真・東方夜伽話

erainterlude2

2010/03/19 23:53:21
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erainterlude2

紺菜
         ~注意書き~



 本SSはeratohoを基に作成された二次創作物であり、
 作者のオリジナル要素が多分に含まれております。

 また、東方キャラに対する調教を行なう作品である為、
 表現上暴力描写、残酷描写も多く含んでおります。

 ここまでの文章で嫌な予感、悪寒、吐き気、頭痛、眩暈等の症状を感じた方は、
 即座にブラウザを閉じて充分な休息を取られることをお勧めします。

 その症状が見られない、もしくは興味を持ってしまわれた方のみ先へお進み下さい。



        ~注意書き終わり~
































































 


 永琳が身ごもって一番初めにした事は、過去の汚点を消す事だった。

「ようてゐ」

 俺はベッドに乗り込んで、横たわるてゐに覆いかぶさる。
 散々いいように弄びまくったからか、もうかつての糞生意気な表情を浮かべる事さえない。
 卑屈に怯えて見上げてくるだけだ。

「まあ、こう言っちゃなんだが。もうお前はいらねぇ」

「ひっ」

 短い悲鳴を上げたてゐの首に両手をかける。
 手足をぶった斬って今まで散々性欲処理の肉オナホとして活用してた訳だが、利用価値がなくなった。
 突っ込む穴なら足りている。

 それにあれだ。
 これから生まれてくるガキの事を思えば、こういうエログッズは片付けておくに越したこたぁない。
 ガキの時分にこのてゐの姿を見りゃ、間違いなくトラウマの一つ二つはこさえちまうからなぁ。
 そうなる前にきっちり処分しとかねぇと。

「俺の幸せな家族の団欒ってやつの為にも、ここで死んでおいてくれ」

「かっ、ひゅっ」

 俺はぐいぐいと首を締めた。
 てゐは頭を振って身悶える。
 手も足も出ないてゐの抵抗なんてあってないようなもんだ。
 
「ちゃんと墓も作ってやるから安心しろよ。気が向いたらキャンディでも備えてやるからな」

「はっ、ぐひっ、ひっ」

 見開いた目から涙をこぼし、酸素を求めて喘ぐ。
 憐れみだとか名残惜しさだとか、そういったものは感じなかった。
 殺しに飽きてる事なんてのは、イナバをかっとなった拍子に殺っちまった時に気がついている。
 だからこれはけじめみたいなもんだ。

 俺が作ったエログッズだから、俺の手で終わらせるってな。

 舌が紫色に染まっていく様子を見つめながら、てゐの首を絞め続けた。
 一切の迷いなく、きっちりと縊り殺した。



 ほんと。
 我ながらびっくりするほど下衆だな。

 俺は今しがた目にした夢を思い出して、げんなりとため息をついた。

 前任と重なっちまったお陰で、夢見は常に最悪のまま絶賛更新中。
 頭の中に虫歯が出来ちまったみてぇに常にずくずくと疼きやがる。
 お陰で目覚めが悪いったらありゃしねぇ。
 虫歯ってのは掛かっちまったら最後、どうやったって治らねぇからな。
 いっそ頭ん中ご開帳して、悪くなった部分をペンチか何かで引っこ抜いてやりたい気分だ。
 それが出来りゃ苦労ねぇんだけどな。

 俺はベッドの上で仰向けになったまま、もう一度ため息を吐き出した。

 前任の記憶と今の記憶が入り混じる、この感覚。
 現実感がなくなっていく。
 見ず知らずの他人と記憶を共有するってのならまだしも、前任も俺だってのがまた始末が悪い。
 何の違和感もなく受け止められてしまう。
 本人が当に忘れていたはずの黒歴史を、毎晩ほじくり返されてるようなもんだ。

 ぼんやりと天井を眺めて思う。
 ただ生きるだけでも随分とまあ重苦しい呼吸をするようになっちまったが、一段階進んだ事に変わりない。
 だったらOKだ。
 このまま進もう。

 毛布をがばりと剥ぎ取り起き上がりかけた所で、俺はようやくそれに気がついた。

「……」

 因幡てゐ。
 ちっさい方の兎が、俺の腹に顎を乗せて寝ていた。

 涙と涎と鼻水に濡れた顔。
 口からこぼれる紫色に染まった舌。
 息の根を止めたのが寝息を立てて眠っている。
 つい先程縊り殺したはずが、ぶった切って食っちまった手足まで揃えて俺の目の前にいた。

 ――おっと、いかんいかん。
 夢と現実がごっちゃになってるな。

 俺はぽんこつ頭を数度叩いて、余分な記憶を叩き出した。
 寝起き直後は特に判断力が落ちる。
 俺と前任の記憶を選別して、やれやれと寝床に入り込めば旧い記憶が植えつけられる。
 ヒヨコのオスメス選別を延々とやらされてるみてぇだ。

 全く良く出来た嫌がらせだ。
 お陰で今の今までベッドに潜り込んだてゐに気がつきもしねぇ。

「てーゐ」

 俺はすやすやと眠るてゐの鼻先をこちょこちょとくすぐった。 
 てゐはむずがるように頭を振って、俺の腹の上で身じろぎする。
 幾ら見た目ロリな兎とはいえ、腹の上に乗っけて寝てりゃ呼吸も重くなる。
 俺のベッドに潜り込んじゃいたが、普通に寝ているだけだ。
 朝のいやらしイベントって訳じゃねぇようだが、はて一体何しに潜り込んだのやら。

「んん、ん……」

 てゐは唸りながらよじ登るように俺の上を這いずって、胸元から俺を覗き込んだ。
 閉じていた瞼が開く。

 目つき悪ぃなおい。

 微妙に寝癖のついた寝起きそのままの顔で俺をじとりと眺めたかと思うと、くあっと小さな欠伸を洩らした。

「おはようさん」

「ふん」

 鼻で笑いやがったよ。
 フレンドリィな挨拶してるってのにそりゃないぜロリータ。

「なぁーにしてんのよ?」

 目の前にあるやたら機嫌の悪そうな顔に訊ねてみた。

「見て判んないの?」

 ぶすっとした仏頂面が俺に訊ね返してきた。

 見て判らんから訊いてんだよ。
 それに質問を質問で返すなっパパとママから教えてもらわなかったのかどまんこがぁ!

 と言いたい所だが、俺は我慢の出来る子なので理不尽な態度も物言いも大人の余裕を持って対処出来る。

「うーん、僕ちんわかんなーい」

「バカじゃないの。もしくはアホね」

 大人の時間、しゅーりょー。

「寝込み襲いに来ていながらなに余裕綽々でぐーすか寝込んでいやがるんですか? あん? このでっかい耳は飾りでいやがりますか?
 人の質問には答えましょうねってパパとママから教えられなかったのか? ええ? このロリ兎」

 人差し指と中指を鼻の穴に突っ込んでやった。
 甘やかすとすぐ図に乗るから困る。

 俺がため息をつく間もなくにゅっと手が伸びてきて、頬をつねってきやがった。
 それも両方。

「ひひはほほひいほはほほはらほ」

 耳が大きいのは元からよ、ってか。
 何言ってんだかよく判んねぇが、なんとなく意味は伝わってくる。
 ま、会話なんてのは文脈と表情と仕草から読み取るもんだからな。

「随分と強気だが、いいのか? 言っとくけど俺はまだフルパワーじゃねぇからな。
 第二間接まで鼻穴拡張して、はーひふーへほーって言わせてやんぜ?」

「ほっひほへひふほ。ほっほはひはへひはっへふはほ。
 はんはほはほひほふふへにひへほうはらほはふふっへはははひひへはふはほ」

 いよいよ俺にも何を言ってんだか良く判んねぇ事になってきたが、てゐの事だから憎まれ口の類とみて間違いはないだろ。

「拡張だけじゃ足りねぇから、セロテープで鼻を固定してナオ子風味になりたいってか?」

「ほほひほひほははんはほはほへひょ。ほふほひひいはんっへほははひ、ひっへふ?」

 売り言葉に買い言葉で、俺たちは互いに睨みあう。
 言葉は判らんが喧嘩を売ってる事にゃ変わりはねぇんで、言葉のあやだ。

「いひひひひひ」

「ふほほほほほ」 

 俺は鼻の穴に指を突っ込んだまま、てゐは頬をぎりぎりとつねり上げたまま、不敵に笑いあった。

 何やってんだか。
 朝っぱらから。

 鼻に指を突っ込んだ色気も糞もねぇてゐの顔を見てる内に、なんだか白けてしまった。
 断じて、頬のねじり具合に負けた訳じゃねぇ。

「OK。今朝の所はドローだ。決着は後日に回そうぜ」

 俺はてゐの鼻にずっぽりと入っていた指を先に抜いた。
 どっちにしろ、これ以上入れたら間接の構造上下手すりゃ指が折れる。
 てゐは俺の様子を窺うように無言で睨みつけてきた。

 お互い銃を突きつけあっていた所から和解するには、先に銃を下ろす事だ。
 そうすりゃ少しは頭が冷えて、意地の張り合いから損得勘定に頭が切り替わるもんだ。

 てゐの目から険悪さは取れなかったが、つねり上げていた手をぱっと離した。

「おおてゐよ。話が判るとは幸先良い。次は俺の上から」

「えい」

「ぼへ」

 代わりにずぶりと俺の鼻の穴に指が突っ込まれた。

 ……まあ、こうなるわな。

 銃を突きつけあうまでいった時点で、先に下ろしたりすりゃばそこをずどんだ。
 俺の鼻がずどんだ。
 せめて最後まで喋らせろよ。 
 ファッキンダムデストロイ。

「ほはへは。はふほふひほはふほふほひんひっへほんははふんばべ?」

「あら、何言ってるのかしらん? 私にはわっかんなーい♪」

 一転して笑顔になったてゐは、けらけらと笑って遠慮なく俺の鼻をずぼずぼやりやがる。
 
「いやーん、不細工な顔ー」

 何がいやーんだこのアマ。 
 今度泣かしちゃる。

 穴に入れられるのはまあ、慣れてるっ言っちゃあ慣れてる訳だが。
 流石に鼻穴拡張は分野が違った。

「へひへひ。ほへほはへばほ」

 言葉で言っても通じないとか平然と言ってきそうなんで、諸手を上げて全面降伏だ。
 懐かないとか以前に、やたらこっちが白旗上げてるような気がするな。
 泣きたくなるな。

「始めっからそうしてればいいのよ。バーカ」

 最後は小憎らしく鼻先で笑ってから、俺の鼻から指を抜き取った。
 鼻の穴が広がってるのは、得意げになってるのよりも俺が指突っ込んでた所為だわな。
 俺の方もすっかり鼻の通りが良くなっちまってた訳だが。

「あーあ。朝っぱらからこんなくだらないことで時間潰しちゃったわ。
 目が覚めたらあったかい布団の中でごろごろするのが一番気持ちいいのに」

「人の寝床に潜り込んで来ておいて、てゐがそれを言うってのか?」

「うへ、ばっちぃ」

「おい。俺の服に鼻水擦りつけんな」

「あーもー。髪に寝癖はついてるし、ばっちぃ上にどこかの野良犬は朝から元気にしてるし。最悪ね」

「それは朝勃ちってんだ。朝は無条件で元気におっきするもんなんだよ」

「私これからお風呂に入るけど、あんたの部屋のも使い方一緒よね?」

「統一規格って奴でな。使い方に差はねぇよ」

「あっそ。じゃあ一番風呂頂くわよ。ばっちくなったから綺麗にしないとね」

 何この理不尽な生き物。
 
 ひょいと俺から飛び降りると、小柄な身体はすたすたと浴室のドアの向こうへと消えた。
 ほんと、懐いてるんだかどうだか判んねぇよなぁ。
 だけど、まあ。
 てゐのああいった態度や馬鹿馬鹿しいやり取りは、嫌いじゃない。

 夢でくさくさしていた気分が紛れている事に気がついた。

 てゐが浴室に消えたんで、俺も一っ風呂浴びる事にした。
 温めの風呂につかって一日の疲れを取るのもいいが、朝風呂は朝風呂でいいもんだ。

「ちょっと。何当たり前みたいに一緒に入ってくんのよ」

「は? だっててゐが風呂に入ってんだから、俺が入るのも当たり前じゃん」

 湯船に湯を張りながら、先にシャワーで身体を洗っていたてゐにはっきりと言い切ってやった。
 手早く衣服を脱ぎ去って、ぽいぽいと部屋の外に放り出す。
 立ち込める湯気が肌に当たり、中々良い心地だ。

 両手を頭に乗せて、髪を泡立てていたてゐが俺を睨みつけてきた。

「しかもそんなにぎんぎんにおっ勃てていったぁ!?」

「……髪洗ってる最中に目ぇ開けっからだ」

 何やってんでしょうね、ほんと。
 よからぬ事を企む癖に、基本小学生の悪戯思考なんで底が浅いったらありゃしません。

「洗い流せよ。シャンプーの一回二回程度を惜しんで、目ぇ腫らしてたら馬鹿馬鹿しいだろ」

「うるっさいわね! 洗ってるわよ!」

 よっぽどしみたのか、頭からシャワーをかぶって素早く泡を流している。
 あんだけでかい耳を頭に乗っけてるのに、湯が入ったりしないのかね。
 ふと、そんなどうでもいい事が気になったりした。

 耳でシャワー受けるような真似したらどうなるか。
 金玉蹴り上げてきそうだな。
 俺の弱点だって知ってやがるからな。

 剥き身のまま悪戯するのはちょい危険。
 悪戯はなしの方向で。
 シャワーを独占しているてゐに身体を割り込ませて、ずいずいと追いやった。

「ちょっと、邪魔よ」

「いや、俺にも使わせろよ。風呂がここしかない訳じゃねぇだろ?」

「今から私の部屋の風呂に入れって? めんどくさいから、や」

「だったら文句言うなよ」

「あんたの方が無駄に大きいから、半々でもこっちにお湯がこないのよ! 譲りなさいよ木偶の坊!」

「譲って下さいご主人さまぁん、って言ったら考えてやらん事もない」

「絶対、い・や。あんたの事だから、考えたけどやっぱり譲らないとか言うだけでしょ、どうせ」

「うん!」

「……えい」

「つべてぇ!?」

「ざまみろ」

 シャワーの湯を冷水に切り替え、自分はさっさと安全圏に逃れたてゐがにたにたと笑っていやがった。

 風呂の前にただ身体を流すだけだってのに、ただで済ませねぇのがてゐの成せる業。
 ほんと、理不尽な生き物ですね。

 で。

「へいお客さん、痒いとこありゃっせんかぁ~、ときたもんだ。こんちこれまた」

 気がついたら何故か知らんが俺がてゐを洗う事になっていた。
 俺が入る→余計な真似をしないか見張る→身体が洗えない→だから洗え、っつー流れらしい。

「この流れ無理がなくね?」

「ぶつくさ煩いわよ」

「にべもなくね?」

「だったら何?」

「どんどん不精になってくから、その内マグロになっちまわないかお兄さん心配です」

 構い疲れたのか、とうとうてゐからの返事がなくなった。
 ふんと鼻を鳴らして振り向きもしねぇ。

 ま、いいけどね。

 俺はシャンプーで泡立てたてゐの髪をわしわしと洗う。
 白くてふわふわのもこもこで、これだと随分兎らしく見える。
 まあ中身は真っ黒なんだが。

「ほーら、サリーちゃんのパパですよー」

 他人の髪を洗うとなれば、定番の悪戯ってもんがある。
 黒髪を角に見立てて左右二本尖らせた俺に、

「去勢するわよ?」

 壁に提げた鏡越しにてゐが睨んでいた。

 縮み上がりそうな脅しだな、おい。

「きゃん」

 と負け犬らしく一声鳴いて、俺は立派にそそり立つ角を手の平で解した。

「バーカ」

「ばふ」

 気の抜けた鳴き声を返して、てゐを洗う作業に戻る。
 頭から、髪、耳の裏、首筋とじっくり丹念に洗う。
 この辺りは疎かになりがちなんで、洗い方のコツが判るまでは他人に洗ってもらった方が良く汚れを落とせる。
 身体の洗い方一つとってみても、上達には色々と知ってなきゃいかん。

 さて、俺はいつどこでそんな知識を詰め込んだのかしらん。

『かぐやもだいぶ髪伸びたなぁ。そろそろ切るか?』

『やだー! お母さんとおそろいにするの!』

『切ったらパパとお揃いだぜ?』

『やだー!』

『はははっ。即答されてパパショック』

 そんな記憶がちらついた。

 てゐの黒髪を手の平に乗せる。
 襟口でまとまった短い癖毛を親指の腹で撫でた。

 俺の記憶にある黒髪は、ようやく肩口まで伸びてきたところ。
 指の上をさらさらと滑る直毛だった。
 ここにいる三人とは、誰とも違った髪質。
 かつて触れた髪とは違うのだと、俺の記憶と手の平が認識を弾き出す。
 んなこたぁ判り切ってるんで、別段寂しく思ったりもしねぇんだが。

「髪伸ばさねぇの?」
 
「は?」 

「いや、だから髪。ここ来てそこそこ経つだろ? 来た時と比べて伸びもしてねぇじゃん」

「伸びるわけないでしょ。長毛種じゃないんだから」

 別に、伸びた毛をそのまま紡いで糸玉を作れるアンゴラ種だって言ってる訳じゃねぇんだが。
 つうか髪は毛並みの一種なのか?

「鈴仙とは違うのよ、鈴仙とは」

「そりゃそうだ」

 言われるまでもなくうちのお姫様とも違ってる訳で。
 思っていた以上に俺は未練がましくなっていた。

「何よ?」

「何でもねぇよ」

 妙にしんみりしちまった空気の中で、俺はてゐの身体を洗った。
 その小さな後ろ姿を、娘にするように愛しく。



 朝っぱらからてゐと一緒に風呂と洒落込んだ後は、待望の朝飯だ。
 食は毎日の活力。
 朝昼晩としっかり食って、精力を蓄えておかにゃならん。

 魚の切り身が浮いた味噌汁をずずずと啜って白米を掻っ込んだ。

「……どう、ですか?」

 ん?

 がつがつと朝飯にありついていると、向かいのレイセンが俺を窺っていた。
 気持ち上半身を斜めに乗り出して、上目遣いに俺を覗き込んでくる。
 レイセンお得意の殺しポーズだ。
 これで自分が媚びてるって気がついてもいないんだから、尚更点数が高い。
 養殖物よか天然物がもてはやされるのは、どこでも一緒だ。

「どうって、飯? 美味いよ」

「そ、そうですか」

 レイセンがこういうポーズを見せるのは、相手との距離を測っての事。
 強気に出りゃいいのか大人しく引っ込んどいた方がいいのか、その距離感を測ってる。
 最近こういった媚び媚びの姿は見せちゃいなかったが、そいつは少しくらいは俺を近しく感じてくれてたからだろう。
 つまり、レイセンがこういう表情を見せるのは、少しばかり距離を空けられちまってるって事。
 要はもっと察しろって事だ。

 実際俺の答えにも、鈴仙は嬉しいんだか不満なんだか良く判らない表情を浮かべて黙り込んじまってる。
 数値を確認すりゃ大体当てもつくしかまかけもし易いんだが、鈴仙に限ってはそいつはなしだ。
 なんつーか、あれだ。
 数値に頼って相手を判断すんのは、どう考えたって愛じゃねぇし。

 そんな風に考えるようになったのは、前任と混じったからなのか、未練がましいだけなのか。
 それとも、ひょっとして――とうとうイカれちまったのか。
 神のみぞ知るだ。

「何。ひょっとして今日の料理、鈴仙が作ったの?」
 
「……」

 こくんと、レイセンは無言のまま一つ頷いた。
 正解のご褒美だ。
 仕草がいちいち可愛くって仕方ねぇな。

「実は――」

「待った、待って待って。今日の献立のどれか、鈴仙の手が加わってんでしょ?」

「は、はい」

「OK。俺が当てるよ」

 ずばり的中で、レイセンの喜ぶ顔がご褒美。
 うひょおやったね!
 お兄さん俄然頑張っちゃうよ!

 横断歩道の白い部分だけを渡る、光ナンバーの車を見つけたらその日にいい事がある、なんて自分ルールは得意だ。
 だから俺は勝手に自分ルールを設定して、レイセンの声を遮った。

 俺は顎を撫でて今朝の献立とにらめっこ。
 白米、味噌汁、キンピラごぼうに焼き鮭。あと炙った海苔。
 レイセンの料理経験も踏まえて、この中からどれに手を加えたかを弾き出す。

「そうだなぁ」

 軽く食い散らしたが、基本的にどれも美味い。
 下品な俺に似合わない上品な味付けなんで、永琳お手製だろう。
 味でこれといった差や違和感を感じなかったって事は、味付けは永琳がやっちまってるんだろう。
 レイセンの手が加えられているだけで、一品仕上げた訳じゃねぇのがミソだ。

 となれば後は大体察しがつくってもんだ。

「よし。この焼き鮭が鈴仙のお手製。どう?」

 焼くだけなら大した技術は必要ない。
 レイセン自身それ位なら出来ると思うだろうし、一品仕上げたって口実にもなる。
 まさか炊飯器のボタンを押すだけ、海苔を炙るだけでここまで期待するはずがない。
 はずがないんだから、そこんとこ頼むよレイセンちゃん。
 手料理で自信満々に炙り海苔とか出されたら俺泣くから。

「え、えぇと……」

「発想は悪くないけれど、違うわね」

 言い難そうに口ごもるレイセンに変わって、俺の隣の永琳が答えた。
 永琳には何でもかんでもお見通し――ってか、並んでキッチンに立ってたんだから判って当然か。

「マジデ? 発想近いの?」

 焼く系で悪くねぇってこた、炙り海苔か。
 炙り海苔なのか。
 お兄さん泣くよ?

「……この、鯉こくです」

 ごくりと咽喉を鳴らして待っていた俺に、レイセンからの申告が申し渡された。

「鯉こく?」

「はい」

 鯉こくだったのね、これ。
 魚のぶつ切りを放り込んだ味噌汁だと思ってましたよ、俺。
 焼く繋がりじゃなくって魚類繋がりだったって事なのねん。
 お兄さんも安心です。

 具は魚の切り身――鯉こくなんだから当然鯉――と、刻んだ細葱。
 細葱は一緒に煮込まず、出された直後にどっちゃりと椀に盛られたんでしゃきしゃきと歯ごたえが良い。
 朝食に鯉こくが出て来るとは、中々粋だ。

「鯉こくって、汁気が飛ぶまで煮るもんじゃねぇの?」

 味噌汁じゃなくて、味噌を使った煮物のはずなんだが。

「そ、そうなんですか?」

 俺の疑問に、レイセンはおろおろと慌てふためき永琳を見た。

 あ、やべ。
 失言だ。

「や、違った。うん、違う違う。俺が食ったのは鯉の甘煮だ。うん」

 違っててもそうだって事にしとこう。
 レイセンが喜ぶんならそれでいい。
 美味い事に変わりはねぇんだから、料理の趣旨なんざなんだっていい訳だ。

 レイセンに手を振っておきながら、鯉こく味噌汁風をずずずっと啜る。
 腸や骨や鱗からしっかりと出汁が出てて美味かった。

「鯉こくうめぇ。ちょっと目ぇ離した隙に料理の腕上げたね」

 実際予想外だった訳だし。
 そういう驚きを日常生活で見つけられるってのは重要だ。
 なんだっていい。
 どんな些細でくだらない事だろうが、新鮮味が加わると美しく輝く宝物に換わる。
 お兄さん他所から光物を勝手に集めてくる犬だから。

「……ありがとうございます」

 レイセンは小声でぽつりと洩らした。

 ちらっと一瞥。
 俯いちゃいるが、落ち込んだりした訳じゃないのは一目瞭然。
 目元を前髪で隠して、その奥の口がむず痒そうな笑みを浮かべているのを目ざとく見つけた。

 宝物は、頭の奥の宝箱へ。
 せっせと貯め込んだ。



 飯を終えて、その後片づけの最中。

「永琳」

 なんとなくを装って声をかけた。

「今は駄目よ」

 声をかけた瞬間即答された。
 濡れた指先を唇に当てられたりして。

「まだ何も言ってねぇよ」

「あら、そうだったかしら?」

 俺の下唇をぷるんと震わせて、永琳は指を引っ込めた。
 用件なんて判ってるんだろうが、何でもかんでも先回りされちまうってのは癪だな。

「いつなら良いのさ?」

「そうね、今日の午後以降なら」

「ま。そういう事ならそれでいいさ」

「貴方は我慢出来る子ですものね。いい子にして待ってなさい、僕」

「けっ」

 意地悪く笑う永琳の姿に、別の意味でネジがかっ飛んじまいそうだ。
 俺は悪態を返してたわしで鍋を磨く作業に戻った。

 蛇口から水が流れる音。
 シンクの排水溝に泡が溜まる様子。
 水に付けた食器をスポンジで泡立てる白い手。
 朝飯の片付けって、朝のなんでもない一幕。

 永琳は控えめに言っても美人だ。
 ただ皿を洗っているだけで絵になる。
 こんな雑用をさせる訳にゃいかない相手に毎日やらせてるってんだから、贅沢な事この上ない。
 鍋を磨く手にも力が入るってもんだ。

「ん」

「ええ」

 鍋をぴかぴかに磨き上げたんで、ずいと手を差し出す。
 永琳は俺の手に洗い物を手渡してくる。
 表面の洗剤をたっぷりの水で綺麗に洗い流す。
 仕上げに皿の表面を指で擦って確認。
 きゅっきゅっと小気味の良い音が響いた。 

「貴方がその気になっている間に、棚の食器を全て洗ってしまおうかしら?」

「犬使いが荒いこって。って、いつの間にか皿の数増えてねぇ? うちにこんな皿あったか?」

「奥に片付けたまま忘れてしまっていたのよ」

「そりゃ納得」

「貴方は記念事に敏いから、その度に物が増えていくでしょうね。首が座った記念、掴まり立ち記念、歯が生えた記念に離乳食記念」

 指折り数えていく永琳の横顔を、俺は思わず口をすぼめて眺めていた。

 永琳の方からこの話題を振ってくるたぁな。
 驚きだ。

「……初お母さんって呼んでもらった記念とかな」

「初パパ記念日は凄いでしょうね。狂喜乱舞する様子が。貴方、意外と子煩悩な所がありそうだから」

 指折り数えてうそぶいた永琳が、思い出したようにくすりと笑った。

 初パパ記念か。
 あったなぁ。
 今まであーだかうーしか言えなかった娘が、それも俺の指を一本ようやく握る程度のちっちゃい手をした娘がだ。
 ある日俺をパパって言ってくるんだ。
 舞い上がるなって方が無理がある。
 ハッピー過ぎておつむまでハッピーになったわな。

「結局、お母さん大好きになっちまうんだろうなぁ」

 パパは辛いよ。

「あら、嫉妬?」

「うるせいな」

 永琳には永琳の思惑があったんだろうが、俺にだって俺の考えはあったんだ。
 願望か。
 ま、どっちにせよ完膚なきまでに叩き潰された訳だが。
 お陰でいまやすっかり負け犬だ。

 とっくの昔に手遅れで、どうにもならねぇ事を軽口みてぇに叩き合いながら、手渡される食器を流れ作業でやっつけた。
 そんなひとコマを切り抜いて、宝箱にしまい込んだ。






 昼になったんでお楽しみタイム。

「てゐ。出かけるよん」

 朝のおねだり(と、俺が勝手に解釈した)もあったんで、たまには健康的に散歩へ連れ出す事にした。

「……外に出るのぉ?」

 てゐは放り投げた携帯を受け取って、不服そうに顔を歪めた。
 室内飼いがすっかり板についちまったのか、それとも以前ちょいと怖がらせたのが利き過ぎちまったのか、外出に難色を示した。

 が。

「どうしても嫌だってんならしょうがねぇな。首に縄つけて引きずり倒す」

 俺はマキャベリストなんでそういった事情は考慮せず、出ると言ったからには出る。
 健康は強制されなきゃ維持出来ねぇんですよ。
 排ガスたっぷりのくすんだ空気吸って健康に繋がるかは別として。

「うげっ。お断りよ」

 吊るし首のジェスチャーに、てゐは舌を出して唸った。

「じゃあほれ、支度支度」

 俺は手を叩いて身支度を急かした。

 車を出しても良かったんだが、遠出をするつもりはなかった。
 第一ペットを車に乗っけて散歩とか、臍で茶が沸いちまう。
 散歩なんだからてめぇの足で歩きましょうってな。

 頭上に昇った陽の下、死んだ魚の目をして歩くサラリーマン、学生、家族連れ。
 誰も目を合わせず、話し掛けてくる事もなく、肩が触れそうで触れない絶妙の間隔を維持して、誰もが足早に歩いていた。

「相変わらず人間多いわね」

 てゐがうんざりした様子で呟いた。

 全くだ。
 これで半分くらいになりゃすっきり清々して、もう半分くらい減らしてみようって気になる。

「はぐれんなよ? 幾ら目立つもん頭に乗っけてるからって、紛れちまって見つけらんねぇ」

 振り返って自分の頭をこつこつと指で叩いて見せる。
 てゐはご機嫌斜めに眉を逆立て、上目遣いに睨みあげてきた。

「チビだって言いたいの?」

「ロリだって言ってんだ。特に将来性のないこの胸」

 関東平野を思わせる胸ををぺたぺたと触る。
 セクハラは俺のライフワークです。 

「この糞野郎!」

「ひゃひゃひゃ!」

 胸を揉――摘んだり、ケツにいい感じの蹴りを食らったりしながら、俺たちは人でごった返す往来をのんびりとあてどなく歩きだした。

 寄り道しながら歩くにゃ、風見鶏は気紛れな方が楽しめる。
 散歩コースはペットに決めさせるもんだ。
 目的のない散歩ってのも、たまにやる分にはそこそこ楽しめた。

 携帯ショップ、書店、ケーキ屋、喫茶店。
 目に留まった店に片っ端から適当に足を踏み入れた。
 大抵は冷やかしだが、気に入ったもんがありゃ買ったりして手荷物が出来た。
 土産の一つ二つは必要だ。

「あっ、あれ美味しそう。ほら、あっちよ!」

「へいへい。やたら食ってばかりな気がするな」

「育ち盛りなのよ。あのクレープっていうの食べるわよ」

「その調子で食い漁って丸くなっちまえ」

「何あんた、太らせてから食べようって言うの?」

「……笑えねぇよ」

「あっそ。私いちご生クリームスペシャルミックスね!」

「匂いだけで胸焼けしちまいそうだな」

「甘くないのもあるみたいだけど?」

「どれどれ。
 ツナ、ツナチーズ、ツナカレー、ツナピザソース、ツナカレーチーズ……ツナしか選べない呪いでも掛けられてんのかよ」

「文句ばっかりね。食べないの?」

「食うけどさ。バナナ生キャラメルツナカスタード一つ。あ、ツナカスタードはペガサスファンタジー昇天盛りで」

「それを選ぶ気が知れないわ」

「判ってねぇなぁ。メニューにどう見ても地雷が混じってんだぜ? 地雷が目の前にあったらとりあえず踏むだろ」

「はいはいそうね良かったわね」

「扱いが悪ぃ」

『いちご生クリームスペシャルミックスに、バナナ生キャラメルツナカスタードペガサスファンタジー昇天盛りになりまーす』

「でかっ」

「ひどっ」

『お二つで5400円になりまーす』

「重っ」

「高っ」

「……どうすんのよう、これ」

「ペガサス盛りは冗談のつもりだったんだけどな。まさか本当に出てくるとは。いや、食うけどね。お姉さん、ここカード使える?」

『ありがとざいまーす』

「ツナ甘っ! ツナ甘っ!」

「お望み通りだったじゃない、良かったわね」

 てゐはけらけらと厭味ったらしく笑って、クレープにかぶりついた。
 俺たちはたっぷりと生地に乗った生クリームで口の周りを白くしながら、やたらと贅沢な菓子をぱくついた。



 散歩の途中、手近な公園を見つけたんで木陰の中に連れ込んだ。

 手荷物を放り出し、てゐの小柄な身体を木の幹に押し付ける。

「ちょっと、何よ。こんな場所で、いきなり?」

 薄々判ってたのか、茂みに引きずり込んだてゐも抵抗はさほどない。
 押し付けた木の幹を背もたれ代わりに、唇を尖らせて俺をやぶ睨みに見上げてくる程度だ。

「俺がてゐを抱くのに、何か問題でもあるってのかい?」

 場所に時間に状況。
 その他諸々を含めて、大いにあるんだろうよ。
 そんな事俺でも知ってるさ。

 ただ、てゐの場合は準備万端整えていつどこで抱くのか伝えてから至るよりも、行きずりのセックスの方が良い。
 さぞかし不満たらたらに悪態をつくからだ。

「大有りよ。この万年発情豚」

「豚ときたか。万年発情についちゃ兎に言われたかねーけどな」

 俺は口汚く罵ってくるてゐのスカートの中へと手を差し込んだ。
 股間を軽く一撫ですると、指がぬるついた液体で湿る。

「履いてねぇじゃんか。期待に胸を膨らませて――こりゃ失敬。胸を高鳴らしてたって訳だ?」

「いちいち言い直すな。下心丸出しの顔つきで散歩とか言っておいて、こうなるのは目に見えてたでしょ。汚されるのが嫌なだけよ」

 べっと舌を出してくる。
 糞生意気で実によろしい。
 てゐはこれでこそって感じがするな。

「支度をしろとは言ったが、下ごしらえまでしろと言ったつもりはねぇぜ?」

 尻からちょいと突き出たアナルプラグの突起をくりくりといじる。
 栓をしてるってからにゃ、既にローションも流し込んでとろっとろに馴染み切ってるだろうよ。
 てゐは身じろぎするように上半身をくねらせ、今にも噛み付きそうな目で見上げてきた。

「直接言わなかったってだけでしょ。どうせこうなるんだし。あんたのちんぽ無駄に硬いから痛いのよ」

「鉄やプラスチックにゃ負けると思うんだがね」

 てゐの白いワンピースをたくし上げて、毛も生えていないつるんとした股間を眺める。
 生意気に恥丘がぷっくりと盛り上がっていた。

「いやしい面」

 うっすらと赤みを帯びた肉を凝視する俺を、てゐは不敵に笑い飛ばした。
 勝気で生意気なだけだった小兎は、いまや独特の色気を伴った悩ましさを身につけ、男を誘う術を身につけている。
 女ってのは男が思っている以上に化ける。
 化粧云々の外面を取り繕っただけでは醸し出せない、情欲の艶かしさ。

 全く、いい女に化けてくれたもんだ。

「そんな事知ってるだろ?」

 てゐの黒髪を一撫で。
 癖っ毛が指に絡む感触を軽く楽しんで、背中を折り曲げて小生意気な唇を塞いだ。

 甘ぇ。

 クレープをぱくついただけあって、クリームとイチゴの味がした。
 唾液をじゅるじゅる音をたてて吸って、てゐの口を堪能してから離れる。
 てゐは眉を歪めて、なんとも微妙な面で俺を睨み上げてきた。

「甘しょっぱくて脂っこいんだけど、あんたの口」

「驚きのツナカスタード味だ」

「最悪」

 げーっと咽喉を鳴らして舌を出した。

 少しばかり水を差されちまったが、その程度で冷えるほどやわな情欲は持ち合わせちゃいない。
 本能と欲求に従って、てゐに立ちバックで尻を突き出す格好をさせた。
 俺はワンピースのスカートをめくり上げ、貞操帯よろしく尻の穴をしっかり塞いでいたプラグを引き抜く。

「ぅうん」

 てゐの悩ましげな吐息を聞きながら、俺はほぐれたアナルに指を差し込んだ。

 腸内の体温を吸い込んで暖かくなったローションがとろりと指に絡み、中を掻き混ぜるととろとろと止め処なく溢れ出してきた。
 肛門の筋肉がひくついているのが判る。
 中指を使ってとろけた中を掻き混ぜる。
 これ以上ローションをこぼすまいとしているのか、肛門が締まって俺の指に吸い付いてきた。

 ガキに指しゃぶられるのと似てるな。

 掻き混ぜていた指を一度抜いて、脳裏に絡んだ記憶を情欲で押し流した。
 必要以上にもったいぶる事も焦らす事もなく、俺はジッパーを下ろして一物を取り出す。
 こっちの戦闘準備はとっくの昔に整っている。
 木の幹にしがみつき肩越しに振り返っていたてゐの視線が、俺の反り返ったちんぽを認めてこくりと咽喉を鳴らした。

 期待に朱の差した頬を手の甲で撫でて、一物をあてがい腰をくいっと入れた。

「はっ」

 視線を下げて、てゐが小さくうめく。
 抵抗もなく俺の腰が進む。
 亀頭が温かなとろとろの泥濘に包まれたかと思うと、すぐに根元までねっとりと包まれた。

「くはぁ」

 てゐの溜めを含んだ吐息が耳朶を打つ。
 俺の腕の中で小さく震えながら、身体の震えがダイレクトに直腸の蠕動に変わり、アヌスが俺の一物の根元をきゅっきゅと握るように締め付けてきた。

 良く小慣れた名アナルで、名器ならぬ名門だ。
 前もそうだが、後ろは特に経験と努力と快楽への素直さの度合いで鍛えられる。
 てゐはアナルをいじられる素質と、後は相性がよろしかったんだろう。

「どぉ。キクでしょ、これ」

 悪戯小兎の面に色香を漂わせて、腰を左右に使ってくる。
 啜るような直腸の愛撫を受けて、身震いしながらそんな事を考えた。

「さすが俺のペットちゃん。判ってるね」

 ゆっくりとしたストローク。
 ねっとりとした腸壁をカリで引っ掛くようにして腰を引き、引いた分だけゆっくりと進める。
 てゐのアナルが俺のちんぽに馴染み、俺のちんぽがてゐの尻穴に馴染ませる間、程よく硬い癖っ毛を撫でて楽しみながらじっくりと抽送を繰り返した。

 ストロークに合わせて、きつきつの入り口が棹をきゅっきゅっと扱く。
 少しこぼれたローションがくちゅくちゅと音を立てる。
 尻の肉を鷲掴みに開いてやると、俺のちんぽを飲み込むほど広がったてゐのピンクの尻穴がくっきりと見えた。
 木漏れ日に照らされぬらぬらと艶かしく輝き、軟い肉が拡がり皺が伸びている。
 実に蟲惑的だ。

「ふっ、ふーっ……ぅんっ」

 さわさわと風に揺れる枝葉の音に、てゐの悩ましいため息が混じる。
 とろとろの腸内を亀頭で掻き混ぜ、棹をしごかせる感触を楽しみながら馴染ませた後は、腸壁を擦ってその感触を楽しむ。
 てゐも丸っこい尻尾を小さいなりに振って、腰をうねらせる。

「どうしたのよぉ。ずいぶん、大人しいじゃない」

 てゐが肩越しに振り返りながら俺を見上げてきた。
 木の幹にしがみついている姿は、アナルセックスの味に溺れまいと木切れにつかまる遭難者に見えなくもない。
 イルカにでもなったつもりで水中セックスなんてのもいいかもしれんね。

 そんな事を考えてるのは、さっきから込み上げてくる射精感から気を紛らわすためだ。

「外であんあんひんひんおっぴろげる訳にもいかんだろ」

 そういう露出プレイに好悪を感じる訳じゃない。
 見せる事を念頭に置くならそれに沿った状況をセッティングするまでだ。
 意図せず見せて出羽亀野郎を喜ばせるのが腹立たしいってだけ。

 基本的に狭量な俺は、ボランティアなんて糞食らえなんですよ。

「それにだな、てゐだって見られておっ」

 喋ってる途中で決壊した。
 てゐの腸内で射精が始まる。
 射精しながら、勢い良くてゐの尻肉に腰を打ち付ける。

「あっ、うん、くっ」

 緩急のついた動きにてゐが震えて、アヌスの締め付けもきゅっと強まった。
 さらに精液を搾り取られ、止め処ない射精が続く内に玉が萎むような錯覚を覚えた。

 早漏薬の服用以後、俺の射精はびゅーびゅー系だ。
 一回の射精で全力注入って感じで、金玉はもとより背骨の芯を溶かして吐き出すような放出感。
 欲の皮突っ張った俺の性欲に対応できる優れもの。
 二度三度と繰り返しても精液は溢れ出る湧水の如くだ。

「おっ、おぐっ……ふぅ。見られて楽しいわけじゃねぇだろ?」

 全身に回った虚脱と背筋に残るぞくぞくとした余韻に浸りつつも、俺の一物は今出したばかりだってのにてゐのアナル内で早くも復活しかけている。
 乾くどころか萎える暇もなく官能を味わい続けられる。
 てゐのアナルをしゃぶり尽くせるって訳だ。

「よく言うわ。外に連れ出して、こんな場所でしておいて」

「の割りにゃあノリノリじゃん」

 やっぱ兎だから野外の方が本能が刺激されて燃えるのかしらん?
 ま、元をただすまでもなく人間も獣の一種なんで、兎の事を言えたもんじゃねぇけど。

「あんたに程度を合わせてやってるのよ。感謝なさい」

「だったら感謝のバック突きだな」

 ローションで滑りにゅるくちゅと湿った音に、抜けそうなほど長いストロークでくぽぶぽと空気が漏れる音が混じる。
 減らず口を叩き合いながら、昼の日中から木陰でアナルセックスを楽しむ。
 情緒あふれるしチュエーションに、てめぇが日本人だって改めて自覚するね。
 変態日本万歳だ。

「ふっ、ふぅ、ぅうん、うっ」

 てゐは減らず口を塞いで呻き声を洩らした。
 勢いをつけたピストンに切り替えたんで、リズムを取るのに手一杯なんだろう。
 悪戯心を覚えた俺は、腿の付け根から這わせた指先でてゐの敏感な部分を探る。

「尻を突かれて、前までこんなにとろとろになっちまって」 

 ぴっちりと閉じた割れ目からぬめる愛液を滴るほどこぼしちまって。
 こりゃ確かに俺の程度と合ってるわな。

「う、うるさい。そこ、触る、うっぅんんっ!」

 愛液を充分に指に絡めてからお豆をくりくりと可愛がると、途端に甲高い声を出す。
 ふてぶてしい生意気兎が発情兎に変わる様は、いつ見ても心地いい。
 背後からてゐの小さな背にのしかかって、頭の上の耳元でささやく。

「俺の口数が減ったのが不安だった? それとも誰かに覗かれるのが嫌なのかな? 野外で尻を突かれてこんなにぬるぬるにしてるってのに?」

 小刻みなピストンと、指先でのクリトリスの愛撫を続ける。

「はっ、馬鹿じゃない。うっ、あんたと一緒に、しなっ。ふぅ、んっ! 」

 切れ切れの悪態をつくってのが可愛いったらありゃしない。
 垂れた耳をかぷかぷと甘噛みしながら、前も後ろも執拗な愛撫し続けた。

「ほーら答えようねー。けどあんま声出すとバレちまうからねー」

「この性悪、や、やめ。あっ。い、いく、いきそ、あっ、あっ」

 俺の身体の下でてゐの身体がぶるぶると痙攣する。
 きつく締まったアヌスに搾られるまま、俺は二度目の射精に達した。
 すでにたっぷりとローションが詰まっていたからか、腰を引くと繋がったままでも白く泡立った精液が溢れ出てきた。

 掻き出した分だけ、すっかり男を受け入れられるようになったてゐのアナルに一物を突き入れた。

「おぅ、くっ、やめ、私、いったばっか、でっ」

 首筋に汗を浮かべて余韻に浸っていたてゐに構わず、ピストンを開始。
 俺がたっぷりと吐き出した精液でどろどろのアナルをさらに掻き混ぜていく。

「ぐぁ、このっ、ちょっとは、休ませ、うん、ぅっ」

 公園の木陰に隠れたまま、てゐの小振りな尻を突きまくった。




 俺の悪い所はすぐ調子に乗って加減を忘れちまう事だ。
 久しぶりの青姦に――俺の事だからこれで間違いはない――熱が入っちまって、結局失神するまで続けちまった。

 木の幹にしがみつく事も出来ずに崩れ落ちそうになるてゐの片脚を抱き上げて、ひたすら突き上げた。
 ようやく満足して一物をてゐのアナルからぬぽっと引き抜くと、開きっ放しになった尻穴から泡立つ精液がどろりとこぼれ出てきた。
 てゐはスカートをたくし上げた格好のまま、地面にへばった。

 ぬるぬると温かいてゐのアナルに、覚えてるだけで四回は射精した。
 最高だった。
 その引き換えに今は地面で胡坐を掻いた脚にてゐの頭を乗っけて、目が覚めるまで身動きもままならんってね。

「っかしまあ、無防備に寝てやがるな」

 気絶と睡眠はまた違うんだが、張り切った運動の後なのかてゐは意識を取り戻しても寝入っちまってる。
 逆のシチュエーションならまだ美味しいんだが。
 俺が。

 身動き出来ないんで取り留めのない事を考えながら、腿に乗っけたてゐの癖毛を撫でる。

 伸びねぇんだよな。
 てゐが言うには。

 なんとなく朝の事を思い出したりしながら、梢のざわめきなんぞ聞いていた。

「寝てるぶんにゃ可愛げもあるんだがねぇ」

 生意気な口を利くでもなく、寝顔は小柄な身体相応に無邪気なもんだ。
 目を見開いて視線で命乞いをしてくる訳でも、酸素不足に喘ぐ訳でもない。
 媚びへつらった表情とも重ならない。
 五体満足に生きたてゐの寝顔。

 俺はその横顔をじっと見下ろして、手探りに地面をまさぐった。

 まあ。
 自分で言った事だし、こうして思い出しちまった訳だしな。

 適当な石をいくつか拾い集めて並べて置いた。
 てゐを腿に乗っけたまま背中を倒して、放り出していた荷物のひとつを手繰り寄せた。

 確か買っておいたはずなんだが――おお、あったあった。

 紙袋からキャンディを一つ。
 ガキが好きそうな棒のついたロリポップキャンディ。
 遊園地の時にこいつを食ってすっかりお気に入りになっちまったようだ。
 そいつを並べて置いた石の前にざくりと突き立てた。

 墓参りに来る奴なんていなくて、ここに遺体も遺骨も埋められちゃいないが、気が向いたからには必要だ。
 前任が仕出かした後始末で、今となっちゃあったのかなかったのかも判らない夢の中の話だが、俺が覚えているからには、俺にとってこれは必要だって事にしよう。
 理由?
 気が向いたから、でいーや。

 供養の言葉は述べなかった。
 手も合わせなかった。
 手元のてゐの黒髪を撫でて、悪党に捕まった挙句食い殺された兎の、そっけなくもみすぼらしい墓を眺めて過ごした。






 てゐは目を覚ましたもののぐずったんで結局おぶって帰った。
 素直に重ぇと言ってやったら頭を噛んできやがった。
 まったく誰かこの凶暴兎を何とかしろよっての。

 ひいこらと肉体労働を経て、晩飯に出てきたのは鰻だった。
 タレが染み込んだ蒲焼が炊き立ての白米の上に乗せられ、たっぷりと甘辛い蒲焼のタレが掛けられている。
 挽いた山椒が一摘み振りかけられて、湯気と香りを漂わせた鰻丼が差し出された。

「どうぞ」

「おう」

 匂いだけですでに口の中が涎でいっぱいになっていた俺は、永琳がよそった丼をひったくるように受け取り早速掻き込む。
 鰻の肉汁とタレが絡んで舌に広がった。

 蒲焼のタレを発明した奴はその偉業を讃えられていい。
 白米のぷりっぷりの噛み応えといい、丼をファストフード呼ばわりする奴の気がしれねぇ。
 日本文化最高!
 イギリス食文化は滅びろ。

「そんなに慌てなくてもお代わりは用意してあるわ」

 がつがつと掻き込みながら鰻をゼリーにして食う人種に殺人電波を送ったりしてると、永琳がしゃもじ片手に口元を拭うような仕草で笑った。

 さすが永琳。
 抜け目がねぇ。

 口の中に掻き込んだ鰻丼をもりもりと租借しながら、椀の肝吸いを啜って流し込む。
 これまた上品な口当たりで実に美味い。
 好物が判ってる上に、量の配分も判ってるんだから飯を任せてこれほど心配のない相手はいない。
 おまけに永琳の手料理ときたら、どんな物を出されても贅沢気分を味わえた。

「良い出汁取れてんねぇ。何から取ったのさ?」

「鰻の骨と干し雑魚よ」

「なるほどねぇ。骨の髄までしゃぶり尽くそうって事か」

「無駄無く頂くのよ。地上でもそれは美徳でしょう?」

「違いねぇな」

 生贄は美味しく頂かれましたってのは、確かに美談だ。
 俺としても美味い飯にありつけりゃそれで文句はねぇ。

「あのっ」

 鰻丼に舌鼓を打っていると、向かいからレイセンがぐいっと器を押し出してきた。

「この冷麦も、どうですかっ」

 テーブルには鰻丼だけでなく冷麦も用意されている。
 つゆは別の小鉢に分けられて、冷麦は大皿に盛られ氷が乗せられている。
 具は錦糸卵に刻んだハム、胡瓜、なめこにみょうがとさくらんぼのシロップ漬け。
 存分に鰻を味わってから箸休めにつるつると頂くつもりだったんだが、レイセンがやけにプッシュしてくるってこたぁ朝に続いてこれもお手製なんだろう。
 煮て冷やすだけだし。

「どれどれ」

 レイセンのアピールとなりゃ無碍にする訳にゃいけないんで、早速つゆに浸して具を適当に盛ってずるずると啜った。
 素麺と少しばかり違った食感だが、麺には変わりない。
 麺類は音を立てて啜るのが一番美味いと相場が決まってる。

「んー、いいね。夏が来てるって感じだ」

 冷やし素麺然り、ざる蕎麦然り。  
 季節に合わせてこれは食っとかなきゃならんってもんがある。
 食卓に季節感が出るのは大いに歓迎だ。
 ここじゃ変わり映えがなさ過ぎて四季の移ろいすら忘れてしまいかねないからな。

「ほら、鈴仙もどんどん食べんさい。沢山食ってしっかり精をつけとかないと夏バテしちまうよん」

「は、はい」

 お行儀悪く箸を振って勧めると、レイセンは鰻の端っこを齧りだした。
 押しが強くなったとはいえまだまだ遠慮がちなレイセンと、その隣のてゐをちらりと一瞥して見比べる。
 こっちはかつかつとわき目も振らずに鰻丼を貪り食っている。

 食う寝る交わう。
 己の欲求に素直且つ何の悩みもなく実行する姿は、実にバイタリティがみなぎっている。
 こういうふてぶてしさをレイセンも少しは身に着けてくれれば、俺としても安心なんだが。

「なによ」

 俺の視線に気がついたてゐはぎろりと睨み返し、素早く丼を腕で囲い防御姿勢に入った。

「取らねぇよ」

「……」

 俺の言葉も信じちゃいないのか、警戒を解こうとしない。
 本当に元兎なのか信じ難くなってくるな。
 兎は兎でも首でも飛ばす方なんじゃねーの?

 噛むかどうか判らないままちょっかいを掛ける。
 それもペットを飼う醍醐味って奴だ。
 俺は警戒するてゐに手を伸ばして、丼ではなくもぐもぐと咀嚼する口元に触れた。

 よし、噛んでこねぇ。

 セーフラインを確認するついでに、口元の飯粒を一つ摘まんで手を引っ込めた。

「てゐはまあ、あれだ。もうちっと女って自覚持ったら?」

 レイセンとてゐの性格をお互い半分に切って分けてくっつけたら、いい塩梅になるんじゃないかしらん。
 あ、でも個性が薄れっとありがたみまで薄れるか。

 前歯でかつかつと米粒を噛み砕きながら、そんな事を思ったりなんかした。

「余計なお世話よ赤ミミズ野郎」

 ……ミミズ野郎ときたかぁ。

 てゐの罵倒を噛み締めて、ちと脳内シミュレーションを開始。
 例えばだ。
 レイセンがおどおどびくびくした後、今みたいな事を言って来たりするとする。

『この、取るに足らない無節足動物以下野郎……』

「ぐふっ」

 思わず吹き出した。
 これは堪える。
 そんな日々がやってきたら、俺の神経が大根おろしのように摩り下ろされちまう。
 やっぱレイセンは今のレイセンのままでいーです、はい。
 罵られる悦びは、ドMにクラスチェンジする時まで取っておこう。

 でもレイセンのバラ鞭片手にボンテージ姿とかはちょっと見てぇ。

「ご主人様?」

「や、なんでもないよ。隣の芝生は青く見えるもんです」

「は、はぁ」

 釈然としない様子ながらも、レイセンは引っ込んでちゅるちゅると冷麦を啜る。
 てゐは相変わらず不機嫌そうに鰻丼を掻き込む。
 永琳は達者な箸使いで鰻丼を楚々と口に運びながら、俺たちの様子を眺めている。
 俺は頬張った飯をむっしゃむしゃと咀嚼して平らげる。

「お代わり」

「お師匠様、私も」

 俺はともかく、てゐが永琳を顎で使うってのはどうなのよ。

「まるで育ち盛りの子供ね」

 そんな俺の疑問もどこ吹く風。
 差し出した空の丼二つに、永琳は苦笑を浮かべて順に飯をよそっていく。
 弟子の厚かましさも軽く流して、落ち着いた大人の女の余裕って奴だ。

 飯がよそわれている間、寂しい口を慰める為にずるずると冷麦を啜った。
 胃のクールダウンにゃつるつるいける麺類がちょうどいい。
 麺つゆの器に具ごと混ぜっ返してずびずば啜ってると、レイセンが下から覗き込むように俺を見ていた。

「あの……ご主人様?」

「ん?」

「その、ちょっと食べ過ぎなんじゃ」

 レイセンはちと心配性が過ぎる。
 ま、これも贅沢の内だな。

「つい箸が進んでね。だいじょぶ、腹八分に留めとくよ」

 美味くて食い過ぎちまうってのもあるが、それ以上に昼に消耗した分腹ペコだ。
 早漏薬の反動だわな。
 服用したからって無限に精力が湧き上がってくる訳でなく、体力とかスタミナをがりがり削って精力に変換してるようなもんだ。
 世の中、代償を求められない事なんてものはないのである。

「後で胃薬も用意した方が良さそうね」

 丼を渡しがてら、永琳がさりげなく付け加えてきた。
 二杯目は気持ち少なめ盛りだって言うんだから、全くもってそつがない。

「ついでに頭に利く薬もいるんじゃないですか?」

 そしててゐの方は容赦がねぇ。

「人を頭おかしいみてぇに言うな」

「驚きね。自分でおかしいって事に気がついてないんだから」

 俺が歯を剥いて威嚇してやると、てゐはべっと舌を出して応えた。

「あ、あはは」

 俺たちのやり取りをレイセンは笑って取り繕っていたが、声が乾いていた。

 丼の鰻を八つ当たり気味に齧る俺の前に、そんな光景が広がっていた。



 飯を終えてまったりした後、俺は永琳の部屋に訪れた。
 永琳の部屋はまだ本格的なリフォームに着手はしてねぇ。
 ただ、いくつか必要な代物は揃えておいた。

 壁をびっしりと覆う戸棚の群れ。
 ちっこい引き出しが無数に並び、何が詰まってるのかラベルも打たれたこの部屋。
 戸棚の分だけ面積が埋められ狭くなるくらいで、ゆったりくつろぐ自室っつーよりなんか作業部屋みてぇだ。
 そんな部屋で、永琳はすりこぎを使って何かを磨り潰している真っ最中だった。

「何してんのよ」

 そっとドアから滑り込んだ後、足音を消して背後から手元を覗き込む。
 なんか良く判らん草を磨り潰されていて、青い匂いが俺の鼻についた。

 俺に今気づいたのか元々気づいていたのか、どちらにせよ永琳は平然とした顔で振り返ると、柔らかな微笑を浮かべた。

「秘密」

「おっかねぇ」

 同じ秘密にしたって、てゐの悪巧み面から聞くのとは比べ物にならない。
 飯に盛る毒でも作ってんじゃねぇの? 

「あら、失礼ね」

 永琳は切れ長の目を細めて俺を軽く睨んだ。
 冗談交じりのただの受け答えなのか、発想を先回りされたのか。

 余分なものを削り落とした短い言動と驚くほどクレバーな数値で、実際のとこどっちなのか良く判らん。
 まあ結局、俺の能力じゃ何を企んでいるかまでは知りようがない。
 何かを企んでいても思考を丸ごと読み取るほど正確な代物じゃねぇし、相手が相手だ。
 前任がきゃんと言わされた所為か、俺も永琳に対して苦手意識を引きずっていた。

「生憎と、俺は生まれてこの方無礼なのよ」

 座っていた椅子ごと背後から抱いて、手を永琳の腹へと伸ばす。
 衣服の隙間に手を差し込んで、きゅっと引き締まった腹の感触を指先で楽しむ――振りをしつつ、肌の上に指を滑らせた。

 指でなぞる内容は、アレと単純な一言で済む。
 朝言っておいたブツの確認だ。
 別にYES,NOを確認してる訳じゃねぇ。

 永琳はすりこぎを手放し俺の腕をそっと撫でると、顎下をくすぐりだした。

「やんちゃな僕ね、可愛いわ」

 俺は顎下に意識を傾け、さらさらと指先で示される言葉を皮膚から読み取った。

 い・や・く。
 ……胃薬か。
 食後に飲まされたあの粉末は、胃の活動を落ち着かせるもんじゃなく別のお薬だった、と。
 そいつは手っ取り早くてよろしいんだが、油断してると何を飲まされるか判ったもんじゃねぇな。

「いつになったら俺の魅力が効くのかねぇ」

「あら、貴方が思っている以上に効いているのよ?」

「そりゃありがてぇ。の割りにゃてんで普段通りに思えるんだが?」

「判り辛いだけよ。ちゃんと届いているわ」

 くだらねぇ馬鹿話を装って、必要な単語だけを掬い取っていった。
 なんせどこに耳目が有るか判ったもんじゃねぇ。
 俺の企みがうっかり聞かれて横槍入れられたんじゃたまんねぇからな。

 永琳はそういう事に関しちゃパーフェクトだ。
 下手な打ち合わせも段取りも必要なしに、こっちの意図を察してくる。
 悪巧みに乗る美女っていうのも実によろしい。
 情け容赦の無いとこが、特に。

 とにかく俺は頼んでいたものを知らぬ間に服用して、もう効果も出てるって事は判った。
 判ったんでそろそろ退散するかと離れかけた俺よりも、永琳の方が素早く動いた。
 俺の手を取り、くいと引き寄せられる。

「判りたいのなら、試してみるのはどうかしら」

 重ねられた手から柔らかい感触を感じながら、笑みを浮かべる口元を眺めていた。
 試すって事は、つまり。

「永琳で?」

「不服かしら」

 怒ったように眉根を寄せて、それでいて本気で怒っちゃいないのは口元を見れば判る。
 銀髪に絡んだ青い匂いは、草っぱらを思わせる。
 どこか懐かしい匂いだと感じるのは、DNAに刻まれた野生の部分に訴えかけてきてるからなのかもしれん。
 野性に帰るまでも無く俺は欲望全開の獣で、目の前に美味い餌をぶら下げられると食いつかずにはいられない。
 飢えてくたばるくらいなら、毒入りの飯にありついて満腹死する方が俺としちゃ正しい。

「まさか。俺にゃ勿体無いくらいさ」

 手繰り寄せられた手でたっぷりとした乳房を柔らかく揉み解す。
 永琳は背もたれに体重を預けて、青い瞳を細めて微笑んだ。



 目を見張る銀髪。
 青く澄んだ瞳。
 細やかな肌。
 甘く濡れた唇。

 それらの持ち主である永琳を、俺は今ベッドに組み敷き服を乱していた。

 肉付きは良いものの、肌に張りが合って確かな弾力を備えている。
 身体の正面で留めるホックを外していけば、はちきれんばかりの乳房がぷるんと弾んで姿を見せる。
 窮屈な衣服の中から現れたたわわな双丘に、視線を阻むものは無かった。

 ブラも付けてねぇ生乳が視界に飛び込んできて、頭の中の切れちゃいけない線がぷっつりいくとこだった。
 大きさ形乳首の色から重量感まで、この巨乳は脳に毒だ。

 毒だと判ってても、毒を持っているなら尚更に、二つの膨らみは甘美に俺を誘った。

 さっきまで衣服を隔てていた乳房を、直接手の平で触れる。
 手に余るしっかりとした量と、たぷたぷと揺れる柔らかな弾力。
 少しひんやりとした肌は、吸い付くような心地よい触り心地。
 二つの良く熟れた果実を手の平に乗せて、こりゃ絶対湯船で浮かぶよな、なんて馬鹿馬鹿しい事を考えたりした。

「失礼な事を考えていないかしら?」

 仰向けに横たわる永琳は手を伸ばし、前の開いたジャケットの中に指を差し込んで胸元をさすってくる。
 お前の考えている事などお見通しだと、咎めるように俺の乳首の先っぽを摘まんできた。

「どうかな」

 馬鹿馬鹿しいが褒めてるつもりだ。
 曖昧に言葉を濁した理由は、ほとんどただの負けん気ではあったが。

「貴方がそう言うのなら、そういう事にしておくわ」

 尚も指先で俺の乳首を掻きながら、永琳はおかしそうに微笑した。
 どう答えた所で、俺の方にしてやられた感が残るのは変わらんのかもしれん。
 それが俺と永琳との関係性かもしれないな。

 俺は口元がひん曲がっていくのを自覚しなから、目の前の熟れた果実に意識を向ける。
 永琳にされているように乳首の先を指でくすぐり、手の平と親指の付け根を使って丸く捏ねる。
 俺の手の動きに合わせて乳房は柔らかく形を変えていく。
 大きい癖に形も感度もいいってんだから、もはや反則的だ。

「ふぅ……ふふ」

 永琳は俺の身体の下で胸を反らし、口紅を引いた訳でもないのに艶かしく濡れた唇からため息と笑みをこぼす。
 悩ましい吐息に耳朶を打たれながらも、不思議と身体の内側を焦がす情欲のたぎりは無かった。

 優しく、柔らかく、乳房を捏ねる。
 手の平から熱を奪われたのか、揺れる乳房が少しずつ熱を帯び始める。
 その熱も、俺の加虐性や躾の悪い情欲を刺激する事は無い。
 妙に穏やかな気分のまま永琳に愛撫を続け、永琳も俺を愛撫し続けた。

 お互いに勿体付けるように長い時間を掛けて、愛撫と共に肌を包む服を一枚一枚脱がしていった。

 腰の帯を解いて、深くスリットの入ったスカートを厳かに外す。
 僅かな予感と多大な期待の通り、永琳はこちらも下着を身に着けていなかった。
 すでに充分に潤ったピンクの下唇。
 ほのかに紅潮した双丘と、そこから覗いた赤く剥けた肉芽。
 指で形を確認する為なぞると、太腿の付け根がぴくりと小さく痙攣するのが判った。

 指先にとろりと愛液が絡み糸を引く様子。
 照明を浴びて艶かしく輝く性器。
 うっすらと充血し始めた素肌の色。
 俺の視線は釘付けになっていた。

「ああ、そんなに見られると」

 永琳の僅かに上ずった声が耳に届き、俺は視線を動かした。

「恥ずかしいわ」

 俺の視線の先にあったのは、普段とは異なる永琳の顔だった。
 顎を引き、羞恥心と哀願が混在する少女じみた表情。

「俺は見たい」

 自分の欲望に対して正直に。
 永琳への愛欲が俺の中を満たしていく。
 しかし荒波のように押し寄せるものではなく、潮が満ちて干潟を沈めていく速度で。

「意地悪ね」

 俺を睨む青い瞳と拗ねた声音。

 そうか。
 永琳もこういう声を出すのか。
 
 歓心と驚き混じりに脚の付け根を軽く押す。
 永琳はそっと開いて俺の欲望に応えた。

 永琳の女はすでに充分なほどに濡れていて、俺の方もはち切れんばかりになって繋がりを主張していたが、それらを見過ごして唇を寄せた。
 指に代えて舌と唇を使う。
 尖らせて舌先を秘唇の形に沿わせ、気まぐれに唇をすぼめてキスをする。

「んっ、ぅん」

 ちゅっと音を立てると、永琳は気だるげな吐息を洩らして腰を浮かせる。
 身じろぎした拍子に歯が当たらないよう腿に腕を回し、同時に逃げられないように固定した。

「そんな、音を立てないで」

 ぴちゃぴちゃと卑猥な音を立てて愛液を舐め取る。
 少ししょっぱい体液を舌に感じて、甘くないのがとても残念に思える。
 思えたが、それで止めようという気は起きてこなかった。

「どこの匂いを嗅いだり、んっ、しているの」

 鼻につく独特の香りは永琳の体臭だろうか。
 今までかすかに鼻腔を漂っていた香りが、今は強く感じられる。
 薬草に似た匂いは独特ではあったが、嗅いでいる内に癖になる。
 情動が刺激されて永琳の股に顔を寄せて吸い付いて、腰を高く上げさせていた。

「んっ。は、はっ。あっ、んん」

 永琳が息を乱して切れていく声が、心地よく頭の中に響いた。

 股間はずきずきと痛むほど勃起し、それでもなお俺は繋がる事は遠のけ先延ばしにし続ける。
 それは多分、勿体無かったから。
 目の前の女をただ組み敷いて繋がるだけでは勿体無いと感じたから。
 だから心行くまで味わってみたくなった。
 そんな気紛れを起こした。
 
 夢中になって吸い付いた。
 腰を抱いていた腕はいつしか腹へと回り、強く抱き寄せ、永琳が逆さまに俺を見上げている。

「はっ、あっ。あっ、ああっ」

 唇を噛んで閉じていた口元から甘い声音が洩れ出し、羞恥心の為か白い顔が真っ赤に紅潮している。
 口の周りを愛液でべったりと濡らしながら、舌で膣内を浅く探っていた俺の目の前に、ひょこりと赤く充血した芽が映った。
 割れ目の先端にある突起を、俺は口をすぼめて強く啜った。

「あっ――」

 永琳の身体が縦に震えた。
 触れた頬から腿の痙攣が明確に伝わってくる。
 引き締まった腿肉がぐいと俺の頭を挟み込む。
 ベッドのシーツを荒々しく掴み、永琳は頭を振って上半身をよじった。

 俺の顔を脚で挟んだまま、永琳の身体が大きく痙攣した。
 震えが少しずつ弱まり、それと共に硬く張っていた腿の筋肉が柔らかく弛緩していく。
 反り返っていた背が俺の膝に乗りその体重を預ける頃、永琳は訪れた陶酔感にまどろんでいた。

 俺は抱き上げていた下半身をベッドの上に横たえて、身体を乗り出して永琳の顔を覗き込んだ。
 脱力感に見舞われ、普段よりさらに気だるげに横たわる永琳。
 閉じられていた瞼が億劫そうに持ち上げられて、青く澄んだ瞳が俺の視線を捉えた。

「……」

 乱れた息を整えながら永琳は俺の顔に手を伸ばし、頬の肉をつねった。

 無言の抗議に、俺も無言で眉をしかめて謝意を示す。
 制止の声を無視して愛撫していた事では無く、絶頂感に浸る顔を覗き見した事に怒っているようだ。

 耳にかかった乱れ髪を指で梳き、首筋に顔をうずめてキスをした。
 それを二度三度と繰り返す内に、俺の頬をつねっていた指が離れて前髪を梳き上げていった。

 余韻が収まるまでの僅かな時間を緩やかに過ごし、穏やかな慰撫に名残惜しさを感じながらも、脈打つ一物を濡れそぼった蜜壷にあてがった。

「きて」

 永琳の短くはっきりとした促しに従って、俺は待たせ続けていた腰を進めた。
 
 永琳の膣内は俺の一物を容易く柔軟に受け入れ、温かく包み込んだ。
 襞が棹全体に絡み、まとわりつくようにやわく圧迫してくる。
 飲み込まれるままに腰を進めて根元まで包み込まれると、俺の背中にぴりっと小さな電流が走った。

 全く持って遺憾な事だが、腰を一振りする間もなく俺は射精してしまっていた。
 激しい快感を伴った射精感は無く、意識無く身体が震えた拍子に緩んだ蛇口からこぼれ出すように、ゆるゆるとした射精が続いている。
 俺の垂れ流すよな射精を受けて、永琳の膣内は収縮するように蠕動して更なる精を促している。
 自分でも気がつくまで一拍の間があった。

「あー……悪ぃ」

 早漏だと自覚はあったが、三擦り半ともたなかったのは今まで先延ばしにし続けていたからなのか、それとも永琳の体内が心地良過ぎたからなのか。
 射精後の虚脱感よりもばつの悪さが先に立つ。
 複雑な表情のまま強張っていた頬を、細い指が撫でていった。

「いいのよ」

 永琳は笑っていたが、嘲りも慰めも含んでいなかった。
 ただどこまでも柔和で穏やかな微笑。
 今も包み込まれているように、永琳の腕が俺を抱き寄せる。
 俺の胸の中で燻っていたばつの悪さが、永琳の体温に飲まれていく気がした。

「続けましょう」

 短い言葉が今は有難い。
 余計な思考を差し挟む事無く、目の前の温もりを求める事が出来る。
 背中を撫でられながら、埋めた胸から感じる心音に合わせて乳房を揉み、俺は腰をゆっくりと引いた。

 一度の射精で落ち着きを取り戻した俺の一物は、温かく蕩けた永琳の膣内を敏感に感じ取る。
 肉襞が亀頭と棹の溝の隙間まで舐める。
 俺はその襞をこそぎ、精液と愛液を絡めて掻き混ぜる。

「はぁ」

 永琳の吐息が額に当たり、髪を撫でていく。
 俺は貪るでもなくゆっくりとした腰使いで永琳の膣内の感触と温もりを確かめていった。

 舟を漕いでいるようなものだ。
 櫂を手荒くがむしゃらに漕いだ所で、水面を波立たせるだけで船は進まない。
 流れに逆らわず丁寧に挿し込めば、腰から背骨を張って頭の奥まで快感の手応えが返ってくる。

「あは、はぁ……あっ、ん」

 俺の動きに永琳の肢体が波打つ。
 呼吸に合わせて体内の感触も変わる。
 息を吸い込む際にきゅっと膣が締まり、俺の一物を握る。
 跳ねる肩の動きに合わせて、たぷたぷと魅惑的に乳房が弾む。
 船から水面へ手を伸ばすように、永琳の身体を撫でた。

「はあっ」

 つい胸元ばかりに目が行きがちだが、永琳の身体は全て極上の作りだ。
 柔らかい感触の下にしなやかな筋肉を感じる。
 女性的な丸みを帯びていながら余分な贅肉がついていない。
 鳩尾から臍へと続くラインを指でなぞっているだけでも飽きない。
 すらりと長い脚は、俺の脚に絡み合っていた。

 心地良い柔らかさと強靭なしなやかさを併せ持った身体。
 知識に富む怜悧な瞳が安らかな熱を帯びてまどろむ。
 これが八意永琳の抱き心地。

「あ、あぁ……はぁ、ん……あ」

 穏やかな声音に好奇心が刺激される。
 湖面を滑らせる動きから、より深く潜るように腰をひねる。
 自らリズムを崩して反応を窺った。

「あふっ」

 リズムの変化に永琳の身体が跳ねる。
 声に甲高い色が混じり、肩が不規則にくねる。
 好奇心で始まった感情は、永琳が色に乱れる表情を見せるのは俺一人という独占欲に結びついた。

 永琳の別の顔を見たい。
 永琳の別の声を聞きたい。
 永琳をこの手で乱して甘く蕩けさせてしまいたい。

 その姿を俺だけが見ている。
 その声を俺だけが聞いている。
 その実感を俺だけが感じている。

 俺だけが、永琳が乱れ恥らう姿を知っている。

 その事が、どうしようもなく俺を昂ぶらせた。
 俺は新たなリズムを刻んで体内の肉襞をこそぐが、永琳は拒んで逃れる事も無く自ら腰を押し当ててくる。
 俺の小刻みに早めたリズムを早々に受け止めて、逆に飲み込んでいくように俺の腰を誘導した。

「うぐっ」

 今度は俺が呻く番だった。
 イニシアチブを握ったという僅かばかりの優越感は即座に消え失せ、上乗せされた永琳のリズムに誘い込まれている。
 穏やかだった湖面が小波、水が跳ねる音が耳につく。
 永琳という潤いに肉を打ちつけ、愛液が迸る音を聞きながら、引き込まれるままに果てるまで腰を打ち付けてしまいそうになった。

 今この場において、獣欲のままに永琳を抱くのは勿体無い。
 主導権を握るというささやかな見栄を手放し甘美な誘惑に耐えていると、永琳の艶やかな腰の動きに穏やかさが戻ってきた。

「悪戯好きね」

 ――相変わらず。

 言葉の後半は声には出さず、唇でなぞるだけに留められた。
 永琳はどこかくすぐったそうな笑みを浮かべて俺の髪を撫でる。
 浅はかさを見抜かれた敗北感と、柔らかく包まれる安心感を同時に感じる。
 俺の胸によぎったものは、見守られる誰かにたしなめられた時の感情と似ていた。

「それだけは、な」

 ――相変わらず。

 無言の言葉を唇で返して、再び穏やかに波打つ永琳の身体を緩やかに進む。
 まどろむような穏やかな官能をたゆたい、俺は時間を掛けて永琳の中に二度目の精を放った。



 終わらず飽かず俺たちは交わり続けた。
 始まりから位置も動きも変えて、俺は永琳がうつぶせに突き出した尻を突き上げ腰を打ち付ける。

「はぁ。あっ、ん、あ、あ、あっ」

 背後から突き上げるたびに、切れ切れに上ずった声を上げる。
 肩越しに振り返る永琳の顔からすでに怜悧な鋭さは剥げ落ち、肉欲のままに欲する貪欲な雌の表情に色取られている。
 ベッドについた腕は今にも折れそうに震え、だらしなく開いた口からはピンクの舌が覗いていた。

 俺は雌の匂いに狂い掛けた一匹の雄。
 発情した雄と雌が互いの身体を貪りあうに適した格好で、たぎる情欲のままに腰と腰をぶつけ合わせる。
 幾度と重ね合わせた互いの性器は、獣じみた匂いを発して部屋の中に充満している。
 精液と愛液、弾ける汗と糸引く涎。
 体液を混ぜ合わせ尚も掻き混ぜ、泡立つほどに睦みあった雌雄の匂い。
 男を欲しがる雌と、女を食らう雄しかいないのだから、これは至極正しい帰結だ。

 目の前で揺れる赤く色づいた尻を眺めて、そんな事を思った。

「お、うぐ」

 幾度目かになる――もう幾度になるのかも覚えてない――射精感に呻きを上げる。
 前後に動く度、永琳の膣内からは泡だった精液がこぼれ出す。
 どれだけ重ねようとも変わらず訪れる快感。
 背筋を伝う心地良い寒気。
 自分の燻った熱を吐き出そうとする、悦びの予感。

「は、あ。中、中へ」

 俺の震えを感じ取ったのか、永琳が獣のような嬌声を取り繕った。

「私の膣内に、貴方の温もりを」

 堪らない雌の横顔で、尚も貪欲に俺を求めた。

「お、おお、おっ」

 俺は半ば唸り声で応じて、奥へ奥へとただ腰を突き入れた。
 奥へ、奥へ。
 永琳の一番深くて見る事も叶わない体内へと射精した。

「はあっ!」

 永琳の背が突然弓なりに反り返る姿を見つめて、俺の一物は壊れた蛇口のようにびゅるびゅると精を吐き出し続けた。
 腰が抜ける所か、下半身が丸ごとどこかへ吸い上げられてしまうような感覚にただ震えた。
 脳裏に訪れた空白を埋めるように、視界に飛び込んだ形が網膜に焼き付けられる。

 烙印。
 永琳の肌を汚す所有の証。
 それを削り落とし膨らんだ傷跡。
 それが克明に脳の奥に刻み付けられることで、飛んでいた理性の欠片が指先に引っかかった。

 それでも疲労感に動きは止まっていた。
 永琳も既にベッドにうずくまるように横たわっている。
 繋がったままただお互いに荒い呼吸を洩らす。
 俺は色濃い余韻が漂う中で、今まで意図的にずっと目を逸らしていたものに視線を注いでいた。

 これで永琳は――

 かつてこの女を欲してやまなかった男の妄言を、冷えた頭でなぞる。 

 俺のものだ。

 犯した愚行と残された醜い傷跡を、すっかり重くなった手でなぞる。

 当の昔に手遅れで、今更どう足掻いた所でどうにもならない事。
 これも、その内の一つ。

 俺は背の傷跡を軽く一撫でした後、永琳の三つ編みに視線を移した。
 背で上下に良く弾んでいた様子を思い返しながら、結われたリボンを解く。

 はらりと冴え渡る銀色が広がった。
 赤く色づいた背を銀色が埋めていく。
 背に残った醜い傷跡も残さず覆って、こぼれるようにはらりと垂れる。

 その冴えた銀色が、夜風が吹いた様に俺の火照った身体を冷やしていく気がした。






「……随分、師匠やてゐと仲がいいんですね」

 ぽつりと呟かれたその言葉は、鼻腔をくすぐるコーヒーの香り以上に俺から眠気を遠ざけた。

 俺はカップに口をつけようとした格好で数秒ほど固まり、揺れる琥珀色の液体から目の前のレイセンへと視線を移した。

「はい?」

 昨晩部屋に戻った所で力尽き、ほんの数分ほど前までベッドでぶっ倒れていた。
 永琳との事後横になっていれば朝までぐっすりと眠りについてたんだろうが、それだけは拒んだ。
 穏やかに身体を重ねて、情欲にまみれるまで交わり続けて、床まで同じにしてしまっては自分さえ見誤ってしまいそうだ。

 聞き返した俺に返答は無く、カップとポットの乗ったトレイをテーブルに置いて、レイセンはしゅるしゅるとコーヒーを啜っている。
 視線を俺に合わせ、恨みがましそうな目つきのままで。

 これはあれか。
 ジャブか。

 寝起きの頭が、今ようやく先制攻撃を食らったのだと認識した。
 探りのジャブを受けたんで、こっちもジャブで返す。

「それって俺笑うとこ?」

「笑うんですか」

 笑うにしても苦笑いだけどね。

 レイセンの目と唇がますます尖った。
 吊り上っていた俺の口元を盗み見たのか、レイセンの視線がふいと明後日の方向へ向けられる。

「だって……仲いいじゃないですか」

 長い髪の奥から、ぷっくりと膨らんだ頬が見え隠れしている。
 
 てゐを散歩に引きずり出して、永琳に頼んだ物を仕込まれたりしていた。
 たった一日放っておいただけでこの態度。
 何この可愛い生き物。

 溜まった鬱屈は内へ内へと向けていたレイセンが、てゐや永琳、そして俺にぶつけてくるまでになるとは。
 今まで散々こっちが引っ張っても、すぐ鬱と自己嫌悪スパイラルに陥って目を離す隙もなかったレイセンが、いつの間にか逞しくなっちまって。
 その内尻に敷かれるようになっちまったりして。
 別の意味じゃ今までも尻に敷かれてたんだけど騎上位大好き!

 そんな俺の内心を知ってか知らずか、レイセンはコーヒーをちょぼちょぼ啜りながら部屋の壁をじっとりと見つめて、髪をくるくると指に絡めて拗ねている。
 突いて下さいと言わんばかりのその態度に、俺のちょめ心がむくむくと首をもたげて膨らんできた。

「それって嫉妬?」

「違いますぅ」

 図星を突いたからなのか、レイセンはやけに子供っぽい口調で否定してきた。
 そうなると、膨れ出した俺のちょめ心はもう止まらない。

「でもそれって普通に考えて嫉妬だと思いますぅー」

「違います。それに真似しないで下さい」

「最初に言ってきたのはレイセンの方ですぅー。永琳やてゐと仲良くするのが気に入らないなんてどう考えても嫉妬って奴だと思いますぅー。
 ちなみに英語で言うとジェラスィーですぅー」

 ベッドを離れ、舌っ足らずな感じに語尾を真似てレイセンの周りをぐるぐると回った。
 拗ねていたレイセンも徐々に怒り心頭してきたのか、むっとした様子で睨んでくる。
 こめかみがひくひくと引きつっているのが判る。
 俺は他人をウザがらせる事に関しちゃなかなかのもんだと思う。

 レイセンは乱れかけていたぺースを取り直すように咳払いを一つ。
 きっと俺を睨みつけてきた。

「……」

 が、すぐに頭の上の兎耳ともども力なくうな垂れる。

「むっつりしてたら可愛い顔が台無しですぅー」 

「……」

 ムカつく感じにおどけてみたものの、レイセンはあえなく自己嫌悪スパイラルに陥ってしまった。

 うーむ。
 褒めた矢先にこれか。
 ま、レイセンらしいっちゃらしいんだが。

「ありゃ、怒った? ちとしつこかったかね」

 これ以上おどけて煽ってみた所で逆効果にしかならんので、俺は馬鹿っぽいアヒル口を直してレイセンの前でしゃがむ。

「レイセーン。機嫌直してよ。うん、俺が悪かった。お兄さん反省する。反省」

 俺が猿のジローを真似ても、レイセンは前髪で遮るようにますます深く俯いてしまった。

 ふむ。
 いよいよいかんね。

 レイセン自身、悪意を他人にぶつけて捌け口にするって事に慣れてないんだろうなぁ。
 でなきゃ一方的にこっちに怒鳴りつけるなり何なりで済む。
 この手のタイプは無意識に悪意を吐き散らしたりしてるもんだが、それが上手く出来てねぇってのはここにいるのが顔見知りばっかりだって事だろう。

 永琳とてゐ。

 はっきり言ってあの二人の方が、レイセンより一枚も二枚も上手だ。
 当人もそれに薄々気がついてるから線引きしちまう。
 ここから先は危険です、引き返すように、ってね。
 レイセンがそうと知っていて自分より強い相手に噛み付く訳が無い。
 だからと言って悪意が消えたりするはずがねぇんで、行き場を求めて自分に向かうって訳だ。

 などとコーヒーを啜りながら、判ったような事を考えていた。
 
 判ったような気ではいるが、レイセンが本当はどうかなんて判りゃしない。
 一生かけた所で他人と判りあえるはずがない。
 そんな事はこれまで積み重ねてきた歴史が答えだ。
 せいぜい理解出来た錯覚と理解されたいって願望がくっつくだけの話。

 俺がレイセンを判った気がするのは、かつてそんな奴が身近にいたからだろう。
 理由や原因をひたすら内に内に探して回り、何を望んでいるのかも判らず自滅の道へまっしぐら。
 そういう馬鹿を一人、知っていた。

 どうすれば良かったのか。
 それは今になっても判らない。

「レイセン」

 俺がどうすべきかなのか。
 繰り返し重ねた時間の中でおぼろげに掴んできたような気はする。

「魔法を一つ、教えてあげようか」

 俺の言葉が届いて、レイセンの髪が揺れた。
 相変わらず顔を上げようとはしなかったが、前髪の奥から視線を感じたので興味は引いたようだ。

 俺は人差し指を一本立てて、持っていたカップの縁をなぞった。
 もったいぶった仕草に引かれたのか、伏せた前髪の奥からちらりと赤い瞳が覗いた。

 視線が指の動きを追っている事を意識して、俺は指先を机の上に置かれたポットへ向ける。
 しっかりと保温の利いた温かい蓋に乗せて、囁く。

「トデッラ ヒュヴァー カハヴィア」

 短い呪文で魔法を織り上げる。
 俺は魔法のかかったポットの持ち手を握り、レイセンのカップにゆっくりと中身を注いだ。
 
「どうぞ」

 レイセンは戸惑いがちにカップと俺を見比べた後、顔を上げてそろそろと口をつけた。

「……どうして」

 ため息と一緒に困惑が洩れた。
 レイセンは目を丸くして、カップの中で揺れるコーヒーを見つめていた。

「どうして、それだけで美味しくなるんですか」

「それは魔法だからさ」

 自問自答するような呟きに応えて、ぐいっとカップに残ったコーヒーを呷る。

「お代わり貰える?」

「あ、はい」

 干したカップを差し出して、レイセンは慌ててポットに手を伸ばした。

 取り上げようとした所で蓋に手を乗せ、ちらちらと俺の様子を窺ってくる。
 俺は小さく笑ってレイセンの手に、手の平を乗せた。

「トデッラ」

「……とでっら」

 俺の声に続いて、レイセンの声が重なる。

「ヒュヴァー」

「ひゅびぃあー」

 発音がちと微妙なのはご愛嬌。

「カハヴィア」

「かはびぃあ」

 俺たちは魔法の呪文をそらんじた。

 乗せていた手の平を離して、どうぞと勧める。
 勧められたレイセンは半信半疑な表情で、慎重にポットの中身を俺のカップへと注ぎ込んだ。

 ふわりと広がる白い湯気とコーヒーの香り。
 手にしたカップを回して湯気をくゆらせ、俺は一口含む。

 舌先から広がっていく独特の甘酸っぱさ。
 舌の根へと伝っていくほろ苦さ。
 口に慣れた味を感じて得られる安堵に似た感情。
 俺が今までどんなコーヒーを好んで飲んでいたのか、もう思い出せない。
 レイセンが淹れるものが、今や勝手知ったる味だ。
 口の中で転がし味わったコーヒーを、ごくりと喉を鳴らして飲み込んだ。

 ため息を一つ吐き出して、余韻と口に残った香りを楽しむ。
 その顔にじっと視線が突き刺さってくるのを感じて、ちらりと目を横に滑らせる。
 固唾を呑んで見守るレイセンは、今にもポットにかじりつきそうだ。

 言うべき言葉が何なのか。
 もって回った言い方、表現をひとしきり頭の中で転がしながら、瞳を期待と不安をぐるぐる回すレイセンの表情を楽しんだ。。
 
「んまい」

 色々考えたが、単純に済ませた。

「レイセンの淹れるコーヒーは最高だね」

 硬直したように固まっていたレイセンの頭を笑ってかいぐった。

 難しいこっちゃない。
 楽しい思い出さえ掻き集めてりゃ大概の事は何とでもなる。
 単純で簡単なそれだけの話。

 ほんと、何でそんな事も判らないのか。
 判らなかったんだろうなぁ。

「……ぁは」

 髪をくしゃくしゃとやったんで迷惑そうな、それでいて心地良さそうなはにかみ。
 歯を剥いて笑い返して、その気恥ずかしそうな笑顔を脳裏に焼きつけ切り取った。

 大切なものは宝箱へ。
 いつかどこへ仕舞い込んだかも忘れてしまう箱の中へ。



「それじゃ」

 カクテルの入ったグラスを取り上げて、向かいに座るレイセンに掲げる。
 レイセンもそれを真似て、目のやり場に困るようにきょときょとと忙しなく視線を移ろわせていた。

「乾杯」

「か、乾杯……」

 グラスをチンと鳴らして、くいっと一息で空けた。
 レイセンはおちょぼ口に、コーヒーを飲む時と変わらずちびちびと舐める。
 辺りの様子を伺う姿は警戒心の強い小動物そのものだ。

 俺はどぎまぎと落ち着きを失ったレイセンと、夜景の広がるホテル最上階に設けられたバーで、デートを楽しんでいた。

 レイセンが抱いた嫉妬は魔法で誤魔化した。
 誤魔化しはしたが、ただそれだけだ。
 それだけで済んだつもりになってりゃ、何一つ根本的な解決になりゃしねぇ。
 嫉妬の埋め合わせには、それ相応のもんが必要だ。

 そういう訳でレイセンを午後から外に連れ出して、締めくくりとしてここに連れてきた。
 耳に心地良いジャズが流れる静かなバー。
 名前も知らないジャズバンドが名前も知らない曲をステージで演奏し、邪魔にならない程度の客のざわめきが混じる。
 そこそこ席の埋まった店の中、窓際の特等席を確保して食後の酒を楽しむ。
 飲むだけならもっと俺に合った別の店を選んだ所だが、今回は雰囲気を重視してるんで小洒落た場所を押さえた。

「どう。楽しんでる?」

 乾杯からグラスの三分の一も空けてないレイセンに訊ねた。

「あ、はい。あの」

「楽しめてない?」

「そ、そうじゃなくて、あの……これ」

 レイセンはきょときょと周りを見回しながら、袖を摘んだ。

「こういう格好は、慣れて、なくて」

 普段の格好から紫のドレス姿のレイセンは、ルージュを引いた唇を歪め、くすぐったそうにもじもじと身じろぎをした。

 衣装なんかも演出の為の需要なファクターだ。
 デートに連れ出してまず真っ先に向かったのが貸し衣装店。
 身支度をゴージャスに整え、ついでに送迎リムジンなんかもレンタルして上等なレストランでフルコース。
 豪華な晩餐の後はこのホテル。
 地上五〇メートル以上のジャズバーで、酒とミュージックを嗜みネオンの輝きを楽しむ。
 ロマンチックに溢れるチョイスだが、笑える事に浪漫って奴は浪費と類義語だ。
 
「慣れられると困るかな。慣れるまでやってると流石に破産しちまう」

 空いたグラスを席の端へ寄せると、さりげなく歩いてきたウェイターが取り上げる。

「同じ物一つ」

『畏まりました』

 俺の注文に会釈を返し下がっていった。

 サービスの質と値段はまあ大体正比例だ。
 痒い所に手が届くお上品な店も、一つ二つ知っておけば色々と役に立つ事もあった。

「……ご主人様は」

 ウェイターが離れて行くのを見送ってから、レイセンが小声で唸るように呟く。

「随分慣れてるみたいですけど」

 ちょいと恨みのこもった目つきで見られた。

「俺のはまあ、昔取った杵柄って奴かな? こういうカッコのお仕事してたのよ」

 レイセンがしっかりドレスアップしてるってのに、俺は普段のまんまじゃ釣り合わねぇ。
 俺もタイを締めたフォーマルな格好(っても単にスーツ姿。タキシードだとやり過ぎだ)に着替えて、髪もジェルでびしっと固めてあった。
 タイピンを爪の先で弾く俺に、レイセンは僻みも忘れた表情で眺めてくる。

「昔って、どんな仕事をしてたんですか?」

 目を丸くしているレイセンに、俺はカクテルと一緒に頼んだドライフルーツ盛り合わせを摘みながら、頬杖をついた。

「ここじゃちょっと言えないお仕事」

「……」 

 俺の笑みで想像がついたのか煙に巻かれたか、とにかくレイセンはそれ以上問いかける事なく、口当たりの優しいカクテルをちびりと舐めた。
 俺の過去話で盛り上がる訳はないんで、さっさと話題をチェンジ。

「レイセンは? 永遠亭ってとこで暮らしてたんでしょ? どんな事してたの? 月ってどんな感じ?」

「え、ええと……私は、その」

 質問攻めにしながら、スルーされるものと答え易いものをより分け、喋り易い方へと誘導していく。
 別に情報収集をしている訳じゃないし、どうでもいい世間話でも俺には充分楽しめる。
 レイセンの話が真新しく聞こえるのは、永遠亭の背景を輪郭程度にしか知らず、俺自身そういった情報に今まで関心を寄せようとも思っていなかったからだ。
 そういう場所があるってのは知ってるが、どういう所なのか実感はなかった。

 ――以前は何者かも知ろうともせず、つい勢いで殺っちまったしなぁ。
 うるせぇ。
 
「それで、その。永遠亭で過ごすようになって、地上のイナバたちをまとめて、私はその警備を――」

 ――ま、あのザマじゃあ殺っちまった方が慈悲ってもんだよなぁ?
 うるせぇよ。

「師匠が秘術を用いた時、地上巫女や妖怪たちが集まってきて私はそれを――」

 ――いいじゃん今生きてるんだからさぁーあ? 笑って水に流そうぜ?
 うるせぇって言ってんだよ。

「……あの、ご主人様?」

「え?」

「氷、解けてます」 

 レイセンに言われて、届けられていたカクテルに気がついた。
 グラスの表面はすっかり汗を掻いて、解けた氷が薄く覆い被さっていた。

「こりゃいけね」

「あ。代わりのものを頼めば――」

「レイセン、そりゃブルジョワの思考だぜ。ブルジョワジー」

 ――ブルジョワなおままごとをしてるお前がそれを言うのかよ。
 すっこんでろタコ助。

「ブルジョワですか。あ、お代わり下さい」

『畏まりました』

 少しは緊張が解れてきたのか、グラスの回収に来たウェイターにさりげなく追加注文をしてたり。
 こっちも脳内妄想と小じゃれてる場合じゃねぇな。
 折角の大人のデートをここで台無しにしちまうのは、俺としても少しばかり勿体無い。
 薄くなったカクテルを混ぜ直して、いい塩梅になってきたレイセンを促す。

「それで、その続きは?」

「私、どこまで話しましたっけ?」

「レイセンと永琳とてゐとその他大勢がてんやわんや」

 実のとこあんまり聞いてなかったんだが、まあそんな感じだろう。

「あ、そうなんですよ。聞いて下さい。もう本当に、その日は大変だったんですから。巫女に魔女に幽霊に吸血鬼まで総出で屋敷の中に無断で押し入って来てですね」

「ほう、それでそれで?」

 レイセンは酒が入って舌の滑りが良くなったのか、いつになく闊達にその時の様子を喋る。
 俺も振って沸いた娯楽には食いつくんで、合いの手に留めて話に集中する。

「私、こう見えて永遠亭の幹部なんです。てゐより偉いんです。だから当然侵入者を阻止しなくちゃいけないのです。ん」

 ん。のとこは、レイセンがウェイターからカクテルお代わりを受け取った時のもんだ。
 ちびちび舐めていたのが嘘のように、レイセンはごくごくと喉を鳴らして呷りだす。
 このカクテル、やたら口当たりがいいんで飲み易い。
 
 ウェイターは営業スマイルを貼り付けたまま一礼し、無言で離れていった。

「私がこうやって来た侵入者を睨みつけて、波長をぐにゃぐにゃに歪めてやってですね。聞いてます?」

「聞いてる聞いてる。流石幹部、そーんな事出来るんだ」

「そうなんです。出来るんです。私だってこの耳は伊達じゃないんです。波長をですね、伸ばしたり縮めたり出来るんですよ。凄いんですよ。月でも同じ事が出来る玉兎は他にいなかったんですからね」

「って事は、レイセンが不法侵入者を撃退したって事?」

 レイセンはぴたりと動きを止めると、とろんとしてきた目元をしばらく宙に泳がせた。

「そうですよー。もう巫女も魔女も幽霊も吸血鬼もちぎっては投げちぎっては投げ……」

 それがほんとならお兄さんの目を見て言ってみようね、レイセンちゃん。
 勇ましい言葉とは裏腹に、ぼっこぼこにされた姿が目に浮かぶわ。
 そっとしといて上げましょう。

「そうなんだ。流石レイセン、やるねぇ」

「私だってやる時はやるんです。おかわり下さい!」

 緊張していた姿を――それと一緒に何か別のものまでかなぐり捨てて、レイセンは空っぽのグラスを持ち上げた。

 これってひょっとして自棄酒なのかね?
 一応言っとくか。

「レイセン、酔ってきた?」

「酔ってません。これ美味しいです。だから酔ったりしないんです」

 うん、パーフェクトに酔ってるね。
 酔ってないと即答している時点で重症だ。

「美味しいんだからもっと飲んで下さい。おかわりもう一つ!」

 まだ中身が半分残った俺のグラスを指差したかと思うと、元気に手を挙げて追加注文するレイセン。
 話の理屈がおかしい。

 緊張してると酔いはなかなか回らないもんだが、ちとリラックスさせ過ぎたのかもしれん。
 まあ、永琳とてゐにサンドイッチじゃくだを巻くって訳にもいかないだろうし。
 酔ったレイセンは人見知りするのが嘘だろって勢いで、やってきたウェイターを捕まえて何やらごね始めている。

「お団子はないんですかぁ? 私の耳を見て下さい、ほら。お団子がいるんですよぉ」

 長く垂れた兎耳を良く見ろと言わんばかりに指差している。
 絡む理由もおかしい。

『お客様、おつまみのメニューはこちらにある通りになっておりまして……』

「お団子が食べたいんです。白くて真ん丸いのがいいんです。ねぇご主人様?」

 ははは、無敵だねレイセンちゃん。
 しかもそこで俺に振るんだねレイセンちゃん。
 お兄さん、なんか急にクーラーの効きが良くなってきた気がするよ。

 子供のように団子団子とごねるレイセンに、ウェイターは鉄壁の営業スマイルを維持したまま俺を見た。
 放っておいたら席を立って自分で団子を探し出しかねないんで、俺はメニュー後半にあったスイーツの写真を素早く指差した。
 トッピングされた抹茶アイス――の黒蜜が掛かった白玉を、力強く押さえた。

「白玉だけ器に盛ってきて」

『畏まりました』

 小声で耳打ちした俺に素早く頷き、ウェイターは去って行った。

 こんなに涼しいのに、汗がにじむのは何故かしらん?

 レイセンは足早に去っていったウェイターを見送って、俺に向き直る。
 傍若無人な姿は鳴りを潜め、何やら驚いた様子で俺を凝視してきた。

「どうかした?」

 お願いだからこれ以上どうかしないでね。

「……ふふ、秘密です」

 何やら妙に嬉しそうに呟いて、俯いてしまう。
 気落ちしている風には見えなかった。

 レイセンは十五夜のお供えのように綺麗に並べ重ねられた白玉を、カクテルをかぱかぱやりながら上機嫌に平らげた。



 で、案の定潰れた。

「お、おぅえ~……」

「レイセン、水」

 床に崩れ落ちるように座り込んだレイセンの背中をさすりながら、俺は冷を差し出した。

 不幸中の幸いだったのは、店で潰れなかった事。
 まあ店を出た時点でかなりやばかったんでさっさと戻った訳だが、本日のフルコースはあえなくトイレにリバースとなりました。
 あぶねぇあぶねぇ。
 リムジンだろうがなんだろうが、車に乗ってたらその時点で黙示録だ。
 
「ほら、口濯いでぺっしな」

「はいぃ~」

 すっかり青ざめていたレイセンの顔色が、今は紙のように白い。
 それでも表情は戻って来た直後と比べりゃ幾らかマシになっていた。
 吐くだけ吐いちまえば少しは楽になる。

「ほい酔い止め」

 口を濯いだ所で顆粒薬の包みを差し出す。
 ソルマックなんて半端な代物じゃなく、永琳印の酔い止め薬だ。
 そりゃあもう理不尽なくらい効くのは俺も知ってる。
 レイセンは包み紙をひったくるように奪うと、残った冷で流し込んだ。

「……はぁ」

 ようやく落ち着いたのか早くも薬が効いて来たのか、レイセンは小さなため息一つ吐き出して座り込んだままぐったりとした。
 俺はすっかり丸くなった背をさすりながら、空いた手をポケットに突っ込んだ。

「ロング・アイランド・アイスティー。聞いた感じ紅茶っぽいけど一切関係ない、れっきとしたアルコールカクテルだかんね。
 ジン、ラム、ウォッカ、テキーラも混ぜて、なんとアルコール度数三五」

 取り出した飴玉の袋を片手と歯を使って破く。

「それって……どういう事ですか」

 ゆらりと首を傾け俺を見上げるレイセンに、摘んだキャンディを口の中へ。

「口当たりに騙されて、強い酒を浴びるように飲んでたって事。こうなって当然」

 俺の指先ごと口に含んだレイセンは、舌で飴玉をさらっていった。

「飲む前に教えてくれてもいいじゃないですか」

「気がついたらすっかり出来上がってたのよ」

「止めてくれれば良かったのに……」

「あの時無理に止めようとしてたら暴れてたって。家飲みなら幾らでも止められたんだけどねぇ」

「……ご主人様も結構飲んでたはずなのに」

「無茶な飲み方はしてなかったしな。ペース配分さえ守ればどってこたぁねぇの」

 二人揃って潰れちまったら目も当てられん。
 その辺りの緊張感が酔い冷ましになったんだろう。

「なんだか、ずるいです」

「ずるいって言われてもなぁー」

 酒は抜けてもまだ酔いが少しは残ってるのか、レイセンは妙に絡んでくる。
 恨みのこもった視線を向けてくるレイセンに、俺は肩を揺すって笑いながら頭をぐりぐりとかいぐった。

「僻みなさんな。酒ってのは吐いたり恥ずかしい思いをしたりして、飲み方を覚えて行くもんだよ」

「そんな事ばっかりですよ」

 レイセンはすっかり不貞腐れて、そっぽ向いて唇を尖らせちまった。

「ここに来てから……そんな事ばっかりです」

 口調に拗ねた恨み節から深刻味が混じるが、返答を期待した言葉じゃないだろう。
 自問を自問のままに留めて、俺はレイセンの身体を抱き上げた。

「続きは明日にでも、まとめてね。今日はもう寝ちゃいなさい。酔って吐いた日はさっさと寝ちまうに限る」

 狭いユニットバスからベッドへ。
 天蓋から垂れ下がるレースのカーテンを押しのけて、レイセンの身体を横たえる。
 そういや俺たち貸し衣装のまんまだが、明日にでも鵺経由で返せばいい。
 レンタルだのリースだの言っても、あれだ。
 ここじゃ方便みたいなもんだ。

 仰向けになったレイセンに毛布を被せ、すっかり乱れた髪を手櫛で整える。
 飴玉をころころと口の中で転がしながら見つめてくるレイセンの頬を撫で、俺はベッドから離れる。

「――?」

 離れようと、した。

「……」

 ベッドからレイセンの手が伸びて、裾をがっちりと握り込んでいた。
 その手をなぞって視線を向けると、レイセンは逃れるように頭から毛布をかぶってしまった。
 耳がにょっきり出てたけど。

 レイセンは何も言わない。
 だから俺も何も言わなかった。
 多分、待ってるんだろうな。
 俺がここに残るのを。

 振り払おうと思えば簡単に出来た。
 それをしなかったのは、何も言わずに裾を掴んだりする姿が重なっちまったから。

 毛布に隠れて息を殺すレイセンに苦笑を浮かべて、俺はベッドの端に腰を下ろした。
 裾を掴んでいた手を撫でると、アルコールの所為かすっかり冷えてしまっていた。
 俺はその手を撫で続け、レイセンも服の裾から手を握り、お互いに無言で過ごす。
 細い指を手の平で覆い、重ね、指を絡めて繋ぐ。
 レイセンも手の動きは雄弁で、俺たちは戯れるように手を繋ぎあった。
 言葉はなかったが、居心地の悪い沈黙じゃあなかった。

「ごめんなさい」

 どれくらいの静寂があったのか。
 ともかく口火を切ったのはレイセンからだった。

「何が?」

「沢山困らせました」

「それは謝る事じゃねぇって」

「……わざと、なんです」

「うん?」

「ご主人様を困らせてみたかったんです」

「あれって酔った振り? すげーじゃん。迫真の演技って奴だよ。お兄さん騙された」

「……それは演技じゃないです」

「あ、そうなんだ」

「でも、困らせてみようって思ったのは本当です」

「ふーん」

「……怒らないんですか?」

「怒るよ。超怒る。後三秒で怒るから、覚悟してネ」

「は、はい」

「あんな無茶な飲み方するもんじゃありません。急性アルコール中毒でぶっ倒れたらどうすんの。めっ」

「……その時は師匠に薬を作って貰います」

「その考え方がやべーの。薬で治るから身体壊してもいいや、なんてのは健全な物の考えじゃねぇですよ?」

「ご主人様」

「何かなレイセン」

「怒ってないですよ、それ」

「そう?」

「はい。私、怒られてないです。叱られてます」

「うへ、マジデ? ガラじゃねー」

「……そうですね」

「さらっとヒドイね」

 レイセンは毛布をかぶったまま、俺は部屋の壁を眺めたまま、手だけは握り合っていた。
 言葉は案外続いた。

「私、鬱陶しくなかったですか?」

「何でそういう事言うかなー」

「私がここに来る前の事、話してた時」

「覚えてる覚えてる。賊を相手にレイセンが大立ち回りしたって」

「ご主人様、凄い顔をしてました」

「へ?」

「とても、怖い顔でした」

「あー……ソウナンダ」

「はい」

「そっか」

 脳内妄想でくっちゃべってた時だろうなぁ。
 顔に出てた訳で、それで不安がらせちまった。
 台無しにさせまいとしてるつもりが、とっくの昔にてめぇがぶちまけてたって事か。

「……ごめんなさい」

「何でレイセンが謝るのさ」

「ご主人様の事、怒らせました」

「怒ってないよ」

「……」

「ほんとだよ。怒ってる訳じゃないよ」

 ただ都合の良い怒りの矛先が定められずにいるだけ。
 とはいえこんな空気を発散していちゃレイセンを怯えさせるだけだ。
 湧き出た怒りは、顔も名前も知らないどこかの誰かへひとまず積立預金しておいた。

「まあ、うん。理由は判りました。それで俺を困らせてみたくなったの? 復讐するは我にあり?」

「それとは、ちょっと違うんです」

「ふむん」

「不安になって。嫉妬してたのを思い出して」

「そっか」

「嫉妬してたの……怖かったからです」

「うん?」

「てゐはご主人様とするのが初めてで、私はそうじゃなかったから」

「処女じゃないからって?」

「……はい」

「ぷっ、ナニソレ。高校生みたいな発想」

「笑うなんて……ひどいです。私、悩んでるんですから」

「どんな深刻な悩みでも他人から見りゃちみっちゃい事なんて、良くある話だよ。
 で、思い出したら急にムカついたと?」

「その……酔ってるうちに私もなんだか判らなくなって」

「あぁー」

「ごめんなさい」

「あるある。そういう事あるから」

「……」

「いーじゃん。むしゃくしゃしてくだ巻いて酔っ払ってゲロっても。その方がよっぽど人間らしい――っても人間じゃあないんだっけ」

「……」

「俺余計な事言った?
 とにかく、分相応ってもんがあんの。貧乏人は麦を食えって名言があってね、高望みしなけりゃ腹一杯食う事は出来る。金の使い方も知らない貧乏人が贅沢を覚えたとこで、どうせ碌な事にならねぇんだから」

 いよいよ慰めてるんだかただの言い訳なんだか判らなくなってきてる俺の耳に、毛布を隔ててさめざめとした泣き声が届けられてきた。
 俺はレイセンがかぶっていた毛布をめくった。
 唇を噛んで、赤い瞳からぽろぽろと涙がこぼれていた。

 絡み酒の上に泣き上戸か。
 勘弁してくれ。
 計算高いようでいながら根本的な部分で抜けていて、感情の起伏が激しく情緒不安定。
 女ってのは男には理解出来ない生き物だ。

 でもまあ。

 誰も理解出来ず、誰からも理解されないなんて事は、生まれた時から決まってるもんだしな。
 腹が減った時は温かい食事が、辛い時は気休めの言葉が、涙が止まらない時にはそれを拭う手があればそれでいい。
 それだけでいい。
 たったそれっぽっちでも人は救われた気がするもんだ。

「だから」

 ――願わくば――

「泣かないで」

 ――この赤い瞳が曇らぬ内に――

「レイセン」

 ――自らの望みを見つけてくれますように――

 レイセンが眠りにつくまで、目尻から溢れる涙を指で拭いとった。






 泣き疲れたレイセンが寝入るのを見届けてから、俺は自室に引き上げた。
 机に足を放り出してふんぞり返り、いつものリラックスポーズ。
 口元が寂しいんで、手近にあったペンをパイポ代わりにガシガシと齧る。
 リラックスしながら、この数日の記憶を反芻していた。

 愛を語らい上等な食事と旨い酒にありついて、綺麗に終わるはずが落ちがついたりして。
 どこかに当たり前に転がっている、そんな有り触れた光景。

 つい道草を食っちまう理由が良く判る。
 見慣れた景色、有り触れた道から外れる新鮮さ。
 今までなかった何かが起こるのだろうと期待に胸躍らせて、それた道には漂う空気すら違って感じる。
 その期待が報われるにせよ当てを外すにせよ、求める事は一緒だ。

 今の所、俺が望む条件は満たしている。
 だらだらと続けるにはいい塩梅だ。
 まだまだ道草を食っていられるだろう。

 けど。
 まあ。

 行き着く所はもう判っちまっている。
 推理小説のケツだけ読んじまったような気分。
 繰り返す日々がどれだけ素晴らしかろうと、眩く輝いていようと、どこに向かっているのかはもう結論が出ちまってる。

 だったらやる事は一つだ。

「ぬーえ」

 俺はぷっとペンを吐き捨て、イスをぎこぎこやりながら背後に声をかけた。

「うん」

 そこにいるのかどうかも実際のとこ良く判らない曖昧さで、声だけがはっきりと聞き取れた。

「かぐや。連れて来とくれ」

「うん」



 明日を始める為に、終わりを始めるとしよう。









 ―interlude off―
コメント




1.名前が無い程度の能力削除
ついに・・・輝夜の出番が
インターミッション的な話のせいかいい話でしたなぁ

なんとなく仕組みも分かって来ましたし
2.名前が無い程度の能力削除
紺菜さんの一人称視点の描写が相変わらず秀逸すぎる
これで永遠亭が揃う、果たして姫様がどんな反応をするのか・・・
3.名前が無い程度の能力削除
輝夜の後はエンディングかそれとも慧音妹紅のEXルートか・・・
絶対喧嘩になりそうだけど見てみたくもあり
4.名前が無い程度の能力削除
輝夜が娘で父さんと母さん・・・
果たして輝夜が来たらどうなることやら
5.名前が無い程度の能力削除
かぐやって言うのは月の姫の輝夜の事なのか、
永琳との娘にかぐやって名前を付けただけなのか、
それとも実はその娘がタイムトラベル的な経緯で輝夜になるのか・・・
気になります