真・東方夜伽話

ずっと一緒に居たいから

2011/01/05 17:59:07
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ずっと一緒に居たいから

あか

--前書き--
触手要素があります。
ねつ造があります。
--以上前書き--

「けほっ……こほっ……。」

静かになっていた部屋の中、急に響いた咳の音。

「だ、大丈夫ですか?」
「あぁ、うんっ……!く、薬飲めば大丈夫だから。」

私のご主人様は喘息持ちだ。
私が来た時から既に持っていて、長い時が経った今でもそれは治らないでいる。
いつか咲夜さんと話した事があったけれど、やはり環境による所が大きいのだろうという話になった。
そうだとしたら仕方が無いなって、少し思う。そもそもパチュリー様の体はあまり強くない。
急に環境を変えるなんて事は、かえって負担の大きい事にもなる。
だから結局結論として話にあがったのは、無理に負担のかかる事をしないようにしよう、
私達にはそれくらいしかできない、といったものだった。

「用意しますので、少しだけお待ちください。」

部屋の小さなチェストからいつも使っている薬を取り出して、
僅かな明るさを残していた灯りの元に、水差しから移したコップと共に並べていく。
何も肌に纏っていない事もあって、思わず身震いしながら薬を揃え終えると、
私は寝ているパチュリー様の背中の下へと手を差し込んで体を起こした。
はらりと落ちた毛布の下のパチュリー様も、何もつけていない。
というのも、先程まで抱きあっていたからだ。
おおよそ……10分程前の出来事だろうと思う。正確な時間なんて計ってはいない。

「どうぞ。」
「うん……ありがとう。」

行為自体にどれ程の負担がかかるのか、というのは初めて抱かせてもらった時から知っている。
その時も、こうなった。その次だって、更にその次だって……。この前もだ。
もう、分かりきった事なんだけど。
なんだけど……それでも私はパチュリー様が好きだから。
だから、いつもそんな我慢出来無かったというか。
したいなって、そう思って。相談して、そしてこうなってる。

「いつも、迷惑かけるわね。」
「そ、それは私の台詞ですから。」

苦しそうに薬を飲み下したパチュリー様が、溜息混じりにそう呟いた。
いつも仰るその言葉は、毎度毎度私の胸にぐさりと刺さる。
いつも誘うのは私なんだから、私に責任があるのだ。
こうなる事を私は知っているのだから。

「灯り、消して貰って良い?」
「はい。」
「……気にしないで。大丈夫、だから。」

いつも私は出来る限り顔には出さないようにって思ってるし、
そうしているつもりなんだけど……いつもどこか見透かされている気がする。
だからこそ、好きでもあるんだけど。
言いにくい事も、分かってくれるから。
だからいつもお腹を空かせたような心、その心の飢えを満たす為に甘えたくて、
抱きしめたくて、抱きしめて貰いたくて。それがどこまでもループして。
……でも、それもそろそろ止めないといけない。
自分の心の飢えは自分で抑えられない訳じゃない。
一人ですれば、本当は止められる。抑える事は出来る。

今から、冬が来る。
一年を通して一番喘息持ちにとってつらい時期が、来る。

「おやすみ。」
「……おやすみなさいませ。」

どうにか、しないといけない。



――

「あれでもない。」

「……これでもない。」

困った時は調べよう。というのはパチュリー様と長い付き合いをしている内に自然と身に付いてしまった。
いやまぁ、本当の事を言ってしまえばいつもパチュリー様に相談してしまうのだけど。
もしも今回の事を相談したら、
「気にしないで良いの。」
「私だって嫌いじゃないんだし。」
「貴女ひょっとして私の事……嫌いに、なった?」
こういう風な事、言われかねないから。
だから私は少しばかり早起きしてベッドを抜け出し衣服を整えると、
パチュリー様より先に図書館に入ったのだった。
調べ物をするのに絶好の時間というのは、一日をおいてこの時間以外には無い。
パチュリー様が寝ている時間以外には無いんだ。
パチュリー様が起きている時にこんな事をしていると、お仕事に支障が出てしまうから。

「うーん。どうしよう。」

私がその時調べ物をしていた棚は、魔法生物を取り扱う棚。
魔法研究に役立つ植物の栽培から、ホムンクルスに関する事とか。
色々と研究が進んでいる分野だから割とメジャーな本棚ではあるけれど、
私が探しているのはそういうものではなくて……。
夜が寂しくならないようにするための……ものなのですけども。
ほ、本当は一人でするのがベストなんだろうけれど、
どこかパートナーみたいなものが居てくれれば寂しくないかなって。そんな気になってこの棚を調べている。
短い間で良い。ただ、手軽な物があれば良いなと。

……ただ、問題があった。
それっぽい事が書いてそうなタイトルの本は、開いてみても私にはほとんど読めなかったのだ。
本を扱う事があっても、ほとんどが運ぶ事ばかりだったから。
いざこうしてみると、なんとも恥ずかしい。
だから、どうしようもないから、辞書片手で読めそうなものを探している。
かれこれ……一時間くらい。



――


「こ、これが良さそう。うん。」
「あら、どれ?」
「これで……あ、の。」
「おはよう。」
「お、おはようございます。」

手に取った本の中身を長い事見続けてこれにしようと声を出したら、
かえって来たのはパチュリー様の声だった。
振り返ってみれば私の少しだけ後ろでゆったりと宙に浮いて、私の事を眺めていた。

「い、いつからそこに?」
「うん?さっき来た所。起きたら貴女が居なかったから、どこに行ったのかなって思って。」

もしかして、何の本を探しているかばれたかな。
一瞬だけ、いつもの癖で表紙を向こうに向けちゃったけれど。

「隠されると、これって言われても私には分からないんだけど。」

う、見えては無かったようだけれど、結局見せないといけなそうだ。
隠し通せないかなーって思ったけれどずっとこっちを見ているし、……諦めよう。

「こ、これです。」

近寄って本を手渡す。
恥ずかしかったから、背表紙を向けて。
途端にパチュリー様の目つきが変わった。

「……あぁ、この本。昔お世話になったわね。」
「え?」

思わず聞き返した。
まさかそんな事を言われるとは思わなかったから。

「そ、そんな驚かれると私が恥ずかしいんだけど……。」
「や、あの。ご、ごめんなさい。」
「いや、急に変な事言ったのは私かもしれないから良いんだけど、この本に興味があるの?」
「う、あの。そうです。」
「読めた?」
「い、いえ。ただ、辞書があれば読めそうだなって、そう思って。」
「そう。じゃあ私が辞書代わりになろうかしら。」

な、なんでこうなっちゃうの。
迷惑かけないようにって思っていたのに……。

「この本の内容が必要なんでしょ?」
「た、たぶんそうなんですけど。」
「じゃあ良いじゃない。私も貴女がなんでこの本を選んだのか興味あるし。……貴女が読書しようとするの珍しいんだもの。」
「でも、その本の内容って……。」
「私だって、貴女が来るまで寂しかったからね。一度、一度だけお世話になったのよ。」

やっぱり、そういう本ってことは合ってるんだな、と段々赤くなるパチュリー様の顔を見てそう感じた。
ただでさえ見つかった事が恥ずかしかったのに、そんな顔見せられて余計に恥ずかしくて。
私がすっと顔を伏せるとパチュリー様がぐっと抱きついた。

「やっぱり、気にしてるんでしょ。貴女。」
「何の、事でしょう。」
「わざとそんな事言わなくても良いわ。そんな、短い付き合いじゃ無いでしょう。
まぁ、気にしないでって言っても貴女が気にする事も私は知ってるけど。」

あぁ、やっぱり。

「確かにその、ちょっと複雑な気分だけど、貴女が私の体の事を思ってるんだろうなって事に間違いは無さそうだし、
それだったらちょっとくらい私が手を差し出しても、問題無いんじゃないかなって。そう思うんだけど。」

私の顎先を持ち上げて、こつんと額を当ててパチュリー様がそう言った。
朝早くから起きてずっとこうしていた私にはその肌があたたかくて、
そのせいか、何故なのか。目を逸らせなくて。私はただ黙って、頷いた。

「とりあえず、ご飯にしない?ほら、あそこから咲夜がこっち見てるし。」

とても小さな声でパチュリー様がそう続けた。
その言葉に目だけ動かして本棚の陰の方へと視線を移せば、薄ぼんやりとした人影が目に映った。

「その、御迷惑おかけします。」
「もう。気にしなくて良いから。さ、行きましょ?」

ぐっとパチュリー様が額を離した所で、本棚の陰に見えていた人影はふっと消えた。


――

「朝食はトーストとポタージュスープです。お代り用のはこちらにありますが、
冷えてしまいましたら申し訳ないですが温め直してください。」

いつも食事に使ったり読書にも使ったりするテーブルの所までパチュリー様と二人で行ってみれば、
咲夜さんがいそいそと準備をしながら、さも今私達に気づいたかのようにそう言った。

「咲夜。」

パチュリー様が短くそう呼んだけれど、ピクリとも肩を震わせないあたり、この人はプロだなって思う。
私がビクビクしすぎなのかもしれないけれど、こういう所はちょっと羨ましい。

「何でしょうか、パチュリー様。」
「後で花壇の土を幾らか貰いに行くと、美鈴に伝えて頂戴。」
「はい。分かりました。」

な、なんで花壇の土?

「ん?あぁ、後で必要になるのよ。他の材料とかその辺は前に私が手を出した研究でもあるし、残ってるんだけど。」
「そ、そうなのですか。」
「あぁ、咲夜。あと植木鉢も一個。……というか、後で花壇の土入れて運んできて貰っても良いかしら。」
「……分かりました。急ぎ手配します。」
「うん。お願いね。さ、私達は食べましょう?」

一礼してすっと踵を返し去って行く咲夜さんを二人揃って少しの間目で追うと、
私達は丁寧に準備をしてもらったテーブルへとついたのだった。

「いただきます。」
「いただきます。」


――


恐らくさっきまで温めていたんだろうと分かる程に熱いスープに比べれば、
僅かにどこか冷め始めていた感じの否定できないトーストをゆっくりと頬張りながら、
ふとテーブルの端に置いた本へと視線を送れば、向かいに座っていたパチュリー様が静かに口を開いた。

「この子はね、育てる必要があるの。」
「子供みたいな感じですか?」
「うん。それは貴女がする必要がある。」

パチュリー様にはまだ熱かったのか、唇の先っぽだけに少しだけポタージュスープを残したままゆっくりとパチュリー様が続ける。

「後は……そうね、貴女次第。そのほとんどが。」
「が、頑張ります。」
「うん。この子はちゃんと応えてくれるから、ちゃんと最後まで、面倒見てね?それは約束して。飽きちゃったとか、無しよ?」

良く分からなかったけれど、それには私も頷いた。
作りだす魔法生物とはいえ、確かにそれは一時的にも命あるものだから。
その事くらいは分かっていたつもりだった。

「にしても、ちょっと熱いわね。このスープ。」
「そう、ですか?」

ふっと逸らされた話題に私もスープを口へと運ぼうとして、留まる。
唇に触れる前から、既に空気を通して伝わってくるそれは熱い。

「そういえばこの子って言ってましたけど、この子は何か食べ物がいるのですか?」
「んー?いらないわ。だからそこは気にしなくても良いわ。」

本の中身から得るその子のに関する情報をまだこれっぽっちも持っていないから、
正直な所あまり説明されても分からない所があるのだけど、
パチュリー様が言うのなら、そうなんだろう。

「うーん、もうちょっと冷めるまで待ちましょうか。」
「……そうですね。」


――



「では、始めましょうか。」

食後のひと時。この時ばかりは本の虫と言われるパチュリー様でも流石に本を置いている。
前かがみの姿勢になるとお腹や胸が机の角で圧迫されたりする事が一つの原因であるのだけども。
だから、この時間が一番ゆったりした時間なのかもしれない。
そんな事を椅子に座って考えていた所で、ふとパチュリー様が体を起こしながらそう言った。

向かいに座ったこちらからでは説明を受けてもほとんど訳が分からないからと、
許可を得て隣に一緒に座らせてもらって。ぱらりぱらりとページをめくって行く
パチュリー様の指先と視線を追いながら、私はただただ、手を握りしめて膝の上へと載せていた。

「研究内容より、研究成果の方に興味があるのよね?」
「……はい。たぶんそうだと思います。」

嘘をついたって、じっと顔を見られたらばれてしまう。

「どこからだったかしらねぇ。」

そうは言いつつもしっかりとした動きで次から次へとめくっていく所を見ると、
恐らくこの本の内容のほとんど、構成自体まで頭の中に入っているんだろうと思う。
ここにはそれこそ、訳の分からなくなる位に本があるのに。
そして、訳が分からなくなる位に読んできたというのに、だ。
やっぱり、凄いなって思う。

「あった、ここからだわ。」

急にぴたりと止まった手の動きに誘われて、いつの間にかぼーっと見ていたパチュリー様の顔から
本の方へと視線を移してみればそこには小さくて短い紐が一本、文字の書かれた紙の上に一本横たわっていた。
恐らく栞代わりだったのだろうけど……。もうその役目を果たせていそうには見えない。

「えっと。……うん、どうしよう。」
「どうしたんです?」
「いや、どの部分をかいつまんで説明しなきゃいけないかなって、こうして考えると難しいのよね。」
「とりあえず私が知っておかないといけない事というのは、何なんでしょう?」

私の問いにパチュリー様が目を閉じてページの端へと手を置く。

「代償と、育て方と……注意点で良いのかしら。」

代償か。大きかったら、ちょっとつらいな。悪魔である私が言うのはどうかと思うけれど。
契約内容は良く確認しろっていう事は、家族にも言われた事だ。
うぅ、こういうのって結構理不尽な代償要求したりもあるからなぁ。

「代償は、貴女の血。」

ど、どの位だろう。ティーポットがいっぱいになる位必要だと言われたら、流石に私には無理なんだけど。
仮に無事に採れたとしても、その後仕事が出来る気がしない。そんな事になったらパチュリー様に迷惑をかけてしまう。

「三滴以上。」
「……はい?」
「え?だから、貴女の血を三滴以上。……そんな心配そうな顔しないでよ。
そもそも私だって試したって言ったでしょう?それを貴女、忘れてない?」

そうか、それもそうだ。パチュリー様からそんな血液採っちゃったら
あっちの世界にパチュリー様が旅立ってしまう気がする。……というか少なくとも、採ったら実験出来ないだろうし。

「少ないのですね。」
「ええ。でないと、手軽には手を出せたり出来ないでしょう?」

それも、そうか。

「他の材料は私の研究室にあるから今更言わなくても良いし……次は育て方ね。」
「あ、あの。」
「うん?」
「メモ用紙、取ってきて良いですか?」

パチュリー様が開いたページにはかなりぎっしりと色んな事が書いてあるみたいだった。
私がそう言えば少しだけ呆れたような顔をしながらもパチュリー様は笑ってくれた。


――


話を聞いてみて分かった大事な事は二つ。
1つ目はなんでしっかりとした面倒をみる必要があるのか。
それはこの子が私の気持ちなんかを栄養のように取り込むから、という事らしい。
途中で投げ出してしまうと、暴走してしまうらしい、と。
暴走というよりは自壊する感じだと説明されたけれど。

もう1つは衛生管理。ちゃんとお風呂に入れないといけないそうだ。
いつもはパチュリー様やメイドさんを含む皆と入っているけれど、聞いた感じだと私は最後とか最初に
一人でこの子と入った方が良い気がする。メイドさん達に変な驚きを与えてしまうのも申し訳ないし。
あぁ、でもそうするとパチュリー様とゆったり話すことの出来る時間って、減っちゃうんだよなぁ。
でもまぁ、仕方ないか。お風呂の間だけならまぁ。うん。

「こんな感じ。どうする?挑戦する?」
「それは、その。咲夜さんにもう植木鉢頼んでますし、自分でやろうって思った事ではありますから。」
「うん。まぁ良い経験にはなると思うの。これはね。」
「それは、どういう意味でです?」
「ん、……それは、その。色んな意味でよ。一つの物から何を得るかは皆それぞれよ?」

それもそうだ。

「じゃ、私の研究室に行きましょう。」
「咲夜さん、待たなくて良いんですか?」
「ん、あぁ。貴女がメモを取りに行っている間に来たから、植木鉢ならもう研究室にあるわよ。
珍しくあの子も重たそうに抱えていたわ。流石に台車には載せなかったみたい。」

まぁそうだろうなぁ。もし何かの拍子で落としそうになった時、台車だと庇おうにも庇えないんだもの。あれ。
そうしたら床の上に土がてんやわんやして……。あぁ、一度そういう事をしてしまった時は咲夜さんに
凄く怒られたんだよなぁ。せっかく掃除した床と絨毯を思い切り汚してしまったから。気持ちは痛い程分かる……つもり。

「どうしたの?おいて行くわよ?」
「え、あぁ。はい。今行きます。」

だから、手に持って来たんだろうな。きっと。


――


パチュリー様の研究室に入ってみれば、いつの間にか小奇麗に整頓された机の上にどん、と植木鉢が置かれていた。
丁寧にも、排水された水が床を汚さないための受け皿も用意してある。元々容器自体も重たそうなのに更に土を沢山載せたそれは、
見るからに重量を感じさせ……というかちょっと机が軋んで見える。もうちょっと机の中央に置けばよかったのになって思う。

「さ、始めましょう。」
「そ、そうですね。」

きっと運んでくるまでずっとずっと、重かったんだろうな。
何だか凄く申し訳ない気持ちになってくる。
別段革新的な研究でもなんでもなく、私の……その。欲求を満たす為のものだから。
今度、スコーンか何かを焼いて……お詫びに理由は言えないけど、何かしら返さないと。

「貴女は腕を洗って来て。」
「う、腕ですか?」
「うん。血、採るから。」
「手で良いのでは?」
「仕事する時、痛くならない?」

そう言われてしまえばごもっともだ。何より下手をして本に血がついたら困る。
魔導書やマジックアイテムの中にはそれを一つの鍵としているものもあるから。
それに何より洗い物がしづらくなるのが困る。
パチュリー様のティーポットをちゃんと洗うのも私の役目だから。

「洗ってきます。」
「うん。私は道具用意しておくから、お願いね。」

その言葉を残してふらりと棚の方へと進んで行ったパチュリー様に背を向けると、
私は一人水道の元まで走ったのだった。



パチュリー様が小さな瓶を手に戻って来たのは、洗う為に袖をまくっていた方の腕が
ほとんど乾いてしまっていた頃だった。どうやらかなり奥の方にでも片づけてしまっていたのか、
服の袖辺りがちょっと埃っぽい。これが原因で喘息になられてしまったらそれこそ、
元も子もなくなってしまうのだけど。

「ん、大丈夫よ。息止めてたし。……たぶん。」

そう言って私に笑いながら、瓶から一粒の小さな種を取り出すとそれをそっと土の中へと埋めて行った。

「さ、腕出してちょうだい。植木鉢の上に。」
「え、パチュリー様が切るんですか?」
「……駄目?」
「そ、そういう訳じゃないですけど。」

なんでこう、積極的になってくれるんだろう。
実はちょっと、そういう系の願望があるとか?……な、慣れるように努力しないといけないのかな?
出来たら、出来るのならば血も咳も見たくないんだけどな。あんまり。

手を洗って来たらしいパチュリー様に軽く握られた自分の腕に
ふわりと熱い感触が走る。あまり緊張したくなかったし見たくなかったから顔は逸らしていたんだけど、
どうにも今度は見えていないなら見えていないで、どれくらい切られたか分からなくて。
顔に出てしまったのか、パチュリー様に

「落ちつきなさい。」

ただ一言そう言われ。私は開きかけていた口を閉じると、少しの間じっとりと広がる熱さと淡い痛みに耐えたのだった。


しばらくするとふっと腕にパチュリー様の手とは違う感覚が走ったので見てみれば、
いつの間にやら包帯を取り出していたようで、くるりくるりと巻き始めていた。
……お陰で傷口を見る事は無かったのだけど、何だかかえって不安にもなった。

「傷が残らないように最小限の切り方をしたつもり。ただ、菌が入っても困るから、ね?」

まぁ凄く痛いって程ではないし、パチュリー様に変な心配かけるのは駄目だし。

「有難うございます。」

だから私はただ、その一言を返してされるがままにして。
ぎゅっと結び目を作られるまで腕を預けると、ゆっくりと腕を下ろしたのだった。
思えばいつも看病する側だから、こういう事されるという経験はあんまりない。
実験の手伝いをして何か手違いで事故があった時とか、そういう時くらいなものだ。

「じゃあ、これでおしまい。貴女はその鉢、割らないように自分の部屋に運んで頂戴。
……あぁ、今思えば血を採る前に運んでもらえば良かったわね。ごめんね、気が利かなくて。」

使っていた包帯を片づけながらパチュリー様が背中を向けたままそう言った。
気が利かないだなんて、私にはとても言えた言葉じゃない。
いつも気を遣ってもらってる側だから。少なくとも私はそう思ってる。
だから本当は、私こそが気を遣わないと……気を利かせないといけないのに。

「……元気ないのね。」

背中を向けたままなのにふっとパチュリー様にそう声をかけられた。
顔なんてみられてないけれど、……私が返答を返さなかったからだろうか。

「そんな事は無いですよ?」
「……そう。」

くるりと振り返るパチュリー様。
その顔は何かを隠すでもなく、ただただいつも通りで。
植木鉢の前に立っていた私の前まで来ると、小さく手招きしたのだった。
わざわざ研究室にいるのに何か隠して伝えるような事があるのかとは思ったけれど、
さっきの咲夜さんの事があるからなのかなと適当に納得しながら顔を近づければ、
後ろ頭にぐっと手を添えられたのだった。

目は、閉じ無かった。
というより、閉じる事が出来無かった。
ただただ、真っ直ぐに見つめられていたから。いつもなら、昨晩のような時ならばお互いの目を閉じるのに。
後ろ頭に添えられた手、急に押し付けられた唇の感触。少しだけもたれるように私にかかる体重。
それは、いつも通りなのに。

「少しの間は、二人きりって訳にはいかないから。」

小さかった声はあまりにも近すぎた私にはよく聞こえて。
私は行く先の無かった腕を伸ばすと、もたれかかっていたままの体を抱きしめたのだった。


――


「紅茶淹れて来てくれるかしら。」

何の事は無い。お昼からは結局いつも通り。
少し違う所といえば、まだ私の胸がちょっとドキドキとしている事くらい。
結局あの後のパチュリー様は私の腕からするりと抜けると、
まるで何事も無かったかのようにふらりと研究室を出てしまって。
私もハッとして植木鉢を抱えると自分の部屋へと運んだのだった。

そして、いつも通り。

「うん?あの、紅茶お願い。」
「え、あぁ、はい!ただいま。」

駄目だ、頭がすこしばかりぼーっとしてるな。
ちゃんと気持ちを切り替えないと。仕事に差し支えがないようにって、
わざわざ手からじゃなく腕から採血してもらったのに。
働かないんじゃ意味が無いじゃないか。



「お待たせしました。」

急ぎつつも出せる精一杯の紅茶。用意したそれをパチュリー様へと手渡して、
私も向かいの椅子へと腰を下ろすと、自分にも一杯分用意した。
気分を落ちつけたかったのもあるし、一緒の時間を共有したいからでもある。
……あぁでも、それならスコーンなりお菓子を用意すれば良かった。
今更もう、遅いのだけど。

「どうせアレは明日にならないと変化しないわ。だから今何か心配するのは、無駄よ?」

広げたままの本からちらりと、ティーカップ越しに私を見つめたパチュリー様が呟く。

「私、そんな顔してますか?」
「そういう顔を頑張って隠そうとしている顔ね。」

ちょっとだけ不公平だなって思う。
私もこれくらいパチュリー様の事を知る事が出来ていたなら、
もっともっと役に立てるだろうし、もっともっと……お互いの仲を深められるかもしれないのに。
現実というのは大体いつも期待している事を裏切ってくれるのだ。
お陰で、色んな事実を前に目が覚めるのかもしれないけれど。
でももしもそれが心地の良い夢のような世界なら覚めないでいてほしい。
覚める時は、良くないことがあった時とか、そういう時だけで良いと思ってるから。

「……駄目ね。」
「お、美味しく無かったですか?」
「美味しいわ。そういう事じゃなくてね。貴女が落ちついて居ないと、私も落ちついて本が読めないのよ。」
「……ごめんなさい。」
「良いの。ただ、……そうね。場所を移しましょうか。たまには貴女の部屋にでも。」
「私の部屋、ですか?」
「ええ。本が読めないなら、別の事をすれば良いんだから。」

いつもなら、他の事をする時間を潰して本を読むのがパチュリー様だ。
だから、その返し方は私には少し不思議で、だからこそその申し出を断るなんて事は出来ず。

「分かりました。」

私はただ一言、それだけ返すと意気揚々と立ち上がったパチュリー様と一緒に私の部屋へと移動したのである。


――


パチュリー様が私の部屋に来るのは珍しい事かと言われればそういう訳ではない。
急な喘息の発作を起こした時、頑張って私を起こしに来たりする事がある。
元よりパチュリー様の部屋の隣に私の部屋を用意してもらっている事もあって、
あまりに酷い時は壁を叩いて知らせてくれるのだけど。

「ふぅ。」

私のベッドに腰を下ろすと、一度溜息をつくのだった。

「パチュリー様。」
「うん?」
「何を、するのですか?」
「そう、ねぇ。薬箱はあるかしら。」
「はい。」

言われるがままに薬箱をベッドの下から取り出してパチュリー様に手渡す。
日頃はパチュリー様の部屋にある薬箱を使うから、こっちのは滅多に使う事が無い。
ただ、薬が切れてしまう事は絶対に避けなければならないから、こっちの箱もよく整理していたりする。
しばらくの間、パチュリー様は薬箱の中に手を差し込んで何かを探していた様子だったが、
少しして一つの道具を取り出すとそれを私に手渡したのだった。

「これ、お願い。」

渡されたのは一本の、さじの様な形をして片方にぽんぽんとしたものが付いた棒だった。



私が正座をすれば、パチュリー様が帽子を脱いでそれを私の頭の上に載せた。
ほんのりとまだ温かいそれを目元に落ちてこないように少しだけ被りなおして、
膝の上にパチュリー様の頭を迎えて。
帽子よりもずっとあったかいそれは、冷えていたつもりは無かった足をどんどんとあたたかくしてくれた。

「どっちを向いたら良いのかしら。」
「お好きな方で。」
「じゃ、このままで。」

私のおへそ側に後ろ頭を向けてパチュリー様が目を閉じる。
私は片手をその頬へと重ねると、握っていた棒をゆっくりと耳へ下ろしていった。

パチュリー様の耳は少し小さい。
こんな事を思うのは私が空くまである事に加えて、この館の人と妖の構成比にも問題があるんだろう。
当主であるお嬢様も、その妹様も。私と同じような耳をしているから。
妖精のメイドさん達はもとより結構小さな方たちですから、そこまで気にならないのですが。
ああでもお嬢様達も小さいと言えば小さい。言えば怒られてしまうだろうけれど。
他にこの館で耳が小さな方といえばもう咲夜さん位なものだろう。

あと違う所といえば、柔らかさだろうか。初めてこれに触れた時、
自分がそれまでに持っていた耳に関する常識を覆された様な気分になった。
とても、柔らかいのだ。思わず声をあげてしまって、パチュリー様から何事かと聞かれたくらいだ。
……あの時は何と例えれば良かったのだろう。
カラメルソースをかけてないババロアの側面を撫でた時のような、ふにっとくる柔らかさ。
凄く柔らかいけど、グミのような弾力もあって、と説明したのだけれど、
全部食べ物なのね、と笑われてしまったっけ。
……でもそれくらいに柔らかかったという事は伝わったらしい。
その日の夕食の後、デザートにババロアを用意してパチュリー様の部屋を訪れたら、
今度は私の耳をパチュリー様がしてくれた。
ちょっとぎこちなかったけれど、あの時は妙に嬉しくて。
嬉しかったんだけど、気が付いたら寝てしまっていたんだ。

そう、丁度……

「すぅ……。」

今のパチュリー様みたいに。

実を言うと、先週もしていたりする。その前の週も。
お陰さまで実は掃除する部分なんてもう残って無かったりして。
ただそういう事はどうでも良いらしい。この棒でかりかりとされる感触が好きなんだそうで。
ちょっと事務的だなぁと思う事はあるけれど、あまりにやり過ぎても肌を傷めてしまうからそんな事はしたくないし……。
だから出来るだけ、溝をなぞるようにただただ、僅かな力で撫でているだけだったりする。

「反対側、しますよ?」

いつも通りの時間それを繰り返して棒を引き抜き、小さい声で呼びかける。
寝ているのだけど、僅かながらの意識だけは残っているのか、もぞりと体が動いてパチュリー様が反対側の耳を差し出した。
穏やかな息が私のお腹の服へとかかるのが、例え服という厚い布を隔てていても分かる。
昨晩したようなあれとも違い、息をあらげるような事もなければ、その後で喘息を起こしたりする事も無いからか、
安心しきっているのだろうなぁ、きっと。……それが凄く嬉しい。



使い終えた棒を置いて、手を伸ばして毛布を手に取る。
終わったけれど、寝顔を見ていると起こす気はしない。
穏やかな寝顔を見る事が出来るというのはとっても貴重な機会なのだから。
持った毛布を体に伸ばしていたパチュリー様にかける。
手が届かないからちょっと足先が出てしまっていたけれど、そこはパチュリー様自身がすっと足をひっこめた。

自然に起きるか、それとも誰かが呼びに来るまで。
それまでの短い間を、私は少しだけ楽しませてもらう事にした。


――

こつこつと、床を小さく鳴らす音が聞こえる。ヒールが床を叩く音。その間隔。
恐らく咲夜さんだ。いつの間にかうとうとし始めていた頭を現実に引き戻すように頭の中にその音が響く。
その音がふと、私の部屋のドアの前で止まって。
恐らく、私達がここにいることを知っていての事なんだろう。
僅かな間があって、ノックの音が小さく部屋に響いた。

「開いています。」

その一言で、静かな蝶つがいの音と共にドアが開いて、咲夜さんがすっと現れた。
何かをドアの傍で言うでもなく、私の方を覗きこんで一度納得したかのように頷くと、

「夕食、用意したんだけど……後の方が良いかしら?」

小さい声で私にそう尋ねたのだった。

「いえ、食べましょう。」

急にふっと膝の上が軽くなって、パチュリー様の頭が持ち上がる。
あたたかかった膝の上に冷たい空気が流れ込んで妙に寂しい気持ちになった。
……いつの間に起きていたのだろう。

「分かりました。ではすぐ食べられるように準備を済ませておきますので、そちらの準備が済んだらお越し下さい。」
「ええ。ありがとうね。」
「いえ。では失礼します。」

簡単にただそれだけの挨拶を済ませると咲夜さんは出て行って、少しして小さくドアの閉じた音がした。

「グラタンね。」
「そう、ですね。」

帰る際にふわりと舞った咲夜さんの衣服の残り香。
どうやら二人揃って同じものを想像したようで。
私は借りっぱなしだったパチュリー様の帽子を脱ぐと、身を起こしたパチュリー様の頭にそっと返した。

「あぁ、ありがとう。……あったかいわ。」
「どういたしまして。ですが、グラタンは待たせた分だけ冷えてしまいますよ。」
「そうね。行きましょうか。」

ふっと差し出された手を引いて、パチュリー様の体を完全に起こした。
私の体にも僅かにかかっていた毛布が剥がれ落ちて、手以外の部分に余計に肌寒さを感じさせる。
だからこそなのか、食卓に並んで待っているだろうそれは考えるだけでちょっと心が躍って。
寒さに相まって長い正座で痺れていた足を何とか伸ばすと、
私はパチュリー様の後ろについて、ゆっくりと自分の部屋を出たのだった。



――


二人揃って、グラタンを前に口を閉ざす。
それには訳があって……。
咲夜さんが置いて行ったグラタンはとても熱かったのだ。
パチュリー様はどうにも上顎を焼いてしまったらしい。
小さいけれど確かな悲鳴を聞いて、それにびっくりした私も上顎を焼いた。
今は二人揃って用意してあったお水を口に含んだまま、だんまりである。
咲夜さんがもしも居たら苦笑いを浮かべていただろうけれど、
忙しい咲夜さんはもう既に図書館を出ていた。
だから、その事自体には心配しなくて良いんだけど。

……お互いに会話が無い。ただ目と目はあって、熱かったでしょう?という
言葉を帯びた視線がじーっと私に注がれているような気がしないでもない。
小さく頷いて返してみれば、パチュリー様も同じように頷き返して。
ただただ時間だけが、あったかいグラタンを前にして過ぎて行った。



こくり、と向かいのパチュリー様の喉が鳴る音が聞こえたのは、
グラタンからもうもうと立ち上っていた湯気がかなり穏やかなそれに変わった後だった。

「……ふぅ。毎年、これを食べる時はこうなるわね。」
「……そうですね。分かってはいるのですけど。」

小さく紡がれた声に私も、口の中の水を飲みほして答えた。
でもいくら分かっていたと言っても、ひょっとしたらもう食べられるんじゃないか、とか考えたりして
結局こうなってしまうのだ。情けないとは思うけれど、耐えられる熱さギリギリでのグラタンは
とても、とても美味しいのだ。お外に友達は居ないけれど、居たのなら自慢したくなるほど。
私達の咲夜さんのご飯は美味しいんだぞ、と。
……宴会とかでたまに持ち込みをするから、もう知れた事でもあると思うのですけどね。

「綺麗な薔薇にはなんとやら、だわ。」

パチュリー様には棘は無いと思うんだけどな。

「初めに上顎を焼いちゃうと、何だか凄く勿体無い気分ですね。」
「そう、ね……。とりあえずここにあの子が居ないのは救いだわ。」
「美味しいって事はいつでも伝えたいですけどね。」
「うん。忙しくてもあの子は手を抜かないからね。だから、ちょっと情けないわね。」

グラタンをふぅふぅと吹きながら、恐る恐る口へと運び直すパチュリー様。
実際にはもう吹かずとも食べられる程度に冷めてしまっていること位、
目で見て分かってはいるのだけど。一口目は流石に石橋でも叩いてみたくなるものだ。
まぁ実際に石橋に見えてそれがただのハリボテで中身が泥だったと嘆くなんて事態が無いわけでもないですしね。

「うん。大丈夫ね。……さ、食べましょう?ちゃんと食べないとあの子に悪いわ。」
「そうですね。」

改めて心の中で小さくいただきますと唱え直すと、
私も握っていたスプーンをそっと、グラタンへと伸ばして行ったのだった。



――


「御馳走様。」
「御馳走様でした。」
「では、お下げして良いでしょうか?」

いつもより大分と時間が経ってしまったものの、無事に食べきる事は出来て、
妖精メイドさん達に片づけをお願いしようとした所でひょっこりと現れた咲夜さんに、
夕食の片づけをお願いする事になった。

「少し、熱かったでしょうか?」
「大丈夫よ。二人揃って油断してたから、ちょっと大変だったけど。」
「そう、ですか。」

……やっぱり気づかれていたようで。
パチュリー様も鋭いけれど、咲夜さんも鋭いんだよなぁ。
というかこの館の住人は全員そうだ。
お嬢様なんかはまともに情報を渡さなくても大体の状況を推察していたりするし、
美鈴さんは健康に関して言えばかなり鋭いですし。
……い、妹様は私と同じ側かもしれない。
あぁでも、新しい事に関しては妹様はとても敏感か。
……とすると?私と一緒なのはメイドさん達くらいなのかな。

「もしかして、症状重いのに我慢してない?」

ふと咲夜さんが私を見て尋ねる。
私の顔をじっと見ているという事は……うぅ、顔に出ていたか。
やっぱり、情けない。

「いえ、大丈夫です。」
「なら、良かった。」

もし本当に我慢する程だったとしても、そう言ってしまうと暫くグラタンが食べられなくなりそうだしなぁ。
それは、ちょっと。勿体無いというか。

「じゃあ、私はもう寝るわ。」

ふとパチュリー様が背もたれから体を起こしてそう宣言する。
先程まで寝ていたのにもう寝ようと?ちょっと珍しい。
咲夜さんにとってもそれは少し不思議だったようで、一瞬だけ戸惑った顔をするとすぐに首を縦に振った。

「分かりました。おやすみなさいませ。もし、御用があればお呼びください。」
「ええ。おやすみ。咲夜。……貴女もほら、行くわよ?」
「え?あぁ、はい。」

そう言って立ち上がったパチュリー様に手招きされて、私も急いで立ち上がって。
一度振り返って咲夜さんに頭を下げると、落ちついた顔で笑い返した後、咲夜さんも頭を下げた。
そのまま片づけをどんどんと始めた咲夜さんに背を向けて、
何故だかずんずんと自分の部屋へと進んでしまったパチュリー様を追ってみれば、
パチュリー様の部屋の前でくるりとパチュリー様が振り返った。

「今日も、一緒に寝ない?」
「……え、今日もするのですか?」
「いや、寝るだけ。……したらそもそも今日ああいう事をした意味が無いじゃない。
何だかそれはそれで、貴女の気持ちを踏むようで私は嫌だわ。」

それも、そうなのかも。

「ただ、お昼は私がしてもらったからね。今から貴女にしようと思って。」
「耳掃除、ですか?」
「ええ。」
「で、ではお言葉に甘えて。」

私がそう答えればパチュリー様はにっこりと笑って。
そのまま招かれるように部屋へと入ると、開けてくれたパチュリー様に代わってドアを閉めたのだった。


――


食後という事が大きいのだろう。パチュリー様の太股周りはとってもあたたかかった。
私の方はと言えば耳が冷えていたから、太股に挟まれる側も、パチュリー様がそっと手をのせてくれている側も、
そのどちらもがあったかくて、心地よくて。片方終わるどころの前にまだ始まって間もないのに、
ふわりとした眠気に襲われていた。でも、寝てしまうのは勿体無い。
パチュリー様の膝の上に頭を載せるというのは、やっぱり貴重な時間だから。
それに、こういう時以外にはあんまりパチュリー様の顔を見上げるという事が出来ないから。
……だから、寝たくはないんだけど。

「寝たい時に寝て良いのよ?」
「せ、せめて片側だけは起きてます。」
「そう……。頑張ってね。」

いつも、片側も持たない事を知っているから。
だから、笑っているんだろうな……。

「あ、あの。パチュリー様。」
「うん?あぁ、痛かった?」
「い、いえ。その、先に。」
「うん。」
「お、おやすみなさい。」
「……おやすみ。」

せめて、それだけは先に言っておかないと。
耐えられる自信など、私には無いのだから。



――



ふと目が冷めた時もまだ頭はあったかかった。
パチュリー様が私の頭が落ちないようにと片手で後ろ頭をかばっていてくれた事もあって。
どうやらいつの間にか私は寝返りをしていて、目の前にあったのはパチュリー様のお腹の部分の服だった。
そーっとそーっと見上げてみれば、こっくりこっくりと頭を揺らすパチュリー様の顔がそこにあった。
うっすらと少し笑顔で、ひょっとしたら良い夢を見ているのかもしれない。
ちらりと自分の体を見てみれば、毛布をかけられていた。
ぐっすり出来ていた要因はこれにもあるのだろう。……けれど、私にばかり掛っていて、
パチュリー様は一応毛布を被ってはいるものの、肩口が露わになっていた。
きっと、そこは寒いであろうはずなのに。やはり笑顔は浮かべたままで。

どうしよう。と、心の中で呟いてみるものの、もう私の中でとる行動は決まっていた。
私のせいで風邪を引かせてしまうなど、言語道断だから。
けど、……出来るなら起こしたくない。

「パチュリー様ー。ここで寝ると風邪引きますから、ベッドまで行きましょうー。」

遊び疲れて寝た子供に言い聞かせるように小声でそっと呟く。
その言葉に頭を支えていた手がふっと緩んだ。
すかさずその緩んだ手を空いていた手の片方でそっと握る。

「ほら、ベッドまで行きますよー。」

本当はもうベッドの上なのだけど。

「うんー。」

本人に違和感がなければ、それで良いのだ。

ゆっくりとパチュリー様の体から起き上がって、
私という錘が無くなってふらりふらりと揺れ始めた体をそっともう片方の手で支えた。
やっぱり、肩口は冷えたままだった。見えてすらいなかった背中は、
私が顔で感じていたお腹のあたたかさの裏側にあったとは思えない程で。
私はそんな体を支えながらゆっくりと引きずって、枕のある所まで誘導してそっと下ろして。
冷たかったらしい枕に少しだけ顔を歪めたパチュリー様にそっと毛布をかけ直したのだった。
その毛布の端っこに入らせてもらって。
握ったままだった手をそっと解こうとすると、今度はぎゅっと向こうから手を握られた。

「行かないで。」

小さくて、おぼろげで、短かったけれど、確かに私はそう言われて。
一度だけその手を握り返すと、もう一度目を閉じたのだった。



――


パチュリー様の手がゆっくりと離れ、寝返りを打った所で
もう一度目を開けて、部屋の時計を見た。
……もう、起きても良い時間ではある。
早起きは三文の得という言葉があるけれど、
早起きして作ったクッキーを美味しそうに食べてくれた時のそのどこか楽しそうな顔は
三文という僅かなお金には程遠い物。あれを三文だと言われてしまったら、
流石に私は怒りに行かないといけない。

静かに、起こさないように毛布から抜けだして、私が使わせてもらっていた枕をそっと、
握られていた私の手があった辺りに埋めておいた。
抱き枕にはなれないけれど、たぶんきっと無いよりはマシだと思うから。

「行ってきます。」

静かに、ほとんど聞こえないくらいでそう呟いて。
昨晩とは違って健やかな寝息を繰り返すパチュリー様に一礼すると、
私は部屋を出たのだった。



そのままに向かったのは自分の部屋。
流石に自分の部屋にしか着替えが無いからだ。
調理用のエプロンも、一応はここに置いてあったりして。
洗濯なんかは咲夜さん達が私やパチュリー様の分もしてくれるし、アイロンがけもしてくれるから、
いつもシャキッとした服が着ることが出来る。
だからか、衣服を着替えている間というのは何だか一日が始まった!という気分にしてくれる。

そう言えばあの植木鉢はどうなっただろうか。
ふと頭の片隅に置いていたそれを思い出し、視線を走らせたところで。

私はそれと、目が合った。



いや、目が合ったというのは語弊があるのだろうか。
それに目は無かった。でも、それは確かに私の方を向いて見ていて。
少しすると、ぺこりと中ほどで折れて、またくいっと伸びた。
たぶん、あの部分が頭なのだろうとは思うけれど。

「お、おはようございます?」

パチュリー様が言っていたその子というのが、この子なわけだけど。
……植木鉢から普通に生えている。部屋の灯りを僅かに反射して桃色にも紫色にも見えるそれは、
なんとも言えない色合いではあったけれど、不思議と怖いものではなかった。
そもそも研究用のあの本の挿絵でこのようなものが描いてあったのを見たような覚えもある。

当然なのかもしれないけれど、返答は無かった。
ただただ一度、最初にしたように体をぺこりと曲げて、戻しただけだ。

見つめ合う事しばらく。……といっても、相手方に目が無いから、
果たして見つめ合うとも言って良いのかどうか、やはり悩んでしまうのだけど。
ややあって、私の方を見ていたそれが今度は横向きに少しだけ折れた。
よくよく見れば?口っぽいものがある。ただ、ほんの僅かに開いたそこからは
歯のようなものというのは見えない。


少し、近寄ってみた。
曲がっていたこの子の体がすっと伸びて行く。
……やはり、一番上のこの部分が顔なのだろうか。依然として私を見ているように感じる。

「君、なんて呼べばいいのかな。」

先程答えが無かったから、こんな事を言っても仕方ないとは思いつつ。
でも、先程この子が見せたようにまた首あたりを傾けたから、
思うがままにふと、尋ねてみた。

「……私の言っている事、分かりますか?」

横に曲がっていた体がすっと伸びて。
そして確かに今度は縦に顔を下ろした。
……ちょっとだけ感動した。言葉が通じるとは正直思っていない所があったから。
もしかしたら本には書いていたのかもしれないけれど、私は読めていなかったから分からない。
パチュリー様にもう少し聞いておけば良かったなぁ。

「あぁ、そうだ。お水要りますか?」

ふと思い出した一言をかけてみれば、今度は元気よくこの子が首を縦に振った。
……うん。やっぱりこの部分が頭で確定だ。
でも、う~ん。言ってはみたものの、どっちなんだろう。植木鉢にお水?それとも、
こっちの口の方で飲むのかな?

「お水は、かければいいの?」

ふるふる。

「じゃあ、お皿に入れて持ってくれば大丈夫かな?」

こくり。

「……そっか。ちょっと待っていてくださいね。」

そういえば、クッキー作るんだったっけ。
あまり遅れてるとパチュリー様が起きて仕事が始まっちゃうからなぁ。
早めにあちらも準備しないと。


――



「お待たせしてごめんなさい。」

クッキーの下準備に少しだけ時間がかかったから、
お皿を差し出すのと同時にそう一言加えた。
対するこの子はぶんぶんと首を横に振ってくれて。
……なんというか、思っていたよりずっと礼儀正しいというか。
少なくとも、悪い子には私にはまるで見えなかった。

最初は植木鉢の前にお皿を置いたのだけど、この子自身の体の長さを考えたらやっぱり持った方がいいかな?と、
お皿に向かってなんとか体を伸ばそうとする姿を見て思い、手を伸ばしてみれば……。
私の手がお皿に達するよりも先に、お皿の中の水が跳ねた。

最初は一瞬戸惑った。何が起きたか分からなくて。
その子は、水の入ったお皿に落ちていた。
どうやら、植木鉢からすっぽ抜けたようで。

「だ、大丈夫ですか?」

どうやらこの子自身にとっても落ちるのは想定していなかったのだろう。
しばらくおろおろとしていたけれど、私の一言にはちゃんと首を縦に振った。
……少しして、おろおろとしていた原因が分かった。
あからさまに、お皿の中の水が濁ったからだ。
思えばずっと土に埋まっていたのだ。当然と言えば、当然だ。

「あ、あの。先に洗面器にお湯を入れて先に洗ってから、改めてお水を持ってきましょうか?」

やはりこの子は首を縦に振った。
……ちょっとだけしょんぼりしているようにも、私には見えた。


――



廊下で咲夜さんに出会った。
浴場から洗面器とお湯、そしてタオルを貰った帰り道。
滅多に無いような事を私がしているからか、最初にかけられた言葉は

「パチュリー様、体の調子が悪いのですか?」

との一言。……咲夜さんにはあの子の事を話していないから、
確かに疑うとすればそれ位しかないのだけど。

「いえ、パチュリー様はぐっすりと寝てると思います。……これはちょっと私用で使いまして。」
「そ、そう。」

でもまぁ、咲夜さんが心配してるのはたぶんそれだけじゃなくて。
私が洗面器をひっくり返さないかどうかも大きいんだと思う。

「では、失礼します。」
「ええ。また後で。」

咲夜さん本人もとても忙しそうだったので軽く一度礼をして。
私は冷めきる前にと洗面器とタオルを手に自分の部屋への道を翔けたのだった。



あの子はじっとしていたらしい。
特別お皿の周りに水が散った後も無く、私が部屋へと入れば首を持ち上げて私を見た。

「どのくらいの温度が丁度良いか分からないけれど……。」

お皿の横に置いた洗面器のお湯を軽く手で掬って、そっとその子の方へと差し出してみる。
すっと伸びた頭が、ちょんちょんと水面をつついた。
……こくこくと頷いている。大丈夫なんだろう。

「それじゃ、洗おうか。」

洗面器との間に少し高さがあるから、その子の体を手ですくって。
……思ったよりあたたかいその体を、頭が出る様にしてそっと洗面器の中に沈めていった。
どうやら水の入ったお皿の方に浸かった際に結構土を落としてしまっていたのか、
お湯が汚れる事はあんまりなくて。これならお湯の替えも必要無さそうだと思いながら、
僅かに残った土を少しずつ、指で落としていった。

どうにも頭にばかり視線が行っていて気付かなかったけれど、この子の下半身、土に埋まっていたそれは
元々私が何の目的でこの子を呼んだのかを思い出させるような形をしていた。
……くびれている所の土を落とそうと撫でていると、ぴくぴくとして。
気持ちいいんだろうか。それとも、くすぐったいのだろうか。
嫌がっている様子はまるで見られない。だから、たぶん大丈夫なんだろうけれど。

にしても、思ったよりちっちゃい。
正直もうちょっと大きいものを想像していたんだけどな。長さ的に。
太さとかは、その……たぶん丁度良い気がするんだけど。



体の汚れを落としきった所で、その子をお湯からすくってタオルに包んだ。
この子自身が自分から動いてタオルに水滴を吸わせ始めたから、それからはタオルごと床に置いてただ様子を見て。
拭き終わったらしい所で人差し指で頭を撫でてみた。
……すべすべしていた。

「じゃ、お水また持ってくるから、待っててね。」


――


洗面器を返してきて、土汚れついたお皿を洗い直して。
新しい綺麗な水を手に戻ってみれば、その子はタオルをベッドのようにして寝そべっていた。

「はい、お水。お好きなだけ。」

そう言ってお皿を差し出せば、尺取り虫のように体を動かして伸ばした頭をそっと水面に挿した。
恐らく口だろうと踏んでいたその部分で、ゆっくりとだけど飲みこみ始めたようだった。
静かに揺れる水面に映る影。揺れが止まったと思えばちらりとこちらを見上げ、
また顔を挿しこんでは水を飲み始める。
段々と水位が低くなって行って。飲み辛そうだと思った所で、お皿の下に指を挿しこんで。
……とても、一生懸命に飲んでいる。

「お水、まだ要るかしら?」

お皿が空っぽになってしまったところで、そう尋ねてみた。
でもこの子は首を横に振って、先程のタオルの所まで戻るとまたペたんと寝っ転がってしまって。
……何だか見ていてお腹が冷えそうな寝方だったので、私は一度タオルをベッドの上まで運ぶと、
タオルの裾をちょっと引っ張って、そっとかけたのだった。

「私はちょっと用事があるので、また後で来ますね。」

食後の赤子のようにじーっとしてしまっていたその子にそれだけ声をかけて。
私はちらりと時計を見て今の時間を確認すると、クッキー作りに戻ったのだった。



――


出来たのはちょっと遅かった。
いつもならパチュリー様が起きるよりも先に焼きあがっていたのだけれど、
今日ばかりは色々と先にあったからか、焼いていた事が起きて私を探し始めたパチュリー様にばれてしまって。
変化の乏しいこの図書館生活でのささやかな私なりのサプライズが、焦げたお菓子のように崩れてしまった。

「おはよう。」
「おはようございます。」
「……今日もお茶の時間が楽しみね。」
「そう言っていただけると嬉しいです。」

どこかまだ眠そうなパチュリー様に眠気覚ましにと少し熱めのココアを用意して。
二人揃って図書館のテーブルへと戻った所で、私は話を切り出した。

「あの子、生まれてました。」
「そう。大変だろうけれど、ちゃんと面倒は見なさいね。」
「ええ。……でもちょっと意外でした。思っていたよりもずっと大人しくて。」
「いきなり襲いかかってくる事は無いわよ。精々あちこち行ったり来たりして……。
そう、言うならばやんちゃな男の子みたいな感じかしら。」

……うん?

「あの子、もっと大人しいですよ?」
「そう。まぁ、持ち主の影響を受けるらしいからね。」

そうなのか。でもそうしたら、パチュリー様が以前生まれさせたそれって、
本当にパチュリー様の影響を受けたんだろうか。だとしたらあの子よりもずっとずっと大人しくて、
……少しだけ体が弱そうなイメージしかでないのだけど。

「そういえば、連れてきては無いのね。」
「え、ええ。私のベッドでごろんとしてますよ。……お水を飲んだら疲れちゃったようで。」
「そう。まぁ、大人しいなら良いんじゃないかしら。」
「それでその、あの子の体の事なんですが……。」

ふと、あの子の体の大きさの事を思い出してそう切り出した所で、
まるで聞き慣れない長い悲鳴が図書館の中を響いたのだった。
パチュリー様も私も。二人ともが揃って同じ方向を見た。
それは図書館の入口では無く……私やパチュリー様の部屋がある方で。

「珍しいわね。」
「な、なんですか、今の悲鳴。」
「あぁ、咲夜の悲鳴よ。……たぶんあれね、貴女の部屋だわ。ちょっと行ってきてあげて。」
「え、あれ咲夜さんの悲鳴なんですか?」
「うん。滅多に聞かないけどね。」

飲みかけのココアを置いて立ち上がって。私は一旦椅子を引くとそのまま自分の部屋への道を駆けたのだった。



――



咲夜さんは私の部屋に入ってすぐの所で真新しいシーツを手に握ったまま尻もちをついた状態で慌てていた。
どうやらシーツを摂り替えに来た所だったらしい。外には新しいシーツと、恐らく使ったものであろうシーツを
積んだままの台車が置いてあった。日頃の咲夜さんからは考えられないような落ちつきの無さで、
悲鳴こそ最初の一度きりで止んでは居たけれど、顔はもう台所で見たくない物に出会ってしまった時のような
戦慄という言葉にふさわしい表情が浮かび上がっていた。
よくよく見ればシーツを握っていた手とは逆の方の手に良く磨かれた小さなナイフがあって。
私は嫌な予感がして部屋に駆けこむと、咲夜さんの肩を握ったのだった。

「咲夜さん!」

油を挿さなかったカラクリ人形のように咲夜さんがゆっくりと顔をこちらに向けた。
ちょっとだけ泣きそうな所を見ると、どこか得をしたような気分にもなってしまったけれど、
私は咲夜さんの体の下に手を突っ込んでその動けなくなっている体を持ち上げると、
一旦部屋の外へと運び出したのだった。
よっぽど怖かったのか、それとも驚いたのか。咲夜さんは私にそんな事をされても一言も発せずにいて。
とりあえず部屋の外の壁に咲夜さんの体を預けさせると、程なくしてパチュリー様が現れた。

「大丈夫かしら。」

パチュリー様が咲夜さんの前にしゃがみこんで、そう尋ねた。
少しの間声の出し方を忘れたようにパクパクと口を動かしていた咲夜さんだったが、
急にハッとしたように顔を戻すと、滅多に出さないような大きな声で叫んだのだった。

「な、何なんですかあれは!」

まだ少し、悲鳴混じりの声だった。



説明と介抱をパチュリー様に任せて、自分の部屋へと入った。
恐らくシーツを替えようとした瞬間だったのだろう。私のベッドのシーツが半分ほどめくれていて、
その奥で私が普段使っている枕が少しもぞもぞと動いていた。

「私ですよ。」

きっとあの子だろうと、そう思って枕をどけながらそう声をかけた。
思った通り、そこにいた。……何だかさっきよりも小さくなっている気がする。
咲夜さんの悲鳴にびっくりして委縮してしまったんだろうか。
まるで怯えるように枕の影でびくびくと体を震わせていた。
頭を撫でてみれば、恐る恐るといった表情で私を見上げ、疲れ切った様に体をぐったりとさせて。
私はそれを手に抱くと、そのまま部屋の外へと出たのだった。

部屋を出た所に居た咲夜さんは落ちつきは取り戻したみたいだったけど、座り込んだまま落ち込んでいる様子だった。
その姿を見たからなのか、腕の中のあの子もまた私の腕の内側に隠れるようにしていた。
……この子には咲夜さんが怖かったのだろう。たぶん寝ている最中に悲鳴を急に聞かされた事が大きいのだろうと思う。

「咲夜さん。」

どうやら腰が抜けてしまっていたのか。立ち上がろうとはしなかったけれど、
顔だけが私を見上げた。腕の中に居るこの子が見えたからなのだろうけれど、
顔が少し引きつったように見えた。

「しばらく、この子を私が育てるんです。」
「そ、そうなの。」

精一杯引きつった顔を戻そうと努力する咲夜さんの横で、それをかすかに笑うパチュリー様。
まぁパチュリー様も私も分かっている事であったから驚かないだけで、
きっと何も知らないままに急に出会っていたらたぶんパニックになっていた所は一緒なんだろう。
私もパチュリー様もたぶんその時は咲夜さんみたいになっていたか、
それとも壁を穴だらけにしていたか。あったとしても、それくらいの違いなんだろうと思う。

「その子は、なんなの?」
「いわゆる一つの大人のおもちゃよ。咲夜ただ、生きているけど。」

咲夜さんの質問にそのままパチュリー様が答えた。
あまりにも身も蓋も無い返答で、咲夜さんはギョッとした顔でパチュリー様の方を見上げるし、
私は私でどっちの顔も見る事が出来なくなってしまっていた。

「咲夜。まぁ、その。あれね。害は無いから安心して。」
「そ、そうですよ。この子これでも結構大人しいですから!」

自分でフォローしたつもりなんだけど、何をフォロー出来たのかを自分で理解出来ない。
でも言える事がそれしか無かったから、ただそれだけを伝えて。
一度大仰に溜息を吐いた咲夜さんをパチュリー様が支えながら立たせた。
けど、その顔に少し苦痛がにじんで。

「打ちつけた?」
「……みたいですね。」
「……申し訳ないです。」
「いや、油断してたのは私だから、貴女が謝る事じゃないわ。」
「……そうねぇ、レミィに一言言って、今日は休むと良いわ。それくらいで怒ったりしないわよ。」

落ち込んだ顔の咲夜さんにパチュリー様がそう言ったけれど、
咲夜さんが落ち込んでいるのは怒られるからじゃなくて、
きっと好きな相手の傍で仕事が出来ない事の方だと思うのですけど。


――


咲夜さんは私が表から呼んできた妖精メイドさん達に支えられながら図書館を後にした。
どうやら朝食を運ぶついでにシーツを取り替えに来ていたようで、図書館を出てすぐの所には咲夜さんが運んできていた食事を載せた台車があり、
私達は咲夜さんを見送った後、すぐに朝食をとる事になった。



「言ってしまうと悪いけれど、この機会にちゃんと休めば良いんだけどね。」

食べながら呟くパチュリー様に私も頷いた。
すっかり冷めきったココアを飲みながらの静かな朝食。
あの子はと言えば、膝の上で今はじっとしている。どうやら眠っているようだ。
本当はベッドに置いてくるつもりではあったのだけれど、この子にとってさっきの一件がトラウマになったのか、
一人になるのを少し怖がったので結局こうなってしまったのだ。

「まぁ目に届かない所に放置するよりは良いわよ。きっと。」

パチュリー様はそう言うけれど私にとって重要なのは、
この子の扱いをどうするかも確かにあるけれど、それ以前にパチュリー様に迷惑をかけずに
ちゃんと仕えることが出来るかどうかなのだ。
……というかそもそもパチュリー様に迷惑をかけないようにって事で考えた事だったのに。
どうにもこうにも、思った通りに上手く行かないもので。

「そういえば、さっき何か聞こうとしてなかったかしら?」
「え、ああ、……えっと、はい。この子の大きさについてなんですが、ずっとこのままなんですか?」
「貴女がそれを望めばそうなるし、違う大きさを願うならそうなるわ。ある程度の限界はあるけどね。
だから膝の上に居る時は今みたいに小さく、必要な時には大きくなってもらうって事は出来るわよ。」
「結構便利なんですね。」
「そうね。手軽に利用できるもの、というコンセプトがあるからなんでしょうね。
制約もかなり大きいけれど、だからこそある程度の自由度が確保されているみたいだしね。」

パチュリー様が埋めたのは種だったけれど、結局アレ以外に必要だったのって
たった数滴の私の血だったしなぁ。

「冷えるわねぇ。」
「そうですね。もうこういう季節ですから……。」
「あったかい紅茶、欲しいわ。」
「……すぐ準備します。」




――



立ち上がると膝の上には留まる事が出来ないから、そっと首に巻いてみた。
もっと良い場所があったんじゃないの?と言われたけれど……本当にその通りなんだけど、
思ったよりも安定しているというか。別段この子は寝返りを打つ訳でも無いし、
何より軽かったし、ちょっとあったかいし。
そもそも図書館を訪れる人が滅多に居ないから良いだろうと、
そういう判断でそのままにしておく事にしたのだ。

「咲夜が休んだとなれば、お昼ご飯の時間はずれるわね。夕食も。」
「そうですね。」

この屋敷の様々な事を管理しているのが咲夜さんだ。
ある意味咲夜さんがこの館の一つの時計なのだ。
だからなんとなく、いつもより遅れるだろうなぁというのはすぐに予想出来ていた。

朝作ったクッキーを二人で頬張りながら、熱めの紅茶を注いでは飲んでいく。
美鈴さんなら寒いなら運動をしそうだけれども、私やパチュリー様はもっぱらこっちだ。
まぁ、こうなるって分かっているからこそクッキーを焼く事が出来るし、一緒にお茶が飲めるのだ。

「幸せそうね。」
「幸せですから。」
「そう。」



――


パチュリー様自身が気にしてなのか、それともたまたまなのか。
今日の私の仕事というのは思ったよりも少なかった。増えた事と言えば、
咲夜さんが日頃からしてくれていたお世話の代わりをした事くらい。

昼が過ぎ、図書館の中に居ると分かりづらい夜が来た。
咲夜さんがあまり指示を飛ばしに行けないからなのだろう。
用事からの帰り道にふと紅魔館の廊下の方へと足を伸ばしてみれば、どこもかしこも少し慌ただしい。
この調子なら普段よりもお嬢様はきっと早く目覚めるだろう。……いや、もう起きてるかもしれない。

「あの。」
「はい。」
「咲夜さん、ひょっとして怪我が重かったのですか?」
「わ、私は分からないです。ただ、少し前に美鈴さんが呼ばれた事は聞いています。」
「そっかー。ありがとう。」
「いえ。」

図書館出てすぐの所に待機しているメイドさんに尋ねてみれば、
その子がそう答えた。その返事にちょっと不安になりながらも、
私はパチュリー様の元へ戻ったのだった。

「お疲れ様。」

私は部屋にあった植木鉢を運びに行っていた。
どうやらもう必要が無いらしかったから。
図書館を出る為にあの子は図書館のテーブルの上に置いてきていた。
咲夜さん以外に驚いてパニックを起こす子がいたら困るから。
……咲夜さんみたいに、そういう事が起こった時に止めてくれる頼もしい人が居ない訳だし。
後でちゃんと謝りに行った方がいいのかなぁ。うぅ~ん。

「ただいま戻りました。」
「浮かない顔ね。」
「今朝咲夜さんと私会ってるんです。その時にちゃんと伝えておけば、こんな事にはならなかったのかなって。」
「……まぁ、そうね。でも、あれは貴女個人の生活に関わるものだから、無理に知らせる必要は無かったと思うわ。
ただ、ああなったから流石に私は説明したけれどね。ちゃんと説明しておかないと私も監督責任問われちゃうし。」

思いだすと何だか顔が熱くなる。
そうだ。説明してしまったから、これで知っているのは3人なんだ。
まぁ咲夜さんはそういう事でからかったりしないって信じているけれど。
でも……恥ずかしい事にはちっとも代わり無いのよね。

「今日の夕食、どうなるのかしらね。」
「昼みたいな感じになると思います。恐らくは。」

咲夜さんが怪我した後に出来たお昼ご飯、それが私達のもとに来たのはいつもの時間よりやや遅れた頃、
見た目こそ普通なものの、どこか焦っていたのが伝わってくるような食感、そして味だった。
恐らくは連携が上手くいっていないのだろうと思う。
この点だけ見ても、咲夜さんがどれだけ歯車としてこの館を動かしているのかが分かってしまう。
……歯車というよりひとつの軸と言った方が良いのかもしれない。

「まぁ、なるようになるわね。」
「まぁ、そうですよね。」


――


その日の夕食に出たのはお粥である。
聞いた話によれば、咲夜さんの事を聞いたメイド達がその容態を伝えるうちに尾ひれがついてしまったのが原因らしい。

「震えが止まらなくてどこかに意識が飛んで行ってしまっているような状態と聞いたのですが。」

食事を運んできたメイドですら、おろおろしたようにそう尋ねてきた位だ。
確かに、その怪我を負った瞬間くらいはそうだったのだけど。
説明してからは精神的には多少なり落ちつきがあった気がするんだけどなぁ。
うーん。面白がっている……ようには思えないな。悪戯好きだけれど、
咲夜さんへの信頼や憧れというのは私達よりもずっとこの子達の方が強いだろうと思うし。

「今日もまた、熱いものだったわねぇ。」
「そうですね。」
「……これで明日ドリアが出たら、レミィは怒るわね。きっと。」
「昨日と今日を足して2で割ったような感じではありますからね。」
「まぁ、そうなったら咲夜が無理してでも料理するでしょう。」
「怒られるより先に、ですね。……実際どうだったんでしょう。あの怪我は。ただの打ち身なら良いのですが。」

ただ、痛いとかそういう事は口には出さなかったんですよね。
痛そうな顔はしてましたけど……。あぁでも、咲夜さんだから無理矢理押し殺してる事も考えられるか。
何だか、心配になってくるなぁ。やっぱり。

「パチュリー様。私、あとでちょっと部屋を尋ねてみようかと思います。」
「そうね。容態が聞けたら聞いてきてちょうだい。一応あれ、私達の責任だし。」

実際にはそのほとんどが私にあるのですけど。


――


夕食が終わって少し休憩を挟んだ辺りで、少しだけ紅魔館のちょっとした騒ぎは収まった。
……というのも、どうにも咲夜さんが混乱を鎮めるために無理矢理出てきたらしい。
まぁ咲夜さんの場合は他のメイドさんに心配される事はまだ良しとしても、
その影響が他に出てしまう事……強いて言うならば、お嬢様にまで影響するだろう事に
腹を立てていそうですけれども。

というわけでやってきたのは咲夜さんの部屋、もとい執務室と言った方が良いのかもしれない。
寝室とは別の部屋だ。部屋から出てきたという事は、ここか、この館のどこかだ。
……あれ、これじゃ両方仕事場だ。まぁ、咲夜さんの場合はベッドの上以外はどこでも仕事場かもしれないですが。
コンコンと、少し強めにノックをしてみる。小さくても聞こえるとは思うけれど、念のために。

「どうぞ。」
「失礼します。」

返って来た言葉に少しだけほっとして私はドアノブに手をかけると、
少しだけ周りを確認してから部屋へと入った。

「パチュリー様がお呼びかしら?」

机の上の書類を片づけていた咲夜さんが、ふと視線を一瞬私へと走らせてそう言った。

「いえ、私用です。」
「珍しいわね。それで、どうしたの?」
「怪我の具合は……その、大丈夫かなって。この度は申し訳ありません。」
「あの時も言ったけれどあれは私の不注意よ?」
「でも、朝会ったんですからその時に伝えて居れば、それは防げたと思っています。」

その言葉に一度だけ短い溜息を咲夜さんが吐いた後、私を見て首を小さく横に振った。
その顔はじっと私を見ていたが、少しだけ汗をかいている。……やっぱり無理をしている。
目は優しいのに、どこかつらそうで。

「伝えなきゃいけない事ならばそうするべきであったかもしれないけれど、
伝えなくても本来良い事だったのなら、そうしなかった事が原因で責められるのはおかしな話じゃないかしら。」
「……ですか。」
「そうよ。パチュリー様だって同じような事を言うと思うわ。」
「言われましたね。確かに。」
「……貴女の事だからそれでも腑に落ちきれない所があったんだろうというのも、なんとなく分かるけど。
こっちまで良い香りが舞う、体の後ろに隠したそのクッキーもその為かしら?」
「うっ。あ、でもこれはパチュリー様に焼いた物の余りですから!」
「……正直ね。まぁ、朝のあの時も漂った匂いだから、本当は知ってたのだけど。」

どの道隠してお見舞い用に焼きましたと言っても通じる相手じゃないじゃないですか、咲夜さんは。
それくらいは同じような立場だし、知っているつもりなんですけれども。

「それで、体調はどうなんですか?」
「ちょっと、痛むかしらね。」
「……何か薬を用意した方が良いですか?」
「大丈夫よ。仕事が出来れば問題無いわ。骨も折れてない。」
「本当に?」
「本当に。」

目が一瞬だけ私から逸れた。
うん。やっぱり後で鎮痛剤か何かをメイドさんに運んで貰おう。

私は咲夜さんの短い返事を聞いた後、その机の片隅に隠して持ってきていたクッキーの袋を置いて帰った。
書類がいくらか目に入ったけれど……以前この部屋を見た時のそれよりも片付いているとは言えない。
恐らくは思ったよりも進捗が芳しくないのだろう。あまり長居をしては迷惑がかかりそうだ。

「ご自愛くださいね。」
「大丈夫よ。休んで無いわけじゃないから。」

私が頷けば、咲夜さんも頷いて。
私は背を向けると静かに部屋を出たのだった。


――


「大体は分かったわね。」
「ええ。先程余っている鎮痛剤をメイドさんに渡しておきました。」

夜になって寒くなって来た事もあってか薄いカーディガンをかけていた読書中のパチュリー様にそう報告しつつ、
ふとあの子の事を探してみたが、どうやら姿が無い。
さっき私はテーブルの上に確かにのせたと思うのだけれど。

「貴女が座っていた椅子の上に居るわよ。」
「へ?」

本からは視線もあげなかったけれど、短くそう言うと
私が少し前まで夕食を食べていた椅子をすっと指さした。
その椅子を少し引いて覗き込んでみれば、寒かったのか体を縮こまらせたあの子が居た。
触れてみれば少しだけあたたかい。どうやら寝ていたようで。少しすると目を覚まして、
私の体をするりと登って首元に小さく巻き付いた。

「貴女のそれは本当に大人しいのね。」

パチュリー様がぼそりと呟く。
……それは私も思っている所だ。
正直何のためにこの子を呼んだのかを少しずつ忘れてしまいそうになる程に、この子は大人しい。
本ばかりを見て私を見ていないから通じはしないだろうけれど、一度だけその言葉に頷いて返し、
その子が居た所に腰を下ろしてみれば、冷えていた服にじわりと熱が広がっていった。

「ひょっとして温めてくれてました?」

首元のあの子にそう尋ねてみれば、きゅっと少しだけ縮まって。
私はその頭を撫でると、ゆっくりと背もたれに背を預けたのだった。



――


パチュリー様がもう寝ようと言ったのは、あれからどれだけ経った頃か。
暖房設備が無いわけではないけれど、部屋のそれに比べるとどうしても図書館のそれは質が良いとは言えない。
単純に広さによる影響もあるけれど。簡単にあたたかさを得られる飲み物に頼ろうと、
何度か紅茶を淹れ直したりはしたけれど、どうにも深夜にはそれも限界があるようで。
私はパチュリー様の言葉に頷くと、片づけを始めたのだった。

「今日は、その。するの?その子と。」
「……一応、そのつもりです。何だか不安ですけど。」
「……そう。まぁ、明日に響かないようにね?」
「も、勿論です。」

そういえばパチュリー様のそれはどちらかというと、大人しいというよりやんちゃだったという事は
パチュリー様がその子と夜を共にした時はその、やんちゃだったんだろうか。
想像は易いのだけど……喘息大丈夫だったのかなぁ。

「顔、赤いわよ?」
「え、あぁ。大丈夫です。おやすみなさいませ。パチュリー様。」
「おやすみ。また、明日。」

部屋まで見送った所でそう言われ、慌ててそう返して。
そのドアが静かに閉まるまで待つと、私は部屋へと戻ったのだった。

部屋の中へと入って、着替える為に灯りをつけて。
私が手に服をかけたところで、あの子が私の体からベッドの隅の方へと飛び乗った。
……着地に失敗して跳ねて反対側に落ちそうになっていたけれど。
なんとか踏ん張って、あの子がベッドの上に転がった。

着ていた衣服を脱いであたたかいパジャマへと身を包む。
いつもパチュリー様とする時は先に薬の在庫や水差しの中を確認しておくのだけれど、
今日はそういうのをしなくても良いと考えると少しだけ楽だ。
……ただ、なんとなくタオルは必要な気がして。
その、この子がどこまで頑張るのかを私は知らないから。
用意したそれだけをベッドの片隅に置くと、私は部屋の鍵を念の為に締めてからベッドに座ったのだった。

「それじゃ、その。今夜はお願いします。」

私がベッドの上で正座してそう頼むと、
その子も応える様に正座を……しようとしているけれど、体が柔らかいからかお姉さん座りのようになっている。
なんというか、真面目なのだけれど滑稽でもある。

「そう言えば、君はどれくらい体を伸ばせるのですか?」

膝の上に載せたり首に巻きついてくる時に少し長さが変わる事は気づいていたけれど、
改めてそう尋ねてみれば、その子はペタンとベッドの上に転がって、段々と体を伸ばし始めた。
……むくむく大きくなる、という表現をすれば良いのだろうか。
どうにも上半身が伸びるというよりは、下半身が伸びているような気がする。
若干だけども色合いの違いでここからが上半身、こっちが下半身……もといアレなんだろうというのは
なんとなくわかるんだけど、どうにも伸びているのはこちらばかりだ。

じっと見ていたけれど、ふとその視線に気づいたのかあの子もこっちを見上げて。
……そして固まった。何だか顔の部分が赤くなっているような気がする。
灯りの影響であまりハッキリと赤とは分からないけれど。

「ひょっとして、恥ずかしいですか?」

小さい声でそう尋ねてみた。
……少しして、こくりとその子が僅かに頷いて。
私は一度納得したように首を縦に振ると、部屋の灯りを小さくしたのだった。

「もし何かあった時は困りますから、これくらいは残させて下さいね。」

少しだけ暗くなった部屋でそう伝えれば、その子もまた一度頷いた。


――

するりするりと私の体を登ってくる体は、首に巻きついてきた時のそれよりも少し熱かった。
首の代わりに体へと巻き付き始めたその長い体のおかげで、毛布が無くても不思議と寒くない。
パジャマの上からという事もあるが……ひょっとすると脱いでいても大丈夫かもしれない程に
その子の体というのはポカポカとしていた。やがて私の顔の前にあの子の顔が来て。
何かを尋ねるようにじっと私を見つめて来たので、

「出来る事をしていただければ、良いんですよ。」

そう返せば、その子も頷いて輪足の服の上へと顔を埋めて行った。
苦しくないようにという配慮なのか、ただの気まぐれか、それとも偶然か。
その子は私の腕を締めないようにしていたから、空いた手で服の上のその子に手を伸ばして。
見た目よりもずっとすべすべした肌を撫でながら、胸へと飛び込んだその子の様子を見ていたが、
その子は私の服の留め具をじっと見つめると、口にその小さなボタンを咥えたのだった。

ほんの少しだけ締めつけられていた体から、ふわり、ふわりと拘束が緩んでいくような感触。
口で咥えてもぞもぞと動いているだけだったが、外すのは結構上手で。
……何度か失敗もしていたけれど、ゆっくりと胸、そしてお腹回りの締めつけが無くなっていく。

「器用なのですね。」

その子自身が私をぐるぐる巻きにしているから、衣服こそ肌蹴なかったものの、
私の言葉に少しだけ誇らしげに首を縦に振ると、巻き付いた上から縫いこむように開いたパジャマの隙間へと
その細い体を挿しこんでいった。服の上から感じていたあたたかさは、肌で感じてみれば今は少し熱くて。
火傷はしないけれど、意識せずにはいられない小さなもどかしさがあって。
私はただただその姿を視界の真ん中に置きながら、近くの毛布を手にじっと見ていた。

……なんで私はパジャマを着てしまったのだろう。
風邪を引かないためという考えがあったのはあったけれど、
正直この子が居れば寒さなんて縁の遠い話みたいだ。
むしろ、元々巻き付いた上で頑張ってこの子が服の下に潜ろうとするから、ボタンが外れているとはいえ
どうにも衣服が引っ張られてしまう。

「あの、この服が破れてしまうと困るので、一旦脱ぎたいのですけど……良いでしょうか?」

服の中を探険中のその子に声をかける。その子は一旦頭を引き抜くと、こくこくと首を縦に振ってこたえた。
ふっと、体に掛っていたわずかな拘束が解け、ボタンの外れていた衣服がその子の体の重さに引っ張られて肌蹴る。
袖から手を引き抜いて畳み直して。同じく着たままだった下のそれも手にかけて脱ぎ去って。
……あの子はといえば、その間中ずーっと壁の方へと体を向けていた。
気遣いなのかもしれないが、ちょっと真意は分からない。
ベッドの隅の方に邪魔にならないように畳んだ衣服を重ねると、
私は改めてその子に声をかけたのだった。

「終わったので続き、お願いします。」

私の言葉にすっとふり向いて、するりと私の体をまたその子が登り始める。
服の上からだと感じづらかったが、体の上を這われるというのは何だか大きな指で撫でられているような感じだ。
とてもこんな大きな指の人に出会った事は無いし、こんな体温の指の人にも会った事はないのですけれども。
直にこうされてみると、どこかくすぐったくて思わず口元が緩んでくる。
頭の先で私の胸を下着の上からむにむにと押したり、撫でまわしたりして遊んでいるこの子、
ひょっとしたら真剣なのかもしれないですけれど、こうして見ていると物干しから取り込んだ直後の洗濯したタオルの山の中に
顔を埋めて喜んでいる子供のようにすら見えてしまう程、何だか楽しそうで。
私は後ろ手に下着の留め具を外すと、ゆっくりと体を横たえたのだった。

この子の体の方はと言えば、依然として私の体の上を這っていたけれど、
どうやら体温の低い所を探してはそこにじーっとしているようで。
何だか脱いだら脱いだでかなりこの子には気を遣わせているような気がする。

少しして下着の留め具が外れた事に気づいたのか、小さな口に下着の端を咥えて頑張って持ち上げて。
半分まで持ちあがったら今度は頭をさしこんでぐいぐいと押し上げてその下着を外した。
まるで嬉々とするように、頭で露わになった部分にぴたんぴたんと体当たり……うん?頭突きなのかな。
この子にとっては余程の興奮なのだろうか。下半身の動きがほとんど無くなって。
しばらく楽しそうに私の胸の上で何度か跳ねると、さっきまで下着を咥えていたその口で
露わになった部分を包んだのだった。

じわりとした熱さが広がったと同時にきゅっとした感覚が胸を走る。
外から見ていた分では感じ無かったけれど、この子の口の中というのは思っていたよりもずっと、とろとろとしている。
粘液が原因なのか、それともこの子の体の中がそういう構造なのか。触れていて何だか気持ちいいから
ちょっと指を入れてみたいな……。胸だと、その感触を確かめようにも何だかちょっと集中出来ない。

今朝お水を飲んでいた時に比べれば、吸い方というのはよっぽど遠慮が無かった。
千切れるほどの力なんてこの子は入れないけれど、たぶんやりたいようにやっているのだろう。
私の体に乗っているこの子の体、口とは反対側のその一番先がふりふりとさっきから左右にゆっくりと揺れている。
正直な話、最初お願いした時そのふりふりしているそれに急に襲われるのではないかとも思ったのですけども。
……この子の場合、それは要らぬ心配なのかもしれない。

「こちらもしては頂けないのですか?」
ずっと片方ばかり口で遊んでいたその子にそう声をかけてみた。
まるでハッとなった様に吸う動きが止まって、そっと私の方を見上げた。
怒られていると感じたのだろうか。そういう気は勿論無いのだけど。
ただ、声をかけたかっただけでもあったんだけど。
けれども素直なこの子はその言葉にいそいそと吸う対象を変えて。
……でも今度は今まで吸った方に何も出来なくなる事に気づいてからなのか、どこかオロオロとして。
ややあって、申し訳なさそうに私の前に顔をあげると、ぺこぺこと頭を下げたのだった。
……うぅん、責めるつもりは無かったのです。

垂れてしまった頭を撫でて、どうにもならない事は仕方ないと慰めて。
今まで頑張って貰っていた胸にその体を抱いた。

「出来る事からこつこつですよ。だから、あなたの出来る事をどんどん教えてくださいな。」

出来ない事は悔やんでも出来ない。なら、代わりに何が出来るかを知る事のほうがずっと重要だもの。

「ね?」

どこか煮え切らないような感じで頭を垂れているこの子の背を押すようにそう声をかける。
ややあって背をすっと伸ばすと、しっかりとその子は首を縦に振った。

その子が向かったのは下の下着。
確かにそこは一つですから、胸みたいな事にはならないですけれども、
ちょっと正直すぎるかもしれません。まぁ、パチュリー様にする時とは違って、
何だかこう、ムーディにしないといけない!というのは無いですけども。
……パチュリー様は雰囲気があるだけでもちょっと楽しそうだからなぁ。
いつかは、そんな感じにパチュリー様にされてみたいものです。
勿論、パチュリー様の体力が有り余っている時だけで良いのですけども。
あぁでも、それだけ余ってる体力なら次の日に残して朝から晩まで元気に過ごして欲しいとも思う。
私は……わがままだ。

すっと下着を咥えられて、ずりずりと引きずり降ろされる。
胸のそれとは違って、お尻さえ抜けてしまえば抜き去るのはこの子にとっても容易な事のようで、
抜き去ったそれをベッドの上に置いて簡単に畳み直すと、その子がそれをパジャマの上へと重ねた。
私も胸のそれを自分で外し、同じように重ねて。
私はなんとなく何をしてくれるかを分かっていたから、枕に頭を預けて開きっぱなしだった目をそっと閉じた。

じんわりとして鈍く、そして熱い感触が瞼を走る。
ちょっとだけ早起きをしたせいなのかもしれない。
目を閉じていてもあの子がどこに居るのかは良く分かる。
毛布なんかより、今はずっと熱いから。



あの子の頭が私の足の間を少し割って入る。
太股がどんどんあっためられるからか、何だかふくらはぎの先の方までぽかぽかとした感触が広がっていく。
何も身に付けていないというのに、だ。そんな風にさせてくれるその子の頭が私が下着で守っていた部分へと触れた。
ぞくりとした感触が僅かにお尻から腰まで走った。
慌てて自分の口に手を当てて、出そうになった声はぐっと飲み込んだ。
一応、壁の向こうにはパチュリー様が居るのだから。
五月蠅くて眠れないなんて事になってしまったら、それこそ本末転倒だから。

パチュリー様は今頃ちゃんと寝ているだろうか。
喘息の発作が出ていやしないか。そう思い息を殺して耳を澄ませてみるが、
当然寝息なんて聞こえるはずがなく。……壁をドンドンと叩かれてはいないから、
恐らく静かに寝ているのだろうと思うけれど。
聞こえると言えば精々、私の部屋で毛布が少し擦れる音や、私が膝をすり寄せる音位だった。

股の間にじわりと、粘着質を帯びた感触が広がる。先程胸でも感じたそれは恐らくあの子の体液のようなものだろう。
じっとりと熱くて、とろとろして。成程潤滑油のように使うには良いかもしれない。
手作りするのと違って、冷めたりしないし。

塗るように動いていたあの子が、ぴたりと一か所にとどまった。
私の体の外に出ている部分で一番弱いところ。そこにその子の唇が触れる。
ぴっとりと包まれたそれが、体を捩る度にぞくり、ぞくりと私の体を震わせて、
どこか胸の奥がきゅっとなる。

いつもはパチュリー様にしか見せないようなそれをこの子に見せるというのはちょっと複雑な気分かもしれない。
そこを刺激されたら、なんとなくなってしまうのは仕方ない事だけれど。
……あぁ、でもこの子は私が選んだ子だから。私のした選択だから。
……パチュリー様だって、知っている事だし。
元より、そういう目的だった。
そう思えば、思いきってしまえばどこかそんな気分も楽になる。
私は一人で楽しむために、この方法を選んだのだから。

一人、か。でもこの子は生きているんだ。
お人形じゃない。命がある。この子の中には意志がある。
だからこそ、委ねるという楽しみ方が出来る。
今こうしているように。

逸らしてしまいたくなる上半身は、ぐっと毛布の端を口に咥えて体を丸めて押し込んで。
しばらくして急にふわりと襲ってきた舞いあがるような感覚だけは、そのままに受け止めた。
……どうやらこの子はちゃんと私の反応を認識しているようで、
無理に体力を奪いに来ない所は、ちょっと助かる。

大きく意識が飛ぶほどの快楽というのは嫌いじゃない。
小さく視界がくらりと来るだけの快楽も嫌いじゃない。
得たい快楽だけで言えばそれは確かに前者なのだけれど、
もしパチュリー様にするならば、してもらえるならば、後者の方が良い。
一緒に過ごせる時はずっと、顔を見ていたいから。
どこか意識を飛ばしてしまったら、勿体無いなって思うから。
でも、結構前者になりがち。結局私はパチュリー様が好きだから。
好きだから、あんまり我慢が出来ない。本当、どうしようもない。迷惑をかけてばかり。
ただ、目覚めるまでパチュリー様が私の横に居てくれる事も知っているから。
……だから安心して、そうなっているところも本当はある。



気が付けばあの子の動きは止まっていた。股の間からも居なくなって。
体の上にある熱い感触だけがあの子の位置を教えてくれていた。
体を少し起こして目を開けてみれば溜まっていたのか涙が目じりから一滴、
毛布の中へと染み込んで行った。薄暗い部屋の中ではあるけれど、あの子の姿はちゃんと見えた。

「どうか、しましたか?」

詰まっていた息を吐いてから、そう声をかけてみればその子がちらりと顔を逸らした。
その方向を目で追ってみれば、備え付けの時計がそこにはあって。
私がそれを見たのを確認すると、今度は下半身をそっと持ち上げて横にふらふらと振ったのだった。

「まだ先をするか、それともしないかという事ですか?」

こくりと頷いた。
時計を改めてみる。今寝れば、大体……いつもパチュリー様とした時と同じくらいの時間。
……ってあぁ、そうだ。今日はパチュリー様の方は普通に寝ているんだった。
とすれば、えっと。いつもよりは遅く起きれないから……とすると?
う、うぅん。あんまり寝れそうに無い、か。

「ね、寝ましょうか。あんまり出来無くて申し訳ないですけど。ま、また明日にでも。」

私の言葉に不満一つ漏らさず、やはり一度頷いて。私が枕へと再び頭を下ろすと、
あの子は私の体から降りて行った。思い体では全く無かったのだけれど、
あたたかかったそれが消えて行ったのはちょっとした喪失感だった。



体に残る余韻の中で、そっと何かがまた私の弱い部分へと触れる。
柔らかな布地の感触。少しして、離れて。
気が付けば胸に抱いていた毛布が足先までちゃんと覆っていた。

目を薄らと開けてそっと見てみれば、部屋の隅にタオルを運ぶあの子の姿が目に映って。
運び終わるのを見届けると、そっと手招きした。

「あたたかい方が、眠りやすいですから。」

ただ一言だけそう呟いて。近づいてきたあの子を胸に抱きしめると、
私はまた目を閉じて。部屋の灯りに背を向けて眠ったのだった。



――



目が覚めた時、私の視界はぼんやりとしていた。
寝た時のままの部屋の明るさ。でも、私には少し眩しくて。
眠い目をこすりながらふと自分の懐に目をやれば、あの子はまだそこにいた。
でも私よりも先に起きていたのか、私の視線を感じるとすっと首を動かしてこちらを見上げた。

「おはようございます。」

その子はただ一度だけ頭を下げて頷いて。少しの間私はその子とじっと視線を合わせていた。
小さくぽっかりと開いている口。こうして見ると、そう大きなものには見えないのだけれど……。

「ちょ、ちょっとお口の中に指を入れてみたいのですが……駄目ですか?」

昨晩気になった事だからと人差し指を出してその子に尋ねてみれば、
その子は何かを察したように私の指を咥えこんで、もぐもぐと指を深く飲みこんでいった。
きゅっとした感触が断続的に指に伝わってくる。
その感触の奥に、私の物ではないこの子の鼓動が伝わってくる。
ゆっくりで、でも確かな鼓動。

「苦しくはないですか?」

指が邪魔で首を振る事が出来ないからか、下半身を持ち上げ横に振ってその子が答えた。
指の根元に唇がぴっちりとしているけれど、そもそも息をして生きている訳ではないのかもしれない。
私が首を縦に振ったからか、興味の対象が私から指へと移ったようで、
その子がちゅっ、ちゅと、私の指を吸い始めた。
きゅ、きゅと締まる感触と共に、昨日も肌で感じた潤滑油のような感触が私の指にじわりと広がっていく。
……思えばこの子には色んなところを吸わせてばかりだ。

「あの、お口には……えっと、その。もう少し太い物を入れる事は出来るのですか?」

私の問いに、動きが止まった。
私の意図していた事をすぐに理解したからなのか、その子はゆっくりと頭を引いて私の指を口から放し、
さっきまで首の代わりに振っていた下半身を持ち上げると、顔の横に並べたのだった。

「それくらいの太さは、大丈夫なのですか?」

一度だけ、確かに頷いて。下半身を再びベッドの上に下ろすと、もう一度さっきの指に口づけして。
それからいそいそと動きだすと、私から離れ始めたのだった。
昨日用意していたタオルの山。そこからまた一枚持ってきて、私の指を包んで。

「……ありがとう。そろそろ、起きましょうか。今日もお仕事ありますから。」

小さな頭を撫でると、私は軽く指を拭いてから体を起こしたのだった。




――


着替えを終えて、勢い良く部屋のドアを開けようとするとぐっと重たい感触が一度走り、
その後ふっと消えた。代わりにどん、と床に何かを落としてしまった音が響いて。
私はドアにかけていた力を抜くと、ゆっくりとドアを開けたのだった。

パチュリー様が居た。床に。……尻もちをついてしまったのか。
なんでドアの前に居たんだろう。用事があった……ひょっとしてドアをノックされる直前で開けてしまった?

「だ、大丈夫ですか?」
「え、ああ。うん。大丈夫だから!」

パチュリー様の顔は少し赤かった。
……打ったのかな、と思ったけれど痛そうにしている素振りはない。

「何か、緊急の用事があるのですか?」

床の上に座ったままだったパチュリー様の手を引いてその体を起こしながらそう尋ねれば、
ぶんぶんとパチュリー様が首を横に振った。

「いや、起きてくるのがちょっと遅かったから。何だか心配で……ね?」
「あ、あれ。もしかして寝坊しましたか?」
「そ、それほどでも無いんだけどね。」

恥ずかしそうにパチュリー様が言葉を濁して。
ふと部屋の中の時計の方に目を走らせてみれば……成程確かに少し遅れていた。

「申し訳ありません。」
「い、いや。良いのよ?さ、行きましょうか。」
「……はい。」



――



朝食が紅魔館より届いたのは、私達が図書館に入ってどれ程経った頃だろう。
いつもより遅かったから、二人揃って容態が悪化したのではないかと思った頃である。
料理を載せた台車を運んできたのは、妖精のメイドさんだった。

「遅れて申し訳ありません。」

慌てながらもそう謝って急いで料理を並べはじめた彼女。
どうやら、料理も咲夜さんが作った物では無い気がする。

「咲夜さん、また具合が悪くなったのですか?」
「いえ……それが、その。」



妖精のメイドさんが言うには、昨晩の夜中、お嬢様に腰の事が伝わった時に
休養するように言われたらしい。けれど、咲夜さん自身が自分は大丈夫だと反論して
口論になったそうだ。で、咲夜さんは自分を診た美鈴さんを証人として呼んだ、と。
でも美鈴さんもお嬢様側についてしまい、結局休養をせざるを得なくなって今は寝室に居る、
という事らしい。

「凄く……怖かったです。」

彼女はどうやら朝食の指示を受ける為に会って来たらしい。
話しながら一度だけ体をぶるりと震わせると、最後のお皿を並べ終えた。

「顔は沈んでて、でも声は怒ってたし……やりきれなそうな呻き声出してました。」
「そう、ですか。」

なんとなくだけれど、その気持ちは分かるような気がして。
私は準備を終えた彼女を返すと、パチュリー様と二人で朝食を食べはじめたのだった。

「まぁ、美鈴ならレミィの側に付くでしょうね。こういう時なら。」
「それはたぶん、誰でもそうなってしまうとは思うのですけど……でも。」
「でも?」
「咲夜さん、きっと自分の側に付いてもらえるって思ったから、呼んだんですよね?」
「……そうでしょう。けれど、本人だって恐らくこうなる事は予想出来ていたでしょうね。」
「それでも心のどこかで信じていたから、という事ですか。」
「……そういう事よ。」



朝食のサンドウィッチ。二人で半分ほど平らげた頃にふと気になってパチュリー様に尋ねた。

「もし、私が今回の咲夜さんみたいに体を壊したら、パチュリー様はどうします?」
「……どうしますって、どういう風に指示するかって事かしら?」
「そ、そんな感じです。」
「それは、貴女。私だってレミィと同じように休養しろって言うわ。」

そこまでは、さっきの話があったからきっとそう答えてくれるだろうという確信があった。
だからこそ、私が聞きたかった事があって。

「もし私が、それでも働きたいって言ったら?」

静かに私がそう言えば、パチュリー様の手の動きが止まった。
何故か私の背中に一瞬冷やりとしたものが走っていった気がした。
サンドウィッチを見つめていた目がじっと私を捕える。
……久しぶりに睨まれてしまったかもしれない。

「あのね。」
「は、はい。」
「そういうのは、あまり言われたくないものよ。そういう時に。」

短く区切って、真っ直ぐに言われた。
私は思わず目を逸らしてしまって。ただただ、頭を下げた。
私の膝の上で大人しくしていたあの子が、不思議そうに私を見上げた。



「……そう言い張っても、休ませるわよ。」

少ししてパチュリー様が小さく呟いた。
声から怒気がちょっとだけ抜けて、それに僅かにほっとして。
恐る恐る顔をあげて、ちゃんと目を合わせ直すともう一度頭を下げた。

「……いや、良いのよ。ごめんね、急に怒ったりして。悪かったわ。さ、食べましょう?
咲夜が仕事をしていないってことは、他の皆は時間に追われてるって事でもあるんだから。」
「そう、ですね。」



――



「あら、どこに行くの?」

食後の休憩を終えて。パチュリー様が読書に入ろうという所で、私は一旦席を立った。

「この子と一緒にお風呂に行こうかと思いまして。この時間は妖精メイドさん達も利用してないですから。」

食事の際に水飲みは済ませたけれど、流石に飲み水の入ったコップで湯浴み出来る程この子の体は小さくない。
また洗面器でも良いけれど……咲夜さんが居なくて慌ただしい紅魔館の中を、無事に運べる保証はない。
咲夜さんの気苦労を増やすなんて事は、今はしたくないから。

「あぁ、そうね。……私は夜に浴びるから、行ってくると良い。でも先に。」
「はい。」
「このリストにある本、運んできてちょうだい。」
「……はい!」



あの子をゆったりとした服の下に潜り込ませて。
不自然な膨らみが無いかと心配しながら脱衣所へと向かった。
誰も居ないだろうそこには一人分の衣服があって。
私は衣服を脱いであの子を背中に抱くと、浴場へと入った。

「お仕事お疲れ様です。」
「ん、あぁ。おはようございます。」

声をかけてみれば既に湯船に浸かっていた美鈴さんが、顔を起こしてそう応えた。
声こそ明るさを保っていたものの、顔はどこか沈んでいて元気がない。
挨拶を済ませればかっくりとまた頭を下に向けてしまって。
気が気でない。恐らく一言で表せばそんな心境なのではないだろうか。

「その子が咲夜さんの言っていたものですね。」

急にぼそりと言われた一言にびくっとしながらも、手近な洗面器にその子を置いた。
……そうだ。美鈴さんがこうなった原因も恐らくは私のした事が発端なんだ。

「申し訳ありません。」
「……誰が悪いとか、何が悪いとか。そういうのは無いでしょう。咲夜さんだってそう言ってました。」

お湯の熱さを確かめて、あの子が居る洗面器に新しい洗面器で少しずつ注ぎ込んで行く。
どことなく美鈴さんの声から雰囲気を理解しているのか、やはりこの子は静かだった。



「私は嘘を言うべきだったんでしょうか。最初に診た時に、少し重く伝えるべきだったんでしょうか。」

私が体を洗い終えた後。あの子を入れた洗面器を湯船から見える所に置いて、同じ湯船に浸かった時だった。
何度も自問自答したのだろうか。はっきりとした声だけれど、隠そうとした不安の残り香がまだ、あった。

「嘘を使う事は悪い事だとは思ってないです。私だって必要だったら嘘をつきます。でも、
嘘をつかなければならない、なんて事は無いと思ってます。」
「どうして、ですか。」
「絶対、は無いです。」
「……ですか。」
「それに、……美鈴さんは咲夜さんに嘘をつきたいんですか?」

俯いたままの顔が静かに、横に揺れた。
しんとしていた水面も、ゆらりと揺れた。

「じゃあ、もうひとつ。咲夜さんに嘘を、つかれたいですか?」

収まりかけた水面がまた揺れて。
私はそこで質問を打ち切った。



しばらく微動だにしなかったけれど、俯いていた顔がぶん、と音がしそうな程に跳ねあがった。
……立ち直ったようで。ちょっとだけ、ほっとした。

「後で部屋に行ってみようと思います。」
「それは、止めた方が良いんじゃないですか?」
「……あれ、どうしてですか?」
「いえ。行くなら今が良いと思うんです。お昼とかそれ以降なら、
咲夜さんはきっと門番の仕事をしなさいって言うでしょうから。」
「それも、そうですね。……お見舞いの品を用意したかったのですが。」
「堂々と本意を告げさえすれば、それに敵うお見舞いの品なんてたぶんありませんよ。」

強いて言うなら、咲夜さんの部屋に着くまでに真っ直ぐに見つめる事が出来る強い目が用意できれば。
ひとつの土産にはなるかもしれませんが。

善は急げとばかりに湯船を飛び出し、美鈴さんが滑りそうになりながらも脱衣所へと向かって行った。
……あの様子だと途中で妖精のメイドさんとぶつかる。絶対に。
でもそれくらい真っ直ぐなら。……いや、だから、か。咲夜さんだってたぶん喜ぶはず。
何となく、何となくだけど。



ちらり。ちらり。
一応浴場を見回して、誰も居ない事を再度確認して。
私は一度湯船から出ると、洗面器の中のあの子を抱え湯船へと戻った。
たぶんあのままだと冷めてしまう。そう思って。
湯船の端に寄って、溺れないようにしながらそっと湯船の中にその体を放した。

体を伸ばそうと思えば伸ばせるのに、……ひょっとしてお湯が勿体無いとか考えてるのかもしれないけれど、
この子は湯船の端に頭を載せると、ただただ愉快そうに下半身をゆっくりとお湯の中でゆらゆらさせていた。
少なくとも、洗面器の中よりはずっと快適な様子で。

「もう少しあったまったら出ましょう。あまりここに長く居たら、パチュリー様が困りますから。」

自分にも、その子にもそう言い聞かせて。
でも、もう一度ゆったりと肩を沈めて。一度大きくため息を吐きだすと、私も湯船の端に頭を載せたのだった。


――


図書館へと戻った時、パチュリー様は用意していた本の3分の2程をもう読み終えていたようだった。
パチュリー様の所に行く前に予め用意しておいた紅茶を持っていくと、
読んでいた本にしおりを挟み、読み終えたらしき本の山の横に置いてすっと私を見上げた。
ちょっとだけ目が訴えている。遅い、と。……実際ちょっと長く浸かりすぎた気がしないでもない。
思いのほか静かに入れる機会だったからか、やっぱり長風呂してしまったのだ。

「お、遅れて申し訳ありません。」
「……おかえり。とりあえず、喉が渇いたからその紅茶、早く頂戴な。」
「は、はい。」

急いで持って来たセットで紅茶を注いでパチュリー様に手渡す。
お昼前なのに今日はもう2回もパチュリー様を怒らせてしまっている。
3回目なんて、したくない。

読み終えたらしい本を片づけた所で私も改めて椅子に座り、あの子を膝の上へと置いた。
私もお風呂で喉が渇いていたので、少しだけ冷めてしまったけれど紅茶を貰って一息。
……飲んだら落ちついてしまったのか、パチュリー様の不満そうな顔はいつしか消えて、
気が付いたらいつものように読書に集中していた。
まぁ、不機嫌そうな読書なんて見る事は滅多に無いのですが。



少し経って。図書館の中に少しだけ歩幅の短く、小さな足音が響いた。

「紅茶、準備してきます。」
「ええ。よろしく。」

この場所を訪れる人なんて限られているから、大体足音の情報さえあれば
私やパチュリー様もそれが誰なのかという事はすぐ分かったりして。
だから私はあの子を膝の上から椅子の上へと避難させると、
パチュリー様に一度だけそう伝えてすぐに席を立ったのだった。


給湯室の時計をちらり。お昼ご飯にはまだ少しあるけれど、今ここでお菓子を一緒に出すのは……。
やっぱり、時間が近過ぎるか。紅茶だけにしておこう。
何度も何度も経験したことだけれど、やっぱりこの時に準備する紅茶はどこか、なんというか。緊張する。



「で、あの娘は?」

私が戻ってみれば、あの子を置いた席のすぐ横の席について、パチュリー様にそう尋ねていた。
すっとパチュリー様が手をあげて私を指さして。
私はふり向かれるよりも先に、後ろから紅茶を差し出してテーブルの上へと置くと、
テーブルを回ってパチュリー様のそれも、取り替えた。

「あぁ、ありがと。」

受け取った紅茶を早速飲みながら、すっと目で隣に座るように言われて。
私は冷たいものを背中に感じながらテーブルの隅に紅茶のセットを置くと、
あの子を挟んで反対側の席へと腰を下ろしたのだった。

「それが、今回の一件での物なわけね。」
「物じゃないわ。レミィ、それ一応今生きているから。」
「そう。で、パチェ。咲夜はこれが何なのかをほとんど話してくれなかった訳なんだけど。」
「それは、私に聞く事かしら?」

来客者、お嬢様の質問にパチュリー様が私の方を見ながらそう言った。
その言葉に、お嬢様の視線もこっちを向いて。……うぅ、一応全体を把握しているからか、
何だか妙に居心地が悪い。
二度目の質問は無かった。目だけが答えを要求している。
でも、正直に言うにはこれはどうにも恥ずかしい。とても。

「この子は、その。……あの、うんと……お友達です。」
「友達?」
「……よ、夜の。」
「そ、そう。」

流石のお嬢様も、意味は通じたようで苦い物を噛んでしまったような表情をされた。
出来る限りの遠まわしな言い方にしたつもりだったけれど、あぁ、駄目だ。やっぱり恥ずかしい。
パチュリー様、手で隠してるけど笑ってるし。

「何ていうか……いや、何とも言えないわね。」

何を言葉に選べば良かったかも分からなくなったように、
お嬢様が両手をあげて溜息を吐いた。
まぁ私だって、もしこんな事になってそう説明されたのなら同じようになってしまうだろう。

「御迷惑おかけしました。」
「ん、あぁ。……まぁ、良い機会だわ。咲夜が休むのには。」
「そうね。こういう機会で貴女が命令でもしないと、目に見えて休むような事しないからね。」

その言葉にお嬢様が一度だけ短く頷いて、カップの中身を飲みほした。
おかわりを用意しようとしたところで手で制されて。
私が出していた手を引っ込めると、すっとお嬢様が立ちあがった。

「概ね分かったから寝る。おやすみ。」
「おやすみ。」
「お、おやすみなさいませ。」



こつこつと、小さな足音がゆっくりと遠のいて。
しばらくしてドアの閉じる音がすると、図書館は一気に静かになった。



――



「お待たせしました!」

元気よく声が響いてお昼の時間がやって来たのは、それから程無い時間だった。
恐らく入り口から叫んだのだろうが、その声は当然のように私達の所まで届いて。
パチュリー様はびっくりして肩をあげるし、
私も飲みかけていた紅茶を危うく気管支に入れてパチュリー様2号になるところだった。
その元気な声の主は、朝も食事を運んできた妖精さん。
朝のそれに比べれば、……なんと立ち直った事か。
というか逆に今度は元気過ぎるような気もしないではないですが。
一旦膝の上に置いていたあの子を急いで見えない位置へと移動させると、私は何事も無かったように席についた。

「貴女。ここは図書館だから、静かに。」
「も、申し訳ありませんでした。」

鼻歌交じりでそのまま台車を運んできたメイドさんに、
パチュリー様がじっとりとした文句を言った。
……今日のお昼はマリネか。ふわりと漂う匂いはどこかさっぱりしている。

「上機嫌ですけど、何かあったんですか?」
「あのですね、あのですね!」
「貴女。……料理、先に置いて頂戴な。」
「あ、う。はい。」



どうやら、朝と同じように昼食の事を尋ねる為にこの子はまたお部屋に行ったらしい。
が、部屋を訪れても反応が無くて、帰ろうとしたら呼び止めるように中から慌てた声がしたらしい。
あぁ、居たんだ。そう思ってドアを開けてみれば、
出迎えた咲夜さんは……寝癖と枕の痕がついていたそうだ。

「んもう、あれですよ!咲夜さんの寝癖なんてもう一生見る機会無いです!」

確かにそれはもっともだと思う。
……さっき訪ねてきたお嬢様に伝えたら凄く喜んだだろう。
ちゃんとぐっすり寝てますよ、って伝わるから。

「それに何より、パジャマでした!」

……それは惜しい。クッキー焼いてたら持って行くのに。
ふとパチュリー様の方を見てみたら、私が今してそうな表情をしていた。
案外、考えているのは近い事なのかもしれない。

「眼福です!あぁ、もう!この喜びを皆に早く分けたい!」

そ、それはどうなんだろう。咲夜さんの仕事復帰が異様なまでに早くなるか、
この子の仕事先が今の場所から凄い場所への転勤になりそうで……。

「貴女。」
「はい?」
「皆の知らない秘密は、皆が知らないからこそ価値があるのよ。」
「……それもそうですね。……うん。秘密にしよう。あ、じゃあ秘密ですよ!」

確認するように呟いてから私達に元気にその子が声を出した。
……元気だなぁ、本当。



「その子はナプキンかけじゃないと思うんだけど。」

お昼ご飯を食べ始めてパチュリー様がふと呟く。
私が膝の上にあの子を戻して、その上からナプキンをかけたから、そう言ったのだろう。
それは確かにそうなのだけれど、……こうしていると妙に体の冷えが収まるから。
ナプキンも掛け布団っぽく見えるかなって思って、そうしたんだけど。

「まぁ、良いわ。私はその子の保護者じゃないし。」
「いやはや、つい。」
「……そういえば話が変わるのだけど、昨日はその。結局したのかしら?その子と。」

あまりにも話が変わり過ぎて思わず咳こんだ。
どうやら酸味の効いたオニオンスライスか何か……気管支の方に行ってしまった気がする。
ちょっと紅茶よりタチが悪い。凄く、涙が出た。パチュリー様は焦りだすし、
件のこの子も何事かと私を見上げるし。な、なんでこのタイミングで言うのだろう。

「お、お水要る?」

パチュリー様がぐっと体を乗り出してそう言って。
私は受け取ったコップの水を飲み干すと、一度深呼吸してから……もう一度むせ込んだ。



「ご、ごめんね?」
「だい、じょうぶです。」

私の息が落ちついた後、パチュリー様がそう言って謝った。
単純にむせただけなのに、何だか相当な心配をかけさせてしまって、
かえってこっちが悪い気がしてくる。
慌てて首を振ってこたえたものの……うぅ、まだちょっと涙が出る。

「一応、その。しました。……ただ少し疲れてたから、ちょっとだけ。」
「……そっか。うん。そうね。その事ちっとも考えてなかった。私の時は私の時間は私が決めていたから……。」

パチュリー様が再び自分の椅子に腰を落ち着けて、そう言って溜息を吐いて。
ちょっとだけ自分で余計な事を言ってしまった気がする。

「……うん。そうね。今日は夜更かしせずに……やる事を済ませたらもう、寝ましょうか。」
「い、いや。いつも通りで私は全然問題無いんですよ?」
「良いのよ。機会っていうのは、利用しないと。」

駄目だ。完全に気を遣わせてしまった。
うぅ……どうにもこうにも最初考えていた事からどんどん方向がずれてしまっている。やっぱり。
せめて、ならばせめてしっかりとお勤めをしないと。

「……気にしないでも良いのに。」

どうやらまた顔に出たらしい。
パチュリー様がそんな事を言いながら、笑った。



――


午前に読み終えたという本を片づけて、新たに渡されたリストの本を集め直して。
……うん。どう見ても日頃より少ない。明らかに減った。
とはいえ、私が一日に読めそうな本の量を何倍も何倍も超えているのだけれど。
いつも、厳しい所も優しい所も……全体で見れば優しいパチュリー様だけれど、
どうして今回はこう、ほとんど無条件に私の事を優先してくれるのだろう。

ひょっとして私がこういう方向に走ってしまった事に落ち目を感じているとか?
……いやいや、それについてはパチュリー様自身が手を貸すという事で話があって、
実際助けて貰ったし……うぅーん。分からない。

「本、重いでしょ?そんな持ったまま考え込まなくても、先に置けば良いじゃない。」

テーブルの前でそんな事を考えていたらパチュリー様にそう言われて。
私はハッとなって持っていた本をテーブルの隅に積み上げると、一度頭を下げた。

「リストの半分です。後半部を今から持ってきます。」
「うん。よろしく。」



思えば、お昼のあの言葉っきり、パチュリー様があの子の事について聞く事は無かった。

夕食前。日が沈んだ頃の館の中は少しだけ騒がしくなった。
咲夜さんが仕事を休んでいる事による歪みの様なものが少しずつ大きくなっているのだろうと思う。
楽しそうな騒がしさというよりは、どこか悲鳴に近いような気がしないでもない。
ただ、お嬢様達がまだ寝ているという事実は周知であるからか、
騒がしいと言っても、少し気になる程度のものだった。
が、……その少しが気になるのは何も寝ている人だけじゃない訳で。

「皆が咲夜に頼り過ぎというのが良く分かるわ。」

図書館のこのスペースから扉まで……もとい外の空間までの距離は結構あるし、扉にもそれなりの厚さが
あるのだけれど、それでもやはり届いてくるその声にパチュリー様がそう洩らして本を置いた。

「……寝室で読むわ。」

溜息を一度長く吐いた後、その一言を残してパチュリー様が立ちあがる。
私は積みあがっている山と置かれた本を急いで手にとって、パチュリー様の後を追った。



正直な話をすれば、私はパチュリー様が大好き……いやこれは正直以前にもうパチュリー様だって理解してくれているとは思うのだけれど、
私はこの部屋の事も好きだ。この、パチュリー様の部屋が。でも、それにも時と場合というものがあって。
職務中には本当はあまりこの部屋には私は入りたくない。
乱れてきた食生活を正そうとした時に美味しそうなケーキを見てしまったような、そんな気分。
いつまでも埋もれていたい空間に戻って来たような、そんな気分。
そんな気分が一緒になって、感じられるから。

職務中にこの部屋に入ると、仕事をしているという気分がどんどんと無くなってしまうのだ。
ベッドに座り読書を黙々と始めるパチュリー様の邪魔にならないように、
パチュリー様の視界の外の椅子に腰を下ろして、ただ静かにじっと、じっと。
貴女も読めば?と言われもするが、読書に夢中になってパチュリー様の容態の変化に気づけなかったり、
何かしら疎かになってはいけないからと、いつもそれは断っている。
ただ、断ったら断ったで……する事というのはめっきり無くなってしまう。
紅茶や読み終わりの本、まだ読んで無い本を運ぶ以外にはほとんど何も無い。
だから、一度ひと段落迎えてしまうとパチュリー様の匂いと静けさに満ちたこの部屋の中。
まるで引っ張られる様に眠くなってしまうのだ。
寝てしまってはいけないのに。
寝るべき時ではまだないのに。
そして気づけば、毛布が一枚かかっていて。
大失態を犯したと、いつもそうやって気付かされるのだ。

でも、今日は違う。今回は、違う。
私は暇つぶしを一つ、持っている。
……いや、それに気づいたのは椅子に座ってからだけど。
今日はこの子が居るのだ。膝の上のこの子の体をひたすら撫でていれば
少しは気が紛れようというもの。さあ、来なさい睡魔!今日は絶対に負けないから!



なんて、甘い幻想を私は抱いていた。
やっぱり気が付けば毛布を一枚かけられていた。
もっと早く気付くべきだった。この子を膝の上に置けばいつも以上に体が温まる事を。
言葉を変えれば最初から毛布をかけられたような状態でもあったわけだ。
戦う前から既に、負けていたんだ。

「ご飯だって。……起きて頂戴。」

パチュリー様にその言葉と共に起こされた時、私はそれらを理解した。
ぽかぽかだった膝の上以上に、顔が熱くなった。



――


扉を開けてふと香る匂いに気が付けば溜息を吐いていた。
こくりと喉が勝手に鳴る。匂いだけでそれだと分かる程に力強いそれは、
あの子にあたためられ、更に布団であたためられたお腹を更に湧き立たせる程だ。

「後に匂いが少し残りそうね……。」

ぼそりと呟いたパチュリー様。確かにそうかもしれない。
ただ悪臭に変貌したりしないから、そこはまだ大丈夫だろう。
……ちょっとお腹はすくかもしれないけれど。

「起きぬけの貴女にはキツいかもしれないわね。」

……それも、そうかもしれない。
圧倒的な権力を示すかのように漂うその香りの影に柑橘の匂いも僅かにあるけれど、
どこかそれは何か重たい食べ物を私には想像させた。

胡椒。黒い、胡椒。おぼろげでもなんでもない。
強烈に、頭から辞書のように呼び起されるそれを頭に描きながらついたテーブル。
既にあのメイドさんは帰ってしまったようで、そこには台車もなにも無かった。
準備が終わるその時まで、起こされずにずっと寝かされていた事を改めて思い知った。

「食べましょうか。」
「……はい。」

肉厚で少し大きいままの鳥の肉。たっぷりと塗された黒い粗挽。
赤と黒の肌の上に唯一黄色く残る輪切りの小さなレモン。
一見起きぬけに食べるには厳しそうなそれを見て、お腹が一度鳴った。



「食べ終わったら、私は湯浴みに行ってくるから。」

食べ始めに手に取ったナイフを少しだけ上へと向けてパチュリー様が呟く。
思えば私は朝に浴びたけれどパチュリー様は浴びていないんだ。

「分かりました。……あの、私も行った方が良いですか?」

いつも背中を流す身としてはどうあるべきなのだろう。
そんな疑問を素直に尋ねてみると、一度だけ小さな溜息を吐いてパチュリー様は首を横に振った。

「大丈夫。それに、今日はもうお湯を貰った後はそのまま寝室に行くから……今日はこれでおしまい。」
あぁでも、読み終えた本は片づけておいてくれるかしら。
「すみません。貴重な時間を。」
「……それはお互い様。時間は使えるうちに使ってこそよ。気にしないの。あぁ、でも。ちゃんと朝は起きて頂戴ね?」

そういえば朝は寝坊してしまったんだ。

「分かりました。気をつけます。」
「うん。」



食事を遮っていた会話を終えて、ナイフを肉へと突き立てる。
特別昼間に働けた訳でもないのに、体はその匂いに正直だった。
小さく切って口へと運んだそれを頬張れば、
まだ温かい肉の柔らかい感触と、強めに効いた胡椒がぴりりと舌を走って、
眠たかった頭をどんどん現実へと引き戻してくれて。
喉へと流して一度息を吐けばふと、レモンの香りが舞った。

「同じ暖をとる事には代わりないけれど」

同じように食べていたパチュリー様が、膨らませていた頬を直して呟く。

「グラタンなんかは熱過ぎると食べられない。かと言えばこっちは、増え過ぎるとやっぱり食べられない。
どっちも限界がある。だから、もっと暖を取ろうと思ったら、他の所を変えるしかないのよね。」
「例えば、環境とか……ですか?」
「うん。最終的には何か根本的な所で解決しないといけないの。」

そう言ってパチュリー様が一口。また頬を膨らませた。

「まぁ、食事の目的は暖をとる事だけじゃないのだけどね。」
「そう……ですね。」
「もう少し。……もう少ししたら、お鍋でも頼んでみようかしらね。」
「何故です?」
「……あたたまるから、かしらね。」

たった今自分で言っておいて何を言うかと思ったけれど、
また頬を膨らませてこちらを見て笑ったパチュリー様に
何故か自分も納得して。気が付けば首を縦に振っていた。


大方食べた頃だろうか。段々と熱湧き立つような物を私が体に覚える一方で、
パチュリー様の方は一度口元を手で隠すと、欠伸を漏らした。

「お疲れですか。」
「……そうなのかしらね。」
「ひょっとして、昨晩その。うるさかったですか?」
「んー。そんな事は無かったけど。ちょっと考え事してたから、それで夜更かししてしまってね。」

その割には私より早く……いや、私が寝坊しただけだった。

「まぁ、お風呂に入ったらゆっくり寝るわ。」
「分かりました。」



――



食べ終わったお皿を下げて貰い、少しだけ休憩をはさんだ後パチュリー様が替えの服と共に湯浴みへと出た。
一方の私はと言えば、またパチュリー様のお部屋。
かけてもらっていた毛布をベッドにセットし直して……ちょっとだけ枕に飛び込みたくなってしまったけれど、
その気持ちはぐっとこらえて。まかり間違えて寝てしまったら色々と不味い。それに寝なかったとしても、何故かばれてしまうから。

ベッドを直した所で、その脇に積みあがっていた本を持ち上げる。
相変わらずのその量を手と顎で支えて部屋を出て。一冊一冊を元の場所へと戻していった。
ふと見てみれば、何故かこの前パチュリー様と広げたあの本も混じっていて。
返し忘れていたかと思いつつも、それも戻していった。

きっと飲むだろうからと水差しのチェックをして。
最後に指さしで簡単な点検を済ませると、私はパチュリー様の部屋のドアを閉める。



そのままの足で自分のお部屋に戻って、ベッドに腰を下ろし時計を眺めた。
日付すら変わっては居ない。昨晩のそれに比べたらあまりにも早い時間。
食後膝の上から首周りへと移していたあの子をベッドに下ろすと、
私は照明を調整して部屋を暗くした。

わざわざ貰った時間で行為に耽ようというのは、実に情けない事かもしれない。
でもそのために頂いた時間なのだから、しないのも気が引ける。
表現しがたい居た堪れなさがあったけれど、それをぐっと飲み込むと私は服を脱いだ。

もう一度時計をちらり。パチュリー様の湯浴みはとても長風呂だという訳ではないが、
決して短くもない。出来るなら、それが終わるまでに私も終えても良いだろう。
うるさくはなかったとは言われたものの、出来るなら寝入りの邪魔をしたくはない。
第一、明日の朝は私ちゃんと起きないといけないし。……そういう、約束をしたから。

「……では、今日もお願いします。」

こくりとあの子が頷いて。
私が腰を下ろして下着を外すと、その子が私の横までいそいそと来て、私を見上げた。
どうやら今朝したことをちゃんと覚えているようで……。

「少し、お時間下さいね。」

お腹にゆっくりと手を当てて、日頃はどちらかというと私が使う事の少ない魔法を使って。
自分のお股からゆっくりと生えるそれを見るのは何だかちょっと恥ずかしかったが、
生えきった所で改めてその子に向き直ると、念のためにその子に尋ねたのだった。

「……その、口でして貰いたいのですけど、良いでしょうか。」

私の問いに首を振るでもなく、その子がのそりと太股を登ってじっと私を見上げる。

「む、無理だったら良いんです。駄目なら、駄目で。」

続いてかけた私の言葉には今度は勢い良く顔を横に振って。
しばらく私から生えたものをじっと見つめると、決心したようにその子がゆっくりとその先端を口に含んだのだった。

もぐもぐと、より奥へと咥えこもうとするその動きで、
熱い体の中をにゅるにゅると肌が擦れていく。その度に腰の辺りが浮くような感覚に包まれて。
朝調べた時は割と伸びる様な感覚があったけれど、中に入れてみれば思いのほかきつい。
ぴっちりと合わさったその子の肌から、とくとくとゆっくりとした音が響いてくるのが良く分かる程。

「あの、苦しくはないですか?」

咥えこんでいて頭を動かせないからか返答は無かったけれど、
動きが止まる事もまた、無かった。少しずつ咥えこんでいた口が
ようやく魔法ではなく元々からある肌の部分まで辿りついて、その子が動きを止めて。

……いや、止めたというのは不正確かもしれない。
それから後のその子はどうやら口から引き抜こうとしているようなのだけど、
摩擦が大きいのか、それとも単純にぴっちりしすぎているからか……ぴん、ぴんと引っ張る感触はあるんだけど、
どうにも上手くいっていない。肌越しに伝わってくる心音が少しだけど早くなったような気がした。

何だか、焦っているようで。私がお願いした事がそもそもの原因だったけれど、
その姿はちょっとだけみっともなくて、可愛かった。



見守ることしばらく。慌ててわたわたと下半身を動かすこの子は一体どうするのだろうかと少しワクワクもしていたけれど、
ぐっと下半身を伸ばして私の手に巻きつくと、私の手をその動かないでいるその子の体の所まで導いたのだった。

「引っ張って、抜けば良いのですか?」

助けを求められているような気がしたから、そう尋ねてみる。
けれど、それにはその子の下半身がぶんぶんと横に振れた。
……どういう事だろう。

「私は、どうすれば良いのですか?」

私の質問に答える為に手から離れていた体がまた、私の手を誘導して。
私は自分から生えたものがある位置を握らされたのだった。

「ひょ、ひょっとしてこのまま扱くという事……ですか?」

縦に、今度はその子の体が振れた。



正直、心配だった。
いつだったか、神社の宴会に招待を受けた時に食べた皆の持ち寄りのおつまみの中に、
ちくわという練り物に胡瓜をさしているものがあった。沢で採れたという事で妖怪の山から持ち寄られた山葵と、
お醤油をあわせたもので頂いたのだけれど、あれはそこで食べていたお酒とつまむには中々美味しくて……じゃない。
何だか、このまま私が手を動かしてしまうと、ちくわの途中から胡瓜が突き出すような感じになるのではないかと……そう思った。

乱暴なことをしたいわけじゃない。
でもこのままでは何も始まらない事は分かっているから、
私は一度深呼吸をすると、掴んだその手でゆっくりと引き抜いて行った。
ずり、ずりと体の中を自ら生やしたもので削っていくその感覚が、
むずむずとお腹の下あたりをまた襲う。
腰が抜ける程というわけではないけれど、日頃自分でする時ともパチュリー様にして貰う時とも、
少し違う。この子の喉という新しい感触。
思わず、肩が震えた。

先端の部分のみを残して引き抜いた時、私のそれは薄らとぬめったものに包まれていた。
体はさっき食べた夕食でぽかぽかとしていた分、濡れたまま外気に晒されたそこが
何だか妙にひんやりとした。……元々この子の体がとてもあたたかいから、余計にそう感じてしまう。

「えっと、これ、その。また挿しこんでも大丈夫なんですよね?」

先程確認したけれど、やはり不安でもう一度そう尋ねて。
短いながらも確かなその子の返答を見ると、深呼吸をしてゆっくりと手を戻していく。
再びあたたかさに包まれて、どこか変な安堵感を覚えて。その熱の奥で、
自分から生えたものがこの子の喉を押し広げて行く感触。
された事の無い、勿論した事も無い感触。もしもパチュリー様相手なら、
説教では済まされない。家族会議ものだ。……あ、違うかな。家族というよりはえーっと、何だろう。
……とりあえず、良くない事であるのは確かだ。
明らかに無理矢理押し広げているのだから。
でも、その無理矢理が痺れるような感覚を全身にじわじわと広げてくれる。
暗い部屋の中がより一層暗く見える程の、くらりとした感覚も覚える位に。

期待していたそれよりも、ずっとずっと気持ちが良い。
押し込めば無理矢理押し広げる感触。
ひっこ抜こうとすれば、削っていく様な感触。
時折混じる、この子のぴくぴくとした反応。そして、鼓動。
完全には独りよがりな行為じゃないという、小さいながらの心の支えがそこにはあって。
……ちょっと一方的ではあるかもしれないけれど。

起こしていた体をベッドへと横たえて、もう片方の手も添えて。
きゅっとそこを握るだけで、ぞくぞくと気分が高揚する。
押し広げるといっても、こうして握る手を少し変えてみれば、
何だかんだキツさも変わったりして……。

ここは私の部屋。今は私とこの子だけ、なんだけれども……。
思えばとんでもない痴態を晒しているのかもしれない。
でも、誰も見てはいない。



段々と堪え切れない衝動に、動かす手を速めた。
その子の口から僅かに漏れていた音が、大きさを増して部屋の中に響く。
とても元気なパチュリー様とする時くらいにしか聞けないような、そんな音。
パチュリー様としてきた記憶。それがふわりふわりと頭に浮かんでくる。

「あの、このまま……出しても良いですか?」

駄目だと言われても、我慢できないだろうとなんとなく自分で分かっていても。
私はその子にそう尋ねた。くらくらする視界の中で、僅かながらのその子の返答を見て。
私は握っていたその子の体をきゅっと強く締めるとぎゅっと目を閉じたのだった。

かちゃり。……ぱたん。
びくりと震える体から離れた所でそんな音が聞こえた。
この部屋の物では無い、少しくぐもっているその音は、隣の部屋の……。
私を気遣ったのか、少し遠慮勝ちにもちゅっちゅと吸っていたその子の動きが止まる。
未だに体は震えてその子の中に出し続けているけれど、段々と波が、高まりが収まっていく。



「つ、続きをしましょう。」

ふと気が付けば、そんな言葉を凄い小声でその子に対して言っていた。
お風呂でさっぱりしてさあ寝ようというパチュリー様がすぐ隣の部屋に居る。
最初は帰ってくるまでに終わらせてしまおうと思っていたけれど、
やっぱりこれでは勿体無い。
そう。わざわざ時間を割いて貰ったのだもの。有効利用しないと。うん。

「あ、でも静かに、やりましょうね……。」

やっぱり迷惑はかけられないから、ね。



お風呂上がりのパチュリー様の肌。剥き身の茹で卵のようにいつまでも唇で遊んでいたくなる。
すべすべで、あたたかくて。頭をその上に置けば、そっと包まれるようで。
石鹸の良い香りがして。でもその奥に、上気した肌の向こうにうっすらと、いつものパチュリー様の匂いがあって。
体を預ければ、そっと抱いてくれる。頭を撫でてくれる。私の髪を手で梳かしてくれる。
その時を、いつもの時を思い出しながら……。

とても背徳的な事をしている気分だった。
お風呂でさぞすっきりしているだろうパチュリー様のその部屋の壁の向こう側では
私がそんなパチュリー様の事を考えながら、こんな事をしているのだから。
少しぺとぺとする程の体液。とてもすべすべとは言えない。
石鹸の香りからは程遠い、自分で出したそれが原因の、ちょっと少し青臭い匂い。
でも、気持ちは良かった。
それは何とか気持ち良くさせようと頑張って吸おうとするこの子自身のお陰でもあるけれど。

どんなに激しい事をしてもパチュリー様に支障がないのなら、
こうやって溺れるように行為をしてみたい。
溺れさせて貰いたい。

「んっ……。」

達したばかりだからか、まだとても敏感で。
達してるのかそうでないのか、弄っている間は絶えず与えられる感覚がそのどちらなのか、
自分でも良く分からなかったりする。
ひょっとしたら、ただ単純に達したままなのかもしれない。
胸は高鳴りっぱなしだし、ふと目を開けてみても……クラクラしていてとても何が何だか分からない。
それでもいつも、この時が気持ちいい。



――



何度目、なんだろう。そんな事分からない程体を震わせて。
気がついた時には既にもうその子の体から手を離していたけれど、
身を捩ろうとするとまだ体が勝手に反応してしまう。
勝手に、びくびくと震えてしまう。
ただ、出るはずだったものはもう、出ている気がしない。
未だに繋がったままだという感触はあるから、
ひょっとしたらこの子の中に本当はまだ出しているのかもしれないけれど。

「……はぅ。」

溜息を吐こうとして、少し震えた息が出る。
ちょっと、やりすぎたかもしれない。
少なくともここ最近じゃこんなに疲れた覚えは私には無い。

……抜かなきゃ。これじゃ寝られない。寝返りを打てない。
そう思ってこの子の体を握りまた体を震わせながらも、
深々とさしたままだったそれをゆっくりと引き抜いていった。
私が出したもののその量の影響あってか、抜くのに苦労はあんまりいらなかった。
引き抜きを終えた時、外気に久しぶりに晒された先端が妙にもどかしくて。
依然として私とは対照的に元気なそれを元に戻す為の魔法をかけた。

「今日は、ありがとう……ございました。」

正確には今日も、か。
でもそれを言い直す気力は無くて。手の中に居たその子を解放すると、
私はそのまま夢の世界へと船をこいだのだった。


――


頬にぴたぴたと触れる感触で目を開ける。
頑張って目を開けてみれば、昨晩付き合ってもらったその子が私の頬を小突いていた。
いつの間にかけられたのか分からない毛布の上に座って私の方を見ていて。

「おはよう、ございます。」

私はまだ少し眠たい目をこすりながらそう言った。
その声を確認するやいなや、私の頬に伸ばしていた体で今度は別のところを指していて。
その先を追ってみれば、昨晩見たきりの時計がそこにあった。
……起きる時間だ。本当はまだ少し、もう少しで良いから寝て居たいのだけれど。
昨日心配させた上で今日もだなんて、そんな事は許されない。
パチュリー様はひょっとしたら許してくれるかもしれないけれど、
私が私を許す事が出来ない。

「……ありがとう。」

起こしてくれた事にお礼を言って、ゆっくりと体を起こす。
昨晩の行為の影響か、季節の割にはかなりの寝汗……寝汗だけじゃないようだけれど、
そのせいもあってか毛布とベッドの隙間から入ってくる風が少し、寒かった。
私を起こしたその子が毛布から転がり落ちないようにするためか、それとも私の二度寝を防止するためなのか、
いそいそと毛布の上から枕の下に移動してぐっと私を見上げる。

「今日は、頑張らないといけませんね。」

昨日はみっともないくらい仕事をしていない。というより、出来ていない。
その事を思い出して、思わずそんな事を呟いて。
私は一度大きく伸びをすると、着替える為に布団を出たのだった。



――


準備を終えた所でちらりと時計を眺めた。
よし、今日は大丈夫。と、針の位置に安心して部屋を出た。

一緒に行こうと思って、パチュリー様の部屋の様子を窺った。
どうやらまだ準備中という様子。何やら少し物音がする。
恐らくは着替えをしているのだろうと思う。
ドアの横に立って、壁に背を預けて。
軽く眼を閉じて、パチュリー様が出てくるのを待つ事にした。



「おはようございます。」

部屋の中をこちらに向かって歩く音が聞こえた所で目を開けて、くるりとドアの方へと体を向け、
程なくして開いたドアから出てきたパチュリー様に頭を下げてそう挨拶して。

「おはよう。……うん。」

しばらく私の方を見て何だか考えていた様子だったけれど、
少ししてそんな一言を小さく呟いて歩きだしたパチュリー様に続いて、
私達はいつもご飯を食べているあの場所へと向かったのだった。

「おはようございます!」

今日も元気に迎えてくれたメイドさんに二人で挨拶を返した。
甘さの混じったような匂いを漂わせるあたたかなコーンスープ。
融けたバターの香り混じる見た目ほかほかなトースト。
昨晩頑張りすぎたのが原因なのか、目に入れただけで勝手にお腹が鳴った。

「食べましょうか。」
「……ですね。いただきます。」

パチュリー様の声にそう返した所で、ふと視線を感じて。
その方向へと顔を向けてみれば、椅子に座った私の少しだけ後ろに
料理を運んできてくれた先程のメイドさんが居た。
ぼーっとした様子で少し赤い顔で私の事を見ている。

「どうか、しましたか?」
「……え、あぁ、いえ。その。……良く分かんないです。何だか、ドキドキするような匂いが……してるような、気がするというか。」

私の問いかけにすら最初は気が付いて居なかったようで。
少ししてハッとしたように視線を逸らすと、彼女はそう言ってそそくさと料理を運んできた台車を引いて帰って行った。

「ドキドキする?」
「……うーん。うん。」

不思議な事を言われたものだと、彼女の言葉をそのまま反復してみれば
その私の言葉にパチュリー様がそう答えた。

「誘うような匂い、出してるわよ。」
「……え?私が、ですか?」
「うん。やっぱり私の気のせいじゃない。あの子達は私達よりずっと敏感だから。食べた後で良いから、お風呂入ってきなさいな。」

そ、そんなに匂いがしてるんだろうか。
そう思ったけれど、ふと思えば昨晩はずっとあんな事をしていたから……。
ひょっとしたらその時の匂いなのだろうか。

「分かりました。」
「……悪い匂いじゃ、無いんだけどね。」


――


「はい。お水です。……飲み終わったら、ちょっとお風呂行きましょうね。」

部屋で待って貰っていたその子にお皿を差し出して、
少しずつ飲んで行くその子の横で必要な着替え一枚一枚を重ねながら、
ふと今着ている自分の服へと顔を近づけてみる。
……自分では匂いが分からない。少しだけ朝ごはんのトーストの匂いがしたけれど、この匂いじゃない。

「あの。私って今何か変な匂いとか、します?」

ふと、静かに飲んでいたその子にそう話題を振ってみたけれど、
その子は困った様に私を見上げると、悩むような仕草を私に見せた。
……今思えば口はあっても鼻らしいものはなくて。分からない事を聞いてしまったのかもしれない。

「大した事ではないので。さっきたまたまそういう話をして……どうかお気になさらず。」



服の下にあの子を隠して再び向かうお風呂場。
途中気配を感じて振り返ってみれば、私の後ろをふらりふらりとぼーっとした顔でついてきていた妖精のメイドさんが、
ハッとした顔で物陰に隠れるのが見えた。
ふよふよと揺れる羽が出ているから、隠れているのが丸見えというか。
どうせなら隠れるよりも仕事をしている様子を出せば良いのに。
……いやいや、そもそもなんであの子達はついてくるのだろう。
パチュリー様が誘うような匂いがどうとか言っていたけれど、
それが原因なのだとしたら、ちょっとこれは急いでなんとかしないといけないかな。やっぱり。
とりあえず私は何にも気づかなかった事にして再びお風呂場の方へと体を向けると、
少しだけ歩みを速めたのだった。
着いた脱衣所は静かで妖精のメイドさんは居なかったけれど、
今日は今日で美鈴さんじゃない他の誰かが利用しているようで。
……ちらりと見た服の柄だけではちょっと誰の物か分からない。
あぁ、でもだからこそこれは……。

「おはようございます。」
「……おはよう。」

それは、咲夜さんだった。


「珍しいですね。」
「何が、かしら。」
「咲夜さんとお風呂を一緒にした記憶がほとんど無いもので。」

奥の方で静かに髪の毛を洗っていた咲夜さんに近づきながら、そんな事を尋ねる。
元々私やパチュリー様とは行動している時間帯も、その長さも違うから大体そうなる事は分かっているのだけど。

「……暇、なのよ。うっすら出来ていた青あざも美鈴が看てもう治してくれたんだけど、
それじゃお嬢様も……美鈴も満足じゃないみたいでね。二人揃って、休めって。」

言われてふと、後ろから咲夜さんの体を眺めてみたけれど、
すらりとした体のどこにも、確かにアザらしいものは見当たらない。
……綺麗で、ほんの少し引き締まった体。
美鈴さんとはまた方向の違う、整った体。

「……私だって、いつもちゃんと休憩は取ってるのよ。」

溜息混じりに呟いた小さな声。
たぶんその事は、私だけじゃないこの館の誰もが、たぶんそうなのだとは認識している事だと思う。
ただ、目に見えて休む姿を見る事が出来るかの方が、誰にとっても重要なんだ。

「第一これくらいの事で休まないといけないなら、他にも休まないといけない誰かが居るはず。」
「例えば、えーっと。……あぁ、美鈴さんとかですか?」
「……そうね。私なんかよりよっぽどだと思うけど。」

どこか返す声に熱があるというか、煮え切らない気持ちが混じって私には聞こえる。

「ただ守るだけの駒なら、いくらでも代わりがききます。」
「あの娘もそうだって言いたいの?」
「ええ。……でも、美鈴さん自体の代わりは誰にも出来ないですから。そう思うのだったら、そう言えば良いと思いますけど。
言えないなら、他の方法を探せば良いんです。ほら、暇つぶしが出来たじゃないですか。」
「……やれやれ、だわ。」

髪を洗い終えたのか、咲夜さんが頭に付いていた泡を流し始めた。
思えばこんな事になった原因のあの子を連れてきている事をまだ伝えてないや。
まぁ咲夜さんがこちらを見れば気づくのだろうけれど。

「あの、一応あの子をここに今連れてきてますので。」

それでもこんな足元の悪い場所で驚いたなんて事になれば……。
それこそ、一大事にもなりかねないから。話の流れを切って私はそう伝えた。

「……そう。」

一瞬固まって、咲夜さんがゆっくりと振り返った。
見えた顔はどこか疲れていたけれど、特に気にしている様な様子は無くて。
それを見て少しだけ、ほっとした。



私も体を洗い終えて、あの子はまた洗面器で我慢してもらって。先に咲夜さんが入っていた湯船へと私もお邪魔させてもらった。

「同じように、メイドを束ねる立場にはいくらでも代わりはききますけど、咲夜さんの代わりは誰にも出来ないんですよ。」
「……それで?」
「それだけですよ。」


――


「……そろそろ、出るわ。」
「はい。ゆっくり休んでください。」
「飽き飽きする位もう休んだわよ。明日から復帰するわ。」
「そうですか。」
「何か、食べたいものとかあるかしら。夕食とかに。」

湯船からあがって、脱衣所へと歩き始めた咲夜さんがふとそう言った。

「鍋が食べたいですね。」
「鍋、ね。……あったまるわね。」

そのまま歩いて行ってしまった咲夜さんを見送って、そっとあの子に手を伸ばす。
……やっぱり洗面器だと冷えるのが早いなぁ。

「あなたの代えも、ききそうにないですね。」

元々持っていたイメージとずっとずっと違っていたからそう呟いたけれど、何だか嬉しそうにその子が体を振った。
……咲夜さんは咲夜さんで、美鈴さんは美鈴さんで、その辺の事は分かっているだろうとは思うのだけど。
やっぱり気恥ずかしいのでしょうか。まぁ、昨日あの後美鈴さんが何をしたのかは知らないですけれども。

「パチュリー様も、代えがきかないです。」

確かめるようにそう呟いて、ふと思う。
……私はどうなんでしょうね。こんな、だし。



――


「おかえり。」
「すいません。遅れました。」

ぼーっとお風呂場で考え込んでいる内に、どうやら長風呂をまたしてしまったようで
図書館へと急いで戻った時にはパチュリー様が怒りを通り越して完全に呆れた様な声でそう迎えてくれた。
どうやらメイドさんに用意させたのか、既にテーブルの上にはティーセットが置かれていて。
私はただただ、頭を下げるしかなかった。
……長風呂が原因であの子がのぼせなかったら、たぶんもっともっと長風呂になって、
今のこの時よりももっと酷い事になっていたのだろう。

「あの子は?」
「ちょっと、のぼせたようなので先にベッドで休ませてます。」
「……そう。」

短い返事の後で渡された用紙。いつも書いてある所まで本の名前を書き連ねた後、
少しずつ小さい文字で本の名前を書き足したような痕がずっと続いている……。なんというか、怒りの表れなのだろうか。

「い、急いで用意します。」
「ええ。」



いつもよりも何冊も多かった本の山を抱えてテーブルへと戻る。
重ねた本の山の背表紙をすっと眺めて一冊一冊手に取ってはパチュリー様が読み始める。
……目つきこそ穏やかになったけれど、やっぱりどこか怒っているのがまだ分かる。
次のページをめくるためにと伸ばされている指が、少し落ち着きない。
そしてこの時のパチュリー様は、何かが起こるまで喋ろうとしない。
だからこそ、とも言えるのだけどこの時のパチュリー様程、
静かにじっとパチュリー様の視野の外から観察していて分かりやすい事も無かったりする。
喉が渇いても、お腹が減ってきても。……言おうとしないから。
言わない代わりになんとなく、それとなく、伝えてくる。
ちらりちらりと視線だけで私を探してみたり、空になったティーカップに手を伸ばそうとして、止めたり。
怒っているとはいえ、何だかちょっと可愛いというか。なんというか。不謹慎だけれど、いつもそう思う。
意地を無理に張った子供の様だというか。

勿論、そんな事を本人に言ってしまうと目を三角にされる事は知っているし、そういう時に

「新しい紅茶です。」

こうやってちゃんと代わりを差し出せば、

「ん。ありがとう。」

……少しずつ許してくれるのも、知ってますしね。


――


お昼を告げる音。……もとい、お昼ご飯の足音。
足音というのは変かもしれない。足音をたてているのはメイドさんだし、
実際にそんな音よりも大きいのはどちらかというと台車の音の方だし。
ただ、いつもの台車の音とはどこか違った。

「お昼ご飯をお持ちしました。」

それは、メイドさんが違ったからのようで。
いつものメイドさんではない他のメイドさんが、台車を押してきていたのだった。

「いつもの子は?」

ちらりとメイドさんの方を見て本に栞を挟んだパチュリー様がそう尋ねた。

「何だか、熱っぽいらしくて。本人も良く分かってないそうなんですが……。」
「そう。」

ひょ、ひょっとすると今朝の事が原因だったりするんだろうか。
そうだとすると何だか非常に申し訳ない。

「他にも同じ症状なのが何人か居るんです。廊下で掃除を担当していたグループなんですけど。
ひょっとしたら新手の風邪かもしれないという事で、全員が休養をとる事になりました。」
「大変ね。」
「皆が皆、上手く説明してくれないので本当は良く分からないんです……。」

あ、あの子達……なのかな。



お昼ご飯の準備が終わって、メイドさんが運んできた台車を片づけに行った所でパチュリー様がじっと私を見つめた。

「やっぱり私ですか?」
「やっぱり貴方でしょうね。まぁ、すぐに良くなるんじゃない?たぶん。あぁ、そう。
お風呂入ったからなんだろうけど、今はそんな匂いまき散らしたりしてないから安心して良いわよ。」
「そ、そうですか。」

少なくとも変な被害者がこれ以上増えないのは良い事なのだけれど、一体私のその匂いって何なんだろう。
パチュリー様は誘うような匂いだって言っていたけれど、やっぱり自分じゃ分からなかったし。

「なんで自分の匂いって分からないんでしょう。」
「一時的にでもよっぽどの変化があれば自分の匂いでも気づくわよ。……普段の匂いは、そうね。私だって自分の匂いは分からない。
それは、貴女とか、咲夜とか。他の皆からじゃないとたぶん分からないんでしょうね。」

そんな返事と一緒にパチュリー様が手を拭いて、私もそれに続いて拭いて。
二人、小さな声と手を合わせた。

「じゃあパチュリー様にとって、私の普段の匂いってどんな匂いなんです?」

その日のお昼ご飯は丸く焼かれたホットケーキで、上には既にとろりと溶けたバターがかかっていた。
お腹が空いていた時ならば、これも誘う匂いには違いないだろう。
でも匂いに誘われて出る手は、私が今ホットケーキに伸ばそうとしているこの手じゃなくて、
喉から出てしまう方の手、なのだろうけれど。

「そうねぇ。……説明しづらいわね。大体どんな感覚か、というので良いかしら。」
「はい。無理に言葉に直すよりは、そっちの方がたぶん……良い気がします。」
「うーん。」

日頃から一緒に過ごしていてもそれは少し難題だったのだろうか。

「んー。うん。落ちつく匂い、かな。」
「落ちつく匂い、ですか」
「……いや、違うわね。この言い方は不味いわね。えーっと、んー。
日頃の貴女の事を知っているから、どうにも匂いがそれに関連付いているわね。
パブロフの犬みたいなものかしら。」

そこまで言った所でパチュリー様がホットケーキを切って口へと運んで。
私もそれより少し小さめに切ると、同じように口へと運んだ。
食べている間にも考えているのか、顔こそこちらに向いているけれど、
視線だけはあっちに行ったりこっちに行ったりしている。

「まぁ、いいや。その関連付けを含めて言うなら、私にとっての貴女の匂いはさっき言った落ちつく匂い。
気が沈んでても、舞いあがってても。それを元にね、戻してくれるの。」
「沈んでいるのならまだしも、舞いあがっているのを戻しちゃうって、何だか勿体無い気もしますけど。」
「そうでもないわよ。貴女が今回の一件を起こした原因でもある私の体力の無さ。
舞いあがってると、自分の体力以上の事をやろうとしちゃうから……。その点で助かってるわ。
それに、戻ると言ってもゼロに戻るんじゃない。少しだけプラスの所に、だから。」

「うーん。」
「……先に、食べましょう?メイド達はいくらでも待ってくれるけれど、
ホットケーキのあたたかさは待ってくれないから。」
「そ、そうですね。」


――


はぐらかされたというか、結局その後食べ終わっても先程の会話がまた出る事は無かった。
少しだけ休憩をはさんだ後、また読書へとパチュリー様は戻ってしまったから、
私はとりあえず許可を得て自分の部屋へと一旦戻ったのだった。
湯船でのぼせたあの子は少しでも元気になっただろうか、と。

あの子はまだ私のベッドの上で寝ていた。
寝息を立てている訳でもないが、時折ごろりと寝返りを打っている。
そっと近づけば私に気づいたのかゆっくりと頭をあげて、一度お辞儀をした。

「大丈夫ですか?」

私の問いに、すぐに頭を縦に振って返した。
そのままいそいそとベッドの端、私に近い所まで近寄って来たその子の隣へと腰を下ろして、
膝の上にその子を抱いた。相変わらず、あったかい。

「私の普段の匂いは落ちつく匂いなんだそうです。……私にとってのパチュリー様の匂いも、大体同じです。
でも、パチュリー様も言っていたけれど、日頃のパチュリー様を知ってるからこそ、というのがあるんだと思うんです。
状況や、場所だって。たぶんとっても重要なんだと思います。」

そう言ってみて、再びこの子には匂いが分からなかった事を思い出したけれど、
この子自身は私の話に首を縦に振ってくれたので、そのまま続けた。

「この前、パチュリー様にキスしてもらったんです。……あの時もいつも通りの匂いだったんですけど、やっぱりその時はドキドキしました。
ちょっとだけ、あなたに対する嫉妬みたいなのも感じたりして……実はそれがちょっと嬉しかったりして。」

私の言葉に何故かその子が顔を赤くした。

「そういえば、一昨日とか昨日とかあんな事とかこんな事とかしたのに、まだキスはしてないんですね。……してみますか?」

9割くらいの申し訳なさと1割くらいのからかいの気持ちで。
私がそう言えば、その子は少しだけ俯いた後、いそいそと体を動かして私の手の前まで来ると、
そっと手の甲をその口で軽く、突いた。
また私を見上げて、また顔を赤くして。

「……パチュリー様の事があるから、遠慮してくれるんですか?」

そう聞くと、ほんの僅かに頷いた。

「……ありがとう。」

少しの間だったけれど、その子の頭を撫でて。
私は肩へとその体を載せると、部屋を出たのだった。



――


パチュリー様の元へと戻る前に紅茶の準備を済ませ、それを手に戻ってみれば
黙々と読み続けるパチュリー様の横の本の山がその高さを減らしていた。
静かに新しい紅茶を用意して差し出せば、

「うん。」

のただ一言の言葉とともに受け取って、一口飲んだ後ソーサーの上に置いた。
余程集中しているのか、次のページをめくるために置かれた手がぴくりともしていない。
その時が来た時だけ動いているようだった。



「失敗したわ。」

パチュリー様がそう呟いたのは、リストにあった本の3分の1程を読み終え、
読み終えた本を山に重ねた時だった。かなりハイペースで読んだ疲れなのか、
目元を手で覆って、一度溜息を吐いた。

「……変な意地張って沢山本頼んじゃったけど、夕方までしか読めないのよね。」
「夜に何か、あるんですか?」
「いいえ。……昨日と同じよ。」
「気にしなくても。」
「いや。そういう訳にはいかないから。」

そう言うと再びまた本を手にとって読み始めて。
私は何か出来やしないかと思って席を立つと、お茶請けを貰いに
肩の上のこの子を衣服の中に隠してから紅魔館の厨房へと向かったのだった。

今朝も通った廊下。が、ちょっとだけメイドさんの配置が違うのは、
恐らく今朝の私の匂いが原因なのだろう。
単純に時間で配置が変わっていたのかもしれないけれど、
普段そこまで気にして全員の顔を覚えていないから、
案外ただの勘違いかもしれない。

私が厨房へと着いた時、丁度お昼のおやつ時という事もあってか、
どうにも咲夜さんへのお菓子の差し入れをしようという計画がメイドさん達の間で出ていたようで、
頼んでそれ用に焼いたスコーンを少しだけ分けて貰った。
先に一口貰ってみるとちょっとだけ甘かったから、出す紅茶の砂糖は少し減らした方が良いかもしれない。
にしても、咲夜さん。相変わらず人気だなぁ。
美鈴さんも人気だけど。



スコーンを小さなバスケットに入れて抱え厨房から帰る途中で、ふと周りの空気が変わった。
妖精がちょっとだけ敏感になっている。とすればその原因は……。

「あ。」

妹様だ。私は最近少しだけ慣れてはきたけれど、
メイドさん達はまだそこまで慣れていないようで。
……たぶん慣れているのはそれこそ、妹様の傍でお世話をするメイドさん位だろうと思う。
廊下の角を曲がって私の方を見てそう呟いた妹様が次に発したのは、

「咲夜見なかった?」

そんな言葉だった。……ひょっとして、咲夜さんの事を妹様は知らなかったのかな。

「咲夜さんなら、自分の部屋で休んでると思いますよ。」
「休んでる?咲夜が?」
「怪我したんです。……その、一応私が原因で。」
「……ふーん。ひょっとして、それは貴女じゃなくてその服の下のそれが原因じゃない?」

妹様が私の衣服を指さして言った。
思わず、どきりとした。服の中のあの子も。
ちらりと視線をその子の方へと走らせてみたが、衣服が膨らんでいるわけでもない。
上手く、隠せているはずなのに。

「そっかそっか。」
「そういえば咲夜さんに何か用があったんですか?」
「無いよ。最近部屋に来てくれないから、気になっただけ。」
「そ、そうなのですか。」
「そ。……誰か教えてくれても良いのになあ。皆逃げちゃうんだもん。」

そこまで言うと唇を尖らせて私に背を向けた。

「部屋に帰る。」
「明日から、復帰するそうですから。」
「……うん。」

まるで何も無かったようにそのままとぼとぼ歩いて元来た道を戻り始めた妹様を見送って、
私は一度胸に手を当ててドキドキした胸を抑えると、図書館へと戻ったのだった。



――


新しく用意し直した紅茶と共にスコーンを出せば、
パチュリー様が読みかけの本を置いて私を見上げた。

「おかえり。」
「メイドさん達の間で咲夜さんに差し入れをしようという話があったので、そのスコーンを分けて貰いました。」
「そう。……頂こうかしらね。お腹少し空いたし。」

また積み上げられた本の山が減っている。
量はやっと半分に行くか、行かないかといった所なのだろうか。
ぎゅっと上に伸ばしたパチュリー様の腕がぷるぷると震えて、本の上へと落ちる。

「あの、無茶しないでくださいね?」
「……無茶はするつもりは無いわよ。読み切れなかったらその分はちゃんと明日に回すわ。」
「それなら良いのですが。あと途中で妹様に会ってきました。」
「……咲夜が休んでるから、気になったんでしょうね。」

私もパチュリー様の対面に座って自分のために作った紅茶のカップを手にとった。
ちょっとだけ苦く作り過ぎてしまったかもしれないけど、たぶん砂糖を入れる必要は無い……と思う。きっと。

「咲夜が。」

ふと、スコーンを手にとってそれを食べずに眺めながらパチュリー様が口を開いた。

「咲夜が怪我したら、こうしてメイドがお見舞いのお菓子を作ってくれる。
美鈴が怪我をしたらメイドも、そして咲夜もきっと何かをするでしょう。
レミィなら、咲夜が。私なら、きっと貴女が。……じゃあ、妹様は?」
「……お嬢様と一緒で、咲夜さんでは?」
「うん。そうなのよね。じゃあ、もしも咲夜が今みたいな状況だったら?……寂しいわよね。」

そう言って、小さく割ったスコーンを口へと運んでパチュリー様が溜息を吐く。
今日はちょっとだけ溜息を多く吐いているような気がしないでもない。

「わ、私達がいるじゃないですか。」
「うん。今は、そうね。でも昔はそうはいかなかったの。……妹様だけじゃないわね。
咲夜が来る前も違ったし、そして貴女が来る前も違う。」

甘いスコーンを私も口へと運びながら聞いていたけれど、
私が来る以前も違うという事は、つまりその時はパチュリー様も寂しかったという事かな。

「今でこそ貴女は私達が居るってそう言ったけれど、実際にそうなった時に本当にそうしているかは、また別じゃない?」

そ、それを言われると凄く困る。
たぶん言われたらやる、であって自発的にはやらないのは私にだって分かる。

「早く、見つかると良いんだけど。妹様にもそういう相手が。」
「きっと出来ると思います。ずっとずっと昔の事は知らないですけど、今の妹様がそんなに危険だとは私は思っていません。」
「うん。……きっと、出来てくれる。」

それがいつかは分からないけれど、きっと。
と、最後に聞きとるのがつらい程小さな声でパチュリー様が呟いて。
二人揃ってカップの残りを飲みほした。



――



図書館の扉が開いて、少しして足音と共に匂いが届いた。
足音からすれば、あのメイドさんはまだ元気になっていないのかな。

「夕食をお持ちしました。」

その声が響いたのは、本の山がリストの5分の1程になった頃だった。

「いつもの子はやっぱり、まだ?」
「……えぇ。というか寝てしまったのか、部屋を訪ねてドアを開けてみても寝息しか聞こえなかったのでもう起こすのは忍びないと思って。」

ね、寝てるならとりあえずは元気なのかなぁ。
他の方たちもそんな感じになっているなら安心、かな。
きっと明日には、明日には普通に仕事してくれることを祈っておこう。

「あぁそうだ。咲夜さん、明日復帰するそうです。」

メイドさんが思いだしたようにそう呟く。きっとそういう連絡があったからなのだろうけれど、
私はお風呂でもう聞いていたからその情報は今更だ。

「分かりました。……元気そうなら何よりです。」
「です。大変な怪我や病気じゃなくて、良かったです。」

メイドさんがにっこりと笑って、料理を並べ始める。
ごめんなさい。原因は私ですから。私も彼女の笑顔に笑って返すと、
テーブルの上に積んであった読み終えた本を片づけに本棚へと走った。



「聞きたい事があるんだけど。」

パチュリー様が器用に箸を扱ってご飯を食べながら呟く。
ずっと洋食が続いたからなのかは知らないけれど、夕食は和食。
和食続きになる事も珍しいとは言わないけれど、いつもより早く起きたお嬢様が
焼き魚を食べたいと言ったから今日はこうなったのだそうだ。
……だからなのか、夕食だけどなんだか朝食にも見える。

「何でしょうか。」
「昼間、貴女の匂いがって話をしたじゃない。」
「はい。」
「私は、どんな匂いがするの?」

パチュリー様の匂いか。

「普段のパチュリー様の匂いでって解釈で良いなら、落ちつく、でしょうか。パチュリー様とのお仕事をするのが
私の生活みたいなものですから。あぁ、仕事してるなって気にもなれますし。」

私がそう返せば、パチュリー様は二回ほど首を縦に振った後、ゆっくりと視線を伏せた。
何か不味い事を言ってしまったような気がして言葉を探そうとしたけれど、
単純に昼間私が受けた様な説明を返してしまったのが悪かったのか、それとも別の何かが悪かったのか。
それが私には理解しきれなかった。

「そ、そうだ。パチュリー様の部屋の匂いは好きですよ!」
「へ、部屋の匂い?」
「凄く安心するんですよ。帰って来たなぁって感じがあって。」
「……じゃあ今度、おかえりって言ってあげようかしら。」

そ、それは何だかそれで変に恥ずかしい。

「そっか。そっか。」

そう言う声は小さな声だったけれど……うーん。こっちは好評、なのかな。
ひょっとして仕事と絡めた事が不味かったのかな。
でも私にはああいう気持ちが無いと、自分が役に立てているような気が起きなくて……つらい。

「……ごめん、変な事聞いちゃったかしら。」
「いえ、大丈夫です。ちょっと考え事があっただけですから。」

また、顔に出てしまっているのか。
駄目だ。相変わらず。私は。


――


紅茶の代わりと言わんばかりに用意されたお茶と、そのお茶請けにと用意された沢庵を
食後の二人で囲んでいれば、ふと図書館の扉をたたく音が響いた。
恐ろしく遠慮がちで小さな音が2回。気を取り直した様な少しだけ大きな音が2回。
入ってくる気配が無かったので不思議に思い代わりにドアを開けてみれば、
そこに立っていたのは、今朝お世話をしてくれたっきりだったあのメイドさんだった。

「あ、あの。」
「どうしましたか?」
「その。今朝は失礼な事を言ってしまったのではないかと思って……。」
「あぁ。どうか気にしないでください。それよりお体の方はもう大丈夫なんですか?」
「はい。ただ、夜勤のともだ……同僚に色々押し付けてしまったので、今からお詫びに行く所です。」

律儀だなぁ。そもそもの原因が私にある事を考えると何も言えないけれど。
とりあえず元気になってくれたのならそれで良かった。

「明日から、また普通に働けそうですか?」
「勿論です!」
「……では、明日からも宜しくお願いします。」
「こ、こちらこそよろしくお願いします!」

元気な声と共に深く下げられた頭。……この子、起きぬけなのか後ろ髪が若干跳ねてる。
恐らく鏡を見ては来たのだろうけれど、ここまでは見えなかったのかな。
そのまま頭をあげて去ろうとしたメイドさんを引きとめて、そっと頭を撫でる。
……うん。これで少しは目立たなくなった。

「な、何でしょう。」
「え、あぁ。何でもないです。いってらっしゃい。」

……顔を赤くされてしまった。とりあえず私も頭を下げて。
背中を向けて少しだけ逃げる様に行ってしまった彼女を見送ると、扉を静かに閉めたのだった。
テーブルに戻ってみれば、私の座っていた椅子にあの子が居たけれど、パチュリー様の姿は見当たらなかった。
あの子を抱き上げていつもの場所へと載せてみれば、頭を持ち上げてぐっと図書館の奥の方……部屋の方を指さして。
私はそれに導かれるがままにパチュリー様の部屋へと向かったのだった。


丁度部屋の前に着いた時、ドアが開いてパチュリー様が部屋から出てきた。
どうやら今から湯浴みに行くのか、手にはいつもの着替えが重ねられていた。

「お風呂、行ってくるわ。」
「はい。分かりました。」
「邪魔するつもりは無いから、後は好きにしても良いわ。……それで、来客は誰だったの?」
「えと、いつもお世話をしてくれる方のメイドさんです。」
「あぁ、あの子。……貴女に用だったの?」

いつも用事とか仕事の時は普通に図書館の中まで入ってくるからなのか、
パチュリー様が服を抱えたまま首をかしげてそう言った。

「ええ。今朝変な事言っちゃったんじゃないかと思ったらしくて、それを謝りに。……原因は私なのに。」
「あら。私はてっきり、貴女に告白でもしに来たんじゃないかと思ったけれど。」
「そ、そんなことは。」

無いと、思うんだけどな。


――


パチュリー様が湯浴みに行ってしまった後、部屋へと戻ってベッドに腰を下ろせば、
肩の上に乗っていたあの子がするりとベッドの上に降りた。

「私よりも魅力的な方がいっぱいいると思うのですよ。」

咲夜さんや美鈴さんだけじゃない。お嬢様やパチュリー様だって。妹様だって。
親しくなればなるほど、よく話せるようになればなるほど、新しい魅力に気づく事が出来る。
勿論気づく事の中には苦手な事もあるのだけれど、それを考えて差し引いても
やっぱり新しい魅力に気づく事が出来た喜びの方が大きい。
そして知れば知る程に、何だか自分の存在がどこまでも小さく感じたりする。

「勿論好きになって貰えるというのは嬉しいのですけど。」

一枚一枚服を脱ぎながら、そんな事を私を見上げるあの子に話しかけて。
脱いだ服を畳んで貰いながら下着だけになると私はベッドへと潜りこんだ。
少しして、畳み終えた服をベッドの端へと避難させたあの子がいそいそと私の顔の傍まで来てくるりと丸まって。

「あなたは私のこと、好きですか?」

小さい声でそう尋ねてみたら、私を見た後ゆっくりと頷いたのだった。
その頭を撫でてみれば、やっぱり顔を赤くして。私はその子を布団の中に引きずり込むと、
ぎゅっと胸に抱いた。



あったかい。いつもこの子の体はあたたかい。
冷めない湯たんぽ。いや、ちょっとこの言い方はかわいそうだ。
この子には意志もあれば、自在に動かせる体もあり。命だって、ある。
こうして抱きしめていると良く分かる。

そういえばパチュリー様は依然これを試しているんだよなぁ。
一度だけだったっけ。なんで一度だけだったんだろう。
私が来た事と案外関係してたりするんだろうか。
私が傍にいると、こういう風に二人で色々したり出来なくなるから、とか。
……いやいや、それはなんだか私自身を贔屓した考えだ。

ふと胸の中のあの子に視線を向ければ、あの子は体を持ち上げて時計の方を見ていた。

「あぁ、すいません。時間せっかく貰ったんですし、ちゃんと楽しまないとですね。」

もう一度だけぎゅっと抱いて、その体を放すと私は脱ぎ去った下着をその子へと預けた。


「そういえば。」

ふと気になって、布団の中で私の体にくっついていたその子の体に手を這わせて
そっと下半身の方を撫でた。……ぴくりと手のひらの上で跳ねる。

「こちらの方、まだ試してないんですよね。……昨日も、一昨日も。」

そう尋ねてみればまた顔を赤くして小さく頷いて返してくれた。
思えば触手さんといえばこっちの方がメインな気がしないでもないのですけども。
大きさを確認するべく布団の中、改めてその子の体を握ってみれば、
一度大きくその子の体が跳ねた。

「痛かった、ですか?」

乾いた手が擦れるのかと思い聞いてみたが、それにはその子が首を振って。

「……気持ち、良いのですか?」

そう尋ねてみれば、赤かった顔を真っ赤に染め上げた後、私の前から顔を離して近くにあった枕とベッドの間へと頭を突っ込んだ。
よっぽど恥ずかしかったのか。……顔どころか、他の所もちょっと赤くなった気がする。

「昨日と、そして一昨日と。楽しませてもらったのだから、今日くらいはあなたに楽しんでもらわないと罰が当たりますね。」

昨日だけでいえば、あれは完全に私だけが楽しんでいた気がしないでもないですし。
でもちょっとだけ癖になりそうなくらい心地良かった……。
ただ、本当にひとりでしているのとやり方は変わらなかったけれど。

「昨日は、ごめんなさいね。」

枕からそっと頭を引き抜いたその子が、ゆっくりと首を横に振った。



あたたかな布団の下で、片手でその子の体を撫でながら自分はと言えば足の間へと手を伸ばした。
……うん。やっぱり乾いた手だと私の方はちょっと擦れて痛い。
伸ばした指先を一度舐めてもう一度這わせて、ゆっくりと撫でる。
昨日得た飛ぶような快感に比べれば、背中を骨にそって撫でられるような
うっすらとしたものだけれど、やっぱり同じ気持ちよさには違いない。
背中を撫でているのがパチュリー様だと考えれば、それは尚の事で。

「ちょっとだけ、待ってて下さいね。」

手の中のそれが段々と硬さを増していくのを感じながらそう話しかければ、
かなり期待をしているのだろうか、その子がぶんぶんと頭を縦に振った。
とても、元気そうで。パチュリー様も言っていたけれど、こういう所を見ると
小さな男の子みたいという形容をしてみたくなる。やんちゃではないけれど。

そーっと目を閉じてパチュリー様の事を考えれば、
さっきすぐそこで会って話をしたからなのか、浮かんでくるのはお風呂場で楽しそうに髪の毛を洗っている姿。
水に濡れれば艶やかで、乾けばふわふわの羽のように。あの後ろ髪はずっと眺めていたくなる。
あんまり数は少ないけれど、パチュリー様が私の上に馬乗りになってくれた時とかは、
その髪が横に流れて私の肌に触れて。まるでくすぐられているようでもあり、
包んでくれているようでもあり……不思議なくらい、どこか心がほっとする。
あの時に見つめられると、視線を外すなんてとても私には出来ない。それくらい、幸せで。

あの髪の毛に撫でられていると考えさえすれば、体に流れる感覚はどこまでも勝手に昇華させられていく。
もじもじと勝手に動く太股も段々と熱を帯びて、心臓が早鐘を打って。
でもまだ準備が整ったと言うにはちょっと遠い。

「体、伸ばして貰って良いですか?」

でも遠いとはいえ、今日は一人でする訳ではない。
この子が居るのだから。元々、一人で準備を整える必要だってない。
こくりと頷いて伸ばして貰った体を足の間を弄っていた手元まで引き込んで、
そっとその子の体の先端を弄っていたそこへと合わせた。
布団から出していたその子の体が一度、震えた。

表面の柔らかさと、芯の硬さが同時に存在するその先端を
私の体の外に出ている弱い部分へとぐりぐり押し当てる。
ただ、ゆっくりと。それで今の私には十分だから。
強く押し込んで揉みつぶせば、背中どころか首にまでゾクゾクした感覚が走るから。

「もうちょっとだけ、待って下さいね。」



この位で準備は良いかな、と思った時にはその子の体は時折跳ねるようにもなっていた。
ちょっと我慢させすぎたかもしれない。一度その子の頭を撫でて、見上げるその子に頷くと、
もう片方の手でしっかり掴み、ゆっくりと挿しこんでいった。

熱い。元よりあたたまっている体ですらそう感じられる程だった。
押し広げられていく感触もあるからなのだろう。

長さにあまり限界が無い事もあってか、その子の体が私の体の一番奥に届いたのはすぐの事だった。
こんこんと突かれて、ふわりと体の芯に熱が走る。
……ここを突いてくる時のパチュリー様はどこか、妙に心地よさそう。
理由を聞いてみたら、貴女が心地よさげな顔をしてくれるから、なんて返されたけれど、
たぶんずっとずっと私よりもパチュリー様の方が心地よさそうな顔してたと思う。
……だから私も心地良いんだもん。
私自身もパチュリー様に同じ事をした事があるから、なんとなくここを突いている時
どういう気持ちよさが得られるかは分かっている。あんまり経験は無いけれど、
ちょっとだけ支配欲が満ちた様な感じでもあり、受け入れて貰っている様な気でもあり……。
攻めているのは私のはずなのに、埋もれていたくなるような感覚がどんどんと湧きあがってくるのだ。

「あなたも、そこをつつくときは気持ち良いんですか?」

そう尋ねれば、顔を赤くしながらもその子が確かに頷いた。
……案外、皆同じなのかもしれない。

「今日はあなたが主役ですから、お好きに動いて大丈夫ですからね?……あぁ、そうだ。
あの、聞きづらいのですけど、妊娠したりとかはしないですよね?出されても。」

それにもその子が頷いてほっとする。
流石に妊娠したりする、というのだとあまりにも色々と問題がある。
まず仕事出来ないし……いやそれだけじゃない。こう、色々と。
しないなら、問題ない。

「じゃあ、……出るものがあったら我慢しなくて良いですから。」

そう言って頭を撫でれば、恥ずかしそうに布団の中に体を少し隠しながらも
その子が確かにまた、頷いたのだった。



好きに動けとは言ったものの、やっぱりこの子は私の顔色を窺っているようで、
……反応を見て楽しんでいるというよりは、どこか私にとって弱い場所なのかを確かめているようだった。
ある意味では流石とも言えるのだけど、ちょっと悪い気もする。
私が楽しむ事がこの子にとっての楽しみであるとするならば、それで良いのだけど。
その辺りはこの子自身が話をしてくれるわけじゃないから、ちょっとよく分からない。
ただ、気持ちいいのかどうかとか、そういうのはこの子自身の持っている感覚でちゃんとあるみたいだから、
少なくとも今やっているこれは、この子の意志なんだろう。

手持無沙汰だからと、その子の体に手を這わせてすりすりと撫でてみれば、
その体の奥、どうやら私だけじゃなくてこの子のそこも早鐘を打っているようで。
私よりかはゆっくりではあるけれど、日頃よりはずっと早い。
ドキドキしながらも、欲望任せな感じの行動に出ないという事を見れば、
本能の塊ならぬ理性の塊なのかもしれない……でもそう考えてみると案外に私には似てないのかもしれないなぁ。
私、結構突っ走る事が多いから。いつもそれで迷惑かけてしまうし、それが悩みでもあるし。
何よりそういうのが原因になって、今のこの子が居る訳でもある。

ふと、動いていたその子の動きが鈍くなった。
閉じていた目をあけてふと見てみれば、真っ赤な顔でこちらを見上げて少しそわそわして。

「ひょっとして、出そうだったりします?」

そう尋ねれば、小さく首を縦に振った後、器用に頭を布団で覆った。
……恥ずかしい様で。一応、我慢しなくて良いとは言ったと思うのだけど。

「大丈夫ですから。そのまま動いて中で出してしまっても。
どちらかというと、外に出されるよりは……後で色々なところを汚さずに済みますし。」

まあ洗濯してくれるのはメイドさんだし、最近体を拭いてくれるのはもっぱらこの子だったりもする。
そういう意味では凄く、気が利く良い子だ。いや、だからこそか。
だからこそ、ある程度……せめて今日くらいはあなたの好きにしてくれれば良いんだけど。

しばらく頑張っていた体がきゅっと強張り、その子の体が私の体に飛び込んでくる。
本能的になのかはいざしらず、出したのはやっぱり一番奥で。
静かだけど確かな脈動が伝わってくる。ほんのりと、熱い。
ぴったりと肌を合わせようとするその子の体を抱きしめて、足の間から伸びるその体を撫でた。



「まだ、いけますよね?」

とくん、とくんと響いていたそれが止まり、私の胸の間に顔を埋めていたその子が顔をあげたところで
ふとそう声をかければ、ちょっとだけ間はあったものの、勢い良くその子は首を縦に振った。
それなら、安心だ。
いつもパチュリー様とする時は、私が上でも下でも沢山出来たりはしない。運が良くて2回、といったところか。
その運が良くての時も喘息の発作が出る事があるから……。だからか、
私は何回も重ねるとどういう感覚になるのかというのをあまり理解していない。
擬似的には、一応昨日感じたとも言えるのかもしれないけれど。
元気、もとい体力を分けてあげるなんてことが出来れば良いのですが、
そんな都合の良い事というのはなかなか実現出来るものでもないようで。
あぁでも、たとえ1回しか出来なかったとしても、その1回が終わった後に
くたっとした少し余韻残る表情のまま私の胸の上で寝てしまうパチュリー様のその姿はとても可愛いから……。
それはそれで、うーん。あちらが立てばこちらが立たずというか。なんかそれはそれで、勿体無い。

少ししてその子の動きが再開した。出したものの影響か、とても滑りが良くなっている。
何だか少しだけ、動きがぎこちない。この子自身が達したばかりで、
ひょっとしたらちょっと無理をしているのかもしれない。
でもこれはこれで、頑張っているようで見ていてちょっと楽しいというか、嬉しいというか。
とりあえず心の中で頑張れと声をかけて、その体を抱いた。



出しては止まり。少しして動きだして、出しては止まり。
ぎこちない動きのその奥で割と結構な量を出されたのを実感する程に体の奥がどこか水っぽい。
僅かながら圧迫感すら感じるほどでもある。ひょっとしたら体を頑張って揺すればちゃぷちゃぷと音がするかも。
きっと抜いたら体から溢れだすんだろうなぁ。
この子自身も結構、精神的に余裕が出てきたというか、ある程度こちらの意図をちゃんと飲んでくれたようで、
私の顔をちらりちらりと窺うような素振りも見せなくなった。ちょっと必死なのは相変わらずだけど。
ただそれも、限界なのかな。ちょっと動きにもう、力が無い。

「もし疲れたのなら、もうそのまま今日は寝てしまっても構わないですから。そのまま、私の胸の中で。」

力なく、その子が首を横に振る。……いつも行為後のお世話をした意地なのかもしれないけれど、
私が笑いかければ、少しの間私の顔を見上げていたけれど、ぽん、と私の胸に顔を落としてしまった。

……お疲れ様。
小さくそう声をかけて。私は手を伸ばしてタオルを取ってもしもの時のために体の下にタオルを敷くと、
その子の体を抱いたままそっと目を閉じたのだった。
体が満足したかというのは別にして、この子が僅かでも満足したのなら……それで。
今日はそれでいい。お互いがもっと良くなろうというのなら、明日から、明後日から少しずつ頑張れば良いのだから。



――


次の日の朝は妙に静かだった。割と早い時間に目が覚めたようで。
……あの子は、先に起きたのか。既に胸の中には居なくて、
体の中に残っている水っぽい感覚もどこかへと消えていた。
感触からして、誰かが体を拭いてくれたような感じは残っている。
たぶんあの子がやってくれたのだろう。昨晩あれだけ頑張って疲れたようだったのに。

目を開けてその姿を探してみれば、やっぱり視界の端にあの子が居た。
やっぱり疲れがあったのか、拭くのに使ったらしいタオルの山の中に埋もれるように
その子の姿があった。寝ているなら起こさない方が良いのかもしれない。
あぁでも、その中に居るよりはベッドの方がきっとあったかいからと、
その子の体に手を伸ばしてみれば、妙な違和感が手のひらを走って。
眠たかった頭が完全に、覚めた。

触れた体は、冷たかった。
ゆすって、声をかけて。……でも、反応は無かった。



「パチュリー様!」

意外な事にパチュリー様は既に起きていた。
部屋のドアを叩いて、ほとんど間を開けない位ですぐに出てきた。
私の顔を見るなり、挨拶をするでもなくそのまま私の体を掴んで背を向けさせて。
そのまま背中を押されるがままに、一緒に私の部屋に入った。

「あの、あの子が。」
「……うん。」

部屋に入っても私の背中をパチュリー様が押して。
そのまま押されるがままに私はパチュリー様と一緒にベッドに座った。
パチュリー様が私の視線を追って、その子の体をタオルの中から取りあげると
それを私の膝の上に置いて、私の手をその体の上へと重ねさせた。

「無理矢理作った命だから。元々長くは生きられないのよ。……それと一応、まだ死んで無いから。ほら。」

パチュリー様が私の上に更に手を重ねてちょっと強めにその子の体を押した。
私の手のひらにかすかに鼓動が伝わってくる。
でも、かすかだ。とても。

「もし私の時と同じならば、恐らく少し休めば一度目を覚ますだろうけれど……もう次は期待できない。」
「そんな……。」
「そう。……そんな、ものなのよ。」



「パチュリー様。」
「うん?」
「この子が今日こうなるの、分かってたんですか?」
「……うん。」
「どうして教えてくれなかったんですか。」
「教えてたら、どうしてた?」

私は……。

「寿命を伸ばそうと思えば、本当はもっと伸ばせたのよ。……最初に捧げた血の量。その分だけ、寿命が延びるから。」
「じゃあ、あの時もっとケチらず採っていれば。」

そう言った所で、パチュリー様が私の頭を叩いた。
強い力じゃなかったけれど、少し痛い。
何で叩かれたかは……なんとなく分かる。
でも、そう言わずには居られなかった。

「……だからこそ、最低限しか使わせなかったのよ。意地悪したかったわけじゃない。」

ぎゅっと抱きしめられたけれど、不思議と嬉しくもなんともない。
頭が混乱しているから、というのが原因なんだろうけれど。
肩に、背中に。そのどちらにも重い何かが載った様な……そんな気分だった。



「パチュリー様。」
「うん。」
「……一人にしてもらっても、良いですか。」
「……うん。」



――



その子が次に動いたのはお昼を回った頃だった。
私はただただ、じっとその子の体を見ていた。
なんとか体を起こして私を見上げた体が、またゆっくりと膝の上に落ちる。

「ごめんね。」

何に対して言った訳でも無かったけれど、不思議とそんな言葉しか出てこなくて。私がそう声をかけてみれば、
小さく首を振ってその子が答えた。ここ数日で見せてくれた反応に比べてとても弱々しくて。
小さな顔の横に手を伸ばせば、その子が顔をすり寄せた。
考えてみても、良い言葉は浮かんでこない。
天井を見上げてみても、答えは書いてない。
ただ妙に申し訳ない気持ちがこみ上げてくるだけだ。

ふと、出していた手の甲に覚えのある感触があり、そちらに視線を走らせてみればその子が口づけしていた。
小さく。ただ一度。短い口づけを終えたその小さな頭を撫でれば、
普段あれだけあたたかかったはずの体とのギャップを感じて悲しかった。
きゅっと、私の腕にその子の体が巻きつく。
今までのあたたかさに比べれば、ほんのりとしか言えない程のその体温のその奥で、
凄いゆっくりと……そして小さく鳴っていた。

「怖い、ですか。」

その子が頷いて。私も頷いて。

「……ちゃんと、ここに居ますから。」

もう一度、心の中で謝って。
……ただ、抱いてあげる事しかできなかった。



段々と、その体が冷えて行く。
段々と、鼓動が遠くなっていく。
気が付けば、ただでさえ軽かった体がもっと軽くなっていた。

「ありがとう……」

まるで糸のように解けていくその子の体。
無くなっていく、重さ。

「……ございました。」

まるで融ける様に。空気の中に糸が融ける様に消えていって。
言いきって溜息を吐いた時にはもう、そこには何も、残っていなかった。


――


手を握りしめてみた。何も感触は残っていない。熱も無い。
とても、あっけない。とても。
心に開いた穴。私以外の誰かから見た、私の心の全体像からすれば本当は小さいのかもしれないその穴が、
今の私からすればずっとずっと大きくて。
開いた穴はいくら眺めても、溜息しか出てこなくて。
それでも何度も、手を握ったり開いたりして……。



コンコンという、小さなノック音に気がついたのは果たしていつ頃だったんだろう。
ずっと視線を置いていた膝の上から、その音に気づいて顔をあげ時計を見た時には、
既にもう夕方を過ぎていた。今頃メイドさん達は何時も通り夕食の準備に追われ……いや、もう出来あがっててもおかしくはない。

「まだ入っちゃ、駄目?」

小さな声で部屋の中に響くのはパチュリー様の声だ。
そうか……私はパチュリー様を追いだしていたんだっけ。
あぁ、駄目だ。お仕事しなくちゃいけないのに。

椅子から立ち上がってドアを開けようとしてみれば、そのドアは少し重たくて。
少しだけ開けた所で手を離せば、すっとドアが開いてパチュリー様が顔を出した。

「すみません……ちゃんと仕事をしますから……。」
「良いの。それよりちょっとお話したいし。部屋、入って良いかしら。」

私が頷けばパチュリー様が私の肩に手を置いた。少し、冷たい手。
力無いその手に押されて一緒にまたベッドに座って。
少しだけ遅れて私の後ろにパチュリー様が背を預けて座った。
背中も少し、冷たかった。

「私はこれを一度しか試す気にはなれなかった。2回目は、する気になれなかった。
体だって弱かったのも勿論あるけれど、……あの時は凄く落ち込んでて。でも一人ぼっちは寂しくて。」
「そこで、私だったんですか?」
「……うん。心に開いた穴って、なんとか埋めようと思って色々してみても、穴の形が残るっていうか……。私の場合どうしても埋められなくて。
だから、いつまでも寂しくて。誰かに傍に居てほしかった。レミィだって居たけれど、それ以上にもっと親しくなれそうな相手が欲しかった。」
「私は代わりだったんですか?」
「その言い方をされると困るけれど……否定できない。ごめんなさい。私は寂しいのが嫌だったの。」

嘘でも良いから、私はそこで違うと言ってほしかった。それを、期待していた。
それだけでもう信頼して貰えている事は分かっているけれど……けれど。
せめて今日のこの時位は。



お互いにもたれかかっていた背中がふっと軽くなる。パチュリー様がくるりと体の向きを変えて私の方を見た。
あぁ、私の言いたい事、全部分かってるんだろう。余り日頃は見せない、申し訳なさそうなその表情。
それは、たぶんお互い様なんだろうけれど。何でこういう時は分かるんだろう。分かってしまうんだろう。

「私が代わりになって……パチュリー様は満足してますか?」

パチュリー様が私から正座した自身の膝の上に視線を落として、ゆっくりと首を横に振った。

「代わりって言ったけれど、あの子はあの子。貴女は、貴女よ。ただこれだけは言えるの。
私には、もう次が無いと思う。次に貴女を失ったら、立ち直れる気がしない。……立ち直ろうともしないかもしれない。
もう一人は、寂しい気持ちにはなりたくない……から。」

段々と小声になるパチュリー様。
結局頭を下に向けてそのまま黙ってしまって。
ぼたぼたと滴が流れているのが見えるから、気まずいながらも私も黙る事しかできなかった。
ただ、声を抑えようと無理矢理閉じた口元を見るのはとても私にはつらくて。思わず体を抱きよせて。
言いたい事が本当はあったけれど、そうせずには居られなかった。

「勝手な事ばかり……ごめんなさい。」

小さな震える声が、静かな部屋の中で響いた。



パチュリー様の嗚咽が収まる頃には、私の混乱も収まってきていた。

「パチュリー様はなんで私があの子を呼ぶのを止めなかったんですか。」
「隠し事をして過ごすより、嫌われても良いから知ってもらいたかった。私の事……私の苦手な事。」
「……嫌うつもりは無いですよ。それ以上に心配してくれるじゃないですか。」
「……そんなの、当たり前じゃない。」

私によりかかるように抱きついていたパチュリー様の体が離れる。
軽くなった私の体を今度はパチュリー様が抱きよせた。

「ずっと一緒に居たいから。居て、欲しいから。……お願い。」

囁かれた言葉はとても小さくて。震えて。
私がぎゅっと抱き返せば、力の抜けたパチュリー様の体がそのままパタンとベッドの上に倒れた。
私もそのまま上に乗るようになってしまって。
慌てて上から降りようとはしたけれど、パチュリー様は抱きよせた腕を放してはくれなかった。

「もう少し、このまま。」


――


「……大丈夫ですか?」

部屋を二人で出てテーブルへと向かえば、咲夜さんがそこにいた。
私達二人の顔を見てそう言った咲夜さんは既に両手に二つのおしぼりを握っていて。
私達にそれを手渡すと、かなり待たせてしまっていたらしい夕食の準備を始めた。

いつの間にか出てたらしい涙を熱いそれで拭って。
座ろうとしたら咲夜さんが椅子を引いてくれた。

「無理して全部食べなくても大丈夫なので……。」
「あぁ、大丈夫です。」

……そういえば、ご飯ずっと食べて無かった。
ふとパチュリー様の方を見れば、同じように目元を拭っていた。
目が合うと、少しだけ疲れた顔でゆっくりと笑って。
ひょっとしたら、パチュリー様も食べて無いのかな。

「一応雑炊の準備もしてありますので、必要であればその際にまたお呼びください。」

咲夜さんがそう言って一礼して。背を向けて静かに去って。
一度深呼吸をして手を合わせると、私はそっと箸を握った。



パチュリー様がふと、図書館の入り口の方を眺めた。
勿論もうそこには誰も居ないのだけれど。それを確認してか、一度溜息を吐いた後でパチュリー様が口を開いた。

「私は貴女といる時間が何よりも嬉しいの。貴女と紅茶を飲めば心の渇きが潤うようで、
貴女と食事を楽しめば心の飢えが満たされるようで。一緒にお鍋なら……心もあったまるし。
私は貴女と一緒に過ごせる時間が、とても嬉しいの。」

それは、私だって。
私にだってパチュリー様はかけがえの無い大切な人だから。
だから……

「私はパチュリー様が捨てようとしなければ……ちゃんと傍に居ます。
私だって、寂しいのは嫌ですから。ただ、さっきは例え嘘でも気の利いた一言くらい、欲しかったです。」
「難しい、わね。」

小さな椎茸をその口に頬張って、パチュリー様が口元に手を当てて。
こくりと喉を鳴らしてそれを飲みこむと、じっとこちらを見た。

「レミィに嘘をつくより貴女に嘘をつくのは何倍も難しいのよ。」
「どうしてです?」

それは、と一言言ってパチュリー様が箸を置いて。
真っ直ぐに私を見たから私も箸を置いた。

「貴女が私に正直だから。だから、正直で居たい。例えそれで誤解を与えてしまったとしても。
私は貴女に、貴女の気持ちにただ正直でありたい。」



「これから先もずっと、ずっと。」
触手を書きたくなったのでついかっとなって書いた。
--追記--
嗜好としてふたなり要素があったのにタグに入れ忘れていたので修正しました。
苦手な方で気分を悪くされてしまった方、申し訳ありませんでした。
--以上、1月8日11時50分頃追記--
あか
コメント




1.名前が無い程度の能力削除
上手く言えないんですが、全体的に静かでひっそりとした話で、図書館周辺の独特の雰囲気を何となく感じて面白かったです。紅魔館の他のメンツも丁寧に描いてあって面白かったです。ありがとうございました。また貴方の紅魔館が読みたいです。
2.名前が無い程度の能力削除
一年くらいここで色々読んでいますが
初めてコメントします

全体的な雰囲気大好きです
お風呂で美鈴と咲夜に合うところも別の物語が想像できてよかったです

しかしなんといってもあの子が消えてえしまう場面で思わず泣いてしまいました
命とふれあうのに、絆を築き上げるのに時間なんて関係ないんですよね
死ぬのが怖いと震える子を最後まで見守るのは辛いですよね

切なさと癒しとがうまくマッチしたこの二人も、
他のメンバーでも(妖精含み)いいので
またあなたの紅魔館が読みたいです

ありがとうございました
3.名前が無い程度の能力削除
なんだろうか、触手が死んで泣きそうになったのは初めてな気がする。
妙に可愛い触手と穏やかで優しい世界観、すごくよかったです。
4.名前が無い程度の能力削除
すごい大作でした。
穏やかでほのぼのとしたこの話の雰囲気がすごく良かったです。
そしてそれぞれのキャラクターがすごく良い。
なんと言っても触手がかわいい。最後に触手が死んでしまうのは予測できたのですがそれでも最後の小悪魔と触手のシーンでは泣いてしまいました。触手相手に萌えて泣いたのは初めてです。
素晴らしい作品、ありがとうございました!!
5.名前が無い程度の能力削除
感動で涙が・・・ 次の作品を待ってます!
6.名前が無い程度の能力削除
明日も頑張れそうだ
7.名前が無い程度の能力削除
まさか触手でこういう作品が来るとは思いませんでした
とても面白かったです