真・東方夜伽話

ねこたん

2009/07/24 13:57:51
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ねこたん

金鳥

 妹紅の日記  ○月◎日~●月×日より抜粋
 慧音の記録  ○月◎日~●月×日より抜粋

 平和。あたまちょっとおかしい。泰平。
◎妹紅が猫になっています。
◎ふたなりです。血もあるので、苦手な方は注意してください。
 慧音が変態。



○月◎日 
 永琳に変な薬を飲まされた。飲んだらはんぶん猫になった。耳と尻尾が生えた。魚がとてもおいしい。知能がすこし低下した。誰にも見られたくないから、慧音にかくまってもらうことにした。

 私にそんな趣味があろうとは……
 丸まって昼寝をしている猫妹紅を一目見て、心臓が止まりそうになった。あのまま止まって死んでしまえば、これ以上幸せな死に方はなかったかもしれない。……ともかく、顛末をまとめる。
 やはりいつもどおり本を読んで仕事をしていた。昼間をすぎて暑くなってきた頃、一休みしようとして書斎を出たら、庭に面した廂で妹紅が寝ていた。ずいぶん丸くなっている、と思って見たら、柔らかそうな耳が頭についているのだ。犬猫のようにしっかり二つ。
 それを確認したとたん私はお陀仏しそうになったのである。とにかく可愛い……しかし何の為に耳をつけているのかわからなかった。特別な理由があってか、私を驚かせようとしてか。いずれかしか、妹紅がそんな事をしそうな理由はない。あるいは、寝ている間に誰かが悪戯してつけていったのか。しかしそれ以前に、どうしてここで寝ているのだろうか。
 私としては、部屋だろうが廂だろうが、妹紅ならばどこで寝てくれたって構わないのだ。が、あまり嬉しい事が起こると、かえって疑ってしまうのが人情だ。ともかく、そういうわけで私は嬉しくて舞い上がりそうになったのだった。足音でも立てて起こしてしまわないよう、そっと近づかなければ。ただ微笑んで通り過ぎるような事は、普段ならばそうしたであろうが、耳がついているなら不可能である。
 白い耳が見えただけだから、この時には犬か猫かは当然わからなかった。あとで調べて知ったから、今は猫妹紅と書いている。細心の注意を払って近づく。妹紅は気持ち良さそうに浅い息をし、足から背中までくるりと丸まって、顔だけはかすかに空を向いて日ざしを浴びている。長い、白い睫がきらきらと光っている。ここで私の心臓が裂けてもおかしくはなかったのだが、裂けてしまってはこの先が……気持ちを落ち着かせ、その場に膝をついた。
 妹紅の手……触れると、握りかえされた。気づかれたかと一瞬驚いたが、まだ眠り続け、どうやら夢を見ているようだ。どんな夢を……誰を見ているのだろう?閉じた目を覗き込んでも、知りたい心はわからない。そう思って、これが一片の心理を含んでいる事に気づいて悲しくなったのは……まぁいい。
 手に触れてから気づいたのだが、妹紅の体が一回り、いや二回りほども小さくなっているのだ。手のひらも小さく、可愛らしい童子の手を包み込んでいるみたいだ。一体、耳をつけ、体が小さくなり、妹紅はどうしてしまったのだろう。頭がクラクラしてくる。(別に悪い衝動なんぞがあったわけではない)
 やがて、そうして見つめているうちに妹紅はゆっくりと目を見開いた。

「ぅー……」

 喉を鳴らすような甘い、甘い声。胸が熱くなった。額を撫でてやりたい。耳にさわりたい。しかし、急にそんな事をしたら嫌われてしまう。だから必死で我慢した。

「けーね」
「どうした?」

 気持ち良く昼寝をして、寝る前の事を忘れてしまったというような、間の抜けたな可愛らしい顔。普段の妹紅は、こんな顔をする事は決してないだろう……あまり可愛らしすぎて、私の頭まで働かなくなる。私も、きっと妹紅も、幸せに浸りきって、しばらく口も利けずに見詰め合っていた。が、突然妹紅は意識を取り戻したように、目の色を変えた。

「慧音!助けて!」
「どうしたんだ……助けてほしいって。ここで寝てたじゃないか」

 うぅ、と唸って下を向いた。なんて愛らしいんだろう。言葉で、妹紅のやわらかい心を突いてしまったようだが、罪悪感よりもいとしさがこみ上げる。しかし、助けてほしいならば鬼からでも閻魔からでも守ってやりたい。

「何かあったのか?」
「……耳、あるでしょ」

 下を向いたまま、耳を見やすいように見せてくれる。日の下でちらちらと光るくらい、細かくてツヤのある短い毛につつまれた、薄い耳だ。内側も白いが、ほんのりと赤い。
 ふらふらと触りにいきそうになった手に気づき、あわてて後ろに隠した。しかし、可愛い……

「永琳に……」
「うん?」
「ヘンな薬飲まされたら、こうなった」

 なるほど。理解した。いや、本当は到底理解できる事はあるまい。飲んで動物になる薬など、作れるという事をまず疑わねばならない。まぁあの人物ならば作れても仕方がない。次に、そんなものを作って、妹紅に飲ませた事を……感謝したいような気もするが。ありがたいような、ありがたく思ってはいけないような。そんな葛藤を内心で戦わせながら、妹紅に返事をしようとしたら、おかしな事を言ってしまった。

「猫なのか、犬なのか?」

 なぜそんな薬を、と言わなければならない場面だ。しかし私の本心は、今のところは猫か犬かという問題が最も大切なのであった。それがつい露呈してしまったのである。

「どっちだろ?どっちに見える?」

 猫か犬かを確かめる方法は、普通なら見た目ですぐにわかるから考えた事もなかった。しかし今の場合、妹紅は耳があるだけで、犬とも猫とも見える。

「尻尾はあるのか?」
「う……あるけど、見られたくないよ」

 それもそうだろう……すぐに潤んでしまう目と、顔にのぼった血が透けるくらい白い肌、そして赤い頬、その恥じらいの為に私は死んでしまいそうだ。

「猫のほうが尻尾は長そうだけどな……じゃあ、妹紅」
「んぅ?」
「魚か、骨か、どっちがほしい?」
「んー。どっちも……ほしくないなぁ」

 言葉ではいけないか。では実物を見せよう。……骨は家にないけれど。
 肉と魚を用意する。皿に載せ、妹紅の前に置く。

「どっちか、ほしくならないか」
「魚!ほしい!」

 と、耳を立てて、両手を……両方の前足を伸ばそうとする。その前足をすかさず握り、落ち着かせる。

「じゃあ妹紅は猫だな。待ちなさい、刺身にして来るから」
「うん」

 物ほしそうな視線を背中に感じる。すぐにも振り返って抱き締×××。が、妹紅が欲しがっているのは魚なのだから、早くさばいてやらないと。

「醤油は?」
「いらにゃい」

 ぺろんと食べてしまった。
 ここで、聞くべき事を聞いておかないと。

「どうしてそんな薬を飲まされた?」
「輝夜に殺されてぇ。気づいたらベッドに縛られてて、無理矢理飲まされた」

 ……なんだと。
 また妹紅が輝夜と殺し合いをしたというのは、切りつけられたように心に刺さった。しかし、妹紅は今こうして私を頼って来たのだ。妹紅を安心させるのを一番に優先しよう。元に戻る方法などは、ともかく……

「そうか。でもきっと戻れるから、安心しなさい」
「うん。それでね、慧音以外には見られたくないから……」

 私以外!羽でも生えて飛び上がってしまいそうなくらい、この言葉は嬉しかった。
 こんなに可愛い妹紅を独り占めするのだ。人生の幸せを全てこの時のために使い果たしてしまったとしても、良い。このために生きてきてよかったと断言してもいい。

「かくまってほしいの。すこしだけ」

 もちろん。いつまででもいなさい。ずっと私が守ってやる。
 本当の気持ちを隠して、ただ微笑んで頷く。ポーカー・フェイスは得意中の得意だ。そのぶん、内心はずいぶん燃え上がってしまっているが。
 猫妹紅との生活が始まる。明日も、明後日も、明々後日も楽しみだ。妹紅がいるから。こんな気持ちは、妹紅がいなければ決して知る事は無かったろう。どんな些細な事も、悲しい感傷さえも、一緒にいて感じられて、幸せなのだ。甘く、甘く、甘く、溶けて、混ざり合って、果ては気化してしまう。一緒にそうなれるなら。

「なぁ妹紅、日記をつけてみないか」
「日記?どうして?」

 大事の為に取っておいた、真っ白な高級紙を取り出し、墨をする。

「人でなくなった期間は、妹紅は嫌かもしれないが、貴重だろう?だからいろいろと記録してみるのもいいかもしれない」
「そうかなぁ?じゃあ、書く」

 筆を取らせ、妹紅が書くのを見る。やわらかい背中を丸めて、紙とにらめっこをするような姿勢になっている。
 書き終える、紙を棚へ大切にしまう。
 二枚、三枚とそれが重なっていくのを、私は今、何よりも願う。あぁ夜が楽しみだ。今晩は風呂を沸かそう。



○月・日 
 留守番をした。慧音の本をよんでいた。ひゃっかじてんの猫のところをみた。でも、爪のとぎかたがわからない。慧音がアジサイをもってきた。アジサイについてきたかたつむりを外にもどしてあげた。一番星を見つける競争をした。私がかった。楽しかった。

 朝、目覚めた時から、大切な人がすぐ傍にいると安心する、これほどの幸せは金で買えるならばどれほどの金を積んででも買うべきだ。いや、金では到底買えるものではない……金と欲が全てを支配するような時代でも、平和が当たり前な時代でも、いつの世にも決して汚れに染まない、全ての人に共通するこの幸せが、どれほど価値あるものかという事は自明である。本当は隣にいてほしいけれど、それはもっと先だ……
 そっと隣室をうかがうと、妹紅はまだ眠っていた。布団をかぶらずに、布団の上に丸くなっている。顔はやはりやや上を向いている。そのかたちが愛くるしくてたまらない。幸せそうな寝顔を見ているだけで、幸福を分け与えてくれているような気がする。事実、胸がだんだん温かくなってくる。しかしこれ以上見つめているのは危険だった。熱くなりすぎると、とんだことをしてしまうかもしれない。
 雨が降っていた。こういう日には、家で妹紅とずっと一緒にいたい。だが寺子屋がある。鞄に紙や文具を入れて準備をし、朝食を作りにかかる。猫妹紅は魚のほかに、何が好きだろうか。とりあえず、猫というから好きだろうと思われる牛乳や、干魚なんかを並べる。米も炊く。妹紅はまだ起きてこない。夕べは遅かったわけではないが、ぐっすり眠っているようだ。
 猫になって変わったところは、食べ物の好みの変化はもうわかっているが、著しいのは、言葉遣いも性格も、子供っぽくなった事だ。あるいは、妹紅の素の性質を隠し、守っていた外壁である、冷静さや洗練されたプライドがなくなった、と言ったほうが私の感覚に合う。無防備になったのである。昨日一日はそんな事を考えていた。
 私以外には誰にも、こういう妹紅を見せたくない。妹紅自身が、誰にも、もちろん私にも見せない為に外壁を作り上げていたのだ。それを今は失っている事を、妹紅は自覚してはいないだろう。素の妹紅に戻っているのだから、気にしないのも当然だろうけれど。
 私はこの妹紅を守らねばならない。妹紅の為、いずれ猫でなくなる妹紅の為。
 などと考えていたら魚が焦げてしまった。慌てて火を消す。
 妹紅が駆けてきた。

「お魚?焼いてるの?」

 匂いにおびきよせられたか。何と可愛いのだ。抱きしめて、一口ずつ魚を頬張らせてやりたい。やや寝癖がついてふわふわしている髪も、寝起きで上気した、赤くてあたたかそうな頬も、なにもかもすばらしい。服装について言えば、真っ赤な浴衣を白の細い帯で締めて、その帯もゆるくなっているのだが、襟の合わせ目がほんのすこし垂れて……いかん、目のやり場がない。だから顔を見つめる。魚が食べたい、きっと食べられるだろう、という希望で輝いている表情だ。そんな顔を見ていると、少しいじめたくなってしまう。

「食べたいのか?」
「食べたい!」
「魚は昨日も食べたじゃないか……どうしようか」

 耳を垂れて俯いてしまう。しかし上目遣いで私を見つめ続けるのだ。もっといじめてやりたいが、私にはこれ以上はできない。妹紅の目から涙が零れ落ちそうで、そうなれば私は絶対に落ち着いてはいられなくなるから。焦げて炭になってしまった頭と尻尾を切って、皿にのせる。

「手を洗って来なさい。それから食べよう」

 とたんに溌剌とした笑顔になり、飛び跳ねるように水場へ走っていった。その可愛らしさ、太陽のように眩しく私の目を刺す。妹紅はまさに私の太陽だ。抱いて、焼け死んでしまってもいい。
 妹紅が箸を不器用に使って魚を食べるところなど、窒息とか悶絶とかそれどころではなかった。自慢のポーカー・フェイスも危うく崩れてしまいそうだった。子供みたいに、頬や口元をよごしたら、すかさず拭ってやる準備はしていたものの、案外きれいに食べてしまったから、その機会がなかったのだけは惜しい。しかしいずれ、そうしてやれる時があるだろう。

「よりみちしないで、はやく帰ってきてね」

 家を出る時、そう言って見送ってくれた。妹紅の甘える声は、とにかく可愛いけれど、その内にほんのすこし色気がまざっているように感じられる。わざとしているのだろうか?表情は、純真無垢で、寂しそうにしている……より道などする筈がない。妹紅の為に、すぐに帰る。
 帰りが楽しみで仕方ない。お土産を持って帰ろうか。何にしようか。それにしても今朝の妹紅は可愛かった……そんな事しか考えられない。道もまともに目に入らない。妹紅の顔が目に浮かぶのだ。それでも、曲がるべきところは曲がるし、水溜りは飛び越える。慣習とはおそろしいものだ。いつも歩き慣れているとはいえ、よくまぁ増水した川にも、滑りやすい土手にも落ちなかったものだ。手に持った傘から落ちる雨の雫には妹紅の顔、水溜りには妹紅の姿の幻影が映った……
 寺子屋の事は書かない。近くに咲いていたアジサイの花をいくつか折って持ち帰った。青いアジサイだ。

「おかえり!」

 眩暈がしそうだ……その言葉をどれほど待ちわびたか。このまま倒れて、妹紅に介抱してもらいたい。妹紅が驚いて私の顔を覗き込んだところで、急に抱きしめてそのまま離さず横になっていたい。白い耳を優しく噛みたい。
 いやいけない。私が帰って嬉しそうにしているが、一人でいた間は寂しかったろう。飛び跳ねそうになって喜んでいるその様子から、寂しさから解消されたという快感が見て取れた。妹紅が、私がいないで寂しがっていた。それだけで気絶しそうだ。しかし気絶したら、せっかく喜んでいるのに一緒にいてやれない。しっかりしなければ。

「お土産だよ。きれいだろう」

 アジサイを持たせる。アジサイの花は、猫妹紅の小さい顔よりも大きかった。花を持つためにやや背中を逸らせているのも、最高だ。こんなに幸せな帰宅は初めてだ。

「あっ。かたつむり。慧音、見て」

 示されて花の裏を見ると、小さい殻の小さいかたつむりが、遠慮しているみたいに、花の中から顔を出していた。

「外の花の上に連れていってあげようよ」
「そうだな。……このあたりより、池の近くのほうなら、エサが豊富で良いだろう」

 かたつむりのついたアジサイを抜き出す。

「一緒に行くか?」
「行きたい!あ、でも……」

 恥ずかしそうに目をそらす。可愛くて、つい一瞬自己抑制が効かなくなってしまった。
垂れそうになる耳に触れて、なぞりあげる。

「見られたくないんだな」耳を、である。
「うん」
 
 妹紅は耳を触られて、くすぐったそうに体を震わせながら答える。か細い声は、その弱々しさのわりに、私の心に深く入って、気を狂わされてしまいそうだ。耳から指を離せない。これは、まいった。

「じゃあこうすればいい」

 いつもは頭の上にあり、今は後ろの髪をたばねているリボンをほどく。いつものように頭の上に結んで、耳を覆った。

「これでいい。見えないよ」
「ほんとう?じゃあ、大丈夫かな」

 と言って、鏡を見に行かないのは、私を信用してくれているのだろうか。そうならば、嬉しい……
 ところで、尻尾は、昨日は確認できなかったのである。仕方ない。妹紅がどうしても見られたがらないのだから。強制はしたくない。だから我慢するが……この我慢も、じきに切れてしまうだろうか。そうならないよう、注意しなければ。妹紅をできるかぎり傷つけずにいたいのだ。
 雨は止み、霧の濃い夕方、薄曇りの空の下を二人で歩く。かたつむりをいたわって慎重にアジサイを運ぶ妹紅より、二歩ほど遅れて私は歩いた。小さい後姿が可愛い。見ていると、いとしくて心がつぶれそうになる事もあった。そうして切なくなるたびに、妹紅は振り返って、歩みをはずませながら笑顔を見せてくれるのだ。まさか心を読まれているのではあるまいけれど、あまり時機が合いすぎるから、かえって一層いとしく、切なくなるのだった。
 目当ての池を目前にして、妹紅は立ち止まった。あちこちにアジサイが咲いて、どこにかたつむりを置いてやろうか、迷っているようだった。霧のためやや湿った冷たい肩に手を置くと、妹紅は驚いたらしく、私の顔を見上げると、安心しきった甘い笑顔になる。抱きしめたくなる……妹紅の笑顔には愛情があふれている。喜びも、悲しみも、焦りも全て顔に出してしまう素の妹紅、その笑顔を信じて喜ばないのは、罪である。私にしか見せない笑顔、これを愛さずに、他にどうするというのだ?

「そこにアジサイと一緒に乗せてあげなさい。一番きれいじゃないか?」

 色の薄いアジサイを指差す。
 妹紅は花をアジサイの上に乗せ、私を振り返った。

「これで、かたつむり寂しくないね」

 純真な……玉のような言葉だ。妹紅の何気ないこの言葉、しかし私はその純真さに揺さぶられる。守りたい。決して妹紅の心を悲しませたくない。そう思った……妹紅と一緒に居て、私もすこし感傷的になっているようだ。
 帰り道に霧は晴れた。雨雲も流れつくして、日没後の群青色の空が現れる。星はまだ見えない。

「妹紅。一番星を私より先に見つけたら、今晩も魚を食べさせてあげる」
「ほんとう?がんばって見つけるよ!」

 首が折れてしまいそうなくらい頭を倒して、空を見る。そのまま歩いて、くるりと回ったりするから、危なっかしい。無意識に手をつないでいた。

「星、いないかなぁ」

 首が痛くなったのだろう。今度は頭を前に倒して、斜めや横に引っ張り、ゲンコツで首筋をたたく。幼い姿に似合わないそういう仕草がおもしろく、微笑ましい。笑ったところを隠すつもりで顔を背けると、遠くの空に光る一つの星が目に入った。
 それが一番星であった。妹紅は逆のほうを見ていて、まだ気づかない。私は見なかったふりをした。
 やがて妹紅はその一番星を見つけた。

「あったよ!」
「え、どこだ?」
「あっちだよ。あの木の上のところ」
「本当だ……負けてしまったな」

 手を繋いだ私の腕を、時計の振り子みたいに左右に振って、魚、魚と歌う妹紅。負けてよかった。本当によかった。こんなに幸せな負けがこの世にはあるのだ。すばらしい発見、これは誰にも教えないで、私だけの宝にしよう。
 朝は焼き魚、昼は作り置いた魚、夜も魚。妹紅は三食魚だった事になる。魚をよく食べ、米はさほど食べない。が、猫であるから体調に悪影響は無かろう。そういえば、牛乳も喜んで飲んでいた。
 心にあふれる幸せは、言葉にはできない。ただ今日、妹紅と過した記録を書き留めるしかできない。それでも少しは気持ちを落ち着ける為、役に立つ。紙に書いて気持ちをセーブしないと、きっと我慢ができなくなる。
 まてよ。私が勝ってしまって、それでも魚は食べさせるとして妹紅をどうかこうか……一緒に寝る口実なんてないだろうか。あぁ惜しい事を……



○月・・日  
 慧音が踏み台をつくってくれた。高いところの本をたくさん取ってきた。きのぼりのれんしゅうをした。爪がかゆい。木のかわがはげてしまった。慧音におこられそうだから、絵のぐでちゃいろくぬった。ばれないか心配。慧音がなんども出かけてさびしい。でもお魚を買ってきてくれた。はやくたべたい。

 妹紅……私はお前の虜だ。お前がいなくなったら、私はもうなにも出来なくなってしまうだろう。一体、どうしたらよいのだ。以前からずっと想っていたお前が今はすぐ目の前に居り、いとおしくてたまらないのに、お前をどうともする事が出来ず、一層恋しく思うのだ。お前がせめて私の気持ちのほんの一部でも読み取って、振り向いてくれるなら……
 本棚の上から一、二、三段目までどうしても手の届かない猫妹紅の為、今日は朝から庭に出て素人大工をした。ちょうど道向かいにある、誰かの家の建築が行われており、そこで出た余分なもののうちからまだ使える木材をもらって来た。そうして踏み台を作り、触れる指先が滑るほどまで磨いて見せると、妹紅は喜んで、台を抱えて本棚部屋へ駆けて行った。本棚ばかり、ほとんど隙間もなしに並んだ部屋だから、本棚部屋と呼んでいるのである。
 妹紅の体が元よりずっと小さくなった事はすでに書いた。私の肩に、やっと頭の天辺がくるくらいなのだ。寺子屋の幼い生徒たちと変わらない。妹紅の服も、私が持ち合わせていた服も、袖があまり肩はずり落ち、裾を引きずってしまう。昨日までの二日間は裾を折って過ごしたが、リボンで耳を隠せるようになると、昼間にも庭まで出るようになった妹紅にずっとそうさせているのは良くない。裾など折っていてもすぐに開いて、地面で汚してしまう。
 私は裁縫ができない。妹紅の着物を三枚持って里に出、裁縫教室をしている、知り合いの、人間の女に仕事を頼んだ。
 すぐに終わると言うから、周辺をうろついて時間をつぶした。時折青空がほの見えるが、おおかた曇って蒸し暑い天気だった。氷売りは繁盛しているようだ。私はふらりと魚屋に寄り、妹紅の好きそうな魚を探した。妹紅は白身魚が好きだ。特に、油のあまりないさばさばした魚が。しかしそんな魚は見つけられなかったから、またふらっと出て裁縫教室に戻った。
 服は出来上がっていた。礼を言って家に帰ると、妹紅が庭に出ていた。向かいの工事現場を見ている。今は大工は休憩し、数人が地面にごろ寝していた。そのうちの若い一人が妹紅を見た。妹紅はそちらを見てはいなかったような振りをして、庭の植え込みの葉っぱをちぎっては散らし、ちぎっては散らし、そのうち家に引っ込んだ。突っ立って見ていた私には気づかない。若い大工はまだ妹紅がいたほうを見ている。その目が、ただ誰かがいたところを眺めているという目には見えなかった。妹紅の様子もどうもおかしい。妹紅は廂のあたりと部屋を行き来して、やはり瓦礫か、大工のほうが気になっているようだった。
 普段の妹紅なら、気にする事もない。妹紅が大工に興味を持つのはありえないから。しかし、今の子供らしい、素の妹紅は、もしかしたら大工が気にかかっているのではないか。そう考えてしまった。この時の自分の気持ちは、あとで考えたらとてもばかばかしいものだけれど、朝から妹紅の事で物思いばかりしていた後だから、こんな変な考えをしてしまってもおかしくはなかったかもしれない。
 しかし本当は、妹紅を人に見られた、という事が気にいらなかったのだ。軽い嫉妬もあったろう。仕事をしていた大工がたまたま妹紅を目にしたとしても、だ。それほど私の心は妹紅に惑わされていた。

「慧音!早かったね!」

 戸を押す音を聞きつけて、走ってきて目の前で止まる。満面の笑みで、本当に嬉しそうに迎えてくれるのだ。これを抱きしめられない私はどうかしている。妹紅は嫌がりはしないだろう。しかし手を出せない。今朝からそれを悩んでいたのだ。何故、気持ちを内側に隠すばかりで、妹紅に伝えられないのか……
 暑さをすこしでも凌ぐため、白い着物を着、二本目のリボンで髪をかきあげて、束ねた髪が揺れるごとに見えるえりあしが悩ましい。一瞬目をかすめただけでどぎまぎした。悩ましい、悩ましい……立ちくらみして、壁に手をついてしまった。

「どうしたの?大丈夫?」

 妹紅が私に触れる。頼むから触れてくれるな……自制が利かなくなってしまう。顔に血が上る。
 小さい肩を抱き寄せそうになる。無理にとどめて、辛うじて肩に手を置いただけで済んだ。それでも、手が熱くて、その熱が妹紅に知られてしまいそうで怖かった。

「ちょっと日に当たりすぎた。服はできたから、着替えて来なさい」

 着物を渡すと、嬉しそうに部屋へ行った。見送ってから、私は奥の自分の部屋で横になった。頭が未だににクラクラする。妹紅、妹紅、妹紅、妹紅ばかり頭の中にこみ入っていて、頭脳を徐々に侵食されていく錯覚さえした。妹紅、いい名前だ。愛くるしい字だ。そう、私は妹紅を愛しているのだ。妹紅、妹紅、妹紅……
 妹紅が来た。生地の薄い、風をよく通しそうなのを着ている。体の大きさによく合っている。妹紅は可愛い。とてもとても可愛いから、私はどうかしてしまったのだ。妹紅よ、どうしてくれる。こんなに苦しむ事になった責任をお前に押し付けられるなら……

「ここ、涼しい」

 日は当たらず、風だけ吹いてくる部屋である。私の隣に妹紅は寝転がった。仰向けになって目を閉じる。
 これは、あれか。あれって何だ。何をすればいいのだ。
 もうどうにでもなれ。捨て鉢とかヤケなどではない、もう耐えられなくなったのか、どうしても触れたくなったのかのどちらかだ。気がついたら妹紅の二の腕に触れていた。それでもう小難しい考えは吹っ飛んでしまった。
 薄い着物は肌触りがよく、掴もうとすると、妹紅の肌の上を滑った。

「にゃぅ、くすぐったい」

 妹紅は腹をよじる。可愛いすぎる。私を殺そうというのか?殺されてもかまわない。妹紅の為に死んでやる。肩まで撫で上げると、いよいよよじれてごろんと転がった。腕を下にして隠す。負けじと腹を撫でてやる。
 のたうって笑い出した。まさに猫そっくりに手足を折り曲げ、仰向けになって首を伸ばす。もっと撫でてほしいらしい。腹に触れながら、私は肩肘ついて妹紅の顔を見下ろした。
 目が合うと、赤らんだ顔を私から隠そうとする。

「さっき、工事してる所を見ていたな」
「うん。慧音、いたの?」
「ああ……何を見ていたんだ?」

 気になっていた事を聞く。もし、恥らいでもしてはっきりと答えてくれなかったら、私は悶え苦しんでしまうだろう。まさか、大工では……

「倉の奥の家、裏が見えてたんだけど……」
「ん?」
「お魚が干してあったから……」

 と、真っ赤になって、私の首に顔をくっつけた。表情を見られたくないのだろう。
 大工なんかでは全然なかったと知って安心するより、妹紅の暖かさを首もとで感じて心臓が破裂しそうになってしまった。
(なんだ。私はお前が大工に気でもあるのかと思って心配していたのだ)
 とは言えないが、かわりに、ふさふさの柔らかい耳に口を近づけ、唇でそっとはさんだ。心配させた仕返しを密かにしたかったのだ。

「ぃう!」

 びくっと震えて抱きついてきた。なんだこれは。どうなっているのだ。もう、何も考えら
れなくなった。

「けーね……」

 妹紅は震えている。その細かな動きを感じ取るだけで精一杯で、返事ができない。ここで何か言うべきなのに。私はこんなに馬鹿だったのか。こんな大切な時に、何も言えないような。実際、この時は頭が焼き切れてしまったように、熱く、真っ白だった。ただ妹紅が愛しい。ずっとこのままでいたい。それだけしか自分の中からは響いて来なかった。
 手が自然と――この状況には、どうしたって抗えない――妹紅の背にまわり、髪に触れた。綿みたいな手触りで、心地良い。髪をかき分けて首へ……首は意外なほど熱い。
 妹紅も緊張しているな……
 首を撫でると、上気していたのを見破られて恥ずかしがるように、もっとぎゅっと抱きついた。
 おかしくなる、おかしくなる……
 いけない、なにか別の事を考えなければ……

「……また魚が食べたいのか?」

 ようやく口にしたのはそんな事だった。愛している、と本当は言いたかったのに。馬鹿めが!
 妹紅は額を私の首にこすりつけて頷いた。首に妹紅のやわらかい肌が擦れて、その上、顎に妹紅の白い耳の先が当たって、けっこう危ない。

「じゃあ、今日の昼も、晩も魚にしようか。なにか買ってくるよ……」

 妹紅を喜ばせようとしてそう言ったのだったが、とたんに後悔した。妹紅は嬉しがって、抱きついていた私から離れてしまったのだ。猫はこうも魚が好きなものか。

「お魚、なんでもいいよ!白いのも、赤いのも、焼くのも、煮るのも」
「ああ。わかったよ」

 が、脱力しきっていて、起き上がれない。喜びのあふれてくるような妹紅の笑顔を見ながら、ただぼうっとしていた。
 私は妹紅の虜、と考えた。虜や奴隷どころか、空気や太陽に依存して生きているように、もはや妹紅を失ってしまえばどうなるか、考えるだに怖ろしい。まだ三日目なのに、ここまでとは。
 それというのも、妹紅が可愛すぎるからだ。本当に可愛い。どうしよう……近いうちに、永遠亭へ談判しに行くつもりであったが、どうもためらわれる。しかしそれでは、妹紅の為に悪い。とろけてしまった気持ちを引き締めなければ……もう、どろどろで、汲み取れもしないくらいだが。
 しかし、魚を買いに出た時に、薬売りのイナバとばったり会った。

「藤原妹紅を知りませんか?知り合いでしたよね」

 と最初に言われる。知らないふりをしようか……迷ってしまった。だめだ。そうしてはいけない。

「うちにかくまっている。なぜ変な薬を飲ませたんだ」
「ただ実験するつもりだったけど、逃げちゃったから。うちで飼育したがってたのに」
「誰が!?」猫妹紅を飼育だと……
「え?いえいえ。今のは聞かなかった事にしてください。そちらでかくまってくれてるのなら、それでいいんです」
「元に戻る薬はあるんだろうな?」
「薬ですか。さぁ、まだないと思うけど……」
「嘘をつくな!」

 とは言ったものの、はぐらかされるばかりで埒が明かなかった。

「ところで、様子はどうですか?だんだん猫らしくなってきてません?」
「あぁ?……確かに、そうかもしれない」

 はじめの日から既に猫らしかったが、今日までに口調がもっと柔らかくなり、仕草もさらに猫らしくなっていた。なにかを言う時にはにゃぁにゃぁと鳴くようにまでなったのだ。

「そうですか。じゃあうまくいっていますね。じきに本当の半獣みたいになりますよ。また今度、様子伺いにお邪魔しますから、それまで観察をお願いしますね」

 なんとずうずうしい。しかし、嬉しい限りだ。観察が済めば人間に戻る薬を作ってくれるだろう。妹紅が嫌がれば、すぐに薬をせがみに行けば良い。
 イナバと話した事は妹紅に知らせたほうがよかろう。そう思って、魚を買って帰ったら……

「おかえり!」

 駆けてくる可愛らしい妹紅。愛する妹紅。……手放したくはない。
 言おうとしていた事は、言えなくなってしまった。私は愚か者だ。



 ○月…日
 慧音のおしごとのお手伝いをした。紙をならべたり墨をすったりした。たくさんほめてくれた。いっぱいさわってくれた。慧音がぶどうしゅを買ってきた。一緒にのもうっていったのに、飲ませてくれないで、みんな慧音が飲んでしまった。もっといっぱいさわってくれた。でもすぐ寝ちゃってさびしい。
 慧音が寝てておもしろくないからもっと書く。
 猫になってかわったこと。お魚がおいしい。耳がふえた。耳をさわられるとすごくくすぐったい。夜、暗くてもなんでも見えるようになった。しっぽがある。ちょっとじゃま。隠すのがたいへん。慧音にさわってほしいけど、そんなおねがいしたら嫌われそう。
 きのぼりがうまくできない。のらねこに、ばかにされた。怒ったらにげた。いぬにもわらわれる。でも慧音がいぬをおいだしてくれる。
 慧音にさわられると気持ちいい。今日はいっぱいさわってもらえて嬉しかった。いつも、ちかよってもどうしてあんまりさわってくれないんだろう。私のこと、もしかしてあんまり好きじゃないの?
 慧音ともっと仲良くなりたい。あんまり人間に戻りたくない。
 夜はねむくなるのが遅くて、朝おきるのも遅くなった。よふかしだと慧音におこられそうだから、ねむいふりをして部屋にくる。となりで慧音がおきているのに、かまってもらえない。ひとりでねるのはさびしい。体がむずむずする。
 輝夜をひっかきたい。永琳もひっかきたい。でも会いたくない。ずっと慧音といたい。慧音がすき。 
 ねる。

 もこうかわいいよもこう妹紅かわいいよモコウえへへへもこうにインしたいもこうかわいいなぁもうモコウ明日きっと告白するからね待っててねもこう私のもこたんかわいい妹紅あべべべべべべべべべべべべべ



 ○月+日
 慧音がふつかよいした。おかゆをつくってあげた。よる、さわってほしかったのに、あんまりさわってくれなかった。どうしたら慧音のきをひけるの?私がこのみじゃないのかな。慧音のこのみってなんだろう。

 頭痛と吐き気である。あとは何だったか。
 とにかく鬱々して布団から起きられない。
 そんなで午前中は半死人のようになっていたから、妹紅が甲斐甲斐しく介抱してくれた。可愛い、可愛い、可愛い妹紅が、食べる物を匙にすくって口まで運んでくれた。お前の作ったお粥はとても美味しい。でもそれよりも、お前が食べたい。お前はもっと美味しそうだ……おっと、いけない。午後、妹紅は布団のそばで丸くなって、転寝している。上を向いた顔が可愛い。愛くるしい。唇がやわらかそうだ……
 こうして妹紅といられるなら、一日中横になっていたい。そうしようかな……

「……にゃぁい」

 妹紅が寝言を言った。が、寝言が猫語ではなにも推し量れない。
 頭痛はまだするくせに、厄介な欲だけは体調に関係なく生じてくるものだ。ぐったりした意識の内に閃いたそういうものが、私の本心を無視して、体を動かす。いや、どちらが本心か、わからない。妹紅に触れようとする気持ちと、触れるべきでないとする気持ちと。わからない……でも、本当は、ずっと前から触りたかったから……理性は偽りだろうか。
 妹紅の頬に手をおく。あたたかく、やわらかい……抱いたらどんなに気持ち良いだろう。服を脱がし、抱きしめたい。妹紅の体は、すぐ熱くなる。とても甘いだろう……

「にゃぅ……けーねぇ」

 目を覚まし、私を見た。今考えていた事を抹殺して隠す。
 頬に触れた手を、妹紅はつかみ、指を舐めた。

「っ、妹紅?」
「あぅ。けぇね」

 寝ぼけているのか……?指を美味しそうに舐める。骨をかじられるのではと思ったが、そんな事はせず、ただ舐めている。仰向けになって、私の手を顔の上に持って。
 ざらざらした、しかしたっぷり、故意に濡らしたらしい舌が、痺れとも快感ともつかない感覚をもたらす。指から胸へ伝わり、体が熱くなってしまう。
 指先を唇に挟まれた時、指をかるく押して口の中へ入れた。妹紅は驚くだろうと思ったのに、すぐ吸い付いてきた。
 まぎれもない快感が走る。感じた、息が漏れてしまう……
 舐めている妹紅は、淫らな、指以上に、もっと別の物が欲しそうな表情。妹紅がそんな顔をするなんて……しかも、相当なまめかしいうえに可愛い。真っ赤な舌が指に絡んでいる。見ているだけで、ぞくぞくしてくる。襲い掛かりそうになる……

「妹紅、こら……やめなさい」
「ぅあ?にゃぅ」

 指を抜くと、残念そうに眉をひそめた。
 足りない。
 そう言っているようだ……
 しかし、どうしろと?欲を我慢する為にじっとして、夜はもっと憂鬱だった。妹紅は相変わらずそばにいる。嬉しいが、今はかえってそばにいられると辛い……それも、不純な理由なのだ。妹紅、すまない。
 



 ○月―日  
 ねずみをころしそうになった。慧音といっしょに散歩にいきたかったのに、雨がふってきたから帰った。帰ったとたん、どしゃぶりになった。かわりに慧音がおはなしをたくさんしてくれた。慧音先生の寺子屋の生徒になりたいとおもった。

 寺子屋から帰った夕方、納屋の掃除をしていたら、物の下から鼠が飛び出した。とたんに妹紅が飛び掛ろうとしたから、慌てておさえたのだった。

「妹紅、鼠なんか放っておけ!」

 猫妹紅があまり可愛いから忘れていたが、猫ならばやはり鼠なんぞは狩りたくなるのだろう。妹紅は目をぎらぎらさせて、爪も……長く突き出している。こんな事までできるようになるとは、怖ろしい薬もあったものだ。八意は一体何を考えて作ったのか。
 落ち着いた妹紅は、涙に濡れた目で私を見上げた。驚いてしまった。どうして泣いているのかわからない。妹紅は抱きついて、胸に顔を埋めてすすり泣きを始めた。
 ようやく、泣き出した理由がわかった。本当に猫になりきってしまい、鼠を追おうとしたのが恥ずかしかったのだろう。猫になる前の人間としての意識は決して消えないから、それもあわせてよけい辛かったかもしれない。妹紅が多少苦しがりそうなくらい、強く抱きしめた。

「大丈夫だよ。妹紅……」

 慰める方法が思いつかないけれど、私も悲しくなって、言葉など失くしてしまった。
 しばらくそうしていたが、妹紅は泣き止んでも、私から離れない。それをいい事に、ずっと抱いていた。首すじを撫でると、くすぐったそうに身じろぎする。首から頬まで撫で、目もとの涙を拭った。
 突然、指を噛まれた。とがった歯がやたらと痛む。小さく叫んで手を引くと、妹紅はにやりと笑って顔を上げた。

「びっくりした?」泣いたあとのまったくない、楽しそうな顔である。
「お前……」

 きつく抱いて動けないようにして、耳を噛んでやった。妹紅は悲鳴をあげる。

「やぅ!けーね、ゆるして!」

 腕の中でもがもがとしているが、絶対に離してやらない。ついでに、いつもしたかった事をみんなしてやろう。
 耳を噛み、首に軽く爪を立てると、妹紅は震えて動かなくなった。息をつめてじっとしている。膝をすくって抱え上げた。
 今日は頭がどうかしている……今まで押さえ込んでいた悪い衝動が一気に爆発したみたいだ。
 家に入り、奥の部屋で妹紅を横たえ、その上に覆いかぶさる。
 顔を近づける。火が飛び散りそうなくらい赤くなった妹紅の頬に触れる。
 頬はとても熱く、私の心は妹紅の熱でとろけてしまい、うっとりして妹紅を見つめた。

「悪い子……お仕置をしてほしいか?」

 妹紅は返事をしない。
 しかし、躊躇いながらも、小さく頷いたかに見えた。
 胸を重ねると、妹紅は浅く早い息をして身をよじる。
 逃げそうになる手首を掴んで押さえつけた。また泣き出しそうな妹紅の目、真っ赤な中に、私の顔が映っている。妹紅は私を見て、何を考え、想像しているのだろう。見つめ続けると、体から抵抗の力が弱まっていき、動かなくなった。もう私にされるがままになる。
 興奮して赤らんだ首をなぞった。震えながらはく息と一緒に、細い声が漏れる。
 愛撫するように喉を撫で、声に耳を傾ける。しかし妹紅が声をひそめてしまうと、爪を立てて、傷つけるように真っ直ぐ引いた。
 可愛らしく、小さく鳴く。もっと鳴かせたくて、肩を押さえ、猫のではない、人間の耳を舐めた。
 妹紅は激しく震える。乱暴に舐めると、私の腕を掴み、腿を擦り合わせる。可愛い……耳の下を吸い、跡を刻みつける。
 喘ぎ、私の名を呼ぶ。
 こぼれた声は、もう、猫の鳴き声ではない……
 気持ちが高ぶってくる。
 妹紅にもっと触りたい。
 気持ちをとどめかね、耳を舐めながら、指で妹紅の唇に触れた。柔らかい唇までも、体と同じ、なにかを求める、なまめかしい熱をもっていた。
 私の指を唇ではさみ、耳を舐められて漏らしそうになる声を我慢している。
 指を入れて、妹紅の舌を突いた。見ると、もう妹紅の目は焦点を失い、されるままに愛情を受け止めているようだった。嬉しくなる……指の先で舌をいじる。
 クラクラする……意識が、だんだん遠のいていく。
 指に舌がからみつき、ざらつく、湿った舌で、私の指を濡らし、吸う。
 指先から軽い快感が伝う。
 お返しに、爪でつけた首の傷を舐めると、熱い息をはき、指を吸う力が緩んだ。
 傷に薄く浮いた血を、舌を尖らせて舐め取る。すると血はもっと出てきた。私は妹紅を欲して、強く吸う。
 震え、よがる妹紅。痛みで妹紅は感じている。指を口に入れられたまま、か弱く喘ぐ。
 喉を軽く噛み、口に入れた指で妹紅の舌を押した。

「もっと、舐めて」

 私の声も、妹紅と同じくらい、甘く、細かった。自分の声に驚く。妹紅は指を再び舐めはじめる……
 その顔をじっと見ていた。妹紅はためらって、舌を動かさなくなった。
 恥ずかしがる、とろけた瞳の涙を見た時、理性が戻った。
 指を引き抜く。熱い唇に短く接吻して、妹紅から離れた。

「けぇね……」

 切なそうに目を濡らし、じっとして動かない妹紅を寂しがらせない為、その頭を撫でた。

「お仕置きだ……もう、あんな事をしてはいけない。わかったね」
「……うん」

 抱き起こして頭を撫でる。愛したくて、半端にしてしまったせいで、妹紅を傷つけてしまったろうか……
 私はもう書く事が出来ない。



○月//日
 桃のたねを庭にうめた。慧音がかんばんを作って、字を彫ってたてた。もことけーねって彫ってある。すごくうれしい。大きい木になるといいとおもった。おひるごはんの焼き魚が、あぶらがおおすぎて火事みたいになった。燃えてばさばさになった。おもしろかった。

「慧音、これくらいでいい?」
「にゃぅ!モグラがいるよぅ」
「にゃー。にゃぁー。……にゅぅ。もっと猫みたいに言うの?」
「やぁ。くすぐったいよぅ」

 もう私は駄目になったのだろう。妹紅から目が離せない。妹紅が目の前からいなくなっても、ずっと妹紅がそこにいるように見える。妹紅の声が聞こえる。幻聴だ。慧音、と私を呼んでいる。その声がだんだん甘くなっていく……
 無意識に動いた手を、あわてて下ろした。それから、柔らかい唇と、熱い肌を思い出す。自分の唇がじりじりして、頬をつねって戒めないと、そんな事しか考えていられなかった。
 妹紅は私を嫌いにならなかった。何もなかったみたいに……いつもと変わらない。ただ、ずっと大人しくなった。
 息苦しい。妹紅がそばにいるのに、恋しくて、恋しすぎて死にそうだ。どうしてこんなに苦しまねばならないのだろう。妹紅と一緒に暮らす、願いが叶ったのに。それに、こんなに小さくて可愛い妹紅なのに。
 死ねば、気持ちが伝わるか?
 死ねば……妹紅は泣くだろう。それは、嫌だ。
 千夜を一夜になずらへて八千夜し寝ばや……
 離れるべきか。これ以上苦しむ前に。妹紅も、苦しめてしまう前に。
 心を決める。 
 日没後、永遠亭へ向かう。八意に会いたいと言うが、忙しいからとイナバが通さない。そう阻まれるのを押しのけて、医務室らしい部屋へ入る。
 天才は背を向けたまま、こちらを振り向かない。

「どうしたの?妹紅になにかあった?」
「元に戻る薬をくれ。猫のままではいけない」
「もっと観察しないと。どう頼んでも薬はあげないわよ」

 椅子をくるりと回して見せた顔は落ち着き払っている。何もかも、私の苦しみも理由も見透かしたような目だ。
 その目に見られたとたん、私は気力を無くしてしまった。薬をせがむ意欲も無くなり、緊張が一気に解けてだるくなる。

「一体、いつまであのままなんだ……」
「そうね。どれくらい猫らしくなった?」

 どれくらいと聞かれても答えづらい。とりあえず、鼠の件を話す。長く突き出した爪が、気持ちが落ち着いたらまた短くなってしまった事も。

「じゃ、だいぶいい具合ね。もう少しかしら」
「……妹紅はどうなるんだ」
「あなた半獣でしょう。あなたと同じようになるはずよ」

 どういう事か、わからない。ぼうっとした頭が働かないのだ。
 不甲斐なく帰途につき、妹紅に迎えられる。
 やはり笑顔だ。可愛い。
 いつも躊躇っていたのに、今日はかまわず抱きしめる。妹紅の甘い匂いを吸う。艶やかな髪ごと、強く抱き、温かく、柔らかい体に、腕が食い込んでしまいそうに感じる。

「け、ね……っ」

 妹紅ははじめは抵抗していたが、苦しそうに呼吸するだけになり、抗うのを止めた。

「どうしたの、慧音……」

 胸に顔をこすり付けてくる。物知りたげにぴんと立った耳のそばでささやいた。

「妹紅は、知らなかっただろうがな……」
「ぅ?」
「私は、ずっと前からお前が好きだった。愛していたんだ……そのお前と今は一緒にいる。なのに私は苦しくなるばかりだ。どうしてだろうな……」

 妹紅の顔が熱くなる。体は力が抜け、きつく抱かれて毀れてしまいそうだった。しかし、腕の力を弱くできない。想いにまかせ、妹紅を強く抱く。
 毀せるならば、毀したい。
 そう思った時、
 妹紅を突き放し、部屋に閉じこもった。



●月^^日
 (記録なし)

 夜が白むまで眠れなかった。何も考えず、真っ白の頭で、流れていく時間だけを意識して、横になっていた。
 鶏鳴、鐘音、日出、人々が活気付き、朝が始まる。私は倒れたままでいる。
 妹紅……妹紅はどうしているか。一人で寝ただろう。
 傷つけた。昨日、寂しかったに違いない。何も説明せず、あんな事をしてしまった。
 立つと目が眩んだ。まっすぐ立ってもいられない。真っ黒になり、また少しずつ視界がもとに戻る。妹紅。許してくれるだろうか。 
 隣室の襖を開けると、しかし、妹紅はいない。布団が敷いてあるばかりで、それも、そこに寝た形跡はない。
 家中探したが妹紅はいない。風呂場で、自分の青い顔を見た。頬を叩いても赤くならない。不眠や疲れのせいではない。妹紅がいないからだ。取り返しのつかない事をしてしまった……
 家を飛び出す。心当たりのある場所は全て探した。妹紅の知り合いも、永遠亭も尋ねた。恥など構っていられない。哀毀した、力の出ない体で、日が沈むまで…… 
 妹紅はいない。
 妹紅。
 愛している。
 愛しているのに。
 私は……



 死のような眠りから徐々に覚めていく。
 暗い。障子を透かして月の光が薄く照る。
 重い頭を上げた……角。そうだ。今夜は満月。
 やっとはじめて気がづいた。寝ていた間に、つぶして折れ曲がってしまった尻尾をまっすぐに伸ばす。
 獣化した為か、一日中走り続けた疲れはさっぱり消えていた。しかし、大きく欠けてしまった心はまた痛み出す。
 探しに行くべきか。とどまるべきか。
 妹紅は、どうしているのだろう。
 障子の外に気配がした。
 障子を引くと、小さな妹紅が、うつむいて立っていた。
 何も言わず抱きしめる。
 妹紅も、私の背に手を回した。力は弱いが、抱き寄せ合う感覚に、崩れかけていた心の痛みが和らいでいく。
「慧音……ごめんなさい……」
 なぜ、妹紅が謝る?謝りたいのは私だ。許してほしい、伝えたい事がたくさんある。
 さまざまな気持ちが溢れて、言葉にならない。かわりに、涙になって、妹紅の髪へこぼれた。
「どこに、いた?」
「慧音から隠れてた」
「妹紅、どこにも行くな。もう、ずっと」
 妹紅は頷いた。冷たい風が、月の光より美しい髪を揺らす。髪の間から見えた白い首が寒そうだった。
 抱き上げ、部屋に入って戸を閉める。妹紅を横たえ、その上になって抱いた。

「戻ってくれて、ありがとう……」
 愛しい、小さな鼓動を感じる。妹紅の鼓動。妹紅の小さい体。抱きしめ、甘い匂いを胸いっぱいに吸う。妹紅の髪に顔をうずめ、唇で触れた。欲情する……まだ癒えきらない心が、妹紅を求める。
 獰猛な精神が牙をむきはじめる。私の妹紅、愛する妹紅を、思うままに、どちらかが毀れるまで抱きたい。衝動に耐える為、妹紅を抱く腕に力が入ってしまう。苦しんで、短く鳴いた妹紅の耳を唇で挟む。ぴくりと震えた。さらに愛しさが増す。
 愛する、妹紅の体……もう一つの私は、ただこうして、妹紅を抱いていたい。もう失ってしまわないように。妹紅を傍から離さないように。こうしていないと安心できない。妹紅の鼓動を、直に感じていなければ。
 二つの意思が交差し、乱れあう。横を向いた妹紅と目が合うと、つい欲を感じ、この混乱した心を晒してしまいそうなくらいに、じっと妹紅を見つめた。
「……けぇね」
 甘い声で私を呼ぶ。あの時と同じだ……交わりたいと、誘う声。妹紅は意識していないとしても、熱した体から思いが伝わる。そうか……妹紅も、私が欲しいのだ。
「妹紅……」
 出来得る限りの甘さで、妹紅を呼び返す。赤く、妖しく光る目を向ける妹紅。その目で、私の最後の躊躇いを溶かしてしまうには十分すぎた。愛欲をそそられ、その可愛らしい頬を撫で、そっと押さえて唇を吸う。
「っう……ん、ぁ」
 あふれる欲情で、妹紅の熱い唇を濡らしていく。そうして濡らし、強く押し当てるだけではもの足りない。何度も唇を重ね、ふっくらした口の先を舐め、かすかに開いた隙間から、中へ入った。舌を絡め、乱暴に奥まで舐める。ざらついた舌が濡れていき、不思議な感触が伝わる。妹紅の口の中で、甘い快感を貪る。
「あ、ぁ……」
 妹紅は声を漏らす。苦しそうに震える肩を抱き、舌を吸った。
「ぁ、んぁ」
 ぞくぞくと震える。口からこぼれそうになっている、妹紅の快楽を、あまさず吸って飲み、もっと濡らそうとして、深い口づけを続ける。
 そうしていると、妹紅からも、そっと私を吸ってくれた。吸われると、胸から全身へしびれが走る。うずく所が熱くなる……それを知ってか知らずか、妹紅はもっと積極的に吸いついてきた。気持ちが良い。もっとして欲しくて、口を押し付ける。私は妹紅にされるまま、うすく目を開いて、必死に吸う妹紅の顔を見た。
 可愛い。こんな妹紅と情を交わしているという幸せが、今更のように胸に溢れた。
「はっ、ぁ、妹紅……」
「く、ぅん」
 妹紅が一瞬舌を離した時、私は上半身を起こし、妹紅の着物に手をかけた。
「けぇね、っ」
 少し嫌がるように、私の手を掴む。しかし手を重ねたまま、帯をほどき、着物を広げた。
 息を呑んだ。
 幼く、月の光に透けそうな肌。
 感嘆しつつも、獣の私は息が荒くなり、獰猛さが現れそうになるのをなんとか堪える。
「やぁ……」
 妹紅はか細く鳴いて、腕で顔を隠した。その愛しい仕草に、胸が締め付けられる。妹紅の肌に見入りながら、欲が先走り、腕が動いて下も脱がした。

 息がますます乱れる。はやく、妹紅を快楽に落としたい。この純真な体に、淫らを教えたい。
 罪深く、しかしわざと罪を犯そうとする気持ちで、白い肌にそっと触れた。指の先を一つ、二つと置くと、妹紅はそのたびに震え、小さく鳴いた。絹のようで、とても柔らかい。食べてしまいたくなる……
 顔を隠す腕を取り払い、上気した顔を撫でて口を吸った。裸の、なにもかもをむき出した体に覆いかぶさる。
 妹紅からも抱きしめられた。細い腕が、私の腕と擦れ、愛しい体温の名残を残す。もっと、妹紅の熱と肌を、近く感じたい。何にも阻まれず……私も自分の服を脱いだ。真っ赤になって、妹紅が私を見るのが、恥ずかしい。
 ぴたりと体をよせる。妹紅のほんのかすかな震えも、快感も、すべてを感じる。
 首を見ると、私がつけた傷の跡は、もう消えていた。その傷のあった場所を、そっと舐める。
「あぁぅ、んぁ……」
「気持ち良いか?」
「っ……」妹紅は、震えながらも、恥ずかしがって答えなかった。
 跳ね上がる心臓の上の胸に触れると、妹紅の震えは大きくなった。敏感に反応し、堅くなっていく突起を手の腹で擦りながら、全体を撫でる。
「あっ、うぁ……ぁ、ぁ……」
 胸を撫でつつ、首に、爪で傷をつける。妹紅は胸の快感に夢中になっていて、気づかない。
 獣の私の爪は、前よりも鋭くなっていた。思ったより深い傷がついてしまい、すぐに血が流れ出す。体からこぼれそうになった血を舐め取った。
 濃い味がする。しかし、妹紅の血を飲むと、喉がかわき、体の底から、妹紅の血が欲しくなる。媚薬のようだ。傷を舐め、さらに血を出して吸う。
「んぁ、けぇ、ね……?」
 首の生暖かい、妙な感覚に気づいたようだ。
 私は顔をあげ、赤く濡れた唇を妹紅に見せる。
 妹紅はぼうっとして、私を見つめ返す。
 薄く笑い、止まらない血を強く吸った。
「ぅあ!っ、やぁ、は……」
 さすがに、少し痛むようだ。しかし、私の背に手を回し、きつく抱いて、頭を傷に押し付けようとしている。
「痛いのが、良いのか」
「あ、ぅ……そんな、ちがぅ、やぁ、あっ、あ!」
 舐めると、可愛らしく鳴き声を上げる。言葉とは裏腹に跳ね上がる体を、もっと悦ばせる為、血を飲み、傷を刺激する。
 胸を愛撫していた手も、そこを離れて、気がつくと両腕で妹紅を抱いていた。抱きしめ、口を傷に擦りつけて舌を動かす。
 妹紅は昂っていく。傷を広げるように、舌の先で舐め続ける。
「あ、やぁっ、あぁ!んぁ、あう……」
 喘ぎが大きくなる。強い快感に、腿を擦りつけ、腰をよじって刺激に耐えている。
 限界が近い。私は舐めるのを止め、妹紅を休ませた。
「あっ、ん、はぁ……」
 荒い息で、まだ余韻に震える体。
 血がこぼれて、白い体が点々と赤くなる。こんなにきれいで、可愛いのに、傷を舐められて感じるとは……そんなギャップが、なお可愛らしい。妹紅の淫らな面を知ったような気がして、嬉しくなった。
「けぇね、もっと……」
 妹紅が私を見上げて甘える。細い指が、私の首を撫でた。
 傷に牙を立てたくなる、その衝動は耐えがたく、また傷に口を近づけた。しかし、痛がる妹紅の悲鳴を想像し、一瞬手前で思いとどまる。
 顔をあげ、妹紅に言った。
「妹紅、もっと、良くしてやるから……」
 きつく抱く腕をはなし、起き上がって、妹紅の体を見下ろす。
 愛欲の虜になり、赤らんで小刻みに痙攣する体が私を求める。だが……その前に、妹紅の尻尾に触れた。
「やぅ!……」
 敏感に震える。ふさふさで真っ白な、膝に届くくらいの長さの尻尾。先を手のひらでこすると、体をねじって丸くなった。
「うぅん、あぅ……」
 可愛い。もっと追いつめようとして、付け根から先へと撫でる。妹紅は手の動きに忠実に反応し、ぴくぴくと尻尾を動かす。
 妹紅が尻尾を触られる感覚に慣れてくると、指で尻尾をきつめに握り、上下に動かした。
「にゃぁ、あうぅ、ひうっ」
 手を動かすたびに妹紅は小さくはねる。
「気持ち良いか、妹紅」
「ん、あ、やぁぁ!っあ、いい、いいよっ、うあっ」
 一度、イかせてしまおう。そうして慣れさせたほうがいいかもしれない。
 指をさらにきつくし、動きを早くする。妹紅は耐えかねるように、丸めていた体を伸ばし、激しく喘ぐ。
「あぁ、あ、あ、あっ!やぁ、あっぁ……」
 首を左右に振って、堪えている。
「あ、だめ、だめ、けぇね、何か……あぁぁぁ!」
「妹紅、大丈夫だから……我慢しないで」
「やぅ、あ、いやぁっ、あぁ!んぁ!うゃぅ……」
 怖がっている。妹紅の手を握って、思い切り強く尻尾を締め付けた。
「にゃぁ!?っ、あああぁぁ!」
 震えながら、イった。
 余韻に浸り、恍惚とした艶かしい表情を見せる。
 私が教えたのだ……妹紅に、淫らな快感を。
妹紅は、体も、尻尾も、力が抜け、欲情をそそるような細い声を漏らし、荒く呼吸する。
 波打つ腹を撫で、呼吸が落ち着くのを待って接吻した。
「はっ、あ、ぁ……けぇね……」
「妹紅……」
 もっと、妹紅がほしい。これだけでは足りない。
 見つめあいながら、手を伸ばし、濡れきって滴り落ちるそこへ指を当てた。
 口よりも熱い。物欲しそうにひくつく入り口を撫でると、妹紅は私をぎゅっと抱きしめた。
「ぁ、やだ……やだよっ」
 腿を閉じ、私の手を挟んで抵抗する。しかし、愛らしい唇を割って舌をからめると、とうとう欲に負け、足の力が無くなった。
「良い子だ……」
 甘く囁き、唇を重ねる。
 やわらかな腿を開いて、二本の指を差し入れる。熱く、淫らに濡れた妹紅は、中へ指を求めるように吸い付いた。
吸われるまま、指を根元まで入れる。
「やああぁぁ!!あぁっ、んあぁ」
 悲鳴をあげ、私を抱く腕に力を込める。痛みは無さそうだが、快感が強すぎたか……
 前戯で気持ち良さを体に教え、イかせて、愛欲に満ち溢れた中は、十分に敏感になっていた。指を引き抜く時も、喘いで痙攣する。
 指の先が出そうになると、締め付けが強くなり、指が動かなかった。
「あぁ、あっ」
「妹紅、欲しいのか?」
「ぅ?ぁ、ぁ……」
「入れて欲しいなら、言わないと入れないよ」
「あぅ、ぁ、やだぁ……」
 妹紅は目に涙を浮かべた。こんな時にいじめられて、驚いたのだろう。
「じゃあ、言って」
 締め付けられる指を軽く動かし、今にも抜いてしまいそうにする。
「あ!んぁ、っ、けぇね……おねがい、いれ、て……」
 顔を背けながら、小声で言う。その愛らしさはたとえようもない。すぐにも満足させてやりたくなるのをこらえ、焦らすように、ゆっくりと、指を挿入した。
「んあぁ…」
「良い子だ、妹紅……」
 一番キツい、奥へ行き着く。指先で奥を擦り、膣の快感を妹紅に教える。はじめてのその快感に、妹紅は苦しそうに眉をひそめる。
「はぁ、あ、んぁっ、やぅ」
 もっと、妹紅を気持ち良くさせたい。
「妹紅……激しくするよ」
「んっ、けぇ、ね、して……」
 はじめは浅く抜き差しし、妹紅が耐えられるようになると、少しずつ、大きく動かす。
 妹紅の喘ぎが早くなる。
 染みをつくり、悦びがなにもかも濡らしていた。熱くて焼けそうになる指で、狭い膣を摩擦する。
「やぅ!あっ!あ、あぁ!」
 最も深い、堅い所を突くと、妹紅は悲鳴のように鳴いて、指を締め付けた。妹紅の一番大切な、敏感で弱い所だ。そこをもっと感じさせてやりたい。
 大きい動きから小刻みな刺激に転じ、奥を突き続ける。
「やぅううぅ、いぁ、あぁ、んぁぅぅ……」
「妹紅、妹紅……」
 妹紅を攻め、名を呼ぶ。答える余裕も妹紅には無く、ただ、私を強く抱いた。
 激しく攻め立てる。
「いやぅ、け、ね、あっ、ああああぁぁぁぁ!!!!」
 指を締め付け、再び達する。

「はっ、は、ぁ、けぇね、けぇね……」
 朦朧として私を呼ぶ。しかし、私はまだ足りない。
「けぇね……好き、けぇね……」
「妹紅……?」
「好きぃ、けぇね……」
 一瞬、意識が飛んだ。
 愛しい妹紅、愛する妹紅、私が好きだ、と……
 もう、我慢ができない……
 本来、このような事に使ってはならない能力を行使する。
 もっと妹紅が欲しい。つながり、一つになりたい。
 妹紅を完全に、私のものにしたい……愛情か、欲か、もうわからなかった。
 薄黒い、欲の塊りが出来る。それを、妹紅の口へあてがった。
「ぅ、あっ……?けぇね……」
 こすり付けて、それの存在を知らせる。妹紅は目を見開いた。
「っ!?んっ、あぅ、けぇね、まって、やぁっ」
 擦れあう快感を求めて、溢れてくる汁をまぜるように、強く押しつけ、上下に動かす。
 腰が痙攣し、妹紅を求める。しかし我慢し、接吻する。
 舌をからめると、甘く、意識と一緒に、欲は溶けてしまい、あとは妹紅への愛情だけが残った。
 ずっと好きだった妹紅。好きだと伝えられなかった。やっと、願いが叶って、今までの気持ちも、愛情も、すべてぶつけたい。妹紅に受け取ってほしい。
 唇をすり寄せ、優しく語りかける。
「妹紅……お前が欲しい」
「けぇね……」
「いいか?……」
 見つめ合った末、妹紅は小さく頷いた。
「愛してる……妹紅……」
 言ったあと、舌を吸い、かすかに震えて怖がる妹紅の躊躇いをまぎらわす。
 妹紅の腰をまたぎ、真っ直ぐにあてる。
 ゆっくり、押し入れる……
「ぃう!ぅ、っああぁ」
 妹紅が悲鳴をあげた。膣は狭すぎ、私まで痛みを感じる。
 痛がり、眉をひそめた額に口づけする。
「っ、妹紅……力、抜いて。大丈夫だから……」
「ん、っ……」
 肩を撫でて落ち着かせる。
「ぁぁ、ぅああ!」
 先が埋まり、さらに奥へ入れようとすると、急に燃えるように熱くなった。破瓜……妹紅は指を噛んで、痛みを耐えている。
 気遣う気持ちと、愛しさがこみ上げ、動きを留めて再び接吻した。妹紅も、震えながら舌を絡める。
「ぁ、ぁ、けぇね……好き、けぇね」
「妹紅、好きだ……愛してる、妹紅……」
 妹紅は私のものになった。
 喜びが胸に満ち、躊躇いは焼ききれてしまった。
 舌を吸い合いながら、奥へ進む。妹紅は小さく鳴いて、口を離した。
「あぁぁ……」
 根元まで入れると、気持ちよさのあまり声が漏れた。私に無理に押し広げられた膣は、溶けてしまいそうなぐらいに焦れて熱い。腰がしびれ、慣れない快感に意識が麻痺しそうになる。
 痛がらせないため、すこしの間そのままでいた。中でひくつく私を感じて、妹紅はあえぐ。その可愛らしさにも私は反応し、快感を覚えてしまう。
 妹紅と繋がり、交わったところを見下ろした。小さい妹紅に、禍々しいものが食い込んでいる。妹紅は痙攣している……
 苦しげな、しかし幸せそうな妹紅の顔を見ていると、もう、このままではいられなくなる。
「妹紅、動くよ……」
「っ、うん……」
 ゆっくり引き抜き、また入れる。膣を押し広げていく感覚は、たまらなく気持ち良い。
「やぅ、ぁあ、っあ……」
「く、んぅ……妹紅……」
 ずっと味わっていたくて、遅い抽送を何度も繰り返した。
 付け根のあたりが熱く、硬くなっていく。怒ったモノは妹紅の中でさらに大きくなった。膣にきつく圧迫され、眩暈がし、甘い愛欲に意識を浸潤されていく。
 妹紅は徐々に痛みを忘れ、快楽の鳴き声をあげる……
「あ、あ、あぁ……ぅあ、っ」
 私が動くごとに、喘ぐ妹紅。腹を撫で、片手で腰を掴んで動いた。妹紅はびくびくと震える。
 可愛い。愛しい……もっと、激しく、妹紅を愛したい。
 いつの間にか、尻尾までが絡み合っていた。全身で互いを求める。激しい欲情に溺れながら、甘く、切ない気持ちも、溶かしていく……
 私自身、喘ぎ声を、もう我慢できなくなってきた。息を切らす妹紅の声にまぜるようにして、声を漏らしながら、抜き差しを早める。
「あ、あぁ、ぁ……」
「やぅ、あん、あっ、あ、あぁ!」
 精神の余裕がなくなっていく。夢中に奥を突く。強すぎる快感に、腰が痙攣する。
 妹紅は狂ったように激しく喘ぐ。
 腰を打ち付け、硬く、太くなった根元まで入れ、狭い膣内を滅茶苦茶に荒らす。耐え難いくらい気持ち良く、すぐにも達してしまいそうなのに、妹紅を突く腰を止められない。
「あぁ!あっ、あ、あ!」
「ひゃぁぁぁ、やぁん、あぁう!うぁ、あっ、あぁぁ」
 あばれる妹紅の腰を掴み、思い切り突く。
「あああああぁ!?っ、ぁ……」
 イった妹紅に締め付けられ、なにかが弾け、あふれ出した。

 私が吐き出したもので、妹紅の中は満ち溢れていた。
「あつぃ……」
 まだ一つにつながっている腰をよじり、妹紅が鳴く。 
 腰を抱き寄せ、妹紅の奥に当たっているものをさらに押し込む。妹紅は喘ぎ、逃れるように動くが、ぎゅっと抱いて離さない。
 気持ちいい……いつまでもつながっていたい。
 しかし、惜しみながら引き抜くと、血で赤く染まっていた。
 妹紅を奪った実感。愛するものをとうとう手に入れた……
 だが、もっと、もっと欲しい……
「妹紅、痛いか?」
「……ううん」
 恥ずかしそうに妹紅は首を振る。無理をして、我慢しているのかもしれない。
 しかし、妹紅の顔を見ていて、私はまた硬くそそり立つのを感じた。
「もう一度……」
 躊躇いながら言う。
 妹紅は頷いた。
 妹紅を抱き上げ、膝の上に乗せる。
 どうしてそうされるのかわからないらしく、妹紅はきょとんとして私を見た。
「もっと、気持ち良くなろう。妹紅」
 足を広げさせ、反り返ったものを手で押さえて、入れた。
 妹紅の腰を抱いて引き寄せ、深く差し入れる。
「やああぁっ!」
「っく!……」
 これは、快感が強い。さっきよりもっと大きくなってしまったものが、根元まで入りきらない。
「んぁ、けぇね、これ、すごい……」
「あぁ……」 
 腰を浮かせて振り、抱いた妹紅の腰を打つ。妹紅の一番弱い所を確実に突く。
「あぁ!あ!ひぁぅ!だめ、やぁぁ、だめぇ!」
「ぁ、っあ……」
 たまらない快感に耐えながら動く。
 また妹紅の中に出してしまいそうで、歯を食い閉め、妹紅を気持ち良くさせる。
 妹紅は私にしがみつき、砕けそうになる細い腰で、懸命に私を受け止めた。
「あぁぁぁ!ふぁっ、やぅ!あ!んあぁ!」
「く、う……はぁ、はっ、妹紅……」
「ぁ、けぇね、け、ねぇっ、あ、あぁ!」
 必死に名を呼んでくれる。私も妹紅を呼び、一緒にのぼりつめていく。
「あっ、くぅ!あぁっ、あぁ、は……っ」
「あん、あ!あっ!あぁぁぁ、けぇねぇっ」
「っ、もこ、あぁ、出る、っあああ!」
 腰を低くし、下から突き上げる。
「けぇね、けぇね……」
「も、こ……」
 共に果て、意識も失う……
 


 白々と明ける頃、目を覚ました。
 体の上に妹紅がいる。浅い息をし、私にしがみついて離れない。
 滑らかな背中を撫でた。まだ残っている疲れが心地よい。
 目が覚めれば痛み出すだろう、妹紅の腰をさする。想いのまま、激しく抱いた……
 これまでの生活、鬱屈した気持ちを抱いていた。しかし、今は、もう以前の事は重要でない。
 愛する妹紅。これからも愛し合い、確かめ合うだろう。
 永遠は、現在の一瞬にある。刻下、妹紅を愛してやまない気持ちが、生死を越えて永遠に生きる心だ。
 そう思った。
 妹紅と共に生きられると、感じたのだ……






●月*日

 (続くかもしれない)
 ここまで、どうもありがとうございました。
 妹紅の血って飲んでも大丈夫だったか・・・?間違っていたらすみません。
 猫妹紅のAAが可愛くてつい発作。妹紅のAAはぜんぶ可愛い。とにかく可愛かった。
 ところで、今回初投稿です。他の作品様を読むと、自分のがダメで恥ずかしいかぎりです……申し訳ありません。

 誤字修正しました。ありがとうございます!あべべべべべ
金鳥
コメント




1.名前が無い程度の能力削除
マスターピースきたコレ……。傑作だ……。猫妹紅の日記にもだえくるしむ


あべべべべべべ
2.Toshi削除
ほかの作者方にはかなわない?
いいえ、遜色無いです。もげる。

ロリ猫もこたんって素晴らしい!
だけじゃなくて、いい意味で壊れていくけーねの描写も逸品でした。
すごくいい。

あと、誤字報告。-が奪取となっていました。よくやりますよねこれ。
一応書き手のはしくれなのでわかります(黙れ
3.名前が無い程度の能力削除
あべべべべべべべべべべべべべ

獣化(猫)だと・・・。的確に急所を突いてくる・・・。やりおるな・・・。
4.名前が無い程度の能力削除
続け! 続いてくれ! 続いてくださいお願いします。
猫もこたんのかわいらしさと慧音先生のメロメロぶりが、めいっぱい伝わってきました。
5.名前が無い程度の能力削除
やっぱりけーねの葛藤っぷりが好き。あべべべべ。
幼猫妹紅が可愛い反面、猫化の末が不安だわ。
6.名前が無い程度の能力削除
もげる。否、もげた。
一人暮らしで猫飼ったら駄目になるくらい溺愛する女の人って現実に結構いるよね
アルジャーノンみたくなっちゃう妹紅も、猫に萌え狂って日記がバグっちゃう慧音も可愛いよ
あべべべべべべべべべべ
7.名前が無い程度の能力削除
けーねがもこたん溺愛すぎて吹いたwww
ワイン呷ってもこたんあべべべべべべ

それぞれの日記という形が完璧にプラスに働いてますね。
どちらも本当に本人が後から書いた文章のようになってて読んでて楽しい。

え?初投稿?なにそれおいしいの
8.名前が無い程度の能力削除
すばらしすぎた・・・