真・東方夜伽話

【幻想散華_挿話】人間の価値

2009/02/01 05:37:58
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【幻想散華_挿話】人間の価値

みこう悠長
かなり倒錯してます。普通の人は読まないほうがいいです。
かなり俺設定です。東方を愛している人は読まないほうがいいです。
技巧も何もありません。文のうまさやストーリーを求めている人は読まないほうがいいです。
後味も少し悪めです。
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 私は十六夜咲夜。
 人間。
 紅魔館でメイドをしている。
 他の事は、よく覚えていない。



「お嬢様、お茶が入りました。」
「ありがとう、咲夜。」

 墨汁に血を一滴垂らした夜に、ほおずきみたいな赤い月を背負う城。それを象徴する真っ赤なビロードの絨毯が敷き詰められた部屋で、私は主人に傅く。

「きょうは」

 私の入れた紅茶で唇を湿し、私の主、この城の主、総ての夜の主たるレミリア・スカーレットは言葉を紡ぐ。

「今日は霧雨の娘が来るのだったかしら。」
「はい。『どこから入ってくるつもりか』はわかりませんが、パチュリー様に用があるとか。」
「言葉通りなのか、図書館に用があるのか。それとも別の用があるの、か……」

 そう言って、お嬢様は楽しそうに、悪戯っぽく微笑った。

「どうかした?」
「いえ……」

 悟られまいと思っても、きっとお嬢様はもう気付いていて。それでこんな、意地の悪い。でも、私を虜にしておくには、この上ない上策。
 かちりと幽かな音を立てて、ティーカップをソーサーに戻したす嬢様。珍しく私の方に視線をよこして口を開く。……情けないことに、私は、それだけで。

「ところで咲夜。」
「なんでしょうか」

 少女の色を残しながらも鋭い目を、極力なまくらにして私を見た。

「そろそろ私のものになってくれないかしら?」と。

 つまりは、永続的な魅了状態(チャーム)を受けるようにと。この血を吸わせろと。
 この館の私以外のメイド達はほぼ例外なくお嬢様に血を捧げている。元々人間の奴もいるし、そうでない奴もいるが、メイドという点である意味平等に扱われていた。上級の吸血鬼たるお嬢様に血を吸われれば、吸われた方も下級の吸血鬼として第二の生を受けることになる。この館のメイド達が末永く若さを保っていられるのはそう言うことだ。もしくは魔力に対して正の走行性を持つ妖精を操作して使っているかで、結局のところは人間と時間軸を共にしていない。
 しかし、私はお嬢様の申し入れを拒む。幸か不幸か、時を止める力を手にした私にとって、たとい動いていても止まっているのと同じ価値しか持たない時間を生かされることは、まさに地獄。
 ……というのは、まあ、方便でしかない。

「そのお話でしたら何度もお断りしている筈です。」
「そう。気が変わったらいつでも言いなさいな?」
「お嬢様こそ、いつでもどうぞ。」
「私は変わらないわよ、咲夜。貴方のような面白い人間を手元において置きたいと思わない夜族の王なんて、その器量に欠けるわ。」
「でしたら私も変わりません。」
「残念だわ。本当に残念。」

 天井を仰ぐようにして、お嬢様はわざとらしく残念がった。私の気も知らな……いや、お嬢様はきっと判った上で私を弄んでいるのだ。
 本当に、意地の悪い。でも、そう言う人だからこそ。
 と、地面が、鳴いた。ぴりぴりと空気が張り、空間そのものが熱を孕み始める。――図書館の方へ向けて。

「おいでの様ね。」
「たまには壁以外の所から入ってこれないのかしら、外の魔女は。」

 はあ、と溜息をつくと、それを見たお嬢様が。

「壁を抜いたのは、ウチの魔女みたいね。」
「ええっ、パチュリー様!?」

 魔力そのものは凄まじいパチュリー様だが、妹様のように自分の居所をも見境なく破壊するようなことはない、筈だった。

「魔理沙ぁああああああ!!」

 彼女がこの館に来るまでは。

「おう、人間のメイド。ちょっと匿ってくれ。」

 館の中を媒物飛翔術(レビテイトチャント)で駆け抜ける奴があるか。

「咲夜、そいつを殺すか、そいつと死ぬか、さもなければよけるかなさい!」

 霧雨の魔女を追って来たパチュリー様は……こともあろうに館の中を聖精招翔(エアリアルウィング)で駆け抜けていた。
 そしてそのまま、私ごと霧雨魔理沙を範囲に捉えてスペルを実行する。

「セントエルモ……」

 勘弁して欲しい。この魔女をほふる隙等与えてもくれないじゃないか。
 私は仕方なく時間を凍結してパチュリー様のターゲットから外れる。

「……ピラー!!」

 時間凍結を解除した瞬間スペルの宣言が完了した。轟音と共に火柱が立ち昇り、館の天井を抜く。もうもうと舞う煙とぱらぱらと散る砂塵に、そして蒸せ返る熱気に、視界が閉ざされた。

「死んだ?ねえ、死んだなら死んだって言いなさいよ、このノーブレイン!」

 そこまで叫んでから、パチュリー様はへなへなとその場に崩れる。まあ、貧血だろう。
 徐々に視界が明け、部屋の、館の、惨状が明らかになる。部屋にある可燃性の物はことごとく焼け焦げ、そうでないものも粉々に粉砕されていた。
 そして霧雨魔理沙は。

「霧雨の。」
「なんだ?」
「私を盾にするなんていい度胸じゃない?」
「誉められると照れるぜ。」
「しまっ……!」

 霧雨がお嬢様を盾にしているのを見て、私は不覚を叫んだ。お嬢様も範囲内にいることを確認せずに自分だけ脱出してしまったのだ。

「咲夜も、自分だけ逃げちゃうなんて意地が悪いわね?」
「申し訳……ありません……」

 その場にひざまづく。お嬢様の前では、精霊魔術程度、児戯に等しいのは重々承知だ。だが、従者たる者の行動としては……。
 嫌な汗が垂れる。

「まあまあ、元はと言えはばあいつが魔法をぶっぱなしたのが悪いんだぜ?」
「魔理沙がふざけた真似をするから!」
「いいじゃないか、女同士なんだ」
「やれやれ、お熱い二人ね?」

 傳く私をよそに、お嬢様はにこにこと笑って、パチュリー様と魔理沙を見ていた。

「一介の司書がこの大それた暴れよう?」
「……たまには私だって外で遊ぶわよ」
「私や咲夜がいくらそれを言っても引き篭っていたのに、霧雨の娘にかかれば自分から」
「うるさいわ。そういうんじゃない。」
「あの図書館はいけないぜ。きのこが生えそうだ。空間維持のためだかなんだか知らないが、いるだけで魔力奪われるし。」
「きのこ?きのこだったらいいわよ、あの傀儡師に送りつけてやれるから。いけ好かない根暗傀儡師。」

 パチュリー様が誰彼かまわず当たり散らしているのを見兼ねて、お嬢様が口を開いた。

「今日はどういう用向きなのかしら?」
「ちょいと調べものべに来たんだよ。」
「よかったら聞かせてもらえるかしら、何を調べようとしたらウチの司書を怒り狂わせて屋敷の一部を吹き飛ばす羽目になったのか?」
「パチェが怒った理由はよくわからんが、人間が魔族になれるのか、なれたとして、どうなるのか。を、調べに来た。」
「人間が魔族に?」

 背筋が、凍る。いつもすんでのところで誘惑に耐えてはいるが、毎夜それを想像しては悲しく慰めている自分。その私も、お嬢様に血を捧げれば、その瞬間から魔族になるのだから。

「へえ、奇特な研究課題ね。でも、どうせなら大慌ての探索より実物提示教育。図書館へ行くよりも、うちのメイドを御覧なさいな。どれもこれも、元は魔族ではなかった者達よ。そこの咲夜ただ一人除いてね。」
「おお、それを忘れてたぜ。ここは魔族だらけだな。そこのメイドと魔女と私を除いて。」
「忘れていた?本当かしら?それにかこつけて、司書に会いに来ているのじゃなくて?」
「ここの上級魔族は、おもちゃがいなくなると退屈するのか?」
「退屈はしないけど困るわね、あそこの管理ができる者はそうそういないわ。」

 だから、こちらから来てやったと、そう言いたいのだろうか。何も考えていないようで妙に頭の回る魔女だ。言い訳に関しては。

「パチェはこちら側に誘ったことがなかったわね。」
「……私は別にどっちでもいいわ」

 パチュリー様がぼそりと答えるが、お嬢様はどうでもいいといった様子。

「そうだと思った、魔女だけにパッシブチャームも弾いちゃってるみたいだしね。そうでないのに誘っても敢えて人間でいようとするのは、咲夜だけ。毎日チャームに当てられて辛いでしょうに?」
「……。」
「図書館で調べることについて、館としては許可するわ。あとはそこの司書に聞いて。メイドの調査も然り。但し、これ以上館は壊さないでくれるかしら?直すのは、人間なのだから。」

 そう言ってお嬢様は私を見る。事ある毎に修復の指揮を採るのが、メイド長たる私であるのは当然だ。まあ、他のメイドや役立たずの門番も駆り出すが。
 それよりも、霧雨の言葉を受けてお嬢様の視線が訴えていたのは、おそらくメイド唯一の人間である私を指してのことだっただろう。それが、咎めるものだったのか、嘲るものだったのか、そこまではわからない。

「魔理沙」

 お嬢様の言葉を一通り流した後、今度はパチュリー様が口を開いた。

「ぁんだよ?」
「そんなことを調べてどうするつもり?些細なことでもろくでもない事件に仕立てるあんたのこと、そんなシリアスなことを調べて何をしようっていうの?」
 思い当たる節がないではない。パチュリー様もその答えを引き出そうとして聞いているのだろう。聞いてどうするつもりなのかは想像できない、いや、したくはないが。
「……さあな」

 魔理沙は肯定した。それが、アリス・マーガトロイドに関わることだと。

「そう。そういうこと。じゃあ、メイド達のことは調べても仕方がないわね。彼女達は概ね私が無理やり虜にした。だから人間でいたい、魔族になりたい、なんて関係なかったわ。」

 お嬢様が、辛うじて形を残す大理石のテーブルに腰を寄せて言う。その表情には、どこか期待を含んだ笑みを浮かべている。

「強姦かよ。趣味じゃないぜ。じゃあ、こいつは何だぜ?そんなに強いのか?深紅の女王レミリア・スカーレットが、こいつの凍時結界を破壊できないなんてわけじゃないだろう?私は無理だけどな。」
「咲夜は、いいのよ。」
「えっ?」

 自分でも驚く位の素っ頓狂な声を挙げてしまった。

「それは、どういう……」
「こんなところで調べるよりも、本人に聞きに行けばいいじゃない。」

 私の狼狽をよそに、お嬢様は霧雨魔理沙へ言葉を続けている。

「ああ、いや、そうなんだが……」
「らしくないわね、霧雨の娘ともあろうものが。何とかの病ってやつかしら?」

 ぴしっ、とパチュリー様の方から空気が凍りつく音が聞こえた。が、当の霧雨魔理沙は「違う違う」と苦笑しながら首を振る。

「ま、なれるかなれないかで言えば、なれる。なりたいかどうか、どうしてなったのかは本人にお聞きなさいな。そこに、何故なりたくないかを答えてくれそうな被験者はいるけれど、必要かしら?」

 私が指さされた。これで霧雨魔理沙が聞きたいといえば、私は答えるべきだろうか。まあ、答えるだろう。いつもの方便を。だがこいつは要らないといった。
「いや、消極的な奴の意見は要らないぜ。」
「あっははは、咲夜、やるきがないって言われてるわよ?」

 お嬢様は笑って私を見る。だが、何と言われようと、私は変わらない。

「好きなだけ言わせておいて下さい」
「ご奉仕は積極的に、だぜ?」
「大きなお世話だわ。他に用がなければ、門前まで送るわよ?」
「メイド風情が客人に帰りを促すのかよ?」
「主人のためになることを主人に代わって申しているまで。」

 これ以上いられて、根掘り葉掘りなど堪ったものではない。知られて困る事実はもう出ては来ないだろうが、博霊霊夢のことでお嬢様と二人がいがみ合うのも避けたい。そのお嬢様を私が目の当たりにすることも、だ。
 すっかり焼け焦げ、よくもまあまだ開くものだという扉を開け、書斎と違い損傷のない廊下へ出る。上等な絨毯の伸びる回廊を、門へ向かって進むと、霧雨魔理沙は意外にもおとなしく付いて来ているようだった。

「……後追いでもするつもりなの?」

 私は後ろを振り返らずに霧雨魔理沙へ言葉を投げかけた。

「自殺みたいにいうなよ。……珍しく頭を使ってるんだ、あんまりかき乱さないでくれないか?」

 彼女をしてそう言わしめるのだ。思い巡るのには何か強い理由があるに違いない。個人の内面的なことで終わるような瑣末事なのか、または幻想郷を騒がせる事件の火種なのか、そんなことはわからないし、聞いたところで答えは返って来ないだろう。
 まあ、霧雨魔理沙の真剣な表情を見れば、聞くのも野暮というものか。
 いつも何事にも真剣で全力、まっすぐで正直。私のはそれがある種うらやましく見えた。
 この世界の全てのことは、それがどんな種類のことであろうとも、多大に時間というファクターを含む。当たり前すぎて誰も気にしないが「時間がどうにかなれば、その事象もどうにかなる」のだ。それをほぼ自由に扱える私にとって、全てのことは決して困難なことではない。だから全力で物事に取り組むことを、根本的な意味で、私はきっとそれを知らないと思う。一生懸命やっているつもりでも、どこか余裕をもって、一歩引く余地を残している。
 ―やり直せるのだから―
 だからこそ、彼女のような人間を、霧雨魔理沙を本当の意味で嫌いにはなれなかった。むしろ、尊敬すら、できる。
 私は何でも、人が望む程度のことなら何でも、好きに出来る。ただ一つ、人の心についてを除いては、だが。
 私はそれを望むのであれば、自分の時間を適度に戻しながら生活することでお嬢様と永遠を生きることも出来るだろう。それでも、お嬢様の心を手に入れられるとは考えにくい。
 でも、それを手に入れるための「全力」を、私は知らないのだ。それができないのだ。望むものは概ね思うがまま。でも本当に欲しいものは、どうすればいいのかさえわからない。皮肉な話だ。
 そんな自分を顧みると、そう、霧雨魔理沙の背を押してやりたくなる気分だって、少しばかり沸いてしまう。私の代わりに、得られるのならと。……嫉妬もするが。
 ぽつり、私は呟く。聞きたければ聞け。要らないなら聞き流せ。

「……私が人間でいるのは、距離を見せつけるため。手に入れさせないため。互いにね。」
「……聞いてないぜ?」
「独り言よ。」

 魔理沙が何か考えている空気を醸し出したが、私はかまわず門扉を開けた。

「じゃあ有難く盗み聞きさせてもらったことにするぜ。」

 自分でも何故あんなことを口走ったのか不思議だ。深く突っ込まれたくない私を察してか、ただボケてか、彼女はそれ以上の詮索はしてこない。
 そのまま長い廊下を、後は無言のうちに通過し、扉を潜ると門番が立っていた。

「あれ、咲夜さん。まだサボってませんよ!?」
「何よ、『まだ』って。あなたが無傷で、彼女が館の中にいた。書斎は黒焦げ。これはどういうことかしら?」

 私は霧雨魔理沙を指さしながら紅美鈴を見た。

「私はしっかりと『門』番やってましたよ」

 案の定というか何と言うか。彼女は親指を立てて胸を張っている。

「……」

 腹が立ったので額にナイフを一本突き立ててやった。

「ナゼッ!?」
「馬鹿正直な仕事をしてるからよ。」
「……ってことはサボってもいいってk」

 もう一本刺してやった。

「咲夜さん、非道くないですか……?」
「あなたの仕事ぶりの方が酷いわ。」
「理不尽!何と言う理不尽!」

 と言って、中国は泣き出した。

「……仲良いな、お前達。」
「冗談じゃない」
「私は仲良くしたいんですよっ?」

 素敵に噛み合わない。

「これで仲がいいというのなら、貴方とアリス・マーガトロイドはさしずめ恋人同士くらい仲が良いことになるわ?」
「そっ」

 私がそう言うと、霧雨魔理沙は、ぼん、と音を立てて赤く染まった。

「んなことないぜ!?」

 意外だ。素直じゃないのは人形使いの方で、こっちはただの鈍感なのだと思っていたのだが。

「本人の前でそれ位可愛い真似をしてやればいいのに。」
「残念ながら、向うにはそんな気はなさそうでさあ」

 そう言って自嘲気味に肩をすくめる霧雨魔理沙。なるほど、贅沢な奴等め。妬き殺してやろうか。

「咲夜さん、魔理沙さんは」
「お帰りですって。」
「お見送られたぜ。」

 彼女は肩に担いでいた帚にまたがる。

「もう来るなとは言わないけれど、ものが壊れないような用件で来てくれるかしら。それと、どうせならここから入って。」
「門が壊れるぜ?」
「門が壊れる分には構わないわ。直すのは門番だから。」
「これまた酷いですッ」

 どさりと地面に倒れこむ門番。そう言えばこいつは何の妖怪だっただろうか。

「じゃ、パチェによろしく言っておいてくれ。」
「自分で言いなさいな。」

 そう言うと、霧雨魔理沙は湖を越えて森の方へ飛び立った。……最後に、私に小さく「参考にする、ありがとう」と言い残して。

「全く、嵐ね。」
「荒らしよ、全く。」

 霧雨魔理沙の飛影が切るのを見計らったかのようなタイミングで、背後から声が聞こえた。
 お嬢様とパチュリー様だ。

「咲夜、書斎に加えて食堂も吹き飛んでいた。」
「は。夕餉までには復旧いたします。」

 私は頭を垂れて修復に取り掛かろうとしたが。

「それには及ばないわ。」
「は?」
「明後日くらいまででいいわよ。それより着替えと日傘を用意して頂戴。いい機会だし、霊夢のところにでも泊ってくるわ。魔理沙に霊夢の弱点もきいたし。」

 おや、いつの間にそんな仲に。ついぞこの間まで霧雨魔理沙やアリス・マーガトロイド、八雲紫が彼女の周りにいるのことに酷く苛立っていた位なのに。お嬢様があんなふうにでれでれした表情を見せることは滅多にない。
 私は酷く胸が苦しくなるのを覚えた。所詮、私はメイドと言うことだ。こんな扱いがこそ分相応。

「咲夜」
「なんでしょうか」
「魔理沙、何か言っていた?」

 パチュリー様が射殺すような目で私を見る。

「いえ、具体的には何も。ただ、何か考えているようで、私が何か言っても『ことごとく独り言になって』しまった程で……。」

 私がそう嘘ではない作り言を言うと、ふうん、と黙り込んでしまった。

「パチェは散らかした書籍などを早々に片づけること。」
「元はと言えばあいつが……憎たらしい。」

 ぶつぶつと恨みごとを呟きながら、パチュリー様はお嬢様の日傘の横へ入る。お嬢様ほどではないにしろ、パチュリー様も日光に弱い。体質というよりかは耐性の問題だとは思うが。

「三時のおやつ。部屋が壊れてしまったからね。」

 お嬢様は妖精のメイドに茶と茶菓子を持たせていた。吸血鬼が昼間っから外でお茶会というのも、あの壊れ様を見れば致し方無いとさえ思える。
 それを見れば霧雨魔理沙が来ていたことは明白だ。だが、奴は妹様に顔を出さずに帰ってしまった。いつもはそういうことには妙に気の利く(おそらく結果としてなっているだけで、気を引いたりと言う意図はないだろうが)奴だが、今日に限ってはそれがなかった。
 やはり、人形師のことが気になって仕方がないのだろう。生粋の魔族だと思っていた想い人が元が人間だったのだと知れば、何があったのか知りたくなるのは人情。それが想い人のことともなれば、一入だろう。
 お嬢様はああおっしゃっていたが、さっさと片づけて妹様の目に触れないようにするのと、どの道暴れられるのなら妹様が暴れた後でまとめて修復するのと、どちらが効率的かを考えようとして……しかしそれを一瞬でやめた。
 館の屋根が、ロケット並みのふっ飛び方をしたからだった。





 霧雨魔理沙が落ち着かずにそわそわと、辺りを騒がせまくっているのを風に聞く。だが、どうやらその理由を知っているのはあの日あの場に居合わせた者達だけのようで、結局のところ、いつも通り騒がしいキャラで落ち着いている。
 そして、私もあれから同じ疑問にとらわれてしまっていた。
 私が人間でい続けるのは、お嬢様の興味を尽きさせない為。私が一言「はい」といえば、お嬢様は望みのものを手に入れたことになる。それは或る意味ではゲームオーバーに違いないのだ。
 とはいうものの、お嬢様に吸い尽くしてもらいたいという頽廃的な欲求も確かに強い。
 都合のいい考え方をするならば、私が吸血鬼化した後も、お嬢様は私を必要としてくれるかもしれない、とも考えないこともない。だが、私にはそのいずれにも踏み出せない程の臆病さがあるのだ。
 拒絶することで繋ぎ留める豪胆さと、自信を持って踏み出せない臆病さ。求め奪われたい欲求と、触れさせない願望。相反する情念が混在していることに改めて気がついたのは、他でもない霧雨魔理沙の乱入と、その言葉のせいだった。

「おや、館のメイドさんがこんな店に買い物とは珍しい。おしきせ姿以外を見るのは初めてだ。こうして見るとなかなかの別賓さんだね。」

 棚に陳列されている、一見して何に使うのか想像もできないような品物を手に取っていると、後ろから声がかかる。私は手に取っていたものをゆっくり棚に戻し、振り返る。

「悪いけど冷やかしよ。久しぶりのオフに、何をすればいいのかわからなくって。さしあたってウィンドウショッピングにでも、と思っただけ。休みでも仕事のことをあれこれと考えてしまって、落ち着かないったらないわ。ワーカーホリックってやつかしら。」

 私の言葉を聞いて、香霖堂の店主、森近霖之助は口角を少し吊り上げた。

「そういうことならこの店はもってこいだ。見ていて飽きない珍しい品物とゆったりと流れる時間。それにいい男がいるんだ。そんな日にこの店はうってつけだね。」
「まあ、そうかもしれないし、そうとは限らないかもしれない」

 どちらともなく笑う。

「どうなの、商売は?」
「どっかの魔女やら巫女が永遠のツケで商品を持っていくもんだからね、儲けはないよ。まあ、そもそも趣味でやってるような店だ、それ自体は大して気にかけていないけれどね」
「ふうん……」
「妖怪っていうのはそんなもんだ。人間に多大な害を与えたり、小さな幸福を置いて行ったり。気まぐれだから一方的ってわけじゃない。バランスの問題さ。すこし、妖怪側に、分が悪いだけで。」
「妖怪側に?」
「少なくとも僕の周りではね」

 そういって店主は肩を嚇めた。

「貴方は……」
「親のことはあまり覚えていないんだ。」
「……そう」

 この店主は妖怪と人間のハーフだと聞いたことがある。先んじて断られたのはそれを肯定しながらも深い詮索を避けるためだろう。

「そんな身の上だからかな、どっち側にいるか、なんてことには余り興味がないんだ。」
「……思ったより情報通なのね?商売柄って奴?」
「いいや、人間の魔女が珍しく真面目な顔をしていたからなんだろうと思ってね。僕の時間から見れば最近知り合ったようなものだけど、彼女から見ればそうではないし、そうである以上はわかるものはわかってしまうもんだ。」
「父性?」
「よしてくれ。せいぜい保護者ってところだ。」
「同じでしょうに」
「……かもしれないね。彼女のお父上と僕の父はそれなりに親しくてね。彼女のことは本当に小さい頃から知っている。……彼女が何故勘当の身になってまでも亡き母上の影を追って魔法使いを志したかも、大方は。嘘を吐けない子だからね、日々の何気ない言葉を繋ぎ合わせるだけで本心が見えてしまうよ。親じゃないから聞ける言葉もあるしね。」

 カウンターで肘を突きながらそう言う彼は、優しい目をしていた。

「本当に皆から愛されてるのね、あのじゃじゃ馬が。」
「はは。君は愛されてないのかい?」
「……自信はないわね。」
「まあ、そんな自信を持っている奴が本当に愛されてるわけはないんだろうけど。自信はなくとも、自覚はするべきだろうね。」

 周りにいる妖怪が超上級、人間もそれと渡り合うような奴等ばかりが集まる日常ですっかり忘れていた。妖怪とは、妖怪というだけで人間を凌駕する知識や力、もしくは歴史を持っているのだ。しがない魔法道具屋の店主とて例外ではない。先ほどからずばずばと的を得たことを言ってくるのは、やはり経験が違うからだろう。

「道具の名前と使い方がわかる、だったかしら。」
「ん?ああ、こんな趣味にしか使えない力だけどね。」
「道具としての私の使い方、なんて、わかるかしら?」
「……あいにくと。本質的に、自意識を持つものは道具たり得ない。僕のいう道具とは、比喩での意味はないからね。」

 無理だといわれて、逆にほっとしたのは何故だろうか。知りたかったのではないのか、自分の価値を。

「確かに、道具屋程度にしかなれないわね。」
「言ってくれるね。でもこっちはわかるよ。」
「え?」
「十六夜 咲夜。君の名前だろう?」
「それは最初から知っていたのでしょう。」
「ああ。でも、大切なことだ。ないがしろにするべきではないよ。」

 それからしばらく、会話をしていても疲れない相手との会話を久方振りに楽しんだ。話してみてわかったことは、彼が「魔理沙可愛いよ魔理沙」だということだけ。後は、冗談で言っているのか、深い意味があるのかがわからないことだらけだった。きっと深い意味があっても、私には汲み取れなかっただろう。永遠を生きる選択をすれば、私にもわかるの何かがあるのだろうか。私の場合、それすらもやるかやらないか、の場所にある。そんなものにも手が届くのに、本当にほしいものがこそたった一つ届かないものだなんて。

「そんなの、わかんないってば……」

 香霖堂をでてから出たその言葉は、今の私の万感を示すにはあまりにも適切だった。







「貴方と貴方は明日から図書館付き。ああ、貴方もね。」

 紅魔館の一室、並の城なら大広間にも匹敵するほどのこの部屋は、しかしそれだけの広さを持ちながら舞踏会にも夜会にも、晩餐会にも披露宴にも、華々しい催し物に使用されることは無い。それはこの部屋がメイドの詰め所でしか無く、メイド達の会議室でしかなく、メイド達の身の丈にあったこと以外はこの部屋では行われないからだ。
 一人の女王によって統括されるこの「容量だけが巨大な」館には、それに見合った数の使用人と、更にその数に見合うだけの控え室が用意され、そしてこの部屋もこれだけの敷地面積を持ちながら、しかし決してそれ以上たり得ないのだから、贅沢この上ない。
 その上座にあって数え切れないほどのメイド一人一人に辞令を下しているのが……私だった。四年に一度更新される人事の、恒例行事。

「はあ。辞令って、部門長が下すモノじゃないと思うのだけど……。しかも大半がメイドだからって他の人員の辞令まで私が……」

 傍には羊皮紙の山。それら一枚一枚にフェティシュ(何を用いたのかは知りたくもない)の血で辞令が書かれており、それ自体が魔界の契約書として機能する。それらを一枚一枚書いたのは高位の魔術師でもある大図書館の司書長、あのパチュリー様だ。メイド達のそれが山積する横に、控えめな大きさで似たような束が置いてあり、こちらはメイドの辞令ではなく、下級司書や衛兵などといった、本来私が管轄する人員ではない者達のもの。
 この城の女王は政には一切興味がない。政どころか雑務にも、こともあろうに命にもさほど興味がない。そのツケが私の元に降り懸かり、何故か館全体の人事を取り仕切ることになってしまった。その数たるや膨大で、メイドや各人員の殆どが人間ではなく、魔族や斎(お嬢様や妹様に少量の血を捧げて下の種族の生を捨てて仕えている者)である中、私だけが人間としてこれを行うのだ。正直勘弁して欲しい。

「今日を以て卒業するのは……四人ね。今まで有り難う。幸せな死後を。」
「はい!有り難うございます!」

 「卒業」、とは私が人事を司るようになってから、私が勝手使いはじめた言葉で、端的に言ってしまえば、お嬢様か妹様に、食料として命を捧げることだ。
 お二人とも、時たま生きた者から少量の血を「間食」することはあるが、その程度では空腹を満たすことは出来ない。年に一度、数名の生け贄を用意し、血だけではなくそれが内包するアストラルを全て「食べ尽くす」ことで食欲を満たしていた。
 それを「卒業」という言葉で忌避するのは、人間としてそのような儀式に直面し、直接的な表現を用いたくない私の心境の顕れだったかも知れない。臆病な話ではあるが。

「夜、月が一番高く昇る一歩手前の時刻、お嬢様が直接貴方の元にいらっしゃる。最期の時を自覚したければ起きていればいいし、知りたくないのなら寝ていれば気付かない間にコトは終わるはずよ」
「了解しました。」

 今夜、死ぬというのに、「卒業」する四名の表情は明るく、晴れやかだった。それは、この「卒業」が彼女たちメイドにとっては最高の最期のかたちだからだ。これを迎えるために長年歳を取ることもなくメイドとして従事すると言っても過言ではない。……「斎」にもなっていない、人間のままの私には理解しがたいことではあったが。
 それから一時間……私は延々と新辞令を交付し続けた。メイドだけではなく、他の人員についても。
 そう、あの門番についてもだ。

「紅美鈴」
「はい」
「配置替え無し。今まで通り本館正門付きの門番として励むように。」
「はっ」

 返事はしっかりしているものの、その表情はどうしても釈然としない、といった雰囲気を漂わせている。
 わかっている、彼女が何を不服としているのかは。
 門番の辞令はメイドの後。つまりこの作業もそろそろ終盤というわけだ。程なくして辛い労働は終了、とは言っても日次作業はまだ残っている。むしろ辞令交付に割いた時間分の穴を、少ないとはいえ新人の教育をしながら埋めるのだから、これからが大変なのだが。
 ……その日の仕事は深夜にまで及び、お嬢様のお目覚めまでにぎりぎり終わるくらいだった。







「咲夜さん……もうおやすみですか?」

 一日の労働が終わり、制服からルームウェアに着替えようとしていた頃、自室を訪ねる者があった。可愛らしくも綺麗な声。ノックは優しく控え目。すぐに彼女だとわかった。

「美鈴?起きてるわ。開いてるわよ。」

 私は脱ごうとしていた制服を元に戻し、彼女を促した。

「夜分に済みません。お話したいことが」

 思ったより早かった。いや、今日の辞令交付があってのこと、当然といえば当然か。

「辞令のこと?」
「え!?あ……はい。」

 言い当てられて少し狼狽したようだが、すぐに、彼女にしては珍しい、まっすぐ訴えかける声で肯定した。

「まずは入りなさい。お茶でも入れるわ」
「あ、いえお構いなく!」

 本当に、この子は。私よりはるかに長く生きているだろう妖怪に対して抱く感情ではないのだろうが、立ち居振る舞い一つ一つが一生懸命でいじらしく見える。

「いいから座っていて。貴方のそんなクソ真面目な顔なんて、見ているこっちが疲れるわ。」
「ぇぅ……ひどいです……」

 私がくすっと笑うと、美鈴も少しだけ雰囲気を和らげた。

「……と思ったら、生憎コーヒーしかないわ。」
「お砂糖があれば……」
「ミルクいらないのね?」
「……いりマス」
「遠慮すんじゃないの」
「はい……咲夜さんって、優しいですよね」
「そういうんじゃないわよ」

 コーヒーを入れようと自室にある小さなキッチンに向かって、私ははっとした。
 この部屋にはソーサーが二つあるのを、思いだしてしまったのだ。勿論、美鈴にコーヒーを出すのに好都合であることは間違いがない。ただ、今の私には、「一人部屋にある二組のカップ」が、苦々しく思えてしまうのだ。

「どうぞ」
「ありがとうございます」

 美鈴は、折角出してもらったからと、すぐさま口をつけて

「あつっ!」

 舌を火傷した。

「何やってるのよ……」

 コップに凍りと水を入れて出してやると、両手で抱えるように持ち、舌の先だけをちろちろと出して火傷した場所を冷やしている。

「とりあえず落ち着きなさい」
「別に慌ててなんていませんよぅ……」
「……これはもう、才能ね。」

 半ば呆れ、半ば笑い、私は美鈴の向い側に腰を下す。

「で、今日の辞令が不服?」
「え、あ……はい。」

 私が腕を組んで問うと、彼女はグラスを置いて向き合った。面接か何かであるかのように姿勢を正して、両の手をしっかりと膝の上に置いて。

「何が不服なの?」

 私には大体、わかっている。素直で控えめ、でも底抜けに元気な彼女が、何が気に入らなくて私の下に来たのか。……本当に、仕方の無い子だ。

「私は、くびに、ならないんですか?」

 案の定だった。

「……なぜそう思うの?」
「だ、だって、門番って、門番ですよね?不審者とか、ちゃんと追い返す。」
「まあそうね」
「私、最近一度もお仕事きちんとできたことありません」
「……まあ、そうね」
「なのに、何で、何でっ!くびじゃ」

 本当に珍しく、悲痛な表情を浮かべている。いや、今夜こうして直訴に来たのだから、悲痛な思いをしていたのは何も今夜だけのことではないのだろう。毎夜毎夜かどうかは知れない。ただ、幾度となくこんな表情でベッドに滑りこんでいただろうことは容易に想像がついた。私が半分浮かべていた笑いは、いつの間にか消えてしまっていた。

「辞めたいの?」
「いいえ!」
「じゃあ、いいじゃない。」
「でも……でも……」
「責任?」
「……はい。それに、悔しいのと。」
「霧雨も、博麗も、妖怪から見たって半端の無い相手よ。悔しいのはわかるけれど……」
「違います。」

 私の言葉を遮った美鈴の表情は、まっすぐに真剣で、そして少しだけ私を非難している様だった。

「私が悔しいのは、お嬢様や咲夜さんに、情けだけで門番のお仕事をさせてもらい続けていることです。」
「……」
「私は、私自身何の妖怪なのか思い出せません。それ位、このお屋敷に仕えている時間は長いです。お嬢様がいらしたことを覚えていますから、もしかしたらもっと古いのかもしれません。」

 なんだって……?お嬢様がこの屋敷に来た日を知っている?ということは、それよりも昔からこの屋敷の門番をしていたということなのか?下手をすると、お嬢様よりも……。私なんか子供の様なものじゃないか。だというのに。

「お仕事もできないのに、ずっと『いいよいいよ』って、子供みたいで、私」
「……それでも、客人が客人では……」

 意思がぶれた私に対し、意思の固い彼女はすかさず思いをぶつけてきた。

「これでも……これでも、人並みのプライドはあるつもりです。」
「美鈴……」

 彼女は膝の上に置いた手を拳にして、力いっぱい握りしめていた。……それは、小刻みに震えていた。

「悔しい、んです……。恐らく私は、この屋敷を失うと消えてしまう、そんな因縁のある妖怪。もしかしたら門番を辞めろと言われただけで消滅するかもしれません。」

 お嬢様の来訪を知っている、お嬢様を迎えたという彼女の言葉が本当ならば、もしかしたら本当に消えてしまうかもしれない。私はそういうことに詳しくないが、美鈴が門自体の妖精のようなものだとしたら、理由としては十分だ。だが。

「それならば、尚のこと門番を辞めさせる訳には行かないわ。」
「だから、悔しいんです。お役目も果たせず、なのにのうのうと生き長らえさせてもらっている。私は、門番なんです、門番なんです。門番なのに……っ!」

 お嬢様がここに来る前は恐らくただの裕福な誰かが住んでいたのだろう。私が空間を拡張しなければ、多少大きな屋敷、程度であることに変わりはない。お嬢様ほどの主が現れる前ならば、その屋敷を訪れる者もその程度。きっと、美鈴で十分に役が務まったことだろう。
 私とて、美鈴が取るに足らないほど弱いなどとは思っていない。彼女とやり合うことがなかったわけではない。そんな時は、あの拳を、蹴りを必死で避けながら、臆病にもナイフを投げ続けなければ、彼女と互角以上の戦いなどできない。妖怪としてほぼ無限の時間を持つ彼女に対して、人間の私が時間操作を使うのも、相対的なコストパフォーマンスは最悪だ。とはいえ時間凍結なしに彼女の動きは、捉えられない。
 だから私は、彼女を買っていないわけじゃない。それは恐らくお嬢様も。但し、本当におかしいのだ、客人のレベルが。それも、私自身のことも含めて、数年の間の、まさに激変。
 長い間、彼女はその力で門番を務め、それは彼女ほどの力があれば十分に役割を果たすものだったのだろう。そこに、突然、あの言葉が真実ならば、それだけ長く生きている妖怪なら本当に突然のことだろう、お嬢様が現れ、お嬢様と比肩出来るほどの人間やら妖怪やらがわんさかここを訪れるようになった。あの屋敷で、その急激な変化についていけなかったのは、誰よりも長くそこにいた、まさしく美鈴、だったのだろう。

「そういうこと……」

 予想以上に根の深い話に、私は言葉を探せないでいた。正直なところ、自信の持てない彼女のことだ「もうむりですぅー」と泣き言を言うだけだろうと高を括っていた。そしてその予想は見事に外れたわけだ。我ながら浅はかだったと後悔する。
 美鈴は動揺している私に向かって、思いの丈を吐き出し続ける。

「私は、もう、役目を終えているんじゃないんですか?本当はもう私なんて要らないんじゃ……私なんて誰も必要と」
「美鈴。」

 段々と血を吐くような口調に変わってきた美鈴を制止し、私は割って入る。ことの大きさに戸惑っていた私だが。
 流石に許せない言葉が飛び出たから、つい語気を荒げてしまった。
 美鈴が言葉を止めたのを見て、私は続ける。

「美鈴、貴方が貴方の思う道で求められた時代は、門で全ての侵入者を止めるべき、そんな時代だったかもしれない。でも、今は違うわ。門番は、訪問者に、ようこそ、と最初に声をかけてここまで来てもらった労をねぎらい、優しく迎え入れる、そういう者ではないかしらなの。確かに挨拶代わりに弾幕ごっこをかます客が多いのは確かだけど……美鈴、貴方は今、排除者として求められてるわけじゃないのよ。それを認識するだけで、多少は、気が楽にならない?」
「役割が……違う?」
「そう。別に戦争が起こってるわけじゃなし、主人が守らなきゃいけないほど弱いわけじゃなし。」
「でも」
「それに、もし、あらゆる侵入者を排除できる優秀な門番が他にいたとしても、私は美鈴を選ぶわ。きっと、お嬢様も。」

 その言葉を聞いて、美鈴は怪訝そうに顔を上げる。

「な、なぜですか……そんなの、変じゃないですか。そんなの、門番じゃなくてメイドさん達の方が巧くできるし、門番に弱い者をわざわざ差し置くなんて、変ですよ。」
「変じゃないわよ。言わなきゃわからない様なおばかさんなら、言ってあげるわ。」

 美鈴は目を瞑って身をすくめ、私の言葉が鞭か何かであるように、構える。……本当に損な気質の子だ。

「みんな、貴方のことが好きなのよ。」
「す……」

 それ以上言葉にならないようで、後は口を小さく動かすだけ、そして大きな目に波々と涙が溢れて来た。

「そんなこともわからないようじゃ、まだまだね」

 温い同情などではない。心の底から、彼女への優しさが沸き、ゆったりと微笑んでしまう。

「さ、くや、さん……っ!!」

 まぶたがたたえた涙が堰を切ったようにこぼれ出すと、美鈴もまた崩れた。子供のように、本当に、可愛い子供のように、大声で泣き始めたのだった。

「もう……」

 ぼろぼろと泣く彼女の頭を抱いて、胸元に抱いてやる。すると美鈴は両腕を回してかぶりついてきた。……よほど心細かったのだろう。

「ほんとに、子供みたいな子ね。永く生きてるんでしょう?」
「はい」
「門番って強いんでしょ?めそめそ泣かないの」
「はい」
「はいはいって、たまには反発して見せなさいよ」
「はいっ……」
「まったく、笑いながら泣くなんて、器用ね」
「……はい」

 ひとしきり泣き続ける美鈴。聞く者を憚らない位の大声で、目玉が溶け出てしまうんじゃないかというくらい涙を流した。
 どれくらい泣いただろうか。彼女のすすり上げる声の数を聞く限りはそれなりの時間だったような気もするし、すぎた時間を振り返ってみれば少しの間だったようにも思える。彼女は泣き疲れたのか、そのまま寝てしまった。

(世話の焼ける門番だわ……)

 心中毒づきながらも、まんざらではない笑みを浮かべてしまう自分に少し呆れる。
 美鈴をベッドに横たえて、ティーセットを片づける。

(……結局、二組使ったのは初めて、か……)

 自嘲しながらカップを洗い、水切へと移す。こうして二組同時に洗うことを、夢見ていた頃もあった。いや、今でもそれは変わっていない。だが、おそらく叶わぬ夢になるだろう。
 ……堪らなく切ない。
 届かぬ恋だろうか。
 自ら遠ざけている恋だろうか。
 だがそのどちらであっても、そのどちらかであるしかないのだ。愛する人は今頃、他の女と肌を重ねていることだろう。それを思うと、鼻の奥がつんと痛くなった。
 私の代わりに滴を垂らしているティーカップ。
 選ぶときは何時間もかけて。そう、今にして思うと馬鹿みたいだが、舞い上がって嬉しくて。次のときはこれで一緒になどと、甘い夢を見て。天使の羽を象ったプリントのカップと、それとは対称的に悪魔の羽の模様のカップ。二つ並べると可愛らしく、そしてひどく恥ずかしい話だが、それが似合だとさえ思っていた。

「処分、するかな……」

 元恋人の匂いのするものを処分するのは、こう言う気分だろうかと、まるで意味のないことを考える。
 捨てるなら今すぐでもいいのに、だが無意識にそれを避けてしまい、美鈴が寝ている部屋へ戻った。
 美鈴はすうすうと可愛らしい寝息を立てている。ベッドの端に腰を下してその表情を見ると、まだまぶたの端で涙が玉になっていた。

「なきむし、もんばん」

 指でその玉を拭ってやる。
 どうせなら、私の分まで泣いてほしい……。
 と。突然美鈴が私の首の背に手を回してぐっと私の顔を引き寄せた。美鈴程の身体能力でこの至近距離の動き。私では反応しきれずにそのまま美鈴の体に倒れ込むような姿勢になった。

「美鈴、起きてたの……」
「たまにこうして咲夜さんに慰めて貰えるなら、泣き虫も捨てたモンじゃないですね」
「……泣き虫だから慰めたわけではないわよ。それより、これ、何?」

 私の頭はすっかりと美鈴の胸の上に乗っかっている。脚は地面に降りているが、美鈴と折り重なって寝ているような、そんな姿勢。

「咲夜さんは、やっぱり、優しいです。」
「だから、そんなんじゃないわ。ただ……」
「お嬢様のことですよね?咲夜さん自身が苦しいから、他の人に優しくできる」
「……優しさなんかじゃない、欺瞞よ。」

 姿勢的に、私が美鈴を見上げるような形になる。そう言えば立っていても背は彼女の方が高いのか……。今の私には、実際の背の高さの問題ではなかった。さっきまで慰めていたつもりだったのに、それは自分の傷を慰撫する行為で、単なる自己満足だったのだと本人から指摘されたようなモノだ。この姿勢、美鈴から見下ろされているような……。

「わたっ……私が、滑稽に見える?」

 ああもう、何でこんなに崩れやすくなって……。

「違います、違いますっ!ただ……無理しないで欲しくて……。もし、私でよかったら、私が聞いて貰ったみたいに、話してくれませんか?」

 人の胸の中が、こんなに心地良いとは思わなかった。小さい頃から周りから疎まれて来た私には、その感覚は既に遙か遠くにしかない。今まで誰かの胸の中に埋もれる等と言うことはなく、こうして、美鈴の胸に頭を預けてその暖かさと心地よさに酷く懐かしいモノを感じてしまったのだ。だから、こんな、脆く……。
 彼女の先ほどの動きの早さを考えると、これこそがその狙いだったのはわかる。美鈴でもやはり妖怪は妖怪。生きた時間も歴史もやはり違う。霖之助の時と同じだった。お嬢様とてそうだ。姿形、いつもの振る舞いからは到底想像も出来ない深みがある。美鈴のこの行為も、そう言うことなのだろうか。私の悩みなど全てお見通しで……。
 自分が、酷く、哀れに思えてきた。

「ごめんなさい……」
「ええ?」
「そんなつもりじゃなかったんです。咲夜さんが楽になれるならと思って……それ以上のつもりは、無いんです。嫌だったのなら、ごめんなさい……」

 彼女は私の頭を話して、見下ろす感じだった視線を逸らせた。

「別に……」

 私は上半身を起こす。そして、少し、腰を下ろす位置を彼女の方へ、寄せた。そうしなければ、届かないから。

「貴方はいつだって私より背が高いじゃない。今更。」
「背のことじゃ……」
「背のことよ。悔しいけど、美鈴はいつでも私より、おっきい。」
「それでも、えっと、目にごみを入れちゃって」
「ぷっ、なによそれ」

 美鈴らしい抜け方と、同時に暖かさ。

「気にしてないわよ、ぜんぜん。」

 ふっと笑って、彼女の額をぴんと弾く。
 半分、嘘だった。彼女の言う通り、彼女の行為で自分が惨めに思えたのは確かだ。その正体に気付けたのは、彼女のおかげだ。それが半分。そして、この辛い胸の内が彼女のせいだなどとは、思っていない。これが残り半分。

「美鈴」
「は、はい」
「貴方の気持ちは、わかっているつもりよ。」

 それを言うと、彼女は顔を真っ赤にして、ななななんですか?とバレバレに白を切った。

「咲夜さんは、お嬢様を好いてらして、私なんか……」
「お嬢様は、私なんか見ていないわ」

 自分のことをここまでばっさり切り捨てるのも悲しいが、多分、それが事実だ。

「咲夜、さん……」
「これから、多分非道いことを言うわ。貴方の尊厳を傷つけるかも知れない。身勝手な私を怒るかも知れない。予め謝っておくなんて、陳腐で稚拙なことをするつもりはないけれど、構えるだけ構えておいて。」
「え、あ、はい……」

 私は、卑怯だ。最低だ。こんな、ことを考えるなんて。

「……もし、許してくれるなら……お嬢様のこと、吹っ切るのを手伝って貰えないかしら」

 彼女が私を好いていることは知っていた。彼女は私の言うことを断らないことも知っていた。私はその心を、道具のように利用しようというのだ。自分で考えても、反吐が出る。それでも、もう、すがる瀬の無い恋心の苦しみは、そんな外道な行為すら自分に許容するほど、心を蝕んでいたのだ。……甘えかも知れない。

「貴方が悪いのよ。あんな風に、甘えて良いようなことを言うから。甘えてこいなんて姿勢をするから。」
「……」

 美鈴は視線を逸らせたままだ。流石に、怒るか。お前は一番じゃない、でも付き合えと言うのだ。

「……ごめんなさい。人並みのプライドは持ち合わせてるんだって、非難されたばかりなのに、何もわかってなかったわね。」
「……ですか?」

 目を逸らせたまま、蚊の鳴くような声で美鈴は何かを言う。

「ごめんなさい、聞こえなかったわ。」
「咲夜さんこそ、さっきから、ごめんなさい、ばっかり」
「……そうね、ごめんなさい。あ」

 美鈴にさっき言ったことを、ほぼそのまま返されてしまった。どれだけ弱っているんだろうか。きっと今日の労働がきつかったから、疲れているんだ。そう自分に言い聞かせるが、起
こってしまったこと自体は、二人で笑い合える出来事だった。

「咲夜さんは……もし、お嬢様が霊夢さんに振られたとして……身代わりを頼まれたら、どうしますか?」

 痛い質問だった。自分が一番ではないと告げられながらも、暫定一位として扱ってやると言われたら。
 それは麻薬のように。一度塗ってしまった絵の具は上から新しい色を塗重ねて隠すしかないように。
 そう、答えは決まっていた。

「……応じると思うわ。愚かと嘲笑われるかもしれないし、自分がもっと惨めになるかもしれない。それでも、喉が乾いて死にそうならば、泥水だってすすると思う。」
「私も、同じです。」

 美鈴が、こちらを、見た。
 真剣な表情だった。
 まっすぐに私を見る視線は潤みながらも鋭く、熱をはらんだ視線。

「泥水じゃなくて、むしろ甘露ですけど」
「私がそう答えたから、そうだなんて、言わないわよね?」
「私は、人間とか、妖怪とか、関係ないと思います。だって、こんなに、こんなに好きなんですから。こんなに胸が苦しくて、こんなに痛くて、こんなにどきどきするんですから。私は、咲夜さんがお嬢様を好きなのも、私が咲夜さんを好きなのも、全部ぜんぶ、素敵なことだと思います。……そして、束の間の恋人ごっこで火傷するのも、悪くないって……思います。」

 美鈴の言葉が終わってややしばらく。私は彼女の瞳を見つめていた。私をまっすぐに見る瞳の光に揺らぎはなく、それゆえ私の罪悪感は増すばかり。
 そんな自分をごまかすように、勢いだけの過ちでも構わないと言い聞かせるように、私は美鈴の肩の上あたりに右手をつき、美鈴に覆い被さる。

「……いいのよね?」
「はい。」

 そのまま、口づけた。
 唇が触れるだけのキス。私も、そして美鈴も、どう前に進んでいいのかがわからない。

「ごめんなさい、こんなの、初めてで……」
「……私もですよ」

 ゆったりと笑う美鈴。彼女らしい、少し困ったような、そしてそこが可愛らしい笑顔。
 互いの部屋着に手をかけて、柔らかい桃の皮を剥くように優しく脱がせてゆく。腕を抜くために重心をずらしたり、背中に腕を回すために体をくっつけたり。そのせいでシーツに皺が寄ったり伸びたり。
 一人じゃ立たないような衣擦れの音が、妙に耳に残ったり。美鈴の細い息遣いが、ひどく艶めかしいものにさえ思える。

「咲夜さんの裸」
「お風呂で幾らでも見てるでしょう」
「シーツの上だと見栄えも違いますよ」

 なんて、馬鹿な言葉が照れ隠しなのは、苦笑いするほどに、わかる。
 でも。
 そんな空気も互いの視線が絡まるまで。一度微熱を帯びた目と目が合ったが最後。

「もう一度キス、していいですか?」
「……聞かないでよ、そんなこと」

 目を逸らすと、唇が触れた。柔らかくて瑞々しい。半熟目玉焼きの黄身の部分みたいに、柔らかすぎて危うささえ感じる唇に、あえて甘噛みしてしまう。

「柔らかくて美味しい。かわいいわ」
「咲夜さんてば、子ども扱いしないでくださいー」

 仕返し、とばかりに口付け返す美鈴。舌が入り込んでくる。私より平熱の低い美鈴の口の中は、少し、冷たい。

「ちゅ……ん、咲夜さん……」

 口を離さないまま、美鈴の唇から、顎、首、鎖骨へと舌を滑らせて唾液をまぶす。シルクの肌理を楽しみ羨みながら、右手を彼女の頭の後ろへまわし、手櫛を通して頭を撫でる。左手で乳房を大きく回すように揉みながら、鎖骨から更に降ろした口が、乳輪へ、乳首へ。

「おっきい……」
「……下品な形で、好きじゃないんです……」

 苦笑いする美鈴。私は彼女のその様子を気に留めず、胸への愛撫とキスをやめない。私はこの胸が好きだから。乳房は両手ですらあまり、ずっしりと大きい。乳輪は口に含むのに顎を開けなければいけないほど。そして乳首はピンと立っていた。いやらしい。誘うような巨乳。美鈴の体が動くたびに、たゆんたゆんと波打つように揺れるそれは、加えて彼女の性感帯らしかった。

「エロ乳ね。あの大きさで着痩せしてる状態だなんて」
「や、ぁぁ」

 耳まで真っ赤にして顔を反らす。両手で顔を覆い隠そうとしたのでそれを押さえつけて、代わりに乱暴に口付けて美鈴のはの間に舌を割り入れる。
 熱くて柔らかい美鈴の口の中。舌で舌を追いかける私。狭い口内で執拗な追跡と逃避が繰り返され、その度に唾液が混ざり、いやらしい水音が響いては、すぐそこの耳に侵入してくる。遂に舌を捕らまえてそれを吸い上げると、美鈴の鼻の奥から苦しげな、でも切なげな咽ぎが零れた。
 口の端から溢れた唾液が、互いの頬を濡らし、二人の首筋へ滴り、そんなものの感触さえ愛撫のように感じてしまう。

「咲夜さんだって着痩せしすぎですっ。ぜんぜんおっぱい、小さくないですし……それに、これ、押さえつけてるんですもん」

 美鈴が私の、やはり大きいとも言えない胸を指して声を上げる。彼女が掴んだ、私のスカートの裾。それを捲り上げられると……私の恥ずかしいものが姿を現した。

「め、美鈴っ……」
「咲夜さん、すっごくおっきく……」

 ショーツの下でぎちぎちに押さえ付けられたペニスが股間でびくびく震えている。だって、美鈴のあんなえっちなおっぱい見たら、しょうがないじゃない……。
 上目遣いに私の股間のもの見詰める美鈴の瞳は熱っぽく、しかしキスの時と同様、どうすればいいのか解らずにおどおどしている。だが、私は違った。何時も独りで慰めるその快感を求め、彼女の手を掴んで……。

「触って」

 美鈴が、少し怯えたような表情のまま、私のペニスをショーツから取り出す。

「わ……」

 彼女の細い指が私の敏感な場所を這うと、それだけでひどく心地よい。勃起して暴れようとするそれは、スカートの裏地にべっとりと先走りの粘りをなすった。

「んっつ、ぁ」

 指の感触と、布地に擦れる感触で思わず声が漏れる。これが、もどかしい快感からの声だと美鈴にもわかったらしく、彼女は恥ずかしそうに顔を背けた。

「それ、そのまま、擦って。そ、握ったまま……」
「え、あ、こ、こうですか……?」

 ここから自分でわかるほどの牡臭を放つペニスを、美鈴は優しく握って扱いてくれる。

「あ、おぁ……あっ、きも、ち……自分でするのと、全然、ち、が……くぁ、ん!」

 そそり立つ肉棒から快感が激流となって雪崩込み、首の後ろ辺りから脳みそ溜まってゆき、理性塗りつぶしていく。

「はっ、はぁっ……め、りん、もっと、強く握っ、くびれてるとこに、指、ひっかけ、て、そ、そおっ、それ!きもち……い!」

 人間の部分が削れて、私が性欲の塊へ変容していく。美鈴に手コキさせて恥ずかしいものを見られながらだって言うのに、お嬢様を想いながらするどんな激しいオナニーより、燃え上がった。

「咲夜さん、すごく、えっちな顔してます……」

 指を絡めて私を翻弄し続けながら、美鈴の目は上目に私の方を見ていた。

(や、みないで……目とか焦点合わないし、変な声しか出ないし、涎垂れちゃってるし、なんか人間じゃなくなってるのぉ!やだ、これやだっ、こんなきもちいなんて、思ってなかったっ!)

 美鈴の視線を感じて自らの痴態を想起するが、失われてゆく理性が全てを許してしまう。

「指が回らないくらい太いとはいえ、こんな肉弄られただけで、咲夜さんがこんなになっちゃうなんて」

 美鈴は私のどろどろに蕩けただらしのない顔に嫌悪感を示すどころか、にっこりと笑っている。激しくすればするほど私が乱れるのを見て、手コキの強さもどんどん容赦の無いものへ。

「う、あひ……いい、いいのっ!めーりんの指、手コキきもちいっ、お……あ”、らめ、めーりんにしてもりゃうの、こんにゃ、きもひ、い、なんひぇ」

 思考の寸断が連続し、世界が連続シャッターみたいに細切れになる。暗転時に脱力してしまうらしく、がくがくと首が揺れている。ただの手コキで、小さく失神しているらしかった。

「イク、めーりんの手で、イっちゃうっ!」

 ペニスに自制の効かない痙攣が現れ、絶頂が近いことを物語っていた。

「……」

 そんな私を見て美鈴は思い切ったように。

「はむっ」

 私のものを口に含んだ。

「!!」

 柔らかな唇が亀頭に触れ、滑りの中に少しのざらつきを感じる舌が鈴口を撫でた。

「んぉおおぁぁ、ぁぁあ、ひぐ、お“お“あ“……い、ぐぅ!ちんぽイク、イク、いくいくいくぅぅぅううううっ!!」

 咄嗟に美鈴の頭に手を回してしまう。んぐっ、くぐもった声が聞こえたが、止められない。もっと舌の絡み付く感触を、頬肉になするぬめりを、唇に包まれる心地よさを求めて、口の奥へ侵入させ、肉穴のすぼまったところ――きっと食道の入り口――に入り込んだ瞬間。

「でる、でりゅっ!せーしでるう!めーりんの口にせーしだしちゃうっっ!」
「んっ、んぶ!ぶほっ!」

 身体中に臨界寸前で蓄積されていた射精欲が法悦へと昇華してゆく。ペニスがポンプのように蠢いて美鈴の口へ容赦無く子種汁をぶちまけてゆく。口の奥に大量の白濁を注がれたために、鼻から少し逆流して溢れていた。そうでないほとんどは抵抗できずに飲み下しているようで、喉元が大きく蠢いている。
 ペニスを美鈴の口から抜く。ずるり、と音を立てそうな位グロテスクな様は、余計に私の性感を刺激した。

「げほっ、ぐ、ごほ!」

 口の中に残った精液を吐き出しながら、美鈴は苦しげに咳き込んでいる。

「さくや、さ、けほっ、げふっ」

 口許をおさえて、唾液と精液の混じった液体を吐き出す。吐き出した粘液は、その豊満すぎる乳房の上に滴り、それを淫らな粘りで包み込んでいった。下着から開放された状態で淫猥な形に歪むその乳肉が、精液で濡れ滴る姿。


 犯したい。


「めーり……まだよ、まだ足りな、い」
「ぅ、ぁ……けふ……」

 くぐもった声を上げる美鈴を導き、私は腰を彼女の胸元に挿げる。肌理の細かい肌の上に淫らな粘液を塗したそれにペニスを乗せて前後に動かすだけで、燃える様な痺れる様な快感。疼き。

「借りる、わよ」
「ぁん!そ、そんな、乱暴しないでくださ……」

 私は両の手で左右の乳首を掴み上げ、中央に寄せる。そしてその谷間を性器に見立てて、ペニスを突き入れる。

「ふひゃ……さくやさ、そんな……いたいですっ」
「はあっ、きもちい……めーりんのおっぱい、きもちいいっ」

 腰を前後に振り、それに合わせて乳首を摘んだ手も前後に揺らす。美鈴は苦しそうな表情で「いたいいたい」と懇願しているが、それすらも気にならない。美鈴の乳房の感触をペニスで味わうことに、夢中だった。

「痛い、痛いですっ!咲夜さん、お願いします、それ、やめてくださいぃ……」
「はあっ、ふっ、ふぁ……んっあ……」

 乳首に支えられた強さでは物足りず、乳房そのものを左右から掴んで挟もうとしたとき、美鈴の手が重なった。

「します……挟むの、しますから、酷いことしないでください……」

 涙ながらに私を見る美鈴。私は手を離して、彼女に任せた。
 普段の私なら、さすがにあんな風に泣いて頼まれたら狼狽るはずなのに

 
 何故か
 今は
 違った。

 
「め、りん、挟んで……おっぱいで挟んでぇ」
「……」

 美鈴のパイズリが、私のペニスを扱き始める。ぬめりを帯びた柔肉に私のものが埋まり、完全に姿を消す。そのまま腰を引くと、エラに柔らかい胸肉が入り込み、掻き出すように擦りあげる。

「んほぁ……いいっ、ちんこ、いいのっ、おっぱいに挟むの、きもちいい……はぁっ、はっ、はっ……んおぉあ」

 涎を垂らしながら美鈴の乳房の間に、必死で肉楔を打ち込んでいる私。

(とけるっ。ペニスも、腰も、脳みそも、とけちゃう!気持ちよすぎる……手オナニーじゃ、ぜんぜんこんなに、ならないっ……)

 再び私の射精欲が高まる。
 ぱちゅ、ばちゅ、とあまりに淫らな音を立て、双肉に向けてペニスの挿入を繰り返していると、美鈴が私のものをはさむ力を強めてきた。
 むにゅ、と音を立てそうなほど柔らかにひしゃげたと思うと、ペニスへの圧迫感が強まり、前後に擦れる刺激が搾り取るようなものに変化する。

「ぉおおあ……あひ、いひい!ちんこ、ちんここすれる、おっぱいまんこでずんずんセックスしてるのおおおお!」

 淫猥な言葉を絶叫しながら、一度は離した乳首を、いや、今度は乳輪の辺りから再び掴んで乱暴に捏ね繰り回してしまう。

「咲夜さ、だめ、です……っ」
「もっと、つよくっ、挟むの!」

 パイズリの心地よさに酔いしれながら、美鈴んの乳頭が硬くしこる様を楽しんで。

「咲夜さん、いたいのは、痛いのはいやですっ」

 胸の肉塊を上へ下へ前へ後ろへ振り回しながら涙を流す姿はひどく滑稽で、彼女の懇願を聞く気にはなれない。むしろ、より乱暴に苛めたいとさえ。

「ふうっ、いい、美鈴のエロ乳、っはぁ……気持ちい、いっ!」

 私の先走りが十分すぎるほどの泥濘となって、美鈴の胸を淫らな性具に仕立ている。加えて美鈴が程よい力で挟み込み、前後に擦る。乳輪の根本から捻り上げると、乳首はいよいよ固く勃起し、それどころか乳輪自体もぷっくりと張っていた。

「咲夜さん、お願いです、優しく、してください……。痛いのは、もう……」
「こんな、淫乱っ乳房で……よくいうゎ、んくぁっ、あ、あ”んは」
「ぁ、んぅ、咲夜、さ……やぁ」

 美鈴の乳首を潰すように強く握ると、痛みを訴える彼女の悲鳴の中に幽かな色付きが見えた。私が狂い落ちそうになるのと同じく、彼女もまた、始まっていたようだ。

「私、知ってるんだから……」

 そう、私は知っている。

「な、何を」

 彼女が夜な夜な「私で」慰めていることを。

「昨日は、三回。流石に三回は凄いわね」

 美鈴が青褪める。それに。

「それに、凄い量だった」
「み、みてたん……きゃあっ」

 ひらりと身を返して、彼女の背後に回る。私は美鈴を羽交い絞めにして、ペニスを彼女のまたの間から覗かせた。

「めーりんも、濡れてるじゃない……それも、すっごく」

 棹の部分をすじに、ぴた、と合わせるようにして、彼女に股を閉じさせる。胸で挟まれて昇り昇っていた性感は、ともすればすぐにでも性交できそうな距離に。でもそれをしなかった。腰を前後にゆすり、棹と雁首を、はみ出しかけているラヴィアに擦る。

「さ、くや、さ」

 むずがゆそうに上下に腰をくねらせ、何気なしに挿入を望んでいる美鈴。声は溶け、瞳は蕩け、あそこは解けていた。

「入れて欲しい?でもだめ、入れたいけどダメ。入れたいけどダメなの。」

 自分にセーブをかけようとするけれど

「はっ、はあっ、んう……」

 美鈴の乳触の誘惑は、堪らない。

「このふたなりちんぽをめーりんのどろどろまんこにぶち込みたいけどダメなのっ!いれたいけどだめなのおおおっ!!」

 射精の寸前までスマタと扱き、先走りと愛液で美鈴の股間をどろどろに汚す。
 でも挿入しない。ぐちゅぐちゅに出来上がったこのおまんこに入れたらきっと、私は一瞬でアヘ顔晒して射精しまくる。
 射精
 射精射精
 射精射精射精
 でもっ

「だ、め……。まだ、しない、めーりんのおっぱい、もっといじめてから……」

 一人熱に浮かされたようなうわ言を呟く私。意識をクールダウンさせて、彼女にしてあげたいことを。
 背後に回り、美鈴の胸を鷲掴んで、乳首をひねり潰す。

「いた、い……咲夜さ、ん、痛いです、やめっ」

 悲痛な声。甘い声。耳から私の獣を呼び覚まし、そう、そのまま乳虐を助長する。
 小指の先ほどにまで肥大化した乳首を、爪を立てるように押しつぶして捻ると。先端のくぼみが、きゅっと窄まる。

「抵抗するだけ無駄よ。ここ、好きなの知ってるんだから。それに、出すのも。」

 べろを出して、美鈴の首筋を、ぞるり、と舐め上げる。背筋をぞくっと震わせて、美鈴は。

「咲夜さん、それも、見てたんですか……」
「ええ。凄い量だったじゃない。っん。今も、どろっどろのが、入ってるんでしょう?」

 乳首をいじめている指を移動させ、乳輪付近全てをぐにぐにと押しつぶすと、美鈴の声にはっきりとした色が浮かび上がった。

「どっかの死神の方が大きいと思ってたけど、いつの間にかメじゃないくらい追い抜いちゃって。どうしたのかと思ったらこういうことだったのね……すっごい質量。」
「だ、だめです……そこばっかりするの、だめです」

 声が震えているのは怯えから。でも、私の酷い責めへの怯えではない。それは、わかっていた。

「素直に感じなさい、いつもしているみたいに、ここで。美鈴に手コキしてもらってわかったわ。人にされたら、自分でするのより、ぜんぜん気持ち良いって! ほら、こうして、いつもしてるみたいに、おっぱい、潰してあげる! 根元から搾り出すみたいにほぐして、潰して、押し出してあげる!」

 凄い。手で収まらずに手の端からだけじゃない、指の隙間からさえ柔らかくはみ出る乳肉。それを力いっぱい、それがひとの体だという意識さえないように、乱暴に潰してひねって、こねくり回す。

「んひ、だ、だめっです、さくやさ、そこばっかりされたら、わたし……私じゃなくなっちゃ……」
「ふふっ、私だって、わたしだって美鈴に扱かれて口に出したときは、ただの色狂いだった、いいえ、いまも、いまも、もうエッチなことしか考えられてないわっ。美鈴のおっぱい、エロいの、触ってるだけでたゆたゆしてて、揉んでるだけで射精しそうっつ!!」

 乳房の根元を押し潰しながら、先端へ向けて押し出すように。
「だ、めへ……きちゃ、いますっ、おっぱい、きちゃいますうっ」

 美鈴の股間に挟んだままのペニスに、熱い粘りが、どろり、ひろがる。
「っふふ、いやとかいっちゃって、でもしっかり感じてるじゃない。わたしのちんぽにめーりんのエロ汁どろどろ滴ってるわ」
「ぅぅっ」

 耳まで赤く染めながら、彼女は肩を竦めて顔を背ける。
 乳首の先端を見ると、白い雫が、玉となっていた。

「でてきた」

 人差し指の先端でその玉に触れると、それはとろりと滴って指先を濡らす。口へ運ぶと濃厚で甘美な味が広がった。

「や、ぁ……っ」
「さ。してあげるわね」

 乳輪より先だけで掌の半分を占めるほどのそれを握り、潰す。

「ひ、あぁ、だめ、だめですっ」

 言葉では嫌がっているが、本気で私から脱出するつもりなら彼女ほどの身体能力ならわけないだろう。それをしないということは、つまりそういうこと。
 私は、力いっぱい、止めといわんばかりに力いっぱい、美鈴の胸の先を押し潰す。掌で乳りん付近を、指先で乳首を。チューブに入った練乳を押し出すように。

「ら、らめっ、おっぱい、咲夜さんに、咲夜さんにおっぱい絞られてへっ……きちゃう、どとどろのおっぱい、きちゃうのっ!」

 ぷしっ
 細い音を立てて、美鈴の乳首から白い筋が走った。

「あ、ああ、やあ、でて、咲夜さんに絞られてでちゃって、るうっ……!おっぱい、おっぱいとまらないっ!ぴゅーぴゅー母乳絞られてとまらないっつ!」
「あはっ。やっぱりいいのね。これが。搾乳されて、感じるのね!」

 母乳を噴出したとたん、胸に対する美鈴の反応が、一気に崩れ落ちた。抵抗は失せ、恥じらいも消え、可愛らしい声も只のオンナ。今の私が牡なら、美鈴は牝。しかもとびっきりの淫乱女だ。

「かんじますっ!おっぱい絞られて、母乳噴出して私、感じてますっ!!」

 ぞくぞくする。私は腰を前後に揺らして強制素股で快感を得ようとしてしまう。

「おまんこ……おまんこいれてくださいっ!私処女じゃないんです!ですから、乱暴に、ちんぽで抉るみたいに貫くみたいにいてて、ぐちょぐちょに掻き回してください!」
「だ、だめ、だめよ……おまんこには、おまんこにはいれないのっ」

 いれたい。
 いれて思い切り美鈴の中で射精したい。
 でも、だめ。

「だめ……もっとここ、ここで感じて!ねえ、これ、いいんでしょ!おまんこより乳首の方がすきなんでしょ!」

 もっと、もっと強く、中のものを全部ひねり出すくらいに強く、美鈴の胸を押し潰して、乳首を刺激する。人差し指を乳首の先端にぐりぐりと押し入れて肉を開いてやった。

「や、あひ!らめ……そんなにおっぱいいじめたら」
「いっちゃう?」

 意地悪く笑って、指の第二関節までを乳首に挿入する。

「本当に入るのね、すごいわ」

 彼女の乳首の中は、ぬるりとした感覚が支配していて、そして熱かった。まるで、膣。

「おおっおおおぁぁああああああ!ちくび、ちくびに、咲夜さんのゆびいぃいいっ!!おっぱいの栓なくなっ、栓なくなっひゃ……」

 そしてそのまま、指をずるりと抜く。

「だめダメダメダメダメダメですうううううううううううううううう!!」

 それまでの勢いとは比較にならない量の白濁が乳首から奔出した。

「射乳っ、射乳気持ちいいっ!ミルク絞り、ミルク絞りいいのおおおおおおおおおぁあああ!!」

 白いシャワーを振り乱しながら、美鈴はメス声を叫び、絶頂へと駆け上がってゆく。

「そのまま、イっちゃいなさいな」

 乳首への指挿入、そして乱暴な引き抜き。こりこりしているのに柔らかい乳首には、人差し指と中指の二本が入っている。それを突き入れ、引き抜き、何度も何度もそれを繰り返すうちに、母乳の噴出に、本当に歯止めが利かなくなったようだ。
 ぶしゃぶしゃと汚いほどの射乳が、そう、きっと私の射精と同じくらい気持ちいいんだろう…・。
「おっぱいから射精してるみたいね……すごい、エロすぎよ、めーりん」

「イくう……いくのお。おっぱいから射精してええ、おっぱいみるくっ、噴乳でかんじりゅ、乳首射精で、わたひ、いっちゃいまひゅう!おっぱいで、おっぱいで射乳アクメしちゃうのおおおおおおおおおおおっっっ!!」

 背中で密着している私には、彼女が絶頂に痙攣しているのが伝わってくる。ペニスに滴る熱い愛液の量もどっと増え、ラヴィアが蠢いているのがわかった。

「はー、はーっ、おっぱい……きもちいいです……」

 かくん、かくんと体を振るわせる美鈴。ぷぴゅっ、と最後の一吹きのように、小さく母乳が吹いて、噴乳はおさまった。
 でも、私はおさまっていない。

「一人だけイって、終わっていちゃダメじゃない。私はまだ、イってないわ」

 美鈴を組み敷いて、馬乗りになる。オーガズムに揺れる彼女の瞳が、再び淫らな期待に落ちて行く。

「おまんこ、ください……咲夜さんのちんちん、おまんこにください」
「だめ。今日はめーりんのおっぱいで楽しむって決めたの。おっぱい、めーりんのエロ巨乳っ……」

 一度気を遣って落ち着きを取り戻しかけている彼女と違い、私はずっと自分にお預けを食らわせていたようなものだ。高まり、溜まり、行き場を失ってペニスの先で渦巻く性欲を、彼女にぶつけよう。

「ここ、指とか入っちゃったけど、これも、はいるわよね?」

 私がしようとすることに、美鈴はさすがに狼狽した。

「え、さくやさ、なにいって……」

 だが彼女がその不安を口にする前に、コトを進める。

「いれるわね」
「ぇ」

 左右の人差し指を乳首に入れ、そのまま乳穴をくつろげる。その中に、ペニスを、埋めた。

「え、あ、ああ……な、に、いれ……」
「はあっ、す、てき。きゅんきゅん締まってる」
「いや……咲夜さん、そん、なっ」

 美鈴がぱくぱくと口をあけたり閉じたりしている。目が、彷徨って、揺れている。何が起こっているのか、わからないといった様子で。

「もっと深く入れるわよ」

 美鈴が現状を受け入れられるかどうかなんて、今の私にはどうでも良かった。
 ただ、この乳を犯したい。
 私はペニスをずぶずぶと美鈴の胸へ深く挿入してゆく。母乳でぬらついた感触と、本来液体以外が通らない筈の穴に無理やり挿入する圧迫感。進むたびにぬめり、熱く、しかしぎちぎちに締まるそこは、溜まらなく気持ちいい。

「ぉぁあああ……美鈴の乳首、気持ちいい……凄いっ、ちんぽ吸われるみたいで、きゅって、きゅきゅってえええええ!いいっ、いいの!乳首挿入きもちいいいいっ!」

 ペニスを突き入れた方の乳肉を両手で掴み、オナホールのように、前後に揺すり、ペニスを扱き上げる。押し入れると乳首がめり込む様に埋まり、引き抜くと捲れ上がる。ラヴィアよりもグロテスクでエロティック。

「お、あが……ち、くび、拡がってっ、おくまで、おっぱいの奥まで咲夜さんのおちんちん、入ってきて……」
「おっ、ぅおぁ……だしちゃう、こんな気持ちいいとこにちんぽ突っ込んだら、だしちゃうわっ!」
「お”おおお”ああ”あアあぁ!ちくびっ!ちくびまんこがっ、きもちいいっ!!ちくびまんこオナホみたいに扱われて、かんじゆ、んひァ……ニプルファックで、いきゅ……いくっ!」

 性感に満ちた美鈴の胸から、再び母乳が溢れ出す。熱いとろみが、乳首の内部を性器へと変貌させた。

「うヒぁ……ちんぽ、ちんぽがちくぶまんこにくいちぎられるっ!ぬめぬめなのにぎゅうぎゅう締め付けてくるっ!ぉおアああ”あ”っ!ひぃん!ちんぽしゃせいしちゃう、めーりんのおっぱいまんこに、射精する!しゃせい、しゃせい、ざーめんぶちまけちゃう!!」
「咲夜さんのちんぽみるく、おっぱいみるくの穴に出されちゃうっ!んんひぁああ”あ”あ”あああぁぁあ!ニプルファックいいっ!乳首まんこアクメしちゃうのおおおおおおおおおおお!!」
「でる、でりゅっ!ちんぽみるく、めーりんのみゆくにまぜちゃう!まぜ……おおオお”お”お”お”お”お”あぁアああ!!」
 ぶぶっ、ぶじゅっと下品な音を立てて、美鈴の乳首の奥へ射精する。ペニスと乳首の肉の合わせの隙間から、どちらの「ミルク」か判らない粘液が染み出る。
「んぁ……」

 ずるっ、と乳首からペニスを引き抜くと、ぽっかりと拡がったまま元に戻らない乳穴から、どばっと白濁液が溢れ出てむせ返る淫臭を放つ水溜りを作った。

「さ、く……ゃさ……」

 大きすぎる上に倒錯した性感に堕した美鈴は、心ここにあらずという感じで、肩で息をしながら喘いだ。
 一方の私は……。



「はっ……はっ、はあっ……」


 私は。私は、何かに襲われていた。



 ひどい。こんな風に人の体をオナニーの道具みたいに使うなんて。乱暴で、非情で、ひどい。ひどく、ひどく興奮、する。
 涙を湛えて苦しげに咳き込みながら、美鈴は怯えるような目で私を見ている。
 ひどい。こんな風に自分を好いてくれる者をこんな風に汚すなんて。粗暴で、残忍で、ひどい。ひどく、ひどく欲情、する。
 
 息が上がるのは、射精の快感のためだけではないようだった。なにか、沸き立つ、この衝動は何だ?
 目が血走るのは、絶頂の愉悦のためだけではないようだった。なにか、奮い上がる、この激昂は何だ?
 これは、懐かしい。酷く懐かしい。
 記憶に無い過去、忘れ去った過去。
 手が届きそうで爪の先だけがカリカリと音を立てるばかりで、何も得られないあのもどかしさ。
 頭の奥、頭蓋の中心、首から登る快感が溜まって爆ぜるその中心に近いどこかが。
 そこに、そこに指先さえ届けば。
 痒い、もどかしい、いずい。
 頭の中をもぞもぞと蛆が這い回っているような。
 
「あ、ああっ……ぐ……なに、こ、れ……」

 目が見えない。

「さ、咲夜さん!?

 うろたえる美鈴も、今の私には、見えない。
 見えない。
 何も、今も、過去も。
 記憶にない過去、過去。過去。

「だめですっ!!」
 
 ナイフ
 ナイフで、悪魔を
 私は、ナイフで、吸血鬼を
 狩った?
 勝った?
 
 それとも、負けた?

「思い出しちゃ、ダメです!」

 意識の遠くで、美鈴が叫んでいる。私には何も聞こえない。
 ただ、脳みそが痒い。痒い。痒い。
 爪を立てて頭を掻き毟るが、足りない。
 こめかみからナイフを突き入れたら気持ち良いんじゃないか。

 意識の遠くで、美鈴が叫んでいる。私には何も聞こえない。
 ただ、脳みそが痒い。痒い。痒い。
 爪を立てて頭を掻き毟るが、ぜんぜん足りない。
 頭蓋を割って手を突っ込んで掻き回したい。めちゃくちゃに掻き回したい。

「咲夜さん、咲夜さん、これをっ!」






 何をされたのかは覚えていない。
 何かをされたのかも覚えていない。
 気が付いたときには、もう美鈴の胸の中で荒い息を整えていた。

「大丈夫、ですか?」
「私、どうしたの?」
「ええっ……私のことあんなにしておいて、気を失っちゃうなんて酷くないですか…?」

 ……覚えていない。

「ご、ごめんなさい」

 それでも、美鈴は私の目をじっと見て

「きもち、よかったです。それと、しあわせです、咲夜さんとこんな風になれて」

 にっこりと笑う。

「私もよ」

 でも何か釈然としない。
 きっとセックスが激しすぎて頭に血が足りてないんだと言い聞かせて彼女の横で、眠りに落ちた。







 墨汁に血を一滴垂らした夜に、ほおずきみたいな赤い月を背負う城。それを象徴する真っ赤なビロードの絨毯が敷き詰められた部屋。前にどこかで見たような光景の中で、私は主人に傅く。

「咲夜」

 お嬢様が私を呼ぶ。

「はい。」
「何故、返事をした?」
「……は?」

 肘を突いて上目にこちらを見ながら、その目は、刺すように鋭い。

「私が『咲夜』と呼んで、なぜ返事をしたのか、と聞いたのよ」
「……」

 まったく、意図が読めない。いつもの戯れか?しかしあの目はそのようなときのものではない。

「私の名が、さく」

 と迄言って言葉を飲んだ。
 私の名。お嬢様に与えられた……?

「貴方は、誰?」
「私は、十六夜咲夜……です」

 そう答える以外に、答えを持ち合わせていない。聞かれて問われる答えとしては何の変哲もない。他に何の選択肢もない。何の感慨も抱く筈もない。なのにこの悪寒は何だ。脂汗が浮かんで、地に足が着かないような不安感。

「そう」


「『十六夜咲夜』が、お前の名か。」



 その「そう」がどの「そう」だったのか、わからない。肯定を示す「そう」だったのか、納得を示す「そう」だったのか。それだけで、酷く不安になる。震えるほどだ。存在そのものが抉り取られるんじゃないかという、未知の恐怖。
 真正面から見つめるな。これを正視したら、正気が保てなく……。

「咲夜」
「は、い」
「お前にその名を与えたのは私。……今ここで、それを取り上げてやっても良いのよ」

 ぐらっ。
 後頭部をハンマーで殴られたような衝撃が、襲う。
 ついで、恐怖。だが名前がつけられない。その恐怖が何なのかわからない。

 見てはいけない、聞いて
 はいけない、考えてはい
 けない、感じてはいけな
 い。それを、知ってはい
 けない。

 その恐
 怖を認 知し
  ては
 い け
    な
 い
   。
                                   だめ

「やめ、て……それは、それだけは、私を『咲夜』でいさせ、て……っ!おねがい、おねがいします!その名を、『私』を取り上げないでっ!!」

 言葉にならない。
 『恐怖』以外にそれを表現する言葉を私は知らない。
 とにかく恐ろしい。
 恐ろしい。恐ろしい。恐ろしい。恐ろしい。恐ろしい。
 何かとてつもない恐怖に襲われて、私はひたすらにお嬢様に跪いた。平伏した。
 涙を流し、無様に嘆願した。

 お嬢様は平伏す私の前まで歩みを進め。
 そして。

「お前に名前を与えたのは私。
 お前を存在させているのは私。
 お前は私のものだ。
 愛とか、恋とか、
 人間とか、吸血鬼とか、妖怪とか
 そんなことは
 そんなことはもう、些細な問題。
 些細な問題なのよ!
 ははっ。
 人間でいたい?
 ならば、人間でいれば良いだろう。
 はははっ。
 私が欲しい?
 ならば、堂々と私を求めれば良いだろう!
 ……くだらん。
 私はこれ以上お前を欲しいとは思わない。
 なぜなら
 もうお前は私のもの。
 なぜなら
 もうこれ以上ないくらい私のものなのだから!」

「お、じょう、さま……」

 その言葉を聴いただけで
 私は
 体のどこにも触れてもいないのに
 いや、違う。
 私は、鼓膜で
 イった。
 ぶるぶると震えながら
 愛液を滴らせて
 涎をたらして
 白目をむいて
 失禁さえして
 壮絶にイった。

 名前を、と言った森近霖之助の言葉の意味はこれだったのか。

「咲夜」
「……は、い」
「幸せかしら?」
「しあわせです」
「咲夜」
「はい」

「でも、それは、忘れなさい」
「え」

それきり、意識が途絶えた。







「で、霊夢さんが……って、咲夜さん聞いてます?」

 目の前にいるのは美鈴。
 紅茶とケーキが置いてあるテーブルに、彼女のケーキだけは既に食べつくされていた。

「え?あ、ああ。え?ごめんなさい、聞いてなかった」
「ひどいですっ。咲夜さんが聞いてきたのに!」
「えっと……ごめんなさい。疲れてるみたい。」



 なんだか
 さいきん
 いしきが
 とぎれる


「再来月、お祭があるんですって」

 美鈴がにこやかに私に問いかける。
 いつの間にか、得体の知れない靄は消えていた。
 今あるのは、隣にいる門番との、ささやかな幸せとそれをかみ締める自分だけ。

「要祭、ねえ。予定もないし、当日は一緒に行きましょうか」
「はいっ!」

 あれは、何だったんだろう。
 
 時間が氷を溶かすように、
 靄は消え、
 不安は失せ、
 完全に、
 いつも通りに戻った。



 私は十六夜咲夜。
 人間。
 紅魔館でメイドをしている。
 他の事は、よく覚えていない。
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以前アップした「幻想散華③」の前の話みたいな感じです。
幻想散華を書いている上で出来上がった贅肉をくくっつけてできた副産物です。
ながながとよんでいただいてありがとうございました。

後悔も反省もしません……。

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【コメ返】
1.はい、冗長性は抑えたいです…。
2.私の作品で、カリスマがカリスマでいられるのは、脇役でいる間だけです。うふ。
3.レミ咲として捉えれば、歪んではいるものの甘いオチで蹴りをつけたつもりです。その点で、そう読んでもらえてあり難いです。
4.その言葉を見るたびに漲って来ますw
5.評価は低いようですが。迷作、という感じなんでしょう。私としては紅魔組に対する自分のイメージをストレートに表現できたとは思っています。それが良くなかったのかと思いますがwおっぱい魔人とか幼女とかメイドとか、非常にソリッドなキャラ群。エロも非エロも書きやすくて堪らないですね。
みこう悠長
http://monostation.blog112.fc2.com/
コメント




1.名前が無い程度の能力削除
無駄に長いよ。
2.名無し魂削除
もはやダークロードワールド。妙な素敵さ。
3.名前が無い程度の能力削除
この歪んだ恋の結末が気になる
4.名前が無い程度の能力削除
面白いけど、エロシーンとそれ以外がまるで別作品w
5.名前が無い程度の能力削除
エロだけでも名作、非エロでも名作とはなんと贅沢な・・・(めーさくだけにねうわなにをするやm