真・東方夜伽話

暗い闇夜と偽愛の首輪

2012/09/08 22:33:16
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暗い闇夜と偽愛の首輪

し~
 首元に感じた違和感に目を覚ますと、少女はどこかの部屋のベッドの中で背中から誰かに抱きすくめられていた。

「……あれ……?」

 夢と現実の間をふわふわと漂いながら、彼女――ミスティア・ローレライは「自分がどうしてここにいるのだろうか」と、ぼんやりと記憶を辿る。
 たしか自分は、森の中でぽかぽかとした木漏れ日の温もりを楽しんでいたハズだった。
 それが、いつ、どこで眠りに落ちてしまったのだろう。
 少女は、今、何故こうして誰かと布団の中に入っているのかを全く理解することができずにいた。

「……朱鷺子……?」

 背後から正面へと回されている腕に手を伸ばしながら、ミスティアはとある少女の名を口にする。
 自分を抱きしめている相手が誰であるかは、もちろんまだ判らないままだったが、こうして布団を共にすることのある者といったら、彼女のことくらいしか思い浮かばなかったのだ。

 だが、ミスティアが触れたその手は、繋ぎ慣れた少女のものではなかった。
 夜雀の少女をしっかりと抱きしめているそれは、朱鷺子のスラリとした手ではなく、もっと小さな、丸く柔らかな感触をした手であった。

「え……っ」

 戸惑いが、にわかにわきおこる。
 驚きが、少女の頭を一気に現実へと呼び戻す。

 知らない手ではない。
 この感触を、この手の持ち主を、ミスティアは良く知っていた。
 だが、だからこそ彼女は、余計に驚きを覚えずにいられなかった。
 今、自分を抱きすくめている相手は、こうして互いの体を密着させるような関係ではなかったハズだったからだ。

「ル、ルーミア……?」
「ん……みすちー? 起きたの?」

 先ほど呼んだ別の少女の名を聞かれてはいないだろうかと案じながら、ミスティアは背後の少女へと呼びかける。
 その声に、どこか寝惚けた様子で、宵闇の少女が返事を返す。
 もぞもぞと身じろぎをしながら、あらためてぎゅっとミスティアを抱きしめるルーミア。
 その様子は、腕の中にいる夜雀の少女を放すまいというような、そんなただならぬ雰囲気をにおわせているような気がした。

「ね、ねえ、どういうこと? 私、ルーミアとお昼寝してたっけ?」

 尋常ならざる空気に、ミスティアが動揺をあらわにしながら宵闇の少女へと問いかける。

「ん~ん、してないよ。みすちー、森の中で一人でお昼寝してた。」

 その問いにルーミアはきょとんとした様子で答え、どこか嬉しそうにその鼻先を夜雀の少女の後ろ髪へとすり寄せる。

「そうだよね? 私、一人で寝てたよね? …それが、どうしてこうして一緒に寝てることになってるの?」

 後頭部でルーミアが深く息を吸っているのを感じながら、ミスティアは羞恥心から身をよじらせ、抱擁から逃れようとする。

「はぁ…… みすちー、いい匂い。私、みすちーの匂い、大好き。」
「やだ…… ちょっと、恥ずかしいってば」

 だが、ルーミアはミスティアを放そうとするばかりか、ますます強く彼女を抱きすくめようとしてくるばかりである。
 しかし、だからといっていつまでもこのままでいるわけにはいかなかった。
 いくらルーミアが親しい友人であるとはいえ、彼女とはこのようなことをする関係ではないのだ。

 どことなく感じる嫌な予感。
 このままルーミアの抱擁を受けていたら、きっとマズいことになってしまうのではないかと思えて仕方がなかった。

「ね、ねぇ、教えて。どうして一人で寝てた私が、こうしてルーミアと一緒の布団に入ってるの? どうしてルーミアに抱き締められてるの? お願いだから教えて」

 言うことを聴かない妹をなだめすかすように今の状況について尋ねながら、ルーミアの腕を引きはがそうと身を起こしかける。
 そんなミスティアに、宵闇の少女は「離れちゃイヤだ」とばかりに強くしがみつき、逃れようとする夜雀を布団の中へと引きずり込もうとする。
 二人の少女がもがき争う、かすかな衣擦れの音が部屋を包んだ。

「いいじゃない、そんなこと」
「よくないって!」
「……どうしても知りたいの?」
「知りたいから訊くんだってばっ!」

 わずかに荒くなる少女たちの吐息。
 互いに譲ることなく、ミスティアは腕から逃れようと、ルーミアはそれを離すまいと、身をもがかせ合う。

「ちっとも難しいことじゃないのになぁ。みすちーが寝てたから、私が家まで連れてきて、それで一緒に寝てたの。それだけだよ」
「連れてきたって…… あのね、ルーミア。寝てる間にそんなことされて、その上抱き締められてたりしたら誰だってビックリするでしょ? ダメだってば、そんなことしちゃ。一緒に寝たいなら、そう言ってくれればいいのに、なんでそんなことするの?」

 無邪気そうに笑うルーミア。
 必死に身をよじらせながら、それをたしなめるミスティア。
 しかし、その言葉はどれだけ届いているのだろう。
 ルーミアは、いつものようなニコニコとした笑いを見せるばかりである。

「なんでって言われても、みすちーが欲しくて仕方なかったんだもん」
「私が欲しいって……」

 だが、その笑顔から滲んでいるのは、ただの無邪気さだけではなかった。
 彼女の顔には、純粋さと共に、その純粋さからくる狂気のようなものが浮かび上がっていた。

「ル、ルーミア? どうしたの? どうしちゃったの??」

 言葉と声色にゾクリとした寒気を覚え、ミスティアは抗うことをやめ、半ば恐る恐るといった様子で背後の少女へと振り返る。
 できる範囲で精一杯首を回し、やっとの思いでルーミアの顔を視界の端に捉える。
 そこに見えるのは、不思議なくらいに穏やかな様子のいつもの笑顔。
 だが、その表情には、薄ら寒さを感じさせる確かな異質さが見え隠れしていた。

「うん、どうしちゃったんだろうね。私、自分でもわかんない。でもね、とにかく私、みすちーが欲しくて欲しくてどうしようもなくなっちゃったの。みすちーにぎゅってしたくて、みすちーにぎゅってして欲しくて、みすちーのこと、いっぱいいっぱい感じたくて、仕方なくなっちゃったの。一人占めしたくなっちゃったの。だから、こうやって連れてきちゃったんだ」
「だからって……!」

 興奮しているようには見えない。
 感情が高ぶっている様子もない。
 見たところ、背後の少女は、しっかりとした平静さを保っているように思える。
 しかし、その平静さが、彼女の発する言葉と気配の異質さを、却って際立たせている。

「うん、いけないことだっていうのは私も解ってるよ。でもね、みすちーもいけないんだからね? いつもいつも、朱鷺子ちゃんのことばっかり見てて、私のこと見てくれないんだもん。私、今まで何度もみすちーに『好き』って言ってたのに、アピールしてたのに、全然振り向いてくれないんだもん。私のお姉ちゃんになってくれないんだもん」
「そ、それは……」

 何が彼女をこうさせてしまったのだろう。
 彼女の言葉通り、自分がこの少女をこうまでさせてしまったのだろうか。
 ミスティアは、今まで自分がしてきたことを思い返し、何も言い返すこともできないまま唇を噛む。
 後悔は、すでに後の祭りだった。
 ルーミアをこんな行動に走らせてしまった理由の一つが、彼女の好意に気付かないフリを通し続けてきた自分にもあると思うと、もうミスティアはこれ以上強い抵抗をすることができなくなってしまっていた。

「だからね、だから私はみすちーのこと、ここに連れてきちゃったの。ぎゅ~ってして、一緒にお昼寝してたの」
「……そう、なんだ……」

 振り返ろうとする夜雀の体を自身の方へと向けさせて、愛おしそうに見つめ、微笑む宵闇の少女。
 ミスティアは、申し訳なさそうに目を伏せながら、ただ曖昧な返事を返すだけである。

「そうだよ。でもね、私、もう平気だよ。もう私、寂しくないよ。みすちー、このまま私と一緒にいてくれるもんね」
「……うん」
「えへへっ、もうみすちーのこと、離さないんだから♪ みすちーは、私が独り占めしちゃうんだから♪ みすちーは、私だけのものなんだからっ♪」
「うん……そうだね……」

 思考を止めて、返事だけを返す。
 何やら空恐ろしいことを言われている気がするが、それらの全てを聞き流し、意識をよそへと飛ばしながら、体をルーミアへと委ねることにする。
 そうしていれば、やがて彼女は満足して、自分を解放してくれるだろうと思っていた。
 彼女であれば、自分に対して酷いことはしないだろうと考えていた。

 だが、そんな考えは、すぐにアッサリと打ち破られることになる。
 ルーミアの想いは、鬱屈の末に、ミスティアの思っている以上に歪なものと化してしまっていたのである。

「えへへ~っ♪ 今更イヤだなんて言わせないんだからね?? みすちーには、もう私だけのものだっている印、つけてあるんだもん。みすちーは、私と一緒にいなくちゃいけないんだからねっ♪」
「……うん……。……えっ?」

 上の空で返事をしていたミスティアの耳が、聞き流すことの出来ない言葉を捉え、彼女の意識を現実へと引き戻す。

「ほらほら、みすちー、自分で首元触ってみてよ」
「首……?」

 妙に嬉しげに声を弾ませるルーミア。
 その言葉に従うまま、首元へと手を伸ばすミスティア。
 恐る恐る伸びるその手が、何かに触れる。
 目を覚ましたときからわずかに感じていた違和感の正体が、そこにあった。

「え……。ね、ねぇ……、これって……」
「うん! 首輪だよっ♪」

 あまりのことに、ミスティアの表情が凍りつく。
 それとは全く裏腹に、ルーミアが無邪気な笑顔を見せ、再び抱きついてくる。
 しかし、さすがにこれには、ハッキリとした拒絶の意思を示さずにはいられなかった。

「そんなっ! こんなのイヤだよ! 私、首輪なんてイヤだってば!!」

 絡み付こうとするルーミアの腕を振りほどこうと、激しく身をよじらせる。
 こればかりは、受け入れるわけにはいかなかった。
 相手の気が済むまで身を任せておこうなどと考えている場合ではなかった。

 拘束と束縛の象徴とも言える首輪。
 それは、先ほどルーミアが言ったように、誰かの所有物を表すことにもなる。

 もちろん、首輪を付けられたからには絶対に相手の言うことを聞かねばならない、という訳ではない。
 とはいえ、今のルーミアの言動を考えると、この首輪はただの象徴だけの存在であるとは、とても思えないのである。

 受け入れるわけにはいかない。
 半ば聞き流してしまったが、それこそ先ほどルーミアが言っていたように、このままずっと一人占めされてしまうことにもなりかねない。
 この首輪は、なんとしても外さなければいけなかった。
 そうしなければ、この宵闇の少女は、ますます想いを歪ませてしまうことだろう。

 そもそも、自分には朱鷺子という相手がいる。
 ここは、どうにかしてルーミアを説き伏せて、この場を逃れなければならなかった。

 しかし、それは叶わないことであるらしい。

「ダメだよ、みすちー。今更イヤだなんて言わせないって言ったでしょ? それにね、その首輪はみすちーじゃ絶対に外せないようになってるんだから。それを外す鍵は、私がちゃ~んと持ってるんだから。みすちーがどんなに頑張っても、外すことなんてできないんだからね」

 ニコニコと、どこまでも無邪気に、どこまでも真っ直ぐに笑いながら、恐ろしい事実をルーミアが告げる。

「そんな……」

 もはや成す術など無いことに打ちひしがれる夜雀の少女。
 今の彼女にできることと言えば、それこそ本当に「ルーミアが満足するまで、体を委ねること」だけであったことを、ミスティアはあらためて思い知らされていた。
 少女の胸の中で、穏やかに微笑む朱鷺子の顔が、静かに宵闇の中へと沈み、そして消えていく。

(朱鷺子……)

 それでもミスティアは、想い慕う少女の名を心の中で呼ばずにはいられなかった。
 朱鷺子という存在にすがらずにはいられなかった……











 ミスティアは、事実上囚われの身となってしまったと言っても全く過言ではなかった。

「その首輪の鍵は、私がちゃ~んと持ってるんだからね」

 残酷ささえはらんだ無邪気さで告げるルーミアの言葉。
 それが、ミスティアの心と体の自由を、完全なまでに封じてしまっていた。

「……うん、わかった……。いいよ、ルーミアの好きにして。ルーミアの言うこと、聞いてあげるから。」
「えへへっ、嬉しいなっ♪」

 暗い瞳で、服従の意思を告げる夜雀の少女。
 その言葉だけを受け取り、ルーミアが歓喜の声と共に、囚われの少女を強く抱きしめる。

 ともかく、この宵闇の少女の気持ちを満足させなければならなかった。
 彼女を納得させて、どうにか首輪を外してもらわなければならなかった。
 そうでもしなければ、外に出ることすらままならない。
 恥も外聞も何もかもを投げ打って、この姿を晒す覚悟を決めてしまえば、あるいは外出することもできるのかもしれない。
 だが、朱鷺子という存在がある以上、ミスティアはその選択肢をとるわけにはいかなかった。

「ねぇねぇみすちー。キス、していい?」
「……うん、いいよ。どこにしたいの? 頬? 口? それとも、キスして欲しいの?」
「えへへっ♪ あのね、胸にしてもいいかな? いいよね?」
「えっ、胸……?」

 極力物事を考えないようにしながら、ルーミアの求めへと応えようとするミスティア。
 そんな彼女の不本意な気持ちを感じ取っているのだろうか。
 ルーミアは、言葉のところどころにミスティアの心を鋭くつつくものを混じりこませ、少女を現実へと引き戻してくる。

「……うん、わかった。いいよ……」

 悲しさと口惜しさに歯を噛みしめながら、ミスティアは胸元をはだけさせ、つつましやかな双丘をあらわにする。
 服の下から、彼女の匂いを含んだ暖かな空気が、ふわりと外へと流れ出して行った。

「ちゅっ……♪」
「……っ!」

 羞恥とは異なる思いから表情を歪める夜雀の少女。
 彼女の脳裏で、以前朱鷺子とじゃれ合いながら、同様のところへ互いにキスをした記憶がよみがえる。
 いつも本を読んでいる朱鷺子から聞かされた、キスの意味。
 それをもとにして、彼女たちは胸へのキスを交わしたのである。

 「所有」
 それを意味する口付けを、今、こうしてルーミアから受けている。
 ただの偶然とはではない。
 彼女がどこでこの知識を得たのかは見当もつかなかったが、真っ先に胸へのキスを求めてきた以上、ルーミアはこの口付けの意味を知っているとした思えなかった。

「えへへ……っ♪ みすちーにキスしちゃった♪」
「………」

 幸せそうに笑う少女。
 それを、ミスティアが光の宿らない瞳で見つめている。

「嬉しいな~、嬉しいな~♪ みすちーにキスできるなんて、すごくすごく嬉しいなっ♪ ね、もっとしていい?」
「うん……。ルーミアの好きなところに、好きなだけしていいよ……」
「わぁい! みすちー、大好き!」

 そしてやがて、我慢できないといった様子で、ルーミアがミスティアの唇を求めてくる。
 ついばむようなキス、長く熱いキス、さらに、唇を吸うような濃厚なキス。
 服従や隷従を意味するキスをさせられなかっただけ、ミスティアの心はわずかにだけ救われていたようなものの、それでも彼女の心に与えた衝撃は、とてつもなく大きなものとなっていた。

「……キス……そんなに嬉しいんだ……」

 抑揚のない声で、ミスティアがそっとルーミアへと語りかける。

「うんっ♪ 嬉しいよ! みすちーとこうするの、ずっと夢だったんだもん。私、ずっとずっと、ず~っとみすちーのこと、想ってたんだよ? みすちーのこと、欲しいって思ってたんだよ? それが叶ったんだもん。私、すごく幸せだよ」
「そうなんだ……」

 その声に、ルーミアが心の底から幸せそうな笑顔を見せる。
 それは、どこまでも真っ直ぐで、曇りのない笑顔だった。
 いつもであれば、それは見る者の心までもを幸せにしてくれるような、眩しい笑顔であるハズだった。
 しかし、そんな表情は、今のミスティアの心を暗い暗い世界へと引きずりおろすものでしかない。

 無邪気な顔で、自分のことを「欲しい」と言う宵闇の少女。
 その言葉に、ミスティアは底知れない恐ろしさをハッキリと感じていた。
 自分がこれから、何を求められ、何をされるのか。
 その予測から、彼女は目を背けようとせずにはいられなかった。

「はぁ……みすちー、いい匂い……。みすちー、すべすべで柔らかい……」
「……好きにしていいんだよ?」
「うんっ! みすちー……!」

 感極まった様子で、うわ言のような言葉をこぼし続けるルーミア。
 彼女は明らかに興奮をあらわにしながら、ミスティアとの体の密着をより深いものにしようと腕を伸ばしてくる。
 その腕が、背中いっぱいに回されていった。
 顔が、首筋に潜り込んでいった。
 背中の翼に触れた手が、その感触を楽しむように羽根を弄ぶ。
 突き入れられた鼻先が、匂いを求めて深い呼吸を繰り返す。

 胸元できゅっと手を握り締め、耐えるような表情で一方的な抱擁を受けるミスティア。
 今の彼女には、ルーミアの気が済むまでの時をただひたすら待ち続ける以外、何もできることはなかった。

 足が、腰に絡みつけられる。
 腰から太腿までのなだらかな曲線を堪能するように、ルーミアは足を執拗に擦り付けてくる。
 そうして彼女が身を動かすたび、下腹部が夜雀の腹部に触れる。
 その部分に何やら不自然な硬い感触があることにミスティアは気付いていたが、敢えて彼女はそれを意識しないことにした。
 そのことを気にせずにいれば、そのことを訊かずにいれば、宵闇の少女はそのままそれ存在を忘れたままでいてくれるのではないか…と、僅かな望みを抱いていたのである。

「はぁ……みすちー……」

 ミスティアが身をこわばらせる中、ルーミアは音を立てながら首筋にキスの雨を降らせ、甘く歯を当ててはうっすらとした歯形を刻んでいく。

「んぅ……」

 そんな洗礼を受けながら、ミスティアは小さな声を口からこぼれさせ、きゅっと手を強く握り締める。
 体が、反応を示していた。
 信じたくなかったが、認めたくなかったが、彼女の体はルーミアの口付けを受ける度、ピクンと跳ねあがってしまうような甘い感覚を覚えていた。

(朱鷺子……っ!)

 瞳を閉じ、身を縮こまらせ、首筋や耳元から襲ってくる甘い感覚を堪えながら、想い慕う少女の名を呼ぶミスティア。
 彼女の胸の中は、とても悲痛な気持ちに包まれていた。
 今にも、胸が張り裂けてしまいそうな気持ちだった。

「みすちー……もっと声、聞かせてよ……」
「や……っ」

 なぜ、体は反応してしまうのだろう。

「みすちーの声、私、大好き。だから、もっと聞かせて欲しいの」
「だ……だめだってば……っ!」

 どうして、体は応えてしまうのだろう。

「みすちー」

 耳に、そっと息が吹きかけられ、甘く歯をたてられた。

「ふぁ……っ」

 耳元を、妖しく舌が這い回り、柔らかく吸い上げられた。

「くぅ……んっ……」

 ゾクリ……と、確かな刺激が背筋を駆け抜けていく。
 ビクビクと体が震え、口からは意図しない声がこぼれだす。

「みすちー。私のみすちー。いっぱい大事にしちゃうんだから。いっぱい、いっぱい大事にしちゃうんだから……。みすちー……」

 目覚めてしまった体は、もうどうにもできなくなってしまっていた。
 ミスティアが全く望んでいないこんな行為に、彼女の体はすっかりその気になってしまっていた。

(朱鷺子……、朱鷺子……っ!)

 目元に涙が浮かぶ。
 こんなこと、朱鷺子以外の者とはしたくなかったハズなのに、今、彼女の体は、朱鷺子にしてもらっている時と同じ反応を示してしまっている。

(朱鷺子……助けて……。私を助けて……!)

 すがらずにはいられなかった。
 彼女の名を呼び、彼女のことを思い描いていなければ、このまま流されてしまいそうだった。

 しかし、そんなミスティアの必死な抵抗をよそに、宵闇の少女は昂る気持ちのままに彼女の体を求め続けてくる。

「みすちー、大好き」
「あ……っ、ふあ……っ!」

 はだけた胸元に、小さな手が潜り込んでいった。
 ミスティアの小さな胸を、ルーミアの手が、指が、まさぐり撫でまわしていった。

「ねぇ、みすちー……。みすちーはどうしてこんなに柔らかいの? どうしてこんなにふわふわで、暖かくて、優しい匂いがするの?」

 ルーミアの手足の動きが、激しさと執拗さを増していた。
 手が、胸と背中を這い回り、擦り付けられる足がミスティアの太腿を撫でまわし、腰が、体が、より密着を深めようとしてくる。
 彼女たちのスカートが、すっかりめくれ上がってしまっていた。
 太腿はおろか、奥深くに眠る白い布地までもが、完全にあらわになってしまっていた。

「……っ!」

 ふるふると、小さく首を振るだけの夜雀の少女。
 ひんやりとした外気にさらされた太腿に、熱を帯びた宵闇少女の足の感触が伝わってくる。

 ミスティアの体の奥深くは、いつの間にか熱くなってしまっていた。
 ルーミアの一方的な抱擁と愛撫に、少女の体は甘く切ない期待を持ち始めてしまっていた。
 もはや、朱鷺子と体を重ねているときとなんら変わらない、そんな反応を示してしまっていた。

「みすちー。ここ、硬くなっちゃってるよ? どうして??」
「し……知らない……っ!」

 ミスティアの首元に鼻先を埋めていたルーミアが顔を引き戻し、涙ぐむ少女の顔を覗き込みながら胸の先端を弄ぶ。
 そこから背筋へと駆け抜けていく妖しく鋭い刺激に、思わず顔を手のひらで覆い隠しながら、夜雀の少女は大きくかぶりを振る。

「そーなのかー。でもね、私、知ってるよ。こうやってやさしく抱きしめ合って、体をいっぱい撫でてもらって、それで幸せな気持ちでいっぱいになると、こんな風になっちゃうんだよね。私、知ってるよ。私、知ってるんだから。ここはコリコリになっちゃって、こっちはジュンってなっちゃって、胸の中はきゅんきゅんしちゃうんだよね」
「やっ……そんなんじゃ……、あ……っ!」

 不意に、ルーミアの膝が下腹部に押し当てられた。
 熱く湿ってとろけ出してしまったところから、恐ろしいまでもの強い刺激が疾り抜けていった。
 体が、心が、大きく跳ね上がる。
 理性を押し流してしまうような津波が、容赦なく襲ってくる。

 それでも、それでもミスティアは、抗うことを諦めなかった。
 朱鷺子という存在にどうにかしがみついて、懸命に自分を保とうとしていた。

「えへへっ。みすとー、私と一緒だね。私とおんなじ。ほら、見てみて、みすちー。私のも、こんなに硬くなっちゃってる。私もみすちーと同じで、すごく幸せな気持ちになっちゃってる。ふふっ、一緒だね、みすちー」

 しかし、それもいつまで堪えられることだろう。
 絶対に流されるわけにはいかないと思いながらも、心の片隅では、そういつまでも抵抗を続けられそうにないだろうと考えている自分がいる。

 横たえていた体を起こし、そして、少し恥らいながらもスカートを自らたくし上げるルーミア。
 その中から現れた白い薄絹の中で雄々しくそそり立つモノを見つめながら、ミスティアは「その時」が来ることを覚悟せずにはいられなかった。

 体の奥底は、非情にも甘い疼きを示し始めていた……










 心は抵抗をしていながらも、それを表に出すことはできなかった。
 できることなら、ルーミアの求めを拒んでしまいたかったが、それをすることは許されていなかった。
 表面だけでも彼女に従うフリをして、満足をさせなければならなかった。
 そうしなければ、今、首につけられた枷を外してもらうことが叶わない。
 だからミスティアは、拒むことも涙を流すこともできないまま、ルーミアの求めに応じることしかできないでいた。

「んむぅ……ちゅっ、……ぺろっ……」
「はぁ……みすちー……、みすちー……。ちゅっ、じゅるっ……。好き……好きぃ……、んちゅっ……」

 暗い部屋のベッドの上、乱れきった服装のまま頭と足とを互い違いにした姿勢で、お互いの秘部を舐り合う二人の少女。
 彼女たちの甘い声と、荒い吐息と、そしていやらしい水音とが、部屋の中に響き渡っていた。

「はむぅ……っ、んちゅっ……。あっ……、やだ、そんなに吸っちゃ……!」
「ちゅっ……じゅるっ……、はぁ……みすちー、いっぱい熱いの溢れてくる……。おいしいよ。甘くて、すごく甘くて……。もっと舐めさせて……? んちゅう……っ」

 ルーミアの体の上に覆いかぶさるミスティアの背で、大きな翼がピクンピクンと小さくはためいている。
 体は、完全に感じてしまっている。
 そう……朱鷺子としているときと、全く同じである。
 だが、それでも彼女の心は、快感という誘惑に懸命に抗い続けていた。

(仕方ないの……! これは仕方ないの! こんなことされたら、誰だって体は反応しちゃうんだから、だからこれは仕方ないことなの……っ!)

 熱く脈をうちながら逞しく立ち上がっているモノを咥えながら、必死に自分へと言い聞かせるミスティア。
 彼女の心は、まだ理性をしっかりと残している。
 だが、それは果たして彼女にとって良いことだったのだろうか。

「みすちー、気持ちいい? 気持ちいいの? 声が出てる。気持ちよさそうな声出てる。嬉しいな。もっと気持ちよくなって?」

 理性が残っている分だけ、ルーミアの言葉はかえって強烈にミスティアの心に鋭く突き刺さってくる。
 彼女の与えてくる甘い刺激は、執拗にミスティアの心を責め立ててくる。

「みすちー、ここ、好き? ここをね、こうやって……ちゅぅってすると、みすちー、すごくおつゆ出してくれるの。みすちー、ここ、好きなんだよね? じゅるるっ……」

 肉の芽が唇に吸われ、激しく下で舐め転がされた。

「ふぁぁぁぁぁぁ……っっ!?」

 暴力的なまでの甘い感覚が、ミスティアの心に激しく叩きつけられた。
 恥ずかしいところから飛沫が迸るのを感じながら、彼女はきゅっと身をこわばらせる。

 絶頂は、とてもあっけないものだった。
 耐えることなど、全くできなかった。

「はぁ……っ、はぁ……っ」

 一瞬の硬直の後、すぐにやってきた脱力感に体を弛緩させながら、荒い息をつく夜雀の少女。 

(朱鷺子……)

 その胸の中は、依然として朱鷺子の名を呼び続けている。

(朱鷺子……、朱鷺子……。どうして朱鷺子じゃないの? どうしてこの人は朱鷺子じゃないの? これが朱鷺子ならいいのに……。朱鷺子なら、全部許しちゃってもいいのに……)

 だが、そうして想い人にすがりつく心は今にも壊れてしまいそうである。
 このまま、この先に起きるであろうことを考えれば、その時はもう完全にどうにかなってしまいそうな気がした。

「みすちー。一つに、なろ?」
「………」

 ミスティアの体をベッドの上に寝させ、彼女に覆いかぶさるような姿勢でルーミアが何かを言っている。
 下腹部で大きく立ち上がっているモノに手を添えて、それをミスティアの秘部にあてがいながら、ルーミアが少女の瞳を見つめている。

「みすちー。私、ずっと想ってた。みすちーが好きって。みすちーが欲しいって、ずっとずっと想ってた。」

 いろいろな感情が、彼女の中で入り混じっているのだろう。
 ルーミアの目元にもまた、涙がにじんでいた。

「そしたらね。そしたら、私の体にこんなのが生えちゃってね。それで、それで、もっともっとみすちーが欲しくて堪らなくなっちゃったの。みすちーと一つになりたいってなっちゃったの。みすちー。私、嬉しいよ。その願いが叶ったんだもん。みすちーと、一つになれるんだもん」

 強すぎる想いが、願いが、彼女の体に変異をもたらしたのだろう。
 概念からなる存在である妖怪や妖精にとって、それは珍しいことではない。
 ミスティアはそれをよく知っていたし、それにこれは、朱鷺子との間で経験したこともあった。
 
 だが、それがルーミアの身にも起こり、そしてその矛先が、まさか自分に向けられることになろうとは……
 そのようなことは、これまでミスティアは露ほども考えていなかった。
 そう。
 今こうしてルーミアに囚われ、体を求められることになるまで、そんなことは全く考えてもいなかった。

(朱鷺子……、朱鷺子……っ!)

 ひたすら朱鷺子の幻影にすがり、瞳を閉じる夜雀の少女。
 どうしてこうなってしまったのだろう。
 どうして、こんなことになってしまったのだろう。

 自分が、もっと上手くルーミアに接してあげることができていれば、こんなことにはならなかったのだろうか。
 強い後悔の念が沸き起こる。

「みすちー、入るね」
「う……あぁぁ……っ」

 侵入が、始まった。

(あああぁぁぁっっ! 朱鷺子ぉっ! なんで朱鷺子じゃないの!? なんで……っ!?)

 ずぶずぶと、ルーミアがミスティアの中へと入り込んでくる。

「はぁぁ……っ、みすちー……!」
「ふあぁぁ……っ!」

 ゆっくりと、ゆっくりと、しかし確実に。
 灼熱したルーミアが、ミスティアの体の中へと分け入ってくる。

「みすちー……入っちゃった……。私とみすちー、繋がっちゃった……」
「あぁっ……」

 二人が最奥まで繋がるのに、そう長い時間は必要とされなかった。

「幸せ……一つになるのって、こんなに幸せなんだね……。良かった。私、みすちーと一つになれて、本当に良かった……」

 感極まるあまりに鼻をすすりあげながら、ルーミアはミスティアの背中に腕を回し、彼女を強く強く抱き締める。
 その抱擁を受けながら、夜雀の少女は自分の中で熱く脈打つルーミアの存在を、絶望に似た思いで感じ取っている。

 二人の目から、熱い雫がこぼれた。
 それぞれ意味の異なる感情が、同じ反応となって発露していた。

「嬉しい? みすちーも嬉しい? えへへ……嬉しいな……」

 だが、ルーミアはミスティアの涙の意味を、きっと知らないでいるのだろう。。
 彼女は、ミスティアもまた自分と同じ気持ちから涙をこぼしているのだと思い込み、さらに気持ちを昂らせていた。

「みすちー、好き。大好き。」

 やがて、互いの心がかみ合わないままに、悲しい営みが始められる。

「みすちー……、みすちー……」

 想い慕ってきた夜雀の名を呼びながら、宵闇の少女は律動を始めていく。

「あ……っ、はっ……、ぅんっ……っ!」

 その抽挿を受けながら、夜雀の少女が切なげな声をもらす。

 じゅぷっ……、ずる……っ、くぷっ……、にちゅっ……

 結合した二人の部分が、大きな水音を立てていた。
 その音が聞こえる度に、ミスティアの心が少しずつ限界に近付き始めていた。

「みすちー、気持ちいいよぉ……腰、動いちゃうよぉ……」
「はぁ……っ、あっ……、あぅん……っ」

 体が突き上げられる。
 心が突き上げられる。
 耐えることが、できなくなる。

(朱鷺子……。朱鷺子なら良かったのに……、朱鷺子なら良かったのに……! なんで? なんで朱鷺子じゃ、なんで朱鷺子じゃないの!? なんで!?)

 もう、限界だった。
 心の中の朱鷺子の姿と、現実にあるルーミアの姿。
 食い違う二人の姿に、ミスティアの心は耐えられなくなってしまっていた。

 ぐちゅっ……! ぬちゃっ! ぐぢゅ……っ! にちゃっ……!

「あっ……、あぅ……っ。深い……、深いの……っ!」

 やがてこぼれ始める甘いさえずり声。
 それは、ミスティアの心のタガが、ついに外れてしまった瞬間だった。

(はぁ……っ、朱鷺子……。気持ちいいよぉ! 朱鷺子……っ、朱鷺子……! 朱鷺子、好き……っ!)

 心の中で喘ぎながら、朱鷺子に呼びかける哀れな夜雀。
 彼女の思考は、ルーミアと朱鷺子を置き換えることで、現実を受け入れるようになっていた。

「みすちー、気持ちいいの? みすちーも気持ちいいの?」
「うんっ! いいの、いいのっ! すごい、すごいのぉ……っ!」

 声の色に変化が現れたことを敏感に感じ取ったルーミアが、気を良くしたように突き入れを深く、激しく、大きなものにする。
 それを受け入れながら、ミスティアは虚実の存在に呼びかけながら、現実の世界であられもない嬌声を上げる。

「みすちー、みすちー! 私、もうだめっ! もう、だめなのっっ!」
「うんっ、きて! きていいよ! 私の中に来て……!」

 そしてやがて、絶頂の時が訪れる。

「みすちー、みすちー、みすちー……っっ!!」
「あっ、来るっ! 来るのっ!! 大きいのが、来るのっっ!!」

 叫びを上げながら最後を迎える二人の少女。


(朱鷺子、朱鷺子っ! 朱鷺子ーっっ!!)

 ミスティアが二度目の絶頂に達したのは、彼女が胸の中で想う人の名を叫んだ時のことだった。

「ああああああっっっ!!!」

 二人の中で、何かが爆ぜる。
 宵闇の少女が歓喜の叫びと共に、想いの全てを夜雀の少女の中にあふれ出させる。

 その熱い飛沫を体の中で感じながら、ミスティアは光の宿らない瞳で、どこか頼りの無い現実の世界をフワフワと漂っていた。

「みすちー……。ありがとうね……」
「うん……。私も、ありがとう……」

 互いに違う相手を見つめながら、二人の少女が柔らかな抱擁と口付けを交し合う。
 彼女たちの瞳は、とても穏やかな表情をしていた。

 繋がれたままの場所からは、放たれた想いがトロトロと溢れ出していた……












 悪い夢を見ていた気がした。
 とてもとても悪い夢を見ていた気がした。

 眠っていたところをルーミアに連れ攫われ、外すことのできない首輪をつけられ、にげることのできないままに何度も体を求められ、失意と絶望という闇の中に引きずり込まれるという、悲しく恐ろしい夢。
 そんな夢を、見ていた気がした。

 胸の中にわだかまる暗くて重たい気持ちを振り払おうと、ミスティアは軽く頭を振り、そして大きく伸びをする。
 すっかり傾いてしまった木漏れ日の中で、森の空気をいっぱいに吸い込むと、それだけで気分が楽になってくるような気がした。

 そう。
 全ては悪い夢だったのだ。
 いつもと変わらない首元の感覚を確かめて、彼女は自分自身にそう言い聞かせながらゆっくりとその場に立ち上がる。

 思い返すだけでも、本当におかしな夢だった。
 ルーミアが、あんなことをするハズがない。
 自分を慕ってくれるあの少女が、あんな酷いことをするわけがないのだ。

「やだなぁ……。私、疲れてるのかな。」

 頭の中にこびりつく夢の記憶を早々に忘れ去ろうとして、少女は自嘲的な笑いを浮かべながら首元に手を伸ばす。
 そこには、今やすっかり馴染みついてしまった革の首輪がつけられている。

「ふふふっ♪」

 現実と夢との違いの証をそこに感じながら、穏やかな微笑みを見せる夜雀の少女。
 こうして首輪を撫でているだけでも、これをつけてくれた少女の顔が浮かび上がってくるようだ。

 朱鷺子。

 心の底から想い慕うその彼女のことを思い描きながら、クスクスと少女は笑顔を浮かべる。
 その彼女は、とてもとても幸せそうな色を見せていた。

「あれ。みすちー、起きてたんだ?」

 そんな彼女に、背後から誰かが声をかける。

「あ、ごめん。私、いつの間にか寝ちゃってたね」

 その声に、夜雀の少女は嬉しそうな様子で振り返り、明るい表情を見せる。
 まるで、恋人にじゃれつくような、そんな視線で振り向いた先の少女を見つめているミスティア。
 その瞳の中で、細く柔らかそうな金色の髪が、静かに風に揺れていた。

「気にしないでいいよ~。私だって、さっきまで一緒に寝てたんだもん」
「そっか、なら良かった♪」

 ふわふわと、柔らかく無邪気な笑顔を返す朱鷺子。
 その彼女が小柄な体を跳ねさせ、甘えるような様子でミスティアへと抱きついてくる。
 それを受け止めながら、朱鷺子の深紅色の瞳を優しく見つめる夜雀の少女。
 そんな彼女の脳裏に、一瞬だけノイズのようなものがよぎり、胸の中をチクリとした痛みが疾ったような気がしたが、彼女はそれを深く意識しないままでいようとした。

 けれどなぜだろう。
 なぜだか解らないが、なにやら心の中がザワザワとざわめき立ち、何かを叫んでいるような気がしてならない。
 「何かがおかしい」と、もう一人の自分がどこかで叫んでいるような気がしてならない。

 だが、おかしなことなど、どこにもないハズだった。
 おかしなことなど、不自然なことなど、どこを探してもあるわけがない。
 そのハズだった。
 
 それでも、依然として何かを訴えようとしてくるもう一人の自分に、ミスティアはあらためて強く言い聞かせる。

 これは朱鷺子なのだ。
 断じてルーミアではない。
 誰が何と言おうと、今、目の前にいる少女は朱鷺子なのだ。

 自分は朱鷺子だけのものであり、その証のために、この首輪を送られた。
 そして自分は、それを快く受け入れて、身も心も朱鷺子のものになったのだ。
 だから、こうして首輪をつけている。
 だから、こうして朱鷺子と共にいる。

 そう、おかしなことなど、全くないのだ。
 想い慕う相手に自分のなにもかもを捧げて、幸せのなかにいるわけなのだ。
 疑問に感じることなど、どこにもないわけなのである。

「みすちー。どうしたの?」
「えっ?」

 そう言い聞かせている自分の表情はそんな険しい色をしていたのだろうか。
 呼びかける声に我に返ってみると、そこでは腕の中の朱鷺子が、心配そうな顔でこちらを見上げていた。

「なんでもないよ、大丈夫」

 それを穏やかに打ち消しながら、ミスティアは少女に優しく笑いかけ、そして彼女の柔らかい髪にそっと口付けをする。
 そのキスに、朱鷺子は安心してくれたのだろう。
 彼女は、とても嬉しそうに胸元へ顔を埋め、甘えきった仕草でミスティアに頬を擦り付けるのだった。

「そろそろ帰ろっか」

 やがて、満足した表情で朱鷺子が顔を上げ、「一緒に帰ろう」とミスティアに促しかける。

「うん、そうだね」

 その視線を受け止めながら、ミスティアがニコリと頷き返す。
 見つめ合う二人は、とても穏やかな表情をしていた。
 二人の少女たちは、とてもとても幸せそうな表情をしていた。

 お互いに、それぞれの想い人の姿を見つめている宵闇の少女と夜雀の少女。
 風の吹き渡る誰もいない森の中で、彼女たちだけの時間が流れていた。

「みすちー、大好きだよ」
「うん。私も、大好きだよ」

 口付けを交わすミスティアとルーミア。
 西へと傾いた陽の光が、彼女たちの影を静かに浮かび上がらせていた……
こちらには初投稿となります。数日前にPixivに投稿したものの転載になります。
朱鷺子とみすちーのカップリングを根底にしたものなので、多少は違和感のようなものを感じさせてしまったかもしれませんが、少しでも何かを感じていただけたら幸いです。

読んでいただいた方には心からの感謝を……
し~
コメント




1.名前が無い程度の能力削除
ダウナーなみすちーも、いいね!
2.名前が無い程度の能力削除
おうふ……幸せだなー
3.名前が無い程度の能力削除
うっかり朱鷺子って呼んだらどうなるのかなー
4.名前が無い程度の能力削除
このふたりのカップリングがいまいちしっくり来ないことを除けば良いものだー
導入が欲しかったです。

呼び方間違えた時がえろくないことになりそうだ。NTR! NTR!