は、粘着質な音と交互に届いた。
 上部から吊されている青いカーテンの前に立つ。そこから漏れてくる甘い声と、滴る蜜の音に、浮かび上がる行為がなんなのか。
 答えは出ていても、カーテンに触れる指先を止めることができなかった。
 開けた隙間から、ウルの肉棒を掴むこいしが飛び込んできた。
 四つん這いの状態で頬を赤らませ、うっとりと肉棒に舌を這わせている。
「んん、気持ちイイれしょ、ウル」
 目の当たりにした光景よりも、気持ちいいと届く感情が私の胸を抉った。
 根本部分を掴まれているからか、自我を保てているウルの声は鮮明に響いた。
 時折に足踏みして荒い呼吸を吐いている。漏れ出る息が鼓膜を震わせて、忘れかけていた熱が蘇ってくるようだった。
 恥部を暑くさせる溽熱のような、あの火照りが。内側から沸き上がる熱に、下半身が湿りはじめる。
 ウルの肉棒を愛おしそうに舐めているこいしは、雄々しい赤みを頬張るように口へ含んだ。
 舌を絡ませ吸い上げる音は、とてもいやらしく響いて激しさを増していく。
 噎びだしたこいしの口が肉棒から離れる。舌を伸ばして、放出された白濁を床へ垂れ流した。
 一度目の射精だったのか、口元から伝う精液は粘り気が薄いように見えた。口内の熱をすべて吐き出し、顔に残る精液を袖で拭う。
 立ち上がるこいしは、スカートの中へ手を忍ばせて、下着に指を引っかけた。
 ゆっくりと下げる下着には、秘所からあふれ出る蜜が糸となって伸びていた。脱いだ下着を、ウルの鼻先へ差し出して匂いを嗅がせる。
 興奮していたウルの気持ちは、さらに高ぶりを見せた。
 それを確認したこいしは四つん這いになり、ウルへお尻を突き出した。
「さ、おいで」
 甘えさせるような優しい声で、こいしはウルを誘う。眼前に突き出されたお尻に、ウルは飛びかかった。
 未完成な蜂腰を前足で掴み、分身を迎えてくれるその場所を探した。
 見つけだすと、ウルは迷うこともなく肉棒を突き入れた。こいしの呻きが耳を劈く。
 軽快と振られる腰に合わせて、色めくこいしの声が途切れることなく続いた。
「あっ、あっ、イイ……ウル上手、もっと長く、動いて」
 染め上げた頬に汗ばんで濡れた髪が張り付いて揺れ、雄が征服感を覚えそうな体位で突かれているその姿は、湿りを加速させるほどに淫靡だった。
 微かに八の字を寄せて歪むこいしの表情が、長年見えないでいた妹の心情を映すように思えた。
 今ならばわかる、妹の心が。
 あれは私なのだ。
 こいしが羨ましくて仕方がなかった。獣と交わり突かれ続けるその悦びは、私も同じなのだ。
 胸の内に渦巻いていた感情がなんなのか、それがはっきりとわかった。私は、ウルを盗られて悔しいと感じている。
 こいしの犬だと理解をしていても、しているからこそ悔しくて、羨ましくて、嫉妬していたのだ。心が見えてしまう分、余計に。
 お燐も、お空も、地霊殿に住む殆んどのペット達も、みんな私を求めて集まってきた。
 でもウルは違う。ウルはこいしが拾ってきたペットだ。どんなに求めても、主人より好きだと言ってきても、それを叶えることはできない。
 断ち切れない鎖がこいしの手に握られていた。
 関係を壊せない、倫理という意識に縛られた私には、ただ傍観することしか許されていないのだ。
「凄い、ああっ、好き、突かれるの好きぃ!」
 悦びに歪む顔はすっかりと陶酔しきっていた。あまり好きではなかった行為なのに、酷く物欲しいと強く思う。
 ウルが動きを止めると、だらしなかったこいしの表情に拍車がかかって見えた。きっと射精がはじまったのだ。
 子宮に注がれる大量の灼熱は、私だって覚えてる。
「熱くて凄い……私が、ウルの子供を産んであげるからね」
 幸せと射精を受け止めるこいしを、もう見ていられなくなった。見ていたく、なかった。
「だからね、もっと……もっと出して」遠ざける身に届いた言葉が、頭から離れない。部屋に戻って、扉を乱暴に閉めた。
 ウル、ウル、ウル……! なぜあなたはこいしの犬なの……
 私のペットであってくれたなら良かったのに……
 抑えの効かない気持ちと熱を吐き出したくて、滅茶苦茶に自分を慰める。
 服をはだけさせ、乳房と呼ぶには幼すぎる柔らかみを揉みしだいた。ただ、ただ、滅茶苦茶に。
 人型となったウルに、そうされたいと願いながら、妄想を広げていく。
 頭の中に存在するウルを求めて、胸に、秘所に、手を這わせ続けた。一度二度と果てようと、果てるたびに虚しくなる。
 ウルが姿を見せるようになったのは、それから七日ほど経ってからだった。


   6


 ウルに下着の上から舐めさせる行為をやめさせて、お預けよと自制させる。返事を待つお燐に「入って」と返した。
 行為中、お燐の声に反応して舐めるのを一瞬やめていたウルは、前回の一件で餌をくれる人と認識したようだった。耳をぴんと立て、傾げさせた顔でお燐の方を見つめる。
 行為を一瞬やめた時も、内心ではお燐がきた、餌を貰えると思っていたのだ。
 それでも私の命令を守り舐めてはいたが、お預けをくらうと同時に、その関心は食べ物に移っていた。
 盆を持つお燐が部屋に入ってくると、垂れ下げていた尻尾を揺らして、お燐の方へと駆け寄っていく。
 内に沸いていた不満が、それを見て顔に出ていたらしく「忠誠心のないやつはご主人に嫌われるよ」と、お燐に笑われてしまった。
 丁度お茶が欲しいと思っていたので、折角だから頂いておくことにした。
 私の好みをわかってくれているからか、お燐はいつも紅茶とクッキィを持ってきてくれる。ウルは餌を貰おうと、早速お燐にまとわりついていた。
 お燐の身体を執拗に嗅いで、「はいはい、あんたは鼻がいいね」と薄く切られた干し肉を出した。
 ウルはきらきらと目を輝かせて座り、落ち着きなく舌を舐めずった。ひょい、と投げられた干し肉を口で受け取ったウルは、少し離れたところへ持っていった。
 横取りされまいとする犬の本能だったが、見ているこっちはおかしくて、可愛い子とつい口角が上がる。
 干し肉だからかウルでも食べるのには時間がかかった。でも平らげると、すぐまたお燐の側に座ってみせる。
「私にも一枚くれるかしら?」三枚持っていた干し肉の一枚を貰うと、ウルは私とお燐を交互に見合わせた。ウルは私のところへ駆け寄ってきた。
 ほんの少しだけ優越を感じた。きっとこいしも、私に対してこんな気持ちを、それ以上の気持ちを抱いていたに違いない。
 私の横でお座りをするウルに、今度はお燐が干し肉を振ってみせる。からかうつもり満々の心は踊っていたが、止めようとは思わなかった。
 寧ろ私はお燐の気持ちに同調した。ウルは、お燐の方が餌をくれると思い側へ駆け寄っていった。でもお燐はすぐに与えず、干し肉を振ってみせるだけだった。
 そこへ私が、干し肉で椅子の足を叩いてやるのだ。反応したウルは私の方へと駆け寄ってきたが、私もお燐と同じことをする。
 卑しい子。そう言って、今度はお燐の方へとウルは釣られていった。ウルは食べたい、食べたい、欲しい、欲しいと行ったり来たり。
 可哀想だと感じつつも、なんとなく苛めたくなってしまったのだ。
 お燐は悪気なんて感じておらず、まだまだからかうつもりでいたのだが、そろそろ可哀想だと思い干し肉を放り投げた。
 もっと遊びたかったお燐は、つまらなさそうな視線をウルに向けて、持っていた干し肉をかじった。
 人型となって長いのに、昔とちっとも変わらない。そんなお燐の様子が面白くて、つい声に出てしまう。
 笑われるのがご不満らしいお燐は、尻尾を揺らして、窓の方へ視線を逸らした。
 子供っぽいところを笑われるのが好きでないお燐だけど、私にとってはお燐のそんなところが好きだった。
 クッキィを頬張っていると、不意にお燐の心が見えた。よかった、笑ってくれていると。
 仏頂面な横顔を見せるお燐の心は、それ以上見えなかった。――なにか気を使わせるようなことしたかしら――
 考えて、ここ数日の間、沈んだ気持ちでいたことを思い出した。ウルが居なくて、会えなくて、こいしとの行為を見てしまって……
 知らない内に、私はそのことを表に出していたのだろう。だから、こんなことを思われたのだ。
 心が読めなくても、動物というのはつくづく敏感な生き物だなと感心してしまう。お燐は特に。
「そう言えば」不意に言葉が出て、お燐の顔がこちらへ向く。最近は考えが纏まる前に声を出してしまうことが多かった。
「お燐は妖怪になる時、なったあとでもいいわ、どんな気持ちだった?」
「あたいがですか?」頭の耳をぴくりと動かして、思い出すように唸った。私自身も、なんでこんなことを聞いたのかわからなかった。
「そうですねえ、やっぱり、やった! って気持ちが強かったですかね」嬉々とした感情を浮かべて、お燐はそのことを思い出していた。
 思い出まではさすがの私も視えない。けど、心に映る感情の色はわかる。
「妖怪になることはそんな憧れてもなかったんですけどねえ、さとり様のお手伝いができるってことが、やっぱり一番大きかったですよ、あたいは」
 嘘のない澄んだ心だった。視ているこっちがなんだか照れくさくなってくる。「ふふ、ありがとう」
 干し肉を食べ終えたウルが、お燐のところへ駆け寄る。「はいはい」と食べかけの干し肉を投げて、お燐は席を立った。
「それじゃあ、あたいはこれで」
 手を振って、その背中を見送った。小さくなっていた干し肉をぺろりと平らげて、ウルはまだ物欲しそうに、私のことを見上げていた。
「本当にもう、卑しい子」
 お預けしていたことを思い出す。ウルは、自分がお預けを食らっていたことなんて、忘れている様子だ。――食べたい、食べたい――
 息をついて、もっと意地悪してやればよかったかしらとひとりごちた。「お預けを食らっていたのは、あなただけじゃないのですからね、ウル」
 片足を少し上げ、舌を出しながら首を傾げる。未だにウルの思考は食欲でいっぱいだった。
 丁度、お茶が欲しいと思っていたところだった。飴がなければ、ウルは舐めることに感心がないだけじゃなく、夢中にはなってくれない。
 少し悔しいと感じたが、私にとってはウルがその飴だった。甘味を求めるためなら手段なんてどうだっていい。
 スカートを持ち上げて、ぬるくなったカップの紅茶を注ぎ落とす。ウルの意識が恥部へと集まり、待ちきれないと頻りに舌を出した。
 ウルの興奮が目に見える。早く舐めたいと求めている。私もそう、舐められたいと思っている。
 ああ、ウル。あなたが舐めたいと思っているところはどこなのかしら? 主人である私のどこを見て、期待をしているのかしら? いやらしい思考ばかり浮かんでくる。
 じらされて、甘えるような声をウルが出す。まだ、まだ、まだなのと。私ももう自分をじらすのは限界だった。
「よし」発すると同時に、ウルは猛烈な勢いで鼻先を突きつけてきた。下着に染み込んだ甘みへ、一心不乱と舌を這わせてくる。
 抑えていた分も相まって、与えられた刺激を強く感じた。まるで感電したみたいに身体が打ち震えてしまう。
 途切れることなく続く刺激に、足を浮かせ、腹がきゅっとへこんだ。
 突出しはじめる肉芽が、下着の上から舐め上げられて、堪らずと声が出てしまう。
 恥部に密着している鼻からの息が熱かった。紅茶で濡れた下着が肌に張りついて、布地越しに肉芽を摩擦する舌の温かさは、直に触れているような錯覚すら覚える。
 垂らした紅茶はぬるくてすぐ冷めてしまったはずなのに、私の下腹部から下は熱くなるばかりだった。
 肉芽を高速で責められて、快感の波に身を任せる。腹奥で渦巻く流れに意識は飲み込まれて、私という存在は一瞬だけ溶けてなくなり、悦楽の限界と共に弾けた。
 肩を震わせて足がつろうとも、ウルは舌を収めない。イッたばかりの身体に、次の波がまた押し寄せてくる。
 なんども、なんども、なんども。「あああっ! ウル、ウルッ!」痙攣に近い震えを繰り返す私の身体は、限界と責められた果てに潮を放った。
 本当は尿だったのかもしれない。自分では抑えられない流動に、唾液で乾きつつあった紅茶の湿りよりもさらに下着を濡らしていった。
 紅茶の味が薄くなっても、しばらくの間ウルは、私の恥部を舐め続けていた。やがて味がなくなると、紅茶のお代わりを求めてお座りをした。
 喉が閉塞しそうなほど震えて、肩で息をする呼吸はなかなか落ち着かなかった。
 他者が見たらなんと思うだろう私のだらしない姿を前に、まったくの興奮を見せないウルに少しだけ腹が立った。
 これでもまだ食べ物に勝てないのかと。下着の中へ手を突っ込み、指で膣をまさぐった。
 たっぷりと絡みついた蜜を、差し出すように鼻先へ持っていく。匂いは嗅ぐものの、ウルの心は高ぶりを見せなかった。
 自分の欲求は満たせたので、紅茶を垂らすことはもうない。絡みついた蜜の匂いを繰り返し嗅がせる。
 四、五回ほど繰り返すと、ようやくウルが反応して腰を上げた。指についた蜜を舐め、スカートの中へ鼻先を突っ込んでくる。
 興奮の色が沸き上がり、ウルは落ち着きなくその場で足踏みしたり円を描くように動いたりした。視線を股間にやると、包皮に包まれている赤みが露出しはじめていた。
 椅子から立ち上がった私は、膝を着けてウルの肉棒をそっと掴む。ウルの身体は波打つようにびくりと揺れた。
 興奮が高まっていくのを、赤みの露出具合から見てとれた。愛おしい感情を向けながら、伸びきった肉棒を擦ってやる。
 性欲の波に、ウルの意識は引きずられていくようだった。心中に響く、気持ちいいと思う声が心地よかった。
 頻りに舌を出し、鼻先を潤わせるたびにウルの息遣いは途切れて聞こえる。
 男が出す喘ぎ声は案外好きだ。だけど、犬であるウルはそういった内面を表すことはない。断続的になる呼吸音が、私にとってのそれだった。
 全開まで膨らみきっている肉棒に、恐る恐ると舌を這わせる。特に臭くはなかったので、唇と舌で肉棒を挟み根本から先端へと、流れるように愛撫した。
 段々と慣れてきて、舐めたり吸いついたりを繰り返し、先端の部分を口に含んだ。
 先走りが分泌されたのか、舌に塩っからさが広がった。口と手を使い、気にせず愛撫し続けた。
 根本部分が膨らみ、射精が近づいていると感じて、口内で受け止めるその瞬間を心待ちにした。すると、ウルはいきなり腰を振りはじめた。
 急に動かされ、肉棒が喉奥にまで突き刺さり、私はくわえながら噎せ込んだ。一端、亀頭を吐き出して行為をやめる。
 どうにもウルは、口内と膣の区別がつかないみたいだ。犬なのだからそれはそうかと思ったが、少し厄介ではあった。
 私としては口でウルのモノを楽しみたい。でもくわえている時に動かれ、なんども喉奥まで突っ込まれるのは勘弁願いたいところだった。
 辛抱堪らんと背後に回り込んだウルは、私の背中にのっかろうとする。自制させても聞かなさそうなので、手で拒みつつ考えた。
 思いついて、向かい合ったウルの前足を掴み、私の肩へ乗せるよう誘導する。少し前屈みになって、肩胛骨の辺りに。私は手を床に着けて、眼前には灼熱の肉棒が揺れている状態だ。
 滑り落ちないようにと爪をかけて踏ん張るので、少々の痛みを感じた。ずっしりと重みを感じる体勢も、結構辛いので長くは保たない。
 亀頭は鼻先に当たるくらいで、ちょっと距離を詰めるだけで口に届いた。お預け状態は可哀想なので、再び口内で歓待してやる。含むと同時に、ウルはまた腰を振りはじめた。
 先ほどと違い余裕を持ってくわえているので、肉棒が喉奥を刺すこともなかった。
 片手で灼熱の根本を掴み、打ち出される瞬間を今か今かと私は待つ。ウルが動きを止めると、口内に大量の熱がほとばしった。
 舌にひりひりと、ほんのりと苦味が広がっていき、口の中は熱で満たされていく。
「んん、んっ、ぐぅ」
 くわえながら喉に流れてくる精液は飲み辛くて、噎せ返りそうになった。それでも私は幸せを感じていた。
「もっろだひて、れ……んふっ、んん」一度じゃ私は物足りない。もっと、もっと、もっと欲しいの。
 こいしが吐き出して受け止めないところも、私が受け止めてあげる。第二射を求めて、頭を前後に振り動かした。
 そうやってしばらく待っていると、口の中で熱がまた弾ける。粘り気の増した精液は、苦味も少し強くなっていた。
 ウルの味が舌一杯に広がり、とろみのある灼熱は伝い落ちて喉を焼け焦がすようだった。
 ウルを背中へ乗っけたままの体勢に疲れて、屈めていた体勢を起こした。ウルは離れまいと踏ん張って腰を振るが、くわえていた肉棒を吐き出して、私は後ろに倒れる。
 その気になったウルを引き剥がすのは、なかなかに至難で、あまり賢いやり方ではないと知っていたから、状態を維持できないよう仕向けた。
 狙い通り、ウルは爪を食い込ませてまで踏ん張っていた肩から、前足を降ろした。
 代わりに、腰元を掴んでくる。挿入を試みようとしているのがわかった。受け入れ先を探す赤みが、胸元辺りでぶらぶらと揺れていた。
 私は下着を横へずらし、身を捻って四つん這いになってやる。飛びついてきたウルは膣口に肉棒をあてがうと、一直線に分身を沈めさせる。
 冷めることなく火照り続けていた膣内は蜜であふれ、ウルの巨根は滑らかに埋没していった。
 膨らんだ根本が入らなくて、一回二回と腰を振ったウルの動きが止まり、射精への期待感が高まった。期待通り、ウルは私の最奥で熱を爆発させた。
 放出された種子の熱が子宮に広がり、限界まで達したはずの身体が、快感の波に打ち震えそうだった。
 射精を終えたウルは腰から離れ、座り込んだ私の顔を舐めてくる。絡ませてみたくて舌を出してみるも、触れた舌先はちょっぴり臭かった。
 膣の中へ指を突っ込み、かき回しながら精液の逆流を待った。ウルの射精は出すたびに、その濃度が増していく。
 おそらくは、より多くの精子を子宮にとどめて、子孫を残す可能性を高めるためなのだと思う。
 あっているかはわからないけど、結合したあとは、絶対と言っていいほど子宮に蓋をされた感覚があるのだ。粘り気の強い精液が、少しずつ流れてきているのがわかった。
 指先に精液が届いて、かき回してそれを絡め取る。引き抜くと、すった山芋みたいな精液が、愛液に溶かされて糸を引いていた。
 粘り気の強い、濃縮された精液は生命力の証だった。鼻先に近づけて嗅いでみると、栗の花みたいな匂いが、つんっと香った。
 半開きになっていた口を開け、そっと舌の上に乗せる。先ほどよりもっと濃い苦味が絡みついた。正直、美味しいとは思わない。
 それでもねぶる行為をやめられなくて、指についている白濁を味わう。とろとろの精液は舌に引っ付いて離れないほど濃厚だった。
 粘り気が凄すぎて、飲み込んだあとは少しの気持ち悪さを覚えた。
 小説の中ですら描写されていないことをしている、そんな自分が酷く淫猥に思えた。なのに、興奮してしまう。
 やめられない、やめられるはずなかった。


   *


 行為のあとを片付けていると、留め具が外れてしまうのではと思うくらいに強く、なんども扉が叩かれた。
 攻撃的ともいえるノックの仕方に、向こう側にいる人物の怒りが、私に向いているのだとなぜか直感した。「開いて、いるわ」
 敵意に似た感情を察知したのか、ウルは尻尾を丸めて怯えていた。軋みを上げながら、ゆっくりと扉が開かれた。
 顔を出した妹の顔は、悲愴めいていた。目的のウルを見つけると、その暗さは吹き飛んでしまったみたいに明るくなった。
 怯え気味なウルのところへ駆け寄ると、太い首元に腕を回して抱きついた。「やっぱりここに居たんだ」懐かしむように頬ずる。
「こいし、ウルが居ると思っていたのなら、なんであんなに強く扉を叩いたの。今もほら、怖がってる」
 ウルの様子を改めて見つめ「そんなつもりじゃなかったんだけど、ごめんね、ウル」普段と変わらぬ様子で撫でてくる主人に、ウルも少し落ち着いたようだった。
「お姉ちゃん、ウル」
「なに? 最後まで言いなさい」またそうやって、意味もなく言いかけたまま止める。目的なんて、すでにわかっている。
「ウル、借りてもいい?」
 なんでそんなことを聞くのだろう。「あなたの犬じゃなかったの?」ウルは。言い辛そうな面をして、こいしは目を逸らした。
「だって、この間、あげるって言っちゃったもん」
 なんて顔をするのだろう。母親から玩具を取り上げらた子供みたいだ。
 ウルは、あなたの犬だから、好きにすればいいじゃない。そう浮かんでも、喉元につっかえて言葉が出ない。
 私の本心は逆だ。ウルを渡したくない。妹の失言をありがたく頂戴させてもらえば、ウルは私の物になる。撤回なんてさせない……そう言ってやれば、私の望みは叶うのだ。
「別に、そんなこと気にしていないわ」
 嘘が出た。「本当?」本当よと言う唇が、震えている気がした。
「じゃあ、やっぱりウルは私の物なんだね」安堵を浮かべるこいしは、名前を呼んでウルを連れ去っていく。「こいし」
 とっさに呼び止めてしまい、振り返った妹に私はどうしようというのか。自分でもわからない。ただ、なにもせず傍観するしかない立場が嫌なのだ。
「もし、あなたにウルを育てる資格がないと判断したら、その時は遠慮なく奪うから」
「はあい」目を細めて、扉の向こうへとこいしは消えた。去り際に発した語調は、敵意を潜めているように思えた。


   *


 妖怪のことを書き記した古書がつまらなくて放り投げる。ちょっと粗末に扱いすぎたかなと、あとになって反省した。
 ウルを〝返して〟から一週間が過ぎた。こいしと一緒に遊んでいるところをよく見かける。今度は軟禁されていない様子なので、不安や苛立ちを覚えることはなかった。
 胸に刺さる感情は理解している。何百年と生きてきて、妹に嫉妬心を覚えるとは、ついぞ思っていなかった。
 それも、飼い犬を巡ってだなんて、とんだお笑い種だ。
 机の上に積み重ねている本へ手を伸ばした。歴史、学問、外界の物に、妖怪絵巻、あれでもないこれでもないと手に取り放して重ねていく。
 積み重ねていた片方が減るにつれ、隣に積まれた書籍の山が増えていった。古い家を取り壊して新しい母家を建てている気分だ。
 一冊を手に取って、建て替え中だった作業をやめる。前に読んだ、お気に入りの官能小説だった。
 読み慣れてしまうと同じ物では胸が弾まず、次から次へ新しい刺激を求めて、違う作品を読み漁っていた。だから、一度読んだ物を読み直すことはなかった。
 色々あった獣姦小説の中で、心に残った作品がこれだった。前のめりに起こしていた身体を椅子へ沈めて開く。
 読み飛ばさず、内容を思い出しながら読み進める。主人公の女が、獣姦に興味を抱き、自分の心を否定して、背徳を感じながら快楽に落ちてゆく、そんな境遇に自分の心を重ね合わせながら、頁をまためくる。
 女への共感が高まるにつれて、次第に身体が熱くなる。艶めかしい描写に差しかかったところで、滑らかに、自然と手が動いた。
 スカートに潜り込ませた手はそのまま下着の中へと姿を隠す。一本の毛すらない、自分の恥裂に指先が触れて、内側から熱が沸いてくる。
 陰唇にたどり着く指を膣内に埋没させる。湿りはじめた体内の熱に、そのまま溶かされてしまいそうな気がした。
 間接を曲げ、爪立てるように膣内をまさぐる。指先に愛液が絡みついて、かき回すたび膣口から音が漏れ出た。
 下着越しに届く粘着音が、私を小説の中にいざなってくれる。境遇を重ね、物語に入り込めたころ、部屋の扉をひっかく輩がいた。
 驚きと現実に引き戻された私は、不満と扉を睨みつける。なおも扉をひっかき続けるふととき者が誰なのか気づいて、立ち上がり、足早に近づいた。
 自力で扉を開けられぬと懇願して、鼻から漏らすような声を出しながら、カリカリ、カリカリとひっかき続ける。
 扉を開けると、こちらを見上げて尻尾を振るウルの顔があった。「どうしたの」
 招き入れて、また同じことを聞いた。――あっちいけって怒られた、こいし様に――寂し気に尻尾を揺らし、遊んでと語りかけられる。
 竦めた肩を息と共に落とした。まったく、わからない子だわ。「いいわよ」と返す。尻尾が大きく揺れた。
「ただし、私が望む遊び方だけど、ね」
 言葉に含まれた意味など考えもしないウルは、表面通りに受け取り喜んだ。
 ベッドの縁に腰かけて下着を脱ぎ捨てる。スカートの中に手をやり膣をまさぐる。発情した雌としての匂いを鼻先へ持っていき、ウルに嗅がせてやる。
 さあ、もうなにをするかわかったでしょう? 執拗に嗅いだあと、ウルも興奮状態に入ってくれた。
 確認して、結合しようとした時に、「そうだ」と思い出して入り口に目を遣る。
 扉は閉まっていた。閉めた記憶はなかったが、何気ないことことをする時はそんなものか、と勝手に納得する。
 高ぶっていたところにウルが来たのだ。そんな些細なことを気にする余裕は、ない。今も、そう、熱を求めて下半身は火照るばかりなのだ。
 再びベッドに腰かけて、足を開く。「さあ、ウル。いらっしゃい」
 呼びかけと同時に、ウルは前足をベッドに乗っけて私の腰を挟む。早く、早く、急く心を満たしてくれる灼熱が、膣の中へと沈んでゆく。
 好ましくなかった腰を打ち突けられる悦びに目覚め、敷布を握る手に力が入った。幸福と顔を横向けて、息を吐き漏らした先に、こいしが立っていた。
 打ち突けられて揺れる視界が、須臾の如くゆっくり流れた。
 こいし? なぜ? なんでここに居るの? どうやって入ってきたの? 蔑むような目で私を見ないで……
「うわあ、お姉ちゃん顔真っ赤! 獣姦なんて興味ないって言ってたのに」薄ら笑う妹の顔が歪んでいく。
 飛び起きようとするのを察知され、一瞬早く、こいしが私の腕を押さえつけた。「おねが、い……見ないで」ベッドに膝を乗っけて、私の身体を跨ぐ。腹の上で馬乗りになったこいしが、にたにたと笑みを注いでくる。
「ウルを奪うって、こういうことだったんだ?」薄目で肩を揺らされて、なにを言っていいのかもわからない。「卑怯者」

「違う」
「違わない」
「違うの……」
「嘘」胸元の釦に手をかけられる。
 はだけさせられて、膨らみに手を被せられた。
「知ってるよ? お姉ちゃんがしてきたこと。全部、見ていたんだから」
 嘘、嘘よ、そんなの、絶対……「やめ、て」

「やめない」
「やめてぇ!」
 離せ、離せ、離して! もがき暴れてもふりほどけない。腕力の差がなくても、この状態では無力に等しかった。
 唇を重ねてくる。やめて、なんでこんなことをするの。性癖を知られてその上犯されるなんて嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!
「んっく、お姉ちゃん、ウルのアソコ、気づいた?」なにがよ意味がわからない、早く退いてよ。
「お姉ちゃんが叫ぶから、ウルがおちんちん抜いて逃げたのよ。でもね、ほら、気づかなかったでしょ。ウルのおちんちん、二本になってるの」
 再度結合を試みるウルの肉棒は、一週間前にはなかったはずの一本が、根本から生えていた。「やめて……」
「やめなくていいよ、ウル。お尻の方も気持ち良くしてあげるんだよ」
 首を絞められて言葉がちぎれた。そのせいで、足を閉じるのが間に合わなかった。
 二本に増えたウルの肉棒が、蜜の伝うお尻へとあてがわれた。元々あった肉棒の方が長く、先に尻穴の中へと沈んでいった。
 それに続いて、新しく生えたもう一本が、膣の中へと埋没していく。少々短くなっていようと太さは変わらない。ただでさえ私にとって規格外な大きさのに、そこへもう一本が追加されるなんて無理だった。
 尻穴から進入した肉棒に押されて、膣内の空間がせばまったところに、もう一本が遠慮もなく押し進む。
 ウルの大きさに慣れたはずだった膣へ、初めて根本で固定された時の痛みが蘇る。
 それでもウルはお構いなしに突いてくる。痛みの原因が膣ではなくお尻の方にあるとわかっても、どうすることもできない。
 初めて踏み入られた場所に快楽などあるはずもなく、私が呻き苦しむところを、こいしはただ見下ろし続けていた。
「どう? お尻の方から圧迫されて、抉られるみたいにごりごり押されるから、気持ちいいでしょ」
 抵抗するだけの力が残っていない。それをわかっているから、また愛撫を再開するのでしょう?
 こいしの指先が、内側から隆起させられた肉芽を捉える。嫌だというのに、私の身体は感じてしまう。
 この二ヶ月半で、私は快楽に溺れすぎていた。ウルを使い、自分で慰めて、堕落して……悔しいと噛みしめど、喉元から漏れるのは拒絶でなく悦だった。
 尻を押し広げられる痛みよりも、膣壁を抉る動きと、肉芽を叩く快感の方が上なのだ。
 止まることなく続く愛撫と挿入に、私は抵抗することを忘れていった。もう、どうでもいい。考えることを放棄してしまおう。
 人の気持ちなどどうだっていいんだ、こいしは。私を押さえつける子は覚りじゃない、別の妖怪なんだ。
「お姉ちゃん覚えてるかな、ウルに襲われて犯された時のこと」ああ、あの時から見ていたのね、あなたは。
「なにかに引っかかったよね?」
 水底に沈めていた感情が浮かんでくるようだった。「下着が、ずれていたのも……?」頬に口付けて、耳の裏側まで舌を這わせてくる。「そうだよぉ、ぜぇんぶ見てた」
 一体、なにが目的でそんなことを話すの。単なる嫌がらせなんでしょう。それとも、まだ苛め足りないと言うの?
 胸の頂きを舌で転がし、軽く歯で押し当ててくる。意地でも声なんて上げてやらない。
「昔ね、お姉ちゃん言ったでしょ。能力を捨てても、心まで捨てることないって」
 それが、今と、なんの関係があるの。
「最近になってその考えが理解できるの。覚りとしてじゃなく、一人として接すればいいって言葉、ようやくね、わかるようになったの」
「なら、なんで」
「最初は嫌がらせだったんだ。変に心で通じ合っていたから余計ね、絶対無理だって思ってた。でもウルとすることに抵抗がなくなったでしょ、お姉ちゃん。だから、私も獣姦を好きになろうと思ったの」
 ウルの動きが止まる。膣と腸に灼熱が注がれる。こいしの話が理解できない。
「それじゃあ、あなたが、ウルとするきっかけになったのは、私だと言うの?」
 口振りからすればそうとしか聞こえなかった。寧ろあなたに、堕落なんてして欲しくなかったというのに。
 ウルを押し退けて、こいしは身体を重ね合わせてくる。お尻から肉棒が引き抜かれて、腹を押し上げられるような圧迫感はなくなった。
「好きな人のことを知るには、その人の関心を知る必要があるんだよ」
「だからって、獣姦なんて」
「私もね、お姉ちゃんと仲良くしたいだけなの。昔と同じまでいかなくても、繋がっていたいの」
 前足を縁に乗っけて、挿入したがるウルを、こいしが誘導していく。ウルの肉棒が膣に埋まっていくと、こいしまでも呻き出す。
 新しく生えた肉棒は、こいしが自らの中へと導いたようだった。私とこいし、二人と繋がったウルは、一度目の射精をしたにも関わらず、再度腰を振りはじめる。
 頬を薄く染めたこいしが私の上で、恥じらうように声を殺していた。感じてしまう身体になった私も、これ以上抑えることはできない。
 灼熱が腹奥で蠢き、力強く子宮を突き上げる。こいしの嬌声と重なるように、吐いた声が溶けていくような気がした。
「お姉ちゃん、ウル、おちんちんが増え、たから、妖怪になったのかな」声を押し殺しながら、途切れ途切れに言葉を繋ぐ。わからない。ウルは、妖怪になったのだろうか。
 ただ、身体の変化はそれに近づきつつある証拠でもある。動物の妖怪が持つ力の証は尻尾に出る、と書物には書かれていた。ぼんやりとお燐のことを思い出す。
 子宮に熱いものが放出されて、こいしも同様に射精を受け止めた様子だった。甘い吐息が鼻にかかる。
 灼熱を受け止める歓喜に、身体を震わせている。そう思うのは、私自身の体験だからだ。
「すご、いでしょ。ウル、腰を振りながら射精できるようになったんだよぉ、んんっ」
 射精はまだ続いていたが、ウルが腰を休める様子はなかった。「ちょっと、こい、し……んぐ」肉芽に触れる手を押さえると、口に舌が滑り込んでくる。
 私の弱点を知っているのか、執拗に刺激を与えてくる。やられてばかりが悔しくて、お返しとこいしの陰核に触れた。
 驚いたこいしは、口内で徘徊させていた舌の動きを止める。くぐもった声が口の中で反響した。
 自分だけ前をはだけさせているのが気に入らなくて、力を込め、こいしの服を引き裂いてやった。露わになった肌身は、病的なほどに色白だった。
 興奮していたからか文句は言ってこなかった。密着する胸から妹の鼓動が聞こえてくる。熱にやられて瞳をとろけさせている。きっと、私も。
 垂れ落ちる愛液は止めどなく恥裂に伝い、そして熱かった。私とこいし、二人同時に相手をしているウルが、腰の速力を落とす気配はない。
 高速で打ち突けられるたびに、絡みつくような粘着音が激しく鳴り響いて、私達の声と交じりあう。
 重ねられた手を握り返し、お互いが溶け合う瞬間を待ち望んだ。
「お姉ちゃんイキ、イキそう、私、もうダメ」
 私も限界だった。「ウルが妖怪になっちゃった、なら、私達、妊娠しちゃうよ、ね」そうなったら、どうしよう。
 もう頭で考える余裕がなかった。「イク、私も……」一緒にと振り絞られた声は、達する時の瞬きと共にかき消えてしまった。
 私達がイクと同時に、ウルは動きを止めて、私の最奥に種子を噴出させる。ほとばしる体液がまるで溶岩のように感じられた。
 膨れ上がった快楽の泡が弾けて、溜まり溜まった快楽が腹の内から氾濫を起こすように広がっていく。
 奔流する流れに身体が打ち震えて、波のように押し寄せてくる悦は止められない。頭から足の先まで微弱な電流が走り続けて、私の意識を飲み込んでいった。
 子宮の内側を白濁で塗り潰されていくのがわかる。お腹に満ちていくウルを強く感じた。

 ああ、どうしよう……ウルの、ウルの赤ちゃんができてしまう……

 ウルの射精は終わらない。まだ、まだ、まだ続く。
 重なり合うこいしの熱を感じながら、次の情欲を求めた。


   *


「ねえ」吐息と間違えそうな声で、寝返りを打ったこいしが私を見る。「キスしていい?」鼻息がかかるまで詰めていて、なにを今さらと心の中で笑ってしまう。
 返事をする間もなく、勝手に唇を重ねてきた。妹と関係を持ったというのに、不思議と背徳や羞恥を感じなかった。
 塞がれた口が解放されて、「ねえ」と私も言葉を返した。「私のこと、好き?」
 口角を上げて「好きだよ」と返される。「ウルは?」と聞いて「好き」と綻んだ。
「聞いてもいい?」
「うん」
「どこからがあなたの本当なの?」
 言葉の真意はすぐに理解されなかった。私は話した。言葉と行動の矛盾。
 私のことを慕ってくれて、ウルのことも好きだと言うなら、すべてに説明してほしかった。
「一回目は嫌がらせ。お姉ちゃんに懐くから、八つ当たり」
 二回目は、私が誘った。
「ウル、私に気づかないんだもの。部屋に入って傍観してたら、お姉ちゃんとしちゃうんだもん。吃驚しちゃったよ」
 扉を開けてあげたのに気づかれなかったと、笑いながらこいしは愚痴る。
 そういえば閉めていたはずの扉が開いていたなと思い出す。あれは、こいしが開けたんだ。
 ずっと家に居なかった期間も、本当は帰っていたと言う。そして恥ずかしいことに、居ないと思い込み及んでいた行為も、当然見られていたのだ。
 私もこいしがしているところを覗いたのでお相子だ。もちろん、このことは内緒。
「卑怯者って言ったのは?」
「お姉ちゃんの顔を見てたらつい、ね」
 苛めてみたくなったと。気持ちはまあ、わからなくはなかった。
 相手の反応を面白がるのは、覚りとしての性分なのだから。「じゃあ、冷めた発言や態度は?」
「言葉も行動も、なにをするかなんて、私にだってわからない時があるよ。思っていることと正反対のことを言ってる時だってあるんだから」
 頬を摘んで引っ張ってやる。無意識なんて変な能力を持ったのなら、制御くらいちゃんとしてほしいものだ。
 抓るのをやめて、そっと頭を撫でてやる。
「おやすみなさい」
 おやすみと返す顔は、とても穏やかだった。


   エピローグ


 内側からの震動に、腹を蹴られたのだ、と少しの感動を覚えた。
 胎内で蠢く命は、もうすぐその息吹を聞かせてくれるはずだ。胸に温かい気持ちが広がり、膨らんだ腹をさすった。
 こんな身体になってからは、お燐や人型になれないペット達が身の回りの世話をしてくれている。
 地霊殿の管理も楽でないはずだったが、ペット達は私達によく尽くしてくれている。まさか、姉妹そろって〝おめでた〟になるとは、夢にも思わなかった。
 腹の子についても理解してくれている。まだ妖力すら得ていない奴とするなんて、そんな思われ方もしなかった。
 一番恐れていた周囲の目は、とても優しく、私達姉妹を祝福してくれていた。
 部屋の扉が開けられて、ペット達に気遣われながら、ウルを連れたこいしが入ってきた。ウルは、相変わらずバカみたいに尻尾を振っていた。
 隣りの椅子へ腰かけたこいしは、「生まれるまで間に合いそうにないね」と言いながらウルを撫でた。
 こいしは子供が生まれる前に、ウルが妖怪になってほしいなと、妊娠の発覚時に言っていた。
「ウル、わかってるの? お父さんになるんだよ」頭を傾げるだけで、ウルは理解していないみたいだった。本当に、相変わらずのおバカさんだった。
「お姉ちゃん、ウル、妖怪になれるよね?」
 振られ、「多分ね」と返す。拾われてきてまだ短いから、実際のところまだわからない。
 妖怪になれないまま死んでいくペット達も沢山いたのだから。ただ、ウルの身体には、あきらかな変化が現れていた。
 一本だった尻尾が二本に増えたのだ。まだまだ弱くてわからないほどの力でも、確かに妖力は感じられた。
 ウルが妖怪へとなる日は近いかもしれない。期待に胸を踊らせていると、また、腹を蹴られた。
「あ、動いた! お姉ちゃん、今ね、お腹を蹴ったよ!」
 柔らかに目を細める妹は、すっかりと母の顔をしていた。
 私の中で踊る新しい命に、手をさすり語りかけた。

 ――坊や、早く出ておいで――
思いつきで書き始めたら、いつの間にか長々となってしまいました。
次はもっと(ちゃんとした)人物を書けるよう心がけて、多くの文字を書くことが目標ですかね。
ここまでお読み下さった方々に感謝を。
菜っ葉63
コメント




1.名前が無い程度の能力削除
じょじょに堕ちていくさとりがよかった
2.名前が無い程度の能力削除
どのような経過で誇りと肉体を蹂躙するかがカギの獣姦において、これだけ人物側の描写が出来れば凄いものです
ただ出来れば展開毎の段落分けがあればもっと読みやすかったと思います
次回も楽しみにしています
3.名前が無い程度の能力削除
素晴らしいボリュームに大満足です
やはり古明地には獣姦が似合う!これからも仲良く3Pしててください
4.yotogi削除
獣姦、いいですねぇ……
これだけボリュームあるなら分割してシリーズものとして投下してもいいくらい。
5.名前が無い程度の能力削除
これはいい獣姦

ボリュームも良かったです
6.名前が無い程度の能力削除
ヤッてることは相当アレなのに、なんだかハッピーな終わり方……不思議な作品ですね♪
7.名前が無い程度の能力削除
いいですなー。うっ……ふぅ。
8.名前が無い程度の能力削除
これこいしが一枚噛んでるだろうなーと思ったら案の定だった
いやー獣姦ボテ腹とか大好物ですよふぅ……
9.博麗の巫女削除
いい作品だった
10.名前が無い程度の能力削除
途中で堪えなかった
11.名前が無い程度の能力削除
エロイですわ。何度も読み返したくなる
12.名前が無い程度の能力削除
小説として見ても素晴らしい出来ですね
犬の描写もリアルです
13.名前が無い程度の能力削除
恐ろしいほどのエロさでした、びっくりしました
姉妹の能力もふんだんに使っていてもうこれはすごい
14.名前が無い程度の能力削除
獣姦とはいいものだ…ごちそうさまでした