真・東方夜伽話

あたたかいところ

2010/05/27 23:36:33
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あたたかいところ

あかなす
「はぁ」

時刻は早朝。妖怪の山の頂に構える守矢神社の境内で、この神社の巫女にして人間、
同時に神でもある東風谷早苗は、沈んだ表情で掃除をしていた。五月も半ばに入り、
本格的な春の到来を予感させるが、この時間では肌に吹きつける風は温かいとは
言い難い。箒を持つ手にもさほど力が入らず、気分が落ち込んでいることもあって
掃除は全くと言っていいほどはかどらなかった。

(うまくいかないものですね)

早苗が落ち込んでいる理由は、ひとえに思った通りに事が運ばないことであった。
幻想郷に来てから本格的に秘術の修行を行い、それと並行してこの世界独自の問題
解決法である弾幕の鍛錬もしっかりとこなしてきた。修行も一区切りがついたとこ
ろで、祀る神々からそろそろ本格的に異変解決というものを経験したほうがいい、
と言われ、勇んで飛び出してみたものの、毘沙門天の弟子にあえなく敗北。結局、
後を追ってきた霧雨魔理沙に異変を解決されてしまったのである。魔理沙は慰めて
くれたが、正直、落胆が大きくなるだけだった。

(負けることなんていくらでもあるって魔理沙さんは言ってましたけど、あそこで
 負けたらなんの意味もないですよ…)

ここ一番の大切な勝負を落としてしまった。自分が異変を解決したとなれば、神社
の評判も良くなり、更なる信仰獲得につながることは間違いなかったのに。商売敵
とも言える麓の巫女に先を越されなかっただけでもよしとするべきか。いや、異変
解決に失敗したという事実は異変解決に参加しなかったことよりもダメージが大きい
のでは? とも思う。

二柱は最初はまあこんなもんさと笑い飛ばしていたが、親とも言える彼女たちの期待
に応えられなかったのは、神に仕える者としてあまりに情けない。せっかく少しずつ
信仰が集まってきたのに、今回の自分の失敗で信仰が落ちてしまったら、と考えが
どんどん悪い方へと転がってゆく。

(沈んでいても、仕方ありませんね。もっと、修行して強くならないと。
 それに、信仰はなにも異変解決だけによるものじゃない。地道な布教活動
 によってもそれは獲得できる。里の人たちや山の妖怪たちに、もっと加奈子様
 や諏訪子様のすばらしさと奇跡を知ってもらわないと)

このままではだめだと思いなおし、決意を新たに早苗は一歩を踏み出した。



(はぁ、こっちも芳しくないなあ)

時刻は夕方。人里に出向いてみたものの、多くの信仰獲得にはまだ遠かった。やはり
明確な形で恵みや奇跡をもたらさないとダメなのか。しかしそれではまるでモノで
釣っているようでもある。信仰とはそういうものではないだろうと思う。

(まだまだ認知されてませんね。まずは、知ってもらわないとダメかな…
 それには何か目立ったことを…異変解決とか…ああ、でもそれは失敗したばかり…
 って、あれ?)

色々と思考をめぐらせていると、ふと、背後に奇妙な気配を感じる。
妖怪…ではない。伝わってくる気配には妖怪特有の邪な色が一切混じっていない。
この一切混じっていないというのが重要で、通常の生き物なら多かれ少なかれ邪気
というものを持っている。早苗は生まれつきそのような気配を敏感に感じ取ること
ができた。邪なものが一切混じっていない、洗練された清い気。このような気を
纏っている種族は、極めて限られてくる。つまりは。

(私と同じ…神)

悪戯好きな諏訪子が驚かそうと思って背後についているのかと一瞬思ったが、早苗
にしてみれば諏訪子の神気というものはすさまじく強大で、妖怪の山から遠く離れた
人里でも感じられるほどである。その事は諏訪子も知っている。よって、背後に
いるのは諏訪子ではない。となると

(秋の女神様の、たぶん妹さんのほうかな。人懐っこくて悪戯好きそうだったし)

そう結論し、振り返って声をかける。

「そんなところでどうしたんですか、穣子様」

一瞬、同様したような気配が漏れた。尾行していたことがばれたためか、それとも
見えていないはずなのにこちらが誰なのか言い当てられたことに驚いたのか。
早苗は気配を感じるほうに視線を注いでいるが、一向に木の陰にいるであろう人物
は姿を現さない。

「あのー…」
「…」
「穣子…様?」
「ええと、ごめんなさい。私、穣子ちゃんじゃないの」

木の陰からひょっこり顔だけ覗かせたのは…見たことない顔だった。早苗よりも
深い緑の髪。長く伸びた横の部分を、胸の前でリボンで結んでいる。着ている服は
リボンと同じで全体的に赤く、フリルを多くあしらったものだ。その出で立ちから、
可愛らしい人形の様な印象を受ける。眉をハの字にし、困ったような表情で早苗を
窺っている。

「あなたは…」
「私は、鍵山雛。厄を集めて神々に渡す厄神よ。」
「厄神様…」

厄神という単語を聞いて、早苗は思い出した。宴会のときに顔を合わせた秋の女神
姉妹に、この山には自分たち以外にももう一人神がいるということを。その神は
とある事情があって滅多に人前に姿を現さないという。女神姉妹は酔っぱらっていた
ため説明は要領を得ず、なぜ姿を見せないのかはわからなかったが。

「あなたは、厄に取りつかれています。私がそれを引き受けましょう」
「私が…厄に?」
「ええ。それもかなり濃い…」

そう言うと雛は早苗に向って右手をそっとかざし、目を閉じた。待つこと、五秒。

「はい、おわり。あなたに幸運がありますように」
「え、今何をしたんですか?」
「あなたに纏わりついていた厄を私が引き受けました。これからはきっと
 いいことがあるでしょう。それでは、さようなら」
「え、あ、待って…」

背中を向けて森の奥へ歩き出した雛を慌てて追う早苗。どうして追おうとしたのか
は自分でもよくわからなかった。滅多に会えないという物珍しさや、同じ神という
種族から親近感が湧いたり、よくは分からないが何かをしてもらったのだからお礼を
しないといけないという義務感もあったかもしれない。

雛を追って森に足を踏み入れた早苗だったが、雛の気配はすでに消えていた。集中
して探ってみるが、もはや気配らしい気配は感じられない。空気に溶けるように消え

てしまったようだ。

「厄神…さま…」

もう一度、彼女の種族名を口に出す。彼女は、自分の厄を引き受けたという。厄、
すなわち、不運をもたらすもの。それを引き受けたということは、自分から不運とな

るものが消えたということ。厄神という種族名からも、きっとそれが彼女の役目なの
だろう。人の厄を受け、不運から救う神。そう言えば、何だか身体が軽くなった気が
する。

(もしかして、ここのところうまくいかないのは、厄のせい…?)

それが無くなったということは、これからは上手くいくということだろうか?
いや、駄目だ。そういう考えは。運のせいにするなんて、逃げていることと変わらな

い。努力して道を切り開かなければ、結果はついてこない。今の自分があるのも、
全ては厳しい修行に耐え、乗り越えてきたからこそ。

(でも…)

立て続けの失敗で、早苗の精神は少々参っていた。少しばかり、運という努力では
どうしようもない要素に原因を見出したくもあった。





それからの早苗は、以前の失敗が信じられぬほどに好調であった。弾幕戦闘に
おける強者とされる魔理沙や霊夢にも勝てるようになった。以前は大して興味を
示さなかった里人も、掌を返すかのように早苗の話をよく聞き、守矢神社を訪れ、
賽銭を入れていくようになった。少しずつであるが、早苗は元気を取り戻して
いった。

それは、自分の地道な努力が実ったのだと最初は考えたが、冷静になって考えると、
突然こんなに調子がよくなることなどあり得るだろうか。何か特別な修行をした
わけでもないし、里人への信仰集めも、以前と変わるようなやり方ではない。
まるで、世界そのものが変わったような、そんな気がした。

(やっぱり、厄神様のおかげですかね…)

こうも調子が良くなったのは、あの厄神に厄を引き受けてもらってからである。
あの日を境に早苗の状況は一変したと言っていい。何もかもがうまく運んでいる。
あの時感じた身体の軽さは、今ならなんでもできそうだと思えるるほどに強く
感じている。怖いほどの好調であった。

「あっ、早苗~」

遠くの方から少々幼さが残るが、よく通る声で自分の名を呼ばれた。顔を上げて
みれば、それはよく見知った秋の女神姉妹。妹のほうがたたたっとこちらに向かって
駆け寄ってくる。そしてそのままの勢いで飛びつくように早苗に抱きついた。
相変わらずの人懐っこさ。抱きつかれた瞬間に感じる甘い匂いを感じる。

「どうしたの、ぼうっとしちゃって」
「厄神様のことを考えていました」
「雛ちゃんのこと?」

驚いたように穣子が早苗の顔を覗き込む。早苗は二人に以前からうまくいっていな
かったこと、厄神に出会い、厄を祓ってもらったこと、それ以降驚くほどに調子が
良い事を離した。それを聞いた稔子はぱっと顔をほころばせ、

「それは間違いなく雛ちゃんのおかげだね」
「あ、やはりそうなんですね」
「きっと早苗は今までずっと大きな厄に取りつかれてたんだよ。それを
 取ってもらったから調子がいいんだ」
「雛さんってすごいんですね」
「そりゃそうよ。雛ちゃんがいなければこの幻想郷なんてとうの昔に崩壊してるわ」

応えたのは姉のほうだった。静葉は、やや神妙な面持ちで言葉を続ける。

「もし、雛ちゃんが厄を引き受けなくなったら、人はどうなると思う?」
「厄に取りつかれたままになっちゃうんですね」
「厄ってのは祓わないとどんどん溜まっていっちゃうの。厄が増えればそれだけ
 その人は不幸になってゆく。何をやってもうまくいかず、事故に怪我に病気、
 商売の失敗とか人間関係の悪化、そういったことが立て続けに襲い、いいこと
 なんて全く起こらなくなる。そんな自分に絶望した人々は、最終的には自らその
 命を絶ってしまうわ」
「た、大変じゃないですか」
「そう、大変なのよ。だからこそ雛ちゃんはこの幻想郷に不可欠なの。厄を祓う
 という仕事は、雛ちゃんにしかできない。それこそどんなに強大な力を持つ
 神や妖怪にだって代わることはできないの。雛ちゃんだけが、人々を不幸から
 救うことができるのよ」

そんなに大切な役割を果たしている神様だったなんて。早苗の脳裏に、雛に対する
畏敬と感謝の念が湧きあがってくる。あの神様のおかげで、自分はこんなにもうまく
いっている。

「雛様にお礼がしたいです。穣子様に静葉様、雛様がどこに住んでいるか教えて
 頂けないでしょうか?」
「うーん…教えてもいいけど、雛ちゃんは誰とも会いたがらないからなぁ…」
「え、どうしてですか」
「それはね…」

静葉が言うには、雛の周囲には肉眼で視認できるほどに濃い厄が溜まっている
らしい。そう言えば、厄を祓ってもらったとき、雛の周囲にもやのようなものが
かかっていた気がする。あれが厄なのだろうか。

「その厄に触れてしまうと、人はたちどころに不幸になってしまうの。雛ちゃんは
 人間が大好きだから、不幸になってほしくない。だから、誰とも会いたがらない
 のよ。」
「それじゃ、厄を祓った雛様がすぐに姿を消したのも」
「早苗を自分の周りに溜まっている厄に触れさせたくなかったからだろうね」
「そんな…それじゃ、雛様の存在は人里では…」
「たぶん、全然知られていないと思う。早苗とか私たちみたいな同じ神なら近づけば
 その気配というものを感じられるけど、普通の人間にそれは無理だからね」
「そんなに大切な役目を果たされているのに、全然知られていないなんて…」
「何より雛ちゃんがそのことを望んでいないと思う。下手に知られて、人間たちに
 近づかれて不幸にしてしまうのをすごく恐れているのだろうから」

早苗は胸がしめつけられる様な痛みを感じた。痛ましいまでに人間想い。誰よりも
人々の幸福を願っている。そのためならば、自分が誰にも知られず感謝もされない
ことだって構わない。全ては、人間のため。早苗は、雛に神としてあるべき姿の
ようなものを感じた。目じりに熱いものが溢れ、頬を伝う。

「誰にも知られないなんて、そんなのあんまりです…」
「早苗…」
「雛様に会いたいです…会って感謝の気持ちを伝えたいです…」
「うーん…」
「あ、そうだお姉ちゃん」
「なあに?」
「雛ちゃんだって、受けた厄をいつまでも溜め込んでいるわけじゃないよね?」
「そりゃあ、キリのいいところでそれを神に渡しているんでしょう」
「厄を渡した直後なら、近づいても大丈夫なんじゃないかな」

何やら光明が見えてきた。雛は、集めた厄を神々に渡して浄化しているらしい。
浄化した直後、再び厄を集めるまでならば、雛の周囲に厄は無いのでは、
というのが穣子の意見であった。もしその通りなら、雛に近づくチャンスはある。

「厄を浄化した後なら、雛様に会えるかもしれないんですね」
「予想だけどね…雛ちゃんが集めた厄を全部浄化しているとも限らないし」
「それでも、少しでも可能性があるなら、それにかけてみます!」
「ふふっ、頑張ってね、早苗。もしかしたら雛ちゃんも一緒に宴会に参加する
 日がくるかもしれないわ」

そう言われて、定期的に開かれる宴会に雛の姿を見たことがない事を思い出した。
雛に声がかからないのか、雛のほうから不参加を伝えているのかは分からないが。
厄の影響が出ることを恐れているのだろう。誰にも知られず、いつも一人で幻想郷
にとって大切な仕事をこなしている。寂しくはないのだろうか。自分なら、きっと
耐えられないだろう。その行動を支えているのは、ひとえに人間に対する愛なの
だろう。






秋の女神姉妹に教えてもらった情報を頼りに、妖怪の山の中腹、山中でも際立って
深い森の奥を進む。しばらく進むと、少し開けた川沿いの場所に小さな家があった。
ここが雛の家のようだ。窓からは光が漏れており、誰かが住んでいることを示して
いる。しばらく遠くから眺めていた早苗だったが、意を決して戸口に立ち、軽く
二三度ノックする。

「だ、誰!?」

驚いたような、悲鳴じみた声が返ってきた。その声からは怯えたような気配が
伝わってくる。

「突然すみません。私は東風谷早苗と申します。あなたに以前、厄を祓って
 頂いた者です」
「厄を祓って…? あなたは、一体…」

早苗は、扉越しに今までの経緯を話した。以前は調子が悪かったが、雛に厄を祓って
もらってからとても好調であること。秋の女神姉妹に、雛のことを聞いたこと。
感謝の意を伝えたくて、この場所を聞いて訪ねたこと。

「そんなことのためにわざわざ…」
「雛様のおかげで、私はいまとても幸福なんです。ありがとうございました」
「そ、そんな…私は、ただ自分の仕事をしただけで…感謝されるなんてそんな…」
「雛様と是非ともお話がしたいです。ここを開けてもよろしいですか?」

本当はすぐにでもこの扉を開けたかったが、もし厄が溜まっていたら、早苗が厄に
見舞われてしまう。そしてその結果、雛を傷つけることになってしまう。それだけ
は嫌だったから、早苗は落ち着いて返事を待った。

やがて、ゆっくりと扉が開かれる。すぐ近くに、雛が立っていた。以前と変わらぬ、
可愛らしい人形のような出で立ち。表情はひどく困惑したものであったが。

「厄が見えませんね…今は、大丈夫なんですね?」
「ええ…ついさっき浄化したところだから」
「よかった。これで雛様とお話できますね!」
「私と、話したいだなんて…」
「雛様は、すばらしい神様です。私も神として、見習わなければなりません」
「あなたも、神なの?」
「はい。人間でもある現人神です」
「現人神…とても強い力を持っているのね。あなたが私から見習うことなんて何
 もないと思うけど…」
「そんなことありません。たった一人で人々のために務めを果たすなんて、
 並大抵のことではありません」

早苗は雛に家の中に通された。木目の板張りが温かい印象を与える、自然の中に
いるような不思議な安心感を感じさせる家だった。早苗は雛とたくさんの話をした。
雛にとっては、嘘のような、夢のような時間だった。誰かとここまで長い時間
話すことなんて以前あっただろうか? 厄神としての宿命を背負って生まれてきて、
何百年もの間、人間の幸福を願って自分の務めをこなしてきた。自分が厄を祓う
ことで人間が不幸から救われるなら、これほどの幸福は自分にはないと思っていた。
いや、言い聞かせてきたのだ。これこそが自分にとってこれ以上のない幸福だと。

それが今はどうだろうか? 自分に感謝の意を伝え、あれやこれやと話しかけてくる
目の前の少女とそれに楽しそうに答える自分。誰かとこんな近くで、とりとめのない
話をすることが、こんなに楽しいなんて。こんなに幸福だなんて。人々を不幸から
救う以上の幸福なんて存在しないと思っていたのに――――

「雛様?」
「え? あ、ああ、なんでもない…」

上の空で受け答えしていたので、心配した早苗が覗きこんできた。顔がとても近い。
好奇心に満ち溢れた瞳が、じっと雛を見つめている。雛はなぜだか胸が熱くなるの
を感じた。

「そろそろお暇しますね。今日は雛様とお話できてよかったです。
 また来てもよろしいですか?」
「え、ええ…私でよければ…」
「嬉しいです。雛様、ありがとうございました」

早苗は、雛の右手を取り、両手で包みこんで感謝を示した。雛の手に早苗の手が
触れた瞬間、雛の双眸が見開かれた。触れている。自分の手に、自分以外の誰か
の手が。温かく、柔らかい。これが人の体温というものなのか。生まれて初めて
感じる、人間の温もり。春の日差しや、干した布団、その他諸々のどれとも違う。
じんわりとしみ込んでくるような、安心させるような温かさ。

「…? どうしました?」
「こんなに…」
「え?」
「こんなに、温かいのね。人の手って…」
「雛様?」
「初めてなの。誰かの体に触れるって…」
「そうだったんですか…」

早苗は、以前のような胸が締め付けられるような痛みを感じた。雛は、人間を想う
あまりに自分を人間から遠ざけていた。その結果、長い間誰かの体温というものを
知ることができなかった。それはどれだけ寂しくて、辛いことなのだろうと。
雛の役に立ちたい。この優しすぎる神様に、人の温かさをもっと感じてほしい。
それは同情などではなく、本心から湧き出た雛への敬愛であった。





それからというもの、早苗は頻繁に雛のもとを訪れた。雛は大体一週間に一度、
集めた厄を浄化しているそうだ。浄化の日程を教えてもらい、会える日は必ず
雛の家を訪ね、様々な話をした。会話慣れしていない雛のために最初は早苗が
話題を振っていたが、雛も少しずつ自分のことを話すようになっていった。
雛と会話を重ねるうちに、早苗は雛の人間に対する愛情の深さを何度も認識した。
人と神、両方の性質を併せ持つ早苗だからこそそうだったのかもしれない。

「厄っていうのはね、幸不幸のバランスを不幸の領域に傾けてしまうものなの。
 幻想郷では外の世界で忘れられた存在たちが暮らす世界だから、そういう概念的
 なものの影響がとても強いの。本当に些細なことで厄は増大してしまう」
「それを、雛様が祓っているんですね」
「人間には、幸福であってほしいから」

早苗と会うようになってから、雛は自分が驚くほどよく笑うようになったことに
気がついた。早苗が来る日はいつも気分が弾み、いまかいまかと扉の近くで待つ
自分がいた。そして早苗の気配を感じると、嬉しくてつい回り出してしまう。
誰かと触れ合う喜び、体温の温かさを早苗が教えてくれた。それは自分がずっと
前に決して叶わないと押し込めていた、気づかないようにしていた願望だった。

こんな自分でも、時間は限られても誰かと触れ合うことができる。厄にまみれた
自分でも、誰かと一緒にいられるかもしれない。だが、自分が踏み込んでいいのは
ここまで。これ以上を望んではいけない。

「早苗さん」
「何ですか?」
「いろいろ教えてくれてありがとう。あなたには、どれだけ感謝しても足りない。
 私には、厄を引き受けることしかできないから、どんなお礼をすればいいか…」
「お礼だなんて! 助けてもらったのは私のほうなんですから!」
「私は、厄神として当然のことをしただけで…ただそれだけで、ここまで幸せに
 してもらえるなんて、私には過ぎる」
「そんなことありません! 雛様は、今までずっと人のために厄を浄化して、でも
 それを人には知られないで…もっと、あなたは幸せになっていいんです。
 幸せにならなければならないんです」
「もう、いいの。もう充分。抱えきれないほどの幸せをあなたから貰ったから。
 だから…」
「だから?」
「もう、私には近づかないで」

早苗は驚愕し、言葉を失った。もう近付くなとは、嫌われてしまったのだろうかと
嫌な予感が脳裏をよぎる。だが、雛の態度を見る限り、そうではないらしい。
雛はその瞳に涙を一杯に溜め、自分自身を抱きしめ、小さく震えている。泣いては
いるが、その表情はどこまでも穏やかで、幸せそうで。そして、この上なく
辛そうだった。

「雛…様?」
「これ以上は、ダメ」

雛は立ち上がり、早苗の手を取ると、そのまま玄関まで引っ張っていった。そして
早苗を外に押し出すと、扉を閉めてしまった。雛の胸に刺すような鋭い痛みが走る。
握った早苗の手を離す時、まるで身体の大切な一部が引きちぎられるような気が
した。無くしたらもう二度と、戻ってくることは無いと感じた。だが、それでいい。

「雛様!どうしたんですか!? 私…なにかひどことしてしまいましたか?」
「違うの、早苗さん」
「じゃあどうして…」
「これ以上、あなたといたら…私は…」
「雛様?」
「どんどん、あなたを求めてしまう。あなたが欲しくなってしまう。自分を抑え
 られなくなってしまう。そうなってしまったら、きっとあなたを不幸にして
 しまう。そんなの、私には耐えられない」
「そんな」
「だからもう、ここには来ないで。あなたのためにも、そして…私のためにも。
 ごめんなさい」
「そんなの嫌です! 私、もっと雛様とお話したいです!
 雛様は…嫌ですか?」
「嫌なわけないでしょう! 私だって…私だって!」
「開けてください雛様。これ以上あなたが悲しむことなんて…そんなのダメです」
「…ッ! もう帰って! お願い、帰って! 二度と、来ないで!」
「…」

言葉を失う早苗。風の音と、草木のざわめきがうるさい。雛の嗚咽が漏れてくる。
必死に抑え込もうとして、でも出来なくて。きっと、この扉の向こうで雛は苦し
そうに泣いているのだろう。もっと人間のことを知りたい。温もりを感じたい。
でも、それは許されない。求めてしまえば、止まれなくなる。人間を、不幸にして
しまう。早苗と会う前は、知らなかったから耐えられた。でも、知ってしまった。
人間の体温の温かさを、一緒にいるという心地よさを。それを今、自分から手放そ
うとしている。折角、手に入りかけていたのに。

「うぅっ…ぐすっ…」
「雛…様」
「おねがい、かえって…」
「…分かりました。その、辛くなったら、いつでも山頂の神社を訪ねてください。
 いつでも、待ってますから…」

返事は、無い。これ以上ここにいても、雛をつらくさせるだけだと感じた早苗は、
深々と頭を下げ、去っていった。
早苗の気配が消えた後も、雛はしばらく泣き続けていた。これでいいと自分に何度
も言い聞かせるが、後悔と絶望、そして寂しさは後から後から湧きあがって
くるのだった。その日の夜は、いつもよりも寒い気がした。





次の日から雛は、極力何も考えないように自分の務めを果たそうとした。だが、
一人でいる時間が圧倒的に多い雛は、厄を祓うという役目がひと段落ついてしまえば
嫌が応にも早苗が感じさせてくれた温かさを思い出すのだった。何度思考から
追い出そうとしても、生まれて初めて感じたその感覚はしっかりと体に焼き付いて
おり、気がつくと早苗と繋いだ手をじっと眺めている自分に気付くのだった。

(欲しい)

いけないことだと解っていても、どうしようもない喪失感がわき上がってくる。
ずっと一人でやってきたのに、ただ一度人と触れ合っただけでこんな風に思う
ようになってしまった。早苗のせいで余計な願望を抱くようになってしまった、
と一瞬思うが、優しい雛はすぐにその考えを否定する。早苗は、人間の温かさを
教えてくれた人だ。恨むだなんてとんでもない。元より、雛は負の感情を誰かに
対して抱くような性格はしていなかったが。

(寒い…)

神として完成された肉体であっても、それに宿っている精神は揺らぎ始めていた。
あの手に触れたい。抱き締めて欲しい。かなうならば、ずっと傍にいてほしい。
望んではならない願望がとめどなく溢れてくる。押し潰されそうだった。
それでも雛は願望を抱いては抑えながら厄を祓い続けた。苦痛に満ちた日々だった。
人間に必要以上に近づいて、慌てて離れるという普段なら絶対にしないであろう
失態を、何度も。自分は人間を災厄から守る神なのに、不幸にしてしまってどう
するのか。今はまだ、致命的な失敗はないが、このままではいつか取り返しの
つかないことになってしまうかもしれない。一度悪く思い始めると、その思考は
どんどん加速してゆく。

(やだ…ダメ…そんなの…)

自らの不幸に絶望し、次々と命を絶って行く人々の姿を思い描いてしまう。
そんなこと絶対にさせないとは思うのだが、その可能性を完全には否定できない。

(怖い…)

ベッドの上で自らを抱きしめていると、扉を叩く音が聞こえた。この家に住んで
いるのは雛だけであり、また自分から他人と距離をおいているため、誰かが訪ねて
くることも無い。いや、一人だけ、たった一人だけ…
音に吸い寄せられるように扉に向い、ドアノブを回して扉を開ける。果たして、
一番会ってはいけないのに、一番会いたかった相手がそこにいた。

「さなえ…さん」
「あなたに、もっと人の温かさを知ってほしいんです」
「いいの…かしら」
「ずっと雛様は耐えてきたんですから」

早苗が雛をそっと抱きしめる。その瞬間、雛の体が凍ったように硬くなる。早苗の
手に触れた時に感じた、忘れもしない感覚として残っているあの温かさが、今や
全身にしみ込んでくる。しっかりと抱きしめられているからこそ感じる、早苗の
肉体の柔らかさ。ふわりと、甘い香りを感じる。これが、人の匂いなのか。
あらゆる不安、悲哀、疑念、後悔といった負の感情を一瞬で吹き払ってしまう様な、
羽毛で包みこまれているような感覚。人に抱きしめられることが、こんなに温かく、
安心できることだったなんて。

「温かい…とても」
「雛様も、すごく温かいですよ…」

硬くなった雛の肉体が、早苗の体温で解される。おずおずと雛も早苗の背に両手を
回し、抱きしめた。体全体で感じる、人間の温かさと柔らかさ。雛の瞳に、再び
涙が溢れる。

「雛様…私、もっとあなたに伝えたいことがあるんです。でも、それは
 言葉じゃ無理なんです」
「どうするの?」
「目を、閉じていただけませんか」
「目を? こう…?」

言われたとおりに、雛は両目をそっと閉じた。視覚を閉じると、触覚や嗅覚の様な
別の感覚が鋭敏になってくる。先程よりも強く早苗の体温と匂いを感じる。もっと
強くそれを感じ取りたくて、そっと抱きしめる腕に力を込める。と、唇に何かが
当たった。ふわりと触れたそれは、とても柔らかく、そして熱い。なんだろうと
思って目を開けてみると、目を閉じた早苗の顔が目の前にあった。そして今何を
されているかを理解する。自分の唇にあたっているのは、早苗の唇だということを。

(えっ、これ…なに?)

雛は、今されている行為が一体何を目的としたものなのかが理解できなかった。
そもそも、自分から人間との接触を絶ってきた雛には、この手の行為に関する
知識が零といってよいほど、全く無かったのである。
どうしていいか分からない雛は、とりあえず早苗の次の行動を待つことにした。
ただ意味は知らなくても分かることはあった。唇に感じる柔らかさと温かさが
とても心地よい。それに、なんだろう…こうして唇を重ねていると、胸に感じた
ことがない感情が湧きあがってくる。早苗と体温を共有してはじめて感じたこの
感情。その正体を雛は知らない。

「…ふー」
「っ…早苗さん、今のはなあに?」
「キスです。大好きで、大切な人とその愛情を確かめるために行う行為ですよ」
「大好きで、大切な人…」
「雛様です。私東風谷早苗は、厄神様である鍵山雛様を愛しています」
「愛して…ええっ!? 私を…!?」
「はい」

雛は、人間を愛していた。愛していたからこそ、己の使命をここまで果たしてきた。
でも、その雛の愛に人間が応えてくれたことはない。雛はそれを当然のものとして
考えてきた。愛とは、与えるだけの一方通行のものだと。
それが今、自分に向けられている。愛してやまない人間から。

「…ありがとう。すごく、すごく嬉しい。私が、人から愛して貰えるなんて」
「雛様」
「私も…早苗さん、あなたのことが好き。だいすき」

口付けの時から胸に感じていた感情の正体が分かった。早苗に対する愛情。
ただ一方的に与えるだけの愛ではない。しっかりと、具体的な行為を伴って
もたらされたもの。これが本当の愛なのだろうか。

「雛様…」
「様なんてつけないで…雛って呼んで」
「分かりました。今度は雛さんのほうからキスしてくれませんか?」
「えっ…うまく、できるかな…」
「大丈夫、できます。さあ」

早苗は雛を受け入れようと、両手を広げる。雛はそっと早苗の腰に手を回し、自分
のほうへと引き寄せる。お互いの顔が近づく。早苗の、柔らかい視線が自分に
注がれている。

「なんだか恥ずかしい…早苗さん、目を閉じて」
「はい」
「そ、それじゃ、するわ…」

再び、二人の唇が重なる。早苗は右手を雛の背に、左手を雛の後頭部に回し、
ぐいっと自分に押し付ける。口付けがより深くなったところで、早苗は次の行動
に出る。少しだけ口を開き、舌先で雛の上唇をなぞる。唇に感じた異質な感触に
雛は驚くが、早苗はそのまま舌を雛の口内に侵入させ、歯列をなぞり始める。
雛も自分の中に入ってきたものが早苗の舌だと認識する。なんとなく、少しだけ
口を開くと、すぐさま早苗の舌が雛の口腔深くに入ってきた。雛の舌を捉え、
絡みついてぬちゅ、ぬちゅと粘着質な音を弾けさせる。

「んんっ、んふぅ」
「ちゅうっ、んちゅぅ」

息苦しさを感じてどちらとものなく顔を離すと、熱に浮かされたような上気した
相手の顔があった。少し呼吸が荒くなり、それはただの息苦しさだけではない
ようだ。

「ふふっ、雛さん」
「えっ、きゃあっ」

早苗は雛の両肩を掴んで、背後のベッドに押し倒した。困惑する雛に比べて、早苗
の方は楽しそうである。倒れこむように雛の上に覆いかぶさり、じっと雛の瞳を
覗きこむ。

「わあ…雛さんの瞳…すごくきれいです」

ぐっと顔を近づけられ見つめられると、言い知れぬ熱のようなものが雛の体の芯
から湧きあがってくる。何となく視線を合わせるのが辛くなって、目を閉じて顔を
背ける。そうすると、雛の少々汗ばんだ首筋が露になる。真白で、しっとりしていて
とても柔らかそうだ。

「おいしそう」
「えっ?」

言うなり、ほとんど噛みつく勢いでそこに口付ける。まず、軽く歯を立て舌先で
肌の弾力を楽しむ。予想通りとても柔らかく、それでいてしっかりと押し返して
くる弾力さ。あまりの柔らかさに、少し力を入れれば破ってしまいそうである。
力加減に気をつけながら、ちゅうぅ、と吸い上げる。

「んんっ…ふぅっ…」

雛が鼻にかかったような、必死に出すのをこらえているような声を漏らす。
早苗が吸いついているところを起点に、ピリピリした電気の様な刺激が雛の
身体を走り抜ける。ぎゅっと痛い位に拳を握って、得体の知れぬ刺激に耐えて
いると、そこに早苗の手がそっと降りてくる。やんわりと握られた雛の拳を
撫でて、緊張を少しずつ解いてゆく。やがて雛の拳が開かれ、そこに早苗の手が
絡み、握り合う。

「大丈夫。大丈夫ですから。任せてください」

あやすように言い、片手も同じように握ると、不思議と雛の体から不安が溶ける
ように消えていく。緊張と不安に凍りついた身体が、早苗の体温いによってじわり
と溶かされていくようだった。早苗は首筋への愛撫をやめ、再び雛の唇に自分の
それを重ねる。舌を侵入させると、雛の舌先がちょんと当たった。幾分余裕を
取り戻した雛は、早苗の舌の動きに応えるように自分の舌を動かす。絡み合う度に
ぬちゃぬちゃと弾けるような音が口腔内で反響する。重力に従って流れ込んできた
早苗の唾液を、ほとんど意識せずに嚥下すると、下腹部が熱くなったような気が
した。それと合わせて両手から感じる熱がどうしようもなく心地よい。

「はふぅっ…ちゅぅう…」

だんだん雛も慣れてきたらしく、早苗の舌を押し返して口内にお邪魔して頬の裏側
をなぞってみたり、体勢を変えて早苗の上に覆いかぶさり、今度は自分が早苗に
唾液を飲ませてみたりと、積極的に早苗の動きについていった。触れあう肉体と
握り合った手、激しく絡み合う舌の三か所で共有される熱に、雛の体はどうしよう
もなく疼く。

やがて息苦しくなったのか、どちらともなく唇を離す。名残惜しげに中に突き
出された互いの舌を唾液の糸が繋ぎ、妖しい光を放っていた。互いに口の中に
溜まった体液の混合物を飲み込む。

二人はしばらく見つめ合っていたが、やがて早苗が動く。雛の服の、胸元の紐を
解く。すると、紐によって押し付けられていた豊かな雛の胸が、服の下から
押し上げるようにして露になる。レース入りの黒いブラジャーが、なんとも扇情的
である。早苗はごくりと唾を飲んだ。性的な接触と全く無縁そうな雛が、こんな
下着をつけているなんて。

「わあ…おっきい…」
「え、えーと…早苗さん? どうして脱がすの?」
「雛さんと交わるためですよ」
「まじ…わる?」
「ふふっ、もうここからは言葉は不要です…」

早苗は雛の胸を両手で包みこむと、内部へ押し込むように揉み始めた。文字通り
指が沈み込むほどの大きさ。そしてしっかりと指を押し返してくる弾力が、早苗を
どうしようもなく興奮させた。そして雛は、早苗の指が胸に沈み込む度にどんどん
先に感じた熱が強まっているのを感じた。疼きも増している。胸を揉まれるなんて、
長い生のなかでもこれが初めてである。自分では、ただ出っ張った身体の一部、
ぐらいにしか意識していなかったが、女性としていたずらに晒すべきではない部位
であるということくらいは分かっていた。それぐらいの認識であった。

それが今、早苗の前に晒されており、あまつさえ触るどころか形が変わるほどに
揉まれている。いけないことを、されている。それを許容している自分がいる。

「ふぁ…んぅ…」
「よかった…雛さん、ちゃんと感じてくれてる」

感じるとはどういう意味か、と尋ねようとしたが、強まる熱に浮かされうまく言葉
を紡ぐことができない。早苗は雛のブラを上にずらす。真白な乳房と、桜色に色
づいた乳頭が顔を出した。すでにその先端は固く勃ち上がっている。ブラが黒かった
こともあるためか、雛の胸はまるで雪のように白く見えた。今だ誰も足跡をつけて
いない、まっさらな雪面。

早苗は舌先でつんつんと雛の乳首を突っついた。雛はびくりと身体を震わせる。
今までじわじわと感じていた熱や疼きとは明らかに違う、体の芯に直接的に電撃を
打ち込まれたような衝撃が駆け巡る。

(な、何!? 今のは)

考える暇もなく、さらなる衝撃が雛を襲った。早苗が雛の乳首を大きく咥えこんで
吸い始めたのだ。ぢゅうぅ、と出るはずのない母乳を吸いだそうとするように、
早苗は一心不乱に吸い続ける。

「んあぁっ!? ひぁあっ!? なに、これぇ!?」

痛みや熱さ、くすぐったさ、そのどれでもない。胸から撃ちこまれる衝撃に雛は、
わけもわからずに嬌声を上げ続ける。早苗は空いている方の乳首を指で挟み、捏ね
回したり押し潰したり。胸から伝わる衝撃がさらに大きくなり、やがて雛は理解
する。これが気持ちいいということを。

「さなえ、さんっ! はげし、すぎるぅ!」
「ちゅぅっ、もっと、気持ちよくなって、雛さんっ」

一旦口を離し雛に応えると、すぐにまた胸への愛撫を再開する。早苗の愛撫は
どんどん激しさを増す。時折軽く歯を立ててみたり、舌先で乳輪をなぞってみたり、

顔を胸に押し込んでみたり、やや乱暴に揉み込んだりと、変化をつけた。

雛の肉体に蓄積されていく快楽が許容量を超えるのに時間はかからなかった。
早苗が乳首を思い切り吸い上げ、片方を絞る様に潰した時にそれは訪れた。
雛の視界が真っ白に塗りつぶされ、思考が吹きとんだ。

「ああぁぁぁーー!!」

雛の絶頂の様子を、早苗はただじっと見つめていた。雛はシーツを掴みびくびく
と痙攣していた。やがて、思考が戻ってくる。

「あ…あぁ…」
「だ…大丈夫ですか?」
「え、ええ。今のは一体…体がどこかに飛んでいってしまいそうな…」

呼吸を荒くしながら、絶頂の余韻に身を震わせる雛に、早苗は熱のこもった視線を
向けながら答えた。雛が呼吸を整える前に早苗は次の行動に移った。
雛に覆いかぶさっていた状態から一旦身体を離し、雛のスカートに手をかける。
そのままゆっくりとずり下げてゆくと、ブラと揃いの物なのだろう、黒い下着が
露になった。よく見てみると、クロッチ部分の色が周囲よりも濃くなっている
ように見える。指でそっとなぞってみれば、案の定、そこは濡れていた。

「ひぅっ!?」

突然感じた性器への刺激に雛の思考が一気に覚醒する。顔だけ動かして下を見れば
いつの間にかスカートが脱がされている。絶頂による熱で赤くなっていた顔が
さらに赤くなる。

「え、ええええっ!? なんで私スカートはいてないの!?」
「私が脱がせました」
「なっ、なんでそんな」
「それより雛さん見てくださいこれを」

早苗は雛の顔の前に先ほど雛の下着をなぞった人指し指を持っていく。親指と
あわせて離すと、にちゃっと粘着質な音がした。

「そ、それは…」
「雛さんのです」
「ええと、汗…かな」
「汗はこんなにべったりしてないですよ」
「じゃあ…何?」
「ここです。ここから出たんです」

早苗が再びクロッチ部分を人差し指で内部に押し込むようになぞる。さっきよりも
強烈な快楽が雛の背筋を突き抜けた。思わず両足が跳ねあがってしまった。
早苗は下着の上からずぶりと指をそこに突っ込んだ。じゅっと愛液があふれ出す。

「雛さんのここ、すごく熱くて濡れてる…」
「あ、あぁんっ! そこ、だめぇ!」

早苗は最早機能を果たしていない下着に指をかけ、引きずり下ろした。にちゃっと
性器とクロッチ部分を粘着質な糸が繋いでいた。雛も、そこを最も隠すべき場所
だとは分かっていため、反射的に両手で隠した。早苗にはばっちり見えていたが。

「雛さん、見せて…」
「そ、そんな恥ずかしい」
「私も脱ぎますから」

早苗はスカートを下着ごと脱ぎ捨てた。早苗の秘裂は雛以上に濡れそぼり、溢れた
愛液は大腿を伝って流れ落ちていた。目の前のあまりにも魅力的な肢体を求めて
ひどく疼く。

「あ…」

呆けたように早苗のそこを凝視する雛。てらてらと妖しく光を反射し、絶え間なく
愛液を垂らし続けている。

「雛さんの手、借りますね?」
「え」

雛は性器の上に右手を、その上に左手を重ねている。そしてその左手を早苗がそっと
取り、まずは人差し指を口に含んだ。舌で余すところなく丁寧に舌を這わせてゆき、
それがひと段落つくと、こんどは胸にした時のようにちゅうぅ、と吸い上げた。
その瞬間、またも雛の体が跳ねた。ねっとりとした執拗な指への愛撫。ただ指を
咥えられているだけなのに、その指先から全身を走り抜けるこの衝撃は一体。

「んああぁんっ、なん、でっ」

絶頂の余韻が引いていった雛の体が再び異様な昂りを見せ始めた。だがその刺激は
胸や性器への愛撫ほど強烈なものではなく、絶頂へと至るには今ひとつ足りない。
中途半端なまま熱が雛の肉体に蓄積されてゆく。ひどくもどかしい。体の中に手を
入れられてかきまぜられているような、だが暴れ狂うようなものでもない。
早苗はそれを知ってか知らずか、中指、親指、小指と愛撫の対象を変えてゆく。
どの指もしつこいほどに舌でねぶり吸い上げながら。

たっぷり時間をかけた愛撫によって、雛の左手は早苗の唾液でべとべとになって
いた。小刻みに震えている。早苗はその左手を、ゆっくり自分の秘裂にあてがった。
十分に濡れていたため、何の抵抗も無く雛の二本の指はぬぷりと早苗の膣内に
収まった。

「はぁんっ、雛さんの、ゆびぃっ」

自分でするときとは全く違う刺激が早苗を急速に高めてゆく。かなり乱雑に雛の
指を出し入れする度に愛液が弾け、シーツに降りかかる。

「ああぁっ…!」

あっというまに絶頂は訪れた。膣に挿入された雛の指が痛い位に締め付けられる。
熱い飛沫が雛の体に飛び散った。早苗の痴態をぼうっと眺めていた雛だったが、
ややって下腹部の熱に気がつく。空気に晒された秘部が、じっとりと熱を帯びて
いる。トロリと愛液が大腿を伝っていた。呼吸を落ち着けた早苗が雛の両の大腿
を抱え込み、秘部をじっと覗きこむ。そこはひくひくと震えている。

「すごく、きれいです」
「いやぁ…そんな、見ないで…」
「それじゃ、いきますよ?」
「え」

早苗は舌先で陰唇を舐め上げた。突然の強烈な刺激に悲鳴を上げる間も無く、次
なる衝撃が雛の下腹部から背筋を駆け上がり、脳へと突き抜ける。愛液を吹き
零しぬかるむ膣内へと舌が突きいれられ、暴れまわる。喉を鳴らして溢れてきた
愛液を嚥下するが、追いつかずに早苗の口元を伝う。

「んぅああぁっ!? うああっ」
「んふぅ、ちゅううぅぅ」

舌先で陰核の包皮を器用に剥き、現れた核にも油断なく舌を伸ばす。舌先で軽く
突いたのち、そっと歯を立てたり吸い付いたりとだんだん愛撫を激しくしてゆく。
性感の集中している部分への直接的な愛撫により、雛の体は一気に高められていく。

「ああっ、あああぁぁ」

性的な快楽とは無縁の暮らしをしていた雛が性器を直接蹂躙される強烈な快楽に
耐えられるはずもなく、限界はすぐにやってきた。割れそうなほどに甲高い嬌声
を張り上げて雛は再び絶頂へと押し上げられた。陰唇を咥えこんでいた早苗の口内
に熱い愛液が噴き出された。一滴も漏らさずにしっかりとそれを受けとめ、飲み
干した。

「あぁ…」
「雛さん、がんばって。これで最後ですから…」
「まだ、あるの…?」
「はい。いっしょに、ひとつになりましょう」

虚ろな目でぼうっと見つめてくる雛をよそに、早苗は雛の片方の足を持ち上げ、
明いた隙間に自分の腰を挟みこむ。自然と、互いの秘部が密着する形になる。
ぬちゃりと陰唇同士が口付けを行うと、互いの体に電撃の様な快楽が走った。

「あぁんっ」
「ひぁっ」

ぶつけるように腰を押し付ければ、互いの陰唇が絡みつくように合わさり、
その度に生じるぐちゅりという卑猥な音が理性を焼いて行く。最初腰を動かして
いたのは早苗だけだったが、雛もまたさらなる快楽を求めてその動きに合わせて
いった。二人の動きが完全に一致し、耳を打つ淫猥な音もその大きさを増す。

「雛さんっ、雛さんっ!!」
「うぁっ、さな、えさんっ」

何かをつかもうと中を泳いでいた雛の手を掴むと、早苗は雛に倒れこむようにして
より深く繋がろうとする。噛みつく様な激しいキスを見舞えば、雛もそれに応え、
舌でも交わりを行う。腰を打ちつける度に激しく揺れる雛の胸に自分のそれを押し
付ければ、硬く勃ち上がった先端同士が潰し合い、苛烈な快楽を生む。
秘部、胸、口という三か所から同時に発生した快楽が全身を駆け巡る。
そしてそれは訪れたのだった。

『うぅあああっああぁぁ…!』








「大丈夫ですか?」
「ええ…」

互いに一糸まとわぬ姿で、雛の呼吸が落ち着いたのを見計らい、声をかけた。
あれほど体内で暴れ狂っていた快楽は嘘のように引いており、今は以前早苗に
抱きしめられた時に感じたあの安心させるような温かさに雛は包まれていた。
行為の最中は、まさに早苗と一体化してしまったような感覚を覚えた。邪魔な
物を取っ払って、全部さらけ出して激しくお互いを求めあう。体温と快楽を
共有することの不安と恐怖と、それ以上の安心と幸福。

「こんなに気持ちいいことがあるなんて」
「うふふ」
「でも…」
「どうしました?」
「これでいいのかしら。私は、ほんの少しでも近づけば…踏み込んでしまえば、
 たちまち誰かを不幸にしてしまう。今までは人に憧れていても、寂しさを
 押さえることができた…でも、知ってしまった。人の温かさを」

こんなに幸福なら、こんなに温かいなら。きっとこれからもまた、それを求めて
しまう。寂しさに耐えられず温もりを求めて誰かに近づいて、結果として自分の
厄で不幸にしてしまう。それだけは駄目だ。自分は厄を祓い人を不幸から救う者、
自分のせいで人を不幸にするなんて、とても耐えられない。

「怖いの。これからが。私のわがままで、誰かを不幸にしてしまわないか」

不幸を振りまく自分を想像してしまい、瞬く間にわき上がってきた恐怖から逃げる
ように、早苗を強く抱きしめる。早苗は、ふっと小さく笑うと、軽く雛に口付ける。

「大丈夫ですよ」
「…」
「雛さんは、これほどまでに人間のことを愛しているじゃないですか。
 それに、あなたが人間を愛するのと同じ様に」

一呼吸置き

「人間も、あなたを愛するんですよ」
早苗と雛、ってだけでどんな話かは大体想像つくと思います。
とってもありがちなお話ですね。ねちょを引き伸ばし過ぎたかなあ…
あかなす
コメント




1.華彩神護削除
あかなすさんのお話は心が温かくなるので大好きです。
個人的には500年が好きです。
2.名前が無い程度の能力削除
これは……とても良い!
3.JENO削除
雛と早苗ってだけっていうより雛の背景的にそうならざるを得ない気がする。あとはギャグか。

こういっちゃぁなんだけどやっぱり雛はこういう話がよく似合う。
とてもグッドでした。

あと、神奈子が加奈子になってました。