真・東方夜伽話

eraudon12

2009/09/22 23:59:22
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eraudon12

紺菜
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    【注意書きをよく読んだ上でご判断してください】 
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         ~注意書き~



 本SSはeratohoを基に作成された二次創作物であり、
 作者のオリジナル要素が多分に含まれております。

 また、東方キャラに対する調教を行なう作品である為、
 表現上暴力描写、残酷描写も多く含んでおります。

 今回は特にグロテスク表現を交えた描写が含まれています。

 ここまでの文章で嫌な予感、悪寒、吐き気、頭痛、眩暈等の症状を感じた方は、
 即座にブラウザを閉じて充分な休息を取られることをお勧めします。

 その症状が見られない、もしくは興味を持ってしまわれた方のみ先へお進み下さい。



        ~注意書き終わり~























































































 仕事が終わった後には愉しみが必要だ。

 俺の場合分類上自営業になる訳だから、フルタイムで仕事か休日かの二択だ。
 ぐだぐだになりがちなんで、目処をつけてメリハリをつければ毎日のお仕事も楽しく出来るって寸法。

 まあ愉しみなんて限られてるからせいぜい酒をかっ食らう程度なんだけども。
 という訳で、一本に野口一人払って釣りが来る程度の安ワインをがぶ飲みしていた。

 グラスだなんてお上品なものは使わずにラッパ飲み。
 酒なんてものは酔えればそれで充分。
 味も香りも楽しむ気なんてさらさらないし、ついでに言えば安酒にそんな付加価値が付いて来るはずもない。

「ぐぇっぷ」

 三分の一程度を空けて、げっぷ混じりに赤く濡れた唇を拭った。
 ついでに目の前で目障りにちらつく長い耳をむんずと鷲づかみ。

「……あー、何さっきからまだるっこしい事やってんだよ下手糞」

「ぐふっ」

「俺が散々教えてっただろ? 男の咥え方ってもんをよ。
 未だにフェラの一つも満足に出来んの? いつまでイマラチオさせたい訳? 面倒かけんなよ愚図が」

 さっきからもたもたと俺のブツを舐めてた愚図の頭を、ぐいと持ち上げる。

 イナバとか言う兎。
 こいつを買い取って以後、イナバと書いて愚図と呼ぶ事に決定した。

 やっぱりこう、兎の耳ってのはこういう風に掴まれるためにあるのかね。
 生まれつき捕食が運命付けられてるだなんて。
 ざまぁみろだな。

「い、いたっ」

「いたっ。じゃねぇ。
 聞いてんのか? こっちがのんびりしようって頃合見計らって部屋に来やがって。その癖やる事が中途半端だなんてよーぉ。どうしようもねぇなお前は」

 顔を歪める愚図に構わず、掴んだ耳を手荒く振っておいた。

 ま、仕事以外の時間に部屋まで通うように言いつけておいたのは俺なんだけどね。
 それでも全く成長が見られん姿は苛々する。
 しかもがたがた震えていながら媚びるような上目遣い。
 そんな目の一つ二つで許してもらおうだなんて魂胆が気に入らねぇ。 

「さっさと続けろよ。俺をイかさねぇといつまで経っても終わりゃしねぇぞ?」

 卑屈な眼差しごと鈴仙を突き飛ばした。

「う……はい」

 床に倒れて涙ぐみながらも、愚図は身体を起こして俺の開いた股に擦り寄ってくる。

 けっ。
 お涙頂戴ってか。

 俺は鼻を鳴らして再度ワインをがぶがぶと呷った。

 俺はこの愚図が嫌いだ。
 やる事がいちいち同情を誘ってやがるのが無性に苛つく。
 目線は媚びている癖に、言われるまで何をすればいいかも判っちゃいない。
 フェラも下手、媚びるのも下手、察するのも下手。

 要するにどうしようもないただの愚図。

「うっ、うう。うぐ、うぇ」

 俺の一物をしゃぶっていやがる癖に、いつまで経ってもめそめそぐずぐずと泣きやがる。
 もう数えるのも馬鹿らしくなる程俺の一物を咥えておきながら、未だにこれだ。
 仕事の度にイマラチオで咽喉まで突きまくって犯してやってるってのに、呼びつけた時は先っぽ舐めたり申し訳程度に咥えて済まそうとしやがる。

 仕事外の時間とはいえ、楽をしようとするのは見過ごせませんね。
 俺はまったり休みを楽しむ時間だが、この愚図は仕事の時間だからね。

「ほらどうしたー。いつまでもちんたらやってると顎外すぞ。
 歯ぁ当てやがったら全部殴り折ってやるからな。あん?」

「う、ううぅっ……」

 ちらりと上目遣いに俺を盗み見たりしやがって、そういう行動にますます苛つかされるんでしかめっ面だ。
 眉間に皺を寄せた俺の顔を見て、愚図はようやく俺の一物を深々と咥え込んだ。

 ったく。
 ケツの一つも叩いてやらねぇといつまで経っても何にも出来やしねぇな、こいつは。

 覚えが悪ぃのならまあそれはそれで。
 こいつの場合はちょいと違う。
 覚えた事を手抜きしようってのが許せねぇ。
 だーれが仕込んでやったと思ってんだか。

「ほれ、ディープスロート。口だけじゃなくて咽喉使え、咽喉を。
 バキュームだよ、バキューム。口ん中唾溜めて吸うんだよ。ありがたーい汁が出るまでもっと気合入れて吸えよ愚図が」

「ぅご、ぐ、うぅっ」

 亀頭が咽喉の入り口の粘膜に擦れる。
 若干遅れてずるずると音を立てて吸い始める。

「そうだよ。やれば出来るってのに怠ける事ばっか考えてんなよ。
 今出来る事はすぐにやれ。俺が言う前にやらねぇからお前は愚図なんだよ」

 空いた足でわき腹を蹴る。
 つま先であばらの舌の柔らかい場所をえぐった。

「ごふっ」

 愚図は咳き込みはしたものの、何とか俺の一物を咥えたまま耐えた。
 吐き出したら蹴り倒してやろうと思ってたのに。
 どうして一々こいつは俺の期待を裏切りますかねほんと。

「どぉした止まってんぞー。だぁーれが休んでいいっつったよ?」

「……ぅ、ぐふ」

 怯え混じりの卑屈な目で見上げてくる愚図兎は、ゆっくりと頭を動かし始めた。
 舌を竿に這わせて舐めながら、亀頭を粘膜に擦り付ける。
 きゅっと締まる感覚は咽喉を塞いでえづいてるからか。

 こっちはそれがいいんだからさっさと窒息寸前まで飲み込めっての。
 一々指示出さなきゃフェラも満足に出来やしないだなんて。
 あー、やだやだ。
 これじゃあどっちが休んでるんだか判りゃしねぇ。

「おぐふ、ぐ、ぐぅっ、はぐっ」

「もっと速くぅー。頭ピストンさせろー。まーだ勘違いしてんのかお前は? お前は俺の買われた肉便器だろうが。
 お前に口と舌があるのは喋る為でも物を食う為でもねぇんだ。俺のちんぽ咥え込む為についてんだよ。
 お判り?」

「う、ううう、うううう」

「泣いてる暇があったらご奉仕に精出せ。針でぶっすりいかれてぇのか」

「うううううう」

 咽喉まで咥え込んでおきながら、めそめそと湿っぽい。
 湿っぽいのは上と下の口だけで充分だっての。

「目に余る愚図だよお前は。出るぞ。おっ。ちゃんと全部飲めよ。おっ、おっ。
 溢したらお前、今度はクリトリスにピアスぶら下げる事になるぞ、おっ」

 ようやくやってきた射精感をそのままに、愚図の口の中に吐き出した。
 射精の直前に首を反って逃れようとしたんで、頭を鷲づかみにして引き寄せた。

「んご、ご、ぉごふ」

 股間に押し付けたまま、咽喉の奥まで一物を押し込んで射精する。

 ……ふいー。
 俺って優しいなぁ。
 咽喉に直接流し込んでやったから、吐き出すなんて事もねぇ。
 下手に吐き出されたらパンツが汚れちまうからな。

「お、おお。おぐっ」

 時間をかけて射精を楽しみ、のんびりと余韻にも浸る。
 愚図な兎は白目を剥きながら痙攣を始めていた。

 イッた直後にその震え具合が丁度いい。
 咽喉が詰まろうが知ったことか。
 便器が詰まったらがっぽんするだけの話だ。

「ほ、ら、よっ、と」

 ぶちまけたザーメン(と胃袋のもんとか)が逆流して来ないよう、しっかりと咽喉奥まで突き上げてやってから引き抜いた。
 耳と髪を鷲づかみに、床の上に放り出す。

「ごへっ、げっ、げへっ、おげっ」

 呼吸困難になってるんだか胃がひっくり返ってるのかしらねぇが、咳き込む愚図を蹴り転がす。

「吐くなっつったろーがよ。人様の部屋汚すんじゃねぇよ糞が」

 口元を押さえて床の上で丸くなった愚図を、つま先でごつごつと蹴りつける。
 暴力に怯える癖して耐え凌ぎ方は心得たもんだ。
 柔らかい腹を腕や肘でしっかりと守ってやがる。

 俺は構わず庇った腕の上から何度も蹴りつけてやった。

「やめ、げ、やめでくだはい、おねが、お願します、痛いの、やべで」

 何か言ってるけど聞こえなーい。
 この手の口は痛くしねぇと覚えやがらねぇからな。
 甘い顔してると明日やる明後日やるで、結局いつまでも先延ばしだ。

「ほんっとーにお前は人様に迷惑ばっかりかけてやがんな。おら。
 物なんだからさっさと諦めて使われてりゃいーんだよ。おら。
 お前みたいな不良品の中古を、俺がわざわざ人並みレベルに修理してやってんだよ。おら。
 無駄にでかい耳付けてる癖に聞こえてねぇのかよ。おら」

 ごつごつごつごつごつ。
 硬いつま先で蹴り続ける。
 腕を狙って蹴り続ける。

 幾ら腹に比べて腕に当たった方がマシだっても、立て続けに蹴りゃあ堪える。
 こっちも小刻みにちゃんと骨まで響くように蹴ってやる。
 腕を下げれば胃をでんぐり返してやる。

「いだ、いだいでずお願い、お願いやべてくだざい、お願いじまずやべて」

「泣き言なんか聞いてねぇーんだよ。おら。
 吐くなっつっただろうがよぉ。おら。
 お前何一つ満足に出来もしねぇーなーぁ? おら。
 そんなだからいつまで経っても愚図なんだよ。おら」

 愚図の癖に意外と粘り続けるんで、俺は足を持ち上げた。
 つま先から踵へシフトチェンジ。
 ごつんと一発蹴り落としてやったら根を上げるだろうよ。
 そこで腹に一発トーキックといきましょう。

 ゴスドボグシャアだ。

 足を持ち上げると、愚図はもう泣き喚いて許しを乞うたりしない。
 俺がどうするかをようやく理解して、泣き喚こうが何を言おうが糞の役にも立ちゃしないって気がついたみたいだな。

 恐怖に強張った眼差しで俺を見上げて、口元にザーメンを貼り付けてぶるぶると震えていた。

 そうそう、これこれ。
 これが見たかったんだよ。
 俺に怯えて恐怖する姿。

 お前はゲロでも盛大にぶちまけて、俺に虐待されるネタでも作ってろ。

「ほんっとーにお前はよーぉ」

 足元に見つけた虫けらを踏み潰す眼差しで、俺はにやりと口元を吊り上げた。

 とりあえず見つけたら即踏み潰す。
 俺ってばそういうの大好きなのねん。

「どうしよーも」

「おい」



 あ?



 ずしんと重い衝撃が後頭部を襲った。

 くわんくわんと頭が揺らぐ。
 鈍い痛みと揺れる視界。
 深く浸透してきた衝撃で頭の軸がたわんでいる。

 よし。
 耐えた。

 まだ意識は飛んじゃいねぇ。

 畜生なんだ。
 くそったれ。
 痛い?
 重てぇ。
 頭が。
 殴った?
 殴れられたのか。

 誰が?
 俺が。
 よし殺す。

 殺る気満々で振り向いて、身体の動きに足がついてこねぇ。
 ふらふらとよろめきみっともなく前のめりになりながら、何とか目の前のベッドにすがりつく。

 定位置にある腰のナイフが引き抜けねぇ。
 握り締めようにも手が震えて上手くいかねぇ。

 ベッドにすがりついた俺に出来たのは、頭を持ち上げてブレた視界で俺を殴った奴を見上げる事だけだった。

「畜生くそったれマザーファッカー」

 とりあえず悪態をつきながら睨みつける。
 どこのどいつか知らねぇが頭の天辺からつま先まで寸刻みにしてやる。

 俺を後ろから殴った奴も、俺を睨みつけていやがった。



 あ?

 俺だった。



「誰だこんなとこに鏡なんざ置いがべっ」

 俺は踏み潰された蛙みてぇに鳴いて這いつくばった。
 最後まで言い終えるのも待たずに、俺の背中を俺が素早く踏みつけやがった。

 鏡じゃねぇじゃん。
 枠がねぇよ。
 気がつくの遅ぇよ。

 今度の痛みは頭を殴られたのよりも鮮烈で、痛みからどこを蹴られたのか判った。
 心臓だ。
 背中から容赦なく体重乗せて踵で踏み抜いてきやがった。

 しかもこっちが喋ってる途中じゃねぇか。
 流石俺。
 俺が相手でも容赦ねぇ。

 的確な撲殺の仕方って物を心得てる俺に思わず関心したりしつつも、反撃の余地がない事も悟っていた。

 これは耐えられねぇなぁ。

 心臓を踏み抜かれて――背骨が砕けちゃいねぇと思うんだが――血流だか何だかとにかく重大な事になっちまってる。
 夜が落ちる速度で目の前がブラックアウトしていく。

 痛ぇ。
 それよりも眠ぃ。

 痛みなんて気付けどころか屁のツッパリにもなりゃしねぇ、強力な眠気に襲われる。
 これは落ちたら最後もう目が覚めねぇ類の眠気で、ついでに言や抗えねぇのも理解していた。
 手足の指先からぴりぴりと痺れてその痺れごと無くなって行く感覚。
 俺の全身の細胞が急速に死んでいくのが判った。

 だから睨み上げた。
 俺を殺す俺を睨みつけて、叶うなら罵声の一つでも浴びせてやろう。
 イタチの最後っ屁だ。

 睨み上げた先にいる俺は、何故だか真っ赤なジャケットなんざ羽織ってやがった。

「俺のレイセンに手ぇ出してんじゃねぇよ」

 は?

 今時赤いジャケットとかだっせぇ。

 とか言うつもりだったのが先手を取られちまった。
 数一〇秒だかそれくらいの余命を使って悪態をつく前に、ふと考えちまった。
 
 そういや
     あの愚図  
                            そんな名前



 だったっ


 け



「死ね」



 はいよ。









 目覚めた視界に映るのは部屋の天井で、俺は椅子ごとぶっ倒れた格好で仰向けになっていた。

 寝る直前の記憶は趣味の物書きに励んでいる所で、そこからぶつりと途切れている。
 多分眠気にやられて意識が途中で落ちたんだろう。

 そこから後は恒例になっていた悪夢の類が続いていた。

「くそったれ。いい加減しつこいんだよ」

 とりあえず悪態をつきながらだらだらと起き上がる。
 一緒に起こした椅子に座り直して、改めて記憶に絡む夢の内容を思い返した。
 
 永琳てゐと来て、狙い澄ましたようにお次がレイセンか。
 薄々そんなこっちゃないだろうかと思ってた訳だが、見事に的中だ。

 冷静に考えれば悪夢、って程でもねぇ。
 内容としちゃ、以前見た夢の方が一般人にはきついんだろうよ。
 俺は首絞めファックだろうが四肢切断だろうが、カニバリズムだってなんでもござれだ。

 するかしないかの理由は、倫理より面倒か否かというだけ。

 人として終わってるね、俺。
 ひひ。

 それに拒絶が出るってのは、魔法の所為だ。
 鏡に向かってかける自己暗示。
 レイセンを愛して止まないこの魔法のおかげで、普段屁でもねぇ事が大事になっちまう。

 レイセンを愛してたら、普通、どう考えたって夢に見た類の真似はしない。
 本人に直接は当たり前で、別人なら誰だって構わないって訳でもない。

 あれだ。
 普通、顔見知りとかが目の前で手足ぶった切られたり絞め殺されたりするのを見てて、気分がいい訳がない。
 レイセンは俺なんかよりもよっぽど真っ当な訳だし。
 愛情を持って接するなら、他人に対してもある程度の寛容を持つのが当然。
 少なくともてゐや永琳に対してもね。

 その中で差別的に扱うってのならOK。
 特定の誰かに対して特別に目をかける。
 それが愛情だ。

 愛する者の為なら寛容にもなり、狭量にもなる。
 俺の規格はそうだって事。

 しかしまあ、なんだって急に夢なんざ見るようになったんだろうね?
 心当たりは有り過ぎて判らん。
 早漏薬とか何とか、元々ポンコツの上に体質を弄ったり色々してるからなぁ。
 いよいよぶっ壊れる予兆って奴なのかしらん。

 原因は判らんままだが進展はあった。
 夢の中にいる訳だが、俺の意識も多少は反映する事は出来るようだ。

 精神物理学なんてものは流石に学んでいないので、どういう構造と条件でそうなるのかは判らん。
 要はあれだ。
 努力と根性って事か。
 後は覚悟も決めれば大概の事はどうにかなるもんだ。

 で、その結果があの内容ってとこか。

「俺グッジョブ」

 主観は殺される側だが、あれを阻止するんならなんだって良い。
 姿形は俺でも今の俺とは違うなら、それはただの別人だ。
 レイセンを虐待するような奴は死んでいい。

 ……うん。
 今日も魔法に不備はない。
 愛情が迸って絶好調だぜ。

 にしても。

「あの程度でこれかよ」

 夢の内容を今一度思い返して、げんなりとため息を洩らした。

 何が滅入るって、初対面の頃の対応とそれほど変わっちゃいない辺り救いようがない。
 てめぇに魔法を掛けずに過ごしてたら、今頃ああなっちまってたんだろうなぁ。

 俺にとってまあ普通の域を越えない内容でも、相手がレイセンだと堪える。
 永琳を風呂に沈めたり、てゐの手足を切断するのはまだいい。
 拷問一つにそんな手間隙掛けるのは面倒くさいからやらないだろうとかなんとか、まだ夢と割り切れる。
 イマラさせたり蹴り転ばしたりなんてのは普通にやってそうだ。

「夢の中の俺にゃ頑張ってもらわねぇとな」

 これだけ続いた悪夢がこれを境にぱったり止まるなんてのはちと考えにくい。
 これからも続くだろうし、下手すりゃ死ぬまで続くんだろうよ。
 そこまでいったら呪いの類だわな。

 それならそれで構やしない。
 恨みなんて腐るほど買ってるし、今更一つ二つ多めに被ったとこでどうってこたぁねぇ。
 憎まれっ子世に憚って害悪を垂れ流し続ける為にも、死ぬまで徹底抗戦するだけだ。
 意地と根性と欲望で今まで生きてきたようなもんだしな。

 生き方に疑問なんて生まれないし、他人を蹴落とす事に迷いはない。
 欲望には正直に生きた方が生き易いのが世の中だ。
 俺の欲望はいつだって全開で留まる事を知らない。
 おかげさまで首輪を付けられてこの有様だが、現状に不満はそれ程ない。

 生まれながらにして不平等が決定付けられている訳だから、どこに行っても似たようなもんだ。

 こわーいボスの顔を思い浮かべて席を立つ。
 顔面を良くマッサージして、凝り固まった眠気を解していく。
 頭に浮かんだボスのおかげか、眠気はすっきりきっぱりと消えて失せた。

「良し」

 なにが良しって訳じゃねぇ。
 ただの合いの手だ。

 軽いストレッチで固まった筋肉を解したりしている内に、ドアがノックされた。

「……ご主人様?」

 おや。
 レイセンの来訪ですね。

「起きてますよー」

 俺はドアの向こうにいる愛するお姫様に声を掛けながら、口元を撫でた。
 レイセンの顔を見てちゃんと普段通りに笑っていられるように。
 強張った笑みなんか見せたら、心配の種をまた一つ増やしちまう。

 ただでさえレイセンの前で色々仕出かしちまってるから、どうも勘ぐったりしてるみたいだしな。
 より一層引き締めていかなきゃボロが出る。

「入っても、いいですか?」

「勿論」

 さて。
 今日も精々張り詰めて生きるとしますか。



xxx  xxx



 私は身支度を整えてすぐにご主人様の部屋へと向かった。

 ご主人様からはいつでも部屋に来てもいいと言われていたけれど、やはり毎日のようにご主人様の部屋で寝泊りするのは色々と気になる。
 その、周りの目が。
 今は師匠やてゐもいるし、ご主人様自身毎日私の相手ばかりをしている訳でもないのだから。

 それでも、ご主人様の様子が気になってしまう。
 少し前、床を同じにした時に具合が悪そうだったし、あれからそういう様子は見えないんだけど。
 けれど胸騒ぎがする。
 気になって私の頭から完全には不安が拭い取れずにいた。

 それは多分、

『イナバか』

 あの時の声が今でも耳に残っているから。

 まるで知らない誰かを見るような冷たい瞳。
 暴力的で粗野な口振りと行動。
 私が男に対して嫌悪していた印象をそのまま形にしたような姿だった。

 それはある意味、初めてご主人様と相対した時の印象とも似ているかもしれない。
 けれど一点だけ、決定的に異なっている点が一つ。

 ご主人様は、いつでも陽気に笑っていた。
 もうすっかり染み付いてしまった軽薄で意地悪で、後時々優しくもあるあの笑みが抜け落ちてしまっていた。

 だから、いつまでも別人に成り代わってしまったという印象が抜けない。
 ご主人様を心配をしている一方で、私は安心したいんだと思う。
 あの笑みを見て、別人なんかじゃなくてやっぱりご主人様なんだと確認したがっていた。

 そして、私はご主人様の部屋の前に立っていた。

「……ご主人様?」 

 ノックの後の呼び掛けに、

「起きてますよー」

 ご主人様の軽快な声が返ってきた。

 なんとなく、ご主人様はもう目を覚ましているだろうという思いはあった。
 床を同じにした日以外は、いつだってご主人様の方が早く目覚めていたのだから。

「入っても、いいですか?」

「勿論」

 二つ返事で許可を得て、私はその場で小さく深呼吸をしてからドアノブをひねった。
 ご主人様は椅子を戸口に向けて座っていた。

「や。おはよう」

「おはようございます」

 短い挨拶の後、部屋の中に足を踏み入れる。
 ドアを閉めて、部屋に二人。
 ご主人様は以前とは少し違う、普段の笑みを浮かべていた。

 へらへらと軽薄な感じの笑い方とは違う、穏やかな笑み。
 二人だけになった時に向けられるその笑い方に、私の胸にあった痞えがふっと消えていくのを感じた。
 同時に気恥ずかしさが生まれて、私は黒い瞳から視線を逸らした。

 もし、この笑みが私だけに向けられているものなのだとしたら。
 ご主人様の笑みが独り占めに出来ているのだとしたら。

 うあ。
 私、何考えてるの……。

 不安も忘れてそんな事を考えてしまうなんて。
 我ながら凄く現金な話だ。

「どしたの?」

「い、いえっ。なんでもないです」

 裏返りそうな声を必死に抑えて、私は両手を前に突き出した。
 それでもやっぱりご主人様の顔を直視が出来ず、顔を伏せて視線を前髪の奥に隠したまま。 

「そ。ならいいや。
 朝飯に呼びにきてくれたのかな?」

 軽く流されて用件を訊ねられた。

 良かった。
 上手く誤魔化せたみたいだ。

 けれど私は口ごもってしまう。

「ええと、その」

 ここに来た理由はご主人様の様子が気になったからだけど、目的は別にあった。
 目的、と言うか。

「……あの」

 言葉にし難いんだけれど。

 ちらりと視線を上げてご主人様を盗み見る。

「ん」

 穏やかに笑みを浮かべたまま、ご主人様は少し首を傾げて私の返答を促した。

 いつまでも答えないままには行かない。
 ここに来たのも、もう少し積極的になろうと決めたからなんだから。

「ひ、一口頂きに来ましたっ」

 私は咽喉に詰まっていた言葉を押し出した。

「……ん?」

 ご主人様の首の傾斜がさらにきつくなった。



 発端は数日遡る。
 師匠がこの場所に来る直前辺りの話。

 いつも朝早くに広間で食事の支度をしているご主人様の姿がないから、部屋に呼びに行ったあの時。
 ドアを開けると――その、筆舌しがたい光景に遭遇した、あの日。
 後でてゐの部屋に赴き訊ねてみた。

『ちょこっとてゐから朝の挨拶があっただけヨ』

 ご主人様の言う挨拶とは一体どんなものだったのか。

『可愛がってやったのよ。お口で』

 てゐはにやにやと笑いながら、綺麗なピンク色の舌を出して見せた。

『あいつ単純だからね。ちょっと一舐めしてやればその気になってほいほいやってくるわよ。
 鈴仙も溜まった時は試してみたら?』

 艶めかしく舌なめずりをして、てゐは椅子の上で胡坐をかいて笑った。

 そんな事があった。



 などという事があったとは、勿論ご主人様に言えなかった。

「……」

 この部屋に訪れた理由や目的も頭から吹き飛んでしまい、今はただ、目の前の光景に釘付けになってしまっていた。
 ご主人様のパンツからこぼれ出す勢いで露になった男性器。
 反り返った陰茎には血管が青い筋を描いて浮かび上がり、ぴくぴくと小さく脈打っている。

「そうまじまじと見入られると、ちと照れるね」

「あ、すいません」
 
 視線を上げると、椅子に座ったご主人様は苦笑いを浮かべて鼻の頭を掻いていた。

「ま、無理しない程度に。好きなようにやってみてよ」

「は、はい」

 ごくりと生唾を飲み込む。
 以前フェラチオをした時は口に含む事さえ出来なかった。

 でも今なら。
 今なら、あの時とは違う……と思う。
 ご主人様の精液を顔で受け止めて、さらに(少量だけど)飲む事だって出来たんだから。

「それでは……失礼、します」

「どうぞー」

 促され、まずは手で触れる。
 手で触る分には心配は要らない。
 硬く反った陰茎に指を添え、手の平を使って擦った。

 以前お風呂場でした時は石鹸やローションがあったから滑りは充分だったけれど、何もつけずに擦るのはどうなんだろう。
 強く握ってもいいんだろうか。
 ちらちらとご主人様の様子を窺いながら、熱く脈打つペニスを擦り続ける。

「気持ちいいよ」

 ご主人様はにこりと笑って私の耳元を指先で掻いてくれた。

「……」

 自分がしている事と、髪を撫でられる優しい手つきに私は目を伏せた。
 顔が一気に火照ってしまっていた。

 硬くなったペニスには、骨というより筋のようなものを皮膚の下に感じる。
 こりこりとした筋を指で解しながら、ジッパーの奥に見え隠れするものに気づいた。

「あの。こちらも触った方が、いいんでした…よね?」

 陰茎の根元にくっ付いている皺々の袋。
 ここであの精液が作られているという。
 男性器の違いは見れば見るほど不思議な形をしている。

 ご主人様から見ると、やはり女性器は不思議に見えるんだろうか。

「そうさね。引っ張り出してごらん」

「……はい」

 つい物思いにふけっていたところをご主人様の声で我に返り、言われたようにジッパーを根元まで下ろしてそれを取り出した。
 ぽろりとこぼれた陰嚢を掌で受け止め乗せる。
 ぽよぽよというか、くにゃくにゃというか。
 相変わらず独特の触り心地だ。

「ええと。こっちは丁寧に扱った方が良かった、んですか」

「そうだねぇ。どんだけ屈強な大男だろうが、ここを机の角でこつんとやっただけで内股にうずくまるくらいのもんかな。
 だからいざって時はここを狙えばいいの。レイセンの握力でもぐっと握り込めばそれだけで悶絶するからね。
 追撃に膝や踵を入れたりすればパーフェクト」

「そ、それって」

 急所そのものじゃない。

 確か以前てゐが指で弾いたりしてご主人様が悲鳴を上げていたけれど、今の説明を聞く限り、あれはまんざら大げさな訳ではなかったのかもしれない。

「女子供が身を守る時には、ここを狙えばいいって事よん。
 ……俺が言った事、二人だけの内緒話だよ? 世の男どもの耳に届けば、よくも弱点を教えやがったなって怒り狂うからね」

 ご主人様は囁くように、そんな本気とも冗談ともつかない言葉を耳打ちしてきた。

「判りました。秘密にしておきます」

 てゐの耳に入れば間違いなく広まってしまうだろう。
 ここでご主人様以外の男と接する機会は今や殆ど無きに等しいけれど、もし外に連れ出してもらった時に、ご主人様が襲われてしまったりしたら困る。
 それにご主人様と何か秘密を共有するというのが、少し嬉しかった。

 私の緊張が少し和らだ気がする。
 小さくはにかんで、硬い陰茎を強めに握って擦りながら、しわくちゃの陰嚢は丁寧に大切に指を絡めて揉んでいく。
 ご主人様も笑い返し、私の髪を一房手の平で掬い上げて指に絡める。
 髪の毛を撫でられるその事自体よりも、私の髪がご主人様の手で大切そうに扱われているのを見る事に、胸が熱くなるのを感じた。

 ええと、確か……。

 私は過去の記憶を探る。
 てゐがここに来て間もない頃。
 急に積極的になったてゐに、ご主人様が男性について色々と説明をしていた。

 こ、この棹の部分を握って。

 手の平で裏側に浮いた筋を擦りながらも、指を円周に沿って添えて軽く握る。

 それから、余り強く握らない程度にして……。

 強くした方がいいのは、きっとローションなどで滑りが良かったからだろう。
 握り込まずに、かといって弱くなり過ぎないように調節をする。
 どのくらいの加減が良いのかは、ご主人様の様子を確認しながら窺った。

「……うん。いいよ」

 ご主人様も手探りで最良を探す私に気づいてか、頷いて髪にキスをされた。

 う。

 思わず手に余分な力が入りそうになって、私の腕が強張った。

 相変わらずご主人様は意地悪。
 けど。

 私はどぎまぎしながらも、一度深呼吸をして身体の力みを抜いた。

 こういう意地悪は、嫌いじゃないと思う。 

 柔らかく、適度に圧迫を。
 包むように、絞るように。
 動きに緩急をつけながら、手でご主人様のペニスを愛撫し続けた。

 やがてご主人様のペニスの先端から、

「あ……」

 透明の液体がじわりとにじみ出てきた。

 気持ちがいいと溢れてくるその液体。
 濡れるのは女も男も一緒。
 垂れてきたその粘液が、陰茎を上下に扱く私の指にも絡んだ。

 にちゃりと指に絡みついて音を立てる。
 薄かった匂いが濃さをまして私の鼻に届く。
 この独特の匂いが、男の人の匂い。
 
 始めは生臭くて嫌な匂いに感じられていたけれど、今は違う。
 何度も何度も繰り返し浴びた、ご主人様の匂いだ。

「はぁ」

 自然とため息が洩れた。
 この匂いを嗅いでいるだけで頭の芯が痺れてくる。

 この匂いをもっと感じたい。
 もっと近くで。

 私はいつの間にか身を乗り出していて、濡れたペニスが目の前にあった。

 大丈夫、かな。
 ……大丈夫。
 きっと。

 濃厚なご主人様の匂いに誘われるまま、私はそろそろと顔を近づけた。
 唇から差し出した舌の先で、ちろりと小さく舐めてみる。

 舌先に絡んだ粘液は、少ししょっぱかった。

 ……。

 舌を引っ込めて、白く濁りだした粘液を口の中で味わってみる。

 おえってえずいたりしない。

 匂いと比べると薄い程のその味に、私の身体は拒絶しなかった。
 それがを境に、ご主人様のペニスに口をつける不安が取り除かれた。

「ん…んっ。ちゅっ、は、ちゅむっ」

 唇を鳴らしてキスをする。
 ご主人様のペニスに唇を押し付け、粘液を吸い上げては舐め取る。
 赤くなっている先端に何度もキスをした。

「気持ちいいよ、レイセン」

 ご主人様は和んだ笑みを浮かべて、私の髪を撫でる。
 垂れ下がってくる前髪に指を添え、私の肩に掛けてくれる。
 私はそれが嬉しくて、ペニスへのキスで応えた。

「もっと、ちゅ。頑張りまふ、から。んっ、んっ。もっと、気持ち良くなって…くらはい」

 すぼめた唇で吸い、口の中で混ざった粘液と唾液を舌に乗せて這わせる。
 私の唾液とご主人様の粘液で、手の滑りが増していく。
 潤滑液を得た事で、私は少しずつ手に力を込めて強く扱いていく。

「ご主人さま、はむ、んっ。ご主人さまの、匂い。んっ」

 口の中に広がったご主人様の匂いが、鼻の奥まで届く。
 ふわふわと空に浮かんでいるような懐かしい感覚を感じながら、ご主人様に奉仕した。
 
 嫌悪感なんてない。
 奉仕をする前に感じていた不安感も、羞恥心もどこかへ飛んでいってしまった。

 私の手で、口で、ご主人様が気持ち良くなってくれている。
 感じてくれている。
 それが嬉しくて、私は遠慮を忘れてご主人さまのペニスにむしゃぶりついた。

 唇を使って、陰茎をはむと咥える。
 咥えたまま顔を上下に動かす。
 手は根元に置いてペニスの位置を固定しながら、筋を指先でこねる。
 片手で陰嚢も揉み続ける。
 くにゅくにゅと弾力に富んでいたしわくちゃの袋は、徐々に縮んで固まるような変化を見せていた。

「ぷあっ」

 一度口を離して空気を吸い込む。
 空気と一緒にご主人さまの匂いも流れ込んでくる。
 私の頭はどんどん蕩けていく。
 身体の内側からこみ上げてくる熱に浮かされながら、私は蕩けた頭で考えた。

 ここだけじゃなくて、もっと。
 ご主人様が感じる所は。

 今も透明の粘液がとろりとあふれ出している先端が目に留まった。

 確か、ここが一番刺激が強いって。
 私たちの、クリトリスと一緒だって。
 聞いたような気がする。

 私もそこを弄られるのが好きだ。
 指でされるのも、淫らな道具でされるのも、舌でされるのだって。

 だからここを舐めたりすれば、もっと気持ち良くなって貰えるに違いない。
 私は赤剥けの先端部分に口を押し付けた。

 濃厚な匂いにくらくらと眩暈がした。

 そのまま飲み込むような真似は出来なかった。
 頭の中はすっかりとろとろになって締まっていたけれど、まだどこかで抵抗が残っている。
 だから、代わりに吸った。
 かぷりと先端を口に含んで、唾液と粘液を音を立てて吸い上げた。
 
 じゅー、じゅーとおみおつけを行儀悪く啜るように。
 普段なら絶対にしない真似をしながら、ご主人様のペニスに吸いついた。

「レイセン、いい。いいよ。尿道の中吸い出される」

 耳に届いたご主人様の声が少し上擦っている。
 気持ちいい。
 気持ち良くなってもらえている。

 私は嬉しくなってもっと強く吸った。
 吸った後には舌を使い、溝を見つけたから尖らせた舌先でなぞった。

「く。おっ。そろそろ、離れて」

「はむん?」

 耳にしたご主人様の言葉の意味が良く判らなかった。

 どうして?
 離れちゃ駄目。
 気持ち良くなって貰ってるんだから、もっと吸わないと。
 吸って、舐めて、握って、揉んで、こねて。
 もっともっと気持ち良くなって欲しい。

 だって、私はまだこの人に全然返していないから。
 沢山気持ちよくして貰ったから、私も沢山気持ち良くしないと。

「レ、レイセン」

 ああ。
 レイセンって。
 ご主人様が私の名前を呼んでくれる。
 私の名前。
 本当の名前。
 発音が違うだけなんて些細な違いなのに、それを律儀に守り続けてくれている。
 嬉しい。

 だから、私はますます強く吸った。
 先端をじゅうじゅうと吸いながら、陰茎をごしごしと擦った。
 精液の出が前よりもっと良くなるように、陰嚢をこねて揉んだ。

 私の口も、手も、身体も全てご主人様のもの。
 私がご主人様と呼ぶのはこの人だけ。
 愛してくれるこの人に、尽くそう。
 身も心も差し出して、私の全てをご主人様のものにしてもらおう。

「レッ、イセ」

 顔が両手で挟まれる。
 強張って小さく震えているのが判る。
 このまま力強く引き寄せられそうにも、押し退けられそうにも、どちらにしようか迷っているようにも感じられた。

 大丈夫です。
 まだ上手く出来ないかもしれませんが、いつかちゃんと出来るようになりますから。
 だから、ご主人様の好きなようにして下さい。

 それを言葉に出来ないまま、奥歯を噛み締めるご主人様に私は上目遣いに視線で訴えた。

 何かを堪える表情で、ご主人様が私を見る。
 ご主人様の手が――親指が、私の瞼をなぞった。

 私の顔を挟んでいた手がゆっくりと離れて、その直後に何かが口の中で弾けた。

「おっ、くっ。ぐ」

 ご主人様がうめき声を上げて、身体が震える。
 射精している。
 私の口の中で。
 私はぼんやりとしたまま、勢い良く注ぎ込まれる温かな精液を口の中に感じていた。

 押し付ける事も、押し退ける事もされないまま、私は勢いに負けないように吸った。
 口の中に溜まったぷるぷるとした精液が、舌に、歯に絡まる。
 気が遠くなってしまいそうな程濃厚な匂いが口の中いっぱいに広がって、私の意識も身体も心地良く痺れさせた。

 沢山。
 私の口の中いっぱいに、ご主人様が。
 出してくれた。

 さっき舐め取った粘液とは全く別のように感じられる。
 濃厚でどろどろで生臭くて、とても口の中に入れるものだとは感じられない。
 それでも吸い上げた。

 飲んだりするようなものには思えない。
 咽喉に絡んで咳き込みそうになったけれど、何とか飲み込んだ。
 こく、ごくと咽喉を鳴らしながら嚥下した。

 射精が緩やかに続く中、ご主人様は私の耳の付け根をくすぐるように掻いていてくれた。

 ご主人様は肩を落として長い吐息を吐き出す。
 少し腰を引いた拍子に、ちゅぽっと私の口からペニスが離れた。
 唾液よりももっとどろっとした、粘っこい白い糸を引いた。

 ご主人様に遅れて私も大きく息を吐き出して、口の中に残っていた精液が少しこぼれた。
 床にぽたぼたとこぼれて白い水玉模様を描く。
 いつの間にかご主人様の腰にしがみついていた私は、奇妙な虚脱感に襲われぺたんと尻餅をついた。

「はぁ。はぁ。はぁ――」

 絶頂をしたのはご主人様で、私は奉仕をしていただけ。
 それなのに陶酔感を伴った余韻が残っている。
 何もしていないのに軽くイッてしまったような、不思議な感覚。

「はぁ。はぁ。っく……?」

 私がこの感覚に戸惑いながら息を切らせてへたり込んでいる間に、ご主人様はいち早く絶頂の余韻から抜け出していた。
 椅子から降りて、へたり込んでいた私を正面から抱き締めていた。

「レイセン、頑張ったね」

 ぎゅっと固く抱き締められる。
 力強くて大きなその胸に抱かれて、私は戸惑いがちに手を伸ばした。

「わ、私、上手く出来ましたか…? ご主人様、気持ち良かったですか……?」

「すげぇ良かった。良かったなんてもんじゃなかった」

 顔を肩にぐいと押し付けられて髪を撫でられる。

「夢の続きを見てるような気分だったよ」

 そこまで言って貰えるなんて。
 私は嬉しくて、広い背中にしがみついた。



 その日の午後、ノックの後にドアを開けるとご主人様が立っていた。

『あいつ単純だからね。ちょっと一舐めしてやればその気になってほいほいやってくるわよ』

 本当にてゐが言った通りになった事に面食らって、私は言葉を失ってしまった。

「あ――んっ」

 その一瞬の隙にご主人様が動いていた。
 一歩踏み込んで、ご主人様の顔が近づいてきたと思った時には唇を奪われていた。

「ふっ? ん、んんっ」

 言葉もないままに唇が重なったかと思うと、頭と腰に腕を回され、反射的に逃れようとした身体を抱き寄せられる。
 突然過ぎて戸惑う私に構わず、ご主人様は私の唇に吸い付いて離れない。
 ただ唇を重ねるだけでなく、噛みつくように強く激しく吸われた。

 ご主人様の口……熱い。
 
 その熱さが、驚きに強張っていた身体を心地良く溶かしていく。
 見開いていた目を閉じると、感覚が唇だけに集中していく。
 唇を舐められ、唾液を吸われ、舌を吸い出されて絡められて、まるで意識すら吸いだされているような錯覚。
 ただされるがままだったのが、いつの間にか私の方からもご主人様の口を吸い返していた。

 唇を舐める。
 舌が絡み合う。
 唾液が混ざり合う。

 柔らかい。
 温かい。

 ひどく長い時間、淫らなキスを堪能した。

 奪われた時と同じように、ご主人様が離れていた事にすぐには気がつかなかった。
 ご主人様の口の熱さが伝わったのか、胸の奥から温もりを感じる。
 抱き締められたまま、私は息を切らしてぼんやりとご主人様を見上げていた。

「レイセン」

 ご主人様は穏やかな笑みを浮かべて私を呼んだ。
 指がさらさらと髪を梳く。
 熱を測るように額を当てられ、私も額を押し付けた。

 肩を抱かれる腕の力強さ。
 しっかりとした固い胸元。
 温かな抱擁。

「ご主人様……」

 焦がれる程の狂おしい熱さはない。
 全身を包み込む穏やかな温もりがある。
 胸の内を満していくこの温もりに、もっと甘えていたい。
 目の前の身体にしがみつくようにして、抱き締め返した。

 抱擁の最中、唐突に身体をひょいと持ち上げられた。
 ご主人様の胸の中で抱き上げられる、御伽噺のお姫様がされるようなあの格好。

「ベッドに行こうか」

 ご主人様が一瞥した先には、用意された天蓋付きの豪勢なベッドがある。
 言葉の意味など考えるまでもない。

「……」

 私は腕をご主人様の首元に絡めて、小さく頷いた。
 ベッドの上にそっと横たわらされて、どきどきと鼓を打つ胸元に手を当てる私に、ご主人様が身を乗り出してくる。

「脱がすよ?」

 私の腰に手を当てて断りが入れられる。
 心臓がますます煩く跳ね回る音を聞きながら、私は頷いた。

 ご主人様の指がスカートのホックを外す。
 脱がしやすいように私は腰を浮かし、ご主人様はいとも容易く私の脚からスカートを抜き取った。

「朝のお返しに、今日はいっぱい気持ち良くして上げるからね」

 ご主人様の指先は下着の上からでも性格に私の敏感な場所を探り当てた。
 下着越しにくすぐられて、自然に腰がくねってしまう。
 
「あっ、そ、そんな。私も、ご主人様に――」

 気持ち良くなって欲しい。
 今まで散々気持ち良くして貰ってきたから、少しずつでも返さないと。

「レイセン。俺だってレイセンに気持ち良くなって欲しいって思ってしてるんだよ?」

 ご主人様は手を休めずに、横たわる私を瞳だけを動かして見つめた。
 黒い瞳が真っ直ぐに私を見つめる。

「俺を気持ち良くしようとしてくるのだって嬉しいけど、レイセンが気持ち良くなると俺も嬉しい。
 気持ち良くなってるレイセンを見てるのが気持ちいいってのもあるの」

 同じ、なんだろうか。
 朝に感じたあの不思議な心地良さ。
 ご主人様が気持ち良くなっている姿を見ていただけで満たされたあの感覚。
 多分、同じなんだと思う。

 私を見つめる黒い目が薄く細まり、下着に指を引っ掛けて下ろされる。

「だから、可愛く乱れる姿を俺に見せておくれ」

「……あぅ」

 局部を全てご主人様に晒して、私は小さく唸った。
 私の股の間に顔を入れたご主人様の様子から、これから何をされるのかが判る。

 脚をゆっくりと押し広げられ、舌と指を使った愛撫が始まった。



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「お師匠さまー。あいつまんまと釣り上げられたみたいですよ」 

「そう」

「ほんっと、揃いも揃って単純ですよねー。ちょーっとその気にさせたらころっとやられちゃうんだから」

「そうね」

「……お師匠さま、何してるんです?」

「碁よ」

「碁ですか……私良く判んないんですけど。これ、白と黒どっちが勝ってるんです?」

「今は白ね」

「今はって……」
 
「もうじき黒が優勢になるわね」

「はぁ」

「盤上の遊戯にはルールが存在している。ルールが存在する以上行動様式も決まっているもの。思考しているつもりが、条件反射で動いているだけ。
 培った経験上ね」

「師匠が一人で指してるのにですか?
 あれ。次は黒の番なんですよね。打たないんですか?」

「今はまだ打つ時ではないのよ」

「はぁ……?」

「てゐ」

「なんですか?」

「夜は貴方も楽しんでいらっしゃい」

「あいつとですか?
 ……でも、あいつ今日は絶対また鈴仙のとこ行ってますよ。もしくは鈴仙があいつのとこに行ってます」

「別段、彼が嫌いではないのでしょう? それとも見せ付けられると妬いてしまうのかしら?
 貴方も女ね」

「冗談いいっこなしですよお師匠さま。
 べっつにあんな野郎のことどーとも思ってませんから。それこそ野良犬に噛まれたみたいなもんだし」

「そう。なら楽しめばいいわ。いつものように、ね」

「……はーい。
 あ、黒はそこに置くんですね。その手で勝負をひっくり返すんですか?」

「これはただの布石よ」



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 今日も今日とて仕事終わりに一杯。
 ちょいと背伸びをしてシャンパンなんぞを用意してみた。

 つっても大量生産の安物スパークリングワインで、シャンパン呼ばわりするには味も価格も貧相な事この上ない。
 そもそもシャンパンなんて飲み慣れちゃいないから大して美味くもない。
 違いなんてのは炭酸が入ってるかどうか位しか判りゃしねぇし、後は気分の問題だ。

 貧乏人は麦を食えって名言だよな。

 虫けらは身の丈に合わせてせせこましく生きるのがお似合いってこった。

「締めろよ。緩いんだよ愚図」

 コルクをねじろうとしていた手を止めて、目の前にあるケツを平手でぴしゃりと叩いた。

「あお、おっ、おぅあああ」

 床にぶっ倒れたまま、愚図のイナバはケツを前後に振り続ける。
 俺の言葉を聞いてるんだかいないんだか。

 アナルに突っ込んでやってるんだが、締まり具合は麦どころか粗雑なタイ米ってのが泣けてくる。

「なーにお前だけ気持ちよくなってる訳? ご主人様を置いてけぼりか? 何様のつもりだよ肉便器。便器なら便器らしく糞穴締めろよ」

 ぴしゃりぴしゃりと尻をスパンキン。
 平手を打ちつける度に肛門がひくひくと痙攣しちゃいるが、俺が言う締りには程遠い。
 まったりし過ぎて刺激が少なく、ちっとも良くならねぇ。

「ったくよーぉ。ほんっとお前は覚えが悪ぃよなー。
 おつむの血の巡りも悪けりゃケツの筋肉まで衰えちまってんの? ええ? 肉便器」

「あっ、おっ、おひり、いい、いい、れふ」

「てめぇの感想なんざ聞いてねーんだよぉ」

 ぴしゃりと強くスパンキン。
 ケツ穴に突っ込んでから叩きまくってるんで、白かった尻はすっかり真っ赤に腫れ上がってる。
 兎だってのに尻だけ赤いだなんて、まるで猿だな。

 まあ中身は猿とそう変わりやしねぇ。
 アナルの味を教え込んだら、今やすっかりそっちに夢中になっちまってる。
 それってのも前の方がすっかりがばがばになっちまって、使い物にならなくなったからだ。
 緩いってレベルじゃなくなっちまったんで、後天的に鍛えられるケツ穴メインで使ってる。
 ついでにマゾっぽく仕上がってるのは、虐げられる才能もあったって事だ。

 んなこたぁ一目視た時から知ってたけど。

「てめぇのきちゃないケツ穴に、わざわざ俺のおちんぽ様を突っ込んでやってるんだぜ? 判ってる? ここはありがたく感謝して自主的に締めるのが筋ってもんだろ」

 すっかり広がったケツ穴で俺のちんぽを咥え込んで、腰から下だけオナニー狂いの猿のように押し付けてくる。
 適度なフィット感と腸壁のねとつきがあるものの、初めの頃にあった搾り取るような締め付けはない。
 最近はろくにローションすら使わずにすんなり入っちまう程なんだから、全く持って物足りない。

「一体どこまで俺の手ぇ煩わせたら気が済むの? 阿呆は死ぬまで阿呆のままなの? もうお前いっぺんほんとに死ぬ思いしてみるか?」

「お、おおぉ、あぅおおおっ」

 聞いてねぇなこの愚図。
 めんどくせぇなぁ。

 俺はため息をついて、シャンパンを脇に置く。
 片手の袖をまくって、大洪水を起こしていた前の牝穴に添える。

「ほらよっ、と」

 指を揃えた手をずぶりと挿し込んでやった。

「はぎっ」

 悲鳴と一緒にきゅっと肛門が締まる。
 床に崩れこんでいた上半身が、背骨にバネでも仕込まれたようにぴんと跳ね上がった。

「俺が手ぇ貸してやらねぇと満足な締り具合も調節出来ねぇなんて。ほんとお前は役に立たずなオナホだよなぁ。ええ?」
 
「ぎっ、ぎぃ、いぎっ」

 悲鳴を無視してぐいぐいと手を挿し込む。
 広がった手首まで収まると、後は楽だ。
 手で腹の中の感触を確かめながら、ぐっちょぐっちょと混ぜ込んでやった。

 めりめりいってる気がするけど気にしなぁーい。
 どうせもうこの愚図の前で楽しむ事もないし、ぶっ壊れちまっても構いやしねぇ。
 むしろ後々ことを考えとけば、ここで壊しておいた方が精神衛生上よろしい。

 俺が。

 売り払った後で、俺の知らないどこかの誰かが楽しんでるなんてのは我慢が出来ねぇ。
 俺が買った以上俺のもん。
 生かすも殺すも楽しむのも俺であるべきだ。

 どこかの勘違い野郎の手に渡って、ガキを作ってそれなりに幸せな余生を過ごしました、なんて想像するだにおぞましい。
 奴隷制を嫌って奴隷を買い取っと後、自由を与えましたなんざ反吐か出る。
 奴隷は一生奴隷のまま、不幸な奴は死んでも不幸であり続けるべきだ。
 その方が楽しめるからだ。

 俺が。

 他人の不幸は蜜の味、っと♪

 という事で、こいつには不幸のまま居続けて貰わなきゃ困る。
 俺が困るんだから、俺の奴隷であるこいつは身を張るのが義務ってもんですよ。

「そら、中でフィストしてやるぜ」

 ぶち込んだ手を、ねっとりとした牝穴の中で握り込んだ。

「ぎぃ、いいいぃぃぃいぎっ」

 ぼこりと腹が膨らんで、ついでにケツ穴に絶賛突っ込み中の俺のちんぽも壁越しに圧迫されてくる。
 及第点ってとこだ。
 本気で緩んじまってるなぁこいつは。

「どうしたー、本気出せよ愚図。素手で子宮引きずり出すぞこら」

 わざわざフィストしてやってるってのに、使い古した輪ゴム程度ってのが泣けてくる。
 もうそろそろ売り飛ばしてやった方がいいのかも。
 本気で検討しておくか。

 それはそれとして、まずはとりあえず一発すっきりしてからだ。

 握り固めたフィストで、子宮口をごつごつと殴る勢いでファックする。
 感謝の正拳突きみてぇなもんだ。
 今日も愚図は不幸のままで、俺はシアワセです。
 やったぁハッピー感謝感謝!

 俺にな。

「おぐっ、うぐぇ、げぶぇっ」

 拳が内臓まで届く度に、聞き苦しい嗚咽なんぞ洩らしやがる。
 その分ケツ穴の締まりはよろしくなってきたが、喘ぎ声の一つでも出てこねぇと返って萎えてくる。

 全く。
 両立って奴がちぃーとも出来ねぇ愚図だな。
 怒りを通り越して呆れちゃいましたわ。

「ほんっ……とぉーに、お前どうしようもねーなぁ」

 うっとうしいほど長い髪を掴んで、ぐいと引き寄せる。
 愚図は白目を剥いて目と鼻と口から色々な液を垂れ流しながら、だらしなく舌を出していた。
 呼吸困難なのか、内臓がひっくり返ってるのか。
 ま、俺に取っちゃどっちでもいい。

 拳をコークスクリュー気味にねじりながら、手で牝穴を、ちんぽでケツ穴を同時に犯し続けた。
 髪を鷲づかみにして右へ左へと振ってると、なんだか乗馬をしてる気分。
 それなりに面白かった。

「おうっ」

 フィストファックから数十分掛かって、ようやく俺はイッた。
 ほんっとにようやくだよ。

 愚図の奴はもうとっくに気絶しちまったのか反応はなく、緩いケツ穴の中にザーメン流し込んだだけ。
 本当に便所と一緒だ。
 オナホの価値もねぇ。

「ふーぅ」

 射精がきっちり終わってから、俺はちんぽを愚図のケツ穴から引き抜いた。
 完全に広がったまま弛緩したケツ穴から、どろりと少しザーメンが溢れ出す。

 おっと。

 手を牝穴からも引き抜いて、フィストしたままだったんで入り口あたりでめりっといった。

 こりゃ裂けたかしらん?

 まあ牝穴なんてガキ作れば例外なく裂けるもんだから、大したことねぇよな。
 男よりも女の方が痛みに耐えれるってんなら、こっちも遠慮ってもんが要らねぇ。
 痛みに耐えかねて自殺なんかされると楽しめねぇからなぁ。

 完全に意識を失ってへたり込んだ愚図を尻目に、俺は愚図から剥ぎ取った服で手を指の股まで丁寧に拭き取る。
 開きっ放しでぽっかりと開いたケツ穴を眺めている内に、ふと良い事を思いついた。

「頑張った愚図にご褒美」

 まあ聞こえちゃいないだろうが、俺は半分独り言と一緒に脇に置いていたシャンパンに手を伸ばす。
 コルクを抜かずにたっぷりとシェイクしてから、程好く開いた愚図のケツ穴に先端をずぶりと押し込んだ。
 
「味わって飲めよ」

 内圧の加わった瓶の底を、拳でこつんと衝撃を与えてやる。

 ぼん。

 くぐもった音が肉壁越しから聞こえてきた。

「――っ!」

 気を失っていた愚図の身体が跳ねる。
 声にならない声を上げて大きく目を見開いた。
 狙い通り、ケツの中でシャンパンシャワーだ。

 びくびくと痙攣を起こす愚図の様子は、俺を実に楽しませる。

「ふふ。うふふふ。ふふふふ」

 性欲処理として用を足さなくなったら次はこれだな。
 あの手この手で骨の髄までたっぷりと苛め倒してやろう。

 ま、その前に差し当たって。
 ケツ穴に突っ込んで腸液なんかで汚れちまった俺のちんぽの洗浄だ。 

「終わったら綺麗にしなきゃなぁ」

 愚図の髪を掴んで引きずり上げて、口を開けさせる。
 顔中涙と鼻水と涎でべちょべちょにした愚図の表情は、まさしく公衆便所そのものだ。

 今度は身体に落書きでも刻み付けてやるか。
 それでこそ便所って感じだ。

 どんな文字刻み付けてやろうかなー。



「……っと?」



 愚図の口で汚れを落とそうとしていたところに、肩口からにゅっと腕が伸びてきた。
 ぎらりと輝く鈍い光を目視した時には、固くて冷たい感触が咽喉を通り過ぎていた。

 痛みよりも先に冷たさが来た。
 矛盾している様だが、冷たくて熱い。
 愚図を取り落として咽喉を押さえた時には、手で押し留め切れない赤い飛沫が噴き出していた。

 声が出ねぇ。
 血。
 俺の血が溢れて。
 咽喉に流れ込んで。
 容赦なく肺を満たしていく。

 咽喉を掻っ捌かれた。

「ごぼっ」

 胸に訪れた焼けるような熱さと激痛に、堪らずに咳き込んだ。
 咳き込んだ拍子に血の塊を大量に吐き出した。
 その間も俺の咽喉からは血が噴き出している。
 噴水もかくやという勢いで、致死量に達するまで数十秒も掛からないだろう。

 苦しい。
 溺れる。
 てめぇの血で溺れちまう。

 出血量で目の前がブラックアウトしていく。
 咽喉を掻っ捌かれて声が出ず、咳き込むか不気味にしゅうしゅうと鳴るばかり。

 俺が死ぬ。
 誰かに殺されて、死ぬ。

 俺は俺を殺す憎い誰かを目玉をぎょろぎょろと動かして探した。

 死ね。

 俺を傷つけた奴は死ね。
 俺から奪った奴は死ね。
 俺を殺した奴は死に絶えろ。

 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね。

 苦しい苦しい呪う呪う呪う呪う苦しい怨んで怨む怨む怨む怨む怨む。

 憎悪憎悪憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎いいぃぃぃぃぃっ!

 憎悪が絶頂に達する中、暗がりに立つ人影を見つけた。

 見つけた。

 俺だ。

 赤いジャケットなんぞを羽織った俺が、死にかけた俺を能面のような無表情で俺を見下していやがった。

 まるで大切な宝物を取られまいとするかのように、ぶっ壊れた愚図を胸に抱き上げて。

 へっ。
 俺のもんだってか?
 そんなぶっ壊れが大事かよ。
 笑っちまう。

 赤い俺は何も言わず、ただゴキブリを潰した時の目を俺に向けた後、さっさとどこかへ消えて行った。

 俺は失血死する前に溺れて死んだ。









「かっは」

 咳き込んだ拍子に目が覚めた。

 起きてすぐに咽喉元に手を当てる。

 ざっくりといかれた傷口はなく、当然ながら出血してもいない。
 それでも俺は咽喉を押さえて何度も指先で確認して、ぐるると咽喉を鳴らした。

「……糞が」

 いま一つ時刻が判らねぇが、まだ一日は終わっちゃいねぇはずだ。

 ポンコツのおつむを叩いて、直前の記憶を探る。
 朝フェラのお返しに、昼間はたっぷりとレイセンをクンニした。
 ぴったりと寄り添って甘えてくる鈴仙に、夜はもっと楽しもうと約束して部屋を離れた。

 晩飯を食った記憶はねぇ。
 ってことはまだ昼下がりってとこか。
 腹の減り具合から見て、そんなもんだろう。

 俺は今になってようやく自分が横になっていることに気がついて、身体を起こした。
 ベッドの上で大の字に転がっていた。

 部屋に戻って、夜はどう楽しむかあれこれ考えている内にうたた寝しちまったのか。

 定期的な悪夢から、最近どうも睡眠時間が不定期だ。
 夢を見るって事は眠りが浅い上、内容が内容だけにすっきりとした目覚めとはいかねぇ。

 今もぐったりとした疲労感が残り、全身に嫌な汗を掻いていた。

 ひどくなってるじゃねぇかどういう事だ。

 一日に二度の悪夢に加えて、その内容もえげつなさを増している。
 しかもその内容がばっちり記憶に残ってるんだから始末が悪ぃ。

 ってか、夢なんてものは寝覚めは覚えていても大抵半日も過ぎればとっくに忘れちまってるもんだってのに、全く持って色褪せねぇんだが?

 永琳を沈めた事も、てゐを切断した事も、レイセンをフィストファックした挙句にケツにシャンパンシャワーまで。
 匂いや体温すら伴う実感をもって、俺の記憶に焼きついていた。

 今日に至っては、あの糞野郎な俺の息の根が止まるその瞬間まで含めてだ。

 まあそこはすっきりのしどころなんだが、いかんせん夢の相手がレイセンになってからパンチ力がだんちだ。
 なまじ性癖的に受け付けられるものであるだけに、尚更堪える。

 お兄さん、拡張だっていけるのよ?

 そういう節操の無さからいってまさに自業自得な訳だ。

「夜が本番だってのに、畜生が」

 そりゃもうレイセンとくんずほぐれつ絡み絡まれねっちょんねっちょんしようって矢先に、幸先がよろしくない。
 さっさと頭を切り替えないと、こんな気分を引きずってレイセンを抱いても楽しめねぇし、何よりレイセンを楽しませるなんて出来やしねぇ。

 普段ならここで愛ペットの出番で、がっつんがっつん犯して綺麗さっぱり。
 心機一転本命のお姫様に向かうとこなんだが。

「約束しちまったしなぁ」

 予約で埋まっちまってるからには、他の捌け口を探すって訳にもいかねぇ。

 セックスなんてのはあれだ。
 ちんぽ突っ込んだり突っ込まれたりするだけならただの生殖と変わらねぇ。
 動物に仕込まれた機能の一つであって、ぶっちゃけそれほど気持ち良いもんでもない。

 気持ち良さって点だけを挙げるなら、オナニーやセルフフェラの方が上だ。
 そりゃ自分が気持ち良いポイントもタイミングも心得てる訳だから、他人にしてもらうより良くなるのは当たり前。

 それでもセックスが気持ち良いのは、大部分がメンタルに左右されてるからだ。
 空腹が最高のスパイスだとか、禁煙後の一服が美味いのはそういう事だ。
 快楽中枢は脳にあるんだから、脳の影響を受けるのは当然ですね。

 実際にどうかなんて、頭を掻っ捌いて脳みそ取り出したりした所で判りゃしねぇが。
 そういうもんだって思い込むことが大事。
 イマジナリィだ。

「……おっと」

 俺はいつの間にか取り出した煙草を咥えかけていた。

 危ねぇ危ねぇ。
 レイセンとの約束を破るとこだったぜ。

 鵺から受け取った開封済みのセブンスターとジッポ。
 ポケットに押し込んだままになっていたのを、無意識に探り当てて取り出してしまっていた。

 特別美味いもんじゃないが、手慰みにはちょうどいい。
 それが厄介だ。
 こっそり捨てちまうか。
 堂々と捨てる場面が鵺の目に留まったりしたら、拗ねるからなぁ。
 へそを曲げられちゃ敵わん。

 中身ごとねじってゴミ箱にインする所を、ポケットに押し込んだ。

 物流関係は完全に鵺任せだし、万が一にも止められちまったらこっちは干上がるしかねぇ。
 金と物と人を掴めば勝ったも同然。
 こっちは頭を下げておこぼれに預かるしかねぇ。

 こうして考えると、俺って実は底辺じゃね?
 ヒエラルキー的に。

「はぁ」

 日を追うごとに頭が上がらない相手が増えてくるのが泣けてくる。
 泣けてくるが、地位向上なんて望むべくも無いので諦めましょう。
 人間諦めが肝心だ。

 世の中、持つ者と持たざる者は明確に区分けされている。
 持たざる者は世の中を妬んだり憎んだり、そんな決め事を決めた誰かを怨みながらせせこましく生きるか、さっさとおっちぬか。
 色々と諦めちまえばぐっと生き易くなるってのが真理だ。

「さて」

 夜までにこのくさくさしちまった気分をとっかえるとしよう。
 なるべく夢の事を思い出さないよう、胸焼けするほど甘ったるく過ごそう。

 レイセンちゃんってば、どうしてくれちゃいましょうかね!
  
 目覚めを悪くする夢なんざ忘れて、俺はさっさとピンク色の妄想にふけった。



xxx  xxx



 鈴仙はレースの天蓋付きのベッドの上でうつぶせになり、肩越しに振り返った。

「きょ、今日は、こちらを…可愛がって下さい……」

 自分でたくし上げたスカートの下には何も履いてない。
 しかも鈴仙自ら指を当てて、お尻の割れ目を開いて見せている。

 絶句したまま目をまん丸くして見開いているあいつの様子に、私はベッドの脇からにやにやと眺めていた。

 どうよ。
 私仕込みの誘い方は。

 鈴仙は火が出そうなほど顔を真っ赤にしていたけれど、私は別に恥ずかしくないから良しとした。

 最小の犠牲で最大の効果。
 これこそ私の一人勝ちだ。

 間抜け面で驚くあいつは実に滑稽で、鈴仙に教え込んだ私も実に気分が良かった。



 師匠に言われて、あとルールを知らない囲碁の経過を眺めてもつまらなかったので、私は早速鈴仙の部屋に向かった。
 勿論、部屋から聞こえてきた喘ぎ声が止んでから。

 私の想像に違わず散々いちゃいちゃしてたようで、お師匠さまに言われた事が甦ってきた。

『見せ付けられると妬いてしまうのかしら?』

 どうかな。
 妬いてるのかな、私。

 事後の満足した鈴仙の顔を見ると、何やらもやもやとしたものが浮かんできたのも本当。
 見せ付けられたって言うなら、以前にだってそういう事はあった。

 あの、息も絶え絶えになるまで睦み合っていた時の一幕。
 生々しい絡み合いに言葉を失って、私は見ているだけだった。

 あそこまであいつとしたことはまだ一度もない。
 気を失うほどされたことはあるけど、けれど最後は素っ気無く部屋から出て行く。
 鈴仙の時みたく朝まで一緒に過ごすなんてことはない。

 それが私と鈴仙との扱いの差。

 だから私は鈴仙に喋った。
 普段あいつと私がどういうことをしているか。
 お尻で繋がることの気持ち良さ。
 直腸に感じるあいつの精液の熱さ。
 そして――

『てゐ様ともあろうものが、初めてがあんな奴相手とはねぇ』

 さりげなく付け加えたその一言。
 初めて。
 それが、私と鈴仙との間にある差だ。

 まあ元々経験のあった鈴仙と比べて、これまでずっとこういったことに興味がなかった私の方がおかしいんだろうけどさ。
 けどまあ、その事実は差になる。
 鈴仙が、私と比べて差があるんだと思い込む。

 わざとそういう風に仕向けたのは、どうせなら同じ土俵に立たせたかったから。
 お尻の経験がない(お尻の話題を振っただけで真っ赤になって俯いていたから承知済み)鈴仙に、一歩先んじていると思いたかった。
 もしも鈴仙が普段どういうふうにされているのかを聞かされてしまったら、私に勝ち目なんかなかったから。

 私、妬いてたんだ。

 お師匠さまの言葉を冗談と軽く流して認めなかったけれど、それは認めたくなかっただけ。
 最後は私の事なんかほっといてさっさと出て行く癖に、優しく頭を撫で撫でしてくるあいつのことが、思ってた以上に気に入ってしまっていたんだ。

 そのことに気がついて、しみじみとしたため息が思わず出てきた。

 私も、実は女だったんだなぁ。

 結局、お師匠さまが言ってた通りだったってこと。



 そして、私たちは揃ってベッドの上にいる。

「やふっ、あっ、あん、はっ、んんっ」

 鈴仙は甘い声を漏らしながら、顔を真っ赤にしたまま固く目を閉じてシーツをぎゅっと握り締めている。
 うつ伏せに高く上げた鈴仙のお尻を、あいつは何の躊躇いもなく舐めていた。

「どう。気持ち良くなってきた?」

「はっ、んん……へ、変な気分です」

 あいつは時々舌の動きを止めて鈴仙の様子を窺い、鈴仙も息を切らせながら答える。

「じゃあもっとむらむらきちゃうくらい頑張るよ」

「やっ、んんっ、そ、そういう意味じゃ……あぅん!」

 わざとらしいあいつの言葉に、鈴仙の方もまんざらではない様子。
 私が見たこともないような女の顔で、嫌って言ってるけど全然そんなつもりがないことくらい一目で判った。

 ……私の時と随分違うじゃない。
 こっちはいきなりローション挿し込まれた挙句、指とかプラグとかちんぽ入れられたんだけど?
 しかも媚薬とか仕込まれたし。
 なーんか、面白くない。

 もっとこう、鈴仙がいざとなったら怖気づいてあいつが困って、そこで私が実演する形でまんまとあいつと楽しもうなんて思ってたんだけど。
 鈴仙は私が思ってたよりも積極的になってて、あいつは思った以上に変態的な行動に移ろうとしない。
 少しくらい鈴仙が積極的になったところで、引くくらいの変態行為を要求してくると思ってたのに。

 お尻を舐めるって自体、変態なのかもしれないけど。
 私たちがいつの間にか変態にされてしまったのか、あいつがまともになったのか。
 難しいとこよね、うん。

 ベッドの上であぐらをかいてあいつと鈴仙の様子を眺めてるんだけど、いちゃつく姿に段々むかむかしてきた。

「……お二人さん、私のこと忘れてるんじゃない?」

 じとりと睨みつける私に、あいつが鈴仙のお尻から顔を上げる。

「そういや。何でまだてゐがいるのん?」

 舌を休めても指先で鈴仙のお尻をこねながら、きょとんと目を丸くしやがった。

 こ、この野郎。

「とんだご挨拶ね。あんたがおいたして鈴仙に泣きつかれたりすると困るから、わざわざこうして付き添ってあげてるってのに。
 どうせあんた、引くような真似しかしないんだから」

「そんな真似鈴仙にするはずないじゃん何言ってんの」

 若干眉をひくひくさせて腕組みする私に、あいつは呆気なく手を左右に振った。

「このっ」

 思わず拳でぶん殴ってやろうかと思ったけど、その衝動を言葉と一緒に飲み込む。
 鈴仙を優遇していることに腹を立てて手を出したりしてしまったら、図らずともこちらの意図が透けて見えてしまう。

 私のことも、もっと特別扱いして欲しいって。

 普段の生活に格差は感じてないけれど、ベッドに上がったあとはだいぶ違う。
 私は今の待遇に納得して、こいつのペットになった。
 それなのに優先して欲しいなんて叫んだりしたら、こいつが気になってしょうがないって言ってるようなもんじゃない。

 そりゃあ私がこいつを気になっているのは事実だし、私だってそれに気がついた。
 けれどそれをこいつに伝えたいとは思わない。

 言ったところでこいつが態度を改めるとは思わないし、私の方から口にするのはなんかこう。
 負けた気がするじゃない。

「殴りたいって顔してるねぇ。ほーら、殴ってもいいのよん?」

 これ見よがしに頬を見せるあいつに、私は鼻先でせせら笑ってやった。

「安い挑発ね。相手を乗せたかったらこれくらいしなさいよ」

「てゐ……? あっ、んくっ」

 私は鈴仙の隣に並ぶ形で四つん這いになり、あいつにお尻を向けて高々と上げて見せた。

「見せ付けられてきちゃってるのよ。私のお尻も可愛がってよ」

 ひくついていたお尻の穴を指で広げて見せた。
 あいつからは丸見えになってるだろう。
 夜毎あいつのちんぽで広げられたお尻と、その奥にたっぷりと流し込んであるローションに。

 あいつとする時はローションで下準備をするのが癖になってしまっていた。
 冷たいままだとお腹が冷えるから、お風呂のお湯で温めてから流し込んである。
 手間が一つ減って、焦らされずにお尻をいじくられるから。
 広げたお尻の穴から、とろりと腸内で温められたローションが伝うのが判った。

 鈴仙みたく恋心(こいつ相手だと恋だなーんて生易しいもんじゃないけど)を募らせて摺り寄ったりするより、単純に性欲って理由だけにしておいた方がいい。
 これ以上深入りしちゃ、良くない。
 きっと。

 肩越しに振り返る私に、あいつはにんまりと笑った。

「なんだ、3Pがしたかった訳ね。すっかり準備整えちまってまあ。期待して待ってた訳だ?」

「能書きはいいからさっさとしなさいよ。あんたなんてそれくらいの価値しかないんだから」

「仰る通り。当方正真正銘の肉バイブでございます、こんちこれまた」

 私の悪態に減らず口で返しながら、あいつは私のお尻を円く一撫でした後、穴に指を入れてきた。

「ふあっ」

 これ、中指?

 自分で広げていたからかすんなり入っていってしまう。
 指の節が入り口付近で擦れて、肩がぶるっと震えた。

「いい声出すね」

「……るっさい。待たせておいて、なに言ってんのよ」 

 奥歯を噛んで食いしばった歯の隙間から悪態を押し出した。

「そりゃ失敬。じゃあ楽しませてやるからゆっくり浸ってくれ」

 あいつは私のお腹の中のローションを指で掻き混ぜ始めた。
 ゆっくりと回して、手首を使ってひねって、直腸の壁を指の腹で撫でる。
 直腸の温度に温まったローションが、指に絡んで掻き混ぜられていく。

「あっ。ひっ、い、いぃんっ」 

 噛み殺していたはずの嬌声が咽喉から洩れてきた。

「ほら鈴仙、見てるかな? てゐってばアナルの指入れられてこんな声出してるよ? ま、そうしたのは俺なんだけどね。
 アナルの気持ち良さを覚えたら、鈴仙もすぐにてゐと同じくらい楽しめるようになるよ。こんな風に、ね」

「あっ、あっ。抜く、抜くな、抜けるっ」

 根元まで挿し込まれていた指が、腸壁を擦りながらゆっくりと引き抜かれていく。
 ぞくぞくとした感覚に身震いした。

「そら、二本目」

「ふきゃっ」

 抜ける寸前で入り口をぐにと広げて、二本目の指と一緒にずぶりと挿された。
 溢れたローションがぶちゅっと濡れた音を立てるのが聞こえた。

 いきなり二本は苦しいけれど、あいつはゆっくりと出し入れしてお尻に馴染ませていく。
 私のお尻はすぐに解れて、あいつの指二本分の大きさを思い出していた。

「おー、小慣れてきた。尻穴はすっかり素直になっちまって。何が気持ち良いかよく判ってるじゃないの」

 なにが素直よ。
 こんちくしょう。

 ぐちょぐちょとお尻の中を掻き混ぜられる音を聞きながら、私はベッドに顔を埋めて歯軋りをした。
 真横から突き刺さってくる視線に、気持ち良さと腹立たしさが半々の表情で睨む。

「……なによ」

「――え?」

 唖然としたまま私を凝視していた鈴仙が、はっと我に返った。
 お尻でされていたのも忘れて、居心地悪そうにきょろきょろと視線を泳がせる。

「何慌ててるのよ……はぁ。お尻でよがって、変態だとでも思ってんの?」

「えっ。べ、別にそんな事は」

 あいつの言う通り、二本の指でされるのもすぐに慣れて心地良さにひたりながら、同じ格好でお尻を突き出す鈴仙に手を伸ばす。
 襟首を手繰り寄せて鈴仙の赤い瞳を覗き込んだ。

「どっちでもいいのよ、そんなの。けど覚えておきなさい。鈴仙も、すぐ私みたいになるってね」

 私の言葉に鈴仙の瞳が揺れる。
 不安半分、期待半分ってとこね。

「あのド変態に、私たちまとめて変態にされるんだから」

「んくっ」

 ネクタイを引っ張って、引き寄せた鈴仙の唇にキスをした。

 なんでそんなことをしたのか。 
 鈴仙に対して特別な感情なんて持ってないし、そっちの気だってない。
 ただ、唇が寂しかった。
 あいつとは出来なかったから、手近にあった唇に吸いついただけ。

「ぷあっ、て、てゐ、貴方なにを――ふっ、ああっ、やぁんっ」

 いきなりキスしたりしたから驚いたのか、首をねじって逃れた鈴仙が甘い声を上げる。
 その声から、あいつが鈴仙のお尻の愛撫を再開したのが判った。

 あいつは鈴仙のお尻に顔を埋めてぴちゃぴちゃと音をたてて舐めている。
 指で私のお尻を弄りながら。

 この分だと、鈴仙もすぐに落ちるわね。
 お尻でイけるようになったら、あとはすぐ。
 入れるものが舌から指に、指が一本ずつ増えて、そしてあいつのちんぽになる。

 ……早くちんぽ欲しい。

 お尻の中を思い切りぐちょぐちょに掻き混ぜて、ローションで張ったお腹を掻きずり出して欲しい。
 減った分だけあいつの精液をたっぷり中で出されたい。
 気を失うほど抱かれたあとは、抱き締められて頭を撫でられてキスされたい。
 耳の後ろと一緒に髪を撫でられて、あいつの唇の熱さにまどろみたい。

「へ、変。変になる――やっ、んっ。広げないでっ」

「ノってきてるじゃない、鈴仙も」

 身体を内側から疼かせる欲求を堪えて、目の前で乱れる鈴仙の唇で今は我慢した。



「こうでいいの?」

 私たちは体勢を変えてあいつにお尻を向けていた。
 あいつが言ったよう、仰向けに寝転んだ鈴仙の上に私がうつ伏せになる形で。

「素晴らしい。エクセレン。ファンタスティック! これこそ3Pの醍醐味。最高の眺めだねこれ」

 あいつはにやけ面で手など叩いてる。
 ぐっとこみ上げてくるものはあったけど、この状況で騒いでも仕方がないから飲み込んでおいた。

 あいつが下世話に笑ってる顔を見ると、反射的にぶっ叩いてやりたくなるから困りものね。
 まあこの格好は私が楽だから良いんだけど。

 身長差から、私の顔の前に丁度鈴仙の胸がある。
 今までじっくり見たり触ったりしたことなんてなかったけど、衣服越しでもふかふかとしているのが判るし、お師匠さまほどじゃないけどしっかりと膨らんでる。
 私と比べて。

 ……こいつ、絶対この胸に騙されてるわ。

「……」

「な、なによ?」

 あとこの媚び媚びな目つきとかに。

 じっとりと凝視する私に、鈴仙は少し気圧され気味に顎を引いた。

 そんなにおっぱいが好きか。
 この脂肪の塊がいいのか。
 まんまと食いつきやがって。
 悪かったわねぺったんこで。
 私だとバランス悪くなるからぺったんこでいいのよ。

「……」

「て、てゐ。ちょっと、目つきが変――んっ!」

 色々思い返している内になんかムカムカしてきたから、ブラウス越しに鈴仙の胸をもみくちゃにする。

「こ、こら! いきなり何を」

「いきなりもなにも、こういう状況なんだから別におかしくないでしょ。
 お尻の穴舐められてこんなに乳首立てたりしておいて、良く言うわ」

 上から下へ、胸の形を確かめながら揉みつつ尖った先っちょを探り当てる。
 こういった手つきは、あいつがするのを見ている内に覚えた。

「それ、違うぅ、んんっ」

「なに、違うの? じゃあ私に揉まれて乳首立ててんの? へぇ。誰にでも興奮する口なんだ? こいつの前でもそんな風に甘えた声出してるの?」

「ち、ちがっ」

 質問攻めにしてやると、鈴仙は頭を振って否定した。
 どれか一つでも当てはまったら、それに意識が傾く。
 この場合、誰にでも興奮するってとこかしら。

 あいつの手前、否定しようとするのをさらにつけこめばいい。
 鈴仙を追い込むのなんて簡単。

「ふぅん、あいつだと実はノりきれないんだ。男嫌いも大概にしとかないと愛想尽かされるわよ?」

「そ、そんなこと言ってな」

「言ったでしょ、さっき。なにが違うの? ん?
 これ見よがしにこんなおっぱいつけて、乳首までびんびんに立てちゃってさ。なんだかんだ言って誘ってるのは鈴仙の方でしょ。違う?」

「ぅ…うぅ……」

 胸を揉みしだいて問い詰めると、鈴仙は顔を赤くしたまま応えに窮した。

 これは……結構楽しいかもしれない。

 私のはったり一つにもろくに言い返せずに黙り込んで、それでも言葉に出来ない文句やら反感やらが顔色ににじみ出る。
 普段もそういう顔を良く見せるけれど、状況が違うと楽しさも変わってくる。

 やっぱり玩具にするなら鈴仙ね。

 言い返すとやり込められると気がついたのかだんまりを決め込む鈴仙に、にやにやと笑ってふかふかの胸を揉んでいると、

「仲良くしろよ、ったく」

 あいつがぼやくように呟いた。

 その直後、

「いっ」

 何かが私のお尻に入ってきた。

 指よりも太いし、感触も違う。
 あいつのちんぽ?

 違う。

 今入ってきたのはつるんとして少し冷たい。
 あいつのはもっと生々しくて、熱くて、お尻の入り口がみちみちと悲鳴を上げるほど大きい。

「あっ、あぁ、あっ……?」

「てゐの直腸にこんにちは、僕アナルバイブの精。略してアブさん! お尻の穴に南無三するのが仕事だよ!
 語呂が似てるからノリで言ってるだけだよ!」

 肩越しに振り返ると、あいつは甲高い声色を使いながら私のお尻に入れていた物をずるっと引きずり出した。

「ぁひっ」

 丸い団子がいくつも連なったような物。
 鈴仙に使っていたバイブとかいうのの、若干細めに作られた物。
 ローションが絡んでぬらぬらと光るそれを、再び私のお尻にあてがった。

「じゃあ今度はゆっくり南無三するよ? 準備は良いかな? 良くなくても入れちゃう!
 南無!」

「うあっ」

 丸いのが一つ、ぶつりとお尻の中に入ってきた。

「南無! 南無! 南無!」

「ぅあっ、このっ、やめっ、バカッ」

 同じ要領でつぷりつぷりと一つずつ入れられていく。
 始めは小さかったそれは、奥にいくにつれて少しずつ大きくなって私のお尻を広げていく。
 切れ切れの悲鳴を上げる私に、あいつは嬉々としてアナルバイブを突き入れた。

 うわっ。
 このバカ。
 きつい。
 お尻の穴、広がってる……!

 溢れたローションがぶちゅっと音を立てて、

「よぉし、弱ったところでとどめだ! アブさん必殺、バァイブレェーション!」

「ひっ――」

 上擦った悲鳴が咽喉からほとばしる。
 私の中で蛇のようにうねってる。
 お尻の入り口から伝わる振動が、くすぐったさから気持ちよさに変わってく。
 
「はひっ、ひぃ、あぅぐ、あっ、あっ、あんっ」

 気持ちいい。
 これ気持ちいい。
 喘ぎ声が止めらんない。

「はっ、あっ、あぁん!」

 私は鈴仙の上で、甲高い悲鳴にも似た声を上げて全身をぶるぶると痙攣させた。

「性悪兎成敗! 南無三!」

 ちくしょう……イかされちゃった。

 うねっていたバイブの動きが止まり、まだ時折やってくるむずがゆい震えにひたっていると、私の耳がひょいと持ち上げられた。

「とまあ、てゐを悦ばせる為にお兄さんこんな物を買っておいた訳ですが。気に入ってくれたかな? アナルで絶頂しちゃったてゐちゃん。ん?」

 私は涎で濡れた唇を拭って、顔を寄せていたあいつを睨み返した。
 
「し、死なすわよ、あんた」

「牝の表情で粋がっても迫力は出ねぇよ。
 ほーら鈴仙、よく見ときなさい。これが尻穴に狂ったてゐの表情ですよー」

 顎をくいっと持ち上げられ、顔の向きを変えられる。
 私の下から鈴仙が目を満月のようにして凝視していた。

「鈴仙にあれだけの口を叩いておいて自分がこれじゃあねー。口ほどにもねぇとはこの事か」

 こ、この野郎。
 私が鈴仙をいじめていた意趣返しのつもり?
 
 手首に爪を立てて掴んでやったけど、全然堪えた風もなくへらへらと笑っていた。
 あいつはずいと身を乗り出して私の肩に顎を乗せると、言葉を失っていた鈴仙の髪を撫でた。

 ……いいな。

 何気ないその手つきをうらやみながらも、言葉にはせずに飲み込んだ。

「それじゃあ楽しもうか。鈴仙にはこっちをあげるからね」

 あいつは鈴仙の髪を一撫でした手を引っ込めて、ごそごそと何かを取り出して見せた。

 バイブ、だろう。
 私のお尻に入れてるのとは形が違うから、用途も違ってるんだろう。

 そうか。
 前の穴だとあっちを入れるのか。

 あいつの手に握られたこけし似のそれをぼんやりと眺めた。

「……ぁ、はぃ」

 鈴仙は見ただけで意図とか全部伝わってるのか、照れ臭そうに視線を伏せて頷いた。

 こういう反応とか、蚊の鳴くような声音とか。
 その辺りにもあいつがやられた原因があるのかもしれない。
 けど鈴仙の真似をして媚びたりするつもりはなかった。

 私は私だ。
 こんな真似は出来ない。

「せっかくの3Pだ。楽しまなきゃ勿体ねぇぜ?」

 あいつは私の顎から手を離して、耳の付け根を掻いた。

 私の不満を嗅ぎ取ったんだろうか。
 こういうことに関しては、本当に鼻が鋭い。

 鈴仙の後っていうのはちょっと気に食わなかったけど、それでもこの手つきに免じて許してやるか。

「じゃあ、無駄口叩いてないでもっと楽しませなさいよ……」

「黙って腰を振ってろって? 了解」

 睨みつけた私に、あいつはへらりと笑った。



 あいつの言うさんぴーとやらが始まった。

「うあ、ああ、めく、めくれるぅっ。あぅんっ!」

 私の股間であいつのちんぽがうねってる。

「あっ、そこっ。そこ、引っ掛かって、擦れるの、良いですぅっ」

 鈴仙の股間をあいつのちんぽが擦ってる。

 私と鈴仙が上下に抱き合って、あいつのちんぽを股間で挟んでいた。

 気持ちいい。
 私のお尻の中でアナルバイブが暴れてる。

 すごく気持ちいい。
 鈴仙の中でもバイブが暴れてるんだろう。

 その間もあいつの熱いちんぽが、私の敏感な場所をくすぐっては引っ掛けて、擦っていた。
 にゅるにゅると滑っているのは、私と鈴仙のおまんこからあふれ出した愛液のせい。
 アナルバイブを出し入れされる時に溢れたローションも混じってるかもしれない。
 そこまで考えて、すぐにどうでも良くなった。

 ものすごく気持ちいい。
 それで充分。

「はっ、はうっ、れいせ、ひうっ、すごい、顔してる。見たことない、エッチな顔してるよぉ」

 私の下で喘ぐ鈴仙の表情は、本当に初めて見る表情だった。
 声を我慢していた最初の頃とは打って変わって、絶叫するような嬌声と潤んだ瞳。
 恍惚にひたりきった乱れっぷりは、あいつが言うように発情した牝の表情なんだろう。
 
 多分、永遠亭で暮らしているいるだけだったら、鈴仙がここまで乱れる顔なんて見なかった。

「てゐ、てゐこそ。そんな声を出して、お尻の穴で、さっきからイき続けて。可愛い顔になって」

 鈴仙の震える指先が私の頬を撫でる。
 震えているのは何度もイってるせい。
 私もさっきからイきっぱなしで頭がおかしくなりそう。

「はひ、ひぃ、れ、鈴仙も、すぐにお尻の穴でされちゃって、私みたいになるんだら、あっ、ああっ、ああああぁっ!」

「やぁんっ、駄目、そこ。イく、イっちゃいます!」 

 何度目になるかも判らない、大きい絶頂。
 背中を反らしてだらしなく舌を出したまま、私は叫びながらイッた。
 私の直後に鈴仙もイってる。
 すり合わせてる太腿を筋が張るほどピンと伸ばして、びくびくと痙攣しているのが伝わってきた。

 私と鈴仙のお腹にどろどろの熱いものが流れ込んでくる。
 私たちのおまんこでちんぽ挟んで腰を振りながら、あいつは何度イったんだろう。

 鈴仙のお腹があいつの精液溜まりになってる。
 おへそのくぼみに溜まったぷるぷるの精液を、私はすぐにお腹を重ねて絡めて伸ばして、塗りたくる。
 人肌の温もりを持った精液は、乾く暇もなく私たちの身体と服を白く汚し続けた。

「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ」

「はぁ、ああ、あぁ……温かい」

 発情した私。
 牝になった鈴仙。
 鼻の奥に絡む牡の匂い。

 五感が感じ取る全てが私を酔わせて、頭の芯が心地良い甘さに痺れていた。

「楽しんでるかい? お二人さん」

 たぷたぷとした精液の匂いと温度と感触にひたっていると、あいつの声が肩越しから聞こえてきた。
 笑みを含んだ声音はいつもと同じ調子で、私の肩から顔を覗かせたあいつの口元は、声音の通り好色にへらっと笑っていた。

「……どれだけタフなのよ」

 正直こっちはもう根を上げてしまいそうなのに、これっぽっちも疲労を感じさせない。
 もう服にべっとりと染み付くほど射精したのに。
 あいつの精液ででろでろになったワンピースの裾を摘んだ。

 一張羅なのに……台無し。

 ここまでされると、染みは落ちても匂いが残ったままな気がして着れたもんじゃない。
 まあ似たような服はあいつが用意してるから着る物に困ることはないけど、別の意味で。

 あいつの精液の残り香を一日中嗅いでたりしてたら。
 そんなの、我慢出来るはずがない。

「これだけ出して、まだ足りないって、言うつもり?」

 射精がどれくらい消耗するものか知らないけど、少なくともこっちはイったら結構疲れるんだから。

 それでも節目節目に余韻にひたる間隔を挟むから、なんとか体力がもつ。
 体力がもつから、本当に根負けするまで続けられる。
 いつの間にか意地比べみたいなものになっていた。

「これでもセックスマッスィーンの端くれだからね。素人相手に根を上げてちゃ仮にもプロの沽券に関わるのさ」

 ……セックスのプロ?
 そんなのがいるなんて。
 私が元いた世界はいい感じに末期を辿ってる。
 こいつが元の世界にいた人間なのかどうかは知らないけど。

「身体も充分解れて温まったところで、そろそろ本番いってみようか」

 ……本番?

 じゃあなに。
 これだけ何回も――何一〇回と出しておきながら、イかされていながら。
 それが全部準備だったってこと?

「ま、まだする気?」

 あいつの言い草に思わず声が裏返ってしまった。

 いけない。

 慌てて口を塞いだけれどとうに手遅れ。
 あいつに優位を握られた気がして、自分の迂闊さに腹立たしくなった。

「あらん。てゐはもうギブアップなのかしらん?
 れいせーん。どう、まだ頑張れるかな?」

 あいつはおどけるような口調でからからと笑い、矛先を鈴仙に変えた。
 私の背後からにゅっと腕を伸ばし、鈴仙の顎先に指を添える。

「セックス、する?」

 短い問い掛けに、鈴仙の白い咽喉が鳴った。
 根を上げる寸前のヘタレイセンだったのが、瞳の色が変わった――ような気がした。

「はい……します」

 もぞりと肩を抜いて腕を差し出してくる。
 手は私を素通りして、その背後へ。
 多分、あいつの顔を愛おしそうに撫でているんだろう。

「抱いて<欲しいです」

 なにかを決意する目じゃない。
 これは受け入れてる目だ。

 私の奥から伸びたあいつの手は、鈴仙の潤んだ瞳をかすめるようにして顔の輪郭をなぞる。
 汗で濡れて額に張り付いていた前髪を、そっと撫でつけた。

 私を挟んで行われるやり取り。
 あいつと鈴仙。
 鈴仙にここまで言わせた挙句、これほどの表情を浮かべさせている。
 そんな鈴仙を、あいつはどんな表情を浮かべて見ているのか。

 鈴仙に向けられた穏やかなあいつの声音を聞いて、私は振り返れなかった。

 今振り向いて、あいつの顔を直視してしまったら、決定的な何かをさらけ出してしまうような気がしたから。

「……どうする? てゐはここで降りるかい?」

 別人のようだったあいつの声が、意地悪な響きに塗り変えられた。

「なに早とちりしてんのよ。別に、しないとは言ってないじゃない。あんたの底抜けっぷりに呆れただけよ」

 もやもやとした曖昧な気分を割り切って、私は悪態を返した。
 いつもの調子だったから、私も同じように切り返せた。
 もし鈴仙に向けるような声で囁かれていたら、どうだったかは判らない。

 判らないから、考えないことにした。
 
 判ってる。
 私はペット扱いだ。
 鈴仙とでは扱いに差が出る。
 そういう待遇で、私は納得した。
 それでも、こいつが私を大事にしてくれてることに変わりはないんだから。

 だから降りなかった。
 少なくともあいつは私に快楽というものがなにかを教えてくれる。
 だからこの淫らな悦びにひたっていよう。

 私だって、いつまでも素股じゃ物足りない。
 玩具も気持ちいいけどそれは所詮玩具。
 このぬるぬるとした温かい精液を、身体の中で感じたい。
 あいつの生の感触を、身体で直接感じ取りたい。

 鈴仙の次になっても、あの悦楽にひたれるならそれでいいや。

「二人ともいい子だね。お兄さん張り切っちゃう」

 くすくすと小さく笑って、あいつの手が伸びてきた。
 鈴仙と一緒に私の頭も撫でられた。

 身体を重ねる時にだけする、あの優しい手つきだった。



「ほーら、お待ち兼ねのおてぃむてぃむですよー」

 あいつは私を起こすと腿の付け根にちょこんと乗せて、股間からちんぽを覗かせてふざけて見せた。
 ぎんぎんに反り返って、がちがちに硬いまま。
 あいつの言う通りこれっぽっちも萎える様子がなかった。

「ほんと……ちんぽからバカが生えてるのね、あんた」

「俺がおまけの方かよ。バイブの付属品扱いとはこりゃまたきびしい。
 ざまぁないねパパ!
 息子よ、お前もブルータスか」

 おかしな声色を織り交ぜて小芝居を打ちながら、私の股下から覗くちんぽを上下にぴこぴこと振った。

「…っ…っ…っ」

 くたりと仰向けになった鈴仙は、荒い呼吸を繰り返しては生唾を飲み込んでる。
 鈴仙の愛液に濡れた股間や茂みに当たってるあたり、狙ってやってるんだろう。
 こういうことに関して一々抜け目がない奴ね。

「ご、ご主人様……早く」

「おっと、ごめんね。すぐに鈴仙の中にあげるからね」

 自分で焦らしといてよく言うわ。
 
 私がため息をついている間に、あいつは手早く鈴仙のおまんこに根元まで入っていたバイブを抜き取る。

「ふぅ、ぅんっ」

 抜き取った直後に鈴仙の身体が跳ねる。
 軽くイったんだろう。
 愛液が滴る玩具をぽいと投げ捨てると、あいつは片手でちんぽに何かを被せた。

 避妊具みたいだ。
 初めて見るけど、構造は単純だからすぐにそれと判った。

「鈴仙。いくよ」

 ふざけた色が抜けたあいつの声。

「はぃ」

 私の背後を見つめて小さく頷く鈴仙。

 鈴仙の目に、ほんの少し不満そうなものを感じ取ったのは、私の気のせいだったのか。

 私が見ている前で、あいつのちんぽが鈴仙の中に入っていく。
 おまんこを左右に割って、バイブで充分に解されていたからか、ぬるんと簡単に入ってしまった。
 
「はぁっ……」

 鈴仙の恍惚のため息。
 口元に浮かんだ笑みは、待ちわびたものを迎え入れた時のもの。
 あいつは鈴仙の中をちんぽで確かめてるのか、二、三度ゆっくりと掻き混ぜるように腰を動かしてから、私を乗っけたまま前後に動き出した。

「はっ、んっ、あっ、あぅんっ」

 鈴仙の身体が弾む。
 たっぷりと塗りつけた白い濁りは、濃紺の制服を着ている鈴仙の方が良く目立つ。
 汚された、という表現が良く似合う格好で、今まさにあいつとセックスの陶酔に溺れていた。

「あっ、ご、ご主人様、ご主人様の、おちんちん、中でっ、あぅんっ。お、大きくなって」

 首を振っていやいやしながら、鈴仙は喘ぎ声の入り混じった言葉を吐き出した。

「鈴仙の中が気持ち良いからだよ。熱くて、締め付けて、ゴム付けてても吸い付いてくるのが判るよ」

 あいつは腰を休めず、鈴仙の中がどんな具合なのかを口にした。

 私はあいつにもたれかかって、セックスの様子を眺めていた。

 ……なんか、変な感じ。

「あっ、そこ、そこっ、引っ掛かって……いぃですぅ」

「鈴仙はここを擦られるのが好きだね。もっといっぱい擦ってあげるよ」

 格好が格好だからこんなことを思ったりするんだろうけど。

「ひゃっ、はっ、あぅん! い、いいっ、それ好き、好きっ。ご主人様好きぃ!」

「俺もだよ、鈴仙。普段の鈴仙も、乱れる鈴仙も、全部好きだよ」

 なんだか、私が鈴仙を犯してるみたい。

 腰をくねらせ、あられもない姿で身悶える鈴仙を見ていると、お腹の下辺りがなんだかむずむずしてくる。

 バカみたいにぽかんと口を開けて眺めていた私が、背後から押された。
 そのまま鈴仙の上に、うつ伏せになって跨る。

「ぅあ?」

「ほれ。ぼーっとしてないで、てゐも参加しろよ。眺めてるだけで終わっちまうぜ?」

 あいつが身体を倒してきた。
 鈴仙のおっぱいに顔を押し付けられる。

 参加って。
 そういうことか。

 あいつがなにを言ってるのかすぐに判ったから、私は鈴仙のブラウスのボタンを外していった。

「て、てゐ……あっ、んんぅ!」

 ぷるんとこぼれ出てきた鈴仙のおっぱいを吸った。
 先端に吸い付いて、尖った乳首を舌先で転がした。
 汗の味のする鈴仙のおっぱいを、ちゅうちゅうと吸い続けた。

 眺めたまま終わるなんて嫌だ。
 私だって欲しい。
 あいつのちんぽ欲しい。

「そうそう、その調子」

 あいつの声が聞こえて、胸元に手が伸びてきた。
 私の両方の乳首を指で摘んでこりこりとしてくる。

「あふっ」

 私が口を離すと、あいつの手の動きも止まる。

「……っはあ、はぁ」

 鈴仙の胸を揉むと、止まっていた愛撫が再開される。

「はぁ……んっ、ひぅ、あうっ!」

 精液を絡ませた指で鈴仙の股間に伸ばすと、私のお豆を包皮越しにこねられた。

 鈴仙にした分、あいつはそっくりそのまま私を気持ち良くしてくる。
 そのルールをすぐに理解して、私は鈴仙をもみくちゃにした。

 早く。
 早く。
 早く。

 次は私なんだから。

「や、やめひぇ、てゐ、わらひ、おかひ、おかしくなっひゃうん、んんっ!」

 早く。
 早く。
 早く。

 早くイっちゃいなさいよ。

 あいつに乳首をこねられ、お豆をくすぐられ、けど一番して欲しい事はしてこない。
 私のお尻に入ったままのアナルバイブには触れてこない。
 鈴仙のお尻を触ろうにもあいつの身体が邪魔で体勢を変えられない。
 私が鈴仙にしないから、あいつも私にしてこない。

「早くぅ…早くイきなさいよぉ……!」

 精液にぬめる指で鈴仙のお豆を強く摘んだ。
 あいつはぐいと腰を突き出して、その拍子に私のお尻に当たった。

「くぁんっ!」

 アナルバイブにも当たって私の腸内をぐるりとえぐった。

「あひっ、ひぃ、はへぇ。あっ」

 精液と愛液でどろどろのぐちゃぐちゃになりながら、もう意識があるかもどうか判らない鈴仙の身体が痙攣を始めた。

 判る。
 イく時にやってくる奴だ。

「…はくっ…あひっ…ひぃ…」

 もう鈴仙は絶叫するだけの気力もなく、がくがくと激しく震えていた。 
 胸元からこぼれたおっぱいがぷるぷると震えて、乳首がきゅっと尖ってる。

 すごいのが来てるはず。
 声にならないくらいすごいの。

 私も軽くイっていた。
 余韻にひたりながら、ひたる余裕すらなくして痙攣する鈴仙の様子を眺めていた。

 私が気を失う時も、こんな感じだったのかな。

 鈴仙は痙攣が収まったあとも、身じろぎ一つせずにぐったりとベッドの上で尽き果てていた。
 ぼんやりと開いた目は焦点が合ってなくて、虚空を見上げたままなにを見てるのかも判らない。
 胸がかすかに上下してるから、命に別状はないと思うけど。

 私の背後に覆いかぶさっていたあいつの身体が離れる。

「ぁうんっ」

 離れ際に、私のアナルバイブをずるりと引きずり出していった。
 開きっ放しになった私のお尻の穴を、あいつの指が広げるのが判った。

 ようやく。
 やっと。

 これからされる事を思うと、私の身体がぶるりと震えた。

 私の番。

 あいつは前置きなんてしなかったし、私もそんなのいらなかった。
 待ちに待って待たされて、一刻も早くあいつのちんぽが欲しくて堪らない。
 拡げられたお尻が寂しくてひくひくとひくついているところに、あいつの生温かくぬめったちんぽが入れられた。

「はぐっ、うっ、くぅぅんっ」

 ちんぽ。
 ちんぽが入ってくる。
 玩具なんて比べ物にならない肉の感触と温かさ。

 これ。
 これが欲しかったの。
 
 鈴仙の上で四つん這いになった私を、あいつは激しく犯し始めた。

「やぁ、あぅん。ちょっと、いきなりそんな、はげしっ、いぅん!」

 私もイったばっかりで身体がまだ敏感なまま。
 あいつは私の声を無視して私のお尻に腰を打ちつけてくる。

「だから、あぐっ、そんながっつかないで。うん、はっ、あっ、あぅっん!」

 腰を両手でがっちりと固定され、背後から犯される。
 生温かったあいつのちんぽが腸と擦れて熱くなっていく。
 お尻の熱さが背骨を伝って私の頭にもうつって火照る。

「あっ、あっ、ちんぽ、ちんぽぉ。もっと、擦って。もっとぉっ!」

 私の言葉にあいつは無言で応えて、腰を持ち上げられた。
 何度も突き上げられる。
 振り落とされないよう脚をあいつの腰に絡めて、鈴仙の上で獣のように犯された。

 あいつの腰が愛液とローションと精液に濡れたお尻に当たって、濡れた音を立ててる。
 ちんぽのカリに引っ掛かって腸壁が掻き出されてる。
 私のお尻が、あいつのちんぽに悦んでる。

「中で、中で、ちんぽぴくぴくしてる。してるのが判るよっ」

 もうすぐイくんだ。
 イって、射精して、私のお尻の中にあいつの精液が注ぎ込まれるんだ。
 どれだけ出しても枯れるどころか全然減りもしないあいつの精液で、私のお腹の中まで真っ白に染められちゃうんだ。

「早くぅ、早くちょうだい。あんたのどろどろの精子、早くうぅ!」

 私は思いつく限り卑猥な言葉を連発して乱れに乱れながら、背後のあいつに振り返った。
 あいつの黒い瞳は、私が思っていたよりもずっと優しい色で私に注がれていた。

 そんな目で見られたら。
 私は――

「はぁっ、はぁぁんっ。くふっ、ふうぅぅんっ」

 あいつがイった。
 射精されてる。
 散々お腹に掛けられて塗り拡げた精子が、直接お腹に注がれてる。
 精子とローションと腸液でぐちゃのどろどろになった私のお尻の中を、あいつは射精しながら掻き混ぜた。
 
「――ぁひっ、ひぃ、ふぇあ」

 もうなにも考えられない。
 気持ちよくて頭の中が真っ白。
 肘が折れて柔らかいものの上に這い蹲りながら、意識が遠くなっていく。

「てゐ」

 私の名前が呼ばれたけど、答える間もなく私は眠りに落ちていった。



xxx  xxx



「てゐ」

 レイセンの上に倒れこんだてゐの名前を呼んでみたが、反応は返ってこなかった。

 視点を変えて視れば一目瞭然で、二人とも体力も気力もすかんぴんで失神しちまっていた。
 俺はばりばりと頭を掻いて、至福の表情のまま折り重なって気絶した二人を見下ろした。

 あんな夢を見た後でレイセンにアナルのおねだりされた挙句、てゐも混じって3Pとか。
 ボロが出ないようにひたすら攻めに回った訳だが、ちとやり過ぎたか。

 良く馴染んだてゐのアナルからちんぽを引き抜く。
 ぬっぷりと抜けてザーメンが白い糸を引き、開きっ放しのてゐの尻穴は綺麗な桜色の肉壁を覗かせた。

 白とピンクのコラボについむらっときたが、我慢我慢。
 アナルセックスは体力使うからこっちも神経を使う。
 過労死なんて洒落にならんからね。

 抜いて一拍の間を置いてから、こぽっとてゐのアナルから俺が注いだ精液がこぼれてきた。
 早漏薬を服用してから俺の精力は底無しだが、流石に一回で溢れるほど大量じゃあねぇ。
 ゴムが破れてレイセンの分もてゐにまとめて注いだだけだ。

 射精でゴムが破れるってのも、あれだが。 
 薄いってのも考えものだなぁ。

 とまれ、事後に待ってるのは後片付けだ。
 散々出しまくったんで、レイセンもてゐもぐっちゃぐちゃ。
 ついでに寝床もひでぇ有様だ。
 余韻にひたる暇もないってんだから、どっちが奴隷だか判りゃしねぇ。

 ため息一つ洩らして後片付けに取り掛かる。
 精液まみれになった二人分の衣服を剥ぎ取り、ぬるま湯につけたタオルで身体を拭く。
 まずは身体にべったりとついた精液を拭い取ってから、タオルとを代えて丁寧に身体を拭く。
 顔から始まり脚の指先まで、丁寧に時間を賭けて拭き取った。

 服やらシーツやらは剥ぎ取ってひとまとめにしておく。
 こっちは処分。
 また鵺に新品頼んどくか。

 全裸のまま放り出して風邪でもひかれちゃ敵わんので、クローゼットから適当に引っ張りだしたナイトウェアを着せておく。
 レイセンもてゐも目を覚ましてこないんで、等身大の人形かラブドールみてぇだ。
 ラブドールなんて使った事ないから知らんけど。

 着替えを終えたら、てゐを抱きかかえる。
 サービスだ。
 部屋まで運んでおいてやろう。
 
「見た目の割りに重ぇ」

 気絶してっと自重を支えないってのもあるが、それにしたって重いぞ。
 ちびの癖に中はみっちり詰まってるってことですか。
 その割には胸が育たねぇよなぁ。
 ケツの肉はみっちり詰まってて具合はいいけどね。

 意識がありゃ頭突きの一発でも食らわしてきそうな事を思いながら、えっちらおっちら部屋まで運んでベッドに転がしておいた。

 で、レイセンの部屋に逆戻り。
 ベッドの上で膝を抱えて丸くなったレイセンを眺める。
 どうせシーツもとっ変えるんだし、この際鵺の手間を一つ減らしてやろう。

 俺の部屋まで運ぶ事にして、紫のネグリジェ(俺の趣味だ)に着替えさせたレイセンを抱き上げる。
 お姫様扱いなんで、重いとは口を裂かれても言えやしねぇ。
 てゐより役得もあるしな。
 むっちりとした太腿とか、夢の膨らむ胸とか。
 色々当たって非常によろしい。

「よっ」

 レイセンを抱え直してから、すたすたと自室に向かう。

 レイセンを抱き枕にして一緒にお寝むなんて素敵イベントは発生しない。
 シーツをとっ変えるまでの一時避難だ。
 またぞろ悪夢を見て、目の前で醜態を晒す訳にもいかねぇ。
 手間を惜しむなら床にでも転がしときゃいいんだが、そいつは忍びない。
 俺にはそういう魔法がかかっていた。

 鵺の仕事の早さに期待しましょう。

「ん……」

 運んでいる途中で、腕の中の鈴仙がもぞりと身じろぎをした。

「……ご主人さまぁ」

 まだちと意識が曖昧なのか、舌っ足らずに呟いて俺の胸にすりすりと頬ずりしてくる。
 鼻にかかった声音が、実にかわゆくてよろしい。

「はいはぁーい、俺ですよー」

 俺はレイセンに適当に受け答えながら、肩に回した手を伸ばして鼻先をくすぐる。
 寝言みたいなもんでも出来るだけ相槌は打っておくもんだ。

 こういうのは意味の有無じゃなくて、反応の有無を確かめてるようなもんだしな。

 レイセンはリラックスした様子で、ふにゃっと表情を和ませた。
 くすぐったかったのか俺の肩に額を押し付けてくる。

 よしよし。
 今日も鈴仙は花丸をやる程いい子だ。

「ご主人さま」

「んー?」

 もぞもぞと身じろぎをするレイセンの身体を落とさねぇように抱きながら、相槌を打つ。
 腕の中でこう動かれるとちと難儀だが、暴れるって程じゃねぇ。
 体制を工夫しながら、レイセンも俺の首に腕を回して体勢を固定させた。

 肩に押し付けていた顔を上げて、俺を見上げてくる。
 真っ赤な瞳。
 光の加減で、瞳の中に俺が映り込んでいた。



「死んで下さい」



 おや?



 不覚にも、一瞬レイセンの言葉の意味が理解出来なかった。
 足を止めてほけっと呆けてしまった俺の首に、がっちりと指が食い込む。

「げっ」

 咽喉を鳴らして唸って、その後は息が続かない。
 レイセンの指は万力のように俺の咽喉に食い込んでいる。
 以前首を絞めてきたときとはまるで違う。
 躊躇も迷いもなく殺しにかかっている。

「レ――げへっ」

 まともに名前を呼ぶ事も出来ねぇ。
 舌を出して喘ぎながら、レイセンを見下ろす。
 レイセンは俺の腕の中で、穏やかに笑って俺の首を絞めていた。

 何故?

 疑問はあった。

 疑問はあったが。

 まあ、いいか。

 俺はすぐに疑問を投げ捨てた。

 どこを見誤ったのか、何がどう作用したのかは知らん。
 だがレイセンが死ねって言うなら死んでやろう。
 殺すって言うなら甘んじて殺されよう。

 それが俺の――

「甘ぇ事言ってんじゃねぇよ」

 あ?

 ホワイトアウトしていく視界に景色が戻った。
 レイセンの指が首から外れた。

 俺は咽喉をひゅうひゅう鳴らしてよろめき、壁に寄りかかった。

 なんだ。
 どうした。
 今のは誰だ。

 空気を貪り、止まっていた酸素を全力で肺に送り込む。
 咽喉が痛む。
 爪が食い込んでいたのか、撫でた手の平に薄く血がついた。

 俺は状況を把握するためにきょろきょろと辺りを見回して、

「……」

 レイセンを見つけた。

 レイセンがいる。

 床に仰向けで倒れている。

 胸元に見慣れないものをくっつけて。

「……」

 見慣れたもんだ。

 俺の腰に差しているナイフ。

 あれがレイセンの胸元から生えている。 

 間違いなく刺さっている。

 刃先どころか深々と根元まで。

「……」

 ネグリジェがじわじわと赤く染まっていく。

 赤い。

 レイセンの見開かれた赤い瞳。

 天井を虚ろに眺めるその瞳。

 何度となく重ねた唇も赤い。

 赤く糸のように細い血が垂れ落ちていく。

「……」

 声が出てこない。

 頭が働かない。

 思考がストップしちまってる。

 こりゃ死んでる。

 そこで止まったまま先に進めない。

 この感覚に、俺は覚えがあった。

「間抜けな面だな。えぇ? おい」

 誰だ。

 俺は視線を動かした。

 止まっていた思考が動き出す。

 目があった奴を殺す。
 誰であろうと殺す。
 この場で他に生きている奴を殺す。

 レイセンが死んだんだ。
 それなのに他に生きている奴がいるなんて不条理だ。

 顔を上げた先に、俺がいた。
 にやにやと反吐の出る笑みを浮かべて立っていた。

 よし殺す。

 俺は腰のナイフを抜き放ち、そのまま一挙動で笑っていた俺の首を掻っ捌いた。

「……あ?」

 掻っ捌いたつもりが、俺の手は空を切っただけだった。

 いつもの場所にナイフがねぇ。
 どういう事だ。

 何も握ってねぇ手を開いて凝視する俺に、

「どこ見てんだ。てめぇのはここにあるだろ」

 俺が下を指差した。

 レイセンの死体。
 その胸元に刺さったナイフ。
 俺と同じ物。

「俺が、俺を殺そうとする奴に容赦するとでも思ってんの?」

 そうだ。
 そうだよくそったれ。

 俺がよければ全て良し。
 他人の命なんて羽毛よりも軽い。
 愛は誰も救わない。

 そんな事は、判ってる。

「判ってねぇよ。判ってねぇからおままごとしてるんだろうが。あ?」

 おままごとか。
 違いねぇ。

 だがな。

「俺は本気で」

「夢の中まで寝惚けてんじゃねぇよ」

 へらへらと笑っていた俺は真顔になると、素早く俺の頭を殴った。
 手にしたナイフの柄で。



「早く思い出せよ」



 俺は意識を失った。
コメント




1.名前が無い程度の能力削除
これは…最後、これ夢……なのか?
2.名前が無い程度の能力削除
夢と現実の境界…いよいよあのアマの気配が濃厚になってきましたね。
3.名前が無い程度の能力削除
あの喋り方といい、現実味のありすぎる夢といい・・・
やはり黒幕はアイツか・・・?
4.T.T削除
何…どういうことなの…これ…もう…分からないよ…
5.名前が無い程度の能力削除
ネチョ部分よりも今後の展開が気になって困る
6.名前が無い程度の能力削除
抜くどころの騒ぎじゃなくなってきましたな!
ヤバい。話の展開が面白くて楽しみすぎる!
7.七星削除
毎回ものすごく楽しみです。続き楽しみにしてます。
8.名前が無い程度の能力削除
せっかくラブラブになってきたと思ったら…
やっぱりeraudonは優しくないぜヒャッハー!
そろそろクライマックスなんでしょうか…
9.名前が無い程度の能力削除
イマラチオじゃなくてイラマチオです。