真・東方夜伽話

ナズちぇん美味しいです(永遠にダイジェスト版)

2009/12/28 01:10:48
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ナズちぇん美味しいです(永遠にダイジェスト版)

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※どう見ても誰てめぇです。本当にありがとうございました。


















 先日、ドブに落ちた。

 恋に落ちたせいだ。


 いや、そんな駄洒落みたいなことが本当にあるのかって、賢明なるネズミ諸君は言うだろうがこれは誓って本当のことだ。

 私の尻尾の編み上げ籠に誓ったって良いぐらいだ。
 賢将だって恋ぐらいする。
 いやいや、そのように笑うものじゃない。失敬だな君たちは。
 私が真剣に悩んでいるというのに。
 私の子ネズミたちは同族意識が欠如しているな、まったく。誰に似たのやら。

 ん? 何だって?
 もっと詳しい話を聞かせろって?

 ……いいだろう。
 ただしロハでひとの話を聞いて鼻で笑って終わりってのは無しだ。
 これは取引だ。

 私が正直に今まであったことを話す代わりに、諸君らは考えてくれないか? 
 どうやったら、私の恋が上手くいくのかについて。

 そうじゃないとこれから先、絶交だぞ、分かったか?
 よし、じゃあ静かにするんだな。
 そこでクルミをかじってる阿呆は外に行ってやってくれ。気が散るじゃないか。
 お、汲みたての草つゆをくれるのかい、気が利くね。この冬のボーナスは弾んどくよ。

 ……うん、まあそんなに顔を近づけないでくれよ。いやに照れるじゃないか。
 結構集まったな。何、そんなにみんな恋愛話に飢えているのかい?
 はは、私の話だからって? 嬉しいことを言ってくれるじゃないか。
 なに……普段のしゃべり方からは、恋愛話なんて想像出来ないから気になってしょうがないだって?
 ますます同族甲斐の無い奴だな、お前たちは。

 さて、と。何から話すかな。
 まずは、うん、恥ずかしながら私がドブに落ちた話からしようか。
 ことの始まりでもあるわけだし。


 その日、私は主の命を受けて、地上で捜し物をしていたんだ。
 ダウジングロッドが反応したから、てっきり何かあるんだと思って、ふらふらとそのあたりを飛んだ。

 ぽつぽつと低い木が生えている草原を、なだらかな道が続いていた。
 地上は森ばかりだと思っていた私にとって少しばかり新鮮な光景だったな。
 爽やかにそよ風が吹いて、本当に小春日和というような暖かな空気だった。
 穏やかな陽気と相まって、ちょっとばかり昼寝をしてもいいんじゃないかと思うぐらいの。
 そんな中をあくびなぞしながら、宙を飛ぶ。

 本当に暢気な日だったんだ。

 目の前を黒猫が横切るまでは。

「きゃああああああーーーーーっっっ! どいてどいてどいてぇーっっ!!」

 甲高い叫び声と共に目の前に子猫が飛び出してきたんだ。
 私は慌てて止まったよ。轢いてしまってはことだからね。
 だけどその子は縦横無尽に飛び回って、おもわずこちらが目を回すぐらいのスピードで駆け回る。
 それがまた良く回るんだよ。宙返りを何度も何度もして、もう四方八方がその子の残像で埋め尽くされそうなぐらいさ。
 おもわず目を閉じてしまった瞬間、その子がいきなり飛びついてきた。

「ぎゃふっ……!」
 いやはや、思わず叫んだね。油断大敵という奴だ。
 諸君はみぞおちに思いっきり頭突きされたことはあるかい? 誰かに尻尾を踏まれる以上に衝撃的だから一度されてみるといい。
 ま、私はよろこんでする側に回らせてもらうがね。

 ……ああ、悪い、話がそれてたな。戻そう。

 そんなわけで私は思いっきり吹き飛んだのさ。
 そうして道のそばのドブに落ちたって話。

「いたたた……」
 顔を上げた瞬間、うっかり目があった。
 そしてそのまま見とれてしまった。
 かすかに覗く白い歯。ひくひくと動く可愛らしい黒い猫耳。ふっくらバラ色のほっぺ。夜空の星もかくやと思わせるほどに輝く瞳。長い美麗なる尻尾。
 ぽたぽた毛皮から泥水が滴り落ちるのも構わずに、ぽかんと口を開けて座り込んでいた。

 ……月並みで悪いね。一目惚れって奴さ。
 ああ、自分でも分かってるさ。よりにもよって、捕食者に惚れるなんてどうかしてる。
 喰われる恐怖によってわき出た脳内麻薬が一瞬のうちに見せた勘違いなのかもしれないって後から何回も思ったもんだ。

「ね、ネズミ!? ど、どうしよう、まだ掴まえたことないよぅ……!」

 飛びついてきたその子はあたふたしながら左右を見ている。助けを求めても誰もいない。
 長い爪の生えた手をにぎにぎして、頑張って落ち着こうとしている。
 
「で、でも、ちゃんと一人前にならなくちゃ! はじめての獲物、藍さまにプレゼントしなくちゃっ!」

 その子はふるふるっと首を横に振って、頑張って尻尾を膨らましてこっちを威嚇していた。
 一生懸命な感じがして、でも腰が引けているのが分かる。口はへの字だし、目は今にも泣き出しそうに潤んでいる。

「……えっと」
 どうしたものか逡巡した。

 ああ、私は大人しく掴まるつもりなぞないんだよ? もちろん。
 Mっ気があるわけじゃないさ。どちらかといえば逆だしね。

 でもさ、可愛い子が何だか困った感じでこっちを見ていたら、ちょっとぐらい相手をしてやっても良いかなって。
 それぐらいには、良いネズミなのさ、私は。

 いつまでも見つめ合うのも悪くはなかったけれど、事態が進展しないのはさすがに私だって些か居心地が悪かった。私の方から口を開いた。
「……悪いけど、さ」
「にゃっ、にゃにっ! しゃべった、ネズミがしゃべったよっ!」
「そりゃあネズミだってしゃべるさ、子猫くん。馬鹿にしたもんじゃない。きみだって間抜けな猫の癖にしゃべってるじゃないか」
 少しだけ気分を害した。猫というものは概して傲慢なものだが、目の前のかわいらしいその子がそのステロタイプに嵌ってしまうのは何とも言えず悲しかった。

「風呂を貸してくれないか。こうして濡れたままで自分の家に帰るのはどうにもやりきれない」
「お、お風呂……?」
 その単語を聴いた途端、ぴーんと彼女の耳が立った。ぐるぐると喉を鳴らしている。
 どうやら考えているらしい。
「ふん、私は生憎きれい好きでね。突き飛ばしておいて何も無しということはないだろう?」
 そう言って、顔を背けた。熱くなった顔を見られたくなくて仕方なかった。
 可愛らしい子ではあるが、どうにもやはり猫は猫のようだ。
 私はまだとくとく言っている心臓の音を無視した。
 この私が恋をするなんて、馬鹿げているってその時は思った。なんだか腹が立つような気さえした。
 相手が、普段馬鹿にしている猫だからこそ、なのだろう。
 彼女の顔を見ると、胸が高鳴って仕方ないなんて、本当に本当に馬鹿げている。

「にゃ、にゃう……?」
 二股の尻尾が二つともはてなマークになる。
「つ、捕まってくれるの? 橙のところに来てくれるの?」
「別に掴まってやる義理はないんだけどね。風呂のついでに、君の飼い主に挨拶の一つ二つぐらいしてやってもいいさ」
 その後すぐに逃げ出すつもりであることは口にしなかった。
「う、うん……じゃあ、こっち、来て」
 その子は無防備に手を伸ばしてきた。
 猫と手なんか繋げるか、馬鹿野郎、と普段の私なら口にしていただろう。
 でも、変にどきどきして逃げられなかったんだ。
 その手に触りたくて、でも触っちゃいけないような気がして。
 それでも彼女が手を伸ばしてくるから逃げられなくて。
 柔らかくてしっとりとした子供っぽい小さな手。冷え切った私の手を温めてくれる感じがした。


 訪れたのはでっかい屋敷だった。もちろん私も橙も小柄だから余計にそう見えるのかもしれない。
「ただいまーっ!」
 元気よく橙は挨拶をする。玄関で靴を脱いでちゃんとそろえる。その間もずっと私の手を掴んだままだ。
 とたとたと足音がする。現れたのは九尾の狐。
「おお、おかえり、橙。ん? どうしたんだい、そちらの方は……」
 首をかしげる。
「ら、藍さまっ! 一人前が、そのっ、ネズミが、えっと、つ、つかまえ……っ!」
 橙が紅い顔をしてもじもじしているのを見て、ちょっとだけかちんときた。
 こいつが飼い主か。こいつの為に、橙は私を掴まえたのか。
 私はぐっと顔を上げて、その藍だか言う奴を見上げて思いっきりにらみつけてやった。
「私の名はナズーリン。悪いね、邪魔をするよ」
「……私の橙がお世話になったようだね」
 視線と視線がカチ合うと、ばちばちっと火花が散るような感じがした。あからさまな敵意と強力な妖気。
 こいつ、出来る……ッ!

「あ、あのあの、お風呂、この子お風呂入りたいんだって!」
 間を割り込むようにして橙が言う。
「ああ? ネズミ風情が八雲家の風呂に入るんですか?」
「たかだか狐風情に言われたくないね。尻尾ばかりでかくて邪魔な図体でさ」
 弾幕ごっこはともかくとして、ガンの飛ばし合いなら負けない自信だけはあった。

「こぉーらーっ、こんなところでお客さんと喧嘩しないの」
 にゅっと空間にあいた隙間から手が伸びて藍の目を優しく塞いだ。同時に私のところにも手が覆い被さってくる。
 ふんわりと女の人の甘い匂いがした。金髪の優しげな女のひとが隙間から出てくる。
「お風呂ならちょうど沸いてるじゃないの。ケチケチしないで入れてあげなさいよ。濡れ鼠で可哀想なお客様なんだから」
「……紫さまがそうおっしゃるなら」
 しぶしぶ、という様子で藍は道を譲る。
「せっかく来たんだから、夕食も食べていきなさいな。八雲家はいつでもお客様を歓迎しますわ」
 紫と呼ばれた貴婦人はそう言って優しげに笑んだ。
 ……あまりにも良い待遇だから、かえってうさんくさいと思ってしまうぐらいの笑みだった。

 かぽーんと良い気持ちの風呂に入って、美味しいご飯を四人で食べておかわりして、みんなで花札したりすごろくしたりして、お茶を飲みながらおまんじゅうたべて、歯ブラシ借りてパジャマも借りて、ふかふかのお布団に入って、おやすみなさーい、ってにこにこしながらお互いに挨拶して。
 真っ暗な部屋の中で、みんなで川の字(っていうか川+1だけど)になって眠ろうとしてふと気がついた。

 ――あれ? 飼われてる?

 自分の境遇に気がついて、がばっと起き上がった。
 何をやっているのだ、私は。

「んん~、にゃう、にゃに、どしたの、ナズくん?」
 寝ぼけ眼で橙が尋ねてきた。
「え、あ、いや……」
「おしっこ? おねしょする前に行ってきなさいね」
「ちがうっ!」
 家主の紫の言葉を思いっきり否定した。この年になっておねしょするなんて不名誉を着せられたくはない。
「わ、私はこんなところでこんなことをしている場合では……」
「こぉら、子供は寝なさい」
 にゅうっと闇夜の隙間から手が伸びてきて、布団に寝かしつけられる。ぼふっといい音がした。
「わっ、な、何をするっ……!」
「分かった、油断している間に枕投げか!」
 二つ隣で寝ていた藍が起き上がって思いっきり枕を投げつけてきた。
「うくっ、な、なにおぅ……っ!」
 思いっきり投げ返す。向こうは顔面で受け止める。
 その笑顔はいっそ爽やかなぐらいだった。
「禍根を明日まで延ばす訳にはいかないっ! いざ尋常に勝負っっっ!」

 八雲家 枕投げ戦争の幕開けであった。

「喰らえやぁーっっ!」
「負けるかぁっっっ!」
 以下、騒々しいので略。

 結論から言えば、その夜は散々な目にあった。
 仙狐思念とか十二神将の宴とか狐狸妖怪レーザーとか四面楚歌チャーミングとかプリンセス天狐 -Illusion-とかアルティメットブディストとかユーニラタルコンタクトとか狐狗狸さんの契約とか飯綱権現降臨とか……とにかく相手の出してくるスペルカードをあるったけ喰らった。しかも全部枕で。クリア出来るまで寝かしてもらえなかった。
 式神「橙」だけは出てこなかった。
 私の知らない間にいつのまにか隣の部屋でくーすー寝てた。

 気がついたら夜明けだった。差してくる朝日のせいで、お互いの顔にクマが浮かんでいるのが分かった。
「……良い勝負だったぞ」
 思いっきり暴れて満足したらしい。藍はぱったりと布団の上に倒れた。
 その上に私も覆い被さる。ふんわりした尻尾が心地よい。あまりにも眠かったからそのまま寝ることにした。金色のその毛皮は、なんだかうちのご主人様に似ていて安らいだ。
「うにゃ……橙もそっち行く~」
 もぞもぞと黒い子猫がすりよってきた。
 眠かったから拒む気にもなれなくて、そのまま腕の中に抱き込んだ。小柄な私の腕に収まるぐらいの、本当に小さな身体。
 なんだかミルクみたいな甘い匂いがして、柔らかくて、いかにも幸せな感じがした。




「と、いうわけで、あいつに勝てるまで暫く帰らないから」
 昼頃起きて、とりあえず実家の寺に連絡を入れた。といっても電話があるわけじゃない。子ネズミ同士のネットワークを使った通信だ。
 群れで暮らす生き物はお互いの意思疎通を言葉以外のもので補っている。匂いとか仕草とかテレパシーとか。ほら、小魚の群れが捕食者の目を眩ますようにして巧みに逃げるのを見たことがあるだろう。それと同じだ。
 私たちネズミはそういう不可視の情報通信技術を使って、メッセージを伝えることが出来る。ちょっとした野ねずみの穴さえあれば簡単だ。穴の中にひそひそっと呟けば相手まで音声が伝わるとても便利なテクノロジーだ。
 まあ君らには説明するまでも無かったかもしれないが、念のため、な。

 遠くでかすれた声がする。私のご主人である星が通話の相手だ。
「ああ、分かりました……さみしいが仕方がないですね」
「ねえ、星ちゃん」
「ん?」
「喧嘩に勝つにはどうしたらいいと思う?」
「そうですねえ。喧嘩をしないことでしょうかねえ」
「あんた毘沙門天の弟子でしょうが!? 武神らしくもうちょっと……!」
「だって、さっきからその話を聞いてたら、むかむかして来ちゃったんですもん!」
 どんどんと床を踏みしめる音がする。よっぽど腹に据えかねているらしい。
「なに言ってんですか、ご主人」
「貴女がしばらくここを空けるなんて、もうさみしくてさみしくて……」
「ご飯も喉を通らなかったんですか」
「いや、お米がなくなっちゃいました」
「やけ食いっ!? 三俵はあったでしょう」
「だから早く帰ってきてくださいよう」
 穴越しにじたばたする動作が見えるようだった。
「あのさ、星ちゃん、ひょっとして……」
 やきもち焼いてる? とか言いかけた瞬間。
 ……ツーツーツー。
 通話を切られた。
「っとに……子供か、あの人は……」
 やれやれとため息をついて、放っておくことにした。

 とにかく、やることがあるんだ。
 それまでは、帰らない。


「ナズくーん! お昼ごはん出来たよー!」
「はーい、今いく~!」
 ぴょんと飛び跳ねて、私は急いで母屋へ向かった。

 ……いや、ほら、ご飯食べないと喧嘩も出来ないじゃん?

 
 昼食後、鮭が川を上る季節がもうじき来るのだという。午後にはみんなで取りに行こうという話になった。幻想郷には海がないが、スキマを開けて鮭を川におびき寄せようという作戦らしい。ちなみにスキマだけ用意して、当の八雲家当主は冬眠だそうだ。お土産よろしくと言い置いていった。
 三人でピクニックの支度をした。お茶の入った水筒とおやつをバスケットに詰めて、山道を行く。
「いくらに塩鮭、石狩鍋に混ぜご飯~!」
 歌うようにしてぴょんぴょん飛び跳ねて道を行く橙は可愛い。
 隣で眺めている藍の間抜け面を笑おうとして、多分、ひとのこと言えないなって口をつぐんだ。
 二人してにやけた顔して飛び跳ねてる橙を見ていた。
「……幸せだな、狐野郎」
「ああ。まったくだ、チビネズミ」
「今日ぐらいは休戦にしてやってもいいぞ」
「そうだな。橙の笑顔に免じて、許してやる」
 お互いの手をぐっと握った。戦った後の友情はいかにもすがすがしい感じがした。
「そうだ。お前にこれを渡しておこう。万が一というときに使いなさい」
「これは……お守り?」
「万が一というときにだけ開けなさい」
 黒い小袋に桔梗の紋が刺繍されている。
「なんだこれ?」
「まあ、使わずに越したことはないのだけどね」
 そう言いおいて、橙を追いかけていった。
「あ、こら、抜け駆けひどい!」
「知らないね! 橙は私のものだ!」
 金色の尻尾を追いかけて、黒色の子猫の元へ。

 足音が高らかに響く、幸せな初冬の日。
 良い天気。散歩日和。空は高い。雲も無い。さんさんと降り注ぐ陽光。春も間近なんじゃないかって勘違いするぐらいに。
 丘を一つ越えた所にうってつけの川原があって、
「わああ、しゃけ、おさかなすごーーーいっっ!」
 目の前の光景を見た橙が喜びの声をあげた。
 川面から銀色の波が光を返していた。それはただの水の反射ではなかった。その光の一つ一つが全部鮭の鱗なのだった。水面全てを埋め尽くすような大量の鮭が、ぐいぐいと川をさかのぼっているのだった。
「わっ、ふわわわわっっっ!」
 鮭を掴み上げようとして橙が手を伸ばす。
 飛び散るしぶきがきらきら眩しい。
 と。
 そのままバランスを崩す。

「やっ、ああああああ…………ッ!」

 じゃぼーんとしぶきが上がる。

「橙っっ!?」
 駆け寄った藍が水際でたたらを踏む。
 本能で水を怖がっている。

 巫山戯るな。
 私なら、躊躇わない。
 濡れるのも汚れるのも慣れきってるんだ。

 一気に飛び込んだ。魚をかき分けて橙の元までまっしぐら。
 手を握る。ぎゅっと抱きしめて、

 そのまま、流された。

「うわああああああああ……………」

 諸君、ここで忠告だ。
 急流を甘く見ると死ぬよ。いや、マジで。

 ごぶごぶごぶ……。

 生臭い水をたらふく飲んで、それでも掴まえた子猫の手は離さなかった。













 気がついた時、二人きりで岸辺に打ち上げられていた。
「けほっ、げほっ」
 何度か咳き込んで、飲んだ水を吐く。
 すぐ隣に誰か。
「橙っ!」
 揺り動かす。
 すぐに噴水みたいにぴゅーと水を吐いて、ぱちぱちと目を開く。
「よかった……」
 そうつぶやいたのもつかの間。
 いつもと違う橙の様子にひどく違和感を抱く。
 目が、ひどくつり上がっていた。
「ふうううう……」
「橙……?」
 いつもと違う様子に怖くなって、ぎゅっと抱きしめた。
「っ!?」
 鋭い爪を立てて背中をばりばり掻かれる。ひどく痛む。ぬるりとその指先も滑る。血が流れる。
 揺らす。気を確かに持って欲しくて、肩を掴んで揺さぶる。
「落ち着いて。落ち着いてよ、橙……」
「ねずみ、ねずみおいしい。掴まえる、いじめる。おもちゃ、ふうう」
 錯乱した橙の口はひどくつり上がって裂けてしまいそうだ。本当に化け猫みたいな。
 濡れるのを嫌がっていたのを思い出す。

 ええいっ、こうなったら一か八かだ。

 その口を封じるみたいにして、キスをした。
 柔らかな感触。

「あ、う……!?」
 動揺した橙の動きが止まる。鋭い牙のせいで唇ごと裂かれそうになるけれど、どうにか避ける。
 その隙をつく。キスをしたままで、手探りで貰ったお守りの中身を開く。
 中に入っていたのはお札。ぺたりと橙のおでこに張る。
 彼女の手が止まる。ゆっくりと力が抜けて、降りていく。
 顔と顔が離れて、
 目と目が合う。
 いつものまん丸な、つぶらな瞳に戻っている。
 ほっとして微笑した。
「よかった、いつもの橙だ」
 橙は申し訳なさそうに、眉を八の字に寄せている。
「ご、ごめんっ、ごめんね、ナズくん……っ! わたし、濡れると式神が外れちゃうから……!」
「いいんだ。大丈夫だよ」
「で、でも、ひどい怪我!」
「私は猫なんかにやられたりしないさ」
 にやりと笑う。背中はぼろぼろになって血がにじんで、しばらく仰向けには寝られないだろうけど、そんなことはどうでもいいんだ。
「ま、きみにはメロメロだけどね」
「ふぇ……!?」
 思い切り橙の身体が硬直する。ぴんとヒゲの先まで固まるみたいにして、耳もしっぽも立ち上がっている。
 馬鹿なこと言わなきゃ良かった、と思った。誤魔化すように笑った。
「冗談だよ」
「え、あ、うん、じょうだん、あ、冗談、なんだ……」
 ふしゅーと空気が抜けたみたいに、橙の身体がしぼんでいく。
 それでももじもじと手元が落ちつきなく動いている。
「あの、ね、ナズくん」
「ん?」
「……キスしたのも、冗談?」
 おずおずと尋ねてくるから、これ見よがしに深くため息をついてやった。小さくかぶりを振る。
「つくづく馬鹿だな、猫って」
「ふぇ……っ?」
 その無防備な唇に、そっとキスしてやった。二回目は、ちょっと短い。
「冗談であんなこと出来るわけないじゃん」
 みるみるうちに橙の顔が真っ赤に染まっていった。
 自分もきっと同じ顔をしているに違いないってそう思った。


 手近な野ネズミの穴を使って通信をかける。すぐに藍が応答する。
「橙っ、今どこにいるんだい!?」
「えと、えっとね、今ね、三本松のとこにいるよ。今から飛んで帰るね、ごめんね、藍しゃま!」
 それからちょっと頬を紅くして付け加えた。
「ナズくんが一緒だから大丈夫だよ! 橙、ナズくんと一緒だと安心出来るの!」
「そ、そう、なの、か……? いやでもそれって、」
 藍の声は明らかにしょぼくれていた。
 私は勝ち誇った気持ちで、付け足してやった。
「ま、そう言うわけだから今夜は二人きりで寝かせてくれるかな、飼い主くん」
 そのまま通信をぶちっと切った。
「ふぇ、ふええええええ……!?」
 橙は顔を真っ赤にして目を真ん丸く見開いていた。
「何もしないさ、大丈夫。安心して眠るといい」
「あ、う、そっか、ん、そ、そうだよね! ナズくん、優しいもんね!」
 そう口走ってから、へなへなと身体の力を抜く。
 地面の方へうつむいている橙のおとがいをそっと持ち上げて、三回目のキスをする。
「ふにゃっ!」
「訂正。キスぐらいしかしないさ。私は優しいからね」
 そう言うなり、くつくつ笑って走り出した。
「にゃ、やああっっ、ナズくんの馬鹿ぁっ! おんなたらしーっ!」
 猫の子がさけびながら追いかけてくる。
「あははは、怖い怖いっ! 猫が怒ったーっ!」
 笑いながら逃げてやる。
 少しずつ夕陽が陰ってきた。濡れた服が冷えて僅かにくしゃみをする。
 トムとジェリーみたいに、ずっとずっといつまでも。
 こんなじゃれ合いが出来たらいいなって、そんなことを思った。





 帰ったら、なんだか八雲家はお通夜だった。
 藍はまだ分かるんだ。ちょっとイジメ返してやったし。
 何でご主人さまがここにいるんだろ。
 玄関前でずーんとうなだれてしゃがみ込んでいる金色の寅丸星がやたら目に付いた。
 しかもなんだか藍のやつと意気投合していた。七輪で塩鮭を焼きながら一杯やっている。
 ぐちぐち小声で何か言い合っている。
「ううう、私のナズがお嫁に行っちゃう……」
「くぅぅ、私の橙がお嫁に……」
 うわーんとお互いに抱き合いながら泣き崩れている保護者組については放っておきたい。猛烈に。絡んでもろくなことにならなそうだ。

 でも橙が良い子だからそうはいかないみたいだった。
「たっ、ただいまっ!」
 すぐに気がついた星が立ち上がる。
「あっ、泥棒猫っ! 私のナズをよくも!」
「こらぁっ、うちの橙をそんな風に言うな」
 すぐに藍の反論が来る。
「でっ、でもぉ……!」
 星ちゃんが涙目でうるうるしている。すごくかっこわるい。恥ずかしい。
「ご主人様、うるさいから黙ってて」
 思わず全力で飛んでめきりと殴りつけた。
 背中の傷が痛む。
「痛ぅ……」
「なっ、ナズ! その傷は……!」
 星の顔が青ざめる。
 心配させないように、思いっきりニヒルに笑ってみせる。
「勲章さ。好きな女の子を守って出来た傷なんだから!」
「で、でもその痕は猫の爪じゃないですか! そんな危ない子と一緒に居させる訳には……!」
「うるさいよ、ご主人。あんたも人のこと言えないじゃないか」
 虎は猫よりタチが悪いと思う。
「とにかくっ、いちいち干渉するなら、もう星ちゃんの子分止めるから! もうお寺には帰らないよ!」
「な、ナズが、反抗期……」
 口をぱくぱくさせて星は唖然としている。
 私はきっとにらみつけたまま、一歩も譲らない。
「あ、あのっっ!」
 火花も散りそうな視線のただ中に入り込んできたのは、橙だった。
「お、お話中のところっ、ごめんな、へくちっ」
 大事な台詞の途中でくしゃみをした。
 なんだかそれだけで和んでしまって、思わず噴き出してしまった。
 緊張感が一気に無くなる。笑って尋ねてやる。
「どうしたのさ、橙」
「あ、あの、鮭といくらの親子ごはん、美味しいと思うので、星さん? も一緒にどうですか? あったかいお風呂もあるし」
「あ、ああ。そう、です、ね」
 すっかり毒気を抜かれた様子で星ちゃんも頷いた。


 お風呂とごはんとお布団。ほかほかでふわふわのしあわせ。
 昨日とおんなじ、八雲家マジックに星ちゃんも騙されちゃうみたいだった。
「じゃー、おやすみー! 覗くなよー」
「あはははー、そんなわけ無いじゃないですかー」
 保護者組と別れて、子供部屋で二人きりになる。
 二つ仲良くならんだ布団と枕。
 橙としばらく見つめ合って、ちょっと照れくさかった。

 そして数十秒後。
 すぱーん、と障子が開いた。
 思ったより気づくのが早かった。

「なななななナズーリン、わたしは許しませ……ふごぉっ!」

 割り込もうとした星の口を後ろから押さえていたのは、うるうると涙にむせぶ八雲藍であった。

「橙…………私は、お前のことをずっとずっと愛して……ううっ、しかし、水に濡れても、爪に引き裂かれても、その子はけして、お前のことを離さなかった……。だからこそ、私は今こそお前からきちんと親離れしなければならないのかもしれない」
「ら、藍しゃま……?」
「さらばだっっっっ! 健闘を祈るっっっ!」
 轟音と豪風と共に藍は消え失せた。星も引き摺られたと見える。気がついたら居なかった。
 わたしたちはぽかんと口を開けてしばらく開けっ放しの襖を見ていた。

 もとより、家主である八雲紫は冬眠中である。
 故に、この家に二人きりになってしまった。

「……こほん」

 何はともあれ障子を閉めた。すきま風が止んだ。
 暗闇に、互いの姿だけ白く浮かび上がるような気がした。

「二人きり、だね」
「うん」
 そんなことを口にして、ますます緊張してしまう。ごくりとツバを飲み込む音が聞こえてしまうような、そんな気がして、ばかばかしいとさえ思う。
 こんなの、ただの、こんなの、ただの、ただの……。

「あ、あの、ね。ナズくん」
 やがて橙がおずおずと声を掛けた。
「身体拭いてあげる、ね」
「あ、うん」

 忘れていた。帰ってきて背中の傷はすぐ消毒して包帯を巻いたものの、さすがに風呂には入れなかったのだった。

「背中、本当に、ごめんね」
「いいよ。大丈夫だよ」
 このやりとりも今日で何度目だろう。
 やかんにお湯を沸かして、少し熱いぐらいのぬるま湯を作る。手ぬぐいを浸して硬く絞る。自分で拭こうとしたのだけれど、断られた。
「ふ、拭いてあげるの、わたしが、わたしが悪い、から……!」
 真っ赤な顔でそう言われてしまうとなんだか断れなかった。
 そのくせ、正面からは恥ずかしいと言って、後ろからそっと首筋を撫でるぐらいなのだ。
 布団の上にちょこんとあぐらをかいて座る。
 小さな小さな橙の手。
 くすぐったいぐらいの、遠慮がちでか弱い手。
 借りたパジャマの上から抱きつくみたいにして撫でられる。さっきからずっと同じところばっかり。
「……橙はさ」
「は、はいっ!」
 緊張した声が面白くて、思わずしょうもないことを口走ってしまった。
「私のうなじ好き?」
 ぴーんと尻尾が強張るのが分かった。頭からぷしゅーと湯気が出そうな感じ。
「にゃっ、にゃにっ、がっっ!?」
「さっきからずっとそこしか拭いてない。別にギロチンの上に立つ訳じゃないんだから、そんなに熱心に擦らなくてもいいよ」
 ひょいっと手ぬぐいを取り上げる。
「にゃ、にゃう……っ!」
「お返し」
「にゃっ、にゃうにゃにゃにゃぁあーーーー…………っっっっっ!?」
 悲鳴。だけど誰も助けてはくれない。
 くるっと前後をひっくり返してぎゅうって抱きついて、そのままごしごし拭きまくった。首、鎖骨、脇腹、手首足首わきの下。
「やぅっ、はぅ、にゃっっっ、んんぅ~、やぅにゃうにゃぁーーーーっっっっ!」
 これがまた、良い声で鳴くんだ。流石は猫。
 すごく涙目で色っぽくて、自分が何をしてたのか分かんなくなっちゃうぐらいに。
「はぁっ、んんっ、やぅ、だめ、ナズくん、だめぇっ……」
 いや、それ、拒絶のつもりでやってるんだとしたら逆効果だから。
 思わず真顔でごくりと生唾を飲み込むほどの色っぽさだった。
 手首を掴んで押し倒す。上に覆い被さって乗る。
「あ、そうだ、橙」
「にゃ、にゃに……?」
「私、背中痛いからこのまま寝かせて」
「へ、ふ、にゃににゃぅにゃ……!?」
 目を白黒させている。
「ん? どうしたの、橙」
 そう呼びかけてやって、ようやく日本語が出た。
「ひっ、卑怯だよぉ、ナズくんっっ!」
「卑怯で結構。褒め言葉だね」
 言うなりそのまま口付けた。今までにないくらいにゆっくりとたっぷりと時間をかける。
 小さく遠慮がちに舌先を躍らせる。柔らかな小さな唇の上、そっとそっと大切になぜる。溶けるような、淡雪のような口付け。
「っ…………ん」
 小さな橙の吐息。甘く聞こえる。それだけですごくどきどきする。心臓の音まで聞こえそうなぐらいに。
 すがるようにしてぎゅっとこちらのパジャマを掴んでいるのが可愛い。必死な感じがして、すごく可愛い。
 そっと服の上から橙の身体に触る。ほっそりとした腰。少女らしい肉付きの薄い太もも。腰骨の上から指を滑らせるだけでびくんと震えた。
「やぅっ、ナズくん、えっち……」
「えっちなの、嫌い?」
「やっ、そんなの、いじ、わる……」
 ぷい、と顔を横に向ける。ふてくされた様子でそっぽをむく。
 ちょっとだけ、橙の気持ちが分からなくなる。
 強引なのは嫌なのかな。あんまりこういうことに慣れてないのかも。ていうかまあ、初めてなのかもしれない。それなら、あんまりアクセル踏みすぎるのも考え物か。今日はただ寝るだけにしようかな。うん、焦ってもあんまりろくなことないかもしれないし。ま、急がば回れっていうからね。
「じゃ、おやすみ」
 そう言うなり、布団をかき寄せる。橙に乗っかったままでぐったりと身体の力を抜いた。
「やっ、ナズくん、このまま寝るの……?」
「ん。だって眠いし」
「ね、眠いしって……」
「物足りない?」
 ふぅって耳に息をかけてやる。それだけでびくんって身体が震えるのが分かった。
「やぅ……いじわるだよぉ……」
「いじわるは嫌なんでしょ? それなら何もせずに寝るさ」
 そう言うと、橙は口をへの字に曲げて困り切った顔をした。
「い……にゃう、にゃうぅぅぅ……」
 ふるふると首を横に振って、ぎゅっとしがみついてくる。

 か細い声。絞り出すように。

「藍さま、いないの、きっと今日だけ、だよぉ……っ」

 思わずがばっと起き上がってしげしげと橙の顔を見た。
 はい、もー、完全にスイッチ入りましたー。
 誰も止めないね? 止めるはずないよね? ここで止めたらもう生殺しどころの話じゃないよね? 死ぬよね、完全に? 
「にゃ……っ?」
 当の本人は目をぱちくりさせている。今の台詞の破壊力がどれぐらいかまったく理解してないんだ。
「いや、まさかキミの方からそんなこと言ってくれるとは思わなくて。ちょっと感動した」
「か、かんどうって……ふゃっ!」

 思わずまたキスを落とす。
 ちゅっ、くちゅっとわざと水音を立てて、少しずつ深く慣らしていく。
 混ざり合う唾液を甘く感じる。幸せそのものを液体にしたみたいな味。こくんこくんと喉を鳴らして飲んでいくごとに頭がとろけて流れていっちゃいそうだ。

「んんっ、やぅ、ナズ、くんっっ……せつ、ないよぉ……」

 無意識のうちにだろうか、少しずつ腰を動かしているのが色っぽくて頭がかぁっと熱くなる。感じていてくれているのがたまらなく嬉しい。

「……橙、ぬがすよっ」
「んっ」
 こくんとあどけなくうなずいた。パジャマのボタンを一つ一つ外していくのが面倒くさくて、上のふたつだけ外して、あとはバンザイさせて一気に脱がした。
「ふゃ……ナズくんもっ、脱いで」
「ああ、ごめんね」
 ばさりと脱ぎ捨てる。

 包帯だけ残して、互いの肌と肌が触れ合う。ほとんど膨らみのない胸どうしがこすれあう。暖かな体温を感じる。とくんとくんと心臓が高鳴っているのが伝わってくる。小さな生き物同士の、早い鼓動。

「橙の方がちょっとだけ大きいね」
「んぅ、だって、ナズくんに負けたらちょっとショックだよぅ」
「む、そんなこと言うなら私も努力しちゃうよ」
「ええ~! 駄目だよぅ、そんなの」
「じゃ、橙のを大きくしちゃおっか」
「ふぇ……? あっ、ふぁうっっ!」
 言うなり、手を這わせた。そっと柔らかなところへ掌を沿わせて、小さく回すようにする。
「かわいい、好き」
「にゃっ、はじめて、好きって言うのが、こういうときってずるい、ナズくんズルイっ!」
「良く気づいたね。すごいね」
 そんな風に流しながら、そっとそっと先端の僅かに尖ってきた濃い桃色へ舌を這わせる。
「にゃぁぅっっ!」
 ほんのちょっと舐めただけなのに、橙は本当に良い声で啼いた。
 その高い声を聞いているだけで頭の中ぐじゅぐじゅにかき回されたような気持ちになる。胸の奥のどきどきが止まらない。全速力で駆けたときみたいだ。
 そのまま手を下の方に伸ばす。邪魔な布地をするりと取り去る。
「やぅ、は、はずか、しい、よぉ……」
 脚の間をぎゅっと閉じるようにして、橙がしがみついてくる。
「こぉら。それじゃ上手く出来ないよ」
「だ、だって……わたしだけ、なんか、恥ずかしくて、ナズくんだけ、そんな風に慣れてるの、ズルイ」
「そりゃ、ネズミはズル賢いからね」
 しれっと答える。
「ふやぅ……」
 へなへなっと猫耳が垂れる。元気を無くしたみたいだ。
「ビビってんのバレないようにするので精一杯なんだ」
 そう言ってそっと橙の手を取る。薄い私の胸に当てる。
「ほら、心臓。どきどきしてる」
「ん……ぅ、ほんと、だね」
「好きだよ。それはホントだ」
「うぅ。ん、う~」
 もじもじして、なかなか答えてくれない。答えを促すように、頬に小さく口付けを落とした。
「橙は?」
「わっ、わたしも、す、……………………す、……………………す、、、、」
 残りのあと一文字が、そのあと一文字が、なかなか出ない。
 焦らされているみたいでこっちがどきどきしてしまう。
「……………………………………………………………………………………き」
 あまりにも長い沈黙だったから、最早何の言葉だったか忘れそうになるぐらいだ。
 でも、くしゃくしゃって頭を撫でてやる。
「よく言えたね、橙」
「ん、ぅ。ナズくんみたいに上手く言えなくて、ごめん、ね」
 よっぽど恥ずかしかったのか、ちょっと涙目になってる。ほっぺたをそっと舐めてやる。
「いいよ、可愛いよ。好きだよ」
「あう、にゃぅ……」
 恥ずかしそうに小さくうつむいた。
 そのままついばむようにしてキスをたくさん落としてやる。おでこに、まぶたに、鼻先に、両頬に、唇に、おとがいに、喉元に、鎖骨に。
「橙の全部、好きだよ。かわいいとこ、全部好きだよ」
「やぅ……んっ、ぁぅ、」
 胸の突起にもキスを降らせる。ぴくんと身体を震わせる。そっと手を伸ばす。全身をいとおしむようにして優しく撫でた。
「んぁ……ふぁっ、ん、にゃぅ……っ」
 愛らしい声に胸の奥がかき乱されて、ひどく幸せな気持ちになる。
 そっと脚の間に手を伸ばす。控えめに、でも確かにしっとりと濡れている。
 嬉しい。感じていてくれることが。気持ちいいと思っていてくれることが。
 まだ指を入れないでただ愛撫するだけにする。小さな花びらをそっと押し開いて、ゆっくりと乱す。暖かな液体にまみれてはいても、まだその清廉さを失わない幼い果実。少しずつ少しずつ慣らして、緩めていく。
「やぅ……んんっっ、ぁぅ、ナズ、くん、へんっ、なかんじ……」
「それが気持ちいいってことなんだよ、橙」
「そ、そう、なの、かなあ? む、むずむずしてっ、どきどきしてっっ! あぅ、やぁっ、へ、へんなこえでちゃうよぉ……」
「いいよ、声、出して……。橙の声、好きだから」
「にゃぅ……っ、ふゃ、あっ、ふあぁっっっ!」
 指を動かせば動かすほどに橙の声が高く艶めかしく響いていく。まとわりついてくる蜜もどんどん量を増していくみたいだ。
 最初は小さかった突起も少しずつふっくらとしてきた。わざとその場所を避けるようにして焦らす。くるくると円を描くようにして花びらだけをもてあそぶ。
「はあぅ……っ、やぁ、そこ、っ、ふゃぁ……」
 すりつけるようにして橙の腰が動いている。欲しくて欲しくてたまらないといった様子で、幼い性器をすりつけてくるのを見ていると、こちらもいてもたってもいられなくなる。
 濡れそぼった突起にそっと指を這わせる。先端を一撫でするだけでびくびくっと身体が震える。
「やぁっっ、あっ、そこ、ぁう、ふにゃぅぁあああっっっ」
 ますます欲しがるように、腰を押しつけてくる。充血してむっくりと勃き上がってきた先端を大切に大切に擦っていく。
「にゃあ、にゃっ、ふにぃぃ、やぁ、すきぃっ、にゃぁあああ…………っっ!」
 高みへ上り詰めるごとに声もまた切羽詰まって高くかすれる。息を荒くして興奮して、我を忘れて快楽に夢中になっている。蜜で溢れてどろどろになって、布団が僅かに冷たく感じるぐらいに濡れてしまっている。
「い、いれる、よ」
「んっっ!」
 こっくりとあどけなく頷いた。
 ぐいぐいと食いついてくるみたいな狭い蜜壷。指一本、第一関節を入れるだけで精一杯だ。
「やぅ、あっっっっんぅ……」
「いたい?」
「ん、んんっ」
 小さくかぶりを振る。けれどその表情は苦痛に歪められている。
「ごめんね、痛いよね」
 額に浮かぶかすかな汗。そっと口付けてやる。
「だ、だい、じょ、ぶ、だから……」
 こくんとうなずいてみせた。真っ黒な瞳を潤ませて、橙は言った。
「ナズくんに、はじめて、あげたいの」
 その言葉に胸が詰まって、何も言えなくなった。
 ただ万感の思いだけ込めて、うなずいた。
 慎重すぎるぐらい慎重に指先を埋めていく。途中で僅かに突き当たるものがあった。
「い、いく、よ」
 ぐっと力を込める。ふつりと簡単に奥へ。思っていたよりもあっけなかった。
「あ、っ、ん……」
 そのままそっと一番奥へ指先を届かせる。暖かくて湿った中をゆっくりとこじ開けて、彼女の心の奥まで届けばいいと願いながら指先を突き立てる。
「やぅ、っ、んんっっ」
 そのまま抽挿を繰り返す。快楽を出来るだけ掻き立てるようにして、膣の中を擦って乱す。反応を見ながら気を配って、出来るだけ気持ちよくなれるように、優しく動き続ける。
「ふやぅ、にゃぁ、あぁ、あっ、ふにゃう……」
 動けば動くほど心臓がどきどきして今にも飛び出そうな気がする。どうすれば気持ちよくなってくれるのか分からなくて、でも、彼女の声が嬉しくて。
「やぁっ、ナズ、くん、そこぉ……やぅっ、はぁっ、にゃぅやぅぅぅぅ……っっ!」
 反応が明らかに違うところを見つけた。右の奥の壁のところ。そこを重点的に攻めていく。
「ふぁっ、やぁっ、なんかっ、なんかきちゃう、やぁっっっ!」
「いいよ、ぎゅって捕まって。爪立ててもいいから」
「んんっ」
 こくんと頷く。背中に回される。さっき引っかかれたばかりのところ。傷だらけの背中。
 別にいい。彼女に傷つけられるなら、痛くたっていい。
 指先を躍らせる。その場所がぎゅっと締まる。
「やぁっ、ふやっ、やっ、やあっっ、にゃっっふにゃうやうやあああああっっっっ!!」
 びくびくっと全身を震わせて、やがて、橙はぐったりと身体を弛緩させた。
 そっと引き抜くと、赤いものが混じった液体がごぶりと吐き出された。

「大丈夫?」
「ん」
「がんばったね」
「にゃう……」
 とろんとした目をして、橙はふるふると首を横に振った。
「おやすみ。橙」
「ん……」
 二人で抱きしめ合ったままで、眠りについた。お互いの体温で温もった布団はいつまでもほかほかと暖かな感じがした。




 甘くとろけるような朝、起き抜けのぼうっとした頭で、すぐ隣の彼女を見た。
 真っ白な光が差し込んでくる中で、彼女の黒い耳が小さく動いていた。
 彼女の方も、起きたばかりみたいだった。
 こちらが見ているのに気づくと、少し耳をぴんと立てて、恥ずかしそうに布団の中に埋もれた。
「あ、あの、ね。今度、ていうか、いつか、でいいんだけど」

 もじもじと布団の端を指先でいじりながら、橙がつぶやいた。

「わたし、ナズくんの子供が欲しいな」











 で、だ。

 そんなわけでめでたく恋人同士になったわけなんだけど。

 さ、教えてよ。これは相談なんだって。
 どうやったら女の子同士で子供が出来るのかって。
 いろいろ試したけど、難しいんだよねえ。
 諸君らに相談なのは、どうやったらあの子を気持ちよく孕ませられるかってことなのさ。
 ねえ、ちゃんと聴いてるのかい? ……って、あれ? いつのまに君ら、かがみ込んでるのさ。
 こんな恥ずかしい話をさせておいて、何のアドバイスも無しなんてダメだよ!
(あとがき)
 たまには息抜きに頭も文体もかるーい、いちゃいちゃ萌え萌えなSSっぽい話を書こうと思って、虜コンペに出せなかったネタの一つをダイジェスト版で。しかし永遠に完成しないに一票。
 マルドゥック・スクランブルのウフコックとか、十二国記の楽俊とか、ナルニア国ものがたりのリーピチープとか、ネズミには良い奴が多いから、きっとナズくんも良い奴だと思うのでありました。
 ナズ橙は少女漫画的ラブコメが良いと思う。ナズくんって呼び方がいいんだよぉぉぉぉ(←脳内設定乙)
 橙は全ロリコンの期待の星。全ての理想を詰め込みました。淫乱猫耳幼女ッ! 淫乱猫耳幼女ッ!(←復活の呪文)
i0-0i
http://i0-0i.sakura.ne.jp/
コメント




1.名前が無い程度の能力削除
淫乱猫耳幼女ッ!淫乱猫耳幼女ッ!
橙かわいいよ、橙。
2.名前が無い程度の能力削除
猟奇か!と身構えたら甘甘だった。子作り研究に余念がないナズーリンかわいいよ。
そして淫乱猫耳幼女ッ! 淫乱猫耳幼女ッ!
3.小ネズミA(♂)削除
くっ……そんなお惚気エロ話された日には、前屈みにもなりまさぁ姐さん

淫乱猫耳幼女ッ! 淫乱猫耳幼女ッ!
4.削除
楽俊にリーピチープっ!
いい鼠の代表たちじゃないかっ!
淫乱猫耳幼女ッ!淫乱猫耳幼女ッ!
5.名前が無い程度の能力削除
全ロリコンの期待の星。星……だと……ッ!?
そう、ナズくん、ナズくんなんだよぉおおおぉぉ!!!
淫乱猫耳幼女ッ!淫乱猫耳幼女ッ!
全然感想になってないけど、そんな相談じゃ姐さん、前屈みにならざるを得ないッスよ。姐さん。
6.ののさ削除
普通にいいなぁと思ってたらコメで吹いたw
7.今川焼き削除
やばい、やばいよ!俺の中の何かが決壊したよ!
渓乱猫耳幼女ッ!渓乱猫耳幼女ッ!
細胞から精子作れるとどこかで聞いた。
いや、やはりここは生や(ry
では、最後に
渓渓渓渓渓渓渓渓渓渓渓渓渓渓渓渓渓渓渓渓渓渓渓渓渓渓渓渓渓渓渓渓渓渓渓渓渓渓渓
乱乱乱乱乱乱乱乱乱乱乱乱乱乱乱乱乱乱乱乱乱乱乱乱乱乱乱乱乱乱乱乱乱乱乱乱乱乱乱
猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫
耳耳耳耳耳耳耳耳耳耳耳耳耳耳耳耳耳耳耳耳耳耳耳耳耳耳耳耳耳耳耳耳耳耳耳耳耳耳耳
幼幼幼幼幼幼幼幼幼幼幼幼幼幼幼幼幼幼幼幼幼幼幼幼幼幼幼幼幼幼幼幼幼幼幼幼幼幼幼
女女女女女女女女女女女女女女女女女女女女女女女女女女女女女女女女女女女女女女女
ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
8.Keke削除
橙がかわいすぎるせいでちんぽもげた
ナズくんとか、反則だろおおおおおおおおおおおおお
とにかく最高でした マル
9.名前が無い程度の能力削除
縦読み、ッだけ少ないぞ!何をしているッ!まあそんなことは置いといて淫乱猫耳幼女ッ!淫乱猫耳幼女ッ!
あと、枕で仙孤思念てどうやるんだろ・・・枕投げたらいきなり爆ぜてそばがらぶちまけるのか?
10.名前が無い程度の能力削除
ナズくん…!!素晴らしい、これは素晴らしい!!!素っっ晴らしい!!
大事な事なので三回言いました。
11.七星削除
淫乱猫耳幼女けちからん!
淫乱猫耳幼女非常にけちからんッ!!
いんらんねこみみようじょぉぉぉォォォ!!!!!!!

うん、ナズくんも、悪くない、ね…(ダイイングメッセージ)
12.ぺ・ど四潤削除
淫乱猫耳幼女ォォォォ!!!!!!
某所でボクっ子ナズーリンを読んできてからこれを読んだらもう……
ナズくん! ナズくん! この半ズボンを穿いて!
13.名前が無い程度の能力削除
壁に頭をたたきつける勢いでGJ!そうでもしないと前屈み!!
小生興奮により只今来世分の残機まで出張中!
・・・・・でもみんな幸せになーれ。
14.名前が無い程度の能力削除
俺の中で何かが目覚めたわ
あと7番目に書き込んだ人淫の字違う
淫乱猫耳少女ッ!淫乱猫耳少女ッ!
15.名前が無い程度の能力削除
なずちぇん? が なずちぇん! になりました!!

この淫乱猫耳少女のせいで!!