真・東方夜伽話

eraudon10

2009/07/29 13:53:29
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eraudon10

紺菜

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  ■■■【注意書きをよく読んだ上でご判断してください】■■■
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         ~注意書き~



 本SSはeratohoを基に作成された二次創作物であり、
 作者のオリジナル要素が多分に含まれております。

 また、東方キャラに対する調教を行なう作品である為、
 表現上暴力描写、残酷描写も多く含んでおります。

 今回は特にグロテスク表現を交えた描写が含まれています。

 ここまでの文章で嫌な予感、悪寒、吐き気、頭痛、眩暈等の症状を感じた方は、
 即座にブラウザを閉じて充分な休息を取られることをお勧めします。

 その症状が見られない、もしくは興味を持ってしまわれた方のみ先へお進み下さい。



        ~注意書き終わり~



○8/2加筆を行いました。





















































































 さて。
 今日はどれで遊ぼうか。

 部屋を出た俺は左右に並ぶドアを眺めて歩き出す。
 どこへ向かうとは決めずに廊下を歩く。
 俺の部屋を出て広間に辿り着くまで、普通の歩幅で歩いて五〇歩。
 だらだらと歩きながら視線を左右に向けた。

 今日はここにするか。

 廊下の中ほどにあった扉の前でなんとなく足を止めて、部屋の中へ。
 部屋の中に奴隷の姿はなく、ベッドに畳まれた衣服が置いてあるだけ。

 俺は迷う事無く浴室のドアを開けた。

「よお」

 俺の奴隷は半身浴の最中だった。

 水を張った湯船から綺麗な脚だけ突き出して。
 上半身だけでも半身浴にゃ違ぇねぇ。
 
 ぴんと伸びた脚はびくりとも動かず、斜めに突き出たまま。
 水を打ったような静寂の中、たまに蛇口から落ちる水滴が湯船の水を叩いていた。

「~♪」

 俺は鼻歌交じりに突き出た脚へ。
 両足をぴったり揃えて伸びてるのは、棒を通して縄で縛り付けているからだ。
 梃子みたいなもんだ。

 俺は目の前に突き出された蒼白の脚に触れる。
 冷たく、体温が感じられなかった。

 全く。
 わざわざご主人様が足を運んでやったのに死んでるとか。
 仕方ねぇ奴だな。
 
 俺は冷め切った足をしゃぶる。
 足の指を一本ずつ順に含み、股の間も丁寧に舌を這わせる。
 硬くて冷たくて、味はまあ死体の味。
 蒼白の肌が唾液で濡れる様子は、なかなか艶めかしかった。

 俺はたっぷりとしゃぶってから、ジャケットのポケットに突っ込んでいたケースを取り出す。
 俺の仕事道具。
 中に大小数本の針が収まっている。
 一番ぶっとくて長い針を一本取り出した。

 一二センチ相当の畳針。
 そいつをしっかりとタッチアップして尖らせたもんだ。

 俺は片手で太腿を撫で回しながら、手にした針の先を足の指と爪の隙間に当てた。
 軽く力を入れるだけで、尖った針先はすっと肉に刺さる。

 この刺さり具合は、名刀ならぬ名針ってとこかしらん。

 足の親指にずぶりと一寸刺し込んだ所で、ぴくりと針に手応えがあった。
 こぽっと湯船の底から泡が一つ浮かんで、水の表面を波打たせた。

 俺は口笛を吹いて、針先をぐりぐりとねじる。
 ぴくぴくと指が痙攣し、こぽこぽと泡が二つ。
 撫でていた太腿にも変化が現れてきた。

 死後硬直に固まっていた筋肉が解れ、血流の止まっていた肌にうっすらと赤みが差していく。
 腿から始まったそれは瞬く間に脚の指先まで伝わり、それを合図に俺は針を抜き取った。

 垂れだしてくる赤い血。
 俺は足の親指をしゃぶって舐め取りながら、湯船を見る。
 水中に沈んだ身体が身じろぎを始めて、水面を揺らしていた。

 俺は足先から突き出ていた棒を掴んで、肩を入れて押し下げる。
 梃子の原理を利用して、風呂に沈めていた女が水音と一緒に姿を見せた。

 八意永琳。
 俺が買った奴隷女。

「はいおはよう。つってもこんにちはする時間帯だけどネ。
 水も滴るいい女になっちまってまあ。そそるね」

 永琳は、目も冴える銀髪からぼたぼたと水を滴らせて咳き込んだ。

 肺を満たしていた水を吐きだすと、俺を鋭く睨みつける。
 素晴らしいほどの憎悪と嫌悪。
 背筋がぞくぞくしちまう。

 永琳ほどの美人に睨まれるとすこぶるつきだ。

「ひひっ。そう睨むなよ。わざわざあんたの為に張り切って用意したんだぜ?」

 磔にしているこの十字架もそうだが、湯船の縁に付けた滑車と床のロック装置。
 押し下げた棒の先をがちっとはめ込めば、引き上げた格好のまま支えてくれるんでとても楽ちんだ。
 俺が。
 楽ちんをする為に、手間を惜しんじゃよろしくないって事。

 俺は固定した永琳の髪を掴んで上を向かせた。

「どうしたい? ご自慢のおつむを使って脱出方法の一つ二つは思いつかなかったのかい?
 それともあれか。死んでる間は頭の血の巡りが悪いってか。ひっ。ひひひひ!」

「……」

 永琳は、額を指先で小突く俺を睨み上げてきた。
 幾ら睨まれた所で痛くも痒くもない。
 睨む以外、反抗出来ないようにしてあった。

 両手を後ろ手にして、肘と手首で縛り付けてある。
 他にも肩、腹、腰、腿、足首と、逃げ出せないようにかたーく緊縛中。
 おいそれと奴隷に逃げられてるようじゃ、調教者の名が廃るってもんだ。

 突き刺さってくる永琳の視線を心地良く浴びながら、冷たく青ざめた肌を撫でる。

「しかしまぁ、あれだね。蓬莱人ってのは随分節操のないイキモノだね。くたばってもほんとに甦ってくるなんてさ。
 何を食ってればこんな化け物になるのやら」

 長時間水に漬かって冷たくさめてイた肌を撫で回し、自己主張の激しい乳房を掴んだ。
 冷やしてた分ちと張りが強いが、掴めば掴んだだけ指が脂肪に埋まる。

 ほんと、何食ってりゃこんな俺好みの乳に育つのやら。

「……っ」

 小さく咽喉を鳴らしたのは苦痛の証。
 永琳がどれだけ取澄ましていようと、俺の目を誤魔化せやしねぇ。
 俺はにやにやと口元を崩しながら、。

 蓬莱人なんて言うからさ。
 実際どんなもんかと思って試してみた。

 本当に、死んだ後甦ってくるのかって。

 で。
 裸にひん剥いて磔にした後、風呂の中に一昼夜漬けてみた訳なんだが。
 
「眉唾じゃねぇ訳だ。こりゃ今から楽しみだぜ、永琳」

「気安く名前を呼ぶな、下種」

 およ。
 生き返って第一声が下種ですか。

「判ってないなぁ。いつまでお高く止まってるつもりなのかねぇ。永琳はもうここに来た時点で雌豚なのよん」

 俺は髪を掴んで永琳の頭をぐりぐりと回しながら、ちらりと視線を下げる。
 腹には黒く歪でやたらと鋭角的な文様が浮かび上がっている。

 反発刻印。
 形が定まらぬままざわざわとうごめくそれ。
 俺への攻撃性が剥き出しになった証。

 とぐろを巻く憎悪と敵意の結晶を楽しみながら、乳房から手を離す。

「それがきっちり判るまで、下種風味に仕込んでやるから、早く楽しめるようになるといいな。
 ま、永琳が楽しまなくても俺の方は勝手に楽しむんだけどね」

 永琳は無言のまま、青く冷めた眼差しを俺に向けた。

 蔑んだ目をして、それで威嚇のつもりかね?
 口も利きたくないって訳だ。
 けど、隠そうとしたって無駄。

 その目の奥に霞む恐怖は、判り易い数値って形で読み取っている。
 ここに来る以前はどれだけ力を持った人間だろうが、妖怪だの宇宙人だか知らないが、ここに来た時点でただの女だ。

 地位も、名誉も、権力も、力も。
 全て奪って立ち位置が揺らぐ恐怖。
 自分を自分足らしめるものがなくなったところを、俺が嵩に掛かってつけ込む訳だ。

「悪夢は長いぜ?」

 死が別つ事無くば、尚更に。


 
 脚の縄を解いて際にちと暴れたりしたんで、腿に針をぶすり。
 声も上げずに苦痛に耐えていたが、構わずにぶすりぶすり。

 永琳は苦痛に耐性がある。
 といっても痛みは痛み。
 耐え切るのなら死んでも嬲るだけの話。
 
 俺の意図を知ってか大人しくなった所で、またぐらのちんぽでぶすり。
 両脚を抱き寄せて犯した。

「緩いぜ?」

 思いの他すんなりと入ったが、濡れは足りちゃいない。
 そこそこの経験は済ませちゃいるものの、俺を悦ばすつもりなんてまるでない訳だ。

「……」

 腰を打ちつけながら永琳の顔を覗くが、返事の一つも返しやしねぇ。
 唇を噛んで俺を睨みつけてくるだけだ。

 いいねいいね。
 一昼夜死に続けてもまだ抵抗心の一つ二つは残ってる訳だ。

「聞こえませんでしたか? ゆ・る・い。って言ってんのよ? 俺は」

 俺は左腿に刺しておいた針を引き抜くと、水平にして口に含む。
 月人だ宇宙人だっても、血の味は変わらねぇな。
 少なくとも冷め切った死体の血よりも、生きたぬくい血の方が旨かった。

 針から血を舐め取りながら抜き取った後、その先端を下へ。
 犯しながら、腹の上を尖った針先でなぞる。

 腰で突き上げた拍子に針先がぷつり。

「っく」

 永琳は痛みから腹筋を締めて、それが膣内の俺のちんぽまで伝わった。

「そうそう。やれば出来るじゃねぇか。その調子その調子」

 ぷつりぷつりと針が刺さるたび、永琳のまんこがきゅうきゅうと俺の息子を締め上げる。
 どす黒い反発刻印が歪んでうねる。
 目の前の男を(俺の事ね)絞め殺したく仕方ないのか、かま首をもたげて浮かび上がってきそうだ。

 が、ちと物足りない。

「そういやさ」

 俺は針を放り捨てると、両手を伸ばす。
 永琳の頸に。

「死んでも生き返るんだよな?」

 殺しても生き返る節操のない蓬莱人なら、こっちも遠慮の必要がない。
 頸に手を掛けてぎりぎりと力を加えた。

「かっ……ひゅっ」

 永琳は甲高い呼気を洩らして眉をしかめる。

 たまんね。

 苦痛に歪む顔に思わず欲情して、俺は腰を早めながらぐいぐいと頸を絞める。
 黒ずんだ蛇の群れが俺の手に、永琳の頸に集まる。
 俺の手に這い上がってきそうな勢いで、うごめく憎悪の動きに興奮を掻き立てられた。

「はっ、はっ。ひひ、ひひひ。良いぜ、もっと、もっと締めろ。もっと喘げ。俺を愉しませろ」

「かはっ」

 怜悧に鋭い永琳の表情が、呼吸困難に陥り口を開けてだらしなく舌を垂らす。
 朱を塗ったように赤かった唇が、紫色に変色していく。
 青い瞳がふらふらと揺らいで、ぐるりと裏返る。

 死の狭間で行う命の営み。
 絶頂と絶息。
 澄まし顔を剥がし取った先に見つけたアヘ顔。

「ひっ」

 俺は咽喉を鳴らして射精していた。
 我慢なんてプロセスを省いて、永琳の中で大量のザーメンを遠慮なくぶちまける。
 頸よ折れろと締め上げて、永琳の膣は俺の精液を搾り取っていく。
 数秒間続いた射精の後、俺は永琳の頸から手を離した。

 永琳は激しく咳き込んだ。
 空気を貪りながら吸い込んで、涙の滲んだ目を見開いた。

「……嘘。中で出されてる」

 ゴムなんざ付けちゃいない。
 たっぷりと膣内で射精した。
 愕然と強張った表情を青ざめる永琳に、俺は優しく笑って精液の溜まった膣内をかき混ぜてやった。

「下種の種を仕込んでやったぜ。お偉い永琳様にも、これで自分が種付け専用雌豚だって事がお判りになったんじゃありやせんか?
 気張って腰振っていきましょう! ひひひ!」

 それからもたっぷり犯しに犯した。
 頸を振って逃れようとする永琳を、殺さない程度に絞めて膣内の締まりを味わった。
 気絶しかけたら腿の傷口を指で抉じ開け気付け代わりに、意識が戻れば再び突き上げた。
 突き上げるたびに永琳の胸がボリュームたっぷりに弾んで、堪らずにむしゃぶりついた。

 満足するまでたっぷりと種付けしてやった。

「あー……出した出した。おかげすっきりしたぜ」

 俺はろくすっぽ抵抗もしなくなった永琳から離れて、息子をパンツの奥にしまう。
 首に手の締め後を残した永琳は、亡羊と自分の胎を眺めているだけだ。

 栓の抜けた股から、白濁がどろりと垂れ落ちた。

「腑抜けた顔すんなよ。下種に種付けされるのがそんなにショックだったのか?
 じゃあなかった事にしてやるよ」

 腰のベルトを締めて、ぽかんと口を開けたまま呆然としている永琳に微笑みかける。
 俺は磔台を固定していたロックを蹴って外した。

「あっ」

 そんな声を残して湯船にリターン。
 ばっしゃんと水しぶきを上げて、永琳の身体が湯船に沈んだ。

 暴れる両脚からぐるりと回り込んで、湯船の縁から水の中に沈んだ永琳の顔を見つめる。

「着床する前にくたばりゃ、孕む事もねーんじゃね? 哀れ十数億の精子たちは、永琳の胎の中でお陀仏野垂れ死に。
 こんだけ俺の息子を道連れに出来りゃ、寂しくないよな?」

 ごぼこぼと泡立つ水面に優しく話しかける。
 聞こえているのかいないのか。
 どっちでもいい。
 水中で揺らぐ銀髪の様子は見ていて楽しい。

 俺が楽しけりゃ、オールオッケーだ。

「うふ。うふふ。可愛がってやるからな。これから、ずっと。
 うふふふふふふ」

 俺は優しく笑いながら、永琳が溺死するまでの一部始終を、うっとりと眺めた。



xxx  xxx



 目を覚ますと同時に、視界いっぱいにご主人様の顔があった。

「――ひえっ」

 思わず声を上げてしまい、慌てて口を塞ぐ。
 口元を手で覆ったまま、私は目だけを忙しなく動かした。

 目の前にご主人様の顔。
 私が頭に敷いているのは、枕じゃなくてご主人様の腕。
 ベッドの中、お互いに身を寄せ合う格好で横になっている。
 しかも、私はブラウスを開いて乳房を露出したまま。

 え、ええと――

 きょろきょろと視線を泳がせながら、私は記憶を手繰る。
 どうしてこんな格好で、ご主人様と一緒のベッドで目が覚めたりしたのか。

 ……あ。

 そう。
 そうだ。

 思い出した。

 前日、私がご主人様の部屋に訪れた事。
 声を上げて咽ぶ私をずっと抱き締めてくれていた事。
 そして、抱き合ったままいつしか眠ってしまっていた事。
 私が曝け出してぶつけた胸の内を、この人が受け留めてくれた事。

 前夜に交わした言葉も口付けの温もりも、全部思い出せた。

「……」

 混乱が収まっていく。
 身体を硬くしていた緊張が緩み、体重をベッドに預ける。
 私はふらふらと彷徨わせていた視線を、ご主人様の寝顔に定めた。

 ご主人様はまだ目を覚ましていない。
 目を閉じて静かな寝息を立てている。
 ご主人様の寝顔を見るのなんて初めてだけど、なんだか睡眠が深そうで熟睡したまま。

 眠っている顔を見て真面目で大人っぽいなんて印象を受けるのは、普段が軽薄で子供っぽいからかな。
 さすがに、ご主人様も寝ている間まで軽薄な冗談や諧謔を口走ったりはしないみたい。
 寝言とか言ってそうだと思ったんだけど。

 私はそんな姿を想像して、一人くすりと笑った。
 ご主人様の腕枕に摺り寄り、毛布の中でもぞもぞと身体を寄せた。

 ……あったかい。

 体温が移った布団と、目の前にある温もり。
 目が覚めると同時に眠気はどこかへ吹き飛んでしまったけれど、温もりが心地良くてベッドから出たくない気分。
 さすがにブラウスを開いたままでは恥ずかしいので、胸元を託し寄せた。

 結局、昨夜私は叫ぶだけ叫んで眠りについた。
 あれだけこごっていた胸のしこりは、今は感じられない。
 すっきりと憑き物が落ちてしまったようで、身体が軽くなったよう。

 けれど、少し申し訳なくも思う。
 私の方からご主人様を誘っておきながら、結局キスだけで終わってしまった。

『抱きたいね。抱きたくて仕方ない』

 そう言って私を横たえたご主人様の期待に応えられずに、朝を迎えてしまった。

 私を気遣って、我慢してくれたのだろうか。
 だとしたら、申し訳なくも思うけれど嬉しくもあった。

 私は、きっと抱き締めていて欲しかった。
 私の隣で、こうして一緒にいてくれる。
 それだけで良かったんだと思う。
 それがずっと欲しかったんだと思う。
 臆病な私に寄り添っていてくれる誰か。
 気がついたらご主人様がいて、今こうして同じベッドにいる。
 それが嬉しくて、照れ臭くて。

 私は綻ぶ口元を自覚しながら、ご主人様の寝顔を見つめていた。

 見つめている内に、ご主人様の眉が歪む。
 きゅっと眉根を寄せて、少し苦しげな表情。

「う……」

 規則正しい呼吸が洩れていた口から、低いうめき声がこぼれた。

 ……?
 どうしたんだろう。

 様子の変化を見つめていると、

「あ」

 いきなり抱き締められた。

 ご主人様はもぞりと動いて私を抱き締める。
 抱き締めて縮こまる。

「あ、あの?」

 私の胸元に額を押し付けて、小さく丸くなってしまう。
 膝を自分のお腹に押し付けるような格好で、私の背中を強く抱き締めていた。
 まるで生まれてくる前の胎児のように、小さく縮こまってしまった。

「……ご主人様?」

 戸惑いがちに問いかけても反応はなく、唸り続けている。

 うなされてる?
 夢見が良くない、のかな。

 だとしたら、起こした方が良いんだろう。

「ご主人様。ご主人様」

 しっかりと抱きつかれて身体を起こす事は出来なかったので、横になったまま肩を揺すった。

「……んあ」

 揺すっている内に、ご主人様の頭がもぞりと動いて瞼が開く。

 うわ。
 寝起きのご主人様ってこんな顔なんだ。

 物凄く目つきが悪かった。

 ぼんやりと瞼を薄く開けて、視線がきょろきょろと動く。

「ご、ご主人様?」

 呼びかけに反応して、きょろりと目玉が動いて私を見る。
 間近で、半目のままじっと凝視された。

 こ、怖い。

 思わず顎を引いた(抱き締められていたので仰け反れなかった)私をさらにしばらく凝視した後、

「すいますか? すいませんか?」

 唐突にそんな事を訊ねられた。

「……え?」

 謝られた理由が判らなくて、私は返答に困った。

「すいます。ファイナルアンサー? ファイナルアンサー」

 そんな私に構わず、ご主人様は寝ぼけ眼でぶつぶつと呟くと、

「ひゃっ」

 私の胸に顔を埋めてきた。

 そんな、いきなり。
 何を。
 すいますって、まさか――

 そのまさかで、ご主人様は私のブラウスの隙間から乳房を探り当てて、吸った。

「ひっ、ん!?」

 ぱくりと乳首を含むと、ちゅうちゅうと音を鳴らして吸われた。

「やっ、ぅん。いきなりっ。ご主人さまっ」

 私は驚いたのもあって咄嗟に引き剥がそうとしたけれど、ご主人様はぴったりとすっぽんのように張り付いて剥がれない。
 それどころか逃れようと身じろぎする私の上に覆いかぶさって、執拗に吸われた。

「お、重いですっ、ご主人様っ」

 いつもよりもずっと体重を感じる。
 普段は上になられた時も膝や肘を立てて、直接体重が掛からないようにしてくれているから。
 だから私はご主人様に組み敷かれていても、のたうつように身悶えていられて――

 な、何を考えてるの私は。

 思考が混乱した拍子に、はしたない方向へ飛んでしまっている。
 自分の痴態を思い出して赤面している間に、ご主人様は私の上にのしかかって脚で脚を絡め取られた。
 私をしっかりと捕まえると、胸を遠慮なく揉み始めてくる。

 ご主人様が唐突に歌を口ずさみ始めた。

「すいすいすっころがし おっぱいすい
 ちっくびをもみあげ とっぴんしゃん
 ぬけたらどんどこしょ
 たわらのねずみがこめくってちゅう」

 そこで、私の乳首に吸い付く。

「ちゅうちゅうちゅう」

 歌詞に合わせて私の乳房を吸い上げる。
 つい昨夜、私の胸を吸ったあの時よりもずっと露骨に。
 それこそ本当に、お腹を空かせた赤ん坊が一心不乱に母乳を吸い続けるように。

「うううっ」 

 幾ら押してもびくともしないご主人様に、私は首を竦めて赤面する以外成す術がなかった。

「おっとさんがよんでもおっかさんがよんでも イきっこなしよ
 いどのまわりでおちゃわんかいたのだれ――」

 歌が終わると、ご主人様の動きも止まった。

「……あの?」

 私の胸に顔を埋めたまま動かなくなったご主人様に、私はおずおずと声をかけた。

「んー。ふかふかおっぱい」

 ご主人様は谷間に顔を押し込んだまま、私の左右の乳房で自らの顔に押し付ける。

「やべー。俺もう死んじゃいそう」

 ふがふがと鼻を鳴らして、顔をぶるぶると震わせている。

 ……。

「ご主人様?」

「おはようレイセン。朝パフで目覚ましだなんて。レイセンってばいつの間にこんなに素敵――ごほん。
 けしからん娘になっちゃったの。ママ許しませんよ?」

「……」

 いつもの(意地悪な)表情で顔を上げてにやにやと笑っていたご主人様の顔を、私は無言でひっぱたいた。
 窮屈な姿勢だったけど、思いの他派手な音が響いた。

 だって、私の顔を見ずに胸に話しかけたりするから。



「目が覚めましたか?」

「バッチリ。覚めたついでに宇宙とのチャンネルが開いて、チャクラが流れ込んできそうになっちまいましたよ。
 今なら大宇宙真理曼荼羅が図形化出来そうな気分」

「……」

「あー、レイセンちゃんに睨まれちゃったから、大宇宙真理曼荼羅が裸足で逃げて行っちゃったよ。
 各して新たな宗教は啓く事無く世俗化していったのであった、まる」

「それは私の所為ですか?」

「とんでもない。レイセンちゃんが暗黒面に捕らわれようとする俺を助けてくれたって事。おかげで俺のフォースは緑色。
 イェーイ」

 部屋から出てきたのはご主人様だった。
 どう見てもいつもと同じ――或いは、よりひどい。
 昨日の出来事は全部夢なんじゃないかと思えてくる。
 それくらい、いつもの軽薄なご主人様だった。

 右の頬に手形をくっきりと残したまま、にこやかにピースサインなどして見せるご主人様を睨む。
 セクハラを警戒して、ボタンを留めたブラウスの袂をしっかりと手繰り寄せた。

「……どこから寝惚けてて、どこから起きてたんですか」

「朝パフ――朝からパフパフでおっきおっき! してる辺りかな?」

 顎を擦って思い出す素振りのご主人様に、私はため息をついた。

「わざわざ言い直さなくていいです。何の略語なのかは訊いてません」

「なんか口ずさんでたのはおぼろげに記憶してんだけどネ。俺、何言ってたの?」

「私に聞かれて困る隠し事でもあるんですか?」

「ん~、そんなに怖い顔しちゃい・や♪ レイセンは笑ってる方が可愛いよ」

 茶目っ気たっぷりにウインクをした後、投げキッスをされた。
 
 どっと疲れた。

「時々、ご主人様に着いていけません」

「そう言わずに着いてきてみてよ。たのちいよ!
 レッイセッンこっちら 手っの鳴っる方へ♪」

 私の方を向いたまま、背中向きに歩き出すご主人様。
 楽しそうに歌を口ずさみながら、手を叩いて私を招く。

 私は、もう一度ため息をついた。

 改めて、どうしてこの人を好きになってしまったのか、疑問に思わなくもない。

「ほらレイセン、見てみて。ムーンウォ―ク!」

 廊下の上をぬめるように滑らかな動きで滑っていく。

 全部夢なら良かったのに。
 ご主人様の相変わらずな様子を見ていると、そう思う日が来てしまいそうなのが怖かった。
 存外、早くに。
 
 ぬめぬめと進むご主人様の後に続いて廊下を横切り、広間へ。
 広間の長テーブルには、すでにてゐの姿があった。

 ……?

 てゐは椅子に座ったまま、ぴんと背筋を伸ばしていつになく姿勢が良かった。
 私たちが広間に来ても視線を前に向けたまま脇目も振らず、ぴったりと固まってしまっていた。

「てーゐ。ムーンウォーク、ムーンウォーク」

 テーブルの向かいで例のぬめぬめ後ろ歩きをして見せるご主人様にも、これといった反応を示さない。
 ご主人様がふざけると、大抵噛み付くか悪態をつくのに。

「何かあったの?」

 明らかに緊張した様子のてゐに違和感を覚えて訊ねると、きりきりとブリキ人形のように首をひねって私を見上げてきた。

「な、何?」

「……笑ってられるのも、今の内よ」

 たじろぐ私に、てゐは脅すような言葉を口にした。

「プリンス並みとは行かなくとも、結構練習したのに反応が薄くてショッキング。
 さて、今日の朝飯はっと」

 てゐの反応が薄くてつまらなかったのか、ご主人様は特徴的な後ろ歩きを止めてすたすたとキッチンへ。
 ご主人様の姿がキッチンの向こうへ消えて、

「あ?」

 そんな声が聞こえた。

「何やってんのさ?」

「朝食の支度」

「ふーん。あんた飯なんて作れる訳?」

「ええ。薬の調合と大差ないわ」

 いや、ご主人様の声だけじゃない。
 誰か別の声も聞こえてくる。

 ご主人様とは別の、誰かの声――

「味気ねぇ話だなそりゃ。食紅とクエン酸と果糖でレモンティとか、そういうレベルじゃねーの?」

「ほうれん草のおひたしに澄まし汁に烏賊と大根の煮付けよ。お嫌いかしら?」

「好き嫌いはねーよ」

「そう。なら腕の振るい甲斐があるわね」

 初めて聞く声のはずなのに、どうして耳に馴染みがある声なんだろう。
 馴染みがあるなんて。
 そんな生易しい話じゃない。

 この声を、私が聞き間違えるはずがなかった。

 けれど、そんな。
 まさか。

 私は信じられずにてゐを見た。
 てゐも私を見ていた。
 相変わらず口元を引きつらせ、恐怖に強張らせたまま。

 そのまさかよ。

 てゐの瞳が雄弁に語っていた。

「そういうの、あんたにゃあんま似合わない気がするんですがね?」

「これでも女ですもの。作った料理が殿方の口に入るとなれば、手に熱意がこもるのは仕方ないわ。
 といっても、有り合わせの材料だけで作った出来合いだけれど」

「さりげなく自慢しているように聞こえるね、そりゃ」

「あらそう? 事実を口にしただけなのだけれど。
 顔にそんなものを貼り付けて。姿が見えなかったのは、お喋りが弾んでいたからかしら?」

「忘れた頃にちくりかよ。訊くのは野暮ってもんだぜ」

「そう。聞いて欲しそうな顔をしていると思っていたけれど、それなら訊かない事にするわ」

 どこかつっけんどんな口調のご主人様と、笑みを含んだ余裕たっぷりな女声の会話が聞こえてくる。

 まさか。
 そんなはずが。

 私はそんな思いに駆られながら、てゐの隣から動く事が出来ない。
 声の主を確かめる事も出来ないまま、キッチンから食器をお盆に乗せたご主人様が姿を見せる。

 一人の女性を伴って。

「二人とも、朝飯だよ。
 あー……まだ言ってなかったけか。八意永琳ね。今日から一緒に暮らすから、仲良くするように」

 紹介を受けて、紹介などされるまでもなく良く良く見知ったその人物は、私たちにうっそりと微笑んだ。

「よろしくね、二人とも」

 師匠。
 何故、貴方がいるんですか。

 私は疑問を口にする事も出来ずに、その優しい微笑に硬直してしまっていた。



xxx  xxx



 朝飯に続いて、昼飯も永琳が手ずから腕を振るった。

 茄子と蕪の炊き合わせに天ぷら茶碗蒸し。
 茸の炊き込みご飯に、食後に抹茶のわらび餅までついてきた。
 ちょっとした懐石といった趣だ。

 器や小皿に一人分ずつ盛られていたり、味付けが薄めだったりと、俺にはちと上品な飯ではあった。
 それでも全部平らげちまったし、美味い飯に変わりはないので文句もねぇ。

 昨晩、粗末な夕餉を出した意趣返しなのかと思わんでもない。
 実際のとこ判んねぇけど。
 レンジでチンする系を出した訳だが、一応食ったみてぇだし。

 で、食欲が満たされたからお次は性欲。
 俺は自分に正直なよう出来ている。

 永琳の部屋に入り、何をするでもなく部屋を眺めていた後ろ姿を見るなり押し倒していた。
 いい加減我慢の限界にキちまってた。
 
 性欲の方は昨日の夜からお預けを食ってるんで、腹ペコのままだ。
 浴室で永琳に誘われたあの時から。
 鈴仙を性欲の捌け口になんか違うってんで、夜も朝も誤魔化した。
 まあおっぱいは吸ったけども、あれっくらいでもしてふざけてないとオレハクルッテシマイソウダ。

 半日以上我慢してたのもあって、そりゃもう強引に押し倒した。

 手首を取って、あっと言わせもせずにのしかかって組み敷く。
 ベッドに仰向けになった永琳の赤い唇にむしゃぶりつく。
 じゅるじゅると音を立てて口の中の唾液をすすった。

 永琳は拒む様子もなく、浅ましく貪る俺にうっとりと目を細めながら舌を挿し込んでくる。
 遠慮なく舌ごと吸った。

 赤と青のストライプ衣装。
 胸の前で留めていたボタンを外して脱がせるのももどかしくて、隙間に指を差し入れ糸を無理やり引き千切った。
 同時にぶるんとこぼれる豊かな双丘。

 ブラしてねぇのか。
 なのに垂れねぇのか。
 神様グッジョブ。

 がつんと頭をぶん殴られたみてぇで、眩暈がした。

「いけない子ね。焦らなくても私は逃げたりはしないわ、僕」

 余りに見事な巨乳っぷりに思わず動きを止めちまった俺に、永琳はくすくすと悪戯っぽく笑った。
 無理やり押し倒してるってのに余裕たっぷりに、年上ぶった物言いで指先をぺろりと一舐め。
 舐めた指先を俺の唇に当ててきた。

 こんな仕草どこで覚えたんだ、畜生。

 俺は我に変えると同時に、口の前にあった人差し指をしゃぶった。

 永琳はくすくすと笑いながら俺の口の中を指でなぞる。
 感触を楽しむように指の腹を使って舌を撫で、俺をその指を口をすぼめて吸った。
 手首を手に取り親指から小指まで、五本全てたっぷりと味わった。

 俺が差し出された右手にむしゃぶりついている間に、永琳は左手であらわになった乳房を自ら揉んで自慰を始めていた。
 すべらかで細い指が胸に沈み、乳首を摘んで転がす様子を、指の股を舐めながら見ていた。

「んっ……ほら。もう、こんなになってしまったわ」

 乳首の先からとろりと溢れた母乳を指で掬って見せる。
 俺は答える前にその指から母乳を舐め取っていた。

 ほのかな甘みとさっぱりとした風味。
 上質な母乳の味。

 俺は永琳の指を瞬く間にむしゃぶり尽くし、乳頭から滲む濁りのない母乳を吸い出していた。

「あはっ。そう、お腹が空いているのね……沢山食べてもいいのよ?」

 両方の乳房に代わる代わる吸い付く俺に、永琳は頭を抱いてうっとりと囁く。

 ふむ。
 これ以上は意味がねぇか。

 俺は意図的に緩めていた欲望の手綱を引き寄せた。
 
「ひでぇザマだな」

 肘を掴んでベッドに押し付けて、俺は身体を起こした。

「あれだけ二人を怯えさせる永琳が、目がないのをいい事に男の身体の下で淫乱発情たぁね」

 鈴仙だけでなく、あのてゐまでも緊張し切った様子で固まっちまってた。
 ぎこちなくロボットみてぇに料理を口に運ぶ様子は、どう見ても味わってる様子にゃ見えなかった。

 永琳がいるだけで萎縮するだけの背景があり、尚且つ跳ねっ返りのてゐを黙らせる程強力だって訳だ。

 俺は永琳を視る。
 視るまでもなく上がり切った欲情。
 熟れた肢体を這う快楽刻印。
 経験や能力に沿った矛盾のない反応。
 化けの皮を剥がしてやるつもりで押し倒したが、不自然な点は視つけられなかった。

 永琳は俺の言葉に反発も不快も抑鬱もなく、艶やかに笑った。

「私も女よ。男を欲しがる事がそれほど不自然かしら?」

 俺は下から流し目なんぞを送ってくる永琳の前髪を掻き上げて、濡れた青い瞳を覗き込む。

 この瞳の裏側で、何を企んでやがる。
 腹の奥に隠しているものはなんだ。
 いっその事この掻っ捌いて腸掻き出してやろうか。
 なんせ相手は蓬莱人だ。
 飽きるまで殺しても釣りが来る――

 猜疑心の為か、欲望が容易く攻撃性に結びつく。
 その自覚がある。
 無軌道な殺意を奴隷にまで向けてしまわないよう制御していたのが、以前より難しくなりつつあった。

 夢見が悪かった所為か。
 今でもばっちりと記憶に残っているあの夢。
 ただでさえ怯えさせたばかりの鈴仙に夢の名残なんざぶつけねぇように、羽目を外しておどけて見せた。
 
 悪ふざけでもしてねぇと、夢に見た攻撃性のままに振舞ってしまいそうだった。

 おかげで朝っぱらから鈴仙にびんたされる始末だ。
 くそったれめ。

 腰のナイフに伸びかけていた手を、ポケットに突っ込んだ。
 手の震えを見られないよう、まさぐる振りをしながらポケットの中で指を開け閉め。

 俺の猜疑心を駆り立てているのは、永琳が夢に出てきたからか、ボスが激励なんかしてきたからか、それとも鵺が確率の低い中古を引き当てたりしたからか。
 どれとも言えず、どれもがその理由に思えてくるから困る。

 実際問題、これ以上永琳を調教するだけの必要性はない。
 奴隷としてやるだけの事はやってある。
 ここからどうするかなんてのは、後は意地と惰性の問題だ。

 予定調和だなんてものには反吐が出る。

 俺の予測していなかった事態だってのに、心湧く胸の高鳴りがない。
 あるのは正体の見えない苛立ち。
 永琳をどうするのか、未だに定まらずにいた。
 
 他人は数値化出来るってのに、自分の事はままならない。

 手の震えが抜けたところで、俺はゴムを取り出した。
 一緒にいきりたつまたぐらの一物を取り出して、素早く被せる。
 永琳はくすくすと笑いながらベッドの上で身体をうねらせ、手を自らの秘所へ。
 相変わらず目の冴える銀色のⅠラインの根元。
 赤い秘裂を指で開いて俺を誘う。

「私の中においでなさい。僕」
 
 俺の螺子を緩めたその姿に、俺はどうして苛立っているのか。
 怒りは攻撃性になる。
 忘れろ。
 消えてしまえ。
 それよりも、今はこの目の前でうごめく蜜壷に包まれて酔えばいい。

 欲望をたぎらせて敵意を上塗りし、俺は腰を上げた永琳に覆いかぶさった。



「ふふ」

 銀色がうねる。

「ふふふ」

 身体の下から絡み俺を締め付ける。
 
 脚を俺の腰に絡め、腕を伝うように滑り、肌が赤らむ。

「ふっ」

「ぁはっ」

 ベッドに手を着き腰を入れるたび、余裕たっぷりの笑みが快楽に歪む。
 瞳に宿った悦楽は底抜けに飲み込んでいく。
 俺は肘を折って唇を寄せた。

「そろそろイくぜ」

「ぅふっ」

 永琳は腕を俺の首に回し、深く貫いた後も俺の腰を離そうとしない。
 尻を押し付けてくねらせ、中に収まった俺の一物を搾り上げる。
 薄い皮膜越しに感じるひだひだが、ねっとりと圧迫してきた。

「ぐおっ」

 やべ。
 漏る漏る。

 思わず動きを止めて唸っていた所を、ひょいと上体を伸ばして唇を吸ってきた。
 下唇が甘く噛まれながら引かれ、永琳の目が細まる。

「男女の睦み逢いにこんな無粋な物など付けて。私の中には下されないの? 御主人様」

 俺の下唇を離すと、底意地の悪い笑みを浮かべて顔の輪郭をなぞる。

「私を、御主人様のものにはして下さらないのかしら?」

 耳を舐めながらそんな言葉を囁いてきた。
 腰がうねるたびに限界寸前の俺の一物を締め上げながら、それでも射精しなかったのは男の子の意地だ。

 くそっ。
 聞き分けのねぇ尻しやがって。

「るっせい。俺に指図すんな」

 肩を掴んで引き剥がす。
 ベッドに押さえつけた永琳は残念そうに眉を寄せ、その後くすりと笑った。

「可愛い子ね」

 ちろりと出した舌を指でなぞる。

 あ。
 くそ。

 張り詰めていた陰嚢がしぼんでいくような錯覚。
 俺は射精していた。

「おっ、ぐぁ」

 射精が続く。
 たっぷりと吐き出されていく精液がゴムの先に溜まる。

 永琳の下半身だけが別の生き物のようにうねり、俺の射精を促していた。
 我慢して溜め込んでいた分だけ搾り取られた。

「……はぁ」

 永琳はため息を洩らして、しがみついていた脚を解く。
 くいと腰をねじって、最後の一滴まで搾られちまった。

 ぬるんと永琳の中から抜けて、垂れ下がったコンドームの先はパンパンに膨らみ、永琳の愛液でぬらりと生々しく濡れていた。

「沢山出したわね。偉いわよ。僕」

 永琳はうっそりと微笑みながら、ゴムの先に溜まった膨らみを手の平に乗せて遊んでいる。
 水風船のごとく膨らんだコンドームの先っちょを、指で突いたり揉んだり。

 何、このやるせなさと食われちまった感。

 俺は舌打ちをして腰を引き、コンドームを取り替える。
 精液の詰まったゴムを放り捨て、上半身を浮かしかけていた永琳を再びベッドに押さえつけた。

「食うぞ」

「どうぞ召しませ」

 永琳は薄く笑って、俺に身体を差し出してきた。

 抱いた。
 永琳の肉体をしゃぶってねぶって犯した。

「あはっ、そう、そう。もっと頂戴。ああっ、激しいわっ」

 俺の下でくねりながら、永琳は淫らに喘いだ。
 その姿に興奮して俺の一物はそそり立ち、永琳の濡れた蜜壷は俺を底なしに引き込むようだった。

 瞬く間に汗まみれになりながら、腰を打ちつけた。

 赤く高潮した肌。
 荒く乱れた呼吸。
 千切れるような喘ぎ。
 永琳から漂う甘い体臭。
 濡れた青い瞳。
 どれもが俺を酔わせていく。

 俺は永琳と共に享楽に耽りながら見ていた。

 その白い頸をずっと見ていた。

 物欲しげに。

 ひっ。

 頭の奥で笑う。

 ひ、ひひひ。

 誰かが嗤う。

 俺を愉しませろ。

 無防備に差し出されている頸。
 いかにも絞め易そうなその頸に手が伸びる。 

 うるせぇよ。

 伸ばしていた手を永琳の顔へ。
 両頬を挟んで、赤い唇に口付けをした。

「んっ。ふっ、ふーっ、ふーぅっ」

 永琳は息を切らしながら口を吸ってくる。
 俺と同じように荒っぽい程に顔を掴み寄せて、髪を掻き抱く。
 それに応えて俺も唇を吸い返した。

 ひひひっ。

 笑い声をどこかに押し込んで、俺は永琳の身体に溺れた。 
 


xxx  xxx



「どうしよう。どうしよう。どうしよう」

 私はぐるぐると回る。

「どうしよう。どうしよう。どうしよう」

 てゐもぐるぐると回る。

 二人で部屋にこもったままぐるぐると堂々巡り。

 私がふと足を止めると、てゐもぴたりと足を止めた。

 お互い無言のまま顔を凝視する。

「怒られる?」
「で済むはずないじゃない!」

 私の疑問と殆ど同時にてゐが叫んだ。

「しっ」

「あっ。まずっ」

 人差し指を口の前で立てた私に、てゐは慌てて口を塞いだ。

 静寂の戻った室内に、かすかに届く二人の声。
 ご主人様と、お師匠の声。
 当たり前のようにお師匠の部屋に向かったご主人様が、その先で何をしているのか。

 ここで行ってきた事を思えば想像に難くない。

「消されるわよ。あいつ。絶対」

 てゐは半眼になりながら、壁の向こうを睨んだ。
 消すという言葉に私の背中が粟立つ。
 お師匠がその気になれば、本当に痕跡すら残さずに消す事が出来る。
 幾らここが特殊な場所で、あのご主人様でも相手が悪い。

 お師匠の怖さは、私たちの方が良く知っていた。
 
「どうして今になって」

「そんなこと私だって知りたいわよ。
 あー、もう! 今までお師匠の相手は鈴仙に押し付けてたのに、ここにいたら私まで巻き込まれるじゃない!」 

「……やっぱり押し付けてたんだ」

「今はそんなことより、この状況をどうにかするのが先よ」

 じとりと睨む私に、てゐは人差し指を立てて真剣な顔つきで見上げてきた。

「鈴仙だって見たでしょ? 師匠のあの笑顔」

 う。

 てゐの言葉で私の脳裏に師匠の姿がちらつく。
 優しく微笑んだあの顔。
 あれだけで尻尾がきゅっと縮んでしまった。

「今回は怪しげな新薬の実験くらいじゃ済まないわよ。むしろ薬の材料にされかねないわ」

 にこにこと微笑む師匠に、揃って乳鉢の中に放り込まれた後、ごりごりと摩り下ろされて行く姿が思い浮かんだ。

「やめてやめてやめて下さい師匠私をすりつぶしても薬になったりしませんごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

「鈴仙、頭を抱えて現実逃避してる場合じゃないわよ」

 はっ。

 てゐに肩を揺すられて、しゃがみこんでいた私は我に返った。
 
「でも、けど。どうしよう。どうしたら?」

 ご主人様は立場上私たちを逃がさないし、師匠だけ特別扱いなんてするはずがない。
 師匠も師匠で、絶対ご主人様を許したりしないだろう。

 この時点で、私たちじゃどうにかしようにもどうにも出来ないんじゃ?

 てゐは顎を擦って考え込み、

「とりあえず、お師匠が何考えてるのかは私が聞きだすわ。鈴仙、あんたはあいつを何とかしてよ」

 私に指を突きつけた。

「それって、結局何も考えてないんじゃ?」

「うっさいわねぇ。鈴仙だってどうすればいいかなんて。良い案ないでしょ」

 そんなんだけど。

 もし私一人でこの状況だったら、多分今も部屋の中をぐるぐると回り続けているに違いない。
 てゐがいるおかげで私もまだ少しは冷静でいられた。

「けど、なんでてゐなの?」

 師匠に探りを入れるなら、元の立場を考えて弟子だった私の方が――

「鈴仙。あんたお師匠相手に探りを入れるなんて真似出来る?」

「……出来ません」

「そういう事よ。それに、あいつって鈴仙に甘いしね。
 というか、あいつが死ねば丸く収まるんじゃないの?」

「それは駄目!」

 私は叫んでいた。
 自分でも驚くほどてゐの言葉を拒んでいた。

 私の叫び声にてゐは目を丸くして、私も思わず口元を押さえていた。

 裏切れない。
 裏切りたくない。
 私たちが助かりたいが為に裏切ったと知れば、ご主人様はどうするか。

 考えたくない。

「それは……駄目。駄目なの」

 まじまじと見入られて、私はゆるゆると首を振って繰り返した。

 あの人は言ってくれた。

『おいで。レイセン』

 臆病で役立たずで泣いてばかりいる私を、抱き締めてくれた。

 たったそれだけ。
 あの人がしてくれたのは、たったそれだけで。
 私が欲しかったのは、たったそれだけだった。

 馬鹿げてるって判ってる。
 けど、認められない。
 あの人の生死を秤にかけるなんて真似が出来なかった。

 月を裏切って逃げ出して。
 永遠亭からも離れた私が。
 あの人まで裏切るのか――

 私は、もう逃げない。

 てゐは私をじっと凝視した後、腕を組んで大きくため息をついた。

「鈴仙、あんた重症。確実にハードル上がったわよ」

「……知ってる」

「私たちも無事で、あいつまで五体満足にって。姫様が出した難題より難しいんじゃないの?
 私の幸運でも足りないような大団円なんて、どうやってするつもりよ」

「判らない。けど」

 何か糸口が。

「ご主人様の事をもっと知れば、何か手があるのかもしれない」

 その糸口を探せば。

「あの人の事を知らなさ過ぎるんだと……思う」

 てゐも、私も。
 今まで探す事もせず流されていたけれど、ここで暮らしているのに私たちはあの人について具体的な事は殆ど知らない。

 ううん。
 名前すら知らないんだから、何一つとして知らないままだ。

 ご主人様は自分の事は何一つとして喋っていない。
 判っているのは立場やその人となりで、それだってご主人様の口から聞かされた事は極端に少ない。

 どうして調教師だなんて仕事を?
 永遠亭に――幻想郷にいた私たちを、どうやって連れてきたのか。
 ここはそもそもどこなのか。
 ご主人様は誰で、鵺さんは何で一緒にいるのか。
 そもそも何者で、いったいどんな意図でこんな仕事に就いたのか。
 誰か、指示をしている者がいるんじゃないか。

 疑問は次々と溢れ出てきた。
 浮かんできた疑問は、私が今まで棚上げしたまま目を背けていた事ばかり。
 結局、私は閻魔様のお説教を受けてからも何一つとして変わっていなかった。

 ぎりぎりになってからその事に気がつくなんて。

「手遅れじゃない」

 だから、口にした。

「まだ、手遅れじゃない」

 口にすれば、逃げられない。
 逃げずに立ち向かっていられると言い聞かせる事が出来た。

「……本気?」

 てゐは真剣な眼差しで私を見上げてくる。
 私は決意を込めて頷いた。

「オーケー。じゃあ鈴仙はあいつの事を探って。それとなく聞き出すのよ?
 情報を集めて知恵をひねり出すわよ」

 てゐは片目を閉じると、にやりと不敵に笑った。
 私は安堵のため息をついた。

 良かった。
 正直言って、てゐが味方についてくれるのは心強かった。

「ったく。私まであいつの尻拭いとはね。いい迷惑よ。見返りは奮発させないとね」

 膨れっ面を浮かべてぶー垂れるてゐに、私はさっき抱いた感想を口にする。

「さっきの言い方。ちょっとご主人様に似てたわよ。オーケーとか」

「うげっ。よりにもよってあいつに似てるとか。最っ悪ね」

 べっと舌を出したてゐに、私はくすりと笑った。



 そういった経緯を経て、私はご主人様の部屋に訪れた。

「あ、あの。ご主人様」

「ん? 何。鈴仙」

 ご主人様はちょうど部屋から出てきたところで、私の姿に驚いた風もなく穏やかに笑った。
 誰かの部屋へ向かうところだったのだろうか。

「コーヒーを入れたので、良ければ一緒にどうかなと思って」

 私は手にした二人分のカップを乗せたお盆を持ち上げ、ご主人様は立ち昇る湯気に顔を寄せてくんくんと鼻を鳴らした。

 私は屈んだご主人様の頭のつむじを見つめながら、てゐの言葉を思い返す。

『いい? 私がお師匠と会ってる間、鈴仙はあいつを引き留めといてよ。
 私がお師匠と隠れてこっそりと話してるのを見られたりしたら、あいつだって良く思わないだろうし。
 あいつも加わって来たりしたら、まとまる話だってしっちゃかめっちゃかになっちゃうんだから。
 身体を張ってでも釘付けにしておきなさい。あわよくば良い気持ちにさせて口の一つ二つは滑らせる事。いいわね?』

 身体を張ってとか、良い気持ちにさせてとか。
 それって結局いつも通りの気がしなくもないけれど。

 ううん、違う。
 今までは流されてばかりだったけど。
 これからは積極的に、ご主人様が何者なのかを掴んでいくんだ。

 小さく頷き、左巻きのつむじを見つめた。

「うん、いいね。お茶にしようか」

 顔を上げたご主人様は、視線がくすぐったかったのか頭を掻きながら、私を部屋の中に招いた。

「がおー! 食べちゃうぞー!」

「きゃっ、ちょっと。ご主人様、そんないきなり!」

 机にお盆を置いた途端、抱きすくめられたままご主人様諸共ベッドに倒れこんだ。
 あれよあれよという間に身体が入れ替わって私をうつぶせに、ご主人様は揃えた脚の上に座った。

 肩越しに振り返る私に、ご主人様はにやにやと笑った。

「腹を減らした狼の巣にやってきたりするレイセンが悪いのさ。悪い兎さんめ! まずは尻尾から頂いちゃうぞ!」

 ぺろんと私のスカートを捲り上げ、丸い尻尾をぱくりと口に含んだ。

「ひゃん!」

 尻尾の毛も構わずもごもごと唇と舌で私の尻尾を捕まえてしまう。
 お尻を突き出した格好でスカートを捲られただけでなく、よりにもよって尻尾を咥えられるなんて真似をされて。

「…っ……っ」

 私は恥ずかしさの余り目の前の枕を手繰り寄せ、顔を覆って塞いだ。

 その間にご主人様は私の尻尾を舐め続け、すっかり唾液まみれにしてから、しっとりと毛並みが伏せてしまった私の尻尾を離した。

「……ぷは。短い尻尾が口の中で暴れて、実によろしい。
 性的に食べちゃうから覚悟するが良い。フゥハハハハァー!」

 私の身体をころんと仰向けに転がすと、服のボタンを外すべく手を伸ばしてくる。
 私はすかさず手にした枕をぐいと押し付けた。

「おっと。んーふふ、これくらいで俺のたぎるリビドーを押さえつけようだなんて」

「っ!」

 受け止めた枕の向こうからひょこりと出てきたご主人様の顔を、思い切り引っぱたいた。



「すんません。調子に乗ってました」

 左頬にくっきりと赤い手形を咲かせたご主人様は、床に正座していた。
 私は怒りと羞恥心の半々で顔を赤く紅潮させて、大人しくなったご主人様を腕を組んで見下ろしていた。

 朝の時といい、なんだか悪ふざけばかりするようになってきてる気がする。
 子供の悪戯にしても、身体は大人なんだからもう少し自覚を持って欲しい。

「反省しましたか?」

「右の頬を打ったなら、左の頬も打ちなさい」

「聞いてますか?」

「神はのたまいました。何事もバランスが肝心」

「右頬も打って欲しいんですか?」

「わぉ。目がマジだねレイセンちゃん。怒った顔もかわゆいよ♪」

「朝は、笑った方が可愛いって言ってませんでしたか?」

「レイセン自体が可愛いから、どんな表情でも魅力的に感じちゃうんだよ。罪作りな女の子だね」

 歯の浮くような台詞をすらすらと囁いて、にこにこと笑いながら投げキッス。

 口ばっかり上手いんだから。

「もう。おべっかばっかり言うんですから……。

 なんて許されると思ったら大間違いですよ!」

「あら。作戦失敗かなこりゃ」

 眉を逆立てて睨む私に、ご主人様はきょとんと目を丸くしながら何かを擂る仕草。
 ごまを擂っていたと言いたいんだろう。

 私は頭痛と一緒に眩暈を堪えて額に手を当てた。

「どうしてあんな事するんですか。尻尾がべたべたになっちゃったじゃないですか」

「うん。二人でベッドの上でじゃれあってるうちにだんだんむらむらときてソフト且つライトにセックスに流れ込む。
 っていうシチュを考えてたんですが。お気に召しませんデシタカ」

「それにしては、じゃれあってた時間が短いと思うんですが?」

「湧き上がるリビドーをどうにも堪えがたくてね。我慢出来なくなったAV監督だね。困ったもんだね」

 本当に困ります。

「で。このハイパー説教タイムっていつまで続くのかな?」

 小首を傾げたご主人様に、私は目を細めた。

「朝まで続けましょうか?」

 我が身の行いを振り返って反省するまで、懇々とお説教を続けようか。
 誰の為にこんな事をしてると思っているのか、ご主人様には自覚が足りていないと思う。

 ご主人様は正座しながらもぞもぞとお尻の位置を直した。

「それなら先にコーヒーを頂きたいね。折角レイセンが淹れてきたのに、味が落ちるのをただ見てるだけってのは忍びない」

 視線を机に向けて、私はご主人様が何かまた悪戯をしないか警戒しながらそっと振り返った。

 半ば口実のために用意したコーヒーだけど、ないがしろにされず覚えていられた事は嬉しい。
 これも、私が出来る事の一つだから。

 細い湯気を昇らせているコーヒーを眺めていて、ふと気がついた。

「もしもあのまま、その……エッチな事になってたら、冷めちゃってたと思うんですが?」

「深く考えちゃ、駄・目♪」

 やっぱり、ご主人様には自覚が足りないと思う。
 ため息をつきながら机に着いて、コーヒーを一啜り。

 私だと会話をする内にからめとられていつの間にか論点をずらされてしまう。
 随分飲み易くなったコーヒーをちびちびと飲みながら、今も正座したままのご主人様を見た。

 ご主人様から何かを引き出そうとするには、もっと単刀直入に聞き出した方がいいんだろうか?

「……ご主人様」

「何かな? レイセン」

 お腹の下に凝り固まった緊張を感じる。
 コーヒーで唇と咽喉を湿らせて、私は質問を投げかける。

「ご主人様の名前は……なんていうんですか」

 今まで聞きもしなかった事。
 私の名前を読んでくれるこの人の名前。
 今までご主人様と呼び続けてきたけれど、呼び方に拘っていたのは私の方で、呼ばれ方に拘っていなかった。

 てゐが素っ気無い呼び方をしても、この人は殊更気に留めた様子もなかった。

 私の質問にご主人様が困った表情を浮かべて頭を掻いた。

「それ、答えなきゃ駄目? どうしても?」

 ご主人様の様子に、つい首を振って流してしまいそうになる所をぐっと押し留めた。

 答え難い事なんだろうか。
 だとしたら、どうして答えにくいのか知る必要がある。
 この人の事を、もっと知らないと。

「どうしても。答えてくれないと、駄目です」

 強気の姿勢を崩さずにご主人様を凝視する。
 私自身、もっとこの人の事を知りたいという思いがあった。

「あー、そう」

 ご主人様は素っ気無く呟いて、尚もしばらく迷うように視線をきょろきょろと部屋の中を彷徨わせてから、

「習志野権兵衛」

 膝を叩いて答えた。

「……ならしの?」

「習志野権兵衛」

 訊ね返した私に、ご主人様は頷いた。
 私は頭の中でご主人様の名前を反芻する。

 ならしの、ごんべえ。

 なんだか、想像していた名前と雰囲気が違うな。

 ならしのごんべえ……ならしの、ならしの……。
 ……?
 これって、ひょっとして。

 私はカップを置いて、ご主人様をじろりと睨みつけた。 

「私の事、からかってます?」

 名無しの権兵衛をもじっただけじゃない。

 ご主人様は脚を崩して胡坐を掻くと頬杖をついた。

「からかってるように聞こえる? だから名乗るのは嫌だったんだ。こっちは真面目に答えてるのにふざけてるとしか受け取ってもらえねぇ。
 そりゃあ洒落でもじったように聞こえるのかも知れねぇけど、俺は結構気に入ってるんだぜ?
 これでも親からもらったもんなんだしな」

「え? あの」

「レイセンはいいよね。鈴仙・優曇華院・イナバ。立派な上にミドルネームまで持っててさ。
 対して俺は習志野権兵衛。権兵衛ですよ権兵衛。へっ。何時代の人間だっての。
 うるせぇなぁ。俺が気に入ってんだからいーじゃないのさ」

 そっぽを向いて不貞腐れたように愚痴るご主人様に、私は戸惑った。

 ひょっとして。
 本当にそういう名前なんだろうか。

「……す、すみません。私」

「謝って欲しくなんてないね」

 頭を下げた私に、すげなく言い捨てられる。
 不機嫌な声音に、私は膝に置いていた手をぎゅっと握り締めた。
 
「だって嘘だもの」

 続けて、あっさりと声音から不機嫌な色が抜け落ちた。

 私が顔を上げると、ご主人様は頬杖をついたまま肩を揺すっていた。
 口元がにんまりと吊り上っていく様子を、私は目を見開いて凝視していた。

「う…そ……?」

「嘘も嘘。真っ赤な大嘘。今時権兵衛はねぇよ、権兵衛は」

「騙したんですか!」

「うん、騙したの。信じた? 信じたの? 信じちゃったのね?
 大・成・功! イヒ!」

 お腹を抱えて笑い転げるご主人様に、私は開いた口が塞がらない。
 またやられた。

「ひどいですよ! 私は真面目に訊いてるのに!」

「真面目に返したら信じるかい?」

 思わず席を立って声を荒げた私に、床を転げ回っていたご主人様はぴたりと笑いを止めて私を見上げてきた。

「俺に名前なんてものはない。真面目にそう言ったら、レイセンは信じてくれるかい?」

 ――え?

「名前はないよ。あったらいろいろと不便でね。もう随分前の話になるかな。名前を捨てた」

「そ、そんなの。また嘘を――」

「嘘に聞こえる? けれどこれが真実。本当。事実として、俺に名前はないのさ」

 悪ふざけも冗談も含まない黒い瞳に真っ直ぐに見つめられ、私は固まってしまっていた。

「まー、色々名乗った事はあるよ。好き勝手に呼ばせて定着したのもある。
 けどそれは他人にやっちまったし、やっぱり今の俺に名前はないな」

「な、名乗ってたのなら、それでいいんじゃ――」

「名前ってさ。自分で付けるもの? それって違うんじゃない? 誰かから貰うものでしょ。
 鈴仙は、生まれた時に自分で名前を付けたのかい? 違うよね。親か、それに近しい誰かが授けてくれたものでしょ?」

 ご主人様はふざけた様子は微塵もなく、真摯に、勤勉に、そして辛辣に私に問いかけてきた。

 私は答えられなかった。
 その通りだったから。

「で、でも。捨てたなんて」

 それでも私はご主人様の言葉に承服しがたい何かを感じていた。

 名前が無いなんて。
 生まれ持って手にしたものを捨ててしまったなんて。
 不便だからという理由があっても、そんな事本当に出来るのだろうか。

「まあ、捨てたなんて言葉だけで本当の意味が無くすのは難しいね。
 誰かの記憶に残っている限り、どこかの記録に残っている限り、名前を捨てるなんて出来やしない。
 だから記録は片っ端から消したし、記憶に残った姿を作り変えたりしたよ。
 ま、俺を知ってた奴に出会っても、昔の俺とは判らないだろうね。面影残ってないし」

 ご主人様は顔面を撫でるように撫でて薄く笑うと、指先でこめかみを小突く。

「さあ、準備は整いました。残っているのは後はここだけ。
 俺が俺の名前を忘れちまえば、その時俺は完全に名前を捨てた事になる。
 って事で、昔の記憶から名前に関する部分を全部消してもらったの。知り合いにちょこっと弄って貰ってね。
 おかげで忘れっぽくなっちまったけど、修正範囲内かな。
 だから訊かれても答えられないし、俺自身覚えてもいないし、そもそも答えようがないってのが答え」

 ご主人様は、まるで他人事のように名前が無い事を私に説明した。

 私は答えられない。
 床に転がったままへらりと軽薄に笑うご主人様を見つめていた。

 名前を捨てて。
 生まれ持って授けてもらったものを捨ててしまって。
 それなのにどうして。

「どうして、笑っていられるんですか……?」

 私は捨てられなかった。
 月から逃げ出していながら、唯一手にしていたレイセンというこの名前。
 この名前を捨てきれずに、地上に降りた後も鈴仙と名乗り続けていた。

 まるで気にも留めていないこの人の様子に、納得出来ない何かがあった。

 ご主人様はふと考え込むように顎を撫で、私を見上げてくる。

「与太話だからさ。只の」

 この人は何の迷いもなく、

「俺にとって名前なんてものは必要なかった。それだけの話だよ」

 自らの名前を余分なものとして切り捨てていた。

 ご主人様はむくりと起き上がると、机の上に置いていたコーヒーをぐいっと呷る。
 そして私の髪を一撫で。

「少し冷えたけど、美味いよ。ありがとね、レイセン」

 私の淹れたコーヒーを褒めて穏やかに笑いかけてくれた。

 私は、名前を持たないこの人の笑みに、どんな表情を浮かべ返しているのか判らなかった。

 そんな私に、ご主人様は鼻の頭を掻いた。

「ごめんね」



 何に対する謝罪なのかを問う事も出来ず、私は寂しそうなその笑みを見上げていた。



 ご主人様に名前はなかった。

 それを私が知った後、私にその事を教えてくれた後も、ご主人様の様子にこれといった変化はなかった。

 涎まみれにされた尻尾ががびがびになる前にシャワーを浴びて、浴室から出てきた時にはもうベッドに横たわっていた。
 師匠やてゐの元にいくつもりはないのか、腕を頭の裏で組んで目を閉じていた。

「……もう、お休みされていますか?」

「寝てないよ。目ぇ閉じてるだけ」

 目を閉じたままご主人様は受け答えた。

「私、上がりましたから……ご主人様も、休まれる前にお風呂入ってこられたら、どうですか?」

「そうだね。そうしようか」

 ご主人様はむくりと起き上がってそのまま浴室へ。
 ドアの閉まる音を背後で聞いて、しばらくして水音が聞こえてきた。

 ご主人様は何も言わない。
 浴室にあるバスタオルで身体を隠しただけの私を一目見ただけで、何も言わずに汗を流している。
 ご主人様の部屋でシャワーを浴びた事。
 下着も身につけていない私の格好。
 何を意図しているのか、多分全部知っているから。

 私はそっとベッドの中に滑り込んだ。
 毛布に包まって丸くなる。
 体温が残っていたベッドは温かくて、ご主人様の匂いがした。

 煙草の匂いは残っていなかった。

 どきどきと高鳴る鼓動を聞きながら、私はまんじりともしない時間を過ごした。

 やがて水音が止んで、かちゃりとドアが開き、ぺたぺたと湿った足音が近寄ってくる。
 私の胸は爆発してしまうんじゃないかと思うほど激しく鳴り響いて、丸めた身体を緊張に硬くした。

「レイセン」

 ああ。
 ご主人様の声。
 あの人の声だ。

「もう寝ちゃった?」

 そっと指先が軽く髪を撫でていく。
 それだけで身体の強張りが解けてしまう。

「……起きてます」

「そう」

 ぽつりと呟くと、ぎしりとベッドが軋んだ。
 ベッドに座って、私の少し湿った髪を撫でている。
 目を開けなくても、その様子がありありと瞼の裏に浮かび上がっていた。

 けれど、どんな表情を浮かべて私を見ているのかは、判らない。

「レイセン。ここにいたら悪戯されちゃうよ?」

 私の髪が一房、くるくると指に絡め取られる。
 私は寝返りを打った。

 湿り気を残した裸身に息を呑んだ。
 定着した赤いジャケットを脱いだ身体が、ほのかに湯気を立ち昇らせている。
 腰にバスタオルを巻いているけれど、それ以外に衣服らしいものを身につけずに私を覗き込んでいた。

 私の想像なんて届かない程に刺激的で、――こんな事を男のご主人様に言うのもおかしいのかもしれないけれど――濡れた黒髪は色気を醸しだしていた。

「悪戯だけで、済むんですか?」
 
 口から出てきてしまいそうな胸の高鳴りを生唾と一緒に飲み込んで、私はご主人様を見上げた。
 逆光で顔は良く見えなかったけれど、口元には穏やかな微笑が浮かんでいた。

「それは無理な相談だね。頼まれても、そのお願いを聞ける自信はないかな」

「じゃあ――今日もここで寝ます」

 もぞもぞと毛布に包まったまま移動して、スペースを開ける。
 体温を帯びて生乾きになっていたバスタオルが、毛布の下で解けた。

「ご主人様と一緒に」

「そう。じゃあ、そうしよう」

 ご主人様はするりと毛布の中に滑り込んで、その間際に腰のタオルを抜き取っていた。
 相変わらず器用だ。

 毛布から顔を出して、首から下は隠したまま一つの枕に頭を乗せる。

「おいで」

「はい」

 するりと私の身体の下に潜り込んできた腕に抱き寄せられて、そのまま寄り添う。
 毛布の下で肌と肌が直接触れ合った。

 丸めていた身体を遠慮がちに伸ばし、ぴったりと密着していく。
 おずおずと伸ばした脚がご主人様の脚を見つける。
 ふくらはぎに足首を引っ掛けられて、くいっと引き寄せられた。

 愛撫と呼ぶには些か物足りない。
 性を感じさせる場所を避けるように行う、消極的な慰撫。
 互いに触れ合った手を、腕を、脚を使って擦り合わせるだけの行為。
 見つめあったまま毛布の下では身を寄せ合い絡めて行う。

 それが何だかひどく淫靡な行為に思えて、私は顎を引いていた。

「レイセン」

 顔を赤くした私の名前が呼ばれた。
 昔の響きを伴った呼び声。

「……」 

 私は答えられず、黒い瞳と向き合っていられなくなってしまった。

「どうかした?」

 こつんと額が当たる。
 額と額を当てたまま、あの人は私の言葉をじっと待ち続ける。

 身体の動きが止まり、私を優しく抱き締めてくれた。

 私を口ごもらせていた躊躇いは、柔らかい抱擁でゆっくりと溶かされていった。

「私、今のままご主人様って呼んでてもいいんですか……?」

 私は眉越しにご主人様の瞳を見上げた。

『名前はないよ』
『俺にとって名前なんてものは必要なかった』
『それだけの話だよ』

 この人は何の未練もなくそう言い切った。

 けれど。

『ごめんね』

 あの時の寂しそうな笑顔が、脳裏残っている。

 時折見せるその寂しそうなはにかみ。
 それを目にする度に、人一倍賑やかで、騒々しくて、陽気なこの人に影を落とす。
 この人が笑っている時、それは本当に心の底から楽しんで笑っているのだろうか。

 もしかして。
 本当は。
 孤独を紛らわせる為に、あれほど陽気に振舞って見せているだけなんじゃないか。

 どこかで、後悔しているんじゃないか。
 自らの名前を切り捨ててしまった事に。

 だとしたら。
 私がご主人様と呼ぶ度に、この人は失ったものを噛み締めていたりするのではないか――

「レーイセン」

 再びこつんと額を当てられて、私は我に返った。

「気にしなくたっていいの。言ったでしょ? 与太話だって。
 難しく考える必要なんてないよ。レイセンが俺を呼ぶなら、その呼び方が俺のお気に入りさ」

「じゃあ、今のままでも?」

「ん。今のままでいいよ」

「そうですか。……ご主人様」

「ん?」

 瞳の中を覗き込む。
 以前のような狂気的な敵意や憎悪はその片鱗もなく、のんびりとくつろいだ穏やかさがあるだけ。

「……呼んでみただけです」

 呼び慣れていたはずなのに、改めてそう呼ぶと何やら気恥ずかしくて、私は視線に耐えかねて毛布の中に隠れた。
 毛布の奥に潜り込むと、あたたかな温もりに顔まで包まれる。
 体温が高いのか、ご主人様の身体はいつも温かい。
 この体温に居心地の良さを感じるようになっていた。 

「こーら。お兄さんをからかうもんじゃありません。ほら、隠れてないで出ておいで」

「やです」

 この温もりが好きだ。
 目の前にある胸にもぞもぞと頬を寄せて、ぴったりと張り付く。
 とくんとくんと聞こえてくる心音に耳をそばだてると、不思議と気分が落ち着いた。

「じゃあ、悪戯しちゃうぞ」

 今まで肩に乗せられていた手が、その言葉と共に私の身体を滑り出す。
 背筋をなぞり下へ、下へ。

「んっ」

 くすぐったくて背筋が伸びる。
 そのわずかな隙を縫うように、脚の隙間に膝が滑り込んでくる。
 私の脚と足の隙間に膝を割り込ませて、内腿を擦られた。

 その間に、伸びてきた手が私のお尻の輪郭を円く撫でた。

「レイセンのお尻は安産型だね。満月みたいだよ」

「それ、どういう意味ですか?」

「丸くて可愛いくて、覗いてみたくなるって事」

「……からかってません?」

「真面目に言ってるんだけどね。真面目に言ってこれって、どうなんだろうね」

「知りませんよ…んっ…そんな事……」

 お尻を撫で回していたご主人様の指が、尻尾の裏筋をくすぐってから亀裂に沿って奥へと滑り込んできた。

「やっ、んっ。そこ。汚いです」

 お尻の穴を触られる。
 入り口を指の腹で撫でられ、こねられ、入れられたりはしないけれど触られ続けられる。
 むずむずとくすぐったくて、私は身体をよじりながら毛布から顔を出した。

「も、もう! どこ触ってるんですか。そんな汚い所触らないで下さい」

 眉を逆立たせて首を出した私を、ご主人様は優しく、そして少し意地悪な笑みを浮かべて待ち構えていた。

「汚くなんてないよ。お風呂入ってきたばっかりでしょ? それに悪戯するって言ったからね」

 にこにこと笑いながら、指は私のお尻を触り続ける。
 指から逃れようと腰を逃がすと、今度は腿が私の股間まで差し込まれて、包皮越しにクリトリスを擦った。

「んくっ」

 思わず声を洩らしてしまい、私はすごすごと首を引っ込める。
 ご主人様は私のお尻を一度撫で回した後、再びお尻の穴に触れた。

「気持ちいい?」

 ふと真顔で訊かれて、私は鼻まで毛布に隠れながら視線をきょろきょろと彷徨わせた。
 指先で小さく円を描いて皺を伸ばしているのが、敏感な部分から伝わってきていた。

 気持ち良い、というか。
 変な気分。

 ご主人様は平然と汚くないと言ったけれど、やっぱり私にはそこは汚い場所だという意識がある。
 羞恥心と若干の嫌悪感。
 後は、何だか人目を忍んでいけない事をしているような背徳感があった。

「わ、判らないです」

 それだけ答えるのが精一杯で、私は視線を毛布の奥に落とした。

「そう。うん。じゃあやめとこう。悪戯は程ほどにしとかないと、俺ってばすぐ調子に乗っちゃうからね」

 思いの他あっさりとご主人様は指を引き、私はほっと安堵のため息をついた。
 私が拒むと、大抵の事は引き下がってくれる。
 先に非を認めて私を責めたりしない。
 今思えば、冷や汗が出そうな真似をしていた。

 お尻がむずむずするのは今も指の感触が残っている所為なのか、それとも一日で二度も頬を引っぱたいたりした事を思い出した所為か。
 私は何とも落ち着かないまま、もじもじと身じろぎをした。

 控えめに、差し込まれたご主人様の脚に腰を摺り寄せながら。

 そろそろ――

「しようか」

 まるで私の物欲しげな思考を先読みしたかのように、ご主人様が言った。
 身体の位置が変えられて、私は下になりご主人様が上になる。

「……どうして判るんですか」

 余りにもタイミングの良すぎる言葉に恨めしいような、恥ずかしいような。
 ご主人様は笑いながら自らの鼻を指差した。

「犬だからね。鼻が利くのよ。レイセンのフェロモンを嗅ぎ取ってね、こう、ピンときちゃう訳」

 たびたび自らを犬になぞらえているけれど、これにも何か意味があるのだろうか。
 本当に特別鼻が良いのか、それとも勘が鋭いだけなのか。
 人一倍エッチだから、こういう場の空気に慣れているのかもしれない。

 私だけじゃなくててゐとも、その。
 してるんだし。
 てゐだけじゃなくて、今日は師匠とも。
 したんだろうし。

「……元気ですよね、ご主人様って」

 向ける眼差しに段々恨みがこもって行くのが判った。

「困った事にね」

 ご主人様は悪戯っぽく笑って唇を塞いだ。

 ご主人様は私の唇、首筋、胸からお腹へとキスをしながら、太腿へ。
 ついばむように軽い口付けを繰り返した後、私の秘所へ。

「やっ、うんっ、はっ、そこ。あっ、きつく…」

 唇で触れた後は、湿った舌が秘裂に差し込まれる。
 舌の先が私のクリトリスを探り当てて、ころころと転がす。

「ふぅっ、ん!」

 舌で舐め転がされている間に、指が私の中に入れられていた。
 始めは中指一本で解されて、愛液で充分にぬめったところで人差し指が加えられる。
 その間もご主人様は丹念に舌で舐め解して、クリトリスを包皮の奥から吸い出される。

「うやぁんっ」

 腰が震えて浮かんだ。
 すっかり脱力しきってベッドに沈み込む私の目に、つんと上向きに姿を覗かせる自分のクリトリスの様子が見えた。

 身体を起こしたご主人様が口元を拭った。

「もう準備良いみたいだね」

「……ぁ。はぃ」

 軽くイッてしまった私は、夢でも見ているような心地で小さく頷いた。

 気持ち良い。
 信じられないくらい敏感になっている。
 自分で慰めるのとは、やっぱり全然違っていた。

 ご主人様は私の頬を撫で、身体を伸ばしてベッドの隅へと手を伸ばした。

「確か、ここらに予備をいくつか置いていたはずだけど」

 避妊具の事だろうか。
 布団の下に手を突っ込んでごそごそと探るご主人様の腕を掴んだ。

「あの。それなら、平気ですから」

 不思議そうな顔で見られ、私は忘れかけていた羞恥心を思い出す。

「お薬……飲みましたから」

 消え入りそうな声音で呟いた。

「あー、なるほどね。一応幾つか買っておいたけど、見つけられちゃったか」

 もし何かあった時の為に、永遠亭で覚えた薬を何種類か作って備蓄している。
 その作った薬を薬箱に収めている時、偶然見つけた。
 効果や効用は箱の裏側に説明書きがあったので、すぐにそれと判った。

 避妊用の服用薬。
 食後すぐに飲んでいたから、もう効果は発揮されていると思う。
 ご主人様は布団の下に突っ込んでいた手を戻し、私の耳元を掻いた。

「いい子だね、レイセン。
 でも、余り薬ばかりに頼ってちゃ駄目だよ。何がしか副作用があるんだからね」

「……はい。すみません」

 注意を受けてしまい、こっそり薬を持っていった罪悪感も併せて湧き上がる。

「けどまあ、そんな説教じみた事も言えないか」

 目を伏せた私に、ご主人様は鼻先にちゅっとキスをした。
 顔を上げた私の目の前に、ご主人様の苦笑いがあった。

「レイセンの中に出せるって聞かされて、それだけでもう期待が先走っちまってる」

 視線を下へ。
 ご主人様の言葉通り、股間では荒々しいほどに反り返ったペニスが。
 その先の穴からとろりと粘液が垂れているのが見えた。

 私自身、今になって気がついた。
 今までゴムの皮膜越しに感じていたご主人様の精が、直接注がれるという事。
 全身にくまなく浴びたあの迸る情熱を、私の中に直接。

「……っ」

 私が息を飲んだのは不安からか悦びからか。
 胸の鼓動はどくどくと激しく脈打っていた。



「行くよ」

「はい」

 肩を抱き締められ、私も抱き返して、そのまま私たちは繋がった。

「あっ」

 ぬるっと私の膣内に入ってくる。

「ぅっ…んっ……」

 ご主人様のペニス。

「んんっ、ふやっ」

 何も遮るものもなく、生の感触が直接伝わってくる。
 明確な肉の質感と熱さ。
 硬いけれど柔らかい、独特の感触。

 なに、これ。

「ふっ」

「あっ」

 ゆっくりと腰を沈めていたご主人様が、呼気と共に突き入れた。
 浮かび上がりそうになる腰は、ご主人様の体重を受けてしっかりと固定されている。
 深く突き入れられたところで、腰の動きが止まった。

「入ってるよ。レイセンの中に」

 耳元で囁かれるその言葉。
 私の身体は、雄弁にその事実を悟っていた。

「はぃ……」

 ご主人様のペニスが私の中に。
 脈打っている様子まで感じ取れた。

 数ミリもないゴムの膜がないだけで、これほど違って感じるなんて。

 私は半ば無意識に、自らの中に潜り込んできたペニスの感触を味わおうと腰をひねっていた。

「おあ」

 ご主人様はその動きに合わせて腰をずらす。

「待ったレイセン。俺早漏の上余裕ないんだから。腰を使われたりしたら何もしない内に出ちゃうっての」

 むず痒いのを我慢するように眉を歪めて苦笑い。
 私はその様子をぼんやりと眺めて、くいっと腰をねじった。

「うおっ」

 くいっ。

「ちょ、ちょい待ち」

 くいっ。

「レイセン、たんまたんま」

 ――くいっ。

「遊んでんじゃない――うがっ」

 腰を動かすたびに、ご主人様も慌てて身体の位置をずらす。
 膣内でひくひくと脈打って震えているペニスの様子が手に取るように判る。
 ご主人様は今まで聞いた事のないような声を上げて、身体をよじって悶えていた。

 ……これって、なんだか。

 ご主人様を手玉に取っているようだ。

「レイセン……ほんとにイきそうなんだから。頼むから勘弁してよ」

 遠駆けでもしたようにベッドに両手を着いて、すっかり余裕を無くした表情でご主人様は眉根を寄せた。

「さっきの仕返しです」

 そんなご主人様の様子を目の当たりにし、一定の満足感を得て笑った。

「……悪い顔してるよ、レイセン」

「ご主人様ほどじゃないです」
 
「言うようになったね」

「すみません」

 くいっ。

「くあっ」

「ふふ。可愛い声ですね」

「訂正。それはいい女の顔だ」

「……むう。じゃあ今まではなんだったんですか?」

 少し意地悪をするつもりでぐるりと円を描く。
 ご主人様は肩を震わせながらも私の動きに耐えた。

「今までは可愛い女の子だったの」

「え――あっ」

 私の予想とは違った答えと共に、おもむろにご主人様が動き出した。
 私の頭を抱きかかえて、いきなりスパートを掛けるように激しい腰使い。
 熱いペニスが私の膣内を掻き混ぜて、膣壁の固くしこりになっている部分を擦られる。

「あっ、ちょっと、ご主人さまっ。ふぁっ、そこ。私、弱くてっ」

「今まで気持ち良くはなっても、気持ち良くさせることには無頓着な――というか、そういう真似の一つも出来なかったレイセンが、男の誘い方なんて覚えちゃって」

「あっ、駄目。そこ、擦らないで。あんっ、擦られて、ると、私っ。が、我慢出来なっ」

 射精を我慢をする腰使いじゃない。
 日がなご主人様と交わり続けていたから判る。
 私の弱い部分を狙って小刻みのピストンを繰り返す。
 私が保っていた余裕はあっという間にそぎ落とされて、もう意志とは無関係に腰がくねっていた。

「やっ。ふっ、ひっ。ごしゅ、じんさま、んゃっ、ちょっと、待っ」

 散り散りに乱れる声ごと唇を吸われた。
 顔を広い手に包まれて、貪られるような熱烈なキス。
 じゅうじゅうと音を立てて濡れた唇を吸われる内に、私も夢中で吸い返していた。

 あっという間に頭の芯が蕩けてしまい、目の前の身体にしがみついていた。

「レイセッ――」

 ご主人様が言葉の途中で歯を噛み締める音を聞いた。
 唇が離れ、代わりに額が押し当てられる。
 身体がベッドに沈む。

「はあああっ」

 どくんと、私の下腹の奥で何かが弾けた。

「はうっ、ああっ、ふぅああっ」

 言葉にもならず私は嬌声を上げていた。
 何度も温かいものが私の中で弾けている。
 それがなんなのかを考える余裕もなく――考えるまでもなく――私はお腹の奥に届けられる熱さに酔っていた。

 ご主人様の腰が痙攣している。
 ペニスにもその震えが伝わって、私の膣内で身震いしている。
 勢い良く堰を切って弾けたその熱は、ゆるゆると余韻を残して今も私の中で広がっている。

 絶頂の際に訪れる緊張と、その後にやってくる脱力。
 視線が定まらず、私は息を切らして陶酔感にたゆたっていた。

 ……あ。
 私。

 焦点がずれて霧がかった視線の向こうに、白い灯りが見えた。
 視界の端に引っかかった黒いものは、ご主人様の髪。
 先ほどまで激しく私を貫いていたのが嘘のように、ぐったりとしたご主人様がはぁはぁと息を切らしていた。

 繋がった場所から今も感じる、熱と快楽の余韻。

 中で、出されちゃった。

 初めて感じた生の感触。
 ご主人様の精液を体内に受け止める、本当の意味での男女の営み。 

「……ふーぅ。素敵になっちゃったって事」

 ご主人様は後を引く長い吐息を吐き出して、それをきっかけに力の抜けていた身体が私から離れる。
 離れる前に、私はぎゅっとしがみついていた。

 恥も外聞も捨てて腰に脚を絡め、首根っこに齧りつく。
 目の前にある体温とのしかかる体重を無くしてしまいたくなかった。

「レイセン? ……少し、荒っぽかったか?」

 戸惑ったような声音に、私はかぶりを振って抱き寄せた。

「ああ、うん。やっぱりあれだったか。避妊薬を飲んでるからって、中出しなんてね。やっぱり嫌だった?
 だよね。避妊なんて言っても100パー完全って訳じゃないんだし。もしもの事も考えたら」

「っ。っ!」

 違う。
 そうじゃない。
 そうじゃなくて。

 上手く言葉が出てこない。 
 私を突き動かすこの衝動。
 目の前の人を抱き締めたくて仕方がない、この強い感情を伝えるには――
 
 ああ、そうだ。
 簡単な言葉がある。

「すき」

 あの時も口にした言葉。

「すき……すき。好きっ。好きなんです。私、貴方の事が好きなんです……!」

 頭の中がその言葉でいっぱいになった。

 手放したくないと思った。
 もっと感じていたかった。
 理屈とか立場とか色々なものがなくなって、目の前にある温もりと確かな体重が、ただ惜しくて堪らなかった。

「大好き。大好きなの……!」

 しがみついて叫ぶ私に、ご主人様は言葉を失ったように無言だった。

 傷つく事が怖かったから、傷つけられない事を望んでいた。
 けれどそれだと――ただ優しく扱われるだけでは――愛されているという実感もない。
 それが急に不安になっていた。

 ひょっとしたら、手放したが最後もう手に入らないものなのかもしれないと、突然不安になって。

 やがてご主人様は身体を沈めて、再び私に体重を預けてきた。
 重苦しいほどの加重が、今の私には心地良かった。

 大好きな人の体重。
 私を気遣って優しくされているだけよりも、ずっとご主人様を感じる事が出来た。

「そう。うん。判ったよ」

 判った?
 判って、貰えた?

 私の不安が。
 それにも勝る、この好きという感情が。
 本当に伝わったのだろうか。

「俺もレイセンが大好きだよ」

 伝わってる。
 伝わるに決まってる。
 だってこれほど間近で。
 ぴったりと肌を寄せ合って。
 何より今も繋がったまま。

 嬉しかった。

「いっぱいセックスをしよう」

「――はい」

 髪を撫でられる。
 普段は髪が乱れるから余り好きじゃなかったのに、今はそれがただ嬉しくて堪らない。

「レイセンの不安がなくなるくらい、沢山セックスをしよう」

 ご主人様がゆっくりと動き始める。

「はい――はいっ」

 私の中に溢れた精液がゆるゆると掻き混ぜられる。

「レイセンの子宮が俺の精液でいっぱいになるまで。溢れてきても続けるよ」

「ほ、ほんとですか?」

 不安はない。
 あるのは期待と先ほど受け止めた熱感への渇望。
 それが満たされるという悦び。

「勿論。俺が出してる所を、レイセンにも見せてあげるよ」

 ぐいと腿を持ち上げられ、体勢が変わる。
 ご主人様は膝を曲げて立つ格好で、私は繋がったまま逆さまに下半身を高く上げられる。
 足首を掴まれて、まるで犯される格好。

 違う。
 私は犯されている。
 荒々しく犯されるセックスをするの。

 私の予感通り、ご主人様の腰の動きは見る間に激しさを伴い、上から突き下ろされる。
 愛液と精液を絡ませたペニスが、私の秘裂を抉っている様子を露骨なくらいに見せつけられた。

「ご主人様、いっぱい、感じて。私で、感じて?」

「感じてる。レイセンの中凄い気持ちいいよ。きゅうきゅう締め付けてちゅうちゅう吸われて、ぬるぬるにぬめってる」

 私がご主人様を感じているように、ご主人様も私で感じている。
 安堵を覚えた所で、広げられていた脚を閉じられた。

 今までスムーズに私の膣内を擦っていたペニスが、急に膨らんだようにみっちりと詰まる。

「あっ、やん。私の、おなかっ、あふっ、ご主人様で、いっぱい」

 私の閉じた両脚を胸に抱き締めて、ご主人様の腰の動きが活発になっていく。
 小刻みのピストンに、脚を上下させる事で挿入する角度も変えられる。
 もうすぐイきそうなんだと判った。 

「欲しい、沢山、ご主人さま、奥までっ、あっ。欲しいですっ……!」

「今、あげっ」

 ご主人様の体が前のめりにぐっと倒れこむ。
 ペニスが奥まで潜り込んで深々と挿入される。

「あっ、あっ、あ――」

 出てる。
 熱いのが。
 私の中で精子が弾けて奥まで届いてる。

 心地良い充足感に満たされて、私は絶頂した。



 二度目の射精から、何度も飽きずに交わった。

「レイセン、後ろ向いて。お尻を上げて」

「はぃ」

 言われるがままにうつぶせにお尻を上げて、交尾をする獣のように繋がった。

「やっ、ぁ! このかっこ、さっきより凄くてっ、あっ、あっ、あっ!」

 乱れる私の腰を抱いて、ご主人様はびゅくびゅくと射精した。

 私はシーツを掴みながら、叩き付けられる腰と精液を受け止めた。

 激しいセックスをすれば、穏やかなセックスもした。

 座ったご主人様の上に私が座り、正面から向かい合ったまま繋がった。

「んっ、はむ。んちゃ。これ、すきぃ、この格好、すきぃ。ご主人さま、んっ、ん。近くしてぇ」

 抱き合ったまま何度も何度もキスをした。
 激しい動きで疲れたご主人様に代わって、私が腰を使ってご主人様を気持ち良くした。

 ご主人様にも気持ち良くなって欲しかった。

「レイセン、ん。上手いよ」

「はあ、あああっ」

 褒められたのが嬉しくて、私は全身を震わせながらご主人様のペニスを搾った。
 どれだけ満たされても、満ち切る事はなかった。
 貪欲に求める私に、私以上に貪欲なご主人様がさまざまな形で応えてくれた。

 幾度も大量に注ぎ込まれ続け、ベッドに倒れこんだ私の膣からどろりと精液が溢れ出す程だった。

「やぁ……こぼれちゃう。ご主人様の、こぼれて出ちゃう」

「こうすればこぼれない。平気だよ」

 秘所を押さえていやいやする私に、ご主人様はペニスで蓋をした。

 これならこぼれない。
 挿入の時に少し溢れてしまったけれど、溢れた分また私の中に注ぎ込んでもらえる。

 ご主人様を抱き締めて、抱き締め返してもらえる事が嬉しかった。

「朝まで繋がっていようか」

「ん。んー、んっ」

 私は頷いて、キスをねだった。 
 唇を重ねたまま、抱き合ったまままどろむ。
 眠りに落ちる前に、ご主人様が私の中で射精するのを感じた。

 温かい。

 疲労感とぬくもりに包まれて、私は眠りに落ちていく。
コメント




1.名前が無い程度の能力削除
別人みたいだね
2.紅魔の雑用削除
いくらなんでもはやすぎだろう……
やっぱりうどんちゃんかわいいよ
3.名前が無い程度の能力削除
えーりんかわいい
4.名前が無い程度の能力削除
反発刻印が付いて、堕とされ、傷物になった今の永琳の心境を考えると何だか切ない……そしてエロい
うどんげは赤さんから名前のこと以外はほとんど情報を聞き出せないっぽいですねw
てゐちゃんは永琳から情報を引き出せるかどうか期待
5.名前が無い程度の能力削除
すごい投稿ペースで楽しませていただいています。
人格が逐次書き換わる・・・?
6.名前が無い程度の能力削除
夢オチw
udonの最初もそうだったけど
こういうプレイ大好きだ

そして薬の材料にされるとかw
おお怖い怖い