真・東方夜伽話

狗肉の柵(永遠にshort ver.)

2009/04/20 00:11:55
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狗肉の柵(永遠にshort ver.)

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例によって、いろいろとアレな設定なので、お好きな方だけ読めばよろし。
突っ込んだら負け。



















 おんなの胸の肉を噛んで、甘いなあおいしいなあと思っているうちに、
 そのおんなが絶命してしまうのが、いつものことで、毎度わたしは困っている。

 好いたおんなではあったのだ。
 一緒にねようと思うぐらいには、たぶん。

 けれども可愛がられて撫でられて同衾しているうちに、もよおして、噛む。
 初めはべろべろと顔や首や腰を舐めて歯の疼くのを紛らわせようとしている。腹のくうくう鳴るのも構わずに、おんなの膚のうえを長い桃色をした湯気の立つ犬ころの舌で撫ぜまわして唾液をなすりつけている。
 わたしは犬ころと呼ばれ、腹をなぜられるのがたいそう好きなので、そのようにして覆い被さって、おんなが、きゃあ止めなさい椛、だとか云うのが嬉しくてはしゃいでいるうちに、頭の中で繰る繰るする気持ちが抑えられなくてたわむれに胸の上の蛇苺を一口はむ。そのうちに立ちこめてくるおんなの匂いの心地よいのに酔うてしまい、気が付けば思い切り尖った牙を突き立てている。
 おんなの肌は柔いので、噛み心地がよくて困るのである。歯にやんわりと絡み付く肉や皮膚や脂肪や血液など、甘いなあおいしいなあと思っているうちに、おんなの息は絶えているのである。
 死んでしまい冷めてしまうと肉は美味しくなくなる。あとおんなも黙るので、仕方なしにわたしはその家を出てまた野山を駆け巡るのであった。

 そうやって四五人ほどかみ殺した時分であろうか。
 何やら天狗の数人つどいて、わたしの手足を縄でぐるぐる巻き付けて引っ張っていった。縄に括られるのは、犬の本分であるからわたしは大層喜んで尾っぽなど振りつつ引きづられて行った。それが散歩の作法であろうと思ったからだ。

 わたしはたれかに飼われとうて仕様ない。
 人恋しいのである。春だから。
 また歯が痒いので何ぞ噛み心地の良い物をあむあむしたくなる。
 連れられた先に柔い物があると良いと思う。柔くて、されど容易には千切れぬような強靱なおんなが欲しかった。

 向かうた先、小さな庵あり、窓に鉄格子などで剣呑であった。その剣呑のうちに、文さまが座って居られた。ささくれ立った畳の上に、綿のはみ出した座布団の一対、向かい合わせに据えられていた。

 天狗衆に背中を強くけり入れられ、わたしはさすがに不機嫌になり、がうと品無く鳴いた。
 品の良い犬ころのフリをしてでも、たれかに可愛がられたくて仕様のないにも関わらず、怒るときは自ずと、がう、なのであった。じねんの理である故、致し方在るまい。

 土間に這いつくばっていたわたしへ向けて、含み笑いが降りてくる。

「恐ろしい狼ですね、まったく」
「そんなことないです。おとなしい犬ころです」

 良い仔の演技をして太い尾をわさわさと振って、しゃがんで上目遣いなどしてみた。両手は足の間である。行儀というのはそのようなものだと前のおんなは云っていた。加えてお座りは得意技であった。
 たれかに飼って欲しい。それが柔くて温いおんなであれば尚のこと良い。
 そして承知の通り、目の前で腕組みしている報道天狗は射命丸文と云って、妖怪の山でも特に有名なおんなの天狗であった。

 文さまは云った。
「ひとを喰い殺すような狼はいずれ狩人に撃ち殺されますよ」
「食べてはいないです。屍肉は美味くないし、上品ではないです」

 わたしは丁重に応えた。出来るだけ冷静で落ち着きある生き物のように振る舞えば、このおんなもわたしを飼ってくれるかもしれぬと打算していたのである。些か焦燥も在る。ここ数日、木の皮ばかり噛んでいたが故に柔いものが欲しうて欲しうて堪らなかったのだ。

「撃たれる前に、ここへ連れられてきたのは、お前に価値があるかどうかを見極めるためです」
「はあ」
「それだけの牙を持つなら、どれほど強くなるか。春を過ぎて牙を納める方法を知れば、いくらかの使い道が生じるかもしれないと、上の方が判断したのです。スキマ妖怪なぞに括り殺されるよりはマシかと」
「はあ」

 何を云われているのか分からなかった。とりあえず、褒められているのだろうとは思ったが、余り嬉しくはなかった。それよりも耐えようもなく牙の疼く。落ち着かぬ。
 わたしは耐えきれずに口を挟んだ。

「とりあえず、歯が痒いです」
「……我慢なさい」
「いやです」

 そう云って、立ち上がった。後ろは既に鍵のかけられた扉で封じられている。鈍色の錠前と鎖の、無神経に硬く金臭い見た目に苛となった。
「ぐるるるる」
 うなりながら小さな部屋を回る。ざっかざっか音を立てて畳を蹴り散らす。ささくれ立った畳がぶちぶちして、ますます腹の内がううふうと音を立てて怒った。

 これがわたしの春の在りようである。気が立つのも致し方ないことである。獣の血が沸々して勝手に足と手と躰とが踊り出してしまう。あぐあぐと空噛みをして歯の痒いのを堪えようとしても収まらぬ。

「かゆい。ぐうるるる」

 見かねたように、文さまはぐっとわたしの腕を捕らえた。その指の細いにも関わらず、何故だか力の強いことに一刹那、感服した。

 文さまは笑んでいた。冷たいと云うに差し支えない程度の微笑であった。

「仕方のない犬ころ。次よりは待てを知りなさい」

 そう云いつつ、文さまは自分の上衣をはだけさせた。晒しの白いのが目立たぬ程に首から胸元にかけて肌は白々して、さらに胸の肉は開けた布の上に載る程度にたぷりとしている。噛み応えは生半可ではあるまいと見受けられた。

「これを噛むのが好きなのでしょう。報告は聞いていますから」

 飽くまでも平静のいろを隠さぬ文さまの声は、何処かさむしかったが、その時のわたしはただの獣であった故、委細へは頓着せぬ。ただ貪るようにして口を開いて、牙を立てた。

 感触はほどよく柔い。
 柔いが、一口目で先ず、布越しであることに気づき、味わいの無いのに閉口したので、手を使うことにした。犬は元来手を使わぬが故に犬食いとも称さるる。さりとて、敢えて手を使わずに布を取り去るは、酔狂の類であろうと推測された。餓えたけものに酔狂なぞは不要である。

 文さまの細い背中へ手を伸ばして、結び目を探す。腋の下へ晒し布の端を隠し込んでいるのを見つけて、わたしはふぐるぐと鼻息を立てて笑んだ。口の中には布越しの乳首を押し込んだままであったので声を立てて笑うことは困難であった。

 衣擦れを聞くまでもない。ただ皺にするだけの布に用はない。柿を食うときに皮ごと飲み下すように、おんなを食うときにも布ごと飲み下すことが出来れば良いが、至極残念なことに柿の皮より布の方が固く、また漂白された綿布には滋味も無い。やむを得ぬが吐き捨てる時のみ、いっとき乳房を口から離す。はらりと解けた生乳の上に噛み跡はくっきりと残っていたが、痕の赤味と唾液の汁気は文さまの膚の白さをいっそう輝かせるように見えた。

「ううふううぐるう」

 漂ってくるおんなの香りに牙がまたじぐちく痒くなる。
 それを抑えるおんなの柔い肉へ、わたしは咬むついた。どれだけ酷くしがんだとしても血の味はせぬ。汗の微かにしおぱい他には味のせぬ淡泊な白い肉であり、上品な風合いで実にわたし好みの乳房であった。無遠慮に牙を突き立てようとも食い込みこそすれ千切れはせぬ。弾力に富みそのくせ硬くはない。
 あむあむと歯と舌を絡める。自分の息の荒いのばかり耳に残っていて、文さまは静かにしていた。何の悲鳴もないのを訝しく感ずる程度の余裕、力の加減をする余裕がようやく生まれた。

「ふぅ、う」

 沸き立っていた血が少しずつ抑えられていくのを感じて僅かに安堵した。このままかみ殺してしまうのは惜しいと感じるほどの優れた肉であった。

「落ち着きましたか」

 始まる前と同じ声。

「今日から家の仔となりなさい」
「は」

 わたしはそう云われるのが嬉しかった。だから小さな御礼の積もりで、ざらざらと肉厚で湯気の立ちそうな犬ころの舌で文さまの頬を舐めた。

 文さまは少しも嬉しそうには見えなかった。
 ただ無表情に、目だけをむつりと細めてその舌を受けるばかりで、それをわたしは寂然と感じた。




 それからしばらくはその小さな庵で文さまだけを食べて過ごした。
 文さまの乳房は白くてふわふわと雪のようだけれど、どんなに強く噛んでも千切れないほどに弾力を帯びているので、わたしは安心してかぶりつくことが出来る。

 いちどき、痛くはないのですか、と聞いた。
 文さまは、別に痛いのは辛くないと答えた。
 わたしはそれを聞いて大層うれしくなるが、それは嘘かもしれないと思うのを忘れないようにする。

 共に暮らし始めてすぐに気が付いた。
 文さまはときどき、誰にでもするように、わたしにも嘘をつく。

 嘘は、分かりやすいものからそうでないものまで様々にある。
 塩と砂糖をすり替えるなどは些細なうちに入るが、真夏の様に暑い日、中に煎り麦の袋を埋めて犬の小便をなみなみと満たしたやかんを井戸へ入れていたのには閉口した。

 悪戯というほど可愛らしくはない。
 それは単純に嘘、なのだ。

 昨日は天狗仲間と乱痴気騒ぎをやらかしただの、食料倉に火を付けてやっただの、乱暴な嘘を云うと同時に泣きはらして眠れなかっただの、手首を切ってやっただの、椛のために寝ずに刺繍をしていただの、そんなようなことを云って、すぐに
 全部、嘘。
 と云う。
 まるで意味のない空想や物語を書き連ねるように、口からぴいちくと啼く。
 それら全て愛情という訳でもなく、呼吸するのと同じようにまことと嘘の綯い交ぜになった言葉が出てくる。
 
 推察するに全ては織り込み済みの事柄であって、たれもそのことに介入しようとはしない。人食い狼を飼い殺し、同時に嘘吐き烏の嘴を縛るには丁度良い切欠であったのだろう。それが世間というもので、野原に住む狼ではないのだから、それが正しい事なのだと云われれば頷くしかない。

 わたしはもう狼ではなくて犬であるから、
 此処で飼われているから、
 それ以上のことなど、必要はない。

 自由など、畏れ多い。




 わたしは殆ど外へは出ない。特段出たくもない。時折訪れて食料を運ぶ天狗達へ、がうと吼え立てて追い遣るのが密やかな満足で、それ以外のことは、三日に一度おんなの肉を噛む程度の楽しみがある程度だ。

 文さまは反対に良く出歩いている。最初に一週間ばかり居てわたしを鎮めた後は、三日に一度程度しか庵に帰っては来ない。尋ねれば嘘が返ってくるから、今更わたしも何か訊いたりはしない。
 それに帰って来ている間、十分胸肉を噛んでおかなければ歯の疼きに耐えかねて死んでしまいそうな心地がする。故にただひたすら口を動かして文さまの味わいを楽しむ以外にわたしの為すべきことは無いと云えた。

 わたしが興奮して胸を噛んでいる間、文さまは無口である。前のおんなは煩いほど喘ぎ、気持ちよいなどと夢うつつのように漏らしていたが、文さまはただ小さな息をするばかりであった。

 それが、文さまの無言の嘘、であるのを気づいたのは、嗅覚の所為であった。

 文さまの品良い乳房へ顔を埋めてふぐふぐと鼻を鳴らしていると、汗の塩気に混じって、鼻先へこそりと忍び寄る春のような酸い匂いがする。それがどこから漂ってくるのかを感づくより前に、文さまはしめやかにわたしの頭を撫ぜて、待て、と云う。
 そう云われた時から、わたしは一寸も動いてはならなかった。
 これまでならば、文さまの息は平坦なままであったので、そのまま引き下がることに違和感は無かった。けれどその酸い匂いが気になって、微かに鼻先をうごめかしているとやはり何処かで嗅いだような懐かしい匂いがしている。

 昔、おんなに訊いたようなことを、訊いてみる。

「もっと欲しいですか」

 何が、とは訊かれなかった。
 文さまは、紫紺の瞳を静かに澄ませて、答えた。

「欲しくはありません」
「嘘でしょう、文さま」
「嘘など吐いてはいませんよ」

 文さまは笑んだ。
 最初にわたしへ笑んだ時よりは、幾分か柔らかいように見えた。

 許されているような気がした。
 そのように振る舞うことが許されているような気がした。

「じゃあ、わたしが欲しいので頂きます」

 だから顔をその匂いのする所へ埋めた。
 太ももの間、スカートの中、下着の中から漂ってくる懐かしい匂いに鼻先を埋める。邪魔な布地を引っ張ろうとして、文さまの手が阻むのを、無理くり力を込めた。引っ張り合いになっている間も鼻先でつつくようにして匂いを嗅いだ。

「っ、ぅ……」

 ふごふごと鼻息荒くして嗅ぎ続けると、嘘の声じゃない吐息がした。その液体は、汗よりも濃い味がする気がして、待ち遠しかった。下着のうえから鼻先をすりよせていると力が抜けていく。
 布地を取り去ると、そこは申し訳程度に濡れていた。首をかしげる。
 昔のおんなはもっと濡れていた。

「欲しくはない、そう云ったでしょう」

 文さまはそっとわたしの頭を支えるようにして、両手を添えた。

「いけません。椛。悪いわんこですね」
「うぅ」

 懐かしい香りを嗅ぐと、歯が疼いた。その場所よりはやはり胸の方が噛み心地がよい様な気がしたので、指先をその液体に絡ませて、乳房へ塗りたくる。

「っ、ぅん」

 噛みつくと、文さまの吐息が高くなる。匂いが強くなった気がして、指先をさらに腰の下へ滑らせた。先ほどより湿り気がひどくなっていた。

「痛いの好きですか」
 ただ確かめるだけのつもりで訊いた。
「辛くはない、それだけです」

 文さまはそんな嘘をついて、わたしはそれをただ受け入れるだけの積もりで、肉を噛みしめた。
苦肉の策とは、「人間は自らを害すことはなく、害は必ず他人から受けるものである」と思い込む心理を突いた計略である。現在では「苦し紛れに生み出した手段・方策」という意味の慣用句として使用されている。(Wikipediaより)
でもまあ、あんまり関係ない。ただの語呂合わせ。
椛文は名作が多いので、これぐらいトリッキーなことをしても許されると思ったんだ。
日本語が凄く変なのは仕様。犬頭だからしょうがない。
続きそうだけど続かないよ!
最近、アレげな話が多いのは間違いなく、合同誌の甘ねちょ原稿の反動。
i0-0i
http://i0-0i.sakura.ne.jp/
コメント




1.名無し魂削除
椛がペットである、しかもどうしようもない暴れ狼であると。実は雄かも知れない。
前衛的?というべきか。
それでも文に対しては加減を覚えたのか、食い殺してない様子。
文の嘘つきであるというあたりの部分は、よく見ているなぁと感服。
2.名前が無い程度の能力削除
こんな椛初めて!面白かった。
3.名前が無い程度の能力削除
だからなんでここで終わるんだ…!!
相手が幼子のような獣姦のような、こういう雰囲気好きです。
4.名前が無い程度の能力削除
永遠のshortに絶望した
5.s.d.削除
思わず声に出して読んでしまった。
なんで続かないんだろう……。
いいなぁ、いいなぁこれ。もっと読みたいなぁ。
6.名前が無い程度の能力削除
すごくこう、文体が、犬っぽい。
椛がかぁいい。こんな怖い生き物なのに、不思議だ。
7.こぶうし削除
秋だから、と読み返したら、コメントをつけたつもりで書いてませんでした。
そんな自分に絶望。

椛の獣頭な感じと、文のいかにも「くちばしから先に生まれてきました!」という様子が滲み出ていてとても好きです。
いつかこの椛が思いっきり牙を立てて、文の血を啜れるほどになれたらどんなにおいしい展開になるか。
(この文、Sの皮を纏ったドMに見えてなりません。私がそういう文が好きだというのもありますが)

今更ですが、いいものをありがとうございました。
8.名前が無い程度の能力削除
無粋ですが誤字の報告です

>>わたしはさすがに剛腹で、がうと品無く鳴いた。


剛腹は度量が大きいと言う意味だったはず
9.i0-0i削除
ご指摘ありがとうございます。直しました。