真・東方夜伽話

ふとんどーるの憂鬱

2009/07/06 00:20:06
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ふとんどーるの憂鬱

無在

 
※このSSは、フラン、レミリア、レミフラ、百合、自慰 の要素を含みます。
苦手な方は申し訳ありませんが、ブラウザのバックでお戻りください。
また、このSSは『ある一夜の約束』等の作者のSSの設定を引き継いでいます。
 
※ネチョ薄めです。
 















 

 暗い部屋の中に、一つため息が響いた。

 くぐもった、細いため息。

 だが、そのあまりにも弱々しい声は、重く薄暗い空気に溶け込むかのように消えてなくなった。

 

 フランドール・スカーレットは顔を上げて、窓の向こうに広がる曇り空を見た。



 この部屋の主は出かけているところだった。誰かに見つかれば、勝手に部屋に入ったことを叱られるかもしれない。もっともフランはその主の妹であるから、厳しく咎められることないだろうが、やんわりとたしなめられることはあるかもしれなかった。フランもそのことをちゃんと理解していた。留守中、勝手に自分の部屋に入られるのはとても不愉快なことだ、と。そして、それはたとえ姉妹であろうとも、守られるべきモラルでありマナーでありルールであると、自分でもわかっていた。
 
 けれども――

フランはこの部屋に入ることをやめられなかった。

 そして、この部屋から出て行くこともできなかった。
 
 フランはぼんやりと窓の前に立ったまま、また一つため息をつく。

 雲が夕方の空を隠していた。本来ならば、その空は夜の訪れを告げる温かな赤の光で満ちているのだろう。だが、暗く灰色の雲に遮られて、その美しい輝きを見ることはできなかった。フランは物憂げに曇り空にもう一度視線を送ると、何かこらえきれない様子でとぼとぼと窓から離れるのだった。



 『――本当にいっしょに行かなくていいの?』



 この部屋の主、この屋敷の主君、そして、フランが最も愛している姉――レミリア・スカーレットの言葉を、妹は思い出していた。同時に、その言葉を口にしたときのレミリアの心配そうな――そして、悲しげな顔を。レミリアは、やっぱり今日神社に行くのはやめようかしら、とまで言い出した。だが、今日は霊夢たちと約束をした宴会なのだ。少なくとも、レミリアは行かなくてはならないし、フランとしても姉にそこまで気遣いをして欲しくなかった。フランは優しい姉の言葉と不安げな表情を打ち消すように、大丈夫だよ、と笑顔で答えた。
 
 ――これは仕方のないことなんだ。

 フランはそう思った。そう自分には仕方のないことなのだ、と。どう足掻いても変えられるものではない。我慢することだけが自分に唯一できることなのだ。
 
 レミリアは忠実なるメイド長、十六夜咲夜、そして、親友の魔女であるパチュリー・ノーレッジを伴って博麗神社に出かけていた。今日は神社で宴会が行われる日だった。本来ならば今頃フランも、姉のレミリアとともに神社の境内ではしゃいでいるはずだったのだ。

 だが、今日は調子がおかしかった。

 何度、歳月を数えたことだろう。自分が地下室から出ることを許されて、もう10年以上が経つ。10年――数百年以上生きる妖怪にとっても、それは決して短い時間ではなかった。特に495年をほぼ空白として生きてきたフランには、宝石のようにかけがえのない大切な時間だった。
 
 ――思えば長かったなあ。

 そう思って、フランは小さく微笑む。いろいろなことがあった。そして、いろいろな努力をしてきた。知る人こそ少ないが、フランはとてもたくさんの努力をしてきたのだった。
 そして、その努力の果てに、今、フランは紅魔館の外に出ることを許されている。姉のレミリアといっしょならば、という条件で、フランは外出できるようになっていた。
 紅魔館の誰もがそのことを喜んだ。穏やかで優しいメイド長も、いつもにこにこしている紅髪の門番長も、普段は無愛想極まりない魔女も、その助手のおっちょこちょいな使い魔も、初めはフランを怖がっていたがだんだんと慣れていった妖精メイドたちも、そして――妹を誰よりも深く愛している姉も。
 フランももちろん嬉しかったが、むしろ、その気持ちは安心に近かったかもしれない。
 
 ――ようやく皆といっしょになれる。

 それはフランがずっと抱き続けてきた願望だった。
 誰もが当たり前のようにもっている気持ち――そして、誰もが当たり前すぎて気づくことのない願いだった。
 ようやく――だった。
 ようやく、自分は皆と同じ場所に立てた、とフランは思った。
 姉の支えがなければ、自分はその場所にいられないけど――
 それでも、自分は誰かといっしょにいることができる、と思えた。
 その事実はもちろんフランを喜ばせたが、同時に強い安心感を与えたのだった。

 だけど――

 フランは紅色を基調とした姉の部屋を見渡す。
 何となく立っているのに疲れてしまった。
 ひたすら紅い部屋の中で、一番白さの目立つ姉のベッドを見つけた。
 フランはとぼとぼとベッドまで歩く。
 そして、身体を投げ出すようにして、レミリアのベッドの上に寝転がった。
 壁や絨毯と同じ、天井の紅色が視界に広がる。
 暗くてどこかにじんでいるような気がした。
 あの完璧で瀟洒なメイド長が掃除しているのだから、そんなことはあるはずがないのだが。
 けれども、照明もつけず薄暗い姉の部屋の天井の紅がとても陰鬱で霞んでいるように思えた。吸血鬼の目は夜にこそ働くものだ。だから、少し薄暗い程度なら何の障害も不快さも感じないはずだった。だけれど、フランにはこの部屋の紅色がとても暗く、悲しいものに思えたのだった。
 
 「――今、相当不安定だなあ……」

 フランは声に出してつぶやいた。思わず笑いがこぼれる。何がおかしいのか自分でもわからない。
 「……まあ、笑ってでもいなきゃやってられないよね」
 
 そう。自分には笑うことしかできない。
 こうして一人で笑うことしかできないのだろう。
 
 なぜか、とても不愉快で、かなり愉快な気分だった。

 不愉快なのに愉快――

 正常ならばありえない感情だった。

 正常ならば。

 だが、それはきっと狂った心ならば何の矛盾もなく存在する状態なのだろう。

 ぐらぐらとした心の中で、ぐるぐるとおかしな感情が螺旋を描く。

 ――こうした一瞬一瞬の間に、やはり自分はお姉さまについていかなくてよかった、と思う。こんな情緒不安定な状態で宴会に行ったら、迷惑をかけるだけだから。
 誰かを困らせることは嫌だった。
 誰かを傷つけることは嫌だった。
 誰かを悲しませることは嫌だった。
 
 フランの狂気だけはどうにもならなかった。
 十年の時間でも、フランの狂気が癒えることはなかった。
 否。
 癒えるはずがないことはわかっていた。
 この十年間で得られたことは――地下室からの解放。
 そして――自分の心が一生、壊れたままだという事実だった。
 この事実だけは、いくら努力しても動かすことができないことだった。
 あえて、その経過をここで語ることはないが――
 だが、フランの狂気は一生続くものであることは確かだった。
 『気がふれている』、『狂っている』、『情緒不安定』――
 フランはその形容詞を死ぬまで背負い続けなければならなかった。
 もっとも、普段は大丈夫なのである。
 いつものフランは地下室にいたときよりもずっと安定していた。そして、地下室から地上へと出て、歳月を重ねるごとにフランの情緒不安定の度合いも発作の頻度も、だんだんと弱くなり、少なくなっていったのだ。だからこそ、フランは破壊の能力という恐ろしい力をもっていても、今、レミリアといっしょに外出することを許されているのだった。本来、フランは情緒不安定の発作さえなければ、優しく穏やかな少女なのだ。そのことはフランの姉やその友人、メイド長、門番長は地下室から解放されるよりも前に知っていたし、地上に出た後、最初はフランと話をするだけでも怖がっていた妖精メイドたちもだんだんとそれに気づき、やがて廊下で会うたびに笑顔で挨拶をするようになっていった。
 だが、それでも発作はやまなかった。
 情緒不安定の発作が起こるとき、フランは正常な状態ではなくなる。怒りや悲しみの感情が猛り狂い、憎しみの念が無差別に吹き荒ぶ。思考すらもコントロールすることがままならない。
 今日の発作はかなり軽いほうだった。一生、狂気が続くとはいえ、この十年でその強さはだんだんと弱まっている。今の自分はぴりぴりとした苛立ちを覚える程度だった。思考がかき混ぜられるような、不安感や恐怖感、焦燥感はない。もしかしたら、姉の言葉を断ることなく自分も神社にいっしょに行ったとしても、何の問題もなかったのかもしれない。
 
 だけれど――

 それでもフランは自分が信じられなかった。
 ――信じられるはずがなかった。
 もし、自分の見積もりが見当はずれで、何かの拍子に破壊の能力を使ってしまったら――
 それを考えるだけで、頭がきりきりと痛んだ。胸の中を黒い不快感がぐるぐると回る。口の中に苦い味がいっぱいに広がる。
 
 そして――

 もし、自分が姉を間違えて殺してしまったら――

 それだけは勘弁だった。
 それだけは許して欲しかった。
 たとえ、姉に手を引っ張られて連れて行かれそうになっても――
 自分に姉を殺させることだけは本当に許して欲しかった。

 「本当に、それだけはやめてほしいなあ……」

 フランはまた一人ごちる。それを頼むべき人物の部屋で呟く。それをお願いする人物のいない部屋で呟く。いや、『やめてほしい』ではないのかもしれない。むしろ、問題があるのは自分なのだから。妹を心配してくれる姉を責めても仕方ないだろう。そもそも自分が全部悪いのだから――。そんなことを考えながら、フランは物憂げにごろりと寝返りを打った。
 レミリアのベッドはいつでも眠れるように整えられていた。メイド長のベッドメイクは完璧だった。あの奔放な姉はいつ昼寝をするかわからないからだろう。そういえば朝食を食べた後にまたベッドに戻ったこともあった。咲夜の気苦労を思って、フランはかすかに笑う。そして、姉の掛け布団に顔を埋めた。

 ほのかに、優しくて甘い匂いがした。

 心がいっぱいになるような、温かい匂い。

 大好きな姉の匂いだった。

 「……お姉さま」

 何となくフランは姉を呼んだ。今、お姉さまたちはなにをしているだろうか。出かけたのがお昼過ぎで、二時間前だったから、今は飲んでいる真っ最中だろう。あの人たちのことだから、夕方を過ぎ、夜になっても、二次会、三次会を繰り広げて、一晩中お酒を浴びているに違いなかった。
 フランはその光景を思って、また小さく笑った。

 そして、笑った瞬間、喉の奥が少しつかえた気がした。 

 「……何してるんだろう、私?」

 本当に自分は何をしてるんだろうか。明かりも点けず、姉のベッドの上に寝転がって、何をしているんだろう。

 「本当に何をしてるんだろうね……?」

 誰に言うでもなく呟く。
 馬鹿馬鹿しかった。
 その質問の答えを出すことも、そんな質問をしてしまった自分も何もかも馬鹿馬鹿しかった。
 馬鹿馬鹿しくって――惨めだった。
 本当に惨めだった。 
 惨めで――何となくつらかった。

 「……お姉さまぁ」

 もう一度、姉を呼ぶ。だが、答えてくれる声はなかった。

 「……お姉さま」

 それでも、暗くて塞いだ声でもう一声――

 「……お姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さま……」

 フランは姉を何度も何度も呼び続けた。意味がないことはわかっていた。だが、こうして呼んでいる間は、少しでも心の曇った気分が軽くなるような気がしたのだ。ひとしきり呟き続けたところで、呼吸が続かなくなり、はあ、と息をついた。

 結局自分は違うのだ。
 自分は皆とは違うのだ。
 自分はお姉さまとは違うのだ。
 ただ、その考えだけが頭の中をぐるぐると巡っていた。

 やるせなくて、何かに怒りをぶつけたい気分だった。
 フランはレミリアの愛用している掛け布団をぎゅっと握った。
 顔を、羽毛の詰まった柔らかな布団に押し付ける。
 胸の中にレミリアの優しい匂いが広がる。
 
 ……どうして、この布団はお姉さまの匂いがするんだろう。

 フランはふとそんなことを思った。その次の刹那にふっと微笑む。考えるまでもない。姉の使っている掛け布団だからだ。ならば、レミリアの匂いがしても何一つおかしくはないだろう。

 だが、フランはそう考えて、少しだけ妬ましくなった。

 考えてみれば、このベッドは姉が眠っている間はずっと姉を独占しているのだ。妹でさえ、姉を占有することなどできないのに。たとえ一時であろうと、このベッドは姉に一番近い場所にいられるのだ。

 そのことがとても妬ましかった。
 そして、やはりフランは自嘲する。
 ものに当たっても仕方がないだろうと。
 こんなことで嫉妬の感情を引き起こしてしまう自分はやっぱり狂っているのかもしれない、と思いながら、フランはまた姉の使っている掛け布団にすがりついた。

 空気が死んでしまったかのような静けさの中で、どきどきと自分の心臓がうるさかった。
 どきどきと心臓の音以外の何かがうるさかった。
 どきどきと心のすっぽりと抜けた空白がうるさかった。
 うるさくて、頭ががんがんする。
 誰か、この音を止めてくれないだろうか――そう思いながら、フランは布団に押し付けた頭を振る。

 そして、フランはふと思った。

 ――もっとお姉さまの匂いをかぎたい。

 おかしな考えだ、と思いながらも、フランの身体は動き出していた。フランは起き上がって、自分が乗っかっている掛け布団を剥いだ。掛け布団の下の毛布やタオルケットも乱暴にめくり上げる。すぐに、白いシーツの敷かれたマットが露になった。
 フランはマットの上に改めて横になった。そして、さらさらとした触り心地のシーツがかけられたベッドに顔を埋める。よく洗濯されたシーツからは洗剤の香りがするのだが、姉の温かな匂いはあまり感じられなかった。

 ――何だか足りない。

 そんなことを考えながら、フランは何かを求めるように手を動かした。フランの右手が散らかしてあったタオルケットを掴む。フランは身体を丸めるようにして、それを抱きかかえた。
 タオルケットからは強いレミリアの匂いがした。掛け布団の何倍も強い香り。フランの胸の中を姉の匂いが満遍なく広がっていくようだった。それはあたかもレミリアに抱かれているような感覚をフランに与えた。
 フランは姉のタオルケットに顔を押し付けながら何度も息をした。そのたびに、震えていた心が落ち着いてゆくようだった。
 フランは今、自分がおかしいことをしているのに気づいていた。だが、私は何をしているんだろう、とちくちくと罪悪感と自己嫌悪が心をつつくいても、やめることができなかった。もし姉が今の自分を見たらどう思うだろうか――そんなことも考えるが、タオルケットを放すことはできなかった。姉の柔らかな香りが鼻腔と肺を満たすたびに、もっと欲しくなる。もっともっと、とフランは麻薬でも吸ったかのように、タオルケットにむしゃぶりつく。ああ、私はやっぱり狂ってるんだなあ、とフランは心の隅でそう思った。
 
 タオルケットから姉の匂いをかぐたびに、心の中のぐるぐるとした騒がしさが静まっていく。
 温かな安堵感が心の暗い隙間を埋めてゆく。
 けれども、まだ足りなかった。
 まだ、フランはざわつくような気持ちを抱えていた。
 そして――
 レミリアへの思慕の念はずっと強くなっていった。
 今ここにいない姉を恋慕する気持ちは強くなるばかりだった。
 身体がふわふわと熱くなる。
 おかしな疼きが心を責め立てる。
 身体が熱く、うずうずとざわめいて、フランの息は徐々に荒くなっていった。
 
 フランの空いた左手は無意識に、自分の右の胸に当てられていた。

 「……んッ――」

 白い手が、わずかばかりに膨らんだ胸を服の上から軽く揉みしだいた。微かな快感にフランが小さくうめき声を上げる。
 
 「……ふッ、ふぁッ、はッ、あッ、んッ、ひぁッ、ひんッ……」

 自らの左手で何度も己の乳房を揉み上げるフラン。自らの胸を揉む力はだんだんと強くなっていった。慎ましやかな丘陵を描く胸が、もちのように形を変える。やがて、手の平に硬く隆起してくる何かを感じた。自分の薄い乳房を弄ぶのをやめると、今度は、服の上からも存在がわかる隆起物を人差し指と中指を当てがい、二本の指で転がすように遊ぶ。

 「……ふあッ、ひゃあッ、あぁんッ、ふぁあッ……」

 暗い部屋にフランの小さな嬌声が響く。フランはぴりぴりと身体が痺れる快感を感じながら、自らの指で乳首をいじり続ける。右手は姉のタオルケットを握り、自分の顔に押し付けたままだった。フランは姉に抱かれているような気持ちになりながら、自分の胸を愛撫し続けた。
 だが、フランはしばらくして、胸から左手を離した。眦に涙を浮かべながら、フランは荒く呼吸していた。

 ――自分は何をしているのだろうか。

 やっと自分の行動を理解したフランの理性が呟く。フランは恥ずかしさのあまり、焼け死んでしまいそうだった。自分の顔が耳まで真っ赤になっているのがわかるくらいだった。
 
 お姉さまのベッドの上で、お姉さまの匂いをかぎながら、自慰をしている。

 フランはひどい自己嫌悪を感じた。狂っているにもほどがあるだろう。もし、このことが姉に知られるようなことがあれば、とても生きていける気がしなかった。もしかしたら――もしかしなくても嫌われるだろう。こんなことは即刻やめるべきだ、とフランは思った。

 だが、フランの右手は相変わらず、レミリアのタオルケットを握ったままだった。
 自分の右手は姉のタオルケットを握ったまま、放そうとしなかった。

 フランの身体の火照りは消えなかった。
 フランの身体の疼きは消えるどころか、自らの胸を弄ぶ前よりもずっと激しくなっていた。
 そして、何より――
 フランの心の中の寂しさは無くならなかった。
 むしろ――強くなっていた。
 姉の匂いに包まれて安堵感を与えられながらも、むしろ寂しさは強くなるようだった。
 
 フランは泣きそうになった。
 自分で自分の首を絞めておいて、泣きそうになるなんてどうかしてる――そう思いながらも、フランの心は泣いてしまいそうにざわついていた。
 
 フランは姉のタオルケットから、姉の残り香を求め続ける。姉の匂いをかいでいるときだけは、悲しい気分が消えるようだった。がむしゃらに、フランは大きくなってゆく不安な気持ちを消そうとしていた。
 そんなとき、ふとフランは思った。
 
 自分の左手が、お姉さまの手だったら――と。
 自分の手が、今ここにいないお姉さまの手だったら――
 
 そんな馬鹿なことはあるわけがない。
 お姉さまは私といっしょにいないのだから。
 どうして、そんな馬鹿なことを思いつくのだろうか。

 でも、もし――

 お姉さまがここにいてくれたら――
 この手がお姉さまの手だったら――
 
 そう思った瞬間、フランの左手は動き出していた。
 フランの左手は、自らの火照った乳房を再び揉みしだいていた。
 
 「ふあッ、にゃッ、ひぁッ、やッ、あッ、あッ、んッ、やぁッ……」
 
 フランの左手が動き続ける。先程よりもずっと強く、左手はフランの慎ましやかな胸を揉みしだいていた。揉むだけでなく、指を伸ばして、こりこりとした乳首もいじる。強くなった愛撫と快感にフランの小さな身体が震えた。
 駄目だと思っても、もうフランの左手はとまらなかった。まるで、別の生き物のようにフランの手はいやらしくフランの小ぶりな乳房を弄んでいた。
 
 否、別の生き物、というより――
 
 それは姉の手だった。
 
 フランの心の中のレミリアの手がフランを快楽へと責め立てていた。

 「……ふぁあ、変だよぉ……手が、手がとまらないよお……」

 フランは自らの手の動きに――心の動きに戸惑いながら、自慰を続けた。想像の通りの姉の手の仕種に合わせて、自らの左手を動かす。それは先ほどの手つきよりもずっと淫らで、いやらしく――そして、何より繊細で優しい動きだった。

 「はぁッ、ふぁあッ……だめなのに、だめなのに……やあッ、ひゃッ……」

 身体が熱い。まるで赤く灼熱する鉄の塊にでもなってしまったかのように熱かった。そして、どきどきと心音がフランの理性を叩く。不安もなく安堵もなく、うるさいとも感じずに、フランはただ胸が激しく振動する音を聞いていた。
 やがて、フランは胸だけでなく、頭も熱くなってくるのを感じた。心が叫びだしたいほどに疼く。胸を揉んでいるだけではまだ足りなかった。乳首をまさぐっていたフランの左手は、フランの身体をつぅっ――となぞりながら、股座へと達した。
 左手がフランの赤いスカートをめくる。そして、白い指がドロワーズ越しにフランの股間を撫でた。

 「……んッ――!」

 胸をいじっていたときとは違う種類の快楽に、フランの肢体が震えた。ドロワーズは少し湿っていたが、それはきっと汗のせいだけではないだろう。フランは自分のドロワーズが濡れていることを知ると、自分のしたことではあったが、頬が紅潮するのを感じた。
 
 ――いいかげん、やめなきゃ……

 さすがにやりすぎだ、とフランは思う。このまま続けてしまったら、本当にとまらなくなってしまいそうで怖かった。それに姉に対してとても申し訳なく思う気持ちがある。
 
 しかし―― 
 
 「欲しいよ……」
 自分の気持ちに驚きながら、フランは呟いた。理性と違う方向にフランの感情は暴走していた。
 「お姉さまが欲しいよ……」
 フランは何かに急き立てられているような心地で一人ごちた。
 「お姉さまに触ってほしいよ……お姉さまに、たくさんしてほしいよ……」
 フランの心にできた暗い空白と、レミリアを恋焦がれる気持ちはひたすら強くなるだけだった。
 
 フランの左手が、再びドロワーズ越しに、フランの大切なところを撫でた。

 「ふぁッ、にゃッ……お姉さまぁ、お姉さまぁ……」

 白い指がドロワーズの上を躍る。フランの陰部がふにふにと形を変える。デリケートな場所が、衣に擦すれて刺激される感触に、フランの身体が震えた。だんだんとドロワーズの湿り気が強くなってくる。

 『――どうしたの、フラン、こんなに濡らして?』

 心の中のレミリアが意地悪そうに微笑んでそう言った。想像の中の姉は、恥ずかしがっている自分を見て嬉しそうに、綺麗な指で愛撫を続ける。
 
 「だめぇ……お姉さまぁ、そんなところ触っちゃだめぇ……」

 フランはうめきながら、自分の秘所を自分の手でいじりつづける。自分がおかしなことを言っているのはわかっていた。今、この場にお姉さまはいない。自分を触っているのはお姉さまじゃない。けれども、とめようがなかった。お姉さまに触ってもらっている――そう考えると、フランは自分の指を動かすのをやめられなかった。
 
 ――何て都合のいい妄想。
 
 ――何て自分勝手な願い。
 
 頭の片隅で冷静な自分の声が聞こえる。だが、フランは泣き出しそうになりながらも、自分を慰める手の動きをやめようとはしなかった。

 フランの左手はやがて布越しに愛撫するのをやめ、ドロワーズの中に強引に潜り込んだ。「……ひっ!」と、手で秘所を直接触れられる感覚に、フランが小さな悲鳴を上げる。だが、フランはそのままドロワーズの中で細い指を動かす。フランの指は愛液に濡れながら、幼い陰部を撫で回していた。
 
 「やあッ、ふぁあッ……だめぇえッ……そこ、だめぇえッ……ひゃあッ!」

 ドロワーズ越しに触れていた感覚とは比べ物にならない快感。びりびりと電流のような快楽が走り、小さな身体を震わせる。フランは喘ぎ声を上げ、涙をぽろぽろこぼしながらも、自分の秘所をまさぐる手の動きを速めた。ふっくらとした大陰唇を弄んでいた指がずれて、陰裂に指先がかかった。その鮮烈な刺激に、「ふわぁあッ!」とフランは大きな嬌声を上げる。

 『あら、フラン、何が駄目なのかしら? あなたのあそこは、こんなにもひくひくと震えて喜んでるのに。私には、もっとして、と言ってる風にしか聞こえないわよ』
   
 想像のレミリアがまた意地悪を言う。けれども、その顔は言葉とは裏腹に優しそうに微笑んでいた。フランは姉の優しい笑顔を幻視しながら、秘所をひたすらに愛撫していた。
 
 「ぅん……もっと、もっとぉ……」
 
 フランは息を乱しながら、タオルケットを掴んでいた右手を空けた。そして、ベッドの上に横になったまま、自分のドロワーズを両手で膝まで脱がす。フランは右脚をもぞもぞと引き上げて、ドロワーズの束縛から逃した。すると、白く滑らかで、ふっくらとしたフランの幼い陰部が露になる。股間部がぐっしょりと濡れたドロワーズは左脚にかかったままだったが、フランはそれを放っておくことにした。
 フランは再び、右手でレミリアのタオルケットを掴んだ。そのままタオルケットを顔に押し付ける。レミリアの匂いが胸の中を満たす。それだけで、フランはレミリアに抱き締められているような気分になった。そして、左手を自分の秘所にあてがう。ドロワーズから解放されたフランの性器はひくひくと震えながら、溢れんばかりに愛液をこぼしていた。
 脚を大きく開き、フランは左手で自慰を続けた。中指と薬指を揃え、二つの指先を真っ白なクレバスの中へと潜り込ませる。柔らかな桜色のびらびらが二本の指に押し広げられる感覚に、電撃のような快感が走った。フランは息を荒げながら、ひくひくと震えている窪みを二本指の先端で触れる。どきどきと快楽を期待する自らの心音を聞きながら、フランは揃えた中指を薬指を膣口へと突き込んでいった。
 
 「ふぁッ……! は、あぁぁああああああああああッ……!」

 二本の指が蜜壷から愛液を溢れさせながら、奥へと進んでいく。フランの幼い膣は大きく広がりながら、白い二本の指を強く咥えこんでいた。がくがくとフランの矮躯が震える。眦から涙をこぼし、肩を激しく揺らしながら、フランは自分の指を自分の狭い膣口いっぱいに侵入させていた。秘所から生まれ、全身を焦がすように暴れ回る快楽の電撃にフランはびくびくと身体を痙攣させた。

 「……はぁ、いゃあ、ふぁあ……きついよぉお……ぎちぎち言うくらい、きついよぉお……」

 目を瞑り、しばらく息を切らしながら、フランは強すぎる快楽の波が収まるのを待った。ようやく身体の痺れが落ち着いて来たところで、フランは中指と薬指を上下に動かし始めた。二本の指で自分の膣を激しくかき回す。そして、親指や掌底を使い、同時にひだの上から陰核を圧迫して刺激した。
 
 「……ふぁッ! ひゃッ! ふわぁあッ! ……はげ、激しいよぉお……ひやぁあッ、ふあぁあッ!」
  
 甲高い嬌声を上げながら、自分の恥部を強くまさぐるフラン。じゅぶじゅぶと湿った音を響かせて、ピンク色の膣口を揃えられた指が出入りしていた。フランの大事な場所がかき混ぜられるたびに、白く細くて愛らしい指にとろとろと淫らな液体が伝う。フランの幼い陰部から溢れた蜜は、姉のベッドに敷かれた純白のシーツにいくつもの暗い染みを作った。

 『どう、フラン? 私の指は気持ち良い? 私の手でエッチな場所をいじられるのは気持ち良い?』

 熱くぼーとした頭の片隅で、姉の声を聞く。涙の溢れる目で、虚空に姉の意地悪で慈愛に満ちた微笑を見る。それが自分の心から出た幻想であると知りながらも、フランは今、自分が姉の指によって犯されているような気分だった。

 否――
 姉によって犯されていると信じたかった。

 フランは快楽に耐え切れず、目を瞑むって叫んだ。

 「ひぐッ……気持ち、良い……お姉さまの指、気持ち良いよお……! ……ふにゃあッ! ふぅあッ、んやあッ、ひあッ、はあんッ、ひあんッ、ひやぁあッ……!」

 言葉に呼応するように、指の動きがさらに大きくなる。まるで、姉の嗜虐的な性格が乗り移ったかのようだった。愛液を溢れさせている秘所がかき回される音と幼い少女の喘ぎ声がさらに激しく暗い部屋に響く。フランはさらに強い快楽を求め続けた。

 だが――

 どうしてだろう――
 どうしてだろう、とフランは快楽に痺れた心で思う。
 こんなに気持ち良いのに。
 ものすごく気持ち良いのに。
 けれども、何かが絶対に足りなかった。
 まだ心の空白を埋め切れていなかった。
 むしろ、それはより深く鮮明になってきていた。
 何が足りないのかわからない。だが、フランは今、自慰を続けることしか出来なかった。さらに指を動かす速度を強める。もっと快楽を得れば、この逃げ出したくなるような気持ちが消えるんじゃないかと、フランはただひたすらに快楽を追い求めていた。
 
 否。
 
 何が足りないのか――本当はわかっているのだ。
 
 けれども、フランはそれに気づきたくないだけで。
 
 本当はフランはそれをわかっていて。

 痛いほどにわかっていて。

 死にたくなるほどにわかっていて。

 でも、今は――

 今だけは――忘れていたかった。

 フランは、快感に反比例して大きくなっていく切なさとやりきれなさに追い詰められるように、懸命に指を動かしていた。眦に涙を浮かべ、肩を大きく上下させ、快楽の先にある何かに手を伸ばすように、フランは自分の秘所を突き続けた。
 脚ががたがたと小刻みに揺れ始めた。身体――特に下腹部の奥から、何か巨大なものが生まれそうな気配を感じる。幸福に似た顔をもつそれを求めて、フランはさらに自分の最も大切な場所を犯し続ける。フランは身を八つ裂きにされるような快楽に叫んだ。
 
 「……イくッ……もうイっちゃうッ! お姉さまの指が気持ち良くてイっちゃうよおッ……!」

 フランの叫び声に反応するように、レミリアの声が聞こえる。虚空に浮かんだ姉の顔が優しげに微笑んで囁いていた。

 『いいわ、フラン。私にフランのイっちゃうところを見せて? 私に可愛いフランの姿を見せて?』

 ――何て自分勝手な幻想。

 レミリアの声を聞きながら思う。

 まるで夢みたいに自分勝手だった。

 けれども、それを求めずにはいられなくて――

 そうしないと、本当に死んでしまいそうで――

 心の中の姉の言葉に従うまま、フランは自分の弱い心を慰め続ける。

 フランの指が一際強く自らの膣を突いた。その衝撃に、フランの身体が壊れるように震えた。ぎゅっと、タオルケットをもつ右手が締まる。

 「……だめッ……らめぇえッ、もうッ……ふぁッ、ふわあああああああああああッ……!!」

 フランは絶頂の叫びとともに、大きく身体を痙攣させた。ぎゅうぎゅうと膣が収縮運動を起こし、咥えていた二本の指を締め上げる。目からいっぱい涙をこぼし、がくがくと身体を震わせながら、フランは快楽に蹂躙される衝撃に懸命に耐えていた。
 ――やがて、快楽の嵐がやんだ。フランは肩を上下させて、絶頂の余韻に浸っていた。ようやく息が落ち着いたところで、フランは指を秘所から引き抜いた。敏感になった陰部が指とこすれる感覚にびくりと身体を震わす。そして、フランは今までずっと握っていたレミリアのタオルケットを放した。
 フランはぼーとしたまま天井を見上げた。
 照明もなく薄暗い部屋の天井は、相変わらず綺麗に手入れされているのに、どこかにじんで汚れているような気がした。
 天井は陰鬱で物悲しかった。
 口の奥がむずむずと痛む。落ち着いたはずの息がまた少し荒くなる。目が何だか火照ってきたような気がした。
 疑問は自然と口から出ていた。
 
 「何をやってるんだろう……?」
 
 フランは右手で額を押さえながら、また呟いた。
 
 「私は、本当に何をやっているんだろう……?」

 ひたすらに感情を突き動かしていた快楽が終わり、冷静な思考が戻ってくる。自らの愛液によって濡れた左手を見やった。ぬらぬらと糸を引いて光っている自分の手がひどく不細工に見える。何をやっているんだろう、とフランはまた呟いて目を瞑った。
 結局、自分を責めているものは無くならなかった。
 自分を不安にしているものは消えることはなかった。
 むしろ、その暗い気持ちはより強くフランの心を圧迫していた。
 
 「お姉さまはここにはいないのに……」

 フランはそう呟いて、ようやく自分を追い立てていたものの存在に理解することができた。

 自分は――寂しかったのだ。

 自分がレミリアと、そして、皆といっしょにいられないことがとても寂しかったのだ。  
 そして、不安だった。
 たまらなく不安だったのだ。
 自分だけがとり残されることが。
 自分だけが孤独にとり残されることが。
 誰も自分の相手をしてくれないことが。
 皆、自分を置いてどこかへ行ってしまうんじゃないかということが。

 ――嫌だった。
 
 それだけは嫌だった。
 一人は嫌だった。
 皆といっしょじゃないのは嫌だった。
 お姉さまといっしょにいられないのは絶対に嫌だった。

 「……お姉さま」

 暗い部屋の中でフランは呟く。その小さな声は陰鬱な空気に吸い込まれてしまいそうなほど、弱々しかった。

 「お姉さま」

 前よりもずっと大きな声。だが、それでも答えてくれる声はなかった。フランの恋い慕う人はフランの声に答えてはくれなかった。

 「お姉さまぁ!」
 
 フランは叫び声を上げた。息が苦しくて仕方がなかった。呼吸がおかしい。部屋の外にまで聞こえるような大声でも、返答はない。薄暗い姉の部屋はすぐに静かになってしまった。

 「……お姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さまお姉さま……!」

 癇癪を起こした子供のように、フランは姉を呼び続けた。呼吸が続かなくなるまで、フランは狂ったように『お姉さま』を唱え続けた。
 
 けれども、どの一つにも姉は返事をしてくれなかった。

 ――当然だった。

 ここにはレミリアはいないのだから。

 今のこの部屋にはレミリアはいないのだから。

 フランの傍にはレミリアはいないのだから。

 フランは今、一人なのだから。

 「……お姉、さまぁ……」

 力尽きるように最後の『お姉さま』を呟く。フランの頬に涙が伝った。口の奥にしょっぱい味が広がる。疲れ切った喉ががらがらと痛かった。
 フランは泣いていた。
 一人きりで、寂しく泣いていた。
 
 「……助けてよ」

 フランは顔をくしゃりと歪めながら呟いた。

 「……こんなの嫌だよ。こんな苦しいのは、嫌だよ……」

 フランは右腕を目に押し付けて、肩を震わせながら一人ごちる。

 「……助けて、助けてよ……私を助けてよ……」

 フランは嗚咽に耐えながら、必死に声を出す。

 「……お姉さま、助けて……お姉さま、私を、助けて……」

 フランは胸の奥から吐き出すような声で、もう一度小さく姉を呼んだ。



 そして――



 「――どうしたのかしら、フラン?」



 フランがこの世で一番恋焦がれている人の声が聞こえた。
 
 不敵で、強気で――

 けれども、どこまでも温かく、優しい――

 まるで――夜空を穏やかに照らす満月のような声だった。



 フランは最初、その声がわからなかった。その声を認識するまでに何秒も時間がかかった。フランはゆっくりと首を上げて、声のした方向を見た。
 
 そこには大好きな姉の姿があった。

 レミリア・スカーレットはドアのところに立って、フランを見つめていた。

 最初は幻覚かと思った。また自分の都合のいい妄想かと。自分が望むあまりそんな空夢を見ているのではないかとフランは疑った。
 でも、違った。
 そこには、確かにレミリアがいた。

 「……どうして」

 フランは自分の目に映っている人物が確かにレミリアであると理解すると、驚きに満ちた声を出した。

 「どうして、お姉さまがここに……」
 
 姉はまだ博麗神社で宴会をしていると思ったのに。予定よりも数時間早い帰宅だった。だが、妹の問いかけに対して、レミリアは肩を竦め、不敵な微笑を浮かべた。

 「『どうして』? フランにしては珍しく、愚問ね」 

 レミリアはにやりと妹に笑ってみせた。

 「フランに呼ばれたからに決まってるじゃない」

 その答えにフランはぽかんとしてしまった。だが、フランは自分の心を締め付けていた暗い気持ちが軽くなっていくのを感じていた。レミリアはそのままフランの呆けた顔を見ていたが、ぷっと吹き出し、くすくすと笑う。

 「半分冗談だけどね。つい、今、帰ってきたところよ。ちょっと雨が降ってきそうだったから、早めに切り上げたの。そうしたら、案の定だわ」

 「まあ、半分は本気のつもりだけど、ね」と言いながら、レミリアは窓の外を親指で示した。フランは近くの窓から外の様子を覗く。いつの間にか外の天気は土砂降りになっていた。運命を読む力のおかげだろうか、レミリアはそれよりも早く帰ってきたようだった。
 レミリアはやれやれと小さく首を振ると、部屋の照明を点け、フランのいるベッドに近寄ってきた。
 フランは姉が近づいてくるのを、呆けて待っていることしかできなかった。
 フランが脚を投げ出しているベッドに、レミリアも腰をかける。そこでようやく、フランは慌てて起き上がり、脚をハの字にしてベッドの上に座り直した。
 
 ――どうしよう。

 本当にどうしようだった。フランはこんなに早く姉が帰ってくるとは思っていなかった。まだ、自慰の痕跡がまだレミリアのベッドに残っていた。シーツにフランの愛液がこぼれていた。脱いだドロワーズも左脚に絡まったままで穿き直していない。フランが姉のベッドの上で自分を慰めていたということが明らかだった。
 
 ――嫌われる。

 フランは、先程とは比べものにならないほどの恐怖を感じていた。心の中の何かが、がらがらと壊れていくような感覚だった。お姉さまに嫌われる――そう考えるだけで、思わず嘔吐してしまいそうだ。そうなれば本当に死んでしまうほうがマシだった。自分の顔から血の気が引いていくのを感じる。フランにできることは、レミリアが話しかけてくるのをただじっと待つことだけだった。
 レミリアの顔は赤くなっていた。お酒のせいだろう。すぐ近くに座っているレミリアから、ほんわかとしたアルコールの匂いが鼻をくすぐる。顔も少し朱色に染まっていた。姉はフランのほうを見ず、ぼーとしたようにベッドの反対側の壁を見ていた。笑顔でもなく真面目でもない表情。レミリアは何かを考えているようでもあったが、何も考えてないようにも見えた。まさか、気づいていないわけではないだろう。だが、レミリアはまるでそのことについて反応がないようであった。姉のその様子はフランはひどく困惑させていた。
 長く沈黙が続く。フランはだんだん居たたまれなくなってきた。そもそも自分が悪いのだ。自分の不在に部屋に入られ、ベッドの上で自慰されるなんて、不愉快極まりないことだろう。ショックを受けて、トラウマになってもおかしくはない。まず、自分から謝ることが必要だろう。そう考え、フランは苦しみながらも口を開いた。
 
 「あの、お姉さま……」

 その言葉に、「んー?」とレミリアが返事をする。姉はゆっくりと妹のほうに顔を向けた。レミリアの紅い瞳が静かにフランを見つめていた。その瞳の輝きに、フランは意図せず口が閉まるのを感じた。フランは恐怖に震える心を起き上がらせ、レミリアに頭を下げながら謝った。
 
 「……ごめんなさい。お姉さま」
 
 「……………………」

 レミリアは真っ直ぐにフランの緋色の瞳を見ていた。姉の目に宿る光に恐怖を感じながら、フランは謝罪の言葉を続ける。

 「……その、私、お姉さまがいない間に、勝手に部屋に入っちゃって……それで、お姉さまのベッドの上で――」



 その次の言葉を続けようとした瞬間――
 
 フランは口を押さえつけられていた。
 
 突然のことで、何が起きたのか、一瞬わからなかったが――
  
 フランの唇は、レミリアのそれで塞がれていた。
 
 驚愕に目が開く。
 
 反射的に首を動かそうとするが、頭は姉の右手でがっちりと押さえつけられてしまっていた。
 
 背中にも腕が回されている感触。
 
 すぐにフランの口内に柔らかで長い姉の舌が侵入してくる。
 
 「……んッ、んぐッ、んぐぅッ……!」
 
 驚きのあまり、フランは抵抗しようと舌を転がすが、すぐにレミリアの舌に絡め取られてしまった。
 
 そのまま姉の舌による愛撫を受ける。 

 甘くて刺激的な快楽に、身体の芯が燃えるように熱くなっていった。

 やがて、フランも積極的に舌を動かし、レミリアと舌での交合を受け入れていた。

 二人は息が続かなくなったところで顔を離した。姉妹は息を切らしながら、お互いの顔を見つめていた。レミリアはフランの後頭部に捕まえていた右手を放し、代わりにそっとフランの頬に当てた。レミリアは宝物を愛でるようにフランの白い頬を撫で、満月のように明るく微笑んで言った。

 「……一人じゃ、キスはできないからね」

 どこまでも優しい声だった。その声に、フランは心の中の不安や恐怖が融けていくのを感じた。レミリアはおかしそうに笑いながら言った。

 「何があったかは言わなくていいわ。別に怒ってないしね。驚いたのは確かだけど。でも、今日のフランは不安定だから、まあ仕方ないのかもしれないわね」

 「早く帰ってきたのも、フランが心配だったから、ていうのもあるし」と、レミリアはフランの頬をもう一度撫でる。レミリアの言葉の一つ一つが、フランの暗い気持ちを消していった。フランは黙って姉の優しい笑顔を見ていた。レミリアはフランの表情が落ち着いてきたのを見て、いつもの不敵な笑顔を浮かべる。そして、やれやれという風に首を振った。

 「まったく、フランは我慢しすぎなのよ。必要のないときでも我慢するんだから。本当に悪魔らしくない子。もっと我が儘を言ってくれないとこっちが心配になるわ」

 「はっきり言って、ここまでくると慎ましいというよりは、臆病のほうが近いわよ」とレミリアは怒った風に言う。姉の言葉に、フランは思わず吹き出してしまった。くすくすと笑い声を上げる――それはとても明るい笑い声だった。

 「……私が我が儘を言わないというより、お姉さまが我が儘言い過ぎなんだよ……」

 「む。言ってくれるわね、フラン。じゃあ、私だけが我が儘だって非難されるのは悔しいから、あなたも何か我が儘を言いなさいな」

 「……解決法が間違ってるよ」

 「まあ、私なら、フランが我が儘を言わなくても何をして欲しいかなんて、すぐにわかるけどね」
 
 そうして、レミリアは妖艶に微笑む。滑らかな手がフランの頬を優しく撫でる。その笑顔と仕草にフランは胸が高鳴るのを覚えた。何も言えなくなってしまうほど、身体の芯が熱くなってしまうのを感じていた。どうやら、自分は相当姉に参っているようだ、とフランは認識を新たにしていた。

 レミリアがフランの桜色に火照った頬をくすぐりながら笑う。
 
 「今日の残った私の時間を全部、フランにあげるわ」

 その言葉に、フランは思わず息を呑んだ。レミリアは悪戯っぽく微笑しながらフランの肩に手をかけ、少しだけ力を加えて妹の小さな身体を押し倒した。フランは抵抗もできずに、ベッドに横になって姉を見上げる格好になってしまった。

 「その代わり、私もフランの今日残った時間全部をもらうことになるけどね」

 「そこら辺は、今日フランが私のベッドでしたことのお仕置き代わりってことで」と、レミリアはフランの上着のボタンに手をかけながら言う。レミリアがまた微笑む。その微笑は、大好きな子をわざといじめる子供のそれと同じだった。
 フランはそんな姉の笑顔をじっと見ていた。
 フランの心のなかの重苦しいものは、すっかりと消えてしまっていた。
 フランは、自分のボタンを一つ一つ外していく姉に言った。

 「ねえ、お姉さま」

 「何かしら、フラン?」

 「お願いがあるんだけど」
 
 レミリアがフランの顔を見やる。すると、姉も妹の意図を察したのか、微笑みを深くした。

 フランは胸がどきどきと鳴るのを感じながら言った。自分の心臓の音はとても心地よかった。

 「もう一回、キスして」

 フランはもっと我が儘になっていいというレミリアの言葉を思い出しながら、お願いした。

 「もう一度、お姉さまとキスしたいな――」

 その言葉に、レミリアは心底嬉しそうな笑みを浮かべた。フランの服のボタンを解いていた手を休め、再びフランの頬を撫でる。
 
 「――お易い御用だわ」

 レミリアが静かにフランの唇に自分のそれを重ねる。フランもまた姉の優しい接吻を受け入れる。姉妹は舌を絡ませて、お互いの愛を激しく求める。

 胸いっぱいに姉の香りが広がる。
 
 少しお酒臭かったけど――

 それはとても安心する匂いだった。

 タオルケットの匂いよりも、ずっと安心できて優しくて――

 幸せな匂いだった。

 「――ありがとう」

 キスが終わって、フランはレミリアにお礼を言った。

 「ありがとう、お姉さま」

 フランはお姉さまにお礼を言えることが何より嬉しかった。


 









 そして、姉妹はそのまま愛し合った。

 レミリアの手はフランの想像の手よりもずっとすごかった。

 いやらしくて、淫らで、意地悪で――

 そして、何より繊細で、優しかった。

 レミリアの言葉も、フランの思い描いていたものより、激しくて温かかった。

 現実のお姉さまは、フランの心の中のお姉さまよりもずっと素敵だった。








 




 交合が終わると、姉妹はレミリアのベッドに並んで横になっていた。フランはレミリアには少し大きめの枕を、姉といっしょに使いながら、姉の寝顔を眺めていた。こうして、フランよりも先にレミリアが眠ってしまうことは珍しい。きっとお酒のせいだろう。
 
 幸せだった。

 こうして、レミリアといっしょにいられることが幸せだった。

 今日のようなことはこれまでもあった。
 孤独への不安に襲われることは数限りなくあった。
 そして、これからもあるのだろう。
 嫌になるくらい。
 
 けれども――
 
 今なら、我慢できるような気もした。
 いや、そう言ったら、またお姉さまに怒られるかもしれないけれど。
 でも、前よりも耐えられるような気がするのは本当だった。

 フランはレミリアの安らかな寝顔を見る。自分の我が儘を聞いてくれると言った姉が、とても力強く思えた。
 フランは悪戯っぽく微笑んで、レミリアに語りかける。
 今ここにいるが、きっと返事をしてくれない姉に、妹は微笑んで話しかけた。

 「ねえ、お姉さま、お願いをしてもいいかな?」

 自分は臆病だなあ、と微苦笑しながら、フランは眠っているレミリアに言った。

 「――ずっとそばにいてね」

 フランは大好きな姉の寝顔を見つめながら、真心をこめてお願いする。

 「お姉さま、ずっと私のそばにいてください」

 すーすーと姉の穏やかな寝息だけが聞こえる。やはりレミリアは返事をすることはなかった。

 だが、どうしてだろうか――



 『――お易い御用よ』



 そんな優しい姉の声が聞こえた。

 それは幻聴なんだろうけど――

 けれど、幻聴だとしても嬉しくて――

 フランはレミリアの頬に小さく接吻した。



 ――お姉さまの寝顔は優しく嬉しそうに微笑んでいるように見えた。













投稿3作目です。
稚拙な文章ですが、楽しんでいただければ幸いです。

無在のフランは寂しがり屋な上に泣き虫です。それ以上にお姉さまラブです。作者の趣味が全開なわけですね。まあ、紆余曲折あって、この姉妹かなりラブラブしてるんですが。無在のスカーレット姉妹はフランがかなりレミリアに依存してる感じです。でもって、レミリアもかなりフランに依存してます。おまえら、道徳的にどうなの、って気にもなりますが、その辺の葛藤、つまりは過去話はおいおい書いていきたいと思っています。楽しみにしてくださったら、本当に幸いだと思っております。つか、文章構成がワンパターンすぎますねw 最後の締めが『ある一夜の約束』とほぼ同じでございますw 要反省です、すいません。

しかし、自慰は難しいですね。なめて書き始めたら、痛い目に遭いました。よく考えれば、二人で分割する作業を一人で書かなければならないのだから、難しいに決まっています。無在、本当にアホな子。でも、自慰はネチョで一番難しいのかもしれません。感情描写も複雑になるし。

無在は、ネチョはネチョで、全年齢向けでは書けない感情があると思っております。今回はそれを書こうと思って筆をとりました。エロもまた人生の大切な一部であり、コミュニケーションだろう、と。どれだけ成功したのかはわかりませんが、もし、それを感じ取っていただけたら、これに勝る喜びはありません。

以上の駄文をもって、筆を置かせていただきます。

追記1:タイトルに『ふとんどーる』の使用を許可していただいた、小宵様にこの場を借りて、深く御礼申し上げます。ありがとうございました。
無在
hitokiri.humikata@gmail.com
コメント




1.名前が無い程度の能力削除
これは素晴らしいレミフラ
ごちそうさまでした

フランが我儘をいうあたりが…クリーンヒット。
2.おじさん削除
直球ど真ん中です
ありがとうございました
3.名前が無い程度の能力削除
なんだこの妹様は、可愛すぎるじゃないか。
さすが無在さんだぜ。
4.名前が無い程度の能力削除
無在さんのレミフラが俺の生き甲斐だぜ…
5.無在削除
>>1様
 ありがとうございます。
 臆病で優しい女の子にとっては、我が儘を言うことさえ難しいことなのだと思います。
>>おじさん様
 ありがとうございます。
 楽しんでいただけたようで何よりです。
>>3様
 ありがとうございます。
 もっと可愛い妹様を書いていきたいと思っております。
>>4様
 大変光栄なお言葉、ありがとうございます。