真・東方夜伽話

DANCE TO YOU ~私が歌うからあなたは廻っていて~

2011/08/24 23:02:01
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DANCE TO YOU ~私が歌うからあなたは廻っていて~

くさなぎとーじ

※ネチョ薄です。
 ネチョを目的でこの物語を読もうとお考えなら、回れ右した方がいいかと思われます。
 ついでに、もう1回回れ右して1回転してくださる特殊な方なら、この物語は楽しめる事でしょう。





















 ぎゅっ、と触れ合い――


 感じるのは、彼女の体温と、
 私の小刻みな震え。

 誰かの温もりなんて、もう感じる事ができないと思ってたのに。
 彼女はそんなのお構いなしに私に近づいてきて。
 私も、知らず知らずのうちに彼女に惹かれていた。

「キスしてみよっか?」

 だなんて、ジョークのような彼女の軽い調子に。
 私はおもわず笑ってしまったのだけれど。
 若干の好奇心と、彼女への愛情には敵わず。

 私は、彼女と口づけを交わすのだった。

 熱い、熱い、彼女の吐息が私の頬を掠めて。
 彼女の女性らしいフローラルな香りが、私の鼻をくすぐる。

 キスの最中だというのに、私の頭にはそんな事が過っていた。

 ぷはぁっ、と。

 唇と唇を離した後。
 彼女は笑っていて。
 私も笑っていた。

 その頃には、もう。

 彼女の体温の暖かさは忘れられないものになっていた。



















DANCE TO YOU ~私が歌うからあなたは廻っていて~




















「なんでかな~?」

 そんなため息に似た独り事が今日は何度も出てしまう。
 原因は分かりきっている。
 私の屋台に訪れるお客さんの少なさである。
 大繁盛しているというわけでも、待たせるお客さんが出るわけでも、いつも屋台に用意している座席が全て埋まるわけでもないのだけれど。
 今日は開店からお客さんが少なすぎた。
 さらにはそのわずかなお客さんだって、ナツメウナギ1串と熱燗1杯飲んだだけで帰る程度のもので、大した儲けにはなっていない。
 元々、儲けるために始めた屋台ではないのだけれど、それでも、それなりの収支はでていたはずだった。
 それが今日は閑古鳥。

「味が落ちたのかしら?」

 考えながら、1本焼いてみる。
 ヤツメウナギから油が滴り落ち、食欲をそそる香ばしい香りが辺りに充満する。
 じゅうじゅうと音を立てて焼ける音を聞き、もくもくと立ち昇る煙を嗅ぐと、もう腹の虫が収まらなくなる。
 それを熱燗と一緒に、くいっ、とやると。

「ん~っ、美味しいっ!」

 思わず笑みが浮かぶような組み合わせ。
 うん、味は変わってないわね、と一人で納得する。

「じゃあ、やっぱりなんでかな~?」

 頬杖をつきながら考える。
 気温良好。
 星空が見えるいい天気。
 風はそよそよいい気持ち。
 天候も問題なし。

「ま、こんな日もあるって事かしらね」

 そう結論付けて、少し早いと思いながらも閉店準備に入る事にした。
 カウンター側から客席側へ移動しようと屋台を迂回するその時だった。
 私の夜雀の瞳は一人の女性の姿を捕えた。

「あれ? 雛じゃない、また私の屋台に来てくれたんだ」

 大きく手を振りながら、ようやく来たお客さん――鍵山雛に声をかける。
 雛は最近常連になりつつあるお客さんだ。
 突然ふらっと屋台にやってきては、1刻程度の間に熱燗を1瓶空けて帰るのが通例だった。
 その間に雛の愚痴を聞くのが、最近の私の楽しみになっていた。
 楽しみというと少し語弊があるかもしれないが、神さまの話を聞けるというのは私にとって又とない機会なのである。

「いらっしゃいませ……?
 あらら、今日はまたえらく沈んでるわね」
「まあね」

 言いながら、雛は席へと座る。

「注文はいつものでいいかしら?」

 ええ、と沈んだ声で返事をする。
 私はまいどあり、と営業スマイルを浮かべながらヤツメウナギを焼く準備にとりかかる。
 火の調節を行い金網にヤツメウナギを置いたところで、熱燗を雛の前のお猪口に入れた。
 その後、お猪口を自分用にも1杯用意して、こちらにも雛と同じものを注いだ。

「その調子から見ると、相変わらずの悩みみたいだね?」
「……私って、なんのために存在してるのかしらね」

 お~、いきなり深刻の悩みを暴露されましたよ……。

「なんのためって……。そりゃあ、厄神さまなんだから、みんなの厄を吸いとるためじゃないの?」

 思いつく事――というか、これしか思いつかなかった――でなんとか返答する。

「えぇ、それは分かってるの。
 私はみんなの厄を吸いとるために存在している厄神。
 それはいいの。
 だけどね……」

 雛はそこで言葉を止めると、熱燗をくいっと傾けた。
 私は即座にお代わりを注ぐ。

「じゃあ、私の厄は誰が吸い取ってくれるのかしらね?」
「あれ? 吸い取った厄はあなたには害は及ぼさないんじゃなかったっけ?」

 吸い取った厄は雛にとって何の被害ももたらさない。
 その代わりに雛に近づいた者に厄がつく、という仕組みである。
 だからこそ、雛は厄神ができるという理論でもある。
 しかしながら、私自身としては実際のところ、厄というのをあまり信じていなかった。
 悪い事は起きる時には起きるものだ、と考えているからだ。
 それが厄のせいだ、と言われても、私には理解できない。

「吸い取った厄は、ね。
 でも私自身の厄はどうしようもないのよ。
 他に吸いとってくれる厄神さまがいないから、自分の厄は自分で溜めこむしかないの」
「へぇ~、私なんてお酒を飲んでいれば消えちゃうと思うけどな~」

 たとえば、バカルテットのみんなで騒いだり。
 たとえば、こうしてお客さんのいろいろな話しを聞いたりしていると。
 自分自身の不幸なんてバカらしく思えてくる。 
 ポジティブと言われればそうなのかもしれないけど、それが私なのだから他人が口出しできるものでもないと思う。

「今まではそうやって誤魔化してきたわ。
 でも、もうそれも限界。
 厄神さまが厄に押しつぶされるっていうのも、バカな話だとは思うんだけどね」

 雛が自嘲気味に笑う。
 私はそんな行為を見て、なんとかして雛を変えてやりたいと思った。
 私の屋台に来るお客さんは最初は沈んでいても、みんな笑顔で帰って行くのが普通だ。
 だからこそ雛にも笑顔で帰ってほしい。
 これは私が店主であり雛が客という立場であるという点に加えて、単純に友人として雛を手助けしてあげたかったという気持ちの2点からによるものだった。

「じゃあ、そんな雛に私からとっておきのメニューを奢ってあげようかな」
「とっておきのメニュー?」
「うん、メニュー表にもない――あっ、うちはそんなのなかった……。
 常連さんの中の常連さんにしか出さない秘伝のメニューよ」
「それを私に?」
「今の雛にはぴったりなものだと思うからね♪」

 私は準備を始める。
 使うのは、ちょうどいい感じに焼けてきたヤツメウナギ。
 これにある細工を施すと完成である。
 雛に見えないように背中越しに作業を始めて――


…………。


 うん、完成っ! 我ながら素晴らしい出来だ。

「はい、どうぞ。ミスティア特製の愛のヤツメウナギでございます♪」
「愛のって……あっ……」

 出された皿を見て、雛が唖然とする。
 私はそれを見て、ふふんっと得意げに鼻を鳴らした。

「確かに愛だわ。あなたから私への愛ね」

 愛の正体は――焼けたヤツメウナギのちょうど真ん中あたりに空けた大きなハート型の穴である。
 私は切り取ったハート型のヤツメウナギを雛の前に見せる。

「これで、あなたのハートを私が食べちゃったって事になるよね?」

 ぱくりっ、とそれを口にする私。
 相変わらずの香ばしい味が口いっぱいに広がり、間一髪のところで熱燗で流し込む。

「くぅ~っ、やっぱりこの二つは最高だよね」

 満足な表情を浮かべる私を見て、雛はようやく笑みを浮かべてくれた。

「お客さんに出すヤツメウナギをあなたが食べてどうするのよ?」
「へ……?
 だって、これ雛のハートだし」
「私のハートでも、それは私がお金を出して買ったヤツメウナギでしょ?」
「あ、あははっ……」

 苦笑いを浮かべる私。
 でも、雛の方も満更ではないのは一目瞭然だった。
 私と同じように、ヤツメウナギを食べた後に熱燗で流し込む。
 途端に広がる雛の笑み。

「あぁ、美味しい。
 なんでかしらね、いつもより数段美味しい気がするわ」
「そりゃあ、特別メニューだからね」

 料理は愛情によって大きく変わるのだ。
 それは食べる人の気持ちを考えて作った愛情とか配慮とかがスパイスとなって、料理に混入されるからである。
 私は雛のためを想ってヤツメウナギを焼いた。
 だから美味しい。

「ミスティアはいつもこんなメニューをお客さんに作ってるの?」
「あはは、今日のメニューは初めてだったけどね。
 勘違いされても困るから……」
「えっ、それって……」
「そういえばっ!」

 私は雛の言葉を打ち消すように大きな声を出す。

「私ってね、唄を歌うのが大好きなの」
「夜雀ですものね」
「でもね、私の唄って聞いた人たちを鳥目にしちゃうから、あんまり人前では歌えないの」
「そうなんだ……」
「これってさ、雛の葛藤に似てないかな?」

 雛が驚いたような目で私を見る。

「雛は、みんなの厄を吸いとって、みんなを幸せにする事ができるけど、自分の厄は吸いとれないから幸せにはなれない。
 私は、屋台でみんなの話を聞く事で、笑顔で屋台を帰ってくれる事ができるけど、私自身は自分のしたい事ができなくて、たぶん心の底から笑う事ができないと思うの」

 今だって、雛を楽しませようと笑っている私がいるけど。
 本当の私は笑っていない。
 私が笑える時は、夜雀の自分として唄を歌える時。
 バカルテットのみんなといる時も笑えているけど、でも、それはみんなに合わせて笑っている気がする。
 それが私の葛藤。

「人も妖怪も、神様も……生きている限りは、何かしらの葛藤を持っているものじゃないのかな?
 雛の場合はそれが厄で、私の場合は唄」
「そうなのかしら……」

 雛がお猪口を見つめる。
 中には少量の熱燗。
 湯気と透明な液体と、そこに映るのはおそらく雛自身の顔。
 私の目から見ている雛の顔と、熱燗に映る雛の顔は違うものなのだろうか?

「そうなのよ。
 だからね、雛。私と踊らない?」
「へ?」

 この時の雛の表情ほど面白いものを私は見た事がなかった。
 言葉に表わせば呆けているの一言で済まされるのかもしれないが、目は驚きでまんまるで、口は「へ」の形のままだらしなく開いている。
 この表情を見て、誰がこの少女を神様と思うのだろうか。
 幻想郷では人も、妖怪も、神様も、そして幽霊だってみんな平等に生きている。
 私の屋台に訪れたら、それは誰だってお客さんとなる。
 みんな平等で、みんな同じなのだから、雛だけにしかない悩みなんてものは存在しないのだ。

「踊ろうよ、バカみたいにぱあ~っ! って騒いでさっ!
 そしたら悩むなんてちっぽけな事だって気づけるんじゃないのかな?」
「でも……、私、踊った事なんてないし……」
「へ? いつも踊ってるじゃない」

 今度は私が驚かされる番だった。
 私の中の雛はいつでも踊っているというイメージしかなかったのに。

「……まさか、くるくる廻っている事を言ってるの?」
「うん、そう。
 あれって、踊ってるんじゃないの?」
「踊ってるんじゃなくて……あぁ、もうっ、どうやって説明したらいいのかしら!?」

 どうやら私の勘違いだったらしい。
 雛はうんうんと悩み始めた。
 あぁ、せっかく私が雛を悩みから解放してあげたと思ったのに。

「じゃあ訂正ね、雛。
 私が歌うからあなたは廻っていて」
「言葉の意味的にはそっちの方が正しいのかもしれないけど……。
 ――って!! ちょっと、ミスティア!? 歌うって、あなた本気なの!!」

 雛の言う事が終わる前に私は、頭に巻いていた手ぬぐいを取り準備を始めていた。
 ピンク色の髪が解放されたかのように広がる。
 髪をかきあげた後、首を二、三度回す。
 「あ♪ あ~♪」と軽く発声練習をしてみると、思ったよりいい感じに声が出た。
 これなら雛に私の唄声を存分に聞かせられそうだ。

「いや、だからっ、ミスティア!?
 あなたの声を聞いたら鳥目になっちゃうんでしょう?
 間近で聞く羽目になる私はどうすればいいのよ!!」
「そのための厄神様でしょ? 私の『鳥目にしちゃう厄』も全部吸いとればいいじゃない」

 すぅっ、と息を大きく吸い――
 頭に曲のイメージを広げて――
 両手を胸の前に組んで――

 私のソロライブを始める。


 唄声が響く、どこまでも。
 夜風に乗って幻想郷中へ。
 でも、一番聞いて欲しいのは私の一番近くにいる少女。
 だから、私は歌いながら、雛に手を差し伸べた。

「あ~もうっ! 結局、後始末するのは私の役目になるんじゃないっ!!」

 怒りながらも、雛は私の提案に乗って廻り始める。
 くるくるくる、と。
 身体に1本の鉄線が入ったようなまっすぐな姿勢のままで、まるで風に吹かれた風車のように自然に回る。
 それを可能にするのは、細かい足さばき。
 湖を泳ぐ白鳥のように、水面下では必死な足さばきなのに、顔にはそんな事は微塵にも感じさせない優雅さが浮かぶ。
 私の唄のテンポが速くなると、雛の廻るスピードも速くなり。
 逆に私の唄のテンポが遅くなると、雛の廻るスピードは遅くなる。
 いつの間にか雛は私のマネして歌い始めて。
 私も、いつの間にか雛のマネして廻り始めていた。
 歌い、廻り――そして、廻り、歌う。
 夜風の伴奏と、月光のスポットライト。
 観客は夜空に浮かぶ星屑たち、というところか。
 満員御礼、星たちの輝きはいつまでも私たち2人の姿を見守るように照らす。
 ステップを踏むたびに感じる雑草の感触が、今ここにいる事を実感させてくれる。

「あっ……」

 ふいに、私のステップが乱れ、態勢がよろめく。
 それを支えようと、雛が手を伸ばしてくれた。
 だけど、私は悪戯心が芽生えて、雛の手を掴むと、そのままの勢いで二人仲良く地面に躓くようにして倒れた。

「きゃわっ!」

 突然の事だったので、雛は頭から地面に激突する。
 私の方はもう片方の手を地面につき、落下の衝撃を和らげていた。

「もうっ! いきなり何するのよっ!」

 ほっぺたを膨らませて怒る雛の頭には雑草が乗っかっていた。
 厄神さまなのに、そのどこかとぼけたような――いや、年齢相応の少女に見えて、私は思わず、ぷっ、と笑ってしまった。

「何がおかしいのよっ」
「あはははっ……ごめん、ごめん。
 楽しいなって思ってね」
「へ? 楽しい?」
「うん。雛は楽しいと思わない? こうして何も考えないでバカみたいに踊ってさ。
 普段は濃密な弾幕を潜り抜けているのに、気が抜けている時はこんな簡単に躓いちゃって。
 雛なんて、頭に雑草の弾幕を受けちゃってるし」
「……あっ!」

 雛がようやく私が笑っていた理由に気付いたらしい。
 顔を少し赤らめると、あわてて両手で頭についていた草を取り除く。

「月、綺麗だよね」
「ええ」

 そのまま、二人して寝っ転がったままで夜空を見やる。
 昼間はあんなに暑かったのに、夜になると心地いい気温になる。
 騒々しいセミの合唱も聞こえなくなり、微かに聞こえてくる虫音はスズムシだろうか。
 静かな、静かな夜の中。
 人通りが決して多いとはいえない脇道。
 それは、私と雛の2人のために用意された空間のようだった。

 ふと、隣を見やる。
 雛は目を細めながら、夜空を見ていた。
 雛の顔を横眼で見ながら、私の視線はとある身体の曲線から目を離せずにいた。

「雛ってさ、おっぱいおっきいよね?」
「はあっ!?」

 素っ頓狂な声を上げながらも、両手で胸を抑える雛。
 だが、それが逆効果となったようで、胸の谷間が余計に強調される結果となった。

「そ、そんな事ないわよ!
 ミスティアだって――……。
 うん、ごめん」
「ちょっ!? 謝らないでっ! そこで謝らないでよっ!!
 私の胸がないみたいに聞こえるじゃないっ!」
「だって、ねぇ……」

 雛が私を顔から身体のラインにそって眺める。
 下腹部辺りまで見た後は、またラインにそって顔まで上がってくる。

「ないけどねっ! 雛みたいに大きくはないけどねっ!」
「いや、だから何も言ってないじゃない……」
「むぅ、ある者には分からないこの悔しみっ!!」

 私は両手をわさわさと動かすと、雛の巨乳を目掛けて一直線に突撃させた。

「ちょっ! ミスティア!? くすぐったいってば!!」
「このっ! このっ! 厄を溜めこんでるのはこの胸なのね!!
 早く吐き出せっ! この厄受け胸めっ!」
「やぁめぇてぇぇ~……」

 雛の叫び声が本気になってきそうなところで、私は手を離す。
 手を離したところで、私が雛の巨乳の揉み心地を忘れたわけではない。


 あれは――柔らかい。


 雛が荒い息をついている。
 もしかして、ちょっとスイッチが入っちゃったんだろうか?

「ねぇ、雛?」
「今度は何? お尻もおっきいね、とか言いやがったら厄をぶつけるわよ?」
「キス……してみよっか?」
「え?」

 その時の雛のぽかん、とした表情を私は忘れないだろう。
 雛が事態を把握するよりも先に、私は雛の両手を掴み馬乗りになる。

「え? 本気なの……、ミスティア?
 私たち、女の子同士なのよ?」
「うん、だからこれはノーカウントじゃない?」
「そういう問題かしら?」
「そういう問題よ」

 それでも、雛は抵抗しなかった。
 私にされるがままに力を弱めて、両目をつぶった。

 軽く触れ合う唇と唇。
 雛の吐息が私の鼻をくすぐる。
 ラベンダーの香りだろうか? 厄神さまがラベンダーの香りとは少し滑稽だとも思うが、雛らしい香りだと私は感じていた。
 唇の先が少し湿っていた。
 握りしめた雛の手には汗がにじんでいた。
 すんなり受け入れてくれたとは思ってたのに、実際のところ雛も緊張してたのかもしれない。
 胸も柔らかかったけど、雛は唇も柔らかかった。
 例えると、なんだろう? ……胸は外から感じる柔らかさで、唇は内から感じる柔らかさだろうか。

 唇を離すと、雛はゆっくりと目を開けた。

「ファーストキスは一番大好きな人とするものだと思ってた」
「……ごめんね」

 行為に及んだのは私の方のはずなのに、自然と謝りの言葉が出ていた。
 今更遅いのに。

「でも、私は……」

 それでも、同時に言い訳も出ていた。

「私にとっての一番大好きな人は雛だったんだけどね。
 雛にとっては、それが別の誰かだったのね」

 隣を見ると――
 雛は真っ赤になってこちらを見ていた。
 私の視線に気付いた雛はあわてて視線を反らす。
 後ろ頭を見せる雛の耳までもが赤くなっているのが見えて、私はおもわず笑ってしまった。

「ほんとうに、私でいいの?
 私って、皆から離れないといけない厄人形なのよ?」
「それを言うなら、私だって夜雀だもの。そんなに変わらないよ」

 厄人形と夜雀の何が変わらないのか――言ってて自分で気づいてしまったが、もう言葉に出してしまったのだから遅い。

「じゃあ、もう一回。
 ――キスしよっか?」
「こんな私でいいのなら――」

 雛の肩に触れると、ぴくりと震えた。
 私の吐息が雛の頬にかかえると、雛はおもわず瞳をぎゅっとつぶり直した。

 甘い、甘い時間。
 唇と唇――言うなれば、身体の一部が接触しているだけなのに、なんでこんなに甘いのだろう。
 雛の唾液が私の口内に侵入し、雛の鼻息が私の鼻を撫でているだけなのに、私の頭の中は蕩けそうになっていた。
 雛も同じ様子だったらしく、次第に力の抜けていく身体を、私は両手で抑えた。
 抑えた途端に私の胸の中で潰れる雛の胸。
 凶悪的に柔らかいのは分かるが、これはいくらなんでもひどすぎる。
 たわわに実った果実は、私の理性を一瞬で吹き飛ばす破壊力を持つ。

「んっ……」

 雛を草の上に仰向けに寝かせて、私の視線は彼女の重力を逆らってまで押し上げている巨乳に釘付けになった。
 自分の意思とは無関係に――たぶん、そう言いたいだけで、これはれっきとした私の意思であろう――、両手が雛の巨乳へと迫っていく。

「あふんっ……」

 雛がくすぐったそうに身をよじる。

崩れない寒天とでも言えばいいのだろうか。
 幻想郷中にこれほどまでに柔らかさに富んだ物体はまず存在しないだろう。
 柔らかさの中に張りがあり、手に吸いつくような瑞々しさまでもが存在し、手を離すとぽよよん、と揺れながら元に戻るというオマケつき。
 私は夢中になって巨乳を捏ね繰り回した。
 その頃には理性が崩壊し始めて、私は直に揉みたいと思い始めていた。

「やぁん……。胸ばっかり触ってないで、こっちも触って?」

 雛がスカートをめくり、女性の大事な部分を見せつけて誘惑してくるが、私は一切そちらには靡かなかった。
 私の目の前にあるのは巨乳。
 2つの巨乳。
 ツインマウンテンズ。
 トロピカルフルーツ。
 ミスフォーチュンズオッパイ。
 雛の服を強引に脱がせて、黒のブラをはぎ取って――。
 ようやく、私は巨乳と対面する事になった。

「あぁ、これが私のおっぱい……」
「お、拝まないでよっ! めちゃくちゃ恥ずかしいじゃないっ!」
「だって、私、胸があんまりないんだものっ!」
「逆ギレなのっ!?」
「拝めば大きくなるかもしれないじゃないっ! 触れば大きくなるかもしれないじゃないっ!! 吸えば大きくなるかもしれないじゃないっ!!!」

 言い切る私。
 もしかして自分が間違ってたのかしら? と言わんばかりに、思案し始める雛。

「あれ……?
 ミスティアって、私の事を好きだから押し倒したのよね?」
「おっぱい>愛」
「私のおっぱい目当て!?」
「おっぱい>雛」
「私、おっぱい以下!?」
「嘘よ、嘘、嘘」
「ごめん、嘘って言うならおっぱいから目を離して言って」
「雛も好きだから安心していいよ。
 たぶん、雛のおっぱいの次に」

 雛がため息をつく。
 ため息をつきながらも胸は上下しており、当然の事ながら私の目の前の巨乳はぷりりん、と大きく揺れる事となる。
 やっぱり、厄はここに溜めこんでるじゃないのかしら、と思う。

「……私、もしかして選択肢間違えた?
 にとりルートの方が良かった?」
「大丈夫だよ、雛」

 そう言って、私は雛に優しく声をかける。

「雛のおっぱいを幻想郷一愛でるのは私しかいないから」
「もうっ……!
 ミスティアのバカ……」

 それで、雛は諦めたらしい。
 巨乳を見せびらかすように――そう見えるのは私だけで、たぶん雛は触りやすいように突き出すような態勢を取った。
 雛の目は閉じられていて、それでも羞恥で真っ赤になっていたが、まな板の上の鯉のように見えた。
 その姿を見て、私はなんだか先ほど焼いたナツメウナギを思い出していた。
 まな板の上のナツメウナギ。
 それをハートマークに切り取って雛に出した。
 今、私の目の前にいるのは静かに横たわった雛の姿。
 私は雛に対してどうやってハートマークを刻みつけたらいいのだろうか?
 まな板の上の恋? ……うん、それはさすがに私の性格に合わない気がする。
 まな板から生まれた恋? ――あぁ、これなら私らしい。

「いただきます」

もう一礼して、巨乳に文字通りかぶりつく。

「はああううんっ! ちょっ、ミスティア!? いきなり食べないでよっ!」
「え?」

 聞いているようで、雛の声は聞いていなかった。
 私はまずその豊満な巨乳を大きな口で頬張るようにして口に入れようとした。
 喉に先端の果実が当たるのが分かる。
 舌を上手く使って、果実を味わうようにして舌の上で転がす。

「ひんっ! はああんっ!」

 唾液をたっぷりつけて、これはもう私のもの。
 一旦巨乳から口を離した後は、ベトベトになったそれを舌で胸全体に広げる。
 勃起して大きくなり始めた果実を舐め上げる時は入念に。
 そのたびに、雛から大きな喘ぎ声が上がった。
 私はそれがおもしろくなって、果実を口に含み重点的に攻める事にした。

「やっ! だから、乳首ばっかりダメだってばぁ……」

 甘噛みすると、雛の味なんだろうか、甘くてとろけそうな味が口いっぱいに広がった。
 それをもっともっと味わいたくて、私は舌でアイスキャンディーの時のように舐めまわす。
 もっと雛の味が出るんじゃないかと思って、吸いついてみる。

「ひゃああっ! 吸わないでっ! 吸わないでったらぁ……」

 雛の身体がびくびくっと痙攣をおこす。
 一度軽くイッてしまったらしい。
 私は気にせずに吸い続ける。
 強く、弱く、緩急をつけて吸うと、雛の身体はそれに合わせて震える。
 雛は強くの方がお好みのようだった。
 強く吸った方が、喘ぎ声を大きいし、顔の表情も恍惚に染まる。

「やっ! ダメっ! 私、1回イッたばっかりなのにっ!
 もうイキそう……!!」

 私の攻めに雛が感じてる事が嬉しかった。
 雛の気持ちよさそうな顔を見ると、私はもっともっと雛を気持ちよくさせたくなってくる。
 もっともっと雛のおっぱいで楽しもう。
 そうしたら、雛はもっともっと気持ちよくなってくる。

 ………。

 あぁ、そっか。
 これが恋なんだ。
 私、雛の事が大好きなんだ。
 言葉では雛に何度か好きといったけど、好きという気持ちがどんなものなのか、私自身も分からなかった。
 分からないけど、使っていた。
 雛に言いたい言葉だったから。
 でも。
 今、ようやく好きという気持ちが分かった。
 雛に恋している自分に気付けた。

 そっか。
 恋とは――






 相手が嬉しがっている事を、自分も嬉しく思う事なんだ。




※※※※※※




「やってしまったわね……」
「うん、私たちやっちゃった……」

 ふと我に返り気づく、事の重大さ。
 雛との行為を経て、私は恋の意味を知った。雛が本当に好きな事が分かった。
 だから、私としてはこの行為は嬉しい。
 でも、雛としてはどうなのだろう。
 勢いだけに流されてしまい、今となって急激に後悔してないだろうか。
 雛が嬉しければ、私も嬉しい。
 雛が悲しければ、私は嬉しくなれない。

「よかったのかな、これで……?」
「私は……いい、と思ってるよ?」

 はっきり言ったつもりだったけど、言葉は弱弱しくなっていた。

「私もいい、と思ってるわよ?
 でも、私たちって昨日までは友達だったじゃない?
 それが1日でこんなにも進んじゃって、本当にいいのかなって思ってしまうのよ?」
「雛は真面目だね」
「でもっ、やっぱり順序って必要だと思うし……」

 スカートを握りながら、少し恥ずかしそうに言う雛。
 あぁ、たぶん今の雛の気持ちなら私は分かる。
 雛は、私にこう言ってほしいはずだ。

「じゃあ、また踊る?
 私が歌うから雛は廻る?」
「……そう言って、またアクシデントを装って私を押し倒すんでしょ?」
「うん、順序だからね。
 私が歌う→雛が踊る→雛を押し倒す」

 そういう意味じゃなかったんだけどな、とは雛には言わない。
 私は単純に雛とセッションしたかっただけなのだ。
 私が歌う夜雀で、雛が廻る厄神さまだったから。

「デススパイラルよね、それ……。
 それで一夜を供にした後、また嫌悪感に陥るんだわ」
「たぶんその時は2回目だ~、って思うよ。
 それって、順調に積み重なって行く私と雛の思い出なんじゃないのかな?」
「あぁ、そういう思い出作りもあるのね、おそらく負の思い出作り」
「もうっ! 雛はそうやってネガティブ思考に陥って行く~!!
 笑顔、笑顔! 笑ってないと、幸せは向こうからやってこないよ!?」

 雛に近づいて、ほっぺたを両手でむにょーん、と伸ばす。
 雛のほっぺたはおっぱい――まではいかないまでも、柔らかくて予想以上に伸びた。
 私は自然ににやけていた。

「痛い! 痛い! 痛い!」
「じゃあ、笑って?」
「こう?」

 ぎこちない雛の笑み。
 だけど、それは私と雛が今日出会う前までは出来なかったもの。
 今、私の目の前で雛がしている表情は、私と出会った事で生まれた新しい雛の表情。

「表情が硬い」
「……こう?」
「まだ、硬い。」

 雛をお客さんとして、友人として、そして大好きな人として――。
 私は雛を笑顔で帰す事がすごく嬉しい事だと思った。
 でも、同時に少し悲しい事でもある。
 雛を返したくない。もう少し、私のそばにいてほしい。
 そんな気持ちが私の中で芽生え始めていた。






「やっぱり、踊ろっ!
 踊ったら、自然と笑えるようになるってっ!」






 自然に紡がれる私と雛のメロディー。
 それは風に乗って、思い出螺旋を描きながらどこまでも、どこまで続いていく。

 Dance to you

 私が歌って、あなたが廻るたびにどこまでも、どこまでも。





おしまい。
 最近、好きになり始めたみすちーと、人の姿としては(笑)書くのが初めてとなります雛の珍カップリング物語でした。
 元々は自分なりの百合を突き詰めて書き始めたはずなんですが、気づいたらギャグになってたり、いつものトリック仕立てになってたり、はたまたみすちーがヤンデレになったり……。
 いろいろと難航してようやく出来上がりました。
 おっぱいと、友達同士なのに気づいたらやっちゃってた二人の物語、楽しんでいただけたら幸いです。

 ではでは、また。
 今宵、あなたは誰と踊りますか?


8月27日 追記。
≫1さま
おっぱいあれば他はいらない。そんなSSを目指してみました。(だからネチョ薄なんですが……)
ヤンデレみすちーはあらすじを簡単に書くとこんな感じ。
愛のヤツメウナギに痺れ薬を混ぜる→踊らせて体内に毒が回るのを速める→動かなくなったところで「これが私の愛なの」でネチョ突入。
物語の趣旨が前半とまるで異なるのがボツにした理由です。

≫JENO様
私の場合は逆で既存カップリングを書くのが苦手なんです。
ネタを出しつくしたはずのマリアリでおもしろい物語を書ける作者さまがほんとにパルい。


9月19日 追記。
≫3さま
この物語は自分の考える百合を意識して書きあげました。
雰囲気を気にいって頂けて幸いです。


コメントありがとうございました!!

P.S.次作はもう少々お待ちください。
   いろいろ難航しまくってますが、1週間以内には上げられると思います。
くさなぎとーじ
takakaede@hotmail.co.jp
コメント




1.名前が無い程度の能力削除
おっぱいは大きさに関係なく良いものだ。

みすちーヤンデレ?なんか気になった。
2.JENO削除
いいなぁ・・・・ほのぼのするなぁ・・・・・

珍カップリングって作者の手腕が光るよなぁって思ってしまう。

私はできません(ノД`)シクシク
3.名前が無い程度の能力削除
このノリ……いい!