真・東方夜伽話

eraudon11

2009/08/18 10:55:43
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eraudon11

紺菜

 【注意書き・タグを良く確認の上でご判断下さい】



         ~注意書き~



 本SSはeratohoを基に作成された二次創作物であり、
 作者のオリジナル要素が多分に含まれております。

 また、東方キャラに対する調教を行なう作品である為、
 表現上暴力描写、残酷描写も多く含んでおります。

 今回は特にグロテスク表現を交えた描写が含まれています。

 ここまでの文章で嫌な予感、悪寒、吐き気、頭痛、眩暈等の症状を感じた方は、
 即座にブラウザを閉じて充分な休息を取られることをお勧めします。

 その症状が見られない、もしくは興味を持ってしまわれた方のみ先へお進み下さい。



        ~注意書き終わり~























































































 さて。
 今日はどれで遊ぼうか。

 部屋を出た俺は左右に並ぶドアを眺めて歩き出す。
 どこへ向かうとは決めずに廊下を歩く。
 俺の部屋を出て広間に辿り着くまで、普通の歩幅で歩いて五〇歩。
 だらだらと歩きながら視線を左右に向けた。

 今日はここにするか。

 目に付いたドアの前で足を止めて、ノックを省いて部屋の中へ。
 てゐはベッドの上で仰向けに、俺の姿を見るなり口元を引きつらせた。

「ひっ」

 怯える眼差しと鋭い悲鳴に、嗜虐心がむらむらとそそられる。
 鼻っ柱が強くて糞生意気なてゐが怯えているのが、とても良い。

「よぉてゐちゃん。ご機嫌いかがかな?」

 俺は陽気な声を出してベッドに歩み寄る。
 てゐはぶるぶると震えながら、ベッドから逃げ出す事無く俺の様子を凝視している。
 たっぷりと焦れったく勿体つけてから、てゐの傍らに立つ。

「ご主人様が訊いてまちゅよ。答えまちょうね。てゐちゃん、ご機嫌い・か・が?」

 ぶるぶると震え続けるてゐの顔に手を伸ばす。
 瞼を硬く閉じて顔を背けるが、気にせず顔を撫で回した。

「あらあら、聞こえませんでしたか。そうですかそうですか。
 そんな役立たずな耳なんていりませんねぇ?」

 くつくつと咽喉を鳴らして垂れた耳を揉む俺に、てゐは目を見開いた。

 恐怖に凍えたその眼差し。
 いいね。
 勃起しちまいそう。

「や。いや。いやっ! やめて、やめて下さい!」

 小さく首を左右に振るてゐに、俺はぎしりとベッドを軋ませてその上へ。
 てゐの上に覆いかぶさり、耳を口に含んだ。

「聞こえてるの? 聞こえてないの? 俺はなんて訊いた? 聞こえてても、判ってないのかな? ん?」

 てゐの耳を舐め回し、甘噛みしてしゃぶりながらこぼれ出した恐怖を愉しむ。
 身体の下から感じる振るえとささやかな抵抗を味わった。

「……い、いいです」

「ふーん。それって俺の事誘ってる?」

 しゃぶしゃぶと耳の先を吸う。
 恐怖と嫌悪と抑鬱の混じったいい顔を浮かべて、てゐは頷いた。

「は、い」
 
「んふ。じゃあ応えてあげないとね」

 俺は身体を起こして、膝立ちのままずりずりと足元へ移動する。
 被せていた毛布を剥ぎ取った。

 てゐの姿が露になる。
 いい加減見飽きたワンピース姿に、手足はない。

 性懲りもなく俺のとこから逃げようだなんてしたから、お仕置きに手足を切り落とした。
 鋸を使って、ぎこぎこと。
 達磨にしてやった。

 その時の痛みに懲りたのかすっかり従順になり、物理的に逃げ出すような真似も出来なくなった。

 今じゃ生きた達磨人形。
 俺の性欲の捌け口として立派に性奴隷してます。
 二度美味しいって奴だね。

「はいばんざーい。って、万歳出来ないんだっけ? 万歳しようにも腕がないんだもんね。うふふ」

 俺はてゐの身体を起こして、邪魔っけなワンピースを脱がせる。
 俺がいないと何にも出来ないんだから、全く仕方ない兎だね。

「うっ…うう、ううっ」

 てゐは唇を噛んで悔し涙をこぼしながら、抵抗はしない。
 手足と一緒に抵抗心なんかもぶった切られて、今頃どこかで腐っちまってる事でしょう。

 ざまぁねぇや。

「はーい、二人で出来ましたー」

 ワンピースを脱がしたてゐを転がす。
 手足の縫い目が美しくないんで、きっちり布のカバーなんかこしらえてみたり。
 優しいご主人様で良かったネ!

「じゃあお次は楽しい事しようか」

「うぐっ、ぐす、ひぐっ」

 ぐすぐすと鼻を鳴らすてゐの股に吸い付いた。
 ぷっくりと膨らんだ恥丘を舌でなぞり、指で左右に広げて中に隠れていたお豆を吸い上げる。

 芋虫のように悶えるてゐの姿に欲情を駆り立てられながら、俺は音を立てててゐの膣を吸った。
 ちと酸っぱい。
 アンモニア臭が残ってるのは自分でお手入れ出来ないからか。

 他の奴隷共は何やってんでしょ。
 後でお仕置きだな。

 俺は唾液でたっぷりと濡らしながら、てゐのぽっこりと膨らんだ腹を擦る。

「ちょっと腹膨らんで来たんじゃね?」

 元々幼児体型で胸ぺったんくびれとほほはらぽっこりではあったが、それでもちと目立つようになってきている。
 痩せて肉付きが悪くなった所為か、それとも――

「こりゃあ、おめでたかもな」

 股から顔を上げて、にやりと笑う。
 てゐは顔面を蒼白にして震え上がった。

 処女膜ぶち破って(それがてゐの脱走動機になった訳だが)以来、避妊なんざしていない。
 ゴムなんか付けてたら生で味わえない。

 生で膣内射精が最高。
 孕もうがどうなろうが知った事じゃねぇ。
 こちとら衣食住の全てを整えてんだ。
 引き換えにガキの一人二人孕むくらいはしてもらわないとな。

 ま、孕んだかどうかなんて判んねぇけどね。
 幾ら痩せても腹は内臓の分だけ絞り切れねぇからな。

「てーゐ。どうかなー、ママになった気分は」

「いや。いやっ……やめてよ」

 俺はてゐの横に添い寝する形で、黒髪を撫でる。
 てゐは泣きじゃくりながら弱々しくかぶりを振った。

 いやぁ、やっぱり泣き顔はいつ見ても可愛いもんだ。

「ご褒美に、パパのザーメンをプレゼント。今日もたっぷり中出ししてやるからな」

 だけどまあ。

「もうやめて…お願いだから。もう、やめて…下さい」

 手足をぶった切ったショックからか、語彙が少なくなっちまってちと不満。

 ま、それはそれとして。
 てゐのお願いを無視して、俺はいきり立つ息子を取り出した。

「おほっ。軽いから楽ちんだ」

 目方が減った分、てゐの身体は軽くて簡単に持ち上げられる。
 まずは脚の上に乗っけて背面座位。

「あぐっ、うくっ、ひぐっ」

 泣きじゃくる声を肴に軽い身体を揺すって楽しむ。
 体格差から犯し倒した今もきつきつ感が残ったまま。
 ずぶりといくと一物の先にこつんと当たる硬い感触。

「おー、いいよいいよ。てゐのおまんこきゅっきゅっと締め付けてきて。赤ん坊に握られてるみてぇだ」

 腰を掴んでぐりぐりとひねる。
 脚がないんで座位でツイストもお手の物。
 全くもってエロいアイテムになっちゃってまあ。 

 喋る生オナホって感じだ。

「あぐ、ぐふっ、ぉぐふっ」

 子宮口を亀頭でごりごりとねじると、えづくように嗚咽を始める。
 つわりかね。

「てゐちゃーん。吐くのは構わねぇけど、吐いたらお仕置きよん」

 頭を鷲づかみにして固定した後、腰をひねっててゐの中を楽しむ。
 程よいぬめりにみっちりと詰まった質感。
 よりささやかになった抵抗とも言えない身じろぎ。
 小さなてゐを犯している感が、実に気分が良い。

「ほら、腰腰。もっと腰使って。
 腕も脚もないんだから使える場所使って俺を悦ばせないと、またどっかなくなっちゃうよ?」

「あっ、ううっ、ううう……」

「湿っぽいのは下の口だけで十分。ほら、もっと喘いでみな」

「あぐっ、うっ。あう、あん。ん、あんっ」

「その調子その調子。ぃよっと」

 俺はてゐの身体をぐるりと回して体位変更。
 向かい合って身体を後ろ向きに倒して、騎上位の格好へ。
 てゐの苦痛に悦ぼうとする表情や、達磨具合が良く見える。

「ほら、てゐ。笑って笑って。にっこり笑ってごらんさい」

「はぐ、ぅ……へへ、えへへへっ」

 鼻水を垂らす程号泣しながら、てゐは口元を歪めて笑う。
 俺はてゐの腰を掴んで下から遠慮なく突き上げまくった。
 てゐの身体が弾んでごつごつと奥を一物で激しくノック。

「ぁがへっ、げへ、べへへへへっ」

 子宮口を抉じ開けられながら、てゐは笑い続けた。
 だらしなく舌を垂らして白目を剥きながら。

 たまんね。

 俺はさっさとスパートをかけて、てゐの尻に爪を食い込ませて腰を振った。

「出るぞ。出すぞ。パパのミルクだ。ほれ、ママの胎ん中にいるガキに、直接飲ませてやるぞ」

「…へへへ。ぃや。へへ…ゃだ……妊娠するの、いやっ。へへへへへ」

 んなこたぁ聞いちゃいねぇ。

「おうっ」

 笑いながら懇願するてゐを無視して射精した。
 子宮に直接ぶちまけた。

「ゃだ、やだよぉ……もうやめてぇっ」

「一回二回で満足するはずないでしょ? ほら、もっと頑張らないといつまで経っても終わりゃしねーよ」

 ま、頑張った所で終わりになんてしないけどね。
 折角上手く四肢切断が出来たんだ。
 死ぬまで可愛がり続けるのが飼い主の義務ってもんです。

 終わらせないのが地獄って事。

 かき混ぜながら突きまくっている内に、瞬く間に俺の一物は復活した。

 乾く暇もねぇって奴で、てゐの身体を縦に揺さぶった。

「…返して…返してよう…私を返してよぅ」

 てゐは咽びながらされるがままに泣きじゃくり、俺は構わず芋虫のようにくねる身体を下から、上から、後ろから犯し続けた。
 たっぷりと中出ししてやった。

 最高だった。



 大量にタンパクを使ったんで、補充の為に飯にする事にした。

 今日の晩飯はハンバーグ。
 オムライスとカレーに並び、日本の夕食における三大メニューの一つだ。
 合い挽き肉と微塵切りにした玉ねぎ、卵を割って落としてパン粉を少々振り掛ける。
 塩胡椒で味を調えたら、後は種が均一になるまで手でよく混ぜ合わせる。

 あらかじめそこまで下拵えしておいたものを冷蔵庫に保管してあるので、後はラップを解いて焼くだけ。
 サラダ油を引いたフライパンでじゃっじゃと焦げ目が付く迄焼き上げ、レタスとトマトとポテトを添えた皿に盛り、さっとデミグラスソースを一掛け。

 お子様の大人気メニュー、ハンバーグの完成だ。

 早速がつがつとがっつきながら、ハンバーグを食らう。

「うめぇ」

 さすが俺。
 俺好みの焼き加減も味付けも知っている。
 料理を覚えちまったら、自分が美味い飯を幾らでも作れる訳で。
 食っちゃ寝セックス三昧の俺にとっては、料理の手間なんざ屁でもねぇ。

 ミートチョッパー導入は正解だったな。

 機械上部に取り付けられた入り口から肉を突っ込んで、ハンドルぐるぐる回すと挽肉になって出てくるって単純な物。
 一般のご家庭ではちょいと目に付きにくい代物だが、あったらあったで中々便利だ。

 電動は糞高いんで手動式だが、ハンドル回す労働もこのハンバーグが食える頃には忘れちまって舌鼓。
 人間、喉元過ぎれば熱さを忘れる。
 てめぇのミスや汚点はさっさと忘れて、他人の重箱の隅を突っつくって寸法。

 歴史ってもんを感じるね。

 ま、大仰なものはさて置いて、具体的な俺の歴史について考えましょう。
 差し当たって、てゐの腹の中に仕込んだ子種について。

 てゐの苦痛を搾り出す為に、そっち方面のネタでいじくってみた訳だが。
 孕んじまってた時の事も考えておくのがパパの務め。

 俺って子作りにも理解があるのよねん。

 フォークに刺したハンバーグを口の中へ運ぶ。
 噛むと歯が肉に埋まって肉汁が溢れ出し、香辛料の利いた汁がたっぷりと口の中に満ちる。
 刻んだ玉ねぎの甘みと、歯ごたえが良いアクセントだ。
 ジューシー&スパイシー。

 やっぱり肉はいいね、肉は。

 くっちゃくっちゃとたっぷり咀嚼して、てゐの今後を考える。
 考えるったって、結論は一つしかなかった。

 それと判るほど腹ボテしてきたら、パンチ数発。
 それでけりが着く。

 ガキなんていらね。
 いても面倒臭いし、邪魔なだけだし。

 生まれる前にくびり殺すか、生まれてから絞め殺すかの違いだ。

 よし決定。
 経過を見ながらそれと判ればサンドバックといきましょう。
 サンドバックらしく、いっその事吊るしてあげようかしらん?

 手足を失ったてゐをぶら下げる。
 肉の果実といったとこか。
 似合い過ぎるが、俺はちっとも困らねぇ。
 むしろ自分の想像に腰がぶるっと震えて、我慢を知らない俺の一物が早くも期待にそそり立っていた。

 飯食ったら、もっかいてゐのとこ行くか。
 今度はそっち方面で倒錯的なプレイを楽しむとしよう。

 その為にもきっちりタンパク質を補給。
 てゐの中にぶちまける弾を装填しておいた。

「ん?」

 咀嚼の最中にがりっと歯に当たる固い感触。
 口の中で噛み砕いて解れた肉を舌でいじくって選り分け、固い物だけぷっと吹き捨てた。

 それがころころとテーブルを転がった。

「ああ、なんだ。混じってやがった」

 爪だった。
 まさしく指の先程度の大きさの。

 血抜きした後、皮を這いで骨から削ぎ落とした肉からこういった異物は取り除いたつもりだったんだがな。
 丸みを帯びた薄く白っぽいそれを、フォークの先でつついて転がした。

「それにしても」

 俺は残ったハンバーグの切れ端を見下ろして、フォークをぶすりと突き刺す。

「妖怪兎っても味は変わらねぇのな。肉は肉だ」

 特徴は、ちと鶏肉と似て淡白だってくらいか。
 牛肉と合わせてこねるのがコツって奴だ。

 切り落としたてゐの手足を潰して捏ねて作ったハンバーグ。
 その残った欠片を頬張った。

 うまかった。



xxx  xxx



 ご主人様の部屋のベッドで迎える二度目の朝。
 先に目が覚めたのが私という所までは一緒だったけれど、昨日とは随分違っていた。

「……」

 すうすうと寝息を立てるご主人様の寝顔を目にしても、昨日のように狼狽したりしない。
 心を満たすのは静かで穏やかな充足感。
 隣で横になったまま、ずっとこの人の寝顔を見つめていたいという穏やかな欲求があるくらい。

 直にご主人様も目を覚まして、私の願いはすぐに終わる事になる。
 それが判っていても残念だとは思わない。
 目を覚ますまでのほんの一時、ベッドに侍って眺めていられる。
 それだけで満足。

「ふふ」

 穏やかな寝顔を見つめていると、自然と笑みがこぼれてきた。

 今も下腹に残る余熱。
 肩に回された腕。
 本当に一晩中、繋がったまま同じベッドで過ごした。

 笑みに照れ臭さが混じりながらも、それに勝る喜びが私を包んでいる。
 ただ一晩、繋がり続けていられただけでこれほど違うなんて。

 この満ち足りた朝の迎えを失わない為にも、もっとこの人の事を知らないと。

「ご主人様は、いったい誰なんでしょうね……」

 尖った顎の輪郭を指でなぞって、戯れに訊ねた。

 自分の名前を与太話だと切り捨てたのは、やっぱり何か理由があっての事なのだと思う。
 名前があると不便だという事は、名乗ると不都合な事があったからなんだろう。
 ご主人様の言葉を疑っている訳ではない。
 私を愛してくれるといってくれたあの時と同じ真摯さで、あの人は私の質問に答えてくれた。 

 今まで考えて事もなかったのだけれど。
 ひょっとして、ご主人様の方が。
 私よりもずっと不幸な道を歩んできたんじゃないだろうか。

 少なくとも、ご主人様は自ら選んだ。
 名前を捨てる事を選んで、その為に必要な事を全て行ってきたんだろう。

 ご主人様に連れられて向かった遊園地での一幕が頭によぎる。

『けど、俺には才能がなかった』

 私の目から見て有り余る程の才能を持ちながら、ご主人様は限界を語っていた。
 才能の有無を確かめる為にも、人一倍の努力を重ねたに違いない。
 でなければあれほどの技術を身につけ、人々を沸かせるなんて事が出切るはずがない。
 中途半端に投げ出していたら、あそこまで拘ったりしない。

 他者を省みない邪悪さと澄み切った愛情という、矛盾を併せ持った人間。
 自らの限界を語る時には諦めを重ねた老人のようで、愛を語る時には冷めない熱意と憧憬を持った子供のようで。
 名前を自ら捨て去った不思議な人。

「誰でもない誰かになったのは、どんな理由があったからなんですか?」

 顎から少し髭が生えていて、しょりしょりという感触を指先で楽しんだ。

 この人は名前がある事を不便だと言った。
 自ら名乗った事も、呼ばれる内に定着したものもあったと言い、それを他人にあげたと。

「……名前なんて、誰かにあげるものじゃないですよ」

 名前は授けてもらうもの。
 この人は真摯にそう答えた。

 私もそうだ。
 今の名前も、自ら名乗った訳じゃなくて師匠と姫様から頂いた地上人に溶け込む為の名前。
 それがいつの間にか私の名前になっていて、それでも本名も消えずに残っていた。

 この人は色んな矛盾を抱えている。
 揺るがない強固な何かを持っているのに、根無し草のように不安定でもあって。

 ご主人様の寝顔を眺めている内に、少し意地悪な気持ちが浮かんできた。

「私の事、ほんとに好きなんですか?」

 てゐの事もあるし、今は師匠の事だって。

 愛してくれるなら、私だけを見ていて欲しい。
 それは私の我侭なんだろうか。

 愛してもらっているという実感はあるし、その為に細かな気遣いも受けているんだけど、何だか釈然としないような。
 私の持つ性観念とご主人様が持っているものとでは、かなり異なっているんだろうけれど。

「……」

 なんとなく納得出来ないものを感じて、頬の肉をつねった。
 ご主人様は歯を見せながらも眠り続けている。
 相変わらず眠りが深かった。

 こんなに無防備に眠ってたら、てゐや師匠の格好の餌食ですよ。

 つねっていた頬を離して、指で突ついた。
 けど、私の前でだけこれだけ無防備に眠ってくれているのだとしたら。
 安心してくれているのだとしたら。

「……ふふ」

 少し、嬉しいと思わなくもない。

 ご主人様の寝顔を眺めて思いを巡らせていると、ぎゅっと抱き締められた。
 抱き締められるというよりも、しがみつかれる。

「ご主人様?」

 目が覚めたのかな。

 顔を覗き込もうと前髪を掻き上げるも、そのまま私の胸元に押し付けてくる。
 膝を折って小さく丸まって、私を強く抱き寄せた。

「起きてます?」

「うー、ううっ」

 私の質問に、胸に顔を埋めたまま小さく唸った。

 ひょっとして。
 また昨日の朝のように悪戯をしてくるつもりなのだろうか。
 そういう所はてゐとそっくりだ。

「もう。子供っぽい真似ばかりしないで下さいよ」

 目が覚めたのなら、まずはお風呂だろうか。
 私もご主人様も、汗まみれのまま眠ってしまった。

 ……汗以外にも、色々と。

「ほら、早く起きて下さい」

「ううう、うう」

 唸り続けるご主人様の肩を揺らして、

「また引っぱたいちゃい……ます…よ?」

 その手がぬるりと滑った。

 え。

 手の平がべったりと濡れている。
 ご主人様の身体から吹き出した大量の汗で。

「ううう……!」

 私にしがみつくご主人様の様子は、目に見えて苦しげになっていた。
 全身から玉のような汗が滲み出し、唸り声もうめき声になっている。
 ぐいぐいと顔を私の胸に押し付けてくるから表情は見えないけれど、良くない状態なのは一目で判った。

「ご主人様。あの、大丈夫ですか?」

 肩を揺すってもご主人様は目を覚まさない。
 汗は身体を濡らし、絞り出てくるように溢れて止まらない。
 しがみついてくるご主人様の身体が熱い。
 温かいなんてものじゃなくて、発熱しているように熱かった。

 ひょっとして。
 これは悪ふざけや冗談なんてものじゃなくて。
 高熱に浮かされているんじゃないだろうか?

 私はご主人様の様子に異常を感じ始めていた。

 ひょっとして、病気?

 けれどそんな様子は今まで一度も見た事がない。
 いつもぴんぴんしていて健康そのもので。
 その、性欲だって底抜けで――

 唐突に、私の脳裏に瞬く過去の記憶。

『ちょっとお薬をブレンド中』

 以前足を踏み入れた時、ご主人様は見慣れない器具を用いて薬を調合していた。

『早漏薬』

 効果の内容と意地悪をされて、あの時はうやむやになってしまっていたけれど。

『ふむ。確かに持続力の著しい低下は由々しき事態だ』

 調合した本人であるご主人様も、細かな効果と副作用の程を把握仕切れていない節があった。

 そう。
 考えるまでもない。
 あの薬を打った時から――私が注射してから、ご主人様の射精回数や量は異常だ。
 それはご主人様の体質が変化したという事。

 量にせよ、回数にせよ、今までとは比べ物にならない。
 それでも毎日毎晩私やてゐと飽きる事無く交わり続けて。
 今までそれ以上の変化が見えなかったから気にならなかった。
 いつ果てるともなく続けられる肉欲の前に、気にする余裕もなかった。

 けれど。
 ご主人様は薬だと言ったけれど。
 あれはもっと別のもので。

 毒や劇薬と言うべき物だったんじゃないか――

 避妊薬を服用した私にも、

『余り薬ばかりに頼ってちゃ駄目だよ。何がしか副作用があるんだからね』

 この人はそう注意した。

 先ほどまであった心の平穏は、今は冷たく凍えてしまっていた。

 まさか。
 ご主人様が毒なんて。
 そんな真似をするはずがない。
 だって、人一倍他人に対して攻撃的なのに。

 本当に?
 本当にするはずがない?

『ましてや自業自得だしな』

 頸を絞める私に抵抗する素振りも見せず、自虐めいた笑みを浮かべた。

『ぼーっとしてちゃ危ないよ』

 振り下ろし掛けていた包丁を、何の躊躇いもなく手で受け止め握り締めた。

 それよりも以前。

『勿論歯を立ててもいいよ。噛んでもいいよ。何なら噛み千切っちゃってもいいさ』
『歯を立てようが噛もうが構やしねーけど』

 私を苦しめていた時から、今にして思えばどこかちらほらと投げやりな部分があった。
 自分自身に対して。

 それって、ひょっとして。

『愛した相手に殺されるってのは、俺にとって納得して死ねる理由だ』

 そういう事……なの?

 あの約束をしてから。
 私を愛するって言って貰った時から。
 私を満足させる為に。
 私たちの官能を促す為だけに。
 この人は嬉々として我が身に毒薬を打ったのだろうか。

「あはは……そんなの、考え過ぎ」

 私のいつもの悪い癖。
 物事を悪い方へ悪い方へと考え込んでしまう。
 だから口にして笑った。

 笑ったのに。

 私の口の中はからからに乾いてしまっていた。
 胸の奥でわだかまる予感も消えてくれなかった。
 私は安心感が欲しくて――今まで不安で触れなかった――ご主人様の顔に、手を潜り込ませた。

 額に触れる。
 ご主人様の額は信じられないくらい熱くて。
 手がぬるりと脂汗で滑った。

 手の平から伝わる熱と感触に、私の顔から血の気が引いていた。

「ご主人様? ご主人様! しっかり、しっかりして下さい!」

 揺さぶった。

「うううっ!」

 苦しげに唸ってその手を払われる。
 邪険に払いのけられた事はショックだったけれど、それでも諦めずにご主人様の小さく縮んでしまった身体を揺すった。

「起きて、起きて下さい。ご主人様、目を覚ましてっ」

 私が知るべきだったのはご主人様の名前や素性何かじゃなくて、この人が何をしたのか。
 自らの身体に。

 かぶりを振る。
 知るべきだったなんて。
 終わってしまった事のように考えちゃいけない気がした。

「うぐっ……!」

 揺さぶり続ける内に、ご主人様は食い縛った歯の隙間から嗚咽を洩らした。



「レイセンちゃーん。そんな怒らないでよ」

「……」

「いや、まあ確かに俺が悪かったよ。うん、俺自身ショックだった。けどまあこればっかりは不可抗力って言うかさ」

「……」

「生きてりゃ寝ゲロの一つもする訳ですよ、うん」

 あの後の出来事は思い出したくない。
 酸鼻極まる凄惨な光景が広がった、としか言いようがなかった。

「けど二人とも裸である意味助かった。そのまま丸洗い出来たし」

 汚れたシーツや布団を剥ぎ取ったベッドにスプレーをしていた御主人様は、腕を組んでうんうんと頷いた。
 不幸中の幸い、と言えば聞こえはいいけれど、不幸中の不幸を免れただけなのではないのだろうかそれは。

「……目の前にいたのに」

「ほんとごめん。悪気はないのよ」

 恨みがましく睨む私に、ご主人様は再び平身低頭拝むように謝る。

「悪気は無くても許せない事って、あると思います」

 後片付けをして念入りに髪も身体も洗い流したけれど、まだ酸っぱい匂いが鼻の奥に残っている。
 ような気がした。

 すんすんと鼻を鳴らして髪の匂いを嗅ぐ私に、ご主人様は手にしたスプレーを誇張するように差し出してくる。

「気になる匂いにファブリーズ。除菌も出来るファブリーズ。便利な詰め替えタイプも」

「それ、効くんですか?」

「レノア、した?」

「そんな事訊かれても」

 声色を使っているあたり、これも何かの冗談なのだと思う。
 ご主人様の冗談は判り難くて反応に困る。

「まあレイセンを直接ファブる訳にゃいかないし、無香料デオドラントで勘弁してね。
 ほら、座って座って。シュッシュしてあげるから」

 緑と白のスプレーから銀色のスプレーに持ち替えると、かこかこと振って鳴らした。

「ちんちん髪扱きシュッシュする訳じゃないから安心してネ」

 そんな事訊いてません。

 何だか文句を言うのも億劫になって、私は諦め半分にため息をついた。
 引かれていた椅子に腰掛ける。

 どうしてこう、発想が下品なんだろうこの人は。

 呆れる私に構わず、ご主人様は机に置いてあった櫛を手に取り髪を梳き始めた。
 
「~♪」

 楽しげに口笛など吹きながら。

 櫛を入れて軽く持ち上げ、ぷしゅっと軽快な音と冷たい息吹が届けられる。
 スプレーを吹き付けられ、均一に馴染ませながら髪を梳かれた。

「レイセンの髪さらさらだねぇ。今度髪扱きしていい?」

「やめて下さいよ。髪に付いたら取るの大変なんですからね」

「タンパク質だからね。下手にお湯で濯ぐと固まっちゃうのよね。
 レイセンが嫌がるので、髪扱きの予定は永遠に未定です。全国髪フェチ連合はこうして涙を飲むのであった。
 よし、泣け」

「なんですかそれ」

「最近トップヘア派とボトムヘア派の派閥抗争が激化してるんだってさ」

「知りませんよそんな事……」

 どうしてこう、言動と行動が一致しないんだろうこの人は。

 言葉遊びでもするような会話を交えながら、思わず赤面してしまう程丁寧に髪を梳かれた。
 確かに散々な目に遭いはしたけれど、今はそれほど怒ってもいない。
 こうして優しく髪を梳かれているから。

 私も現金な性格をしていると思った。

 私は口笛を吹くご主人様を肩越しにちらりと盗み見た。

「体調、悪かったんじゃないですか?」

 寝起きに突然吐くなんて。
 うなされるご主人様から感じた不安は未だに胸にこびりついたままだ。

「んー……どうなのかなぁ」

 ご主人様は視線を天井に向けてスプレーの底で顎を掻く。
 曖昧な言葉はご主人様自身原因が把握出来ていないからか、単にはぐらかしているのか。

 それとも、自分の事になんて興味が無いからどうでもいいのか。

「ちょっと、熱を測ってみていいですか?」

 もしも本当に体調が悪いなら、隠そうとするのだろうか。

「いいよー」

 肩越しに振り返った私に、ご主人様は少し屈んで呆気ないほど簡単に顔を寄せてきた。

「……失礼します」

 私はご主人様の額に手の平を当てた。

 目を覚ます直前にうなされていた時のような、異常な脂汗や熱はない。
 シャワーを浴びて体温が落ちたのか、一過性のものだったのか。
 自分の額に触れながら比べてみるけれど、平熱のように思えた。

「どう?」

「大丈夫……だと思います」

 異常はないと言い切れないのが我ながら情けない。
 ご主人様は気にした風もなく私の髪を梳き始めた。

「そ。なら良かった。病は気からって言うしね。レイセンが太鼓判をくれるなら大丈夫でしょ」

「……でも、気分が悪かったりしたら言って下さいよ。私も、少しは診れますから」

 顔を離したご主人様に、私は未練がましく付け加えた。

 診れると言っても本当に少しだけだ。
 診療所にいた頃から患者への問診や薬を出すのは全て師匠だった。
 私は手伝いをすると言っても殆ど雑用ばかりで、注射を行う時もあらかじめ師匠が用意したものをそのまま打つだけ。
 私が作る薬にしても、簡単なものを何度も調合している内に覚えたものだ。
 材料を選ぶのも調合も全て師匠が行っていた。
 
 そんな私が、どうやってご主人様が患っていないのかどうか判断するんだろう。

「そっかそっか。じゃあ具合が悪くなったら頼むよ。レイセンが看病してくれたら、それだけでお兄さん全快ですよ」

 沈む私とは対照的に、ご主人様は軽快に笑って私の髪を梳いてはスプレーをシュッシュと吹き付ける。
 櫛を入れるその手が不意に止まった。

「でも待てよ。全快したら勿体無くない? 折角のレイセンの看護が受けられないじゃない」

「重い病気に罹ったりしたら、私の手には負えないですよ?」

「そこはほら。俺には特効薬があるから」

「? ……どんな?」

「どんな不治の病だろうがお姫様からキスを貰えば、男は気合と根性で何度でも甦ってくるって事」

 冗談交じりにそんな事を言ったりして、手の平に乗せた私の髪を口元に寄せた。
 匂いを嗅ぐ傍ら、私の髪にキスをした。

「……うん、もう臭いは消えちゃったね。良い香り。
 気になるようなら、こっちも服とかにシュッシュしてね」

「は、はい」

 もう振り返る事も出来なくなって首を竦める私に、ご主人様はことんと机に缶を置いた。

「ま。こんな可愛いレイセンが見れるんだから、病気に罹ってる暇なんてないんだけどね」

 視界に入って来ないぎりぎりの距離を保ちながら、ご主人様は肩を狭めて縮こまる私に囁いた。
 口調は穏やかだけど、どこかにからかう響きがある。

「おだてないで下さいよ。何言ってるんですか朝から」

 この人は意地悪だ。
 私のすぐ背後で声を殺して笑っているのが判ったし、楽しげで意地悪な表情も簡単に思い浮かんできた。
 
「朝から照れてるレイセンも可愛いよ」

「……もう!」

 私は机に置かれた缶を荒っぽく掴み、ぷしゅーっと胸元に吹き付けた。

 そんなやり取りを経て、私たちは部屋を後にした。

「さて、今日も朝飯といきましょう。一日はまず腹を満たす事で始まるんですよ」

 お腹を抱えて舌なめずりをしながら、ご主人様はスキップでも始めそうな足取りで廊下を進む。
 言ってしまえばただの朝食だが、そういった有り触れた事でも随分楽しげだ。

 昨日は師匠が料理をしていたから、それと何か関係があるんだろうか。

「和食が好きなんですか?」

「和洋中伊仏独露。何でもいけるよん。でもイギリス料理だけは勘弁な! 犬も食わねぇ」

 ……いぎりす?

「そんなに美味しくないんですか? その、いぎりす料理って」

「不味いと言うか――理不尽だ。
 素材の扱い方と舌の味覚と食の観念がまとめてどうかしてるんじゃねぇのかと。
 と言うかもう不味くする為に料理してんじゃねぇかと。霧に撒かれてる内に舌が根腐れしたんじゃねぇかと」

 ご主人様は天井を仰いで肩を竦め、大仰に嘆いた。

「そ、それ程ですか」

「ぶつ切りの鰻をゼリーにして食べるなんて理解不能だ。日本全国の蒲焼屋に謝れ。後タレ作ってる職人に土下座行脚して回れ。
 チップスと同じ皿にべークドポテトを乗せて平気で出してくる。そこまで芋が好きか。そうか。よし。氷の上でイモバウアーでも舞ってろ。
 卵を茹でただけで料理だと言い張る上に、御大層にカップに乗せて絵まで描いて飾るんだぜ? しかも食えない殻に。
 それは料理のつもりなのか。アートって言ったら殴ってやる。料理だって言ったら口に絵の具詰め込んでやる。使い所のないビリジアンな。
 サイドイッチのパンはやったらぺらいし、具はツナ一択。何でかって? それ以外の具は野菜も肉も鮮度度外視の代物で、ツナは缶詰保存が利いてるからさ。
 と思ってたら挟んだパンが不味かったって落ち。俺が甘かったと思い知らされたよ。悲しみを通り越して笑えて来たね。
 そもそも辛うじて食える国の代表料理が、フィッシュ&チップスなんてジャンクフードなのは、国家としてどうよ?
 ギトギト油で揚げた芋と魚にたっぷり塩を振り掛けて、新聞紙で包むの。新聞紙ですよ? 新聞紙。しかもスポ三面並みに記事がエロいのが美味いとかね。
 もうね、くたばれ。一人残らずくたばれ」

 口汚く(ある意味ご主人様らしい姿で)罵る様子は、憎しみすらこもっていそうだ。

 ここでの食生活を経たので、ご主人様が言っている料理の類もおぼろげに想像出来る。
 元々皮肉っぽい所があるからそのまま受け取る事は出来ないけれど、話半分に聞いたとしても相当だ。

「……聞いてるだけで胸焼けがしてきそうです」

 どうやっても想像不可能な鰻のゼリーだとか、揚げ方焼き方を変えただけの芋料理だとか。
 流石に付け合せに出されたりしたら私も困る。
 ここでの生活で私の舌はすっかり贅沢になってしまっていた。

「食ってもんと正しく直角に曲がって向き合ってるのさ。パンに豆乗せて食う奴らだからな。頼むから速やかに英国滅べ」

「そ、それは流石に言い過ぎなんじゃ……」

 国が違えば食は随分違ってくるのだろう。
 月と地上とではまるで違っていたし、月では不浄の象徴であった海から取れる物を口に入れるという事に、ひどい驚きも感じた。
 生き物が全く存在しなかった海に魚が泳いでいるという事でさえ驚きだったのに、あまつさえ食べてしまうというのだから。

 結局、それと知らない内に普通に食べていた事と、ご主人様とてゐの二人掛かりで地上での海の位置づけの説明を聞かされて、いつの間にか抵抗感も薄れてしまったけれど。

「ほ、ほら。幾らなんでも何か一つくらいは美味しい物が――」

「ちなみに。イギリスで出てくる野菜はどれもこれも例外なく、くたくたになるまで煮込んでるよ?
 何でもかんでも鍋に放り込んで煮詰めて、形も残らない程ぐっちゃぐちゃ。後に残るのは死滅した栄養素と中途半端な食感だけ」

「早く滅ぶといいですね、その国!」

 振り向いて人差し指を立てたご主人様に、私は笑顔で同意した。

 月出身とはいえ、私も兎だ。
 野菜をないがしろにするのは許せない。

 野菜を煮詰めないと食べられないなんて。
 なんて無粋な上に野蛮なんだろう。
 赤い月を見上げて全員発狂しちゃえばいいのに。

「うむうむ。レイセンも判ってくれたか。判ってもらうために英国風の飯を作るだなんて忍びないからね。
 どうして不味いと判り切った方法で調理をしなきゃならんのか」

「いぎりすだけは許しちゃいけないって、良く判りました。
 それにしても、ご主人様」

「ん?」

 腕を組んで深く頷いていたご主人様に、私はふと感じた事を口にする。

「ご主人様って、本当に何かをけなすのが上手いですね」

 語彙や知識を総動員して、全力で相手を貶めている気がする。
 何というか、命を賭けているというか。
 生の感情が所々で見え隠れしているので、こちらにも実感を伴って伝わってきた。

 ご主人様はきょとんと目を丸くして私を見つめ返して、鼻の頭を掻いてはにかんだ。

「褒められると照れるね」

 私もご主人様と同じ顔になって、髪を一房指に絡めて弄くった。

「あんまり、褒めてないですよね?」

「いや、俺に訊かれても」

「……それもそうですよね」

 二人揃って、ばつの悪い苦笑い。

「へっ」

「ふふ」

 その後、殆ど同時に自然な笑みがこぼれた。

 朝目が覚めて、朝食を食べに広間に向かう途中で足を止めて、こうしてご主人様から今まで知らなかった話を聞かされる。
 そんな他愛のないお喋り。
 それが、何だかとても嬉しく感じる。

 勿論、ご主人様の事を知らなければならないというのはある。
 けれどふと足を止めた何気ない時間に、私は楽しさを覚えていた。

「……行きましょうか。お喋りばかりしてたら、てゐに何を言われるか判りませんよ?」

「ちーとも懐かないんだよなぁ」

 歩き出したご主人様の赤い背中に着いて行きながら、

 今より懐かれたりしたら、私が困ります。

 胸にある本音を声に出さず呟いた。

 私がご主人様と一緒に広間に出ると、そこにはすでに席に着いたてゐの姿がちょこんとあった。
 くつろいだ様子でふんぞり返り、頭の後ろで手を組んでいる。

「遅い到着ね。二人して。部屋を出てからずいぶんくっちゃべってたみたいだけど、私になにを言って欲しいのかしら? ん?」

 私たちの姿が見えると、にやにやと底意地の悪い笑みを浮かべて揶揄してきた。
 ため息をついてご主人様を見上げる。

「ほら、思った通りでした」

「だな」

 遅い到着も何も、昨日私がご主人様の部屋に向かったのはてゐが仕向けたのもあるんだから。
 ……そりゃあ、私にも期待はあったけど。

「せっかくだから、期待には応えてあげないとね」

 てゐはにやにやと笑いながら、垂れた耳を持ち上げて見せた。

 てゐの態度は少し前に見ていた通り生意気でふてぶてしい。
 それは逆にリラックスしている証拠でもあり、昨日のように師匠を意識していないという事。

 師匠の姿は広間になく、恐らく昨日のように料理をしているのだと思う。
 キッチンの奥からは食器の擦れる音や何かを調理する音が聞こえていた。

 師匠の姿がない事に、私は少し安心したような、申し訳ないような複雑な感情を抱いていた。
 昨日は私が怯えるばかりで、ろくに会話もしていない。
 ご主人様と師匠が話す様子を、てゐと一緒に固唾を飲んで耳を傾けていただけだ。

「盗み聞きたぁ相変わらず趣味が悪いこって。何。それって催促してんの?
 朝まで俺にかわいがって欲しいんでちゅかー?」

「冗談は存在だけにしなさいよ。一晩中なんて身体がいくつあっても足りないわよ。全く、二人揃って発情期なんだから。
 なんか言われたくないんなら、私の聞こえない場所でしなさいよ」

「聞こえない場所なんかここであんのかね? おっきいお耳のてゐちゃん」

「触んないでよ。下衆が移るから」

 てゐの背後に回って手を伸ばすご主人様に、てゐは耳ではたいた。
 私はその様子を見ていた。

「……」

 てゐの様子を見る限り、緊張している様子はまるでない。
 ここで見せるいつも通りの姿だ。

 昨日は師匠から話を聞き出すとか言っていたけれど、上手く言ったのだろうか。
 もしかして、師匠との話し合いは厳しい内容ではなかったのかもしれない。
 私は二人がまだどんな事を話し合ったのかも知らないけれど、てゐの様子に少し気が楽になった。

「あら」

 そこへ。

「揃ったようね」

 師匠がキッチンから姿を現した。

 師匠。

 私は視線だけを向けたまま、咽喉まで差し掛かっていた言葉を生唾と一緒に飲み込んだ。
 
 落ち着いて(といっても落ち着いている自信はないけど)、師匠と面と向かうのは随分久し振りに感じる。
 実際にそうなのだろう。
 この場所で過ごすようになってもうどれくらいなのか、覚えていない。
 とても短かったように感じるし、師匠の顔を忘れ掛けるほど長かったようにも思える。
 ここで過ごす時間が、私の人生において密度が濃いという事だけは理解出来た。

 記憶の中でどこかおぼろげになっていたはずの師匠の姿が、一目直視しただけで脳裏に焼き付く程鮮明に甦る。
 北斗七星を配した赤と青の衣装に身を包み、後ろ髪を一本に結った銀髪。
 落ち着いた物腰と底の見えない微笑。
 目の前にいるのは、どこまでも私の知っている師匠その人だった。

 けれど違和感もある。

 今の状況に対してどう思っているのか。
 師匠なら例え能力を封じ込められても全力で抗うのではないか。
 月で最高の頭脳の持ち主とまで謳われた師匠の本当の力は、知略を巡らせる事にある。
 何がしかの手を打つはずだ。

「丁度良かったわ。今しがた朝餉が出来た所なの」

 師匠は身につけたエプロンを丁寧に畳んで、手近な椅子に置く。
 そういった仕草を見るのは初めてだ。
 永遠亭にいた頃――私の知っている師匠は様々な薬を作りはしても、料理などしなかった。

 それは勿論私も同じ事で、家事やお膳を用意するのは屋敷のお手伝い兎たちと相場が決まっていた。

 私の知っている師匠が、私が見た事のない態度を見せる。
 それが違和感になり、不自然な態度がどことなく私を不安にさせていた。

「支度を手伝ってくれるかしら?」

「あ」

 それなら私が――

「はーい、っと」

 私が名乗りを上げるよりも早く、耳を狙うご主人様の手からするりと抜け出したてゐが声を上げた。
 椅子から降りて師匠の元へ移動する。

 ご主人様の顔が軽い驚きにすぼまった。

「へぇ。てゐが率先して手伝いか。こりゃまた珍しい事もあるもんだ。今日は晴れ時々槍か」

「ここにいたら、あんたがじゃれ付いてきて面倒なのよ。餌をやれば大人しくなるでしょ」

「何様のつもりだこのペットは」

「何度言っても判んないわね。私はてゐ様なのよ、犬っころ」

 歯を剥いて唸るご主人様を、てゐは小馬鹿にした表情を浮かべて鼻で笑った。
 その様子を楽しげに眺めている師匠。
 そんな師匠の様子を凝視する私。

 この場のやり取りや雰囲気は今までとそれほど大差なく、それでもやはり私の中に違和感は残った。

「元気な事ね」

 くすりと小さな笑みを残してキッチンへと戻る師匠に、てゐが後に続く。
 ご主人様に思い切りあっかんべーをして。
 ご主人様は掴みかかるような格好で、がちがちと歯を鳴らして威嚇し返した。

 てゐが相手になると、途端に子供っぽくなる。
 端から見たらとても似た者同士に見えるのだけれど、それを言ったら否定されるんだろうな。
 二人から。

 幼い童がいがみ合いながら仲良くじゃれあっているような姿は、微笑ましいと思える。
 私に火の粉が降りかからなければ。

「Bow-wow!」

「ご主人様。いつまでも犬の鳴き真似してないで、どうぞ掛けて下さい」

「Boh」

 気の抜けたような鳴き真似で応じたご主人様に苦笑いを浮かべて、私も席に着く。
 師匠とてゐはすぐにキッチンから姿を見せて、朝餉を運んできた。

「昨日は和食を用意したから、今日は洋風にしたわ」

 そう言いながら師匠がテーブルに置いた大皿から、トマトの酸味が絡む湯気を昇らせていた。

 ハンバーグだ。
 以前ご主人様が作った事があるから、私も一目観てそれだと判る。
 刻んだ玉ねぎとトマトのソースがたっぷりと掛けられて、ハンバーグ自体は一口サイズ。

「えっと……この、上に乗ってる緑の野菜は?」

 私は少し気後れしながらも、師匠の様子を窺いながら訊ねてみた。

「水芥子。クレソンとも言うそうね。ソースが甘めだから、辛味が欲しければ一緒に齧るといいわ」

 師匠は何事もない風に、穏やかに受け答えた。
 永遠亭にいた頃と変わらない――或いはそれよりも穏やかな物腰で。

「野っ菜、野っ菜♪」

 上機嫌なてゐが運んできたのはスープとサラダ。
 スープは澄んだ薄茶色で、カップの下には小指ほどの小さな人参やブロッコリーが沈んでいる。
 サラダはボウルにたっぷりと盛られていて、葉野菜を敷いた上に細く棒状に切られた大根や胡瓜、そして人参などが彩り豊かに並べられている。
 上からまぶされているのは揚げたジャコだ。

「ドレッシングは山葵醤油風味と、タルタルソース。好みに合わせて選ぶといいわ。
 パンは柔らかい白パンと、少し固めの胡麻パン」

 バスケットに用意された二種類の丸いパンから、香ばしい匂いが私の鼻につく。
 どれもこれも永遠亭で口にする機会のなかった献立で、何より美味しそうだった。

 私が出された料理の数々に見惚れている内に、師匠は手ずから各自のお皿に料理を取り分け始めた。

「あ、そんな。そこまでしてもらわなくても」

「いいのよ。楽にしてなさい」

 慌てて皿を引っ込めようとした私の手を柔らかく押し留めて、師匠は微笑んだ。
 優しい声音と手の温もりに、思わずどきりとする。

「あ。は、はぁ」

 どぎまぎしながら手を引っ込めた私に、師匠は丁寧な手つきで大皿から私の取り皿に料理を盛り付けた。
 ハンバーグが一つ。
 野菜は多めでドレシングは掛けられなかった。

 なんだか、立場があべこべになってしまったような対応を受けて、私は肩を縮めて恐縮するばかりだった。

「あ、お師匠様。私の分の野菜は鈴仙の倍盛りで。山葵醤油の方が欲しいでーす」

「ええ、判ったわ」

 ずけずけと要求するてゐに対しても、くすりと笑っただけだ。

 てゐのふてぶてしさが羨ましい。
 じとりと見つめる私に、てゐは白い歯を向いて笑い返してきた。

「はい、どうぞ」

 てゐの分を取り分けた師匠は、当然のようにご主人様の取り皿にも料理を盛り付けた。

 ハンバーグを三つに、野菜は少し抑え気味に。
 ご主人様はやっぱり男だからかお肉が多めだった。
 実際、肉や魚の方が野菜よりも好きみたいだし。
 それほど量を食べるという事はないけれど、がつがつと勢い良く食べる姿を見るとやっぱり男の人だなぁって思っていた。

「美味しそうですね、ご主人様」

 ハンバーグにかかったソースやスープから漂う香り。
 新鮮な瑞々しい野菜を使ったサラダ。
 さっき話に聞いたばかりのいぎりす料理とは大違いだ。

「……?」

 同意を求めた私に、けれどもご主人様は答えてくれなかった。

 話しかければ何がしかの反応を見せていたのに。
 珍しいな。

 隣に座るご主人様を見る。
 ご主人様は私を一瞥もせず、じっと一点だけを見つめていた。

 師匠が差し出したご主人様の取り皿。
 その上に乗った料理を、少し怖いくらいの眼差しで凝視していた。

「ご、ご主人様?」

 きつい眼差しに気圧されながらも呼びかけてみるが、やはり反応はなかった。

 目つきが違うだけで雰囲気も全く違っている。
 いつものように軽薄にへらへらと笑うでもなく、私に見せる穏やかさも感じられない。
 真剣で、怒っているようで、それでいてどこか切実で。

 一言も口を利かなくなってしまったご主人様の顔つきからは、怖い程の迫力が滲み出ていた。

 な、何があったんだろう。

 私がほんの一時目を離した隙に、この人にいったいどんな心境の変化が訪れていたのか。
 爆発寸前の爆弾でも見ているような緊張感に、私は口の中の唾を飲み込んでいた。

「……何。どしたのよあんた? まさか嫌いなものでもあったの?」

「そうなのかしら?」

 様子が一変してしまったご主人様の変化に気づいて、てゐが怪訝に眉根を寄せる。
 師匠も口元から微笑を消してご主人様を見た。

 ご主人様はやっぱり誰の言葉にも反応を見せずに、まるで親の敵でも見つけたような視線を手元の取り皿に注いでいた。
 心なしか顔色が青褪めているような気がした。

「う」

 重苦しい沈黙を破ったのは、ご主人様本人だった。

「うぷ」

 短く呻いたと思ったら、手を口元へ。
 椅子を蹴倒すように――事実、後ろへ蹴り飛ばして突然席を立ったかと思うと、脇目も振らずに広間から走り去った。

「……ご主人…様?」

 蹴り飛ばされた椅子が壁に当たって転がる音に驚き、思わず椅子から転げ落ちてしまいそうになりながらも、私は突然の行動が理解出来ずに呆然と赤い背中を見送った。 
 てゐも声も出ないのか目をまん丸にして、師匠は相変わらず落ち着いた様子だけど視線を移動させただけ。

 私たちが視線を向ている方向にあるのは、キッチン。
 それがご主人様の向かった先。

 一拍の間を置いて、

「うぐおべええええっ!」

 臓腑を絞り上げるような嗚咽が聞こえてきた。

 何?

 え。

 何が……起きてるの?

 私はまだ驚愕に思考が白く染まったまま、何も考えられない。
 てゐもぽかんと口を開けたまま。
 師匠は視線をキッチンの奥に向けたまま顎先に手を当てた。

「げっ、げぇっ、ぇげぼっ!」

 その間も嗚咽は続いている。
 鳥肌を誘うその嗚咽を聞いている内に、ようやく私の身体が硬直から回復した。

「ご主人様!?」

 ご主人様の尋常でない嗚咽の声に、私は叫んで席を立った。
 キッチンの奥へと駆け寄り、そこでご主人様が初めて見せる姿を目にした。

 流し台に両手をついて、頭から突っ込むような格好で背中を丸めていた。
 今も咽喉をげぇげぇと鳴らして顔を突っ込んだまま、水道の蛇口を殴りつけるようにひねった。

 どっと溢れる水の音と、荒々しいその行動に圧されて私は後ずさった。

 後ずされなかった。

 どんと背中に何かがぶつかっていた。

「し、師匠」

 振り仰いだ先には師匠の怜悧な表情があった。 

 いつの間に背後に立っていたのか。
 私自身混乱していて足音に全く気がつかなかった。
 師匠は嗚咽を繰り返すご主人様の様子を、ただ静かに見つめていた。
 
「何事よ一体。なんなの?」

 てゐも首を伸ばしてキッチンの中を窺う。
 問われても答えられない。
 私の方こそ、何が起こっているのか誰かに教えて欲しい心境だった。

 多分この状況にご主人様についで――或いはそれ以上に察しているであろう師匠は、口を閉ざしたまま何かを語る事はなかった。

 どすんと物音が聞こえて視線を戻す。
 髪を濡らしたご主人様が床に膝をついた音だった。

 嗚咽は止まったもののぜえぜえと息を切らして喘ぎながら、流しの下に合った戸棚を開いた。

 何をするのかと思って見ていると、戸棚に突っ込んだ手をがちゃがちゃと鳴らして一本のビンを取り出した。

「あの――」

 私が声を掛け終えるのも待たずに栓を開けて、ご主人様はビンに直接口をつけるとラッパ飲みに中身を呷った。
 ごぽりごぽりと、くぐもった泡の音と一緒に琥珀色の液体が減っていく。
 口の端から少しこぼれた雫が、顎先へと伝っていった。

 瓶には、酢と書かれていた。

「――ぷっは」

 半分ほどをがぶ飲みして、ご主人様は手の甲で口元を拭う。
 キッチンの入り口で立ち尽くしている私たちに気がついて、照れたような苦笑のような表情を浮かべて鼻頭を掻いた。

「まずいな。どうやらきちゃってるみたいだ」

「な、何がですか?」

 手招きをされたので、恐る恐る近づく。
 しゃがみこんだ私の耳元でご主人様が囁いた。

「つ・わ・り」

 ……。

「あー?」

 ご主人様の言葉に、思わず素で訊き返してしまった。
 私は今、どんな表情を浮かべているのだろう。
 恐らくご主人様が手にしている酢をいきなり飲まされたような顔なのだろう。

「初めてつわりが来たから、今日は鈴仙記念日。パパになった感想を聞かして欲しいね。是非とも」

 口からつんと酸っぱい匂いを漂わせて、ご主人様は私の手を取り自らのお腹に押し当てる。
 ご主人様のお腹はごつごつとして固かった。

「……」

 感想など求められても、私に返す言葉はなかった。

 沈黙が訪れていたキッチンに、小さな笑い声が生まれる。

「何を言い出すのかと思って見ていれば、愉快な人ね」

 師匠はうつむき加減に口元に手を当て、くつくつと咽喉を鳴らして笑っていた。

 師匠は愉快かもしれませんが、私は愉快じゃないです。

 そんな文句はぐっと飲み込んだ。
 言っても聞いて貰えないのは判っていたから。

「今日はまた、一段と回りくどい上に面白くもない冗談ね。
 ひょっとして、ずっとここに駆け込む機会を窺ってたりしてた訳?」

 てゐが呆れ交じりのため息を吐き出して悪態をついた。

「失敬な。ジョークってのはタイミングと鮮度が命なんだぜ? これまで一体幾度の冗談が通りすがりの天使にさらわれていった事か。
 注目を集めて受けが取れりゃそれでオールオッケーなんだよ、ジョークなんてのは」

 ご主人様はにやりと笑って師匠を指差す。

 何故師匠が口出ししようとしなかったのか、これで判った。
 ご主人様の冗談がどんなものなのか見る為。
 師匠ならきっと、相手を見ただけで大体の症状は言い当てて見せる。
 少なくとも、病気か健康体かくらいは。

 えづいていたご主人様に何も言わなかったのは、仮病だと見抜いていたからだろう。  

 私の予想通り、ご主人様はいつものへらへら笑いを浮かべて肩を竦めた。

「確立三分の一でも笑いが取れりゃ御の字だ。途中で酢を吹き出しそうになるのを我慢した甲斐があるってもんだな」

「どうしてそういう事になると、急に忍耐強くなるんですか……」

 こっちは本気で心配してたのに、つわりだとかパパだとか。
 初めの方が真に迫り過ぎていて、むしろ悪い冗談にしか見えなかった。

「お師匠様ー、あいつは図に乗せない方がいいですよー。甘い顔するとすーぐ調子に乗って悪乗りするんだから。
 つまんないもんはつまんないって言って、しっかり叩いておかないと」

「ふふ、そうね。次からは気をつけることにしましょうか」

 唇を尖らせるてゐに師匠は尚も笑いながら答えた。
 凍り付いていた場の空気から、気が抜けたような和やかさが漂いだすのが判った。

「やれやれ。二人ともやたらと笑いに厳しいから困る。ネタ振りに知恵熱を出しそうだぜ」

「別の方向で頭を使ってくださいよ。もう」

 私はご主人様の手から酢の瓶を奪い取って、戸棚の奥に戻した。

 とにかく、いつものご主人様の冗談(というか悪戯だと思う。これは)に呆れはしたものの、同時に安堵もあった。

 師匠の様子や態度。
 ご主人様に敵意を向けている様子は無く、物腰も穏やかだ。

 今のところその理由はわからないけれど、後でてゐから聞いてみよう。
 どんな事を話し合ったりしたのか。

 直接師匠と話せばいいのだけど、それは、ちょっと。
 なんだか怖い気がした。

「あー、もうお腹ペッコペコ。せっかくの朝ご飯の前にこんな茶番に付き合わされるなんて。料理が冷めちゃうじゃない」

「なら朝餉にしましょうか」

 両手を頭の後ろで組んだてゐがぼやきながら、続いて師匠がキッチンから離れる。
 私も膝を伸ばして、まだ座り込んでいたご主人様に手を差し出した。

「私たちも朝食にしましょう。てゐの言う通り冷めたら勿体無いですよ」

 いつだったか、意地悪をされて腰を抜かした私を抱き上げてくれた時の事を思い出した。
 その時も確か、朝食の前だった気がする。
 流石に、私ではその時のご主人様のように身体を抱き上げる真似なんて出来なかったけれど。

「ありがとね」

 ご主人様は差し出した私の手を掴み、ぐっと固く握り締めた。

「あ、ぃたっ」

 思いの他力強く握り締められて、声がつい口を突いて出た。

 その瞬間、弾かれたようにご主人様の手が離れた。
 余りにも咄嗟な動きだったので、私は少し驚いた。

 なんというか。
 火に直接触れてしまった時にびくっと逃げるような動きだった。

「……悪いね」

 私がつい必要以上に驚いてしまったりした所為か、ご主人様はばつの悪い表情で指を閉じた。

「あ、い、いえ」

 私がどう答えればよいのか迷っている間に、ご主人様はむくりと一人で起き上がった。
 私はちょっと残念な気がした。

 手を握って起こす。

 他愛の無いたったそれだけの事なんだけれど、そういった事の一つ一つに浸ってみたいと思ったり。
 それ以上の事を殆ど毎日しているだけに、あの遊園地で見せたご主人様の様々な顔を探してみたいと思い始めていた。

「じゃ、行こうか。腹減らしたてゐが暴れだす前に」

「はい」

「聞ーこーえーてーるーわーよー」

 広間からの恨めしい声に、私とご主人様は顔をあわせて小さく笑いあった。



 師匠の料理は洋風でも美味しくて、私とてゐは舌鼓を打った。
 ご主人様はいつものようにがつがつと勢い良く食べる事はなく、ハンバーグを丁寧に細かく切り分けながら少しずつ食べていた。

 お酢をがぶ飲みしたりするから。
 あれじゃあ料理の味だって判らないと思う。

 ハンバーグを口に運ぶ度におちょぼ口になるご主人様の様子に苦笑して、朝食は和やかなままに終わった。



xxx  xxx



 話は一日遡る。
 鈴仙をあいつにけしかけて足止めしている間に、こっそりとお師匠さまの様子を窺った。

 部屋のドアを開けて師匠の姿を見つけてすぐ、

「すいませんでしたー!」

 勢い良く床に滑り込みながら土下座した。

 スライディング土下座。
 お師匠様でもこれにはインパクトたっぷり。 
 のはず。

「あんなどこの馬の骨とも判らない人間に捕まった挙句、永遠亭を留守にしてしまいまして!
 あいつの毒牙にかかった鈴仙さまを何とか連れ出そうとしては見たものの、能力が封じられた上にすっかり虜にされてしまって!」

 勢いに任せて、慣れない敬語を一気にまくし立てた。
 なんにせよまずは相手の意表をつく事から。
 その為なら土下座の一つ二つはなんともなかった。

 なんせ相手はお師匠さま。
 どんなお仕置きをされるか判ったもんじゃない。

「随分意気込んでいるようだけど」

 額を床に押し付ける頭上から、落ち着いた声音が降ってきた。

「それを言いに来る為だけにわざわざやって来たのかしら?」

 頭を下げたままこくりと小さく咽喉を鳴らす。
 先手必勝とばかりに土下座してみたけど、どれくらい効果があったのか。

 ここは押しの一手で畳みかけよう。

「も、勿論それだけじゃないです。
 どうやらここは下界ともつかない場所で、以前抜け出して報告に向かおうとしたのですが、得体の知れないものに邪魔をされる次第でして……!」

 あいつに連れ出された先で体験した出来事は、思い出すと今でも身の毛がよだつ。
 人間に似た、人間以外の気色の悪いマネキンとかいう何か。
 ここの外はそういうものがいっぱいいるみたいだけど、詳しい所在は未だにさっぱりだ。

 お師匠さまなら、この不条理に見える事態にも何らかの打開策が思いつくだろう。
 私たちにとっても、普段は何を考えてるのか良く判らないお師匠さまも、知恵を拝借するならうってつけ。

 後はそう、お師匠さまの機嫌を損なうような真似さえしなければ。

「そう」

 お師匠さまはたった一言、それだけを短く呟いた。

 余りにも呆気ない反応だったので、私は耳を持ち上げながらちらりと顔を上げてお師匠さまの顔を覗き見た。
 お師匠さまはテーブルについて、気だるげに頬杖をついている。
 かすかに口元が吊り上がってはいるけれど、笑っているのか不機嫌なのか判らない独特の雰囲気。
 永遠亭にいた頃からどこか捉え辛いところがあったけれど、ここで見るお師匠はなおさらそうなってる気がした。

 どうしよう。
 つついてみようか。

「あの、お師匠さま?」

「何かしら?」

「……ここから逃げる算段なんです、よね?」

 落ち着き払って料理などして。
 お師匠さまのことだからそれも計算の上で、あいつを油断させるために従順な振りをしている。
 遠大な悪巧み(お師匠さまのことだから、それはもうあくどいほど痛烈な)の一環だと思っていた。

「あら。てゐはここから逃げ出したいのね」

 それなのにそんな呆気ないほど簡単に聞き流して、逆に訊き返されてしまった。

「え? えぇと、まあ、それは――」

 私は言葉を濁しながら、永遠亭とここでの暮らしを素早く秤にかけて考えた。
 永遠亭での暮らしは悪くない。
 基本的には放任されてるし鈴仙は扱い易いし、姫のわがままにつき合わされるのだってまんざら嫌々仕方なくって訳じゃない。
 私自身、住み慣れた高草郡に住んでるようなものだし、からかう相手だって事欠かない。

 けれど。

 こっちの世界の刺激を知ってしまったら、住み慣れていたはずの幻想郷が味気なく思えてしまうのも事実だ。

 そりゃあ危険はつきものだけど最低限の安全は保障されてるし、食べ物だって見た事のないようなものが日替わりで用意される。
 制限は多いけれど、条件さえ飲めばある程度の融通もつく。
 それにまあ、最近はその条件だってはっきり言って甘いっていうか。

 ……抱かれるのも悪くない。
 がっつかれるのが難点って言えば難点だけど。

 私がそう考えるようになったのはここである程度暮らしていたからで、最初は逃げる気満々だった。
 となれば、お師匠もそうなって当然だと思うんだけど。

「……お師匠さま?」

「何かしら」

「その……どうするおつもりですか?」

 能力を封じられた上で奴隷呼ばわり。
 お師匠のプライドに触れるどころの話じゃない。
 おめおめ身体を許すだなんて到底思えなかった。

 ぴょこんと耳を立て、身体を起こしてまじまじとお師匠の顔に見入った。

「どうもしないわ」

 お師匠はあっさりと答えた。

「ここから逃げるつもりも、あの人に歯向かうつもりも私には無いの。だから幾らてゐに頼み込まれても、悪いけれど逃げる相談をするつもりはないわ。
 悪だくみなら一人で、もしくはレイセンを交えてしなさい」

 何もしない?
 お師匠さまが?
 この状況で?

「何もしないんですか?」

「ええ。何も」

 思わず聞き返した私に、お師匠様はやっぱり呆気なく頷いた。

 思い切り肩透かしを食らった私は、ぱちぱちと瞬きをしていた。
 お師匠様は気だるい微笑を浮かべていた。

 土下座した時の膝が、今頃になってひりひりと痛み出した。



 私たちが心配していたのはあいつと同類に見られてお師匠さまにこっぴどくお仕置きされるからで、だから先手を打ってこんな真似をした。
 ちょっぴり保身に走ったりもした。

 でも、まあ。
 お師匠さまがこの様子ならその心配もなくなるわけで。
 私はこれまで通りの生活を甘んじて続けることにした。

 だってお師匠さまが何もしないなら、私たちがやらなきゃいけないこともないってことだし。
 ごろごろしたり適当に過ごしたりおいしいご飯を食べていつでも好きな時にお風呂に入る。
 絵に描いたような食っちゃ寝生活はそれなりに楽しい。
 今のとこ飽きも来ないし。

 だから部屋にやってきたあいつも、いつものようにベッドの上で迎えた。

「あっ、んっ」

 会話もそこそこに、あいつはベッドに上がって私に脚を開かせた。
 あいつは股に頭を寄せて、唇と舌を使って私のあそこを舐めていた。

 一張羅のワンピースを汚されないよう脱ぎ捨て、肌を晒す私の首元で人参の首飾りが跳ねている。
 あいつは舌で丹念に舐め挙げた後、包皮の下から覗いた肉芽の先っちょをついばんだ。

「あっ、ふあ。そこっ。そこいい……!」

 あいつは尖らせた唇で挟み、吸い上げ、さらに舌の先が肉芽をつつく。
 腰がぶるぶると震えて、後ろ手に身体を支えていた手に力がこもる。
 唇と舌、それぞれの感触で私の敏感なお豆を細やかに弄繰り回していた。

「あっ、ふやっ、あうっ。そこ、そこっ。もっと、強くんっ!」

 私は声を我慢することなく、ちょうどいい位置にある頭を掴む。
 あいつは私の言葉に従って尖らせた舌先で肉芽をめくり出すと、じゅうっと音をたてて吸った。

「はっ、あっ、あぁ――っ」

 背が反り、次いで背骨ががくんとずれるような衝動。
 あいつの頭を股の間に押し付けたまま、私は激しく痙攣した。

 筋肉の強張りが解けて、ついで気だるい脱力感が私の身体に滲み出てきた。

 あー…きもちいぃー……。

 私は天井を仰いで、なにも考えたくなくなるような心地良い余韻にひたる。
 私がイッた後も、あいつは愛撫を続けていた。

 イッた直後はあちこち敏感になってて触られるとうっとうしいんだけど、あいつもそれは判ってるのかさっきまでのような執拗なクンニをしてきたりはしない。
 軽く唇を押し付けて、指で触って撫でるだけ。
 触れる場所も敏感な部分は避けて腿やお腹といった場所ばかりで、私の余韻は長続きはするものの邪魔に感じるほどじゃなかった。

 私はぼんやり天井に向けていた視線を、あいつの頭に下ろした。

「どうし…んっ、今日はやけに、時間かけるじゃない…ぅんっ」

 もう三〇分くらいになるかな。
 あいつはベッドに上がってから、ずっとクンニ(っていうらしい)だけをしてる。
 それはまあ、特別珍しいって事じゃないけど。
 お喋りなあいつの口数がめっきり減っている方が珍しかった。

 普段の突っかかってくるような憎まれ口を利かなかった。

 減らず口だけは達者な奴だったのに。

「そういう気分なだけなんだよ」

 あいつはちらりと眉越しに私を見上げると、私の太腿を撫でながらつっけんどんに呟いた。

 愛撫にしてもやたらと丹念で、腕や腿をやたらと擦っては撫で回してくる。
 鈴仙とする時はこんな感じなのかな、こいつって。

「ねぇ……鈴仙と何かあったわけ?」

 やけに殊勝な態度が返って気味が悪い。
 鈴仙の名前を出すと、あいつはむすっと無愛想な膨れっ面を浮かべた。

「何もねーよ」

 はん。
 嘘が下手ね。
 ま、大方鈴仙が師匠を気にしてぎくしゃくしちゃったとか、そんなとこなんだろうけど。

「なんなら私がなしつけてあげてもいいわよ?」

 恩の一つ二つ売って置くつもりで口にすると、あいつはますます苦い顔つきになった。

「ペットが飼い主の心配なんてするもんじゃねぇぜ」

「よく言う――んっ」

 指先で私のお豆をくすぐった後、あいつはまた丹念な愛撫に戻った。

 低く屈めていた身体を持ち上げてゆっくりとのしかかってくると、そのままベッドに押し倒す。
 私の上に覆いかぶさると、二の腕や肘に口付けしてきた。

 やっぱりこいつ、今日のやり方は変だ。
 変だけど。
 たまにはこんな雰囲気も悪くなかった。

 熱心なキスの雨を降らせるあいつをぼんやりと眺めながら、何気なくその口元に指を寄せた。
 あいつは吸いつくように私の指を舐めると、そのまま舌を絡めてしゃぶりだす。

 舌の感触は柔らかく、口の中は温かかった。

 私の指(しかも両手)をたっぷりとねぶった後、あいつは覆いかぶさっていた身体を起こした。

「ほれ、頭上げろ」

「ん」

 あいつに言われて頷くように首を上げたところで、頭の下に敷いていた枕を抜き取られた。
 抜き取った枕で何をするのかと思うと、私の腰の下に差し込んでくる。
 腰が自然と持ち上がって、仰向けになっていてもあいつも私のお尻が良く見える格好になる。

「こうすりゃ楽だろ」

 確かにそうだ。
 けど、今までこんな気を使ってくるようなことってなかったのにね。

 こいつとアナルセックスをする時は、たいていうつ伏せで獣のように交わる。
 それかあいつの膝に乗って、座る格好で激しく上下に揺さぶられた。

「楽なのはいいけど、顔近いわよ」

 私は目の前にあるあいつの顔に眉をしかめた。 
 こうやってお互いの顔を見ながらするなんて、ひょっとしたら初めてかもしれない。

「いっつもおんなじ体位じゃマンネリするだろ。気紛れさ、気紛れ」

 そう言っているものの、私は眉が歪む様子を見逃さなかった。

 ほんと、なにがあったんだか。

「ま、いいけどね」

 いつも憎まれ口を叩くこの生意気な奴の表情を見ながらってのも、それはそれでいいかもしれない。
 へらへらと笑ってるか飄々とうそぶくかといった表情ばかり見てるからか、少し弱気な顔は妙に新鮮だ。

 私が気持ちいいんだから、こいつだって気持ちいいはずで。
 私のお尻でイく様子を見れるってのなら楽しそうだ。

 からかうネタになりそうだし。

「相変わらず悪い面してんなー」

「こんなに愛らしい私を前にしてその言い草? 目ぇ腐ってんじゃない?」

 少し調子を取り戻した様子のあいつの売り言葉に、買い言葉で返した。

「目は腐ってねぇよ。頭が湧いてるだけだ」

「知ってるわよ」

 いつかそんな事も言った気がする。
 あの時こいつはどう返したんだっけ?
 もう覚えてないけど、忘れてしまっても大差ないだろう。

 今は、こいつの面白い表情の一つ一つを楽しめるんだから。

「手厳しいねぇ。よがり狂わせてひぃひぃ泣かしちゃる」

 あいつは苦笑交じりに、取り出したローションを私のお尻周りにたっぷりと塗りつける。

「あんたの方こそ。腰が抜けるまで可愛がってやるわよ」

 私は自分でお尻の入り口にローションを馴染ませながら、あいつの剥き出しになったちんちんを腿で擦ってやった。

 もうすっかり硬くて熱くて、先端から先走りが溢れてる。
 私の準備なんてとっくの昔に終わってて、早く早くと急かしたてたいほど。

 そうしないのは、私の意地。
 だってこっちからねだるような真似なんて、なんか負けた気がするし。

「へっ。期待してるぜ」

 あいつは鼻で笑って腰を沈める。
 独特の形をした性器が身体に隠れて見えなくなってすぐ、先っぽがお尻にあてがわれたのが感触で判った。

 いよいよというところで、

「てゐ」

 あいつは神妙な顔になって私の名前を呼んだ。

「な、にぃっ!」

 不意を突かれた。
 返事をするタイミングを見計らって挿入れてきた。
 
「ずっ、あっ! ずるぅ、いいぃ!」

 いきなりだったからお尻が驚いてる。
 ぎゅっと固く締まって入り込んできたあいつのちんちんを押し出そうとしてる。
 私自身驚いて腰をよじらせてしまっていた。

「油断しちゃ駄目よ。俺って性悪だからね」

 勿論あいつは抜くような真似をするはずがなく、逃げられないよう私の肩を掴んでへらりと笑った。

 ちっくしょう!

「こっの、腐れ外ど、あぐっ!」

「おー、締まる締まる。入り口はきつきつ、中はふわふわのくにゅくにゅで堪らねぇな。
 てゐってば処女のまますっかり名門になっちまって。これも俺が連日しっかりと可愛がったおかげだな。
 あ、ちなみに名門って具合の良いアナルって事ね」

 いつもの憎たらしい顔を取り戻したあいつは、声を詰まらせる私にそんな説明を聞かせた。
 私は意識を逸らしながら、あいつの顔を下から睨みつけた。

 そう、私はまだ処女のままだ。
 お尻の方を先に失くしちゃったわけだけど、こいつは前の方に手を付けようとはしてこない。
 いや、別に失くしたいわけじゃないんだけど。

「後ろの方は後天的に鍛えられるんだぜ? 慣れちまったら、下手すりゃ前でするよかいいんだからな」

 あいつは思わず横っ面をひっぱたいてやりたくなる顔で、私の頬を撫でた。
 こっちの手はベッドのシーツを握り締めるので手一杯なのをいいことに、余裕たっぷりだ。

 ほんっと、憎ったらしい奴。

「……はん。こっちだって、だんだんコツが判ってきたんだから」

 あいつが無駄口を利いている内に、こっちも余裕を取り戻してきた。
 私は半分くらいまで挿入れられていた腰を、くいっと持ち上げる。
 縦に、左右に、そして円を描くように腰を使って見せた。

「そんな風に笑ってられるのも今のうちよ。せいぜい余裕ぶってればいいわ」

 抜けてしまわないよう、私の動きに合わせてあいつの腰が追ってくる。
 私のお尻の穴を広げてるみっちりと詰まった熱い感覚が、抜けそうになると慌てて追いかけてくる。
 その独特の感触が気持ち良くて、私は笑い返しながらお尻に力を入れてきゅっと締めてやった。

「……やるじゃない」

 苦笑を浮かべながらも、その口元がひくひくと引きつっているのが見えた。

 ざまみろ。

 普段互いの顔を見ずにするよりも、こうしてこいつの反応を見ながらするのもいいかも知んない。
 今までやり込められてばっかりな気がしてたけど、こいつだって血の通った人間なんだし。

 私のお尻の虜にしてやるのも面白いかもしれない。
 そんな風に思っていた。

「今日もたらふく食わせてやるよ」

「がっつき過ぎなのよ、あんた」

 本格的に動き出す直前まで、憎まれ口を叩き合った。



 あいつは馴染んだ私のお尻を前後に犯し始めた。

 ローションのおかげで、滑らかに直腸の中を行き来する様子が直接判る。
 私のお尻の穴を広げながら深く差し込まれ、カリが腸壁を擦りながら引かれていく。
 うんちを我慢するあの感覚と、出す時の排泄感が代わる代わるやってきて、私の肌が粟立っていた。

「どぉ? はっ。私のお尻、ふっ。気持ちいいでしょ? はっ」

 何度か軽くイってしまってるけれど、まだ話をするだけの余裕はあった。

 これいい。
 お尻で気持ち良くなるのは知ってたけど、いつもとは違う感じ。
 いつもと違って感じるのは、きっと動き方が違う所為だ。

 いつもは何の遠慮もなく突き上げてくるけど、今回はやけにゆったりとした穏やかな腰使いと言うか。

 だからある程度の余裕を持って、こっちも腰を使ったり動いてみたり出来る。
 自分から気持ちのいい場所を手探りに探してみる感じ。

「生意気なてゐの面がちょっとずつ崩れて女の顔になってくってのも、悪くねぇな」

 ベッドに両手をついて見下ろしてくるあいつは、私自身薄々気がついていた点を指摘してきた。

 気持ち良くてそれが顔に出てる。
 我慢しているつもりだけど、どうしても口元が緩んでだらしない声が洩れる。
 こいつの方はまだまだ余裕がありそうなのに。

「生意気、んっ、言っちゃって。これなら、どう?」

 私は奥歯を噛んで緩む口元を締め直しながら、腰をくねらせる。
 直腸の中でうねっていたあいつの肉棒がねじれて、思いも寄らない場所を擦った。

 やば。
 これいい。
 凄くいい。

「はっ、んぅ、やくっ。いつもみたく、ひんっ、バカみたいにぃ……出しなさい、よっ。早、漏っ」

 締め直したはずの口元が緩んでいく。
 自分で気持ちのいい場所を見つけてしまうと、そこばかりを擦ってしまう。
 あいつを追い詰めるはずが、逆に自分の首を絞めてしまっている。

 それが判ってても、腰が止まらない。
 気持ちいい。
 凄く気持ちよくて、止まんない。

「いい顔になってきたじゃねぇか。ケツもちんぽも大好きな兎になっちまったな。ええ?」

「あんたが、はぅ、そうして、はっ、そう、なっちゃったんだから……あんっ」

「そういやそうか。だったら仕方ねぇ」

「仕方ない、から……私を、気持ち良くしなさ、いよ」

 抜けそうになるまで大きく引いてから、ゆっくりと腰を突き出す。
 みりみりとお尻の穴が広がって、腸壁を長く擦られる。
 背筋にぞくぞくと震えが走った。

「じゃあお言葉に甘えて」

 あいつは上体を上げると両手で私の腰を掴んだ。
 今までの大人しい動きから、少しずつリズムを取りながら本格的に腰を使い始める。

 今までねじったりうねらせていた動きから、直線的で単純で、けど力強く激しい動きに。

「あわ、うあ、ちょ、っと。いきなり、そんな」

 さっきまでの深く遅くとは違って浅く速く、棹でお尻の入り口を小刻みに擦られる。
 ローションがぬめって、ぬちゅぐちゅと音をたてているのが聞こえる。

「さ、猿みたいに、腰、振って、あっ、あっあ、バ、バカみたいっ」

「俺は犬だっつの」

 咄嗟に飛び出た悪態に、あいつはぶすっと答えたかと思うと私の口にかぶりつくように吸い付いた。

 ちょっと。
 これじゃ文句の一つも言えない。

「はぶっ、んむ、ちゅっ、はむっ」

 私の声は言葉になる前にあいつの口に食べられた。

 息と唾液と声を吸い上げ、何度も唇を甘噛みしてくる。
 ほんとに食べられているみたい。
 あいつは何度もむしゃぶりついて、貪欲に私を求め続けた。

 私は文句の一つも失って、口と挿し込まれる舌の熱さに段々頭の芯が蕩けて曖昧になっていく。
 こんな風に求められ続けられるうちに、私はいつか壊れてしまうんじゃないか。

 まあ、いっか。
 気持ちいいし。

 そんな漠然とした恐怖は、すぐに快楽で拭われた。

「てゐ」

 我ながら退廃とした思考の中、あいつが私の名前を呼ぶのを聞いた。
 お尻の中でひくひくと痙攣を始めた肉棒の様子から、何が言いたいのかは判った。

「うんっ」

 だから私は頷くだけで良くて、頷いた直後に深くお尻の奥に突き入れられた。

「はぁっ!」

 背中を反らして声を上げた。
 一拍の間を置いて精液の迸りを感じる。
 奥で何度も射精が続く。

 私は背を反り返らせたまま、何かを叫んだ。
 何を叫んだのかは判らない。
 思いの他激しい絶頂感の訪れに、全身が痙攣を起こしていた。

 攣りそうになるほど脚を伸ばす私に、あいつは肩に額を押し付けて身震いしていた。

 ま、まだ、出てるぅ。

 私の直腸の奥で、あいつの射精はひどく長く続いた。

 どっしりと重たい疲労感がのしかかってくると、全身からどっと汗が吹き出した。
 定まらない焦点をそのままに、息を切らせて後引く余韻にまどろむ。

 気持ち、いぃー……。

 その実感に包まれながら、私は陶然とベッドに身体を沈めていた。

 あいつは射精が終わると、汗に濡れた私の身体を舐めていた。
 愛撫の時と同じく、私の腕にキスをしたりしている。

 ……腕好きとか……変な趣味よねぇ。

 丹念に手や腕を舐め続ける様子を、私はぼんやりと眺めていた。



 その後も位置を入れ替わりながら、繰り返し交わった。
 一晩で何回イッたのかも判らないくらい、あいつとのアナルセックスに溺れた。

 結局、あいつの言った通りひぃひぃ泣かされてしまった。
 その代わり、あいつも散々搾り取ってやった。

 だから、これでおあいこ。

 そこで私の記憶は途切れてしまった。
コメント




1.名前が無い程度の能力削除
胡蝶夢丸ナイトメアタイプを思い出した
2.紅魔の雑用削除
てゐのハンバーグ……ゴクリ
そんな私は即産廃連行。

相変わらず夢の中がハードでおいしいです。
でもやっぱり赤さんに惚れ込んでるうどんちゃんがすごく可愛い。
それでは。
3.名前が無い程度の能力削除
これは夢なのか、現実なのか……
暑い真夏の昼、加熱した伏線は危険な領域に突入する……
4.名前が無い程度の能力削除
冒頭のは夢…なのか…?
まさか未来の出来事の暗示だったりしないだろうな
5.名前が無い程度の能力削除
てっきり師匠が何か盛ったのかと。
6.名前が無い程度の能力削除
師匠怪しすぎて困る……

てゐハンバーグ食べたいよぉおおおお