真・東方夜伽話

頽廃秘封倶楽部:壱

2010/11/10 02:05:35
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頽廃秘封倶楽部:壱

かづき

※たぶん暗い話なのでその点だけご注意頂ければ幸いです






















気が付くと、そこには見慣れた顔が転がっていた。



じん、じんと、きつい締め付けの余韻に痺れる手から、麻紐が音も無く滑り落ちる。
私はまるで、自分の身体を外側から遠隔操作でもしているようにリアリティに欠ける気分で、倒れ伏したそれに歩み寄る。だらしなく開かれた口に手をかざしてみると、微かにではあるが、それなりに安定した呼吸の気配が感じ取れた。
意識は失っているが……幸い、死んではいないらしい。このまま放っておけば、じきに起き上がってくるだろう。

……そうだ。このまま死んで貰っては、困る。
死体の処理の仕方や、殺人という罪を犯してしまった後の身の振り方だなんて、つまらないことを考えているわけではなくて。
単に私は……死ぬ程度のことでこいつの罪を赦してやるつもりなど、毛頭無いということだ。

私はお気に入りの帽子を拾い上げ、床に付いていた部分を手で払うような所作をしてからそれを被り直す。精密機械を扱う研究機関に埃は大敵だ、床もこれ以上無い程清潔に保たれているはずだが……そこはまぁ、気分と言うか、心象の問題だから仕方が無い。
静かに瞑目し、すう、はあ、と何度か深い呼吸を繰り返す。勢い余って口から飛び出すのではないか、と思うくらいに肋骨の内側で激しく暴れ回っていた心臓が、幾分か落ち着きを取り戻し、脈拍を正常な大きさと間隔に徐々に近づけてゆく。



……さて。
絞め落としたのは、あくまでも準備段階。
ここから……ここからだ。

二度と彼女の姿を見ることが、出来ないように。
二度とその手で彼女に触れることが、出来ないように。
二度と……その反吐が出るような穢らわしい欲望で彼女を傷付けることが、出来ないように。
もっと、もっともっと、それこそ死んだ方が幸せだと思える程の厳罰を……こいつには、与えてやらなければならない。

もちろん、残虐刑を禁じるこの国の法に、それだけの働きを期待することは出来ないだろう。そもそも、事を公にして彼女の受けた辱めを白日の下に晒すことなど、考えられない。
裁きを下せるのは、世界でただ1人……この、私だけ。私が、独りで全てを遂行しなければならない。
大丈夫だ。今の私にならきっと、何だって出来る。そんな確信めいたものが、今、この胸の内には確かに宿っている。



まさかこの日の為に準備をしていた、というわけではないだろうが……この男の研究者としての気質故だろう、普段この研究室に他の研究員はほとんど近付かない。何か緊急の用があるときも、まずは先立って内線電話で連絡が来るようになっているらしいことも、何度もここに通ううちに知った。
今夜、この部屋はさぞ都合の良い環境だったことだろうが……どうやらここにきてこの男は、持ち前の気質の所為で墓穴を掘る結果になったようだ。今度は私が、この部屋の環境を利用させて貰うとしよう。
改めて場所を移す必要は無いとして……あとは他に、いくつか道具の調達が必要か。裏口を出てすぐのところに用務員の為の倉庫があったはずだ、あそこなら工具の一揃えくらいは見つかるだろう。

これから自分が及ぼうとしている行為を脳内でシミュレートしながら、私はドアノブに手を掛け……しかし、そこで1度思い直して踵を返す。万が一、私がここを離れている間に目を覚まして逃げられでもしたら、それこそ事だ。
私は再び呼吸の有無を確認してから、部屋中の引き出しを漁って見つけたガムテープで両手足を縛る。ついでに、目と口にも1枚ずつ切り取ったそれを貼って……そうだ、忘れていた。一応、部屋の鍵も持っていった方がいい。



ややあって。
改めて廊下に1歩踏み出したところで、私は部屋の中を振り返る。入口からは見えない机の影に倒れた身体がちゃんと隠れていることを確かめてから……部屋の灯りを消し、ドアに施錠をする。
再び、微かに脈拍と呼吸が乱れ始めるのを感じながら……私は足早に、階段を下った。










////////////////////////////










ぱら、ぱら、ぱら。
静かに窓を叩く雨音が、睡眠と覚醒の狭間で混濁する意識を少しずつ冴えさせてゆく。

「……む、ぁ……?」

間抜けな声を上げながら瞼を持ち上げると、そこには眠りに落ちる前と変わらない、見慣れた光景が広がっていた。
カーテン越しに部屋に差し込む淡い光に照らされる、散らかった部屋。フローリングの上では脱ぎ散らかされた衣服が適当に寄せ集められて山を為し、コンビニ弁当やカップ麺の残骸が詰め込まれたビニール袋が無造作に転がっている。
私は90度傾いた視界の中、ただベッドとは反対側の壁に浮かんだ小さな染みを見るとも無しに眺めていた。

「……んー……」

何か……夢を、見ていた気がするが。つい数分前の記憶だろうに、内容がまるで思い出せない。
どうも、余り楽しい夢ではなかった気がするな……と頭の隅で考えたところで、そういえばここ最近、楽しい夢などめっきり見なくなったということに思い当たる。気が滅入りそうだったので、それ以上無理に夢の世界での出来事を思い出そうとするのは、止めておくことにした。

「……ん、っ」

気分を変えるように、ごろん、と視線を180度翻すと。

「……すぅ……すぅ……」

そこには、まるで何の刺激も魅力も無い空間に、たった1輪だけ咲く可憐な華のように……吐息が掛かりそうなくらい近くに、愛おしいメリーの寝顔があった。

「………」

寝乱れたブロンドが妙に色っぽいな、などと考えているうちに、徐々に彼女の顔が近づいて来る。
いや……眠っている彼女に近づいているのは、私の方か。

「……ちゅ……」

寝ぼけ眼のまま、私はなんの躊躇いもこれといった感動も無く、ほぼ無意識の状態で眼の前の彼女と唇を重ねた。
柔らかく、少しだけ乾いた感触が伝わってくる。濡れた舌の先でそれを撫でてやると、まだ夢の中に居るであろう彼女も素直にそれを受け入れる。

「んぅ……」
「ぁ、む……ちゅ……」

寝起き独特の、どうしようもなく怠惰な心地良さの中、言葉を交わすことも無くただ浅く舌を絡め合っているうちに……やがて、メリーの意識も徐々に眠りの底から浮上し、覚醒を始める。
薄く開かれた瞼の向こうで、黒い瞳がふるふると小刻みに動いて……やがて、その焦点が私の眼を捉えた。

「……ぷ、ぁっ」
「ん、く……ぅ」

自然に唇が離れ、顔と顔の距離が少しだけ開き、彼女の顔全体が視認出来るようになる。呆けたような表情の中に、緩んだ笑みが浮かんだ。
ああ、やっぱり彼女の微笑がこの世で1番可愛いし、美しい。例えどんなに絶世の美女や美男子と持て囃される人間だろうと、彼女以上に私の心を揺り動かすことは決して適わないだろう……だなんて恥ずかしい台詞が、彼女を前にすると何の抵抗も無くすらすらと頭に浮かんで来る。

「あ……おはよ、蓮子ぉ……」

メリーは特に驚いた様子も無く、ましてや不快感など微塵も感じさせない様子で、当たり前のように舌足らずな目覚めの挨拶を寄越す。私は今度はその白い頬に1度キスをして、おはよう、と一言だけ返事をした。
もぞ、と身じろぎしながら、彼女はベッドの上で私に擦り寄る。身を横たえたまま、向かい合って背中を丸め、私達は人肌の温もりが心地良い小さな空間に身を寄せ合っていた。

「……今日は……?」

ずっとこのままこうしていたい……などという、叶うはずのない戯けた願いを頭の中で呟いていると、メリーが不意にそんなことを尋ねる。
それは明らかに言葉の足りない問いだったが、しかし、私にはメリーの問わんとしていることが手に取るようにわかる。というよりも、たった今私自身も同じ事を気にしていたところだった。

「7時から……」

仕事の始まる時間を告げながら、ちら、といつもの癖で時計よりも先に窓の外を眺める。
ビルと電柱のシルエットに四角く切り取られ、鈍い雨雲の色に塗り潰された空には、そもそも時間的に星や月など出ているはずもなく。そこから現在時刻を読み取るのは、常人にも私にも等しく不可能だった。

「あと……4時間、もうしばらくごろごろ出来るわね」

メリーの声に釣られるように視線を向けた先では、傾いた四角い壁掛け時計が2時50分を差していた。身支度と移動時間を考えても、あと3時間程度は余裕があるだろう。
とはいえ、流石にこのまま怠惰な気分に任せて2度寝をしてしまえば、さしもの私と言えど時間通りに起きられる自信は無い。事が終わったら、濃いめのコーヒーを流し込んで鈍った意識をどうにかしよう。
本当は、いろいろな意味で、ここでずっとこうしてメリーと身を寄せ合っていたいのだが……そうもいかないのが、現実だ。

「……行きたくないけど、行かなきゃね……」
「私だって、行って欲しくはないわよ」

ぽつり、と思わず零れた言葉に返される、小さな呟き。荒んだ生活の中でもなお澄んだ響きを失わないその声はしかし……あまりに儚く、湿気を帯びて淀んだ部屋の空気にあっという間に吸い込まれ、反響すらせずに消えた。
少しだけ重苦しい錯覚を催す沈黙が、どんよりと立ち込める。何だか急に肌寒くなったような気がして、私は乱れた布団を引き寄せるようにして肩を抱いた。

「……けど、それじゃ生きていけないもの」
「そうね……出来ることなら、私が独りで……」

微笑みを消し、メリーは眉を寄せて神妙な面持ちで呟くが。

「いや、それは……それは、駄目」

私はその台詞が終わるよりも先に、少しだけ強い口調でその言葉を遮った。
きょとん、と私を見つめて……メリーはやがて眼を閉じ、また口元に微かな笑みの気配を浮かべながら問う。

「……どうして?」
「どうしても」
「そんな、子供みたいなこと……」

まるで、小さな子供の他愛も無い戯言に付き合う母親のように優しく語り掛けながら、メリーは真っ直ぐに視線をぶつける私の頭を、やはりこのどこか殺伐とさえした部屋の景色には似合わないくらい優しい手付きで撫でた。

「メリーが行くなら私も行く、私が行かなきゃメリーも行っちゃ駄目」
「何それ、我侭ね……」
「……だって、嫌なんだもん」
「やっぱり子供みたい、蓮子らしくないわね」

らしくない、とメリーは言う。確かに、自分でもそう思う。
だが、所詮私とて1人の人間であるわけで。普段は論理的、客観的な思考を好んでは居ても……御しかねる感情、言葉では上手く言い表せない衝動というものは、確実に存在する。心底愛おしいと思える相手を眼の前にすれば、なおさらだ。

「……そんなこと……」

自分が周囲にどんな印象を与える性格なのかは、理解しているつもりだが……私とて、感情を持たない機械というわけではないということだ。

「………」

ああ、それはまるで、そう。
私が、かつては研究の為に造られた機械であるかのような印象を抱いていた、あの……。

「でも、そうは言うけどね、蓮子」
「!」

と、そこまで考えが及んだところで……不意に記憶の底から浮かび上がり掛けた最悪のイメージは、はっきりとした輪郭を為す前にメリーの囁きに掻き消された。
額に、嫌な汗が浮かぶ。頭の芯が鈍く疼くような、おぼろげな不快感が意識を苛む。

「……何よぅ」

それを悟られないよう、不貞腐れたふりをして顔を逸らす。
あれのことは、出来る限り思い出したくはない。メリーの前では、特に。ましてや、メリーにそのことを思い出させることなんて、死んでも御免だ。

「私だって、貴女と同じことを、考えてるのよ……?」
「……同じ……」
「そう、蓮子が行くなら私も行くし、私が行かないのに蓮子に行って欲しくない……もしかすると貴女よりも強く、そう思っているのかも」

その心遣いが、どこまで続くとも知れない薄暗闇の中にほんの一筋差し込む陽光のように温かくて。メリーが私が彼女に抱いているのと同じ類の感情を抱いてくれているという確信が嬉しくて。
けれど、同時に……傷を癒すための薬がその傷口に沁みるように、少しだけ、胸の内に弱い痛みが走った。

「……そっか……」

薬。
薬……か。

「………」

もしも……この世のありとあらゆる傷が治る薬というものが存在するならば、どんなにか良いことだろう。
一塗りすればたちどころに、どんな傷でも癒してしまう魔法の万能薬。ありとあらゆる、とは、肉体的な傷はもちろん、精神的な傷のことも意味していて……。

「……は、っ」
「………?」

不意に、そんな呆れるくらい非現実的で非生産的な空想が脳裏を過ぎった。
無論、それが過ぎ去った跡には、ただただ虚しさが渡来するばかりで……私達の明日へ繋がる何物かが生じる気配など、ありはしない。産まれたものと言えば、乾いた嘲笑ひとつくらいのものだ。

「……っ……」

……いや。

明日へ繋がる、などと言ってはみたものの……そもそも今の私に、繋ぐべき明日など、未来など、存在し得るのだろうか?
全てを捨て、現代社会の陰に逃げ込み、陽の目と人の目を避けながら細々と命だけを繋ぐ。まるで、暗く狭く薄汚れた裏路地を、地図も無しに当て所なくとぼとぼと歩き続けるような……不明瞭で不安定で、どこまでも不健全な毎日。
そんな、淀んで腐ったような無為な時間が、ずるずると流れ着くであろう未来。そこに一体、何が待ってくれていると期待して、私は……。



「蓮子?」
「っ!」



と。

自分でも嫌になるほど暗澹とした思考が、救いの無い自問に捕えられそうになった瞬間……眼の前で発せられた声に私は、暗く濁った視界がパッと晴れたような、鮮明な錯覚を覚えた。
暗い感情を湛えた心の内側へ沈んで行く意識と連動するように、無意識の内に小さく縮こまろうとしていた首が、反射的に見上げた先には……ぼんやりと滲んだ、彼女の顔があった。
どんなに光に乏しい部屋でも、涙の所為で輪郭すら曖昧になっていても……それは、とても綺麗だった。素直に、そう思った。

「……っ……蓮子、大丈夫?」
「ぇ……あ、あぁ、うん……なんでも、ない……」

気遣うように私の名前を呼びながら、メリーは人差指でそっと私の目元を拭う。幾分か視界が晴れて、彼女の困り顔が少しだけはっきりと見えるようになった。

「……メリー」

……嗚呼、そうだ。

「うん……?」

何を……私は、馬鹿なことを。

「……好きよ、メリー……大好き」

私には……メリーが、居るじゃないか。
この世の何よりも愛おしい少女が。この世の誰よりも私を愛してくれる、この少女が。

「……うん、解かってる」

彼女が居てくれたから私は、かつて持っていた他の全てを捨てることが出来た。
住み慣れた街での安穏な生活も、他の親類縁者達との繋がりも……宇佐見蓮子という名前でさえも、もはやメリー以外の誰かにそう呼ばれる必要が無いから、と、過去や思い出と一緒に置き去りにしてきたのだ。
対外的には、今の私は宇佐見蓮子ではない。私がかつてそう呼ばれていたこと、それが私の本当の名前であることを知っている人間は……私達が今暮らしている、昔とは違うこの世界では、私自身とメリーの2人きりである。

「……っ」

そして。
その境遇は……共に全てを捨ててきたメリー自身も、同じだ。

「私も、蓮子のことが大好きよ……心から愛してるわ」
「……私も、解かってる」

彼女さえ居れば、たとえ他の何が欠けていたとて……私は、どんな道もこの両脚で歩んで行ける。
現在にも、この先に続くであろう未来にも……私がこの世に存在する為に必要なのは、メリーの存在ただそれだけ。

「……メリーが居なきゃ、私、きっと生きていけない」
「あら、寂しいこと言うのね……私なら、きっと、じゃなくて、絶対に生きていけないわ」

メリーもまた……私と同じ想いを胸に抱いてくれている。

「……前言撤回、私も、メリーが居なきゃ絶対に死んでしまうでしょうね」
「ん、よろしい……ふふ、っ」

互いに、互いの存在だけで生きていける……逆に言えば、互いに互いの存在を支え合わねば自分を保つことすら出来ない。決して抜け出すことの出来ない底無しの泥沼のような、深く淀んだずぶずぶの相互依存関係。
嗚呼、なんと……なんと、素晴らしいことだろう。私には、今の私達以上に深く強く結ばれた人間など、この世に存在するとは思えない。

「……少し、冷えるわね」

そう……大丈夫。何も心配なんていらない。下らない不安に苛まれる必要など、無い。
私達に必要なものは既に、ここに全て揃っている。これ以上の何かを望む必要など、私達には、ありはしないのだ。

「そう、ね」

さっきから、思考が少しずつ悪い方へ悪い方へと流されがちになっているけれど……それもきっと、ここのところ仕事が続いていた所為で、心と身体が疲れているんだ。

「もうちょっと、近くに来て……背中、寒そうよ?」
「ん……」

ただ、それだけのこと……そうに、違いない。



そう、大丈夫だ。
すぐに、良くなる。

ほんの少し……元気さえ、分け与えて貰えれば。



「……ねぇ、メリー?」

きゅ、と彼女の寝巻きの胸元を掴み、上目遣いに表情を伺う。
乾いた喉から漏れた声が震えていたのは……きっと、寒さの所為ではなかった。

「……なぁに、蓮子?」

その口調や声色からか、あるいは所作からか……ともかく私がたった一言そう呟いただけで、感情を汲み取ったのだろう。メリーはほんの少しだけ間を置いて、それまでとは違う、ざわざわと背筋が震えるような艶のある声を返す。



彼女は、私がどうしたいと思っているのかを全て理解している。
彼女が、私がどうしたいと思っているのかを全て理解していることを……それを理解した彼女がどうしたいと思っているのかを、私もまた、理解している。



だから私は……敢えて、答えの決まりきった質問を、彼女に投げ掛けた。

「ちょっとだけ……元気、分けて貰ってもいいかしら?」

私達の愛の存在など、その形など、今更確かめるべくもないことだったが……それでも私達は、小さな子供がいつまでもお気に入りの玩具で遊び続けるように飽きもせず、もはや儀式にも似たやり取りを繰り返す。

「……どうやって?」

解かりきったことを問い返すメリーの眼を見つめて……私は上体を起こしながら、メリーの華奢な身体の上に覆い被さった。
ぎし、とスプリングが弾むのに合わせて揺れる視界の中で、白いシーツの上に美しいブロンドを広げたメリーが微笑む。激しく動いたお陰でせっかく温まった布団に冷たい空気が流れ込むが……そんなことは、全く気に留める気にもならなかった。

「……こうやって、よ」
「あら……今日は積極的なのね、蓮子ってば」

赤い舌が、愛らしい唇を軽く舐める。そのごく小さな口元の所作を目にしただけで、私は胸の奥で見えない何かが音を立てて燃え盛るような錯覚に襲われた。吐き出す息に、熱が篭る。

「……メリー、っ……」
「あ、っ……ん、ちゅっ……」

見え隠れする舌を追いかけるように、熱い呼気を彼女に流し込むように……私はまた、メリーの柔らかな唇に自分のそれを重ねる。
今度は、さきほどのじゃれ合いとは違う……身体と心の全てで互いを求め、貪り合うように深い、深い口付けを交わす。

「……はぁ、っ、んむ……」
「れ、るっ……メリ、ぃ……くちゅ、っ……」

舌を絡め、唾液と吐息を交わしながら、頭の中が少しずつ蕩けてゆくような甘い感覚に陶酔すること数十秒。弱い媚薬のような快感にじわじわと意識を苛まれた私の手は、自然と寝巻きの内側に潜り込み彼女の柔肌の上を這いながら……当然のように、次の段階の深い繋がりへと向けて動き始める。
ほとんど意識の外で辿り着いた、柔らかな膨らみ。その接触にメリーの身体が微かに反応するのが、融けて繋がり合うような錯覚に陥った舌から伝わった。そのまま下から持ち上げるように力を加えると、私の指に吸い付くような感触のそれは柔軟に形を変える。

「……蓮子の手……暖かくて、っ、気持ち良い……」

たったそれだけの刺激でぞくぞくと身体を震わせながら、メリーはうっとりした甘ったるい声でそんなことを囁く。

「メリーの身体……すべすべして、柔らかくて、羨ましくなっちゃう」

幾度と無く、それこそいつから為されているのかも忘れそうなほどに繰り返される行為の中でも……メリーはいつまでもこうして、素直な反応を返してくれる。そして私もまた、何度身体を重ね愛し合おうとも、心を捕えて離さないその魅力の鎖から逃れることは出来ないのである。
飽きることも、退屈さを感じることも無い。他の誰にも侵すことの出来ない、私達2人だけの世界……そこで延々と繰り広げられる、自堕落で非生産的で、けれどもこの上ない幸福に満ちたマンネリズム。
手に手を取り合って、共に頽廃的な愛と快楽の坩堝へと堕ちていく悦びは、もはや私達にとって他の何を以ってしても代替することの出来ないものとなっていた。

「それに……ほら」
「ひ、ぁ……や、嫌だぁ、っ……」

きゅ、と指先に力を込めて、病み付きになりそうな柔らかい感触の中で存在感を主張する小さな蕾を抓み、軽く捻るように愛撫する。長く深いキスと、ほんの少しの接触だけで既にぷっくりと隆起し私を待ち侘びていたそれは、些細な刺激にも過敏なまでに反応し、面白いくらいに強い快楽をメリーの頭の芯に伝達する。

「胸、ホントに弱いわよね……こんなに敏感で、私の愛に素直に、正直に応えてくれる」
「あ、あっ……やぁ、蓮子、き、気持ち良い、よぉ……っ、あッッ……!」
「可愛いわよ、メリー……食べちゃいたいくらい……っ」

首筋を熱い吐息で撫でるように、彼女に顔を寄せながら囁いてから……私は彼女に覆い被さるような格好のまま、ベッドの上で少しだけ後退りをする。そのまま再び、口付けを落とそうと顔を近付ければ……唇の行き着く先は、そこしかない。

「あ……だ、駄目、今っ……!?」

自分が何をされようとしているのかに気付き、メリーは慌ててそれを制止しようと、上擦った声を上げながら私の肩を押し留めるが……時既に遅し。燃え盛る欲求を原動力として、私は既に、どんな歯止めも利かないところまで勢い付いてしまっていた。
彼女の胸の膨らみに私の舌の先が触れ、その拍子にメリーの全身がビクリと大きく脈打つ。次いで、やや下部に着地した舌を押し付け、ねっとりと唾液を塗り付けるように突起ごと胸を舐め上げると、きゅう、と肩を掴んだ指に強い力が加えられるのが解かった。

「ふあ、あぁっ!?」

熱く濡れた舌に、早くも感度の高まった突起を容赦無く嬲られて、メリーは細い肢体を弓なりに逸らせ小さな痙攣を繰り返す。
いつものことながら……あまりに激しいその反応に、このまま果てて事が終わってしまうのではないか、と馬鹿な心配をしてしまう。
……まぁ、それでも欲望に駆り立てられたこの身体は、そこで攻めの手を休めようとはしないわけだが。

「ちゅ、ぅ……んぇ、るっ」
「や、あぁ……駄目、ほ、ほんとに、今、っ、あっ……ひ、ぃっ!」

弱々しく震える腕は、もはや私を押し留めようとする気配すら失って。そのくせ、強張った指だけはしっかりと肩を捕まえていて……気が付けば、意識的にか無意識的にか、メリーはまるで必死で私にしがみ付いているような格好になっていた。
ぐい、ぐいと肩が引き寄せられているような気がするのは、単に彼女の腕が引き攣る様をそう勘違いしているだけなのだろうか……などという疑問が脳裏を過ぎるが、まぁ、どちらでもいいごく些細なことだ。私がやることに、そうしたいという強い衝動に、大した変化は生じない。

「んむ……どう、メリー……?」
「どう、って……っ、あ、駄目……ゆ、指、舌と、指ぃ……」

左の乳房に丹念に舌を這わせながら、もう一方の先端をまた指先でころころと弄ぶ。
時折、指に掛かる力を強めてその先端を捻り上げながら、うわ言のように甘い喘ぎ声を漏らす彼女の顔を上目遣いに伺うと……そこには、紅潮しながらだらしなく弛緩した、強い衝動を更に強く煽られるような淫らな表情が浮かんでいた。胸を弄ばれただけで、すっかり出来上がってしまっている。

「き、気持ち、良いよぉ……れ、れんっ、蓮子の舌で……っ、されるの、好、きぃ、ぃ、あ、くふ、ぅあぁっ……」

メリーの中で何かが吹っ切れたのだろうか、その唇が、熱と湿り気を帯びた悩ましげな吐息と共にそんな台詞を吐き出す。とろん、と蕩けた瞳で、私の姿というよりはその向こうにある何も無い空間を見つめるようにしながら……もはや恥らっている余裕すら失くしてしまったのだろう、少々呂律の怪しい口調で感情の昂ぶりを躊躇い無く口にする。
どこか舌足らずな喋り口や乏しい語彙の与える、幼子のような印象……その、現在進行形で及んでいる行為とは余りにギャップのあるメリーの姿が、更に情欲を掻き立てる。にわかに、理性の歯止めが劣化し始める。

「……メリー、っ!」
「あ、あうぅっ……れ、蓮子、っっ……!?」

メリーが、そして私自身が……より深く、堕ちてゆくように。沈んでゆくように。溺れてゆくように。
私は一心不乱に、己が内に燃える衝動を発散し叩きつけるように、激しく彼女を攻め立てる。手からも口からも、優しく気遣うような動きは失われてゆき、やがて……爪を立て掴み掛かるような、噛み付いて痕を残すような、乱暴な愛撫へと移行する。

「あ、っ!ん、っっ、くひ、あッあ、あぁぁ!!?」
「あむ……メリー、可愛い、っ……ん、ちゅくっ……」
「あ、だ、駄目、駄目ぇっ!そんな、あ、れ、蓮子、蓮子ぉっ……!」

握り潰さんばかりに鷲掴みにした指が柔らかい胸の膨らみに食い込むたびに、歯で甘く挟んだ先端が舌先で執拗に嬲られるたびに、濡れた唇から脳髄に響くような甘く甲高い悲鳴が漏れる。震える両手で口を塞いで必死に押し留めようとするが、思考が真っ白に焼け付くような鮮烈な刺激に喚起されたそれは、彼女の意思とは関係なく腹の底から止め処なく溢れ出してくる。
狭く暗い部屋に響く嬌声のトーンに、彼女の身に音も無く近づきつつある限界の気配を感じ……私の中に、強い、もはや悪意にも似た悪戯心がむくむくと湧き上がる。

「……ん、ぐ……く、ちゅ、、るるっ……ッ」
「きゃ、ぅっ……ふ、ぅぅぅッッ……!」

私は、わざと音を立てるようにしながら、まるで赤子のようにより一層強くメリーの胸に吸い付いて……彼女の意識を、そこに向けさせた直後。

「……っ……」

ひく、ひくと痙攣を繰り返す彼女の太股の間に……ぐり、と捻じ込み押し上げるようにして、膝を押し付けた。

「ひ、っ……?」

ほんの一瞬、メリーは声を失ってビクリと1度大きく身体を跳ねさせる。それ以上反応らしい反応が返ってくる前に、寝巻き越しに嬲るように2度、3度と力を込めると……彼女は私が何をしているのか、自分の身に何が起きているのか理解出来ていないような顔で眼を剥いた。

「ぁ……っ、ぇっ、あ、ッあッ、ッッッ!!?」

メリーの細い身体を襲う震えが、触れ合う部分全てから如実に伝わる。肩を掴む指に掛かる力が、急激に、痛みすら感じるほどに強まる。

「や……嫌、蓮子、これっ……こ、これ、駄目、ホントに駄目ぇ……っ!!」
「……これ、って……」

ふるふると、小さい子供のように首を横に振りながら、ほとんど泣きじゃくっているのと変わらない声と表情で訴えるメリーの姿を眼の前に……私は躊躇い踏み止まるどころか、浅ましくも、劣情と嗜虐心を煽られてしまうのであった。



私は、臨界点すれすれでどうにか踏み止まっている彼女に、止めを刺すようにして……切なげにわななく胸を舌と指先で激しく愛でながら、もう1度だけメリーの脚の間に深く膝を押し込む。

「これ?」
「ひ、っ……ぁ、っっ、~~~~~~ッッ!!?」

そして……思った通りそれは最後の引き金となり、メリーの身体を限界を超えた領域にまで引き上げた。



ビクン、とそれまでに無く大きな波がメリーの頭の天辺から爪先までを突き抜ける。全身の筋肉が、きゅう、と急激に引き攣る様が、肩に置かれた手と背を丸めて縮こまる仕草から察せられた。押し当てたままの膝頭に、じんわりと熱い湿り気が広がる。
メリーは声も無く、呼吸すらままならない様子で襲い来る絶頂の波に苛まれ続ける。乱れた自分自身の呼吸音と、2人分の鼓動だけが耳に届く静寂の世界で、私はほとんど無意識のうちに、激しい震えに襲われるその細い身体を抱き締めていた。

「……メリー……っ……」
「ひゃ、ぁぁっ……ぁ……!」

抱き寄せて耳元で囁くだけで、あるいは背中を軽く擦るだけで、何度も何度も果て続けているかのように絶え間なく小さな痙攣を繰り返し……メリーは縋り付くようにして私の頭を掻き抱きながら、連なって襲い来る絶頂の波に耐え続ける。

「……ごめんね、大丈夫、メリー……?」
「……ふ、ぅぅっ……ひ、くふぅ、ぁ、ぁ……ッッ」

涙目になりながら熱く乱れた呼吸を繰り返すメリーに、問い掛ける。どこへともなく空中を彷徨っていた視線が、ゆるゆるとこちらへ向けられる。
言葉は無くとも……その眼が訴えていることが、私には手に取るように容易に理解出来た。私もまた、同じことを望んでいた所為かも知れない。

「……ん、っ……」
「んぅ……はむ、ん、ちゅっ……」

舌で、軽く彼女の口元を撫でる。それを啄ばむように、彼女の唇が開き、赤い舌が姿を覗かせる。
しばし、戯れるように何度か触れ合うだけの口付けを交わしてから……私達は、互いに互いの口を塞ぎ、吐息と吐息を交わすかのように、深く舌を絡め合った。

「んむ、ぶっ……ふ、うぅぅっ……」
「……っ、ちゅ……ん、れるっ、くちゅ……」

もはやどちらのものとも知れない唾液を交わし、小さく喉を鳴らしながら飲み下し、言い知れない堕落的な快楽に陶酔して……私達はようやく、舌を解く。離れ離れになることを拒むかのように、唾液の透明な橋が私達を繋ぐが、それは程無くしてぷつりと途切れ、雫となってシーツの上に小さな染みを作った。

「………」
「……は、ぁ……」

快楽の余韻と、じわじわと心身を苛み始める倦怠感の中。
メリーが、とろん、と蕩けたような瞳で私を見つめる。

「蓮子……まだ、時間、大丈夫……?」

熱い視線と舌足らずなその声、そしてそこに込められた彼女の想いに、私の心が見射抜かれたのは至極当然のことだった。
彼女を愛することばかりに夢中になっていた私の中で、轟々と音を立てて燃焼し続ける欲望の炎は……未だ、微塵も発散されてはいないのである。

「だったら……もっと、しよ……?」
「……~~~ッ」

快楽の余韻に深く酔っているようなメリーの様子を見る限り、彼女がそれを解かったうえで、私を炊き付ける為にそんな官能的な台詞を吐いている、ということではないのだろうが。
本人の意図はどうあれ……甘く、熱っぽく囁かれたその言葉は、申し訳程度に残されていた私の理性を、跡形も無く粉砕したのであった。

「……言われなくても……ッ!!」
「あ、っ……蓮子、ぉっ……!!」

もう、彼女しか見えない。彼女の声と、鼓動と、息遣いしか聞こえない。彼女の存在以外、何も感じることなんて出来やしない。
さきほどまであったはずの悪戯心もどこへやら……私は一瞬で、彼女への愛と欲望、彼女を渇望する本能の下僕に為り果てた。



理性の鎖を引き千切った腕が、彼女の下腹部に潜り込む。
これまでとは比べ物にならないくらいに激しい、欲望を色濃く反映した愛撫が……1度は果てたはずの彼女の腹から、再び、甲高い嬌声を引き摺り出した。










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2人だけの世界で、私達は飽きもせず、何度も、何度も汚れた身体を重ね合う。

貪るように。
慈しむように。
確かめ合うように。

そして……。










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気が付くと、そこには









 
かなり前に某スレで
「大学へも行かず、ただ日がな一日締め切った暗い部屋で互いの身体を求め合う怠惰な蓮メリ」(超うろ覚え)
とかそんな趣旨の書き込みを見てから、ずっと頭の中でもやもやしてた妄想を吐き出してみるテスト

とりあえず失踪せずに完走出来るよう頑張ります

>2様
ご指摘有難うございました、該当部分修正しました
かづき
コメント




1.名前が無い程度の能力削除
これは続き期待期待。
雰囲気が文章から滲み出るようだった。
蓮子は頂いてきますね
2.名前が無い程度の能力削除
ダークなちゅっちゅも良いものです。
続きが気になりますねー。

宇佐“美”になってるので、できたら修正をば。
3.名前が無い程度の能力削除
いい雰囲気。是非続きをお願いします。
4.名前が無い程度の能力削除
続きが気になる。
期待してます。
5.名前が無い程度の能力削除
これは良い。